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  • 特許-電気施設の防雷方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】電気施設の防雷方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/66 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
H01R4/66 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019208104
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021082451
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000123354
【氏名又は名称】音羽電機工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】早川 信一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 ▲吉▼弘
【審査官】鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-176591(JP,A)
【文献】特開2002-271965(JP,A)
【文献】特開昭53-101653(JP,A)
【文献】特開2002-152961(JP,A)
【文献】特開2002-151179(JP,A)
【文献】特開昭51-059367(JP,A)
【文献】特開2001-313101(JP,A)
【文献】中国実用新案第208522102(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/58- 4/72
H01R 43/00-43/02
H02G 13/00
H05F 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気施設の防雷方法であって、
前記電気施設は、その周囲に、前記電気施設の接地極と独立した雷保護用接地極が設けられており、
前記電気施設の接地極と前記雷保護用接地極との間において、前記雷保護用接地極から離間した位置に、地表から地中下方に向けて、絶縁材を敷設するものであり、
前記絶縁材は、シート状の絶縁材である、または、シートに絶縁材を吹き付けたものであり、
前記絶縁材は、地表から所定の深さまで敷設されており、
前記所定の深さは、50cm~2mの範囲である
ことを特徴とする電気施設の防雷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気施設を雷から保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、無線中継所や高度情報化ビル、ハイテク工場などの他、発変電所、送配電線や情報通信系に至る様々な電気施設において、半導体システム等の電気設備を雷サージから確実に保護する防雷対策が必要である。ここでいう防雷対策とは、雷サージに弱い半導体システム等の電気設備に対して雷撃による影響をできる限り与えないようにするエネルギー処理対策のことである。
【0003】
特許文献1では、入力電源線に耐雷変圧器を介挿した電気設備を収容した構築物において、構築物の周囲に環状接地線を設け、雷撃点と環状接地線とを接続する絶縁電線を構築物の外壁に沿って配設し、電気設備の接地を環状接地線内に設ける、電気施設の防雷方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3143882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1には、環状接地線の内周に絶縁壁板を全周又は部分的に埋設すれば、環状接地線の内方への電荷の侵入をより一層抑制することができる、との記載がある(段落[0014])。しかしながら、現実的には、地中に板を配置することは難しく、しかも、環状接地線の内側に沿った特定の位置に絶縁壁板を埋設することは、実際に施工する場合にはきわめて困難である。また、具体的な埋設方法については何ら示されておらず、例えば、電気設備の接地極との位置関係はどのようにすればよいのか、どの程度の深さまで埋設すればよいのか、等に関しては不明である。
【0006】
本発明は、前記のような問題に鑑み、施工が容易な、電気施設の防雷方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様では、電気施設の防雷方法において、前記電気施設は、その周囲に、前記電気施設の接地極と独立した雷保護用接地極が設けられており、前記電気施設の接地極と前記雷保護用接地極との間において、前記雷保護用接地極から離間した位置に、地表から地中下方に向けて、絶縁材を敷設する。前記絶縁材は、シート状の絶縁材である、または、シートに絶縁材を吹き付けたものである。そして、前記絶縁材は、地表から所定の深さまで敷設されており、前記所定の深さは、50cm~2mの範囲である。
【0008】
この態様によると、電気施設の接地極と、この電気施設の接地極と独立した雷保護用接地極との間に、地表から地中下方に向けて、絶縁材を敷設する。これにより、雷発生時において、電気施設に流れ込む、または流れ出す雷電流を、敷設した絶縁材によって抑制することができる。また、絶縁材は、雷保護用接地極の内側に沿った位置ではなく、雷保護用接地極から離間した位置に敷設すればよいので、絶縁材を敷設する位置の自由度が高まり、施工が容易になる。なお、ここでの「地表」とは、地面の表面、または、地面の表面から少し埋もれた部分を含む。加えて、絶縁材は、壁板ではなく、シート状の絶縁材、または、シートに絶縁材を吹き付けたものでよいので、施工がさらに容易になる。さらに、絶縁材は、地表から50cm~2mの深さまで敷設すればよいので、施工がさらに容易になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、雷発生時において、電気施設に流れ込む、または流れ出す雷電流を抑制するための絶縁材を、容易に敷設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る防雷方法を適用した電気施設の構成例
図2図1の構成例における模式的な縦断面図
図3】実施形態に係る防雷方法を適用した電気施設の他の構成例
図4】実施形態に係る防雷方法を適用した電気施設の他の構成例
図5】実施形態に係る防雷方法を適用した電気施設の他の構成例
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(実施形態)
図1は実施形態に係る防雷方法を適用した電気施設の構成例を示す図である。また、図2図1の構成例における模式的な縦断面図である。
【0013】
図1に示すように、鉄塔1の下に、各種の機器3が配置された局舎2が設置されている。局舎2は、雷からの保護対象となる電気施設の一例である。鉄塔1の塔脚4と局舎2の鉄骨5とは電気的に接続されている。局舎2周囲の地中には、接地極11が設けられている。この接地極11には、局舎2の鉄骨5が電気的に接続されており、また、局舎2内に配置された機器3の接地が接続されている。
【0014】
鉄塔1の上には、避雷針6が設けられている。図1の構成例では、避雷針6の引下げ導線として、鉄塔1および局舎2の外壁に沿うように配置された絶縁電線7が用いられている。局舎2周囲の、接地極11よりもさらに外側の地中には、雷保護用の環状接地線12が設けられている。図2では、環状接地線12の深さは、接地極11の深さよりも深い。環状接地線12は、雷保護用接地極の一例である。環状接地線12は、接地極11とは独立している。絶縁電線7は、環状接地線12と電気的に接続されている。
【0015】
落雷したとき、雷電流が下向きの場合は、雷雲からの電流は避雷針6から地面に向かって流れ、地中を広く流れていく。この電流は、接地極11と環状接地線12との間の土中の抵抗が大きいため、環状接地線12の方に流れやすい。一方、雷電流が上向きの場合は、電流は地面から避雷針6に向けて流れていくが、接地極11と環状接地線12との間の土中の抵抗が大きいため、接地極11には流れにくく、環状接地線12から避雷針6に向けて流れる。これにより、接地極11に流れる雷電流を抑制することができるので、局舎2内の機器3は雷サージから保護される。
【0016】
そして、本実施形態に係る防雷方法では、接地極11と環状接地線12との間において、環状接地線12から離間した位置に、地表から地中下方に向けて、絶縁材13を敷設する。この絶縁材13によって、接地極11と環状接地線12との間の電気抵抗がさらに上がるので、接地極11に流れる雷電流を、より一層抑制することができる。なお、絶縁材13の上端は、外観上等の観点から、土壌より少し埋もれた状態にあってもよいし、土壌と区別して見えている状態であってもよい。すなわち、ここでの「地表」とは、地面の表面、または、地面の表面から少し埋もれた部分を含む。
【0017】
絶縁材13は、例えば、シート状の絶縁材である。あるいは、絶縁材13は、シートに絶縁材を吹き付けたものである。例えば、地中断面に網などのシートを張りつけ、このシートに絶縁材を吹き付けることによって、絶縁材13を敷設する。また、絶縁材13は、地表から所定の深さまで敷設する。この所定の深さは、例えば50cm程度である。または、この所定の深さは1m程度である。絶縁材13を敷設する深さは、例えば、50cm~2mの範囲にあるのが好ましい。
【0018】
ここで、本願発明者らにより得られた知見について説明する。これらの知見は、本願発明者らが実施した数値シミュレーションと実験的検証により得られた、独自のものである。
【0019】
まず、絶縁材を敷設する位置に関しては、接地極と雷保護用接地極との間であれば、その配置位置によって効果に差は生じないことが分かった。具体的には、地表から数10cm程度の深さに絶縁材を設けた場合、絶縁材が接地極近くであっても、雷保護用接地極近くであっても、あるいは接地極と雷保護用接地極との中間位置あたりであっても、その効果に違いはなかった。すなわち、絶縁材は、雷保護用接地極の内側に沿って配置する必要はなく、接地極と雷保護用接地極との間であれば自由に配置すればよい、ということが分かった。
【0020】
また、絶縁材の厚さに関しては、絶縁強度が15kV/mm程度の材料を用いれば、厚さ1mm程度で、200kA程度の直撃雷電流が落雷した際に発生する過電圧に十分耐え得ることが分かった。この場合、絶縁材として適用できる材料は、例えば、塩化ビニル、ゴムなどである。すなわち、絶縁材として壁板を設ける必要はなく、例えば、シート状の絶縁材を用いることができることが分かった。
【0021】
また、絶縁材の深さ方向のサイズに関しては、地表から数10cm程度のサイズであれば、雷保護の効果は得られることが分かった。また、深さ方向のサイズを1mほどにすれば、より大きな雷保護効果が得られ、さらに深さ方向のサイズを大きくすると、雷保護効果は向上する。一方で、深くなればなるほど、雷撃の際に絶縁材に加わる電界強度が高まるため、その分、絶縁材を厚くする必要が生じる。雷保護効果や絶縁材の厚さ、加えて施工の容易さに鑑みると、絶縁材を敷設する深さは、例えば、50cm~2mの範囲にあるのが好ましい、ということが分かった。
【0022】
したがって、本実施形態によると、局舎2の接地極11と、接地極11と独立した環状接地線12との間に、地表から地中下方に向けて、絶縁材13を敷設する。これにより、雷発生時において、接地極11に流れる雷電流を、敷設した絶縁材13によって抑制することができる。また、絶縁材13は、環状接地線12の内側に沿った位置ではなく、環状接地線12から離間した位置に敷設すればよいので、絶縁材13を敷設する位置の自由度が高まり、施工が容易になる。
【0023】
また、絶縁材13は、壁板ではなく、シート状の絶縁材、または、シートに絶縁材を吹き付けたものでよいので、施工がさらに容易になる。さらに、絶縁材は、地表から、50cm~2mの深さまで敷設すればよいので、施工がさらに容易になる。
【0024】
なお、接地極11および環状接地線12は、局舎2の全周を囲むように図示しているが、これに限られるものではなく、例えば、局舎2の周囲の一部を囲むように設けられていてもよい。また、絶縁材13は、局舎2の全周を囲むように図示しているが、これに限られるものではなく、接地極11と環状接地線12との間において、環状接地線12から離間した位置に敷設されていればよい。
【0025】
(他の構成例)
図3-5は実施形態に係る防雷方法を適用した電気施設の他の構成例を示す図である。
【0026】
図3の構成例では、避雷針6の引下げ導線として、構造体を利用している。具体的には、避雷針6の引下げ導線として、鉄塔1の塔脚4と局舎2の鉄骨5とを利用している。すなわち、鉄塔1の塔脚4と局舎2の鉄骨5とは電気的に接続されており、鉄骨5が絶縁電線8によって環状接地線12と接続されている。そして、接地極11と環状接地線12との間において、地表から地中下方に向けて、絶縁材13が敷設されている。
【0027】
図4の構成例では、鉄塔1と局舎2とが離れて設置されている。接地極11は、局舎2周囲の地中に設けられている。雷保護用の環状接地線12は、鉄塔1および局舎2を囲むように設けられている。避雷針6の引下げ導線として、鉄塔1の塔脚4が利用されており、塔脚4は絶縁電線9によって環状接地線12と接続されている。そして、接地極11と環状接地線12との間において、地表から地中下方に向けて、絶縁材13が敷設されている。絶縁材13は、局舎2の周囲を囲むように設けられており、鉄塔1の周囲は囲んでいない。
【0028】
図5の構成例では、直撃雷を受けるリスクが高い鉄塔1に、雷からの保護対象となる局舎2が隣接している。鉄塔1の上の避雷針6は、塔脚4を介して、鉄塔1周囲の地中に設けられた接地極21と接続されている。局舎2では、接地極11は、局舎2周囲の地中に設けられており、雷保護用の環状接地線12は、局舎2および接地極11を囲むように設けられている。そして、接地極11と環状接地線12との間に、地表から地中下方に向けて、絶縁材13が敷設されている。
【0029】
図3-5に示す構成例においても、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。すなわち、局舎2の接地極11と、接地極11と独立した環状接地線12との間に、地表から地中下方に向けて、絶縁材13を敷設することによって、雷発生時において、局舎の接地極11に流れる雷電流を抑制することができる。また、絶縁材13は、環状接地線12の内側に沿った位置ではなく、環状接地線12から離間した位置に敷設すればよいので、絶縁材13を敷設する位置の自由度が高まり、施工が容易になる。
【0030】
なお、本実施形態に係る防雷方法は、絶縁材を敷設する工程に加えて、雷保護用接地極を設ける工程を含む場合がある。また、本実施形態に係る防雷方法は、例えば電気施設の建築時において、電気施設の接地極を設けるとともに、雷保護用接地極を設けて、さらに絶縁材を敷設する場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明では、雷発生時において、電気施設に流れ込む、または流れ出す雷電流を抑制するための絶縁材を、容易に敷設することができるので、電気施設の防雷に有用である。
【符号の説明】
【0032】
2 局舎(電気施設)
11 接地極
12 環状接地線(雷保護用接地極)
13 絶縁材
図1
図2
図3
図4
図5