IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 学校法人福岡大学の特許一覧

特許7457308抗血栓性材料、抗血栓性材料の製造方法、人工臓器及び抗血栓性付与剤
<>
  • 特許-抗血栓性材料、抗血栓性材料の製造方法、人工臓器及び抗血栓性付与剤 図1
  • 特許-抗血栓性材料、抗血栓性材料の製造方法、人工臓器及び抗血栓性付与剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】抗血栓性材料、抗血栓性材料の製造方法、人工臓器及び抗血栓性付与剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/06 20060101AFI20240321BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61L33/06 200
A61L27/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021514925
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2020016144
(87)【国際公開番号】W WO2020213529
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019077056
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】平井 翔
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143787(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150000(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 33/00-33/18
A61L 27/00-27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一部に設けられた表面改質層と、を有し、
前記表面改質層が、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体を含み、
前記アルキレン鎖の炭素数が17~22であり、
前記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、前記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、抗血栓性材料。
【化1】
[一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。]
【請求項5】
基材と、前記基材の少なくとも一部に設けられた表面改質層と、を有し、
前記表面改質層が、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体を含み、
前記アルキレン鎖の炭素数が17~22であり、
前記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、前記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、人工臓器。
【化2】
[一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。]
【請求項6】
抗血栓性材料の製造方法であって、
基材と、ブロック共重合体を含む溶液と、を接触させることで、前記基材の少なくとも一部に前記ブロック共重合体を含む表面改質層を形成する工程、を含み、
前記ブロック共重合体が、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有し、前記アルキレン鎖の炭素数が17~22である第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位と、を有し、前記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、前記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、抗血栓性材料の製造方法。
【化3】
[一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。]
【請求項12】
アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有し、前記アルキレン鎖の炭素数が17~22である第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体を含み、前記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、前記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、抗血栓性付与剤。
【化4】
[一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗血栓性材料、抗血栓性材料の製造方法、人工臓器及び抗血栓性付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用材料は生体外の材料で構成されることが多く、生体分子によって異物として認識される。生体組織と上記材料とが接触する際、タンパク質の材料表面への非特異的吸着及び変性等が発生し、凝固系及び血小板系等の活性化が起こり得る。そこで、医療用材料の基材表面に生体親和性(例えば、抗血栓性)を付与するため層を形成する方法が検討されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、温度応答性高分子化合物の医療用具への応用のため、生体適合性と温度応答性を併せ持つ高分子が検討されている(例えば、特許文献2)。特許文献2では、上記高分子が、ポリエチレンオキサイド鎖を側鎖に有する(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位を含むことが示されており、当該高分子が共重合体であってよいことが記載されている。一方、特許文献2には、共重合体を構成する各ユニットの重量平均分子量等による影響については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-082174号公報
【文献】国際公開2004/087228号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療用材料は生体中においても比較的安定に存在する必要があるために、化学的に安定な基材を用いて製造されることが多い。一方で、化学的な安定性に優れるために、これらの基材に抗血栓性を付与することは困難であり、基材となる材料の選択肢が限定され得る。また、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の高分子を用いて基材上に抗血栓性を付与する場合、上記高分子と基材との接着が十分でない場合があり、例えば、血液や体液などの流動に曝されることによって、上記高分子の基材からのはく離が生じ得る。抗血栓性を付与する処理を行うために、基材の表面に対してプラズマ処理するなど特殊な加工を行うことも考えられるが、製造工程が煩雑となる傾向にある。
【0006】
本開示は、抗血栓性に優れ、容易に製造可能な抗血栓性材料を提供することを目的とする。本開示はまた、抗血栓性に優れる抗血栓性材料の製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、基材の改質に有用な抗血栓性付与剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、基材と、上記基材の少なくとも一部に設けられた表面改質層と、を有し、上記表面改質層が、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体を含み、上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、抗血栓性材料を提供する。
【0008】
【化1】
【0009】
一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。
【0010】
上記抗血栓性材料は、表面改質層が上記第二の構造単位を有するブロック共重合体を含み、ブロック共重合体における各ユニットの重量平均分子量が上記範囲内であることから、優れた抗血栓性を有する。また、上記第一の構造単位を有するブロック共重合体を含み、ブロック共重合体における各ユニットの重量平均分子量が上記範囲内であることから、基材に対して表面改質層を設けることが容易となっており、上記抗血栓性基材は容易に製造することができる。
【0011】
上記アルキレン鎖の炭素数が8以上であってもよい。上記アルキレン鎖及び上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数が上記範囲内であることによって、上記ブロック共重合体の側鎖結晶性をより向上させることができ、表面改質層と基材との接着力を向上させることができる。上記アルキレン鎖及び上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数を上記範囲内とすることによって、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。
【0012】
上記基材が難改質性の基材であってもよい。上述の表面改質層が上述の特定のブロック共重合体を含むことから、難改質性の基材であっても表面改質層を設けることができる。
【0013】
上記基材が、ポリオレフィン、ポリスチレン、及びフッ素系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0014】
本開示の一側面は、基材と、上記基材の少なくとも一部に設けられた表面改質層と、を有し、上記表面改質層が、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体を含み、上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、人工臓器を提供する。
【0015】
【化2】
【0016】
一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。
【0017】
上記人工臓器は、上述の特定のブロック共重合体を含む表面改質層を有することから、優れた抗血栓性を有する。また表面改質層が上記特定のブロック共重合体を含むことから、容易に製造可能である。
【0018】
本開示の一側面は、抗血栓性材料の製造方法であって、基材と、ブロック共重合体を含む溶液と、を接触させることで、上記基材の少なくとも一部に上記ブロック共重合体を含む表面改質層を形成する工程、を含み、上記ブロック共重合体が、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、下記式(1)で表される第二の構造単位とを有し、上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、抗血栓性材料の製造方法を提供する。
【0019】
【化3】
【0020】
一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。
【0021】
上記抗血栓性材料の製造方法は、上記第一の構造単位を有し、各ユニットの重量平均分子量が上記範囲内であるブロック共重合体を含む溶液を用いることから、基材上に表面改質層を容易に形成することができる。上記抗血栓性材料の製造方法は、上記第二の構造単位を有し、各ユニットの重量平均分子量が上記範囲内であるブロック共重合体を含む表面改質層を基材上に有することから、得られる抗血栓性材料は、抗血栓性に優れる。
【0022】
上記溶液の温度が室温以上であってもよい。上記溶液の温度を室温以上とすることによって、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。上記溶液の温度を室温以上とすることによってまた、得られる抗血栓性材料の熱に対する安定性をより向上させることができる。
【0023】
上記表面改質層を形成する工程において、上記基材及び上記溶液の少なくとも一方を60℃以上に加熱した状態で、上記基材と上記溶液とを接触させてもよい。基材及び溶液の少なくとも一方を60℃以上に加熱した状態で両者を接触させることで、上記溶液中のブロック共重合体を基材表面により強固に接着することができる。このような作用によって、血液や体液などの流動による、表面改質層の基材からのはく離をより抑制することができる。
【0024】
上記アルキレン鎖の炭素数が8以上であってよい。上記アルキレン鎖及び上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数を上記範囲内とすることによって、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。
【0025】
上記基材が難改質性の基材であってもよい。上述の抗血栓性材料の製造方法は、上述の特定のブロック共重合体を含む溶液を用いていることから、難改質性の基材を用いる場合であっても抗血栓性材料を製造することができる。抗血栓性材料の製造の際に、必ずしも基材の前処理をする必要はない。
【0026】
上記基材が、ポリオレフィン、ポリスチレン、及びフッ素系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0027】
本開示の一側面は、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体を含み、上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000である、抗血栓性付与剤を提供する。
【0028】
【化4】
【0029】
一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基又はエチル基を示し、nは1~6の整数を示し、mは1~100の整数を示し、xは1以上の整数を示す。
【0030】
上記抗血栓性付与剤は、第一の構造単位及び第二の構造単位を有し、各ユニットの重量平均分子量が上記範囲内であるブロック共重合体を含むことから、基材等に対して抗血栓性を付与するために好適である。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、抗血栓性に優れ、容易に製造可能な抗血栓性材料を提供することができる。本開示によればまた、抗血栓性に優れる抗血栓性材料の製造方法を提供することができる。本開示によればまた、基材の改質に有用な抗血栓性付与剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、抗血栓性材料の一例を示す模式断面図である。
図2図2は、実施例における抗血栓性材料の抗血栓性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、各要素の寸法比率は図面に図示された比率に限られるものではない。
【0034】
<抗血栓性材料>
抗血栓性材料の一実施形態は、基材と、上記基材の少なくとも一部に設けられた表面改質層と、を有する。図1は、抗血栓性材料の一例を示す模式断面図である。抗血栓性材料10は、基材2と、基材2上に設けられた表面改質層4とを備える。図1において、表面改質層4は、基材2の表面のすべてに設けられていているが、基材2の表面の一部にのみに設けられていてもよい。
【0035】
基材2は、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリイミド、ポリウレタン、及びフッ素系ポリマー等を含んでよく、ポリオレフィン、ポリスチレン、及びフッ素系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどが挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリシクロヘキサンテレフタレート等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン等が挙げられる。フッ素系ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。基材2は、難改質性の基材であってもよく、ポリオレフィン、ポリエステル及びフッ素系ポリマーからなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。本明細書において「難改質性」とは、有機溶媒及び極性溶媒に対する溶解性が低いため、又は結晶性が高いためにプラズマ等の物理的処理に対する耐性が高いために、表面に種々の機能基を導入することが著しく困難な特性を意味する。
【0036】
基材2の形状は、例えば、シート状、チューブ状、及びロッド状等であってよい。基材2はまた、凹凸を有していてもよく、多孔質体、織布、及び不織布等であってよく、人工臓器のような複雑な形状を備えるものであってもよい。抗血栓性材料は、後述するような溶液に接触させる方法によって製造することができるため、形状に関わらず、表面に表面改質層4を設けることができる。
【0037】
表面改質層4は、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、下記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体を含む。表面改質層4は、上記ブロック共重合体のみからなってもよい。ハロゲン化アルキレン鎖を構成するハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、及び臭素等を含んでもよく、フッ素を含んでもよい。
【0038】
第一の構造単位がアルキレン鎖を側鎖に有する場合、上記アルキレン鎖の炭素数は8以上であってよい。上記アルキレン鎖の炭素数は、例えば、10以上、12以上、14以上、16以上、又は17以上であってよい。上記アルキレン鎖の炭素数を上記範囲内とすることによって、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。上記アルキレン鎖の炭素数は、例えば、30以下、28以下、26以下、24以下、22以下、20以下、又は18以下であってよい。上記アルキレン鎖の炭素数が上記範囲内であることで、上記ブロック共重合体の重合度の調整をより容易なものにできる。上記アルキレン鎖の炭素数は上述の範囲内で調整することができ、例えば、8~30、又は8~16であってよい。上記アルキレン鎖の炭素数は上述の範囲内で調整することができ、表面改質層と基材との接着力及び抗血栓性をより高水準で両立し、且つ抗血栓性材料に付着した血小板のステージの進行をより抑制する観点から、例えば、8~30、16~30、又は17~22であってよい。上記アルキレン鎖は、直鎖状であってよい。
【0039】
第一の構造単位がハロゲン化アルキレン鎖を側鎖に有する場合、上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数は3以上、又は4以上であってよい。上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数を上記範囲内とすることによって、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数は、例えば、6未満であってよく、5以下であってよい。上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数が上記範囲内であることで、生体材料への適性をより向上させることができる。上記ハロゲン化アルキレン鎖の炭素数は上述の範囲内で調整することができ、例えば、3~6、又は3~5であってよい。上記ハロゲン化アルキレン鎖は、直鎖状であってよい。
【0040】
【化5】
【0041】
一般式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を示す。Rはメチル基又はエチル基を示す。nは1~6の整数を示し、例えば、1~5の整数、又は1~3の整数であってよい。mは1~100の整数を示し、例えば、1~30の整数、又は1~9の整数であってもよい。xは1以上の整数を示す。
【0042】
ブロック共重合体の重量平均分子量は、19000以上、又は20000以上であってよい。ブロック共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であることで、ブロック共重合体の溶液粘度を適度なものとすることができ、かつ、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。ブロック共重合体の重量平均分子量はまた、例えば、150000以下、100000以下、50000以下、又は30000以下であってよい。ブロック共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であることで、ブロック共重合体の溶液粘度の上昇を抑制し、基材上に表面改質層を形成する際の作業性をより向上させることができる。ブロック共重合体の重量平均分子量が上記範囲内とすることで、抗血栓性材料の製造コストをより低減することができる。ブロック共重合体の重量平均分子量は上述の範囲内で調整してもよく、例えば、19000~150000、又は19000~30000であってよい。
【0043】
本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される値を意味し、ポリスチレン換算分子量である。抗血栓性基材における表面改質層を構成する重合体を測定対象とする場合には、例えば、核磁気共鳴法(H-NMR及び13C-NMR)、並びに質量分析法(MS)を使用して共重合体の重量平均分子量を決定することができる。また、重合体がブロック共重合体の場合、上述の方法に加えて元素分析を実施することによって、ブロック共重合体を構成するユニットの重量平均分子量を特定することができる。上記ユニットは、例えば、第一の構造単位及び第二の構造単位を含み、第一の構造単位又は第二の構造単位のみから構成されていてよい。
【0044】
上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量は、9000以上であるが、例えば、10000以上であってよい。上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が上記範囲内であることで、基材2と表面改質層4との接着安定性により優れる。上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が上記範囲内であると、抗血栓性材料10を製造する際に基材2上に表面改質層4を設けることがより容易となる。
【0045】
上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量は、15000以下であるが、例えば、14000以下であってよい。上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が上記範囲内であると、抗血栓性材料10を製造する際のブロック共重合体の溶液粘度を適度なものとすることができ、基材2上に表面改質層4を設けることがより容易となる。
【0046】
上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量は、10000以上であるが、例えば、11500以上、又は12000以上であってよい。上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が上記範囲内であることで、抗血栓性材料10の抗血栓性により優れる。
【0047】
上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量は、40000以下であるが、例えば、30000以下、15000以下、又は13000以下であってよい。上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が上記範囲内であることで、適度な親水性を保持することが可能であり、溶解性の低下を抑制することができる。上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が上記範囲内であると、抗血栓性材料10を製造する際に、水等の溶媒への溶解性を十分に保持することから、基材2上に表面改質層4を設けることがより容易となる。
【0048】
上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~15000であり、かつ、上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~40000であるが、上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量、及び上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量は、上述の範囲内で調整してもよい。例えば、上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が9000~14000であり、かつ、上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量が10000~12000であってよい。第一の構造単位を含むユニット及び第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量をそれぞれ上記範囲内とすることによって、得られる抗血栓性材料の抗血栓性をより向上させることができる。第一の構造単位を含むユニット及び第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量をそれぞれ上記範囲内とすることによって、ブロック共重合体の溶液粘度を適度なものとすることができ、かつ、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。また上記第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量は、上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量よりも大きくてよい。第二の構造単位を含むユニットの重量平均分子量を上記第一の構造単位を含むユニットの重量平均分子量よりも大きくなるように上記ブロック共重合体を設計することによって、抗血栓性をより向上させ、且つ抗血栓性材料に付着した血小板のステージの進行をより抑制することができる。
【0049】
抗血栓性材料10は抗血栓性に優れる。抗血栓性材料10に対する血小板の粘着数は、例えば、3×10cells/cm未満、2×10cells/cm未満、1×10cells/cm未満、0.5×10cells/cm未満、0.3×10cells/cm未満、又は0.1×10cells/cm未満とすることができる。抗血栓性材料10に対する血小板の粘着数は、後述する実施例に記載の血小板粘着試験によって観測される値を意味する。
【0050】
抗血栓性材料10は基材表面の親水性に優れる。抗血栓性材料10の表面における接触角は、例えば、100°未満、90°未満、又は80°未満とすることができる。抗血栓性材料10の表面における接触角は、後述する実施例に記載の方法によって測定される値を意味する。
【0051】
抗血栓性材料10は、例えば、血液等の生体物質に接触する部位を有する人工臓器及び医療用具等に好適に使用することができる。抗血栓性材料10は、具体的には例えば、血液フィルター、血液保存バッグ、血小板保存バック、人工肺装置、血液回路、人工血管、人工心臓、留置針、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、人工関節、内視鏡、及び透析装置等に好適に使用することができる。
【0052】
<抗血栓性材料の製造方法>
上述の抗血栓性材料は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。抗血栓性材料の製造方法の一実施形態は、ブロック共重合体を用意する工程(工程S1)と、基材と、上記ブロック共重合体を含む溶液と、を接触させることで、上記基材の少なくとも一部に上記ブロック共重合体を含む表面改質層を形成する工程(工程S2)と、を含む。上記ブロック共重合体は、上述のブロック共重合体であってよい。すなわち、上記ブロック共重合体は、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖からなる群から選択される少なくとも1種を側鎖に有する第一の構造単位と、上記一般式(1)で表される第二の構造単位とを有するブロック共重合体であってよい。
【0053】
工程S1は、例えば、既成のブロック共重合体を用意してもよく、所定のモノマーを重合してブロック共重合体を調製する工程であってもよい。工程S1における重合は、例えば、リビングラジカル重合であってよい。第一のモノマーを重合し、第一の構造単位を含むユニットを調製した後、第二のモノマーを追加し重合させて、第二の構造単位を含むユニットを調整してもよい。リビングラジカル重合の種類は、例えば、ニトロキシド媒体重合(NMP)法であってよい。重合溶媒としては、例えば、酢酸ブチル、トルエン、及びキシレン等を用いてもよい。
【0054】
第一のモノマーは第一の構造単位を与える重合性の化合物である。第一のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸と、アルキレン鎖及びハロゲン化アルキレン鎖の少なくとも一方を有するアルコールとのエステル等を用いることができる。第一のモノマーは、例えば、アルキル(メタ)アクリレート及びフルオロアルキル(メタ)アクリレート等であってよい。第一のモノマーの種類及び配合量などは、得られるブロック共重合体を含む溶液を接触させる基材の種類によって調整することができる。例えば、オレフィンを含む基材を用いる場合には、アルキル(メタ)アクリレートを用いてもよく、フッ素系ポリマーを含む基材を用いる場合には、フルオロアルキル(メタ)アクリレートを用いてもよい。
【0055】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレートともいう)、及びドコシル(メタ)アクリレート(ベヘニル(メタ)アクリレートともいう)等が挙げられる。フルオロアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル(メタ)アクリレート、及び1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロ-n-デシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
第二のモノマーは第二の構造単位を与える重合性の化合物である。第二のモノマーの種類及び配合量等は、製造する抗血栓性材料に求められる抗血栓性等の性質に応じて調整することができる。
【0057】
第二のモノマーとしては、例えば、オキシアルキレン基等を有する重合性化合物を用いることができる。第二のモノマーとしては、例えば、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2-(2-エトキシ)エトキシエチルビニルエーテル、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルビニルエーテル、及び2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エトキシビニルエーテル等が挙げられる。上記化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
重合開始剤としては、例えば、2-[[tert-ブチル[1-(ジエトキシホスフィニル)-2,2-ジメチルプロピル]アミノ]オキシ]イソ酪酸等のアルコキシアミン系開始剤を用いることができる。リビングラジカル重合の種類(例えば、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、及びニトロキシドラジカル重合法(NMP法)等)に応じて、重合開始剤は、連鎖移動剤及び金属錯体等と併用してもよい。この場合、重合開始剤は、例えば、トリチオカルボナート等のRAFT剤、α-クロロケトン等の有機ハロゲン化物、及び(2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシ)ラジカル等のNMP開始剤などを用いることができる。上記化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本実施形態に係る製造方法は工程S1を含むが、工程S1は任意の工程である。上記抗血栓性材料の製造方法としては、例えば、上述のブロック共重合体を含む溶液(例えば、抗血栓性付与剤)を直接入手して、工程S2を実施してもよい。
【0060】
工程S2は、基材の少なくとも一部に表面改質層を形成する被覆処理を行う工程である。工程S2において、基材とブロック共重合体を含む溶液とを接触させる方法としては、例えば、上記溶液を基材に塗布する方法、及び上記溶液に基材を浸漬させる方法等を用いることができる。基材の形状による影響を低減して抗血栓性材料をより容易に製造する観点からは、基材とブロック共重合体を含む溶液とを接触させる方法としては、上記溶液に基材を浸漬させる方法であってよい。
【0061】
上記溶液は、ブロック共重合体のみからなってもよく、ブロック共重合体の他に溶媒を含んでもよい。上記溶液は、好ましくは溶媒を含み、ブロック共重合体が溶解したものである。溶媒は、好ましくはブロック共重合体を溶解させることができるものである。溶媒は、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、及びジメチルスルホキシド(DMSO)等であってよい。
【0062】
工程S2において、上記溶液の温度が室温以上に調整してもよい。上記溶液の温度は、例えば、30℃以上、60℃以上、又は80℃以上であってよい。上記溶液の温度は、例えば、120℃以下、又は100℃以下であってよい。上記溶液の温度を上記範囲内とすることによって、基材上に表面改質層をより容易に形成することができる。上記溶液の温度を上記範囲内とすることによってまた、得られる抗血栓性材料における基材と表面改質層との接着安定性をより向上させることができる。接着安定性の向上が生じる作用は定かではないが、発明者らは、上記溶液の温度を上昇させることによって、基材表面を構成する分子の活性を挙げると共に、溶液中のブロック共重合体が基材表層に入り込むことを可能とするためと推定する。
【0063】
工程S2において、上記溶液の温度が60℃以上とすることによって、基材と上記ブロック共重合体との接着をより強固なものとすることができ、血液や体液などの流動によって、基材から表面改質層がはく離することをより十分に抑制できる。換言すれば、表面改質層を形成する基材への被覆処理を60℃以上の条件下で行うことによって、上述のような効果を得ることができる。上述の基材からの表面改質層のはく離抑制効果は、上記溶液の温度を80℃以上とすることによってより向上させることができる。工程S2は、好ましくは、基材及び上記溶液の少なくとも一方を60℃以上に加熱した状態で、上記基材と上記溶液とを接触させることで実施される。より具体的には、上記被覆処理の方法は、ブロック共重合体を含む溶液を60℃以上に加熱し、加熱された溶液に対して基材を浸漬させる方法であってよく、基材を60℃以上に加熱し、加熱された基材にブロック共重合体を含む溶液を接触させる方法であってもよく、ブロック共重合体を含む溶液及び基材の両方を60℃以上に加熱したうえで、両者を接触させる方法であってもよい。上記被覆処理における温度は、好ましくは80℃以上である。ブロック共重合体を含む溶液を基材に接触させる手段は例えば、スプレー等であってよい。
【0064】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、共通する構成については互いの説明を適用することができる。また本開示は、上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0065】
以下、実施例、比較例及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
〔抗血栓性付与剤の調製〕
以下に示す反応式にしたがって、ポリ(ステアリルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)を合成した。
【0067】
【化6】
窒素置換したセパラブルフラスコに、5.0g(15.4mmol)のステアリルアクリレート(表1中、STAで示す)、及び5.7mLの酢酸ブチルを測り取り、110℃の条件下で、10分間撹拌しながら、フラスコ内を脱気した。次に、0.34g(0.9mmol)の2-[[tert-ブチル[1-(ジエトキシホスフィニル)-2,2-ジメチルプロピル]アミノ]オキシ]イソ酪酸(アルケマ株式会社製、アルコキシアミン系開始剤、商品名:BlocBuilder、「BlocBuilder」は登録商標)を加えて、110℃の条件下で、1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、ステアリルアクリレートが消費されたことを確認した。重合によって得られたポリ(ステアリルアクリレート)の重量平均分子量は9000であった。
【0068】
次に、上記フラスコに2.5g(13.3mmol)の2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート(表1中、DEEAで示す)及び2.8mLの酢酸ブチルを加え、110℃の条件下で、更に1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートが消費されたことを確認した。その後、上記フラスコ内の溶液を空気中に暴露させることで、ラジカル重合反応を停止させた。
【0069】
エタノールを用いてラジカル重合反応の生成物を精製することで、ポリ(ステアリルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)(反応式中、SCCBCで示す)を得た。追重合によって得られたSCCBCの重量平均分子量は21000であった。つまり、ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)のユニット部分の重量平均分子量は12000であった。得られたSCCBCの分子量分散(Mw/Mn)は1.41であった。
【0070】
なお、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定においては、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を使用して、導出した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件は以下のとおりとした。
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件>
装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel SuperHZM-N、及びTSKgelguardcolumn SuperHZ-H(いずれも東ソー株式会社製)
溶離液:酢酸ブチル
流量:0.6mL/分
サンプル量:10μL
測定温度:40℃
【0071】
ステアリルアクリレート及び2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートは、それぞれ、使用前に安定剤を除去してから用いた。ステアリルアクリレートは60℃の条件下で液体とし、ここに安定剤除去剤を加えて、60℃の条件下で10分間撹拌することによって安定剤を除去した。2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートは、安定剤除去剤を加えて、室温の条件下で10分間撹拌することによって安定剤を除去した。
【0072】
〔抗血栓性材料の調製〕
上述のとおり合成したSCCBCを用いて、抗血栓性材料の調製を行った。
【0073】
容器に、0.04gのSCCBC、及び40gのエタノールを測り取り、SCCBCのエタノール溶液(濃度:0.1重量%)を調製した。次に、高密度ポリエチレン製の基材(京葉ポリエチレン株式会社性、商品名:FX201、表面処理なし、形状は縦:8mm、横:8mm、厚さ:0.5mmの板状)を、60℃に加温された上記エタノール溶液に10分間浸漬させた。10分間経過後、基材に付着した液をふき取り、抗血栓性材料を得た。なお、上記基材は、上記エタノール溶液に浸漬する前にエタノールで洗浄した。
【0074】
〔抗血栓性材料の抗血栓性評価〕
上述のとおり調製した抗血栓性材料(基材が板状のもの)を試験片として、抗血栓性の評価を行った。抗血栓性の評価は、後述する血小板粘着試験によって行った。
【0075】
まず、ヒト血液から血小板溶液を調製した。具体的には、ヒト血液を、回転数:1500rpmの条件下で5分間遠心分離し、上澄みを多血小板血しょう(platelet rich plasma:PRP)として回収した。上澄みを回収後、残りのヒト血液成分を、回転数:4000rpmの条件下で10分間遠心分離し、上澄みを小血小板血しょう(platelet poor plasma:PPP)として回収した。上記PPPをリン酸緩衝液(phospate buffered saline:PBS)溶液を用いて800倍に希釈して希釈液を調製した。当該希釈液を、上記PRPに加え、血小板濃度が4×10cell/mLになるまで希釈して、血小板溶液を調製した。血小板溶液の濃度は、顕微鏡にて観測される血小板数を確認することで行った。
【0076】
次に、測定対象となる試験片を走査型電子顕微鏡(SEM)用の試料台に固定した。200μLの上記血小板溶液を、試験片上に滴下し、37℃の条件下で1時間静置した。その後、試験片をPBSで2回洗浄した。PBS洗浄後の試験片を、1%グルタルアルデヒド溶液に浸漬し、37℃の条件下で2時間静置して、表面状態を固定した。固定した試験片は、PBS、PBS及び水の混合液(PBSと水とを体積比で1対1となるように混合した溶液)、及び水の順にそれぞれ、10分間、8分間及び8分間浸漬させて洗浄し、更に水に浸漬させて8分間洗浄させた後、室温にて風乾した。
【0077】
風乾後の試験片上の血小板粘着数を、走査型顕微鏡を用いて計測した。ここで、血小板の粘着数は、血小板のステージによって、I型(正常型:血液中と同様の球状の形態で材料表面に粘着している血小板)、II型(義足形成型:球状の血小板から、義足が形成されている、活性化された血小板)及びIII型(伸展型:細胞体が大きく伸展し、II型より活性化が進行した血小板)の三種に分類して行った。なお、計測は、試験片上の3視野で行い、その平均値を血小板粘着数とした。結果を表1及び図2に示す。なお、表1及び図2には、比較のため、抗血栓性付与剤を適用する前の高密度ポリエチレン製の基材(比較例1)及びポリエチレンテレフタレート製の基材(形状は縦:8mm、横:8mm、厚さ:0.5mmの板状)(比較例2)に対する抗血栓性の評価結果も示した。
【0078】
〔抗血栓性材料の親水性評価〕
上述のとおり調製した抗血栓性材料(基材が板状のもの)を試験片として、親水性の評価を行った。親水性の評価は、後述する接触角測定試験によって行った。結果を表1に示す。
【0079】
上述のとおり調製した抗血栓性材料の表面改質層が設けられた表面上に、1mLの水を滴下した。この滴下された水滴を対象として、自動接触角計を用いて、接触角の測定を行った。水滴の接触角は、抗血栓性材料の表面改質層が設けられた表面(試験面X)と、水滴Wとの接触点を原点Oとして、試験面Xと、水滴Wの接線Lとで形成される角度θとした。
【0080】
(実施例2)
ポリ(ステアリルアクリレート)の重量平均分子量が14000、追重合によって得られるSCCBCの重量平均分子量が24000となるように(ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)のユニット部分の重量平均分子量は10000となるように)、ステアリルアクリレート及び2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートの使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、抗血栓性付与剤、及び抗血栓性材料を調製した。得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0081】
(比較例3)
ポリ(ステアリルアクリレート)の重量平均分子量が6000、追重合によって得られるSCCBCの重量平均分子量が15000となるように(ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)のユニット部分の重量平均分子量は9000となるように)、ステアリルアクリレート及び2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートの使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、抗血栓性付与剤、及び抗血栓性材料を調製した。得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0082】
(比較例4)
ポリ(ステアリルアクリレート)の重量平均分子量が8000、追重合によって得られるSCCBCの重量平均分子量が13000となるように(ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)のユニット部分の重量平均分子量は5000となるように)、ステアリルアクリレート及び2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートの使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、抗血栓性付与剤、及び抗血栓性材料を調製した。得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0083】
(比較例5)
ポリ(ステアリルアクリレート)の重量平均分子量が9000、追重合によって得られるSCCBCの重量平均分子量が9300となるように(ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)のユニット部分の重量平均分子量は300となるように)、ステアリルアクリレート及び2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートの使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、抗血栓性付与剤、及び抗血栓性材料を調製した。得られた抗血栓性材料を用いたこと、及び高密度ポリエチレン製の基材に代えてポリエチレンテレフタレート製の基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、抗血栓性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0084】
(比較例6)
2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートの代わりに、2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル(表1中、EOEOVEで示す)を用いて、抗血栓性付与剤の調製を行った。
【0085】
窒素置換したセパラブルフラスコに、5.0g(15.4mmol)のステアリルアクリレート、及び5.7mLの酢酸ブチルを測り取り、110℃の条件下で、10分間撹拌しながら、フラスコ内を脱気した。次に、0.80g(2.1mmol)のアルコキシアミン系開始剤(アルケマ株式会社製、商品名:BlocBuilder、「BlocBuilder」は登録商標)を加えて、110℃の条件下で、1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、ステアリルアクリレートが消費されたことを確認した。重合によって得られたポリ(ステアリルアクリレート)の重量平均分子量は6000であった。
【0086】
次に、上記フラスコに5.0g(31.2mmol)の2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル及び5.7mLの酢酸ブチルを加え、110℃の条件下で、更に1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテルが消費されたことを確認した。その後、上記フラスコ内の溶液を空気中に暴露させることで、ラジカル重合反応を停止させた。
【0087】
エタノールを用いてラジカル重合反応の生成物を精製することで、ポリ(ステアリルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル)を得た。追重合によって得られたポリ(ステアリルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル)の重量平均分子量は7000であった。つまり、ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル)のユニット部分の重量平均分子量は1000であった。得られたポリ(ステアリルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル)の分子量分散(Mw/Mn)は1.23であった。
【0088】
上述のように調製された抗血栓性付与剤を用いて、実施例1と同様に抗血栓性材料を調製した。得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0089】
(実施例3)
ステアリルアクリレートの代わりに、ベヘニルアクリレート(表1中、BHAで示す)を用いて、抗血栓性付与剤の調製を行った。
【0090】
窒素置換したセパラブルフラスコに、5.0g(15.8mmol)のベヘニルアクリレート、及び5.7mLの酢酸ブチルを測り取り、110℃の条件下で、10分間撹拌しながら、フラスコ内を脱気した。次に、0.34g(0.9mmol)のアルコキシアミン系開始剤(アルケマ株式会社製、商品名:BlocBuilder、「BlocBuilder」は登録商標)を加えて、110℃の条件下で、1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、ベヘニルアクリレートが消費されたことを確認した。重合によって得られたポリ(ベヘニルアクリレート)の重量平均分子量は9000であった。
【0091】
次に、上記フラスコに5.0g(26.6mmol)の2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート及び5.7mLの酢酸ブチルを加え、110℃の条件下で、更に1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートが消費されたことを確認した。その後、上記フラスコ内の溶液を空気中に暴露さえることで、ラジカル重合反応を停止させた。
【0092】
エタノールを用いてラジカル重合反応の生成物を精製することで、ポリ(ベヘニルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)を得た。追重合によって得られたポリ(ベヘニルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)の重量平均分子量は19000であった。つまり、ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)のユニット部分の重量平均分子量は10000であった。得られたポリ(ベヘニルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)の分子量分散(Mw/Mn)は1.51であった。
【0093】
上述のように調製された抗血栓性付与剤を用いて、実施例1と同様に抗血栓性材料を調製した。得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0094】
(実施例4)
ステアリルアクリレートの代わりに、ヘキサデシルアクリレート(表1中、HADで示す)を用いて、抗血栓性付与剤の調製を行った。
【0095】
窒素置換したセパラブルフラスコに、5.0g(16.9mmol)のヘキサデシルアクリレート、及び5.7mLの酢酸ブチルを測り取り、110℃の条件下で、10分間撹拌しながら、フラスコ内を脱気した。次に、0.34g(0.9mmol)のアルコキシアミン系開始剤(アルケマ株式会社製、商品名:BlocBuilder、「BlocBuilder」は登録商標)を加えて、110℃の条件下で、1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、ヘキサデシルアクリレートが消費されたことを確認した。重合によって得られたポリ(ヘキサデシルアクリレート)の重量平均分子量は9000であった。
【0096】
次に、上記フラスコに5.0g(26.6mmol)の2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート及び5.7mLの酢酸ブチルを加え、110℃の条件下で、更に1日間ラジカル重合を行った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートが消費されたことを確認した。その後、上記フラスコ内の溶液を空気中に暴露さえることで、ラジカル重合反応を停止させた。
【0097】
エタノールを用いてラジカル重合反応の生成物を精製することで、ポリ(ヘキサデシルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)を得た。追重合によって得られたポリ(ヘキサデシルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)の重量平均分子量は19000であった。つまり、ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)のユニット部分の重量平均分子量は10000であった。得られたポリ(ヘキサデシルアクリレート)-block-ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)の分子量分散(Mw/Mn)は1.91であった。
【0098】
上述のように調製された抗血栓性付与剤を用いて、実施例1と同様に抗血栓性材料を調製した。得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0099】
(参考例1)
〔抗血栓性材料の調製〕
生体親和性材料としてよく知られている2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー(MPCの重合体であり、以下、PMPCで示す)を用いて、抗血栓性材料を調製した。
【0100】
容器に、0.04gのPMPC、及び40gのエタノールを測り取り、PMCポリマーのエタノール溶液(濃度:0.1重量%)を調製した。次に、窒素ガスによる表面処理を施したポリエチレンテレフタレート製の基材(三菱ケミカル株式会社製、形状は縦:8mm、横:8mm、厚さ:125μmの板状)を用意し、当該基材を上記エタノール溶液に10分間浸漬させた。10分間経過後、基材に付着した液をふき取り、抗血栓性材料を得た。なお、上記基材は、上記エタノール溶液に浸漬する前にエタノールで洗浄した。
【0101】
得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性及び接触角の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0102】
(参考例2)
生体親和性材料として知られているポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(MEAの重合体であり、以下、PMEAで示す)を用いて、抗血栓性材料を調製した。
【0103】
容器に、0.04gのPMEA、及び40gのエタノールを測り取り、PMEAのエタノール溶液(濃度:0.1重量%)を調製した。次に、窒素ガスによる表面処理を施したポリエチレンテレフタレート製の基材(三菱ケミカル株式会社製、形状は縦:8mm、横:8mm、厚さ:125μmの板状)を用意し、当該基材を上記エタノール溶液に10分間浸漬させた。10分間経過後、基材に付着した液をふき取り、抗血栓性材料を得た。なお、上記基材は、上記エタノール溶液に浸漬する前にエタノールで洗浄した。
【0104】
得られた抗血栓性材料について、実施例1と同様にして、抗血栓性及び接触角の評価を行った。結果を表1及び図2に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
表1中、「*」は表面処理を行ったことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示によれば、抗血栓性に優れ、容易に製造可能な抗血栓性材料を提供することができる。本開示の抗血栓性材料の製造方法によれば、難改質性である基材に対しても、抗血栓性を発揮し得る表面改質層を容易に設けることができる。本開示の抗血栓性材料の製造方法においては、上述のような抗血栓性付与剤を含む溶液を用いて、基材の改質を行うことから、基材の形状によらずに表面改質を行うことが可能であり、複雑な形状を有するような人工臓器などの改質に好適である。
【符号の説明】
【0108】
2…基材、4…表面改質層、10…抗血栓性材料。
図1
図2