(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】代謝障害に対する新規なFGF19タンパク質類似物質及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/50 20060101AFI20240321BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240321BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20240321BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240321BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240321BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240321BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240321BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240321BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240321BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240321BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240321BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C07K14/50
C12N15/12 ZNA
A61K38/18
A61P3/10
A61P1/16
A61P3/04
C12N15/63 Z
C12Q1/68
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2022546376
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 CN2021128690
(87)【国際公開番号】W WO2022188444
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】202110269910.X
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】朱升龍
(72)【発明者】
【氏名】陳永泉
(72)【発明者】
【氏名】王振
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/083276(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/065897(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/048995(WO,A2)
【文献】WU, Xinle et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2010年07月26日,Vol. 107, No. 32,pp. 14158-14163,DOI: 10.1073/pnas.1009427107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
A61K 35/00-51/12
A61P 1/00-43/00
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が、配列番号1~4のいずれか一つで示されることを特徴とする、FGF19タンパク質類似物質。
【請求項2】
請求項1に記載のFGF19タンパク質類似物質をコードする遺伝子。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子を担持するベクター及び/又は微生物細胞。
【請求項4】
請求項1に記載のFGF19タンパク質類似物質を含むことを特徴とする、糖尿病又は肥満を治療するための医薬又は医薬組成物。
【請求項5】
糖尿病又は肥満の治療は、体重増加の抑制、血中脂質及び血糖の低減、インスリン感受性の向上を含むことを特徴とする、請求項4に記載の医薬又は医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬は、人体に許容される修飾、薬用担体及び/又は補助剤をさらに含むことを特徴とする、請求項4又は5に記載の医薬又は医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のFGF19タンパク質類似物質を含有する、肝炎又はその関連疾患を治療するための医薬又は医薬組成物であって、
肝炎又はその関連疾患は、非アルコール性脂肪肝炎、アテローム性動脈硬化症、肝臓損傷、肝硬変、肝臓がん、原発性胆汁性胆管炎又は原発性硬化性胆管炎を含み、
肝炎又はその関連疾患の治療は、肝臓重量及び肝臓でのトリグリセリドの含有量の低減、肝臓損傷の修復、炎症性サイトカインの発現の阻害、
又は非アルコール性脂肪肝炎、アテローム性動脈硬化症、肝臓損傷、肝硬変、肝臓がん、原発性胆汁性胆管
炎又は原発性硬化性胆管炎の改善を含むことを特徴とする、肝炎又はその関連疾患を治療するための医薬又は医薬組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のFGF19タンパク質類似物質又は請求項3に記載のベクター又は微生物細胞
の、糖尿病、肥満、肝炎又は肝炎関連疾患中の1つ以上の疾患を治療するための医薬
の製造における使用であって、
肝炎又は肝炎関連疾患は、非アルコール性脂肪肝炎、アテローム性動脈硬化症、肝臓損傷、肝硬変、肝臓がん、原発性胆汁性胆管炎又は原発性硬化性胆管炎を含む、使用。
【請求項9】
前記FGF19タンパク質類似物質の投与量は、0.2~100mg/kgであることを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬の投与経路は、皮内注射、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射、腹腔内注射、点滴静脈注射、動脈注射、体腔内注射及び/又は経口投与を含むことを特徴とする、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
請求項2に記載の遺伝子の、糖尿病、肥満、肝炎又は肝炎関連疾患を治療するための医薬のスクリーニングにおける使用であって、
肝炎又は肝炎関連疾患は、非アルコール性脂肪肝炎、アテローム性動脈硬化症、肝臓損傷、肝硬変、肝臓がん、原発性胆汁性胆管炎又は原発性硬化性胆管炎を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝障害に対する新規なFGF19タンパク質類似物質及びその使用に関するものであり、医薬の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
繊維芽細胞増殖因子19(FGF19)は、胆汁酸により分泌されて腸管内に入った後、腸管での分泌や発現を促進する、新しく発見された代謝調節因子である。FGF19は、腸管から分泌された後、肝臓へ循環し、肝臓中のFGFR4と結合してホルモンの様に作用する。詳しくは、FGF19は、例えば、胆汁酸代謝の調節、胆嚢の充填の調節、エネルギー代謝の向上による体重減少、血糖の改善などの重要な代謝調節作用を発揮する。これまでの多数の研究から明らかにされたように、FGF19は有糸分裂促進作用を有しているが、FGFR4は、肝臓におけるFGF19の増殖を促進し得るため、発がん促進の誘因となる。2014年の研究により、FGF19のN末端ドメインはFGFRとの相互作用に重要なドメインであることが見出された。したがって、FGFR4受容体を認識するドメインを選択的にノックアウトすることにより、FGF19の有糸分裂促進活性を消失させることができる。したがって、いくつかの論文では、FGF19のN末端の変異が着目されていた。
【0003】
NGM282は、ヒトFGF19の非腫瘍性工学化変異体であり、FGF19のN末端修飾による突然変異体に属する。NGM282は、米国では第II相臨床試験が完了したばかりであるが、試験の結果、患者の79%が主な治療エンドポイントに達し、患者の34%が12週目で正常な肝臓脂肪含有量に達したことが示された。この突然変異体は、患者の肝機能、脂質代謝、及び繊維化の血清バイオマーカーを改善し、代謝性疾患を治療する効果を示した。しかし、上記の臨床研究では、いくつかの一般的な消化器症状、吐き気、及び注射部位の紅斑が観察されたことに加えて、FGF19突然変異体であるNGM282を注射した後、コレステロール含有量の顕著な上昇が見られた。多くの研究により明らかとなったように、コレステロール含有量の上昇は、代謝疾患の顕著なハイリスク要因の1つであり、代謝疾患の治療にとって大きなリスクがある。また、FGF19は食欲不振、食欲低下等の症状を引き起こし、後の治療過程においても不安要素が存在する。
【発明の概要】
【0004】
上記の事情に鑑み、本発明では、予測及び試験によりオリジナル非発がん性配列を基礎として改造し、4種類の突然変異タンパク質を構築し、生産及び精製プロセスの最適化により、4種類の生物学的活性を有するFGF19突然変異タンパク質を調製した。その結果、この4種類の突然変異体は、いずれも、肥満、過体重、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血糖症、血中脂質異常、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、アテローム性動脈硬化症、肝臓損傷、肝硬変、肝臓がん、原発性胆汁性胆管炎(PBC)及び原発性硬化性胆管炎(PSC)を治療する効果を発揮することができたとともに、この4種類の突然変異体による治療効果は、NGM282タンパク質よりも有意に優れていることが見出された。
【0005】
本発明は、アミノ酸配列が配列番号1~4のいずれか一つで示されるFGF19タンパク質類似物質を提供する。
【0006】
本発明の一実施形態において、前記FGF19タンパク質類似物質をコードする遺伝子を提供する。
【0007】
本発明の一実施形態において、配列番号1~4で示されるアミノ酸をコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号5~8で示される。
【0008】
本発明は、前記遺伝子を担持するベクター及び/又は宿主細胞を提供する。
【0009】
本発明は、前記FGF19タンパク質類似物質を含む、糖尿病又は肥満を治療するための医薬又は医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明の一実施形態において、医薬又は医薬組成物は、薬学的に許容される担体又は補助剤をさらに含む。
【0011】
本発明の一実施形態において、糖尿病又は肥満の治療は、体重増加の抑制、血中脂質及び血糖の低減、インスリン感受性の向上を含む。
【0012】
本発明は、前記FGF19タンパク質類似物質を含む、肝炎又はその関連疾患を治療するための医薬又は医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態において、医薬又は医薬組成物は、薬学的に許容される担体又は補助剤をさらに含む。
【0014】
本発明の一実施形態において、肝炎又はその関連疾患の治療は、肝臓重量及び肝臓でのトリグリセリド含有量の低減、肝臓損傷の修復、炎症性サイトカインの発現の阻害、並びに非アルコール性脂肪肝炎、アテローム性動脈硬化症、肝臓損傷、肝硬変、肝臓がん、原発性胆汁性胆管炎及び/又は原発性硬化性胆管炎の改善を含む。
【0015】
本発明は、前記FGF19タンパク質類似物質の、糖尿病、肥満、肝炎又は肝炎関連疾患のうち1つ以上の疾患を治療するための医薬の製造における使用を提供する。
【0016】
本発明の一実施形態において、医薬又は医薬組成物は、薬学的に許容される担体又は補助剤をさらに含む。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記FGF19タンパク質類似物質の投与量は、0.2~100mg/kgである。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記FGF19タンパク質類似物質の投与量は、0.2~3mg/kgである。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記医薬の投与経路は、皮内注射、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射、腹腔内注射、点滴静脈注射、動脈注射、体腔内注射及び/又は経口投与を含む。
【0020】
本発明は、前記FGF19タンパク質類似物質をコードする遺伝子の、糖尿病、肥満症、肝炎又は肝炎関連疾患を治療するための医薬のスクリーニングにおける使用を提供する。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記遺伝子のヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号5~8で示される。
【0022】
(本発明による有利な効果)
(1)本発明に係る4種類の新規なFGF19類似物質は、肥満、過体重、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血糖症、血中脂質異常、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、アテローム性動脈硬化症、肝臓損傷、肝硬変、肝臓がん、原発性胆汁性胆管炎(PBC)及び原発性硬化性胆管炎(PSC)などの治療において、元のFGF19突然変異体であるNGM282よりも、持続的に安定した優れた効果を有する。
(2)本発明に係る4種類の新規なFGF19類似物質は、それを用いる治療過程において、元のFGF19突然変異体であるNGM282の治療過程によるコレステロールの上昇及び飲食量の低下という副作用が一切見られず、有機体の正常な生命活動に与える影響が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】精製後のタンパク質の、大腸菌での発現量をSDS-PAGE電気泳動により分析した結果を示すものであり、前記タンパク質は、それぞれFGF19-1タンパク質、FGF19-2タンパク質、FGF19-3タンパク質、FGF19-4タンパク質及びNGM282タンパク質である。
【
図2】5種類のタンパク質のインビボ半減期を比較したものである。
【
図3】5種類のタンパク質の、db/dbマウスの体重と飲食へ与えた影響を示すものである。
【
図4】5種類のタンパク質の、db/dbマウスの血中脂質へ与えた影響を示すグラフである。
【
図5】5種類のタンパク質の、db/dbマウスの糖尿病に係る関連指標へ与えた影響を示すグラフである。
【
図6】5種類のタンパク質の、NASHモデルマウスの脂肪肝炎及び肝繊維化などに係る関連指標へ与えた影響を示すものである。
【
図7】5種類のタンパク質の、肝臓がん移植マウスの腫瘍増殖へ与えた影響を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実験動物及び飼育)
ヌードマウス及びdb/dbマウスはSHANGHAI SLAC LABORATORY ANIMAL CO. LTDから購入した。江南大学の無錫医学院の動物センターにて、温度20±2℃で12時間おきに交互に照明して飼育した。
【0025】
(細胞培養)
肝がん由来細胞株HepG2は、中国科学院生物化学・細胞生物学研究所から入手した。DMEM、0.05%Trypsinは、BOSTER Biological Technology co.ltdから購入した。ウシ胎児血清は、Sijiqing社(四季青公司)から購入した。
【0026】
その他の試薬は、国産の分析用純度のものである。
【0027】
肝がん由来細胞株HepG2を、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培養液中で壁に貼り付けて増殖させ、5%CO2潤湿インキュベーター内で、37℃で培養し、1日おきに一回継代した。
【0028】
以下の実施例では、マウスに対して2mg/kgのFGF21タンパク質を注射した。なお、これに対応する、人体に対する投与量は0.2mg/kgである。また、ウサギに対して30mg/kgのFGF21タンパク質を注射した。なお、これに対応する、人体に対する投与量は3mg/kgである。
【0029】
(実施例1:組換えタンパク質の構築、発現及び精製)
(1)発現ベクターFGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4の構築
コンピューターによりシミュレーションした置換及び大腸菌のコドンの選好に基づいて、4種の新規なFGF19遺伝子を設計し、それぞれ、FGF19-1(ヌクレオチド配列は配列番号5で示される)、FGF19-2(ヌクレオチド配列は配列番号6で示される)、FGF19-3(ヌクレオチド配列は配列番号7で示される)、FGF19-4(ヌクレオチド配列は配列番号8で示される)とした。これらの4種の遺伝子は、その合成をShanghai Generay Biotech Co.,Ltdに依頼したとともに、各遺伝子の両端にNdeI制限酵素切断部位及びBamHI制限酵素切断部位をそれぞれ設計した。それぞれの標的遺伝子断片を含む合成された4種のベクター、及びpET30a(+)をNdeI制限酵素及びBamHI制限酵素でそれぞれ二重に切断した後、それぞれに必要な標的遺伝子断片をゲルで抽出した。T4DNAリガーゼを用い、均一に混合された10μLのライゲーション反応系にて、4種の標的断片をそれぞれ原核生物発現ベクターpET30a(+)に連結した。4℃で一晩連結させた後、それぞれ大腸菌DH5α内へ形質転換させた。陽性クローンをピックアップし、酵素切断により同定したところ、構築した4種の組換えプラスミドpET30a-FGF19-1、pET30a-FGF19-2、pET30a-FGF19-3及びpET30a-FGF19-4がそれぞれ得られた。
【0030】
(2)タンパク質の発現及び精製
正しく配列が決定された組換えプラスミドpET30a-FGF19-1、pET30a-FGF19-2、pET30a-FGF19-3及びpET30a-FGF19-4を発現株Rosseta(DE3)形質転換受容性細胞へ形質転換させた。形質転換したシングルコロニーを、Kan(50μg/mL)を含むLB培地20mLにそれぞれ接種し、37℃で8時間培養した。その後、Kan(50μg/mL)を含む別の新鮮なLB培地20mLに菌液を体積比1:100で接種し、37℃で培養した。そして、A600が0.35程度になったとき、IPTGを最終濃度が0.25mmol/Lになるまで添加して誘導温度30℃で誘導し、誘導してから5時間後、菌体を採取してLysis buffer(20mmol/L Tris、150mmol/L NaCl、pH8.0)にて再懸濁させ、当該菌体を破砕した後遠心分離し、上清と沈殿をそれぞれ取り出して12wt%SDS-PAGE電気泳動により分析した。その結果、FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、FGF19-4タンパク質の、大腸菌での発現が著しく増加し、ほとんどの標的タンパク質が封入体として存在していることが示された。
【0031】
誘導された菌体を大量に収集し、リゾチーム(1mg/mL)を菌体に加え、氷上で30分間放置し、菌体細胞を超音波細胞破砕装置で破砕した(動作1s、間隔1s、4分間/回、合計で3回サイクル)。菌体破砕が完了した後、細胞破砕液をQuix Stand前処理システム(750kD限外ろ過中空糸カラム)で処理し、封入体を集め、膜透過端の液体を廃棄した。総体積が約60mLになった時、washbuffer(20mmol/L Tris、2mol/L Urea、150mmol/L NaCl、pH8.0)を100mL加えて封入体を洗浄した。溶液の体積が50mLになった時、さらに当該溶液へウォッシュバッファーを100mL加え、上記の操作を4回繰り返した。洗浄が完了した後、溶液の体積が50mLになった時、透過端を閉じ、洗浄を経た封入体へ変性液(20mmol/L Tris、10mol/L Urea、150mmol/L NaCl、pH8.0)を150mL加え、循環的に2時間変性させた。透過端を開放し、膜透過端の収集液をmFGF21変性液として得た。変性したmFGF21を5KDの中空糸カラムにて80mLの体積となるまで濃縮した後、再生させた。再生液(20mmol/L Tris、50mmol/L NaCl、pH8.0)を入れた容器を、ゴムチューブを介して中空糸カラムの貯液器に接続した。貯液器を密閉し、透過端から液体を流出させると、貯液器において負圧を発生するため、再生液が一定の速度で変性液へ滴下し、ゆっくりと等速に再生される。添加した再生液の体積が変性液の6倍になった時、再生を終了させ、8000rpm/min(分)で、4℃で20分間遠心分離して上清を収集した。AKTApurifier100システムにより、再生上清をカラム容積の5倍に相当するIEX buffer A(20mmol/L Tris、10mmol/L NaCl、pH8.0)でバランスを取っておいたCapto Qカラム(XK16/20空カラムに取り付ける;カラムの高さが10cmであり、流速が300cm/h(時間)である)と完全に結合した後、カラム容積の3~4倍に相当するIEX buffer Aでリンスした。そして、紫外線曲線が安定ベースラインに達した時、IEX buffer AとIEX buffer B(20mmol/L Tris、1mol/L NaCl、pH8.0)の混合液で溶出させ、15wt%と100wt%のIEX buffer B液で夾雑タンパク質をリンスし、18.5wt%~19wt%のIEX buffer B液で標的タンパク質を溶出させた。それぞれの溶出ピークを取得し、15wt%のSDS PAGE電気泳動により分析した。その結果、精製したタンパク質の純度が95%以上であることが示された。
図1に示すように、レーン1はタンパク質標準分子量マーカーであり、レーン2~6はそれぞれ精製したFGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、FGF19-4である。
【0032】
(実施例2:組み換えタンパク質のインビボ半減期の測定)
NGM282、FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4の5種のタンパク質のインビボ半減期を測定した。
【0033】
体重約2kgのウサギを25匹選び、無作為に5つのグループに分けた。各グループに対して、NGM282、FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4の5種の蛋白質をそれぞれ30mg/kgの投与量で皮下注射した。投与から0時間、1時間、3時間、5時間、7時間、24時間後、耳介静脈から800μL程度採血した。12000rpmで10分間遠心分離し、上清を収集して-20℃で保存した。5種のタンパク質のインビボ半減期を、ELISA間接法で測定した。すなわち、希釈した異なる濃度のNGM282、FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、FGF19-4タンパク質(20μg/mL、2μg/mL、200ng/mL、20ng/mL、2ng/mL)をそれぞれ用い、タンパク質の濃度含有量の標準曲線を作成した;希釈した標準タンパク質及び血清を酵素標識プレートにコーティングし、ELISA間接法で各血清中の標的タンパク質の含有量を測定し、6種のタンパク質のインビボ半減期を統計学的に分析、算出した。
【0034】
インビボ半減期t1/2=0.301*(t2-t1)/log(OD1/OD2)。ここで、OD1及びOD2は、t1及びt2の時点で取り出した血清に対応する、酵素標識プレート上での平均光吸収値をそれぞれ示す。
【0035】
その結果を
図2に示す。NGM282タンパク質、並びに突然変異で改造したタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4の、数式により算出したインビボ半減期は、それぞれ約36分間、79分間、66分間、67分間、69分間であった。これは、4種の新規なFGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4のインビボ半減期が著しく増加したことを意味する。
【0036】
(実施例3:組換えタンパク質が体重、飲食、血中脂質及び糖尿病の関連指標に及ぼす影響)
実施例1に係る方法に従って、FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、及びFGF19-4の4種のタンパク質を調製した。
【0037】
SPFグレードの8週齢のdb/db雄マウスを50匹取り、1週間予備飼育した後、体重を測定した。翌日、絶水せずに6時間絶食させた。尾静脈から採血してマウスの空腹時血糖値を測定した。体重異常のマウスを除外し、血糖値及び体重値が相対的に平均値に近いモデルマウスを42匹選抜し、1グループにつき6匹とするように、生理食塩水グループ(Saline)、NGM282グループ、FGF19-1グループ、FGF19-2グループ、FGF19-3グループ、及びFGF19-4グループに無作為に振り分けた。毎朝8時半頃、各実験グループについて、その対応する被験物質を2mg/kgの投与量で1回腹腔内注射した。生理食塩水グループについては同量の生理食塩水を注射した。投与は8週間継続した。なお、実験の間、飲食及び飲水を制限せずに、マウスの飲食及び体重状態をモニタリングした。8週間の投与後、各実験グループのマウスを屠殺し(前夜から絶食)、眼部から採血し、各実験グループのマウスの血糖、トリグリセリド(TG)、総コレステロール(TC)、低密度リポタンパク質(LDL-C)、及び高密度リポタンパク質(HDL-C)のレベルを測定した。得られた実験データを統計学的に分析した。
【0038】
実験の測定データは
図3~
図5に示す。
図3の結果からわかるように、生理食塩水を用いた対照グループと比べ、NGM282タンパク質及び突然変異で改造した新型なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4は、そのいずれのグループも、マウスの体重を顕著に減らすことができた。ただし、NGM282タンパク質を注射したマウスでは、著しく飲食量が低下し、食欲が抑制されたのに対し、4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、及びFGF19-4は、投与後、NGM282と比べて、マウスの食欲に影響を与えることなく、体重をより強力的、顕著に抑制することができた。これは、この突然変異に基づく改造により、元のFGF19による飲食量減少という副作用が見事に改善されたことを意味する。
【0039】
8週間の投与後、各実験グループのマウスの血清における脂質濃度の結果を
図4に示した。生理食塩水グループに比べ、NGM282グループのマウスの血清中のTG、TC及びLDL-cの含有量が顕著に上昇したが、各種のHDL-cの含有量は、明らかな差がなかった。この結果は、これまでの多くの臨床報告と一致した。なお、コレステロール及び血中脂質の上昇は、代謝疾患に対する顕著なハイリスクの1つとして、代謝疾患の治療に対して多大なリスクを与えることが、多くの研究により明らかになっている。改造したことで、4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、及びFGF19-4は、注射後、元のFGF19タンパク質によるTG、TC、及びLDL-cの上昇という副作用が生じないだけでなく、血清におけるTGの含有量を顕著に低減させることもできた。これらの結果は、これらの突然変異による改造は、元のFGF19による血中脂質の上昇という副作用を見事に改善し、FGF19の臨床的応用の安全性及び有効性を大幅に増加させることができることを意味する。
【0040】
投与期間において、それぞれ0週目、2週目、4週目及び8週目の時点で空腹時血糖値を測定した。それぞれの実験グループにおけるマウスの空腹時血糖レベルの結果を
図5Aに示した。2週間の治療後、NGM282では、血糖を明らかに改善する効果がみられなかったが、FGF19-1、FGF19-3ではマウスの空腹時血糖値を顕著に低下させることができた。4週間の治療後、NGM282では、血糖値を低下させる効果を発揮し始めたが、その治療効果は、FGF19-3及びFGF19-4よりも有意に低かった。8週間の治療後、それぞれのグループの間で有意な差はなかった。この結果は、突然変異した後の組換えFGF19タンパク質は、その血糖降下作用が速く発揮できるとともに、元のNGM282よりも優れていることを示した。8週間の投与後に、ブドウ糖負荷試験及びインスリン負荷試験を行った。その結果を、
図5B及び5Cに示した。突然変異で改造した4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4は、NGM282よりも、糖尿病マウスのブドウ糖感受性及びインスリン感受性をより顕著に改善することができた。
【0041】
(実施例4:組換えタンパク質が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の関連指標に及ぼす影響)
実施例1の方法に従って、FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、及びFGF19-4の4種のタンパク質を調製した。
【0042】
SPFグレードの8週齢のC57BL/6雄マウスを60匹取り、1週間予備飼育した後、メチオニン・コリン欠乏MCD飼料を投与した。8週間の投与後、体重異常のマウスを除外し、血糖値及び体重値が相対的に平均値に近いモデルマウスを42匹選抜し、1グループにつき6匹とするように、生理食塩水グループ(Saline)、NGM282グループ、FGF19-1グループ、FGF19-2グループ、FGF19-3グループ、及びFGF19-4グループに無作為に振り分けた。毎朝8時半頃、各実験グループについて、その対応する被験物質を2mg/kgの投与量で1回腹腔内注射した。生理食塩水グループについては同量の生理食塩水を注射した。投与は8週間継続した。なお、実験の間、飲食を制限しなかった。8週間の投与後、各実験グループのマウスを屠殺し(前夜から絶食)、各実験グループのマウスの肝臓におけるトリグリセリド(TG)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、アラニンアミノトランスアミナーゼ(ALT)のレベルを測定したとともに、組織切片の染色及び炎症指標の検出を行った。得られた実験データを統計学的に分析した。
【0043】
実験測定のデータは
図6に示す。
図6Aの結果からわかるように、生理食塩水を用いた対照グループ(Saline)と比べ、NGM282タンパク質及び突然変異で改造した4種の新型なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4は、そのいずれのグループも、マウスの肝臓重量及び肝臓中のトリグリセリド(TG)含有量を顕著に減らすことができた。ただし、4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4による治療効果はNGM282の場合よりも明らかに優れている。
図6Bに係るトランスアミナーゼの結果からさらに示されたように、4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4は、それらの肝臓損傷に対する保護作用がNGM282よりも顕著に優れている。また、HE染色の結果から直接に示されたように、4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4は、注射後、肝臓の脂肪空胞が顕著に低下し、顕微鏡下で空胞がほとんど観察されなかったのに対し、NGM282の場合、治療後でも、部分の脂肪空胞が存在していた(
図6C)。
図6Dは、肝臓におけるコラーゲン繊維沈着の状況を観察するためのシリウスレッド染色の結果であり、肝臓の繊維化が反映されている。その結果から示されたように、突然変異で改造した4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3及びFGF19-4は、そのいずれのグループも、肝臓繊維化を逆転させることができた。一方、NGM282は、治療後でも部分的な繊維化の状態が存在していた。これは、改造した組換えタンパク質が、肝臓繊維化に対する逆転効果においてNGM282よりも有意に優れたことを意味する。NASHの主な病理的状態は肝臓に生じる炎症である。そのため、典型的な炎症性サイトカインの発現状況をqPCRによって検出した。その結果から示されたように、突然変異で改造した4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、及びFGF19-4は、そのいずれのグループも、炎症性サイトカインの発現を顕著に抑制することができたとともに、抑制効果が、NGM282よりも有意に優れていた(
図6E)。上記の多項の指標の測定により、突然変異で改造した4種の新規なタンパク質FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、及びFGF19-4の、NASH及び肝臓損傷に対する治療効果が、元のNGM282よりも有意に優れることを見出した。
【0044】
(実施例5:組換えタンパク質が肝臓がんに及ぼす影響)
実施例1の方法に従って、FGF19-1、FGF19-2、FGF19-3、及びFGF19-4の4種のタンパク質を調製した。
【0045】
ヒト肝臓がんの細胞HepG2細胞を、1×10
6個の細胞/匹にて、6週齢の雄ヌードマウスの皮下に接種した。また、腫瘍の増殖が200mm
3となった時、1グループにつき6匹とするように、生理食塩水注射グループ(Saline)、NGM282グループ、FGF19-1グループ、FGF19-2グループ、FGF19-3グループ、及びFGF19-4グループに無作為に振り分けた。毎朝8時半頃、各実験グループについて、その対応する被験物質を2mg/kgの投与量で1回腹腔内注射した。生理食塩水グループについては、同量の生理食塩水を注射した。投与は、21日間継続した。腫瘍の体積を毎日モニターニングし、3週間後、マウスを屠殺し、腫瘍の重量を測定した。その結果から示されたように、5種のタンパク質は、いずれも、移植された腫瘍の体積及び最終的な腫瘍の重量を抑制することができたのに対し、NGM282の場合、その抑制効果は突然変異した組換えタンパク質よりも有意に低かった(
図7に示す)。
【0046】
以上のように、本発明を、好ましい実施例を通して開示したが、これらの実施例は、本発明を限定するものではない。当業者であれば、本発明の主旨及び範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び修正を行うことができる。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定義されるものを基準とするべきである。
【配列表】