(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】人間の目と脳を局所的に活性化し、視覚パフォーマンスを訓練するシステム、特に視覚野を活性化し、人間の脳の神経ネットワークを再編して、残存視力を強化するシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240321BHJP
A61F 9/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61N1/36
A61F9/00
(21)【出願番号】P 2022518322
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2020074408
(87)【国際公開番号】W WO2021052754
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】102019125416.7
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102019126163.5
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102019127098.7
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102019130302.8
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522109984
【氏名又は名称】サヴィーア ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SAVIR GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カオ、イン
(72)【発明者】
【氏名】サーベル、コルネリア
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109045435(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0066396(US,A1)
【文献】特表2007-500053(JP,A)
【文献】特表2016-526447(JP,A)
【文献】特表2019-511322(JP,A)
【文献】特表2019-521379(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0374971(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0143116(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
A61F 9/00
A61N 1/04
A61H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚パフォーマンスを訓練するために人の目と脳を局所的に活性化するシステムであって、
目及び/又は脳に電流を導き、循環系を刺激して神経細胞を活性化するためのアプリケータと、
電気刺激信号を生成するためのパルス発生器と、
患者固有の刺激信号シーケンスを提供するためのデータ処理及び制御ユニットとを備え、
前記アプリケータは、被験者の頭部に接触させることができる少なくとも二つの電極を有し、交換可能な刺激電極が、患者の頭部のこめかみの領域において、目の右側及び左側に接触する、又は静止するように前記アプリケータに固定され
、
前記アプリケータ及び/又は電極を受容するためのホルダが、変形可能なプラスチック材料からなり、
前記ホルダ及び/又は前記刺激電極は、導電性プラスチック材料からなることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記アプリケータは、患者の頭部の形状に個別に適合可能であり、患者の額及び後頭部領域に固定されるように調整手段が形成されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記アプリケータは、頭部に装着可能なリング状又は冠状に形成され、鼻梁支持部及び/又は耳支持部及び/又は後頭部支持部と、後頭部領域に重量補償用の電子部品用の受容部とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記刺激電極は、乾式パッド電極又は湿式パッド電極として形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記アプリケータに、特にクリップで留めるための固定点が設けられ、患者の目の下の領域にも交流電流を流すことができることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記アプリケータ上、又は前記アプリケータ内に、有線又は無線のデータ通信のためのインターフェースが形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
特にイヤホン又はヘッドホンとして形成された音響発生手段が前記アプリケータに設けられ、交流治療中に患者を誘導するための情報、及び/又は患者をリラックスさせるための音響を提供することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記アプリケータは、自立した操作のために、交流パルス発生器と、データ処理及び制御ユニットと、電流供給装置とを備え、治療プロセス及び/又は刺激信号シーケンスが、コンピュータプログラム製品によって実現されることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記刺激電極は、湿式パッド電極として形成されており、前記アプリケータ上又は前記アプリケータ内に、電極を湿らせるための水分リザーバが設けられていることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記アプリケータに、交換用電極を受容するための袋が存在することを特徴とする請求項1~
9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記アプリケータは、既知の脳波電極キャップと組み合わせ可能に形成されていることを特徴とする請求項1~
10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
電流供給装置を有する電子部品を備えることを特徴とする請求項
1~
11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
高すぎる異常な接触抵抗の場合にパルス発生器を停止させるための、前記刺激電極と患者の皮膚表面との間の接触抵抗を決定するためのユニットが形成されていることを特徴とする請求項1~
12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記アプリケータが、皮膚及び脳の循環系を非侵襲的に決定し、酸素飽和度を決定するための少なくとも1つのアセンブリを備え、NIRエミッタ及び少なくとも1つの関連NIR検出器が、患者の頭部上の前記刺激電極から離間した位置に、前記刺激電極とは別に配置されてもよく、NIRスペクトロスコピーデータは刺激信号シーケンスの切れ目又は終わりに検出され、持続する改善された血液循環及び/又は酸素飽和度の持続時間を決定し、データ処理及び制御ユニットの最新の動作が実現され得ることを特徴とする請求項1~
13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記刺激電極の位置は、EEG10-20システムの命名法による、F7-F8配置に対応することを特徴とする請求項1~
14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のシステムが備えるアプリケータであって、
頭部に装着する装備の一部として搭載された、特にパイロット、宇宙飛行士、深海潜水士が頭部に装着するヘルメットに搭載されたことを特徴とするアプリケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚パフォーマンスを訓練するために人間の目や脳を局所的に活性化するシステム、特に視野欠損の場合に残存視力を強化するために、非侵襲的パルス治療、特に交流パルス治療(tASC)により人間の目や脳の神経細胞を活性化するシステムに関し、目及び/又は脳に電流を導き、視覚系の神経細胞、特に網膜神経節細胞を循環刺激し活性化するためのアプリケータと、電気刺激信号を生成するためのパルス発生器、及び患者固有の刺激信号シーケンスを提供するためのデータ処理及び制御ユニットと、アプリケータが被験者の頭部に接触させることができる少なくとも二つの電極を有する、請求項1のプリアンブルによる電気刺激信号の制御装置とで構成される。
【背景技術】
【0002】
視野欠損は、網膜、視神経、脳の神経細胞が再生できないため、これまで不可逆的と考えられてきた。しかし、網膜の信号を評価、解釈する脳が、あるメカニズムによって残存信号を永続的に増強することができるため、視野欠損の部分的な回復が可能であることが開示されている。また、網膜には神経細胞があり、病的な事象が発生するとその機能を低下させ、神経信号を発することができなくなる「become mute」が起こるが、実際に死滅するわけではない。
【0003】
経験的に、ほとんどの患者において残存視覚パフォーマンス、すなわち、残存視力が残っていることから、「mute」状態の神経細胞の再活性化を行い、シナプス伝達の改善により残存視覚パフォーマンスを強化することが提案されている。臨床研究では、視覚トレーニングや交流刺激による治療法のサクセスが報告されている。交流治療では、網膜全体と脳の一部が活性化され、同期化される。患者の大多数は、上記の治療態様に良い反応を示す。脳波とfMRTとを用いた交流のメカニズムの生理学的検査は、脳内の循環系と神経ネットワークの再組織の大規模かつ全体的な変化を示す。目や脳の視覚系で神経細胞の局所的な活性化が起こり、神経ネットワークの全体的な再編成が行われる。神経細胞の再活性化と神経の可塑性の調節により、残存視力を強化することができるため、眼科における視覚のリハビリテーションでは、目だけでなく、脳も非常に重要視されている。
【0004】
以前から、脳の適応能力(可塑性とも呼ばれる)を眼科医療に活用することが考えられている。微弱な交流電流を流して神経を調節することで、部分的に損傷した視覚機能は、神経の可塑性のプロセスによって強化され得る。
【0005】
最近では、交流パルスによる血行促進や脳のネットワーク活動の再同期化の方法が、半盲になった患者にて実験、検討されている。この方法は、額に特殊な電極を装着し、非侵襲的に数日間、決められた時間で交流電流を流す。この場合、交流電流は、電極から目に流れ、網膜神経節細胞を所定の周波数で刺激し、脳内ネットワークを再同期させることを目的としている。視神経の損傷は、脳内機能ネットワークの混乱を招き、脳波の神経生理学的な脱同期化によって顕著になる。交流電流による治療は、血行促進や脳内ネットワークの再同期化により、この状態を大幅に改善することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、視覚パフォーマンスの再同期は、人によって大きく異なり、膨大な数の異なる要因に依存する。
【0007】
この場合、刺激パルスの最適化とは別に、少なくとも治療中は患者がストレスを感じないようにすることが重要である。この目的のためには、患者の頭部に電極を装着するための技術的手段を含む、最適な刺激電極の形状を創作する必要がある。結果的に、人間工学的に最適であり、治療技術に関する限り、特に適しており、すべての要件を満たすアプリケータを創作する必要がある。
【0008】
さらに、刺激時間を超えても、できるだけ長期にわたって治療のサクセスが維持されるような刺激の最適化を設定することが重要である。
【0009】
技術の現状に関しては、上記の側面に関して文献EP 1 603 633 B1を参照することができ、当該文献は、患者の頭部の所望の位置にある刺激装置のための特別な固定部品が示されており、調節構造が、変形可能な材料で作成されていることから、当該装置は患者の頭部の輪郭に適合させることができる。
【0010】
刺激電極を接触するように位置決めするための固定装置又は配置は、さらに、文献EP 1 708 787及び文献EP 1 734 877 B1に開示されている。
【0011】
隣接する血管の血液循環挙動を追加的に制御する手段による脳刺激に関する技術の現状に関しては、文献WO 2011/106660 A1及び文献WO 2016/115392 A1を参照されたい。
【0012】
文献WO 2011/106660 A1では、刺激の効果を認識すること、特にリアルタイムでの同時刺激と刺激効果の検出について言及されている。刺激中、この目的のために、機能的な近赤外分光法が非侵襲な方法として利用される。この場合、ヘモグロビンの酸素発生状態を測定するために機能的な近赤外分光法が使用される。
【0013】
文献WO 2016/115392 A1は、神経血管系の刺激を用いると同時に、それに対する神経循環系動態反応を記録しながら神経血管反応性を決定する装置及び方法に関する。
【0014】
刺激電極とそれに対応するアプリケータを形成する様々な可能性に関して、以下に簡単に概説される技術の課題に注意を払う必要がある。
【0015】
文献US 5 522 864 Aには、ヘッドバンド状の電極固定具が開示されている。第1の電極は、患者の閉じた瞼に配置される。第2の電極は、ヘッドバンドに固定される。第3の電極は、患者の首の部分に配置される。このような電極構成、特に閉じた瞼に電極を置くことは、患者が不快であると感じ、治療のサクセスに対して否定的なストレスを与える。
【0016】
また、経皮的電気刺激のための刺激装置を示す文献EP 30 13 414 B1に関連する特許ファミリーでは、複数の電極が互いに大きく間隔をあけた位置に固定されている。第1の電極は、患者の額領域に固定されている。第2の電極は、患者の首や肩に配置されている。このような電極の配置は、人に応じて適宜最適な位置に配置することが難しいため、第三者の協力を得ながら、患者自身で最適な位置に配置するしかなく、在宅療法においては大きなデメリットとなる。
【0017】
文献EP 33 49 844 A1では、微小電流の供給による治療が行われている。この点では、瞼の領域で目の上下に点状の刺激電極が配置される。特に電極が比較的小さく、十分な強度の電流を得ることができないという理由からも、多くの患者にとっては、敏感な目の領域に直接的に上記のような配置をすることは不快である。すでに微弱な電流が流れているが、治療には十分な効果がない。ちょうど目の上下の領域において、人間の皮膚は刺激に対して非常に敏感であるため、このような電極の形成に関して評価できる分布は見出されていない。
【0018】
文献EP 2 981 326 B1には、頭部の皮膚表面を電気的に刺激するためのヘッドセット型の配置が開示されている。
【0019】
文献DE 10 2011 055 844 B4は、刺激電極用のメガネ型キャリアが開示されており、一般的なメガネと同様にノーズサポートが追加的に存在しています。当該構成における電極は、取り外し可能、すなわち、交換可能に設計されている。しかし、当該配置では毛髪電極が採用されており、眼球の角膜上に直接配置されるため、角膜を損傷するリスクがある。
【0020】
文献EP 2 651 504 B1では、神経刺激用の電極担体としてのヘッドバンドが提供されており、ヘッドバンドは患者の頭部領域で接触し、対応する電極は患者の後頭部で対称的に接触するように構成されている。さらに、電極を別のパルス発生器と接続するための電気端子が存在する。
【0021】
文献US 2006/129207 Aにおける装置は、神経節細胞を電気的に刺激するための基礎として、メガネ型の構造を採用しており、当該構造は、人の瞼に関連する電極を備えている。瞼に作用する不快な圧力は、支持体を介して最小化されることを意図しているが、電極と人の皮膚との間の接触抵抗の大きさが、常に明確に再現されないという欠点がある。
【0022】
要約すると、技術の現状は、目及び脳を局所的に活性化するという分野に関連する場合において、電気刺激のための非常に多くの異なるアプリケータが示されているが、複数の既知のアプリケータは、在宅療法、すなわち、医学的又は外科的支援なしに患者によって再現可能であり、簡単でリスクがないという観点においては適していない。
【0023】
このため、現在では、医療従事者の経験値に応じて、それぞれの人又は患者に固定される大型の粘着式刺激電極が主に採用される(最終的にはコスト面も考慮される)。大型電極の利点は、電流の流れがより大きな表面を経由して皮膚、目、又は頭部に流れるため、十分な強度の電流を供給することができる点である。この点で、よく試行錯誤されるが、十分な再現性が得られるのは非常に限られた場合になる。そして、粘着性電極を使用するため、家庭での使用はほとんど不可能であり、基本的には外来治療での準備が必要となる。
【0024】
したがって、電極のサイズや位置は多岐にわたり、その効果は様々であるため、再現性が十分ではない。このため、より低い電流で、かつ、より低い変動率でも視覚系を調節することができる適切な電極配置を可能にすることが望まれる。
【0025】
以上のことから、本発明の課題は、患者固有の身体的な前提条件によって、個別に電極の適合を行うことである。そして、当該目的のために、一方では刺激電極の最適な配置を生成し、刺激治療中だけでなく、刺激治療後も持続的な効果を保証する、新たなシステムを作成することが意図されている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明による課題を解決するための手段は、請求項1の特徴の組み合わせによるシステムと、請求項18又は19に示される特別なアプリケーションとで行われ、従属請求項は、少なくとも適切な構成とさらに発展した構成とを備える。
【0027】
この場合、本発明の本質的な側面は、アプリケータを直感的に操作可能とすることであって、人の皮膚、及び脳の血液循環を非侵襲的に決定して酸素飽和度を決定するためのアセンブリを介し、最適な刺激シーケンスを見出し、刺激後にも血流増加や神経活性化ができるだけ長く続くような、最大の血流増加効果と最も長く持続する残効性を持たせることであり、これは治療のサクセスを示す明確な指標となる。
【0028】
刺激信号シーケンスを生成するパルス発生器は、患者固有の刺激信号シーケンスが生成されるように、データ処理及び制御ユニットと協働する1チャンネル刺激器であってもよく、多チャンネル刺激器であってもよい。
【0029】
本発明によるテンプルポジショニングは、刺激発生器の製造コストを削減し、効果及び信頼性を向上させる、すなわち、サクセスのバラつきを低減させる1つのチャンネルのみによって、両目を同時に刺激することを可能にする。
【0030】
初回治療時に医師の管理下で最適な刺激信号シーケンスを検出し、患者用メモリカードに保存して患者に届け、自宅で使用することができる。また、アプリケータのメモリユニットに直接データを保存することも可能である。
【0031】
本発明によれば、アプリケータは、取り扱いに関する短い説明を受けた後、特に家庭用でも直感的に使用できるように構築される。
【0032】
治療のサクセスは、特に患者が治療の直前だけでなく治療中もストレスから解放されているか否かに影響されることが示されているため、本発明の実施形態におけるアプリケータは、特にイヤホン又はヘッドホンとして形成されている音響発生手段を備える。これらの音響発生手段を介して、患者は、一方ではアプリケータの操作方法、どのプログラムが選択されるべきか、治療期間がどれくらい続くか、などが教示されても構わない。さらに、所望のリラックス反応のために、音響メッセージ、トーンシーケンス又は音楽の再生も行われる。
【0033】
このように、本発明によるアプリケータは、特に頭部の形状に個別に適応可能な電極ホルダから構成されている。さらに、電極のテンプルポジショニングは、最適な刺激のために実行される。これは、パルスシーケンスの電流の強度が減少しても、十分な眼閃が生成されるという利点をもたらす。そして、当該アプリケータは、NIRフィードバックシステムにより、非侵襲的な目と脳の刺激において、血流力学的な残効性の最大化を図り得る。
【0034】
本出願人による広範な検討と研究の過程で、当該構成は、電極の配置が視覚系の刺激のサクセスに決定的な役割を果たすことが示された。
【0035】
この点、本発明によれば、患者のこめかみの領域におけるシステムEEG10-20の命名法による、いわゆるF7-F8配置が提案される。当該配置では、8~25Hzの範囲の交流周波数で2mA未満の範囲の極めて低い強度の電流で、実際に眼閃が記録される。電極がF7-F8領域に配置されている場合、患者は暗い部屋で目を閉じる、又は開いた状態を維持することができる。電極の配置や装着により、瞼や目の上下に不快な圧力は生じない。
【0036】
F7-F8に湿式電極を配置すると、さらに心地よい冷却効果が得られ、ストレス解消、皮膚抵抗の減少、治療効果の向上が期待できる。
【0037】
本発明は、上記を前提とした上で、視野欠損が存在する場合に、残存視力を強化し、循環系を改善するために、人間の目と脳を局所的に活性化し、神経ネットワークを再整理するシステムに関する。この点で、パルス電流治療、特に非侵襲的な交流電流治療が採用される。
【0038】
本システムは、電流を目や脳に導き、血行を促進し、神経細胞(特に網膜神経節細胞)を活性化させるアプリケータで構成されている。
【0039】
本システムは、さらに、電気刺激信号を生成するパルスジェネレータと、患者固有の刺激信号シーケンスを提供するデータ処理及び制御ユニットを備える。
【0040】
アプリケータは少なくとも2つの電極を持ち、それらは説明される方法で被験者の頭部に接触させることができる。
【0041】
本発明によれば、交換可能な電極は、電極が患者の頭部のこめかみの領域、すなわち、いわゆるF7-F8領域において、目の右側及び左側に位置するようにアプリケータに固定される。
【0042】
さらに、アプリケータは、皮膚と脳の循環系を非侵襲的に決定し、特にfNIR分光法に基づいて酸素飽和度を決定するための少なくとも1つのアセンブリを備える。
【0043】
NIRエミッタと少なくとも1つの関連するNIR検出器は、患者の頭部の刺激電極から離間した位置に、刺激電極とは離して配置される。
【0044】
NIR分光データは、血液循環及び/又は酸素飽和度の改善の持続時間を決定するために、刺激信号シーケンスの切れ目又は終わりに検出されるため、結果的に、データ処理及び制御ユニットの更新操作は、本発明によるシステムを介して行うことができる。
【0045】
本発明のさらなる発展として、アプリケータは、患者の頭部の形状に個別に適合させることができる。この目的のために、患者の額及び後頭部領域に固定されることに関するものとして既知の調整手段が形成される。
【0046】
本発明の構成において、アプリケータは、頭部に接触させることができるリング状又はクラウン状の構造として構成され、鼻梁支持部及び/又は耳支持部及び/又は後頭部支持部が設けられている。
【0047】
さらに、後頭部領域には、電子部品や重量補償用の受容部が設けられていてもよい。ここでの電子部品とは、アプリケータが外部配線から自由に電流を供給するために使用されるように、バッテリー又はアキュムレータで構成されていてもよい。
【0048】
本発明の構成において、刺激電極は、乾式パッド電極又は湿式パッド電極として形成される。
【0049】
湿式パッド電極は、電極内の各導電性部材と患者の皮膚表面との間の接触抵抗を低減するように、湿式溶解として電解質が用いられてもよい。接触抵抗が低いほど、パルスシーケンスの電流をより低く選択することができ、電流を経験した場合の典型的なビリビリとした感覚による不快な効果は生じない。アプリケータに、特にクリップで留めるための固定点が設けられることで、患者の目の下の領域にも電流、特に交流電流を流すことができ、これが治療上有利な場合には、当該電極を取り付けることができる。
【0050】
アプリケータ上又はアプリケータ内には、有線又は無線のデータ通信のための少なくとも1つのインターフェースが形成されている。
【0051】
このようにして、アプリケータは、いわゆるエアインターフェースを介して上位システムとデータを交換し、治療期間の経過と治療の成功を記録し、治療の評価とさらなる最適化のために、治療を行う医師が当該データを利用可能とする、又は医師に対して送信することができる。
【0052】
本発明の特定の構成では、特にイヤホン又はヘッドホンとして形成された音響発生手段がアプリケータに設けられ、治療中に情報によって患者を誘導し、特にアプリケータを取り扱うため、及び/又は音響的に患者をリラックスさせるために使用される。
【0053】
自立した操作のために、アプリケータは、パルス発生器、特に交流パルス発生器と、データ処理及び制御ユニットと、電流供給装置とからなり、治療プロセス及び/又は刺激信号シーケンスは、コンピュータプログラム製品によって実現可能である。この点で、アプリケータは、このように、使用及び治療に必要なすべての技術的手段を有する。したがって、例えば、ベルトに固定されるか又は患者のポケットに入れられて運ばれる装置によって、従来の技術態様で実現されるような、有線方式で患者のそばに立つか又は患者によって運ばれなければならない別のパルス発生ユニットを提供することは、もはや要求されない。
【0054】
アプリケータ上又はアプリケータ内に、電極を湿らせるための電解質リザーバが設けられていてもよい。これにより、患者は、電極が乾燥し始めるとき、電極を自分でわずかに加湿することができる。追加的に、電解質の供給は、電極ホルダに接続されたチューブを介して、適切なセンサによって自動的に制御されても構わない。
【0055】
本発明の構成では、アプリケータ及び/又は電極を受けるためのホルダは、変形可能なプラスチック材料で形成される。そのため、アプリケータを特定の頭部の形状、特に患者の額領域、鼻領域又は首領域に個別に適合させることが可能であり、当該患者に対し、実際に個別的な対応が実行できる。
【0056】
ホルダ及び/又は刺激電極は、導電性プラスチック材料で構成されてもよく、アプリケータの構造が単純化され、電流供給又は刺激パルスシーケンスの伝達が当該導電性材料を介して実現され得る。
【0057】
本発明によれば、アプリケータに交換用電極のための袋又は同様の受け皿が存在することになる。交換可能な電極を紛失した場合、治療を継続することができないため、特に治療対象の患者にとっては、通常診療を行う医師が付き添っていない場合に有益である。
【0058】
特に入院中や臨床用途では、アプリケータは、既知のEEG電極キャップと組み合わせられるように形成されてもよい。
【0059】
既に示したように、アプリケータは、高すぎる異常な接触抵抗の場合にパルス発生器を停止するか、電流の流れを減少させるために、刺激電極と患者の皮膚表面との間の接触抵抗を決定するためのユニットを備えていても構わない。
【0060】
人間の目と脳を局所的に活性化するための本発明によるシステムは、視覚パフォーマンスの強化、特に、例えばパイロット、宇宙飛行士、深海潜水士などのように、極度の重力条件、及び/又は極度の環境条件下で部分的に複雑な活動を実行しなければならない人又は被験者の目及び脳の神経細胞の活性化に使用できることが示されている。
【0061】
本発明によるシステムは、このような人々のために、極限状態での就業前、就業中、及び/又は就業後に処置を行うことで、視覚パフォーマンスを維持し、より集中できる状態を提供し、より安全な作業を可能とする。
【0062】
本発明を構成するにあたり、提示されたアプリケータを、上記の人々のための特別な装置に組み込むことができるように形成、又は当該装置に適合させることが可能である。ここでは、特にパイロット、宇宙飛行士又は深海潜水士のヘルメットにアプリケータを組み込むことが想定される。
【0063】
以下、図面を参照しながら例示的な実施形態によって、本発明がより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】人の頭部に装着される例示的なアプリケータを正面から見た図面である。
【
図2】
図1のアプリケータを後頭部側から見た図面である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1及び
図2におけるアプリケータ1は、少なくとも一部が弾性材料からなるベース本体2を備え、対象となる人3の頭部の形状に応じて個別に適合可能である。
【0066】
ベース本体2は、人3の頭部に装着可能なリング状又はクラウン状の構造として実現されており、そこには、解剖学的条件に適応するための調整オプションを構成する鼻梁支持部4が存在する。
【0067】
さらに、ベース本体2は、人3の左右の耳6のための耳支持部5を連絡している。
【0068】
後頭部領域において、ベース本体2には、電子部品用の受容部が設けられている。
【0069】
一方で、これは、刺激プログラムを構成するメモリユニット7であってもよい。さらに好ましくは、電気刺激信号を生成するためのパルス発生器が、患者固有の刺激信号シーケンスを提供するための制御ユニットとともに、この後頭部領域に収容又は搭載されていてもよい。
【0070】
USBポートとして形成されたインターフェース8を介して、例えば、データ通信だけでなく、必要な電気・電子部品に電流を供給する目的で、二次電池9の充電が実行されても構わない。
【0071】
このような二次電池9は、例えば、ベース本体2のそれぞれの凹部に収容される交換可能なリチウム電池であってもよい。
【0072】
刺激電極10は、ベース本体2上に交換可能に取り付けられており、対象となる患者の頭部のこめかみの領域において、目の右側及び左側に横たわるように、又は静止するように配置されている。
【0073】
ベース本体2の前方の領域には、企業ロゴ、取扱説明書、又はその他、ユーザ名やユーザ識別情報を添付するためのスペースを形成するように、ラベリングフィールド11を備えることができる調整装置12が存在する。皮膚及び脳の循環系を非侵襲的に決定し、酸素飽和度を決定するために、センサ13がベース本体2に取り付けられるか、又はベース本体2に埋め込まれていてもよい。これらのセンサは、刺激電極10から離間して配置される。