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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】摩擦材料
(51)【国際特許分類】
   F16D 69/02 20060101AFI20240321BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240321BHJP
   F16D 13/62 20060101ALI20240321BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
F16D69/02 B
C09K3/14 520Z
C09K3/14 520E
C09K3/14 520M
F16D13/62 A
C03C3/087
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019045845
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2019199960
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】18173336.1
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500336306
【氏名又は名称】ロックウール アクティーゼルスカブ
【住所又は居所原語表記】Hovedgaden 584, 2640 Hedehusene, DENMARK
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】アルノルドュス マリア ケルッセマケルス
(72)【発明者】
【氏名】フェルナオ ヨゼフ コルネリス ペルスーン
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/087331(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/212029(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/042533(WO,A1)
【文献】特許第2893508(JP,B2)
【文献】特開平10-008036(JP,A)
【文献】特開平08-113658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C09K 3/14
F16D 11/00-23/14
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材料の摩耗性低減のための摩擦材料配合物の成分としての人造ガラス繊維クラスターの使用であって、前記人造ガラス繊維クラスターの少なくとも95wt%は0.6mm~1.6mmの範囲の最大寸法を有する、使用。
【請求項2】
前記摩擦材料はブレーキパッドである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
少なくとも300℃、好ましくは少なくとも500℃の温度での請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
前記人造ガラス繊維クラスターの少なくとも95wt%は0.6mm~1.0mmの範囲の最大寸法を有する、先行の請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記人造ガラス繊維クラスターは>63μmのサイズのショットを2wt%以下、好ましくは1wt%以下で含む、先行の請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記人造ガラス繊維クラスターは複数の人造ガラス繊維を含み、該人造ガラス繊維は50wt%未満のSiO2及び15wt%を超えるAl23を含む、先行の請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記人造ガラス繊維クラスターは前記摩擦材料の少なくとも1wt%、好ましくは少なくとも3wt%、より好ましくは少なくとも5wt%を構成する、先行の請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
前記人造ガラス繊維クラスターは前記摩擦材料の15wt%以下、好ましくは12wt%以下を構成する、先行の請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記人造ガラス繊維クラスターは複数の人造ガラス繊維を含み、該人造ガラス繊維は数平均アスペクト比が40未満、好ましくは30未満である、先行の請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
前記人造ガラス繊維クラスターはバインダーを含む、先行の請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
1~100wt%の人造ガラス繊維をクラスターの形態で含み、前記クラスターの少なくとも95wt%は0.6mm~1.6mmの範囲のサイズを有する、人造ガラス繊維の混合物。
【請求項12】
少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも75wt%の人造ガラス繊維をクラスターの形態で含み、人造ガラス繊維の残部を緩い繊維の形態で含む、請求項11記載の混合物。
【請求項13】
バインダーを更に含む、請求項11又は12に記載の混合物。
【請求項14】
人造ガラス繊維クラスターを摩擦材料配合物に取り込む工程を含む、摩擦材料の調製方法であって、前記人造ガラス繊維クラスターは少なくとも95wt%が0.6mm~1.6mmの範囲のサイズを有するようなサイズ分布を有する、方法。
【請求項15】
前記繊維クラスターの量は出発材料の1~10v/v%である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記人造ガラス繊維クラスターは請求項11~13のいずれか1項記載の混合物の一部として組み込まれている、請求項14又は15記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、使用時に低減された摩耗性を示す摩擦材料及びそのような摩擦材料の調製方法に関する。本発明はまた、これらの摩擦材料の調製に使用するのに適し、そして摩擦材料の摩耗性を低減するのに適した、人造ガラス繊維(MMVF)クラスターに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
摩擦材料は、ブレーキ又はクラッチデバイスなどの様々な用途に広く使用されている。摩擦材料は、しばしば、ブレーキパッド、ブレーキシュー、ブレーキライニング、摩擦板及びクラッチフェーシングの形態で使用される。摩擦材料は、産業機械及び輸送機械又はエレベータ、旅客用乗物などの乗物を含む様々な用途に使用することができる。
【0003】
摩擦材料の1つの重要な特徴は、使用時に低い摩耗性を示すべきであることである。摩擦材料の摩耗は望ましくない排出物の増加をもたらすことがある。本発明は、低減された摩耗性を示す摩擦材料を製造することを目的とする。
【0004】
WO2011/042533は、NVH(騒音及び振動の過酷さ)を低減する目的での摩擦材料中の無機繊維球の使用を記載している。この文献は、通常の潤滑剤及びフィラーとしての研磨材を使用して、摩擦材料の摩耗特性を調整することを教示している。また、無機繊維球が特定のサイズ分布を有する必要はない。
【0005】
WO2017/212029及び技術論文「摩擦用途において低減された摩耗性を得るための白石繊維」、Persuら、EB2016-MDS-003(EuroBrake 2016, Milan, Italyで発表及び公開)の両方は、摩擦材料における摩耗を低減するための1つの解決策を記載している。これは、強化繊維として摩擦材料に取り込まれる人造ガラス繊維(MMVF)のために通常の繊維化学とは異なるものを使用することを含む。繊維は「緩い」繊維として取り込まれ、ブレーキパッドなどの摩擦材料に一般的に使用される他のMMVFよりも低い摩耗性を有し、それにより、摩耗性を低減する。
【発明の概要】
【0006】
摩擦材料のための配合物の成分としてMMVFを使用することはよく知られている。本発明は、摩擦材料配合物中に離散したクラスターの形態でMMVFを含有させることにより、緩い繊維の形態でMMVFを含めることと比較して、低減された摩耗性をもたらすことができるという知見に基づいている。
【0007】
要旨
本発明の第一の態様によれば、我々は、使用時に摩擦材料の摩耗性を低減するために摩擦材料配合物中におけるMMVFクラスターの使用を提供する。
【0008】
したがって、クラスターの形態のMMVFを含む摩擦材料は、同じ配合を有するが、緩い形態で同じMMVFを同じ百分率で含有する摩擦材料と比較して、使用時における摩耗性の低減を示す。摩耗性は、SAE J2521:2003-06、SAE J 2522:2006-01及びSAE J 2707:2005-02の摩耗要素などの標準試験によって決定することができる。
【0009】
摩擦材料に取り込まれる際のMMVFタイプの繊維は、従来的には、緩い繊維、すなわち互いに実質的に絡み合わない単一の個々の繊維として含まれる。マトリックス中に含まれる場合に、そのような緩い繊維は、それがマトリックス全体に分散されるので、時々、分散繊維と呼ばれる。対照的に、本発明により使用される繊維クラスターは、凝集したMMVFの球であり、ある程度は相互に織り交ぜ又は絡み合っていることができる。それゆえ、それは顆粒の形態を有しうる。好ましくは、それは規則的な形状、例えば卵形又は回転楕円体(実質的に球形)である。摩擦材料に取り込まれるときに、それは円板形状を有することができる。
【0010】
MMVFクラスターのサイズ分布が摩耗性低減を最適化する上で重要であることが見出された。クラスターとして規定されるためには、繊維集合体は少なくとも0.4mmの最小寸法を有するべきである。我々は、最良の摩耗低減性能が0.6~1.6mm、好ましくは0.6~1.0mmの範囲のサイズのMMVFクラスターによって与えられることを発見した。したがって、好ましくは、本発明で使用されるMMVFクラスターは、MMVFクラスターの少なくとも95wt%が0.6~1.6mmのサイズを有するサイズ分布のものである。好ましくは、MMVFクラスターの少なくとも97wt%、より好ましくは少なくとも98wt%、さらにより好ましくは実質的に100wt%がこの範囲のサイズを有する。サイズはふるい分けによって決定することができる。規定されたサイズ分布の提供もふるい分けの使用によって行うことができる。
【0011】
したがって、本発明の第二の態様によれば、摩擦材料の調製方法であって、MMVFクラスターを摩擦材料配合物中に取り込む工程を含み、該MMVFクラスターは、少なくとも95wt%が0.6~1.6mmの範囲のサイズを有するようなサイズ分布を有する方法は提供される。
【0012】
本発明の第三の態様によれば、摩擦材料配合物の調製におけるMMVFクラスターの使用であって、該MMVFクラスターは、少なくとも95wt%が0.6~1.6mmの範囲のサイズを有するようなサイズ分布を有する、使用は提供される。
【0013】
本発明の第四の態様によれば、1~100wt%のMMVFをクラスターの形態で含み、前記クラスターの少なくとも95wt%が0.6~1.6mmの範囲のサイズを有する、人造ガラス繊維の混合物は提供される。
【0014】
上記混合物は、少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも75wt%、さらには100wt%のMMVFをクラスターの形態で含むことができる。 残部は緩い繊維の形態のMMVFから形成される。
【0015】
本発明の第五の態様によれば、本発明の第二の態様の方法によって得ることができる摩擦材料は提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本発明の方法において、MMVFクラスターの少なくとも95wt%は0.6mm~1.6mm、好ましくは0.6mm~1.0mmの範囲のサイズを有する。好ましくは、この方法で使用されるMMVFクラスターの全てはその範囲内のサイズを有する。サイズは、従来のふるい分け技術を用いて制御することができる。サイズは、人造ガラス繊維クラスターの最大寸法を指し、該クラスターは規則的な球形を有する必要がない。
【0017】
本発明の発明者は、驚くべきことに、この狭いサイズ範囲内のMMVFクラスターを使用することにより、摩擦材料が使用されているときの摩耗性低減の利益をもたらすことを見出した。特に、摩擦材料自体の摩耗性は低減される。これは、ブレーキパッドの摩耗を低減して、環境への微粒子排出物を低減することが望ましい、自動車産業における現在の関心事である。この狭いサイズ範囲内のMMVFクラスターを使用すると、MMVFクラスターによって提供されるリザーバーのサイズに起因して摩耗速度低下に寄与することができ、ここで、摩耗屑は環境に失われるのではなく蓄積することができる。
【0018】
本発明によって製造される摩擦材料において、好ましくは、MMVFクラスターのレベルは15wt%未満、例えば12%未満である。MMVFクラスターとともに緩い繊維を含むことができる。この場合に、緩い繊維もMMVFであることが好ましく、より好ましくは、クラスターを形成するために使用されるMMVFと同じタイプ及び組成のものである。この場合に、MMVFクラスター及び緩い繊維の合計レベルが15wt%未満、好ましくは12wt%未満であることも好ましい。好ましくは、摩擦材料中のMMVFクラスターのレベルは、少なくとも1wt%、好ましくは少なくとも3wtt%、より好ましくは少なくとも5wt%である。
【0019】
MMVFの緩い繊維とMMVFクラスターとの混合物を使用することは、クラスターに関連する摩耗低減特性を、緩い繊維に関連する強化特性とともに達成するのに有益である。
【0020】
MMVFクラスター及び緩いMMVFの両方が使用される場合に、好ましくはブレンドの少なくとも50wt%、より好ましくは少なくとも75wt%はMMVFクラスターで構成され、残部は緩いMMVFである。
【0021】
摩擦材料は、アラミド繊維、スチール繊維、炭素繊維及び他のタイプの鉱物繊維などの他のタイプの緩い繊維を含むことができる。例えば、他の繊維タイプを強化繊維として使用することができる。相補的特性を有する異なるタイプの強化繊維の混合物は使用される。MMVF以外の強化繊維の例は、ガラス繊維、鉱物繊維、金属繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、セピオライト繊維及びセラミック繊維である。強化のための金属成分はまた、繊維形状以外の形状を有してもよい。当該技術分野において通常のとおり、本出願において、摩擦材料に含まれる全ての金属成分は、その形状が何であれ(繊維、チップ、ウールなど)、金属強化繊維とみなされる。金属繊維の例としては、スチール、真鍮及び銅が挙げられる。スチール繊維はしばしば錆の欠点があるので、スチール繊維を使用する場合には、亜鉛金属はしばしば摩擦材料上に分配される。金属繊維は酸化され又はリン酸化されてもよい。アラミド繊維の例はケブラー繊維である。セラミック繊維は、典型的には、アルミナなどの金属酸化物又は炭化ケイ素などの炭化物から作られている。
【0022】
好ましくは、全ての緩い繊維は緩いMMVFである。
【0023】
クラスターを形成するために使用されるMMVFは、好ましくは、100~650μm、好ましくは100~350μmの範囲の長さを有する。
【0024】
中位の長さの繊維(250~350μm)から作られた繊維クラスターは、特に安定した摩擦係数をもたらすことができる。短い繊維又は中位の長さの繊維(100~350μm)から作られた繊維クラスターを使用すると、緩い繊維を使用する場合に比べて摩耗性を低減することができる。
【0025】
繊維の直径もまた典型的に3~10ミクロンの範囲である。
【0026】
各MMVFクラスターを構成する複数の人造ガラス繊維の繊維直径及び繊維長さは両方とも数平均である。アスペクト比は、数平均長さを数平均直径で割ったものとして計算される。数平均繊維長さは、好ましくは200μm以下である。数平均繊維径は好ましくは4.5μm以上である。アスペクト比は、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、より好ましくは30以下である。
【0027】
一般に、MMVFクラスターは最終摩擦材料中でMMVFの離散的かつ凝集性クラスターとして残るように、摩擦材料配合物の残部とブレンドされる。従来のように、摩擦材料配合物は、一般に、モールド成形及び圧縮によって所望の最終形状に加工される。好ましくは、MMVFクラスターの形状を保存するために、MMVFクラスター及び場合により緩いMMVFは、プレス及び硬化の前に最終混合工程で成分の混合物に取り込まれる。あるいは、MMVFクラスターは、摩擦材料の他の成分と同時に混合物に混合する場合であっても、クラスターの形状が保存されるように、混合前に適切な結合剤でコーティングされうる。
【0028】
本発明の方法によって製造された製品において、クラスターは離散的かつ凝集性クラスターとして残るが、むしろ卵形又は実質的に球形ではなく、円板状であることが発見された。すなわち、その直径はしばしば、その高さの少なくとも3倍、時々少なくとも4倍である。高さは、圧縮がなされた摩擦材料内の方向として定義される。
【0029】
本発明において繊維クラスターに使用されるMMVFは、例えば35~45wt%のSiO2、16~23wt%のAl23、0.3~0.7wt%のTiO2、<1.5wt%のFe23、20~30wt%のCaO、特に25~27wt%のCaO、1~5wt%のMgO、特に3~7wt%のMgO、<2.0wt%のNa2O、<0.6wt%のK2O、<0.3wt%のP25、<0.2wt%のMnOを含む組成を有することができる。化学的特性はXRFを用いて確認することができる。
【0030】
MMVFクラスターに適したタイプのMMVFとしては、石繊維、ガラス繊維、スラグ繊維及びセラミック繊維が挙げられる。好ましくは、石繊維は使用される。
【0031】
好ましくは、人造ガラス繊維クラスターを構成する繊維の組成物は、50wt%未満のSiO2及び15wt%を超えるAl23を含む。これは、MMVFを生体溶解性にするのを助けることができる。
【0032】
好ましくは、人造ガラス繊維クラスターは、>63μmのサイズのショットを2wt%以下、好ましくは1wt%以下で含む。
【0033】
繊維は既知のコーティングを備えることができる。
【0034】
本発明の方法において使用するための繊維クラスターは、好ましくは、0.05wt%未満の湿分含有量を有する。
【0035】
MMVFクラスターの好ましい調製方法において、MMVF(人造ガラス繊維)をミキサー中で混合する。この混合プロセスによって、緩いMMVFは互いに撹拌され又は回転されて、凝集が起こってMMVFクラスターを形成する。ミキサーは、好ましくは円運動を提供する。
【0036】
ミキサー中でMMVFを液体と混合し、得られた混合物を乾燥させてMMVFクラスターを得ることはより好ましい。液体の存在は得られたクラスターの堅さを高める。使用する液体は蒸発可能とすべきである。低粘度の液体は好ましい。適切な液体の例は、水及び有機溶媒、例えば、アルコール、水性エマルジョン及びそれらの混合物である。好ましい液体は、水及び水性エマルジョンである。液体及びMMVFは単にミキサーに供給されてよい。MMVF上に液体を噴霧することも可能であり、それにより、繊維上の液体のより良好な事前分配をもたらすことができる。バインダーが得られるMMVFクラスターの堅さをさらに改善するので、使用される液体はバインダーを含むことがさらに好ましい。
【0037】
MMVFクラスターを調製するために使用されるMMVFは、好ましくは、比較的に短い繊維であり、例えば100~500μm、好ましくは100~350μmの長さであり、さもなければ液体は繊維表面上にうまく分配され得ない。適切には、MMVFは緩いMMVFの形態であるか、又は、主に、緩いMMVFの形態である。好ましい混合工程において、好ましくはバインダーを含む液体とMMVFを混合し、それにより、液体を繊維の表面に分配されるようにする。さらに、MMVFは、好ましくは円運動によって運動させられ、それにより、MMVFはそれぞれ凝集し又は丸められて、MMVFクラスターを形成する。したがって、好ましくは、混合工程は、MMVFを、好ましくはバインダーを含む液体と混合し、液体が分配されたMMVFを回転させて、MMVFクラスターを形成することを含む。液体はクラスターの形成を支持する。
【0038】
一般に、混合工程は、場合により、2つの段階:液体のMMVFとの混合を達成するために、第一のより激しい混合、及び、液体が分配されたMMVFを丸めるために、第二のより穏やかな混合又は回転を含むことができる。
【0039】
混合工程で使用されるミキサーは、当該技術分野で一般に知られている任意の一般的な混合デバイス、例えば、水平ミキサー又は垂直ミキサーであることができる。ミキサーはチョッパーを含むことが有用であることができ、例えば、チョッパーを有する垂直又は水平ミキサーである。適切には、混合時間は1~20分の範囲であることができ、好ましくは2~8分の範囲である。適切には、ヘッドアクスル速度は50~300rpmの範囲にある。混合プロセスは、好ましくは、液体を分配するための、例えば、2500~3500rpm又は約3000rpmでのチョッパー回転を用いる第一の段階、及び、最大球形成のためのチョッピング作業を含まない第二の段階からなる。しかしながら、混合パラメータは、MMVFのタイプ、ミキサー、所望の球サイズなどに応じて変化しうる。
【0040】
液体を調製に使用する場合には、MMVFクラスターを含んで得られる製品はミキサーから排出されるときに乾燥されている必要がある。なぜなら、液体含有量が高すぎる製品は摩擦材料に耐えられないからである。乾燥工程において、液体をMMVFクラスターから蒸発させ、そのためには、一般に知られている方法、例えばオーブン中での乾燥(静的乾燥)、分散ドライヤー中での乾燥又は流動床ドライヤー中での乾燥が使用できる。乾燥工程は、液体の完全な除去をもたらし得るが、MVMFクラスターに残存している少量の液体は許容されうる。液体として水を使用する場合には、形成されたMMVFクラスターは乾燥後にあまり強くないので、クラスターは、機械的負荷が高すぎると摩擦材料配合物中に混合する際にあまりにも容易に開放されうる。
【0041】
バインダーを含む液体と無機繊維を混合すると、強度が顕著に改善されたMMVFクラスターを得ることができ、それは本発明による好ましい実施形態である。このようにして得られたMMVFクラスターは乾燥後に非常に「強く」なり、摩擦材料配合物中に混合されたときにほとんど開放されない。MMVFクラスターの改善された強度は、繊維表面上のバインダーが乾燥後に繊維を一緒に結合することによって生じると考えられる。
【0042】
バインダーとして、当業者に既知の有機及び無機バインダーを使用することが可能である。単一のバインダー又は2つ以上のバインダーの混合物を使用することができる。適切なバインダーの例は、アクリレート又はメタクリレートなどのアクリル樹脂、アルキド樹脂、飽和及び不飽和ポリエステル樹脂、ジ-又はポリイソシアネート及びジ-又はポリオールをベースとするポリウレタン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、水ガラス、アルキルシリケートバインダー、セルロースエステル、例えば、酢酸又は酪酸とセルロースのエステル、ポリビニル樹脂、例えば、ポリオレフィン、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、及び、ポリスチレン樹脂及びこれらのポリビニル樹脂の誘導体及びコポリマー、ニトロセルロース、塩素化ゴム、グルコース及びオイルワニスである。
【0043】
バインダーのより具体的な例としては、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂、塩化ビニリデン-塩化ビニルコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、塩化ビニリデン-アクリロニトリルコポリマー、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸コポリマー、シリコーンアルキド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、スチレン-アルキド樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリ-N-ビニルカルバゾール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、カゼイン、ゼラチン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、塩化ビニリデン系ポリマーラテックス、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマー、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルトルエン-スチレンコポリマー、大豆油変性アルキド樹脂、ニトロ化ポリスチレン樹脂、ポリメチルスチレン樹脂、ポリイソプレン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリハロアリレート樹脂、ポリアリールエーテル樹脂、ポリビニルアクリレート樹脂及びポリエステルアクリレート樹脂が挙げられる。適切なバインダーは、例えば、SBR及びPUをベースとするバインダーである。バインダーを含む液体は、水性又は非水性溶液又は分散液であることができ、好ましくはラテックス、ラテックスエマルジョン又はポリマー分散液である。液体は、好ましくは水又は水性液体である。バインダーを含む液体は、好ましくは水性エマルジョンである。
【0044】
液体中のバインダーの含有量は変更しうる。一般に、液体中のバインダーの含有量は、適切には、10~90質量%、好ましくは30~60質量%の範囲にある。混合されるべきMMFVに対する液体の比は変更することができるが、液体/MMVFの適切な質量比は1~30%の範囲であることができ、5~15%の範囲が好ましく、ここで、該液体は使用される、すなわち、場合により、バインダー及び/又は他の添加剤を含む液体を指す。
【0045】
バインダーとは別に、液体は他の添加剤も含有することができるが、一般に、そのようなさらなる添加剤を添加することは有利でない。特に、本発明によるMMVFクラスターは、一般に、繊維表面上に湿潤剤又は界面活性剤を有するMMVFを含まない。これは湿潤剤及び界面活性剤が一般にMMVFクラスターの強度を弱め、クラスターの開口及び摩擦材料配合物中の繊維の均質な分布をもたらすからである。したがって、MMVFクラスターを調製するために使用される液体は、湿潤剤又は界面活性剤を含まないことが一般に好ましい。
【0046】
好ましくはMMVFがバインダー含有液体と混合され、続いて乾燥される、上記のMMVFクラスターを調製する方法では、MMVF混合物の総質量に基づいて、80質量%を超え、100質量%まで、好ましくは90質量%を超え、100質量%までのMMVFクラスターを含むMMVF混合物を調製することが可能である。すなわち、得られるMMVF混合物は、20質量%以下、好ましくは10質量%以下の緩いMMVFを含む。さらに、得られるMMVF混合物は本質的にショットを含まないことが好ましく、これは、無機繊維混合物中に>125μmのショットが0から最大で2質量%の量で含まれることを意味する。本発明の記載の方法は、約100質量%のMMVFクラスターを含むMMVF混合物の調製をも可能にする。記載の方法により、小さな平均サイズ(<2mm)を有するMMVFクラスターを調製することができる。
【0047】
上記のようなMMVFクラスターを含むMMVF混合物は、後述するように摩擦材料配合物に取り込むためにそのまま使用することができる。緩いMMVFは、強化に関して摩擦材料に有益な効果をもたせることができるので、上述のとおりのMVMFクラスターを主に含むMMVF混合物を、緩いMMVFを主に含む一般的なMMVF混合物と混合して、ユーザの要求に応じて調整されたMMVFクラスターの含有分を有するMMVF混合物を得ることもできる。このようにして、MMVF混合物を調製し、そして摩擦材料配合物に取り込むために使用することができる。あるいは、もちろん、本発明の方法によるMMVFクラスターを含むMMVF混合物及び通常の緩いMMVF混合物を、別々に摩擦材料配合物に取り込むことも可能である。
【0048】
MMVFクラスターの製造に使用に適した及び/又は緩い繊維としての摩擦材料への取り込みに使用するのに適したMMVFは、例えばガラス溶融物、岩石溶融物又はスラグ溶融物をカスケードスピナー又はスピニングカップに供給し、このようにして形成された繊維を回収することによるなど、任意の適切な方法により製造することができる。ショットは従来のふるい分け技術によって除去することができる。
【0049】
摩擦材料配合物は、摩擦材料を調製するために使用される成分の混合物を指す。無機繊維、好ましくは鉱物繊維又はMMVFクラスターを摩擦材料にそれぞれ取り込むことによって、無機繊維又はMMVFクラスターはそれぞれ成分に添加又は混合される。それぞれ摩擦材料配合物及び無機繊維又はMMVFクラスターの成分の混合の順序は限定されない。すなわち、MMVFクラスターは、例えば、摩擦材料の結合剤に添加されそして混合され、同時に又は逐次的に、強化繊維、フィラー又は摩擦添加剤などの摩擦材料配合物の他の成分が添加されてよい。他のいかなる順序の可能である。しかしながら、無機繊維球に課される機械的負荷を最小にするために、摩擦材料組成物の他の成分の全て又は大部分のプレミックスにMMVFクラスターを添加することが有利でありうる。
【0050】
好ましくは、MMVFクラスターの三次元形状を可能な限り保存するように、MMVFクラスターを添加する前に、MMVFクラスター以外の摩擦材料のための全ての出発材料を組み合わせる。あるいは、MMVFクラスターは、摩擦材料のための他の出発材料と同一の工程で混合物に取り込むことができる。この場合には、MMVFクラスターは、MMVFクラスターの三次元形状を保存するのを助けるために結合剤などのコーティングを備えることができる。
【0051】
好ましい実施形態において、摩擦材料配合物中に添加される鉱物繊維の総量の5質量%~100質量%、好ましくは10質量%~100質量%はMVMFクラスターであり、残部は緩い鉱物繊維である。さらに、摩擦材料は他の無機繊維を含んでよい。別の実施形態において、摩擦材料配合物中に添加される無機繊維の総量の5質量%~100質量%、好ましくは10質量%~100質量%はMMVFクラスターであり、残部は緩い無機繊維であることが適切でありうる。
【0052】
本発明の方法において、プレス加工及び硬化の前に混合物中に取り込まれるMMVFクラスターの量は、好ましくは出発材料の1~10v/v%である。
【0053】
摩擦材料は、MMVFクラスターが取り込まれた摩擦材料配合物を成形しそして硬化させた後に得られる製品を指し、摩擦材料にスコーチ、切断、研磨、基材上での接着などの後処理を施した製品も包含する。硬化は単純な硬化であるか又は固化であることができ、例えば、配合物からの溶媒の除去又は冷却による。好ましくは、摩擦材料配合物は、摩擦材料配合物又は結合剤をそれぞれ硬化(キュアリング)させることによって硬化(ハードニング)される。
【0054】
摩擦材料は、1つ以上の結合剤を含むことができる。硬化(ハードニング)後に、好ましくは硬化(キュアリング)の間、結合剤は機械的及び熱的応力下で構造的一体性を維持する。結合剤は、他の成分が埋め込まれたマトリックスを形成する。
【0055】
結合剤は、有機又は無機であってよいが、通常は好ましくは、有機結合剤が使用される。熱硬化性及び熱可塑性結合剤を使用することができ、熱硬化性結合剤は好ましい。摩擦材料配合物のための好適な結合剤の例はフェノール樹脂、例えば、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、例えば、ノボラック樹脂、いわゆるCOPNA樹脂(縮合多核芳香族樹脂)、シリコーンオイル又はシリコーンゴムとフェノール樹脂の反応生成物であるフェノールシロキサン樹脂とも呼ばれるシリコーン変性樹脂、シアネートエステル樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂などのエポキシ変性樹脂、無水物などの特定の硬化剤と組み合わされたエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、例えば、フルオロ樹脂と炭酸カルシウムの生成物である。好ましい結合剤は、フェノール系樹脂であり、特にフェノール-ホルムアルデヒド強化剤、例えば、エポキシ樹脂であり、又は、木粉で充填されている。COPNA樹脂は、しばしばグラファイトと組み合わせて使用される。
【0056】
さらに、摩擦材料配合物は、1つ以上のタイプの強化繊維を含むことができる。典型的には、相補特性を有する異なるタイプの強化繊維の混合物は使用される。強化繊維の例は、ガラス繊維、鉱物繊維、金属繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、セピオライト繊維及びセラミック繊維である。強化のための金属成分はまた、繊維形状以外の形状を有してもよい。当該技術分野において通常のように、本出願において、摩擦材料中に含まれる全ての金属成分は、その形状が、例えば繊維、チップ、ウールなどの如何なる形状であれ、金属強化繊維とみなされる。金属繊維の例としては、スチール、真鍮及び銅が挙げられ、好ましくはスチールである。スチール繊維はしばしば錆の欠点に悩まされるので、スチール繊維を使用する際には、亜鉛金属はしばしば摩擦材料上に分配される。金属繊維は酸化され又はリン酸化されうる。アラミド繊維の例はケブラー繊維である。セラミック繊維は、典型的には、アルミナなどの金属酸化物又は炭化ケイ素などの炭化物から作られている。強化繊維は、典型的には、繊維クラスターではなく、緩い繊維である。
【0057】
本発明の摩擦材料配合物は、摩耗低減のためのMMVFクラスターに加えて、強化繊維として緩い鉱物繊維を含むことができる。摩擦材料配合物は、異なるタイプの繊維の混合物の一部として、緩いMMVFを含む強化繊維を含むことができる。
【0058】
摩擦材料配合物はまた、潤滑剤、研磨剤、硬化剤、架橋剤及び溶媒などの添加剤を含むこともできる。典型的な潤滑剤は、グラファイト、及び、硫化アンチモン、硫化スズ、硫化銅及び硫化鉛などの金属硫化物である。研磨剤は典型的にモース硬度値が約7~8である。典型的な研磨剤は金属酸化物研磨剤及びシリケート研磨剤であり、例えば、石英、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム及び酸化クロムである。
【0059】
他の典型的なフィラーは有機又は無機であることができ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母、バーミキュライト、アルカリ金属チタン酸塩、三酸化モリブデン、カシューダスト、ゴムダスト、シリマナイト、ムライト、酸化マグネシウム、シリカ及び酸化鉄が挙げられる。フィラーは摩擦材料の特定の特性を変性する役割を果たすことができ、例えば、熱安定性又は騒音低減性の向上である。したがって、使用される特定のフィラー(単数又は複数)は摩擦材料の他の構成要素による。雲母、バーミキュライト、カシューダスト及びゴムダストは騒音抑制材として知られている。
【0060】
摩擦材料は任意の適切な配合物を有することができる。好ましい配合物には、当該技術分野でNAO/低スチール及びNAO/非スチールと呼ばれるものが含まれる。「NAO」は「非アスベスト有機物」を指す。NAO/低スチール及びNAO/非スチールはブレーキパッド及びクラッチライニングなどの自動車用途に特に適している。NAO/低スチール配合物は、典型的には、約5~25vol%の金属成分を含む。NAO/非スチール配合物はスチールを含まない。
【0061】
摩擦材料を作製するのに適した配合物は以下のとおり。
【表1】
【0062】
完成した摩擦製品において、MMVFクラスターの量は、好ましくは少なくとも1wt%、例えば少なくとも3wt%、より好ましくは少なくとも5wt%である。完成した摩擦製品は、好ましくは、15wt%未満のMMVFクラスター、例えば12wt%未満のMMVFクラスターを含む。
【0063】
本発明による摩擦材料の適切な摩耗低減用途としては、自動車ブレーキパッド、クラッチライニング、産業用摩擦材料、鉄道ブロック、鉄道パッド及び摩擦紙が挙げられる。好ましくは、本発明の摩擦材料は自動車用ブレーキパッドの一部であり、より好ましくは乗用車用のNAO/非スチール又はNAO/低スチールブレーキパッド配合物中にある。
【0064】
本発明の摩擦材料は、好ましくは、2.0~3.0g/cm3の密度を有する。
【0065】
本発明の摩擦材料は、好ましくは10%~25%、好ましくは15%~25%の気孔率を有する。
【0066】
本発明の摩擦材料は、好ましくは、硬度(HRS)が50~100である。
【0067】
本発明の摩擦材料は、高温での摩耗性を低減するのに特に有用である。好ましくは、摩擦材料は、少なくとも300℃、例えば少なくとも500℃の温度での摩耗性を低減させるために使用される。そのような温度は、乗物制動の間に見い出すことができ、ここで、本発明の摩擦材料は乗用車用のブレーキパッドとして使用される。
【実施例
【0068】
例1
例1は、例1Aとしてデータで表示している本発明の態様2~5による全て0.6~1mmの範囲内の直径を有する繊維クラスターを含む摩擦材料を、例1B及び1Cとしてデータで表示している、広い直径範囲を有する市販の繊維球(Jiangsu REK High-Tec Materials Co., Ltd.)を含む比較摩擦材料と比較する。市販の繊維球の異なる製品タイプを例1B及び1Cの各々に使用した。
【0069】
市販品の引用サイズ分布は8~16メッシュ(1180~2360μm)であるが、測定値はサイズ分布のより大きなばらつきを示す(表2.1)。
【0070】
本発明により製造された繊維クラスターはすべて0.6~1mmの範囲内にあり、この範囲外のクラスターはふるい分けによって除去された。
【0071】
摩擦材料は、NAO/非スチール配合物を用いて調製した(表1)。
【0072】
【表2】
【0073】
摩擦材料パッドを以下のようにして調製した。繊維球又は繊維クラスターを除くすべての成分を高速MTIミキサーで2つの混合工程において混合した。市販の繊維球(例1B及び1C)又は本発明による繊維クラスター(例1A)を残りの成分と第三の混合工程で合わせた。得られた混合物をモールド中に充填し、ホットプレスした。 ホットプレス後に、硬化を行った(2時間、200℃)。
【0074】
摩擦材料パッドを、摩耗試験のためにカーブレーキパッドとして調製した。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
表3から分かるように、本発明による繊維クラスターを取り込んだブレーキパッドは、繊維球のサイズの広範な分布を有する同量の市販の繊維球を取り込んだブレーキパッドと比較して、SAE J2521試験設定においてより低い摩耗性を示した。
【0080】
【表7】
【0081】
例2
例2は本発明による繊維クラスターを含む摩擦材料の摩耗特性と、当該技術分野で知られているとおりの緩い形態の繊維のみを含む摩擦材料の摩耗特性を比較する。
【0082】
サンプルは次のように表示される:
・例2A-緩い繊維(短い)。クラスターを構成する繊維の長さは125±25μmである。
・例2B-2Aと同じ繊維(短い)を使用して作製された、0.6mm~1.0mmまでのサイズの繊維クラスター。クラスターを構成する繊維の長さは125±25μmである。
・例2C-中位の長さの繊維から作製された0.6mm~1.0mmまでのサイズの繊維クラスター。クラスターを構成する繊維の長さは300±50μmである。
・例2D-長繊維から作製された0.6 mm~1.0 mmのサイズの繊維クラスター。クラスターを構成する繊維の長さは500±150μmである。
【0083】
例2において、摩擦材料は、NAO非スチール配合物(表5)、及び、緩い繊維又は本発明による繊維クラスターのいずれかによって構成された。
【0084】
【表8】
【0085】
摩擦材料を以下のように調製した。緩い繊維又は繊維クラスターを除く全ての成分を2つの段階(合計時間4分、2000rpm)で混合した。緩い繊維又は繊維クラスターを第三の混合工程(合計時間1分、500rpm)で混合物に取り込んだ。
【0086】
得られた混合物をモールドに充填し、プレスした。プレス後に、硬化工程を行った(2時間、200℃)。
【0087】
摩耗結果を与える3つの試験は、同じ摩擦材料パッドを使用して順次に実施した:第一の試験SAE J2521動力計、第二の試験SAE J2522動力計、第三の試験クラウス摩耗150/300/500℃。
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】
【表11】
【0091】
これらの結果は、中位の長さの繊維(例2C)から作製された繊維クラスターを使用すると、最も安定した摩擦係数をもたらし、短い繊維又は中位の長さの繊維から作製された繊維クラスターを使用すると、緩い繊維を使用するのと比較して摩耗性の低減をもたらすことを示す。
【0092】
例3
例3は、本発明による繊維クラスターを含む摩擦材料の摩耗特性と、当該技術分野において知られているような緩い形態の繊維のみを含む摩擦材料の摩耗特性を比較する。
【0093】
例3において、摩擦材料は、NAO低スチール配合物(表9)、及び、緩い繊維又は本発明による繊維クラスターのいずれかによって構成された。
【0094】
例3Aは緩いMMVFを含む摩擦材料を表し、MMVFは繊維長さ125±25μmを有する。
【0095】
例3Bは全て0.6mm~1.0mmのサイズのMMVFクラスターを含む摩擦材料を表す。クラスターを形成するMMVFは繊維長さ300±50μmを有する。
【0096】
例3Cは全て1.0mm~1.6mmのサイズのMMVFクラスターを含む摩擦材料を表す。クラスターを形成するMMVFは繊維長さ300±50μmを有する。
【0097】
MMVFクラスターのサイズ範囲はふるい分けによって制御した。
【0098】
【表12】
【0099】
摩擦材料を、緩い繊維又は繊維クラスターを除くすべての成分をミキサーにて2つの混合工程(合計時間2分、2000rpm)で混合することによって調製した。緩い繊維又は繊維クラスターを第三の混合工程(1分、1000rpm)で添加した。得られた混合物をモールドに充填し、プレスした。プレス段階の後に、硬化(2時間、200℃)を行った。
【0100】
同じ摩擦材料パッドを3つの試験のために順次に使用した:第一の試験SAE J2521、第二の試験SAE J2522、第三の試験クラウス摩耗150/300/500℃。
【0101】
3つの試験の各々からの摩耗測定値を表10に要約する。
【0102】
【表13】
【0103】
明らかなように、パッドの摩耗は、緩い繊維のみを使用し、繊維クラスターを使用しない比較例3Aと比較して、本発明による例3B及び3Cの方がより低かった。
本開示は以下も包含する。
[項目1]
摩擦材料の摩耗性低減のための摩擦材料配合物の成分としての人造ガラス繊維クラスターの使用。
[項目2]
前記摩擦材料はブレーキパッドである、項目1記載の使用。
[項目3]
少なくとも300℃、好ましくは少なくとも500℃の温度での項目1又は2記載の使用。
[項目4]
前記人造ガラス繊維クラスターの少なくとも95wt%は0.6mm~1.6mm、好ましくは0.6mm~1.0mmの範囲の最大寸法を有する、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
[項目5]
前記人造ガラス繊維クラスターは>63μmのサイズのショットを2wt%以下、好ましくは1wt%以下で含む、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
[項目6]
前記人造ガラス繊維クラスターは複数の人造ガラス繊維を含み、該人造ガラス繊維は50wt%未満のSiO 2 及び15wt%を超えるAl 2 3 を含む、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
[項目7]
前記人造ガラス繊維クラスターは前記摩擦材料の少なくとも1wt%、好ましくは少なくとも3wt%、より好ましくは少なくとも5wt%を構成する、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
[項目8]
前記人造ガラス繊維クラスターは前記摩擦材料の15wt%以下、好ましくは12wt%以下を構成する、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
[項目9]
前記人造ガラス繊維クラスターは複数の人造ガラス繊維を含み、該人造ガラス繊維は数平均アスペクト比が40未満、好ましくは30未満である、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
[項目10]
1~100wt%の人造ガラス繊維をクラスターの形態で含み、前記クラスターの少なくとも95wt%は0.6mm~1.6mmの範囲のサイズを有する、人造ガラス繊維の混合物。
[項目11]
少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも75wt%の人造ガラス繊維をクラスターの形態で含み、人造ガラス繊維の残部を緩い繊維の形態で含む、項目10記載の混合物。
[項目12]
人造ガラス繊維クラスターを摩擦材料配合物に取り込む工程を含む、摩擦材料の調製方法であって、前記人造ガラス繊維クラスターは少なくとも95wt%が0.6mm~1.6mmの範囲のサイズを有するようなサイズ分布を有する、方法。
[項目13]
前記繊維クラスターの量は出発材料の1~10v/v%である、項目12記載の方法。
[項目14]
前記人造ガラス繊維クラスターは項目10又は11記載の混合物の一部として組み込まれている、項目12~13のいずれか1項記載の方法。
[項目15]
項目12~14のいずれか1項記載の方法によって得ることができる摩擦材料。