(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】遊星歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
F16H1/28
(21)【出願番号】P 2019217183
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】根岸 央樹
(72)【発明者】
【氏名】角 友紀
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-257646(JP,A)
【文献】特開2019-100460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、
前記入力軸の回転によって回転する第1遊星歯車と、
前記第1遊星歯車と同軸上に設けられ、前記第1遊星歯車と一体となって回転するように軸線方向に連結されている第2遊星歯車と、
前記第1遊星歯車と前記第2遊星歯車とからなる複数の遊星歯車ユニットと、
固定部材に固定されていて前記第1遊星歯車と噛み合う第1内歯車と、
前記第2遊星歯車と噛み合う第2内歯車と、
前記第2内歯車とともに軸線周りに回転可能な出力部と、
を備える遊星歯車装置であり、
前記第2内歯車及び前記第2遊星歯車は、前記第1内歯車及び前記第1遊星歯車と歯数が異なり、
前記第1内歯車、前記第1遊星歯車、前記第2内歯車、及び、前記第2遊星歯車は、軸線方向に対して所定のねじれ角を有するはすば歯車によって構成され、
複数の前記遊星歯車ユニットのうち、少なくとも1つは、軸線方向に移動可能に構成されてい
て、
複数の前記遊星歯車ユニットのうち、少なくとも1つは、軸線方向への移動を規制する移動規制部が設けられていて、
前記移動規制部は、組み立ての際に複数の前記遊星歯車ユニットのうち2つ以上の前記軸線方向への移動を可能にするとともに、使用状態において前記遊星歯車ユニットのうち少なくとも1つの前記軸線方向への移動を規制する、
遊星歯車装置。
【請求項2】
前記第1内歯車及び前記第1遊星歯車を構成するはすば歯車のねじれ角及び前記第2内歯車及び前記第2遊星歯車を構成するはすば歯車のねじれ角は、異なっている、
請求項1に記載の遊星歯車装置。
【請求項3】
前記入力軸の外周には前記第1遊星歯車と噛み合う太陽歯車が設けられ、
複数の前記遊星歯車ユニットをそれぞれ自転可能に支持するキャリアを備えている、
請求項1または2に記載の遊星歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータ等の駆動源の出力軸の回転速度を減速するために減速機が用いられている。減速機としては例えば、太陽歯車、内歯車、及び、太陽歯車と内歯車との間に設けられている遊星歯車を同軸上に複数段備える複合遊星歯車装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複合遊星歯車装置は、歯数の異なる複数段の遊星歯車を同軸上に連結することから位相が生じる。このとき、位相を考慮して各遊星歯車が相手歯車と噛み合うように設計されるが、実際には設計上の値との誤差、いわゆる位相誤差が生じる。この位相誤差により、いずれかの遊星歯車が相手歯車と干渉して組み立てることができない、または組み立てられても、効率の低下や起動トルクの増加、歯車の著しい摩耗などを引き起こすことがある。
【0005】
従来、この位相誤差を吸収するには、バックラッシュを大きめに確保して干渉を回避する方法がとられるが、バックラッシュを大きく設定すると、回転時の角度精度が低下するという問題が生じていた。
【0006】
本発明は、上述の課題を一例とするものであり、遊星歯車に位相誤差があっても、この位相誤差を吸収するためのバックラッシュを必要とせずに組み立てることができる遊星歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る遊星歯車装置は、入力軸と、前記入力軸の回転によって回転する第1遊星歯車と、前記第1遊星歯車と同軸上に設けられ、前記第1遊星歯車と一体となって回転するように軸線方向に連結されている第2遊星歯車と、前記第1遊星歯車と前記第2遊星歯車とからなる複数の遊星歯車ユニットと、固定部材に固定されていて前記第1遊星歯車と噛み合う第1内歯車と、前記第2遊星歯車と噛み合う第2内歯車と、前記第2内歯車とともに軸線周りに回転可能な出力部と、を備える遊星歯車装置であり、前記第2内歯車及び前記第2遊星歯車は、前記第1内歯車及び前記第1遊星歯車と歯数が異なり、前記第1内歯車、前記第1遊星歯車、前記第2内歯車、及び、前記第2遊星歯車は、軸線方向に対して所定のねじれ角を有するはすば歯車によって構成され、複数の前記遊星歯車ユニットのうち、少なくとも1つは、軸線方向に移動可能に構成されている。
【0008】
本発明の一態様に係る遊星歯車装置において、前記第1内歯車及び前記第1遊星歯車を構成するはすば歯車のねじれ角及び前記第2内歯車及び前記第2遊星歯車を構成するはすば歯車のねじれ角は、異なっている。
【0009】
本発明の一態様に係る遊星歯車装置において、複数の前記遊星歯車ユニットのうち、少なくとも1つは、軸線方向への移動を規制する移動規制部が設けられている。
【0010】
本発明の一態様に係る遊星歯車装置において、前記入力軸の外周には前記第1遊星歯車と噛み合う太陽歯車が設けられ、複数の前記遊星歯車ユニットをそれぞれ自転可能に支持するキャリアを備えている。
【0011】
本発明に係る遊星歯車装置によれば、遊星歯車に位相誤差があっても、この位相誤差を吸収するためのバックラッシュを必要とせずに組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る遊星歯車装置を備える駆動装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】遊星歯車装置の構成を概略的に示す軸線方向に沿った断面図である。
【
図3】
図1に示す遊星歯車装置のA-A断面図である。
【
図4】
図1に示す遊星歯車装置が備える太陽歯車、遊星歯車ユニット、第1内歯車、及び第2内歯車を示すためのA-A断面図である。
【
図5】
図1に示す遊星歯車装置が備える第1遊星歯車と第1内歯車とを示すための平面図である。
【
図6】
図1に示す遊星歯車装置が備える第2遊星歯車と第2内歯車とを示すための平面図である。
【
図7】
図1に示す遊星歯車装置が備える太陽歯車、遊星歯車ユニット、及びキャリアを示すための側面図である。
【
図8】
図1に示す遊星歯車装置が備える遊星歯車ユニットを示すための側面図である。
【
図9】
図1に示す遊星歯車装置が備える第1遊星歯車及び第2遊星歯車の位相角の関係を示すための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る遊星歯車装置について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る遊星歯車装置2を備える駆動装置1の構成を概略的に示す斜視図である。
図1に示すように、駆動装置1は、本発明の実施の形態に係る遊星歯車装置2と、駆動源としてのモータ3とを有している。
【0015】
[遊星歯車装置の構成]
次に、駆動装置1が備える本実施の形態に係る遊星歯車装置2の構成を説明する。
【0016】
図2は、遊星歯車装置2の構成を概略的に示す軸線方向に沿った断面図である。また、
図3は、遊星歯車装置2のA-A断面図である。
【0017】
以下、説明の便宜上、遊星歯車装置2において、出力側(
図2の矢印a方向側)を外側とし、入力側(
図2の矢印b方向側)を内側とする。また、説明の便宜上、遊星歯車装置2や駆動装置1の各構成について、遊星歯車装置2及び駆動装置1における入力軸20の軸線xに基づいて説明する。遊星歯車装置2を構成している歯車は、単体においてそれぞれ軸線を有している。
【0018】
図2及び
図3に示すように、本実施の形態に係る遊星歯車装置2は、入力軸20の外周に設けられている太陽歯車110と、固定部材としての筐体部10に固定されていて太陽歯車110の径方向外側に設けられている第1内歯車120とを備える。また、遊星歯車装置2は、太陽歯車110の径方向外側に設けられていて、太陽歯車110と第1内歯車120の双方に噛み合う複数の第1遊星歯車130,140,150,160、及び、太陽歯車110の径方向外側に設けられている複数の第2遊星歯車230,240,250,260を有し、一組の第1遊星歯車130,140,150,160及び第2遊星歯車230,240,250,260が一体となって回転するように軸線x方向に連結されている複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340を備える。また、遊星歯車装置2は、複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340をそれぞれ自転可能及び公転可能に支持するキャリア170を備える。また、遊星歯車装置2は、複数の第2遊星歯車230,240,250,260の径方向外側に設けられていて複数の第2遊星歯車と噛み合う第2内歯車220と、第2内歯車220とともに軸線x周りに回転可能な出力部40を備える。第2内歯車220及び第2遊星歯車230,240,250,260は、第1内歯車120及び第1遊星歯車130,140,150,160と歯数が異なる。太陽歯車110、第1内歯車120、第1遊星歯車130,140,150,160、第2内歯車220、及び、第2遊星歯車230,240,250,260は、軸線x方向に対して所定のねじれ角を有するはすば歯車によって構成される。複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340のうち、少なくとも1つは、軸線x方向に移動可能に構成されている。以下、遊星歯車装置2の構成及び動作を具体的に説明する。
【0019】
筐体部10は、遊星歯車装置2の入力側(内側b)を覆う入力側筐体11と、遊星歯車装置2の出力側(外側a)を覆う出力側筐体12とを有している。入力側筐体11は、入力軸20の一部など、遊星歯車装置2の構成要素のうち、モータ3に近い入力側に配置されている構成要素を収容している。入力側筐体11は、軸線x方向において入力側の端部に入力軸20の入力端部21を露出させることができるように入力側開口部13が設けられている。出力側筐体12は、出力部40、及び、第2内歯車220など、遊星歯車装置2の構成要素のうち、軸線x方向においてモータ3とは反対側の出力側に配置されている構成要素を収容している。出力側筐体12は、軸線x方向において出力側の端部に出力部40の出力端部41を露出させることができるように出力側開口部14が設けられている。
【0020】
筐体部10は、入力側筐体11と出力側筐体12とを突き合わせて接合することで、遊星歯車装置2の構成要素を収容する。筐体部10は、軸線x方向において、入力側筐体11と出力側筐体12との間に、第1内歯車120の径方向外側に設けられている挟持リブ121が挟持されている。筐体部10は、挟持リブ121を挟んで入力側筐体11と出力側筐体12とを突き合わせて接合することで、筐体部10が第1内歯車120の固定部材として機能する。
【0021】
入力軸20は、筐体部10の入力側筐体11内部において軸線xに一致または略一致するように配置されている。入力軸20は、入力端部21がモータ3の回転軸(不図示)と共働して回転可能に接続されることで、モータ3からの回転力が入力される。入力軸20は、例えば、径方向内側の軸中心に空洞部22が設けられている中空軸である。なお、入力軸20は、中空軸に限定されず、空洞部を有しない中実の軸であってもよい。入力軸20は、径方向外側に太陽歯車110が形成されている。
【0022】
図4は、遊星歯車装置2が備える太陽歯車110、遊星歯車ユニット310,320,330,340、第1内歯車120、及び第2内歯車220を示すためのA-A断面図である。
【0023】
図4に示すように、遊星歯車装置2は、太陽歯車110と、複数段の遊星歯車を有する遊星歯車ユニット310,320,330,340と、複数段の内歯車により構成されている、3K型の複合遊星歯車機構である。複数段の遊星歯車は、具体的には、例えば、第1遊星歯車130,140,150,160及び第2遊星歯車230,240,250,260である。また、複数段の内歯車は、具体的には、例えば、第1内歯車120及び第2内歯車220である。本実施の形態において、遊星歯車機構の段数は、遊星歯車装置2の例に限定されない。
【0024】
上述したように、太陽歯車110、第1内歯車120、第1遊星歯車130,140,150,160、第2内歯車220、及び、第2遊星歯車230,240,250,260は、いずれも軸線x方向に対して所定のねじれ角β1,β2を有するはすば歯車によって構成される。以下の説明において、遊星歯車装置2における入力側の歯車である、第1内歯車120、第1遊星歯車130,140,150,160を複数段の遊星歯車機構のうち第1段の遊星歯車機構(以下、「第1遊星歯車機構100」。)ともいう。また、以下の説明において、第2内歯車220、第2遊星歯車230,240,250,260を複数段の遊星歯車機構のうち第2段の遊星歯車機構(以下、「第2遊星歯車機構200」。)ともいう。
【0025】
太陽歯車110は、入力軸20の径方向外側に形成されている。太陽歯車110は、遊星歯車ユニット310,320,330,340を構成している第1遊星歯車130,140,150,160と噛み合う。このため、太陽歯車110は、ねじれ角β1のほか、モジュール、圧力角などの歯車の基本的な仕様である諸元が第1内歯車120及び第1遊星歯車130,140,150,160と共通しているはすば歯車である。
【0026】
図5は、遊星歯車装置2が備える第1遊星歯車130,140,150,160と第1内歯車120とを示すための平面図である。
【0027】
図2乃至
図5に示すように、第1内歯車120は、入力軸20の径方向外側に設けられている。第1内歯車120は、径方向内側に設けられている第1内歯車本体122が太陽歯車110及び第1遊星歯車130,140,150,160に面し、第1遊星歯車130,140,150,160と噛み合う。このため、第1内歯車120は、第1内歯車本体122に、ねじれ角β1のほか、モジュール、圧力角などの歯車の基本的な仕様である諸元が太陽歯車110及び第1遊星歯車130,140,150,160と共通しているはすば歯車が構成されている。第1内歯車120は、上述したように径方向外側に設けられている挟持リブ121が筐体部10に挟持されていることにより、筐体部10に固定されている。
【0028】
図6は、遊星歯車装置2が備える第2遊星歯車230,240,250,260と第2内歯車220とを示すための平面図である。
【0029】
図2乃至
図4、及び
図6に示すように、第2内歯車220は、入力軸20の径方向外側であり、かつ、第1内歯車120に対して軸線x方向において出力側に設けられている。第2内歯車220は、第2遊星歯車230,240,250,260に面し、第2遊星歯車230,240,250,260と噛み合う。このため、第2内歯車220は、径方向内側に、ねじれ角β2のほか、モジュール、圧力角などの歯車の基本的な仕様である諸元が第2遊星歯車230,240,250,260と共通しているはすば歯車である第2内歯車本体221が構成されている。第2内歯車220は、第2内歯車本体221の出力側に、第2内歯車軸部222が構成されている。第2内歯車220は、出力側筐体12に取り付けられている軸受50に支持されている。第2内歯車220は、軸受50に支持されていることにより、第2遊星歯車230,240,250,260から伝達される回転力に応じて回転可能に構成されている。第2内歯車220は、軸線xの位置に中空軸である入力軸20との間で軸線x方向において連通している貫通孔を構成するために、軸線xを中心として環状の孔部223が設けられている。
【0030】
図7は、遊星歯車装置2が備える太陽歯車110、遊星歯車ユニット310,320,330,340、及びキャリア170,270を示すための側面図である。また、
図8は、遊星歯車装置2が備える遊星歯車ユニット310,320,330,340を示すための側面図である。
【0031】
図7及び
図8に示すように、複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340は、軸線xに平行な軸を軸線として、太陽歯車110の径方向外側かつ第1内歯車120の径方向内側に配置されている。複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340は、それぞれ軸線x方向において入力側に第1遊星歯車130,140,150,160が構成されている。第1遊星歯車130,140,150,160は、太陽歯車110、及び、第1内歯車120の双方と噛み合う。このため、第1遊星歯車130,140,150,160は、ねじれ角β1のほか、モジュール、圧力角などの歯車の基本的な仕様である諸元が太陽歯車110及び第1内歯車120と共通しているはすば歯車が構成されている。
【0032】
また、遊星歯車ユニット310,320,330,340は、それぞれ軸線x方向において出力側に第2遊星歯車230,240,250,260が構成されている。第2遊星歯車230,240,250,260は、第2内歯車220と噛み合う。このため、第2遊星歯車230,240,250,260は、ねじれ角β2のほか、モジュール、圧力角などの歯車の基本的な仕様である諸元が第2内歯車220と共通しているはすば歯車が構成されている。
【0033】
以上のように、遊星歯車ユニット310,320,330,340は、第1遊星歯車130,140,150,160のねじれ角β1は、第2遊星歯車230,240,250,260のねじれ角β2と異なっている。
【0034】
遊星歯車ユニット310,320,330,340において、遊星歯車軸部311,321,331,341と各遊星歯車との間には軸受が設けられており、第1遊星歯車130,140,150,160、及び、第2遊星歯車230,240,250,260は、それぞれ遊星歯車軸部311,321,331,341に対して一体となって回転する。
【0035】
遊星歯車ユニット310,320,330,340は、周方向にそれぞれ所定の角度θを設けて等間隔で配置されている。角度θは、遊星歯車ユニット310,320,330,340の数に応じて定まる。遊星歯車ユニット310,320,330,340は、キャリア170に固定された遊星歯車軸部311,321,331,341に対して回転可能に支持されており、太陽歯車110から伝達される回転力により軸線xを中心に自転及び公転する。
【0036】
ここで、遊星歯車ユニット310,320,330,340のうち、遊星歯車ユニット320は、遊星歯車軸部321の出力端部321aと第2遊星歯車240の出力側の端部240aとの間に移動規制部として機能するスペーサ部322が設けられている。スペーサ部322は、遊星歯車ユニット320がキャリア170に支持されている状態において、キャリア170の出力側の端部170aと第2遊星歯車240の端部240aとの間に生じる間隙(遊び)を解消している。
【0037】
遊星歯車ユニット320は、遊星歯車軸部321の入力端部321bと第1遊星歯車140の入力側の端部140bとの間に移動規制部として機能するスペーサ部323が設けられている。スペーサ部323は、遊星歯車ユニット320がキャリア170に支持されている状態において、キャリア170の入力側の端部170bと第1遊星歯車140の端部140bとの間に生じる間隙(遊び)を解消している。
【0038】
なお、遊星歯車装置2において、スペーサ部が設けられている遊星歯車ユニットは、上述した遊星歯車ユニット310に限定されず、他の遊星歯車ユニット320,330,340に設けられていてもよい。また、スペーサ部が設けられている遊星歯車ユニットの数は、少なくとも1つの遊星歯車ユニットであればよいため、複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340にスペーサ部が設けられていてもよい。
【0039】
また、遊星歯車ユニット310,320,330,340において、第1遊星歯車130,140,150,160、第2遊星歯車230,240,250,260、及び、遊星歯車軸部311,321,331,341は、それぞれ別部材により製作したものを組み立てても、あるいは、切削加工などにより一体で成形してもよい。また、遊星歯車装置2において、搭載される遊星歯車ユニット310,320,330,340の数は、上述の4個に限定されず、適宜選択可能である。
【0040】
図9は、遊星歯車装置2が備える第1遊星歯車130,140,150,160及び第2遊星歯車230,240,250,260の位相角の関係を示すための平面図である。
【0041】
図9に示すように、遊星歯車ユニット310,320,330,340は、第1遊星歯車130,140,150,160の歯の位置と、第2遊星歯車230,240,250,260との歯の位置との周方向における角度の差(位相差)は、例えば、0°(位相差なし)、α1、α2のものを適宜組み合わせて構成されている。
図9において、遊星歯車ユニット310の第1遊星歯車130と第2遊星歯車230との位相差は、α1である。また、遊星歯車ユニット320の第1遊星歯車140と第2遊星歯車240との位相差も、α1である。遊星歯車ユニット330の第1遊星歯車150と第2遊星歯車250の位相差は、α2である。遊星歯車ユニット340の第1遊星歯車160と第2遊星歯車240との位相差は、設計上0°である。なお、遊星歯車ユニット310,320,330,340における、第1遊星歯車130,140,150,160と、第2遊星歯車230,240,250,260との歯の位置との位相は、上述した値に限定されず、位相の異なる遊星歯車ユニット310,320,330,340をどのように組み合わせるかについても特に限定されない。また、遊星歯車ユニット310,320,330,340は、いずれのユニットも第1遊星歯車130,140,150,160と第2遊星歯車230,240,250,260との間に設計上の位相差がなくてもよい。
【0042】
上記で述べたように、異なる位相差の遊星歯車ユニットが存在する場合、設計値通りの位相差でそれぞれの遊星歯車ユニットが実際に形成されていれば、複数の遊星歯車ユニットを、太陽歯車及び内歯車とそれぞれ適切に噛み合うように組み立てることは容易である。しかし、実際の遊星歯車ユニットは、設計値に対して多少の誤差をもって形成されるため、いわゆる位相誤差が生じることとなる。よって、複数の遊星歯車ユニットを太陽歯車及び内歯車と噛み合うように組み立てようとしても、位相誤差により、太陽歯車または内歯車と遊星歯車との噛み合いが不足する、あるいは歯車同士が干渉して組み立てることができない、といった問題が発生する。
【0043】
そこで、本発明においては、あらかじめ、キャリア170の入力側の端部170aと第2遊星歯車240の端部240aとの間に生じる間隙(遊び)や、同じくキャリア170の出力側の端部170bと第1遊星歯車140の端部140bとの間に生じる間隙(遊び)を設け、組み立て時には各遊星歯車ユニット310,320,330,340を軸線x方向に移動可能としている。この間隙により、遊星歯車ユニット310,320,330,340が位相誤差を持っていたとしても、各歯車がはすば歯車であることから、遊星歯車ユニット310,320,330,340が軸線x方向に移動することで太陽歯車110や第1内歯車120、第2内歯車220と適切に噛み合う位置を得られることとなる。このように適切な位置に遊星歯車ユニット310,320,330,340を設置した後、先に述べたように、この間隙を別部材などで埋めたスペーサ部322,323とし、軸線x方向への移動を規制することで、遊星歯車装置2として動作中、遊星歯車ユニット310,320,330,340の適切な位置を保つことができる。
【0044】
出力部40は、筐体部10の出力側筐体12内部において軸線xに一致または略一致するように配置されている。出力部40は、出力端部41が第2内歯車220の第2内歯車軸部222の出力側の端部と接続している。出力部40は、出力端部42が出力側の回転軸(不図示)と共働して軸線x周りに回転可能に接続される。このため、出力部40の出力端部42からは、モータ3からの回転力が出力される。出力部40は、例えば、径方向内側の軸中心に空洞部43が設けられている中空軸である。なお、出力部40は、中空軸に限定されず、空洞部を有しない中実の軸であってもよい。また、出力部40を設けず、第2内歯車220の第2内歯車軸部222を直接出力側の回転軸とすることも可能である。
【0045】
[遊星歯車装置の動作]
次に、以上説明した構成を備える遊星歯車装置2の動作について説明する。
【0046】
遊星歯車装置2において、
図1及び
図2に示すように、入力軸20は、入力端部21がモータ3の回転軸(不図示)に接続されているため、モータ3からの回転力により回転する。複数の遊星歯車ユニット310、320,330,340は、入力軸20の径方向外側に形成されている太陽歯車110と複数の第1遊星歯車130,140,150,160が噛み合っているため、入力軸20が回転することで太陽歯車110と第1内歯車120との間で回転する。
【0047】
第2内歯車220は、遊星歯車ユニット310,320,330,340の第2遊星歯車230,240,250,260と噛み合っているため、遊星歯車ユニット310,320,330,340が回転することで回転する。ここで、第2内歯車220は、遊星歯車ユニット310,320,330,340に構成されている第1遊星歯車130,140,150,160と第2遊星歯車230,240,250,260との歯数の差により減速して回転する。出力部40は、第2内歯車220とともに回転可能に構成されているため、第2内歯車220が回転することにより回転する。
【0048】
遊星歯車装置2は、第1遊星歯車機構100を構成している太陽歯車110、第1内歯車120、及び、第1遊星歯車130,140,150,160のねじれ角β1と、第2遊星歯車機構200を構成している第2内歯車220及び第2遊星歯車230,240,250,260のねじれ角β2と異なっている。このように、第1遊星歯車130,140,150,160のねじれ角β1と、第2遊星歯車230,240,250,260のねじれ角β2を異なる角度とすることで、位相誤差があった場合に、適切な噛み合い位置を得るためにz軸方向に移動する移動量を少なくすることが可能となる。
【0049】
また、遊星歯車装置2は、遊星歯車ユニット310,320,330,340のうち少なくとも1つ、例えば、遊星歯車ユニット320に、スペーサ部322,323が設けられている。スペーサ部322,323は、遊星歯車ユニット320を組み立てる際、キャリア170と遊星歯車ユニット320との間に生じる間隙(遊び)を利用して軸線x方向に沿って移動することで、遊星歯車ユニット320が位相誤差を持っていても、太陽歯車110および第1内歯車120、第2内歯車220と適切に噛み合う位置に配置することを可能としている。
【0050】
以上のように構成されていることにより、遊星歯車装置2は、使用状態において、スペーサ部322,323が設けられている遊星歯車ユニット320に対して、スペーサ部が設けられていない遊星歯車ユニット310,330,340が軸線x方向に移動可能となっている。そして、以上のように構成されていることにより、遊星歯車装置2は、遊星歯車ユニット310,320,330,340を構成する各歯車が位相誤差を持っていたとしても、これらの歯車がはすば歯車であることから、スペーサ部322,323が設けられている遊星歯車ユニット320に対してスペーサ部が設けられていない遊星歯車ユニット310,330,340が回転力により軸線x方向に移動することで、歯が適切な位置で当たり均等に噛み合うことになる。このため、遊星歯車装置2は、複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340を太陽歯車110、第1内歯車120及び第2内歯車220と噛み合うように組み立てる際に、噛み合いの不足、あるいは歯車同士の干渉が抑制されて容易に組み立てることができる。また、遊星歯車装置2によれば、各歯車が適切な位置で均等に噛み合うことから、各歯車にかかる荷重を等配することができるため、装置の設計時に期待される装置の強度及び寿命を得ることができる。
【0051】
従って、複数の遊星歯車ユニット310,320,330,340のうち、少なくとも1つは、軸線x方向に移動可能に構成されている遊星歯車装置2によれば、遊星歯車に位相誤差があっても、バックラッシュの増大を抑えることができる。
【0052】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1…駆動装置、2…遊星歯車装置、3…モータ、10…筐体部、11…入力側筐体、12…出力側筐体、13…入力側開口部、14…出力側開口部、20…入力軸、21…入力端部、22…空洞部、30…軸受、31…遊星歯車軸部、40…出力部、41…出力端部、42…出力端部、43…空洞部、100…第1遊星歯車機構、110…太陽歯車、120…第1内歯車、121…挟持リブ、122…第1内歯車本体、130,140,150,160…第1遊星歯車、140b…端部、170…キャリア、170a…端部、200…第2遊星歯車機構、220…第2内歯車、221…第2内歯車本体、222…第2内歯車軸部、223…孔部、230,240,250,260…第2遊星歯車、240a…端部、270…キャリア、270b…端部、310,320,330,340…遊星歯車ユニット、311,321,331,341…遊星歯車軸部、321a…出力端部、321b…入力端部、322,323…スペーサ部