(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0749 20120101AFI20240321BHJP
【FI】
H01L31/06 460
(21)【出願番号】P 2023096548
(22)【出願日】2023-06-12
【審査請求日】2023-08-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523111201
【氏名又は名称】株式会社PXP
(73)【特許権者】
【識別番号】322009206
【氏名又は名称】株式会社SOLABLE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 広紀
(72)【発明者】
【氏名】平井 義晃
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-162525(JP,A)
【文献】特表2008-543038(JP,A)
【文献】特開2012-059854(JP,A)
【文献】特開2019-057701(JP,A)
【文献】特開2015-162524(JP,A)
【文献】特開2014-082319(JP,A)
【文献】特開平10-135498(JP,A)
【文献】特開2016-027585(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005091(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた第1電極層と、
前記第1電極層上に設けられ、I-III-VI2族化合物を含むp型光吸収層と、
前記p型光吸収層上に設けられたn型の第2電極層と、を備え、
前記p型光吸収層は、前記p型光吸収層の深さ方向に対して前記p型光吸収層を2等分した際の前記第2電極層側の第1領域と、前記第1領域以外の第2領域とを有し、
前記第1領域は、前記深さ方向に対して前記第1領域を2等分した際の前記第2電極層側の第3領域と、前記第3領域以外の第4領域とを有し、
前記p型光吸収層は、
I族元素として、Cuを含み、
III族元素として、Ga及びInを含み、
前記第1領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値が、前記第2領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、
前記第1領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、前記第2領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、
前記p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、0.2以上0.4以下であり、
前記p型光吸収層において、前記第1電極層側から前記第2電極層側に向かう際のGaとIII族元素の原子数の比の変化率の絶対値が、前記第
4領域において最大となり、
前記p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比が、前記第1領域において、前記第1電極層側から前記第2電極層側にかけて減少傾向に
あり、
前記第3領域におけるGaとIII族元素の原子数の比が、0.15以下である、薄膜太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜太陽電池であって、
前記p型光吸収層は、VI族元素としてSを含む、薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記請求項2に記載の薄膜太陽電池であって、
前記Sは、前記第1領域に含まれる、薄膜太陽電池。
【請求項4】
基板上に、第1電極層を設ける第1工程と、
前記第1電極層上に、I-III-VI2族化合物を含むp型光吸収層を設ける第2工程と、
前記p型光吸収層上に、n型の第2電極層を設ける第3工程と、を含み、
前記p型光吸収層は、前記p型光吸収層の深さ方向に対して前記p型光吸収層を2等分した際の前記第2電極層側の第1領域と、前記第1領域以外の第2領域とを有し、
前記第1領域は、前記深さ方向に対して前記第1領域を2等分した際の前記第2電極層側の第3領域と、前記第3領域以外の第4領域とを有し、
前記p型光吸収層は、
I族元素として、Cuを含み、
III族元素として、Ga及びInを含み、
前記第2工程は、
前記第1領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値が、前記第2領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、
前記第1領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、前記第2領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、
前記p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、0.2以上0.4以下であり、
前記p型光吸収層において、前記第1電極層側から前記第2電極層側に向かう際のGaとIII族元素の原子数の比の変化率の絶対値が、前記第
4領域において最大となり、
前記p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比が、前記第1領域において、前記第1電極層側から前記第2電極層側にかけて減少傾向に
あり、
前記第3領域におけるGaとIII族元素の原子数の比が、0.15以下である薄膜太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の一種に薄膜太陽電池が存在する。薄膜太陽電池には、p型光吸収層としてCu、In、Ga、Se、及びS等を含むカルコパイライト構造のI-III-VI2族化合物を用いたCIS系薄膜太陽電池が存在する。CIS系薄膜太陽電池は、非特許文献1に示されるように学術的研究が盛んに行われている。また、CIS系薄膜太陽電池の光電変換効率向上を目的としたp型光吸収層の原子プロファイルが特許文献1に記載されている。薄膜太陽電池は宇宙空間で使用されることがあり、非特許文献2には宇宙空間で応用される薄膜太陽電池について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Physica Status Solidi. Rapid Research Letters, 2019, Vol.13, pp.1900415
【文献】Advanced Energy Materials, 2022, Vol.12, Issue 29, pp.2200125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
宇宙空間には強い放射線が存在しており、宇宙空間に配置された薄膜太陽電池には強い放射線が照射される。放射線は薄膜太陽電池内の光吸収層に欠陥を生じさせ、電池性能を劣化させる。
【0006】
そこで、本発明は、放射線にも耐えうる長寿命な薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る薄膜太陽電池は、基板と、基板上に設けられた第1電極層と、第1電極層上に設けられ、I-III-VI2族化合物を含むp型光吸収層と、p型光吸収層上に設けられたn型の第2電極層と、を備え、p型光吸収層は、p型光吸収層の深さ方向に対してp型光吸収層を2等分した際の第2電極層側の第1領域と、第1領域以外の第2領域とを有する。p型光吸収層は、I族元素として、Cuを含み、III族元素として、Ga及びInを含み、第1領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値が、第2領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低い。第1領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、第2領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、0.2以上0.4以下である。p型光吸収層において、第1電極層側から第2電極層側に向かう際のGaとIII族元素の原子数の比の変化率の絶対値が、第1領域において最大となり、p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比が、第1領域において、第1電極層側から第2電極層側にかけて減少傾向にある。
【0008】
本開示の一態様に係る薄膜太陽電池の製造方法は、基板上に、第1電極層を設ける第1工程と、第1電極層上に、I-III-VI2族化合物を含むp型光吸収層を設ける第2工程と、p型光吸収層上に、n型の第2電極層を設ける第3工程と、を含み、p型光吸収層は、p型光吸収層の深さ方向に対してp型光吸収層を2等分した際の第2電極層側の第1領域と、第1領域以外の第2領域とを有し、p型光吸収層は、I族元素として、Cuを含み、III族元素として、Ga及びInを含み、第2工程は、第1領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値が、第2領域におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、第1領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、第2領域におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、0.2以上0.4以下であり、p型光吸収層において、第1電極層側から第2電極層側に向かう際のGaとIII族元素の原子数の比の変化率の絶対値が、第1領域において最大となり、p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比が、第1領域において、第1電極層側から第2電極層側にかけて減少傾向にあるように、p型光吸収層を設ける。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、放射線にも耐えうる長寿命な薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る薄膜太陽電池の断面図である。
【
図2】本実施形態に係るp型光吸収層におけるCuプロファイルを示す図である。
【
図3】本実施形態に係るp型光吸収層におけるGaプロファイルを示す図である。
【
図4】本実施形態に係るp型光吸収層におけるGaプロファイルの他の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係るp型光吸収層におけるGaプロファイルの他の一例を示す図である。
【
図6A】本実施形態に係る薄膜太陽電池の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図6B】本実施形態に係る薄膜太陽電池の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図6C】本実施形態に係る薄膜太陽電池の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図6D】本実施形態に係る薄膜太陽電池の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図6E】本実施形態に係る薄膜太陽電池の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図7A】本実施形態に係る薄膜太陽電池の回復効果を説明する図である。
【
図7B】本実施形態に係る薄膜太陽電池の回復効果を説明する図である。
【
図7C】本実施形態に係る薄膜太陽電池の回復効果を説明する図である。
【
図7D】本実施形態に係る薄膜太陽電池の回復効果を説明する図である。
【
図8】本実施形態に係る薄膜太陽電池と他の薄膜太陽電池の回復効果を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0012】
図1には、本実施形態に係る薄膜太陽電池100の断面図が示される。薄膜太陽電池100は、基板101、第1電極層102、p型光吸収層103、電子輸送層104、第2電極層105、及びグリッド電極106を有する。薄膜太陽電池100は、グリッド電極106側からの光を受光して発電する。
【0013】
基板101は、例えば、青板ガラス、低アルカリガラス等のガラス基板、ステンレス板等の金属基板、又はポリイミド樹脂基板等を用いうる。第1電極層102は、例えば、基板101上に配置され、Mo、Cr、又はTi等の金属を材料とする金属導電層を用いうる。第1電極層102の膜厚は例えば200~800nmとすることができる。
【0014】
p型光吸収層103は、例えば、第1電極層102上に配置され、I―III―VI2族化合物により形成される。p型光吸収層103は、I族元素として、Cuを含み、III族元素として、Ga及びInを含み、VI族元素として、Se及びSを含む。p型光吸収層103の膜厚は例えば1~3μmとすることができる。
【0015】
p型光吸収層103は、p型光吸収層103の深さ方向に対して、p型光吸収層103を2等分した際の第2電極層105側の第1領域R1と、第1領域とは異なり、第1電極層102側の第2領域R2を有する。また、第1領域R1は、p型光吸収層103の深さ方向に対して、第1領域R1を2等分した際の第2電極層105側の第3領域R3と第3領域と異なり、第2領域R2又は第1電極層102側の第4領域R4を有する。
【0016】
電子輸送層104は、例えば、p型光吸収層103上に配置され、n型の導電性を有し透明で高抵抗なZn(O、S、OH)xを用いうる。電子輸送層104は、例えば、膜厚を20から150nmとして成膜することができる。また、電子輸送層104は、例えば、CdS、ZnS、ZnO等のII―VI族化合物半導体薄膜、これらの混晶であるZn(O、S)x等、具体的な例としては、In2O3、In2S3、In(O、S、OH)x等のIn系化合物半導体薄膜によって形成することもできる。
【0017】
第2電極層105は、例えば、電子輸送層104上に配置され、n型の導電性を有し、禁制帯幅が広く透明で抵抗値が低いZnO:Bを用いることができる。第2電極層105は、例えば、厚さ0.1から1.5μmの透明導電膜として成膜することができる。また、第2電極層105は、ZnO:Al、ZnO:Ga及びITOによる透明導電膜によって形成することもできる。
【0018】
グリッド電極106は、例えば、第2電極層105上に配置され、第2電極層105から電気を取り出すために設けられる電極である。グリッド電極106は導電材料であり、例えば、金属材料、合金材料、又は透明導電材等を用いることができる。
【0019】
<実施例>
次に、本実施形態に係る薄膜太陽電池100のp型光吸収層103におけるCuとIII族元素の原子数の比(C1)及びGaとIII族元素の原子数の比(G1)について説明する。発明者は、本実施形態に係る薄膜太陽電池100を3つ(A~C)製造し、
図2から
図5を参照して、3つの実施例に対して計測された比C1及びG1について説明する。原子数は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法にて光吸収層の断面を測定することによって計測される。
【0020】
図2には、薄膜太陽電池100の実施例Aにおけるp型光吸収層103におけるCuとIII族元素の原子数の比C1の一例が示される。
図2の横軸は、p型光吸収層103の第2電極層105側の表面からの深さである。横軸は
図3から
図5でも共通する。CuとIII族元素の原子数の比C1は、(Cuの原子数)/(III族元素の原子数)の比として算出される。III族元素は、例えば、In及びGaである。
【0021】
p型光吸収層103の層全体における比C1は、1.0よりも低い。
図2の例では、層全体における比C1の平均値は0.91である。比C1が1.0以上の場合、光電変換効率が低下する可能性がある。一方、比C1は0.80よりも大きいことが、適切なキャリア濃度のp型光吸収層を形成する観点から好ましい。
【0022】
また、p型光吸収層103では、第1領域R1における比C1の平均値が、第2領域R2における比C1の平均値よりも低い。
図2の例では、第1領域R1における比C1の平均値は0.89であり、第2領域R2における比C1の平均値は0.94である。
【0023】
このように、第2電極層105側の表面における比C1を低くすることで、薄膜太陽電池100が放射線による損傷を修復するようにできる。
【0024】
具体的には、放射線は、p型光吸収層103の結晶構造中のCuに対して欠陥を生じさせることが知られている。欠陥としては、放射線によって生じたCu空孔にIII族元素であるInやGaが配置することによって生成されるアンチサイト欠陥がある。アンチサイト欠陥は電気特性を大きく劣化させる。アンチサイト欠陥は他のCu空孔によって修飾されることでパッシベーション(不動態化)され、この場合、電気特性の劣化が低減する。また、光照射や加熱等の比較的弱い外部エネルギーでも Cu空孔はp型光吸収層内を遷移できる事が知られており、この遷移を用いてCu空孔によるアンチサイト欠陥の修飾を促すことによって、薄膜太陽電池100が損傷を受けた場合であっても自己修復が可能となり、結果として放射線による損傷を修復するようにできる。
【0025】
p型光吸収層103では、第2電極層105側の表面におけるCuとIII族元素の原子数の比を低くすることで、欠陥修復をもたらすCu空孔を多くすることができるので、自己修復を十分に可能とし、薄膜太陽電池100が放射線による損傷を修復するようにできる。
【0026】
図3から
図5には、実施例A~Cにおけるp型光吸収層103におけるGaとIII族元素の原子数の比G1の一例が示される。GaとIII族元素の原子数の比G1は、(Gaの原子数)/(III族元素の原子数)の比として算出される。
【0027】
p型光吸収層103では、第1領域R1における比G1の平均値が、第2領域R2における比G1の平均値よりも低い。
図3の例では、実施例Aにおける第1領域R1における比G1の平均値は0.13であり、第2領域における比G1の平均値は0.45である。
図4の例では、実施例Bにおける第1領域R1における比G1の平均値は0.15であり、第2領域における比G1の平均値は0.42である。
図5の例では、実施例Cにおける第1領域R1における比G1の平均値は0.09であり、第2領域における比G1の平均値は0.48である。
【0028】
p型光吸収層103では、p型光吸収層103における比G1の平均値は0.2以上0.4以下である。
図3、
図4、
図5では、p型光吸収層103全体における比G1の平均値は0.29である場合が示される。比G1の平均値を0.2以上0.4以下とすることで、光電変換効率を高くすることができる。
【0029】
p型光吸収層103では、第1電極層102側から第2電極層105側に向かう際の比G1の変化率の絶対値が、第1領域R1において最大となる。
図3の例では、比G1の変化率の絶対値は、第1領域R1において最大値74.6%をとる。
図4の例では、比G1の変化率の絶対値は、第1領域R1において最大値52.7%をとる。
図5の例では、比G1の変化率の絶対値は、第1領域R1において最大値70.4%をとる。より詳細には、比G1の変化率の絶対値は、
図3~5のいずれも、第1領域R1内の第4領域R4において最大となる。
【0030】
このように、比G1の変化率の絶対値が最大となる位置が、第2電極層105側の領域である第1領域R1にあるようにすることで、p型光吸収層103の伝導帯のバンド傾斜を利用した、第2電極層105側の表面への電子移動を促すことができる。
【0031】
p型光吸収層103における比G1は、第1領域R1において、第1電極層102側から第2電極層105側にかけて減少傾向にある。この傾向は
図3、
図4、
図5のそれぞれに共通して示される。
【0032】
p型光吸収層103において、第3領域R3における比G1は、0.15以下とすることが好ましい。より好ましくは、比G1は、例えば0.13以下である。
図3の例では、第3領域R3における比G1の最大値は0.10である。
図4の例では、第3領域R3における比G1の最大値は0.13である。
図5の例では、第3領域R3における比G1の最大値は0.06である。また、第1領域R1のうち、第2電極層105側の表面から300nmまでの深さの領域では、比G1は、0.1以下である。
【0033】
このように、p型光吸収層103の全体における比G1及び第2電極層105側の表面における比G1を調整することで、薄膜太陽電池100が放射線による損傷を修復するようにできる。上述のアンチサイト欠陥のうち、GaがCu空孔に配置されたアンチサイト欠陥は、光照射や加熱による自己修復が行われにくい特徴がある。p型光吸収層103のように、第2電極層105側の表面におけるGaとIII族元素の原子数の比を低くすることで、自己修復がなされにくい欠陥生成の原因となるGaを少なくすることができるので、欠陥の発生を抑制し、薄膜太陽電池100が放射線による損傷を修復するようにできる。
【0034】
最後に、p型光吸収層103は、VI族元素としてSを含む。より具体的には、Sは第1領域R1に含まれてもよい。これにより、p型光吸収層103のバンドギャップを調整し、光電変換効率を高くすることができる。特に、Gaの比を少なくした第1領域R1において、Sを含むようにすることで、放射線による損傷を修復可能としつつ光電変換効率を高くすることができる。
【0035】
<製造方法>
次に、薄膜太陽電池100の製造方法について、
図6Aから
図6Eを参照して説明する。
【0036】
まず、
図6Aに示されるように、基板101上に、第1電極層102を形成する。第1電極層102の厚さは、例えば、200から800nmとしてもよい。第1電極層102は、例えば、Moを材料としてDCスパッタ法により形成される。DCスパッタ法の成膜条件としては、成膜圧力:0.5から2.5Pa、印加電力:1.0から3.0W/cm
2としてもよい。
【0037】
次に、
図6Bに示されるように、第1電極層102上に、I―III―VI
2族化合物を含むp型光吸収層103を形成する。
【0038】
p型光吸収層13を形成する方法としては、例えば、(1)I族元素及びIII族元素の金属プリカーサ膜を形成し、金属プリカーサ膜とVI族元素との化合物を形成する方法と、(2)蒸着法を用いて、I族元素及びIII族元素及びVI族元素を成膜する方法が挙げられる。
【0039】
まず、方法(1)を用いてp型光吸収層103を形成する場合について説明する。方法(1)では、第1電極層102上に、Ga及びCuを含むプリカーサ膜を形成し、次に、Inを含むプリカーサ膜を形成し、次に、Ga及びCuを含むプリカーサ膜及びInを含むプリカーサ膜とVI族元素(Se及びS)との化合物を形成する。なお、I族元素であるCuについては、上述したように、GaとCuとの混晶を含むプリカーサ膜を形成してもよく、Gaを含むプリカーサ膜の上に、Cuを含むプリカーサ膜を積層してもよい。プリカーサ膜の表面におけるCu濃度は、反応ガス中のSe―S濃度を用いて制御される。
【0040】
各プリカーサ膜は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術を用いて形成され得る。このようにして、
図2から
図5を参照して説明した原子プロファイルを有するp型光吸収層103を形成することができる。
【0041】
また、VI族元素との化合物形成のための熱処理時間の短縮や、アルカリ化合物の添加(例:プリカーサ膜中への添加や、基板からの拡散)によっても表面におけるGaとIII族元素の原子数の比G1を低くすることができる。
【0042】
なお、p型光吸収層103の全体におけるCuとIII族元素の原子数の比C1は、積層するプリカーサ膜中のCuとIII族元素の原子数を制御することによって、例えば、Cu―Gaプリカーサ膜とInプリカーサ膜の膜厚の比率や、Cu―Gaプリカーサ膜とCuプリカーサ膜の膜厚の比率を変化させることによって、調整可能である。
【0043】
次に、方法(2)によりp型光吸収層103を形成する場合について説明する。方法(2)では、第1電極層102上に、I族元素、III族元素、およびVI族元素を蒸着源として蒸着するにあたり、III族元素の蒸着としてInの蒸着よりも前にGaを蒸着することで、カルコパイライト構造の半導体層を形成し、p型光吸収層103を形成するものである。このようにして、
図2から
図5を参照して説明した原子プロファイルを有するp型光吸収層103を形成してもよい。また、VI族元素を蒸着する熱処理時間の短縮や、アルカリ化合物の添加(アルカリ化合物を蒸着源とした蒸着、基板からのアルカリ金属の拡散)によっても表面におけるGaとIII族元素の原子数の比G1を低くすることができる。
【0044】
I族元素であるCuは、更に、CuとGa又はInを含む蒸着膜、又は、CuとS又はSeを含む蒸着源として蒸着し、p型光吸収層を形成してもよい。
【0045】
VI族元素であるSe又はSについては、Se膜又はS膜又はSeとSとを含む膜として、蒸着してもよい。
【0046】
例えば、p型光吸収層103は、第1電極層102上に、まず、GaとSeを蒸着し、又は、GaとInとSeを蒸着し、次に、CuとSeとSを蒸着し、最後に、InとSeとSを蒸着することで形成される。各元素が蒸着される時の熱によって、Cuと、Se又はSと、In,Gaとの化合物が形成される。また、各元素を蒸着した後に、Cuと、Se又はSと、In,Gaとの化合物を形成するための熱処理を行ってもよい。蒸着には、例えば、多元同時蒸着法等の方法を用いることができる。
【0047】
また、第1電極層102上に、まず、Cu及びGa(又は、CuGa化合物)を蒸着し、次に、Cu及びIn(又は、CuIn化合物)を蒸着し、次に、SeとSとInと(又は、InSeS化合物)を蒸着しp型光吸収層103を形成してもよい。In(Se、S)が蒸着される時の熱によって、Cuと、Se又はSと、In,Gaとの化合物が形成される。また、In(Se、S)を蒸着した後に、Cuと、Se又はSと、In,Gaとの化合物を形成するための熱処理を行ってもよい。
【0048】
また、第1電極層102上に、まず、Cu及びGa(又は、CuGa化合物)を蒸着し、次に、Cu及びIn(又は、CuIn化合物)を蒸着し、次に、Se及びS(又は、SeS化合物)を蒸着しp型光吸収層103を形成してもよい。Se―Sが蒸着される時の熱によって、Cuと、Se又はSと、In,Gaとの化合物が形成される。また、Se―Sを蒸着した後に、Cuと、Se又はSと、In,Gaとの化合物を形成するための熱処理を行ってもよい。以上が、方法(2)を用いて、p型光吸収層103を形成する工程の説明である。
【0049】
次に、
図6Cに示すように、p型光吸収層103上に、電子輸送層104が形成される。電子輸送層104は、溶液成長法やMOCVD法、ALD法、蒸着法、スパッタ法によって成膜することができる。次に、
図6Dに示すように電子輸送層104上に、第2電極層105が形成される。第2電極層105は、スパッタ法やMOCVD法によって成膜してもよい。次に、
図6Eに示すように、第2電極層105上にグリッド電極106が形成される。グリッド電極106は、例えば、蒸着法や、ペースト状の導電材料を第2電極層105に印刷することで形成してもよい。
【0050】
<自己修復効果>
図7Aから
図7Dを参照して、薄膜太陽電池100の自己修復効果について説明する。
図7Aから
図7Dには、薄膜太陽電池100に対して陽子線を照射した場合の、薄膜太陽電池100光電変換効率の保存率(
図7A)、薄膜太陽電池100の開放電圧V
ocの保存率(
図7B)、薄膜太陽電池100の短絡電流密度J
scの保存率(
図7C)、薄膜太陽電池100の曲線因子FF(Fill Factor)の保存率(
図7D)がそれぞれ示される。
図7Aから
図7Dの各データは、実施例A,B,Cの薄膜太陽電池100を含む複数の薄膜太陽電池100によるデータの平均値である。
【0051】
図7Aから
図7Dの横軸は単位面積あたりの陽子線の粒子数を示す陽子フルエンスである。
図7Aから
図7Dでは、300keVの陽子線を照射した場合の各保存率が実線で、3MeVの陽子線を照射した場合の各保存率が破線で示される。保存率とは、照射前の値に対する照射後の値の比である。また、
図7Aから
図7Dの例では、照射後の薄膜太陽電池100の自己修復のために光照射(Light Soaking:LS)及び熱光照射(Heat Light Soaking:HLS)が行われた場合の各保存率が示される。光照射又は熱光照射によって、p型光吸収層103内のCu欠陥の移動が促進され、アンチサイト欠陥を修飾し、薄膜太陽電池100の性能が回復する。また、比較のために、光照射又は熱光照射が行われない場合の各保存率が示される。
【0052】
図7Aから
図7Dに共通して示されるように、薄膜太陽電池100は、陽子線が照射されることで、例えば、修復なしの場合に示されるように性能が低下した場合であっても、光照射又は熱光照射によって各特性が大きく回復する。このような特性の回復は、p型光吸収層103が、
図2から
図5を参照して説明した原子プロファイルを有することに起因するものと考えられる。
【0053】
図7A~
図7Dの例では、熱照射は150℃の温度で1時間光を照射することで行われた。これは、60℃の温度における約16~69日に相当する。よって、薄膜太陽電池100は、実際の宇宙環境でも十分な自己修復を行い得る。
【0054】
図8には、本実施形態に係る薄膜太陽電池100と他の薄膜太陽電池のそれぞれに300keVの陽子線を照射し、熱照射による自己修復を行った場合の光電変換効率の保存率が示される。
図8における薄膜太陽電池100のデータは、実施例A,B,Cの薄膜太陽電池100を含む複数の薄膜太陽電池100によるデータの平均値である。
図8では、薄膜太陽電池100の光電変換効率の保存率RF1、非特許文献1に記載の薄膜太陽電池の光電変換効率の保存率RF2、及び非特許文献2に記載の薄膜太陽電池(GaAs系)の薄膜太陽電池の光電変換効率の保存率RF3が示される。薄膜太陽電池100は、他の薄膜太陽電池と比較して、自己修復効果が高いことが示されている。
【0055】
宇宙空間に配置される一般的な薄膜太陽電池では、電池性能の劣化を抑制するために、例えば、薄膜太陽電池の光吸収層を保護するカバーガラスなどの保護手段が、接着剤によって薄膜太陽電池に取り付けられている。しかし、宇宙用のカバーガラスおよび接着剤は非常に高価であり、さらにカバーガラスや接着剤を使用することは、発電装置全体の重量を増加させることとなり、好ましくない。そこで、薄膜太陽電池100のように、薄膜太陽電池自身が十分な自己修復を可能とすることで、カバーガラスや接着剤を用いる必要がなくなる。これにより、薄膜太陽電池100を含む電池モジュールは軽量にすることができ、打ち上げのためのコストや部品点数によるコストを低減することができる。さらに、薄膜太陽電池100は放射線による損傷を自己修復し得るので、宇宙空間又は成層圏以上の大気圏において長寿命な電池として用いることができる。また、薄膜太陽電池100は、耐放射線性を有するため、放射線環境下においても従来の薄膜太陽電池より長寿命な電池として用いることができる。また、宇宙空間よりも放射線量が少ない対流圏においても、より長寿命な電池として用いることができる。例えば、建物、移動体、飛行体などの表面(ルーフ、窓、壁面等)に貼り付けて、長寿命な発電デバイスとして利用することが可能である。
【0056】
以上本実施形態に係る薄膜太陽電池100について説明した。薄膜太陽電池100は、基板101と、基板101上に設けられた第1電極層102と、第1電極層102上に設けられ、I-III-VI2族化合物を含むp型光吸収層103と、p型光吸収層103上に設けられたn型の第2電極層105と、を備え、p型光吸収層103は、p型光吸収層103の深さ方向に対してp型光吸収層103を2等分した際の第2電極層105側の第1領域R1と、第1領域R1以外の第2領域R2とを有する。p型光吸収層103は、I族元素として、Cuを含み、III族元素として、Ga及びInを含み、第1領域R1におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値が、第2領域R2におけるCuとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低い。第1領域R1におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、第2領域R2におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値よりも低く、p型光吸収層103におけるGaとIII族元素の原子数の比の平均値が、0.2以上0.4以下である。p型光吸収層103において、第1電極層102側から第2電極層105側に向かう際のGaとIII族元素の原子数の比の変化率の絶対値が、第1領域R1において最大となり、p型光吸収層におけるGaとIII族元素の原子数の比が、第1領域R1において、第1電極層102側から第2電極層105側にかけて減少傾向にある。
【0057】
p型光吸収層103では、放射線によって生じた欠陥の修復をもたらすCu空孔の量を第2電極層105側において多くすることができるので、薄膜太陽電池100が放射線による損傷を修復するようにできる。また、第2電極層105側の表面におけるGaとIII族元素の原子数の比を低くすることで、自己修復がなされにくい欠陥生成の原因となるGaを少なくすることができるので、欠陥の発生を抑制し、薄膜太陽電池100が放射線による損傷を修復しやすくできる。GaとIII族元素の原子数の比の変化率の絶対値が最大となる位置を第1領域R1にあるようにすることで、p型光吸収層103の伝導帯のバンド傾斜を利用した、第2電極層105側の表面への電子移動を促すことができ、電気特性を高くすることができる。これらの要因によって、薄膜太陽電池100は、放射線による損傷を修復可能となる。
【0058】
また、p型光吸収層103は、VI族元素としてSを含んでもいてもよく、これによりp型光吸収層103のバンドギャップを調整し、光電変換効率を高くすることができる。特に、Gaの比を少なくした第1領域R1において、Sを含むようにすると、放射線による損傷を修復可能としつつ光電変換効率を高くすることができる。
【0059】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
100…薄膜太陽電池、101…基板、102…第1電極層、103…p型光吸収層103、104…電子輸送層104、105…第2電極層、106…グリッド電極
【要約】
【課題】放射線による損傷を修復可能な薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】薄膜太陽電池のp型光吸収層は、p型光吸収層を2等分した第1領域と第2領域とを有する。p型光吸収層は、I族元素として、Cuを含み、III族元素として、Ga及びInを含み、第1領域におけるCuとIII族元素の原子数の比C1の平均値が、第2領域における比C1の平均値よりも低い。第1領域におけるGaとIII族元素の原子数の比G1の平均値が、第2領域における比G1の平均値よりも低く、p型光吸収層における比G1の平均値が、0.2以上0.4以下である。第1電極層側から第2電極層側に向かう際の比G1の変化率の絶対値が、第1領域において最大となり、p型光吸収層における比G1が、第1領域において、第1電極層側から第2電極層側にかけて減少傾向にある。
【選択図】
図1