(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】グラファイトの薄板状構造物の製造方法、並びに、薄片化グラファイトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/225 20170101AFI20240321BHJP
【FI】
C01B32/225
(21)【出願番号】P 2020561198
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042922
(87)【国際公開番号】W WO2020129427
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018237214
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】716002448
【氏名又は名称】株式会社仁科マテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】仁科 勇太
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502168(JP,A)
【文献】特開2014-203545(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108371(WO,A1)
【文献】特表2014-513659(JP,A)
【文献】特表2013-536141(JP,A)
【文献】LU, Jiong et al.,ACS Nano,2009年,Vol.3/No.8,pp.2367-2375
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/225
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトを含む陽極、
陰極、および
電解質としてテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を含む電解質溶液
(但し、テトラフルオロボレートを有するイオン液体を含む場合を除く)を含む電気化学反応系に対し、電流を流す工程を含む、グラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項2】
前記陽極のグラファイトの層間に、テトラフルオロ硼酸の陰イオン又はヘキサフルオロ燐酸の陰イオンをインターカレートさせてグラファイトの薄板状構造物を得る、請求項1に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項3】
前記グラファイトを含む陽極が、縮重合系高分子化合物を熱処理したものである、請求項1又は2に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項4】
前記グラファイトを含む陽極が、芳香族ポリイミドを熱処理したものである、請求項3に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項5】
前記グラファイトを含む陽極が、天然グラファイトを
濃硫酸又は硝酸に浸したのち加熱処理した膨張黒鉛を、プレスしたものである、請求項1又は2に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項6】
前記電解質溶液が、プロトン性極性溶媒または非プロトン性極性溶媒を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項7】
前記電解質溶液が、水および非プロトン性極性溶媒を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項8】
前記電解質溶液に含まれる溶媒が水のみである、請求項1~5のいずれか1項に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項9】
前記電解質溶液が、水、および、水以外のプロトン性極性溶媒を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項10】
前記水以外のプロトン性極性溶媒が、アルコール溶媒である、請求項9に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の製造方法によってグラファイトの薄板状構造物を得る工程、および
該薄板状構造物に剥離操作を加えることにより薄片化グラファイトを得る工程を含む、薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項12】
前記剥離操作が、超音波照射による剥離操作、機械的剥離操作、または加熱による剥離操作である、請求項
11に記載の薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項13】
前記薄片化グラファイトの厚みが100nm以下である、請求項
11又は
12に記載の薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項14】
前記薄片化グラファイトが酸素を含む、請求項
11~
13のいずれか1項に記載の薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項15】
前記薄片化グラファイトは、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が20以下である、請求項
14に記載の薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項16】
前記薄片化グラファイトがさらにフッ素を含む、請求項
14又は
15に記載の薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項17】
酸素を含む薄片化グラファイトであって、
酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.8以上5以下であり、
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)のチャートにおいて、波長3420cm
-1付近のピークの半値幅が、1000cm
-1以下で
あり、
フーリエ変換赤外分光法のチャートにおいて、波長1590-1620cm
-1
付近のピークの高さに対する波長1720-1740cm
-1
付近のピークの高さの比率が、0.3以上である、薄片化グラファイト。
【請求項18】
酸素を含む薄片化グラファイトであって、
酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.8以上5以下であり、
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)のチャートにおいて、波長3420cm
-1
付近のピークの半値幅が、1000cm
-1
以下であり、
X線光電子分光法(XPS)のチャートにおいて、結合エネルギー284-285eV付近のピークの高さに対する結合エネルギー288-289eV付近のピークの高さの比率が、0.05以上である、薄片化グラファイト。
【請求項19】
酸素を含む薄片化グラファイトであって、
酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.8以上5以下であり、
固体
13C NMRのチャートにおいて、化学シフト130ppm付近のピークの高さに対する化学シフト70ppm付近のピークの高さの比率が、1.0以下で
あり、
固体
13
C NMRのチャートにおいて、化学シフト70ppm付近のピークの高さに対する化学シフト60ppm付近のピークの高さの比率が、2.2以上である、薄片化グラファイト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトの薄板状構造物の製造方法、並びに、薄片化グラファイトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書の説明において、「グラフェン」とは、sp2結合炭素原子によって構成された、一原子分の厚みを有するシート形状の物質をいう。「グラファイトの薄板状構造物」とは、層構造を有する原料黒鉛の層間に層間物質が挿入されて、黒鉛の層間(グラフェン同士の距離)が拡大したものをいう。また、「薄片化グラファイト」とは、グラフェンの積層体であって、前記グラファイトの板状構造物に剥離操作を加えて、原料の黒鉛よりもグラフェンの積層数を少なくした黒鉛をいう。
【0003】
グラフェンは、高いキャリア移動度、高い熱伝導度、透明性などの物性を一つの材料に兼ね備えた特異な物質である。これに加えて、その構造が究極のナノシート状であるために、デバイスの大面積化が容易である上に、熱的にも化学的にも安定性に富むためにエレクトロニクス分野を始めとする先端工業材料への応用が期待されているナノ炭素材料である。
【0004】
黒鉛は多数のグラフェンが積み重なって構成される積層体であり、地上に豊富に存在する。従って、黒鉛はグラフェン製造における格好の原料と考えられるため、この積層体の層間を剥離させることで、グラフェンや、黒鉛よりもグラフェンの積層数が遥かに少ない薄片化グラファイトを製造する様々な試みが提案されてきた。
【0005】
黒鉛の層間を剥離する主たる方法としては、これに機械的または物理的な外力を加える方法や、黒鉛を酸化剤で化学修飾してから層間剥離する方法、あるいは、黒鉛を作用電極としてこれを電解質溶液中に浸漬して通電することで、黒鉛の層間に電解質イオンをインターカレートしてグラファイトの薄板状構造物を得た後、該薄板状構造物に対し層間剥離を行う、電気化学的な方法などが知られている。
【0006】
黒鉛に機械的または物理的な外力を作用させる方法としては、粘着テープで剥がし取る方法(非特許文献1を参照)や、超音波照射を長時間行う方法(非特許文献2を参照)などが代表例として挙げられるが、これらの方法は、操作性や収率が低く、またエネルギー効率が低いため、大規模生産には適していない。
【0007】
黒鉛の化学修飾を伴う方法は、酸化グラフェンを製造する方法として広く知られている。しかしながら、この方法は、黒鉛の層間を剥離する過程で、強力な酸化剤や劇物を多量に必要とする。そのために、生成物に化学構造上の欠陥を生じるなど品質上の問題が避けられない。さらには、使用する薬剤の爆発危険性やこれらを生成物から除去する手間と廃棄物の処理が煩雑なことなどが、酸化グラフェンの大規模製造を実現するうえでの障壁となっている(非特許文献3を参照)。
【0008】
電気化学的な方法で黒鉛の層間に電解質イオンをインターカレートしたのち層間剥離を行うアプローチは、酸化剤や還元剤などの薬剤を必要としない。また、この方法は制御が容易な電気エネルギーでかつ温和な反応条件下で黒鉛を剥離しようとするアプローチで、プロセスの大規模化への可能性を秘めている。
【0009】
この電気化学的な方法では、黒鉛を作用電極として用いて数多くの試みがなされてきた。そこでは、硫酸、硝酸または過塩素酸などの酸性物質の水溶液を電解質溶液として電気を流し、当該酸性物質を作用電極(陽極)である黒鉛の層間にインターカレートしたのち層間剥離を行う方法が最も広く試されてきた(非特許文献4を参照)。なかでも、硫酸は入手が容易でかつ黒鉛との層間化合物を作り易いために電解質としてしばしば用いられる物質である。
【0010】
しかしながら、従来知られている電気化学的な方法では、層間剥離を起こす過程で生成物の構造に欠陥が生じやすく、さらには電解質由来の分解ガスの発生による黒鉛組織構造の破壊や脱落が技術を応用拡大するにあたって大きな障壁となっていた。あわせて水の酸化などの望ましくない副反応が起きることによる問題もあった。
【0011】
これらの問題を回避する為に、できるだけ温和な電解条件でインターカレートを進めようとする試みがある(特許文献1を参照)。しかしながら、その結果として、電気化学的処理の長時間化が避けられず、また電位制御などの複雑な電解装置を必要とするなど大規模に実施するには生産効率が低く、コスト的に満足できるものではない。
【0012】
これに対し、短時間での電解を試みたと謳う例がある。50%硫酸水を電解質溶液として用いて酸化グラフェンを合成できるとした例である(非特許文献5を参照)。ところがこの方法は、該酸化工程の前段階で、濃硫酸を用いて原料黒鉛を膨張黒鉛に変える工程を必要とし、この工程のほうが酸化工程より長い時間を必要とする。要するに、二段構えの煩雑なプロセスを採らざるを得ないので洗練された方法とはいえない。
【0013】
一方、上記した水系で電気化学的処理を行う場合の欠点を回避する目的で、非水系の電解質を使用する試みがある(非特許文献6を参照)。なかでもイオン液体を電解質に用いる検討が近年活発であるが、イオン液体そのものが極めて高価であるために経済性の観点で大規模生産には向かない。
【0014】
ところで、フッ化酸化グラフェンは、専ら黒鉛を化学酸化して得た酸化グラフェンをフッ素化することで製造されている。該化学酸化では、濃硫酸または過マンガン酸カリなどの化学酸化剤を多量に使用する(特許文献2、3および非特許文献7を参照)。そのために、得られた酸化グラフェンは、これらの化学酸化剤に由来する重金属成分や硫黄成分などの不純物を含む。従って、上記の方法により製造されたフッ化酸化グラフェンは、マンガン成分や硫黄成分を含む不純物で汚染されるのを第一義的には回避することができない。特許文献3は、その実施例において生じたフッ化酸化グラフェンが無視できない量の硫黄成分を含むことを示している。
【0015】
また、酸化グラフェンは還元され易い化合物であることは公知である。即ち、酸化グラフェンは、加熱または還元剤の作用で容易に還元型酸化グラフェン(rGO)に変換され得る。このことから、酸化グラフェンをフッ素化する際に、酸化グラフェンが本来有していた骨格上の水酸基などの酸素含有官能基が必要以上に失われる恐れがある。特許文献3は、酸化グラフェンのフッ素化が、結果として酸化グラフェンの水酸基を失う技術であることを示している。
【0016】
また、還元型酸化グラフェン(rGO)は凝集して多層化し易いために、原料の酸化グラフェンが有していた単層性が後工程のフッ素化と次の単離の過程で失われて酸化グラフェンが多層化することが容易に想定される。その証拠に、特許文献2、3および非特許文献7では、得られたフッ化酸化グラフェンの単層性が保持されていることについては一切言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2012-131691号公報
【文献】特表2014-504248号公報
【文献】特開2018-76196号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】Science,306(5696),666-9(2004).
【文献】Small,6(7),864-71(2010).
【文献】J.Am.Chem.Soc.,80,1339(1958).
【文献】CARBON,54,1-21(2013).
【文献】Nature Commun.,9:145(2018).
【文献】Adv.Funct.Mater.,18(10),1518-25(2008).
【文献】J.Mater.Chem.A,2,8782-8789(2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上述べたように、黒鉛の層間を剥離することによる薄片化グラファイトの製造方法は多数報告されているものの、薄片化グラファイトを大規模かつ経済的に製造することはいまだ困難であった。薄片化グラファイトを工業材料として活用するには、製造時の環境負荷を低減しながら、大規模かつ経済的に実施できる製造技術の確立が求められている。
【0020】
本発明は、上記現状に鑑み、効率良く、高品質のグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題に鑑みて、薄片化グラファイトの製造技術を実用化に導くためには、電気化学的プロセスを洗練された技術に仕上げることが最もその近道であろうと考えた。それには、優れた黒鉛層間侵入物質としての電解質の発明が鍵であると考えて鋭意検討してきた。
【0022】
その結果、テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を電解質として使用すると、かつてない優れた黒鉛層間侵入物質が提供されることを見出して本発明を完成した。
【0023】
即ち第一の本発明は、グラファイトを含む陽極、グラファイトを含んでいてもよい陰極、および電解質としてテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を含む電解質溶液を含む電気化学反応系に対し、電流を流す工程を含む、グラファイトの薄板状構造物の製造方法に関する。
【0024】
第一の本発明によれば、陽極にグラファイトを用い、電解質としてテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を含む電解質溶液を用いて電流を流すことで、一段階で、グラファイトをグラファイトの薄板状構造物に変換することができる。ここで、本発明のグラファイトの薄板状構造物とは、電気化学的な工程を実施して得られた生成物(即ち、陽極グラファイトの被電解部分)であって、電解質溶液中に剥離や脱離をすることなく、陽極としての全体的な形態を保持したものを指す。第一の本発明によれば、グラフェン層の重なりの分布がナノオーダーで制御されているグラファイトの薄板状構造物を好適に製造することができる。
【0025】
また、第一の本発明によれば、上記の電気化学的な工程を実施するだけで、濾過等の煩雑な追加処理を特段行う必要はなく、極めて短時間で、グラファイトの薄板状構造物を高品質かつ高収率で製造することができる。
【0026】
以上によれば、陽極のグラファイトを構成するグラフェン層間に電解質イオンを高度に均一に、かつ、素早くインターカレートすることができる。その結果、得られるグラファイトの薄板状構造物は、炭素骨格構造に欠陥が少ないうえに、インターカレートが不十分なまま残留するグラフェン層を極力少なくすることができる。また、同時に、品質、電流効率、時間効率、歩留り、廃棄物を含めたロスの少なさ等々の観点でグラファイトの薄板状構造物の製造効率を飛躍的に高めることができる。
【0027】
第一の本発明の一実施形態によれば、前記陽極のグラファイトの層間に、テトラフルオロ硼酸の陰イオン又はヘキサフルオロ燐酸の陰イオンをインターカレートさせてグラファイトの薄板状構造物を得ることができる。ここで得られたグラファイトの薄板状構造物は、グラファイトの層間にテトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンがインターカレートしており、それによってグラファイトを構成するグラフェン層間の間隔が拡大し、かつ、炭素骨格上に酸化を伴った、新規の膨張化黒鉛といえる構造物である。
【0028】
第一の本発明の一実施形態によれば、前記グラファイトを含む陽極が、縮重合系高分子化合物を熱処理したものであることが好ましく、また、芳香族ポリイミドを熱処理したものであることがより好ましい。このようなグラファイトは、面状のグラファイト結晶が層状に積層された構造を有しており、グラファイトの層間へのテトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンのインターカレートが特に進行しやすく、また、インターカレートした時に、グラファイトから小片の剥離や脱離などが特に生じにくく、陽極としての全体的な形態を維持しやすいため好ましい。このような陽極を用いることで、第一の本発明により達成される効果をより一層高めることができる。
【0029】
また、第一の本発明の他の実施形態によれば、前記グラファイトを含む陽極が、天然グラファイトを強酸に浸したのち加熱処理した膨張黒鉛を、高圧プレスしたものであることも好ましい。このような陽極を用いることでも、第一の本発明により達成される効果を得ることができる。
【0030】
第一の本発明の一実施形態によれば、前記電解質溶液が、プロトン性極性溶媒または非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましく、水および非プロトン性極性溶媒を含むことが特に好ましい。これにより、比較的親油性が高いとされるテトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンが黒鉛層間に侵入するのをサポートすることを期待できる。また、電解質溶液を構成する溶媒の選択肢が増加することによって、第一の本発明によってグラファイトの薄板状構造物を効率よく製造するために有利な電解条件の幅が拡大する。
【0031】
第一の本発明の他の実施態様によれば、前記前記電解質溶液に含まれる溶媒が水のみであってもよい。また、前記電解質溶液が、水、および、水以外のプロトン性極性溶媒を含むものであってもよい。前記水以外のプロトン性極性溶媒が、アルコール溶媒であってもよい。
【0032】
また、本発明者らは、陽極を構成するグラファイトとして、縮重合系高分子化合物を熱処理して得たグラファイト、又は、天然グラファイトを強酸に浸したのち加熱処理した膨張黒鉛をプレスして得たグラファイトを使用すると、硫酸または硝酸を電解質として使用しても、効率良く、グラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造できることを見出した。
【0033】
即ち第二の本発明によれば、縮重合系高分子化合物を熱処理したものであるグラファイト、または、天然グラファイトを強酸に浸したのち加熱処理した膨張黒鉛をプレスしたものであるグラファイト、を含む陽極、グラファイトを含んでいてもよい陰極、および電解質として硫酸または硝酸を含む電解質溶液を含む電気化学反応系に対し、電流を流す工程を含む、グラファイトの薄板状構造物の製造方法に関する。第一の本発明と同様、一段階で、グラファイトをグラファイトの薄板状構造物に変換することができ、濾過等の煩雑な追加処理を特段行う必要はなく、極めて短時間で、グラファイトの薄板状構造物を高品質かつ高収率で製造することができる。
【0034】
第三の本発明は、第一又は第二の本発明による製造方法によってグラファイトの薄板状構造物を得る工程、および該薄板状構造物に剥離操作を加えることにより薄片化グラファイトを得る工程を含む、薄片化グラファイトの製造方法に関する。これによって、第一又は第二の本発明によって製造されるグラファイトの薄板状構造物を薄片化して、薄片化グラファイトを製造することができる。
【0035】
第三の本発明の一実施形態によれば、前記剥離操作が、超音波照射による剥離操作、機械的剥離操作、または加熱による剥離操作であることが好ましい。これによって、グラファイトの薄板状構造物の薄片化をより確実に実施することができる。
【0036】
第三の本発明によれば、厚みが100nm以下の薄片化グラファイトを製造することができる。
【0037】
また、第三の本発明によって製造され得る薄片化グラファイトは、好ましくは、酸素を含むものであり、より好ましくは、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が20以下である。前記薄片化グラファイトは、好ましくは、さらにフッ素を含むものである。
【0038】
第三の本発明によれば、フッ素を含む薄片化グラファイトを、化学酸化剤を使用することなく、グラファイトから製造することができる。そのため、第三の本発明によれば、化学酸化剤に由来する、重金属とりわけマンガン成分と、硫黄成分が、実質的に含まれていない新規のフッ素を含む薄片化グラファイトを製造することができる。
【0039】
また、第三の本発明によれば、フッ化酸化グラフェンを得るに際して従来技術が必須としていた酸化グラフェンを一旦単離する工程が不要となり、そのような単離工程を行わずに、フッ素を含む薄片化グラファイトを製造することができる。
【0040】
更に、第三の本発明によれば、酸化グラフェンを単離してフッ素化するプロセスを実施しないため、酸化グラフェンがその過程で還元される恐れがない。即ち、酸化グラフェンが有する水酸基等の酸素含有官能基が保持され、その結果、単層性が保持されたフッ素を含む薄片化グラファイトを製造することができる。
【0041】
更にまた、第三の本発明によれば、上述した品質上の利点に加えて、電流効率、時間効率、歩留り、廃棄物を含めたロスの少なさの観点でも、製造効率を飛躍的に高めた、薄片化グラファイトの製造方法を提供することができる。
【0042】
第四の本発明は、第三の本発明によって製造を実現した新規のフッ素を含む薄片化グラファイトに関し、具体的には、フッ素、及び、酸素を含有し、マンガン含有量が0.002質量%以下であり、硫黄含有量が0.1質量%以下である、薄片化グラファイトに関する。
【0043】
第四の本発明の一実施形態において、前記薄片化グラファイトは、フッ素含有量が0.5質量%以上40質量%以下であり、炭素含有量が40質量%以上80質量%以下であり、酸素含有量が1.0質量%以上50質量%以下であり得る。
【0044】
第五の本発明は、酸素を含む薄片化グラファイトであって、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.8以上5以下であり、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)のチャートにおいて、波長3420cm-1付近のピークの半値幅が、1000cm-1以下である、薄片化グラファイトに関する。
【0045】
第五の本発明の一実施形態において、前記薄片化グラファイトは、フーリエ変換赤外分光法のチャートにおいて、波長1590-1620cm-1付近のピークの高さに対する波長1720-1740cm-1付近のピークの高さの比率が、0.3未満であり、さらに、X線光電子分光法(XPS)のチャートにおいて、結合エネルギー284-285eV付近のピークの高さに対する結合エネルギー288-289eV付近のピークの高さの比率が、0.05未満であってよい。
【0046】
第五の本発明の他の実施形態において、前記薄片化グラファイトは、フーリエ変換赤外分光法のチャートにおいて、波長1590-1620cm-1付近のピークの高さに対する波長1720-1740cm-1付近のピークの高さの比率が、0.3以上であり、さらに、X線光電子分光法(XPS)のチャートにおいて、結合エネルギー284-285eV付近のピークの高さに対する結合エネルギー288-289eV付近のピークの高さの比率が、0.05以上であってよい。
【0047】
第六の本発明は、酸素を含む薄片化グラファイトであって、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.8以上5以下であり、固体13C NMRのチャートにおいて、化学シフト130ppm付近のピークの高さに対する化学シフト70ppm付近のピークの高さの比率が、1.0以下である、薄片化グラファイトに関する。
【0048】
第六の本発明の一実施形態において、前記薄片化グラファイトは、固体13C NMRのチャートにおいて、化学シフト70ppm付近のピークの高さに対する化学シフト60ppm付近のピークの高さの比率が、2.2未満であり、また、他の実施形態において、前記薄片化グラファイトは、学シフト70ppm付近のピークの高さに対する化学シフト60ppm付近のピークの高さの比率が、2.2以上である。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、効率良く、高品質のグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】実施例1における反応直後の陽極、即ちグラファイトの薄板状構造物の外観を撮影した写真。
【
図2】実施例1で得た薄片化グラファイトに含まれる元素の存在比を示す、EDX分析によるチャート。
【
図3】実施例1で得た薄片化グラファイトの粒子径を示す、SEM分析によるヒストグラム。
【
図4】実施例1で得た薄片化グラファイトを撮影したSEM画像。
【
図5】実施例1で得た薄片化グラファイトの最小厚みを示す、AFM分析結果。
【
図6】実施例12における反応直後の陽極の外観を撮影した写真。
【
図7】実施例13における反応直後の陽極の外観を撮影した写真。
【
図8】テトラフルオロ硼酸水溶液を使用して電解を行った後のグラファイト箔(EGO
W)の外観、及び、テトラフルオロ硼酸のメタノール/水溶液を使用して電解を行った後のグラファイト箔(EGO
M)の外観を撮影した写真。
【
図9】EGO
W(図中の(i))、EGO
M(図中の(ii))、及び、EGO
S(硫酸水溶液を使用した電解反応;図中の(iii))を製造する系において直線走査ボルタンメトリー(LSV)を実施した結果を示す図。
【
図10】(a)、(b)、及び(c)は、EGO
W合成における電解時の時間、電流密度、又はテトラフルオロ硼酸の濃度と、生成物のC/Oの関係を示す図。(d)は、EGO
M合成におけるテトラフルオロ硼酸の濃度と、生成物のC/Oの関係を示す図。
【
図11】EGO
M、EGO
W、及びCGO(化学合成による酸化グラフェン)のX線光電子分光測定にて得られたチャート。
【
図12】a)は、EGO
M、EGO
W、及びCGOのXRDパターン。b)は、EGO
M、EGO
W、CGO、及び高酸化CGO(HCGO)のLambert-Beer係数。c)は、黒鉛、EGO
M、EGO
W、及びCGOのラマン分光分析の結果。d)は、EGO
M、EGO
W、及びCGOのFT-IR分析の結果。e)は、EGO
M、EGO
W、及びCGOの固体
13C NMRの結果。f)は、EGO
M、EGO
W、及びCGOのTGA-MSの結果。
【
図13】(a)はEGO
WのSEM写真。(b)はEGO
MのSEM写真。(c)はEGO
WのAFM写真。(d)はEGO
MのAFM写真。(e)、(f)及び(g)は、それぞれCGO、EGO
W、及びEGO
Mを水中で分散させて2か月後を撮影した写真。(h)、(i)及び(j)は、それぞれCGO、EGO
W、及びEGO
Mをメタノール中で分散させて1週間後を撮影した写真。
【
図14】(a)は、還元(熱的還元t又は化学還元hy)後のEGO
M、EGO
W、及びCGOについて測定したXRDパターン。(b)はXPS C1sパターン。(c)は層間距離の結果。(d)はXPS原子組成の結果。
【
図15】還元(化学還元hy又は熱的還元t)後のEGO
M、EGO
W、及びCGOについて測定した導電率の結果。
【
図16】a)は、黒鉛、又は、熱的還元後のCGO、EGOW、若しくはEGOMを電極活物質として用いたリチウムイオン電池の容量を測定した結果。b)は、EGOM、EGOW、及びCGOをろ過膜とした時の染料分子の除去率を示す結果。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に本発明の具体的な各種実施形態を詳細に説明する。
【0052】
本発明は、特定の電解質を使用した電気化学反応によって、陽極として使用するグラファイトを、グラファイトの薄板状構造物に変換するものである。
【0053】
本発明において、陽極は、層状のグラファイトを含む電気伝導性の物質から構成され、当該グラファイトが、本発明による電解質と層間化合物を形成(インターカレート)するものであれば特に限定されることはなく、広範囲な材料から選択できる。例えば、天然グラファイト、合成グラファイトの他、縮重合系高分子化合物を熱処理して得たグラファイト、高配向熱分解黒鉛(HOPG)等が挙げられる。
【0054】
前記縮重合系高分子化合物としては特に限定されないが、例えば、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリパラフェニレンビニレン等が挙げられる。なかでも、芳香族ポリイミドが好ましい。
【0055】
当該グラファイトの好適な具体例として、芳香族ポリイミドを熱処理して得たグラファイトが挙げられる。このようなグラファイトは、面状のグラファイト結晶が層状に積層された構造を有しており、グラファイトの層間へのテトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンのインターカレートが特に進行しやすく、また、インターカレートした時に、グラファイトから小片の剥離や脱離などが特に生じにくく、陽極としての全体的な形態を維持しやすい。そのため、より効率良く、より高品質のグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造することが可能となる。
【0056】
また、前記陽極は、天然グラファイトを濃硫酸や硝酸等の強酸に浸したのち膨張炉で加熱処理工程を経て得た膨張黒鉛を、高圧プレスによって成型したものであってもよい。これを陽極として使用することによっても、効率良く、高品質のグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造することができる。
【0057】
前記陽極の形状は、特に限定されず、棒状、板状、塊状、シート状、箔状、ロール状などの広範囲の選択肢のなかから適切な形状を適宜選択することができる。
【0058】
本発明のグラファイトの薄板状構造物の製造方法で用いる陰極は、前記陽極と一対を形成する電極であるが、該グラファイトの薄板状構造物の製造を直接的に担っているものではない。よって、陽極反応の結果生じたカチオンに電子を与える機能を持ち、かつ、電気化学的に安定な系を構築できるものであれば特に限定されることはなく、広範囲な材料から適宜選択することができる。例えば、白金、グラファイト、ステンレススチール、銅、亜鉛、鉛などの、金属または炭素質材料から選択することができる。また、陰極の形状としては、ワイヤー状、板状、またはメッシュ(網目)状のものを適宜選択できる。
【0059】
陰極反応でガスが発生する場合には、陰極反応の効率を損ねないこと又は電解系の電気抵抗を無用に増加させないことなどのために、陰極の面積を可能な範囲で大きくしてもよい。
【0060】
本発明の製造方法では、陽極および/または陰極で望ましくない反応が起きるのを防ぐため、あるいは陽陰両極の短絡を防ぐために、両極の間にイオン交換膜またはスペーサーなどを設置してもよい。
【0061】
本発明の製造方法における電極系は、前述した陽極と陰極のみから構成されてもよいし、より精密な電位制御を行う場合においては、陽極と陰極に加えて、参照電極をさらに用いても良い。参照電極としては、Ag/AgClなど常法のものを使用できる。
【0062】
本発明では電解質としてテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を用いる。両者を併用してもよい。これらの陰イオンは、グラファイトの層間へのインターカレートが極めて速やかに進行するため、電気化学反応における電流効率および時間効率が極めて高く、効率よく、高品質のグラファイトの薄板状構造物を製造することができる。テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸は、純粋な形態で入手することもできるが、40~50%の水溶液として市販されているものを用いてもよいし、必要に応じて適宜、適切な溶媒を加え希釈して用いてもよい。
【0063】
電解質溶液は、上記電解質が溶媒に溶解したものである。使用可能な溶媒としては、テトラフルオロ硼酸、ヘキサフルオロ燐酸、またはこれらの水溶液と混和可能な溶媒であって、かつ、グラファイトの薄板状構造物を製造する際に電気化学的に安定な溶媒のなかから適宜選択することができる。
【0064】
好ましい溶媒は、水や、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等のプロトン性極性溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒である。これらのうち1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
溶媒としては、水を含むことが好ましい。溶媒として、水のみを使用してもよいし、また、溶媒が、水、および、水以外のプロトン性極性溶媒を含んでもよく、また、水および非プロトン性極性溶媒を含んでもよい。水を含む溶媒を使用して得た薄片化グラファイトは、水との親和性が良好であり、水中の分散性に優れている利点がある。また、水と、水以外のプロトン性極性溶媒又は非プロトン性極性溶媒を使用することによって、比較的親油性が高いとされるテトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンが黒鉛層間に侵入するのをサポートすることを期待できる。また、電解質溶液を構成する溶媒の選択肢が増加することによって、グラファイトの薄板状構造物を効率よく製造するために有利な電解条件の幅が拡大する。
【0066】
また、電解質溶液の溶媒としてプロトン性極性溶媒であるアルコール溶媒を使用すると、得られるグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトは、用いたアルコール溶媒に由来するアルコキシ基及び/又はアルキル基を有することができる。アルコール溶媒を使用して得た薄片化グラファイトは、当該アルコール溶媒との親和性が良好であり、当該アルコール溶媒中の分散性に優れている利点がある。
【0067】
電解質溶液における電解質の濃度は、電気化学反応系の電気抵抗が十分に低く、かつ、テトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンが速やかに陽極のグラファイトに供給されてグラファイトの薄板状構造物が得られる濃度であればよい。好ましくは、1.0~50質量%であり、さらに好ましくは、5.0~50質量%である。
【0068】
本発明では、上述した陽極、陰極、及び電解質溶液から構成される電気化学反応系に対して、直流電圧を印加する。印加電圧は、少なくとも、陽極のグラファイトの層間に、テトラフルオロ硼酸の陰イオン又はヘキサフルオロ燐酸の陰イオンが挿入されるために必要な電位を確保できればよいが、速やかにグラファイトの薄板状構造物を得るために過電圧を印加してもよい。実用的な印加電圧は、電解質濃度、電解質溶液の溶媒組成、陽陰両極間の距離、電解温度など、電解系の電気抵抗が支配する電圧降下要素に打ち勝つように設定することが好ましい。具体的には、好ましい印加電圧の範囲は、1.5~50Vであり、より好ましい範囲は2.0~25Vである。
【0069】
陽極に供給する電流の密度は、印加電圧と電極の表面積によってコントロールされる。本発明によりテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を電解質として使用すると、それらの陰イオンがグラファイトの層間に極めて速やかにインターカレートして、グラフェンの層間を均一に拡大することが可能になる。従って、電流密度は微小な域から高度な域まで広く設定することができ、電流密度の大小に関わらずグラファイトの薄板状構造物を得ることができる。好ましくは、1~2,000mA/cm2であり、より好ましくは、10~1,000mA/cm2である。
【0070】
本発明の一実施形態では、電気化学反応系に供給する電流を一定の値に設定することも好ましい。この場合、好ましい設定電流値は、前述した好ましい電流密度の範囲になるよう設定される。また、この場合、電気化学反応系に印加される電圧は、反応の進行度や系の抵抗値に応じて変動し得るが、好ましい印加電圧の範囲は、前述した印加電圧の範囲と同様である。
【0071】
電気化学反応系に供給する電気量(F/モル、F:ファラデー定数)は、電解反応に供するグラファイトの炭素原子のモル数に対して、好ましくは0.2F/モル以上、より好ましくは0.8~3.0F/モル、さらに好ましくは1.0~2.0F/モルである。この電気量を供給すれば、グラファイトの薄板状構造物、および薄片化グラファイトが効果的に得られる。
【0072】
前記電気化学反応系に電圧を印可する時の電解質溶液の温度は、電解質を溶解する溶媒の種類や電解質溶液の濃度によって変わり得るが、実効的には、下限は電解質溶液が凍結しない温度で、上限は電解質溶液の沸点である。好ましくは、0~100℃の範囲で実施することができる。より好ましくは、0~80℃の範囲で実施することができる。
【0073】
本発明において、電解質であるテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸は理論的には反応の前後で消耗しない。従って、グラファイトの薄板状構造物の製造に使用した後の電解質溶液は繰り返し再利用することができる。このとき、電解質溶液から取り出したグラファイトの薄板状構造物に付着するなどして減少した電解質は、必要に応じて反応系に補充してもよい。
【0074】
また、本発明による反応直後のグラファイトの薄板状構造物には、テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を含む電解質溶液の抱き込みおよび付着が生じている。このようなグラファイトの薄板状構造物に随伴した電解質溶液成分は回収することができる。本回収は、グラファイトの薄板状構造物の製造規模が大きくなるほど有効となり得る。具体的な回収方法としては、例えば、電解質溶液を含むグラファイトの薄板状構造物を遠心分離機にかける方法、加圧プレス濾過に供する方法、またはベルトプレス上で連続的に電解質溶液を分取する方法等が挙げられる。
【0075】
電解質溶液から取り出したグラファイトの薄板状構造物は、前記回収プロセスの実施の有無に関わらず、過剰の脱イオン水で洗液が中性になるまで洗浄することで、当該構造物から電解質溶液成分を取り除くことができる。
【0076】
以上の工程により得たグラファイトの薄板状構造物は、湿潤状態で、後続の薄片化グラファイトの製造工程に供することができ、また、必要に応じて乾燥工程に付してから薄片化グラファイトの製造工程に供してもよい。具体的な乾燥方法としては特に限定されないが、例えば、80℃以下の温度で、恒温乾燥器または真空乾燥器で乾燥させればよい。
【0077】
本発明では以上のようにして、グラファイトを含む陽極を用いると共に、電解質としてテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を含む電解質溶液を用いた電気化学反応系に対し電流を流すことにより、テトラフルオロ硼酸の陰イオンまたはヘキサフルオロ燐酸の陰イオンが素早く、しかも均一にグラファイトの層間にインターカレートし、その結果、グラファイトを構成する各グラフェン間の層間距離が均一に拡大したグラファイトの薄板状構造物を得ることができる。
【0078】
本発明のグラファイトの薄板状構造物の製造方法の別の態様によると、陽極として、縮重合系高分子化合物を熱処理したものであるグラファイト、または、天然グラファイトを強酸に浸したのち加熱処理した膨張黒鉛をプレスしたものであるグラファイト、を含む陽極を使用する場合には、電解質として硫酸または硝酸を使用することができる。このような態様においても、効率良く、高品質のグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造することができる。この態様では、電解質溶液として硫酸水溶液を使用すればよい。該硫酸水溶液の濃度としては特に限定されないが、例えば、1~60重量%であってよい。他の条件は、電解質としてテトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を用いる態様について上述した条件に準じる。
【0079】
本発明により得られたグラファイトの薄板状構造物に対して剥離操作を加えることにより、好適には厚みが100nm以下である薄片化グラファイトを得ることができる。
【0080】
前記剥離操作としては特に限定されないが、例えば、超音波照射による剥離操作、機械的剥離力を付加することによる剥離操作、加熱することによる剥離操作等が挙げられる。より具体的には、グラファイトの薄板状構造物を適量の脱イオン水に分散し、これを超音波照射装置にかける方法や、ミキサー、または、せん断力を印加できる装置で処理する方法などを例示できる。剥離操作を行った後の処理物は、凍結乾燥するか、あるいは、濾過または遠心分離に供し得られたケーキを、前述したグラファイトの薄板状構造物に対する乾燥処理と同様の乾燥処理に供すればよい。
【0081】
以上により、厚みが100nm以下の薄片化グラファイトを有利に得ることができる。薄片化グラファイトの厚みは、50nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。厚みが1nm以下の薄片化グラファイトが特に好ましい。薄片化グラファイトの平均粒子径はナノメートルからミリメートルにわたって変化させることができるが、30nm以上1mm以下が好ましく、50nm以上100μm以下がより好ましく、100nm以上50μm以下がさらに好ましい。得られた薄片化グラファイトは、好ましくは酸化グラフェン(酸素を含むグラフェン)より構成されるものである。酸化グラフェンにおいて、酸素に対する炭素の質量比(C/O)は20以下であることが好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、5以下がより更に好ましく、3以下が特に好ましい。薄片化グラファイトは、より好ましくはフッ化酸化グラフェン(フッ素と酸素を含むグラフェン)より構成されるものである。
【0082】
本発明によって好適に製造される、フッ素を含む薄片化グラファイトは、本発明の製造方法の特徴に起因して、高純度で、不純物の含有率が小さいことが特徴となる。特に、重金属成分と硫黄成分の含有率が小さいことが特徴である。具体的には、前記フッ素を含む薄片化グラファイトにおいては、マンガン含有量が0.002質量%以下であり、硫黄含有量が0.1質量%以下であることが好ましく、マンガン含有量が0.001質量%以下であり、硫黄含有量が0.01質量%以下であることがより好ましい。
【0083】
さらに、前記フッ素を含む薄片化グラファイトは、フッ素含有量が0.5質量%以上40質量%以下であり、炭素含有量が40質量%以上80質量%以下であり、酸素含有量が1.0質量%以上50質量%以下であることが好ましく、フッ素含有量が1.0質量%以上15質量%以下であり、炭素含有量が45質量%以上75質量%以下であり、酸素含有量が15質量%以上45質量%以下であることがさらに好ましい。
【0084】
本発明によって好適に製造される、酸素を含む薄片化グラファイトは、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.8以上5以下であり、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)のチャートにおいて、波長3420cm-1付近のピークの半値幅が、1000cm-1以下であることが好ましい。前記半値幅は、より好ましくは700cm-1以下、更に好ましくは500cm-1以下、特に好ましくは400cm-1以下である。前記酸素に対する炭素の質量比(C/O)は、0.9以上3以下が好ましく、0.9以上2以下がより好ましく、0.9以上1.5以下がさらに好ましい。
【0085】
前記酸素を含む薄片化グラファイトの一実施形態は、フーリエ変換赤外分光法のチャートにおいて、波長1590-1620cm-1付近のピークの高さに対する波長1720-1740cm-1付近のピークの高さの比率が、0.3未満であることが好ましい。より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.2以下である。当該実施形態では、さらに、X線光電子分光法(XPS)のチャートにおいて、結合エネルギー284-285eV付近のピークの高さに対する結合エネルギー288-289eV付近のピークの高さの比率が、0.05未満であることが好ましい。より好ましくは0.04以下、さらに好ましくは0.03以下である。当該実施形態に係る薄片化グラファイトは、水との親和性が良好で、水中の分散性に優れており、グラファイトの薄板状構造物の製造方法における電解質溶液の溶媒として水のみを使用することで好適に製造することができる。
【0086】
前記酸素を含む薄片化グラファイトの他の実施形態は、フーリエ変換赤外分光法のチャートにおいて、波長1590-1620cm-1付近のピークの高さに対する波長1720-1740cm-1付近のピークの高さの比率が、0.3以上であることが好ましい。より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上である。当該実施形態では、さらに、X線光電子分光法(XPS)のチャートにおいて、結合エネルギー284-285eV付近のピークの高さに対する結合エネルギー288-289eV付近のピークの高さの比率が、0.05以上であることが好ましい。より好ましくは、0.06以上、さらに好ましくは0.07以上である。当該実施形態に係る薄片化グラファイトは、アルコール溶媒との親和性が良好で、アルコール溶媒中の分散性に優れており、グラファイトの薄板状構造物の製造方法における電解質溶液の溶媒としてアルコール溶媒を使用することで好適に製造することができる。
【0087】
本発明によって好適に製造される、酸素を含む薄片化グラファイトは、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.8以上5以下であり、固体13C NMRのチャートにおいて、化学シフト130ppm付近のピークの高さに対する化学シフト70ppm付近のピークの高さの比率が、1.0以下であることが好ましい。前記比率は、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下、特に好ましくは0.5以下である。前記酸素に対する炭素の質量比(C/O)は、0.9以上3以下が好ましく、0.9以上2以下がより好ましく、0.9以上1.5以下がさらに好ましい。
【0088】
前記酸素を含む薄片化グラファイトの一実施形態は、固体13C NMRのチャートにおいて、化学シフト70ppm付近のピークの高さに対する化学シフト60ppm付近のピークの高さの比率が、2.2未満であることが好ましい。より好ましくは1.9以下、さらに好ましくは1.7以下である。当該実施形態に係る薄片化グラファイトは、水との親和性が良好で、水中の分散性に優れており、グラファイトの薄板状構造物の製造方法における電解質溶液の溶媒として水のみを使用することで好適に製造することができる。
【0089】
前記酸素を含む薄片化グラファイトの他の実施形態は、固体13C NMRのチャートにおいて、化学シフト70ppm付近のピークの高さに対する化学シフト60ppm付近のピークの高さの比率が、2.2以上であることが好ましい。より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは2.8以上である。当該実施形態に係る薄片化グラファイトは、アルコール溶媒との親和性が良好で、アルコール溶媒中の分散性に優れており、グラファイトの薄板状構造物の製造方法における電解質溶液の溶媒としてアルコール溶媒を使用することで好適に製造することができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0091】
<薄片化グラファイトの酸素に対する炭素の質量比(C/O)の測定方法>
エネルギー分散型X線分析(EDX、Energy dispersive X-ray spectrometry)の原理を用いて、薄片化グラファイトの酸素に対する炭素の質量比(C/O)を測定した。具体的な測定方法は、所定の処理をして得た薄片化グラファイトの乾燥粉末をカーボンテープに満遍なく貼り付け、日本電子製JSM IT-100にて測定した。
【0092】
<薄片化グラファイトの平均粒子径および最大粒子径の測定方法>
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、薄片化グラファイトの平均粒子径および最大粒子径を測定した。具体的には、薄片化グラファイトの希薄分散液をシリコン基板に塗布し、日立製作所製S-5200を用いて30kVの加速電圧で測定を行いSEM画像を得た。平均粒子径は、SEM画像上で、一定数(例えば200個)の粒子を無作為にピックアップし、各粒子の粒子径を測定し、その合計値を粒子数で除することによって算出した。最大粒子径は、SEM画像上で観察された最大の粒子径である。
【0093】
<薄片化グラファイトの最小厚みの測定方法>
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、薄片化グラファイトの最小厚みを測定した。具体的には、薄片化グラファイトの希薄分散液をマイカ基板に塗布し、島津製作所製SPM-9700HTを用いてタッピングモードで測定した。
【0094】
<薄片化グラファイトに含まれるマンガンおよび硫黄の含有量の測定方法>
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS、Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry)を用いて、薄片化グラファイトに含まれるマンガンおよび硫黄の含有量を測定した。具体的には、薄片化グラファイトの希薄分散液をAgilent製7700cにて分析した。
【0095】
(実施例1)
ガラス製反応器を用意し、電解液としてテトラフルオロ硼酸の5%水溶液を100ml加えた。これに、陽極として市販のグラファイト箔((株)カネカ製、縮重合系高分子化合物である芳香族ポリイミドを熱処理してグラファイト化した箔)を、その面積のうち15cm
2(黒鉛として65mg)が電解液中に浸漬するよう固定し、陰極として白金線電極をセットした。これを直流電源に接続し、室温下で0.7Aの定電流で10分間電解した。この過程で、陽極においては、電解液に浸漬した部分でグラファイト箔の厚みのスムーズな増大と、表面の微褐色化が観測された。反応直後の陽極を撮影した写真を
図1に示した。反応終了後の陽極は、電解液中に剥離したり脱落することはほぼなく、完全なシートの形状を保っていたが、電解液に浸漬した部分の厚みは反応前に比べて明らかに増大していた。これは、グラファイト箔にテトラフルオロ硼酸の陰イオンが素早くインターカレートした結果、グラファイトの薄板状構造物が形成されたものと確認した。
【0096】
反応後のグラファイト箔を電解液から引き揚げて取り出し、これを洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄して未乾燥で黒褐色のグラファイトの薄板状構造物を得た。このものに少量の脱イオン水を加えた後、15分間超音波照射して、引き続き凍結乾燥することで薄片化グラファイトを110mg得た。このものは、EDX分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.10の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を3質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた(
図2)。SEM分析の結果から、平均粒子径は450nmであり(
図3)、最大粒子径は10μmであった(
図4)。加えて、AFM分析の結果から最小厚みは1.0nmであった(
図5)。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は0.1ppm以下であった。
【0097】
(実施例2)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の50%水溶液を100ml用いた以外は実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを124mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.98の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を8質量%含む、薄片化グラファイトから構成されており、平均粒子径150nm、最大粒子径50μmおよび最小厚みは0.8nmであった。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は0.1ppm以下であった。
【0098】
(実施例3)
通電条件を1.0Aの定電流で10分間電解した以外は実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することによりグラファイトの薄片化グラファイトを154mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.00の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を8質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は0.1ppm以下であった。
【0099】
(実施例4)
電解液としてヘキサフルオロ燐酸の20%水溶液を100ml用いた以外は実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを100mg得た。このものは、元素分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.25の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を2質量%含む、薄片化グラファイトから構成されており、平均粒子径140nm、最大粒子径35μmおよび最小厚みは0.8nmであった。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は0.1ppm以下であった。
【0100】
(実施例5)
テトラフルオロ硼酸の50%水溶液を40ml用意し、これに容積が100mlになるようにエタノールを加えた。このものを電解液として用いた以外は実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを85mg得た。このものは、元素分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が1.50の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を10質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は0.1ppm以下であった。
【0101】
(実施例6~8)
エタノールを、表1-1に記載の非プロトン性極性溶媒に変更した以外は実施例5と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを得た。各実施例における薄片化グラファイトの取得量、酸素に対する炭素の質量比(C/O)、フッ素の含量、マンガンの含有量、及び、硫黄の含有量を表1-1に示す。
【0102】
【0103】
(実施例9)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の5%水溶液を40ml加えた。これに、陽極として、膨張黒鉛を高圧プレスした市販のシート(東洋炭素(株)製PF-HP)の一部(浸漬部分の面積1cm2、黒鉛として150mg)が電解液中に浸漬するよう固定し、陰極として白金線電極をセットした。これを直流電源に接続し、室温下で0.7Aの定電流で10分間電解した。反応終了後の陽極は、シートの形状を保っていたが、電解液に浸漬した部分の厚みは反応前に比べて明らかに増大していた。この陽極について、実施例1と同じ条件で後処理を実施することにより薄片化グラファイトを192mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が3.20の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を1.5質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は4ppmであった。
【0104】
(実施例10)
電解液としてテトラフルオロ硼酸の5%水溶液を40ml用意した。これに、陽極として、汎用の等方性黒鉛シートの一部(浸漬部分の面積1cm2、黒鉛として125mg)が電解液中に浸漬するよう固定し、陰極として白金線電極をセットした。これを直流電源に接続し、室温下で0.7Aの定電流で10分間電解したのち、実施例1と同じ条件で後処理を実施することにより薄片化グラファイトを95mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が3.80の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を1質量%含む、薄片化グラファイトから構成されており、平均粒子径180nm、最大粒子径55μmおよび最小厚みは0.8nmであった。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は0.03質量%(300ppm)であった。
【0105】
(実施例11)
通電時間を5分に変更した以外は実施例1と同じ条件で電解反応と後処理を実施することにより薄片化グラファイトを82mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が3.00の比率で酸素原子を含み、かつフッ素を2質量%含む、薄片化グラファイトから構成されていた。また、ICP分析の結果から、マンガンの含有量は0.1ppm以下であり、硫黄の含有量は0.1ppm以下であった。
【0106】
(実施例12)
電解液として50%硫酸水溶液を100ml用いた以外は実施例1と同じ条件で電解反応を行なった。この過程で、陽極においては、グラファイト箔の厚みのスムーズな増大は観測されず、陽極表面から顕著な気泡発生とともに黒色粒状小片が剥離して電解液中に脱落する現象が視認された。反応直後の陽極を撮影した写真を
図6に示した。この結果から、実施例1で用いた電解質と比較して、実施例12で用いた硫酸は黒鉛層間への電解質のインターカレートが遅すぎるために、グラファイトの薄板状構造物の生成に優先して、電気エネルギーが陽極の表面と端縁部に集中したことで、水や電解質の分解を惹起したものと認められた。その結果、副次的に発生した酸素および硫黄由来のガス成分が急激に黒鉛表面の組織崩壊を起したものと推定された。
【0107】
反応後のグラファイト箔を電解液から取り出し、これを洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄したのち凍結乾燥することで黒色半塊状物を36mg得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が13.60の比率であった。
【0108】
以上の結果から、電気化学反応を利用してグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造するに際し、テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を電解質として用いる第一の本発明は、硫酸を電解質とする場合と比較して、電流効率、時間効率および品質など産業上の利用価値の観点で圧倒的格段に優れていることが明らかである。
【0109】
(実施例13)
電解液として60%硝酸水溶液を100ml用いた以外は実施例1と同じ条件で電解反応を行なった。この過程で、陽極においては、グラファイト箔の厚みのスムーズな増大は殆ど観測されず、反応開始当初から、陽極表面で顕著な気泡発生と、その端縁部に僅かな膨張が認められたが、陽極の大部分に明らかな外観変化は認められなかった。反応直後の陽極を撮影した写真を
図7に示した。この結果から、実施例1で用いた電解質と比較して、実施例13で用いた硝酸は黒鉛層間への電解質のインターカレートが遅すぎるために、電気エネルギーが陽極の表面と端縁部に集中したことで、水や電解質の分解を惹起したために、陽極において電解液との接液部分の大半は原料黒鉛のまま変化することなく残る一方、端縁部はわずかに膨張したものと推定された。
【0110】
反応後のグラファイト箔を電解液から取り出し、これを洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄したのち凍結乾燥することで、陽極の端縁部から黒色粉状物が5.7mg得られた。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が7.80の比率であった。
【0111】
以上の結果から、電気化学反応を利用してグラファイトの薄板状構造物または薄片化グラファイトを製造するに際し、テトラフルオロ硼酸またはヘキサフルオロ燐酸を電解質として用いる第一の本発明は、硝酸を電解質とする場合と比較して、電流効率、時間効率および品質など産業上の利用価値の観点で圧倒的格段に優れていることが明らかである。
【0112】
(比較例1)
陽極として汎用の等方性黒鉛シートを使用した以外は実施例12と同じ条件で電解反応を行なった。反応後の等方性黒鉛シートを電解液から取り出し、これを洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄したのち凍結乾燥することで黒色半塊状物を得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が20を超える比率であった。この結果より、比較例1と比較して実施例12では酸素含有量が高いグラファイトが得られたことが分かる。
【0113】
(比較例2)
陽極として汎用の等方性黒鉛シートを使用した以外は実施例13と同じ条件で電解反応を行なった。反応後の等方性黒鉛シートを電解液から取り出し、これを洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄したのち凍結乾燥することで黒色半塊状物を得た。このものは、分析の結果から、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が20を超える比率であった。この結果より、比較例2と比較して実施例13では酸素含有量が高いグラファイトが得られたことが分かる。
【0114】
【0115】
(実施例14~16)
陽極として市販のグラファイト箔((株)カネカ製、縮重合系高分子化合物である芳香族ポリイミドを熱処理してグラファイト化した箔)(5cmx4cmx20μm)、陰極として白金線電極、電解液として20%テトラフルオロ硼酸水溶液(水80%)、20%テトラフルオロ硼酸のメタノール/水溶液(水30%、メタノール50%)、又は、20%硫酸水溶液(水80%)を使用した。各電極を直流電源に接続し、室温下、一定の電流密度(180mA・cm-2)で6分間、カットオフ電圧を14Vとして電解を行った。
【0116】
この過程で、テトラフルオロ硼酸を電解質とした系では、グラファイト箔は、破壊されずに、20μmから8mmに、400倍も厚みが増した。
図8に、テトラフルオロ硼酸を電解質とした系で電解を行った後のグラファイト箔の外観を示す。一方、硫酸を電解質とした系では、グラファイト層の剥離及び破壊が生じた。
【0117】
反応後のグラファイト箔をろ過で回収し、これを洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄してグラファイトの薄板状構造物を得た。これを水に分散した後、30分間超音波照射して、引き続き48時間凍結乾燥することで薄片化グラファイトを得た。
【0118】
以下では、電解液として20%テトラフルオロ硼酸水溶液を使用して得たグラファイトの薄板状構造物又は薄片化グラファイトを、EGOW(実施例14)とし、20%テトラフルオロ硼酸メタノール/水溶液を使用して得たグラファイトの薄板状構造物又は薄片化グラファイトを、EGOM(実施例15)とし、20%硫酸水溶液を使用して得たグラファイトの薄板状構造物又は薄片化グラファイトをEGOS(実施例16)という。
【0119】
(LSV)
各EGOを製造する系において、上記と同じ条件で、直線走査ボルタンメトリー(LSV)を実施した。結果を
図9に示す。EGO
WのLSV曲線(
図9中の(i))は、連続的な4つの反応過程を示している。即ち、0.3~1.6Vでのグラファイトのイオン化、1.7Vでのインターカレート、2.2~2.7Vでの官能基化、2.7V以降でのガス生成である。
【0120】
EGO
MのLSV曲線(
図9中の(ii))は、イオン化とインターカレートの電圧はEGO
Wの場合と同じであるが、官能基化の電圧範囲は2.0~3.0Vと広くなり、3.0Vまでガス生成が抑制された。
【0121】
これらに対し、EGO
SのLSV曲線(
図9中の(iii))は、わずか3つの反応段階のみを示した。即ち、0.5~1.5Vでのイオン化、1.6Vでのインターカレート、2.0V以降でのガス生成である。官能基化反応が存在しないことは、HSO
4
-イオンのガスへの分解がそのインターカレートと競合して、完全な酸化の前にグラファイト層が破壊される事実を反映している。
【0122】
EGOM及びEGOWでは、非破壊的なインターカレートによる薄片化グラファイトの合成が実現され、これにより、電解液の外でのグラファイト箔の酸化という予想外の現象が生じた。まず、0~5分間でインターカレートと官能基化が進行した。電解液中のグラファイトにインターカレートが生じて厚みが直ちに増大した。最後に、厚みの増大が、電解液の外にあるグラファイト箔の上部にまで進行した。この現象は、インターカレート及び官能基化時にグラファイト層が電解液を毛細管吸収するためであり、EGOSでは観察されなかった。
【0123】
(電解時間、電流密度、濃度の影響)
次いで、様々な電解条件で製造したEGOの官能基化度を評価するため、CHN元素分析を行って酸素に対する炭素の質量比(C/O)を評価した。
【0124】
定電流でのEGO
W合成における時間の影響に関しては、
図10(a)に示すように、電解時間が5分から10分に長くなると、C/Oが2.85から1.46に減少した。しかし、電解時間がさらに長くなっても酸化はさらに進行することはなかった。
【0125】
EGO
W合成における電流密度の影響に関しては、
図10(b)に示すように、電流密度が6から90mA・cm
-2になると、C/Oが6.14から1.38に減少した。電流密度が180mA・cm
-2を超えると、明らかな改善は見られなかった。EGO
Wの生産速度を上げるため、電流密度は180mA・cm
-2が望ましい。
【0126】
EGO
W合成におけるテトラフルオロ硼酸の濃度の影響に関しては、
図10(c)に示すように、最良の結果はテトラフルオロ硼酸の濃度が42%の時で、C/Oが0.99であった。電解液中の含水量が増加するとC/Oも増加した。これは、インターカレートしたBF
4
-イオンが少なくなり、水の分解によるガスの生成が増加することで説明できる。
【0127】
図10(d)に示すように、EGO
Mでも同じ傾向がみられ、テトラフルオロ硼酸の濃度が増加するとC/Oは減少した。しかし、テトラフルオロ硼酸の濃度が10%では、EGO
WではC/Oが1.82で、EGO
Mでは1.42であった。これはメタノールが、ガスの生成とグラファイト箔の破壊を抑制して均一で完全な官能基化を実現していることを示唆している。
【0128】
以下で使用したサンプルは最適条件下で製造したものである。即ち、EGOWについてはテトラフルオロ硼酸42%、水58%が最良の電解質であり、これを用いて作製したサンプルをEGOW-42%という。また、EGOMについてはテトラフルオロ硼酸20%、水30%、メタノール50%が最良の電解質であり、これを用いて作製したサンプルをEGOM-20%という。
【0129】
(比較例)CGOの作製
フレーク状の天然黒鉛3.0gを95%硫酸75mLに添加し、さらに、温度を10℃未満に保ちながらKMnO4 9.0gを徐々に添加した。得られた混合物を35℃で2時間撹拌した。得られた混合物を、激しく撹拌しつつ、温度が50℃を超えないように冷却しながら水75mLで希釈した。得られた懸濁液を更に30%H2O2水溶液7.5mLで処理した。得られた酸化グラファイト懸濁液を、中性になるまで水と遠心分離によって精製し、凍結乾燥して、CGOを得た。
高酸化CGO(HCGO)は、天然黒鉛の代わりにCGOを用いて上記の手順を実施することにより製造した。
【0130】
(XPS)
X線光電子分光法(XPS)を用いて、製造直後のサンプル表面の原子組成を明らかにした。XPSは、パスエネルギーを20eVとしてJPS-9030を用いて測定した。結果を
図11及び表2に示す。全てのサンプルでC-1sピークとO-1sピークが見られ、各EGOのサンプルでは小さなF-1sピークも見られた。EGO
W-42%の酸素含量は34.2重量%、酸素に対する炭素の質量比(C/O)は1.8であり、EGO
M-20%の酸素含量は35.2重量%、C/Oは1.7であった。一方、CGOの酸素含量は40.5重量%であった。
【0131】
また、EGOM及びCGOではC=O及び-COO-に相当する288-289eV付近のピークが見られたのに対し、EGOWでは当該ピークは見られなかった。結合エネルギー284-285eV付近のピークの高さに対する結合エネルギー288-289eV付近のピークの高さの比率が、EGOMでは0.09で、EGOWでは0であった。
【0132】
【0133】
(XRD)
図12a)に、EGO
W-42%、EGO
M-20%、及び、CGO(比較例)のXRDパターンを示す。XRDは、2θレンジを5-75°とし、Cu Kα放射(λ= 1,541Å)を用いたPANalytical Co. X’ part PROを使用して測定した。結果、EGO
MとCGOは同様のパターンを示したが、EGO
WではGO(002)回折ピークがシフトし、より高い角度に現れた。この結果は、EGO
Wのシート距離がEGO
MとCGOよりも小さいことを示している。
【0134】
図12b)に、660nmでのLambert-Beer係数を示す。この図ではJASCO V-670 分光光度計を用いて測定した660nmでの吸光度をセルの長さで除したものをプロットした。EGO
W-42%の係数は109.0、EGO
M-20%の係数は586.5、CGOの係数は65.9、及び高酸化CGO(HCGO)の係数は39.7Lg
-1m
-1であった。この結果より、共役電子構造がEGOではCGOよりも破壊が少なく、EGO
Mは、EGO
Wよりも連続的な共役電子構造を有していることが分かる。
【0135】
図12c)に、ラマン分光分析の結果を示す。ラマン分光は、Horiba Jobin Yvon Inc. T-64000を使用して測定した。電解前のグラファイト箔には、Gバンドと2Dバンドに対応する1578と2714cm
-1で強いピークがあるが、電解後には、Dバンドに対応する1360cm
-1に新たなピークが生じた。
【0136】
図12d)に、FT-IR分析の結果を示す。FT-IRは、SHIMADZU IR Tracer 100を使用して測定した。各サンプルで、O-H伸縮振動(3420cm
-1)、C=O伸縮振動(1720-1740cm
-1)、C=C伸縮振動(1590-1620cm
-1)、C-O振動(1250-1000cm
-1)という同様のスペクトルパターンが見られた。これらに加えて、EGO
M-20%では、メトキシ基(2976、1467、1056cm
-1)に特徴的なバンドを示した。
【0137】
EGOM-20%とEGOW-42%では、CGOと比較して、O-H伸縮振動(3420cm-1)のピークがシャープであった。当該ピークの半値幅は、EGOM-20%では334cm-1、EGOW-42%では257cm-1、CGOでは1115cm-1であった。
【0138】
また、EGOM-20%では、C=O伸縮振動(1720-1740cm-1)のピークがEGOW-42%よりも大きく現れた。波長1590-1620cm-1付近のピークの高さに対する波長1720-1740cm-1付近のピークの高さの比率は、EGOM-20%では0.58、EGOW-42%では0.19であった。
【0139】
図12e)に、固体
13C NMRの結果を示す。固体
13C NMRは、マジック角スピニング(MAS)を10kHzとしたNMRシステム(11.7Tマグネット,DD2分光計;Agilent technology Inc.)を使用して測定した。各EGOではエポキシ基(60ppm)、水酸基(72ppm)、カルボキシル基(168ppm)の存在が確認され、EGO
M-20%では更に、アルキル基(16ppm)、フッ素基(85ppm)、アルコキシド基(60ppm)の存在が示された。
【0140】
CGOでは水酸基(72ppm)のピークが大きく現れたのに対し、EGOM-20%とEGOW-42%では、当該ピークはほぼ見られなかった。即ち、化学シフト130ppm付近のピークの高さに対する化学シフト70ppm付近のピークの高さの比率が、CGOでは1.3であったのに対し、EGOM-20%では0.43、EGOW-42%では0.38であった。
【0141】
また、EGOW-42%では、エポキシ基又はアルコキシド基(60ppm)のピークが、EGOM-20%よりも小さいものであった。即ち、化学シフト70ppm付近のピークの高さに対する化学シフト60ppm付近のピークの高さの比率が、EGOW-42%では1.5、EGOM-20%では3.1であった。
【0142】
GOが有する官能基は熱処理により除去できる。CGOは通常130~200℃で一酸化炭素、二酸化炭素、及び水を放出する。
図12f)に、各GOのTGA-MSの結果を示す。TGAは、RIGAKU TG 8121を用いて行った。TGA-MSの結果より、EGO
W-42%は200℃と320℃でフッ化水素を放出し、EGO
M-20%は200℃と320℃でフッ化水素とメタンを放出した。これらの結果は、EGO
W-42%がフッ素を含むこと、EGO
M-20%がフッ素と、メトキシ基及び/又はメチル基を含むことを支持する。
【0143】
図13(a)及び(b)に、走査型電子顕微鏡(SEM)の結果を示す。SEMの測定にあたっては、SiO
2/Si基材上に各EGOを堆積させた。100枚以上のEGOから算出した縦方向のサイズの分布は、EGO
W-42%では0.45±0.03μm(0.04-1.78μm)、EGO
M-20%では0.12±0.01μm(0.031-0.363μm)であった。
【0144】
図13(c)及び(d)に、原子間力顕微鏡(AFM;SHIMADZU SPM-9700HT)の結果を示す。AFMの測定にあたっては、各EGOをスピン塗布で雲母上に堆積させた。100枚以上のEGOフレークの分析より、各フレークの平均厚みは、EGO
W-42%では1.36nm、EGO
M-20%では1.27nmであった。また、EGO
W-42%では62%以上のシートが単層(<1.5nm)で、95%以上が単層~二層(~2nm)であり、EGO
M-20%では88%以上のシートが単層(<1.5nm)で、97%以上が単層~二層(~2nm)であることが分かった。
【0145】
図13(e)-(j)に、作製直後の各EGOとCGOの分散性を評価した結果を示す。凍結乾燥したGOを0.33mgmL
-1濃度で水又はメタノール中に分散させた。いずれも水中で良好な分散性を示し、少なくとも2か月間、ネマチック液晶の性質を示した(
図13(e)-(g)、2か月後の状態を撮影した写真)。これに対し、メタノール中では、EGO
W-42%とCGOは1週間後に凝集した(
図13(h)及び(i)、1週間後の状態を撮影した写真)が、EGO
M-20%のみ1週間後も分散したままであった(
図13(j)、1週間後の状態を撮影した写真)。EGO
M-20%はメタノールとの親和性が高いことが分かる。
【0146】
(還元後の特性)
EGOとCGOを化学還元と熱的還元に付した。化学還元では、作製直後のGOを水に分散させ、ヒドラジン0.4mLg-1を添加した後、得られた溶液を90℃で2時間加熱した。熱的還元は、炉内で220℃を2時間、次いで600℃を1時間維持することで行った。いずれでも、得られた物質を更に水中に分散させ、ろ紙でろ過した後、圧縮してパレットを作製した。ヒドラジンで還元したEGOW、EGOM、及びCGOをそれぞれ、hyEGOW、hyEGOM、及びhyCGOといい、熱的還元を行ったEGOW、EGOM、及びCGOをそれぞれ、tEGOW、tEGOM、及びtCGOという。
【0147】
図14(a)、(b)、(c)、及び(d)に、還元後の各GOについて測定したXRDの結果、XPS C1sの結果、層間距離の結果、及びXPS原子組成の結果を示す。XRDではいずれの還元GOでも回折角が高めにシフトした。これはグラフェン表面にある官能基の除去によるものであり、XPSの結果からも確認できる。
【0148】
図15では、還元後の各GOについて四端子法により測定した導電率の結果を示す。この結果から、化学還元よりも熱的還元が導電率向上の効果が高いこと、及びEGO
Mでその効果が特に高いことが分かる。
【0149】
(リチウムイオン電池の負極としての利用)
更に、リチウムイオン電池の負極における活物質として各tGOを使用した。
まず、各EGO又はCGOをN2雰囲気下、650℃で加熱して、tEGO又はtCGOを得た。これらtEGO、tCGO又は黒鉛を活物質とし、導電材料としてアセチレンブラック、及び、結合剤としてポリフッ化ビニリデンを、重量比7:2:1で使用し、さらに溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを使用して、集電板として銅箔を使用して負極を作製した。
正極として金属リチウムを使用し、Whatman1823-257をセパレータとしてCR2032 コイン型電池を組み立てた。電解液は、容積比が3:7の炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)の混合物に溶解した1M L-1 LiPF6とした。
【0150】
得られたリチウムイオン電池について、電位窓を0.01~3Vとしてマルチチャンネル電池試験機(580 8 channel Battery Cycler)を用いて充放電サイクル試験を行った。結果を
図16a)に示す。tEGO
W、tEGO
M、及びtCGOはいずれも、黒鉛を超える同様の性能を示した。充電率372mAg
-1の時の容量は495、554、513mAhg
-1で、充電率7440mAg
-1の時の容量は163、195、176mAhg
-1であった。
【0151】
(ろ過膜としての利用)
EGOの二次元的な形態を有効に活用するために、以下の手順でEGOの薄膜を作製した。まず、各GO粉末を脱イオン水に0.1mg/mLで分散させ、6000rpmで5分間、2回遠心分離にかけて沈殿物を除去した。得られたGO溶液6mLを、ポリカーボネート膜を用いてろ過し、室温で1日乾燥させて薄膜を得た。
【0152】
これら薄膜について、染料分子(メチルオレンジ10μgmL
-1)の除去性を、35kgfcm
-2で流速0.1mLmin
-1の条件で評価した。
図16b)にその結果を示す。EGO
W-42%で作製した膜はメチルオレンジ分子の88%を除去し、EGO
M-20%で作製した膜はメチルオレンジ分子の97%を除去した。この結果はCGOで作製した膜の性能と同等である。