(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】ディスプレイ用ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/027 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
C03B5/027
(21)【出願番号】P 2019542071
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2018033689
(87)【国際公開番号】W WO2019054385
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2017175769
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】櫻林 達
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-143523(JP,A)
【文献】特開昭59-026931(JP,A)
【文献】特開2010-222217(JP,A)
【文献】特開2010-042992(JP,A)
【文献】特開昭47-013618(JP,A)
【文献】特開昭54-144417(JP,A)
【文献】特開平01-164735(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132474(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/000440(WO,A1)
【文献】特開昭50-133214(JP,A)
【文献】国際公開第00/000440(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス溶解炉の溶解室に収容された溶融ガラスの表面上に、前記溶解室の前壁に並列に設置された複数の供給機からガラス原料を連続的に供給する供給工程と、供給したガラス原料を前記溶解室内の溶融ガラスに浸漬させた電極により加熱して溶解させる溶解工程と、前記溶解室の後壁に設置された流出口から前記溶解室外に溶融ガラスを連続的に流出させる流出工程とを含んだディスプレイ用ガラス基板の製造方法であって、
前記溶解工程では、前記電極のみにより加熱を行い、
前記供給工程で
連続的に供給したガラス原料により、前記溶解室内の溶融ガラスの表面のうち、60%~95%の面積を覆うことを特徴とするディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記溶解室内でのガラス原料の流れ方向に沿った溶融ガラスの表面の長さをLとし、前記流れ方向において最上流側に位置したガラス原料から最下流側に位置したガラス原料までの距離をRとしたとき、
R≧0.65Lの関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記供給工程で供給したガラス原料の表面の温度と、前記溶解室の底壁に存する溶融ガラスの温度との温度差を、200℃以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記供給工程で供給したガラス原料との界面に存する溶融ガラスの粘度と、前記溶解室の底壁に存する溶融ガラスの粘度との差を、2500dPa・s以上とすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記複数の供給機からそれぞれ供給した前記ガラス原料同士の間に前記溶融ガラスが露出する隙間を形成することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記溶解室内の溶融ガラスの表面のうち、前記ガラス原料で覆われていない箇所の少なくとも一部を、泡層で覆うことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板、ガラス管、ガラス繊維等に代表されるガラス物品は、ガラス溶解炉にてガラス原料を溶解させて生成した溶融ガラスを所定の形状に成形することにより製造される。ここで、特許文献1には、ガラス物品を製造するべく溶融ガラスを生成する手法の一例が開示されている。
【0003】
同手法は、ガラス溶解炉(同文献では、ガラス繊維製造用電気溶融炉)の溶解室に収容された溶融ガラスの表面上にガラス原料を供給する供給工程と、供給したガラス原料を溶解室内の溶融ガラスに浸漬させた電極により加熱して溶解させる溶解工程と、溶解室外に溶融ガラスを流出させる流出工程とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の手法により溶融ガラスを生成する場合には、下記のような解決すべき問題があった。
【0006】
すなわち、上記の手法においては、溶解室内の溶融ガラスの表面を溶解前のガラス原料が覆うことになる。このとき、ガラス原料の量によっては、溶融ガラスの成分が過度に揮発し、溶融ガラス中にシリカ含有濃度が部分的に高くなった異質素地が生じると共に、この異質素地を含んだ溶融ガラスが溶解室外に流出してしまうことがある。また、ガラス原料の量によっては、溶融ガラスに含まれる気泡を十分に脱泡させることが困難となり、気泡を含んだ溶融ガラスが溶解室外に流出してしまうことがある。
【0007】
そして、これら異質素地や気泡を含んだ溶融ガラスを成形することで製造したガラス物品には欠陥(脈理、泡等)が含まれやすく、ガラス物品の製品としての品質が大きく低下したり、製品として採用することが不可能となったりする問題があった。このため、溶融ガラスの表面を覆うガラス原料の量について適切化を図り、製造されるガラス物品の品質を向上させる必要があったが、このような要請に未だ応えられていないのが現状である。
【0008】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、ガラス溶解炉の溶解室内の溶融ガラス上に供給したガラス原料を溶解させて溶融ガラスを生成すると共に、溶解室外に流出させた溶融ガラスからガラス物品を製造するに際して、ガラス物品の品質を向上させることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、ガラス溶解炉の溶解室に収容された溶融ガラスの表面上に、溶解室の前壁に設置された供給機からガラス原料を供給する供給工程と、供給したガラス原料を溶解室内の溶融ガラスに浸漬させた電極により加熱して溶解させる溶解工程と、溶解室の後壁に設置された流出口から溶解室外に溶融ガラスを流出させる流出工程とを含んだガラス物品の製造方法であって、供給工程で供給したガラス原料により、溶解室内の溶融ガラスの表面のうち、60%~95%の面積を覆うことに特徴付けられる。
【0010】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、供給工程で供給したガラス原料により、溶解室内の溶融ガラスの表面のうち、60%~95%の面積を覆うようにすれば、溶融ガラスの成分の過度な揮発を防止でき、且つ、溶融ガラスに含まれる気泡を十分に脱泡させ得ることを知見するに至った。これは、ガラス原料に覆われた溶融ガラスの表面の面積が、60%以上であれば過度な揮発を防止できること、及び、95%以下であれば気泡を十分に脱泡させ得ることを、発明者が見出したことによるものである。これにより、本発明に係るガラス物品の製造方法によれば、異質素地や気泡を含んだ溶融ガラスからガラス物品が成形されることを低減できる。その結果、製造されるガラス物品に欠陥が含まれることを抑制でき、ガラス物品の品質を向上させることが可能となる。
【0011】
上記の方法では、溶解室内でのガラス原料の流れ方向に沿った溶融ガラスの表面の長さをLとし、流れ方向において最上流側に位置したガラス原料から最下流側に位置したガラス原料までの距離をRとしたとき、R≧0.65Lの関係を満たすことが好ましい。
【0012】
このようにすれば、溶融ガラスの成分の過度な揮発をより効果的に抑制することが可能となる。
【0013】
上記の方法では、供給工程で供給したガラス原料の表面の温度と、溶解室の底壁に存する溶融ガラスの温度との温度差を、200℃以上とすることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、溶解室内の溶融ガラスの表面のうち、60%~95%の面積をガラス原料が覆った状態を安定して維持することができ、ガラス物品の品質をさらに向上させることが可能となる。
【0015】
上記の方法では、供給工程で供給したガラス原料との界面に存する溶融ガラスの粘度と、溶解室の底壁に存する溶融ガラスの粘度との差を、2500dPa・s以上とすることが好ましい。
【0016】
このようにすることによっても、溶解室内の溶融ガラスの表面のうち、60%~95%の面積をガラス原料が覆った状態を安定して維持することができ、ガラス物品の品質をさらに向上させることが可能となる。
【0017】
上記の方法では、前壁に供給機を複数設置すると共に、複数の供給機からそれぞれ供給したガラス原料同士の間に溶融ガラスが露出する隙間を形成することが好ましい。
【0018】
このようにすれば、溶融ガラスが露出する隙間から、溶融ガラスに含まれた気泡を放出させることができる。このため、溶融ガラスの脱泡が促進され、ガラス物品の品質をさらに向上させることが可能となる。
【0019】
上記の方法では、溶解室内の溶融ガラスの表面のうち、ガラス原料で覆われていない箇所の少なくとも一部を、泡層で覆ってもよい。
【0020】
このようにすれば、泡層で覆った箇所では、溶融ガラスからの放熱を低減させることができる。そのため、より省エネルギーでガラス原料を溶解させることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ガラス溶解炉の溶解室内の溶融ガラス上に供給したガラス原料を溶解させて溶融ガラスを生成すると共に、溶解室外に流出させた溶融ガラスからガラス物品を製造するに際して、ガラス物品の品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造方法を示す縦断側面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造方法を示す横断平面図である。
【
図3】本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造方法を示す横断平面図である。
【
図4】本発明の第三実施形態に係るガラス物品の製造方法を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0024】
<第一実施形態>
まず、本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造方法に用いるガラス溶解炉について説明する。
【0025】
図1および
図2に示すように、ガラス溶解炉1は、電気溶融炉として構成されると共に、溶融ガラス2の収容が可能な溶解室3を備えている。このガラス溶解炉1は、溶解室3内の溶融ガラス2の表面2a上に連続的に供給されたガラス原料4を加熱して順次に溶解させると共に、溶解室3外に溶融ガラス2を流出させる構成となっている。
【0026】
溶解室3は、耐火物からなり、溶解室3の断面形状は、平面視で矩形状をなすように形成される。また、溶解室3は、溶解室3内でのガラス原料4(溶融ガラス2)の流れ方向D(以下、単に流れ方向Dと表記)における上流端に位置する前壁3aと、下流端に位置する後壁3bと、一対の側壁3c,3dと、天井壁3eと、底壁3fとを有する。
【0027】
前壁3aには、ガラス原料4を連続的に供給するための供給機としてのスクリューフィーダー5が並列に五基設置されている。五基のスクリューフィーダー5の各々は、前壁3aに形成された開口3aaに対して隙間なく挿入されている。各スクリューフィーダー5から供給されるガラス原料4は、いずれも、溶融ガラス2の表面2a上で流れ方向Dに沿って延び、各ガラス原料4の間にはガラス原料4が存在しない(溶融ガラス2の表面2aが露出した)隙間6が形成される。つまり、各ガラス原料4は、途中で合流することなく前壁3a側から後壁3b側に流れていく。さらに、先頭のスクリューフィーダー5から供給されるガラス原料4と側壁3cとの間、及び、後尾のスクリューフィーダー5から供給されるガラス原料4と側壁3dとの間にも、ガラス原料4が存在しない隙間6が形成される。なお、五基のスクリューフィーダー5の各々から供給されるガラス原料4には、清澄剤として酸化スズが添加されている。
【0028】
後壁3bには、溶融ガラス2を連続的に流出させるための流出口7が形成されている。この後壁3bは、流れ方向Dに沿って前壁3aから距離Lだけ離間して位置している。なお、距離Lは、流れ方向Dに沿った溶融ガラス2の表面2aの長さに等しい。一対の側壁3c,3dは、流れ方向Dに直交する方向(以下、直交方向と表記)に沿って相互に距離Wだけ離間して位置している。なお、距離Wは、直交方向に沿った溶融ガラス2の表面2aの幅に等しい。これにより、溶解室3内に収容された溶融ガラス2の表面2aの面積は、LとWとの積(L×W)に等しい面積となる。
【0029】
ここで、このガラス溶解炉1では、スクリューフィーダー5によって供給するガラス原料4の量を自在に調節することが可能となっている。
【0030】
底壁3fには、溶融ガラス2を通電により加熱するための棒状の電極8aが、溶融ガラス2に浸漬した状態で複数設置されている。また、一対の側壁3c,3dのそれぞれには、溶融ガラス2を通電により加熱するための板状の電極8bが、溶融ガラス2に浸漬した状態で複数設置されている。これら電極8a,8bに印加する電圧を調節することで、電極8a,8bにより発生させるエネルギー(溶融ガラス2に付与する熱エネルギー)を調節することが可能である。そして、これら電極8a,8bが溶融ガラス2を加熱するのに伴って、溶融ガラス2上のガラス原料4が間接的に加熱されて溶解する。これにより、新たな溶融ガラス2が順次に生成されていく。
【0031】
ここで、このガラス溶解炉1では、溶融ガラス2の連続的な生成が開始された後においては、溶解室3内の溶融ガラス2に付与する熱エネルギーを電極8a,8bのみにより発生させる。なお、連続的な生成が開始される前の段階では、例えば、両側壁3c,3dに設置したバーナー(図示省略)により溶融ガラス2及び/又はガラス原料4を加熱してもよい。
【0032】
以下、上記のガラス溶解炉1を用いた第一実施形態に係るガラス物品の製造方法について説明する。
【0033】
このガラス物品の製造方法では、ガラス物品であるディスプレイ用のガラス基板を製造するべく溶融ガラス2を生成するに際して、下記の各工程を実行する。なお、ガラス物品については、ディスプレイ用のガラス基板に限定されず、例えばガラス板やガラス管、ガラス繊維等としてもよい。
【0034】
本方法では、ガラス溶解炉1の溶解室3に収容された溶融ガラス2の表面2a上に、溶解室3の前壁3aに設置されたスクリューフィーダー5からガラス原料4を供給する供給工程と、供給したガラス原料4を溶解室3内の溶融ガラス2に浸漬させた電極8a,8bにより加熱して溶解させる溶解工程と、溶解室3の後壁3bに設置された流出口7から溶解室3外に溶融ガラス2を流出させる流出工程とを実行する。
【0035】
そして、本方法では、供給工程で供給したガラス原料4により、溶解室3内の溶融ガラス2の表面2aのうち、60%~95%の面積を覆った状態を維持する。本実施形態であれば、LとWとの積(L×W)として算出される面積(溶融ガラス2の表面2aの総面積)に対して、
図2にて極太線で囲った箇所の面積(表面2aのうちで「溶解前のガラス原料4」に覆われた箇所の総面積)が占める割合を60%~95%に維持する。なお、溶融ガラス2の表面2aの総面積は、溶融ガラス2の露出している箇所の面積に限らず、溶解前のガラス原料4に覆われた箇所の面積を含む。
【0036】
ここで、本実施形態において、「溶解前のガラス原料4に覆われた箇所」とは、溶融ガラス2の表面において、ガラス原料4の粒子が存在する箇所を意味する。また、「溶融ガラス2が露出している箇所」とは、溶融ガラス2の表面において、ガラス原料4の粒子が存在することなく、ガラス原料4の粒子が溶融している箇所を意味する。
【0037】
上記の割合は、以下の手順によって算出するものとする。
(a)溶融ガラス2の表面2a(溶解前のガラス原料4に覆われた箇所を含む)を視野に収める撮像手段(一例として、カメラ)を用いて画像を撮像する。
(b)撮像された画像において溶融ガラス2の表面2a(溶解前のガラス原料4に覆われた箇所を含む)の画素数をカウントする。
(c)輝度を基準に、溶融ガラスが露出している箇所と溶解前のガラス原料4に覆われた箇所を判別し、溶解前のガラス原料4に覆われた箇所の画素数をカウントする。
(d)上記(c)でカウントされた画素数を上記(b)でカウントされた画素数で除することによって割合を算出する。
必要であれば、国際公開WO2013/100069号公報に記載のように、撮像した映像を補正することも差し支えない。
【0038】
上述の手順の(c)では、輝度を基準に溶融ガラスが露出している箇所と溶解前のガラス原料4に覆われた箇所を判別するが、この輝度の基準は、ガラス溶解炉によって変化することから、ガラス溶解炉ごとに設定する必要がある。
【0039】
輝度の基準は、以下の手順によって設定する。
(a)溶融ガラス2の表面2a(溶解前のガラス原料4に覆われた箇所を含む)を視野に収める撮像手段を用いて画像を撮像する。
(b)溶融ガラスが露出している箇所と溶解前のガラス原料4に覆われた箇所の境界周辺の複数点で、溶融ガラス2及びガラス原料4のうちの最上層から試料を採取する。表面に泡層が存在する場合、その表面は例えば試料採取に用いる冶具で採取時に除ける。
(c)採取した試料をそれぞれ型に流し込んで冷却した後で切断することにより、複数のサンプルを作製する。
(d)サンプルの切断面のうちの任意の10×10mmの領域について、未溶融のガラス原料の占有面積率を算出する。また、上記(a)の画像を用いて採取位置の輝度を得る。
(e)上記(d)を用いて未溶融のガラス原料の占有面積率と輝度との関係を得て、未溶融のガラス原料の占有面積率が30%となる輝度を求めて基準とする。
【0040】
上記の割合の調節は、(1)スクリューフィーダー5によるガラス原料4の供給量と、(2)電極8a,8bにより発生させるエネルギーとの、少なくとも一方を調節することで行う。つまり、割合を増加させる場合には、(1)の供給量を増加させる調節と、(2)のエネルギーを減少させる調節との、少なくとも一方を行う。一方、割合を減少させる場合には、(1)の供給量を減少させる調節と、(2)のエネルギーを増加させる調節との、少なくとも一方を行う。
【0041】
また、本方法では、上記の(1)と(2)との少なくとも一方の調節により、流れ方向Dにおいて最上流側に位置したガラス原料4から最下流側に位置したガラス原料4までの距離R(前壁3aから最下流側に位置したガラス原料4までの距離に等しい)が、R≧0.65Lの関係を満たすように調節を行う。なお、距離Rは、0.95L以下とすることが好ましい。また、距離Rの調節は、電極8a,8bにより発生させるエネルギーの流れ方向Dの配分を変更することで行ってもよい。
【0042】
さらに、本方法では、上記の(1)と(2)との少なくとも一方の調節により、ガラス原料4の表面の温度と、底壁3fに存する溶融ガラス2の温度との温度差を200℃以上とする調節を行う。なお、上記温度差の調節は、電極8a,8bの浸漬長さを変更することで行ってもよい。また、ガラス原料4の供給及び溶解を安定させる観点から上記温度差は1000℃以下とすることが好ましい。本発明において、ガラス原料4の表面の温度は
図1のP1点の温度とし、底壁3fに存する溶融ガラス2の温度は
図1のP2点の温度とする。P1点、P2点、後述のP3点は、いずれも、流れ方向Dにおいて、前壁3aからL/10の距離だけ離間した位置Xにある。また、P1点~P3点は、いずれも、流れ方向Dに直交する方向において、供給機であるスクリューフィーダー5の中心位置Y(
図2参照)にある。
【0043】
加えて、上記の(1)と(2)との少なくとも一方の調節により、ガラス原料4との界面に存する溶融ガラス2の粘度と、底壁3fに存する溶融ガラス2の粘度との差を2500dPa・s以上とする調節を行う。なお、上記粘度差の調節は、電極8a,8bの浸漬長さを変更することで行ってもよい。また、ガラス原料4の供給及び溶解を安定させる観点から上記粘度差は10
19dPa・s以下とすることが好ましい。本発明において、ガラス原料4との界面に存する溶融ガラス2の粘度は
図1のP3点の粘度とし、底壁3fに存する溶融ガラス2の粘度は
図1のP2点の粘度とする。
【0044】
以下、上記のガラス物品の製造方法による主たる作用・効果について説明する。
【0045】
このガラス物品の製造方法では、溶融ガラス2の表面2aのうち、ガラス原料4に覆われた面積が、60%以上であることで溶融ガラス2の成分の過度な揮発を防止でき、且つ、95%以下であることで溶融ガラス2に含まれる気泡を十分に脱泡させ得る。これにより、異質素地や気泡を含んだ溶融ガラス2からガラス物品(ここでは、ディスプレイ用のガラス基板)が成形されることを低減できる。その結果、製造されるガラス物品に欠陥が含まれることを抑制でき、ガラス物品の品質を向上させることが可能となる。ガラス物品の品質をさらに向上させる観点では、ガラス原料4に覆われた面積が65%以上であることが好ましい。同様の観点から、ガラス原料4に覆われた面積が90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0046】
ガラス原料4,4の隙間6を形成すれば、溶融ガラス2の脱泡をさらに促進し、ガラス物品の品質をさらに向上させることができる。このため、ガラス原料4,4の隙間6を形成することが好ましい。この場合、ガラス原料4,4の隙間6の幅は10mm~500mmとすることが好ましい。
【0047】
ガラス溶解炉1では、溶融ガラス2の連続的な生成が開始された後においては、溶解室3内の溶融ガラス2に付与する熱エネルギーを電極8a,8bのみにより発生させる。この場合、バーナーの燃焼を併用する場合と比べ、ガラス溶解炉1内の雰囲気が乾燥する。このため、雰囲気中の水分が溶融ガラス2に溶け込むのを防止でき、得られるガラス物品におけるβ‐OH値を低減できる。これにより、得られるガラス物品を加熱した際のコンパクションを低下させることができ、ディスプレイ用のガラス基板に好適なガラス物品を得ることができる。
【0048】
以下、本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造方法について説明する。なお、第二実施形態については、上記の第一実施形態との相違点についてのみ説明する。第一実施形態との共通点については、第二実施形態の説明で参照する図面に同一の符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0049】
<第二実施形態>
図3に示すように、第二実施形態に係るガラス物品の製造方法は、上記の第一実施形態と、ガラス原料4の流れが異なっている。
【0050】
第二実施形態では、ガラス原料4同士が、前壁3a側から後壁3b側に流れていく途中で合流している。この第二実施形態に係るガラス物品の製造方法によっても、上記の第一実施形態と同様の主たる作用・効果を得ることが可能である。
【0051】
以下、本発明の第三実施形態に係るガラス物品の製造方法について説明する。なお、第三実施形態については、上記の第一実施形態との相違点についてのみ説明する。第一実施形態との共通点については、第三実施形態の説明で参照する図面に同一の符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0052】
<第三実施形態>
図4に示すように、第三実施形態に係るガラス物品の製造方法が、上記の第一実施形態と異なっている点は、溶融ガラス2の表面2aのうち、ガラス原料4で覆われていない箇所を泡層αで覆っている点である。なお、泡層αで覆う箇所は、ガラス原料4で覆われていない箇所のうちの一部であってもよいし、全部であってもよい。
【0053】
最下流側に位置したガラス原料4と後壁3bとの隙間や、ガラス原料4,4の隙間6など、ガラス原料4で覆われていない箇所を泡層αで覆うことで、溶融ガラス2からの放熱を低減でき、より省エネルギーでガラス原料4を溶解させることが可能となる。ガラス原料4に覆われた面積の割合S1と、泡層αが覆う面積の割合S2との合計(S1+S2)は、省エネルギーを促進する観点から、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0054】
ここで、「泡層α」とは、ガラス原料4の粒子が溶融し、多量のガスを含んだ状態にある表面ガラス層を指す。泡層αは、例えばガスを50体積%程度含有する。泡層αを構成する溶融ガラス中にガラス原料4が混ざりこんでも差し支えない。泡層αが覆う範囲は、溶融ガラス2の表面2aの温度や、後述のカレット率を変更することで調整できる。溶融ガラス2の表面2aの温度を低下させると泡層αは増加し、反対に溶融ガラス2の表面2aの温度を上昇させると泡層αは減少する。溶融ガラス2の表面2aの温度は、例えば溶解室3の上部の気相空間に流入するガスの流量及び/又は気相空間から排出するガスの流量を変更することによって調整できる。また、カレット率は、これの値が大きすぎても、小さすぎても泡層αが減少し、カレット率が特定の値をとる際に泡層αが最多となる。カレット率は、例えば5~50%の範囲内に調整すればよい。ここで、「カレット率[%]」は、ガラス原料4の質量に対して当該ガラス原料4に含まれるカレットの質量の割合であって、(カレット質量[kg]/(カレット質量[kg]+バッチ原料質量[kg]))×100で算出される値である。
【0055】
ここで、本発明に係るガラス物品の製造方法は、上記の各実施形態で説明した態様に限定されるものではない。例えば、上記の各実施形態では、ガラス原料4の供給にスクリューフィーダー5を用いているが、溶解室3(前壁3a)の外側から内側に向かってガラス原料4を押し込むことが可能なプッシャーを用いてもよい。また、一基の供給機でガラス原料を供給してもよいが、供給機のメンテナンス時にガラス原料の供給を継続する観点から、複数(例えば二基~五基)の供給機を設置し、非メンテナンス時は複数の供給機でガラス原料を供給することが好ましい。
【0056】
無アルカリガラスは、アルカリ含有ガラスと比べ、ガラス原料の溶融にエネルギーと時間を要する。このため、無アルカリガラスの溶融では、溶融ガラスに異質素地や気泡が含まれやすくなる。つまり、無アルカリガラスの溶融に本発明を適用すれば、ガラス物品の品質を向上させる効果が顕著となる。したがって、ガラス物品は無アルカリガラスからなることが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。本発明におけるアルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。
【0057】
上記の実施形態では、棒状の電極8aと板状の電極8bとを配置することにより、異なる形状の電極を併用したが、同じ形状の電極のみを用いてもよい。また、ブロック状の電極を用いてもよい。
【実施例1】
【0058】
本発明の第一実施例として、上記の第一実施形態と同一の態様により、100枚のガラス基板を製造した後、当該ガラス基板の欠陥の発生率について調査した。その際、ガラス基板は、日本電気硝子社製のディスプレイ用のガラス基板(製品名:OA-11)に準じ、無アルカリガラスとした。また、欠陥の発生率は、欠陥が検出されたガラス基板の枚数を製造したガラス基板の枚数で除することによって算出した。
【0059】
検証においては、後に掲載する[表1]に示すように、距離Rについて、Rの値を0.3L、0.5L、0.6L、0.7L、0.8L、0.9L、1.0Lと段階的に変更した。そして、これら各距離Rの下で、さらに、溶融ガラス2の表面2aのうちでガラス原料4に覆われた面積の割合について、割合を30%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%と段階的に変更した。
【0060】
[表1]に検証の結果を示す。ここで、割合が80%の条件では、距離Rの下限は0.8Lとなり、距離Rを0.8L未満にすることはできない。このように設定不能な条件については、[表1]で「‐」で表す。また、[表1]における「×」とは、欠陥の発生率が不芳であったことを示す。また、「○」とは、欠陥の発生率が良好であったことを示す。また、「◎」とは、欠陥の発生率が優良であったことを示す。
【0061】
【0062】
[表1]に示す検証の結果から、割合が60%~95%となる条件の下では、ガラス基板の欠陥の発生率が良好であったことが分かる。これは、溶融ガラス2の成分の過度な揮発の防止と、溶融ガラス2に含まれた気泡の十分な脱泡とを両立できたことによる結果と想定される。
【0063】
一方、割合が30%、50%、100%となる条件の下においては、ガラス基板の欠陥の発生率が不芳であったことが分かる。なお、割合が30%、50%となる条件の下では、ガラス基板で脈理の発生が増加した。また、割合が100%となる条件の下では、ガラス基板で泡の発生が増加した。
【0064】
また、割合が60%かつ距離Rが0.6Lとなる条件、割合が70%かつ距離Rが0.7Lとなる条件、割合が80%かつ距離Rが0.8Lとなる条件、及び、割合が90%かつ距離Rが0.9Lとなる条件では、ガラス原料4が存在しない隙間6が形成されなく、ガラス基板の欠陥の発生率が良好となった。割合が60%で距離Rが0.7L以上となる条件、割合が70%で距離Rが0.8L以上となる条件、及び、割合が80%で距離Rが0.9L以上となる条件では、ガラス原料4が存在しない隙間6が形成された。その結果、気泡の脱泡がより促進され、ガラス基板の欠陥の発生率が優良となった。
【実施例2】
【0065】
本発明の第二実施例として、以下のような調査を行った。
【0066】
溶融ガラス2の表面2aのうち、ガラス原料4で覆われた面積の割合S1を70%に固定した状態の下、ガラス原料4で覆われていない箇所(ガラス原料4で覆われた70%の面積を除いた残りの30%の面積)について、当該箇所を覆う泡層αの量を段階的に変更した。具体的には、溶融ガラス2の表面2aのうち、泡層αが覆う面積の割合S2(以下、泡層割合と表記)が0%、10%、20%、30%となるように段階的に変更した。なお、溶解室3の上部の気相空間に流入するガスの流量を変更することにより、溶融ガラス2の表面2aの温度を変動させ、所望の泡層割合とした。また、泡層割合が0%とは、ガラス原料4で覆われていない箇所に泡層αが全く存在しないことを意味し、泡層割合が30%とは、ガラス原料4で覆われていない箇所の全てが泡層αで覆われていることを意味する。
【0067】
そして、泡層割合が0%である場合にガラス原料4の溶解に要する電気エネルギーを基準の100%として、泡層割合を10%、20%、30%と変更した場合、換言すると、ガラス原料4で覆われた面積の割合S1と泡層割合S2との合計(S1+S2)を変更した場合にガラス原料4の溶解に要する電気エネルギーの変遷を調査した。なお、本調査では泡層割合の多寡によらず、流出口7を流れる溶融ガラス2の温度は一定となるようにした。[表2]に調査の結果を示す。
【0068】
【0069】
[表2]に示す結果のとおり、泡層割合が増加するのに伴い、ガラス原料4の溶解に要する電気エネルギーを抑制できていることが分かる。なお、本調査において、泡層割合の多寡によらず、製造されるガラス基板の欠陥の発生率に影響は無かった。
【0070】
以上のことから、本発明に係るガラス物品の製造方法によれば、ガラス物品の品質を向上させることが可能となるものと推認される。
【符号の説明】
【0071】
1 ガラス溶解炉
2 溶融ガラス
2a 溶融ガラスの表面
3 溶解室
3a 前壁
3b 後壁
3c 側壁
3d 側壁
3e 天井壁
3f 底壁
4 ガラス原料
5 スクリューフィーダー
8a 棒状の電極
8b 板状の電極
D 流れ方向
L 距離(長さ)
R 距離