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特許7457429腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物および当該医薬組成物を含む併用薬、並びに、CCBL1阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物および当該医薬組成物を含む併用薬、並びに、CCBL1阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/12 20060101AFI20240321BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20240321BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240321BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240321BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240321BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61K31/12
A61K33/243
A61K45/00
A61P13/12
A61P35/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023553269
(86)(22)【出願日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2023018365
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2022083331
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】藤垣 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 邦明
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】日腎会誌,2016年,58巻, 7号,p.1073-1078
【文献】Pharmacogn. Mag.,2020年,Vol.16, Issue 69,p.207-213
【文献】泌尿紀要,1975年,21巻, 10号,p.961-964
【文献】Ind. Jour. Med. Res.,1967年,Vol.55, No.11,p.1226-1230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/12
A61P 13/12
A61P 43/00
A61P 35/00
A61K 45/00
A61K 33/243
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む
白金製剤投与により誘導される腎障害(ただし、尿路結石は腎障害から除かれる。)の治療方法または予防方法において使用される医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
式(3)で表される化合物が、CCBL1阻害機能を有する
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
腎障害が、シスプラチン誘発性腎障害である
請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の医薬組成物からなる第1医薬と、
腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤を有効成分として含む第2医薬と、
を含み、
前記腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤が白金製剤である、
併用薬。
【請求項5】
第1医薬が、第2医薬を投与する前、または、第2医薬と同時に投与される、
請求項に記載の併用薬。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、CCBL1阻害剤。
【化2】
[式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基若しくはアリールアルケニル基又は置換基を有してもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を表す。]
【請求項7】
一般式(1)が、下記式(2)である
【化3】
請求項に記載のCCBL1阻害剤。
【請求項8】
一般式(1)が、下記式(3)である
【化4】
請求項に記載のCCBL1阻害剤。
【請求項9】
一般式(1)が、下記式(4)である
【化5】
請求項に記載のCCBL1阻害剤。
【請求項10】
白金製剤投与により誘導される腎障害の治療方法または予防方法において使用される
請求項の何れか一項に記載のCCBL1阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物および当該医薬組成物を含む併用薬、並びに、CCBL1阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
白金製剤は、最も代表的な抗がん剤である。そして、白金製剤は、睾丸腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頚部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞腫、胃がん、小細胞肺がん、骨肉腫、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、悪性胸膜中皮腫、胆道がん、悪性骨肉腫、子宮体がん、再発・難治性悪性リンパ腫、小児性固形腫瘍(横紋筋肉腫、神経芽腫、肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍、髄芽腫等)等の幅広いがん腫に対して保険が適用される。
【0003】
しかしながら、白金製剤は腎障害を引き起こすことが知られている。白金製剤による腎障害は、がん治療の継続可否や、患者のQOL、生命予後に影響する。また、患者によっては、がん治療の開始前にすでに腎機能が低下している場合もある。そのため、抗がん剤投与により腎機能が低下することを防止、或いは、既に腎機能が低下しているがん患者に対しても、抗がん剤治療を安全に実施できる治療方法の開発が望まれている。
【0004】
当該問題を解決するため、特許文献1には、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤が、シスプラチン誘発性腎障害の治療方法または予防方法において使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2022-521591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の発明は、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制するという作用機序に着目した発明である。ところで、細胞は様々な生存シグナルを駆使し自身が生き延びることを可能としている。そのため、同じ障害(疾患)であっても、異なる作用機序で効果を奏する医薬組成物を開発することが望ましい。
【0007】
本出願における開示は、上記問題点を解決するためになされたものである。本発明者らは鋭意研究を行ったところ、下記一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩が、腎障害の治療方法または予防方法において使用できること、および、CCBL1阻害機能を有することを新たに見出した。
【化1】
【0008】
すなわち、本出願における開示の目的は、腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物および当該医薬組成物を含む併用薬、並びに、CCBL1阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願における開示は、以下に示す腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物および当該医薬組成物を含む併用薬、並びに、CCBL1阻害剤に関する。
【0010】
[1]腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物であって、
下記一般式(1):
【化2】
[式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基若しくはアリールアルケニル基又は置換基を有してもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を表す。]
で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、医薬組成物。
[2]一般式(1)で表される化合物が、CCBL1阻害機能を有する
上記[1]に記載の医薬組成物。
[3]一般式(1)が、下記式(2)である
【化3】
上記[1]に記載の医薬組成物。
[4]一般式(1)が、下記式(3)である
【化4】
上記[1]に記載の医薬組成物。
[5]一般式(1)が、下記式(4)である
【化5】
上記[1]に記載の医薬組成物。
[6]腎障害が、白金製剤投与により誘導される障害である
上記[1]~[5]の何れか一つに記載の医薬組成物。
[7]腎障害が、シスプラチン誘発性腎障害である
上記[6]に記載の医薬組成物。
[8]上記[1]~[5]の何れか一つに記載の医薬組成物からなる第1医薬と、
腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤を有効成分として含む第2医薬と、
を含む、併用薬。
[9]第1医薬が、第2医薬を投与する前、または、第2医薬と同時に投与される、
上記[8]に記載の併用薬。
[10]
下記一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、CCBL1阻害剤。
【化6】
[式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基若しくはアリールアルケニル基又は置換基を有してもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を表す。]
[11]一般式(1)が、下記式(2)である
【化7】
上記[10]に記載のCCBL1阻害剤。
[12]一般式(1)が、下記式(3)である
【化8】
上記[10]に記載のCCBL1阻害剤。
[13]一般式(1)が、下記式(4)である
【化9】
上記[10]に記載のCCBL1阻害剤。
[14]腎障害の治療方法または予防方法において使用される
上記[10]~[13]の何れか一つに記載のCCBL1阻害剤。
【発明の効果】
【0011】
本出願で開示する医薬組成物は、腎障害の治療方法または予防方法に用いることができる。また、当該医薬組成物と腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤とを含む併用薬は、抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害が発生することを予防、または、抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害が発生しても障害の程度を低く(治療)できる。本出願で開示する一般式(1)で表される化合物は、CCBL1阻害剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、CCBL1β脱離活性に対する式(2)に記載の化合物の阻害活性を調べた結果を示すグラフである。
図2図2は式(2)に記載の化合物が尿細管細胞およびがん細胞へ与える影響を調べた結果を示すグラフである。図2AはCCBL1過剰発現LLC/PK1細胞を用いた結果を示し、図2Bはヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231細胞)を用いた結果を示し、図2Cはルイス肺がん細胞株(LLC細胞)を用いた結果を示している。
図3図3は、式(2)に記載の化合物が尿細管細胞およびがん細胞へ与える影響を調べた結果を示している。図3Aは実験手順を示す。図3Bは図面代用写真で、免疫組織化学により、各群の腎臓におけるCCBL1タンパク質発現量を調べた写真である。
図4図4は図面代用写真で、ヒト腎組織を免疫染色した結果を示す写真である。
図5図5は式(2)に記載の化合物が体重および腎臓に与える影響を調べた結果を示すグラフで、図5Aは体重変化、図5Bは相対腎臓重量を示している。
図6図6は式(2)に記載の化合物が腎障害に与える影響を調べた結果を示すグラフで、図6AはCre濃度、図6BはBUNの濃度を示している。
図7図7は、式(2)に記載の化合物を投与したマウスの病理組織学的観察の結果を示している。図7Aは図面代用写真で、光学顕微鏡写真である。図7Bはスコアを示すグラフである。
図8図8は、式(2)に記載の化合物のシスプラチンによる腎臓でのアポトーシス抑制を調べた結果を示している。図8AはBAX、図8BはCleaved Caspase-3の結果を示している。
図9図9は、式(2)に記載の化合物がシスプラチンによる抗がん作用に悪影響を与えないことについて調べた結果を示している。図9Aは図面代用写真で腫瘍組織の写真、図9Bは腫瘍体積の変化を示すグラフ、図9Cは腫瘍抑制率を示すグラフである。
図10図10は、式(2)に記載の化合物がシスプラチンによる抗がん作用に悪影響を与えないことについて調べた結果を示している。図10Aは体重変化を示すグラフ、図10Bは相対腎臓重量を示すグラフである。
図11図11は、式(2)に記載の化合物がシスプラチンによる抗がん作用に悪影響を与えないことについて調べた結果を示している。図11AはCre濃度、図11BはBUNの濃度を示すグラフである。
図12図12は、式(2)に記載の化合物がシスプラチンによる抗がん作用に悪影響を与えないことについて調べた結果を示している。図12Aは図面代用写真で、光学顕微鏡写真である。図12Bはスコアを示すグラフである。
図13図13は、CCBL1β脱離活性に対する式(3)に記載の化合物の阻害活性を調べた結果を示すグラフである。
図14図14は式(3)に記載の化合物が腎障害に与える影響を調べた結果を示すグラフで、図14AはCre濃度、図14BはBUNの濃度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本出願において開示する腎障害の治療方法または予防方法(以下、纏めて「治療方法」と記載することがある。)において使用するための医薬組成物(以下、単に「医薬組成物」と記載することがある。)および当該医薬組成物を含む併用薬、並びに、CCBL1阻害剤について説明する。
【0014】
(医薬組成物の実施形態)
医薬組成物は、下記一般式(1):
【化10】
で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む。
【0015】
一般式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基若しくはアリールアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を表す。
【0016】
炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、n-ヘプチル基、2,4-ジメチルペンチル基、1-n-プロピルブチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、1-メチルノニル基、n-デシル基、3,7-ジメチルオクチル基、2-イソプロピル-5-メチルヘキシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、デセニル基等が挙げられる。
【0017】
置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基若しくはアリールアルケニル基としては、例えば、ベンジル基、ヒドロキシベンジル基、ジヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルエテニル基、ヒドロキシフェニルエチル基、ジヒドロキシフェニルエチル基、ヒドロキシフェニルエテニル基、ジヒドロキシフェニルエテニル基、フェニルプロピル基、フェニルプロペニル基、フェニルブチル基、フェニルブテニル基、フェニルペンチル基、フェニルペンテニル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘキセニル基等が挙げられる。
【0018】
置換基を有してもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ジヒドロキシナフチル基等が挙げられる。
【0019】
なお、一般式(1)のRの記載は、より好ましい範囲を記載したものであり、本出願で開示する効果を奏する範囲内であれば、Rは上記に例示した置換基に限定されない。上記に例示した置換基以外に採用可能な置換基を、以下に記載する(便宜上、以下に記載の置換基を「R’」と規定する。)。R’としては、例えば、ヒドロキシ基、F等のハロゲン基、-CFや-CFCF等のフルオロアルキル基、シクロ低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アミノ基、トリフルオロメトキシ基、アミノ低級アルキル基、モノ若しくはジ置換アミノ低級アルキル基、環状アミノ低級アルキル基、低級アルケニル基、スチリル基が挙げられる。シクロ低級アルキル基は、C3~C8のシクロアルキル基を意味し、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル及びシクロオクチル基が挙げられ、これらの環はC1~C3の直鎖又は分岐鎖アルキル基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0020】
また、一般式(1)は、以下に示す一般式(1’)であってもよい。
【化11】
【0021】
一般式(1’)のXは、CH、O、又は、NHを表す。また、一般式(1’)のRは、一般式(1)のRと同じである。
【0022】
本発明者らは、シスプラチン誘発性腎障害発症に関与する酵素の阻害剤スクリーニング系を作成し、様々な化合物のスクリーニング試験を行ったところ、上記一般式(1)で表される化合物が有用であることを突き止めた。上記一般式(1)に含まれる具体的な化合物としては、例えば、以下の式(2)、式(3)、式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【化12】
【0024】
上記式(2)は、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(THA)と呼ばれる化合物で、PHLORACETOPHENONEとも呼ばれている。THAは、Curcuma comosaの根茎から得られる天然化合物である。THAは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI-TOF)による質量分析に用いるマトリックスとして知られている。
【0025】
上記式(3)は、1-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)プロパン-1-オンと呼ばれる化合物で、フロプロピオン(FLOPROPIONE)とも呼ばれている。フロプロピオンは、鎮痙薬として用いられることある。ヒトに投与されたフロプロピオンは、十二指腸周辺の胆道系のような特定の場所に強く作用することが知られており、オッディ筋や胆管や尿路の鎮痙を狙って投与される場合がある。例えば、肝胆膵疾患には、胆管からの胆汁や、膵管から膵液を、十二指腸へ流れ込み易くする目的で投与される。同様に、尿路結石が存在する場合には、排尿に伴って尿路結石が体外へと排泄され易くする目的で投与される。
【0026】
上記式(4)は、3-(4-ヒドロキシフェニル)-1-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)プロパン-1-オンと呼ばれる化合物で、フロレチン(PHLORETIN)とも呼ばれている。フロレチンは、ジヒドロカルコンおよびポリフェノールの一つであり、リンゴの木の葉で見られる化合物である。
【0027】
上記化合物は、薬学的に許容可能な塩であってもよい。「薬学的に許容可能な」とは、一般的に安全で非毒性であり及び生物学的にもその他の点でも望まし医薬組成物の調製に有用であることを意味し、動物用途及びヒト医薬用途に許容されることを含む。薬学的に許容される塩とは、所望の薬理活性を示す塩であれば特に限定されないが、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、及びリン酸塩などの無機酸塩、並びに酢酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、グリコール酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸塩、桂皮酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、1,2-エタンジスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-クロロベンゼンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸塩、グルコヘプタン酸塩、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸塩)、3-フェニルプロピオン酸塩、トリメチル酢酸塩、第三級ブチル酢酸塩、ラウリル硫酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、及びムコン酸塩などの有機酸塩が挙げられる。
【0028】
また、上記化合物の薬学的に許容可能な塩は、例えば水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド等との、種々の溶媒和物として存在してもよい。
【0029】
医薬組成物は、局所投与または全身投与することができる。投与形態は特に限定されないが、経口投与または非経口投与すればよい。非経口投与用の製剤は、滅菌した水性の、または非水性の溶液、懸濁液や乳濁液などを含んでいてもよい。非水性希釈剤の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油および有機エステル組成物、例えば、エチルオレエートなどが挙げられる。水性担体には、水、アルコール性水性溶液、乳濁液、懸濁液、食塩水および緩衝化媒体などのいずれが含まれていてもよい。非経口的担体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、塩化ナトリウム、リンゲル乳酸および結合油などのいずれが含まれていてもよい。静脈内担体には、例えば、液体用補充物、栄養および電解質(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)などのいずれが含まれていてもよい。
【0030】
医薬組成物の剤型としては、例えば、錠剤、丸剤、粉剤、ロゼンジ、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、シロップ、エアロゾル剤(固形としてまたは液体媒質中)、軟膏剤、ゼラチン軟および硬カプセル剤、座剤、滅菌注射用溶液および滅菌封入粉剤等が挙げられる。
【0031】
後述する実施例に示す通り、本出願で開示する医薬組成物は、シスプラチン投与前に投与することで、腎機能の指標であるクレアチニン(Cre)および尿素窒素(BUN)の数値改善が見られた。CCBL1経路は他のハロゲン化アルケン由来生成物による薬剤(化学物質)性腎障害の発生にも関与することから、本出願で開示する医薬組成物は、シスプラチン等の白金製剤投与による白金製剤(シスプラチン)誘発性腎障害の治療に限定されるものではなく、白金製剤非関与型の化学物質誘発性急性腎障害、慢性腎障害、腎毒性等(以下、これらを纏めて「白金製剤非関与型化学物質誘発性腎障害」と記載することがある。)にも有用である。なお、本明細書において、「治療方法」とは白金製剤誘発性腎障害または白金製剤非関与型化学物質誘発性腎障害(以下、両腎障害を纏めて「化学物質誘発性腎障害」と記載することがある。)を治療することを意味し、「予防方法」とは化学物質誘発性腎障害が発生することを予防することを意味する。白金製剤としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン等が挙げられる。白金製剤以外の腎障害を誘発する化学物質としては、トリクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ブスルファン等が挙げられる。なお、白金製剤および白金製剤以外の腎障害を誘発する化学物質は、両者を纏めて「腎障害誘発性化学物質」と記載することがある。また、白金製剤以外の腎障害を誘発する化学物質の例として挙げたブスルファンは抗悪性腫瘍剤として用いられることが知られている。白金製剤やブスルファン等の抗悪性腫瘍効果を奏するが、腎障害を誘発する恐れがある薬剤を、腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤と記載することがある。また、腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤により誘発される腎障害を、抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害と記載することがある。
【0032】
後述する実施例に記載のとおり、本発明者らはスクリーニングした化合物の様々な活性を調べたところ、式(2)~式(4)は、何れもKAT1(Cysteine Conjugate β-lyase1:CCBL1)阻害活性が見られた。今回新たに見出した腎障害用の医薬組成物は、CCBL1経路に作用することで、腎障害の治療効果が得られると推測できる。
【0033】
本出願で開示する医薬組成物は、例えば、以下に記載のように使用すればよい。
(1)抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害が発生した場合の治療あるいは発生の程度を低くするため(予防)、腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤を投与する前に患者に投与、
(2)腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤と同時に投与、
(3)腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤投与後の患者に抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害が発生した場合に投与、
(4)化学物質誘発性腎障害(ただし、抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害を除く)の発症が確認された患者に投与。
【0034】
(併用薬の実施形態)
次に、併用薬の実施形態について説明する。実施形態に係る併用薬は、医薬組成物の実施形態で説明した何れかの医薬組成物からなる第1医薬と、腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤を有効成分として含む第2医薬と、を含んでいる。第1医薬である医薬組成物および第2医薬に含まれる腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤は、上記医薬組成物の実施形態で説明済みである。したがって、重複記載となることから、第1医薬である医薬組成物および第2医薬に含まれる腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤の説明は省略する。
【0035】
第2医薬は、腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤を有効成分として含めば、投与形態、剤型等は第1医薬と同様とすることができる。したがって、投与形態、剤型等は重複記載となることから省略する。
【0036】
併用薬に含まれる第1医薬は、腎障害誘発性抗悪性腫瘍剤を有効成分として含む第2医薬が誘発する抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害が発生することを予防、または、抗悪性腫瘍剤誘発性腎障害が発生しても障害の程度を低く(治療)する目的で使用される。したがって、第1医薬は、第2医薬を投与する前、または、第2医薬と同時に投与されることが望ましい。投与スケジュールおよび投与量は、患者の状況等に基づき医師が判断すればよい。
【0037】
(CCBL1阻害剤の実施形態)
次に、CCBL1阻害剤の実施形態について説明する。実施形態に係るCCBL1阻害剤は、上記(医薬組成物の実施形態)において説明した一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む。上記(医薬組成物の実施形態)において説明したとおり、一般式(1)で表される化合物は、KAT1(Cysteine Conjugate β-lyase1:CCBL1)阻害活性を有する。したがって、一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩は、CCBL1阻害剤として用いることができる。
【0038】
実施形態に係るCCBL1阻害剤は、一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を、CCBL1阻害剤として用いた以外は腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物と同じである。したがって、CCBL1阻害剤の実施形態は、医薬組成物の実施形態の「医薬組成物」を「CCBL1阻害剤」と読み替えればよいことから、CCBL1阻害剤の実施形態の詳細な記載は省略する。
【0039】
また、CCBL1阻害剤は、CCBL1経路に作用することで、腎障害の治療効果が得られると推測できる。したがって、CCBL1阻害剤は腎障害の治療方法または予防方法において使用できることから、CCBL1阻害剤は併用薬の実施形態における第1医薬として使用することもできる。
【0040】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する技術的範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例
【0041】
<材料>
(1)動物
すべてのマウスはプラスチック製のケージに収容され、12時間の明暗サイクル(8:00A.Mで点灯)で維持し、食物と水を与えた(自由摂取)。全ての実験は、藤田医科大学動物実験委員会が定めたガイドラインに従って行った。試験プロトコールは、藤田医科大学動物実験委員会で承認された(許可番号:AP20004)。
【0042】
(2)シスプラチン誘発性腎障害モデルマウス
シスプラチン誘発性腎障害モデルマウスを作成するために、体重約20~25gの雄C57BL/6Jマウス(日本SLC株式会社)に、腹腔内投与のシスプラチン(20mg/kg)を1回投与した。シスプラチン誘発性腎障害における式(2)および(3)に記載の化合物(以下、単に「化合物」と記載する。)の腎保護効果(予防効果)を調べるために、化合物をシスプラチン注射の30分前に0、25、50、および100mg/kgの用量で腹腔内投与した。シスプラチン注射後3日目にマウスを屠殺した。血液および腎臓サンプルを採取し、さらなる分析のために-80°Cで保存した。
【0043】
(3)腫瘍同種移植片モデルマウス
体重約20~25gの雄C57BL/6Jマウスに、ルイス肺がん細胞(1×10個/50μl PBS)を背部皮下注射した。ノギスを用いて腫瘍を測定し、腫瘍体積は[長さ×幅×幅]として算出した。腫瘍が一定のサイズに達した後、20mg/kgのシスプラチンを腹腔内投与する30分前に、化合物(100mg/kg)を腹腔内投与した。シスプラチン注射後3日目にマウスを屠殺した。血液、腫瘍、腎臓のサンプルを採取し、さらなる分析のために-80℃で保存した。
【0044】
(4)体重変化、腎臓/体重比、腫瘍抑制
体重変化(%)、腎臓/体重比、および腫瘍抑制は、以下の式を用いて計算した。
・体重変化(%)=[(シスプラチンおよび化合物の治療後)/(シスプラチンおよび化合物Xの投与前)]×100
・相対腎臓重量(%)=[腎臓重量(g)/シスプラチンおよび化合物の治療後の腎臓重量(g)]×100
・腫瘍抑制(%)=シスプラチンおよび化合物の投与前-[(シスプラチンおよび化合物Xの治療後)/(シスプラチンおよび化合物の投与前)]
【0045】
(5)細胞培養
LLC/PK1(ブタ腎臓上皮)、LLC(ルイス肺がん)、および、MDA-MB-231(ヒト乳がん)細胞は、JCRB細胞バンク(日本)から入手した。LLC/PK1細胞をヒトCCBL1発現ベクターでトランスフェクトし、CCBL1安定過剰発現細胞をクローニングし、CCBL1過剰発現LLC/PK1細胞としてさらなる実験に用いた。CCBL1過剰発現LLC/PK1細胞を199/EBSS培地(10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、および400μg/ml G418)で増殖させ、LLCおよびMDA-MB-231細胞をDMEM培地(10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中で、5%CO2の加湿雰囲気下で37°Cで増殖させた。
【0046】
(6)細胞生存率アッセイ
細胞生存率アッセイキットを使用して、細胞生存率を測定した。細胞を96ウェルプレート(2×10細胞/ウェル)に播種し、異なる濃度のシスプラチンおよび/またはTHA(式(2)に記載の化合物)で処理し、24時間培養した。次いで、20μLのCellTiter 96水溶液(プロメガ社製)を各ウェルに添加し、さらに1時間培養した。490nmにおける吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices、米国)を用いて測定した。細胞生存率は、未処理細胞の吸光度に対する処理細胞の吸光度として計算した。
【0047】
(7)病理組織学的観察
腎臓の病理学的変化を過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色により調べた。腎臓の半分を10%緩衝ホルマリンに浸漬固定し、パラフィンに包埋し、切片を厚さ4μmに薄くスライスした。染色後、切片を光学顕微鏡で観察した。尿細管損傷は以下のようにスコア付けした。各切片を6視野で観察し、損傷した腎尿細管の平均割合を計算した。腎尿細管損傷の結果は腎尿細管壊死の指標に変換され、10%未満の傷害に指標0、10%~25%の傷害に指標1、25%~50%の傷害に指標2、51%~75%の傷害に指標3、75%以上の傷害に指標4を割り当てた。
【0048】
(8)免疫染色
ヒトおよびマウスのパラフィン切片を、まずキシレン中で5分間脱ろうし(3回)、次いで新鮮なキシレンで置換した。得られた切片を無水エタノールで2分間処理し、90%エタノールで2分間、80%エタノールで2分間、70%エタノールで2分間の順序で繰り返し処理した。腎臓の脱パラフィン処理切片を水で2分間洗浄した。その後、内因性ペルオキシダーゼ処理(3%H)を20分間行った。その後、蒸留水で2分間(2回)および1×PBSで3分間(3回)洗浄した。その後、切片を1×PBS中の10%ヤギ血清で20分間(CCBL1)または30分間ブロッキングした(B細胞/CLLリンパ腫2;Bcl-2)。切片を、抗CCBL1(1:500、GTX32492)、抗Bcl-2(1:500、ab182858)、およびウサギIgGアイソタイプコントロール抗体(1:500、ER1621011)の一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。翌日、1×PBSで3分間(3回)洗浄した。次いで、スライドを二次抗体と共に30分間インキュベートし(Histofine Simple Stain MAX PO;ニチレイバイオサイエンス社製)、1×PBSで3分間(3回)洗浄した。次いで、スライドを色原体/基質試薬と共に30秒間インキュベートした。次いで、それらをヘマトキシリンで核染色した。染色後、切片を光学顕微鏡で観察した。
【0049】
(9)血清中の血中尿素窒素及びクレアチニンの測定
血清中のクレアチニン(Cre)および血中尿素窒素(BUN)レベルは、製造業者の方法に従って全自動血液生化学分析装置(バイオマジェスティJCA-BM9130)を用いて測定した。
【0050】
(10)ウェスタンブロッティング
ヒトCCBL1過剰発現LLC/PK1細胞におけるタンパク質および組織溶解物のイムノブロッティング解析は、10mM Tris-HCl、0.15M 5M NaCl、1mM 0.5M EDTA、1% NP40、およびプロテアーゼ阻害剤を含むTNE緩衝液中でホモジナイズした。14,000rpm、10分、4°Cで遠心分離することにより溶解液上清を得た。溶解物中の総タンパク質濃度は、Pierce 660nm Protein assay kit(Thermo Scientific)を用いて決定した。タンパク質抽出物をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE、10%~12.5%ゲル)で分離し、膜上にブロットした。5%無脂肪ミルクでブロッキングした後、膜を、一次抗体である、抗CCBL1(1:1000、GTX32492、GeneTex)、抗Bcl-2関連Xタンパク質(BAX;1:5000、50599-2-Ig、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、anti-Cleaved Caspase-3(1:2000、#9661、Abcam)、および抗β-アクチン(1:2000または1:5000、A5441、Santa Cruz)と共に一晩インキュベートした。TBS-Tで洗浄した後、膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗IgGと共にインキュベートし、製造業者の指示に従って標的バンドを増強化学発光(ECL)試薬で可視化した。標的バンドの強度をデンシトメトリーによって分析し、β-アクチンに正規化した。
【0051】
(11)組換えCCBL1タンパク質の生産
ヒトCCBL1遺伝子を含むバキュロウイルスに感染したSf9細胞を遠心分離によりペレット化し、300mM NaClおよび10mMイミダゾールを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解した。超音波処理後、細胞溶解物を10,000×gで4℃で20分間遠心分離し、上清中の組換えCCBL1を予め平衡化したNi-NTA樹脂(キアゲン社製)に添加した。酵素/樹脂複合体をカラムに移し、50mM リン酸緩衝液(pH8.0)に300mM NaClおよび20mMイミダゾールを含む緩衝液で洗浄し、組換えCCBL1を300mM NaCl、250mMイミダゾール、および50mM リン酸を含む緩衝液(pH8.0)で溶出した。酵素画分を、SDS-PAGEを用いて決定した純度に基づいてプールし、PD-10カラム(GEヘルスケア、英国)を用いて脱塩した。
【0052】
(12)化合物によるCCBL1活性の阻害
CCBL1のβ脱離活性(beta-elimination activity)は、「Arun Kumar Selvam et al.,“A Novel Assay Method to Determine the -Elimination of Se-Methylselenocysteine to Monomethylselenol by Kynurenine Amino transferase 1” Antioxidants 2020,9,139;doi:10.3390/antiox9020139」に記載の方法に従って測定した。簡単に説明すると、5μL中の組換えCCBL1タンパク質500ngと、1μL中の異なる濃度の化合物を混合し、室温で30分間インキュベートした。インキュベーション後、反応混合物の44μLは、pH7.4の100-mMリン酸カリウム緩衝液、5mM Se-メチルセレノシステイン、100μM ジメチル-2-オキソグルタラエート、100μM α-ケト-γ-メチルチオ酪酸ナトリウム塩、10μM 2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、および、ピリドキサール5’-リン酸水和物を含む。反応混合物を37℃でインキュベートし、20μLの5mM 2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを含む2M HClを加えて反応を終了させた。次いで、アッセイ混合物70μLを37°Cで10分間インキュベートし、130μLの1M NaOHを加え、分光光度計(Nivoマルチプレートマイクロプレートリーダー、PerkinElmer)を用いて520nmにおける吸光度の増加を測定した。酵素を含まないアッセイ混合物をブランクとした。
【0053】
(13)データ解析
全ての統計解析は、GraphPad Prism 8ソフトウェア(GraphPad Software Inc.、サンディエゴ、米国)を用いて行った。2つの群間の比較における有意差は、一元配置分散分析を用いて評価した。有意性の基準は、****p<0.0001,***p<0.001、**p<0.01,および、*p<0.05である。全てのデータは、標準誤差±平均として表した。
【0054】
<実施例1>
式(2)に記載のTHAを用いて以下の実験を行った。なお、実施例1で用いたTHAを化合物X(図中では単に“X”)と記載することがある。
【0055】
[in vitroの実験]
(a)CCBL1活性の阻害について
化合物XがCCBL1酵素活性を阻害するか否かを調べるために、組換えヒトCCBL1を用いて、CCBL1β脱離活性に対する化合物Xの阻害活性を調べた。図1は結果を示すグラフである。図1から明らかなように、CCBL1活性は化合物Xによって濃度依存的に阻害されることを確認した。
【0056】
(b)化合物Xが尿細管細胞およびがん細胞へ与える影響
化合物Xがシスプラチン誘発性腎尿細管細胞死を予防するかどうかを調べるために、CCBL1過剰発現LLC/PK1細胞を異なる濃度のシスプラチンおよび化合物Xで24時間処理し、細胞生存率を細胞増殖アッセイによって評価した。LLC-PK1細胞におけるヒトCCBL1の発現量をイムノブロッティングにより確認した。図2に結果を示す。図2Aに示すように、化合物Xは、シスプラチンを添加していない(0μM)群では、LLC-PK1細胞死に影響を与えなかった。一方、シスプラチンを添加した(50μM)群では、シスプラチン誘発性尿細管細胞死を用量依存的に防止した。次に、ヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231細胞)およびルイス肺がん細胞株(LLC細胞)を用いて同様の実験を行った結果を図2Bおよび図2Cに示す。図2Bおよび図2Cから明らかなように、化合物Xは、ヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231細胞)およびルイス肺がん細胞株(LLC細胞)に対してシスプラチン誘発性腫瘍細胞死に影響を与えなかった。図2A図2Cに示す結果から、化合物Xはin vitroでがん細胞におけるシスプラチンの抗がん活性に影響を与えることなく、腎尿細管細胞におけるシスプラチンの細胞傷害性に対して保護することを確認した。
【0057】
[in vivoの実験]
(c)化合物Xの生体内におけるシスプラチン誘発性腎障害について
図3Aに実験手順を示す。図3Aに示すように、化合物Xがin vivoでの腎尿細管細胞死を予防するか否か調べるために、C57BL/6Jマウスにシスプラチン注射の30分前に化合物Xを注射した。次に、免疫組織化学により、各群の腎臓におけるCCBL1タンパク質発現量を調べた。結果を図3Bに示す。図3Bから明らかなように、CCBL1は主に腎尿細管細胞で発現し、シスプラチンおよび化合物Xの投与はCCBL1タンパク質発現レベルに影響を及ぼさなかった。
【0058】
図4は、ヒト腎組織を免疫染色した結果を示す写真である。図4から明らかなように、CCBL1がヒト腎臓切片の腎尿細管細胞に発現していることを確認した。
【0059】
(d)化合物Xの体重および腎臓に与える影響
シスプラチン投与は体重を減らし、腎臓の重量を増加させることが知られていることから、各群の体重と腎臓の重量を測定した。結果を図5に示す。図5Aは体重変化、図5Bは相対腎臓重量を示している。図5Aおよび図5Bから明らかなように、シスプラチン単独の投与は、体重を減少させ、相対腎臓重量を増加させた。しかしながら、シスプラチンおよび化合物Xの両方の投与は、相対腎臓重量を増加させなかった。
【0060】
(e)化合物Xの腎障害への影響
次に、血清中のCreおよびBUNを測定することにより腎障害のレベルを調べた。結果を図6に示す。図6AはCre濃度、図6BはBUNの濃度を示すグラフである。図6から明らかなように、シスプラチン単独投与は、CreおよびBUNレベルを増加させた。一方、シスプラチンの投与によりCreおよびBUNレベルは増加したが、化合物Xの投与は用量依存的にCreおよびBUNを減少させた、また、化合物Xを単独投与した場合は、CreおよびBUNレベルの変化は見られなかった。
【0061】
(f)病理組織学的観察
更に、病理組織学的観察により、尿細管細胞死、細胞脱落、間質浮腫、腎皮質尿細管障害などの腎尿細管細胞障害を調べた。図7に結果を示す。図7Aは光学顕微鏡写真で、写真中の矢印は障害を受けた細胞を示している。図7Bはスコアを示すグラフである。図7から明らかなように、化合物Xは用量依存的に、シスプラチン誘発性尿細管細胞死を抑制することを確認した。シスプラチンおよび化合物X群は、シスプラチンのみの群よりも尿細管損傷スコアが低かった。これらの結果は、化合物Xがシスプラチン誘発性腎障害を予防することを示唆する。また、化合物Xのみを投与した群から明らかなように、化合物X自体は腎尿細管細胞を障害しないことを確認した。
【0062】
(g)化合物Xのシスプラチンによる腎臓でのアポトーシス抑制
シスプラチンはミトコンドリアのアポトーシス経路を活性化することが知られている(Shaomin Shi et al., “ER stress and autophagy are involved in the apoptosis induced by cisplatin in human lung cancer cells”, Oncol rep, 2016; 2606-14.)。そこで、シスプラチンおよび化合物X投与後の腎臓試料におけるイムノブロッティングにより、Bcl-2関連Xタンパク質(BAX)およびCleaved Caspase-3などのアポトーシスマーカーに対する化合物Xおよびシスプラチン投与の効果を調べた。図8AにBAX、図8BにCleaved Caspase-3の結果を示す。図8Aおよび図8Bから明らかなように、BAXおよびCleaved Caspase-3のレベルは、シスプラチン単独投与群と比較して、化合物Xおよびシスプラチン投与群では化合物Xの投与により減少した。これらの結果から、シスプラチンによる腎尿細管細胞のアポトーシスを化合物Xが減少させることを確認した。
【0063】
(h)化合物Xがシスプラチンによる抗がん作用に悪影響を与えないことについて
上記(3)腫瘍同種移植片モデルマウスを用いて、化合物Xがシスプラチンの抗がん作用に悪影響を与えることなく、腎尿細管細胞損傷を軽減できるか否かを調べた。図9乃至図12に結果を示す。図9Aは腫瘍組織の写真、図9Bは腫瘍体積の変化を示すグラフ、図9Cは腫瘍抑制率を示すグラフである。図10Aは体重変化を示すグラフ、図10Bは相対腎臓重量を示すグラフである。図11AはCre濃度、図11BはBUNの濃度を示すグラフである。図12Aは光学顕微鏡写真で、写真中の矢印は障害を受けた細胞を示している。図12Bはスコアを示すグラフである。図9Aおよび図9Bから明らかなように、シスプラチンを投与することで腫瘍サイズは減少し、化合物Xをシスプラチンと共に投与してもこの効果は変化しなかった。シスプラチン誘発性腎障害モデルマウスと同様に、シスプラチン単独投与により体重は減少し、相対腎臓重量は増加した。しかしながら、図10Aおよび図10Bに示すように、シスプラチンおよび化合物Xの両方を投与した場合、体重はほとんど変化しなかった一方で、相対腎臓重量は減少した。また、図11Aおよび図11Bに示すように、化合物Xの投与は、シスプラチン誘発性のBUNおよびCreの増加を用量依存的に減少させた。さらに、図12Aおよび図12Bから明らかなように、腫瘍同種移植片モデルマウスにおいて、化合物Xはシスプラチン単独投与と比較して腎尿細管損傷スコアを低下させることを確認した。
【0064】
以上の結果より、化合物X(THA)は、in vitroおよびin vivoの両方でシスプラチン誘発性腎尿細管細胞損傷を予防(発生した障害を治療)することを確認した。また、化合物Xは、in vivoでシスプラチンの抗がん効果に影響を与えることなく、シスプラチン誘発性腎障害から腎臓を保護することを確認した。したがって、化合物Xは、臨床シスプラチン療法のための潜在的なアジュバントとなり得る。
【0065】
<実施例2>
実施例1のTHAに替え、式(3)に記載の化合物(フロプロピオン)を用いた以外は、実施例1の「(a)CCBL1活性の阻害について」および「(e)化合物Xの腎障害への影響」と同様の手順で実験を行った。図13はCCBL1活性の阻害結果を示すグラフである。なお、対比のため、図13にはTHAの結果も併せて記載した。図14AはCre濃度、図14BはBUNの濃度を示すグラフである。図13および図14から明らかなように、CCBL1活性は、THAと同様、フロプロピオンによって濃度依存的に阻害されることを確認した。また、シスプラチンの投与によりCreおよびBUNレベルは増加したが、フロプロピオンは用量依存的にCreおよびBUNを減少させた、また、フロプロピオンを単独で投与した場合は、CreおよびBUNレベルの変化は見られなかった。以上の結果より、フロプロピオンは、THAと同様の効果を奏することを確認した。
【0066】
<実施例3>
[CCBL1阻害化合物のスクリーニング]
CCBL1阻害化合物は、大阪大学薬学研究科創薬サイエンス研究支援拠点より提供された化合物ライブラリー(The Spectrum Collection)に含まれる化合物のKAT1阻害活性をスクリーニングすることにより得た。150mMの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール緩衝液中に含まれる10ng/μl組換えCCBL、1mML-キヌレニン、1mMピルビン酸ナトリウム、100μMPLP、0.005%Tween20混合液を、10μMの化合物を含む384ウェルプレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。次いで20μlの300mM酢酸亜鉛溶液を添加し、励起波長340nM、蛍光波長460nMの蛍光強度をInfinite M1000プレートリーダー(TECAN)で測定した。化合物を含まないControlを反応100%、酵素を含まないBackgroundを反応0%として、下式に基づき化合物(Sample)の阻害活性を算出した。
阻害活性(%)=100x{1-(Sample-Background)/(Control-Background)}
【0067】
化合物のスクリーニング結果を表1に示す。なお、実施例1で用いたフロルアセトフェノン(式(2)に記載の化合物)および実施例2で用いたフロプロピオン(式(3)に記載の化合物)の阻害活性も併せて記載する。
【表1】
【0068】
表1に示す結果から明らかなように、PHLORETIN(式(4)に記載の化合物)も、実施例1および実施例2の化合物と同様にCCBL1の阻害機能を有することから、実施例1および実施例2と同様の効果を奏する。
【0069】
一方、一般式(2)の4-ヒドロキシを、4-O-メチルに置換した4-O-メチルフロルアセトフェノン(下記式(5)参照。抗真菌機能を有する。)は、ベンゼン環の4位のヒドロキシ基をO-メチル基に置換した以外は一般式(2)と同じであるにもかかわらず、CCBL1阻害活性を殆ど示さなかった。
【0070】
【化13】
【0071】
以上の結果より、実施例1乃至実施例3で効果を確認した化合物は、式(1)で表される共通の骨格を有することから、式(1)に示す化合物であれば、同様の効果を奏することが期待できる。また、式(5)で表される化合物がCCBL1阻害活性を殆ど有しなかったことから、式(1)で表される化合物において、CCBL1阻害活性を奏するためには、ベンゼン環の2、4、6位がヒドロキシ基であることが重要であると推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
式(1)で表される化合物は、腎障害を軽減できる。また、CCBL1阻害機能を有する。したがって、白金製剤により誘導される腎障害を抑制しつつ、がんの治療ができる。
【要約】
腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物を提供することを課題とする。
腎障害の治療方法または予防方法において使用するための医薬組成物であって、
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数7~12のアラルキル基若しくはアリールアルケニル基又は置換基を有してもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を表す。]
で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、医薬組成物により、課題を解決できる。
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