(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】免疫抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240321BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240321BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240321BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P37/06
A61P37/08
C07K16/28
(21)【出願番号】P 2020560066
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047913
(87)【国際公開番号】W WO2020116636
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018229774
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業」「多機能複合分子標的物質の作製による細胞運命操作技術の開発」委託研究開発、および平成21年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)研究領域「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」「自己免疫疾患制御分子の同定による新規治療法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 拓
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 大祐
(72)【発明者】
【氏名】前田 武雄
(72)【発明者】
【氏名】柴山 史朗
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-517406(JP,A)
【文献】特表平11-508764(JP,A)
【文献】特表2018-519335(JP,A)
【文献】特表2016-533335(JP,A)
【文献】Cancer Immunology Research,2018年06月05日,Vol.6,pp.921-929
【文献】Science,2019年05月10日,Vol.364,pp.558-566
【文献】Leuk.Lymphoma,2013年,Vol.54, No.7,pp.1405-1410
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD80とPD-L1とのシス結合を阻害する抗CD80抗体を含む免疫抑制剤。
【請求項2】
該抗CD80抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域、または、配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する、請求項
1に記載の免疫抑制剤。
【請求項3】
該抗CD80抗体がCD80とCTLA-4の結合を実質的に阻害しない、請求項
1または2に記載の免疫抑制剤。
【請求項4】
該抗CD80抗体が、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項
1~
3のいずれかに記載の免疫抑制剤。
【請求項5】
該抗CD80抗体が、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
1~
3のいずれかに記載の免疫抑制剤。
【請求項6】
該抗CD80抗体が、配列番号7のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
4に記載の免疫抑制剤。
【請求項7】
該抗CD80抗体が、配列番号15のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号16のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
5に記載の免疫抑制剤。
【請求項8】
該抗CD80抗体が、CD80への結合に対して請求項
4~
7のいずれかに記載の抗体と競合する、請求項
1~3のいずれかに記載の免疫抑制剤。
【請求項9】
自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療における使用のための、請求項1~
8のいずれかに記載の免疫抑制剤。
【請求項10】
CD80とPD-L1とのシス結合を阻害する抗CD80抗体を有効成分として含む、自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2018-229774号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本願は、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質を含む免疫抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、生体内で病原体などの非自己物質やがん細胞などの異常な細胞を認識して殺滅することにより、生体を疾患から保護する。免疫系は病原体や異常な細胞を攻撃し、正常な自己物質を攻撃しないように緻密に制御されているが、その制御機構が破綻すると、自己免疫疾患や慢性炎症性疾患など、種々の難治性疾患を引き起こす。
【0003】
免疫系の制御に関わる様々な分子が知られている。プログラム細胞死-1(Programmed death-1、PD-1)は、T細胞の表面にある免疫チェックポイント受容体の一種であり、プログラム細胞死リガンド-1(Programmed death ligand-1、PD-L1)とプログラム細胞死リガンド-2(Programmed death ligand-2、PD-L2)の2種類のリガンドに結合する。CD80は、CD86とともに、T細胞に発現する構造的によく似た2つの分子、CD28およびCTLA-4のリガンドとして機能する。CD28はT細胞を活性化し、一方、CTLA-4は抑制する。PD-1、PD-L1およびCTLA-4の標的化阻害は、腫瘍特異的T細胞を活性化でき、ヒト患者における腫瘍の処置に有効であることが知られている。また、CD80とCD28の結合を阻害する抗CD80抗体は、T細胞活性化を抑制すると報告された(特許文献1)。
【0004】
興味深いことに、CD80/PD-L1相互作用を阻害する抗PD-L1抗体が、腫瘍免疫を活性化し、癌治療に有用であるとの報告がある(非特許文献1、特許文献2)。その一方で、CD80とPD-L1が同一細胞上で発現し、結合するとの報告や、CD80によるT細胞活性維持にはCD28を介した作用に加え、PD-1/PD-L1系による免疫抑制の阻害が関与するとの報告もある(非特許文献2、3)。このように、CD80/PD-L1相互作用の生理的機能は解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開1998/019706号公報
【文献】米国特許出願公開第2011/0280877号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】The Journal of Immunology, 2011, 187: 1113-1119
【文献】Cancer Immunol Res. 2014 July ; 2(7): 610-615
【文献】Cancer Immunology Research, 2018 June 5, 6(8), 921-929
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願の1つの目的は、免疫抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある態様において、本開示は、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質を含む免疫抑制剤を提供する。
ある態様において、本開示は、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗CD80抗体を提供する。
ある態様において、本開示は、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗CD80抗体を提供する。
ある態様において、本開示は、CD80への結合に対して上記の抗体のいずれかと競合する抗CD80抗体を提供する。
ある態様において、本開示は、上記の抗体のいずれかを有効成分として含む免疫抑制剤を提供する。
ある態様において、本開示は、上記の抗体のいずれかを有効成分として含む、自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、免疫抑制剤、または自己免疫疾患、アレルギー疾患もしくは移植片対宿主病の予防および/または治療剤、またはこれらに利用可能な抗体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】PD-1-EC(左)および図中に示す標識抗体(右)の、PD-L1(上段)またはPD-L2(下段)とCD80またはCD86を発現するIIAdL1細胞との結合強度を示す。
【
図2】IIAdL1-mock細胞またはIIAdL1-CD80細胞と共培養した場合としない場合の、PD-1-ECおよび抗PD-L1抗体のIIAdL1-PD-L1細胞との結合強度を示す。
【
図3】IIAdL1細胞におけるCD80とPD-L1の共免疫沈降を示す。WCL:架橋していない細胞溶解物全体。
【
図4】図中に示す量の抗原ペプチドをパルスした抗原提示細胞と、PD-1発現DO11.10 T細胞(PD-1(+))(左)またはPD-1欠損DO11.10 T細胞(PD-1KO)(右)を共培養した際の、T細胞からのIL-2産生を示す。PD-1を介するIL-2産生の阻害の割合を図中に示す。
【
図5】種々のレベルでPD-L1およびCD80を発現する各IIAdL1細胞に対する、PD-L1抗体(左)およびCD80抗体(右)の結合強度を示す。
【
図6】最も高いレベルでPD-L1を発現し、種々のレベルでCD80を発現する各IIAdL1細胞に対する、PD-1-ECの結合強度を示す。
【
図7】25種の異なる発現レベルでPD-L1およびCD80を発現する各IIAdL1細胞に対するPD-1-ECの相対的な結合強度を示す。
【
図8】DO11.10 T細胞からのIL-2産生を、25種の異なる発現レベルでPD-L1およびCD80を発現する各IIAdL1細胞により誘発した際の、PD-1を介するIL-2産生の阻害割合を示す。
【0011】
【
図9】PD-1-ECおよび図中に示す標識抗体の、LPS活性化脾臓CD8α
+およびCD11b
+DCならびにTG-MΦとの結合強度を示す。破線のヒストグラムはアイソタイプ対照染色である。
【
図10】PD-1-ECおよび図中に示す抗体の、野生型マウスまたはC57BL/6-Cd80
-/-マウスに由来するLPS活性化脾臓CD8α
+およびCD11b
+DCならびにTG-MΦとの結合強度を示す。
【
図11】図中に示す量の抗原ペプチドをLPS活性化TG-MΦ(上段)、脾臓CD8α
+(中段)およびCD11b
+(下段)DCにパルスし、これらの細胞によりBW-OT-I細胞(左)およびBW-OT-II細胞(右)を刺激した際の、T細胞からのIL-2産生を示す。PD-L1およびPD-L2に対する機能阻害抗体およびアイソタイプ対照IgGを図中に示す通りに添加した。
【
図12】図中に示す条件について、PD-1を介するIL-2産生阻害の割合を示す。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。**p < 0.01;***p < 0.001。
【0012】
【
図13】PD-L1、PD-L2、CD80およびCD86のIgVドメインおよびIgCドメインを交換したキメラ分子の略図である。
【
図14】図中に示す分子を発現するIIAdL1細胞のPD-1-EC結合強度を示す。
【
図15】単離されたPD-L1変異体(上段)およびY56をアミノ酸置換したPD-L1(下段)を発現するIIAdL1-CD80細胞のPD-1-EC結合能を示す。細胞のPD-1-EC結合強度を、CD80を有さないIIAdL1-PD-L1細胞のPD-1-EC結合強度と比較して示す。
【
図16】マウスPD-L1(左)およびマウスCD80(右)の予測される3D構造を示す。cis-PD-L1/CD80相互作用に影響を与えるアミノ酸残基を示す。
【
図17】CD80存在下におけるPD-1-ECのPD-L1Y56Aとの結合を示す。PD-1-EC(左)および抗PD-L1抗体(右)の、図中に示す分子を発現するIIAdL1細胞との結合強度を示す。
【
図18】ヒトCD80(左)およびCD86(右)の疎水性(グレー)を示す。これらの分子の疎水性をUCSFキメラソフトウェアで解析した。図中、円で囲んだ領域はCD80のDEB表面において見出された特有の疎水性パッチを示す。
【
図19】CD80L107E存在下におけるPD-1-ECのPD-L1との結合を示す。PD-1-EC、抗CD80抗体、CD28-ECおよびCTLA-4-ECの、図中に示す分子を発現するIIAdL1細胞との結合強度を示す。
【
図20】疎水性パッチ中の疎水性残基をアミノ酸置換したCD80を発現するIIAdL1-PD-L1細胞のPD-1-EC結合能を示す。細胞のPD-1-EC結合強度を、CD80を有さないIIAdL1-PD-L1細胞のPD-1-EC結合強度と比較して示す。
【
図21】PD-L1Y56A/CD80およびPD-L1/CD80L107Eの共免疫沈降の欠如を示す。WCL:架橋していない細胞溶解物全体。
【
図22】図中に示す分子を発現する抗原提示細胞と、PD-1が発現しているDO11.10 T細胞(PD-1(+))(左)またはPD-1が欠損しているDO11.10 T細胞(PD-1KO)(右)を共培養した際の、T細胞からのIL-2産生を示す。図中に示す量の抗原ペプチドを用いた。
【
図23】
図22上段に示したデータをさらに分析した結果を示す。PD-L1およびPDL1Y56Aを介したPD-1依存的な阻害の割合を示す。
【
図24】
図22中段および下段に示したデータをさらに分析した結果を示す。図中に示す分子を介したPD-1依存的な阻害の割合を示す(0.3μM 抗原ペプチド)。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。***p<0.001。
【0013】
【
図25】ヒトPD-1-ECおよび図中に示す抗体の、ヒトPD-L1(上段)またはヒトPD-L2(下段)とヒトCD80またはヒトCD86を発現するIIAdL1細胞との結合強度を示す。
【
図26】ヒトCD80を発現するIIAdL1細胞と共培養した場合としない場合の、ヒトPD-1-ECと、ヒトPD-L1を発現するIIAdL1細胞との結合強度を示す。
【
図27】IIAdL1細胞におけるヒトCD80とヒトPD-L1の共免疫沈降を示す。WCL:架橋していない細胞溶解物全体。
【
図28】図中に示す量の抗原ペプチドを図中に示す抗原提示細胞にパルスし、ヒトPD-1を含む(hPD-1(+))(左)、または含まない(PD-1KO)(右)DO11.10 T細胞と共培養した際の、T細胞からのIL-2産生を示す。ヒトPD-1を介するIL-2産生の阻害の割合を図中に示す。
【
図29】ヒトPD-L1N63D/G119S変異体を発現するIIAdL1細胞(上段)、ならびに、ヒトCD80、CD80I92EおよびCD80L104Eを発現するIIAdL1細胞(下段)に対する、PD-1-EC結合強度を示す。
【
図30】図中に示す分子を発現する抗原提示細胞を、ヒトPD-1が発現している(hPD-1(+))(左)、または欠損している(PD-1KO)(右)DO11.10 T細胞と共培養した際の、T細胞からのIL-2産生を示す。図中に示す量の抗原ペプチドを用いた。
【0014】
【
図31】C57BL/6N-Cd80
L107EマウスおよびC57BL/6N-Cd274
Y56Aマウス由来のLPS活性化BM-DCならびに脾臓CD8α
+およびCD11b
+DCにおける、PD-1-EC結合強度、PD-L1、PD-L2、CD80発現レベルを示す。
【
図32】C57BL/6N-Cd80
L107EマウスおよびC57BL/6N-Cd274
Y56Aマウス由来のBM-DCにより刺激されたBW-OT-I細胞(左)およびBW-OT-II細胞(右)における、PD-1を介するIL-2産生の阻害を、IL-2の濃度で示す。
【
図33】
図32の結果を相対値で示す。BW-OT-I細胞は3 pM、BW-OT-II細胞は0.1 μMの抗原濃度のデータを用いた。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。***p < 0.001。
【
図34】C57BL/6N-Cd80
L107EマウスおよびC57BL/6N-Cd274
Y56Aマウス由来の脾臓CD8α
+およびCD11b
+DCにより刺激されたBW-OT-I細胞(左)およびBW-OT-II細胞(右)における、PD-1を介するIL-2産生の阻害を示す。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。*p < 0.05;**p < 0.01。
【
図35】cis-PD-L1/CD80相互作用の非存在下における免疫誘導実験では、IFN-γ(上段)およびIL-2(下段)を産生できるOVA特異的T細胞が誘導されないことを示す(n=9)。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。*p < 0.05;**p < 0.01;***p < 0.001。
【
図36】OVAおよびpoly(I:C)でのワクチン接種の実験計画を示す。
【
図37】PBS(Ctrl)またはOVAおよびpoly(I:C)(Vac)で免疫された、野生型、Cd80
L107E、およびCd274
Y56AマウスにおけるE.G7腫瘍の体積を示す。対応のないスチューデントの両側t検定。***p < 0.001。
【
図38】PBS(Ctrl)またはOVAおよびpoly(I:C)(Vac)で免疫された、野生型、Cd80
L107E、およびCd274
Y56Aマウスにおける、E.G7腫瘍の相対的な体積(15日目)を示す(n≧8)。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。*p < 0.05;***p < 0.001。
【
図39】OVAパルスしたBM-DCでのワクチン接種の実験計画を示す。
【
図40】野生型、Cd274
Y56A、およびCd80
L107Eマウス由来のBM-DCで免疫された野生型マウスにおけるE.G7腫瘍の体積を示す。対応のないスチューデントの両側t検定。*p < 0.05;**p < 0.01。
【
図41】野生型、Cd274
Y56A、およびCd80
L107Eマウス由来のBM-DCで免疫された野生型マウスにおける、E.G7腫瘍の相対的な体積(14日目)を示す(n=7)。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。*p < 0.05;**p < 0.01。
【
図42】野生型、Cd274
Y56A、およびCd80
L107Eマウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の臨床スコアを示す(n=12)。TukeyHSD事後検定を伴う二元配置反復測定分散分析。***p < 0.001。
【
図43】EAE誘導の際に、cis-PD-L1/CD80相互作用の非存在下では、IL-17産生細胞が誘導されないことを示す(n=8)。ダネットの事後検定を伴う一元配置分散分析。*p < 0.05;**p < 0.01。
【0015】
【
図44】抗マウスCD80抗体TKMG48が、mPD-L1とmCD80を分離し、mPD-L1のmPD-1結合能を回復させることを示す。
【
図45】抗マウスCD80抗体TKMG48が、mCD80とmCTLA-4との結合を阻害せず、mCD80とmCD28の結合を弱く阻害することを示す。
【
図46】抗マウスCD80抗体TKMG48添加により、mCD80存在下でも、mPD-L1がmPD-1と結合してT細胞の活性化を抑制することを示す。
【
図47】抗マウスCD80抗体TKMG48の投与により、野生型マウスのEAEの症状が実質的に軽減されることを示す。
【
図48】抗マウスCD80抗体TKMG48の投与により、野生型マウスのEAEの症状は実質的に軽減されるが、PD-L1ノックアウトマウス(図中、PD-L1 K.O.)では軽減されないことを示す。
【
図49】抗ヒトCD80抗体TKMF5の添加により、hCD80存在下でも、hPD-L1がhPD-1と結合してT細胞の活性化を抑制することを示す。
【
図50】PD-L1への結合能を欠くCD80変異体に対する抗マウスCD80抗体TKMG48の結合性は低いことを示す。16-10A1は市販の抗マウスCD80抗体である。
【
図51】PD-L1への結合能を欠くCD80変異体に対する抗ヒトCD80抗体TKMF5の結合性は低いことを示す。2D10は市販の抗ヒトCD80抗体である。
【
図52】抗ヒトCD80抗体TKMF5の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。各CDRを四角で囲んで示す。
【
図53】抗マウスCD80抗体TKMG48の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。各CDRを四角で囲んで示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0017】
本開示において、アミノ酸残基は以下の略号で表される。
AlaまたはA:アラニン
ArgまたはR:アルギニン
AsnまたはN:アスパラギン
AspまたはD:アスパラギン酸
CysまたはC:システイン
GlnまたはQ:グルタミン
GluまたはE:グルタミン酸
GlyまたはG:グリシン
HisまたはH:ヒスチジン
IleまたはI:イソロイシン
LeuまたはL:ロイシン
LysまたはK:リジン
MetまたはM:メチオニン
PheまたはF:フェニルアラニン
ProまたはP:プロリン
SerまたはS:セリン
ThrまたはT:スレオニン
TrpまたはW:トリプトファン
TyrまたはY:チロシン
ValまたはV:バリン
【0018】
PD-L1(CD274とも呼ばれる)は、PD-1のリガンドであり、樹状細胞および腫瘍細胞を含む多様な細胞に発現する。PD-1はT細胞の表面にある代表的な免疫チェックポイント受容体であり、PD-L1がPD-1に結合することにより、免疫反応は抑制され得る。従って、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質を、免疫抑制剤として使用し得る。本願の発明者らは、ある種の抗CD80抗体および抗PD-L1抗体がPD-L1とPD-1との結合を促進させることを見出した。
【0019】
PD-L1とPD-1との結合は、例えば、PD-L1を発現する細胞を、検出可能な標識(例えば、蛍光標識、発光標識、放射性標識、磁気標識など)を有するPD-1の細胞外領域を含む可溶性ペプチドと接触させ、細胞に結合した標識の量を測定することにより、測定し得る。無標識の可溶性ペプチドを、そのペプチドに結合し、標識を有する物質(例えば、二次抗体)と併用してもよい。具体的には、本願の実施例に記載の方法によりPD-L1とPD-1との結合を測定し得る。
【0020】
CD80は、主に樹状細胞、活性化B細胞およびマクロファージの表面に発現し、T細胞表面に存在する2種の異なるタンパク質(CD28およびCTLA-4)のリガンドとして、T細胞の活性化および生存を制御し得る。理論により限定されないが、本願の発明者らは、同一細胞上にあるCD80とPD-L1が結合(シス結合)することにより、PD-L1とT細胞上にあるPD-1の結合が阻害されることを明らかにした。従って、CD80とPD-L1のシス結合が阻害されると、PD-L1とPD-1の結合は促進され得る。ある態様では、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、CD80と同一細胞上に存在するPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質である。ある態様では、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、CD80とPD-L1とのシス結合を阻害する物質である。ある態様では、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、抗CD80抗体である。また、ある態様では、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、抗PD-L1抗体である。
【0021】
本開示において、「シス(cis)」とは、2つ以上の異なるタンパク質等の分子が同一の細胞上に存在することを意味する。例えば、cis-PD-L1/CD80とは、PD-L1とCD80が同一の細胞上に存在することを意味する。
本開示において、「トランス(trans)」とは、2つ以上の異なるタンパク質等の分子が異なる細胞上に存在することを意味する。例えば、trans-PD-L1/CD80とは、PD-L1とCD80が別々の細胞上に存在することを意味する。
【0022】
本開示において、「シス結合」とは、1つの細胞の表面に発現している2つ以上の異なる膜タンパク質が、その細胞膜上で結合、会合または相互作用することを意味する。CD80とPD-L1のシス結合はいかなる細胞で生じてもよく、例えば、免疫系の細胞、特に、抗原提示細胞、例えば、抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞などの細胞で生じ得る。
【0023】
CD80とPD-L1のシス結合は、CD80とPD-L1を発現する細胞を、近接するタンパク質を架橋する架橋剤(例えば、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート)で処理した後に、架橋されたCD80とPD-L1を検出または測定することにより、確認できる。架橋されたCD80とPD-L1は、免疫沈降、ELISA、質量分析解析等のアッセイ系において、CD80とPD-L1の一方に結合する物質(例えば抗体)により捕捉した分子を、他方に結合する物質(例えば抗体)で検出または測定することにより、検出または測定できる。具体的には、本願の実施例に記載の方法によりCD80とPD-L1のシス結合を測定し得る。CD80に結合する物質としては、CD28、CTLA-4、抗CD80抗体、これらの断片などが挙げられる。PD-L1に結合する物質としては、PD-1、抗PD-L1抗体、これらの断片などが挙げられる。検出または測定用の物質は、検出可能な標識(例えば、蛍光標識、発光標識、放射性標識、磁気標識など)を有してもよい。
【0024】
本開示において、「シス結合を阻害する」とは、シス結合しているCD80とPD-L1を解離させること、および/または、シス結合していないCD80とPD-L1がシス結合するのを防止することを含む。ある実施態様では、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、CD80とPD-L1のシス結合を競合阻害する。
【0025】
ある実施態様では、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、CD80とPD-L1を高発現する培養細胞(例えば、PD-1およびPD-L1の遺伝子を欠損させたDO11.10 T細胞に、LTRプロモーター下でCD80とPD-L1を発現させた細胞(DOdKO細胞))を、当該物質10μg/mlの存在下で培養した際に、PD-L1とPD-1との結合を、少なくとも約2倍以上、例えば、約5倍以上または約10倍以上に促進させる。例えば、PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質が抗CD80抗体である場合に結合を測定した例は、本願の実施例に記載されている。
【0026】
本開示において、CD80、PD-L1およびPD-1はいかなる種のものであってもよく、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)が挙げられる。なかでも、マウスまたはヒトが好ましく、特に好ましくは、ヒトである。種々の生物種に由来するCD80、PD-L1およびPD-1のアミノ酸配列は、公知のデータベースを利用して、容易に入手できる。ヒトおよびマウスのCD80の代表的なアミノ酸配列は、各々、GenBankアクセッション番号NP_005182(配列番号1)およびNP_033985(配列番号2)として登録されている。ヒトおよびマウスのPD-L1の代表的なアミノ酸配列は、各々、GenBankアクセッション番号NP_054862(配列番号3)およびNP_068693(配列番号4)として登録されている。ヒトおよびマウスのPD-1の代表的なアミノ酸配列は、各々、GenBankアクセッション番号NP_005009(配列番号5)およびNP_032824(配列番号6)として登録されている。本開示において、CD80、PD-L1およびPD-1は、それらの天然に存在する対立遺伝子の産物を含む。
【0027】
ある実施形態では、CD80とPD-L1のシス結合は、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域(好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域)と、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域(好ましくは配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域)を介した結合、または、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域(好ましくは配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域)と、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域(好ましくは、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域)を介した結合である。上記アミノ酸を含む領域は、連続のアミノ酸残基から構成されていてもよく、または不連続のアミノ酸残基から構成されていてもよい。
【0028】
ある実施形態では、抗CD80抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する。好ましい実施形態では、抗CD80抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する。上記アミノ酸を含む領域は、連続のアミノ酸残基から構成されていてもよく、または不連続のアミノ酸残基から構成されていてもよい。
【0029】
ある実施形態では、抗CD80抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する。好ましい実施形態では、抗CD80抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する。上記アミノ酸を含む領域は、連続のアミノ酸残基から構成されていてもよく、または不連続のアミノ酸残基から構成されていてもよい。
【0030】
ある実施形態では、抗PD-L1抗体は、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する。好ましい実施形態では、抗PD-L1抗体は、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する。上記アミノ酸を含む領域は、連続のアミノ酸残基から構成されていてもよく、または不連続のアミノ酸残基から構成されていてもよい。
【0031】
ある実施形態では、抗PD-L1抗体は、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域に結合する。好ましい実施形態では、抗PD-L1抗体は、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域に結合する。上記アミノ酸を含む領域は、連続のアミノ酸残基から構成されていてもよく、または不連続のアミノ酸残基から構成されていてもよい。
【0032】
「配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンに相当するアミノ酸」とは、あるCD80のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列を最適な状態(アミノ酸の一致が最大となる状態)にアラインメントしたときに、配列番号1の第92位のイソロイシンと一致する、当該CD80におけるアミノ酸を意味する。「配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第104位のロイシンに相当するアミノ酸」、「配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸」、「配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸」、「配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸」も同様に定義される。例えば、配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第107位のロイシンは、それぞれ配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第104位のロイシンに相当する。
【0033】
本開示において、「抗体」なる用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)など、種々の抗体構造を含む意味で用いられる。抗体の種は特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒト由来の抗体が挙げられる。抗体として、ヒト化抗体、ヒト抗体(完全ヒト抗体)が好ましい。また、抗体として、モノクローナル抗体が好ましく、より好ましくは、単離されたモノクローナル抗体である。
【0034】
本開示において、「単離されたモノクローナル抗体」なる用語は、ハイブリドーマなどの宿主細胞またはその培養上清から抽出された複数ないし無数の成分が含まれる夾雑物の中から同定、分離および/または精製されることにより、実質的に単一の純粋な成分となったモノクローナル抗体を意味する。
【0035】
本開示において、「抗体」の用語には、抗体の一部分を構成要素として含み、抗原への結合性を保持する分子も包含される。例えば、限定はされないが、抗体の重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv、disulphide-linked FV(sdFv)、Single-Chain FV(scFV)、Fab3、Diabody、Triabody、Tetrabody、Minibody、Bis-scFv、(scFv)2-Fc、intact-IgG およびこれらの重合体は、本願の抗体に含まれる。
【0036】
抗体のイムノグロブリンクラスは、重鎖定常領域に基づき決定される。イムノグロブリンクラスとしては、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが挙げられ、これらに対応する重鎖はそれぞれ、α鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖、およびμ鎖と呼ばれる。イムノグロブリンクラスを、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分類することができる。本明細書における抗体のイムノグロブリンクラスおよびサブクラスは、特に限定はされない。ある実施形態において、イムノグロブリンクラスは、IgGである。抗体の軽鎖は、その定常領域に基づきκ鎖およびλ鎖に分けることができるが、本明細書における抗体は、κ鎖およびλ鎖のいずれを有していてもよい。
【0037】
抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(framework region)(FRとも記載する)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity determining region)(CDRとも記載する)で構成される。なお、本明細書において、抗体の可変領域のCDRとフレームワークに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., (1987)および(1991)参照)。
【0038】
抗CD80抗体および抗PD-L1抗体は、各々、CD80またはPD-L1の全体または一部を含むペプチド、例えば、CD80またはPD-L1の細胞外領域の全体または一部を免疫原として用いることにより、一般的な方法により取得することができる。CD80またはPD-L1の全体または一部を含むペプチドは、通常のペプチド合成法により、例えば遺伝子工学的手法または化学合成により、作製することができる。
【0039】
ポリクローナル抗体は、「Antibodies: A Laboratory Manual, Lane, H. D. et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989」などに記載の一般的な方法により作製することができる。具体的には、抗CD80ポリクローナル抗体および抗PD-L1ポリクローナル抗体は、各々、CD80またはPD-L1の全部または一部を含むペプチドにより、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ等の哺乳動物を免疫することで、作製することができる。
【0040】
モノクローナル抗体は、抗体を産生するハイブリドーマを作製する方法や、遺伝子工学的手法を用いて抗体遺伝子を含む発現ベクターを作製して細胞で発現させる方法など、公知の方法により取得することができる。
【0041】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマは、Kohler et al., Nature 256:495, 1975に記載の方法に準じて作製することができる。まず、免疫原を、抗原性を高めるための適当な物質(例えば、キーホールリンペットヘモシアニンやウシ血清アルブミン等)、および必要に応じて免疫賦活剤(フロイントの完全若しくは不完全アジュバント等)とともに混合し、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ等の非ヒト哺乳動物に免疫する。通常、免疫動物は3~10日間隔で複数回免疫され、免疫原であるペプチドは1~100μgが投与される。次いで、複数回の免疫を経た免疫動物から免疫担当細胞(免疫動物において抗体産生能を有する細胞)を回収し、自己抗体産生能のないミエローマ細胞(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物に由来する細胞)とを、細胞融合させる。細胞融合には、ポリエチレングリコール法、電気融合法などが用いられる。さらに、融合細胞が有する選択マーカーに基づき細胞融合に成功した細胞を選択し、選択された細胞が産生する抗体の免疫原に対する反応性を、ELISA法、ラジオイムノアッセイ、蛍光抗体法などにより確認することにより、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが得られる。モノクローナル抗体は、得られたハイブリドーマをインビトロで培養した培養上清から単離することができる。また、マウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等の腹水中等のインビボで培養し、腹水から単離することもできる。
【0042】
また、モノクローナル抗体は、得られたハイブリドーマから抗体遺伝子をクローニングし、後述するように、適当な発現ベクターに組み込んで宿主細胞で発現させることにより、得ることができる(P.J.Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILEY; P.Shepherd and C.Dean., Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS; J.W. Goding., Monoclonal Antibodies:principles and practice., 1993 ACADEMIC PRESS)。さらに、トランスジェニック動物作製技術を用いて、目的とする抗体の遺伝子が内在性遺伝子に組み込まれたトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタ)を作製し、例えば、そのトランスジェニック動物のミルク中からその抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を取得することもできる。
【0043】
得られたモノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法、例えばプロテインAカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより、精製することができる。
【0044】
キメラ抗体は、互いに由来の異なる配列を含む抗体であり、例えば、互いに由来の異なる可変領域と定常領域とを連結した抗体である。ある実施形態において、キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体の可変領域と、ヒト抗体由来の定常領域から構成される。キメラ抗体は、例えば、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチドとヒト抗体の定常領域をコードするポリヌクレオチドを連結し、これを発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを宿主に導入して発現させることによって、取得することができる。
【0045】
CDRは、実質的に抗体の結合特異性を決定する領域であり、そのアミノ酸配列は多様性に富む。一方、FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも高い相同性を示す。そのため、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を他の抗体に移植することができる。
【0046】
ヒト化抗体は、一般に、ヒト以外の動物由来の抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFRおよびヒト抗体由来の定常領域とから構成される。ヒト化抗体は、ヒト以外の動物由来の抗体のCDRをヒト抗体に移植することにより得ることができる。ヒト化抗体は種々の方法により作製することができるが、一例として、Overlap Extension PCRが挙げられる(Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633(2008))。本方法では、ヒト以外の動物由来の抗体(例えばマウス抗体)のCDRとヒト抗体のFRとの末端にオーバーラップする部分を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行い、ヒト以外の動物由来の抗体のCDRとヒト抗体のFRとが連結されたポリヌクレオチドを合成する。次いで、得られたポリヌクレオチドをヒト抗体の定常領域をコードするポリヌクレオチドと連結し、発現ベクターに組み込んで、この発現ベクターを宿主に導入して発現させることにより、ヒト化抗体を取得することができる。
【0047】
ヒト化抗体の作製に好適なFRの選択方法は公知であり、例えば、ベストフィット法(Sims et al. J. Immunol. 151:2296(1993))により選択されたFRや、ヒト抗体の軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのコンセンサス配列に由来するFR(Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4285(1992); Presta et al. J. Immunol. 151:2623(1993))を用いることができる。
【0048】
ヒト抗体は、例えば、ヒトリンパ球をインビトロで所望の抗原で感作し、次いで、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞と融合させることによって取得することができる(特公平1-59878号公報)。融合パートナーであるヒトミエローマ細胞には、例えばU266などを利用することができる。また、ヒト抗体は、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することによっても取得することができる(Lonberg, Nat. Biotech. 23: 1117-1125, 2005)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている(Antibody Phage Display: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology 178, 2001)。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択し、選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。次いで、この可変領域配列をヒト抗体定常領域の配列とインフレームで連結し、適当な発現ベクターに挿入して、この発現ベクターを宿主に導入して発現させることにより、ヒト抗体を取得することができる。
【0049】
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合する抗体である。多重特異性抗体としては、二重特異性抗体、三重特異性抗体などが挙げられる。ある実施形態において、多重特異性抗体は、CD80またはPD-L1と、1以上の他の抗原とに結合する。多重特異性抗体は、例えば、遺伝子工学的手法により、あるいは認識抗原が異なる2つ以上の抗体または抗体断片を結合することにより、作製することができる。
【0050】
抗体断片は、例えば、パパイン、ペプシン等のプロテアーゼにより抗体を消化することにより得ることができる。あるいは、抗体断片をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを宿主細胞に導入し発現させることで得ることができる(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol.(1989)178, 476-496; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol.(1989)178, 497-515; Lamoyi, E., Methods Enzymol.(1986)121, 652-663; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol.(1986)121, 663-669; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol.(1991)9, 132-137; Hudson et al., Nat. Med.,(2003)9, 129-134)。
【0051】
前述のように、抗体は、これをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを細胞に導入して発現させることにより、得ることができる。具体的には、抗体をコードする配列がエンハンサーやプロモーターなどの発現制御領域のもとで発現するよう発現ベクターを構築し、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換して、抗体を発現させる。
【0052】
すなわち、本開示はまた、抗CD80抗体または抗PD-L1抗体をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および当該ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む形質転換細胞を提供する。
【0053】
宿主細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞などの真核細胞を用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞(例えば、CHO、COS、NIH3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero)、両生類細胞(例えばアフリカツメガエル卵母細胞)、または昆虫細胞(例えば、Sf9、Sf21、Tn5)が挙げられる。真菌細胞としては、酵母(例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、糸状菌(例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))などが挙げられる。また、大腸菌(E. coli)(例えば、JM109、DH5α、HB101等)、枯草菌などの原核細胞を宿主細胞として用いることもできる。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法により行うことができる。
【0054】
得られた抗CD80抗体または抗PD-L1抗体のCD80またはPD-L1への結合は、ELISA法、蛍光抗体法、ラジオイムノアッセイ(RIA)、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイなどにより確認することができる。
【0055】
得られた抗CD80抗体または抗PD-L1抗体のCD80またはPD-L1への結合は、競合アッセイにより確認することもできる。例えば、得られた抗CD80抗体が、既知の抗CD80抗体と、CD80への結合において競合するか否か、または、得られた抗PD-L1抗体が、既知の抗PD-L1抗体と、PD-L1への結合において競合するか否かを、FACSまたはELISAなどで調べることにより、確認することができる。既知の抗CD80抗体として、例えば、後述する重鎖可変領域、軽鎖可変領域またはCDRの配列を有する抗CD80抗体を用いることができる。
【0056】
ある実施形態において、抗CD80抗体または抗PD-L1抗体は、10-7M以下または10-8M以下、例えば10-7M~10-15M、10-7M~10-13M、10-7M~10-9M、10-8M~10-15M、10-8M~10-13M、10-8M~10-9M、10-9M~10-12M、または10-9M~10-11Mの平衡解離定数(KD)でCD80またはPD-L1に結合する。平衡解離定数は、例えば、バイオレイヤー干渉法により測定することができる。具体的には、本願の実施例に記載の方法により平衡解離定数を測定し得る。
【0057】
好ましくは、抗CD80抗体は、CD80とCTLA-4の結合を実質的に阻害しない。CD80とCTLA-4の結合は、例えば、CD80を発現する細胞を、検出可能な標識(例えば、蛍光標識、発光標識、放射性標識、磁気標識など)を有するCTLA-4の細胞外領域を含む可溶性ペプチドと接触させ、細胞に結合した標識の量を測定することにより、測定し得る。無標識の可溶性ペプチドを、そのペプチドに結合し、標識を有する物質(例えば、二次抗体)と併用してもよい。細胞に結合する標識の量を、抗CD80抗体の存在下および非存在下で比較し、CD80とCTLA-4の結合の阻害の有無または程度を確認し得る。この文脈において「結合を実質的に阻害しない」とは、細胞表面に発現しているCD80に対して十分な量(例えば、約10μg/ml)の抗CD80抗体の存在下で、CD80とCTLA-4の結合量が、各々、抗CD80抗体の非存在下での結合量の約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上であることを意味する(100%を超えてもよい)。
【0058】
また、CD80とCD28の結合を強く阻害しない抗CD80抗体を使用し得る。CD80とCD28の結合は、例えば、CD80を発現する細胞を、検出可能な標識(例えば、蛍光標識、発光標識、放射性標識、磁気標識など)を有するCD28の細胞外領域を含む可溶性ペプチドと接触させ、細胞に結合した標識の量を測定することにより、測定し得る。無標識の可溶性ペプチドを、そのペプチドに結合し、標識を有する物質(例えば、二次抗体)と併用してもよい。細胞に結合する標識の量を、抗CD80抗体の存在下および非存在下で比較し、CD80とCD28の結合の阻害の有無または程度を確認し得る。この文脈において「結合を強く阻害しない」とは、細胞表面に発現しているCD80に対して十分な量(例えば、約10μg/ml)の抗CD80抗体の存在下で、CD80とCD28の結合量が、各々、抗CD80抗体の非存在下での結合量の約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上であることを意味する(100%を超えてもよい)。
【0059】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、
配列番号7のアミノ酸配列におけるCDR1、CDR2、およびCDR3、または配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;および/または、
配列番号8のアミノ酸配列におけるCDR1、CDR2、およびCDR3、または配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
を含む。
【0060】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、
配列番号15のアミノ酸配列におけるCDR1、CDR2、およびCDR3、または配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;および/または、
配列番号16のアミノ酸配列におけるCDR1、CDR2、およびCDR3、または配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
を含む。
【0061】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、
配列番号9の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR1、
配列番号10の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR2、および
配列番号11の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR3、
を含む重鎖可変領域;および/または、
配列番号12の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR1、
配列番号13の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR2、および
配列番号14の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR3、
を含む軽鎖可変領域;
を含む。
【0062】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、
配列番号17の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR1、
配列番号18の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR2、および
配列番号19の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR3、
を含む重鎖可変領域;および/または、
配列番号20の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR1、
配列番号21の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR2、および
配列番号22の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含むCDR3、
を含む軽鎖可変領域;
を含む。
【0063】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、
配列番号9の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR1、
配列番号10の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR2、および
配列番号11の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR3、
を含む重鎖可変領域;および/または、
配列番号12の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR1、
配列番号13の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR2、および
配列番号14の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR3、
を含む軽鎖可変領域;
を含む。
【0064】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、
配列番号17の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR1、
配列番号18の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR2、および
配列番号19の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR3、
を含む重鎖可変領域;および/または、
配列番号20の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR1、
配列番号21の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR2、および
配列番号22の配列において0、1または2個のアミノ酸が欠失、置換、または付加された配列を含むCDR3、
を含む軽鎖可変領域;
を含む。
【0065】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号9のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号13のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0066】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号17のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号20のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号17のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号18のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号20のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号21のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号22のアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0067】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号7のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号8のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含む。さらなる実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号7のアミノ酸配列において0~5個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号8のアミノ酸配列において0~5個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。これら実施形態には、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域のCDRに改変が生じていない抗CD80抗体、具体的には、配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗CD80抗体が含まれる。
【0068】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号15のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号16のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含む。さらなる実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号15のアミノ酸配列において0~5個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号16のアミノ酸配列において0~5個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。これら実施形態には、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域のCDRに改変が生じていない抗CD80抗体、具体的には、配列番号17のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号19のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域、および/または、配列番号20のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDR2、および配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗CD80抗体が含まれる。
【0069】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および/または配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。さらなる実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および/または配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む。
【0070】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および/または配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。さらなる実施形態において、抗CD80抗体は、配列番号15のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および/または配列番号16のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む。
【0071】
ある実施形態において、抗CD80抗体は、上記軽鎖可変領域のCDR1~3を含む重鎖可変領域および/または上記重鎖可変領域のCDR1~3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0072】
ある実施態様では、抗CD80抗体は、CD80への結合に対して、上記の配列で特定される抗CD80抗体のいずれかと競合する抗体である。競合は、例えば、上記の競合アッセイにより確認することができる。
【0073】
「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の配列は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加または欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。配列同一性は、公共のデータベース(例えば、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp))で提供されるFASTA、BLAST、CLUSTAL W等のプログラムを用いて算出することができる。あるいは、市販の配列解析ソフトウェア(例えば、Vector NTI(登録商標)ソフトウェア、GENETYX(登録商標) ver. 12)を用いて求めることもできる。
【0074】
アミノ酸配列を改変し所望の特性を有する抗体を得る方法として、様々な方法が知られている。例えば、結合親和性を改善した変異体は、ファージディスプレイに基づく方法により得ることができる。この方法では、例えば、アラニンスキャニング変異導入法により抗体と抗原の相互作用に影響するアミノ酸残基を同定するか、あるいは、抗原抗体複合体の結晶構造を解析して抗体と抗原の間の接触点を同定するなどして、変異導入部位を決定する。この部位のアミノ酸を改変した変異体をエラープローンPCRや部位特異的変異導入などにより作製し、得られた変異体のライブラリーをスクリーニングすることにより、所望の特性を有する変異体を得ることができる。
【0075】
抗CD80抗体または抗PD-L1抗体は、Fc領域の糖鎖が改変されていてもよい。糖鎖が改変された抗体としては、例えば、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(米国特許公開第2003/0157108号)、バイセクトN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する糖鎖を有する抗体(国際公開第2003/011878号)などが挙げられる。
【0076】
抗CD80抗体または抗PD-L1抗体は、例えば抗体の半減期延長、または安定性の改善等のため、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンまたはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーなどのポリマーと結合していてもよい。
【0077】
PD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、有効量で対象に投与されると、免疫を抑制し得る。従って、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質を有効成分として含む免疫抑制剤が提供される。
【0078】
本明細書に開示される抗体または免疫抑制剤の毒性は低いものであるため、医薬品として安全に使用することができる。
【0079】
[医薬品への適用]
本明細書に開示される抗体または免疫抑制剤は、免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療に使用し得る。従って、ある態様では、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質を有効成分として含む、免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤が提供される。
【0080】
免疫の亢進を特徴とする疾患には、自己免疫疾患、アレルギー疾患および移植片対宿主病が含まれる。自己免疫疾患には、例えば、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症(全身性強皮症、進行性全身性硬化症)、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎)、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、コーガン症候群、RS3PE、側頭動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患(例えば、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎など)、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)、I型糖尿病、緩徐進行性I型糖尿病(成人潜在性自己免疫性糖尿病)、慢性円板状エリテマトーデス、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、白斑、尋常性白斑、アトピー性皮膚炎、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、サルコイドーシス、水疱性類天疱瘡、巨細胞性動脈炎、筋委縮性側索硬化症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)およびセリアック病などが含まれる。ある実施態様では、自己免疫疾患は、I型糖尿病、多発性硬化症、全身エリテマトーデスまたは関節リウマチである。ある実施態様では、自己免疫疾患は多発性硬化症である。アレルギー疾患には、例えば、喘息、アトピー性皮膚炎、鼻炎、結膜炎および花粉症などが含まれる。
【0081】
本明細書で使用されるとき、「治療する」または「治療」は、疾患を有する対象において、疾患の原因を軽減または除去すること、その進行を遅延または停止させること、その症状を軽減、緩和、改善または除去すること、および/または、その症状の悪化を抑制することを意味する。
【0082】
本明細書で使用されるとき、「予防する」または「予防」は、対象において、特に、疾患を発症する可能性が高いが、未だ発症していない対象において、疾患の発症を防止すること、または、疾患を発症する可能性を低減することを意味し、再発予防を含む。自己免疫疾患またはアレルギー疾患を発症する可能性があるが、未だ発症していない対象には、例えば、免疫が亢進している対象、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の遺伝的素因を有する対象、過去に自己免疫疾患またはアレルギー疾患に罹患し、治癒した対象が含まれる。移植片対宿主病を発症する可能性があるが、未だ発症していない対象には、臓器移植を受ける対象が含まれる。
【0083】
免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤の投与対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)が挙げられるが、ヒトが特に好ましい。また好ましい対象は、免疫の抑制または上記予防および/または治療を必要とする対象、特に上記治療を必要とする対象である。
【0084】
有効成分の投与量は、投与方法、投与対象の年齢、体重、健康状態等によって適宜選択される。例えば、成人1日当たり、10μg/kg~100mg/kg、100μg/kg~10mg/kgまたは1mg/kg~10mg/kgを、1日30分から24時間の範囲の期間の持続投与で、または、1日1回から数回、または1日もしくは数日または1週間もしくは数週間に1回から数回、例えば1~3週間に1回投与することができるが、これに限定されない。投与方法も、投与対象の年齢、体重、健康状態等によって適宜選択される。投与方法は、経口投与であっても非経口投与であってもよいが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、静脈内投与などが挙げられるが、静脈内投与が好ましい。
【0085】
免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤は、常法により製剤化することができる。製剤は、製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を含んでもよい。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、可溶化剤等が挙げられる。例えば、免疫抑制剤は、注射剤または輸液として製剤化され得る。注射剤または輸液は、滅菌水溶液、懸濁液または乳濁液等の形態であり得、あるいは、滅菌された液体に溶解、懸濁または乳濁して使用するための固形剤または凍結乾燥剤の形態であり得る。滅菌された液体は、例えば、注射用水、生理食塩水、ブドウ糖溶液または等張液等であり得る。また、免疫抑制剤は、有効成分が持続放出または制御放出されるように製剤化され得る。これらの製剤の製造方法は、当分野で周知である。
【0086】
製剤は、薬学的に許容できる担体を含み得る。本開示において、「薬学的に許容できる担体」は、有効成分と組み合わせられた場合にその成分の生物学的活性を保持し得る、対象の免疫系と非反応性である任意の物質が含まれる。例えば、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤、pH調整剤および抗酸化剤などが挙げられる。安定剤としては、例えば、各種アミノ酸、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、マンニトール、グルコース、デキストラン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等を用いることができる。溶解補助剤としては、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート20(登録商標)、ポリソルベート80(登録商標)、HCO-50等)等を用いることができる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。乳化剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等を用いることができる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等を用いることができる。防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等を用いることができる。抗酸化剤として、例えば、(1)アスコルビン酸、システインハイドロクロライド、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性抗酸化剤、(2)アスコルビルパルミテート、ブチル化ハイドロキシアニソール、ブチル化ハイドロキシトルエン、レシチン、プロピルガレート、α-トコフェロール等のような油溶性抗酸化剤および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤等を用いることができる。
【0087】
注射剤または点滴のための輸液は、その最終工程において滅菌するかあるいは無菌操作法、例えば、フィルターなどで濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することによって製造することができる。また、注射剤または点滴のための輸液は、真空乾燥および凍結乾燥による無菌粉末(薬学的に許容できる担体の粉末を含んでいてもよい)を、適切な溶剤に用時溶解して使用することもできる。
【0088】
免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤は、単独で、または、1種またはそれ以上のさらなる有効成分、特に、免疫を抑制するための有効成分と併用できる。成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらが免疫の抑制または免疫の亢進を特徴とする疾患の治療および/または予防のために使用される限り、各成分を同時に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。いずれかの成分を遅延して投与する場合に、各成分を同時投与する期間があってもよい。2種またはそれ以上のさらなる有効成分を併用することも可能である。その併用により、例えば、その他の有効成分の予防および/または治療の効果の補完、投与量あるいは投与回数の維持および/または低減が可能になる。併用に適する有効成分には、例えば、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、免疫抑制剤、分子標的薬等が含まれる。
【0089】
例えば、本発明の免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤をI型糖尿病の予防および/または治療に適用する場合、インスリン製剤(例えば、ヒトインスリン、インスリングラルギン、インスリンリスプロ、インスリンデテミル、インスリンアスパルト等)、スルホニルウレア剤(例えば、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド等)、速攻型インスリン分泌促進薬(例えば、ナテグリニド等)、ビグアナイド製剤(例えば、メトホルミン等)、インスリン抵抗性改善薬(例えば、ピオグリタゾン等)、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボース、ボグリボース等)、糖尿病性神経症治療薬(例えば、エパルレスタット、メキシレチン、イミダプリル等)、GLP-1アナログ製剤(例えば、リラグルチド、エクセナチド、リキシセナチド等)およびDPP-4阻害剤(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン等)等から選択される何れか一以上の薬剤と組み合わせて使用してもよい。
【0090】
また、例えば、本発明の免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤を多発性硬化症の予防および/または治療に適用する場合、ステロイド薬(例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、酢酸ハロプレドン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン、酢酸パラメタゾン、ベタメタゾン等)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、メトトレキサート、クラドリビン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、ミゾリビン、タクロリムス、フィンゴリモドおよびアレムツズマブ等から選択される何れか一以上の薬剤と組み合わせて使用してもよい。
【0091】
また、例えば、本発明の免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤を全身エリテマトーデスの予防および/または治療に適用する場合、ステロイド薬(例えば、上記記載のステロイド薬)、その他の免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、フィンゴリモド等)およびベリムマブから選択される何れか一以上の薬剤と組み合わせて使用してもよい。
【0092】
また、例えば、本発明の免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤を関節リウマチの予防および/治療に適用する場合、ステロイド薬(例えば、上記記載のステロイド薬)、抗リウマチ薬(例えば、メトトレキサート、スルファサラジン、ブシラミン、レフルノミド、ミゾリビン、タクロリムス等)あるいは抗サイトカイン薬(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、トシリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブおよびセルトリズマブ等)およびアバタセプト等から選択される何れか一以上の薬剤と組み合わせて使用してもよい。
【0093】
その他の自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療に適用する場合、本発明の免疫抑制剤または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤と上記に記載した他の薬剤の何れか一以上と組み合わせて使用してもよい。
【0094】
ある態様では、免疫の抑制を必要としている対象に、有効量の抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質またはその物質を含む免疫抑制剤を投与することを含む、免疫の抑制方法が提供される。
本明細書における「有効量」とは、対象において免疫を抑制する効果を発揮し得る量を意味する。
ある態様では、免疫の抑制において使用するための、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質またはその物質を含む免疫抑制剤が提供される。
ある態様では、免疫を抑制するための医薬組成物の製造における、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質またはその物質を含む免疫抑制剤の使用が提供される。
【0095】
ある態様では、免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療方法であって、それを必要としている対象に、有効量の抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質またはその物質を含む免疫抑制剤を投与することを含む方法が提供される。
ある態様では、免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療において使用するための、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質またはその物質を含む免疫抑制剤が提供される。
ある態様では、免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤の製造における、抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質の使用またはその物質を含む免疫抑制剤が提供される。
【0096】
本願は、例えば、下記の実施形態を提供する。
[1-1]抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質を含む免疫抑制剤。
[1-2]該物質が、CD80と同一細胞上に存在するPD-L1と、PD-1との結合を促進させる、前記[1-1]に記載の免疫抑制剤。
[1-3]該物質が、PD-L1とPD-1との結合を約2倍以上に促進させる、前記[1-1]または[1-2]に記載の免疫抑制剤。
[1-4]PD-1がT細胞上にあるものである、前記[1-1]~[1-3]のいずれかに記載の免疫抑制剤。
[1-5]該物質が抗CD80抗体である、前記[1-1]~[1-4]のいずれかに記載の免疫抑制剤。
[1-6]該抗CD80抗体が10-7M以下の平衡解離定数でCD80に結合するものである、前記[1-5]に記載の免疫抑制剤。
[1-7]該抗CD80抗体がCD80とPD-L1とのシス結合を阻害する、前記[1-5]または[1-6]に記載の免疫抑制剤。
[1-8]シス結合が、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域と、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域を介した結合であるか、
または、シス結合が、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域と、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域を介した結合である、前記[1-7]に記載の免疫抑制剤。
[1-9]該抗CD80抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域、または、配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する、前記[1-5]~[1-8]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-10]該抗CD80抗体がCD80とCTLA-4の結合を実質的に阻害しない、前記[1-5]~[1-9]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-11]該抗CD80抗体がCD80とCD28の結合を強く阻害しない、前記[1-5]~[1-10]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-12]CD80と同一細胞上に存在するPD-L1と、PD-1との結合を促進させ、かつ、CD80とCD28の結合を強く阻害しない抗CD80抗体を含む、免疫抑制剤。
【0097】
[1-13]該抗CD80抗体が、
(1)配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(2)配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(3)配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;または、
(4)配列番号20のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
を含む、前記[1-5]~[1-12]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-14]該抗CD80抗体が、
配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域
を含む、前記[1-5]~[1-13]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-15]該抗CD80抗体が、
配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、前記[1-5]~[1-13]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-16]該抗CD80抗体が、配列番号7のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、前記[1-5]~[1-14]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-17]該抗CD80抗体が、配列番号15のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号16のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、前記[1-5]~[1-13]および[1-15]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-18]該抗CD80抗体が、CD80への結合に対して前記[1-13]~[1-17]のいずれか一項に記載の抗体と競合する、前記[1-5]~[1-12]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
【0098】
[1-19]該物質が抗PD-L1抗体である、前記[1-1]~[1-4]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-20]該抗PD-L1抗体が10-7M以下の平衡解離定数でPD-L1に結合するものである、前記[1-19]に記載の免疫抑制剤。
[1-21]該抗PD-L1抗体がPD-L1とCD80とのシス結合を阻害する、前記[1-19]または[1-20]に記載の免疫抑制剤。
[1-22]シス結合が、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸と、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を介した結合であるか、
または、シス結合が、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸と、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を介した結合である、前記[1-21]に記載の免疫抑制剤。
[1-23]該抗PD-L1抗体が、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域、または、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域に結合する、前記[1-19]~[1-22]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
【0099】
[1-24]自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療のための、前記[1-1]~[1-23]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-25]自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療方法であって、前記[1-1]~[1-23]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤の有効量を、それを必要としている対象に投与することを含む、方法。
[1-26]自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療における使用のための、前記[1-1]~[1-23]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤。
[1-27]自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病の予防および/または治療剤の製造のための、前記[1-1]~[1-23]のいずれか一項に記載の免疫抑制剤の使用。
【0100】
[2-1]PD-L1とPD-1との結合を促進させる、抗CD80抗体または抗PD-L1抗体。
[2-2]CD80と同一細胞上に存在するPD-L1と、PD-1との結合を促進させる、前記[2-1]に記載の抗CD80抗体または抗PD-L1抗体。
[2-3]PD-L1とPD-1との結合を約2倍以上に促進させる、前記[2-1]または[2-2]に記載の抗CD80抗体または抗PD-L1抗体。
[2-4]PD-1がT細胞上にあるものである、前記[2-1]~[2-3]のいずれか一項に記載の抗CD80抗体または抗PD-L1抗体。
[2-5]抗CD80抗体である、前記[2-1]~[2-4]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-6]10-7M以下の平衡解離定数でCD80に結合する、前記[2-5]に記載の抗体。
[2-7]CD80とPD-L1とのシス結合を阻害する、前記[2-5]または[2-6]に記載の抗体。
[2-8]シス結合が、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域と、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域を介した結合であるか、
または、シス結合が、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域と、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域を介した結合である、前記[2-7]に記載の抗体。
[2-9]配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域、または、配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する、前記[2-5]~[2-8]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-10]CD80とCTLA-4の結合を実質的に阻害しない、前記[2-5]~[2-9]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-11]CD80とCD28の結合を強く阻害しない、前記[2-5]~[2-10]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-12]CD80と同一細胞上に存在するPD-L1と、PD-1との結合を促進させ、かつ、CD80とCD28の結合を強く阻害しない、抗CD80抗体。
【0101】
[2-13](1)配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(2)配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(3)配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;または、
(4)配列番号20のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
を含む、前記[2-5]~[2-12]のいずれか一項に記載の抗体。
【0102】
[2-14]配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域
を含む、前記[2-5]~[2-13]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-15]配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域
を含む、前記[2-5]~[2-13]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-16]該抗CD80抗体が、配列番号7のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、前記[2-5]~[2-14]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-17]該抗CD80抗体が、配列番号15のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号16のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、前記[2-5]~[2-13]および[2-15]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-18]CD80への結合に対して、前記[2-13]~[2-17]のいずれか一項に記載の抗体と競合する、前記[2-1]~[2-12]のいずれか一項に記載の抗体。
【0103】
[2-19]抗PD-L1抗体である、前記[2-1]~[2-4]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-20]10-7M以下の平衡解離定数でPD-L1に結合する、前記[2-19]に記載の抗体。
[2-21]PD-L1とCD80とのシス結合を阻害する、前記[2-19]または[2-20]に記載の抗体。
[2-22]シス結合が、少なくとも配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域と、配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域を介した結合であるか、
または、シス結合が、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域と、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域を介した結合である、前記[2-21]に記載の抗体。
[2-23]配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域、または、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域に結合する、前記[2-19]~[2-22]のいずれか一項に記載の抗体。
【0104】
[2-24](1)配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(2)配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(3)配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;または、
(4)配列番号20のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、および、
配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
を含む、抗CD80抗体。
【0105】
[2-25]配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域
を含む、前記[2-24]に記載の抗体。
[2-26]配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;および、
配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2および配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域
を含む、前記[2-24]に記載の抗体。
[2-27]該抗CD80抗体が、配列番号7のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、前記[2-24]または[2-25]に記載の抗体。
[2-28]該抗CD80抗体が、配列番号15のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号16のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、前記[2-24]または[2-26]に記載の抗体。
[2-29]CD80への結合に対して、前記[2-24]~[2-28]のいずれか一項に記載の抗体と競合する、抗CD80抗体。
[2-30]配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトCD80の第92位のイソロイシンおよび/または第104位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域、または、配列番号2のアミノ酸配列を有するマウスCD80の第96位のロイシンおよび/または第107位のロイシンに相当するアミノ酸を含む領域に結合する、抗CD80抗体。
[2-31]10-7M以下の平衡解離定数でCD80に結合する、前記[2-24]~[2-30]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-32]配列番号3のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1の第63位のアスパラギンおよび/または第119位のグリシンに相当するアミノ酸を含む領域、または、配列番号4のアミノ酸配列を有するマウスPD-L1の第54位のバリン、第56位のチロシンおよび/または第58位のグルタミン酸に相当するアミノ酸を含む領域に結合する、抗PD-L1抗体。
[2-33]10-7M以下の平衡解離定数でPD-L1に結合する、前記[2-32]に記載の抗体。
[2-34]モノクローナル抗体である、前記[2-1]~[2-33]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-35]単離されたモノクローナル抗体である、前記[2-1]~[2-34]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-36]前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体を含有する医薬組成物。
[2-37]免疫の抑制、または免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療のための前記[2-36]に記載の医薬組成物。
【0106】
[2-38]前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体を有効成分として含む免疫抑制剤。
[2-39]薬学的に許容できる担体をさらに含む、前記[2-38]に記載の免疫抑制剤。
[2-40]免疫の抑制方法であって、前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体の有効量をそれを必要としている対象に投与することを含む、方法。
[2-41]免疫の抑制において使用するための、前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-42]免疫抑制剤の製造のための、前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【0107】
[2-43]前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体を有効成分として含む、免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤。
[2-44]薬学的に許容できる担体をさらに含む、前記[2-43]に記載の予防および/または治療剤。
[2-45]免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療方法であって、前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体の有効量を、それを必要としている対象に投与することを含む、方法。
[2-46]免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療において使用するための、前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体。
[2-47]免疫の亢進を特徴とする疾患の予防および/または治療剤の製造のための、前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体の使用。
[2-48]免疫の亢進を特徴とする疾患が、自己免疫疾患、アレルギー疾患または移植片対宿主病である、前記[2-43]または[2-44]に記載の予防および/または治療剤、前記[2-45]に記載の方法、前記[2-46]に記載の抗体、または、前記[2-47]に記載の使用。
[2-49]免疫の亢進を特徴とする疾患が自己免疫疾患である、前記[2-48]に記載の予防および/または治療剤、方法、抗体または使用。
[2-50]自己免疫疾患が、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎、大動脈炎症候群、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、コーガン症候群、RS3PE、側頭動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病、I型糖尿病、緩徐進行性I型糖尿病、慢性円板状エリテマトーデス、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、白斑、尋常性白斑、アトピー性皮膚炎、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、サルコイドーシス、水疱性類天疱瘡、巨細胞性動脈炎、筋委縮性側索硬化症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、炎症性腸疾患およびセリアック病からなる群から選択される、前記[2-49]に記載の予防および/または治療剤、方法、抗体または使用。
[2-51]自己免疫疾患が、I型糖尿病、多発性硬化症、全身エリテマトーデスまたは関節リウマチである、前記[2-49]または[2-50]に記載の予防および/または治療剤、方法、抗体または使用。
[2-52]自己免疫疾患が多発性硬化症である、前記[2-49]~[2-51]のいずれか一項に記載の予防および/または治療剤、方法、抗体または使用。
[2-53]多発性硬化症が全身性強皮症または進行性全身性硬化症である、前記[2-52]に記載の予防および/または治療剤、方法、抗体または使用。
[2-54]前記[2-1]~[2-35]のいずれか一項に記載の抗体をコードするポリヌクレオチド。
[2-55]前記[2-54]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[2-56]前記[2-54]に記載のポリヌクレオチドまたは前記[2-55]に記載のベクターを含む宿主細胞。
【0108】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、本発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例】
【0109】
[材料と方法]
細胞培養
DO11.10細胞、TCRα/β欠損BW-1100.129.237細胞(White, J. et al., J. Immunol. 143, 1822-5(1989))(Leszek Ignatowicz,Georgia Regents Universityにより提供された)、IIA1.6細胞、およびE.G7細胞を、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS,Biowest)、0.5mMモノチオグリセロール(Wako)、2mM L-アラニル-L-グルタミンジペプチド(Gibco)、100U/mLペニシリン(Nacalai Tesque)、および100μg/mLストレプトマイシン(Nacalai tesque)を添加したRPMI1640培地(Gibco)中で維持した。Plat-E細胞を、10%(v/v)FBS、100U/mLペニシリン(Nacalai Tesque)および100μg/mLストレプトマイシン(Nacalai tesque)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(D'MEM,Invitrogen)中で維持した。
【0110】
プラスミドおよびレトロウイルス遺伝子導入
cDNAのフラグメントをPCRで増幅し、pFB-ires-Neo(Agilent)から改変したレトロウイルス発現プラスミドベクターにクローン化した。マウスおよびヒトPD-L1変異体のプラスミドライブラリーを作成するため、PD-L1のIgVドメインを400μM MnCl2を含むThermo-Start Taq DNA polymerase(Thermo Fisher Scientific)によって増幅し、pFB-ires-Neoにクローン化した。部位特異的変異を有するPD-L1変異体およびCD80変異体をオーバーハングPCRによって作製した。発現レベルを制御するため、cDNAのフラグメントをpSUPER.retro.puro(OligoEngine)から改変したレトロウイルス発現プラスミドベクター(プロモーター領域をEF-1α(ヒト伸長因子-1アルファ)、CAG、CMVおよびMC1プロモーターに交換した)にクローン化した。プラスミドを、20%(v/v)FBS、100U/mlペニシリン(Nacalai Tesque)および100μg/mlストレプトマイシン(Nacalai tesque)を添加したD'MEM(高グルコース)(Gibco)中で培養されたPlat-E細胞にFuGENE(登録商標) HD(Promega)を用いて遺伝子導入し、ウイルスを含む上清を用いて遺伝子を標的細胞に形質導入した。感染細胞を、G418(Wako)、ピューロマイシン(Sigma-aldrich)、Zeocin(InvivoGen)またはブラストサイジン(InvivoGen)を用いて選択した。
【0111】
CRISPR/Cas9による標的遺伝子ノックアウト細胞株の作製
PD-1が欠損したIIA1.6細胞、PD-1、PD-L1、CD28が欠損したDO11.10細胞、PD-1が欠損したBW-1100.129.237をCRISPR/Cas9システムを用いて作製した。ガイドRNA配列を下表に示す。ガイドRNA配列をpEF-BOS-Cas9-U6-guide(これは、ヒトEF-1α-プロモーター下でD10A変異を有するか、または有さないヒト化cas9 cDNA(Addgene)を発現し、逆方向のU6プロモーター下でガイドRNAを発現するようにpEF-BOS(Mizushima, S. & Nagata, S. Nucleic Acids Res. 18, 5322(1990))から改変された)にクローン化した。プラスミドを細胞にエレクトロポレーション(Nucleofector II(登録商標),Lonza)によって遺伝子導入した。標的遺伝子の発現が消失している細胞を、セルソーター(MoFlo XDP,Beckman Coulter)を用いてソートした。細胞のクローンを限界希釈法によって取得し、標的遺伝子の機能欠失変異およびその発現の欠如を、それぞれ配列決定法およびフローサイトメトリーによって確認した。
【0112】
【表1】
*
1:効率を高めるために、2つのガイドRNAを同時に使用した。
*
2:ニックをずらして導入することにより、エクソン2、3および4を標的化した。
【0113】
マウス
C57BL/6NマウスをSLCから購入し、環境制御されたクリーンルームにおいて特定病原体除去条件下で飼育した。週齢および性別が一致したマウスを各実験に用いた。全てのマウスのプロトコルは徳島大学の動物実験委員会によって認可された。
【0114】
標的遺伝子ノックアウトマウスおよびノックインマウスの作製
Cas9 mRNA、gRNAおよび一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)をC57BL/6N接合体にエレクトロポレーションによって従前記述されるように導入することによって(Hashimoto, M. & Takemoto, T., Sci. Rep. 5, 11315(2015))、C57BL/6N-Cd274-/-(PD-L1ノックアウトマウス)、C57BL/6N-Cd80-/-、C57BL/6N-Cd274Y56AおよびC57BL/6N-Cd80L107Eマウスを作製した。C57BL/6N-Cd80-/-、C57BL/6N-Cd274Y56AおよびC57BL/6N-Cd80L107Eマウスの作製に使用したガイドRNAおよびssODNのヌクレオチド配列を下表に示す。C57BL/6N-Cd274-/-マウスには1個のヌクレオチドが挿入され、これはY56での未成熟終止コドンの生成をもたらす。C57BL/6N-Cd80-/-マウスには1個のヌクレオチドが挿入され、これはG109でのフレームシフト、20個の無関係なアミノ酸の付加、および未成熟終止コドンの生成をもたらす。第1世代のモザイクマウスをC57BL/6N野生型マウスと交配し、ヘテロ接合体マウスを取得し、ヘテロ接合体マウス同士を交配して、ホモ接合体マウスを取得した。CD80用の5'-GAGACACTATCTCTAAAAAT-3'および5'-TTAGTAGAGGTCTCCACCTT-3'プライマーセット、ならびにPD-L1用の5'-GTTCATGTGATTCCCTAAAT-3'および5'-CTGAAGTTGCTGTGCTGAGG-3'プライマーセットをゲノムフラグメントの増幅に用いた。増幅したフラグメントを配列決定し(ABI Prism(登録商標) 3700 DNA Analyzer,Thermo Fisher Scientific)、または制限長多型解析に使用した。
【0115】
【0116】
DO11.10 T細胞およびTCRを再構成した細胞の刺激
DO11.10 T細胞(5×104細胞/ウェル)を96ウェル丸底プレート(BD Bioscinences)中において、所定量のOVA323-339ペプチド(ISQAVHAAHAEINEAGR,>95%純度,Sigma-Aldrich Japanまたはeurofins genomics)をパルスしたIIAdL1細胞(1×104細胞/ウェル)で12~14時間刺激した。BW-1100.129.237細胞のPD-1遺伝子をCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトすることによって、BW-Pdcd1-/-細胞を作製した。BW-Pdcd1-/-細胞を、CD8α/CD8β/OT-I TCRまたはCD4/OT-II TCRと共にCD3δ、CD3ζ、CD28およびPD-1で再構成し、BW-OT-I細胞またはBW-OT-II細胞をそれぞれ作製した。BW-OT-I細胞およびBW-OT-II細胞(2.5×104細胞/ウェル)を96ウェル丸底プレート中において、所定量のMHCI拘束性OVA257-264ペプチド(SIINFEKL,>98%純度,MBL)またはMHCII拘束性OVA323-339ペプチドをパルスしたBM-DCまたは脾臓DC(5×103細胞/ウェル)で12~14時間刺激した。1μg/mlの抗PD-L1抗体(1-111A)、5μg/mlの抗PD-L2抗体(TY25)またはラットIgG2aアイソタイプ対照(RTK2758,Biolegend)を、その表記がある場合に添加した。培地の上清におけるIL-2の濃度をELISA(Biolegend)で決定した。PD-1を介する阻害を、PD-1の機能が発動される条件とされない条件でIL-2の量を比較することによって計算した。
【0117】
フローサイトメトリー分析
培養細胞および初代細胞を、図中に示す抗体または可溶性キメラタンパク質で染色した。脾細胞について、細胞を染色する前に、LPS(1μg/ml,Escherichia coli O111:B4,Merck)またはpoly(I:C)(20μg/ml,Merk)で16~18時間刺激した。マウスCD8α(5H10)、CD28(37.51)、PD-L1(1-111A,MIH5)に対する抗体をThermo Fisher Scientificから購入した。マウスPD-1(RMP1-30)、MHCII(M5/114.15.2)、B220(RA3-6B2)、F4/80(BM8)、CD80(16-10A1)、CD86(GL-1)、DYKDDDDKタグ(L5)、CD19(6D5)、CD3e(17A2)、CD4(RM4-5)、CD8α(53-6.7)、CD11b(M1/70)、CD11c(N418)およびCD317(927)に対する抗体をBiolegendから購入した。ストレプトアビジン-フィコエリトリン(PE)およびストレプトアビジン-アロフィコシアニン(APC)をBiolegendから購入した。ラットIgG2a(RTK2758)、ラットIgG2b(RTK4530)、およびハムスターIgG(HTK888)のアイソタイプ対照抗体をBiolegendから購入した。他の記述がない限り、30μg/mlビオチン化1-111AをマウスPD-L1の検出のために用いた。可溶性キメラタンパク質の調製のために、マウスPD-1(アミノ酸1-167)、ヒトPD-1(アミノ酸1-167)、マウスCD28(アミノ酸1-149)およびマウスCTLA-4(アミノ酸1-162)の細胞外領域をコードするcDNAフラグメントをPCRで増幅した。DYKDDDDKタグを含む軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質の5本鎖コイルドコイルドメイン(Terskikh, A. V et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 94, 1663-8(1997))を各タンパク質のC末端に融合し、キメラcDNAをpEBMulti-Neo(Wako)から改変した発現ベクターにクローン化した。プラスミドを293T細胞またはPlat-E細胞に、Avalanche-Omniトランスフェクション試薬(EZ Biosystems)を用いて遺伝子導入し、培養上清を48および96時間後に回収した。上清を希釈し、染色に用いた。細胞上のキメラタンパク質の結合を、抗DYKDDDDKタグ抗体(L5)によって検出した。データをGallios(Beckman Coulter)を用いて取得し、FlowJo(Tree Star)を用いて分析した。
【0118】
共免疫沈降
DYKDDDDKタグをPD-L1およびPD-L1Y56AのC末端に融合した。ヒトERαタンパク質(HC-20,Santa Cruz Biotechnology)に対するウサギポリクローナル抗体によって認識されたSHSLQKYYITGEAEGFPATAタグ(hERタグ)をCD80、CD80L107EおよびCD86のC末端に融合した。所定の組合せでタグ化タンパク質を発現するIIAdL1細胞をPBSで広範に洗浄し、水溶性で非開裂型の、膜不透過性の架橋剤であるBS3(1mM,Thermo Fisher Scientific)で30分間処理した。25mM Trisで架橋反応を停止させた後、細胞を1%NP-40を含む溶解バッファーで溶解した。DYKDDDDKタグで標識されたタンパク質を、抗FLAG M2アガロースビーズ(Merk)で免疫沈降させ、還元条件のSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写した。DYKDDDDKタグおよびhERタグで標識されたタンパク質を抗DYKDDDDK抗体(L5)およびHC-20抗体、次いでIRDye800-抗ラットIgG(H+L)およびIRDye680-抗ウサギIgG(H+L)(LI-COR Biosciences)抗体で検出した。膜上の蛍光信号をOdysseyイメージングシステム(LI-COR Biosciences)で検出した。
【0119】
BM-DCの作製
BM細胞をマウスの大腿骨および脛骨から回収し、10%(v/v)FBS、0.5mMモノチオグリセロール、2mM L-アラニル-L-グルタミンジペプチド、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、および20ng/ml組換えマウスGM-CSF(Biolegend)を添加したRPMI1640培地中で培養した。4日目に培地の3分の2を新鮮な培地に交換した。6日目に非接着性細胞を回収し、マウスの免疫実験にはCD11c+細胞、インビトロでの共培養実験にはCD86+細胞を、BD iMag Cell Separation System(BD Biosciences)で分取した。単離した細胞をLPS(1μg/ml)で刺激した。E.G7を有するマウスの樹状細胞ワクチン療法では、100μg/mlのOVAタンパク質(低エンドトキシン、Wako)を添加した。16~18時間後に非接着性細胞を回収し、さらなる実験に用いた。
【0120】
TG-MΦの調製
ナイーブマウスに2mlの3% Brewerチオグリコレート培地(BD Biosciences)を腹腔内投与した。4日後に腹腔滲出細胞を回収し、組織培養プレートに37℃で2時間播種した。浮遊細胞を広範に洗い流し、強く接着した細胞をLPS(1μg/ml)で16~18時間刺激し、フローサイトメトリー分析に用いた。インビトロでの共培養アッセイのために、F4/80+細胞をセルソーターで精製した(>95%純度)。
【0121】
脾臓DCの単離
脾臓をコラゲナーゼ(1mg/ml,Wako)で20分間37℃で処理し、粉砕し、単一細胞懸濁液を調製した。赤血球溶解後、脾細胞全体をLPS(1μg/ml)で16~18時間刺激した。細胞を回収し、bio-CD11c抗体およびその後にPE-ストレプトアビジンで染色し、CD11c+細胞を抗PE磁気粒子およびBD iMag Cell Separation Systemで濃縮した。B220-F4/80-CD3-CD11c+CD8α+CD11b-細胞(CD8α+DC)またはB220-F4/80-CD3-CD11c+CD8α-CD11b+細胞(CD11b+DC)をセルソーターで分取し(それぞれCD8α+DC;>85%純度およびCD11b+DC;>90%純度)、インビトロでの共培養アッセイの抗原提示細胞として使用した。
【0122】
タンパク質構造
マウスPD-L1およびCD80の構造を、それぞれヒトPD-L1(PDB ID: 4Z18)およびマウスCD80のIgVドメイン(PDB ID: 4RWH)の既報の構造に基づいて、SWISS-MODEL(https://swissmodel.expasy.org/)によって予測した。ヒトCD80(PDB ID: 1DR9)およびCD86(PDB ID: 1NCN)の構造を、UCSFキメラソフトウェアによって解析した。
【0123】
OVAに対するT細胞応答の誘導
フロイント完全アジュバント(BD Biosciences)中で乳化させたOVAタンパク質(100μg)を抗原としてナイーブマウスの足蹠に接種した。抗原を接種した1週間後に、膝窩リンパ節由来の5×105個の細胞を、OVAタンパク質(100μg/ml)、OVA257-264ペプチド(100nM)およびOVA323-339ペプチド(3μM)で48時間刺激した。培養上清におけるIL-2およびIFN-γの濃度を、ELISA(Biolegend)で決定した。
【0124】
腫瘍免疫療法
0日目に、マウスの剪毛した左側腹部に5×105個のE.G7リンパ腫細胞を皮下投与した。5日目および12日目に、PBS中でpoly(I:C)(50μg)と混合したOVAタンパク質(100μg)を腫瘍付近に皮下接種した。あるいは、3日目および10日目に、OVAタンパク質をパルスした、4.5×105個のLPS活性化BM-DCを腫瘍付近に皮下接種した。腫瘍のサイズを3日毎にノギスで測定した。腫瘍の体積を以下の式を用いて計算した:1/2×(短径)2×(長経)。
【0125】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)
EAEの誘導を、既存のプロトコル(Stromnes, I. M. & Goverman, Nat. Protoc. 1, 1810-1819(2006))に従って誘導した。簡潔に述べると、0日目にマウスを、Mycobacterium Tuberculosis H37RA(200μg,BD Biosciences)を添加したフロイント不完全アジュバント(BD Biosciences)中で乳化させたMOG35-55ペプチド(200μg、MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK,>95%純度,Eurofins)を抗原として、皮下に接種した。0および2日目に、200ngの百日咳毒素(List Biological Laboratories)を腹腔内投与した。臨床スコアをブラインドで以下のように毎日評価した:0、臨床徴候なし;1、足を引きずっている;2、後肢の脱力;3、後肢のまひ;4、後肢および前肢のまひ;5、瀕死状態。インビトロでのリコール反応を評価するために、抗原を接種した7日後に1×106個のマウスの脾細胞を、5または50μg/mlのMOG35-55ペプチドで66時間刺激した。培養上清におけるIL-17Aの濃度をELISA(Thermo Fisher Scientific)で決定した。
【0126】
統計
対応のないスチューデントの両側t検定を2群間の比較に用いた。事後検定を伴う一元配置分散分析または二元配置分散分析を多重比較に用いた。p<0.05を統計的に有意であると見なした。図中、エラーバーはs.e.mを示す。
図1~12、17、19、21~28および30~34は、3回以上の独立した実験の代表的なデータを示す。
【0127】
[結果]
試験1:cis-PD-L1/CD80相互作用による、PD-L1/PD-1結合およびその後のPD-1を介する阻害の妨害
PD-L1を発現し、PD-L2を発現しないIIA1.6細胞において、CRISPR/Cas9システムを用いてPD-L1遺伝子をノックアウトし、IIAdL1細胞を得た。IIAdL1細胞にPD-L1、PD-L2、CD80およびCD86を様々な組合せで過剰発現させ、可溶性のマウスPD-1細胞外領域(PD-1-EC)タンパク質で染色することにより、PD-1結合能を評価した(
図1)。PD-1-ECのPD-L1との結合は、IIAdL1-PD-L1細胞においてCD80の同時発現によって強力に遮断され、CD86の同時発現ではされなかった(
図1上段)。この結果は、CD80が同じ抗原提示細胞上のPD-L1と相互作用し、このcis-PD-L1/CD80相互作用がPD-L1/PD-1結合を妨害することを示す。一方、PD-1-ECのPD-L2との結合は、IIAdL1-PD-L2細胞において、CD80およびCD86の同時発現によって影響されなかった(
図1下段)。IIAdL1-CD80細胞のIIAdL1-PD-L1細胞への添加(これは、cis-PD-L1/CD80相互作用ではなく、trans-PD-L1/CD80相互作用を可能にする)は、PD-1-ECのIIAdL1-PD-L1細胞との結合に影響を与えなかった(
図2)。この結果は、PD-L1/PD-1結合を妨害するためにはCD80がPD-L1と同じ細胞上に発現される必要があることを示す。注目すべきことに、cis-PD-L1/CD80相互作用はCD80/CD28結合およびCD80/CTLA-4結合を妨害しなかった(データ示さず)。細胞表面上の隣接するタンパク質を細胞不透過性の架橋剤で架橋すると、CD80はPD-L1と共免疫沈降し、CD86はしなかった(
図3)。この結果は、PD-L1とCD80のcis相互作用をさらに支持する。
【0128】
機能上の意義を調べるため、PD-L1、PD-L2、CD80およびCD86を様々な組合せで過剰発現させたIIAdL1細胞を抗原提示細胞として用い、DO11.10 T細胞を刺激した。抗原刺激によるDO11.10 T細胞からのIL-2産生は、PD-L1またはPD-L2が抗原提示細胞上に発現している場合に強く阻害された(
図4上段)。IL-2産生の抑制はPD-1ノックアウトDO11.10(DO11.10-Pdcd1
-/-)T細胞では観察されなかったため、PD-L1またはPD-L2を介する阻害はPD-1に依存していることが分かった。CD80の同時発現は、IIAdL1-PD-L1細胞によって誘発されるPD-1を介する阻害効果を強力に抑制し、IIAdL1-PD-L2細胞による阻害効果を抑制しなかった(
図4中段)。CD86の同時発現は、IIAdL1-PD-L1細胞およびIIAdL1-PD-L2細胞によって誘発されるPD-1を介する阻害効果を抑制しなかった(
図4下段)。従って、CD80はPD-L1とcisで相互作用し、T細胞活性化においてPD-L1によるPD-1の機能の誘発を妨げることが示された。
【0129】
次に、cis-PD-L1/CD80相互作用の用量依存的な効果を調べた。CD80およびPD-L1を、単独で、または同時に、4つの異なる発現レベルでIIAdL1細胞上に発現させた(全部で25通りの組合せ)(
図5)。予想されるように、相当量のCD80をPD-L1と同時に発現させると、CD80の発現量に応じてPD-1-ECのPD-L1への結合は減少した(
図6および7)。PD-1-EC結合能を有する抗原提示細胞はPD-1の機能を誘発でき、DO11.10 T細胞の活性化によるIL-2産生を抑制できた(
図8)。これらの結果は、PD-L1とCD80の相対量により、抗原提示細胞がT細胞上のPD-1と結合してその機能を誘発する能力が決定されることを示している。
【0130】
試験2:初代培養DCによるT細胞活性化における、PD-1を介する阻害の妨害
インビボにおけるcis-PD-L1/CD80相互作用を調べるために、活性化CD8α
+およびCD11b
+脾臓DCならびにチオグリコール酸誘導性腹腔MΦ(TG-MΦ)を分析した(
図9)。興味深いことに、PD-L1発現レベルが共通して高いにもかかわらず(
図9、2段目)、3種の細胞集団のPD-1-EC結合強度は大きく異なり、TG-MΦはPD-1-ECに強く結合したが、CD8α
+DCはPD-1-ECに弱く結合し、CD11b
+DCはPD-1-ECにほとんど結合しなかった(
図9、最上段)。注目すべきことに、CD8α
+およびCD11b
+DC上のCD80の発現レベルは、TG-MΦ上のCD80の発現レベルよりもはるかに高かった(
図9、最下段)。
【0131】
次に、CD80ノックアウト(C57BL/6N-Cd80
-/-)マウスを作成し、上記と同じ細胞集団を分析した(
図10)。注目すべきことに、C57BL/6N-Cd80
-/-マウス由来のCD8α
+およびCD11b
+DCは、TG-MΦと同程度の強さでPD-1-ECに結合した(
図10、最上段)。この結果は、野生型マウスでは、強いCD80発現のために、CD8α
+およびCD11b
+DCのPD-1-ECとの結合が不完全であることを示す。野生型マウス由来のTG-MΦ上のCD80の発現レベルはPD-L1/PD-1結合を妨害するほど高くなく、TG-MΦとPD-1-ECの結合強度はCD80欠損によって変化しなかった。
【0132】
次に、CD8α
+およびCD11b
+DCならびにTG-MΦを抗原提示細胞として用い、pOVA
257-264/H2-K
bに応答するTリンパ腫細胞(BW-OT-I細胞)またはpOVA
323-339/I-A
bに応答するTリンパ腫細胞(BW-OT-II細胞)を刺激した(
図11)。TG-MΦは、BW-OT-I細胞およびBW-OT-II細胞の両方において、その強いPD-1-EC結合能に一致して、PD-1の阻害機能を誘発した(
図11、上段)。一方、CD8α
+およびCD11b
+DCは、BW-OT-I細胞およびBW-OT-II細胞の活性化に対するPD-1を介する阻害効果を誘発できなかった(
図11、中段および下段)。
図12は、
図11に示すデータをさらに分析した結果である。これらの結果は、T-DC相互作用によるT細胞活性化において、DCがPD-L1/PD-1結合の妨害に十分な量のCD80を発現し、PD-1の機能が制限されることを示す。
【0133】
試験3:cis-PD-L1/CD80相互作用を有さないPD-L1変異体およびCD80変異体
他の機能を保持するが、CD80に結合できないPD-L1変異体、および、PD-L1に結合できないCD80変異体の単離を試みた。PD-L1、PD-L2、CD80およびCD86各々のIgVドメインおよびIgCドメインを交換したキメラ分子の結合の特徴を解析することにより、PD-L1およびCD80のIgVドメインがそれらの相互作用に関与していることを解明した(
図13、14)。エラープローンPCRを用いてPD-L1のIgVドメインにランダム変異を導入し、IIAdL1-CD80細胞にこれらの変異体を過剰発現させ、セルソーティングにより、PD-1-EC結合能を獲得した細胞を分取した。これらの細胞から単離したPD-L1変異体は、V54、Y56およびE58に高い変異率を有していた(
図15上段)。マウスPD-L1の3D構造を予測すると、これらのアミノ酸残基はPD-L1のC鎖に位置することが示された。このC鎖は、PD-1が相互作用する表面に近接している(Lin, D. Y.-W. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 105, 3011-6(2008))(
図16左)。これらの結果は、PD-L1/CD80の相互作用表面が、PD-L1/PD-1の相互作用表面と部分的に重複していることを示唆する。Y56での一連の点変異を調べたところ(
図15下段)、Y56A変異体がCD80の存在下および非存在下でPD-1-ECに同等に結合し(
図17左)、IIAdL1細胞において野生型PD-L1と同程度の発現レベルを示したため(
図17右)、PD-L1Y56Aを以後の分析に使用した。
【0134】
CD28はCD80のAGFCC'C”表面に結合し(Ikemizu, S. et al., Immunity 12, 51-60(2000); Stamper, C. C. et al. Nature 410, 608-11(2001); Evans, E. J. et al. Nat. Immunol. 6, 271-279(2005))、CD80はPD-L1存在下でCD28に結合できるため(データ示さず)、CD80のDEB表面に着目した。CD80(Ikemizu, S. et al.,既出)とCD86(Zhang, X., Schwartz, J.-C. D., Almo, S. C. & Nathenson, S. G., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 100, 2586-91(2003))との疎水性を比較することによって、CD80のDEB表面における特有の疎水性パッチを見出した(
図18)。そこで、この疎水性パッチにおいてアミノ酸残基を変異させた。L96EまたはL107E変異を有するCD80は、PD-L1/PD-1結合を妨害できなかった(
図19上段および
図20)。CD80L107E変異体はPD-L1/PD-1結合を妨害せず、CD28およびCTLA-4に野生型CD80と同程度で結合し、IIAdL1細胞において野生型CD80と同程度の発現レベルを示したため(
図19)、CD80L107Eを以後の分析に用いた。また、PD-L1Y56Aを用いたCD80との共免疫沈降は著しく減少し、CD80L107Eを用いたCD80との共免疫沈降はほとんど消失した(
図21)。
【0135】
次に、これらの変異体の機能を調べた。PD-L1Y56Aを発現するIIAdL1細胞を抗原提示細胞として用い、DO11.10 T細胞を刺激すると、PD-L1Y56Aは、CD80非存在下で、野生型PD-L1と同程度にPD-1を介する阻害効果を誘発した(
図22上段および
図23)。さらに、PD-L1Y56AはCD80存在下でもPD-1の機能を誘発した(
図22中段および
図24)。この結果は、PD-L1Y56AがCD80の作用を回避し、PD-1の機能を誘発できることを示す。CD80L107EをPD-L1の非存在下でIIAdL1細胞上に発現させると、CD80L107Eは、抗原刺激によるDO11.10 T細胞からのIL-2産生を、野生型CD80と同程度に増強した。さらに、PD-L1は、CD80L107E存在下でPD-1の機能を誘発できた(
図22下段および
図24)。この結果は、CD80L107Eは、PD-L1によるPD-1機能の誘発を阻害できないことを示す。
【0136】
試験4:ヒトにおけるcis-PD-L1/CD80相互作用によるPD-1を介する阻害の減弱
PD-1を介する阻害効果のcis-PD-L1/CD80相互作用による減弱がヒトにおいても同様に生じるか否かを調べるため、ヒトオルソログを用いて同様の実験を行った。マウス分子と同様に、ヒトCD80はヒトPD-L1に結合し、ヒトPD-L1のヒトPD-1との結合を減弱したが、これらはヒトCD86では起こらなかった(
図25および26)。ヒトCD80はヒトPD-L1と共免疫沈降されたが、ヒトCD86はされなかった(
図27)。さらにヒトCD80とヒトPD-L1のcis相互作用は、ヒトPD-L1がヒトPD-1の阻害機能を誘発することを妨害した(
図28)。cis-PD-L1/CD80相互作用を欠き、PD-1の機能を制限できない、ヒトCD80変異体およびヒトPD-L1変異体の単離にも成功した(
図29および30)。ヒトPD-L1N63D/G119S変異体は、ヒトCD80の非存在下でPD-1を介する阻害を野生型ヒトPD-L1と同程度に誘発し(
図30上段)、ヒトCD80存在下でもPD-1を介する阻害を誘発した(
図30中段)。また、ヒトCD80L104E変異体は、PD-L1によるPD-1を介する阻害の誘発を妨げることができなかった(
図30下段)。
【0137】
試験5:cis-PD-L1/CD80相互作用の非存在下における、免疫原、腫瘍細胞および自己組織に対するT細胞応答の減弱
インビボにおけるcis-PD-L1/CD80相互作用の生物学的意義を調べるために、PD-L1Y56AおよびCD80L107EのノックインマウスをCRISPR/Cas9システムを用いて作製した(C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウス)。C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウスは正常に生まれ、明白に現れる障害はなく、健常に発育した。これらのノックインマウス由来の活性化CD8α
+DC、CD11b
+DCおよびGM-CSF誘導性骨髄由来樹状細胞(BM-DC)は、野生型マウス由来のこれらの細胞と比較して、CD80、PD-L1およびPD-L2の発現レベルが同等であるにもかかわらず、はるかに強いPD-1-EC結合能を示した(
図31)。また、これらの細胞上のCD86およびMHCIIの発現レベルも同程度であった。野生型マウス由来の活性化DCは、BW-OT-IおよびBW-OT-II細胞の活性化に対してPD-1の阻害効果をほとんど誘発しなかったが、C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウス由来の活性化DCは阻害効果を誘発した(
図32~34)。
【0138】
次に、インビボにおけるcis-PD-L1/CD80相互作用の外来性抗原に対する免疫応答への効果を調べた。C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウスに、フロイント完全アジュバント(CFA)中で乳化させたOVAタンパク質を抗原として接種し、1週間後に所属リンパ節中のT細胞を再刺激した。OVAタンパク質ならびにMHCIおよびMHCII拘束性OVAペプチドでの刺激によるT細胞からのIFN-γ産生およびIL-2産生は、両方のノックインマウスにおいて、野生型マウスと比較して著しく低かった(
図35)。これらの結果は、野生型マウスでは、外来性抗原に対する免疫応答の誘導において、PD-1の機能がcis-PD-L1/CD80相互作用によって制限されていることを示す。
【0139】
次に、がん免疫療法におけるcis-PD-L1/CD80相互作用の関与を調べた。OVAを発現するE.G7リンパ腫細胞(Moore, M. W., Carbone, F. R. & Bevan, M. J., Cell 54, 777-85(1988))をマウスに移植し、OVAタンパク質およびpoly(I:C)をワクチンとして接種した(
図36)。野生型マウスでは腫瘍増殖はワクチン接種によって強く抑制されたが、C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウスでは有意な治療効果は認められなかった(
図37および38)。さらに、抗原提示細胞上のcis-PD-L1/CD80相互作用の役割を直接調べるために、樹状細胞ワクチンを用いた。E.G7細胞を移植した野生型マウスに、野生型マウスおよびノックインマウス由来のBM-DCにOVAをパルスして投与し、免疫応答を誘導した(
図39)。タンパク質ワクチン接種の効果と一致して、野生型マウス由来のBM-DCを用いた樹状細胞ワクチン療法は強力な抗腫瘍免疫応答を誘導したが、C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウス由来のBM-DCを用いた際には、抗腫瘍免疫応答を誘導しなかった(
図40および41)。これらの結果は、cis-PD-L1/CD80相互作用によりPD-1の機能が制限されることが、抗腫瘍免疫応答の誘導に非常に重要であることを示している。
【0140】
さらに、自己免疫におけるcis-PD-L1/CD80相互作用の役割を、多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を用いて調べた。C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウスでは、野生型マウスと比較して、MOGペプチドを抗原とした免疫誘導により引き起こされるEAEの症状が著しく軽度であった(
図42)。同様に、MOGペプチドでの再刺激時に、MOGペプチドで免疫したC57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウス由来の脾細胞からのIL-17産生は大幅に少なかった(
図43)。これらの知見は、EAE発症時に、野生型マウスでは、PD-1の抑制効果がcis-PD-L1/CD80相互作用によって妨げられており、一方、C57BL/6N-Cd274
Y56AマウスおよびC57BL/6N-Cd80
L107Eマウスでは、PD-L1がCD80から解放されているため、PD-1と結合して抑制効果を発揮し、EAEの症状が抑えられることを示す。
【0141】
抗CD80抗体を用いる試験
[材料と方法]
可溶性タンパク質
マウスCD80の細胞外領域をコードするcDNA断片をPCRで増幅し、ヒトIgG1のFc領域(hIgG1Fc)と融合させた。pEFBOSneoから改変した発現ベクターにキメラcDNAをクローニングした。Avalanche-Omni Transfection Reagent(EZ Biosystems)を用いてプラスミドをPlat-E細胞に導入し、培養上清を48時間後に回収した。マウスCD80-hIgG1FcをプロテインG(GE Healthcare)で精製した。
【0142】
マウス
C57BL/6N-Cd80-/-マウスを、環境制御されたクリーンルームにおいて特定病原体除去条件下で飼育した。全てのマウスのプロトコルは徳島大学の動物実験委員会によって認可された。
【0143】
抗マウスCD80モノクローナル抗体(mAb)の生成
マウスCD80-hIgG1Fcタンパク質を抗原として接種して免疫応答を誘導したC57BL/6N-Cd80-/-マウスのリンパ節細胞をSP2/o細胞と電気的細胞融合(LF301, BEX)により融合させた。ハイブリドーマクローンの培養上清を、cis-PD-L1/CD80相互作用を解離させる能力について試験した。
【0144】
抗ヒトCD80mAbの生成
ヒトCD80-hIgG1Fcタンパク質(R&D Systems)を抗原として接種して免疫応答を誘導したBALB/cマウスのリンパ節細胞をSP2/o細胞とセンダイウイルス外被(GenomONE-CF, Ishihara Sangyo Kaisha)を用いて融合させた。ハイブリドーマクローンの培養上清を、cis-PD-L1/CD80相互作用を解離させる能力について試験した。
【0145】
DO11.10 T細胞およびTCRを再構成した細胞の刺激
DO11.10 T細胞(5×104個/ウェル)を、図中に示す量のOVA323-339ペプチド(ISQAVHAAHAEINEAGR, >95% 純度, Sigma-Aldrich Japan または eurofins genomics)でパルスしたIIAdL1細胞(1×104個/ウェル)で12~14時間刺激した。5μg/mlの抗マウスCD80抗体(TKMG48、1G10(BD bioscience)、RM80(Biorad))、マウスIgG1アイソタイプ対照(MOPC-21, Biolegend)、抗ヒトCD80抗体(TKMF5)およびマウスIgG2aアイソタイプ対照(MOPC-173, Biolegend)を後述の通りに添加した。培養上清中のIL-2の濃度をELISA(Biolegend)により測定した。
【0146】
EAE
結核菌H37RA(200μg、BD Biosciences)を含むフロイント不完全アジュバント(BD Biosciences)で乳化したMOG
35-55ペプチド(200μg, MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK, >95% 純度, Eurofins)を皮下接種することで、マウスを免疫した(0日目)。0日目と2日目に、百日咳毒素(200ng, List Biological Laboratories)を腹腔内投与した。
図47および
図48中に示す通り、500μgの抗マウスCD80抗体(TKMG48)またはアイソタイプ対照マウスIgG1(MOPC21, Bio X cell)を腹腔内投与した。臨床スコアをブラインドで以下のように毎日評価した:0、臨床徴候なし;1、足を引きずっている;2、後肢の脱力;3、後肢のまひ;4、後肢および前肢のまひ;5、瀕死状態。
【0147】
CD80分子に対する抗体の結合性
マウスCD80、CD80およびCD86のIgVドメインおよびIgCドメインを交換したキメラ分子(
図13参照)、あるいはマウスPD-L1との結合能を欠くマウスCD80変異体(L96Eおよび/またはL107E変異を有する)を導入したDOdKO細胞に対するTKMG48および16-10A1の結合性をフローサイトメトリーによって評価した。ヒトCD80、あるいはヒトPD-L1との結合能を欠くヒトCD80変異体(I92EおよびL104E変異を有する)を導入したDOdKO細胞に対するTKMF5および2D10の結合性をフローサイトメトリーによって評価した。
【0148】
抗マウスCD80抗体(TKMG48)および抗ヒトCD80抗体(TKMF5)の結合性評価
マウスCD80可溶性タンパク質に対する抗マウスCD80抗体(TKMG48)およびヒトCD80可溶性タンパク質に対する抗ヒトCD80抗体(TKMF5)の結合親和性を、バイオレイヤー干渉法にて測定した。簡潔に述べると、マウスまたはヒトCD80の細胞外領域をコードするcDNA断片を、PCRにより増幅した。strepタグをCD80のC末端に付加した。キメラcDNAを、pEBMulti-Neo (Wako)から改変した発現ベクターにクローニングした。Avalanche-Omni Transfection Reagent(EZ Biosystems)を使用してプラスミドをPlat-E細胞に導入し、培養上清を48時間後に回収した。単量体のCD80(strepタグ付き)を、ストレプトアビジン被覆バイオセンサーチップ(Pall ForteBio)に固定し、様々な濃度の抗CD80抗体の結合をBLItz(Pall ForteBio)でモニターした。チップをPBSで洗浄し、解離速度を分析した。結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)および解離定数(KD)をBLItz Proソフトウェアで算出した。
【0149】
[結果]
抗CD80抗体による免疫抑制
同一の抗原提示細胞上にマウスCD80とマウスPD-L1が存在するときに、抗マウスCD80抗体により、マウスPD-1-ECがマウスPD-L1に結合できるようになるか否かを調べた。マウスPD-L1およびCD80を、PD-1およびPD-L1の遺伝子を欠損させたDO11.10 T細胞(DOdKO細胞)に導入し、DOdKO-mPD-L1/mCD80細胞を得た。DOdKO-mPD-L1/mCD80細胞を10μg/mlの各抗マウスCD80抗体により20分間37℃で前処理し、続いてマウスPD-1-ECで染色した。マウスPD-1-ECは、TKMG48で前処理したDOdKO-mPD-L1/mCD80細胞に結合したが、他の抗体で前処理しても結合しなかった(
図44)。マウスPD-1-ECの結合平均蛍光強度を用いて以下の算出式でTKMG48前処理の効果を評価した。
(TKMG48処置群-コントロール群)/(対照IgG群-コントロール群)
TKMG48で前処理したDOdKO-mPD-L1/mCD80細胞に対するマウスPD-1-ECの結合量は、対照IgGで前処理した場合と比較して、約10.1倍であった。これらの結果は、同一の抗原提示細胞上にマウスCD80とマウスPD-L1が存在するときに、TKMG48がマウスPD-1-ECをマウスPD-L1に結合させることを示す。
【0150】
CD80とCD28、CD80とCTLA-4、およびCD80とPD-L1の相互作用に対する抗マウスCD80抗体の効果を調べた。DOdKO-CD80細胞を、10μg/mlの
図45中に示す各抗マウスCD80抗体により20分間4℃で前処理し、続いて、マウスCD28-EC、CTLA-4-ECまたはPD-L1-ECで染色した。結果を
図45に示す。TKMG48はPD-L1-ECのCD80への結合を強く阻害した。CD28-ECのCD80への結合はTKMG48により弱く阻害されたが、CTLA-4-ECのCD80への結合はTKMG48により阻害されなかった。16-10A1はCD80とCD28-ECおよびCD80とPD-L1-ECの相互作用を強く阻害し、CD80とCTLA-4-ECの相互作用を部分的に阻害した。1G10は、CD80とCD28-ECおよびCD80とPD-L1-ECの相互作用を強く阻害したが、CD80とCTLA-4-ECの相互作用を阻害しなかった。RM80はCD28-EC、CTLA-4-ECおよびPD-L1-ECのCD80への結合を阻害しなかった。
【0151】
同一の抗原提示細胞上にCD80とPD-L1が存在するときに、TKMG48により、PD-L1がPD-1の阻害効果を誘起できるようになるか否かを調べた。PD-1を発現しているか、または欠損しているDO11.10 T細胞を、OVA
323-339でパルスしたIIAdL1-CD80/CD86またはIIAdL1-CD80/CD86/PD-L1細胞で刺激した。抗マウスCD80抗体または対照IgG(5μg/ml)を
図46中に示す通りに添加した。結果を
図46に示す。抗原刺激したDO11.10 T細胞によるIL-2産生は、TKMG48を添加した場合にPD-1により阻害されたが、16-10A1またはIG10を添加しても阻害されなかった。これらの結果は、TKMG48がcis-PD-L1とCD80の相互作用を解離させ、PD-L1によるPD-1の阻害効果の誘起を可能にすることを示す。
【0152】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に対するTKMG48の治療効果を評価した。C57BL/6NマウスにCFAで乳化したMOG
35-55ペプチドを抗原として接種した(0日目)。500μgのTKMG48またはアイソタイプ対照(マウスIgG1)を、1、3、5、7、10および13日目に、マウスに腹腔内投与した。結果を
図47に示す。TKMG48処置はEAEの症状を大幅に軽減した。同様に、C57BL/6NマウスおよびC57BL/6N-Cd274
-/-マウス(PD-L1ノックアウトマウス)にCFAで乳化したMOG
35-55ペプチドを抗原として接種した(0日目)。500μgのTKMG48またはアイソタイプ対照(マウスIgG1)を、1、3、5、7、10、13および16日目に、マウスに腹腔内投与した。結果を
図48に示す。TKMG48処置は、PD-L1依存的にEAEの症状を大幅に軽減した。これらの結果は、cis-PD-L1とCD80の相互作用の解離によるPD-1シグナルの活性化が、自己免疫疾患の処置に有効であることを示す。
【0153】
同一の抗原提示細胞上にヒトCD80とヒトPD-L1が存在するときに、抗ヒトCD80抗体であるTKMF5により、ヒトPD-1-ECがヒトPD-L1に結合できるようになるか否かを調べた。DOdKO-hPD-L1/hCD80細胞をTKMF5により20分間37℃で前処理し、続いてヒトPD-1-ECで染色した。PD-1-ECのDOdKO-hPD-L1/hCD80細胞への結合は、TKMF5の濃度に依存して増加し、例えば、30μg/mLのTKMF5の存在下で、PD-1-ECと結合する細胞の割合は約50%であった。この結果は、同一の抗原提示細胞上にヒトCD80とヒトPD-L1が存在するときに、TKMF5がヒトPD-1-ECをヒトPD-L1に結合させることを示す。
【0154】
CD80とCD28、CD80とCTLA-4、およびCD80とPD-L1の相互作用に対するTKMF5の効果を調べた。PD-1の遺伝子を欠損させたDO11.10 T細胞(DOdPD細胞)にヒトCD80を導入し、DOdPD-hCD80細胞を得た。DOdPD-hCD80細胞を10μg/mlのTKMF5により20分間4℃で前処理し、続いて、ヒトCD28-EC、ヒトCTLA-4-ECまたはヒトPD-L1-ECで染色した。TKMF5で前処理したDOdPD-hCD80細胞では、ヒトCD80とヒトCD28-ECおよびヒトCTLA-4-ECとの結合強度は非処理対照の80%以上を示したのに対し、ヒトCD80とヒトPD-1-ECとの結合強度は非処理対照の10%以下であった。この結果は、TKMF5はヒトPD-L1-ECのヒトCD80への結合を阻害するが、ヒトCD28-ECおよびヒトCTLA-4-ECのヒトCD80への結合を阻害しないことを示す。
【0155】
同一の抗原提示細胞上にCD80とPD-L1が存在するときに、TKMF5により、PD-L1がPD-1の阻害効果を誘起できるようになるか否かを調べた。OVAペプチドでパルスしたIIAdL1-hCD80/hCD86またはIIAdL1-hCD80/hCD86/hPD-L1細胞を、PD-1を発現しているか、または欠損しているDO11.10細胞と共に、TKMF5またはアイソタイプ対照IgG(10μg/ml)の存在下で培養した。結果を
図49に示す。TKMF5の添加は、PD-1を発現しているDO11.10 T細胞において、TCRに誘導されるIL-2産生の阻害を誘導したが、PD-1を欠損している細胞ではしなかった。これらの結果は、TKMF5が抗原提示細胞上のcis-hPD-L1とhCD80の相互作用を解離させ、PD-L1によるPD-1の阻害効果の誘起を可能にすることを示す。
【0156】
図50に、マウスCD80、CD80およびCD86のIgVドメインおよびIgCドメインを交換したキメラ分子(
図13参照)(上段)、あるいはマウスPD-L1との結合能を欠くマウスCD80変異体(L96Eおよび/またはL107E変異を有する)(下段)を導入したDOdKO細胞に対するTKMG48(左)および16-10A1(右)の結合性をフローサイトメトリーによって評価した結果を示す。TKMG48および16-10A1は、CD80のIgV領域を認識した(上段)。PD-L1との結合能を欠くCD80変異体に対するTKMG48の結合性は低かった(左)。一方、16-10A1は、PD-L1との結合能を欠くCD80変異体に対して、野生型CD80と同程度の結合性を示した(右)。
【0157】
図51に、ヒトCD80、あるいはヒトPD-L1との結合能を欠くヒトCD80変異体(I92EおよびL104E変異を有する)を導入したDOdKO細胞に対するTKMF5(左)および2D10(右)の結合性をフローサイトメトリーによって評価した結果を示す。ヒトPD-L1との結合能を欠くヒトCD80変異体に対するTKMF5の結合性は著しく低かった(左)。一方、2D10は、ヒトPD-L1との結合能を欠くヒトCD80変異体に対して、野生型ヒトCD80と同程度の結合性を示した(右)。
【0158】
抗マウスCD80抗体(TKMG48)および抗ヒトCD80抗体(TKMF5)のマウスCD80もしくはヒトCD80に対する結合親和性を評価した。その結果、TKMG48の平衡解離定数(KD値)は、1.232nmol/L、TKMF5の平衡解離定数(KD値)は、11.44nmol/Lであった。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の抗CD80抗体および抗PD-L1抗体から選択されるPD-L1とPD-1との結合を促進させる物質は、免疫抑制剤として、または、自己免疫疾患、アレルギー疾患もしくは移植片対宿主病の予防および/または治療に有用である。
【配列表】