(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】ホスホニウム含有ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 65/40 20060101AFI20240321BHJP
C07F 9/54 20060101ALI20240321BHJP
C08F 12/32 20060101ALI20240321BHJP
C08G 61/10 20060101ALI20240321BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240321BHJP
H01M 8/1034 20160101ALI20240321BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20240321BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240321BHJP
【FI】
C08G65/40
C07F9/54 CSP
C08F12/32
C08G61/10
H01B1/06 A
H01M8/1034
H01M8/1072
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020063771
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】冨田 育義
(72)【発明者】
【氏名】西山 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳典
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第115974919(CN,B)
【文献】David Marcoux and Andre B. Charette,Nickel-Catalyzed Synthesis of Phosphonium Salts from Aryl Halides and Triphenylphosphine,Adv. Synth. Catal.,350,2008年12月09日,2967-2974,DOI:10.1002/adsc.200800542
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/40
C07F 9/54
C08F 12/32
C08G 61/10
H01B 1/06
H01M 8/1034
H01M 8/1072
H01M 8/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホニウム含有ポリマーであって、
該ポリマーは、下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一又は異なって、水素原子、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表し、
該置換基は、1価の置換基又は2価の置換基であり、該1価の置換基は、1価の有機基、アミノ基、又は、ハロゲン原子であり、該2価の置換基は、1価の有機基若しくはアミノ基から更に水素原子が1個脱離した構造の基、酸素原子、又は、硫黄原子である。R
1~R
4の少なくとも1つは、ポリマーが有する他の構造との直接結合であるか、又は、当該直接結合を有する
2価の置換基である。R
1~R
4の少なくとも1つは、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であ
る。R
1~R
4は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよく、複数個の
2価の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。X
-は、カウンターアニオンを表す。)で表される構造を有
し、
一般式(1)で表される構造中の、カチオン構造を主鎖に有するホモポリマー、該カチオン構造と、別の構造(構造単位)とをそれぞれ主鎖に有する共重合ポリマー、又は、該カチオン構造を側鎖に有するポリマーであり、
共重合ポリマーにおける別の構造、カチオン構造を側鎖に有するポリマーにおける主鎖の構造は、芳香環を含む構造単位からなることを特徴とするホスホニウム含有ポリマー。
【請求項2】
下記一般式(1);
【化2】
(式中、R
1~R
4は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基を表す。
該置換基は、1価の置換基又は2価の置換基であり、該1価の置換基は、1価の有機基、アミノ基、又は、ハロゲン原子であり、該2価の置換基は、1価の有機基若しくはアミノ基から更に水素原子が1個脱離した構造の基、酸素原子、又は、硫黄原子である。R
1~R
4の少なくとも
4つは、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、
硫黄原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であ
る。R
1~R
4は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよく、複数個の
2価の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。X
-は、カウンターアニオンを表す。)で表されることを特徴とするホスホニウム含有化合物
(ただし、テトラ(o-トリル)ホスホニウムヨージドを除く)。
【請求項3】
請求項1に記載のホスホニウム含有ポリマー又は請求項2に記載のホスホニウム含有化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、ホスフィン化合物とアラインとを反応させる工程を含むことを特徴とするホスホニウム含有ポリマー又はホスホニウム含有化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とするアニオン交換膜。
【請求項5】
請求項1に記載のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とする電解質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホニウム含有ポリマーに関する。より詳しくは、燃料電池、水電解装置における電解質材料等として好適に用いられるホスホニウム含有ポリマー、ホスホニウム含有化合物、これらの製造方法、アニオン交換膜、及び、電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池や水電解装置等、水素をエネルギー源として活用することが期待され、種々の研究開発がなされている。
燃料電池や水電解装置等の心臓部材である固体高分子電解質膜としてプロトン伝導膜(PEM:Proton Exchange Membrane)が利用されているが、Nafion(登録商標)に代表されるスルホン酸系の材料は強酸性であり腐食性が高いため、周辺部材の材質に高価な金属が必要(例えば、プロトン伝導膜を含んで構成される水電解装置において、給電体にTi、Pt等が、触媒にPt、Ir等が、バイポーラープレートにTi等がそれぞれ必要)となり、コスト増加の原因となっている。一方、プロトン伝導膜の代わりに水酸化物イオンを伝導するアニオン交換膜(AEM:Anion Exchange Membrane)を利用すれば、周辺部材に安価な金属部材を使用できると考えられる。
【0003】
アニオン交換膜を構成するポリマーには、アニオン伝導性の他、化学的安定性等の基本的特性が重要である。
アニオン伝導性を担うアニオン交換基としては、第4級アンモニウム基が従来から用いられている(例えば、特許文献1~5参照)。また、第4級ホスホニウム基を含むアニオン伝導性材料についての研究例がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-70782号公報
【文献】特開2013-107916号公報
【文献】特開2015-125888号公報
【文献】特開2010-92660号公報
【文献】国際公開2008/022775号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6499-6502
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第4級アンモニウム基は、特に高温、強塩基性条件下ではホフマン脱離、求核置換反応等により分解するため、化学的安定性に乏しいものであった。また、第4級ホスホニウム基を含むアニオン伝導性材料も、耐久性をより優れたものとするための工夫の余地があった。高温、塩基性条件下でも化学的安定性(耐久性)に優れる新規な材料が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐久性に優れる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐久性に優れる材料について種々検討し、特定のホスホニウムカチオン構造及びそのカウンターアニオンを有するホスホニウム含有ポリマーとすると、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、高温、塩基性条件下でも耐久性に優れることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、本発明者らは、特定のホスホニウムカチオンを有するホスホニウム含有化合物もまた、高温、塩基性条件下でも耐久性に優れ、種々の用途に使用できる可能性があることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、ホスホニウム含有ポリマーであって、上記ポリマーは、下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一又は異なって、水素原子、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表し、R
1~R
4の少なくとも1つは、ポリマーが有する他の構造との直接結合であるか、又は、当該直接結合を有する置換基である。R
1~R
4の少なくとも1つは、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であるか、又は、R
1~R
4の少なくとも2つは、オルト位の置換基である。R
1~R
4は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよく、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。X
-は、カウンターアニオンを表す。)で表される構造を有することを特徴とするホスホニウム含有ポリマーである。
【0010】
本発明はまた、下記一般式(1);
【化2】
(式中、R
1~R
4は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基を表す。R
1~R
4の少なくとも1つは、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であるか、又は、R
1~R
4の少なくとも2つは、オルト位の置換基である。R
1~R
4は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよく、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。X
-は、カウンターアニオンを表す。)で表されることを特徴とするホスホニウム含有化合物でもある。
【0011】
本発明は更に、本発明のホスホニウム含有ポリマー又は本発明のホスホニウム含有化合物を製造する方法であって、上記製造方法は、ホスフィン化合物とアラインとを反応させる工程を含むことを特徴とするホスホニウム含有ポリマー又はホスホニウム含有化合物の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上述の構成よりなり、アニオン伝導性が充分なものであるとともに、耐久性に優れる。本発明のホスホニウム含有化合物は、上述の構成よりなり、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例のホスホニウム含有ポリマーの
31P-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
【
図2】アニオン交換膜の熱安定性を熱重量測定(TGA)によって測定したTGA曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0015】
<本発明のホスホニウム含有ポリマー>
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上記カチオン構造(上記一般式(1)で表される構造中の、カチオン構造部分)を有する。上記カチオン構造の位置は、ポリマー中の主鎖でもよく、側鎖でもよい。
カチオン構造の位置がポリマー中の主鎖である場合、本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上記カチオン構造を主鎖に有するホモポリマーであってもよく、上記カチオン構造と、別の構造(構造単位)とをそれぞれ主鎖に有する共重合ポリマーであってもよい。
カチオン構造の位置がポリマー中の側鎖である場合、本発明のホスホニウム含有ポリマーは、上記カチオン構造を側鎖の一部に有するものであってもよく、上記カチオン構造を側鎖の全部に有するものであってもよい。
【0016】
上記カチオン構造において、R1~R4は、同一又は異なって、水素原子、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表す。
置換基は、その価数(原子価を表す価数)は特に限定されないが、通常は1価又は2価である。
1価の置換基としては、特に限定されないが、例えば、1価の有機基、アミノ基、ハロゲン原子等が好ましいものとして挙げられる。1価の有機基としては、1価の炭化水素基(より好ましくは、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基〔アルキル基〕、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基〔アルケニル基等〕、炭素数6~18の芳香族炭化水素基〔アリール基〕、又は、炭素数7~18のアラルキル基〔例えば、ベンジル基〕)、炭素数1~18の酸素原子を介した炭化水素基(例えば、炭素数1~18のアルコキシ基)、炭素数1~18のアルキルチオ基、一般式:-A-C6H(5-n)R5
nで表される基(R5は、同一又は異なって、水素原子、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表し、R1~R4と同様のものを使用できる。Aは、S、NR6、又は、Oを表し、R6は、水素原子又は1価の有機基を表す。nは、1~5の整数である。1価の有機基としては、後述する1価の有機基として好ましいものを好ましく使用できる。)等の1価の有機基が好ましく、更に好ましくは、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であり、該炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基における炭化水素基は、それぞれ、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)、又は、炭素数6~18の芳香族炭化水素基(アリール基)であることが特に好ましい。
なお、アラルキル基は、ベンジル基のように、脂肪族炭化水素基とともに芳香環を有するものをいう。
2価の置換基としては、例えば、上述した1価の置換基から更に水素原子が1個脱離した構造のものや、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。2価の置換基は、一般式(1)で表されるベンゼン環と結合するとともに、ポリマーが有する他の構造と結合していてもよく、2価の置換基どうしが結合していてもよい。
中でも、置換基は、1価の置換基であることが好ましい。
【0017】
上記R1~R4の少なくとも1つは、ポリマーが有する他の構造との直接結合であるか、又は、当該直接結合を有する置換基である。
本明細書中、ポリマーが有する他の構造は、他の一般式(1)で表される構造でもよく、別の構造(構造単位等)でもよい。
例えば、カチオン構造の位置が、ポリマー中の主鎖である場合、上記R1~R4の中の2個が、それぞれ、ポリマーが有する他の構造との直接結合、又は、当該直接結合を有する置換基であることが好ましい。例えば、R2及びR4が、それぞれ、ポリマーが有する他の構造との直接結合、又は、当該直接結合を有する置換基であることが好ましい。
またカチオン構造の位置が、ポリマー中の側鎖である場合、上記R1~R4の中の1個が、ポリマーが有する他の構造との直接結合であるか、又は、当該直接結合を有する置換基(例えば、主鎖構造との直接的又は間接的な結合)であることが好ましい。
【0018】
上記一般式(1)で表される構造において、R1~R4は、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよく、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。
例えば、隣り合う2個の2価の置換基どうしが結合して、当該置換基が結合するベンゼン環とともに、ナフタレン環、ベンゾイミダゾール環等の縮環構造を形成していてもよい。
【0019】
上記R1~R4の少なくとも1つは、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であるか、又は、R1~R4の少なくとも2つは、オルト位の置換基である。
上記酸素を介した炭化水素基としては、炭化水素基と酸素原子(エーテル結合)からなるものであればよいが、炭化水素基が、Pに結合したフェニル基に直接結合した酸素原子を介して結合しているものが好適なものとして挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子がより好ましい。
中でも、上記R1~R4の少なくとも1つは、オルト位の炭化水素基又は酸素原子を介した炭化水素基であることが好ましい。
上記炭化水素基、上記酸素を介した炭化水素基における炭化水素基は、特に限定されないが、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基(アルケニル基等)、炭素数6~18の芳香族炭化水素基(アリール基)、炭素数7~18のアラルキル基が好適なものとして挙げられる。
上記炭化水素基、上記酸素を介した炭化水素基における炭化水素基は、より好ましくは、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)、炭素数6~18の芳香族炭化水素基(アリール基)、又は、炭素数7~18のアラルキル基である。
中でも、上記R1~R4の少なくとも1つは、炭化水素基であることが特に好ましい。
なお、上記R1~R4の少なくとも2つが、オルト位の置換基である場合、当該置換基は炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、ハロゲン原子には限定されず、その価数や種類が限定されない任意の置換基であるが、上述した1価の置換基、2価の置換基を好適に使用できる。
【0020】
上記一般式(1)で表される構造において、オルト位に結合できる置換基は8個まで可能である。
上記R1~R4のうち、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、又は、ハロゲン原子であるものが、少なくとも2つであることが好ましく、少なくとも3つであることがより好ましく、少なくとも4つであることが更に好ましく、少なくとも5つであることが一層好ましく、少なくとも6つであることがより一層好ましく、少なくとも7つであることが更に一層好ましく、8つであることが特に好ましい。
【0021】
また上記R1~R4のうち、オルト位の置換基であって、炭化水素基であるものが、少なくとも1つであることが好ましく、少なくとも2つであることがより好ましく、少なくとも3つであることが更に好ましく、少なくとも4つであることが特に好ましい。
オルト位の置換基が少なくとも4つあり、そのうち少なくとも3つは炭化水素基であることが好ましい。
中でも、例えば、上記R1~R4のうち、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、又は、ハロゲン原子であるものが、少なくとも4つであり、このうち、少なくとも3つは炭化水素基であることが特に好ましい。
【0022】
また上記R1~R4について、Pに結合した4個の芳香環のうち、少なくとも2個の芳香環のオルト位に置換基があることが好ましく、少なくとも3個の芳香環のオルト位に置換基があることがより好ましく、それぞれの芳香環のオルト位に置換基があることが更に好ましい。
中でも、オルト位の置換基が少なくとも4つあり、且つ、Pに結合した4個の芳香環のうち、少なくとも2個の芳香環のオルト位に置換基があることが好ましく、少なくとも3個の芳香環のオルト位に置換基があることがより好ましく、それぞれの芳香環のオルト位に置換基があることが更に好ましい。
なお、芳香環のオルト位に置換基があるとは、当該芳香環の1つ又は2つのオルト位に置換基があることをいう。
【0023】
例えば、R1の少なくとも1個が1価のオルト位の置換基であり、R2~R4それぞれの少なくとも1個が1価のオルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であることが好ましい。中でも、R1の少なくとも1個が1価のオルト位の置換基であり、R2~R4それぞれの少なくとも1個が1価の炭化水素基であることが好ましい。
1価の炭化水素基の好ましいものは、上述した通りである。
【0024】
また上記R1~R4について、Pに結合した芳香環(Pに結合した芳香環のいずれか)のメタ位又はパラ位に、置換基が少なくとも1つあることが好ましい。中でも、Pに結合した芳香環のメタ位又はパラ位に、炭化水素基が少なくとも1つあることがより好ましい。
【0025】
中でも、オルト位の置換基が少なくとも4つあり、且つ、Pに結合した芳香環(Pに結合した芳香環のいずれか)のメタ位又はパラ位に、置換基が少なくとも1つあることが好ましい。さらに、オルト位の置換基が少なくとも4つあり、且つ、Pに結合した芳香環のメタ位又はパラ位に、炭化水素基が少なくとも1つあることがより好ましい。
また上述したように、本発明のホスホニウム含有ポリマーにおいては、上記R1~R4の少なくとも1つは、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子である代わりに、R1~R4の少なくとも2つが、オルト位の置換基(任意の置換基)であってもよい。
上記置換基(任意の置換基)としては、上述したように、特に限定されないが、上述した1価の置換基であることが好ましい。
【0026】
上記一般式(1)で表される構造において、上記R1~R4のうち、オルト位の置換基(任意の置換基)であるものが、少なくとも3つであることが好ましく、少なくとも4つであることがより好ましく、少なくとも5つであることが更に好ましく、少なくとも6つであることが一層好ましく、少なくとも7つであることがより一層好ましく、8つであることが特に好ましい。
【0027】
また上述したのと同様に、上記R1~R4のうち、Pに結合した4個の芳香環のうち、少なくとも2個の芳香環のオルト位に置換基(任意の置換基)があることが好ましく、少なくとも3個の芳香環のオルト位に置換基があることが好ましく、それぞれの芳香環のオルト位に置換基があることが好ましい。
【0028】
本発明のホスホニウム含有ポリマーが、上記一般式(1)で表される構造と、別の構造単位とをそれぞれ主鎖に有する共重合ポリマーである場合、別の構造単位としては特に限定されないが、芳香環を含む構造単位が好ましい。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環等が挙げられ、別の構造単位としてこれらの1種又は2種以上を含むものを使用できる。
また別の構造単位が、酸素原子を更に含むポリエーテル構造や硫黄原子を更に含むポリアリーレンスルフィド構造、ポリスルホン構造を有することもまた好ましい。
【0029】
本発明のホスホニウム含有ポリマーが、上記カチオン構造を側鎖に有する場合、本発明のホスホニウム含有ポリマーの主鎖の構造は特に限定されないが、上述した芳香環やポリエーテル構造、ポリアリーレンスルフィド構造、ポリスルホン構造、重合性のビニル基含有単量体由来の構造、これらの組合せを有するもの等が挙げられる。例えば、主鎖としては、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン等のビニル重合体;ポリフェニレン等のポリアリーレン;ポリフェニレンエーテル等のポリアリーレンエーテル;ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィド;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0030】
主鎖がポリオレフィンである本発明のホスホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記(1a)で表される構造を有するものが挙げられる。
また主鎖がポリフェニレンである本発明のホスホニウム含有ポリマーとしては、例えば、下記(1b)で表される構造を有するものが挙げられる。
【化3】
【0031】
上記式(1a)、式(1b)中、R1~R4は、一般式(1)におけるR1~R4と同様である。R5、Aは、上述したR5、Aと同様である。Rは、水素原子、置換基、又は、ポリマーが有する他の構造との直接結合を表し、R1~R4と同様のものを使用できる。なお、R5、Rは、それぞれ、環構造に複数個結合していてもよく、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。m、nは、繰り返し単位数であり、mは1以上であり、例えば1~100であり、好ましくは1~50である。nは0以上であり、例えば0~100であり、好ましくは0~50である。
【0032】
本発明のホスホニウム含有ポリマーが有するカウンターアニオンX-としては、カウンターアニオンとして一般的な無機塩を用いることができ、例えばF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオンや、水酸化物イオン、トリフルオロメタンスルホナート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0033】
本発明のホスホニウム含有ポリマーは、アニオン伝導性が充分なものでありながら、耐久性に優れるものであり、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜の他、相間移動触媒、光酸発生剤等の多くの用途に好適に使用できる可能性がある。
【0034】
<本発明のホスホニウム含有化合物>
本発明のホスホニウム含有化合物は、上記一般式(1)で表される。
【0035】
上記一般式(1)において、R1~R4は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基を表す。
上記R1~R4の少なくとも1つは、オルト位の置換基であって、炭化水素基、酸素原子を介した炭化水素基、若しくは、ハロゲン原子であるか、又は、R1~R4の少なくとも2つは、オルト位の置換基である。これにより、本発明のホスホニウム含有化合物は、優れた化学的安定性を有する。
上記一般式(1)では、上記R1~R4における置換基が2価の置換基である場合、2価の置換基は、2価の置換基どうしが結合している。その他は、本発明のホスホニウム含有化合物におけるR1~R4が表す置換基、その好ましい形態は、上述した本発明のホスホニウム含有ポリマーにおけるR1~R4が表す置換基、その好ましい形態と同様である。
【0036】
本発明のホスホニウム含有化合物が有するカウンターアニオンX-としては、カウンターアニオンとして一般的な無機塩を用いることができ、例えばF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオンや、水酸化物イオン、トリフルオロメタンスルホナート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0037】
本発明のホスホニウム含有化合物は、耐久性に優れ、電解質材料、相間移動触媒、光酸発生剤等の多くの用途に好適に使用できる可能性がある。
【0038】
<本発明のホスホニウム含有ポリマー又はホスホニウム含有化合物の製造方法>
本発明のホスホニウム含有ポリマー又はホスホニウム含有化合物の製造方法は、ホスフィン化合物とアラインとを反応させる工程を含む。
本発明のホスホニウム含有ポリマー又はホスホニウム含有化合物の製造方法により、第4級ホスホニウム構造を簡便に形成することができる。
【0039】
上記ホスフィン化合物は、下記一般式(2):
【化4】
(式中、Aは、S、NR
6、O、又は、非共有電子対を表し、R
6は、水素原子又は1価の有機基を表す。R
2~R
4は、上述した一般式(1)におけるR
2~R
4と同様である。)で表される化合物であることが好ましい。
【0040】
上記アラインは、下記一般式(3-1)で表される化合物であるか、又は、下記一般式(3-1)で表される化合物及び下記一般式(3-2)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
(式中、R
1、R
5は、一般式(1)におけるR
1、R
5と同様である。)
【0041】
上記一般式(3-1)又は(3-2)で表される化合物は、それぞれ、例えば下記一般式(4-1)又は(4-2):
【化6】
(式中、TMSは、トリメチルシリル基を表す。Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基を表す。)で表される化合物を、例えばフッ化セシウム等のフッ化物と反応させて得ることができる。
【0042】
上記ホスフィン化合物とアラインとを反応させる工程は、アセトニトリル等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば15~60℃であることが好ましい。反応時間は、例えば1~48時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
なお、上述した一般式(4-1)又は(4-2)で表される化合物をフッ化物と反応させて上記一般式(3-1)又は(3-2)で表される化合物を得る工程は、上記反応工程と同時に行うことができる。本発明のホスホニウム含有ポリマー又はホスホニウム含有化合物の製造方法は、安定な原料化合物(例えば、上記一般式(4-1)又は(4-2)で表される化合物)から一段階の反応で行うことが可能であり、非常に簡便に本発明のホスホニウム含有ポリマー又はホスホニウム含有化合物を得ることができるものである。
【0043】
本発明のホスホニウム含有化合物の製造方法は、例えば、下記反応式:
【化7】
で表される反応を経て得ることができる。
なお、上記式(2)で表される化合物と、上記式(3-1)で表される化合物と、上記式(3-2)で表される化合物から、式(1’)で表される化合物が生成する反応について、想定される反応機構を示しているが、この反応は、1工程で式(1’)で表される化合物を生成させることができるものである。例えば、上記式(3-1)で表される化合物と、上記式(3-2)で表される化合物が同一である場合、通常、上記式(3-1)で表される化合物2当量が、上記式(2)で表される化合物1当量に対して連続して反応し、式(1’)で表される化合物が1工程で一気に生成する。なお、上記式(3-1)で表される化合物と、上記式(3-2)で表される化合物が異なっている場合、この反応は、開始時から3種類すべての原料を用いて1工程で式(1’)で表される化合物を生成させるものであってもよいし、上記式(2)で表される化合物と、上記式(3-1)で表される化合物とを先ず反応させた後、上記式(3-2)で表される化合物を後添加して、上記反応機構で示される順序に沿って2工程で反応させるものであってもよい。
また上記反応式において、Aは、S、NR
6、又は、Oを表す。
【0044】
本発明のホスホニウム含有化合物の製造方法は、例えは、下記反応式:
【化8】
で表される反応を経て得ることもできる。
【0045】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の反応により得ることができる。
先ず、上記ホスフィン化合物(2)の中でも、ハロゲン原子を少なくとも2つ有する化合物と、ジヒドロキシ化合物(6)とを反応させてポリマー化する。この反応は、炭酸カリウム等の塩基の存在下、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば100~200℃であることが好ましい。反応時間は、例えば6~48時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0046】
上記反応により得られたポリマーに、アラインを反応させることで、本発明のホスホニウム含有ポリマーを得ることができる。この反応は、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等の有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、例えば-10~40℃であることが好ましい。反応時間は、例えば10~48時間であることが好ましい。圧力条件は、特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0047】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えば、下記反応式:
【化9】
で表される反応を経て得ることができる。
なお、上記式(7)で表される化合物と、上記式(3-1)で表される化合物と、上記式(3-2)で表される化合物から、式(8)で表される化合物が生成する反応について、想定される反応機構を示しているが、この反応は、1工程で式(8)で表される化合物を生成させることができるものである。例えば、上記式(3-1)で表される化合物と、上記式(3-2)で表される化合物が同一である場合、通常、上記式(3-1)で表される化合物2当量が、上記式(7)で表される化合物1当量に対して連続して反応し、式(8)で表される化合物が1工程で一気に生成する。なお、上記式(3-1)で表される化合物と、上記式(3-2)で表される化合物が異なっている場合、この反応は、開始時から3種類すべての原料を用いて1工程で式(8)で表される化合物を生成させるものであってもよいし、上記式(7)で表される化合物と、上記式(3-1)で表される化合物とを先ず反応させた後、上記式(3-2)で表される化合物を後添加して、上記反応機構で示される順序に沿って2工程で反応させるものであってもよい。
また上記反応式において、Y
1、Y
2は、ハロゲン原子を表す。Zは、有機基を表し、好ましくは炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)、脂肪族不飽和炭化水素基(アルケニル基等)、炭素数6~18の芳香族炭化水素基(アリール基)、炭素数7~18のアラルキル基である。Aは、S、NR
6、又は、Oを表す。
【0048】
本発明のホスホニウム含有ポリマーの製造方法は、例えは、下記反応式:
【化10】
で表される反応を経て得ることもできる。
なお、上記反応式において、Y
1、Y
2、Zは、上述した通りである。
【0049】
<本発明の電解質材料>
本発明は、本発明のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とする電解質材料でもある。
本発明の電解質材料は、本発明のホスホニウム含有ポリマーの他、その原料であるモノマー等のその他の成分、溶媒等を含んでいてもよい。
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アルキレングリコールモノアルキルエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
本発明の電解質材料は、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜として有用である。
【0050】
<本発明のアニオン交換膜>
本発明は、本発明のホスホニウム含有ポリマーを含むことを特徴とするアニオン交換膜でもある。
本発明のアニオン交換膜は、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜として有用である。
【0051】
本発明のアニオン交換膜は、平均膜厚が10~1000μmであることが好ましい。該平均膜厚は、より好ましくは、20~500μmである。
本発明のアニオン交換膜の膜厚は、マイクロメーターにより測定することができる。
【0052】
本発明のアニオン交換膜を製造する方法は、膜が形成される限り特に制限されず、本発明のホスホニウム含有ポリマーを溶媒に溶解し、平坦面上に注いで有機溶媒を蒸発させる方法や、本発明の電解質材料をロールで圧延して膜状に成形する方法、平板プレス等で圧延して膜状に成形する方法や、射出成形法、押出成形法、キャスト法等の膜状に成形する方法を用いることができる。これらの成形方法は単独で用いてもよく、2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
上記製造方法は、上述したように、電解質材料を膜状に成形する工程の他に、膜を乾燥させる工程を含んでいてもよい。乾燥温度は適宜設定すればよいが、60℃~160℃で行うことができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「%」は「モル%」を意味するものとする。
【0054】
(化合物の合成)
<ベンザイン前駆体の合成>
合成例1:ベンザイン前駆体1の合成
2-ブロモフェノール(10.4g,60mmol)と1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(25.3mL,120mmol,2.0eq.)をTHF(20ml)に溶解させ、加熱還流下で3時間撹拌した。減圧下で溶媒を留去したのち1H-NMRでシリル保護体が生成しているのを確認した。生成物をTHF(78mL)に溶解させ、-78℃に冷却したのちノルマルブチルリチウム(41.3mL,66mmol,ca.1.6M,1.1eq.)をゆっくり加え、-78℃下で30分間攪拌した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(20.3g,72mmol,1.2eq.)をゆっくり加え、-78℃下で30分間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウムを加え反応をクエンチしたのち、酢酸エチルで有機層を抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)で精製し、ベンザイン前駆体1(14.9g,50mmol,83%)を無色透明油状物質として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。なお、TMSは、トリメチルシリル基、Tfは、トリフルオロメタンスルホニル基を意味する。以下の合成例、実施例においても同様である。
【0055】
スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ7.54(dd,J=7.6,1.6Hz,1H),7.44(ddd,J=8.0,7.6,2.0Hz,1H),7.38-7.29 (m,2H),0.304(s,9H)ppm
【化11】
【0056】
合成例2:ベンザイン前駆体2の合成
2,6-ジメチルフェノール(6.11g,50mmol)を二硫化炭素(180ml)に溶解させ、0℃に冷却したのちN-ブロモスクシンイミド(9.97g,56mmol,1.1eq.)をゆっくり加え、室温で3時間撹拌した。減圧下で溶媒を留去したのちシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)で精製し、2-ブロモ-3,6-ジメチルフェノール(6.09g,30mmol,61%)を無色油状物質として得た。ベンザイン前駆体1合成と同様の手順で2-ブロモ-3,6-ジメチルフェノール(1.30g,6.5mmol)と1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(1.15mL,7.1mmol,1.1eq.)をTHF(16ml)に溶解させ、加熱還流下で3時間撹拌した。減圧下で溶媒を留去したのち
1H-NMRでシリル保護体が生成しているのを確認した。生成物をTHF(20mL)に溶解させ、-78℃に冷却したのちノルマルブチルリチウム(4.40mL,7.1mmol,ca.1.6M,1.1 eq.)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(2.20g,7.8mmol,1.2eq.)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)で精製し、ベンザイン前駆体2(1.04g,3.2mmol,49%)を無色透明油状物質として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ=7.03(d,J=7.5Hz,1H),6.91(d,J=7.5Hz,1H),2.33(s,3H),1.97(s,3H),0.24(s,9H)ppm
【化12】
【0057】
<ホスホニウム塩類の合成>
実施例1:ホスホニウム含有化合物1の合成
クロロジフェニルホスフィン(1.10g,5.0mmol)をTHF(20ml)に溶解させ、-78℃に冷却したのち2-メチルフェニルマグネシウムブロマイド(4.40mL,5.5mmol,ca.1.25M,1.1eq.)をゆっくり加え、室温で24時間撹拌した。塩化アンモニウム水を適量加え反応を止め、酢酸エチルにより抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。エタノールで再結晶後、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、ジフェニル-o-トリルホスフィン(0.845g,3.1mmol,61%)を白色粉末として得た。フッ化セシウム(0.277g,1.8mmol,6.0eq.)をフラスコに入れ、真空引きをしてヒートガンで約5分間加熱して含有水分を除去した。アルゴンガスで置換後、上記で合成したジフェニル-o-トリルホスフィン(0.0828g,0.30mmol)を加えアセトニトリル(3ml)に溶解させた。0℃に冷却したのちベンザイン前駆体1(0.224g,0.75mmol,2.5eq.)をゆっくり加え、室温で24時間撹拌した。塩化ナトリウム水を適量加え、酢酸エチルにより抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー((i)ジクロロメタン、(ii)ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、ホスホニウム含有化合物1(0.0766g,0.15mmol,51%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
1H-NMR(300MHz,CDCl
3)δ=7.86-7.91(m,3H),7.75-7.81(m,7H),7.62-7.68(m,7H)7.47-7.49(m,1H),7.15-7.19(m,1H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3)δ=22.5ppm
【化13】
【0058】
実施例2:ホスホニウム含有化合物2の合成
実施例1と同様の手順でジクロロフェニルホスフィン(0.896g,5.0mmol)、o-トリルマグネシウムブロマイド(8.40mL,11mmol,ca.1.25M,2.1eq.)をTHF(20ml)中で反応させ、エタノールで再結晶後、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、フェニルジ-o-トリルホスフィン(0.679g,2.3mmol,47%)を合成した。さらに、実施例1と同様の手順でフェニルジ-o-トリルホスフィン(0.0871g,0.30mmol)、フッ化セシウム(0.274g,1.8mmol,6.0eq.)、ベンザイン前駆体1(0.224g,0.75mmol,2.5eq.)、アセトニトリル(3ml)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーで精製し、ホスホニウム含有化合物2(0.109g,0.21mmol,70%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0059】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3)δ=7.75-7.89(m,8H),7.51-7.68(m,8H),7.41(dd,J=6.9,14.4Hz,2H)2.00(s,6H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3)δ=22.5ppm
【化14】
【0060】
実施例3:ホスホニウム含有化合物3の合成
実施例1と同様の手順でトリス(o-トリル)ホスフィン(0.0915g,0.30mmol)、フッ化セシウム(0.273g,1.8mmol,6.0eq.)、ベンザイン前駆体1(0.224g,0.75mmol,2.5eq.)、アセトニトリル(3ml)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーで精製し、ホスホニウム含有化合物3(0.111g,0.21mmol,70%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0061】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3)δ=7.79-7.81(m,6H),7.46-7.55(m,11H),1.88(s,9H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3)δ=22.4ppm
【化15】
【0062】
実施例4:ホスホニウム含有化合物4の合成
実施例1と同様の手順でトリス(o-トリル)ホスフィン(0.0904g,0.3mmol)、フッ化セシウム(0.278g,1.8mmol,6.0eq.)、ベンザイン前駆体2(0.242g,0.75mmol,2.5eq.)、アセトニトリル(3ml)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィーで精製し、ホスホニウム含有化合物4(0.152g,0.27mmol,91%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0063】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ=7.70-7.78(m,3H),7.56-7.63(m,9H),7.32-7.46(m,3H),2.37(s,3H,CH
3),1.95(s,3H,CH
3),1.92(s,3H,CH
3),1.90(s,3H,CH
3),1.85(s,3H,CH
3)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3):δ=22.5ppm
【化16】
【0064】
実施例5:ホスホニウム含有化合物5の合成
ジフェニル-o-トリルホスフィン(0.552g,2.0mmol)、硫黄パウダー(64.2mg,2.0mmol,1.0eq)、トルエン(20mL)をフラスコに入れ、加熱還流下で24時間反応させた後、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)で精製し、ジフェニル-o-トリルホスフィンスルフィド(0.559g,1.8mmol,91%)を白色粉末として得た。フッ化セシウム(0.278g,1.8mmol,6.0eq.)をフラスコに入れ、真空引きをしてヒートガンで約5分間加熱して含有水分を除去した。アルゴンガスで置換後、ジフェニル-o-トリルホスフィンスルフィド(0.0930g,0.30mmol)を加えアセトニトリル(5ml)に溶解させた。0℃に冷却し、アセトニトリル(10mL)に溶解させたベンザイン前駆体1(0.269g,0.90mmol,3.0eq.)をゆっくり加え、室温に昇温し24時間撹拌した。31P-NMRで反応終了を確認したのちセライトろ過で無機塩を取り除き、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー((i)ジクロロメタン、(ii)ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、ホスホニウム含有化合物5(0.180g,0.29mmol,98%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0065】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ=7.51-7.78(m,19H),7.22-7.29(m,2H),6.85-6.87(m,2H),2.04(s,3H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3):δ=22.8ppm.
【化17】
【0066】
実施例6:ホスホニウム含有化合物6の合成
実施例5と同様の手順でフェニルジ-o-トリルホスフィン(0.435g,1.5mmol)、硫黄パウダー(48.0mg,1.5mmol,1.0eq)、トルエン(15mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)で精製し、フェニルジ-o-トリルホスフィンスルフィド(0.477g,1.5mmol,98%)を白色粉末として得た。さらに、実施例5と同様の手順でフェニルジ-o-トリルホスフィンスルフィド(0.0961g,0.30mmol)、フッ化セシウム(0.273g,1.8mmol,6.0eq.)、ベンザイン前駆体1(0.266g,0.90mmol,3.0eq.)、アセトニトリル(15mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー((i)ジクロロメタン、(ii)ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、ホスホニウム含有化合物6(0.186g,0.30mmol,99%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0067】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ=7.67-7.75(m,13H),7.26-7.52(m,6H),7.24-7.26(m,1H),6.89(d,J=6.6Hz,2H),1.99(s,6H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3):δ=22.9ppm.
【化18】
【0068】
実施例7:ホスホニウム含有化合物7の合成
実施例5と同様の手順でトリス(o-トリル)ホスフィン(0.761g,2.5mmol)、硫黄パウダー(85.0mg,2.6mmol,1.1eq)、トルエン(25mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=2:1)で精製し、トリス(o-トリル)ホスフィンスルフィド(0.696g,2.1mmol,83%)を白色粉末として得た。さらに、実施例5と同様の手順でトリス(o-トリル)ホスフィンスルフィド(0.100g,0.30mmol)、フッ化セシウム(0.276g,1.8mmol,6.0eq.)、ベンザイン前駆体1(0.266g,0.90mmol,3.0eq.)、アセトニトリル(15mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー((i)ジクロロメタン、(ii)ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、ホスホニウム含有化合物7(0.153g,0.24mmol,80%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0069】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ=7.46-7.79(m,17H),7.27-7.44(m,2H),6.93-6.95(d,J=3.6Hz,2H),2.01(s,3H),1.96(s,3H),1.92(s,3H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3):δ=23.4ppm.
【化19】
【0070】
実施例8:ホスホニウム含有化合物8の合成
実施例5と同様の手順でトリス(o-トリル)ホスフィンスルフィド(0.101g,0.30mmol)、フッ化セシウム(0.273g,1.8mmol,6.0eq.)、ベンザイン前駆体2(0.589g,1.8mmol,6.0eq.)、アセトニトリル(15mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー((i)ジクロロメタン、(ii)ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、ホスホニウム含有化合物8(0.169g,0.24mmol,81%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0071】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3)δ=7.49-7.84(m,12H),6.98-7.01(m,3H),6.68(s,2H),2.35(s,3H),2.33(s,3H),2.24(s,3H),1.97(s,3H),1.87(s,3H),1.75(s,3H),1.70(s,3H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3)δ=19.3ppm.
【化20】
【0072】
比較例1:ホスホニウム含有化合物9の合成
市販のテトラフェニルホスホニウムブロマイド(ホスホニウム含有化合物9)を使用して、化学的安定性評価を行った。購入した試薬は特に精製を行わず、そのまま用いた。
【化21】
【0073】
比較例2:ホスホニウム含有化合物10の合成
トリフェニルホスフィン(2.62g,10mmol)、硫黄パウダー(0.323g,10mmol,1.0eq)、トルエン(100mL)をフラスコに入れ、加熱還流下で24時間させた後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)で精製し、トリフェニルホスフィンスルフィド(2.72g,9.2mmol,92%)を白色粉末として得た。フッ化セシウム(0.269g,1.8mmol,6.0eq.)をフラスコに入れ、真空引きをしてヒートガンで約5分間加熱して含有水分を除去した。アルゴンガスで置換後、トリフェニルホスフィンスルフィド(0.0881g,0.30mmol)を加えアセトニトリル(5ml)に溶解させた。0℃に冷却し、アセトニトリル(10mL)に溶解させたベンザイン前駆体1(0.269g,0.90mmol,3.0eq.)をゆっくり加え、室温に昇温し24時間撹拌した。31P-NMRで反応終了を確認したのちセライトろ過で無機塩を取り除き、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー((i)ジクロロメタン、(ii)ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、ホスホニウム含有化合物10(0.114g,0.19mmol,64%)を白色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0074】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ=7.81-7.84(m,3H),7.65-7.78(m,14H),7.23-7.27(m,5H),6.90(d,J=7.6Hz,2H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3):δ=22.6ppm
【化22】
【0075】
実施例9:ホスホニウム含有化合物11の合成
2-ブロモトルエン(6.85g,40mmol)をTHF(60ml)に溶解させ、-78℃に冷却したのちn-BuLi(27.5mL,44mmol,1.1eq)をゆっくり滴下し、-78℃で30分攪拌した。この反応溶液を-78℃の塩化亜鉛(6.55g,48mmol,1.2eq.)、THF(60mL)の溶液にカニューレを用いてゆっくり滴下し、-78℃で2時間攪拌した。この反応溶液を-78℃の三塩化リン(4.19mL,48mmol,1.2eq.)、THF(80mL)の溶液にカニューレを用いてゆっくり滴下し、室温に昇温後、18時間攪拌した。31P-NMRで選択的に一置換体が生成していることを確認し、減圧下で溶媒を留去した。蒸留ヘキサン(50mL)を加え目的物を抽出後、減圧下で溶媒を留去し、THF(120mL)を加え、-78℃に冷却した。4-フルオロ-2-メチルフェニルマグネシウムブロミド(70.4mL,88mmol,ca.1.25M,2.2eq.)をゆっくり加え、室温に昇温し24時間撹拌した。31P-NMRで目的物が生成していることを確認し、塩化アンモニウム水を適量加え反応を止め、酢酸エチルにより抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、中間体1(4.77g,14mmol,35%)を白色粉末として得た。
【0076】
実施例5と同様の手順で中間体1(0.306g,0.90mmol)、硫黄パウダー(32.9mg,0.99mmol,1.1eq)、トルエン(9mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=2:1)で精製し、中間体2(0.259g,0.70mmol,77%)を白色粉末として得た。
【0077】
中間体2(0.372g,1.0mmol)、p-クレゾール(0.270g,2.5mmol,2.5eq.)、炭酸カリウム(0.415g,3.0mmol,3.0eq.)をNMP(10ml)に溶解させ、130℃で1時間攪拌した後、160℃に昇温して14時間反応させた。反応終了後溶液を室温まで冷却し、水を加えヘキサン/酢酸エチル=4:1で抽出した。その後水で三回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン=4:1)で精製し、中間体3(0.281g,0.51mmol,51%)を白色粉末として得た。
実施例5と同様の手順で中間体3(0.165g,0.30mmol)、フッ化セシウム(0.272g,1.8mmol,6.0eq.)、ベンザイン前駆体1(0.267g,0.6mmol,3.0eq.)、アセトニトリル(15mL)を反応させ、シリカゲルクロマトグラフィー((i)ジクロロメタン、(ii)ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、ホスホニウム含有化合物11(0.235g,0.28mmol,92%)を淡い橙色粉末として得た。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0078】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3):δ=7.34-7.82(m,8H),7.18-7.28(m,7H),6.87-7.02(m,12H),2.37(s,6H),1.81-2.02(m,9H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3):δ=21.8-22.0ppm.
【化23】
【0079】
<ホスホニウム含有ポリマーの合成>
実施例10:ホスホニウム含有ポリマー1の合成
実施例9と同様の手順で中間体2(0.373g,1.0mmol)、ビスフェノールA(0.373g,1.0mmol,1.0eq.)、炭酸カリウム(0.194g,1.4mmol,1.4eq.)、NMP(1.1ml)を反応させ、中間体4(0.523g,0.93mmol,93%)を白色固体として得た。
【0080】
フッ化セシウム(2.92g,19mmol,24eq.)をフラスコに入れ、真空引きをしてヒートガンで約5分間加熱して含有水分を除去した。アルゴンガスで置換後、中間体4(0.449g,0.80mmol)を加えTHF(72mL)、アセトニトリル(8ml)に溶解させた。0℃に冷却し、ベンザイン前駆体1(2.88g,9.6mmol,12eq.)をゆっくり加え、室温に昇温し24時間撹拌した。31P-NMRで反応終了を確認したのちセライトろ過で無機塩を取り除き、減圧下で溶媒を留去した。残渣を少量のジクロロメタンに溶解させ、酢酸エチルにゆっくり滴下した。酢酸エチル、脱イオン水で洗浄し固体を回収後、60℃で2時間減圧乾燥させ、ホスホニウム含有ポリマー1(0.425g,0.49mmol,62%)を淡い橙色固体として得た。ゲル浸透クロマトグラフィーによって分析したところ、得られたポリマーの数平均分子量は1万2千程度、重量平均分子量は2万8千程度であった。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0081】
1H-NMR(300MHz,CDCl3)δ=7.32-7.84(m,16H),6.76-7.09(m,11H),1.75-2.00(m,9H),1.58-1.72(s,6H)ppm;31P-NMR(121MHz,CDCl3)δ=21.6-21.8ppm
【0082】
実施例11:ホスホニウム含有ポリマー2の合成
実施例10と同様の手順で中間体2(0.111g,0.30mmol)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(0.105g,0.30mmol,1.0eq.)、炭酸カリウム(0.0572g,0.42mmol,1.4eq.)、NMP(0.43ml)を反応させ、中間体5(0.171g,0.25mmol,83%)を白色固体として得た。
【0083】
実施例10と同様の手順で中間体5(0.547g,0.80mmol)、ベンザイン前駆体1(2.87g,9.6mmol,12eq.)、フッ化セシウム(2.91g,19mmol,24eq.)、THF(72mL)、アセトニトリル(8ml)を反応させホスホニウム含有ポリマー2(0.439g,0.44mmol,56%)を淡い橙色固体として得た。ゲル浸透クロマトグラフィーによって分析したところ、得られたポリマーの数平均分子量は7千程度、重量平均分子量は1万5千程度であった。NMRにて下記式に示す構造であることを確認した。スペクトルデータを以下に示す。
【0084】
1H-NMR(300MHz,CDCl
3)δ=7.08-7.82(m,24H),6.63-7.02(m,11H),1.65-2.05(m,9H)ppm;
31P-NMR(121MHz,CDCl
3)δ=21.6-21.8ppm
【化24】
【0085】
(化学安定性の評価)
<ホスホニウム含有化合物の化学安定性評価(イオン交換基の安定性)>
ホスホニウム含有化合物中のイオン交換基の塩基に対する化学的安定性を、31P-NMR分光測定をもとに以下の方法によって評価した。水酸化カリウムを重メタノール/重水=5/1の混合溶媒に溶解した。水酸化カリウム溶液は0.1M、1M、6Mの3種類の濃度のものを調製した。各ホスホニウム含有化合物を上記の水酸化カリウム溶液に溶解させ、サンプル溶液を調製した。また、基準物質であるリン酸溶液をキャピラリーチューブに入れ封管し、これを外部標準とした。各ホスホニウム含有化合物溶液を入れたNMRチューブに、外部標準チューブを挿入し室温で31P-NMR測定を行った。次に、各ホスホニウム含有化合物溶液をオイルバス中80℃で加熱し、所定の時間を経過した後31P-NMR測定を行った。各サンプルの残存率を下記式により算出し、分解挙動を追跡した。
残存率={(加熱後のホスホニウム含有化合物のピーク面積)/(リン酸のピーク面積)}/{(加熱前のホスホニウム含有化合物のピーク面積)/(リン酸のピーク面積)}×100(%)
【0086】
各ホスホニウム含有化合物の耐久性によって水酸化カリウム濃度を使い分け、各化合物の耐久性の序列を比較した。それぞれ0.1Mの水酸化カリウム中で評価した結果を表1に、1Mの水酸化カリウム中で評価した結果を表2に、6Mの水酸化カリウム中で評価した結果を表3に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1~3に示す通り、テトラフェニルホスホニウム含有化合物において、オルト位の置換基を導入することにより、塩基性条件における耐久性が大きく向上することがわかる。また、耐久性の序列はフェニルスルフィド基の有無に大きく左右されないことがわかる。
【0091】
<ホスホニウム含有ポリマーの化学安定性評価(エーテル結合の安定性)>
ホスホニウム含有ポリマー中のエーテル結合による化学安定性の影響について、ホスホニウム含有化合物11をモデル化合物として、以下の方法により評価した。ホスホニウム含有化合物11を1M KOH中、80℃の条件で30日間放置し、放置前、15日経過後、及び30日経過後に、それぞれ
31P-NMR測定を行った。NMRスペクトルを
図1に示す。ホスホニウム含有化合物11に帰属されるピークの積分面積は全く変化せず、分解は起こっていないことがわかる。以上により、ホスホニウム含有ポリマーに含まれるエーテル結合の、塩基性条件での劣化はほとんどないと言え、今回設計したポリエーテルベースの電解質膜は非常に化学安定性が高いことが示唆される。
【0092】
(アニオン交換膜の作成・物性評価)
<アニオン交換膜の成膜>
膜はドロップキャスト法で作成した。2.5cm×2.5cmのガラス基板にホスホニウム含有ポリマーの20重量%DMF溶液を滴下し、オーブンで60℃,24時間常圧化で加熱後、24時間真空乾燥をした。その後、ガラス基板から膜を剥がし、1M NaOH溶液に24時間室温で浸漬させ、脱イオン水で洗浄後、各種測定を行った。
【0093】
<熱安定性評価>
アニオン交換膜の熱安定性を熱重量測定(TGA)によって測定した。40~800℃の温度範囲で測定を行い、熱分解温度(Td:5重量%熱分解温度)を求めた。TGA曲線を
図2に、Tdを表4に示す。
【0094】
<含水率(Water Uptake:WU)>
脱イオン水に24時間浸漬させペーパータオルで表面の水気をとり、湿潤重量(Mw)を測定した。その後、60℃で24時間真空乾燥を行い、乾燥重量(Md)を測定した。含水率(WU)は以下の式にそれぞれ測定したMwとMdを代入することで算出した。結果を表4に示す。
WU(%)=(Mw-Md)/Md×100%
Md:乾燥重量 Mw:湿潤重量
【0095】
<イオン交換容量(Ion Exchange Capacity:IEC)測定>
イオン交換容量とはアニオン交換膜の取り込める対アニオンの量を示し、通常は取り込んだヒドロキシイオンについて測定される。IECが高いほど相対的に膜抵抗は低くなり、燃料電池、水電解槽などのデバイスにおいて高い発電効率が期待される。
IECは次のように測定した。アニオン交換膜を1M水酸化ナトリウム水溶液に室温で48時間浸漬し、軽くペーパータオルで水気を取った後0.025M HCl溶液に24時間浸漬させた。指示薬としてBTB溶液を数滴加え、0.025M水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行った。IECを、下記式を用いて算出した。
IEC[mmol/g]=(VHCl×CHCl-VNaOH×CNaOH)/M
VHCl:塩酸の体積 CHCl:塩酸の濃度 VNaOH:水酸化ナトリウムの体積 CNaOH:水酸化ナトリウムの濃度 M:試料の重量
【0096】
算出したイオン交換容量の数値を表4に示す。
【0097】
【0098】
上記の結果から、本発明の実施例の膜は、優れた安定性を持つと同時に充分なアニオン伝導性を達成することができる。