(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】透析機器用洗浄剤およびそれを用いた透析機器内のカルシウムスケールの除去方法
(51)【国際特許分類】
C11D 17/08 20060101AFI20240321BHJP
C11D 7/04 20060101ALI20240321BHJP
C11D 7/08 20060101ALI20240321BHJP
C11D 7/10 20060101ALI20240321BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20240321BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20240321BHJP
C11D 7/34 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C11D17/08
C11D7/04
C11D7/08
C11D7/10
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/34
(21)【出願番号】P 2020157819
(22)【出願日】2020-09-18
(62)【分割の表示】P 2019142487の分割
【原出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】519281929
【氏名又は名称】栗木 恭治
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】栗木 恭治
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特許第6549299(JP,B1)
【文献】特表2010-535888(JP,A)
【文献】特開平03-296499(JP,A)
【文献】特開昭60-209297(JP,A)
【文献】特表2014-518752(JP,A)
【文献】特開2006-063164(JP,A)
【文献】特開2001-161811(JP,A)
【文献】特開2002-301149(JP,A)
【文献】特開2004-049786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00- 19/00
A61M 1/14- 1/32
C02F 5/00- 5/14
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート剤、pH調整剤、および水からなる、透析機器用洗浄剤であって、pHが5.0~9.0であり、1質量部~40質量部の該キレート剤と、0.01質量部~0.24質量部の該pH調整剤とを含有する、透析液を由来とするカルシウムスケールを除去するための透析機器用洗浄剤(ただし、炭酸塩を含有する場合を除く)。
【請求項2】
前記pH調整剤が、有機酸およびその塩、無機酸およびその塩、アルカリ、ならびに塩基性アミノ酸からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の透析機器用洗浄剤。
【請求項3】
前記pH調整剤が、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、スルファミン酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、アンモニア、アルカノールアミン、無機アルカリ、および塩基性アミノ酸、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の透析機器用洗浄剤。
【請求項4】
前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、およびジエチレントリアミン五酢酸、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1から3のいずれかに記載の透析機器用洗浄剤。
【請求項5】
透析機器内に沈着したカルシウムスケールを除去するための方法であって、
透析機器の送液チューブから、請求項1から4のいずれかに記載の透析機器用洗浄剤を供給する工程を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析機器用洗浄剤およびそれを用いた透析機器内のカルシウムスケールの除去方法に関し、より詳細には、透析機器内に沈着したカルシウムスケールを効率的に除去し得る透析機器用洗浄剤およびそれを用いた透析機器内のカルシウムスケールの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析療法は、腎機能の低下に伴って当該機能の一部を人工的に行う治療法である。透析療法では、患者の血管を血液回路に接続し、患者から採取した血液と透析液が透析機器接続の中空糸を介して限外濾過および拡散作用を行い、その後血液を患者の体内に戻すことによって行われる。
【0003】
この透析療法において、透析機器および透析液の送液チューブ等には、透析液中に含まれているカルシウム成分(例えば炭酸カルシウム)がスケールとなって沈着することがある。沈着したカルシウムスケールは、そのまま放置すると当該スケールを媒介して細菌が増殖する、透析機器自体が劣化して機器性能を低下させる等の問題を引き起こすことがある。このため、透析機器を使用する現場では、適宜カルシウムスケールを除去するための洗浄作業が行われている。
【0004】
透析機器の洗浄には強酸、酢酸を含む酸性の洗浄剤や、次亜塩素酸ナトリウムを含む洗浄剤が使用されてきた。特に沈着したカルシウムスケールの除去には、従来、強酸や酢酸を含む透析機器用洗浄剤が使用されてきた。
【0005】
しかし、このような透析機器用洗浄剤は、洗浄後の排液の取扱いが煩雑である点が指摘されていた。当該このような排液は、強酸性または強アルカリ性のpHを有する。このため排液の処分には、所定の中和処理が必要である。特に透析療法を行う小規模施設では、当該処置および回収が作業的または経済的な負担を強いるものであった。一方、酢酸を含む透析機器用洗浄剤は、その強い刺激臭が作業者を不快にさせる点で敬遠される傾向にあった。
【0006】
これに対し、酢酸を含む透析機器用洗浄剤に代えて、例えば、アルカリ剤とケイ酸塩とキレート剤とを含む水溶形態に調製された透析機器用洗浄剤(特許文献1)が知られている。特許文献1に記載の透析機器用洗浄剤は、酢酸のような不快な刺激臭が無いことに加え、次亜塩素酸ナトリウムを用いることもなく殺菌の効果も期待することができる。しかし、特許文献1に記載の洗浄剤は、pHが13付近と比較的高いアルカリ性を有し、依然として、透析療法を行う小規模施設には、排液の処理の点で過度な負担を強いるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、酢酸のような不快な刺激臭が無く、かつ必ずしも排液の中和処理を必要としない透析機器用洗浄剤およびそれを用いた透析機器内のカルシウムスケールの除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、キレート剤、pH調整剤、および水を水溶液の形態で含有する、透析機器用洗浄剤であって、
該pH調整剤が、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、スルファミン酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、アンモニア、アルカノールアミン、無機アルカリ、および塩基性アミノ酸、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、そしてpHが4.8~9.2である、透析機器用洗浄剤である。
【0010】
1つの実施形態では、上記キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸およびニトリロ三酢酸、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の透析機器用洗浄剤は酢酸を含有しない。
【0012】
本発明はまた、上記透析機器用洗浄剤を調製するための洗浄剤原料組成物であって、
1質量部~40質量部のキレート剤と、0.01質量部~20質量部のpH調整剤とを含有し、そして
該pH調整剤が、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、スルファミン酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、アンモニア、アルカノールアミン、無機アルカリ、および塩基性アミノ酸、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、洗浄剤原料組成物である。
【0013】
本発明はまた、上記透析機器用洗浄剤を調製するための洗浄剤原料キットであって、1質量部~40質量部のキレート剤と、0.01質量部~20質量部のpH調整剤とを別々に分離して含有し、そして該pH調整剤が、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、スルファミン酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、アンモニア、アルカノールアミン、無機アルカリ、および塩基性アミノ酸、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、キットである。
【0014】
本発明はまた、透析機器内に沈着したカルシウムスケールを除去するための方法であって、透析機器の送液チューブから、上記透析機器用洗浄剤を供給する工程を包含する、方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酢酸のような不快な刺激臭を感じることなく、透析機器の洗浄を行うことができる。さらに、本発明によれば、排液の中和処理を必要とすることなく、そのまま下水道に流すことができる。これにより、本発明の透析機器用洗浄剤は、透析療法を行う施設の規模に関わらず広く使用することができる。こうした利点は、透析療法を行う小規模施設の設立を助け、過疎地、遠隔地などを含むより広範なエリアへの透析療法の普及にも貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。
【0017】
(透析機器用洗浄剤)
本発明の透析機器用洗浄剤は、キレート剤、pH調整剤、および水を水溶液の形態で含有する。
【0018】
本明細書中に用いられる「透析機器」は、透析療法に使用される人工透析装置およびその周辺機器(例えば透析液の送液チューブ)を包含する。このような透析機器は、例えば透析液を至適送液させ、患者から採取した血液と中空糸を介して接触させることにより用いられる。この時、送液される透析液中に含まれる金属イオン(例えば炭酸カルシウム)が、スケール(例えばカルシウムスケール)となって沈着することがある。本発明の透析機器用洗浄剤は、こうした透析装置内に沈着したスケールの除去を行うために使用される。
【0019】
本発明の透析機器用洗浄剤を構成するキレート剤は、炭酸カルシウムなどのカルシウムスケールに対してキレート効果を発揮する好ましくは有機系の化合物である。有機系キレート剤の例としては、アミノカルボン酸塩が挙げられ、具体的な例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ならびに、有機ホスホン酸、即ち、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、およびそれらの中和塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、ならびにそれらの組み合わせなどが挙げられる。カルシウムスケールに対するキレート効果に優れており、かつ入手が容易であるとの理由から、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、およびそれらの中和塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。カルシウムスケールに対するキレート効果が高く、かつ入手が容易であるとの理由から、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムおよびニトリロ三酢酸ナトリウム、ならびにそれらの組み合わせがさらに好ましい。
【0020】
キレート剤は、必ずしも限定されないが、使用直前の透析機器用洗浄剤の全体質量を基準として、好ましくは0.1質量%~40質量%、より好ましくは0.5質量%~40質量%の濃度で本発明の透析機器用洗浄剤内に含有されている。キレート剤の含有量が0.1質量%を下回ると、得られる洗浄剤中のキレート剤の絶対量が少なすぎるため、透析機器内のカルシウムスケールを効率よく除去することが困難となる場合がある。キレート剤の含有量が40質量%を上回ると、多くのキレート剤を使用する点で生産コストを増大させる場合がある。
【0021】
pH調整剤は、透析機器用洗浄剤のpHを最終的に後述するような中性付近の領域に保持し、排液とする場合において下水道の排水基準(例えば、pH5~9)を満たす役割を果たす。
【0022】
本発明の透析機器用洗浄剤を構成するpH調整剤の例としては、有機酸およびその塩、無機酸およびその塩、アルカリ、塩基性アミノ酸などが挙げられる。有機酸の例としては、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、コハク酸、およびフマル酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。無機酸の例としては、リン酸、塩酸、硫酸、および硝酸、ならびにそれらに組み合わせが挙げられる。アルカリの例としては、アンモニア、アルカノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン)、アンモニウム塩(例えば、塩化アンモニウム、重炭酸アンモニウム)、および無機アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。塩基性アミノ酸の例としては、アルギニン、リシン、トリプトファン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。本発明において、pH調整剤は、上記キレート剤に対して酸性の調整が可能であるという理由から、有機酸および無機酸が好ましく、特に安価で入手が容易でありかつ安全性に優れているという理由から、クエン酸がより好ましい。
【0023】
pH調整剤は、必ずしも限定されないが、使用直前の透析機器用洗浄剤の全体質量を基準として、好ましくは0.01質量%~20質量%、より好ましくは0.03質量%~0.5質量%の濃度で本発明の透析機器用洗浄剤内に含有されている。pH調整剤の含有量が0.01質量%を下回ると、得られる洗浄剤中のpHが強酸性または強アルカリ性となり、中性領域を保持することが困難となる場合がある。pH調整剤の含有量が20質量%を上回ると、得られる洗浄剤のpHに大きな変動を与えることなく、むしろ多くのpH調整剤を使用する点で生産コストを増大させる場合がある。
【0024】
なお、本発明の透析機器用洗浄剤は、使用中の作業者に対して不快な臭気を与えることを回避するために、酢酸を含有しないことが好ましい。
【0025】
本発明の透析機器用洗浄剤は、上記キレート剤およびpH調整剤以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分の例としては、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、水ガラス、オルソケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩;およびポリリン酸;が挙げられる。本発明の透析機器用洗浄剤において、他の成分の含有量は特に限定されず、本発明の効果を損なわない程度の量が当業者によって適宜選択され得る。
【0026】
本発明の透析機器用洗浄剤を構成する水は、常水をイオン交換、蒸留、逆浸透、限外濾過の単独またはそれらの組み合わせにより得られた精製水であることが好ましい。本発明の透析機器用洗浄剤は、上記キレート剤およびpH調整剤が当該水に溶解され、水溶液の形態を有する。この水溶液のpH(すなわち、本発明の透析機器用洗浄剤のpH)は4.8~9.2、好ましくは5.0~9.0、より好ましくは6.1~8.8である。当該pHがこのような範囲に調整されていることにより、本発明の透析機器用洗浄剤は、使用後(すなわち、透析機器内のカルシウムスケールの除去のために使用された後)のpHが高すぎたりまたは低すぎたりすることがなく、排液を別途処置や回収する作業を行うことなく、例えば下水道を通じてそのまま排水することが可能となる。
【0027】
ここで、環境省による一律排水基準によれば、海域以外の公共用水域に排出されるものの水素イオン濃度(pH)で、5.8以上8.6以下が、そして海域に排出されるもののpHは5.0以上9.0以下が許容限度と定められている。本発明の透析機器用洗浄剤は、透析機器への洗浄を行うことにより、このような許容限度のpHを満足することになる。このため、使用後の排液について、中和や希釈の追加操作や専門業者による排液回収を必要とすることなく、そのまま下水道に流すことも可能である。この点において、当該追加操作や排液保管のための場所の確保が不要となり、施設の大小規模に関わらず、透析療法を積極的に採用することができる。
【0028】
(透析機器用洗浄剤を調製するための洗浄剤原料組成物)
上記透析機器用洗浄剤は、例えば、当該透析機器用洗浄剤を調製するための洗浄剤原料組成物(以下、単に「洗浄剤原料組成物」ということがある)を用いて作製することができる。
【0029】
本発明の洗浄剤原料組成物は、水(好ましくは精製水)による希釈を通じて、上記透析機器用洗浄剤を調製することができる固体または液体の組成物である。
【0030】
本発明の洗浄剤原料組成物は上記キレート剤およびpH調整剤を含有する。
【0031】
本発明の洗浄剤原料組成物において、キレート剤およびpH調整剤の含有量の組み合わせは、必ずしも限定されないが、例えば1質量部~40質量部、好ましくは2質量部~30質量部のキレート剤に対し、例えば0.01質量部~20質量部、好ましくは0.03質量部~5質量部のpH調整剤が組み合わされる。キレート剤およびpH調整剤がこのような含有量の範囲で組み合わせされていることにより、本発明の洗浄剤原料組成物は、所定量の水の添加のみによって、上記透析機器用洗浄剤を簡便に調製することができる。
【0032】
本発明の洗浄剤原料組成物は、上記キレート剤およびpH調整剤以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分の例としては、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、水ガラス、オルソケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩;およびポリリン酸;が挙げられる。本発明の洗浄剤原料組成物において、他の成分の含有量は特に限定されず、上記透析機器用洗浄剤の効果を損なわない程度の量が当業者によって適宜選択され得る。
【0033】
本発明の洗浄剤原料組成物はまた、記透析機器用洗浄剤の調製の際に、キレート剤およびpH調整剤、ならびに必要に応じて添加される他の成分が早期に均一に溶解した状態とするために、所定量の水(例えば、精製水)を含有し、これらの成分が予め均一に溶解した原液としての形態を有していてもよい。
【0034】
本発明の洗浄剤原料組成物は、上記透析機器用洗浄剤の構成成分の1つである水を用いて所望のpHになるまで希釈され、透析機器用洗浄剤が作製される。この点で、当該洗浄剤原料組成物は、透析機器用洗浄剤と比較して比較的コンパクトな容量に抑えることができる。これにより、製造元または販売元から使用先(透析療法を行う施設)までの輸送効率を高めることができ、製造後および購入後の保管場所についても省スペースとすることができる。
【0035】
本発明の洗浄剤原料組成物は、必ずしも限定されないが、透明容器または必要に応じて遮光された容器中に収容され、例えば常温(15℃~25℃)にて保管される。
【0036】
その後、使用の際は、所定量の洗浄剤原料組成物が水(例えば、精製水)で希釈される。本発明の洗浄剤原料組成物から、上記透析機器用洗浄剤を得る際の水の希釈割合は、全体質量を基準として、好ましくは25倍~200倍、より好ましくは25倍~100倍である。希釈により得られた透析機器用洗浄剤は、後述のように透析機器内の洗浄のために直ちに使用されてもよく、あるいは使用まで、例えば暗所かつ冷蔵下にて保管されてもよい。
【0037】
(透析機器用洗浄剤を調製するための洗浄剤原料キット)
あるいは、上記透析機器用洗浄剤は、例えば、当該透析機器用洗浄剤を調製するための洗浄剤原料キット(以下、単に「洗浄剤原料キット」ということがある)を用いて作製することができる。
【0038】
本発明の洗浄剤原料キットは、当該キットの構成成分と、希釈のための水(好ましくは精製水)とを混合して、上記透析機器用洗浄剤を調製することができる。
【0039】
本発明の洗浄剤原料キットは上記キレート剤およびpH調整剤を別々に分離して含有する。ここで、用語「別々に分離して含有する」とは、本発明の洗浄剤原料キットにおいてキレート剤とpH調整剤とが予め分離された状態(すなわち、それらが混合されていない状態)で存在していることを示し、例えば、複数の包装容器(例えば、合成樹脂、紙、金属、またはガラス製の瓶、袋、箱、その他の成形体)内に各々が独立して収容されている状態、ならびに単一の包装容器(例えば、合成樹脂、紙、またはガラス製の瓶、袋、箱、その他の成形体)内で、例えば仕切り、隔壁等を介して完全に区分されて各々が独立して収容されている状態を包含する。
【0040】
本発明の洗浄剤原料キットにおいて、キレート剤およびpH調整剤の含有量は、必ずしも限定されないが、例えば1質量部~40質量部、好ましくは2質量部~30質量部のキレート剤に対し、例えば0.01質量部~20質量部、好ましくは0.03質量部~5質量部のpH調整剤が組み合わされる。キレート剤およびpH調整剤がこのような含有量の範囲で組み合わせされていることにより、本発明の洗浄剤原料キットは、当該構成成分(キレート剤およびpH調整剤)と所定量の水との混合によって、上記透析機器用洗浄剤を簡便に調製することができる。
【0041】
本発明の洗浄剤原料キットは、上記キレート剤およびpH調整剤以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分の例としては、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、水ガラス、オルソケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩;およびポリリン酸;が挙げられる。本発明の洗浄剤原料キットにおいて、他の成分の含有量は特に限定されず、上記透析機器用洗浄剤の効果を損なわない程度の量が当業者によって適宜選択され得る。
【0042】
当該他の成分は、上記キレート剤またはpH調整剤のいずれかを収容する包装容器に一緒に混合されていてもよく、上記キレート剤を収容する包装容器およびpH調整剤を収容する包装容器のそれぞれに一緒に混合されていてもよく、上記キレート剤およびpH調整剤を収容する各包装容器とは別の包装容器に収容されていてもよい。
【0043】
さらに、本発明の洗浄剤原料キットでは、透析機器用洗浄剤を調製するために必要とされる、希釈のための水(好ましくは精製水)もまた構成成分として含有していてもよい。
【0044】
当該水は、上記キレート剤またはpH調整剤のいずれかを収容する包装容器に一緒に混合されていてもよく、上記キレート剤を収容する包装容器およびpH調整剤を収容する包装容器のそれぞれに一緒に混合されていてもよく、上記キレート剤およびpH調整剤を収容する各包装容器とは別の包装容器に収容されていてもよい。
【0045】
本発明の洗浄剤原料キットは、上記透析機器用洗浄剤の構成成分の1つである水を用いて所望のpHになるまで希釈され、透析機器用洗浄剤が作製される。この点で、当該洗浄剤原料キットは、透析機器用洗浄剤と比較してコンパクトな容量に抑えることができる。これにより、製造元または販売元から使用先(透析療法を行う施設)までの輸送効率を高めることができ、製造後および購入後の保管場所についても省スペースとすることができる。
【0046】
本発明の洗浄剤原料キットは、必ずしも限定されないが、例えば常温(15℃~25℃)にて保管される。
【0047】
使用の際は、本発明の洗浄剤原料キットの構成成分のうち、例えばキレート剤およびpH調整剤、ならびに必要に応じて他の成分が予め混合され、その後所定量の水(例えば、精製水)で希釈される。あるいは、キレート剤、pH調整剤、および必要に応じて他の成分と所定量の水とが一緒に混合される。
【0048】
本発明の洗浄剤原料キットから、上記透析機器用洗浄剤を得る際の水の希釈割合は、全体質量を基準として、好ましくは25倍~200倍、より好ましくは25倍~100倍である。希釈により得られた透析機器用洗浄剤は、後述のように透析機器内の洗浄のために直ちに使用されてもよく、あるいは使用まで、例えば暗所かつ冷蔵下にて保管されてもよい。
【0049】
(透析機器のカルシウムスケールの除去方法)
次に、透析機器内に沈着したカルシウムスケールの除去方法について説明する。
【0050】
本発明では、透析機器の送液チューブから、上記透析機器用洗浄剤が供給される。供給のための送液条件(例えば、流速)は特に限定されず、使用する透析機器の種類、規模等に応じて当業者によって適宜選択され得る。
【0051】
透析機器用洗浄剤を供給することができる透析機器内の構成部品の材料は、必ずしも限定されないが、例えば、テフロン(登録商標)、塩化ビニル、シリコーン、ステンレススチール、ポリエチレン、およびポリプロピレンが挙げられる。
【0052】
なお、本発明においては、透析機器に上記透析機器用洗浄剤が供給された後、必要に応じて水(例えば、精製水)等が供給され、透析機器内に残存する洗浄剤が排出されてもよい。
【0053】
さらに、本発明においては、透析機器に上記透析機器用洗浄剤が供給された後、透析機器内には、次亜塩素酸ナトリウムまたはケイ酸塩(例えば、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、水ガラス、およびオルソケイ酸ナトリウム)などの化合物を含有する水溶液が供給され、除菌洗浄が行われてもよい。このような除菌洗浄に使用される次亜塩素酸ナトリウムまたはケイ酸塩の水溶液の濃度は、特に限定されず、当業者にて適切な濃度が適宜選択され得る。
【0054】
ただし、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液はアルカリ性であり強い酸化力を有するために金属に触れると錆を生じさせることがある。このため、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を用いて除菌洗浄を行う場合は、その排液は適切に中和処理されることが好ましい
【0055】
このようにして、透析機器内の洗浄が行われ、透析機器内に沈着したカルシウムスケールが除去される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1:洗浄剤原料組成物の作製)
精製水71.2質量部にエチレンジアミン四酢酸ナトリウム25質量部を精製水に溶解することにより水溶液を調製した。次いで、この水溶液に、pH調整剤としてクエン酸3.8質量部を添加して溶解することによりpHを7.5に調整し、洗浄剤原料組成物(EG1)を得た。
【0058】
(実施例2:洗浄剤原料組成物の作製)
精製水69.0質量部にニトリロ三酢酸ナトリウム25質量部を溶解することにより水溶液を調製した。次いで、この水溶液に、pH調整剤としてクエン酸6.0質量部を添加して溶解することによりpHを7.5に調整し、洗浄剤原料組成物(EG2)を得た。
【0059】
(実施例3:洗浄剤原料組成物の作製)
精製水70.2質量部に、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム12.5質量部およびニトリロ三酢酸ナトリウム12.5質量部に溶解することにより、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムおよびニトリロ三酢酸ナトリウムを合計して25質量部の割合で含有する水溶液を調製した。次いで、この水溶液に、pH調整剤としてクエン酸4.8質量部を添加して溶解することによりpHを7.5に調整し洗浄剤原料組成物(EG3)を得た。
【0060】
(実施例4:透析機器用洗浄剤の調製)
実施例1で作製された洗浄剤原料組成物(EG1)を精製水で、全体質量を基準として25倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(ET1)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET1)のpHをpHメータ(株式会社堀場製作所製F-72)で用いて測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET1)の特徴を表1に示す。
【0061】
(実施例5:透析機器用洗浄剤の調製)
実施例1で作製された洗浄剤原料組成物(EG1)を精製水で、全体質量を基準として50倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(ET2)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET2)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET2)の特徴を表1に示す。
【0062】
(実施例6:透析機器用洗浄剤の調製)
実施例2で作製された洗浄剤原料組成物(EG2)を精製水で、全体質量を基準として25倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(ET3)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET3)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET3)の特徴を表1に示す。
【0063】
(実施例7:透析機器用洗浄剤の調製)
実施例2で作製された洗浄剤原料組成物(EG2)を精製水で、全体質量を基準として50倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(ET4)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET4)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET4)の特徴を表1に示す。
【0064】
(実施例8:透析機器用洗浄剤の調製)
実施例3で作製された洗浄剤原料組成物(EG3)を精製水で、全体質量を基準として25倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(ET5)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET5)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET5)の特徴を表1に示す。
【0065】
(実施例9:透析機器用洗浄剤の調製)
実施例3で作製された洗浄剤原料組成物(EG3)を精製水で、全体質量を基準として50倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(ET6)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET6)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET6)の特徴を表1に示す。
【0066】
(比較例1:透析機器用洗浄剤の調製)
酸洗浄剤として、クエン酸およびリンゴ酸を主成分として含有する市販の透析機器用洗浄剤(アムテック株式会社製サンフリーSN)を精製水で、全体質量を基準として200倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(CT1)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(CT1)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(CT1)の特徴を表1に示す。
【0067】
(炭酸カルシウムの溶解量の評価)
実施例4~9および比較例1で調製した透析機器用洗浄剤(ET1)~(ET6)および(CT1)を50mLずつビーカーに小分けし、それぞれに約0.1gの炭酸カルシウムを添加して、撹拌した後25℃でそのまま30分間放置した。
【0068】
次いで、各ビーカー中の洗浄剤を濾過し、得られた残渣を25℃で十分に乾燥させた後、その質量を測定することにより、炭酸カルシウムの添加量から残渣の質量を引いて、各洗浄剤による炭酸カルシウムの溶解量を算出した。また、この濾過にあたり、排液となる濾液を回収し、pHをpHメータ(株式会社堀場製作所製F-72)で用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1に示すように、実施例4~9で調製した透析機器用洗浄剤(ET1)~(ET6)のいずれも、比較例1で調製した透析機器用洗浄剤(CT1)と比較して、略同等またはそれ以上の炭酸カルシウムを溶解していた。
【0071】
一方、比較例1で調製した透析機器用洗浄剤(CT1)のpHは調製時および排液段階のいずれを参照しても低い値となっており、下水道排水基準pH5.0~9.0の許容限度を下回るものであった。これに対し、実施例4~9で調製した透析機器用洗浄剤(ET1)~(ET6)のpH調製時および排液段階のいずれについても、当該許容限度の範囲内にあるものであった。
【0072】
このことから、実施例4~9で調製した透析機器用洗浄剤(ET1)~(ET6)はいずれも、炭酸カルシウムに対して優れた溶解性能を有するとともに、排液の処分にあたり、pHが上記許容限度の範囲内にあり、特に中和処理や専門業者による排液回収を特に必要としないものであることがわかる。
【0073】
(実施例10:洗浄剤原料組成物の作製および透析機器用洗浄剤の調製)
実施例1で得られた洗浄剤原料組成物(EG1)を精製水で、容量を基準として25倍に希釈することにより、透析機器用洗浄剤(ET7)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET7)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET7)の特徴を表2に示す。
【0074】
その後、得られた透析機器用洗浄剤(ET7)について、上記と同様にして炭酸カルシウムの溶解量の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0075】
(比較例2:洗浄剤原料組成物の作製および透析機器用洗浄剤の調製)
キレート剤(エチレンジアミン四酢酸ナトリウム)を含有させず、かつクエン酸の変わりにモノエタノールアミン3.4質量部を添加したこと以外は実施例1と同様にして洗浄剤原料組成物(CG1)を作製した。また、この洗浄剤原料組成物(CG1)を用いたこと以外は実施例10と同様にして透析機器用洗浄剤(CT2)を調製し、上記と同様にして炭酸カルシウムの溶解量の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0076】
【0077】
表2に示すように、実施例10で調製した透析機器用洗浄剤(ET7)は、比較例2で調製した透析機器用洗浄剤(CT2)と比較して、炭酸カルシウムを著しく溶解していた。このことから、炭酸カルシウムの溶解には、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸ナトリウムが大きく影響を及ぼしていることがわかる。
【0078】
(実施例11:洗浄剤原料キットの作製および透析機器用洗浄剤の調製)
エチレンジアミン四酢酸ナトリウム25質量部と、pH調整剤としてクエン酸3.8質量部とをそれぞれポリエチレン製の袋に別々に添加して梱包することにより、洗浄剤原料キット(EK1)を作製した。
【0079】
上記洗浄剤原料キット(EK1)の各袋を開封し、これら内容物(キレート剤およびpH調整剤)を100質量部の精製水に溶解(容量を基準として50倍に希釈)することにより、透析機器用洗浄剤(ET8)を調製した。得られた透析機器用洗浄剤(ET8)のpHを実施例4と同様にして測定した。得られた透析機器用洗浄剤(ET8)の特徴を表3に示す。
【0080】
その後、得られた透析機器用洗浄剤(ET8)について、上記と同様にして炭酸カルシウムを溶解し、これを濾過して得られた濾液(排液)を回収し、pHをpHメータ(株式会社堀場製作所製F-72)で用いて測定した。得られた結果を表3に示す。
【0081】
【0082】
表3に示すように、実施例11で調製した透析機器用洗浄剤(ET8)の排液段階のpHは、洗浄剤調製時のpHと比較して、所定量の炭酸カルシウムを溶解により幾分上昇したものの、下水道排水基準pH5.0~9.0の許容限度を下回るものであったことがわかる。
【0083】
(実施例12:シリコーンチューブに沈着した炭酸カルシウムの除去)
透析機器に使用されるシリコーンチューブ(内径8mm、肉厚3mm)を長さ方向に約2cmの長さで切断してサンプルを作製し、これを、2種類の市販の透析液の混合液(A液90mLとB液910mLとの混合液)に室温で1日間浸漬し、サンプルのチューブ内に炭酸カルシウムの結晶を析出させた。
【0084】
次いで、このサンプルを、実施例5で調製した透析機器用洗浄剤(ET1)200mL中に室温にて12時間で浸漬した。その後サンプルを取り出し、チューブ内面が露出するように軸方向に沿ってサンプルを分割して、チューブ内表面の状態を当該透析機器用洗浄剤(ET1)に浸漬する前のサンプルと比較して目視で観察した。
【0085】
透析機器用洗浄剤(ET1)に浸漬していないサンプルでは、チューブ内面に炭酸カルシウムの結晶が多く観察できたが、透析機器用洗浄剤(ET1)に浸漬したサンプルでは、チューブ内面に炭酸カルシウムの結晶がほとんど観察されなかった。
【0086】
(比較例3:シリコーンチューブに沈着した炭酸カルシウムの除去)
実施例11と同様にして、サンプルのチューブ内に炭酸カルシウムの結晶を析出させた。
【0087】
次いで、このサンプルを、比較例2で調製した透析機器用洗浄剤(CT2)200mL中に室温にて12時間で浸漬した。その後サンプルを取り出し、チューブ内面が露出するように軸方向に沿ってサンプルを分割して、チューブ内表面の状態を当該透析機器用洗浄剤(CT2)に浸漬する前のサンプルと比較して目視で観察した。
【0088】
透析機器用洗浄剤(CT2)に浸漬したサンプル、および浸漬していないサンプルのいずれにも、チューブ内面に炭酸カルシウムの結晶が多く観察できた。