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特許7457483組成物、シート、セキュリティカード、および、組成物の製造方法
<図1>
  • 特許-組成物、シート、セキュリティカード、および、組成物の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】組成物、シート、セキュリティカード、および、組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240321BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20240321BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240321BHJP
   C08K 5/43 20060101ALI20240321BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20240321BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C08L69/00
C09K3/16 102F
C09K3/16 104D
C09K3/16 107D
C09K3/16 105D
C09K3/16 105A
C08L83/04
C08K5/43
C08K5/42
C08J3/20 Z CFD
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019197128
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021070736
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-156536(JP,A)
【文献】特開2018-080237(JP,A)
【文献】特開2007-302794(JP,A)
【文献】特開2011-184649(JP,A)
【文献】特開2010-065185(JP,A)
【文献】特開2018-165315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C09K 3/16
C08L 83/04
C08K 5/43
C08K 5/42
C08J 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)帯電防止剤0.1~5.0質量部と、(C)シリコーンオイル0.01~0.5質量部を含み、
前記(B)帯電防止剤が、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオンおよびイミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤を含み、
前記(C)シリコーンオイルが、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sであり、
さらに、(D)リン系酸化防止剤を含み、
難燃剤を含まない、組成物。
式(C1)
【化1】
(式(C1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基である。)
【請求項2】
前記アニオンが、パーフルオロアルキルスルホンイミドアニオンおよびパーフルオロアルキルスルホネートアニオンから選択されるアニオンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(B)帯電防止剤がイオン液体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記式(C1)で表される構成単位において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、フェニル基、炭素数1~3のアルキル鎖を有するアルコキシ基、または、フェノキシ基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
セキュリティカード用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物から形成されたシート。
【請求項7】
請求項6に記載のシートを含む、セキュリティカード。
【請求項8】
(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に、(B)帯電防止剤0.1~5.0質量部と(C)シリコーンオイル0.01~0.5質量部とを同時または逐次に添加して、溶融混練することを含み、
前記(B)帯電防止剤が、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、および、イミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤を含み、
前記シリコーンオイルが、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sであり、
さらに、(D)リン系酸化防止剤を含み、
難燃剤を含まない、組成物の製造方法。
式(C1)
【化2】
(式(C1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、シート、セキュリティカード、および、組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セキュリティカードや電子パスポートなどに、樹脂シートが活用されている。
このような樹脂シートは、その製造段階および製造後の加工段階において、製造装置および加工装置の部材、例えば、金属、ゴム、樹脂といった材料からなる部材と必然的に接触することとなり、その際に部材間で摩擦を伴うことがある。そして、この摩擦を伴う接触(動的接触)により、樹脂シートは帯電することがある。この帯電の度合いが大きいと、製造時および製造後の様々な工程において、樹脂シートの取扱いに不都合が生じることがある。具体的には、印刷を施す際のインクのはじき等の不具合の防止やフィルム取扱い時のスタック防止などが求められている。
【0003】
このような帯電を防止するために、ポリカーボネート樹脂に、帯電防止剤を配合することが検討されている(特許文献1~3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-084396号公報
【文献】特開平05-255580号公報
【文献】特開2012-144604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、ポリカーボネート樹脂に帯電防止剤を配合することは検討されている。しかしながら、帯電防止剤として、イオン液体などの所定の帯電防止剤を配合すると、シート等に成形したときに滞留安定性が劣ることが分かった。ここで、滞留安定性を改善させるために、シリコーン化合物を配合することが考えられた。しかしながら、シリコーン化合物の中には、ポリカーボネート樹脂に対する分散性が劣り、ダマが確認されるものがあることが分かった。
本発明では、イオン液体などの所定の帯電防止剤を用いて、優れた帯電防止性能を維持しつつ、滞留安定性およびシリコーン化合物の分散性に優れた組成物、ならびに、前記組成物を用いたシート、セキュリティカード、および、組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の下、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、イオン液体などの所定の帯電防止剤と共に、所定のシリコーンオイルを配合することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)帯電防止剤0.1~5.0質量部と、(C)シリコーンオイル0.01~0.5質量部を含み、前記(B)帯電防止剤が、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオンおよびイミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤を含み、前記(C)シリコーンオイルが、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sである、組成物。
式(C1)
【化1】
(式(C1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基である。)
<2>前記アニオンが、パーフルオロアルキルスルホンイミドアニオンおよびパーフルオロアルキルスルホネートアニオンから選択されるアニオンを含む、<1>に記載の組成物。
<3>前記(B)帯電防止剤がイオン液体である、<1>または<2>に記載の組成物。
<4>前記式(C1)で表される構成単位において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、フェニル基、炭素数1~3のアルキル鎖を有するアルコキシ基、または、フェノキシ基である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の組成物。
<5>さらに、酸化防止剤を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の組成物。
<6>前記酸化防止剤が、(D)リン系酸化防止剤を含む、<5>に記載の組成物。
<7>セキュリティカード用である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の組成物から形成されたシート。
<9><8>に記載のシートを含む、セキュリティカード。
<10>(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に、(B)帯電防止剤0.1~5.0質量部と(C)シリコーンオイル0.01~0.5質量部とを同時または逐次に添加して、溶融混練することを含み、前記(B)帯電防止剤が、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、および、イミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤を含み、前記シリコーンオイルが、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sである、組成物の製造方法。
式(C1)
【化2】
(式(C1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明により、イオン液体などの所定の帯電防止剤を用いて、優れた帯電防止性能を維持しつつ、滞留安定性およびシリコーン化合物の分散性に優れた組成物、ならびに、前記組成物を用いたシート、セキュリティカード、および、組成物の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のセキュリティカードの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
【0010】
本発明の組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)帯電防止剤0.1~5.0質量部と、(C)シリコーンオイル0.01~0.5質量部を含み、前記(B)帯電防止剤が、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオンおよびイミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤を含み、前記シリコーンオイルが、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sであることを特徴とする。
式(C1)
【化3】
(式(C1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基である。)
このような構成とすることにより、優れた帯電防止性能を維持しつつ、滞留安定性およびシリコーン化合物の分散性に優れた組成物が得られる。この理由は不明であるが、溶融滞留時においてポリカーボネート樹脂は熱劣化しやすく、帯電防止剤を含む樹脂組成物は熱劣化がさらに促進されやすい。そのような場合において、(C)シリコーン化合物が熱劣化を抑制する第3成分として安定化効果を発揮していると推測される。
さらに、本発明では、湿熱安定性に優れた組成物が得られる。
【0011】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
本発明の組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を含む。
(A)ポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-構成単位(Rは、炭化水素基(例えば、脂肪族基、芳香族基、または脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの))を含むものであれば、特に限定されるものではないが、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂がより好ましい。ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とは、ポリカーボネート樹脂を構成する構成単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が、ビスフェノールAおよび/またはその誘導体由来のカーボネート構成単位であることをいう。
(A)ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、20,000~80,000が好ましく、30,000~70,000がより好ましく、さらに好ましくは40,000~60,000である。重量平均分子量(Mw)はゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される。
また、(A)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、120~160℃が好ましく、130~155℃がより好ましい。本発明におけるガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度とする。測定開始温度は30℃、昇温速度は10℃/分、到達温度は250℃、降温速度は20℃/分で測定される。
【0012】
その他、(A)ポリカーボネート樹脂の詳細は、特開2012-144604号公報の段落0011~0020の記載、特開2019-002023号公報の段落0014~0035の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0013】
本発明の組成物中の(A)ポリカーボネート樹脂の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、さらには、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。(A)ポリカーボネート樹脂の含有量の上限は、組成物中、例えば、99.99質量%以下である。
本発明の組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0014】
<(B)帯電防止剤>
本発明の組成物は、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、および、イミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される(B)帯電防止剤を含む。
(B)帯電防止剤はイオン液体であることが好ましい。イオン液体は、物質そのものが高い導電度を有しており、かつ、室温付近で液体であるため、分散性に優れ、高い帯電防止性能を発揮する。また、従来、帯電防止剤として使用されているアルキルスルホン酸ホスホニウム塩のような界面活性剤よりも耐熱性に優れている。そのため、イオン液体を配合した樹脂を高温下で成形した場合においても、(B)帯電防止剤の熱分解による物性低下を抑えつつ、優れた帯電防止性能を付与することが可能となる。
イオン液体とは、イオンのみからなり、融点が100℃以下である化合物をいう。
【0015】
(B)帯電防止剤を構成するアニオンは、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択され、パーフルオロアルキルスルホンイミドアニオンおよびパーフルオロアルキルスルホネートアニオンから選択されるアニオンを含むことが好ましい。フッ素原子を含むことにより、樹脂組成物中でのイオン液体の表面移行性が向上する。従って、低添加量の(B)帯電防止剤で高い帯電防止性能を付与することが可能となる。
【0016】
フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンは、式(1)で表されることが好ましい。
式(1)
【化4】
(式(1)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、フッ素原子を含む炭化水素基を表す。)
11およびR12は、フッ素原子を含む直鎖、分岐または環状のアルキル基、フッ素原子を含む直鎖、分岐または環状のアルキレン基、および、フッ素原子を含むアリール基が好ましく、フッ素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、フッ素原子を含む直鎖アルキル基がさらに好ましい。
11およびR12において、炭化水素基を構成する炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
より具体的には、R11およびR12は、それぞれ独立に、パーフルオロ炭化水素基であることが好ましく、パーフルオロアルキル基であることがより好ましく、パーフルオロメチル基またはパーフルオロエチル基がさらに好ましく、パーフルオロメチル基が一層好ましい。
11およびR12は、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0017】
フッ素原子を含むスルホネートアニオンは、式(2)で表されることが好ましい。
式(2)
【化5】
(式(2)中、R21は、フッ素原子を含む炭化水素基を表す。)
21を構成する炭化水素基は、フッ素原子を含む直鎖、分岐または環状のアルキル基、フッ素原子を含む直鎖、分岐または環状のアルキレン基、および、フッ素原子を含むアリール基が好ましく、フッ素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、フッ素原子を含む直鎖アルキル基がさらに好ましい。
21において、炭化水素基を構成する炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、2~6がさらに好ましく、3~5が一層好ましい。
具体的には、R21は、末端にCF3-またはCHF2-を有するアルキル基であることがより好ましく、炭素数2~6のパーフルオロアルキル基であることがさらに好ましく、パーフルオロプロピル基またはパーフルオロブチル基であることが一層好ましく、パーフルオロブチル基であることがより一層好ましい。
【0018】
(B)帯電防止剤を構成するカチオンは、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、および、イミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンを含むことが好ましい。上記カチオンを用いることにより、イオン液体としてより優れた耐熱性が得られる。一方、ピリジニウムカチオンなどは、ポリカーボネート樹脂との相溶性が向上するために、帯電防止剤の表面移行性が失われ、帯電防止性能が効果的に発揮されにくくなる傾向にある。
【0019】
ホスホニウムカチオンは、式(3)で表されることが好ましい。
式(3)
【化6】
(式(3)中、R31~R34は、それぞれ独立に、炭化水素基を表す。)
31~R34は、それぞれ独立に、直鎖、分岐または環状のアルキル基、直鎖、分岐または環状のアルキレン基、および、アリール基が好ましく、直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基がさらに好ましい。R31~R34は、置換基を有していてもよいが、有していない方が好ましい。
31~R34において、炭化水素基を構成する炭素数は、1~20が好ましく、2~15がより好ましい。さらに好ましくは、R31~R34のうち3つが炭素数2~9のアルキル基であり、残りの1つが炭素数10~20のアルキル基であり、一層好ましくは、R31~R34のうち3つが炭素数4~8のアルキル基であり、残りの1つが炭素数12~16のアルキル基であり、さらに一層好ましくは、R31~R34のうち3つがヘキシル基であり、残りの1つが炭素数12~16のアルキル基である。
【0020】
アンモニウムカチオンは、式(4)で表されることが好ましい。
式(4)
【化7】
(式(4)中、R41~R44は、それぞれ独立に、炭化水素基を表す。)
41~R44は、直鎖、分岐または環状のアルキル基、直鎖、分岐または環状のアルキレン基およびアリール基が好ましく、直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基がさらに好ましい。R41~R44は、置換基を有していてもよいが、有していない方が好ましい。
41~R44において、炭化水素基を構成する炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましい。
具体的には、R41~R44は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基またはヘキシル基であることが好ましく、R41~R44のうち1つがメチル基またはエチル基であり、残りの3つがプロピル基、ブチル基またはペンチル基であることがより好ましく、R41~R44のうち1つがメチル基であり、残りの3つがブチル基であることがさらに好ましい。
【0021】
イミダゾリウムカチオンは、式(5)で表されることが好ましい。
式(5)
【化8】
(式(5)中、R51およびR52は、それぞれ独立に、炭化水素基を表す。)
51およびR52は、直鎖、分岐または環状のアルキル基、直鎖、分岐または環状のアルキレン基およびアリール基が好ましく、直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基がさらに好ましい。R51~R54は、置換基を有していてもよいが、有していない方が好ましい。
51およびR52において、炭化水素基を構成する炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましい。
具体的には、R51およびR52は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基またはヘキシル基であることが好ましく、R51がメチル基またはエチル基であり、R52がプロピル基、ブチル基またはペンチル基であることがより好ましく、R51がメチル基であり、R52がブチル基であることがさらに好ましい。
【0022】
(B)帯電防止剤は、上述したアニオンとカチオンとから構成されるが、好ましい組み合わせとして、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンと、ホスホニウムカチオンおよびアンモニウムカチオンのいずれかとの組み合わせ、フッ素原子を含むスルホネートアニオンと、ホスホニウムカチオンまたはイミダゾリウムカチオンとの組み合わせが例示される。
【0023】
(B)帯電防止剤の分子量は、下限値が300以上であることが好ましく、上限値が1000以下であることが好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0024】
本発明の組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)帯電防止剤を0.1~5.0質量部含む。前記(B)帯電防止剤の含有量は、下限値が、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.2質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましい。また、前記(B)帯電防止剤の含有量は、上限値が、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、4.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.0質量部以下であることが一層好ましく、0.8質量部以下であることがより一層好ましく、0.6質量部以下であることがさらに一層好ましい。
本発明の組成物は、(B)帯電防止剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
<(C)シリコーンオイル>
本発明の組成物は、(C)シリコーンオイルを含む。前記(C)シリコーンオイルは、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sである。
式(C1)
【化9】
(式(C1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基である。)
【0026】
前記式(C1)で表される構成単位において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、フェニル基、炭素数1~3のアルキル鎖を有するアルコキシ基、または、フェノキシ基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、または、フェニル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基、または、フェニル基であることがさらに好ましい。
【0027】
(C)シリコーンオイルは、式(C1)で表される構成単位を3つ以上有することが好ましく、4つ以上有することがより好ましく、10つ以上有することがさらに好ましい。上限は特に定めるものではないが、例えば、1500以下である
また、(C)シリコーンオイルは、式(C1)で表される構成単位が(C)シリコーンオイルを構成する全構成単位の96質量%以上を占めることが好ましく、97質量%以上を占めることがより好ましい。(C)シリコーンオイルは、式(C1)で表される構成単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
(C)シリコーンオイルは、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sである。前記動粘度の下限値は、15mm2/s以上であることが好ましい。また、前記動粘度の上限値は、10,000mm2/s以下であることが好ましく、1,000mm2/s以下であることがより好ましく、800mm2/s以下であることがさらに好ましく、500mm2/s以下であることが一層好ましい。上記範囲とすることにより、ポリカーボネート樹脂中での分散性がより向上する傾向にある。
動粘度は、JIS Z 8803に従って測定される。
(C)シリコーンオイルの重量平均分子量は、100~90,000であることが好ましく、1,000~5,000であることがより好ましい。
【0028】
本発明の組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(C)シリコーンオイルを0.01~0.5質量部を含む。前記(C)シリコーンオイルの含有量は、下限値が、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましい。また、前記(C)シリコーンオイルの含有量の上限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.3質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以下であることがより好ましく、0.17質量部以下であることがさらに好ましく、0.15質量部以下であることが一層好ましく、0.14質量部以下であることがより一層好ましく、0.13質量部以下、0.12質量部以下であってもよい。上記下限値以上とすることにより、滞留安定性がより効果に発揮され、また、上記上限値以下とすることにより、機械物性がより向上する傾向にある。
本発明の組成物は、(C)シリコーンオイルを、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
本発明の組成物は、また、(B)帯電防止剤と(C)シリコーンオイルの質量比率である(B)/(C)が、2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、2.8以上であることがさらに好ましく、3.0以上、3.5以上であってもよい。上限値は、6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.5以下であることがさらに好ましい。上記下限値以上の比率とすることにより、帯電防止剤が樹脂組成物の表面上に露出しやすくなり、帯電防止性能がより向上する傾向にある。
【0030】
<酸化防止剤>
本発明の組成物は、酸化防止剤を含むことが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられ、(D)リン系酸化防止剤および(E)フェノール系酸化防止剤から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。酸化防止剤は、特にリン系酸化防止剤が好ましい。また、(D)リン系酸化防止剤および(E)フェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)を併用することも好ましい。
【0031】
(D)リン系酸化防止剤は、リン原子を含む酸化防止剤である限り特に定めるものではない。
(D)リン系酸化防止剤の具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;ホスフェート化合物、ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物などが挙げられるが、ホスファイト化合物が特に好ましい。ホスファイト化合物を選択することで、より高い耐変色性と連続生産性を有する樹脂シートが得られる。
(D)リン系酸化防止剤は、特開2018-090677号公報の段落0058~0064の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
本発明で用いる(D)リン系酸化防止剤の好ましい実施形態の一例は、ジまたはトリアリールホスファイト構造を有するリン系酸化防止剤である。本実施形態では、式(P)で表されるリン系酸化防止剤が好ましい。
式(P)
【化10】
(式(P)中、Rpは、それぞれ独立に、炭素数6以上30以下のアリール基を表す。)
pは、置換基を有するアリール基であってもよく、アルキル基で置換されたアリール基が好ましい。アリール基は、フェニル基が好ましい。前記置換基としてのアルキル基は、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、ブチル基がより好ましく、t-ブチル基がさらに好ましい。
式(P)で表されるリン系酸化防止剤としては、ADEKA社製、アデカスタブ2112、アデカスタブ1178、アデカスタブTPP等が例示される。
また、本発明では、ペンタエリスリトールジフォスファイト構造を有するリン系酸化防止剤も好ましく用いることができ、これらの詳細は、国際公開第2013/088796号に記載されている化合物が例示される。
【0033】
(E)フェノール系酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。このような(E)フェノール系酸化防止剤としては、特開2019-002023号公報の段落0041に記載のフェノール系酸化防止剤および特開2019-056035号公報の段落0033~0034に記載のフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0034】
本発明の組成物における酸化防止剤の含有量は、含有する場合、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、下限値が、0.005質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上である。前記酸化防止剤の含有量の上限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
本発明では、また、フェノール系酸化防止剤を実質的に含まない構成とすることもできる。ここでの実質的に含まないとは、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、その含有量が0質量部または0.005質量部未満であることをいい、さらには、0質量部または0.001質量部未満であることをいう。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
本発明の組成物は、酸化防止剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0035】
<着色剤>
本発明の組成物は、着色剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
着色剤としては、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられ、無機顔料が好ましい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられ、カーボンブラックおよび酸化チタンが好ましく、酸化チタンがより好ましい。
前記無機顔料(特に、酸化チタン)の表面は、アルミナ、シリカおよびジルコニアのいずれか1種以上で処理されていることが好ましい。
【0036】
有機顔料および有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染料または顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染料または顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染料または顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染料または顔料などが挙げられる。
【0037】
本発明の組成物における着色剤の含有量は、着色剤の種類等に応じて、適宜定めることができるが、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、例えば、0.0001質量部以上であり、また、例えば、50質量部以下である。
より具体的には、着色剤として、黒色着色剤(例えば、カーボンブラック)を用いる場合、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.0001~0.005質量部が好ましい。
また、着色剤として、無機顔料(特に、白色着色剤、好ましくは、酸化チタン)を用いる場合、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。上限値としては、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。本発明では、15質量部程度(例えば、13~17質量部であること)が高い隠蔽性を付与できる観点から、さらに一層好ましい。
本発明の組成物は、着色剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0038】
<その他の成分>
本発明の組成物は、上述の成分に加えて、他の成分を含んでいてもよい。具体的には、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、ならびに、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、および、離型剤からなる群から選択された少なくとも1種の添加剤などである。また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を含んでいてもよい。
【0039】
ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂およびアクリル系樹脂が例示される。非晶性ポリエステル樹脂としては、PETG樹脂およびPCTG樹脂が好ましい。ポリエーテル樹脂およびアクリル系樹脂としては、特開2014-129488号公報の段落0032および0033に記載のものを用いることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0040】
組成物における上記他の成分の含有量は、含有する場合、組成物の質量を基準として、例えば0.001質量%以上であり、また、例えば5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0041】
<組成物の物性>
本発明の組成物は、100μmの厚みのシートに成形したときの表面抵抗率が、1.0E+14Ω/sq.未満であることが好ましく、9.0E+13Ω/sq.以下であることがより好ましく、4.0E+13Ω/sq.以下であることがさらに好ましく、9.0E+12Ω/sq.以下であることが一層好ましい。前記表面抵抗率の下限値は特に定めるものではないが、1.0E+10Ω/sq.以上が実際的である。表面抵抗率の測定方法は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0042】
<組成物の製造方法>
本発明の組成物の製造方法は、制限はなく、公知の製造方法を広く採用することができる。
その具体例を挙げると、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)帯電防止剤と(C)シリコーンオイルと必要に応じて配合されるその他の成分とを、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
また、本発明の組成物の製造方法は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に、(B)帯電防止剤0.1~5.0質量部と(C)シリコーンオイル0.01~0.5質量部とを同時または逐次に添加して、溶融混練することを含み、前記(B)帯電防止剤が、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオンおよびフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、および、イミダゾリウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤を含み、前記シリコーンオイルが、シリコーンオイルを構成する全構成単位のうち、95質量%以上が式(C1)で表される構成単位であり、かつ、25℃における動粘度が10~20,000mm2/sである。
式(C1)
【化11】
(式(C1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基である。)
上記製造方法において、さらに、無機顔料を、前記(B)帯電防止剤および(C)シリコーンオイルと同時または逐次に添加して、溶融混練することを含むことも好ましい。(A)ポリカーボネート樹脂、(B)帯電防止剤、(C)シリコーンオイルおよび無機顔料の好ましい範囲は、上述の組成物の説明のところで記載した内容と同じである。
【0043】
[シート]
本発明におけるシートは、本発明の組成物から形成されたシートである。
本発明におけるシートは、表層の片面または両面に熱可塑性樹脂層を有していてもよい。すなわち、本発明の一実施形態によれば、シートの少なくとも一面に熱可塑性樹脂層を有する多層シートが提供される。また、前記熱可塑性樹脂層は種々の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、帯電防止剤、難燃剤、衝撃強度改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
【0044】
なお、「シート」とは、一般に、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、フィルムを含む趣旨である。
本発明のシートの厚みは、10~1000μmの範囲であることが好ましく、30~500μmの範囲がより好ましい。
【0045】
[セキュリティカード]
本発明の組成物およびシートは、セキュリティカード用として好ましく用いることができる。すなわち、本発明のセキュリティカードは、本発明のシートを含む。
図1は、本発明のセキュリティカードの一例を示す断面模式図であって、10はセキュリティカードを、11はオーバーレイ層を、12はホワイトコア層を、13はレーザーマーキング層を、14はオーバーレイ層をそれぞれ示している。
本発明のシートは、オーバーレイ層、ホワイトコア層およびレーザーマーキング層から選択されるシートに適しており、オーバーレイ層およびレーザーマーキング層に特に適している。ホワイトコア層に用いる場合、本発明の組成物およびシートは、着色剤(好ましくは酸化チタン)を含むことが好ましい。
本発明におけるセキュリティカードとしては、身分証明カード(IDカード)、パスポート、運転免許証、バンクカード、クレジットカード、保険証、他の身分証明カードが例示される。
【0046】
また、本発明では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、特開2016-108424号公報の段落0048~0059の記載、特開2015-168728号公報の段落0075~0088の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0048】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
A1:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、S-3000F、ユーピロン(登録商標)、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、重量平均分子量41,300、ガラス転移温度(Tg)148℃
<(B)帯電防止剤>
B1:富士フィルム和光純薬社製、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、イオン液体
B2:3M社製、FC-4400、メチルトリ-n-ブチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、イオン液体
B3:三菱マテリアル社製、BMIEF41、ノナフルオロブタンスルホン酸 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩、イオン液体
B4:三菱マテリアル社製、EPYN111(1-エチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)
【0049】
【表1】
【0050】
<(C)シリコーンオイル>
C1:ダウ・東レ社製、SH1107、式(C1)において、R1およびR2が水素原子である構成単位を主成分とするシリコーンオイル、25℃における動粘度は、20mm2/s
C2:信越化学工業社製、KF-96、ジメチルシリコーンオイル、25℃における動粘度は100mm2/s
C3:信越化学工業社製、KF-54、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部がフェニル基で置換されたメチルフェニルシリコーンオイル、25℃における動粘度は400mm2/s
C4:信越化学工業社製、KF-96H 3万CS、式(C1)において、ジメチルシリコーンオイル、25℃における動粘度は30,000mm2/s
【0051】
<(D)リン系酸化防止剤>
D1:Dover Chemical社製、Doverphos S-9228PC、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト
D2:ADEKA社製、アデカスタブ(AS)2112、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト
【0052】
<(E)フェノール系酸化防止剤>
E1:アデカスタブAO-60、ADEKA社製、テトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール
【0053】
実施例1~7、比較例1~5
<シートの製造>
下記表2または表3に示す組成(表2、表3は質量部で示した)となるように、各成分をタンブラーにてブレンドした。このとき、(B)帯電防止剤および(C)シリコーンオイルは、(A)ポリカーボネート樹脂に対して、スポイトで滴下し、混合した。次に、Tダイ付二軸溶融押出機(東洋精機製作所社製「ラボプラストミル」)を用い、スクリュー回転数25rpmで幅50mm、厚み100μmのシートを成形した。シリンダー・ダイヘッド温度は、300℃の設定で行った。
【0054】
<3mm厚平板プレートの製造>
下記表2または表3に示す組成(表2、表3は質量部で示した)となるように、各成分をタンブラーにてブレンドした。このとき、(B)帯電防止剤および(C)シリコーンオイルは、(A)ポリカーボネート樹脂に対して、スポイトで滴下し、混合した。次に、ベント付二軸射出成形機(Sodick社製「PE-100」、二軸スクリュー径29mmの噛合型同方向回転式、プランジャー直径28mm)により、シリンダー温度310℃で溶融混練し、金型温度80℃、成形サイクル90秒の条件にて平板状試験片(60×60×3mm)を成形した。1ショット目および20ショット目を各種測定用試験片とした。
【0055】
<滞留安定性>
上記で得られた3mm厚平板プレートについて、1ショット目と、20ショット目について、それぞれ、以下の方法により、重量平均分子量を測定した。また、その時の分子量の差(ΔMw)を算出した。さらに、ΔMwに基づき、以下の通り区分けして評価した。
A:1,000未満
B:1,000以上
<<重量平均分子量の測定方法>>
各実施例および比較例の樹脂組成物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。
ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC-20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とし、検出器として紫外線(UV)検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定することができる。
【0056】
<表面抵抗率>
測定対象のシートを、温度23℃、相対湿度50%の条件下に24時間以上放置したのち、抵抗率計を用いて、直流電圧1000Vを60秒間印加して表面抵抗率(単位:Ω/sq.)を5か所で測定し、その平均値を以下のように評価した。
抵抗率計は、ハイレスタUP(三菱ケミカルアナリテック社製)を用いた。
A:表面抵抗率1014Ω/sq.未満
B:表面抵抗率1014Ω/sq.以上
【0057】
<分散性評価(目視)>
(C)シリコーンオイルを(A)ポリカーボネート樹脂に添加した際に、ダマと呼ばれる不均一部分(分散不良箇所)が目視にて確認されたか否かで判断した。
A:ダマが殆ど確認されなかった
B:ダマが確認された(上記A以外)
【0058】
<湿熱安定性>
測定対象のプレートを、暗室で、温度70℃、相対湿度90%の条件下に1週間静置した。
静置直後(初期)と1週間経過後(1week)について、それぞれ、重量平均分子量を上述の通り測定し、その差をΔMw(1week)として示した。また、以下の通り区分けして評価した。
A:500未満
B:500以上
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【符号の説明】
【0061】
10 セキュリティカード
11 オーバーレイ層
12 ホワイトコア層
13 レーザーマーキング層
14 オーバーレイ層
図1