(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】遠心分離装置
(51)【国際特許分類】
B04B 1/20 20060101AFI20240321BHJP
B04B 11/02 20060101ALI20240321BHJP
B01D 29/17 20060101ALI20240321BHJP
B01D 29/25 20060101ALI20240321BHJP
B01D 29/37 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B04B1/20
B04B11/02
B01D29/30 501
(21)【出願番号】P 2019151194
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-08-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000198352
【氏名又は名称】株式会社IHI回転機械エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】寺谷 直也
(72)【発明者】
【氏名】桐山 英哉
(72)【発明者】
【氏名】松見 優輝
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】磯 良行
(72)【発明者】
【氏名】山本 充俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 晃博
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-064771(JP,A)
【文献】特開2005-074373(JP,A)
【文献】実開昭49-021665(JP,U)
【文献】実開昭57-181361(JP,U)
【文献】特開2009-136790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00-15/12
C02F 11/00-11/20
B01D 24/00-35/05;35/10-37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体と液体との混合物を収容し、回転によって前記混合物から前記固体と前記液体とを遠心分離する筒状の外胴部と、
前記外胴部の内部で前記外胴部の回転軸線に沿って配置され、前記混合物を移送すると共に、前記外胴部の回転方向と同一方向に回転する内胴部と、
前記内胴部の外周面に設けられ、前記内胴部の前記回転軸線に沿った一方側に前記固体を移送するスクリュウ羽根と、を備え、
前記内胴部は、内部の前記混合物が通過する通過口と、前記通過口を通過した前記混合物を、前記外胴部の内周面と前記内胴部との間に放出する放出口と、前記通過口と前記放出口とに連通する混合物流路と、を備え、
前記放出口は、前記通過口よりも前記回転方向の前方側に配置されると共に、前記混合物の放出方向を基準にして回転方向の前方を向いて配置され、
前記混合物流路は、前記通過口の全周を囲むように前記通過口に連通すると共に、
前記通過口に連通する部分及び前記通過口から前記放出口に至る途中で湾曲し、且つ前記スクリュウ羽根の螺旋方向に沿った方向に延在して前記放出口に連通している、遠心分離装置。
【請求項2】
前記放出口は、前記スクリュウ羽根のピッチ間に設けられており、
前記混合物の放出方向は、前記スクリュウ羽根の螺旋方向に沿った方向である、請求項1記載の遠心分離装置。
【請求項3】
前記外胴部の前記内周面に沿った領域には、前記混合物から前記固体が分離された液体層が形成され、
前記放出口は、前記液体層と気体領域との境界面よりも、前記外胴部の内周面から離れた位置に設けられている、請求項1または2記載の遠心分離装置。
【請求項4】
前記外胴部の前記内周面に沿った領域には、前記混合物から前記固体が分離された液体層が形成され、
前記放出口は、前記液体層内に配置されている、請求項1または2記載の遠心分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体と液体との混合物から固体と液体とを遠心分離する遠心分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、遠心分離によって固体と液体とを遠心分離する遠心分離装置が開示されている。この遠心分離装置は、同一の回転軸線を有する内側及び外側の筒状体を備える。遠心分離の対象である混合物は、内側の筒状体内を通過し、内側の筒状体の放出口から外側の筒状体内に放出される。この混合物は、外側の筒状体内で遠心分離され、固体から分離された液体は、外側の筒状体の内周面に追従して回転する液体層を形成する。内側の筒状体からは、例えば、外側の筒状体と同程度の回転速度で新たな混合物が放出されており、この新たな混合物は、外側の筒状体と同一方向に回転しながら遠心方向にも移動して液体層に混入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、回転する内側の筒状体から遠心方向に放出された混合物は、回転中心から離れるほど、回転方向への速度は小さくなり、液体層に混入する際に、液体層との間での回転速度差が大きくなり易い。その結果、この回転速度差に起因して液体層が乱れ、固体と液体とを分ける固液分離性を損なう可能性があった。
【0005】
本開示は、固体から分離された液体層を安定して維持するのに有利であり、固液分離性を損ない難い遠心分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る遠心分離装置は、固体と液体との混合物を収容し、回転によって混合物から固体と液体とを遠心分離する筒状の外胴部と、外胴部の内部で外胴部の回転軸線に沿って配置され、混合物を移送すると共に、外胴部の回転方向と同一方向に回転する内胴部と、内胴部の外周面に設けられ、内胴部の回転軸線に沿った一方側に固体を移送するスクリュウ羽根と、を備え、内胴部は、内部の混合物を、外胴部の内周面と内胴部との間に放出する放出口を備え、放出口は、混合物の放出方向を基準にして回転方向の前方を向いて配置されている。
【0007】
この遠心分離装置によれば、内胴部の内部の混合物は、放出口を介して回転方向の前方に向けて放出される。従って、遠心方向に放出される態様に比べ、実質的に回転方向への速度は増加する。その結果、混合物が液体層に混入する際の回転方向への速度差を小さくし易くなる。
【0008】
いくつかの態様において、スクリュウ羽根は、内胴部の外周面に螺旋状に設けられ、放出口は、スクリュウ羽根のピッチ間に設けられており、混合物の放出方向は、スクリュウ羽根の螺旋方向に沿った方向にすることができる。この態様によれば、放出口から放出された混合物は、スクリュウ羽根に沿って流れるので、スクリュウ羽根による干渉を受け難く、従って、回転方向への速度が低下し難い。
【0009】
いくつかの態様において、外胴部の内周面に沿った領域には、混合物から固体が分離された液体層が形成され、放出口は、液体層と気体領域との境界面よりも、外胴部の内周面から離れた位置に設けられている態様にすることができる。この態様によれば、混合物は、気体領域を介して間接的に液体層に混入することになり、液体層内の固液分離性に対して、直接的な影響を及ぼし難くなる。
【0010】
いくつかの態様において、外胴部の内周面に沿った領域には、混合物から固体が分離された液体層が形成され、放出口は、液体層内に配置されている態様にすることができる。この態様によれば、混合物は、液体層内で、回転方向の前方に向けて直接的に放出されることになる。その結果、液体層との間で生じる回転方向への速度差は小さくなる。
【発明の効果】
【0011】
本開示のいくつかの態様によれば、固体から分離された液体層を安定して維持するのに有利であり、固液分離性を損ない難い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係るスクリュウデカンタ型の遠心分離装置を示した斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る外胴ボウル及び内胴スクリュウコンベアの内部構造を示した縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿った模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、内胴スクリュウコンベアの一部を拡大して示す側面図である。
【
図5】
図5は、
図3に対応し、他の実施形態に係る内胴スクリュウコンベアの断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1に係る遠心分離装置を示し、(a)図は、外胴ボウル及び内胴スクリュウコンベアの内部を回転軸線方向から見た場合のスワールの状態を示す説明図であり、(b)図は、液体層内における液体の流れの状態を示す説明図である。
【
図7】
図7は、比較例1に係る遠心分離装置を示し、(a)図は、外胴ボウル及び内胴スクリュウコンベアの一部分の内部構造を示した縦断面図であり、(b)図は、外胴ボウル及び内胴スクリュウコンベアの内部を回転軸線方向から見た場合のスワールの状態を示す説明図であり、(c)図は、液体層内における液体の流れの状態を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施例2及び比較例2、3における固体粒子回収率(分離効率)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、遠心分離装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素同士、或いは相当する要素同士には、互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0014】
重質分である固体と軽質分である液体との混合物(以下、「原液」と称する)に対し、両者を分離する固液分離処理として、遠心分離処理が用いられる。遠心分離処理では、例えば、回転体内で原液を高速で回転させ、回転体に加わる径方向の遠心力により固体の沈降速度を高めることで固液分離を促進する。本実施形態では、この遠心分離処理を実現する装置として、スクリュウデカンタ型遠心分離装置を例に挙げて説明する。
【0015】
図1及び
図2に示されるように、遠心分離装置1は、遠心分離処理を実現する主要部である回転体2と、回転体2を収容するケーシング5と、回転体2に所望の回転力を付与する駆動ユニット6と、回転体2内に原液Mを供給するフィードパイプ7と、を備えている。遠心分離装置1は、例えば、食品、飲料水、薬品、化学製品、鉄鋼製品等の製造プロセスや、屎尿処理、下水処理、スラリー処理、工場排水処理等の水処理といった様々な分野において、固液分離に利用される。また、菌体や微生物などのできるだけ固体に衝撃を与えたくない処理物を対象とした固液分離に利用することもできる。
【0016】
回転体2は、外胴ボウル3(外胴部)と、外胴ボウル3内に配置された内胴スクリュウコンベア4とを備えている。外胴ボウル3の回転方向Ra(
図3参照)と内胴スクリュウコンベア4の回転方向Raとは同一である。外胴ボウル3は、略円筒形状の筒状体であり、両端の軸部が軸受3aによって回転自在に軸支されている。外胴ボウル3の主要部はケーシング5内に配置されている。外胴ボウル3の回転軸線Lは、両方の軸受3aを通るように、外胴ボウル3の長手方向に延在している。外胴ボウル3は、原液Mを内部に収容し、駆動ユニット6の作用で回動し、原液Mから液体Lqと固体Sd(
図3参照)と遠心分離する。
【0017】
図2に示されるように、外胴ボウル3の回転軸線方向(回転軸線Lに沿った方向)の一方の端部側は漸次縮径しており、この縮径によって絞り部31が形成されている。絞り部31には、内胴スクリュウコンベア4によって搬送された固体Sdを排出する固体排出口32が設けられている。外胴ボウル3の一方の端部には、外胴ボウル3を封止(閉鎖)する小径側外胴軸33が固定されている。小径側外胴軸33は、外部の軸受3a(
図1参照)によって回転自在に軸支されている。小径側外胴軸33の中央には、小径側外胴軸33を貫通するようにフィードパイプ7が配置されている。フィードパイプ7は外胴ボウル3の回転軸線Lに沿って延在しており、フィードパイプホルダー7aによって支持されている。フィードパイプ7内には、外胴ボウル3内に供給される原液Mが通過する。フィードパイプ7の一部を取り囲むように内胴スクリュウコンベア4が配置されている。内胴スクリュウコンベア4、外胴ボウル3の小径側外胴軸33は、軸受34を介して回転自在に連結されている。
【0018】
外胴ボウル3の回転軸線方向の他方の端部には大径側外胴軸35が設けられている。大径側外胴軸35は、外胴ボウル3と内胴スクリュウコンベア4との間の空間を封止(閉塞)する環状の内壁部35aと、内壁部35aの中央部分から外胴ボウル3の内方に突出する内軸部35bと、内壁部35aの中央部分から外胴ボウル3の外方に突出する外軸部35cとを備えている。内軸部35bには内胴スクリュウコンベア4を軸支する軸受35dが取り付けられている。外軸部35cは、外部の軸受3a(
図1参照)によって回転自在に軸支されている。内壁部35aの遠心方向CDの外寄りの位置には、液体層内で固体Sdから分離された液体Lqが通過して排出される複数の液体通過口36が設けられている。複数の液体通過口36は、外胴ボウル3の内周面3bに沿うように設けられている。
【0019】
内胴スクリュウコンベア4は、略円筒形状の筒状体である内胴部41と、内胴部41の外周面41aに設けられ、径方向外方に突出したスクリュウ羽根42とを備えている。内胴部41は外胴ボウル3の回転方向Raと同一方向に回転する。スクリュウ羽根42は、内胴部41の外周面41aに螺旋状に巻回して設けられている。スクリュウ羽根42は、内胴部41の回転に伴って回転し、液体Lqから遠心分離された固体Sdを内胴部41の一方の端部側に移送する。内胴部41の一方の端部側は、外胴ボウル3の縮径に対応するように縮径している。内胴部41の一方の端部は、軸受34を介して、フィードパイプ7及び外胴ボウル3に対して回転自在となるように連結されている。
【0020】
内胴部41の周壁43には、原液Mが通過する通過口8と、通過口8を通過した原液Mに干渉して原液Mの放出向きを変える原液案内部9とが設けられている。原液案内部9には、原液Mを、外胴ボウル3の内周面3bと内胴部41との間に放出する放出口91と、原液流路92とが形成されている。原液流路92は、通過口8から湾曲して放出口91に繋がっており、通過口8と放出口91とを接続している。
【0021】
原液案内部9は、内胴部41の外周面41aに溶接されてもよく、内胴部41に一体に形成されてもよい。また、原液案内部9は原液M中の固定粒子によって摩耗することも懸念されるため、原液案内部9を内胴部41に対して取り換え交換可能な構造(例えば、ブッシュ)にすることも可能である。
【0022】
遠心分離の対象となる原液Mは、フィードパイプ7を通過して内胴部41の内部に供給され、次に、内胴部41の通過口8及び原液流路92を通過して放出口91から放出される。放出口91から外胴ボウル3内に供給された原液Mは、外胴ボウル3の回転によって液体Lqと固体Sdとに遠心分離される。固体Sdが分離された液体Lqは、外胴ボウル3の内周面3bに追従して回転する液体層LLを形成する。より詳細に説明すると、原液Mのうち、重質分である固体Sd(主に固体粒子)は外胴ボウル3の内周面3bに堆積されるように集積され、軽質分である液体Lqは固体Sdよりも内方(遠心方向CDに対して逆となる方向)に主体的に存在するようになって液体層LLを形成する。液体層LLの表層面、つまり、液体層LLの内方に形成される表面は、固体Sd及び液体Lqが疎となる気体領域Asと液体層LLとの境界面Bsである。
【0023】
内胴スクリュウコンベア4は、液体層LL内で遠心方向CDに沈降し、外胴ボウル3の内周面3bに堆積された固体Sdをスクリュウ羽根42によって外胴ボウル3の一方の端部側に送る。この一方の端部側には絞り部31が設けられており、絞り部31とスクリュウ羽根42との相互作用によって固体Sdは脱水され、固体排出口32から排出される。
【0024】
外胴ボウル3の他方の端部には、内壁部35aが設けられており、内壁部35aには、液体通過口36が設けられている。液体層LLを形成する液体Lqは、内壁部35aの液体通過口36を通過して外部に排出される。液体通過口36の少なくとも一部はオリフィス板37によって閉塞されている。より詳細に説明すると、オリフィス板37は、液体通過口36の全領域のうち、外胴ボウル3の内周面3bに近い側の一部領域を堰き止めるように閉塞している。その結果、液体層LLの厚さ、言い換えると外胴ボウル3の内周面3bから液体層LLの境界面Bsまでの高さは、オリフィス板37の高さによって規定されることになる。オリフィス板37の高さとは、実質的に、オリフィス板37によって堰き止められた液体通過口36の一部領域のうち、外胴ボウル3の内周面3bに最も近い位置から内周面3bまでの距離を意味する。
【0025】
駆動ユニット6は、外胴ボウル3を一方向に回転させ、外胴ボウル3に遠心分離機能を付与する駆動用モータ61を備える。外胴ボウル3は、駆動用モータ61により、例えば、10rpm~10000rpmの高速回転をする。また、駆動ユニット6は、内胴スクリュウコンベア4を回転させる差速制動機62及びギヤボックス63の遊星歯車機構等を備えている。内胴スクリュウコンベア4の内胴部41は、差速制動機62の動力とギヤボックス63の遊星歯車機構によって、外胴ボウル3と同方向に高速回転する。内胴部41と外胴ボウル3との回転速度差は50rpm以下である。この回転速度差は、15rpm以下とすることができ、また、10rpm以下とすることができ、5rpm以下とすることができる。
【0026】
次に、
図2、
図3、及び
図4を参照して原液案内部9及び放出口91の向きについて説明する。原液案内部9は、断面略半円形状の筒状体であり、内胴部41の外周面41aの接線方向に沿った横向きとなるように設けられている。原液案内部9の一方の端部は湾曲して閉塞しており、他方の端部には放出口91が設けられている。原液案内部9の原液流路92となる内部空間は、一方の端部側は内胴部41の通過口8に連通し、他方の端部側は放出口91に連通している。
【0027】
放出口91は、原液Mの放出方向Daを基準にして内胴部41の回転方向Raの前方を向くように配置されている。本実施形態において「内胴部41の回転方向Ra」とは、内胴スクリュウコンベア4の回転方向Raを意味し、外胴ボウル3の回転方向Raと同一方向である。更に、内胴スクリュウコンベア4が静置された状態であっても、スクリュウ羽根42の螺旋形状を観察すれば、固体Sdが、外胴ボウル3の一方の端部側(絞り部31側)に送られるような回転方向Raを特定できる。つまり、スクリュウ羽根42の螺旋形状に基づいて特定される回転方向Raは、内胴部41の回転方向Raとなる。次に、「原液Mの放出方向Daを基準にして」とは、放出口91から放出される原液Mの放出方向Daに基づいて放出口91の向きが規定されることを意味する。その結果、放出口91の略中心部分を通過して放出される原液Mの放出方向Daは、実質的に、放出口91の向きとなる。なお、放出口91の周縁(例えば、円形)を含む平面を仮定できる場合には、この平面の法線方向を放出口91の向きとして規定することも可能である。
【0028】
また、「内胴部41の回転方向Raの前方を向く」とは、実質的に放出方向Daまたは法線方向が回転方向Raの前方側であることを意味している。また、回転軸線Lと放出口91の中心とを通る基準平面Pxを仮定し、この基準平面Pxを挟んで回転方向Raの正転側の領域Qxと逆転側の領域Qyとを区別した場合に、「回転方向Raの前方」とは、正転側の領域Qxを広く含むことを意味している。従って、「内胴部41の回転方向Raの前方を向く」とは、例えば、正転側の領域Qxに向けた基準平面Pxの法線方向のみならず、この法線方向に対して傾いた方向であってもよい。
【0029】
原液案内部9は、スクリュウ羽根42のピッチ間Pdに設けられており、原液案内部9の長手方向は、スクリュウ羽根42の螺旋方向に沿った方向となるように配置されている。従って、本実施形態に係る原液Mの放出方向Daは、スクリュウ羽根42の螺旋方向に沿った方向となっている。なお、原液Mの放出方向Daは、スクリュウ羽根42の螺旋方向に沿った方向に限定されず、回転軸線方向に非平行となる方向を広く含み、例えば、回転軸線方向に直交する方向であっても良い。
【0030】
原液案内部9の頂部9aは、内胴部41の外周面41aから最も離れた位置である。本実施形態において、原液案内部9の頂部9aは液体層LL内に埋没しておらず、放出口91は、液体層LLの境界面Bsよりも、外胴ボウル3の内周面3bから離れた位置に設けられている。ここで、液体層LLの境界面Bsについて補足すると、境界面Bsは、例えば、液体通過口36の周縁のうち、外胴ボウル3の内周面3bに最も近い位置36aによって規定される。そして、この位置36aを基準として規定された境界面Bsから外胴ボウル3の内周面3bまでの距離d2は、原液案内部9の頂部9aから外胴ボウル3の内周面3bまでの距離d1よりも短い。
【0031】
次に、本実施形態に係る遠心分離装置1の作用、効果について説明する。遠心分離装置1において、原液案内部9の放出口91から回転方向Raの前方に向けて放出された原液Mは、遠心方向CDに向けて軌道を変えながら移動し、液体層LLに混入する。
【0032】
ここで、例えば、原液案内部9が設けられておらず、通過口8から遠心方向CDに向けて原液Mが放出される形態(比較形態)を想定する。比較形態において、内胴部41の通過口8から放出された原液Mは回転速度をvθbを有する。この原液Mは、遠心方向CDに移動しながらvθbの回転速度で液体層LLの境界面Bsに達する。これに対し、液体層LLは外胴ボウルの回転に追従して回転しており、液体層LLの境界面Bsは、外胴ボウルの回転速度に準じた回転速度vθaを有すると仮定できる。その結果、液体層LLの境界面Bsの回転速度vθaと原液Mの回転速度vθbとの差は大きくなる。
【0033】
これに対し、本実施形態では、原液Mは放出口91から回転方向Raの前方側に向けて放出されるので、回転方向Raへの速度(回転速度)を増加させ易くなる。その結果、比較形態に比べ、原液Mが液体層LL内に混入する際に、原液Mと液体層LLとの間に生じる回転速度の差を小さくし易くなる。
【0034】
また、原液案内部9は、スクリュウ羽根42のピッチ間Pdに設けられており、原液Mの放出方向Daは、スクリュウ羽根42の螺旋方向に沿った方向となっている。その結果、放出口91から放出された原液Mは、スクリュウ羽根42に沿って流れ、スクリュウ羽根42による干渉を受け難くなるので、回転速度が低下し難い。
【0035】
また、放出口91は、境界面Bsよりも、外胴ボウル3の内周面3bから離れた位置に設けられており、放出口91から放出された原液Mは、気体領域Asを介して間接的に液体層LLに混入することになる。その結果、放出口91から放出された原液Mは、液体層LL内の固液分離性に対して、直接的な影響を及ぼし難くなる。その結果、液体層LL内において、遠心方向CDに沈降中の固体粒子や、既に沈降堆積している固体Sdを舞い上げてしまう可能性を低減し、固液分離性の低下を抑制できる可能性がある。
【0036】
また、例えば、菌体や微生物などのできるだけ固体Sdに衝撃を与えたくない処理物が原液Mの場合に、本実施形態に係る遠心分離装置1によれば、原液Mと液体層LLとの回転速度の差を小さくできるので、固体Sdにかかる衝撃を和らげることができ、有利である。
【0037】
また、本実施形態に係る遠心分離装置1では、外胴ボウル3の回転速度を落とすことなく、原液Mと液体層LLとの回転速度の差を小さくできるので、固液分離に必要な遠心力を維持、または増加し易くなる。
【0038】
一方、
図5に示されるように、他の実施形態として、放出口91が液体層LL内に配置された態様とすることもできる。他の実施形態に係る遠心分離装置1Aは、上述の実施形態に係る遠心分離装置1と同様の構造や要素を備えており、同様の構造や要素には同一の符号を付して詳しい説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0039】
遠心分離装置1Aは、内胴部41の外周面41aから外胴ボウル3の内周面3bに向けて遠心方向CDに立設された原液案内部9Aを備えている。原液案内部9Aには、放出口91及び原液流路92が設けられており、原液流路92は、内胴部41の通過口8及び放出口91に接続されている。放出口91は、液体層LL内に配置されている。また、放出口91は、原液Mの放出方向Daを基準にして内胴部41の回転方向Raの前方を向くように配置されている。
【0040】
本実施形態に係る遠心分離装置1Aによれば、原液Mは、放出口91を介して回転方向Raの前方に向けて放出される。従って、遠心方向CDに放出される態様に比べ、実質的に回転速度は増加する。その結果、混合物が液体層LLに混入する際の回転方向Raへの速度差を小さくし易くなる。特に、本実施形態では、放出口91は、液体層LL内に配置されており、原液Mは、液体層LL内で、回転方向Raの前方に向けて直接的に放出される。その結果、液体層LLとの間で生じる回転方向Raへの速度差は小さくなる。
【0041】
以上、実施形態及び他の実施形態に基づいて本開示に係る遠心分離装置1、1Aの説明をした。しかしながら、本開示は、上記の実施形態等のみに限定されない。例えば、上記の実施形態等では、放出口91の向きや高さが不変である原液案内部9、9Aを例に説明したが、放出口91の向きや高さを調節可能(例えば、伸縮可能)な構造にすることもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。また、後述の実施例及び比較例について、上述の実施形態と同一の要素や対応する構造については、上述の実施形態と同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0043】
(実施例1、比較例1)
実施例1(
図6参照)は、上述の実施形態に対応する構造を備えており、内胴スクリュウコンベア4の内胴部41には、回転軸線方向から見た場合に、周方向で等間隔となるように複数(四個)の通過口8、原液案内部9及び放出口91が設けられている。通過口8及び放出口91の内径は100mmである。原液Mは、3m
3/hの流量で放出口91を通過して放出される。外胴ボウル3と内胴スクリュウコンベア4の内胴部41との回転速度差は、10rpmとした。
【0044】
比較例1(
図7参照)は、放出口91が設けられた原液案内部9を備えていない点を除き、実質的に実施例1と共通する。
【0045】
図6の(b)図は、実施例1に係る外胴ボウル3及び内胴部41の内部を回転軸線方向から見た場合のスワールの状態を示す図であり、(b)図は、(a)図の領域Xの液体層LL内において、外胴ボウル3に対する液体層LL内の相対的な流れの向きや大きさを模式的に示した図である。なお、(b)図において領域Xに対して左側に向けて伸びる矢印は、外胴ボウル3の回転方向Raの速度に対して相対的に逆流していることを意味し、矢印の長さは逆流の大きさを意味している。
【0046】
図7の(a)図は、比較例1に係る外胴ボウル3及び内胴部41の一部を拡大した断面図であり、(b)図は、外胴ボウル3及び内胴部41の内部を回転軸線方向から見た場合のスワールの状態を示す説明図であり、(c)図は、(b)図の領域Yの液体層LL内において、外胴ボウル3に対する液体層LL内の相対的な流れの向きや大きさを模式的に示した図である。なお、(b)図において領域Yに対して左側に向けて伸びる矢印は、外胴ボウル3の回転方向Raの速度に対して相対的に逆流していることを意味し、矢印の長さは逆流の大きさを意味している。
【0047】
図6の(a)図に示されるように、実施例1では、原液案内部9の放出口91から放出された原液Mは、湾曲するように遠心方向CDに向けて軌道を変更し、液体層LLの境界面Bsに略直交するように混入している。ここで
図6の(b)図に示されるように、実施例1では、液体層LLの境界面Bs付近の回転速度は、外胴ボウル3の回転速度に対して相対的に逆流しているが、流れの向き等は比較的安定しており、液体層LLを安定して維持するのに有効である。
【0048】
一方で、
図7の(b)図に示されるように、比較例1では、内胴部41の通過口8を通過した原液Mは、液体層LLの境界面Bsに対して斜めに混入している。ここで
図7の(c)図に示されるように、比較例1の液体層LLの境界面Bs付近の流れの向きは、実施例1(
図6の(b)図参照)に比べて乱れが大きい。また、比較例1の液体層LLの境界面Bs付近の回転速度は、外胴ボウル3の回転速度に対して相対的に逆流している。そして、この逆流の大きさは実施例1よりも大きくなっており、固液分離性に不利に働いている可能性がある。
【0049】
(実施例2、比較例2、比較例3)
図8は、固体粒子回収率(分離効率)を示すグラフである。実施例2は、内径100mmの内胴部41に対し、40mmの高さの原液案内部9を設け、放出口91の向きを回転方向Raの前方に向けて配置した装置である。比較例2は、原液案内部9を備えていない点を除き、実質的に実施例2に共通する装置である。比較例3は、放出口91の向きを回転方向Raの後方(逆転側)に向けて配置した装置である。
【0050】
図8に示されるように、実施例2は、比較例2、比較例3に比べて、固体粒子回収率が向上している。
【符号の説明】
【0051】
1、1A 遠心分離装置
3 外胴ボウル(外胴部)
3b 内周面
91 放出口
41 内胴部
42 スクリュウ羽根
Bs 境界面
As 気体領域
CD 遠心方向
Da 放出方向
Ra 回転方向
LL 液体層
Sd 固体
Lq 液体
Pd ピッチ間
M 原液(混合物)
L 回転軸線