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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】埋め込み型管腔内プロテーゼ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20240321BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20240321BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240321BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240321BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61F2/90
A61L31/02
A61L31/12
A61L31/14
A61P9/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018524202
(86)(22)【出願日】2016-11-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2016077363
(87)【国際公開番号】W WO2017081213
(87)【国際公開日】2017-05-18
【審査請求日】2019-11-11
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】3716/DEL/2015
(32)【優先日】2015-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】523292865
【氏名又は名称】イントレッサ・バスキュラー・エス・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】フリッド,ヌールディン
【合議体】
【審判長】佐々木 一浩
【審判官】内藤 真徳
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513931(JP,A)
【文献】特開2008-200499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/04 - 2/07, 2/82 - 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送達形態における半径方向に圧縮した状態から、半径方向に拡張した状態まで拡張できる、軸に沿って延在する少なくとも1つの自己拡張型編組フレームワーク(20)から実質的になる多層構成を有する、分枝を含む動脈瘤の治療に使用される埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)であって;前記自己拡張型編組フレームワーク(20)は、単一で所与のワイヤ直径(Φ21)を有する、多くても196本のワイヤ(21)で形成され;この自己拡張型編組フレームワーク(20)は、いずれの不透過性カバー層も欠いており、生体適合性材料で作製されたワイヤ(21)の複数の層を含み;および前記管腔内プロテーゼ(1)の壁を形成し;各層はメッシュを形成し;前記メッシュは、前記層の複数のワイヤ(21)で格子を形成し;前記メッシュはからみ合わせられており、前記層が編組時に区別できず、第1の層のワイヤが第2の層および/または他の層のワイヤとからみ合わせられており、各ワイヤは、隣接する層のうちの少なくとも1つの層の前記メッシュに組み込まれており;前記自己拡張型編組フレームワーク(20)は、円形横断面および一定直径のシリンダー形のルーメンを含む、埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)において;半径方向に拡張した状態において、半径方向に拡張した状態における前記埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)の壁の厚さ(T)対ワイヤ(21)の前記直径(Φ21)の比(T/Φ21)は、3.0超であり;および前記編組フレームワーク(20)の表面被覆率(SCR)は、少なくとも35%および多くても50%であり、各ワイヤ(21)の前記直径が少なくとも120μmであり、複数層構成のワイヤは、隣接する平行するワイヤ間において一定の距離を保つようにシフトし、前記SCRが湾曲状態および直線構成において維持されることを特徴とする、埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)。
【請求項2】
前記比(T/Φ21)が少なくとも3.5である、請求項1に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)。
【請求項3】
前記比(T/Φ21)が少なくとも4.0である、請求項1に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)。
【請求項4】
前記自己拡張型編組フレームワーク(20)が、少なくとも90本のワイヤおよび多くても130本のワイヤを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)。
【請求項5】
前記ワイヤ(21)の前記直径が少なくとも150μmである、請求項1に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)。
【請求項6】
前記ワイヤ(21)の前記直径が少なくとも180μmである、請求項5に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)。
【請求項7】
前記ワイヤ(21)の前記直径が少なくとも200μmおよび多くても220μmである、請求項6に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ(1)。
【請求項8】
前記生体適合性材料が、チタン、ニッケル-チタン合金、任意のタイプのステンレス鋼、およびコバルト-クロム-ニッケル合金からなる群から選択される金属基材である、請求項1~7のいずれか1項に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項9】
前記生体適合性材料が、ニチノール、Nitinol-DFT(登録商標)-Platinum、およびPhynox(登録商標)からなる群から選択される金属基材である、請求項1~7のいずれか1項に記載の埋め込み型管腔内プロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、埋め込み型管腔内プロテーゼに関する。より詳細には、本発明は、分枝を含む動脈瘤の治療のための管腔内プロテーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管内修復は、大動脈瘤を治療するための比較的新しい低侵襲技術であることが知られている。遠く離れた場所にある血管を経由して、金属製またはプラスチック製フレーム(ステント)で支持された不透過性チューブ(グラフト)を送達する。しかしながら、それが不透過性であるために、この技術は、動脈瘤が重要な分枝(例えば、冠動脈、上大動脈分枝、腎および中副腎動脈、内蔵動脈および内腸骨動脈)を含む動脈瘤修復には適用できない。さもなければ、分枝の閉塞を伴う重篤な合併症を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明の概要
本発明の第1の目的は、分枝を含む動脈瘤を治療するために、血管内アプローチによって埋め込むことができる機器を提供することである。
【0004】
本発明の別の目的は、動脈瘤の治療中、分枝の開存性を保証することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の主題は、添付の独立請求項において定義される。好ましい実施形態は、従属請求項において定義される。
【0006】
本発明の主題は、多層構成を有し、かつ少なくとも1つの自己拡張型編組フレームワークを含む、埋め込み型管腔内プロテーゼである。前記編組フレームワークは、送達形態における半径方向に圧縮した状態から、半径方向に拡張した状態まで拡張でき、軸に沿って延在する。編組フレームワークは、所与の直径Φ21を有する多くても196本のワイヤで形成される。編組フレームワークは、いずれの不透過性カバー層も欠いており、および管腔内プロテーゼの壁を形成する。編組フレームワークは、円形横断面および一定直径のシリンダー形のルーメンを含む。半径方向に拡張した状態における前記管腔内プロテーゼの壁の厚さT対ワイヤの直径Φ21の比T/Φ21は、2.0超、好ましくは少なくとも2.5、一層好ましくは少なくとも3.0、さらに一層好ましくは少なくとも3.5、さらに一層好ましくは4.0である。前記管腔内プロテーゼの表面被覆率(SCR)は、半径方向に拡張した状態において、30%超および70%未満であり、好ましくは35%超および50%未満である。
【0007】
自己拡張型編組フレームワークは、好ましくは、少なくとも90本のワイヤおよび多くても130本のワイヤを含む;およびワイヤの直径は、少なくとも120μm、好ましくは少なくとも200μmおよび多くても220μmである。
【0008】
別の好ましい実施形態では、半径方向に拡張した状態において、自己拡張型フレームワークは、生体適合性材料で作製されたワイヤの複数の層を含む;各層はメッシュを形成する;これらメッシュは、前記層の複数のワイヤで格子を形成している;これらメッシュはからみ合わせられており、これらワイヤは、隣接する層のうちの少なくとも1つの層のメッシュに組み込まれている。
【0009】
図面の簡単な説明
本発明の他の特殊性および利点は、以下発展され、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による管腔内プロテーゼの概略的な前面図である。
図1a図1に示す前面図の一部分の概略的な拡大図である。
図2図1に示す管腔内プロテーゼの側面図である。
図3】切断平面III-IIIによる、図1図1aおよび図2に示す管腔内プロテーゼの断面図である。
図3a図3に示す断面図の一部分の実施形態の概略的な拡大図である。
図3b図3に示す断面図の一部分の別の実施形態の概略的な拡大図である。
図4】本発明による管腔内プロテーゼの別の部分の概略的な拡大図である。
図5】本発明による管腔内プロテーゼが埋め込まれている、動脈瘤の治癒プロセスの2つの段階を示す。
図6】本発明による管腔内プロテーゼが埋め込まれている、動脈瘤の治癒プロセスの2つの段階を示す。
図7】従来技術のステントおよび本発明による管腔内プロテーゼを用いる、大動脈分枝口における血流速度のシミュレーションを示す。
図8】従来技術のステントおよび本発明による管腔内プロテーゼを用いる、大動脈分枝口における血流速度のシミュレーションを示す。
図9a-9b】従来技術(ステントを用いない)による、および本発明による管腔内プロテーゼを用いる、大動脈モデルにおける血流速度のシミュレーションを示す。
図10a-10b】図9aに示すシミュレーションの、上大動脈分枝口における拡大図である。
図11a-11b】図9aに示すシミュレーションの、冠動脈口における拡大図である。
図12】大動脈弓の幅および高さを測定する方法を示す、大動脈の概略的な断面図である。
図13a】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む嚢状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
図13b】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む嚢状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
図13c】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む嚢状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
図13d】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む嚢状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
図14a】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む紡錘状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
図14b】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む紡錘状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
図14c】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む紡錘状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
図14d】本発明による管腔内プロテーゼを用いる、分枝を含む紡錘状動脈瘤の治癒プロセスの異なるフェーズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
下記では、用語「埋め込み型」は、身体血管内のある箇所に位置決めされる医療機器の能力を指す。埋め込み型医療機器は、医療的介入の際に身体血管内に一時的に配置されるように(例えば、数秒、数分、数時間)、または身体血管内に永久的に留まるように、構成され得る。
【0012】
用語「管腔内」または「経管」プロテーゼは、処置によって、湾曲したまたは直線の身体血管内に配置されるように適合される機器を指し、ここでは、プロテーゼは、遠く離れた箇所から身体血管内の標的部位まで、身体血管の管腔内を通って前進させられる。血管の処置では、医療機器は、一般に、透視下で、ワイヤガイド上でカテーテルを使用して「血管内に」導入され得る。カテーテルおよびワイヤガイドは、血管系にある従来の挿入部位を通して導入され得る。
【0013】
用語「カテーテル」は、標的部位にアクセスするために血管内に挿入されるチューブを指す。本説明では、「カテーテル」は、カテーテル自体、またはその付属品、つまり針、ガイドワイヤ、イントロデューサシースおよび当業者に公知の他の一般的で好適な医療機器を備えるカテーテルのいずれかを指す。
【0014】
用語「永久的」は、血管内に配置され得、かつ血管内に長期間(例えば数カ月、数年)、およびおそらくは患者の残りの人生にわたって留まる医療機器を指す。
【0015】
管腔内プロテーゼ1は、送達システム内に配置されると、比較的小さくかつ比較的均一な直径を有する圧縮形状を取り(すなわち、「圧縮状態にある」)、および体内管腔などの送達箇所内で、直径が半径方向に拡張した展開形状を自然発生的に取る(すなわち、「展開状態にある」)ように構成される。本明細書では、用語「拡張形状」または「拡張状態」は、外部圧縮力が全くない状態(すなわち、非抑制状態)で拡張できるときの、自己スプリングバック物体(例えば、編組フレームワーク20)の自己拡張特性から生じる形状または状態を指す。これらの定義に加え、用語「公称直径」は、標的とする血管内に配置されるときの、埋め込み型管腔内プロテーゼの直径を指す。一般的に、体内管腔内に永久的に配置されるように設計される自己拡張型機器の公称直径(Φnor)は、外部圧縮力(Φexp)のない展開時の前記機器の外径よりも10~25%小さい。
【0016】
本発明による埋め込み型管腔内プロテーゼ1は、送達形態の半径方向に圧縮した状態から、半径方向に拡張した状態まで拡張できる少なくとも1つの自己拡張型編組フレームワーク20を含む。埋め込み型管腔内プロテーゼ1は、自己拡張型編組フレームワーク20うちの少なくとも2つを含むか、または複数のワイヤを編組することによって形成された、複数のからみ合わせられた層(からみ合わせられた多層構成)を有する少なくとも1つの自己拡張型編組フレームワーク20を含むかのいずれかの、多層構成を有する。編組フレームワーク20は、図1図1aおよび図2に示す、円形横断面および一定直径のシリンダー形のルーメンを含む。
【0017】
多層構成を有する管腔内プロテーゼ1が、壁に対して垂直に観察されるとき、編組フレームワーク20のメッシュは、複数のレベルのワイヤ21で格子を形成する。図3は、本発明による管腔内プロテーゼ1の概略的な断面図を示す。図3aは、自己拡張型フレームワーク20を含む管腔内プロテーゼ1の一部分の概略的な拡大図を示し、および図3bは、2つの自己拡張型フレームワーク20を含む管腔内プロテーゼ1の一部分を示す。管腔内プロテーゼ1の壁の厚さT対ワイヤ21の直径Φ21の比T/Φ21は、2.0を上回る必要がある。これは、単一層よりも多い層のメッシュ、すなわち多層構成を有する管腔内プロテーゼ1を特徴付ける。編組フレームワーク20は、好ましくは、厚さT20を有する多層の編組物で作製される。用語「からみ合わせられた多層」は、複数の層を含み、例えば、図4に概略的に示すように、それらのプライが編組の時点で区別されない、例えば第1の層22のプライの所与の数のワイヤが、第2の層23および/または他の層のプライとからみ合わせられている、フレームワークを指す。前記からみ合わせられた多層は、例えば、欧州特許第1248372号に説明されている編組機を使用することによって、形成され得る。
【0018】
従来のステントの壁の厚さと比較して多層の管腔内プロテーゼ1の厚みのある壁Tのおかげで、管腔内プロテーゼ1は三次元(3D)多孔性を示している。壁が厚いほど(所与のワイヤ直径Φ21に関して)、3D多孔性の効果は大きくなる。
【0019】
管腔内プロテーゼ1の3D多孔性によってもたらされる技術的効果の1つは、本管腔内プロテーゼ1が、従来のステント-グラフト技術でそうであるように機械的/物理的に血流が動脈瘤に入らないようにする代わりに、動脈瘤嚢内への血流を、その多層構成に起因して、動脈瘤嚢内における、望まれない損傷を与える乱流から、滑らかな層流11(図5に示すような)に変換することである。分枝および側副枝が遮られていない間に、Zhanの層として公知の(図6参照)、保護的に組織化された血栓12を形成することによって、動脈瘤を排除する。管腔内プロテーゼ1の透過性の多層構造のおかげで、追加的な修復、例えば血流を維持するための開放式の脱分枝-バイパス処置およびあつらえの有窓/分枝構成が必要ではなくなる。
【0020】
管腔内プロテーゼ1の表面被覆率(SCR)は、半径方向に拡張した状態では、30%~70%、好ましくは35%超および50%未満、さらに一層好ましくは45%未満である。管腔内プロテーゼのSCRは、式:
SCR=S/S
によって定義される。ここで、「S」は、管腔内プロテーゼ1に構成されるワイヤ21によって被覆される実際の表面であり、および「S」は、壁に対して垂直に観察するときの、管腔内プロテーゼ1の壁の全表面積である。
【0021】
本発明人によって実施された研究および実験は、予期しない驚くべき結果に至った。分枝における灌流は、これらの分枝を閉塞する代わりに、30%~70%の管腔内プロテーゼのSCRを有して、比T/Φ21が大きくなるに従って、改善される。「灌流」は、生理学では、その生物学的組織において、毛細血管床に血液を送達する生体のプロセスである。用語「低灌流」および「過灌流」は、組織の代謝要求に適合させるための、組織の現在の要求に対する灌流レベルを測定する。例えば、本発明の管腔内プロテーゼは、上大動脈分枝を被覆するときに上大動脈分枝30における灌流を増加させて、上大動脈分枝30が血液を供給する器官の機能の改善を生じる。図7のシミュレーションに示すように、分枝口34においてひどい乱流が生じる。そうではなく、管腔内プロテーゼが口34の前側に配置されるとき、管腔内プロテーゼの壁を通過することによって、カオス流が解消されて、調節された層流に変換される。これは、管腔内プロテーゼ1によって被覆された分枝内の流れを加速する。従って、半径方向に拡張した状態において、本管腔内プロテーゼ1の比T/Φ21は、2.0超、好ましくは少なくとも2.5、一層好ましくは少なくとも3.0、さらに一層好ましくは少なくとも3.5、さらに一層好ましくは4.0である必要がある一方、SCRは、30%~70%、好ましくは35%~50%である。T/Φ21が2.0超の管腔内プロテーゼを用いないおよび用いる大動脈モデルにおける血流の匹敵するシミュレーションが、それぞれ図9aおよび図9bに示されている。大動脈モデルは、患者の実際の病状に基づいて作成された。図9bでは、管腔内プロテーゼは、冠動脈31から上大動脈分枝30まで血管の壁を被覆するように配置される。そのように処理すると、驚くことに、図10a(図9aの拡大図)に示すような機器を用いない速度と比較すると、図10b(図9bの拡大図)に示すように、上大動脈分枝30の口34で上大動脈分枝30に入る血流の速度が、21%~24%で特に上昇する。冠動脈での流速はまた、図11aおよび図11bに示すように、20%まで上昇する。
【0022】
管腔内プロテーゼ1によって被覆される分枝における「灌流」のさらに特徴的な改善は、このからみ合わせられた多層構成によって観察された。管腔内プロテーゼ1の編組フレームワーク20は、多くても196本のワイヤ21、好ましくは少なくとも90本のワイヤ、多くても130本のワイヤで作製される。ワイヤの直径(Φ21)は、好ましくは、少なくとも120μm、好ましくは少なくとも150μm、一層好ましくは少なくとも180μm、さらに、少なくとも200μm、および多くても220μmである。
【0023】
本発明の別の利点は、より高い値の比T/Φ21を有する埋め込み型管腔内プロテーゼ1が、より低いT/Φ21比を有する編組フレームワークと比較して、動脈瘤嚢内で血栓を効率的に形成し得ることである。2.0超の管腔内プロテーゼ1の壁の厚さT対ワイヤ21のワイヤ直径Φ21の比T/Φ21は、単一層よりも多い層のメッシュを有する管腔内プロテーゼ1を特徴付ける。比T/Φ21が大きいほど、管腔内プロテーゼ1はより多くの層を含む。複数の層を形成する各ワイヤは、管腔内プロテーゼ1の壁を通過する血流を層流にするように働く。
【0024】
大動脈弓32の湾曲は、一般的に、Ou et al. J. Thrac. Cardiovasc. Surg. 2006;132:1105-1111において説明されているように、湾曲の幅W32および高さH32を測定することによって、規定される。幅W32は、右肺動脈を通る軸方向平面に近い、上行大動脈の中間点35と下行大動脈32の中間点35との間の水平方向最大距離として測定される;および大動脈弓の高さH32は、図12に示すように、W32と大動脈弓W32の最大高さの中間点35との間の、垂直方向最大距離として測定される。
【0025】
少なくとも2.5の比T/Φ21を有する、からみ合わせられた複数層構成は、重要な好都合な技術的特性をもたらす。動脈瘤が、湾曲の外側にある場合、分枝、例えば上大動脈分枝30の開存性を保ちながら、望まれない損傷を与える乱流33を滑らかな層流36に変換することによって、動脈瘤嚢の保護的に組織化された血栓を形成するためには、湾曲の外側においてメッシュの最適なSCRおよび最適な開口径を設定することが、最も重要である。本発明のからみ合わせられた複数層構成のワイヤは、隣接する平行するワイヤ間において一定の距離を保つようにシフトし、SCRが、湾曲状態および直線構成においてほとんど同じままとし得るようにする。それどころか、T/Φ21が2.0未満の従来の単一層のメッシュ様のチューブが、湾曲した管腔内で展開されるとき、湾曲の外側におけるSCRは、直線構成におけるSCRよりも遥かに低い。それゆえ、本管腔内プロテーゼ1の比T/Φ21は、2.0超、好ましくは少なくとも2.5、一層好ましくは少なくとも3.0、さらに一層好ましくは少なくとも3.5、さらに一層好ましくは少なくとも4.0である必要がある。
【0026】
動脈瘤壁と管腔内プロテーゼとの間の空間が、図6に示すような血栓によって閉塞されるであろうという「通常」の予測に反して、からみ合わせられた複数層構成を有する本管腔内プロテーゼ1によってもたらされた別の驚くべき効果として、図13および図14に示すように分枝内への血流を依然として維持しながら、動脈瘤嚢内で血栓を形成する代わりに、分枝を含む動脈瘤が直接縮小する。本発明人は、大動脈の始まりの部分を封止することによって、拡大した望ましくない乱流33が解消され、および望ましい滑らかな流れ11がこの体積部に生じると仮定する。これは、分枝に入る非乱流の血流を加速する一方で、ヴェンチュリ効果下で圧力を低下させ、動脈瘤嚢の縮小を生じる。
【0027】
本発明において使用される生体適合性材料は、好ましくは、ステンレス鋼(例えば、316、316Lまたは304);形状記憶タイプまたは超弾性タイプを含むニッケル-チタン合金(例えば、ニチノール、Nitinol-DFT(登録商標)-Platinum);コバルト-クロム合金(例えば、エルジロイ(elgiloy));コバルト-クロム-ニッケル合金(例えば、phynox);コバルト、ニッケル、クロムおよびモリブデンの合金(例えば、MP35NまたはMP20N);コバルト-クロム-バナジウム合金;コバルト-クロム-タングステン合金;マグネシウム合金;チタン合金(例えば、TiC、TiN);タンタル合金(例えば、TaC、TaN);L605からなる群から選択される金属基材である。前記金属基材は、好ましくは、チタン、ニッケル-チタン合金、例えばニチノールおよびNitinol-DFT(登録商標)-Platinum、任意のタイプのステンレス鋼、またはコバルト-クロム-ニッケル合金、例えばPhynox(登録商標)からなる群から選択される。
図1-1a】
図2
図3-3a】
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9a-9b】
図10a-10b】
図11a-11b】
図12
図13(a)】
図13(b)】
図13(c)】
図13(d)】
図14(a)】
図14(b)】
図14(c)】
図14(d)】