(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】電磁弁を作動させるための制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/36 20060101AFI20240321BHJP
B60T 13/68 20060101ALI20240321BHJP
B60T 15/36 20060101ALI20240321BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B60T8/36
B60T13/68
B60T15/36 Z
F16K31/06 310A
F16K31/06 385A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019129984
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10 2018 212 293.8
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ブッヒャー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】長倉 安孝
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-053022(JP,A)
【文献】特表平10-504259(JP,A)
【文献】特開2001-114085(JP,A)
【文献】特開2006-264675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
F16K 31/06-31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁(14)のための制御装置(24)において、
前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)を調整するように設計された制御デバイス(26)を有し、
前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)が前記制御デバイス(26)により、当初は第1の切換状態にある前記電磁弁(14)を電流強さ(I14)の増大または低減によって前記第1の切換状態から前記第1の切換状態に等しくない第2の切換状態へと移行可能であるように変更可能である、そのような制御装置において、
前記制御デバイス(26)が前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)が増大または低減されている間に、少なくとも20ミリ秒の移行時間インターバルの間に該移行時間インターバル中の値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間である一定または可変の勾配で電流強さ(I14)を増大または低減させるように追加的に設計され
、
前記電磁弁(14)が常時開の電磁弁(14)であり、前記制御デバイス(26)が、常時開の前記電磁弁(14)が完全に閉じた状態で保持されている間にすでに常時開の前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)が1秒当たり-0.05アンペアから1秒当たり-5アンペアの間の勾配で低減されるように設計されることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁(14)のための制御装置(24)において、
前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)を調整するように設計された制御デバイス(26)を有し、
前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)が前記制御デバイス(26)により、当初は第1の切換状態にある前記電磁弁(14)を電流強さ(I14)の増大または低減によって前記第1の切換状態から前記第1の切換状態に等しくない第2の切換状態へと移行可能であるように変更可能である、そのような制御装置において、
前記制御デバイス(26)が前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)が増大または低減されている間に、少なくとも20ミリ秒の移行時間インターバルの間に該移行時間インターバル中の値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間である一定または可変の勾配で電流強さ(I14)を増大または低減させるように追加的に設計され、
前記制御デバイス(26)が、当初には第1の切換状態として完全に開いた状態にある前記電磁弁(14)を、前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)の増大または減少により、完全に開いた状態から第2の切換状態としての部分的に開いた状態または完全に閉じた状態へと切り換えるように設計される、制御装置(24)。
【請求項3】
車両のためのブレーキシステムにおいて、
請求項1または2に記載の制御装置(24)と、
前記制御装置(24)により制御可能な少なくとも1つの電磁弁(14,16,20,22,28,30)とを有する、車両のためのブレーキシステム。
【請求項4】
少なくとも1つの前記電磁弁(14,16,20,22,28,30)が、少なくとも1つのホイール取込弁(14,20)、少なくとも1つのホイール吐出弁(16,22)、少なくとも1つの高圧切換弁(28)、および/または少なくとも1つの切換弁(30)である、請求項3に記載のブレーキシステム。
【請求項5】
車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁(14)を作動させる方法において、次のステップを有し、
当初は第1の切換状態にある前記電磁弁(14)が前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)の増大または低減によって前記第1の切換状態から前記第1の切換状態に等しくない第2の切換状態へと切り換えられる、そのような方法において、
前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)が増大または低減されている間に、少なくとも20ミリ秒の移行時間インターバルの間に前記移行時間インターバル中の値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間である一定または可変の勾配で電流強さ(I14)が増大または低減され(S1)、
前記電磁弁(14)として常時開の電磁弁(14)が作動し、常時開の前記電磁弁(14)が完全に閉じた状態で保持されている間にすでに常時開の前記電磁弁(14)の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さ(I14)が1秒当たり-0.05アンペアから1秒当たり-5アンペアの間の勾配で低減されてから、常時開の前記電磁弁(14)が第1の切換状態としての完全に閉じた状態から第2の切換状態としての部分的に開いた状態または完全に開いた状態へと切り換えられる(S0)、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁のための制御装置に関する。同様に本発明は、車両のためのブレーキシステムに関する。さらに本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁を作動させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術より、車両のブレーキシステムのブレーキ回路に2つのホイールブレーキシリンダを装備することが知られており、各々のホイールブレーキシリンダに独自のホイール取込弁が前置されるとともに、各々のホイールブレーキシリンダに独自のホイール吐出弁が追加的に後置される。たとえば特許文献1は、それぞれ1つの第1のホイールブレーキシリンダと、それぞれ1つの第1のホイール取込弁と、それぞれ1つの第1のホイール吐出弁と、それぞれ1つの第2のホイールブレーキシリンダと、それぞれ1つの第2のホイール取込弁と、それぞれ1つの第2のホイール吐出弁とを含む2つのブレーキ回路を有する2系統のブレーキシステムを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102013208703号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、請求項1の構成要件を有する、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁のための制御装置、請求項7の構成要件を有する、車両のためのブレーキシステム、および請求項9の構成要件を有する、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁を作動させる方法を提供する。
【0005】
本発明は、それぞれのブレーキシステムのマスタブレーキシリンダで、および/またはそれぞれのブレーキシステムの少なくとも1つのホイールブレーキシリンダで、そのつど希望される圧力の調整/遵守にあたって車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁を切り換えるための改良された手段を提供する。あとでさらに詳しく説明するとおり、本発明により、それぞれの電磁弁におけるコンポーネント公差がそのつど希望される圧力の調整/遵守に対して(実質的に)影響を及ぼさないように、少なくとも1つの電磁弁を作動させることができる。さらに本発明により、固着滑り現象あるいは「スティック・スリップ現象」という名称でも知られるそれぞれのブレーキシステムのブレーキ操作部材/ブレーキペダルの急激な/予期しない「沈み込み」を、ブレーキシステムを装備する車両の運転者によるブレーキ操作部材の操作中に防止することができる。このように、本発明はそれぞれの車両の運転者にとってブレーキ快適性の向上に著しい貢献を果たす。
【0006】
それぞれの電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さを変更して、移行時間インターバルの間の勾配の値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間になるようにすることによって、電磁弁の位置調節可能なバルブ部材と、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルにより惹起される磁界との間の相互作用に影響を及ぼす電磁弁におけるコンポーネント公差を、コンポーネント公差にもかかわらず電磁弁がその希望される機能を確実に発揮するように「補償する」ことができる。このことは、従来はこのように構成されたバルブの希望される機能性に関する制約をコンポーネント公差に基づいて容認せざるを得ない従来技術と比べたときの著しい利点である。
【0007】
本発明は、特に、完全に閉じた状態および完全に開いた状態に追加してさらに少なくとも1つの部分的に開いた状態へと調節可能/切換可能である、少なくとも1つの連続調節可能な/連続切換可能な電磁弁に適用することができる。しかしながら、ここで明文をもって指摘しておくと、本発明の実施可能性は特定のバルブ型式に限定されるものではない。
【0008】
制御装置の1つの好ましい実施形態では、制御デバイスは、当初は第1の切換状態としての完全に閉じた状態にある電磁弁を、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さの増大または減少によって、完全に閉じた状態から第2の切換状態としての部分的に開いた状態または完全に開いた状態へと切り換えるように設計される。電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さの好ましい増大または減少により、移行時間インターバルの間の電流強さの値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間になるようにすることで、このケースでは特に、電磁弁の位置調節可能なバルブ部材と、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルにより惹起される磁界との間の相互作用を低減させるコンポーネント公差を補償することができる。
【0009】
電磁弁が常時開の電磁弁である場合、制御デバイスは、常時開の電磁弁が完全に閉じた状態で保持されている間にすでに常時開の電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さが1秒当たり-0.05アンペアから1秒当たり-5アンペアの間の勾配で低減されるように設計されるのが好ましい。あとで詳しく説明するとおり、従来技術ではブレーキ操作部材の「沈み込み」にしばしばつながる電磁弁の「衝撃的な開放」をこのようにして回避することができる。
【0010】
制御デバイスは、当初には第1の切換状態として部分的に開いた状態または完全に開いた状態にある電磁弁が、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さの増大または減少によって、部分的に開いた状態または完全に開いた状態から第2の切換状態としての完全に閉じた状態へと切り換えられるように設計されていれば、また好ましい。このケースでも、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さの上に説明した増大または減少により、移行時間インターバルの間の電流強さの値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間にあるようにされることで、電磁弁の調節可能なバルブ部材と、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルによって惹起される磁界との間の相互作用を低下させるコンポーネント公差を補償することができる。
【0011】
制御装置のさらに別の好ましい実施形態では、制御デバイスは、当初には第1の切換状態として完全に開いた状態にある電磁弁を、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さの増大または減少により、完全に開いた状態から第2の切換状態としての部分的に開いた状態または完全に閉じた状態へと切り換えるように設計される。その代替または補足として制御デバイスは、当初には第1の切換状態として部分的に開いた状態または完全に閉じた状態にある電磁弁を、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さの増大または減少により、部分的に開いた状態または完全に閉じた状態から第2の切換状態としての完全に開いた状態へと切り換えるように設計されていてもよい。制御装置/その制御デバイスのこのような種類の設計によっても、電磁弁におけるコンポーネント公差を補償することができる。
【0012】
以上に説明した利点は、このような種類の制御装置と、制御装置により制御可能な少なくとも1つの電磁弁とを有する、車両のためのブレーキシステムにおいても保証される。少なくとも1つの電磁弁は、たとえば少なくとも1つのホイール取込弁、少なくとも1つのホイール吐出弁、少なくとも1つの高圧切換弁、および/または少なくとも1つの切換弁であってよい。それに伴い、ブレーキシステムで採用されている数多くのバルブ型式を、本発明の実施のために使用することができる。
【0013】
さらに、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁を作動させる対応する方法の実施も、上に説明した利点をもたらす。明文をもって指摘しておくと、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁を作動させる方法は、上に説明した制御装置の実施形態に従って発展形にすることが可能である。
【0014】
次に、本発明のその他の構成要件や利点について図面を参照しながら説明する。図面は次のものを示す:
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1Aa】制御装置およびこれを装備するブレーキシステムの実施形態を示す模式
図である。
【
図1Ab】
制御装置およびブレーキシステムの機能形態を説明するための座標系である。
【
図1Ba】制御装置およびこれを装備するブレーキシステムの実施形態を示す模式
図である。
【
図1Bb】
制御装置およびブレーキシステムの機能形態を説明するための座標系である。
【
図1Bc】
制御装置およびブレーキシステムの機能形態を説明するための座標系である。
【
図1Bd】
制御装置およびブレーキシステムの機能形態を説明するための座標系である。
【
図1Be】
制御装置およびブレーキシステムの機能形態を説明するための座標系である。
【
図2】車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁を作動させる方法の実施形態を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1Aおよび
図1Bは、制御装置およびこれを装備するブレーキシステムの実施形態を示す模式図と、制御装置およびブレーキシステムの機能形態を説明するための座標系を示している。
【0017】
図1Aaおよび1Baに模式的に示すブレーキシステムは、一例として、2つのブレーキ回路10を含む2系統のブレーキシステムであり、2つのブレーキ回路10の各々が、それぞれ1つの第1のホイールブレーキシリンダ12と、第1のホイールブレーキシリンダ12に前置されたそれぞれ1つの第1のホイール取込弁14と、第1のホイールブレーキシリンダ12に後置されたそれぞれ1つの第1のホイール吐出弁16と、それぞれ1つの第2のホイールブレーキシリンダ18と、第2のホイールブレーキシリンダ18に前置されたそれぞれ1つの第2のホイール取込弁20と、第2のホイールブレーキシリンダ18に後置されたそれぞれ1つの第2のホイール吐出弁22とを有するように構成されている。一例として、
図1Aaおよび1Baに示すブレーキシステムはX型ブレーキ回路分割を有しており、その2つの第1のホイールブレーキシリンダ12がリアアクスルに付属し、その2つの第2のホイールブレーキシリンダ18がフロントアクスルに付属している。しかしながらここで明文をもって指摘しておくと、以下に説明する制御装置24の適用可能性は特定のブレーキシステム型式、特別なブレーキ回路分割、およびブレーキシステムを装備する車両/自動車の特別な車両型式/自動車型式に限定されるものではない。
【0018】
一例として、制御装置24の機能形態について以下において制御装置24により実行される(それぞれの)第1のホイール取込弁14の制御を取り上げて説明する。
図1Aaに見られるとおり、制御装置24は、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14を調整し、そのようにして第1のホイール取込弁14を切り換えるために少なくとも設計された制御デバイス26を有している。それが意味するのは、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14が制御デバイス26により変更可能であり/変更され、その場合、当初は第1の切換状態にある第1のホイール取込弁14が電流強さI
14の増大または低減によって第1の切換状態から第1の切換状態に等しくない第2の切換状態へと移行可能であり/移行するということである。以下の記述を参照すると明らかになるとおり、第1の切換状態(ないし第2の切換状態)とは、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の(時間的に平均した)電流強さI
14が第1の切換状態(ないし第2の切換状態)に対応する値/平均値に等しい限りにおいて第1のホイール取込弁14をその構成に基づき制御可能および/または保持可能である、第1のホイール取込弁14の各切換状態であると理解することができる。特に制御デバイス26は、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14が増大または低減されている間に、少なくとも20ミリ秒の移行時間インターバルの間に移行時間インターバルの間の値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)である一定または可変の勾配で電流強さI
14を増大または低減させるように追加的に設計される。制御装置24による第1のホイール取込弁14のこのような制御の利点については、あとでまた詳しく述べる。
【0019】
第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の勾配の値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)である移行時間インターバルは、好ましくは50ミリ秒よりも長く、とりわけ75ミリ秒よりも長く、特に100ミリ秒よりも長い。この移行時間インターバルの間、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の(正または負の)勾配の値は、1秒当たり0.1アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)であり、たとえば1秒当たり0.2アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)であり、特に1秒当たり0.2アンペアから1秒当たり3アンペアの間(のみ)であり、または1秒当たり1アンペアから1秒当たり5アンペアであるのが好ましい。このように、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI14の増大または低減とは、移行時間インターバルの間の電流強さI14の連続的な/線形の増大または低減であると理解される。
【0020】
上に説明した制御装置24のこれにより実行される第1のホイール取込弁14の制御にあたっての方式は、他のいずれのバルブ16,20および22についても相応に有利に適用することができる。したがって制御デバイス26は、それぞれのバルブ14,16,20および22の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流のそれぞれの電流強さI14,I16,I20およびI22が調整されることによって、すべてのバルブ14,16,20および22を相応に切り換えるように設計されるのが好ましい。ブレーキシステムのブレーキ回路10のそれぞれ1つの高圧切換弁28およびそれぞれ1つの切換弁30も、このようにして制御装置24により制御可能/切換可能であってよい。
【0021】
バルブ14,16,20,22,28および30は、それぞれ電磁弁と呼ぶことが可能である。バルブ14,16,20,22,28および30の各々は位置調節可能なバルブ部材を有しており、位置調節可能なバルブ部材の各々は、それぞれのバルブ14,16,20,22,28および30の少なくとも1つの磁気コイルの通電により惹起される磁界によって位置調節可能である。このように、バルブ14,16,20,22,28および30の各々は、その少なくとも1つの磁気コイルの強い通電によって、またはその少なくとも1つの磁気コイルを通る電流束の低減/中断によって、選択的に切換可能である。
【0022】
図1Aおよび1Bによって表されている制御装置24では、制御デバイス26は、第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧に関する第1の目標量、および第1のホイールブレーキシリンダ18の第2のブレーキ圧に関する第2の目標量を設定するように追加的に設計されている。第1の目標量および第2の目標量の設定は、たとえば車両の少なくとも1つのホイールおよび/または車両の少なくとも1つのアクスルにおいて実行されるべき目標全体ブレーキトルクM
totalに関して、および場合により少なくとも1つのホイールおよび/または少なくとも1つのアクスルに対して及ぼされる少なくとも1つの発電機ブレーキトルクM
gen-frontおよびM
gen-rearに関する少なくとも1つの発電機ブレーキトルク量に関して、たとえばフロントアクスルに対して及ぼされる発電機ブレーキトルクM
gen-frontおよびフロントアクスルに対して及ぼされる発電機ブレーキトルクM
gen-rearに関して、車両の運転者および/または車両の速度自動制御装置によって要請される目標全体ブレーキトルク量を考慮したうえで行われる。制御デバイス26は、第1の目標量および第2の目標量を設定するために、たとえば運転者の運転者ブレーキ力34によるブレーキ操作部材/ブレーキペダル32の操作に関する少なくとも1つのセンサ信号32aを評価する。さらに制御デバイス26は、発電機として利用可能な電気式の駆動モータの最新の利用可能性に関わる情報を受信するように設計されていてよい。制御デバイス26は、特に、少なくとも1つのセンサ信号32aおよび受信された情報を考慮したうえで少なくとも1つの及ぼされる発電機ブレーキトルクM
gen-frontおよびM
gen-rearを設定し、電気式の駆動モータを相応に制御するように設計されていてもよい。
【0023】
第1のブレーキ圧に関する第1の目標量および第2のブレーキ圧に関する第2の目標量が設定された後、制御デバイス26は、第2のホイール取込弁20が開いた切換状態にあり第2のホイール吐出弁22が閉じた切換状態にあるとき、同じブレーキ回路10の少なくともそれぞれの第1のホイール取込弁14によって第1の目標量に即して第2のホイールブレーキシリンダ18の第2のブレーキ圧を調整し、および、同じブレーキ回路10の少なくともそれぞれの第1のホイール吐出弁16によって第2の目標量に即して第1のホイールブレーキシリンダ12の第1のブレーキ圧を調整するように設計されている。
【0024】
図1Aaに見られるとおり、ブレーキシステムは制御装置24/制御デバイス26により、同時にすべての第2のホイール取込弁20が開いた切換状態にあり、すべての第1のホイール吐出弁16が開いた切換状態にあり、すべての第2のホイール吐出弁22が閉じた切換状態にあり、かつ、第2のホイール取込弁20が開いた切換状態にあるとき、第1のホイール吐出弁16が開いた切換状態にあり、第2のホイール吐出弁22が閉じた切換状態にあり、第1のホイール取込弁20が交互に完全に閉じた状態または部分的に開いた状態または完全に開いた状態に制御される第1の動作モードで作動可能であり、その場合、第1のホイールブレーキシリンダ12で生じる第1のブレーキ圧が、第2のホイール吐出弁16に後置されたそれぞれ1つの備蓄室36の、たとえば低圧備蓄室36の応答圧力に合わせて調整され、および、第2のホイールブレーキシリンダ18で生じる第2のブレーキ圧が、第1のブレーキ圧に比べて高い第2のブレーキ圧に合わせて調整される。
図1Aaによって表されている第1の動作モードが実行されるのが好ましのは、発電機として利用される電気式駆動モータによって車両を部分的に制動することができるが、目標全体ブレーキトルクM
totalの遵守のために、フロントアクスルに対して及ぼされる(ゼロに等しくない)摩擦ブレーキトルクM
fr-frontも希望される場合である。第1の動作モードが実行されることで、運転者ブレーキ力34によるブレーキ操作部材32の操作によって接続されたマスタブレーキシリンダ38からブレーキ回路10へと移送されるブレーキ液容積を、それが第2のブレーキ圧の増大のために必要でない限りにおいて、バルブ14および16を介してそれぞれ後置された備蓄室36の中へ排出することができる。このように、運転者により希望される車両の減速を、発電機として利用される電気式の駆動モータを一緒に利用しながら、ただし車両の過剰制動なしに行うことができる。このことは、電気エネルギーへの運動エネルギーの変換による車両の運動エネルギーの回収を可能にし、この電気エネルギーが(図示しない)エネルギー蓄積器で中間保存され、必要に応じて、たとえば車両をあらためて加速させるために利用され得る。ブレーキ操作部材32を操作する運転者に、備蓄室36の中へ移送されるブレーキ液容積にもかかわらず、標準的なブレーキ操作感覚/ペダル間隔を提供するために、任意選択として、運転者ブレーキ力34と反対作用をする反力を、ブレーキ操作部材32に接続された電気機械式のブレーキブースタ40によって惹起することができる。
【0025】
図1Aaを見ると目を引くように、目標全体ブレーキトルクM
totalを遵守するための摩擦ブレーキトルクM
fr-frontの調整は、第1のホイール取込弁14の信頼度の高い制御可能性を必要とする。しかし電磁弁はしばしばコンポーネント公差を有しており、そのため、それぞれの電磁弁の圧力・電流強さ・特性が所望の標準的挙動とはしばしば相違する。たとえば、第1のホイール取込弁14がコンポーネント公差を有していて、それが位置調節可能なバルブ部材と、その少なくとも1つの磁気コイルを通る電流によって惹起される磁界との間の磁気的な相互作用を低減させることがあり得る。このケースでは、位置調節可能なバルブ部材に対する磁界によって引き起こされる磁力が、たとえば常時開の電磁弁として構成された第1のホイール取込弁14を第1のホイール取込弁14の制御時に完全に閉じた状態から部分的に開いた状態へと、第1のホイール取込弁14を通る所望の貫流量だけが流れる程度だけ開くのに十分ではなくなる。このように、多すぎる容積が第1のホイール吐出弁14を通って流れ、第1のホイール吐出弁14の閉止が第2のホイールブレーキシリンダ18の低すぎる第2のブレーキ圧のときに行われ、および/またはマスタブレーキシリンダ38の低すぎるマスタブレーキシリンダ内圧p
TMCのときに行われるというリスクがある。
【0026】
しかしこの問題は、制御デバイス26の好ましい設計によって解消される。
図1Abの座標系では横軸が時間軸tであり、それに対して縦軸によって、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14と、第2のホイールブレーキシリンダ18における第2のブレーキ圧に等しい、マスタブレーキシリンダ38におけるマスタブレーキシリンダ内圧p
TMCとが表されている。
【0027】
時間t0とt1の間には完全に閉じた状態にある第1のホイール取込弁14が、制御デバイス26により、完全に閉じた状態から部分的に開いた状態へと切り換えられ、時間t2とt3の間には部分的に開いた状態で保たれる。時間t1とt2の間の移行時間インターバルの間に電流強さI14は(負の)勾配を有していて、その値は1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)にある。したがって、移行時間インバーバルの間に惹起される「電流ランプ」という表現を用いることもできる(比較のため、破線は従来技術を表している)。移行時間インターバルの間に惹起される「電流ランプ」によって、第1のホイール取込弁14は完全に閉じた状態から部分的に開いた状態へと漸次的にのみ移行する。このように、第1のホイール取込弁14の位置調節可能なバルブ部材と、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルにより惹起される磁界との間の相互作用を低減させるコンポーネント公差が第1のホイール取込弁14にあるケースでさえ、第1のホイール取込弁14が漸次的にのみ開かれることが保証される。このように、ホイール取込弁14を通る所望の貫流の超過が高い信頼度で防止される。
【0028】
第1のホイール取込弁14は、時間t2とt3の間で部分的に開いた状態になっている間に、制御デバイス26によって、部分的に開いた状態から完全に閉じた状態へと切り換えられ、時間t4からt5の間には完全に閉じた状態で保たれる。この切換プロセスのときにも、時間t3とt4の間の移行時間インターバルの間に電流強さI14は(正の)勾配をもって増大し、その値は移行時間インターバルの間に1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)である。このことは、第1のホイール取込弁14を漸次的に閉じるための時間t3とt4の間のさらに別の「電流ランプ」とも呼ぶことができる。第1のホイール取込弁14の漸次的な閉止は、そのコンポーネント公差が、第1のホイール取込弁14の位置調節可能なバルブ部材と、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルによって惹起される磁界との間の相互作用を弱めている場合でさえ、第1のホイール取込弁14を通る容積流量の漸次的な低減を保証する。
【0029】
時間t1とt2の間、および時間t3とt4の間に実行される「電流ランプ」は、マスタブレーキシリンダ内圧pTMCによる、およびこれに応じて第2のホイールブレーキシリンダ18における第2のブレーキ圧による、所定の目標圧力ptargetの高い信頼度の遵守を可能にする。このように、マスタブレーキシリンダ36における目標圧力ptargetの差異に基づくブレーキ操作部材32の「沈み込み」、ないしブレーキ操作部材32の、固着滑り現象あるいはスティック・スリップ現象を懸念する必要がなくなる。したがって、第1のホイール取込弁14に存在するコンポーネント公差が、ブレーキ操作部材32を操作する運転者のブレーキ操作感覚/ペダル間隔を損なうことがなく/ほとんど損なうことがない。同様に、第1のホイール取込弁14に存在するコンポーネント公差が、摩擦ブレーキトルクMfr-frontの調整時に不正確性をもたらすことが(実質的に)ない。したがって、従来はしばしば必要であった、摩擦ブレーキトルクMfr-frontにおける誤差の検知と修正のための作業ステップが不要となる。
【0030】
運転者により要求される目標全体ブレーキトルクM
totalを、発電機として利用される電気式の駆動モータおよび摩擦ブレーキトルクM
fr-frontだけでは惹起可能でなくなったときに限り、
図1Baによって表されている第2の動作モードでのブレーキシステムの作動により、リアアクスルに対する摩擦ブレーキトルクM
fr-rearも惹起することができる。制御デバイス26は、第2のホイール取込弁20が開いた切換状態にあり第2のホイール吐出弁22が閉じた切換状態にあるとき、少なくとも1つのポンプ44の少なくとも1つのポンプモータ42を制御して、その場合、ブレーキ液が少なくとも1つのポンプ44によって備蓄室36からポンプ送出されて、第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧がそれぞれ後置された備蓄室36の応答圧力を超えて増大するように追加的に設計されるのが好ましい。
図2Baに模式的に示すように、少なくとも1つのポンプ44によるブレーキ液のポンプ送出中、第2のホイールブレーキシリンダ18における第2のブレーキ圧はそれぞれ付属の第1のホイール取込弁14によって調整され、第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧はそれぞれ後置された第1のホイール吐出弁16によって調整される。特に、このようにして第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧を、第2のホイールブレーキシリンダ18における第2のブレーキ圧に合わせて漸次的に整合化することができる。電気機械式のブレーキブースタ40によって惹起される運転者ブレーキ力34への反力を相応に適合化することができ、それにより運転者はこのような協働プロセスに気づくことがなく/ほとんど気づくことがない。
【0031】
それぞれ後置された備蓄室36の応答圧力を超える第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧の増大も可能にするために、それぞれ前置された第1のホイール取込弁14が完全に閉じた状態から部分的に開いた状態へと切り換えられる。このことも、「電流ランプ」による第1のホイール取込弁14の漸次的な切換によって行われる。
【0032】
このような動作状況で第1のホイール取込弁14を切り換えるための制御デバイス26の1つの好ましい発展例が、
図1Bbおよび1Bcの座標系によって表されており、その横軸はそれぞれ時間軸tである。
図1Bbの座標系の縦軸により、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14と、(目標圧力値としての)第1の目標量p
1-targetとが表されている。
図1Bcの座標系の縦軸により、マスタブレーキシリンダ38におけるマスタブレーキシリンダ内圧p
TMC、マスタブレーキシリンダ36で希望される目標圧力p
target、および第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧p
1がさらに追加的に示されている。
【0033】
時間t10とt12の間に、第1のホイール取込弁14が完全に閉じた状態へと制御されて保持される。時間t10とt12の間の時点t11で、時点t12以降に第2のブレーキ圧が増大されるべきことが決定される。好ましい発展例として制御デバイス26は、第1のホイール取込弁14が完全に閉じた状態で保たれている間からすでに、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14を1秒当たり-0.05アンペアから1秒当たり-5アンペアの間の勾配で低減させるように設計される(比較のため、従来技術が
図1Bbでは破線によって表されている)。このようにして、第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧の増大が希望されるときの遅延を回避可能である。第1のホイール取込弁14の位置調節可能なバルブ部材と、その少なくとも1つの磁気コイルにより惹起される磁界との間の磁気的な相互作用を低減させるコンポーネント公差が第1のホイール取込弁14に存在するときでさえ、事前にすでに開始されている電流強さI
14の低減によって、第1のホイール取込弁14を通る所望の貫流量の急激な超過を防止することができる。したがって、ブレーキ操作部材32の「沈み込み」、ないしブレーキ操作部材32の固着滑り現象あるいはスティック・スリップ現象を、このような動作状況のときでも懸念しなくてよい。すでに第1のホイール取込弁14が完全に閉じた状態に保持されている間に第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14が低減される時間インターバルは20ミリ秒よりも長く、好ましくは50ミリ秒よりも長く、とりわけ75ミリ秒よりも長く、特に100ミリ秒よりも長くてよい。この時間インターバルの間、(負の)勾配の値は1秒当たり0.1アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)であるのが好ましく、たとえば1秒当たり0.2アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)であり、特に1秒当たり0.2アンペアから1秒当たり3アンペアの間(のみ)、もしくは1秒当たり1アンペアから1秒当たり5アンペアの間である。
【0034】
図1Bdおよび
図1Beは、制御デバイス26の別の好ましい特性を表している。
図1Bdおよび
図1Beの座標系では、横軸がそれぞれ時間tであるのに対して、それぞれの縦軸によって、第1のホイール取込弁14の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さI
14、マスタブレーキシリンダ38におけるマスタブレーキシリンダ内圧p
TMC、第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧p
1、(目標圧力値としての)第2の目標量p
2-target、および第2のホイールブレーキシリンダ18における第2のブレーキ圧p
2が示されている。
【0035】
制御デバイス26は、
図1Bdおよび1Beの両方の例では、時点t13で想定される第2のホイールブレーキシリンダ18における第2のブレーキ圧に合わせた、第1のホイールブレーキシリンダ12における第1のブレーキ圧の整合化以降に、第1のホイール取込弁14を部分的に開いた状態から完全に開いた状態へと制御して、すべてのホイールブレーキシリンダ12および18での「共通の圧力調整」を簡易化するように設計されている。ただし、
図1Beの例では移行時間インターバルの間に電流強さI
14は、この移行時間インターバルの間に値が1秒あたり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間にある勾配で低減される。この「電流ランプ」によって、このケースでは第1のホイール取込弁14の急激な開放に代えて、第1のホイール取込弁14の漸次的な開放が惹起される。このようにして、第1のホイール取込弁14の位置調節可能なバルブ部材と、その少なくとも1つの磁気コイルにより惹起される磁界との間の磁気的な相互作用を増大させるコンポーネント公差を補償することができる。第1のホイール取込弁14におけるこの種のコンポーネント公差は、第1のホイール取込弁14における貫流開放の増大を遅延させる。そのため、電流強さI
14の急激な低下によって誘発される第1のホイール取込弁14の急激な開放は、ブレーキ回路10での自然発生的な圧力降下を引き起こしかねない。特に、第2のブレーキ圧に合わせた第1のブレーキ圧の想定される整合化が、第1のホイール取込弁14での貫流開放の遅延した増大に基づいてまだ行われていない場合、第1のホイール取込弁14の急激な開放は、第2のホイールブレーキシリンダ18における第2のブレーキ圧の、およびそれに応じてマスタブレーキシリンダ38におけるマスタブレーキシリンダ内圧p
TMCの、急激な低減を引き起こかねない。しかし第1のホイール取込弁14の漸次的な開放により、フロントアクスルに及ぼされる摩擦ブレーキトルクM
fr-frontの急激な低減を回避することができる。同様に、第1のホイール取込弁14の漸次的な開放により、マスタブレーキシリンダ内圧p
TMCの急激な低減に基づくブレーキ操作部材32の「沈み込み」を回避することができる。
【0036】
ここで再度指摘しておくと、
図1Aaおよび1Baに掲げるブレーキシステムとそのコンポーネントならびに圧力センサ46およびブレーキ液リザーバ48の構成は、一例としてのみ解釈されるべきものである。
【0037】
図2は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの電磁弁を作動させる方法の実施形態を説明するためのフローチャートを示している。
【0038】
ここで指摘しておくと、以下に説明する方法の実施可能性は、少なくとも1つの電磁弁の特定のバルブ型式、ブレーキシステムの特別なブレーキシステム型式、およびブレーキシステムを装備する車両/自動車の特定の車両型式/自動車型式に限定されるものではない。
【0039】
方法ステップS1で、当初は第1の切換状態にある電磁弁が、第1の切換状態から第1の切換状態に等しくない第2の切換状態へと切り換えられる。このことは、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さの増大または低減によって行われ、電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さが増大または低減されている間、少なくとも20ミリ秒の移行時間インターバルの間に電流強さが一定または可変の勾配をもって増大または低減され、その値は移行時間インターバルの間に1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)である。勾配の値が1秒当たり0.05アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)である移行時間インターバルは、好ましくは50ミリ秒よりも長く、とりわけ75ミリ秒よりも長く、特に100ミリ秒よりも長い。移行時間インターバルの間に、(正または負の)勾配の値は好ましくは1秒当たり0.1アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)であり、たとえば1秒当たり0.2アンペアから1秒当たり5アンペアの間(のみ)であり、特に1秒当たり0.2アンペアから1秒当たり3アンペアの間(のみ)であり、または1秒当たり1アンペアから1秒当たり5アンペアの間である。
【0040】
ここで説明している方法によっても、電磁弁におけるコンポーネント公差を、それが運転者のブレーキ操作感覚/ブレーキペダル感覚に対して不都合に作用しないように補償することができる。特に、ブレーキシステムのブレーキ操作部材の「沈み込み」、ないしブレーキ操作部材の固着滑り現象あるいはスティック・スリップ現象を、このようにして防止することができる。
【0041】
好ましい発展例として、常時開の電磁弁が電磁弁として作動する場合、常時開の電磁弁が方法ステップS1により第1の切換状態としての完全に閉じた状態から第2の切換状態としての部分的に開いた状態または完全に開いた状態へと切り換えられる前に、(任意選択の)方法ステップS0をさらに実行することができる。方法ステップS0として、すでに常時開の電磁弁が完全に閉じた状態で保持されている間に、常時開の電磁弁の少なくとも1つの磁気コイルを通って流れる電流の電流強さが1秒当たり-0.05アンペアから1秒当たり-5アンペアの間の勾配をもって低減される。このことは上に説明した利点をもたらす。
【符号の説明】
【0042】
14,16,20,22,28,30 電磁弁
24 制御装置
26 制御デバイス
I14 電流強さ