IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 上六印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図1
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図2
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図3
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図4
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図5
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図6
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図7
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図8
  • 特許-パルプモールド成形品の製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】パルプモールド成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21J 3/00 20060101AFI20240321BHJP
   D21J 5/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
D21J3/00
D21J5/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020148092
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042625
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】392031859
【氏名又は名称】上六印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】三島 基司
(72)【発明者】
【氏名】武内 脩二
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】樋笠 克敏
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-176551(JP,A)
【文献】特開2013-129921(JP,A)
【文献】特開平05-279998(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00562590(EP,A1)
【文献】特開昭63-227889(JP,A)
【文献】特開昭63-227890(JP,A)
【文献】米国特許第3838001(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプスラリー中に平面的な網状体を浸漬して、その網状体にパルプ繊維を付着させることにより、シート状のパルプモールド中間品を成形する抄取工程と、前記抄取工程で成形されたパルプモールド中間品を上下の金型の間に挟んでプレス加工することにより、シート状のパルプモールド成形品とするプレス工程とを含むパルプモールド成形品の製造方法において、
前記プレス工程では、前記上下の金型の加工面の少なくとも一方に、一面に凹凸模様が形成された型押版を、その一面が前記パルプモールド中間品に対向するようにセットした状態でプレス加工を行って、前記パルプモールド中間品の上下面の少なくとも一方に前記型押版の凹凸模様を転写するようにしたことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状のパルプモールド成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古紙等を原料とするパルプモールド成形品は、近年の脱プラスチックの流れもあって、包装容器や緩衝材等への適用が広がっている。また、その表面の独特の風合いを生かしたインテリア商品も見られるようになってきている。
【0003】
このパルプモールド成形品の製造方法は、一般に、古紙等の原料を水に溶かしてパルプスラリー(パルプ繊維を含む流動体)とする溶解工程と、パルプスラリーに異物除去等の処理を行ってパルプスラリーの性状を調整する原質調整工程と、調整後のパルプスラリーからパルプ繊維を抄き取ってパルプモールド中間品を成形する抄取工程と、成形されたパルプモールド中間品をプレス加工してパルプモールド成形品とするプレス工程と、パルプモールド成形品を打ち抜いて製品に仕上げる仕上工程とを含む。
【0004】
上記の抄取工程の実際の作業は、製品形状に対応する形状で複数の孔を有する型を、その表面に金網を取り付けた状態でパルプスラリーに浸漬し、その型の内側を減圧することにより、金網にパルプスラリー中のパルプ繊維を付着させる方法(いわゆるパルプモールド法)で行われることが多い。
【0005】
また、プレス工程の実際の作業は、抄取工程実施後に型および金網から取り外したパルプモールド中間品を、製品形状に対応する形状の加工面を有する上下の金型で挟んで所定の温度と圧力でプレス加工することにより、その形状および表面性状を整えるようにしている。なお、そのプレス加工はドライ方式とウェット方式のいずれかの方式で行われる。ドライ方式はパルプモールド中間品を乾燥(脱水)した後にプレス加工する方法であり、ウェット方式はパルプモールド中間品を水分のある状態でプレス加工して、その後に乾燥(脱水)する方法である。
【0006】
ところで、パルプモールド成形品を用いた商品には、従来、立体的な形状をパルプモールド成形品の製造段階で造り込んだものが多かったが、最近では、シート状に形成したパルプモールド成形品をその形状のまま用いたり、立体的な形状に折り曲げて用いたりした商品も増えてきている。
【0007】
そして、上記のようなシート状のパルプモールド成形品の製造方法において、プレス工程でパルプモールド中間品をプレス加工する際の温度と圧力を変化させることにより、表面表情の異なった製品を製造して、表面意匠の異なった台紙等として応用できるようにすることも提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-183350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1で提案されているシート状のパルプモールド成形品の製造方法では、製造されるパルプモールド成形品の表面表情の違いが、抄取工程で金網と反対の側に生じる凹凸や金網側の網目痕のプレス加工での潰れ方の違いによるものだけであり、表面意匠のバリエーションの範囲が広いとはいえない。
【0010】
これに対して、シート状のパルプモールド成形品を製造する際に、プレス工程で用いられる上下の金型の加工面の少なくとも一方に凹凸模様を設けておき、その凹凸模様がプレス加工によってパルプモールド中間品に転写されるようにすれば、パルプモールド成形品の表面意匠性を大幅に向上させることができると考えられる。
【0011】
しかし、上記のようにプレス工程で金型の凹凸模様をパルプモールド中間品に転写する方法では、要求される模様の種類と同数の金型を用意して、各金型の加工面に異なる凹凸模様を設けておく必要があり、金型にかかるコストが非常に高くなる。また、製造するパルプモールド成形品の模様を変更する際に、金型の交換作業に手間がかかるという難点もある。
【0012】
そこで、本発明は、表面意匠性に優れたシート状のパルプモールド成形品を低コストで簡単に製造できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、パルプスラリー中に平面的な網状体を浸漬して、その網状体にパルプ繊維を付着させることにより、シート状のパルプモールド中間品を成形する抄取工程と、前記抄取工程で成形されたパルプモールド中間品を上下の金型の間に挟んでプレス加工することにより、シート状のパルプモールド成形品とするプレス工程とを含むパルプモールド成形品の製造方法において、前記プレス工程では、前記上下の金型の加工面の少なくとも一方に、一面に凹凸模様が形成された型押版を、その一面が前記パルプモールド中間品に対向するようにセットした状態でプレス加工を行って、前記パルプモールド中間品の上下面の少なくとも一方に前記型押版の凹凸模様を転写する構成を採用した。
【0014】
上記の構成によれば、シート状のパルプモールド成形品を製造する際に、プレス工程で型押版を用いることによってパルプモールド成形品の一面または両面に種々の凹凸模様を形成できるので、従来のプレス時の温度と圧力を変化させてパルプモールド成形品の表面表情を異ならせる方法よりも優れた表面意匠性が簡単に得られる。また、金型の加工面に凹凸模様を設ける方法に比べると、低コストで種々の模様の型押版を用意できるし、金型にセットした型押版を交換するだけで、簡単にパルプモールド成形品の模様を変更することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパルプモールド成形品の製造方法は、上述したように、そのプレス工程において、上下の金型の少なくとも一方に型押版をセットした状態でプレス加工を行って、パルプモールド中間品に型押版の凹凸模様を転写するようにしたものであるから、シート状のパルプモールド成形品に対して、プレス時の温度と圧力を変化させる方法よりも優れた表面意匠性を簡単に付与することができる。また、金型の加工面に凹凸模様を設ける方法に比べると低コストで、模様変更時の作業も簡単に行える方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態のパルプモールド成形品の製造方法の抄取工程を説明する縦断正面図
図2図1の抄取工程で使用される型枠の外観斜視図
図3図1の抄取工程で成形されたパルプモールド中間品の上側面の平面図
図4図3のパルプモールド中間品の下側面の平面図
図5】(a)、(b)は図1の抄取工程に続くプレス工程を説明する縦断正面図((b)は要部拡大図)
図6図5のプレス工程で使用される型押版の上面図
図7図6の型押版の要部を拡大して示す外観斜視図
図8図5のプレス工程によって得られたパルプモールド成形品の下側面の平面図
図9図8のパルプモールド成形品の一部を拡大して示す外観斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。このパルプモールド成形品の製造方法は、基本的には前述の一般的な方法と同じであり、溶解工程、原質調整工程、抄取工程、プレス工程および仕上工程を順に行って、シート状のパルプモールド成形品を製造するものである。
【0018】
図示は省略するが、前記溶解工程は古紙等の原料を水に溶かしてパルプスラリーとする工程であり、原質調整工程は、溶解工程から供給されるパルプスラリーに異物除去等の処理を行って、パルプスラリーの性状を調整する工程である。
【0019】
前記抄取工程は、図1に示すように、前記原質調整工程から浸漬槽1に供給されたパルプスラリーSからパルプ繊維を抄き取ってシート状のパルプモールド中間品Wを成形する工程である。この抄取工程では、図2に示すような型枠2が用いられる。型枠2は、金属製の矩形枠2aに、その一面側の開口を覆う平面的な金網(網状体)2bを取り付けたものである。なお、金網に代えて、樹脂製の網状体を用いることもできる。
【0020】
そして、図1に示したように、上記の型枠2を浸漬槽1の上方に配置された吸引装置3の平板状の吸引部3aに取り付け、吸引装置3を駆動して型枠2をパルプスラリーS中に浸漬した状態で吸引を行う。これにより、パルプスラリーS中のパルプ繊維が型枠2の金網2bの下面側に付着して、シート状のパルプモールド中間品Wが成形される。
【0021】
上記のようにして成形されたパルプモールド中間品Wは、型枠2をパルプスラリーSから引き上げた後に型枠2から取り外される。型枠2から取り外されたパルプモールド中間品Wは、表面側(成形時に金網2bに対向していた側)が裏面側に比べて平坦になっている。そして、その表面側には、図3に示すように、金網2bの網目痕がほぼ均一に形成され、裏面側には、図4に示すように、表面側の網目痕に比べて深さと面積のある不規則な凹凸が形成されている。
【0022】
前記プレス工程は、図5(a)、(b)に示すように、パルプモールド中間品Wを上下の金型4、5の加工面4a、5aの間に挟んでプレス加工して、パルプモールド成形品Mとする工程であり、そのプレス加工はドライ方式を採用している。このプレス工程では、図6および図7に示すような金属製の型押版6が用いられる。型押版6は、その一面に矩形の凹部6aがレンガ積み状に均一に形成された凹凸模様を有し、他面が平坦なものである。
【0023】
このプレス工程でプレス加工を行う際は、まず、抄取工程で成形されたパルプモールド中間品Wの乾燥を行い、続いて、図5(a)に示したように、上記の型押版6を凹部6aが上を向くように下側の金型5の加工面5aにセットし、その型押版6の上に乾燥したパルプモールド中間品Wを網目痕のある面が上面となる姿勢で載せた状態で、上側の金型4を下降させていく。そして、図5(b)に示したように、上下の金型4、5と型押版6とによってパルプモールド中間品Wを所定の温度と圧力でプレスし、その形状を整えるとともに下面に型押版6の凹凸模様を転写してパルプモールド成形品Mとする。
【0024】
なお、型押版は製作時に全体的なうねり等が生じることがあるので、そのような型押版を用いる場合は、型押版の下面に平坦なプレートに貼り付け、そのプレートと下側の金型との間に型押版の高低ムラを補うように紙等を挟み込んで、パルプモールド中間品の全面に均一圧力が加わるようにするとよい。
【0025】
上記のようにして得られたパルプモールド成形品Mは、図8および図9に示すように、プレス加工された際の下面に、型押版6の凹部6aに対応する凸部Maがレンガ積み状に均一に形成され、その表層に抄取工程で形成された不規則な凹凸の跡が残るものとなる。また、図示は省略するが、プレス加工された際の上面には、抄取工程で形成された網目痕がわずかに残る。
【0026】
そして、このパルプモールド成形品Mは、プレス工程から仕上工程へ送られ、所定の形状(この例では図8に一点鎖線で示した略正方形)に打ち抜かれて製品となり、包装容器の台紙やインテリア商品の基材等として使用されるようになる。
【0027】
このパルプモールド成形品の製造方法は、上述した複数の工程からなるものであり、そのプレス工程において、下側の金型5に型押版6をセットした状態でパルプモールド中間品Wのプレス加工を行い、その下面に型押版6の凹凸模様を転写することによって、パルプモールド成形品Mの一面に凹凸模様が形成されるようにしたので、従来のプレス時の温度と圧力を変化させる方法よりも優れた表面意匠性が簡単に得られる。また、金型の加工面に凹凸模様を設ける方法に比べると低コストであり、パルプモールド成形品Mの模様を変更する際には、型押版6を交換するだけでよいので、作業性の面でも有利である。
【0028】
なお、この実施形態では、プレス工程におけるパルプモールド成形品のプレス加工をドライ方式で行うようにしたが、そのプレス加工はウェット方式で行うようにしてもよい。
【0029】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0030】
例えば、実施形態のプレス工程では、型押版を下側の金型にセットしてパルプモールド中間品の下面に凹凸模様が転写されるようにしたが、型押版を上側の金型または上下両方の金型にセットして、パルプモールド中間品の上面または上下両面に凹凸模様が転写されるようにしてもよい。
【0031】
また、パルプモールド中間品の一面に型押版の凹凸模様を転写する場合、その一面は実施形態のように抄取工程で不規則な凹凸が形成された面でもよいし、抄取工程で網目痕が形成された面でもよい。
【0032】
さらに、パルプモールド中間品の一面または両面に転写する型押版の凹凸模様は、実施形態のようなレンガ積み状のものに限らず、種々の模様を採用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 浸漬槽
2 型枠
2a 矩形枠
2b 金網(網状体)
3 吸引装置
3a 吸引部
4、5 金型
4a、5a 加工面
6 型押版
6a 凹部
S パルプスラリー
W パルプモールド中間品
M パルプモールド成形品
Ma 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9