(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】神経変性疾患の診断用ペプチドマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240321BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240321BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240321BHJP
C07K 14/75 20060101ALN20240321BHJP
C07K 14/81 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 D
G01N27/62 V
C07K14/75
C07K14/81
(21)【出願番号】P 2019156539
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018160753
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018192460
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504150782
【氏名又は名称】株式会社プロトセラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 康二
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹
(72)【発明者】
【氏名】太田 康之
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲次
(72)【発明者】
【氏名】李 良子
(72)【発明者】
【氏名】千賀 岳人
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-511063(JP,A)
【文献】国際公開第2014/202955(WO,A1)
【文献】特開2012-132808(JP,A)
【文献】国際公開第2008/096846(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/098786(WO,A1)
【文献】特開2012-103142(JP,A)
【文献】特表2016-511394(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0147863(US,A1)
【文献】特表2013-513103(JP,A)
【文献】特表2018-513879(JP,A)
【文献】Robert A. Stem,,Antibodies to the β-amyloid peptide cross-react with conformational epitopes in human fibrinogen subunits from peripheral blood,FEBS LETTERS,1990年05月,Volume 264, number 1,pp.43-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患の検出方法であって、被験者の生物試料中の配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを測定することを含む方法。
【請求項2】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー型認知症及び軽度認知障害のうちの少なくとも一方であり、前記被験者の生物試料中の、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドをさらに測定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー型認知症である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者の生物試料中の、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドをさらに測定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記神経変性疾患が軽度認知障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被験者の生物試料中の、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドをさらに測定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記神経変性疾患がパーキンソン病であり、前記被験者の生物試料中の、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドをさらに測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記神経変性疾患が筋萎縮性側索硬化症であり、前記被験者の生物試料中の、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドをさらに測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
生体試料を質量分析にかけることを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生物試料が血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、汗、涙液、眼房水、硝子体液及びリンパ液からなる群より選択される体液からなる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記神経変性疾患の検出は、神経変性疾患の判定、神経変性疾患の予防効果の判定、神経変性疾患の治療効果の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者の判定、個々の神経変性疾患患者に奏効する治療薬の判定、神経変性疾患の診断のための検査方法、又は神経変性疾患の治療のための検査方法である請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
質量分析装置を用いた分析に使用される、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが安定同位体で標識された内部標準品を備える神経変性疾患の検出キットであって、
前記神経変性疾患は、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患であ
り、
前記分析において、既知量の前記内部標準品が被験試料と混合され、質量分析装置内で被験試料中のペプチドをイオン化及び断片化して得られたペプチドフラグメントが定量される、
神経変性疾患の検出キット。
【請求項13】
配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチ
ドに対する抗体を含む神経変性疾患の検出キットであって、
前記神経変性疾患は、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患である、
神経変性疾患の検出キット。
【請求項14】
配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチ
ドに対する抗体を検出試薬として含む神経変性疾患の検出剤であって、
前記神経変性疾患は、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患である、
神経変性疾患の検出剤。
【請求項15】
配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの、神経変性疾患を検出するためのバイオマーカーとしての使用であって、
前記神経変性疾患は、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドマーカーを用いた神経変性疾患の検出方法に関し、より詳細には、ペプチドマーカーを用いた神経変性疾患の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者(リスポンダー)の判定(コンパニオン診断法)、予防効果の判定、治療効果の判定、早期診断のための検査方法、早期治療のための検査方法、及び物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer disease, AD)を初めとする認知症、軽度認知障害(MCI)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経変性疾患の患者数が、高齢化社会に伴い急増している。これらの神経変性疾患の診断は、各疾患の診断基準に基づき、問診、認知機能テスト、画像診断等を用いて医師により従来行われているが、診断に時間がかかる上、医師により判断が異なることがあり、客観性に欠けるという問題がある。
【0003】
神経変性疾患を迅速かつ高感度にスクリーニングし、診断を補助するツールが切に必要とされている。
【0004】
特許文献1及び2には、患者の血清試料中の特定のバイオマーカーペプチドの有無又は量を指標とし、認知機能障害疾患を検出する方法が開示されている。これらの検出方法はイムノアッセイ法を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/207888
【文献】特開2016-28243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、被験者の生物試料中のバイオマーカーペプチドの測定により神経変性疾患を迅速かつ高精度に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、神経変性疾患の患者の血清サンプルを調べたところ、12種類のバイオマーカー候補ペプチドを発見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の態様が提供される。
【0009】
項1.被験者における、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患の検出方法であって、被験者の生物試料中の下記の(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせである1種又は2種以上のペプチドを測定することを含む方法。
【0010】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b)前記(a)の各ペプチドの一部であって、前記(a)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c)前記(a)のペプチドのアミノ酸配列の各々において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項2.前記神経変性疾患が、アルツハイマー型認知症及び軽度認知障害のうちの少なくとも一方であり、下記の(a-1)、(b-1)、(c-1)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドを測定することを含む項1に記載の方法。
【0011】
(a-1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-1)前記(a-1)の各ペプチドの一部であって、前記(a-1)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-1)前記(a-1)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項3.前記神経変性疾患が、アルツハイマー型認知症及び軽度認知障害のうちの少なくとも一方であり、下記の(a-2)、(b-2)、(c-2)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドを測定することを含む項1に記載の方法。
【0012】
(a-2)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-2)前記(a-2)の各ペプチドの一部であって、前記(a-2)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-2)前記(a-2)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項4.前記神経変性疾患がアルツハイマー病(AD)であり、下記の(a-3)、(b-3)、(c-3)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドを測定することを含む項1に記載の方法。
【0013】
(a-3)配列番号1~4,5,7,9~12で表されるアミノ酸配列からなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-3)上記(a-3)の各ペプチドの一部であって、上記(a-3)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-3)上記(a-3)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項5.前記神経変性疾患が軽度認知障害(MCI)であり、下記の(a-4)、(b-4)、(c-4)又はそれらの組み合わせである1種、2種、又は3種のペプチドを測定することを含む項1に記載の方法。
【0014】
(a-4)配列番号1,8及び9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-4)上記(a-4)の各ペプチドの一部であって、上記(a-4)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-4)上記(a-4)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項6.前記神経変性疾患がパーキンソン病(PD)であり、下記の(a-5)、(b-5)、(c-5)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドを測定することを含む項1に記載の方法。
【0015】
(a-5)配列番号1,3~7,9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-5)上記(a-5)の各ペプチドの一部であって、上記(a-4)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-5)上記(a-5)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項7.前記神経変性疾患が筋萎縮性側索硬化症(ALS)であり、下記の(a-6)、(b-6)、(c-6)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドを測定することを含む項1に記載の方法。
【0016】
(a-6)配列番号1,3~9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-6)上記(a-6)の各ペプチドの一部であって、上記(a-6)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-6)上記(a-6)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項8.配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、配列番号2~12のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドとを測定することを含む項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0017】
項9.生体試料を質量分析にかけることを含む、項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
項10.前記生物試料が血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、汗、涙液、眼房水、硝子体液及びリンパ液からなる群より選択される体液からなる、項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
項11.前記神経変性疾患の検出は、神経変性疾患の判定、神経変性疾患の予防効果の判定、神経変性疾患の治療効果の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者の判定、個々の神経変性疾患患者に奏効する治療薬の判定、神経変性疾患の診断のための検査方法、又は神経変性疾患の治療のための検査方法である項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
項12.下記の(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせである1種又は2種以上のペプチドが安定同位体で標識された内部標準品を備える神経変性疾患の検出キット。
【0021】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b)前記(a)の各ペプチドの一部であって、前記(a)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c)前記(a)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項13.下記の(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせである1種又は2種以上のペプチド又はそのnタンパク質の各々に対する抗体を含む神経変性疾患の検出キット。
【0022】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b)前記(a)の各ペプチドの一部であって、前記(a)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c)前記(a)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項14.下記の(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせである1種又は2種以上のペプチド又はその親タンパク質の各々に対する抗体を検出試薬として含む神経変性疾患の検出剤。
【0023】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b)前記(a)の各ペプチドの一部であって、前記(a)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c)前記(a)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項15.下記の(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせである1種又は2種以上のペプチドである、神経変性疾患を検出するためのバイオマーカー。
【0024】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b)前記(a)の各ペプチドの一部であって、前記(a)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c)前記(a)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
項16.下記の(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせである1種又は2種以上のペプチドである、治療薬への神経変性疾患患者の応答性を検出するためのバイオマーカー。
【0025】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b)前記(a)の各ペプチドの一部であって、前記(a)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c)前記(a)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、神経変性疾患を迅速かつ極めて高い信頼性で判定できるため、該疾患の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者(リスポンダー)の判定(コンパニオン診断法)、予防効果の判定、治療効果の判定、早期診断、早期治療のための検査方法、及び物質のスクリーニング方法が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】4種のマルチマーカーを用いた回帰式で評価したアルツハイマー型認知症リスクの散布図。CL:健常者、MCI:軽度認知症、AD:アルツハイマー型認知症患者。
【
図2】4種のマルチマーカーを用いた回帰式で評価したアルツハイマー型認知症リスクの散布図。NC:健常者、MCI:軽度認知症、AD:アルツハイマー型認知症患者。
【
図3】(a)Aβ- PiB陰性のPETの例、(b)Aβ- PiB陽性のPETの例、(c)11名の被験者のデータ。縦軸が相対PET値、横軸がMMSEスコア、(d)11名の被験者のデータ。縦軸がSPD値、横軸がMMSEスコア。図中、黒色の丸はAD患者、灰色の丸はMCI患者、白丸は健常者である。
【
図4】(A)大脳皮質と海馬における免疫組織染色、(B)健常対照とAD患者における、大脳皮質と海馬における、0.12mm
2の面積内のペプチド1(FBC)、ペプチド2(AHSG)、ペプチド3(FAC)、及びペプチド4(PPC1I)陽性細胞の数をそれぞれ示すグラフ。対照に対して *p<0.05, **p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、新規かつ有用な神経変性疾患の検出マーカーペプチド(以下、包括して「本発明のペプチド」という場合もある)を提供する。
【0029】
なお、本明細書において、神経変性疾患の「検出」には、神経変性疾患の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者(リスポンダー)の判定(コンパニオン診断法)、神経変性疾患の予防効果の判定、神経変性疾患の治療効果の判定、神経変性疾患の診断(特には早期診断)のための検査方法、及び神経変性疾患の治療(特には早期治療)のための検査方法が含まれる。神経変性疾患の「判定」には、神経変性疾患の有無を判定することのみならず、予防的に神経変性疾患の罹患可能性を判定することや、治療後の神経変性疾患の予後を予測すること、及び神経変性疾患の治療薬の治療効果を判定することが含まれる。物質のスクリーニング方法には、神経変性疾患の「検出」、「判定」及び「治療」に有用な物質のスクリーニング方法が含まれる。
【0030】
本明細書において、「罹患」には「発症」が含まれる。
【0031】
本明細書において、「治療」とは、疾患もしくは症状の治癒又は改善、或いは症状の抑制を意味し「予防」を含む。「予防」とは、疾患又は症状の発現を未然に防ぐことを意味する。
【0032】
本明細書において、「ペプチド」とは、2個以上100個以下のアミノ酸が結合して形成された分子を指す。
【0033】
本明細書における神経変性疾患は、アルツハイマー型認知症(AD, アルツハイマー病とも言う)、軽度認知障害(MCI)、パーキンソン病(PD)、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患である。
【0034】
本発明は、被験者における、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患の検出又は判定方法であって、被験者の生物試料中の下記の(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせである1種又は2種以上のペプチドを測定することを含む方法を包含する。
【0035】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b)上記(a)の各ペプチドの一部であって、上記(a)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c)上記(a)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
配列番号1から配列番号12までで表されるアミノ酸配列の解析結果から、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドはフィブリノーゲンα鎖の部分配列であり、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは血漿プロテアーゼC1阻害剤の部分配列であり、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドはインターαトリプシン阻害剤 重鎖H4(inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain H4)の部分配列であり、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドはα-2-HS糖タンパク質の部分配列であり、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは血液凝固第XIII因子 A鎖の部分配列であり、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは補体C3(Complement C3) の部分配列であり、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドはフィブリノーゲンβ鎖の部分配列であることが判明した。
【0036】
本発明のペプチドとそれを使用した検査、判定、診断、診察、物質スクリーニング法は、従来の神経変性疾患の診断方法に代わりに、又は従来の神経変性疾患の診断方法と組み合わせて、神経変性疾患の検出若しくは診断に、神経変性疾患の検出若しくは診断の補助に適用可能である。
【0037】
配列番号1~12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、被験者の生物試料中に見出され、これらのペプチドの測定値は神経変性疾患の罹患と相関する。配列番号1~12のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、それぞれペプチド1~12とも称する)は以下の表1に示す通りである。
【0038】
【0039】
配列番号1~12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの質量分析による見かけの分子量[M+H]+は、それぞれ約5078.35、約4151.17、約3970.99、約2931.29、約2858.53、約2787.51、約2659.26、約2344.15、約3949.98(BLOTCHIP-MSペプチドプロファイリングで二価荷電イオンとして検出)、約1865.00、約1465.66、及び約2882.54である。分子量の実測値は、用いられる測定方法・測定機器に応じて若干変動し得る。したがって、これらの分子量における「約」とは、例えば、質量分析計を用いる方法による場合は、±0.5%、好ましくは±0.3%、より好ましくは±0.1%の誤差を含む意味で用いられる。
【0040】
本明細書において、「配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド」と言う場合、別途明記されていない限り、そのようなペプチドには、各アミノ酸が非修飾である配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドのみならず、アミノ酸の種類を維持したまま1又は複数のアミノ酸が修飾されている、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドも含まれる。そのような修飾には、酸素原子の結合による酸化、リン酸化、N-アセチル化、S-システイン化等が含まれる。配列番号2~12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの各々も同様に、別途明記されていない限り、各アミノ酸が非修飾又は修飾されているペプチドを包含するものとする。
【0041】
さらに、本発明のペプチドの特定のアミノ酸の修飾の例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの3番目のプロリンの酸素による酸化、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの18番目(α-2-HS-糖タンパク質のN末端から358番目)のシステインのシステイニル化、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの18番目(α-2-HS-糖タンパク質のN末端から358番目)のシステインのシステイン酸への酸化、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの1番目(血液凝固第XIII因子 A鎖のN末端から2番目)のセリンのアセチル化、などが挙げられる。このような場合も、配列番号1~12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである限り、本発明の範囲に包含される。なお、配列番号1~12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの上記修飾体は、質量分析にて非修飾体と区別が可能であり、疾患の検出、判定及び治療等に、修飾ペプチド又は非修飾ペプチドのいずれを適切な状況で使用することも本発明の範囲に包含される。
【0042】
また、上記のペプチド1~12が神経変性疾患のマーカーとして有用であるので、この12種のペプチドのアミノ酸残基の一部を含むペプチドも同様に神経変性疾患のマーカーとなることが考えられ、本発明のペプチドに含まれる。ここでアミノ酸残基の一部とは、各ペプチドのアミノ酸残基のうち、連続する10個以上のアミノ酸を意味し、好ましくは連続する15個以上のアミノ酸を意味し、より好ましくは連続する20個以上のアミノ酸を意味し、より好ましくは連続する23個以上、さらにより好ましくは連続する25個以上のアミノ酸を意味する。ただし、ペプチド1~12の一部であるこのようなペプチドは、ペプチド1~12のアミノ酸の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有し、好ましくは90%以上の数の連続する同一アミノ酸配列を有する。
【0043】
さらに、上記12種のペプチドのアミノ酸配列の一部のアミノ酸配列を有するぺプチドに加えて、上記12種のペプチドのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドも本発明のペプチドに含まれる。実質的に同一とは、上記12種のペプチドのアミノ酸配列のいずれかと比較して、1個もしくは少数個のアミノ酸が修飾されているが、なお神経変性疾患の診断マーカーとなり得るものを意味する。ここで修飾とは、アミノ酸が欠失、付加、もしくは他のアミノ酸により置換されているか、又はこれらの組み合わせによりアミノ配列が変更されていることを意味する。
【0044】
ここで、少数個とは、例えば各ペプチドにおいて全アミノ酸数に対して約10%以下を意味する。例えばペプチド1の場合、4個以下を意味し、ペプチド11の場合、1個以下を意味する。従って、本発明において実質的に同じアミノ酸配列を有するペプチドは、対応するペプチド1~12のうちの一つに対し、1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されてもよく、なお神経変性疾患のマーカーと成りうるアミノ酸配列を有するペプチドが包含される。例えば、被験対象となる患者が、本発明のペプチドのアミノ酸配列内に1もしくは2以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加又はそれらの組合せを含む多型もしくはアレル変異を有する場合、検出すべきペプチドのアミノ酸配列は、「配列番号1~12で表される各アミノ酸配列において、当該多型もしくはアレル変異を有するアミノ酸配列」と解すべきであることは、当業者にとって自明である。
【0045】
好ましい一つの実施形態では、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患の検出方法において、神経変性疾患が、アルツハイマー型認知症及び軽度認知障害のうちの少なくとも一方であり、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、下記の(a-1)、(b-1)、(c-1)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドである。
【0046】
(a-1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-1)上記(a-1)の各ペプチドの一部であって、上記(a-1)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-1)上記(a-1)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
好ましい一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、上記(a-1)のペプチドからなる群から選択される1種のペプチドである。
【0047】
より好ましい一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、上記(a-1)のペプチドからなる群から選択される2種以上のペプチドである。
【0048】
さらに好ましい一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、上記(a-1)の4種のペプチドである。
【0049】
一つの実施形態では、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症から成る群から選択される少なくとも一つの神経変性疾患の検出方法において、神経変性疾患が、アルツハイマー型認知症及び軽度認知障害のうちの少なくとも一方であり、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、下記の(a-2)、(b-2)、(c-2)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドである。
【0050】
(a-2)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-2)上記(a-2)の各ペプチドの一部であって、上記(a-2)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-2)上記(a-2)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
好ましい一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、上記(a-2)のペプチドからなる群から選択される1種のペプチドである。
【0051】
より好ましい一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、上記(a-2)のペプチドからなる群から選択される2種以上のペプチドである。
【0052】
さらに好ましい一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、上記(a-2)の4種のペプチドである。
【0053】
本発明のペプチドの発現量は、神経変性疾患の有無と相関がある。具体的には、配列番号1~4,8,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血清濃度(又は量)は、健常者よりも神経変性疾患患者で高く、配列番号5~7,9~11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血清濃度(又は量)は、健常者よりも神経変性疾患患者で低い。
【0054】
より具体的には、アルツハイマー病(AD)患者では、配列番号1~4、12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号5,7,9から11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。軽度認知障害(MCI)患者では、配列番号1及び8で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。パーキンソン病(PD)患者では、配列番号1,3,4,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号5~7,9,11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者では、配列番号1,3,4,8,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号5~7,9,11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。よって、疾患毎に、適切なペプチドをバイオマーカーとして単独で又は2つ以上組み合わせて用いることで、当該疾患を高い精度で検出することができる。
【0055】
一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、配列番号2~12のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドとを含む。2以上のペプチドを組み合わせることにより、検出精度が増大する。
【0056】
好ましい一つの実施形態では、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド又は配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとを含む。AUCが高いこのようなペプチドの組み合わせにより、検出精度が大幅に増大する。
【0057】
別の実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病(AD)であり、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、下記の(a-3)、(b-3)、(c-3)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドである。
【0058】
(a-3)配列番号1~4,5,7,9~12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-3)上記(a-3)の各ペプチドの一部であって、上記(a-3)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-3)上記(a-3)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
(a-3)は好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、2~4,5,7,9~12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドとを含む。
【0059】
別の実施形態では、神経変性疾患は軽度認知障害(MCI)であり、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、下記の(a-4)、(b-4)、(c-4)又はそれらの組み合わせである1種、2種又は3種のペプチドである。のペプチドである。
【0060】
(a-4)配列番号1,8及び9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-4)上記(a-4)の各ペプチドの一部であって、上記(a-4)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-4)上記(a-4)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
(a-4)は好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドのうちの少なくとも一方とである。
【0061】
別の実施形態では、神経変性疾患はパーキンソン病(PD)であり、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、下記の(a-5)、(b-5)、又は(c-5)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドである。
【0062】
(a-5)配列番号1,3~7,9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-5)上記(a-5)の各ペプチドの一部であって、上記(a-5)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-5)上記(a-5)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
(a-5)は好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、3~7,9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドの組み合わせであるか、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、1,4~7,9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドの組み合わせである。
【0063】
別の実施形態では、神経変性疾患は筋萎縮性側索硬化症(ALS)であり、被験者における神経変性疾患の検出又は判定方法で測定される本発明のペプチドは、下記の(a-6)、(b-6)、(c-6)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドである。
【0064】
(a-6)配列番号1,3~9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチド
(b-6)上記(a-6)の各ペプチドの一部であって、上記(a-6)のアミノ酸配列の90%以上の数の同一アミノ酸配列を有する、1種又は2種以上のペプチド
(c-6)上記(a-6)の各ペプチドのアミノ酸配列において、1~4個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されている、1種又は2種以上のペプチド
(a-6)は好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、3~9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドの組み合わせであるか、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、1,4~9及び11,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種又は2種以上のペプチドの組み合わせである。
【0065】
このように、疾患毎に適切なペプチドをバイオマーカーとして単独で又は2つ以上組み合わせて用いることで、当該疾患をより高い精度で検出することができる。
【0066】
被験者には、神経変性疾患に罹患していると疑われる患者が含まれ、「神経変性疾患に罹患していると疑われる患者」は、被検者本人が主観的に疑いを抱く者(何らかの自覚症状がある者に限らず、単に予防検診の受診を希望する者を含む)であってもよいし、何らかの客観的な根拠に基づいて神経変性疾患と判定又は診断された者(例えば、従来公知の認知機能テスト(例、ミニ・メンタルステート試験(MMSE)や長谷川式認知症スケール(HDS-R))及び/又は診察の結果、神経変性疾患の合理的な罹患可能性があると医師が判断した者)であってもよい。「ペプチドを測定する」とはペプチドの濃度、量、又はシグナル強度を測定することを指す。
【0067】
被験試料となる被検者由来の生体試料は特に限定されないが、被検者への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液、汗など生体から容易に採取できるものや、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液、リンパ液など比較的容易に採取されるものが挙げられる。一実施形態では、生物試料が血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、涙液、汗眼房水、硝子体液及びリンパ液からなる群より選択される体液からなる。血清や血漿を用いる場合、常法に従って被検者から採血し、前処理を施さず直接、又は液性成分を分離することにより分析にかける被験試料を調製することができる。検出対象である本発明のペプチドは必要に応じて、抗体カラム、その他の吸着剤カラム、又はスピンカラムなどを用いて、予め高分子量の蛋白質画分などを分離除去しておくこともできる。
【0068】
生体試料中の、本発明のペプチドの検出は、例えば、生体試料を各種の分子量測定法、例えば、ゲル電気泳動や、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ、アフィニティークロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィなど)、表面プラズモン共鳴法、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、及び質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計、免疫質量分析計、安定同位体ペプチドを内部標準にした質量分析計、安定同位体標識フラグメントイオンを内部標準品にしたMS-MS質量分析計、免疫顕微鏡計、質量顕微計など)を組み合わせる方法等に供し、該ペプチドの分子量と一致するバンドもしくは該ペプチドのフラグメントイオン、スポット、あるいはピークを検出することにより行うことができるが、これらに限定されない。
【0069】
本発明のペプチドを精製してそれら又はそれらの親タンパク質を認識する抗体を作製し、ELISA, RIA,イムノクロマト法、表面プラズモン共鳴法、ウェスタンブロッティング、免疫質量分析法や各種イムノアッセイ、免疫顕微鏡法により該ペプチドを検出する方法もまた、好ましく用いられ得る。さらに上記方法のハイブリッド型検出法も有効である。当該ペプチドは、抗原性または免疫原性を有する部分アミノ酸領域(抗原決定基)であるエピトープを有する。エピトープは通常、少なくとも5アミノ酸、好ましくは少なくとも7アミノ酸、より好ましくは少なくとも10アミノ酸からなる。本発明のペプチド又はそれらの親タンパク質を認識する抗体は、かかるエピトープを用いて作製することができる。なお、親タンパク質とは、配列番号1、4、7、8、及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの場合、フィブリノーゲンα鎖であり、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの場合、血漿プロテアーゼC1阻害剤であり、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの場合、インターαトリプシン阻害剤 重鎖H4であり、配列番号5、6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの場合、α-2-HS糖タンパク質であり、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの場合、血液凝固第XIII因子 A鎖であり、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの場合、補体C3であり、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの場合、フィブリノーゲンβ鎖である。 フィブリノーゲンα鎖、血漿プロテアーゼC1阻害剤、インターαトリプシン阻害剤 重鎖H4、α-2-HS糖タンパク質、血液凝固第XIII因子 A鎖、補体C3、及びフィブリノーゲンβ鎖としては、例えばUniProtKB/Swiss-Prot IDがそれぞれP02671、P05155、Q14624、P02765、P00488、P01024、及びP02675のタンパク質(アミノ酸配列の配列番号がそれぞれ配列番号13~19で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)が挙げられるが、それらのアイソフォームが除外されるわけではない。
【0070】
本発明の検出又は判定方法における特に好ましい測定法の1つは、飛行時間型質量分析に使用するプレートの表面に被験試料を接触させ、該プレート表面に捕捉された成分の質量を飛行時間型質量分析計で測定する方法が挙げられる。飛行時間型質量分析計に適合可能なプレートは、検出対象である本発明のペプチドを効率よく吸着し得る表面構造(例:官能基付加ガラス、Si、Ge、GaAs、GaP、SiO2、SiN4、改質シリコン、種々のゲル又はポリマーのコーティング)を有している限り、いかなるものであってもよい。
【0071】
好ましい実施態様においては、質量分析用プレートとして用いられる支持体は、ポリビニリデンジフロリド(PVDF)、ニトロセルロース又はシリカゲル、特に好ましくはPVDFで薄層コーティングされた基材である(WO 2004/031759を参照)。かかる基材は、質量分析用プレートにおいて使用されているものであれば、特に限定されず、例えば、絶縁体、金属、導電性ポリマー、それらの複合体などが挙げられる。かかるPVDFで薄層コーティングされた質量分析用プレートとして、好ましくは株式会社プロトセラ社のブロットチップ(BLOTCHIP,登録商標)などが挙げられる。代わりに、質量分析用プレートは、支持体表面を塗布、噴霧、蒸着、浸漬、印刷、スパッタリング等の公知の手段でコーティングすることにより、公知の方法により調製することもできる。また、質量分析用プレート上の分子を質量分析する方法自体は公知である(例えばWO 2004/031759)。WO 2004/031759に記載の方法を、必要に応じて適宜改変して使用することができる。
【0072】
被験試料の質量分析用プレート(支持体)への移行は、被験試料となる被検者由来の生体試料を未処理のままで、あるいは抗体カラムその他の方法で高分子タンパク質を除去、濃縮した後に、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動もしくは等電点電気泳動に付し、泳動後ゲルをプレートと接触させて転写(ブロッティング)することにより行われる。転写の方法自体は公知であり、好ましくは電気転写が用いられる。電気転写時に使用する緩衝液としては、pH 7~9、低塩濃度の公知の緩衝液を用いることが好ましい(例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液など)。
【0073】
上記の方法により支持体表面上に捕捉された被験試料中の分子を質量分析することにより、分子量に関する情報から、標的分子である本発明のペプチドの存在及び量を同定することができる。質量分析装置からの情報を、任意のプログラムを用いて、非罹患者、処置後の患者(フォローアップ)、もしくは健常人由来の生体試料における質量分析データと比較して、示差的な(differential)情報として出力させることも可能である。そのようなプログラムは周知であり、また、当業者は、公知の情報処理技術を用いて、容易にそのようなプログラムを構築もしくは改変することができることが理解されよう。
【0074】
高精度な質量分析結果を得るためには、高速液体クロマトグラフィに接続した三連四重極型等の質量分析装置を用いて分析する。標的分子の安定同位体標識ペプチドを合成して、それを既知量の内部標準品として被験試料に混合し、逆相固相担体等でペプチド画分の粗精製を実施する。高速液体クロマトグラフィに導入後、分離された各ペプチドは質量分析装置内でイオン化され、その後コリジョンセル内で断片化、得られたペプチドフラグメントをmultiple reaction monitoring法により定量する。この際、安定同位体標識ペプチドを内部標準として用いることでCV値が5%以下の実測データを取得できる。安定同位体標識ペプチドは、Cambridge Isotope Laboratory(MA, USA)より購入した安定同位体標識アミノ酸(アミノ酸a(13C6,15N2)は、安定同位体炭素(原子量13)6個と、安定同位体窒素(原子量15)2個で置換された質量数が元のアミノ酸より8原子量増加したアミノ酸aを例示)を元のアミノ酸の配列位置に置換して既存の合成法(たとえばF-mocによる固相反応)により得られる。質量分析は株式会社プロトセラ社のBLOTCHIP(登録商標)システムでも実施可能であり、これらの方法は抗体を使用しない検出装置として臨床使用できる。
【0075】
上記の質量分析による検出において、タンデム質量分析(MS/MS)法を用いてペプチドを同定することができ、かかる同定法としては、MS/MSスペクトルを解析してアミノ酸配列を決定するde novo sequencing法と、MS/MSスペクトル中に含まれる部分的な配列情報(質量タグ)を用いてデータベース検索を行い、ペプチドを同定する方法等が挙げられる。また、MS/MS法を用いることにより、本発明のペプチドのアミノ酸配列を直接同定し、該配列情報に基づいて該ペプチドの全部もしくは一部を合成し、これを以下の抗体に対する抗原として利用することもできる。
【0076】
本発明のペプチドの測定は、それに対する抗体を用いて行うこともできる。よって、本発明は、ペプチド又はその親タンパク質を特異的に認識する抗体を用いた神経変性疾患の検出又は判定方法、かかる抗体を含む神経変性疾患の検出又は判定剤、ならびにかかる抗体を含む神経変性疾患の検出又は判定キットを含む。かかる方法は、最適化されたイムノアッセイ系を構築してこれをキット化すれば、上記質量分析装置のような特殊な装置を使用することなく、高感度かつ高精度に該ペプチドを検出することができる点で、特に有用である。
【0077】
本発明のペプチド又はその親タンパク質に対する抗体は、例えば、本発明のペプチドを、これを発現する患者由来の生体試料から単離・精製し、該ペプチドを抗原として動物を免疫することにより調製することができる。あるいは、得られるペプチドの量が少量である場合は、RT-PCRによる該ペプチドをコードするcDNA断片の増幅等の周知の遺伝子工学的手法によりペプチドを大量に調製することができ、あるいはかかるcDNAを鋳型として、無細胞転写・翻訳系を用いて本発明のペプチドを取得することもできる。さらに有機合成法により大量に調製することも可能である。
【0078】
本発明のペプチド又はその親タンパク質に対する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する場合がある)は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該抗体は完全抗体分子だけでなくそのフラグメントをも包含し、例えば、Fab、F(ab')2、ScFv、及びminibody等が挙げられる。
【0079】
例えば、ポリクローナル抗体は、本発明のペプチドを抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全又は不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2~3週間おきに2~4回程度投与し、最終免疫後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、モルモット、ハムスターなど、目的の抗体を得ることができる哺乳動物が挙げられる。
【0080】
抗体を用いる本発明の検出又は判定方法は、特に制限されるべきものではなく、被験試料中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体-抗原複合体の量を化学的又は物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法及びサンドイッチ法等が好適に用いられる。測定に際し、抗体又は抗原は、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、又は発光物質等の標識剤と結合され得る。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。これら個々の免疫学的測定法は、当業者の通常の技能により、本発明の定量方法に適用可能である。
【0081】
本発明のペプチドはタンパク質分解産物からなるため、未分解のタンパク質や、切断部位が共通の類似ペプチド等様々な分子が測定値に影響を与える可能性がある。そこで、第1工程において、生体試料を抗体により免疫アフィニティ精製し、抗体に結合したフラクションを、第2工程において質量分析に付し、精緻な分子量を基準に同定、定量する、いわゆる免疫質量分析法を利用することができる(例えば、Rapid Commun. Mass Spectrom. 2007, 21: 352-358を参照)。免疫質量分析法によれば、未分解のタンパク質も類似ペプチドも、質量分析計で完全に分離され、バイオマーカーの正確な分子量を基準に高い特異度と感度で定量が可能となる。
【0082】
あるいは、本発明の抗体を用いる別の本発明の検出又は判定方法として、該抗体を上記したような質量分析計に適合し得るチップの表面上に固定化し、該チップ上の該抗体に被検試料を接触させ、該抗体に捕捉された生体試料成分を質量分析にかけ、該抗体が認識するマーカーペプチドの分子量に相当するピークを検出する方法が挙げられる。
【0083】
上記のいずれかの方法により測定された被検者由来試料中の本発明のペプチドのレベルが、非神経変性疾患患者、処置後の患者、もしくは健常人由来の対照試料中の該ペプチドレベルに比べて有意に変動している場合、該被検者は神経変性疾患に罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0084】
本発明のペプチドは、それぞれ単独でも神経変性疾患の検出マーカーとして利用することができるが、2種以上を組み合わせることにより、感度(有病正診率)及び特異度(無病正診率)をより高めることができる。
【0085】
2種以上のペプチドをマーカーとして用いる場合の検出手法としては、例えば、(1) 測定対象であるすべてのペプチドについてレベルが有意に変動する場合に神経変性疾患に罹患していると判定し、いずれかのペプチドについてレベルが有意に変動しない場合に神経変性疾患に罹患していないと判定する方法、(2) 測定対象であるすべてのペプチドについてレベルが有意に変動しない場合に神経変性疾患に罹患していないと判定し、いずれかのペプチドについてレベルが有意に変動した場合に神経変性疾患に罹患していると判定する方法、(3) 測定対象であるn個のペプチドのうち、例えば、2~(n-1)個以上のペプチドについて、レベルが有意に変動する場合に神経変性疾患に罹患していると判定する方法、さらに各ペプチド間で重みを持たせる方法、ならびに(4) バギング法、ブースティング法、ランダムフォレスト法などの機械学習法、などが考えられるが、特には複数のマーカーペプチドを1つのマーカーセットとして取り扱うことが出来る解析手法である多変量ロジスティック回帰分析を用いることが好ましい。この場合、マーカーとして用いるペプチドの数は特に限定されないが、好ましくは2種以上、より好ましくは3種、又は4種以上である。
【0086】
一つの実施形態において、上記の解析に用いられるペプチドは、本発明のペプチドのうちの少なくとも1種であり、好ましくは2種以上である。
【0087】
好ましい実施形態において、上記の解析に用いられるペプチドは、配列番号1~12で表されるアミノ酸配列からなる12種のペプチドのうちの少なくとも1種であり、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上である。
【0088】
本願では、質量分析により特定された候補ペプチドの多変量ロジスティック回帰モデルを最尤法により構築したところ、ROCの曲線下面積(AUC)が高い(0.9を超える)極めて信頼性の高い神経変性疾患の検出又は判定が可能であることを見出した。
【0089】
検出又は測定されるペプチドの数は、本発明の検査方法におけるAUCが或る閾値を超える値となる数であることが好ましい。通常、閾値は0.9である。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度の関数であるロジスティック回帰モデルによれば、特異度に対して感度をプロットしたROCの曲線下面積(AUC)が0.9を超え、極めて高い精度で神経変性疾患を検出することができる。
【0090】
配列番号1~12で表わされるアミノ酸配列を有する複数のペプチドの血中濃度の関数であるロジスティック回帰モデルによれば、AUCがより1に近づき、高い精度で神経変性疾患を検出することができる。
【0091】
なお、本発明のペプチドが単独ではAUCが0.9以下の場合もあるが、そのようなペプチドであっても、本発明の複数のペプチドを組み合わせる等して、AUCが0.9を超える神経変性疾患の検出又は判定に使用できる限り、神経変性疾患の検出又は判定のためのバイオマーカーとして有効である。
【0092】
本発明の検出方法は、患者から時系列で生体試料を採取し、各試料における本発明のペプチドの発現の経時変化を調べることにより行うこともできる。生体試料の採取間隔は特に限定されないが、患者のQOLを損なわない範囲でできるだけ頻繁にサンプリングすることが望ましく、例えば、血漿もしくは血清を試料として用いる場合、約1日~約1年の間で採血を行うことが好ましい。
【0093】
本発明のペプチドは、神経変性疾患と相関している。具体的には、配列番号1~4,8,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血清濃度(又は量)は、健常者よりも神経変性疾患患者で高く、配列番号5~7,9~11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血清濃度(又は量)は、健常者よりも神経変性疾患患者で低い。そして、神経変性疾患が改善するに従って血清・血漿レベルが変動する傾向にある。具体的には、神経変性疾患が改善すると、神経変性疾患患者の血清中の配列番号1~4,8,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は低下し、配列番号5~7,9~11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は増大する。従って、これらのマーカーのレベルが経時的に低下又は上昇した場合には、該患者における神経変性疾患が改善している可能性が高いと判定することができる。
【0094】
特に、アルツハイマー病(AD)患者では、配列番号1~4,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号5,7,9~11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。軽度認知障害(MCI)患者では、配列番号1及び8で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。パーキンソン病(PD)患者では、配列番号1,3,4,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号5~7,9,11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者では、配列番号1,3,4,8,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも高く、配列番号5~7,9,11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの濃度(又は量)は、健常者よりも低い。よって、疾患毎に、適切なマーカーを単独で又は2つ以上組み合わせて用いることで、当該疾患の改善を高い精度で検出することができる。
【0095】
さらに、上記時系列的なサンプリングによる神経変性疾患の検出方法は、前回サンプリングと当回サンプリングとの間に、被検者である患者に対して該疾患の治療措置が講じられた場合に、当該措置による治療効果を評価するのに用いることができる。即ち、治療の前後にサンプリングした試料について、治療後の状態が治療前の状態と比較してペプチドの低下又は上昇(病態の改善)が認められると判定された場合に、当該治療の効果があったと評価することができる。一方、治療後の状態が治療前の状態と比較してペプチドの低下又は上昇(病態の改善)が認められない、あるいはさらに悪化していると判定された場合には、当該治療の効果がなかったと評価することができる。
【0096】
さらに、上記時系列的なサンプリングによる神経変性疾患の検出のための検査方法は、健康食品等の摂取、禁煙、運動療法、有害環境からの隔離等、神経変性疾患の罹患リスク低減措置後の予防効果を評価するのに用いることができる。即ち、罹患リスクの低減措置の施行の前後にサンプリングした試料について、施行後の状態が施行前の状態と比較してペプチドの低下又は上昇(病態の発症もしくは進行)が認められないと判定された場合に、当該措置の施行の効果があったと評価することができる。一方、治療後の状態が治療前の状態と比較してペプチドの上昇又は低下(病態の改善)が認められない、あるいはさらに病態が悪化していると判定された場合には、当該措置の施行の効果がなかったと評価することができる。
【0097】
従って、本発明のペプチドならびに方法は、神経変性疾患を診断又は検出するマーカーのみならず、神経変性疾患の予後を予測するマーカー、ならびに治療効果判定のマーカーともなり得る。すなわち、本発明のペプチドならびに方法は、神経変性疾患の治療の創薬標的分子のスクリーニングに、及び/又は患者(リスポンダー)の選別もしくは治療薬の投与量(用量)の調節のためのコンパニオン診断薬として使用することができる。
【0098】
特筆すべきは、後述の実施例にて示すように、本発明によれば、現在の認知機能テストでは不可能であった、治療薬投与後の極めて早い時期での治療薬の選択とリスポンダーの選択が可能となる。
【0099】
また、本発明のペプチドならびに方法は、物質のスクリーニング方法に使用できる。この場合の物質には、神経変性疾患を未病段階で防止する健康食品やトクホ製品などの食品類、神経変性疾患を診断又は検出するマーカー類、及び罹患後の神経変性疾患を治療する治療薬等の医薬品類が含まれる。
【0100】
本発明は、本発明の上記(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせの1種、2種、3種、又は4種以上のペプチド又はその親タンパク質の各々に対する抗体を含む神経変性疾患の検出キットを包含する。
【0101】
好ましい実施形態において、本発明は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のペプチド又はその親タンパク質の各々に対する抗体を含む神経変性疾患の検出キットを包含する。
【0102】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-1)のペプチド又はその親タンパク質、(b-1)のペプチド又はその親タンパク質、(c-1)のペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種のペプチド又はその親タンパク質の各々に対する抗体を含むアルツハイマー型認知症(AD)及び軽度認知障害(MCI)のうちの少なくとも一方の検出キットを包含する。
【0103】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-1)のペプチド、(b-1)のペプチド、(c-1)のペプチド、又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種のペプチドの各々に対する抗体を含む神経変性疾患の検出キットを包含する。
【0104】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-2)ペプチド又はその親タンパク質、(b-2)ペプチド又はその親タンパク質、(c-2)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を含むアルツハイマー型認知症(AD)及び軽度認知障害(MCI)のうちの少なくとも一方の検出キットを包含する。
【0105】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-2)のペプチド、(b-2)のペプチド、(c-2)のペプチド又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種のペプチドに対する抗体を含むアルツハイマー型認知症(AD)及び軽度認知障害(MCI)のうちの少なくとも一方の検出キットを包含する。
【0106】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-3)ペプチド又はその親タンパク質、(b-3)ペプチド又はその親タンパク質、(c-3)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を含むアルツハイマー病(AD)の検出キットを包含する。
【0107】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-3)のペプチド、(b-3)のペプチド、(c-3)のペプチド又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種のペプチドに対する抗体を含むアルツハイマー病(AD)の検出キットを包含する。
【0108】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-4)ペプチド又はその親タンパク質、(b-4)ペプチド又はその親タンパク質、(c-4)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、又は3種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を含むアルツハイマー病(AD)の検出キットを包含する。
【0109】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-4)のペプチド、(b-4)のペプチド、(c-4)のペプチド又はそれらの組み合わせである1種、2種、又は3種のペプチドに対する抗体を含む軽度認知障害(MCI)での検出キットを包含する。
【0110】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-5)ペプチド又はその親タンパク質、(b-5)ペプチド又はその親タンパク質、(c-5)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を含むアルツハイマー病(AD)の検出キットを包含する。
【0111】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-5)のペプチド、(b-5)のペプチド、(c-5)のペプチド又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種以上のペプチドに対する抗体を含むパーキンソン病(PD)の検出キットを包含する。
【0112】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-6)ペプチド又はその親タンパク質、(b-6)ペプチド又はその親タンパク質、(c-6)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種以上ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を含むアルツハイマー病(AD)の検出キットを包含する。
【0113】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-6)のペプチド、(b-6)のペプチド、(c-6)のペプチド又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種以上のペプチドに対する抗体を含む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の検出キットを包含する。
【0114】
本発明は、上記(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせ((a)、(b)、(c)がそれぞれ(a-1)~(a-6)、(b-1)~(b-6)、(c-1)~(c-6)である場合を含む)の1種、2種、3種、又は4種以上のペプチドに対する抗体を検出試薬として含む神経変性疾患の検出剤を包含する。
【0115】
好ましい実施形態において、本発明は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のペプチドに対する抗体を検出試薬として含む神経変性疾患の検出剤を包含する。
【0116】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-1)ペプチド又はその親タンパク質、(b-1)ペプチド又はその親タンパク質、(c-1)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を検出試薬として含むアルツハイマー型認知症(AD)及び軽度認知障害(MCI)のうちの少なくとも一方の検出剤を包含する。
【0117】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記の(a-1)、(b-1)、(c-1)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドである1種、2種、3種、又は4種のペプチドに対する抗体を検出試薬として含む神経変性疾患の検出剤を包含する。
【0118】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-2)ペプチド又はその親タンパク質、(b-2)ペプチド又はその親タンパク質、(c-2)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を検出試薬として含むアルツハイマー型認知症(AD)及び軽度認知障害(MCI)のうちの少なくとも一方の検出剤を包含する。
【0119】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記の(a-2)、(b-2)、(c-2)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドに対する抗体を検出試薬として含むアルツハイマー病(AD)の検出剤を包含する。
【0120】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-3)ペプチド又はその親タンパク質、(b-3)ペプチド又はその親タンパク質、(c-3)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を検出試薬として含むアルツハイマー病(AD)の検出剤を包含する。
【0121】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記の(a-3)、(b-3)、(c-3)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドに対する抗体を検出試薬として含むアルツハイマー病(AD)の検出剤を包含する。
【0122】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-4)ペプチド又はその親タンパク質、(b-4)ペプチド又はその親タンパク質、(c-4)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、又は3種ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を検出試薬として含む軽度認知障害(MCI)の検出剤を包含する。
【0123】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記の(a-4)、(b-4)、(c-4)又はそれらの組み合わせである1種、2種、又は3種のペプチドに対する抗体を検出試薬として含む軽度認知障害(MCI)の検出剤を包含する。
【0124】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-5)ペプチド又はその親タンパク質、(b-5)ペプチド又はその親タンパク質、(c-5)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種以上ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を検出試薬として含むパーキンソン病(PD)の検出剤を包含する。
【0125】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記の(a-5)、(b-5)、(c-5)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドに対する抗体を検出試薬として含むパーキンソン病(PD)の検出剤を包含する。
【0126】
一つの好ましい実施形態において、本発明は、上記(a-6)ペプチド又はその親タンパク質、(b-6)ペプチド又はその親タンパク質、(c-6)ペプチド又はその親タンパク質、若しくはそれらの組み合わせである1種、2種、3種、又は4種以上ペプチド又はその親タンパク質に対する抗体を検出試薬として含む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の検出剤を包含する。
【0127】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記の(a-6)、(b-6)、(c-6)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドに対する抗体を検出試薬として含む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の検出剤を包含する。
【0128】
本発明は、被験者における神経変性疾患の罹患可能性を判定するための、コンピュータにより実行される方法であって、被験者の生物試料中の、本発明の上記(a)、(b)、(c)又はそれらの組み合わせ((a)、(b)、(c)がそれぞれ(a-1)~(a-6)、(b-1)~(b-6)、(c-1)~(c-6)である場合を含む)の1種、2種、3種、又は4種以上のペプチドについての定量的データを取得する工程と、前記取得したデータを、前記1種、2種、3種、又は4種以上のペプチドの関数である多変量ロジスティック回帰モデルに適用し、被験者における神経変性疾患の罹患可能性の予測値を求める工程とを含む方法を包含する。ここで、ペプチドの定量的データとは、例えば質量分析やペプチドに対する抗体を用いて測定されたペプチドの発現量、血中濃度等の定量的な測定値を指す。
【0129】
好ましい実施形態において、本発明は、被験者における神経変性疾患の罹患可能性を判定するための、コンピュータにより実行される方法であって、被験者の生物試料中の、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種、2種、3種、又は4種以上についての定量的データを取得する工程と、前記取得したデータを、前記1種、2種、3種、又は4種以上のペプチドの関数である多変量ロジスティック回帰モデルに適用し、被験者における神経変性疾患の罹患可能性の予測値を求める工程とを含む方法を包含する。
【0130】
より好ましい実施形態において、本発明は、被験者における神経変性疾患の罹患可能性を判定するための、コンピュータにより実行される方法であって、被験者の生物試料中の、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択される1種、2種、3種、又は4種のペプチドについての定量的データを取得する工程と、前記取得したデータを、前記1種、2種、3種、又は4種のペプチドの関数である多変量ロジスティック回帰モデルに適用し、被験者における神経変性疾患の罹患可能性の予測値(予測罹患確率)を求める工程とを含む方法を包含する。
【0131】
好ましい実施形態において、定量的データを取得するペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの4つのペプチドである。
【0132】
別の好ましい実施形態において、定量的データを取得するペプチドは、上記の(a-1)、(b-1)、(c-1)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドであり、神経変性疾患はアルツハイマー病(AD)及び軽度認知障害(MCI)のうちの少なくとも一方である。
【0133】
別の好ましい実施形態において、定量的データを取得するペプチドは、上記の(a-2)、(b-2)、(c-2)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドであり、神経変性疾患はアルツハイマー病(AD)及び軽度認知障害(MCI)のうちの少なくとも一方である。
【0134】
別の好ましい実施形態において、定量的データを取得するペプチドは、上記の(a-3)、(b-3)、(c-3)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種のペプチドであり、神経変性疾患はアルツハイマー病(AD)である。
【0135】
別の好ましい実施形態において、定量的データを取得するペプチドは、上記の(a-4)、(b-4)、(c-4)又はそれらの組み合わせである1種、2種、又は3種のペプチドであり、神経変性疾患は軽度認知障害(MCI)である。
【0136】
別の好ましい実施形態において、定量的データを取得するペプチドは、上記の(a-5)、(b-5)、(c-5)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドであり、神経変性疾患はパーキンソン病(PD)である。
【0137】
別の好ましい実施形態において、定量的データを取得するペプチドは、上記の(a-6)、(b-6)、(c-6)又はそれらの組み合わせである1種、2種、3種又は4種以上のペプチドであり、神経変性疾患は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。
【0138】
上記コンピュータにより実行される方法は、予測値を求めた後で、該予測値に基づいて被験者における神経変性疾患の罹患可能性を判定する工程をさらに含んでもよい。例えば求めた予測値が或る閾値を超えた場合に、その被験者を神経変性疾患に罹患していると判定する。通常、閾値は0.5であり、好ましくは0.1以下である。
【0139】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0140】
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【実施例】
【0141】
実施例1
1.被験者及び血液採取
岡山大学にて、健常者69名、AD患者47名、MCI患者23名、PD患者53名、ALS患者35名ら、8mLの血液を採取した。採取した血液を、0.5~1.0hr静置した後、3,000rpmで10分間室温にて遠心分離し、血清を得た。上清を使用するまで-80℃で分けて保存した。
【0142】
ADの診断基準にはThe National Institute of Neurologic, Communicative Disorders and Stroke AD and Related Disorders Association (NINCDS-ADRDA) を採用し、MCIの診断基準にはNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA/AA)を採用し、PDの診断基準にはMovement Disorders Societyを採用し、ALS患者の診断基準にはEl Escorial基準を採用した。
【0143】
2.BLOTCHIP(登録商標)による質量分析
血清中の質量分析によるペプチド解析を、ペプチドームプロファイリングの迅速定量法である、ワンステップの直接転写技術のBLOTCHIP(登録商標)質量分析により行った(Biochem. Biophys. Res. Commun. 200.9;379(1):110-4)。
【0144】
まず、血清サンプルをドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に供し、ペプチドをタンパク質と分離した。次に、ゲル中のペプチドをBLOTCHIP(登録商標)(株式会社プロトセラ、大阪市所在)に電気転写した。転写終了後、チップの表面を超純水でリンスし、BLOTCHIP(登録商標)に直接マトリックス(α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸, Sigma-Aldrich Co., アメリカ合衆国ミズーリ州)を塗布後、UltraFlexII TOF/TOF mass spectrometer (Bruker Daltonics社製、アメリカ州マサチューセッツ州)の反射モードで、Proteomics 11:2727-2737.に記載された通りに質量分析を行い、ペプチドプロファイルを得た。
【0145】
3.統計解析
サンプルはBLOTCHIP(登録商標)質量分析により4回繰り返し解析した。より統計学的に有意なピークを見出すために、4つのデータを独立データとして使用し、解析ソフトClinProTools 3.0 (Bruker Daltonics社製)を使用してウィルコクソン検定のp値を計算し、p値が0.05以下の場合に有意差ありとみなした。
【0146】
統計解析ソフトR(R Core Team (2013). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. URL https://www.r-project.org/)によりウィルコクソン検定のp値を計算するために、一つのサンプル当たりの4つのデータの平均値を用いてペプチドの診断性能を評価し、診断性能の高い有用なバイオマーカーペプチドを発見した。モデルの構築には統計解析ソフトR(R CORE TEAM (2013)を使用した。
【0147】
構築したモデルの診断能の評価のためにROC分析を実施した。Rのパッケージである”Epi パッケージ“(A package for statistical analysis in epidemiology、Version 1.149、http://cran.r-project.org/web/packages/Epi/index.html)を用いた。AUCはROC曲線から計算した。診断のための最適カットオフ値は、Cancer 1950;3:32-5のYouden’s indexに従って決定した。
【0148】
4.ペプチドの同定
各標的ペプチドを含む血清を、その同定のために採取した。ペプチドは、Sep-Pak C18固相抽出カートリッジ(Waters Corporation、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ミルフォード)を用いて、0.1%トリフルオロ酢酸を含む水に80%v/v アセトニトリル(ACN)で抽出した。溶出液をCC-105 遠心濃縮器(株式会社トミー精工, 東京)を用いて100μL以下に濃縮した。次に溶液を0.065% TFAを含む2%v/v ACN水溶液400μL(溶離液Aと称する)に希釈し、C18シリカカラム(XBridge Shield RP18 2.5mL (Waters社))を装備したAKTA精製装置(GE Healthcare UK Ltd, 英国バッキンガムシャー州)にかけた。溶出液を、溶離液Aに対し0.05% TFAを含む80%v/v ACNの水溶液で1.0mL/分の流速で0-100%の線形勾配により24個の画分(各1mL)に分けた。各画分をCC-105遠心濃縮器で10μL以下に濃縮し、ペプチドの配列をMALDI-TOF/TOF(ultrafleXtreme TOF/TOF)及びLC-MS/MS(Q-Exactive;Thermo Fisher Scientific Inc, アメリカ合衆国マサチューセッツ州ワルサム)を用いて分析した。
【0149】
(結果)
1.アルツハイマー型認知症のバイオマーカーペプチドの同定
アルツハイマー型認知症(AD)の69検体と健常者の47検体の血清のペプチド解析をBLOTCHIP(登録商標)質量分析により行った。各ペプチドームプロファイルより得られた質量スペクトルのデータをデータベースに保存した。すべてのMS測定が完了した後、解析ソフトClinProTools3.0を用いて、前記2群の差分解析を行った。その結果、統計解析により得られたすべてのピークの形状を目視により精査し、MALDI-MS測定にランダムに現れるノイズ、弱いピーク、及び微かなピークを除外した。これにより、37個のシャープなピークが得られた。
【0150】
逆相クロマトグラフィで部分的に精製した血清ペプチドによりMALDI-TOF/TOF及びLC-MS/MSペプチド配列決定分析を行った。37個のピークのうち11個のペプチドを最終的に同定した(表2)。
【0151】
【0152】
2.アミノ酸配列解析
上記の番号1~12のペプチドのアミノ酸配列を当業者に周知のペプチド配列決定法により決定した(表3)。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの3番目のプロリンの酸素による酸化、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの18番目(α-2-HS-糖タンパク質のN末端から358番目)のシステインのシステイニル化、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの18番目(α-2-HS-糖タンパク質のN末端から358番目)のシステインのシステイン酸への酸化、及び配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの1番目(血液凝固第XIII因子 A鎖のN末端から2番目)のセリンのアセチル化の修飾が確認された。
【0153】
【0154】
3.多変量ロジスティック回帰分析
全12種類のバイオマーカーペプチドの中からペプチド1、6、10、及び11の4種のペプチドの組合せについて、4種のペプチドのレベルを被験者の血清でBLOTCHIP(登録商標,株式会社プロトセラ)を用いた質量分析により測定した。この測定値を用いて予測確率の多変量ロジスティック回帰式を得、予測確率の中央値(メジアン)を求め、アルツハイマー型認知症群と健常者群の2群間で統計的に有意差があるか検討を行った(表4)。
【0155】
【0156】
表4に示すように、BLOTCHIP(登録商標)質量分析により測定した4種類のバイオマーカーペプチド(ペプチド1、6、10、11)の血中濃度を回帰式に代入して得られる値は、アルツハイマー型認知症群(AD)では健常者群(対照)に比べて2397%に有意に上昇していた。また、AUCは0.96であり、アルツハイマー型認知症を迅速かつ非常に高い診断性能でもっぱら診断でき、本発明のペプチドがバイオマーカーとして有用であることが示された。
【0157】
図1は上記の4種のバイオマーカー(ペプチド1、6、10、11)を用いた回帰式で評価したアルツハイマー型認知症スクの散布図であり、これらのマーカーがアルツハイマー型認知症の検出、判定、及び/又は診断に有用であることが理解される。
【0158】
4.各種神経変性疾患における本発明のペプチドの診断性能
健常者69名、AD患者47名、MCI患者23名、PD患者53名、ALS患者35名から採取した血清中の本発明のペプチドの発現を調べ、神経変性疾患患者における健常者に対するAUCを算出した。
【0159】
表5に示すように、アルツハイマー病(AD)患者では、配列番号1~4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも高く、配列番号5,7,9~11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも低かった。軽度認知障害(MCI)患者では、配列番号1及び8で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも高く、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも低かった。パーキンソン病(PD)患者では、配列番号1,3,4,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも高く、配列番号5~7,9,11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも低かった。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者では、配列番号1,3,4,8,12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも高く、配列番号5~7,9,11で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも低かった。本発明のペプチドの発現は各種神経変性疾患と高い相関があることが示された。
【0160】
【0161】
5.まとめ
以上の結果から、これらのペプチドマーカーの血中濃度から多変量ロジスティック回帰モデルで得られた予測値が、神経変性疾患の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者(リスポンダー)の判定及び個々の神経変性疾患患者に奏効する治療薬の判定(コンパニオン診断法)、予防効果の判定、治療効果の判定、早期診断のための検査方法、早期治療のための検査方法、及び物質のスクリーニング方法に有用であることが示唆された。
【0162】
実施例2
1.被験者及び血液採取
岡山大学にて、年齢及び性別を合わせた対照の健常対照100名(80.0±3.9歳)、MCI患者60名(81.9±3.9歳)、及びAD患者99名(80.9±3.7歳)の合計259名の参加者から血液を採取し、実施例1と同様に血清を得て使用するまで冷凍保存した。健常対照者、MCI患者、AD患者のミニメンタルステート検査(MMSE)のスコアはそれぞれ28.6±1.5、26.0±2.5(健常対照者に対してp<0.01)、及び18.4±4.9(健常対照者に対してp<0.01、MCIに対してp<0.01)であった。
【0163】
2.BLOTCHIP(登録商標)による質量分析
実施例1に示したように、質量分析により血清中のペプチドを解析した。
【0164】
3.統計解析
実施例1に示したように、質量分析により得られたデータをを独立データとして使用し、解析ソフトClinProTools 3.0 (Bruker Daltonics社製)を使用してp値を計算し、p値が0.05以下の場合に有意差ありとみなした。検定はMann-Whitney’s U-testとした。診断モデルの構築には統計解析ソフトR(R Core Team (2013)を使用し、構築したモデルの診断能の評価のためにROC分析を実施したAUCはROC曲線から計算した。診断のための最適カットオフ値は、Cancer 1950;3:32-5のYouden’s indexに従bって決定した。
【0165】
4.アミロイド陽電子放射断層撮影(PET)を用いた脳機能の評価
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβ(Aβ)等の生化学的マーカーの測定により裏付けられる臨床基準に基づいて判断され、Pittsburgh化合物B(PiB)を用いたAβ沈着の陽電子放射断層撮影(PET)も有用である(Cohen AD et al., Neurobiol Dis. 2014; 72: 117-122)。そこで、11名の被験者の血清の認知症確率(SPD)データを測定し、11名の被験者のMMSEスコア、PETデータ、及びSPDデータの相関について検討した。11名の被験者の内訳は、健常者1名、MCI患者3名、AD患者7名である。
【0166】
5.抗体を用いた染色
大脳皮質と海馬におけるヒトの脳切片を免疫組織染色した。フィブリノーゲンβ鎖(FBC)、α2-HS-糖タンパク質、(AHSG)、フィブリノーゲンα鎖(FAC)、及び血漿プロテアーゼC1阻害剤 (PPC1I)に対する抗体は、市販品を用いた。
【0167】
(結果)
1.バイオマーカーペプチドの同定
実施例1で同定した配列番号1~12のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの4つのペプチドが、アルツハイマー型認知症群と健常者群の2群間で統計的に有意差があるか検討を行った(表6)。
【0168】
ペプチド1~4の配列を表7に示す。ペプチド3(配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド)の3番目のプロリンの酸素による酸化、ペプチド2(配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド)の18番目(α-2-HS-糖タンパク質のN末端から358番目)のシステインのシステイニル化の修飾が確認された。
【0169】
表6に示すように、アルツハイマー病(AD)患者では、配列番号1、2、及び12で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも高く、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの血中濃度は健常者よりも低かった。
【0170】
【0171】
【0172】
2.多変量ロジスティック回帰分析
上記ペプチド1~4の4種のペプチド(配列番号1、2、5及び12で表されるアミノ酸配列からなる4種のペプチド) の組合せについて、4種のペプチドのレベルを被験者の血清でBLOTCHIP(登録商標,株式会社プロトセラ)を用いた質量分析により測定した。この測定値を用いて予測確率の多変量ロジスティック回帰式を得、予測確率の中央値(メジアン)を求め、健常対照とMCI患者、MCI患者とAD患者、健常対照とAD患者の間で有意差があることが示された(表8)。
【0173】
【0174】
表8に示すように、BLOTCHIP(登録商標)質量分析により測定した4種類のバイオマーカーペプチド(配列番号1、2、5及び12で表されるアミノ酸配列からなるペプチド1~4)の血中濃度を回帰式に代入して得られる値は、軽度認知障害(MCI)では健常者群(対照)に比べて139%に有意に上昇し、アルツハイマー型認知症群(AD)では軽度認知障害(MCI)に比べて137%に有意に上昇し、アルツハイマー型認知症群(AD) 健常者群(対照)に比べて190%に有意に上昇していた。また、AUCはそれぞれ0.662, 0.672, 0.804であり、アルツハイマー型認知症及び軽度認知障害を迅速かつ非常に高い診断性能でもっぱら診断でき、本発明のペプチドがバイオマーカーとして有用であることが示された。
【0175】
図2は上記の4種のバイオマーカー(配列番号1、2、5及び12で表されるアミノ酸配列からなるペプチド1~4)を用いた回帰式で評価したアルツハイマー型認知症及び軽度認知障害のリスクの散布図であり、これらのマーカーがアルツハイマー型認知症及び軽度認知障害の検出、判定、及び/又は診断に有用であることが理解される。
【0176】
3.アミロイド陽電子放射断層撮影(PET)を用いた脳機能の評価
図3(a)はAβ- PiB陰性の例であり、
図3(b)はAβ- PiB陽性の例を示す。
図3(c)は縦軸が相対PET値、横軸がMMSEスコアであり、11名の被験者のデータをプロットしている。
図3(d)は縦軸がSPD値、横軸がMMSEスコアであり、11名の被験者のデータをプロットしている。11名すべての被験者において、MMSEスコアとPET値には強い相関が示された(r=-0.75, p=0.0070)(
図3(c)の斜めの点線)、7名のAD患者(黒丸)でMMSEとSPDに相関があり(r=-0.67, p=0.00908)(
図3(d)の斜めの実線)、11名すべての被験者において、MMSEスコアとSPDの相関はr=-0.03であった(
図3(d)の点線)。
【0177】
4.抗体を用いた染色
大脳皮質と海馬における免疫組織染色を
図4Aに示す。
図4Bは、健常対照とAD患者における、大脳皮質と海馬における、0.12mm
2の面積内のペプチド1(FBC)、ペプチド2(AHSG)、ペプチド3(FAC)、及びペプチド4(PPC1I)陽性細胞の数をそれぞれグラフで示したものである。対照と比較して、AD患者の脳ではペプチド1(FBC)、ペプチド3(FAC)、及びペプチド4(PPC1I)が強く発現し、ペプチド2(AHSG)の発現は弱かった(
図4A,B)。定量分析によると、健常対照の脳よりもADの脳にペプチド1、3、及び4の陽性細胞数の有意な増大が見られ、ペプチド2の陽性細胞数の有意な減少が見られた(
図4B)。
【0178】
5.まとめ
以上の結果から、上記4つのペプチドマーカーの血中濃度から多変量ロジスティック回帰モデルで得られた予測値が、神経変性疾患、特にはアルツハイマー型認知症及び軽度認知障害の各々の判定、治療薬が奏効する神経変性疾患患者(リスポンダー)の判定、個々の神経変性疾患患者に奏効する治療薬の判定(コンパニオン診断法)、予防効果の判定、治療効果の判定、早期診断のための検査方法、早期治療のための検査方法、及び物質のスクリーニング方法に有用であることが示唆された。
【配列表】