(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】減音作用を有するマウスピース
(51)【国際特許分類】
G10D 9/02 20200101AFI20240321BHJP
G10D 7/066 20200101ALI20240321BHJP
G10D 7/08 20060101ALI20240321BHJP
G10D 9/06 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
G10D9/02 200
G10D7/066
G10D7/08
G10D9/06
(21)【出願番号】P 2020089352
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】514203649
【氏名又は名称】株式会社タツミ楽器
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】巽 朗
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3140147(JP,U)
【文献】特開2006-113141(JP,A)
【文献】登録実用新案第3063319(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0166050(US,A1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0491205(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 9/02
G10D 7/066
G10D 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッフル内面に、マウスピースの上端側から下端側に向かってチャンバー内の空間が狭まる方向に傾斜する上り坂面を備え、前記上り坂面の幅方向の両端はサイドレールと一体となっていることを特徴とする、シングルリードの管楽器のマウスピース。
【請求項2】
前記上り坂面の下端はティップレールと一体となっていることを特徴とする、請求項1に記載のマウスピース。
【請求項3】
マウスピースの上端側のバッフル内面に、前記上り坂面と、マウスピースの上端側から下端側に向かってチャンバー内の空間が広がる方向に傾斜する下り坂面と、を有する、断面側面視略三角形の盛り上がり部を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマウスピース。
【請求項4】
前記盛り上がり部における幅方向に延びる山稜部は、マウスピースの正面視において外側に湾曲していることを特徴とする、請求項3に記載のマウスピース。
【請求項5】
前記盛り上がり部における幅方向に延びる山稜部は、マウスピース上端側に向かって湾曲していることを特徴とする、請求項3又は4に記載のマウスピース。
【請求項6】
上り坂面の長さL
2は、ティップレール幅長L
1と同一又はそれ以上であることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載のマウスピース。
【請求項7】
下り坂面の長さL
3は、上り坂面の長さL
2と同一又はそれ以上であることを特徴とする、請求項3~5の何れか一項に記載のマウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシングルリードの管楽器のマウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
サクソフォン等の管楽器を自宅で吹奏する場合、その音量は相当に大きいものであり、特別に設計された防音室での演奏でない限り、近隣への影響を考慮して音量を低くすることが要請される。
このような管楽器の音量を小さくする消音構造としては、例えば、管楽器のネック内に、その内径を絞る短円筒状の弱音具(制音材)を配置する構造(特許文献1)や、管楽器共鳴管にバイパス管を設けて楽器外部に引き出す構造(特許文献2)、マウスピースやネックにバイパス菅を設ける構造(特許文献3)が提案されている。
一方、マウスピースのバッフル形状については、音色の向上等の観点においては種々の検討がされているものの、減音効果を得る目的での検討はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3153666号公報
【文献】特開2005-326810号公報
【文献】特開2014-029383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は、減音効果を得られるマウスピースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は、バッフル内面に、マウスピースの上端側から下端側に向かってチャンバー内の空間が狭まる方向に傾斜する上り坂面を備え、前記上り坂面の幅方向の両端はサイドレールと一体となっていることを特徴とする、シングルリードの管楽器のマウスピースである。
上り坂面によってティップオープニングが狭められているため、演奏者により管楽器の管内に吹き込まれる息量が制限される。これにより減音効果が得られる。
【0006】
本発明の好ましい形態では、前記上り坂面の下端はティップレールと一体となっていることを特徴とする。
ティップレールに極めて近接した位置に上り坂面が存在するため、演奏者により管楽器の管内に吹き込まれる息量を制限する作用に優れ、より優れた減音効果を得ることができる。
【0007】
本発明の好ましい形態では、マウスピースの上端側のバッフル内面に、前記上り坂面と、マウスピースの上端側から下端側に向かってチャンバー内の空間が広がる方向に傾斜する下り坂面と、を有する、断面側面視略三角形の盛り上がり部を備えることを特徴とする。
かかる形態の本発明によれば、減音効果を得つつも音色に悪影響を与えない。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記盛り上がり部における幅方向に延びる山稜部は、マウスピースの正面視において外側に湾曲していることを特徴とする。
かかる形態の本発明によれば、盛り上がり部によって管内に吹き込まれる息量を制限することで減音効果を得つつも、管内に流入する息については、その流れを阻害しないため、音色に悪影響を与えない。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記盛り上がり部における幅方向に延びる山稜部は、マウスピース上端側に向かって湾曲していることを特徴とする。
かかる形態の本発明によれば、減音効果を得つつも音色に悪影響を与えない。
【0010】
本発明の好ましい形態では、上り坂面の長さL2は、ティップレール幅長L1と同一又はそれ以上であることを特徴とする。
上り坂面の長さをこのように設定することにより、より優れた減音効果を得ることができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、下り坂面の長さL3は、上り坂面の長さL2と同一又はそれ以上であることを特徴とする。
上り坂面の長さよりも下り坂面の長さを長くする、すなわち、下り坂面を上り坂面よりも緩やかな傾斜にすることにより、減音効果を得つつも、良好な音色を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマウスピースを用いることにより、減音効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係るマウスピースの側面断面図である。
【
図2】本発明の実施例に係るマウスピースをウインドウ側から見た図である。
【
図3】本発明の実施例に係るマウスピースの先端を正面側から見た図である。
【
図4】本発明の実施例に係るマウスピースの先端側の拡大側面断面図である。
【
図5】本発明の実施例に係るマウスピースの先端側をウインドウ側から見た拡大図である。
【
図6】従来のストレート型のマウスピースの側面断面図である。
【
図7】従来のストレート型のマウスピースをウインドウ側から見た図である。
【
図8】従来のストレート型のマウスピースの先端を正面側から見た図である。
【
図9】従来のステップ型のマウスピースの側面断面図である。
【
図10】従来のステップ型のマウスピースをウインドウ側から見た図である。
【
図11】従来のステップ型のマウスピースの先端を正面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について
図1~
図5を参照しながら説明する。適宜、従来のストレート型のマウスピース(
図6~
図8)及びステップ型のマウスピース(
図9~
図11)と比較しながら本発明について説明を行う。
なお、本発明は以下に説明する実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0015】
本発明はクラリネットやサクソフォンなどのシングルリードの管楽器のマウスピースに適用することができる。
【0016】
本実施例のマウスピース1は、バッフル12の内面に盛り上がり部2を備える。具体的には、盛り上がり部2は、マウスピース1の上端側のバッフル12の内面に設けられている(
図1~
図5)。
なお、本明細書において、マウスピースの上端側とは、マウスピースの先端側(吹き口側)のことをいう。また、マウスピースの下端側とは、上端側と反対側のことをいう。
【0017】
盛り上がり部2は、マウスピースの上端側から下端側に向かってチャンバー内の空間が狭まる方向に傾斜する上り坂面21を備える(
図1、
図4)。「チャンバー内の空間が狭まる方向」は「バッフル12の厚みが増す方向」と言い換えることができる。
【0018】
また、盛り上がり部2は、マウスピースの上端側から下端側に向かってチャンバー内の空間が広がる方向に傾斜する下り坂面22を備える(
図1、
図4)。「チャンバー内の空間が広がる方向」は「バッフル12の厚みが減る方向」と言い換えることができる。
【0019】
上り坂面21の頂上と下り坂面22の頂上は接しており、山稜部23を構成する(
図1、
図4)。盛り上がり部2とバッフル12を区別して表示した概略図を
図4に示す。
図4に示す黒塗の部分が盛り上がり部2に該当する。
図4に示す通り、盛り上がり部2は、断面側面視略三角形の形態をとる。
【0020】
本実施形態において、盛り上がり部2はバッフル12と同一素材により一体形成されている(
図1)。しかし、バッフル12と盛り上がり部2を一体形成することは必須ではなく、別体として構成されていてもよい。
【0021】
図5に本実施例のマウスピース1の先端部分の拡大図を示す。
図5に示すように、上り坂面21の幅方向の両端は、サイドレール13と一体となっている。言い換えると、上り坂面21は、サイドレール13の表面と同一面を構成する。このような構成をとるため、山稜部23はサイドレール13に接している。
本実施例において、上り坂面21はサイドレール13と同じ高さを有する。
【0022】
図5にサイドレール13の延長線を一点鎖線で示す。この一点鎖線がサイドレール13と上り坂面21との境界(サイドレール境界131)である。説明の便宜上、サイドレール境界131を
図5に示しているが、本実施例においては、マウスピース1と盛り上がり部2は一体形成されているため、サイドレール境界131は目視できるわけではない。
なお、マウスピース1と盛り上がり部2を別体として構成する場合、
図5におけるサイドレール境界131は実線として表れる。
【0023】
また、本実施例において、上り坂面21の下端とティップレール14は一体となっている。つまり、上り坂面21は、ティップレール14と連続している。
【0024】
図5に示す二点鎖線は、ティップレール14と上り坂面21との境界(ティップレール境界141)である。ティップレール境界141は、
図4に示すように、断面側面視においてバッフル12と盛り上がり部2を区別して表示したときに、バッフル12の内面の延長線とマウスピース1の先端部分が接する部分である。
説明の便宜上、ティップレール境界141を
図5に示しているが、本実施例においては、マウスピース1と盛り上がり部2は一体形成されているため、ティップレール境界141は目視できるわけではない。
なお、マウスピース1と盛り上がり部2を別体として構成する場合、
図5におけるティップレール境界141は実線として表れる。
【0025】
以上の通り、上り坂面21は、その幅方向の両端においてサイドレール13と一体になっており、その下端においてティップレール14と一体になっている。これにより、上り坂面21は、サイドレール13及びティップレール14と共に同一平面を構成する(
図2及び
図5)。
【0026】
ここで、本実施例に係るマウスピース1と従来のマウスピースとの差異を説明する。
図6~
図8及び
図9~
図11に、ティップの開き(L
t)が本実施例と等しいストレート型のマウスピースとステップ型のマウスピースをそれぞれ示す。
本実施例のマウスピース1は、先端側に盛り上がり部2を備える。これにより、ティップの開き(L
t)が等しいにも関わらず、従来のストレート型のマウスピース(
図6)及びステップ型のマウスピース(
図9)と比べてティップオープニングL
Oが狭まっている(
図1)。
ティップオープニングL
Oが盛り上がり部2により狭まっていることにより、演奏者が吹き込む息が管内に流入する量が制限され、減音効果が奏されるのである。
【0027】
本実施例においては、盛り上がり部2の山稜部23は、マウスピース1の正面視において外側に湾曲している(
図3)。
本実施例においては、バッフル12(ティップレール14)も正面視において外側に湾曲している。そして、バッフル12(ティップレール14)と山稜部23の湾曲線は、互いに略平行曲線の関係にある。
山稜部23をマウスピース1の正面視において外側に湾曲させることにより、管内に流入する息は乱れることなくスムーズに流れる。つまり、盛り上がり部2によって吹き込まれる息量を制限することで減音効果を得つつも、管内に流入する息の流れが乱れないため、良好な音色を得ることができる。
【0028】
また、
図2及び
図5に示すように、マウスピース1をウインドウ側から平面視したときに、山稜部23はマウスピース上端側に向かって湾曲している。
本実施例においては、ティップレール14も上端側に向かって湾曲している。そして、ティップレール14と山稜部23の湾曲線は、互いに略平行曲線の関係にある。
山稜部23をマウスピース1の上端側に向かって湾曲させることにより、管内に流入する息は乱れることなくスムーズに流れる。つまり、盛り上がり部2によって吹き込まれる息量を制限することで減音効果を得つつも、管内に流入する息の流れが乱れないため、良好な音色を得ることができる。
【0029】
以下、上り坂面21と下り坂面22のより詳細な構成について説明する。
なお、「ティップレールの幅長L
1」、「上り坂面21の長さL
2」、「下り坂面の長さL
3」とは、
図2及び
図5のように、ウインドウが構成する面に直交する方向から平面視したとき、マウスピースの上端側及び下端側に延びる方向の長さである。
図5にL
1~L
3を図示している。
【0030】
本実施例においては、ティップレール14の幅長L
1は上り坂面21の長さL
2と略同一である(
図5)。
本発明は、かかる形態に限られず、上り坂面の長さL
2は、ティップレール幅長L
1の好ましくは0.5倍以上、より好ましくは0.8倍以上、さらに好ましくは1倍以上とすることが、減音効果の向上の観点から好ましい。
【0031】
また、上り坂面の長さL2は、ティップレール幅長L1の好ましくは5倍以下、より好ましくは4倍以下、さらに好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下、さらに好ましくは1.5倍以下とすることが、違和感の少ない吹奏感を得る観点から好ましい。
【0032】
本実施例においては、下り坂面22の長さL
3は、上り坂面21の長さL
2の約2倍である(
図5)。
本発明はかかる形態に限定されず、下り坂面22の長さL
3は、上り坂面21の長さL
2の好ましくは1倍以上、より好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは2.5倍以上とすることが、減音効果を得つつも良好な音色を得る観点で好ましい。
【0033】
また、下り坂面22の長さL3は、上り坂面21の長さL2の好ましくは10倍以下、より好ましくは8倍以下、さらに好ましくは6倍以下、さらに好ましくは5倍以下とすることが、チャンバー11の内部空間の容積を確保し良好な音色を得る観点で好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 マウスピース
11 チャンバー
12 バッフル
13 サイドレール
131 サイドレール境界
14 ティップレール
141 ティップレール境界
2 盛り上がり部
21 上り坂面
22 下り坂面
23 山稜部
3 リード
4 ステップ
41 ステップの上り坂面
42 ステップの下り坂面
43 ステップの山稜部
Lt ティップの開き
LO ティップオープニング
L1 ティップレールの幅長
L2 上り坂面の長さ
L3 下り坂面の長さ