(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】完全蒸発真空抽出、熱脱着、及びGCMS分析を使用した液体試料中の有機化合物の改善された回収
(51)【国際特許分類】
G01N 30/08 20060101AFI20240321BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20240321BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20240321BHJP
G01N 30/14 20060101ALI20240321BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
G01N30/08 G
G01N1/00 101P
G01N1/22 L
G01N30/14 A
G01N30/06 G
(21)【出願番号】P 2021572101
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 US2020035980
(87)【国際公開番号】W WO2020247539
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-01-14
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518320904
【氏名又は名称】エンテック インスツルメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーディン, ダニエル ビー.
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0372599(US,A1)
【文献】特表2019-508718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/06,30/08,30/14,
G01N 1/00,1/14.1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
吸着剤を含む試料抽出装置を、移送ラインを含まない結合部を介して試料バイアルに結合することであって、前記試料バイアルが、試料マトリックス及び1種以上の標的化合物を含む試料を含む、結合することと、
前記吸着剤と前記試料抽出装置の下部開口との間に配置されている前記試料抽出装置の下部輸送部を使用して、前記吸着剤及び前記試料バイアルを熱的に分離することと、
真空源によって、前記吸着剤及び前記試料バイアルを通して真空を引くことと、
前記真空源によって前記真空を引いている間、
前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記試料抽出装置から除去するように、前記吸着剤を使用して前記1種以上の標的化合物を留め置くことと、
前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記試料抽出装置から除去した後に、拡散真空抽出過程中に、前記試料抽出装置の前記下部輸送部において前記試料の1種以上の第2の標的化合物を収集することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記吸着剤及び前記試料バイアルを通して前記真空を引くこと、前記吸着剤を使用して前記1種以上の標的化合物を留め置くこと、並びに前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記試料抽出装置から除去することが、動的真空抽出過程中に生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料の前記試料マトリックスが、前記試料抽出装置から完全に除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記試料抽出装置から除去した後に、前記試料バイアルを摂氏50~350度の範囲の温度まで加熱すること、又は前記試料バイアル内の前記真空を高めること、のうちの1つ以上を行うことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試料バイアル内の前記真空を高めること、又は前記試料バイアルを前記摂氏50~350度の範囲の前記温度まで加熱すること、のうちの1つ以上を行っている間に、
拡散真空抽出過程において、前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記試料抽出装置から除去している間に収集されなかった1種以上の第2の標的化合物を収集することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記吸着剤及び前記試料バイアルを通して前記真空を引くこと、前記吸着剤を使用して前記1種以上の標的化合物を留め置くこと、並びに前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記試料抽出装置から除去することは、前記試料バイアルが摂氏40度以下の温度である間に生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記真空源が、複数の吸着剤を通して前記真空を同時に引き、前記複数の吸着剤が複数の試料バイアルに結合された複数の試料抽出装置に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
真空センサを使用して、前記試料バイアル内の圧力を検知することと、
前記試料バイアル内の前記圧力が所定の閾値よりも低く、前記試料バイアル内の真空が高められたと判定することに基づいて、前記試料抽出装置から前記試料の前記試料マトリックスが完全に除去されたと判定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
システムであって、
吸着剤を含む試料抽出装置と、
移送ラインを含まない結合部であって、前記試料抽出装置を、1種以上の標的化合物及び試料マトリックスを含む試料を含む試料バイアルに結合するように構成され、前記試料抽出装置が前記結合部を介して前記試料バイアルに
既に結合され
ている、結合部と、
前記吸着剤と前記試料抽出装置の下部開口との間に配置された下部輸送部であって、
前記試料バイアルと前記吸着剤との間の熱分離を提供することと、
前記試料マトリックスが蒸発して前記システムから除去された後に、拡散真空抽出過程中に、前記試料の1種以上の第2の標的化合物を収集することと、を行うように構成された、下部輸送部と、
真空源であって、
前記吸着剤及び前記試料バイアルを通して真空を引くことと、
前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記システムから除去することと、を行うように構成された、真空源と、を備え、前記真空源が前記吸着剤及び試料バイアルを通して前記真空を引いている間、前記吸着剤が、前記1種以上の標的化合物を留め置くように構成されている、システム。
【請求項10】
動的真空抽出過程中に、前記システムが、前記吸着剤及び前記試料バイアルを通して前記真空を引き、前記吸着剤を使用して前記1種以上の標的化合物を留め置き、並びに前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記システムから除去するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムが、前記試料の前記試料マトリックスを完全に除去するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記試料バイアルを加熱するように構成されたヒータを更に備え、前記システムが、前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記システムから除去した後に、前記ヒータによって、前記試料バイアルを摂氏50~350度の範囲の温度まで加熱すること、又は前記真空源を使用して、前記試料バイアル内の前記真空を高めること、のうちの1つ以上を行うように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記システムが、動的真空抽出過程において、前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記システムから除去している間に収集されなかった1種以上の第2の標的化合物を、前記試料バイアル内の前記真空を高めること、又は前記試料バイアルを前記摂氏50~350度の範囲の前記温度まで加熱すること、のうちの1つ以上を行っている間に収集するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記試料バイアルが摂氏40度以下の温度である間に、前記システムが、前記吸着剤及び前記試料バイアルを通して前記真空を引き、前記吸着剤を使用して前記1種以上の標的化合物を留め置き、並びに前記試料の前記試料マトリックスを蒸発させて前記システムから除去するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
前記真空源が、複数の吸着剤を通して前記真空を同時に引くように構成され、前記複数の吸着剤が複数の試料バイアルに結合された複数の試料抽出装置に含まれる、請求項9に記載のシステム。
【請求項16】
前記試料バイアル内の圧力を検知するように構成された真空センサを更に備え、前記システムが、前記試料バイアル内の前記圧力が所定の閾値よりも低く、前記試料バイアル内の真空が高められたと判定することに基づいて、前記試料の前記試料マトリックスが前記システムから完全に除去されたと判定するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年6月3日に出願された米国特許仮出願第62/856,587号の利益を主張するものであり、これは、全ての目的のために参照によりその全体が明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、更なる化学分析のための試料の抽出に関し、より具体的には、蒸発真空抽出を使用して、化学分析のための試料を調製するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
GCMS(Gas Chromatography/Mass Spectrometry、ガスクロマトグラフィ/質量分光分析)は、単純なマトリックスから複雑なマトリックスまで、何万種類もの異なる化合物を分析することができる、非常に強力な技術である。しかしながら、正確な検出及び測定のために、実際の試料は、典型的には、この技術のための最高の精度及び感度を可能にするために、洗浄、単純化、及び/又は濃縮過程を経由しなければならない。食品、水及び土などの環境試料、天然産物、消費者製品、生物学的/臨床的試料、及び多数の他の試料タイプは、カラムを破壊し得るため、単にGCMS分析器に注入すればよいというわけではない場合があり、また、元の試料にはなかった、結果に現れる熱分解生成物(アーチファクト)を作り出す場合がある。多くの場合、水、アルコール、又は他の軽質溶媒などの高濃度の特定のマトリックス化学物質は、所望の検出限界を達成し、GCMS分析器の過負荷及びGCMS分析器内の信号抑制を防止するために、低減させるか、又は排除しなければならない。
【0004】
多くの状況では、GCMSによって分析される液体試料は、GCMS分析器に適合しない場合があり、分析の前にGC適合化合物から分離しなければならない、不揮発性化学物質などのマトリックス成分を含有する。他の場合では、化合物は、試料(しばしば、水、軽質アルコールなど)のバルク成分を除去することによって濃縮しなければならず、さもなければ、バルク成分により、GCMS分析器が対応不可能になり、感度及び全体的な分析器の性能に影響を及ぼす。食品、水及び土などの環境試料、天然産物、消費者製品、並びに多数の他の材料は、GCカラムを破壊する場合があるため、事前に試料を調製せずに、単にGCMSに注入すればよいというわけではない場合があり、また、元の試料にはなかった新しい熱分解生成物(アーチファクト)を作り出す場合がある。
【0005】
これらの試料マトリックスから化合物を抽出して、GCMS適合画分の測定を可能にするために使用することができる、いくつかの技術が存在する。分液漏斗(液体/液体)又はソックスレー抽出器(液体、/固体)のいずれかを使用する、塩化メチレンなどの抽出溶媒を使用する液液抽出又は液固抽出は、最も長く使用されており、おそらくは、GCMS分析前の初期試料調製について、任意の他の抽出技術よりも多くの分析方法に記載されている。残念なことに、溶媒抽出は、対象の極性分析物及び無極性分析物の両方の不完全な回収、GCMSにとって重過ぎる化合物(脂質、ワックス、鉱油など)の望ましくない共抽出を含む、多くの制限を有し、しばしば、水及び鉱物などの不要なマトリックスを共抽出し過ぎることになる。抽出後の溶媒除去段階中に、あまりにも多くの対象のライトエンド化合物もまた、溶媒の蒸発中に失われる。研究室は、かつてはフードを通して外気に溶媒蒸気を送り出すことができたが、これは、一般に、もはや認められた又は許容できる行為ではない。一般に、分析コミュニティは、全体として、環境に対する溶媒の毒性作用及び溶媒に毎日さらされる化学者への溶媒の毒性作用の両方のため、溶媒を完全に除去する「よりグリーンな」技術を探している。最後に、標的分析物の損失が多くなり過ぎることを防止するために、一般に、溶媒を1cc未満(1000マイクロリットル)のレベルまで蒸発させることが回避されるが、それでも、GCは、一般に、1マイクロリットルの溶媒液の約1ccの溶媒蒸気への急速な膨張のため、わずか1マイクロリットルの注入容積に制限され、これは、GCの注入器送達システムの容積制限である。したがって、1000マイクロリットルの最終抽出物からのわずか1マイクロリットルの注入は、1000:1の希釈、及び後続の分析感度の低下をもたらす。
【0006】
SBSE及び完全再現SPMEなどの他の技術は、ポリマーコーティングされた装置を試料に浸漬してGCMS適合化合物を抽出し、続いて、リンス及びGCMSへの熱脱着を行うことによって、溶媒を置き換えようとする。残念なことに、これらの技術は、一般に、相が制限され、試料マトリックスへの溶解性が高い化合物を回収しない。これらの技術はまた、熱脱着中にアーチファクトの形成をもたらす不揮発性の化合物の部分的な吸収という問題も抱えており、これは、元の試料中に存在していなかった化学物質をGCMS分析器に導入するだけでなく、抽出装置の劣化も生じさせ、装置が処理することができる試料数を制限する。これらの完全浸漬装置はまた、典型的には、分析器の頻繁な洗浄を必要とする場合のある抽出ポリマーからの多量のブリードも生成し、これらの抽出に使用される厚いポリマー層は、しばしば、次の試料を処理する前に残留する試料成分を完全に除去するために、長いベークアウト時間を必要とし得る。
【0007】
ヘッドスペース分析は、試料との直接接触を回避し、それによって、不揮発性化学物質が干渉する可能性を排除するその能力のため、一般的な種類の試料抽出及び調製技術になってきた。炭水化物、トリグリセリド及び他の脂質、タンパク質、生物化合物、粒子状物質及び不可溶性材料、並びに大部分のイオン化した種を含む、不揮発性の化合物は、バイアルの中に残留させたままにすることができる。しかしながら、ヘッドスペース法は、揮発性が低いがそれでもGC適合化合物を回収することができないので、いくつかのヘッドスペース抽出技術(例えば、SPME、SPME ARROW、DHS、パージアンドトラップ、ループ注入)に限定されている。これらのヘッドスペース抽出技術は、典型的には、マトリックス及び不要な不揮発性化合物を残したままにしながら、マトリックスから対象の化合物を抽出しようとするが、対象のより重い化合物及びマトリックスへの溶解性が高い化合物は、しばしば、抽出が不十分である。いくつかの他の技術は、ヘッドスペースにだけ又は液体試料を通して、バイアルを通してガスをパージするが、バイアルの外側の吸着剤での試料の捕捉を必要とする。そうした技術は、大量のパージを必要とし、これは、多くの対象の化合物に吸着剤を通り抜けさせる場合があり、一方で、他の化合物を更に吸着剤に押し込み、それによって、熱脱着中の回収を低減させ、分析法の感度及び精度を低下させ、そして、次の試料分析中に、吸着剤の深部内に残留化学物質が残留するため、キャリーオーバーの増加につながる。
【0008】
米国EPA法1624及び8261などのいくつかの試料調製法は、液体窒素冷却トラップへの最終的な収集によって対象の合成物を抽出するために、減圧蒸留を使用する。しかしながら、これらの方法は、大量の水蒸気を回収し、それによって、依然として、過剰な水をGCMSに注入することを伴わない分析に関する課題を提示する。トラップ前の流路における移送ライン、ロータリバルブ、及び他の装置の使用もまた、表面露出の増加、接続金具に見出される死容積、並びに管及び多数の低容積の接続金具の長い距離を通した不十分な真空の伝達のため、抽出効率を低減させる。
【0009】
したがって、全ての対象の化合物を一貫して抽出及び隔離し、一方で、GCMS分析には重過ぎる(不揮発性過ぎる)化合物、熱脱着中に分解し得る化合物、及びGCMS分析器を圧倒する多過ぎる存在量の化合物(水、アルコール、及び溶媒)を除去する、GCMS分析前の試料調製の解決策に対する必要性が存在する。加えて、抽出技術は、ゼロ又は最小限の有毒溶媒しか必要としない、グリーンなものでなければならず、また、方法の感度を最高にするために、抽出した試料の一部だけではなく、その全体をGCMS分析器内中に脱着させなければならない。抽出技術はまた、少なくとも特定のタイプのGCカラムによって取り扱うことができる化合物の範囲内で、軽質~重質化合物の回収も可能にしなければならない。薄膜GCカラムは、一般に、しばしば半揮発性有機化合物(semi-volatile organic compound、SVOC)と称される、より重質な化合物の分析に使用され、一方で、より厚膜のカラムは、揮発性有機化合物(volatile organic compound、VOC)と称される、より低沸点の化合物を分析するために使用される。したがって、抽出技術は、少なくとも、薄膜GCカラム(SVOC)又はより厚膜のGCカラムを使用して最適化されたもの(VOC)のいずれかによって取り扱うことができる、全ての対象の化合物を回収することが必要である。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、更なる化学分析のための試料の抽出に関し、より具体的には、蒸発真空抽出を使用して化学分析のための試料を調製するためのシステム及び方法に関する。本開示に提示される技術は、液体試料を分析する場合に、試料抽出/調製過程中に溶媒を使用することなく、又は固体試料を分析する場合に、最小量の非毒性溶媒(例えば、アルコール、水及びアルコール)しか使用することなく、SVOC範囲内の化合物の分析を最適化し、かつこれまで提示された任意の他の試料調製技術よりも広い範囲の極性及び無極性SVOC化合物の回収を可能にする。本明細書に開示されるシステム及び方法は、ガスクロマトグラフィ/質量分光分析によって後続の分析のために、液体試料から回収可能な揮発性及び半揮発性化合物の範囲を改善する。抽出は、吸着剤(吸着媒又は吸収剤)を含有する試料抽出装置を、抽出される試料に隣接して配置することによって、試料に接触することなく行われる。このようにして、揮発した試料は、他のヘッドスペース技術の性能と比較して、より完全に収集吸着剤に指向させることができる。
【0011】
開示される試料抽出装置は、吸着剤を含有する。試料抽出装置が、試料を含有する試料容器(例えば、試料バイアル)に結合されている間に、試料抽出装置を通して真空引きして、試料のマトリックスを蒸発させて、試料の揮発した標的化合物を吸着剤に搬送する。随意に、試料マトリックスが蒸発すると、試料バイアルを加熱して、より重質な標的化合物を吸着剤に移送する。試料抽出装置は、試料抽出装置をガスクロマトグラフに直接結合する熱脱着装置に挿入することができる。いくつかの実施形態では、試料は、ガスクロマトグラフィ又は別の好適な技法を使用して脱着及び分析される。
【0012】
開示されるシステムは、材料吸着剤を通して試料の完全蒸発を行って、水及びアルコールなどの主マトリックス成分を除去し、一方で、対象の化合物(重質VOC及びSVOC)を留め置く。抽出は、低温(例えば、摂氏20~40度)で行って、吸着剤を通る水又は溶媒蒸気の移動速度を低減させ、それによって、後続の熱脱着中のそれらの回収を低減させる、吸着剤への対象の標的化合物のチャネリングを低減させることができる。低温蒸発は、吸着剤を比較的低い温度に、典型的には蒸発中の試料よりも摂氏5~20度高く維持することができる。これは、吸着剤を通した抽出中に水又は溶媒がガス相中に残留し、一方でまた、そうしない場合により高い温度で吸着剤を通り抜けてしまう、より軽質の化合物の回収を最大にすることを確実にする。したがって、吸着剤を通してマトリックスを蒸発させるために真空を使用し、真空は、水又は溶媒の沸騰は生じさせないが、適切な期間で排出を完了するのに単に十分な強さであるように制御される。水又は溶媒を、吸着剤を通して完全に蒸発させた後、はるかに重い対象の化合物を揮発させるために、試料容器(例えば、試料バイアル)を吸着剤よりもはるかに高い温度まで加熱することができる。この第2の抽出段階中に、化合物は、もはや蒸発水/溶媒ガスストリームを介して吸着剤に「動的に」移送されないが、単純に比較的強い真空下で吸着剤ベッドへと拡散することを可能にする。この場合、ゼロキャリアガス流は、チャネリング(例えば、吸着剤へのキャリアガス誘起の流入)の可能性を完全に除去し、試料のより重い成分を、吸着剤ベッドの直前の近くに最適に堆積させることを可能にし、それによって、どちらも、熱脱着中のそれらの回収を改善し、一方でまた、後続の分析へのキャリーオーバー(例えば、従来の試料抽出物からの化合物の持続)の可能性を低減させる。
【0013】
抽出過程中に、液体試料がバイアル内に配置される。バイアルの容積は、例えば1~20cc若しくは2~8ccの範囲、又は別の容積である。例えば、本明細書に開示される技術によれば、抽出するために、1ccの試料を2ccの試料バイアルの中へ堆積させることができる。本明細書に開示される技術を使用して1ccの試料を抽出することは、1リットルの試料の溶媒抽出を行うことによって達成される感度と等しい感度を生成することができ、ここで、最終的な1000マイクロリットルの溶媒抽出物のうちの1マイクロリットルだけが、化学分析システムに注入される。別の例として、試料バイアルは、10ccの容積を有することができる。吸着剤を含む試料抽出装置は、バイアルが真空密封を作製するようにバイアルの頂部に位置付けられる。真空は、吸着剤を通してバイアルに印加され、これは、ガス相マトリックス(水、エタノール、その他)が1種以上の有機化合物を吸着剤にスイープすることが可能な方式で、水、エタノール、又は他の軽質マトリックス成分など化合物を緩やかに揮発させる。このようにして、試料自体からのガス相マトリックスは、揮発性試料マトリックスを除去する前に標的化合物に吸着剤抽出/収集装置を通り抜けさせる役割だけを果たす別のキャリアガスを加えることなく、キャリア流体として作用することができる。すなわち、バイアルからの1ccの液体水の蒸発及び排除から生じる約400ccの水蒸気を流すのではなく、精製した窒素又はヘリウムを使用することは、5~10リットルのガスに吸着剤を貫流させて、揮発性マトリックス(例えば、1ccの水)全体を排除することが必要であり得、パージガスのこの追加の容積は、更に多くの化合物に吸着剤を通り抜けさせ、多くのより重い化合物を吸着剤に押し込み、回収をより悪化させる。吸着剤は、マトリックス(水、アルコール、その他)が吸着剤に対してごくわずかな親和性しか有しないように選択され、ガス相揮発性マトリックスが、真空システムへと流れるときに、吸着剤を容易に通過することを可能にする。いくつかの実施形態では、マトリックスが完全に蒸発して、吸着剤を通して除去された後、依然として真空下にある間に試料バイアルを加熱し、より高い沸点の化合物をガス相にして、化合物の吸着剤への移送を続けることができる。いくつかの実施形態では、かかる熱が試料を変性又は破壊してアーチファクトを作成する、天然産物の場合、最終加熱段を排除することができ、又は第2段(例えば、摂氏50~100度)中にあまり過剰でない温度上昇を使用して、他のものの熱分解温度に到達させることなく、いくつかの化合物の回収を改善することができる。マトリックスに応じて、最終加熱を伴わない実施形態は、摂氏400度を超える沸点を有する化合物を効率的に回収することができる。最終加熱を伴う実施形態は、微量レベルの水質分析を行う場合など、摂氏550度を超える沸点を有する化合物を回収することができる。
【0014】
一般に、比較的強い真空(例えば、摂氏25度の水の場合、気圧の1/30)の下で試料を抽出する能力は、より高い沸点の化合物をより低い温度で回収することを可能にし、それによって、両方の熱的に不安定な対象の化合物に対する応力を低減させて、試料中の不揮発性化合物の熱分解を低減させる。加えて、揮発性マトリックスが制御された真空及び試料温度を使用して除去されると、同程度に多い熱を加えることなくより高い真空自体が重質化合物の移送の効率を高めることができるので、試料バイアルがより高く加熱されるかどうかにかかわらず、第2の移送段階中に更に強い真空を印加することができ、同じく熱分解の可能性を低減させる。いくつかの実施形態では、弱い~強い真空下にある間のバイアルの最終加熱は、周囲温度(例えば、摂氏20~30度)~摂氏300度の間の任意の温度から調整することができ、周囲温度から50~100Cが、より高い温度で分解し得る食品、飲料、又は生物学的試料に使用され得る。多くの場合、真空下にある間に、摂氏200度という低い温度が、大気圧において摂氏550度で沸騰する6環の多環芳香族炭化水素(Polyaromatic Hydrocarbon、PAH)の回収を可能にすることができ、吸着剤が試料マトリックスに隣接している、真空下での抽出が、試料マトリックスへのごくわずかな熱ストレスで、非常に広い範囲のVOC~SVOC化合物の回収を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】いくつかの実施形態による、例示的な試料抽出装置を例示する。
【
図1B】いくつかの実施形態による、例示的な試料抽出装置を例示する。
【
図1C】いくつかの実施形態による、例示的な試料抽出装置を例示する。
【0016】
【
図2A】いくつかの実施形態による、自動化構成の複数の例示的な試料抽出システムを例示する。
【
図2B】いくつかの実施形態による、自動化構成の複数の例示的な試料抽出システムを例示する。
【
図2C】いくつかの実施形態による、自動化構成の複数の例示的な試料抽出システムを例示する。
【0017】
【
図3】本開示のいくつかの実施形態による、試料抽出装置で収集された試料を分析するために使用されるシステムを例示する。
【0018】
【
図4】本開示のいくつかの実施形態による、試料を調製及び分析する例示的な方法を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明では、本明細書の一部を形成し、実施され得る具体的な例を例示することによって示される添付図面を参照する。これらの実施例は、非限定的なものであると理解されるべきである。他の例を使用することができ、本開示の実施例の範囲から逸脱することなく、構造的変化を行うことができることを理解されたい。
【0020】
本開示は、更なる化学分析のための試料の抽出に関し、より具体的には、蒸発真空抽出を使用して化学分析のための試料を調製するためのシステム及び方法に関する。本開示に提示される技術は、液体試料を分析する場合に、試料抽出/調製過程中に溶媒を使用することなく、又は固体試料を分析する場合に、最小量の非毒性溶媒(例えば、アルコール、水及びアルコール)しか使用することなく、SVOC範囲内の化合物の分析を最適化し、かつこれまで提示された任意の他の試料調製技術よりも広い範囲の極性及び無極性SVOC化合物の回収を可能にする。本明細書に開示されるシステム及び方法は、ガスクロマトグラフィ/質量分光分析によって後続の分析のために、液体試料から回収可能な揮発性及び半揮発性化合物の範囲を改善する。抽出は、吸着剤(吸着媒又は吸収剤)を含有する試料抽出装置を、抽出される試料に隣接して配置することによって、試料に接触することなく行われる。このようにして、揮発した試料は、他のヘッドスペース技術の性能と比較して、より完全に収集吸着剤に指向させることができる。
【0021】
開示される試料抽出装置は、吸着剤を含有する。試料抽出装置が、試料を含有する試料容器(例えば、試料バイアル)に結合されている間に、試料抽出装置を通して真空引きして、試料のマトリックスを蒸発させて、試料の揮発した標的化合物を吸着剤に搬送する。随意に、試料マトリックスが蒸発すると、試料バイアルを加熱して、より重質な標的化合物を吸着剤に移送する。試料抽出装置は、試料抽出装置をガスクロマトグラフに直接結合する熱脱着装置に挿入することができる。いくつかの実施形態では、試料は、ガスクロマトグラフィ又は別の好適な技法を使用して脱着及び分析される。
【0022】
開示されるシステムは、材料吸着剤を通して試料の完全蒸発を行って、水及びアルコールなどの主マトリックス成分を除去し、一方で、対象の化合物(重質VOC及びSVOC)を留め置く。抽出は、低温(例えば、摂氏20~40度)で行って、吸着剤を通る水又は溶媒蒸気の移動速度を低減させ、それによって、後続の熱脱着中のそれらの回収を低減させる、吸着剤への対象の標的化合物のチャネリングを低減させることができる。低温蒸発は、吸着剤を比較的低い温度に、典型的には蒸発中の試料よりも摂氏5~20度高く維持することができる。これは、吸着剤を通した抽出中に水又は溶媒がガス相中に残留し、一方でまた、そうしない場合により高い温度で吸着剤を通り抜けてしまう、より軽質の化合物の回収を最大にすることを確実にする。したがって、吸着剤を通してマトリックスを蒸発させるために真空を使用し、真空は、水又は溶媒の沸騰は生じさせないが、適切な期間で排出を完了するのに単に十分な強さであるように制御される。水又は溶媒を、吸着剤を通して完全に蒸発させた後、はるかに重い対象の化合物を揮発させるために、試料容器(例えば、試料バイアル)を吸着剤よりもはるかに高い温度まで加熱することができる。この第2の抽出段階中に、化合物は、もはや蒸発水/溶媒ガスストリームを介して吸着剤に「動的に」移送されないが、単純に比較的強い真空下で吸着剤ベッドへと拡散することを可能にする。この場合、ゼロキャリアガス流は、チャネリング(例えば、吸着剤へのキャリアガス誘起の流入)の可能性を完全に除去し、試料のより重い成分を、吸着剤ベッドの直前の近くに最適に堆積させることを可能にし、それによって、どちらも、熱脱着中のそれらの回収を改善し、一方でまた、後続の分析へのキャリーオーバー(例えば、従来の試料抽出物からの化合物の持続)の可能性を低減させる。
【0023】
抽出過程中に、液体試料がバイアル内に配置される。バイアルの容積は、例えば1~20cc若しくは2~8ccの範囲、又は別の容積である。例えば、本明細書に開示される技術によれば、抽出するために、1ccの試料を2ccの試料バイアル内に配置することができる。本明細書に開示される技術を使用して1ccの試料を抽出することは、1リットルの試料の溶媒抽出を行うことによって達成される感度と等しい感度を生成することができ、ここで、最終的な1000マイクロリットルの溶媒抽出物のうちの1マイクロリットルだけが、化学分析システムに注入される。別の例として、試料バイアルは、10ccの容積を有することができる。吸着剤を含む試料抽出装置は、バイアルが真空密封を作製するようにバイアルの頂部に位置付けられる。真空は、吸着剤を通してバイアルに印加され、これは、ガス相マトリックス(水、エタノール、その他)が1種以上の有機化合物を吸着剤にスイープすることが可能な方式で、水、エタノール、又は他の軽質マトリックス成分など化合物を緩やかに揮発させる。このようにして、試料自体からのガス相マトリックスは、揮発性試料マトリックスを除去する前に標的化合物に吸着剤抽出/収集装置を通り抜けさせる役割だけを果たす別のキャリアガスを加えることなく、キャリア流体として作用することができる。すなわち、バイアルからの1ccの液体水の蒸発及び排除から生じる約400ccの水蒸気を流すのではなく、精製した窒素又はヘリウムを使用することは、5~10リットルのガスに吸着剤を貫流させて、揮発性マトリックス(例えば、1ccの水)全体を排除することが必要であり得、パージガスのこの追加の容積は、更に多くの化合物に吸着剤を通り抜けさせ、多くのより重い化合物を吸着剤に押し込み、回収をより悪化させる。吸着剤は、マトリックス(水、アルコール、その他)が吸着剤に対してごくわずかな親和性しか有しないように選択され、ガス相揮発性マトリックスが、真空システムへと流れるときに、吸着剤を容易に通過することを可能にする。いくつかの実施形態では、マトリックスが完全に蒸発して、吸着剤を通して除去された後、依然として真空下にある間に試料バイアルを加熱し、より高い沸点の化合物をガス相にして、化合物の吸着剤への移送を続けることができる。いくつかの実施形態では、かかる熱が試料を変性又は破壊してアーチファクトを作成する、天然産物の場合、最終加熱段を排除することができ、又は第2段(例えば、摂氏50~100度)中にあまり過剰でない温度上昇を使用して、他のものの熱分解温度に到達させることなく、いくつかの化合物の回収を改善することができる。マトリックスに応じて、最終加熱を伴わない実施形態は、摂氏400度を超える沸点を有する化合物を効率的に回収することができる。最終加熱を伴う実施形態は、微量レベルの水質分析を行う場合など、摂氏550度を超える沸点を有する化合物を回収することができる。
【0024】
一般に、比較的強い真空(例えば、摂氏25度の水の場合、気圧の1/30)の下で試料を抽出する能力は、より高い沸点の化合物をより低い温度で回収することを可能にし、それによって、両方の熱的に不安定な対象の化合物に対する応力を低減させて、試料中の不揮発性化合物の熱分解を低減させる。加えて、揮発性マトリックスが制御された真空及び試料温度を使用して除去されると、同程度に多い熱を加えることなくより高い真空自体が重質化合物の移送の効率を高めることができるので、試料バイアルがより高く加熱されるかどうかにかかわらず、第2の移送段階中に更に強い真空を印加することができ、同じく熱分解の可能性を低減させる。いくつかの実施形態では、弱い~強い真空下にある間のバイアルの最終加熱は、周囲温度(例えば、摂氏20~30度)~摂氏300度の間の任意の温度から調整することができ、周囲温度から50~100Cが、より高い温度で分解し得る食品、飲料、又は生物学的試料に使用され得る。多くの場合、真空下にある間に、摂氏200度という低い温度が、大気圧において摂氏550度で沸騰する6環の多環芳香族炭化水素(Polyaromatic Hydrocarbon、PAH)の回収を可能にすることができ、吸着剤が試料マトリックスに隣接している、真空下での抽出が、試料マトリックスへのごくわずかな熱ストレスで、非常に広い範囲のVOC~SVOC化合物の回収を可能にすることができる。
【0025】
開示される試料調製システム及び方法は、微量レベルの水性試料中のGC適合化合物を測定するための試料を調製する。いくつかの実施形態では、試料はまた、そうでない場合に試料中の対象の化学物質を留め置くことができる吸着剤に十分に留め置かれない、エタノールなどのアルコール、又は他の揮発性化合物を含有することもできる。本明細書で使用されるとき、「吸着剤」は、試料の吸収又は吸着のいずれかを行う媒体を説明するための一般用語であり、本明細書では、吸着剤及び吸着媒が交換可能に使用される場合がある。典型的な試料容積は、50マイクロリットル~5000マイクロリットル(0.05~5cc)の範囲であり得るが、いくつかの実施形態では、他の試料容積が可能である。開示される試料調製システム及び方法は、標準GCMSをフルスキャンモードで使用した低ppm範囲、又はOrbitrap、FTMS、TSQ、更には単一の四重極MSを単一イオン監視モード(Single Ion Monitoring、SIMモード)で使用するサブppmレベルに至る化合物の測定を可能にする。水又は適切な揮発性溶媒による試料の単純な希釈は、PPB及びPPM範囲でのより高い濃縮試料の分析を可能にすることができる。
【0026】
本明細書に開示される技術は、冷却剤として液体窒素の使用を必要としないことを認識されたい。液体窒素の使用を除去することは、液体窒素と関連するコスト及び安全面の懸念を排除する。追加的に、本明細書に開示される技術は、移送ライン(例えば、試料バイアルと試料抽出装置との間、試料抽出装置とガスクロマトグラフとの間)の使用を必要としない。移送ラインは、重質化合物の移送を低減させる場合があり、多くの不安定な化合物の反応を触媒する場合があり、非常に重質な抽出された化合物(ワックス、油)の蓄積又は欠如に基づく標的化合物の可変の移送を生じさせる場合があり、また、移送ラインの始点及び終点の両方に死容積及び冷点を生じさせる追加の金具を必要とする場合がある、移送ラインの使用を排除することは、有利である。この場合、移送ラインはまた、マトリックス排除の効率を低減させる試料と吸着剤との間の真空の移送を低減させる場合もある。移送ラインの排除は、これらの負の態様の全てを、及びそれらと共にもたらされる分析システムの性能の不安定性を排除する。下でより詳細に説明するように、本明細書に開示される技術は、いくつかの実施形態では拡散真空抽出過程が続き得る、動的真空抽出過程を含む。下でより詳細に説明するように、拡散真空抽出過程の使用は、より重い標的化合物の回収及び脱着を改善すること、及びそうでない場合に残余の化合物の次の試料分析へのキャリーオーバーを生じさせる、試料抽出装置の汚染を減少させること、又は排除することができる。最も重い化合物の拡散試料採取は、該化合物を単一又は多重の吸着剤ベッドの最前部に堆積させ、不十分な回収及びキャリーオーバーの増加を生じさせ得るチャネリングを排除する。一般に、第1段の動的真空抽出過程は、拡散過程を生じさせる実施形態における第2段の拡散真空抽出過程よりも低い温度で発生する。動的真空抽出過程中の低温の使用は、タンパク質、脂質、炭水化物、及び塩/鉱物を含む不要な不揮発性化合物を抽出装置に移送し、熱脱着中に熱分解生成物を生じさせ、抽出装置を再使用することができる回数を低減させる、マトリックスの沸騰及びマトリックスのエアロゾル化を防止することができる。下でより詳細に説明するように、本明細書に開示される技術は、多くの試料の場合に試料マトリックスの質量の98%を超える、試料マトリックスの揮発性構成要素を完全に蒸発させることが可能であり、それによって、そうでない場合には揮発性マトリックスへの溶解性が高い、標的化合物の更に完全な回収を可能にする。かかる試料は、食品、カンナビス、及び土中の農薬及び他の汚染物質を分析するなどのための、飲料水、地下水、廃水、海水、並びに温水を使用する化学物質の予備的な抽出又は固体試料の水/溶媒混合物(例えば、水/EtOH)の抽出から得られた試料を含むことができる。
【0027】
図1A~
図1Cは、いくつかの実施形態による、例示的な試料抽出装置100を例示する。試料抽出装置100は、吸着剤102a~cと、ポート106と、輸送部104及び110、シール112a~cと、デテント114と、を含むことができる。いくつかの実施形態では、試料抽出装置100は、ステンレス鋼などの頑丈で耐久性のある材料(例えば、304又は316ステンレス)から作製することができ、また、化学物質及び特に熱的に不安定な化学物質に露出される表面の不活性を更に高めるセラミック材料(例えば、Silonite)でコーティングされ得る。セラミックコーティングは、GCカラムと同程度に不活性であり得、試料抽出中これらの表面が低温である間に、又は試料のGCへの熱脱着中に高温である間に、かかる表面に露出されたときに全てのGC適合化合物の回収を可能にする。いくつかの実施形態では、試料から対象の1種以上の化合物を抽出するために使用している間に、試料抽出装置100は、結合部150を介して真空スリーブ140内に配置され、かつ試料バイアル120(試料130を含有する)に結合される。いくつかの実施形態では、
図1A~
図1Cに示されるように、試料抽出装置100は、3つの吸着剤102a、102b、及び102cを含むことができる。
【0028】
試料抽出装置100が、
図1Aに示されるように試料バイアル120に結合されると、輸送部110が、本明細書で説明するように対象の1種以上の化合物を吸着剤102a~cによって留め置くことができるように、試料130を吸着剤102a~cに流体結合させる。更に、輸送部110は、吸着最も重い剤102aより更に弱い、第1段の凝結として作用することができ、化合物を回収するために、熱脱着中のより低い温度を可能にする。輸送部110はまた、下でより詳細に説明するように、いくつかの実施形態では試料バイアル120が加熱される第2段の拡散真空抽出中に、試料バイアル120の熱から吸着剤102a(及び吸着剤102b~c)を熱的に分離することを補助することもできる。また、いくつかの実施形態では、輸送部110は、第1段及び第2段の両方の抽出中の統計的回収を最大にするための、吸着剤抽出装置の開口部への試料130の露出を最大にするために、試料バイアル120の開口部のほぼ全体を占める。試料バイアル120の開口部のほぼ全体を占めることはまた、試料130のシール用Oリング146への露出を最小にし、それによって、キャリーオーバーの潜在性を低減させ、更にはOリング146内の任意の天然汚染物質の抽出を最小にする。輸送部104は、吸着剤102a~cをポート106に流体結合し、これは、本明細書でより詳細に説明されるように、ポート106を通して真空引きして、試料バイアル120内に真空を生成することを可能にする。輸送部104は、試料装置100の熱脱着中のシール用Oリング112a~cから、抽出物の分析中の化学分析装置(例えば、GCMS)への吸着剤102a~cの熱分離を提供することができる。いくつかの実施形態では、ガラスロッドが輸送部104内に配置されて、熱脱着中に輸送部104の壁に沿って脱着ガスを強制的に流れさせながら、抽出装置100の内部容積を低減させ、それによって、試料のより高速かつより完全な放出のためのGCMS分析中の脱着ガスの予熱を改善する。
【0029】
いくつかの実施形態では、
図1A~
図1Bに例示される102a~cの位置で、1つの吸着剤(例えば、102a又は102b又は102c)だけが使用される。いくつかの実施形態では、
図1A~
図1Bの102a~cの位置で、2つの吸着剤(例えば、102a、102b、又は102cのうちの2つ)が使用される。いくつかの実施形態では、3つ超の吸着剤102a~c(例えば、4つ又は5つ又は6つ以上吸着剤)が使用される。複数の吸着剤102a~cが使用されるいくつかの実施形態では、吸着剤102a~cは、最弱から最強への順序で配設され、最弱の吸着剤102aが試料抽出装置の底部開口部108に最も近くにあり、最強の吸着剤102cがポート106の最も近くにある。このようにして、試料130の最も重い化合物を、より強い吸着剤102b又は最強の吸着剤102cに到達させることなく、吸着剤102aによって留め置くことができ、それによって、吸着剤102b及び102cの汚染を低減させるか、又は防止する。いくつかの実施形態では、吸着剤102aによって留め置かれないより軽質の対象の化合物は、吸着剤102b又は吸着剤102cによって留め置くことができる。いくつかの実施形態では、試料抽出装置100は、吸着剤102aを留め置くスクリーンを留め置くために、吸着剤102aの底部に縮径部を有することができる。スクリーンは、異なる吸着剤102a~cの分離を維持するために、異なる吸着剤102aと、102bと、102cとの間に配置することができる。一般に、吸着剤の段数を増加させることは、抽出中に回収される化合物の沸点範囲を高めることができ、一方で、いくつかの場合では、抽出された試料を単純化して、試料中の化学物質のより小さいサブセットに集中して、GCに注入される試料の複雑さを低減させるために、1つ又は2つの吸着剤の使用が意図的に使用される。更には、特定のファミリの、又は特定の特徴若しくは部分を有する化合物を選択的に留め置くために、特殊吸着剤が使用され得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、シール112a~cは、試料抽出装置100の本体の周囲に配置されたOリングシールとすることができる。シール112a~cは、試料抽出中に、試料抽出装置100のポート106を通して、試料バイアル130を真空引きして維持することを容易にする。試料分析中に、シール112a~cは、(例えば、
図3~
図4を参照して)下でより詳細に説明するように、試料が脱着されて分析される間、試料抽出装置100をシールする。
【0031】
いくつかの実施形態では、真空スリーブ140は、
図1Bに示されるように、シール142a~b及び146と、ねじ山144と、含む。試料抽出中に、シール142a~bは、真空トレイをシールして、試料バイアル120を真空引きして維持することを容易にすることができる。いくつかの実施形態では、シール146は、試料抽出装置100の底部開口108が試料バイアル120に面する場所をシールする。ねじ山144(又は別の好適な結合部)は、真空スリーブを結合部150に結合するために使用することができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、結合部150は、ねじ山152と、開口部154と、を含む。いくつかの実施形態では、結合部150は、Oリング146を使用して抽出スリーブ140と、抽出装置100と、バイアル130との間に真空気密シールを作成する、ナット又は他の金具を含む。結合部150は、試料抽出中に試料バイアル120を試料抽出装置100に結合して、抽出装置100を通してバイアル120に真空を及ぼすことを可能にするために使用することができる。いくつかの実施形態では、抽出中に真空源が維持され、揮発性マトリックス成分(水、エタノール、他の溶媒)を、ポート106を通して完全に排除し、最終的には、真空源(例えば、油非含有ポンプ)を通して排除することを可能にする。いくつかの実施形態では、抽出装置100とバイアル120の内部との間の非常に小さい環状スペースを使用することは、バイアルをより高い温度まで加熱することができる拡散真空試料採取段階中に、バイアルの下側部分よりもはるかに低温となるこの領域への試料(化合物)の露出を最小にすることができ、それによって、最も重い化合物を熱脱着中に成功裏にGCMSに送達することができる抽出装置100の「内部」に、該化合物が回収される統計的確率を高める。結合部150は、試料バイアル120及び試料抽出装置100を、介在する移送ラインを使用することなく互いに直接結合することを可能にすることができる。
【0033】
この配設は、本技術の回収及び精度を大幅に高めるために、試料130を試料回収装置100の底端部108の数ミリメートル内にすることを可能にすることができる。移送ラインが反応性内面を有し得ることによる表面の触媒反応に起因して、移送ラインがいくつかの化合物の回収を低減させる場合があるので、介在する移送ラインを排除することが望ましい。例えば、経時的に、重質化合物(例えば、油及びワックス)が移送ラインの表面に堆積する場合があり、それによって、対象の化合物の回収を低減させる。例えば、試料130と吸着剤102a~cとの間に移送ラインの使用を排除することは、この手法の長期的な信頼性を大幅に高め、したがって、認定を受けた及び認定を受けていない両方の方法について信頼性の高い定量的結果を生成する手段としてのその実行可能性を高める。
【0034】
試料バイアル120は、クリンプトップバイアルとすることができ、温度が高温から低温へと移行し得るバイアル内の領域をより短くすることを可能にし、対象の化合物が失われ得る、抽出システム内の望ましくない「低温点」の発生を低減させる。クリンプトップバイアルによって、ねじ螺合バイアルを使用する場合にはより困難である、バイアル120の温度の(例えば、低温から高温への)迅速な変化がより容易である。また、ねじ螺合バイアルは、一般に、高温に指定されていないプラスチックキャップを使用する。対照的に、クリンプトップバイアル、結合部150、及びOリング146(例えば、Oリングは、FKM、シリコーン、その他を含むことができる)の組み合わせは、試料バイアル120を、摂氏300度まで加熱することを可能にすることができ、一方で、抽出装置100の底部108の上側を非常に低い温度に維持する。加えて、試料バイアル120の中へ、クリンプトップセクションのより厚いガラスセクションの下側に、そして、より薄い壁のあるセクションの近くへ下る抽出装置100の底部108の延長部、並びに試料バイアル120のより高温の部分は、第2段の拡散真空抽出中の、抽出装置100の内部の対象の最も重い化合物の堆積を確実にすることができる。
【0035】
試料バイアル120は、不活性であり、かつ本明細書で説明される技術において試料バイアル120に適用される温度に耐えることができる、ガラス又は別の好適な材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、試料バイアル120は、試料バイアルを、開口部154を通して結合部150に結合することを容易にする、デテント122を含む。
図1Bに示されるように、試料バイアル120のガラス壁は、デテント122の上側でより厚くすることができ、それによって、試料バイアル120が、バイアル120を破損することなく、(例えば、結合部150による)強いクランプ力に耐えることを可能にする。開口部154は、試料バイアル120を、結合部150を真空スリーブ140に緩く結合する前か、又はその後のいずれかに、結合部150の側面を通して装填することを可能にすることができ、それによって、デテント122の下側の試料バイアル120のサイズの増加又は減少を、より大きい又はより小さいかのいずれかの試料容積に適応させることを可能にする。
【0036】
試料バイアルは1~20ミリリットルの範囲の容積を有することができるが、他の容積が可能である。いくつかの実施形態では、試料130の容積は、試料バイアル120の全容積よりも少ない。例えば、10ミリリットルの試料は、本明細書で説明する試料調製のための20ミリリットルのバイアルの中へ堆積させることができる。別の例として、1cc又は1.5ccの試料は、2ccの試料バイアルの中へ堆積させることができる。いくつかの実施形態では、認識されたGC適合範囲(例えば、全てのSVOC)内の実質的に全ての又は全ての対象の化合物は、本明細書で説明される技術を使用して試料から回収することができ、GCMS分析中に全ての抽出物が注入されることを考慮すると、1ccの試料で、他の溶媒抽出技術を使用して調製した1Lの試料の感度と同じ感度を分析中に達成することができ、一方で、以前に説明した理由で、液液溶媒抽出の最終的な1000マイクロリットルのうちの1マイクロリットルだけが注入される。したがって、本明細書に開示される技術を実行して、液液抽出などの他の技術と等しい感度を達成する場合に、はるかに少ない試料しか必要とせず、したがって、液液抽出などの他の技術と比較して、本明細書に開示される技術を使用する場合に、はるかに少ない試料を収集して第1の場所の研究室に送達することしか必要としない。
【0037】
いくつかの実施形態では、試料130は、本明細書で説明されるシステム及び過程を使用して調製することができる、広範囲の試料のうちの1つとすることができる。いくつかの実施形態では、試料は、揮発性有機化合物(VOC)及び半揮発性有機化合物(SVOC)を含む、1種以上の対象の化合物を含む。いくつかの実施形態では、試料130は、GCMSによる分析の前に低減させるか、又は排除しなければならない、試料マトリックス(例えば、水、エタノールなど)を含む。したがって、本明細書で説明される試料抽出過程は、対象の化合物を吸着剤102a~cに収集しながら、更に、試料容器120内の不揮発性有機及び無機マトリックス成分を残しながら、試料マトリックスの実質的な揮発性画分を蒸発させて除去するために使用することができる。いくつかの実施形態では、容器120は、使い捨ての低コストバイアルであるので、バイアル内に残留する汚染物質が廃棄され、したがって、将来の化学分析の汚染を引き起こす可能性がない。可能な場合、新しい試料分析ごとに認定されたきれいなバイアルの使用は、長期安定性及び分析方法論の正確さを確実にすることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、
図1A~
図1Cに例示されるシステムは、完全蒸発真空抽出(Full Evaporative Vacuum Extraction、FEVE)試料調製過程を行うために使用することができるが、本システムの用途は、本明細書に開示されるFEVEに限定されない。FEVE試料調製過程中に、ポート106で真空引きして、試料バイアル120から、試料抽出装置の底部開口108に向かう、輸送部110を通した、吸着剤102a~cを通した、輸送部104を通した、そしてポート106の外への、蒸発させた試料マトリックスの流れを導入する。蒸発させた試料マトリックスの流れは、対象の1種以上の化合物のフローを、試料バイアル120から、試料抽出装置100の底部開口108へと、輸送部110を通して、そして吸着剤102a~cのうちの1つへ導入するためのキャリア流体として作用することができる。蒸発試料マトリックスをキャリア流体として使用して対象の化合物を収集することは、揮発性マトリックス成分を蒸発させるために別々のキャリアガスを加える他の方法と比較して、試料から対象の化合物を抽出するために必要なキャリア流体の容積を低減させることができる。次に、より少ない容積のキャリア流体を使用することは、試料を留め置くために必要な吸着剤102a~cの容積を低減させることができ、したがって、脱着及び分析中の化合物の回収を改善し、抽出装置のサイズ/長さを低減させ、かつ吸着剤を洗浄する能力を高める(より少ない吸着剤は、より多い吸着剤よりも、より急速に洗浄する)。
【0039】
真空度及び/又は試料の温度は、吸着剤102を通した試料マトリックスの一貫した揮発を生じさせるように制御することができる。バイアル内のより高い真空又は試料のわずかに高い温度は、蒸発速度を増加させ、したがって、吸着剤を通る水性又は他の溶媒マトリックスの排除速度を増加させる。試料130に高い温度を適用する場合、吸着剤上の揮発性マトリックスの凝結を回避するために、吸着剤102a~cの温度も上昇させなければならない。試料130よりも摂氏5~20度高い吸着剤102a~cの温度は、揮発性マトリックスの排除中の吸着剤102a~c内の凝結を排除するはずである。全ての場合において、そうでない場合にはエアロゾルが非揮発性マトリックス成分を吸着剤102a~cの中へ移送し得るので、試料130の揮発性マトリックスが能動的に沸騰しないように、熱及び真空の組み合わせを維持しなければならない。上で説明したように、吸着剤102a~cは、Tenax又はCarbopackなどの疎水性吸着剤を含むか、又は吸着剤の組み合わせを最弱~最強へとチューブ内に配設して(最弱の吸着剤102aが試料バイアル120の最も近くにあり、最強の吸着剤102cが試料バイアル120から最も遠くにある)、より広い沸点範囲の化合物の回収を可能にすることができる。例えば、ポリジメチルシロキサンゴムの薄い層(例えば、0.1~5umの層)でコーティングされたガラスビーズは、第1の弱い吸着剤102aを作成して、熱脱着中に、吸着剤102a~cを高温に加熱し過ぎることなく、最も重い化合物の回収を可能にすることができる。更に、試料130の1つ以上の比較的重い化合物は、試料の揮発性マトリックスが除去された時点で試料バイアル120の温度を上昇させる及び/又はいくつかの実施形態では真空が高められる拡散真空サンプリング過程中に、試料抽出装置100の輸送部110の内面に凝縮させて残留させることができる。
【0040】
マトリックスの揮発中に、液体/ガス境界層の化合物は、真空の連続した印加を通して作成された高圧から低圧への勾配及び吸着剤102a~cを通したマトリックスの連続した蒸発が存在しなかった場合よりも効率的にガス相に搬送される。蒸発速度は、吸着剤102a~cを通るガス相マトリックスの流れが、吸着剤102a~cを通る試料化合物(及び揮発性マトリックス)の通常の拡散速度の3~100倍以下である場合に最適化される。拡散速度を高く超え過ぎない流速を容易にするようにシステムを動作させることは、キャリアガス誘起のステアリング力に基づく吸着剤102a~c粒子の周囲の「チャネリング」の量を低減させる。いくつかの実施形態では、毎分1~2cc程度の遅いガス相マトリックスの蒸発流速は、100ulの液体を、20分未満で蒸発させることを可能にすることができ、一方で、1~3ccの液体は、2~16時間で蒸発させることができる。一例として、4~5mmの内径を有する試料抽出装置100を使用する場合、蒸発試料のガス相流速は、チャネリングを低減させるために、5cc/分以下であり得る。いくつかの実施形態では、多数(例えば、30個、60個、90個など)の試料を、
図2を参照して下で説明されるように、自動化抽出中に処理して、研究室のスループットを増加させることができ、よって、30~90個の試料が同時に抽出される場合に、4~16時間の抽出であっても、極めて高い研究室の生産性をもたらすことができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、液状マトリクスの完全な蒸発の後、最も重いGC適合化合物(例えば、5~6環の多環芳香族炭化水素、高沸点環境汚染物質、重質フタル酸、及び他の可塑剤など)が、バイアル120のガラス又は残渣に残留し得る。したがって、いくつかの実施形態では、真空をオフにする前に、ヒータを使用してバイアル120を、摂氏50~300度、摂氏250度超、又は摂氏300度以上の高さの温度などの、高い温度まで加熱することができる。一例として、摂氏200~250度の範囲の温度は、大気圧で摂氏400~550度の範囲の沸点を有する5~6環の多環式芳香族炭化水素の回収を可能にすることができる。加えて、揮発性マトリックスが除去された後に真空を高めることは、低温であっても、より重い標的化合物の回収を可能にすることができ、試料バイアル120内の残留残渣中の熱的に不安定な化合物が熱分解する可能性を更に低減させる。したがって、熱及び真空の両方を組み合わせて、試料130と吸着剤102a~cとの間の非常に短い距離によって、周囲圧力時に必要であるよりもはるかに低い温度での化合物の回収を可能にし、それによって、多くの熱的に不安定な化合物の回収を増加させる。ワインなどの多くの天然産物を分析する場合に、単に摂氏50~100度まで加熱することで、試料マトリックスを分解することなく、全ての重要な芳香化合物を回収することができ、それによって、GCMS分析における不要なアーチファクト化合物を回避する。加えて、第2の拡散真空抽出工程における比較的強い真空下での動作はまた、そうでない場合に摂氏50~60度の比較的低い温度であってもワインなどの食品試料との反応を生じさせる空気、したがって酸素を除去し、それによって、ほとんど又は全くアーチファクトを形成することなく、わずかに高い温度(例えば、摂氏50~100度)を適用することを可能にする。
【0042】
例えば、吸着剤102a~c上の熱水/アルコールの急速な沸騰及び再凝結は、吸着剤102a~cから化合物をリンスして、バイアル120に戻し得るので、水又は水/エタノールの排除前の高温抽出が問題になる。更に、試料130のマトリックスの沸騰を可能にすることは、例えば塩、鉱物、タンパク質、脂質などの不揮発性マトリックス成分をエアロゾル化し、それらの吸着剤102a~cへの堆積を生じさせ、熱脱着中のアーチファクトの形成、吸着剤の損傷、及び抽出装置100の寿命の短縮をもたらす。いくつかの実施形態では、水/エタノールが全て蒸発して、吸着剤を通過すると、吸着剤102上へすでに吸着された化合物に影響を及ぼす揮発性マトリックスを沸騰及び凝縮させる可能性を伴うことなく、バイアル106をより高い温度まで加熱することができ、及び/又は真空を高めることができる。加熱中に、いくつかの実施形態では、まだバイアル120内に存在するより重いGC適合化合物に、試料バイアル120の内面から又は残留するマトリックス残渣から揮発するのに十分なエネルギーが与えられ得るので、該化合物は、吸着剤102a~cによって捕捉され得、又は単に該化合物が輸送部110の内部に付着し、該化合物を、(例えば、GCMSへの熱脱着中に)化学分析のために容易に回収することを可能にする。
【0043】
第2段の拡散真空抽出過程中の試料バイアル120の加熱は、ガラスバイアル120の頂部が低熱伝導体であり得、また、いくつかの実施形態では加熱が1~10分の範囲内の期間に制限され得るので、吸着剤102a~cの温度にごくわずかな影響しか及ぼし得ない。いくつかの実施形態では、加熱は、異なる時間にわたって行うことができる。加熱温度及び期間は、バイアル120内に残留する化合物の熱安定性に依存することができる。一例として、大部分の水試料を分析したときに残った残渣は、プラスチックナノ粒子の存在下であっても、残留残渣のいかなる劣化も伴うことなく、摂氏200~250度まで加熱することができる。抽出の後、バイアルは、(例えば、摂氏30~80度以下の範囲の温度まで)冷却することができ、試料抽出装置100は、
図3を参照して以下により詳細に記載されるように、熱脱着-ガスクロマトグラフィ/質量分光分析(Thermal Desorption-Gas Chromatography/Mass Spectrometry、TD/GCMS)による分析を待っている間に、汚染を防止するために取り外して隔離することができる。
【0044】
図2A~
図2Cは、いくつかの実施形態による、自動化構成の複数の例示的な試料抽出システム100を例示する。
図2A~
図2Cでは、各々が
図1A~
図1Cを参照して上で説明した試料バイアル120に取り付けられた複数の試料抽出装置100は、試料成分抽出モジュール200で留め置かれる。いくつかの実施形態では、試料成分抽出モジュール200は、30個の試料抽出装置100(例えば、5列×6個の試料抽出装置100)を収容する。試料成分抽出モジュール200は、真空ポート214及び側部支持体208を含む真空プレート204を有する抽出トレイと、頂部クランププレート203と、ボルト202と、真空プレートヒータ205と、試料バイアルヒータ206と、締結具210と、を含むことができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、真空プレート204は、真空スリーブ140を通して試料抽出装置100のポート106を真空源に流体結合することができる。真空源は、真空ポート214を介して真空プレート204に結合することができる。このようにして、全ての試料バイアル120を同時に真空引きすることができる。更に、自動化システムが(それらのそれぞれの試料バイアル120、真空スリーブ140、及び締結具150に結合された)全ての試料抽出装置100を配置して、真空プレート204を通して1つの供給源で真空引きすることは、異なる真空源を各試料抽出装置100アセンブリに結合することよりも容易に行うことができるが、いくつかの実施形態では、当然ながら、各抽出装置への真空の別々の接続が可能である。追加的に、複数の試料抽出装置100の組立体を同時に真空引きすることは、試料抽出装置100を一度に1つ真空引きするよりも効率的であり得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、吸着剤102a~cは、標的化合物が吸着剤102a~cを通り抜けず、真空ポンプのそれらの損失を防止するように、試料に対して選択することができる。いくつかの実施形態では、二次汚染が懸念される場合、取り外し可能なフィルタ及び/又は吸着剤を試料抽出装置100の間に使用することができる。外部環境から試料バイアル120内の制御された真空を維持して、試料バイアル120を真空引きして維持することを確実にするために、ボルト202は、クランププレート203を真空スリーブ140上に押し下げるように締めて、シール142a~bを使用して真空プレート204に真空気密シールを作成することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、真空プレート204は、真空プレート204を通した真空ポンプへの揮発性マトリックスの排除速度を高めるようにヒータ205に結合することができる。ヒータ205を真空プレート204の下に加えることは、真空プレート204及び抽出装置100の下側部分の両方を加熱して、吸着剤102a~cの温度を、試料マトリックスの温度よりも摂氏5~20度高く維持することを補助することができる。この加熱は、抽出装置100内又は真空プレート204内に揮発性マトリックスのいかなる凝結も生じないことを確実にすることを補助することができ、それによって、(拡散の第2段が行われる状況では)拡散の第2段よりもはるかに長い、第1段の動的抽出を行うために必要な時間を低減する。
【0048】
いくつかの実施形態では、試料バイアル120は、試料抽出中に、ヒータ206の内部に位置させることができる。試料マトリックスの蒸発中に、ヒータ206は、摂氏40度以下(例えば、摂氏30度)の温度まで加熱することができる。揮発したマトリックスの除去が、(例えば)摂氏100~400度で沸騰する化合物を吸着剤102a~cに搬送し、摂氏100度未満又は実質的にそれ未満で沸騰する化合物に吸着剤を通過させる、第1段の動的真空抽出過程の後、バイアル120は、残留残渣を沸騰させることがもはやできなくなると、より高い温度まで加熱することができ、それにより、重質化合物を第1の輸送部110に、又は吸着剤102aの最前部に堆積させることによって、残留化合物を吸着剤102a~cに拡散的に移送することができ、それらの吸着剤抽出装置100からの最終的な回収、及び最終的な浄化を改善し、それによって、後続の分析へのキャリーオーバーの可能性を低減させる。いくつかの試料について、ヒータ206によって試料を加熱することは、対象のより重い化合物を揮発させることができ、これらの対象のより重い化合物が、収集されて分析される試料抽出装置100の吸着剤102a~cに到達することを可能にする。
【0049】
いくつかの実施形態では、真空スリーブ140、真空プレート204、真空クランププレート203、ボルト202、及び垂直支持部208(全体で、FEVEトレイ201a)は、抽出装置100を含む組み立てられたトレイ200を、上部ヒータ205及び下部ヒータ206を含むFEVEヒータプラットフォーム201bに移送するための素早い方式を作成し、それにより、ヒータのプラグを抜いて、トレイと共に移動させる必要がない。このように、30個の試料の1つのトレイが抽出されているときに、別のトレイに試料バイアル120、抽出装置100、及び真空スリーブ140を装填して、前のトレイが終了したときに抽出を開始することができる。この配設は、生産研究室のより高いスループットを可能にすることができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、
図2に例示される自動化構成を使用して、30個以上の試料に対して4~16時間の抽出を同時に行うことができ、この時間は、注入から注入までの完全なサイクルタイムに30分かかる場合、GCMSを通して30個の試料を処理するのにかかる時間と同じであり得る。標準GCMSサイクルタイムは、水中の有機物の1分析当たり25~45分程度であり得る(30個の試料を15~25時間ごとに実行する)ので、30個の試料の16時間の一晩の抽出は、許容可能なスループット速度であり得る。例えば、30個の試料を調製している間に、前に調製された30個の試料を、GCMSを介して分析することができる。より高速なGCMS法の場合、30個超の試料を一度に抽出して、2つ、3つ、又は4つのトレイを一度に抽出することなどの、更に高いスループット速度に適応することができる。これらの抽出は、GCMSの場所に、又は遠隔の研究室の別の区域に、又は遠隔場所に生じさせることができ、抽出装置だけが、元のものではない抽出前の試料自体を輸送する。いくつかの実施形態では、調製される試料に応じて、30個の試料の抽出には、16時間未満(例えば、4時間)かかり得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、真空は、試料抽出装置100のポート106に真空源を流体結合することによって維持/作成することができる。いくつかの実施形態では、(例えば、GCMSを介した)分析中に、ポート106を使用して、試料のGCMSへの熱脱着を行う。真空を含むチャネルトレイ上に有するプレート204などにおいて、これらのシール用装置が互いに接続された場合、このプレート204を通して各試料抽出装置100上の側部ポート106に分配された同じ真空源に、多数の抽出装置100を結合することができる。各試料バイアル120内のマトリックスが完全に排出されると、特に、わずかな抵抗体(例えば、吸着剤102a~c)を通して排気する場合に、より高い真空レベル(例えば、より低い圧力)が達成される。いくつかの実施形態では、真空センサは、試料バイアル120内の引かれた真空レベルの上昇(例えば、より低い圧力)を検知することによって、いつ全てのマトリックスが全てのバイアルから出たかを「検知する」ことができる。例えば、マトリックスが試料バイアル120内に残留している間は、主に水性試料について摂氏30度で0.3~0.4psiaの圧力を達成することができ、マトリックスが完全に蒸発すると、元の試料が主に水、水/アルコール、水/溶媒、又は主に溶媒マトリックスのどれを含有しているかにかかわらず、0.1~0.2psiaの圧力を達成することができる。野菜、果物、又は他の食品からの抽出などの間に、かなりの量の低沸点溶媒が使用されるか、又はマトリックスに加えられる場合、抽出に最適な真空は、沸騰がバイアル内に生じないように、より高く(例えば、0.5~2psia)なり得る。いくつかの実施形態では、例えば、圧力の低下を検出することに応答して、ヒータ206を使用して、試料バイアル120をわずかに(例えば、摂氏約30度の温度から摂氏約40度の温度まで)加熱することができる。試料バイアル120内の温度のわずかな増加に応答して圧力が増加する場合、水又は溶媒の動的な除去はまだ終わっておらず、真空を水、溶媒、又はそれらの混合物の蒸気圧力よりも低く維持することができるまで、除去を続けることが可能でなければならない。
【0052】
図2のように多数が配設される場合は、オートサンプラが、抽出過程が完了した後に試料抽出装置100を除去することができる。いくつかの実施形態では、オートサンプラは、試料抽出装置100のデテント114によって抽出装置100を把持することができる。いくつかの実施形態では、オートサンプラが試料抽出装置100を真空スリーブ140から持ち上げることによってシールを破る場合、保持ねじ210は、トレイ全体を持ち上げることができないこと、むしろ個々の抽出装置100だけを持ち上げることができることを確実にする。抽出後、いくつかの実施形態では、オートサンプラは、分析まで、試料抽出装置100を、隔離された保護スリーブ内に配置することができる。いくつかの実施形態では、試料抽出装置100の吸着剤102a~cで収集された試料化合物は、システム300を使用して分析することができ、以下、
図3を参照して説明する。
【0053】
図3は、本開示のいくつかの実施形態による、試料抽出装置100で収集された試料を分析するために使用されるシステム300を例示する。システム300は、熱脱着装置310と、ガスクロマトグラフ320と、複数のバルブ332~338と、検出器340と、圧力コントローラ352と、流れコントローラ354と、を含む。ガスクロマトグラフ320は、プレカラム322及び分離カラム324を収容する。圧力コントローラ352は、脱着バルブ334を通した試料抽出装置100へのキャリア流体の流量及び/又はバイパスバルブ332を通るカラム324へのキャリア流体の流量を制御する。分割制御部354は、試料抽出装置100から分割バルブ336への及び/又は分割バルブ338を通した接合部326からシステム300の外への流量を制御する。
【0054】
バイパスバルブ332は、キャリア流体をプレカラム322と分離カラム324との間の接合部326に結合する。脱着バルブ334は、キャリア流体源を試料抽出装置100に結合する。分割バルブ336は、試料抽出装置100を分割コントローラ354に結合し、化合物が、プレカラム322の前でシステムを出ることを可能にする。分割バルブ338は、プレカラム322と分離カラム324との間の接合部326を分割コントローラ354に結合し、プレカラム322を通り抜けた化合物が、カラム324に進入する前にシステムを出ることを可能にする。
【0055】
熱脱着装置310は、GC320に試料を直接導入することを可能にするように、ガスクロマトグラフ(gas chromatograph、GC)320の上に取り付けられる。この配列により、次に回転バルブ及び追加の加熱ラインを通して試料をGCに送達しなければならない遠隔の「コンディショニング」装置に試料を脱着させるシステムと比較して、試料の回収が改善される。熱脱着装置310は、ライナ302が熱脱着装置310の内部に配置された熱脱着装置、及び脱着後に試料を更に濃縮するために使用することができるプレカラム322にだけ試料を露出する。したがって、ライナ302及びプレカラム322の交換は、システム300のための完全に新しい流路を提供し、単にこれらの2つの構成要素を時として交換することによって、同じ性能を無制限に提供し続けることができる解決策を提供する。
【0056】
脱着中に、熱脱着装置310は、摂氏200~350度の範囲の脱着温度まで加熱される。この熱は、試料抽出装置100で捕捉された化合物を、試料抽出装置100の吸着剤102a~cによって放出させる。脱着中に、プレカラムの下流の分割ポート338は、試料抽出装置100を通る流量を増加させるように開かれて、より重い化合物の回収速度を向上させる。脱着中に、重いVOC及び全てのSVOCがプレカラム322に収集され、水蒸気及びより軽質の化合物は、分割ポート338を介してプレカラム322と分離カラム324との間で大部分が分離される。微量レベルの分析が必要でない場合の第2の動作モードでは、非保持性プレカラム322が使用され、分割バルブ338は、対象の全ての化合物がバルブ338を通して等しく分離されるまで保たれ、非常に再現性の高い結果を可能にする。
【0057】
脱着が完了した後、分割ポート336を開いて、試料抽出装置100内に残るあらゆる残留化合物が、プレカラム322に到達することを実質的に止めて、分割ポート338を閉じることができる。このようにして、プレカラム322の全ての内容物が、(微量レベルの分析中に)GC320の温度がより高い温度へと傾斜するときにカラム324に移送され、それによって、本技術の感度を最大にする。その後に、いくつかの実施形態では、バイパスバルブ332を開いて、プレカラム322を通して流すことなく、カラム324を通したキャリア流体の流れを可能にする。更に他の実施形態では、バイパスバルブ332を開いて、次いで、分割バルブ336を開くことによって、プレカラムをバックフラッシュして、まさに最も重い化合物を除去して、一次分析カラム324の汚染を回避することができる。今日のGC分析器の温度及び流れの一貫性により、この分析におけるバックフラッシュ点は、全ての標的化合物が回収されることを確実にするために、非常に再現性が高くなり得るが、それでも、まさに最も重い化合物を、主カラム324の長さ全体を押し通すことができるよりもはるかに高速に該化合物をプレカラム322にバックフラッシュさせることができるので、試料スループットを最適化する。カラム324から溶出する化合物は、検出器340に導入される。検出器は、FID、PID、ECD、FPD、PFPD、PDD、ホール検出器、CLD、若しくは他のものなどの非特異的な検出器とするか、又はシングル四重極、トリプル4四重極(triple quadruple、QQQ)、飛行時間、イオントラップ、FTMS、若しくはOrbitrap設計などの質量分析計とすることができる。
【0058】
図4は、本開示のいくつかの実施形態による、試料を調製及び分析する例示的な方法400を例示する。方法400は、
図1A~
図3を参照して上で説明したシステムのうちの1つ以上を使用して行うことができる。方法400を行う前に、試料130は、試料バイアル120の中へ計量され、次いで、
図1A~
図1B又は
図2に示されるように試料抽出装置100に取り付けることができる。方法400の1つ以上の工程は、繰り返す又はスキップすることができ、方法400の工程は、本明細書で説明される順序以外の順序で行われ得る。いくつかの実施形態では、方法400の1つ以上の工程を自動化することができる。したがって、方法400を行うために電子装置によって読み出すことができる実行方法400のための命令は、非一時的コンピュータ可読記憶媒体に記憶され得る。
【0059】
方法400の工程402では、真空は、吸着剤102a~cを通して試料バイアル120を真空引きすることができる。例えば、
図2を参照して上で説明したように、真空トレイ200に配置された複数の試料バイアル120を真空引きすることができる。工程402は、試料130の全ての高揮発性マトリックスが蒸発するまで行われる。更に、蒸発する試料マトリックスの流れは、対象の1種以上の化合物を試料抽出装置100内の吸着剤102a~cに搬送するために、キャリア流体として作用する。本明細書で説明されるように、真空引きされて、試料マトリックスが蒸発している間に対象の1種以上の化合物を捕捉することは、動的なヘッドスペース過程である。工程402中に、ヒータ206の温度は、摂氏40度以下とすることができる。工程404中(行われる場合)に使用される温度よりも低い温度で工程402を行うことは、熱水中で加水分解を受ける化合物(例えば、農薬、除草剤、化学兵器剤)を含む多くの化合物と水との反応を低減させるか又は防止する。工程402の完了は、全ての高揮発性マトリックスが蒸発したときに圧力の低下を示す、圧力センサ/トランスデューサを使用することによって決定されることができる。いくつかの実施形態では、圧力センサが圧力の低下を検出した後、圧力センサを監視して圧力が上昇してないことを確認する間に、試料バイアル120の温度がわずかに上昇し得、揮発性マトリックスが完全に除去されたことを示す。
【0060】
いくつかの実施形態では、方法400の工程404で、揮発性マトリックスがすでに除去されたことを考慮して、試料バイアル120を加熱すること、及び/又はその真空を高めることができる。例えば、
図2を参照して上で説明したように、試料バイアル120は、ヒータ206を使用して、摂氏50~300度、摂氏50~100度、摂氏200~250度の範囲の温度、摂氏300度超、又は別の好適な温度まで加熱することができる。いくつかの実施形態では、試料バイアル120は、例えば、5~10分の範囲のある期間にわたって加熱される。いくつかの実施形態では、工程404は、(例えば、工程402中に)全ての試料マトリックスが蒸発した時点で行われる。このようにして試料バイアル120を加熱することは、工程402中に吸着剤102a~cに移送されなかった試料の対象の1種以上のより重い化合物を揮発させることができる。いくつかの実施形態では、工程404で加えられる熱は、化合物が分解することによってアーチファクトを作成することなく重質化合物を揮発させるように選択することができる。いくつかの実施形態では、試料バイアルが真空に保持され、試料バイアルが加熱されている間に対象の1種以上の化合物を捕捉することは、拡散過程である。
【0061】
工程402及び/又は404の後、試料抽出装置は、分析まで隔離スリーブ内に配置することができる。工程404が行われた場合、試料抽出装置100を(例えば、摂氏25~80度、摂氏25~50度の範囲の温度、又は別の好適な温度まで)冷却することを可能にする。いくつかの実施形態では、試料抽出装置100から真空源を結合解除する前に、吸引装置をオフにすることができ、そして、窒素ガス又は別の不活性ガスを使用して試料抽出装置100を加圧して、システムの環境内の空気の汚染を低減させること、又は防止することができる。窒素又は他のガスは、ポート106を通して試料抽出装置100に導入することができる。いくつかの実施形態では、試料抽出装置100は、真空トレイ200から化学分析システム300に直接移送することができる。しかしながら、いくつかの実施形態では、(例えば、
図2を参照して上で説明したように)工程402及び/又は404で複数の試料を抽出することができ、他の試料が処理されている間に1つ以上の試料を隔離スリーブに格納することができる。試料抽出装置100を隔離することは、試料抽出装置100の吸着剤102a~c内に保持された抽出された試料の汚染を低減させるか、又は防止する。
【0062】
いくつかの実施形態では、過程400の工程408で、試料を、
図3を参照して上で説明したシステム300を使用して、試料抽出装置100から脱着させることができる。工程408中に、試料抽出装置100は、熱脱着装置310内に配置することができる。熱脱着は、吸着剤102a~cによって留め置かれる1種以上の試料化合物を吸着剤102a~cから脱着させて、任意の空気及び水蒸気を含む、残留する軽質化合物からの更なる分離のために、GC320のプレカラムに進入させることができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、過程400の工程410で、分析カラム324上での分離、及び
図3を参照して上で説明した検出器340を使用することなどによって、試料を分析することができる。いくつかの実施形態では、カラム324及び検出器340を使用して化学分析を行った後に、化学分析システム300をベークアウトして、次の試料を分析する前にあらゆる化合物を除去することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、開示されるシステム及び方法は、GCMSによって液体及び固体試料中の揮発性及び半揮発性化合物を抽出して分析することができる。いくつかの実施形態では、試料の標的化合物は、摂氏100~600度の範囲の沸点を有することができる。例えば、本システムは、除草剤、農薬、殺菌剤、VOC、SVOC、PAH、PCB、フタル酸、PFOA/PFOS、薬剤、及び他の汚染物質を含む、有機汚染物質についての水及び土の試料の環境分析、違法薬の検出及び定量化のための血液、尿、及び呼気凝縮液を含む臨床試料の分析、並びに疾患マーカー、食品及び飲料における味、香り、及び汚染物質(例えば、農薬、除草剤など)の分析、化粧品及び様々な消費者製品の測定、微量レベルでの神経ガスの検出、微量成分のための海水の分析、並びに様々な法医学的測定に使用されることができる。
【0065】
例えば、本明細書に開示される技術を使用して、生産物(例えば、果物、野菜)及び/又は他の食品の農薬含有量を分析することができる。この実施例では、生産物を混合して水及びエタノールなどの溶媒又はいくつかの他の溶媒にさらして、トリグリセリド並びに農薬及び他の汚染物質を含む他の有機材料を溶媒又は水/溶媒の混合物中に可溶化することを確実にすることができる。この実施例では、生産物及び溶媒の混合物は、対象の化合物を含有する溶媒からセルロースを分離するために遠心分離することができ、溶媒層の一部分は、上で説明した1つ以上の試料バイアル120の中へピペットで移すことができる。この実施例では、試料のマトリックスを蒸発させることに関して上で説明した様式と溶媒同様な様式で、を蒸発させることができる。溶媒の蒸発は、対象の1種以上の化合物を吸着剤102a~cに搬送することができ、一方で、1種以上のトリグリセリド及び不揮発性化合物は、試料バイアル120内に残留され得る。この実施例では、溶媒を完全に蒸発させた時点で、試料バイアル120及び残存化合物を加熱して、1種以上の農薬を含む、対象のGC適合化合物を揮発させることができ、一方で、非GC適合化合物は、試料バイアル120内に残留する。加えて、対象のより重い農薬又は他の化合物を回収するために必要な必要温度を低下させるために、真空レベルを高めることができる。したがって、この実施例では、本明細書で説明される技術を使用して、試料から対象の化合物を完全に抽出すること、蒸発を介して溶媒を除去すること、及び対象の化合物の抽出後に、非GC適合化合物を試料バイアル120内に残すことによって、それらの化合物をガスクロマトグラフに注入することを回避することができる。他の分析法と同様に、混合前に代用の又は回収化合物を最初の試料に加えて、抽出過程中の一貫した回収を確実にすることができる。本明細書で説明される技術は、典型的に標準GC注入器に注入することができる1マイクロリットルの溶媒量に限定されることなく、これらの全てを行うことが可能である。代わりに、その溶媒の容積中の実質的に全ての対象の化合物をGCMSに注入することによって、1000~2000マイクロリットルを分析することができ、GC溶媒の直接注入に対して感度を大幅に高める。
【0066】
いくつかの実施形態は、方法を目的とし、該方法は、吸着剤を含む試料抽出装置を、移送ラインを含まない結合部を介して試料バイアルに結合することであって、試料バイアルが、試料マトリックス及び1種以上の標的化合物を含む試料を含む、結合することと、真空源によって、吸着剤及び試料バイアルを通して真空を引くことと、真空源によって真空を引いている間に、吸着剤を使用して1種以上の標的化合物を留め置くことと、試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去することと、を含む。いくつかの実施形態では、吸着剤及び試料バイアルを通して真空を引くこと、吸着剤を使用して1種以上の標的化合物を留め置くこと、並びに試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去することが、動的真空抽出過程中に生じる。いくつかの実施形態では、試料の1種以上の他の化合物が、システムから完全に除去される。いくつかの実施形態では、本方法は、試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去した後に、試料バイアルを摂氏50~350度の範囲の温度まで加熱すること、又は試料バイアル内の真空を高めること、のうちの1つ以上を行うことを更に含む。いくつかの実施形態では、本方法は、試料バイアル内の真空を高めること、又は試料バイアルを摂氏50~350度の範囲の温度まで加熱すること、のうちの1つ以上を行っている間に、拡散真空抽出過程において、試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去している間に収集されなかった1種以上の第2の標的化合物を収集することを更に含む。いくつかの実施形態では、吸着剤及び試料バイアルを通して真空を引くこと、吸着剤を使用して1種以上の標的化合物を留め置くこと、並びに試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去することが、試料バイアルが摂氏40度以下の温度である間に生じる。いくつかの実施形態では、真空源が、複数の吸着剤を通して真空を同時に引き、各吸着剤が、複数の試料バイアルのうちの1つに含まれる。いくつかの実施形態では、本方法は、吸着剤と試料抽出装置の下部開口との間に配置されている試料抽出装置の下部輸送部を使用して、吸着剤及び試料バイアルを熱的に分離することを更に含む。いくつかの実施形態では、本方法は、試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去した後に、拡散真空抽出過程中に、試料抽出装置の下部輸送部において試料の1種以上の第2の標的化合物を収集することを更に含む。いくつかの実施形態では、本方法は、真空センサを使用して、試料バイアル内の圧力を検知することと、試料バイアル内の圧力が所定の閾値よりも低いと判定することに基づいて、試料の1種以上の他の化合物がシステムから完全に除去されたと判定することを更に含む。
【0067】
いくつかの実施形態は、システムを目的とし、該システムは、吸着剤を含む試料抽出装置と、試料抽出装置を、1種以上の標的化合物及び1種以上の他の化合物を含む試料を含む試料バイアルに結合するように構成された、結合部と、真空源であって、吸着剤及び試料バイアルを通して真空を引くことと、試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去することと、を行うように構成された、真空源と、を備え、真空源が吸着剤及び試料バイアルを通して真空を引いている間に、吸着剤が、1種以上の標的化合物を留め置くように構成されている。いくつかの実施形態では、吸着剤及び試料バイアルを通して真空を引くこと、吸着剤を使用して1種以上の標的化合物を留め置くこと、並びに試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去することが、動的真空抽出過程中に生じる。いくつかの実施形態では、試料の1種以上の他の化合物が、システムから完全に除去される。いくつかの実施形態では、本システムは、試料バイアルを加熱するように構成されたヒータを更に備えることを更に含み、システムが、試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去した後に、ヒータによって、試料バイアルを摂氏50~350度の範囲の温度まで加熱すること、又は真空源を使用して、試料バイアル内の真空を高めること、のうちの1つ以上を行うように構成されている。いくつかの実施形態では、動的真空過程において、試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去している間に収集されなかった1種以上の第2の標的化合物が、試料バイアル内の真空を高めること、又は試料バイアルを摂氏50~350度の範囲の温度まで加熱すること、のうちの1つ以上を行っている間に収集される。いくつかの実施形態では、吸着剤及び試料バイアルを通して真空を引くこと、吸着剤を使用して1種以上の標的化合物を留め置くこと、並びに試料の1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去することが、試料バイアルが摂氏40度以下の温度である間に生じる。いくつかの実施形態では、真空源が、複数の吸着剤を通して真空を同時に引くように構成され、各吸着剤が、複数の試料バイアルのうちの1つに含まれる。いくつかの実施形態では、吸着剤と試料抽出装置の下部開口との間に配置された下部輸送部を更に備え、下部輸送部が、試料バイアルと吸着剤との間の熱分離を提供するように構成されている。いくつかの実施形態では、下部輸送部が、拡散真空抽出過程中に、1種以上の他の化合物を蒸発させてシステムから除去した後に、試料の1種以上の第2の標的化合物を収集するように更に構成されている。いくつかの実施形態では、本システムは、試料バイアル内の圧力を検知するように構成された真空センサを更に備え、試料バイアル内の圧力が所定の閾値よりも低いと判定することに基づいて、試料の1種以上の他の化合物がシステムから完全に除去されたと判定する。
【0068】
添付の図面を参照して実施例を完全に説明してきたが、様々な変更及び修正が当業者には明らかとなることに留意されたい。かかる変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の実施例の範囲内に含まれるものとして理解されるべきである。