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  • 特許-接着剤組成物、硬化物および接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】接着剤組成物、硬化物および接合体
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20240321BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021537600
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021909
(87)【国際公開番号】W WO2021024597
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019146136
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大槻 直也
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-189488(JP,A)
【文献】特開平02-150484(JP,A)
【文献】特開2011-219728(JP,A)
【文献】特開2015-101671(JP,A)
【文献】特開2011-213753(JP,A)
【文献】特開2014-148623(JP,A)
【文献】特開2019-038926(JP,A)
【文献】特開2012-025839(JP,A)
【文献】米国特許第06548189(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(D)成分を含む接着剤組成物:
(A)成分:カルダノール変性エポキシ樹脂
(B)成分:エラストマー変性エポキシ樹脂を少なくとも含む硬化性樹脂(但し、(A)成分を除く)
(C)成分:石油系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、ロジンエステル系タッキファイヤー、およびキシレン樹脂系タッキファイヤーからなる群から選択される少なくとも1種のタッキファイヤー
(D)成分:潜在性硬化剤。
【請求項2】
前記接着剤組成物の硬化物の伸び率が、2~2000%であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(A)成分のエポキシ当量が220~1500g/eqであることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記(B)成分のエポキシ当量が200~1200g/eqであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記(A)成分100質量部に対して、(B)成分を30~300質量部含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記(B)成分のエラストマー変性エポキシ樹脂が、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、またはブタジエン-アクリロニトリルゴムで変性されたエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部に対して、前記(C)成分を5~200質量部含むことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記(D)成分が、エポキシアダクト型潜在性硬化剤、ヒドラジド化合物、環状アミジン塩、熱カチオン重合開始剤、およびジシアンジアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
線膨張係数が異なる材質の材料同士の接着用であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
前記線膨張係数が異なる材質の線膨張係数の差が0.1×10-6/K~500×10-6/Kであることを特徴とする請求項に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
異なる材質の材料同士の接着時の反りが3.0mm以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の接着剤組成物を硬化させることで得られる硬化物。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて異なる材質の材料同士が接着された接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、硬化物および接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の車両軽量化に向けて、車体はアルミニウム、マグネシウム、繊維強化プラスチック(FRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの材質を用いるマルチマテリアル化が進んでいる。マルチマテリアル化を進めるための課題のひとつが異種材質の材料の接合である。異種材質の材料の接合技術の代表的な手法としては溶接接合、機械的接合、接着接合が挙げられる。
【0003】
接着接合用接着剤としてはウレタン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤などが挙げられ、中でもエポキシ樹脂系接着剤は接着力、高強度、耐熱性に優れることから注目されている。
【0004】
例えば、特開2015-196326号公報(米国特許出願公開第2015/0275382号明細書に相当)には、自動車のアウターパネルとインナーパネルとを固定するカシメ部(ヘミング)において、エポキシ樹脂系接着剤が使用できる旨、開示されている。
【0005】
特開2014-91789号公報(米国特許出願公開第2015/0284607号明細書に相当)には、鉄鋼製ボディ部材とアルミニウム製ルーフとの接合において加熱硬化性エポキシ樹脂系接着剤が使用できる旨、開示されている。
【0006】
車体の製造ラインにおいてスポット溶接と接着剤を併用する接合工法のウェルドボンド工法が用いられているが、特開2009-108278号公報には、接着剤としてエポキシ樹脂系接着剤が使用できる旨、開示されている。
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特開2015-196326号公報(米国特許出願公開第2015/0275382号明細書に相当)、特開2014-91789号公報(米国特許出願公開第2015/0284607号明細書に相当)、および特開2009-108278号公報に開示されたエポキシ樹脂系接着剤を用いて鉄鋼とアルミニウムなど異種材同士を貼り合わせると、線膨張係数に差があるため硬化後に部材に反りが生じてしまうという問題があった。反りを抑制する処方としては、内部応力を緩和できる軟質な構造を有するエラストマー変性エポキシ樹脂を用いることが知られているが、今度は接着剤の硬化物のバルク強度(引張強さ)が著しく低下してしまうという問題があった(比較例2参照)。
【0008】
本発明は、上記の状況に鑑みてされたものであり、その目的は、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる接着剤組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の要旨を次に説明する。
【0010】
[1]下記の(A)~(D)成分を含む接着剤組成物:
(A)成分:エポキシ変性植物油
(B)成分:エラストマー変性エポキシ樹脂を少なくとも含む硬化性樹脂(但し、(A)成分を除く)
(C)成分:タッキファイヤー
(D)成分:潜在性硬化剤。
【0011】
[2]前記接着剤組成物の硬化物の伸び率が2~2000%であることを特徴とする[1]に記載の接着剤組成物。
【0012】
[3]前記(A)成分のエポキシ当量が220~1500g/eqであることを特徴とする[1]または[2]に記載の接着剤組成物。
【0013】
[4]前記(B)成分のエポキシ当量が200~1200g/eqであることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0014】
[5]前記(A)成分100質量部に対して、(B)成分を30~300質量部含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0015】
[6]前記(B)成分のエラストマー変性エポキシ樹脂が、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、またはブタジエン-アクリロニトリルゴムで変性されたエポキシ樹脂であることを特徴とする[1]~[5]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0016】
[7]前記(A)成分が、カルダノール変性エポキシ樹脂であることを特徴とする[1]~[6]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0017】
[8]前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部に対して、前記(C)成分を5~200質量部含むことを特徴とする[1]~[7]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0018】
[9]前記(D)成分が、エポキシアダクト型潜在性硬化剤、ヒドラジド化合物、環状アミジン塩、熱カチオン重合開始剤、およびジシアンジアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]~[8]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0019】
[10]前記(C)成分が、石油系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、ロジンエステル系タッキファイヤー、およびキシレン樹脂系タッキファイヤーからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]~[9]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0020】
[11]線膨張係数が異なる材質の材料同士の接着用であることを特徴とする[1]~[10]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0021】
[12]前記線膨張係数が異なる材質の材料の前記線膨張係数の差が0.1×10-6/K~500×10-6/Kであることを特徴とする[11]のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0022】
[13]異なる材質の材料同士を接着した際の反りが3.0mm以下であることを特徴とする[1]~[12」のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【0023】
[14][1]~[13]のいずれか1項に記載の接着剤組成物を硬化させることで得られる硬化物。
【0024】
[15][1]~[13]のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いて異なる材質の材料同士が接着された接合体。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、アルミニウムと鉄(SPCC-SD、冷間圧延鋼板・ダル仕上げ)との貼り合わせにおける加熱硬化後反り試験の反り高さの測定方法を示す図である。図1中、1はアルミニウム板を、2は鉄(SPCC-SD)板を、3は反り高さを、4は固定箇所を、5は基準面を、それぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態による接着剤組成物は、下記(A)~(D)成分を含む:
(A)成分:エポキシ変性植物油
(B)成分:エラストマー変性エポキシ樹脂を少なくとも含む硬化性樹脂(但し、(A)成分を除く)
(C)成分:タッキファイヤー
(D)成分:潜在性硬化剤。
【0027】
上記の構成を有する本発明の一実施形態による接着剤組成物によれば、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる。
【0028】
以下に発明の詳細を説明する。なお、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。
【0029】
<(A)成分>
本発明の接着剤組成物に含まれる(A)成分は、エポキシ変性植物油であり、本発明のその他成分と組み合わせることにより、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる接着剤組成物が得られる。前記エポキシ変性植物油とは、植物油由来のエポキシ樹脂であれば、特に制限されないが、例えば、カルダノール変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化ひまし油、エポキシ化パーム油などが挙げられる。これらの中でも、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れることからカルダノール変性エポキシ樹脂が好ましい。なお、(A)成分のエポキシ変性植物油に該当し、後述する(B)成分のエラストマー変性エポキシ樹脂にも文言上該当する化合物があった場合には、本発明において(A)成分として扱うものとする。そのような化合物としては、例えば、ゴムの木から抽出されたゴムとエポキシ樹脂とを反応させることで得られる化合物などが挙げられる。
【0030】
本発明の(A)成分は、エポキシ当量が220~1500g/eqの範囲のものが好ましく、より好ましくは300~1300g/eqの範囲であり、特に好ましくは400~1200g/eqの範囲である。(A)成分のエポキシ当量が上記の範囲内であることで、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少ないという効果が得られる。ここでエポキシ当量とは、JIS K 7236:2009に規定された方法に基づき測定されるものである。
【0031】
前記カルダノール変性エポキシ樹脂における前記カルダノールとは、カシューナッツの殻から得られる炭素数15の長鎖不飽和炭化水素基が置換されたフェノール化合物を意味する。前記カルダノール変性エポキシ樹脂は、特に制限されないが、(1)カルダノールのフェノール性水酸基部分をエピクロロヒドリンと反応させることで得られる化合物、(2)カルダノールとホルムアルデヒドとの反応と、それに続くエピクロロヒドリンとフェノール性水酸基部分との反応により得られる化合物、(3)不飽和脂肪族鎖のフェノール化と、それに続くエピクロロヒドリンとフェノール性水酸基との反応により得られる化合物などが挙げられる。また、カルダノール変性エポキシ樹脂としては、1分子中に2以上のエポキシ基を有するカルダノール変性エポキシ樹脂が好ましく、特に好ましくは、下記の式1、式2に示されるような化合物が好ましい。式1に示される化合物を用いることで、より一層金属に対する接着力を向上させることができる。また、式2に示される化合物を用いることで、より一層、硬化物のバルク強度を維持しつつ、硬化物が高伸張性に優れ、異種材質の材料の接着時に反りが少ない接着剤組成物が得られることから好ましい。これら(A)成分は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
【化1】
【0033】
【化2】
【0034】
前記(A)成分のカルダノール変性エポキシ樹脂の市販品としては、特に制限されないが、例えばCardolite(登録商標) NC-547、NC-514、NC-514S、NC-514SE(Cardolite社製)などが挙げられる。これら市販品は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
<(B)成分>
本発明の接着剤組成物に含まれる(B)成分は、エラストマー変性エポキシ樹脂を少なくとも含む硬化性樹脂であり、本発明のその他成分と組み合わせることにより、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少ないという効果を有する。前記エラストマー変性エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂とエラストマー成分とを反応(変性)させることにより得られるものなどが挙げられる。より具体的なエラストマー変性エポキシ樹脂の製造方法としては、公知の方法が挙げられるが、例えば、エポキシ基と反応する官能基を有するエラストマーに、過剰のエポキシ樹脂と触媒とを投入し、反応させる方法が挙げられる。
【0036】
本発明の(B)成分は、エラストマー変性エポキシ樹脂とは別に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂(混合物)であってもよい。例えば、エラストマー変性エポキシ樹脂に後からビスフェノールA型エポキシ樹脂を添加した硬化性樹脂もまた、(B)成分である。但し、(B)成分に前記(A)成分は含まれないものとする。前記(B)成分はエラストマー変性エポキシ樹脂100質量部に対して、芳香族エポキシ樹脂を10~300質量部含む混合物であってもよく、さらに好ましくは芳香族エポキシ樹脂を20~200質量部含む混合物である。
【0037】
本発明の(B)成分は、エポキシ当量が200~1200g/eqの範囲のものが好ましく、より好ましくは210~1000g/eqの範囲であり、特に好ましくは220~900g/eqの範囲である。(B)成分のエポキシ当量が上記の範囲内であることで、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材の接着時に反りが少ない。ここでエポキシ当量とはJIS K 7236:2009に規定された方法に基づき測定されるものである。また、本発明の(B)成分の硬化性樹脂は、前述の通り、エラストマー変性エポキシ樹脂だけでなく芳香族エポキシ樹脂を含む混合物であってもよいので、そのような混合物の場合、上記エポキシ当量は混合物のエポキシ当量を意味する。
【0038】
前記エラストマー変性エポキシ樹脂を合成する際のエポキシ樹脂としては、分子中に1つ以上のグリシジル基を有する化合物のことを言い、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。その他エピクロルヒドリンとフタル酸誘導体や脂肪酸などのカルボン酸との縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
前記エラストマー変性エポキシ樹脂を合成する際の前記エラストマー成分とは、前記エポキシ樹脂と反応する官能基を有するエラストマーのことを言い、特に限定されないが、例えば、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコ-ンゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、EPDM、ポリイソプレンゴム、スチレンゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。これらの中でも、より一層異種材質の材料の接着時に反りが少ないという観点からウレタンゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴムが好ましい。接着性の観点からウレタンゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴムで変性したエポキシ樹脂が好ましい。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
前記(B)成分の市販品としては、アデカレジンEPR-6、EPR-7、EPR-11、EPR-17、EPR-1415、EPR-2000、EPR-2007、EPR-1630(株式会社ADEKA製)、HyPox(登録商標)RA840、HyPox(登録商標)RA1340、HyPox(登録商標)RA1629、HyPox(登録商標)RF1320、RF1341、RF928、RF933、(CVC Thermoset Specialties社製)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
前記(B)成分の配合量は、特に限定されないが、前記(A)成分100質量部に対して、30~300質量部の範囲であり、好ましくは50~200質量部であり、特に好ましくは70~170質量部の範囲である。上記の範囲内であることで、より一層、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる。
【0042】
<(C)成分>
本発明の接着剤組成物に含まれる(C)成分はタッキファイヤーであり、本発明のその他成分と組み合わせることにより、硬化物のバルク強度を維持しつつ、硬化物の高伸張性に優れ、異種材質の材料を接着した際に反りが少ないという効果が得られる。本発明の(C)成分としては、特に制限されないが、例えば、石油系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、ロジンエステル系タッキファイヤー、およびキシレン樹脂系タッキファイヤーからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。より好ましくは、石油系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、ロジンエステル系タッキファイヤーなどが挙げられる。これらの中でも、石油系タッキファイヤーを用いることが、硬化物の高伸張性に優れることからさらに好ましい。前記石油系タッキファイヤーとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数5の石油樹脂、炭素数5または9の共重合石油樹脂、水素化された石油樹脂などが挙げられる。なお、(C)成分はエポキシ基を含まないものが好ましい。
【0043】
前記(C)成分は、25℃で液状のものが好ましい。また、25℃で固体の場合、軟化点は、50~170℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは60~160℃の範囲であり、特に好ましくは70~150℃である。上記の範囲であることで、より一層、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる。なお、(C)成分の軟化点は、JIS K 2531:1960に従って測定された値である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
前記(C)成分の添加量は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計量100質量部に対して、5~200質量部が好ましく、更に好ましくは10~150質量部であり、特に好ましくは15~100質量部の範囲である。
【0045】
上記の範囲内であることで、より一層、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、硬化物の高伸張性に優れ、接着力に優れる。
【0046】
前記(C)成分の市販品としては、特に限定されないが、例えば、石油系タッキファイヤーであるクイントン(登録商標)G100B(日本ゼオン株式会社製)、ペトロタック(登録商標)100、ペトロタック(登録商標)100V(東ソー株式会社製)、テルペンフェノール樹脂系タッキファイヤーであるYSレジンPX800、YSレジンCP(ヤスハラケミカル株式会社製)、Sylvares(商標)TP95、Sylvares(商標)TP96、Sylvares(商標)TP105(アリゾナケミカル社製)などが挙げられる。
【0047】
<(D)成分>
本発明の接着剤組成物に含まれる(D)成分は潜在性硬化剤であり、例えば、エポキシアダクト型潜在性硬化剤、ヒドラジド化合物、環状アミジン塩、熱カチオン重合開始剤、およびジシアンジアミドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。多数のエポキシ用硬化剤の中から、本発明の(D)成分を選択し、本発明の接着剤組成物に含まれるその他の成分と組み合わせることにより、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる接着剤組成物が得られる。これらは単独で用いてもよいが、特に好ましくは2種以上を組み合わせて用いることで、より一層、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる接着剤組成物が得られる。
【0048】
前記エポキシアダクト型潜在性硬化剤としては、例えば、エポキシ化合物とアミン化合物との反応生成物が挙げられる。前記アミン化合物としては、特に限定されないが、金属に対する接着力に優れるという観点からイミダゾール化合物、または3級アミン化合物が好ましい。また、前記エポキシアダクト型潜在性硬化剤の好ましい軟化点は125℃未満であり、より好ましくは120℃以下であり、特に好ましくは117℃以下である。上記の範囲内であることで、より一層、異種材質の材料の接着時に反りが少ない接着剤組成物が得られることからが好ましい。前記軟化点は、JIS K 7234:1986に準拠した試験により求められる。
【0049】
前記エポキシアダクト型潜在性硬化剤の市販品としては、特に限定されないが、例えばアミキュア(登録商標)PN-23、アミキュア(登録商標)PN-31、アミキュア(登録商標)PN-23J、アミキュア(登録商標)PN-31J、アミキュア(登録商標)MY-24(味の素ファインテクノ株式会社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
前記ヒドラジド化合物としては、特に制限されないが、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジドなどが挙げられる。前記ヒドラジド化合物の市販品としては特に制限されないが、例えば、アミキュア(登録商標)UDH、VDH(味の素ファインテクノ株式会社製)、ADH、SDH、DDH、IDH、SAH(大塚化学株式会社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
前記環状アミジン塩としては、特に制限されないが、例えば、DBU(1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7)のフェノール塩、DBUのオクチル酸塩、DBUのp-トルエンスルホン酸塩、DBUのギ酸塩、DBUのo-フタル酸塩、DBU誘導体のテトラフェニルボレート、DBUのフェノールノボラック樹脂塩、DBN(1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5)のフェノールノボラック樹脂塩などを挙げることができ、好ましくはDBUのフェノールノボラック樹脂塩、DBNのフェノールノボラック樹脂塩である。前記環状アミジン塩の市販品としては、特に制限されないが、例えば、U-CAT SA(登録商標)1、U-CAT SA(登録商標)102、U-CAT SA(登録商標)506、U-CAT SA(登録商標)603、U-CAT SA(登録商標)810、U-CAT(登録商標)5002、U-CAT SA(登録商標)841、U-CAT SA(登録商標)851、U-CAT(登録商標)881、U-CAT(登録商標)891(サンアプロ株式会社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
前記熱カチオン重合開始剤は、加熱によりカチオン種を発生する化合物である。その種類は、特に限定されないが、例えば、ヘキサフルオロアンチモネートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤、ヘキサフルオロフォスフェートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤、三フッ化ホウ素誘導体などが挙げられる。これらの中でも、異種材質の材料の接着時に反りが少なく接着力に優れる接着剤組成物が得られるという観点から、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤、または三フッ化ホウ素誘導体が好ましい。前記カチオンとしては、例えば4級アンモニウムカチオン、硫黄原子に結合している3つの基のうち少なくとも1つが、炭素数1~8のアルキル基であるスルホニウムイオン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
前記テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤としては、好ましくは、異種材質の材料の接着時に反りが少なく接着力に優れる接着剤組成物が得られるという観点から、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンと4級アンモニウムカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤が挙げられる。前記三フッ化ホウ素誘導体としては特に制限されないが、例えば、三フッ化ホウ素モノメチルアミン、三フッ化ホウ素モノエチルアミン、三フッ化ホウ素モノプロピルアミンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
前記ヘキサフルオロアンチモネートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤の市販品としては、SI-60L、SI-80L、SI-100L(三新化学工業株式会社製)などが挙げられる。また、前記ヘキサフルオロフォスフェートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤としては、サンエイドSI-110L、SI-180L、SI-B2A,SI-B3A(三新化学工業株式会社製)などが挙げられる。さらに、前記テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンとカチオンとからなる塩を含む熱カチオン重合開始剤の市販品としては例えば、CXC-1821(King Industries社製)が挙げられる。
【0055】
前記ジシアンジアミドの市販品としては、例えば、オミキュア(登録商標)DDA10、DDA50、DDA100、DDA5、CG-325、DICY-F、DICY-M(CVC Thermoset Specialties社製)、jERキュア(登録商標)DICY7、15、20、7A(三菱ケミカル株式会社製)、CG-1200、CG-1400(エアープロダクツジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0056】
前記(D)成分の平均粒径は特に限定されないが、例えば0.1~100μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは1~50μmの範囲であり、特に好ましくは2~30μmの範囲である。以下、平均粒径とは50%平均粒径を指す。前記平均粒径の測定方法は、レーザー回折・散乱法である。
【0057】
本発明における(D)成分の配合量としては、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは0.5~75質量部であり、特に好ましくは1~60質量部である。本発明において上記の範囲内に設定することで、より一層、異種材の接着時に反りが少なく接着力に優れる接着剤組成物を得ることができる。
【0058】
<(E)成分>
更に、本発明の接着剤組成物は、(E)成分として、硬化促進剤を含んでもよい。(E)成分としては、特に制限されないが、例えばウレア系尿素化合物が挙げられる。ウレア系尿素化合物としては、より具体的には、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、1,1’-(4-メチル-m-フェニレン)ビス(3,3’-ジメチルウレア)などが挙げられる。(E)成分の市販品としては、エピクロン(登録商標)B-605-IM(DIC株式会社製)が挙げられる。
【0059】
前記(E)成分の添加量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは0.3~50質量部であり、特に好ましくは0.5~30質量部である。上記の範囲内であることで、より一層、異種材の接着時に反りが少なく接着力に優れる接着剤組成物を得ることができる。
【0060】
<任意成分>
本発明の接着剤組成物に対し、本発明の目的を損なわない範囲で、シランカップリング剤、充填剤、保存安定剤、酸化防止剤、光安定剤、防錆剤、溶剤、顔料、染料、難燃剤、及び界面活性剤等の添加剤を使用することができる。
【0061】
更に、本発明の接着剤組成物には、シランカップリング剤を添加してもよい。前記シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシジル基含有シランカップリング剤、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、およびこれらのオリゴマー等が挙げられる。これらの中でも、グリシジル基含有シランカップリング剤が好ましい。さらに、グリシジル基含有シランカップリング剤の中でも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
本発明におけるシランカップリング剤の配合量としては、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは1~50質量部であり、特に好ましく1.5~30質量部である。本発明において上記の範囲内に設定することで、硬化物が強靱化され、異種材質の材料の接着力に優れる接着剤組成物が得られるという観点から好ましい。
【0063】
更に、本発明の接着剤組成物には、充填材を添加してもよい。充填材として例えば、有機質粉体、無機質粉体、金属質粉体等が挙げられる。
【0064】
無機質粉体の充填材としては、シリカ、酸化チタン、ガラス、アルミナ、マイカ、シリコーンゴム粉体、炭酸カルシウム、窒化アルミ、カーボン粉、カオリンクレー、ウォラスナイト、粘土鉱物、珪藻土等が挙げられる。これらの中でも、本発明の接着剤組成物において減衰性を有する硬化物が得られることからウォラスナイトが好ましい。無機質粉体の添加量は、特に制限されないが、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、0.01~500質量部程度が好ましく、より好ましくは、0.1~300質量部の範囲である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
前記シリカは、接着剤組成物の粘度調整又は硬化物の機械的強度を向上させる目的で配合することができる。好ましくは、オルガノクロロシラン類、ポリオルガノシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどで疎水化処理したものなどが用いることができる。シリカの具体例としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の商品名アエロジル(登録商標)R974、R972、R972V、R972CF、R805、R812、R812S、R816、R8200、RY200、RX200、RY200S、R202等の市販品が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
前記有機質粉体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート等が挙げられる。前記有機質粉体の添加量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、0.01~500質量部程度が好ましく、より好ましくは、0.1~300質量部の範囲である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
前記金属質粉体としては特に制限されないが、金粉、銀粉、銅粉、ニッケル粉、パラジウム粉、タングステン粉、メッキ粉、アルミナ粉などが挙げられる。前記金属質粉体の添加量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、0.01~500質量部程度が好ましく、より好ましくは、0.1~300質量部の範囲である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
本発明の接着剤組成物は、異種材質の材料の接着に適する。異種材質の材料の接着としては特に制限されないが、例えば、線膨張係数が異なる材質の材料同士の接着が挙げられる。この場合、線膨張係数が異なる材質における線膨張係数の差が0.1×10-6/K~500×10-6/Kであるものが好適であり、より好ましくは0.2×10-6/K~300×10-6/Kであり、特に好ましくは0.3×10-6/K~50×10-6/Kである。異種材質の接着の組み合わせの具体例としては特に制限されないが、金属同士、金属とプラスチック、金属とゴム、プラスチックとゴム、プラスチック同士、ゴム同士などが挙げられる。これらの中でも、金属同士、金属とプラスチック、またはプラスチック同士が好ましい。
【0069】
前記金属としては、特に制限されないが、例えば、鉄、アルミニウム、マグネシウム、銅、ステンレス、チタンなどが挙げられる。また、前記プラスチックとしては、特に制限されないが、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ポリアクリル、ポリエステル、ポリアミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ナイロン6、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。また、前記ゴムとしては、特に制限されないが、例えば、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。これら材料から選択される少なくとも2種の被着体同士の接着などが挙げられる。これら材料の表面は、予め表面処理されてもよいし、未処理のままでもよい。
【0070】
<製造方法>
本発明の接着剤組成物は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、(A)成分~(D)成分、およびその他の任意成分の所定量を配合して、プラネタリミキサーなどのミキサーなどの混合手段を使用して、好ましくは10~70℃の温度、より好ましくは20~50℃、特に好ましくは常温(25℃)で、好ましくは0.1~5時間、より好ましくは30分~3時間、特に好ましくは60分前後混合することにより製造することができる。
【0071】
<接合体>
本発明の接着剤組成物を用いて異なった材質の材料同士が接着された接合体もまた、本発明の一形態である。
【0072】
<塗布方法>
本発明の接着剤組成物を基材へ塗布する方法としては、公知の接着剤を塗布する方法が用いられる。例えば、自動塗布機を用いたディスペンシング、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、ディッピング、スピンコートなどの方法を用いることができる。
【0073】
<硬化物および硬化方法>
本発明の接着剤組成物を加熱硬化させることで得られる硬化物もまた、本発明の一形態である。加熱に際しての温度及び時間は、十分に硬化できる条件であればよいが、例えば、40~300℃、好ましくは60~200℃、特に好ましくは80~190℃で、例えば、10秒~120分、好ましくは20秒~60分、より好ましくは20秒~30分、さらに好ましくは30秒~10分、特に好ましくは60秒程度の条件で加熱することが適当である。一例を挙げれば、80~190℃で20秒~30分の条件が適切である。
【0074】
本発明の接着剤組成物の硬化物の伸び率は2~2000%が好ましく、100~1700%がより好ましい。上記の範囲内であることで、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れることから好ましい。前記伸び率は、次の方法で測定した値を採用する。
【0075】
硬化物の伸び率の測定方法
接着剤組成物の厚さを1mmに設定し、170℃にて60分間加熱することにより加熱硬化させてシート状の硬化物を作製する。2号ダンベルで打ち抜いてテストピースを作製し、20mm間隔の標線をテストピースに記入する。
【0076】
引張強さの測定と同じ要領でチャックに固定して、引張速度50mm/minで試験片の切断に至るまで引っ張る。測定時にテストピースが伸びて標線の間隔が広がるため、テストピースが切断されるまでノギスにより標線の間隔を計測する。初期の標線間隔を基準として、伸びた割合を「伸び率(%)」とする。伸び率の下限は2%以上が好ましく、100%以上がより好ましい。また、伸び率の上限は2000%以下が好ましく、1700%以下がより好ましい。
【0077】
本発明の接着剤組成物の異種材質の材料の接着時の反りが、好ましくは3.0mm以下であり、さらに好ましくは2.5mm以下であり、特に好ましくは2.0mm以下である。上記の範囲内であることで、自動車分野における異種材質の材料の接着用途で使用可能である。接着時の反りを測定する試験は、例えば、次の通りに行う。
【0078】
異種材質の材料の貼り合わせにおける加熱硬化後の反り試験
接着剤組成物を、線膨張係数が23.6×10-6/Kであるアルミニウム製(A601P)テストピ-ス(25×150×1.5mm)に厚み0.2mmになるように全面に塗布する。別途、線膨張係数が11.7×10-6/KであるSPCC-SD製テストピ-ス(25×150×1mm)を用意し、これら2種のテストピースを貼り合わせてクリップで固定する。そして、170℃に設定した熱風乾燥炉にて60分という条件で硬化させて試験体を得る。この試験体を25℃まで冷却した後に、図1に示すように、長手方向の片側の辺を固定し、反対側の辺の反り高さ(mm)を測定する。
【0079】
<用途>
本発明の接着剤組成物は、自動車分野、鉄道車両分野、航空宇宙分野、電気電子部品分野、建築分野、土木分野等様々な分野で使用可能であるが、好ましくは、自動車分野である。自動車分野における異種材質の材料の接着用途としては、特に制限されないが、アウターパネルとインナーパネルとを固定するカシメ部(ヘミング)接着が挙げられる。より具体的には、自動車のドア、ピラー、ルーフなどを構成するパネル同士の接着、ボディとルーフとの接着などが挙げられる。
【実施例
【0080】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0081】
<接着剤組成物の調製>
・実施例1
本発明の(A)成分として、(a1)成分のエポキシ当量が700g/eqであり、上記式2で表される3官能性カルダノール変性エポキシ樹脂(Cardolite社製NC-547)50質量部と、
本発明の(B)成分として、(b1)成分のブタジエン-アクリロニトリルゴムとビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応物40質量%と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂60質量%との混合物(エポキシ当量が340g/eq)(CVC Thermoset Specialties社製、HyPox(登録商標)RA840)50質量部と、
本発明の(C)成分として、(c1)成分の25℃で液状であるテルペンフェノール樹脂系タッキファイヤー(ヤスハラケミカル株式会社製、YSレジンCP)20質量部と、
本発明の(D)成分として、(d1)成分のオミキュア(登録商標)DDA50(CVC Thermoset Specialties社製)8質量部と、
本発明の(E)成分として、(e1)成分の3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(DIC株式会社製、エピクロン(登録商標)B-605-IM)4質量部と、
を添加し、25℃にてミキサーで60分混合し、実施例1の接着剤組成物を得た。
【0082】
・実施例2
実施例1において、(a1)成分を、(a2)成分のエポキシ当量が490g/eqであり、上記式1で表される2官能性カルダノール変性エポキシ樹脂(Cardolite社製、NC-547)に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、実施例2の接着剤組成物を得た。
【0083】
・実施例3
実施例1において、(b1)成分を、(b2)成分のエポキシ当量が230g/eqであるウレタンゴム変性エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製、アデカレジンEPU-7)に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、実施例3の接着剤組成物を得た。
【0084】
・実施例4
実施例1において、(c1)成分を、(c2)成分の25℃で固体であり、軟化点135℃の石油系タッキファイヤー(日本ゼオン株式会社製、クイントン(登録商標)G100B)に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、実施例4の接着剤組成物を得た。
【0085】
・実施例5
実施例1において、(b1)成分の添加量を50質量部から80質量部に変更し、(c1)成分の添加量を20質量部から10質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、実施例5の接着剤組成物を得た。
【0086】
・比較例1
実施例1において、(b1)成分を除いた以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例1の接着剤組成物を得た。
【0087】
・比較例2
実施例1において、(a1)成分を除き、(b1)成分の添加量を50質量部から100質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例2の接着剤組成物を得た。
【0088】
・比較例3
比較例2において、(b1)成分を、(b’1)成分のエポキシ当量が190g/eqであるビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER(登録商標)828)に変更した以外は、比較例2と同様にして調製し、比較例3の接着剤組成物を得た。
【0089】
・比較例4
実施例1において、(b1)成分を(b’1)成分に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例4の接着剤組成物を得た。
【0090】
・比較例5
実施例1において、(c1)成分を除いた以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例5の接着剤組成物を得た。
【0091】
表1の実施例および比較例において行った試験(1)~(4)の試験方法は、下記の通りである。
【0092】
<(1)アルミニウムと鉄(SPCC-SD)との貼り合わせにおける加熱硬化後反り試験>
接着剤組成物を、線膨張係数が23.6×10-6/Kであるアルミニウム製(A601P)テストピ-ス(25×150×1.5mm)に厚み0.2mmになるように全面に塗布した。別途、線膨張係数が11.7×10-6/KであるSPCC-SD製テストピ-ス(25×150×1mm)を準備し、これら2種のテストピースを貼り合わせてクリップで固定した。そして、170℃に設定した熱風乾燥炉にて60分という条件で硬化させて試験体を得た。この試験体を25℃まで冷却した後に、図1に示すように、長手方向の片方の辺を固定し、反対側の辺の反り高さ(mm)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0093】
なお、本発明において異種材質の板の貼り合わせのためには、反りは3.0mm以下が好ましく、さらに好ましくは2.5mm以下であり、特に好ましくは2.0mm以下である。
【0094】
<(2)引張せん断接着強さ試験>
幅25mm×長さ100mm×厚さ1mmの線膨張係数が11.7×10-6/KであるSPCC-SD製テストピースに、接着剤組成物を塗布した。別途、線膨張係数が11.7×10-6/KであるSPCC-SD製テストピースを準備し、オーバーラップ面が25mm×10mmになるように2種のテストピースを貼り合わせてクリップで固定した。そして、170℃に設定した熱風乾燥炉にて60分硬化させ試験片を得た。そして、試験片を用いて25℃にて万能引張試験機(引っ張り速度10mm/min.)にてせん断接着強さ(単位はMPa)をJIS K 6850:1999に従い測定した。結果を下記表1に示す。
【0095】
なお、本発明において構造用接着剤として使用するためには、引張せん断接着強さは5.5MPa以上が好ましく、5.9MPa以上がより好ましい。
【0096】
<(3)硬化物の引張強さ(バルク強度)の測定方法>
接着剤組成物の厚さを1mmに設定し、170℃にて60分間加熱することにより加熱硬化させてシート状の硬化物を作製した。2号ダンベルで打ち抜いてテストピースを作製した。テストピースの長軸とチャックの中心とが一直線になる様に、テストピースの両端をチャックに固定した。引張速度50mm/minでテストピースを引張り、最大荷重を測定し、当該最大荷重時の強度を「引張強さ(MPa)」とした。詳細はJIS K 6251:2010に従った。結果を下記表1に示す。なお、引張強さは2.0MPa以上が好ましく、2.5MPa以上がより好ましい。
【0097】
<(4)硬化物の伸び率の測定方法>
接着剤組成物の厚さを1mmに設定し、170℃にて60分間加熱することにより加熱硬化させてシート状の硬化物を作製した。2号ダンベルで打ち抜いてテストピースを作製し、20mm間隔の標線をテストピースに記入した。
【0098】
テストピースの長軸とチャックの中心とが一直線になるようにし、かつチャック間隔が20mmになるようにしてテストピースの両端をチャックに固定した。引張速度50mm/minで試験片の切断に至るまで引っ張った。試験片の切断に至るまで伸びは、クロスヘッドの移動距離にて計測し、初期の標線間隔である20mmを基準として、伸びた割合を「伸び率(%)」とした。この方法に基づき評価した結果を下記表1に示す。なお、伸び率の下限は2%以上が好ましく、100%以上がより好ましい。
【0099】
【表1】
【0100】
上記表1の実施例1~5によれば、本発明は、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れる接着剤組成物を提供するものであることがわかる。
【0101】
また、上記表1の比較例1は、(B)成分を除いた接着剤組成物であるが、硬化物のバルク強度(引張強さ)が劣る結果であった。また、比較例2は、(A)成分を除いた接着剤組成物であるが、硬化物のバルク強度(引張強さ)が劣る結果であった。また、比較例3は、本発明の(A)成分および(B)成分を使用せず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする接着剤組成物であるが、異種材質の材料の接着時に反りが大きいという結果であった。また、比較例4は、本発明の(B)成分を使用せず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた接着剤組成物であるが、硬化物の伸び率が1%と低く、異種材質の材料の接着時に反りが大きいという結果であった。また、比較例5は、(C)成分を除いた接着剤組成物であるが、異種材質の材料の接着時に反りが大きいという結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の接着剤組成物は、硬化物のバルク強度を維持しつつ、異種材質の材料の接着時に反りが少なく、接着力に優れるので、自動車分野をはじめとする様々な分野で接着剤として使用することが可能であり、産業上有用である。
【0103】
本出願は、2019年8月8日に出願された日本特許出願番号第2019-146136号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。
図1