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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】プレキャスト用セメント混和剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20240321BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20240321BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20240321BHJP
   C04B 24/10 20060101ALI20240321BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240321BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20240321BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240321BHJP
   C08F 216/04 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C04B24/26 E
C04B24/26 B
C04B24/26 F
C04B24/32 A
C04B24/06 A
C04B24/10
C04B28/02
C04B40/02
C08F220/06
C08F216/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019222185
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021091563
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】新井 太一朗
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-040447(JP,A)
【文献】特開2003-073157(JP,A)
【文献】特開平04-050181(JP,A)
【文献】特開2008-094708(JP,A)
【文献】特開2015-182917(JP,A)
【文献】特開平07-172889(JP,A)
【文献】特開2011-057459(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016152(WO,A1)
【文献】蒸気養生条件がコンクリートの強度発現に及ぼす影響,コンクリート専門委員会報告 F53,日本,社団法人 セメント協会研究所,2006年03月25日,P.1~14,URL:<https://www.jcassoc.or.jp/cement/4pdf/jj3c_15.pdf>
【文献】大塚浩司,蒸気養生コンクリートの耐久性に及ぼす表面微細ひび割れの影響,土木学会論文集,日本,1998年02月,No.585/V-38,P.97~111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C04B 40/00-40/06
C08F 216/04-216/08
C08F 220/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化物を製造する方法であって、
該製造方法は、プレキャスト用セメント混和剤組成物とセメントとを混合する工程と、混合工程で得られた組成物を、40~90℃、湿度40~100%の条件で硬化する工程とを含み、
該プレキャスト用セメント混和剤組成物は、不飽和カルボン酸系単量体(A1)由来の構造単位(a1)と(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)由来の構造単位(a2)とを有する共重合体(α)と、
水酸基、並びに、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、亜リン酸基及びこれらの塩の基からなる群より選択される2以上の官能基を有し、分子量が1000以下である化合物(β)とを含み、
該化合物(β)の含有量は、共重合体(α)100質量%に対して0.1~7質量%であることを特徴とするセメント硬化物の製造方法
【請求項2】
前記化合物(β)は、水酸基を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項3】
前記化合物(β)は、カルボキシル基及び/又はその塩の基を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項4】
前記化合物(β)は、水酸基とカルボキシル基及び/又はその塩の基とを有するものであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項5】
前記化合物(β)は、2以上の水酸基を有するものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項6】
前記化合物(β)は、糖類;単糖類の酸化物及びその塩;該酸化物以外のオキシカルボン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項7】
前記化合物(β)は、アルドン酸(塩)を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項8】
前記化合物(β)は、2以上のアミノ基又はその塩の基を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のセメント硬化物の製造方法。
【請求項9】
前記化合物(β)は、スクロース、フルクトース、トレハロース、グルコース、グルコン酸(塩)、酒石酸(塩)、グルコへプトン酸(塩)及び尿素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のセメント硬化物の製造方法。
【請求項10】
前記(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)は、下記式(1);
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、メチル基を表す。Rは、水素原子、又は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。(RO)は、同一又は異なって、オキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~300の数である。xは、0~4の数を表す。yは、0又は1を表す。)で表されることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項11】
前記(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)は、前記式(1)におけるyが0であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法
【請求項12】
前記製造方法は、前記硬化工程を蒸気養生して行うことを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法。
【請求項13】
前記製造方法は、前記硬化工程を1~10時間行うことを特徴とする請求項1~1のいずれかに記載のセメント硬化物の製造方法。
【請求項14】
セメントを硬化する方法であって、
該硬化方法は、プレキャスト用セメント混和剤組成物とセメントとを含む組成物を40~90℃、湿度40~100%の条件で硬化する工程を含み、
該プレキャスト用セメント混和剤組成物は、不飽和カルボン酸系単量体(A1)由来の構造単位(a1)と(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)由来の構造単位(a2)とを有する共重合体(α)と、
水酸基、並びに、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、亜リン酸基及びこれらの塩の基からなる群より選択される2以上の官能基を有し、分子量が1000以下である化合物(β)とを含み、
該化合物(β)の含有量は、共重合体(α)100質量%に対して0.1~7質量%であることを特徴とするセメントの硬化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト用セメント混和剤組成物に関する。より詳しくは、セメント組成物等に好適に用いることができるプレキャスト用セメント混和剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸の側鎖にポリアルキレングリコールを有するポリカルボン酸系共重合体は、その優れたセメント分散性能により、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物から土木・建築構造物等を構築するために欠かすことのできないものとなっている。
このような共重合体を含むセメント混和剤は、減水剤等として用いられ、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を有することになる。減水剤としては、従来、ナフタレン系等の減水剤が使用されていたが、これに比べてポリカルボン酸系共重合体等の共重合体を主成分とするセメント添加剤は高い減水性能を発揮できるため、高性能AE減水剤として多くの使用実績を有するに至っている。
【0003】
このような共重合体を含むセメント混和剤として例えば特許文献1には、(1)ポリアルキレングリコールモノエステル系単量体とアクリル酸系及び/又は不飽和ジカルボン酸系単量体を重合して得られる共重合体及び/又はその金属塩、(2)重量平均分子量5000~100000のポリエチレングリコール及び(3)オキシカルボン酸又はその塩、糖及び糖アルコールからなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物の3成分を必須成分とする超高強度コンクリート用混和剤が開示されている。特許文献2~4にもポリカルボン酸系共重合体を含むセメント混和剤が開示されている。
【0004】
ところで、コンクリート構造物の建設現場において型枠を設置し、コンクリートを打設して造る現場打ち工法に対して、コンクリート構造物の基本となる部材を工場で製造した後、現場へ持ち込み躯体を組み立てるプレキャスト工法は、工期の短縮化、人件費の削減等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-092704号公報
【文献】特開2017-160077号公報
【文献】特開2003-212622号公報
【文献】特開平9-241055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレキャスト工法では、一般的にコンクリートを型枠に打設し、蒸気養生と呼ばれるコンクリートを高温恒湿下に曝す手法で硬化させた後に、型枠からコンクリートを脱型する。プレキャスト工法では脱型までの時間を短縮するため、コンクリートの早期の強度発現が求められる。上記のとおり、従来種々のセメント混和剤が開示されているものの、プレキャスト工法で求められる早期の強度発現の点では充分ではなく、従来のセメント混和剤よりも早期にセメント強度を発現させることができるセメント混和剤を開発する余地があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来のセメント混和剤よりも早期にセメント強度を発現させることができるプレキャスト用セメント混和剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、セメント混和剤について種々検討したところ、不飽和カルボン酸系単量体由来の構造単位と(ポリ)アルキレングリコール系単量体由来の構造単位とを有する共重合体と、水酸基、並びに、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、亜リン酸基及びこれらの塩の基からなる群より選択される2以上の官能基を有し、分子量が1000以下である化合物とを特定の割合でセメントに配合したセメント混和剤組成物が、早期に優れたセメント強度を発現させることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、不飽和カルボン酸系単量体(A1)由来の構造単位(a1)と(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)由来の構造単位(a2)とを有する共重合体(α)と、水酸基、並びに、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、亜リン酸基及びこれらの塩の基からなる群より選択される2以上の官能基を有し、分子量が1000以下である化合物(β)とを含み、上記化合物(β)の含有量は、共重合体(α)100質量%に対して0.1~7質量%であるプレキャスト用セメント混和剤組成物である。
【0010】
上記化合物(β)は、水酸基を有するものであることが好ましい。
【0011】
上記化合物(β)は、カルボキシル基及び/又はその塩の基を有するものであることが好ましい。
【0012】
上記化合物(β)は、水酸基とカルボキシル基及び/又はその塩の基とを有するものであることが好ましい。
【0013】
上記化合物(β)は、2以上の水酸基を有するものであることが好ましい。
【0014】
上記化合物(β)は、糖類;単糖類の酸化物及びその塩;該誘導体以外のオキシカルボン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0015】
上記化合物(β)は、アルドン酸(塩)を含むことが好ましい。
【0016】
上記(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)は、下記式(1);
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、メチル基を表す。Rは、水素原子、又は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。(RO)は、同一又は異なって、オキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~300の数である。xは、0~4の数を表す。yは、0又は1を表す。)で表されることが好ましい
【0017】
上記(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)は、上記式(1)におけるyが0であることが好ましい。
【0018】
本発明はまた、上記プレキャスト用セメント混和剤組成物とセメントとを含むプレキャスト用セメント組成物でもある。
【0019】
本発明は更に、上記プレキャスト用セメント混和剤組成物とセメントとを混合する工程と、混合工程で得られた組成物を15~90℃で硬化する工程とを含むセメント硬化物の製造方法でもある。
【0020】
上記製造方法は、上記硬化工程を湿度40~100%の条件で行うことが好ましい。
【0021】
上記製造方法は、上記硬化工程を蒸気養生して行うことが好ましい。
【0022】
上記製造方法は、上記硬化工程を1~10時間行うことが好ましい。
【0023】
本発明は更に、上記プレキャスト用セメント混和剤組成物とセメントとを含む組成物を 40~90℃で硬化するセメントの硬化方法でもある。
【発明の効果】
【0024】
本発明のプレキャスト用セメント組成物は、上述の構成よりなり、従来のセメント混和剤よりも早期にセメント強度を発現させることができるため、プレキャスト用セメント組成物等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0026】
〔プレキャスト用セメント混和剤組成物〕
本発明のプレキャスト用セメント混和剤組成物は、上記共重合体(α)と、上記化合物(β)とを含み、化合物(β)の含有量が、共重合体(α)100質量%に対して0.1~7質量%である。
上記化合物(β)は、水酸基、並びに、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、亜リン酸基及びこれらの塩の基からなる群より選択される2以上の官能基を有し、分子量が1000以下である。
このような化合物(β)を含むことによって、上記の2以上の官能基によって、セメント中のカルシウムイオンやケイ酸イオン等と錯体を形成することができ、下記(1)又は(2)の推定メカニズムによりセメント強度を向上させることができると考えられる。
(1)化合物(β)がセメントの結晶核に吸着することで結晶構造を変化させ、水和反応初期(注水から1時間頃まで)に生成する結晶密度を粗にすると考えられる。これによりセメント粒子表面に存在する結晶が粗であるため、水和反応の終盤においてもセメント表面に水が接することができ、イオン溶出が阻害されず、水和反応が充分に進行し、セメント強度が向上すると考えられる。
(2)化合物(β)がセメントの結晶核に吸着することで水和反応初期の結晶成長速度を遅くし、生成する結晶間の空隙を少なくし、これにより生成する結晶が緻密になるため、脆弱部となる粗大空隙が少なくなり、セメント強度が向上すると考えられる。
また、上記化合物(β)の含有量を上記特定の範囲とすることにより、早期にセメント強度を発現させることができる。
化合物(β)の含有量は共重合体(α)100質量%に対して0.1~7質量%であり、より好ましくは0.5~7質量%であり、更に好ましくは2~6質量%であり、最も好ましくは3~6質量%である。
【0027】
上記プレキャスト用セメント混和剤組成物における共重合体(α)の含有量は、組成物の総量100質量%に対して50~99.9質量%であることが好ましい。より好ましくは70~99質量%であり、更に好ましくは90~98質量%である。
【0028】
上記プレキャスト用セメント混和剤組成物は、上記共重合体(α)、化合物(β)以外のその他の成分を含んでいてもよく、その合計の含有割合は組成物の総量100質量%に対して0~10質量%であることが好ましい。より好ましくは0~5質量%であり、更に好ましくは0~1質量%であり、最も好ましくは0質量%である。
上記その他の成分としては特に制限されないが、後述する他の添加剤等が挙げられる。
【0029】
<共重合体(α)>
上記共重合体(α)は、不飽和カルボン酸系単量体(A1)由来の構造単位(a1)と(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)由来の構造単位(a2)とを有する。
【0030】
上記共重合体(α)において、構造単位(a1)の割合は、全構造単位100質量%に対して1~40質量%であることが好ましい。より好ましくは3~30質量%であり、更に好ましくは5~25質量%であり、最も好ましくは10~20質量%である。なお、本発明において、上記構造単位(a1)の全構造単位100質量%に対する質量割合(質量%)を計算する場合は、対応するナトリウム塩換算で計算するものとする。例えば、アクリル酸に由来する構造単位の質量割合は、対応するナトリウム塩であるアクリル酸ナトリウムに由来する構造単位の質量割合(質量%)として計算する。
【0031】
上記共重合体(α)において、構造単位(a2)の割合は、全構造単位100質量%に対して60~99質量%であることが好ましい。より好ましくは70~97質量%であり、更に好ましくは75~95質量%であり、最も好ましくは80~90質量%である。
【0032】
上記共重合体(α)は、不飽和カルボン酸系単量体(A1)及び(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)以外のその他の単量体(A3)由来の構造単位(a3)を有していてもよい。
上記共重合体における構造単位(a3)の割合は、全構造単位100質量%に対して0~10質量%であることが好ましい。より好ましくは0~8質量%であり、更に好ましくは0~5質量%であり、最も好ましくは0質量%である。
【0033】
上記共重合体(α)は、重量平均分子量が5000~100,000であることが好ましい。より好ましくは10,000~70,000であり、更に好ましくは20,000~50,000あり、特に好ましくは25,000~40,000である。
上記重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
不飽和カルボン酸系単量体(A1)(以下、単量体(A1)ともいう。)は、不飽和炭化水素基と、カルボキシル基を少なくとも1つ有するものであれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、チグリン酸、3-メチルクロトン酸、2-メチル-2-ペンテン酸、α-ヒドロキシアクリル酸等の不飽和モノカルボン酸又はこれらの塩;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の炭素数4~6の不飽和ジカルボン酸又はこれらの塩;上記不飽和ジカルボン酸と後述する炭素数1~30のアルコールとのハーフエステル、炭素数1~30のアミンとのハーフアミド等が挙げられる。
【0035】
上記塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適であり、また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
上記塩としては、アルカリ金属塩が好ましく、より好ましくは、ナトリウム塩である。
【0036】
上記炭素数1~30のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール等の脂環族アルコール類;(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等の不飽和アルコール類等が挙げられる。
上記炭素数1~30のアミンとしては、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン等の脂肪族アミン類を挙げることができる。
【0037】
上記不飽和カルボン酸系単量体(A1)として好ましくは、上述の不飽和モノカルボン酸類であることが好ましい。不飽和モノカルボン酸類を重合反応に用いた場合、単量体(A2)との重合率を向上させることができる利点があり、添加剤中の重合体量を向上させることができる。不飽和カルボン酸系単量体(A1)としてより好ましくはアクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩である。
【0038】
上記(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A2)(以下、単量体(A2)ともいう。)は、上記式(1)で表される化合物である。
上記式(1)において、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。好ましくはR、Rが水素原子であって、Rが水素原子又はメチル基である。より好ましくは、R、Rが水素原子であって、Rがメチル基である。
【0039】
上記式(1)におけるRは、水素原子、又は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。好ましくは炭素数1~20の炭化水素基又は水素原子であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基、特に好ましくは、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基、最も好ましくは、水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。
炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、3-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソオクチル基、2,3,5-トリメチルヘキシル基、4-エチル-5-メチルオクチル基及び2-エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル等の環状のアルキル基;フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o-,m-若しくはp-トリル基、2,3-若しくは2,4-キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基及びピレニル基等のアリール基等が挙げられる。これらの中でも、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が好ましい。
【0040】
上記式(1)中、ROは、「同一又は異なって、」炭素数2~18のオキシアルキレン基を表すが、これは、ポリアルキレングリコール中にn個存在するROのオキシアルキレン基が全て同一であってもよく、異なっていてもよいことを意味する。
上記オキシアルキレン基の炭素数は2~18であることが好ましい。より好ましくは2~12であり、更に好ましくは2~8であり、特に好ましくは2~4である。
上記式(1)中、ROで表されるオキシアルキレン基は、アルキレンオキシド付加物であり、このようなアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、スチレンオキシド等の炭素数2~8のアルキレンオキシドが挙げられる。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2~4のアルキレンオキシドであり、更に好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドである。
また、上記ポリアルキレングリコールが、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等の中から選ばれる任意の2種類以上のアルキレンオキシド付加物である場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態であってもよい。なお、親水性と疎水性とのバランス確保のため、ポリアルキレングリコール中のオキシアルキレン基として、オキシエチレン基を必須成分として有することが好ましく、50モル%以上がオキシエチレン基であることがより好ましく、90モル%以上がオキシエチレン基であることが更に好ましい。
【0041】
上記式(1)中、nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~300である。nとしては好ましくは5~250であり、より好ましくは10~200であり、更に好ましくは20~150であり、特に好ましくは50~100である。
【0042】
上記式(1)中、xは、0~4の数を表し、yは、0又は1を表す。
xは1~4であることが好ましい。yは0であることが好ましい。yが0である単量体(A2)は安価であるため、低コストで本発明のポリカルボン酸系共重合体を製造することができる。
yが0である場合、xは1~4であることが好ましく、より好ましくは1又は2であり、更に好ましくは2である。xが1~4である場合、Rはメチル基であることが好ましい。
上記yが1の場合には、xは0であることが好ましい。この場合、Rは水素原子、又は、メチル基であることがより好ましい。
【0043】
上記単量体(A2)として具体的には、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート及びこれらの末端を炭素数1~30の炭化水素基で疎水変性したアルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オール、2-メチル-2-ブテン-1-オール、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール等の炭素数2~8の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1~300モル付加させた化合物及びこれらの末端を炭素数1~30の炭化水素基で疎水変性した化合物等が挙げられる。これらの中でも、炭素数2~8の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1~300モル付加させた化合物及びこれらの末端を炭素数1~30の炭化水素基で疎水変性した化合物が好ましい。より好ましくは炭素数2~8の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1~300モル付加させた化合物であり、更に好ましくはメタリルアルコール又は3-メチル-3-ブテン-1-オールにアルキレンオキサイドを付加させたものである。
【0044】
上記共重合体(α)は、単量体(A1)、(A2)以外のその他の単量体(A3)由来の構造単位(a3)を有していてもよい。
その他の単量体(A3)は、単量体(A1)、(A2)と共重合することができる限り特に制限されないが、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1~30のアルコールとのエステル類;(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1~30のアルコールとのジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1~30のアミンとのジアミド類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2~18のアルキレンオキシドを1~500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸類とのジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2~18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2~500のポリアルキレングリコールとジエステル類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類。ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2-メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸(塩)類;メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1~30のアミンとのアミド類;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族類;1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;(メタ)アクリル(アルキル)アミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和シアン類;酢酸ビニル等の不飽和エステル類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;(メトキシ)ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のビニルエーテルあるいは(メタ)アリルエーテル類等が挙げられる。
【0045】
本発明の共重合体(α)の製造方法としては特に制限されないが、単量体成分を重合することにより製造することができ、単量体成分の具体例及び好ましい例は、上述のとおりである。また、全単量体成分100質量%に対する各単量体成分の含有割合は、上述の全構造単位100質量%に対する構造単位(a1)~(a3)の割合と同様である。
【0046】
上記共重合体の製造において、得られる重合体の分子量調整のために、連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩等の親水性連鎖移動剤が挙げられる。
【0047】
上記連鎖移動剤としてはまた、疎水性連鎖移動剤を使用することもできる。疎水性連鎖移動剤としては、例えば、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル等の炭素数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤が好適に使用される。
また、共重合体の分子量調整のためには、単量体(E)として、(メタ)アリルスルホン酸(塩)類等の連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
【0048】
上記連鎖移動剤の使用量は、適宜設定すればよいが、単量体成分の総量100モルに対し、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.25モル以上、更に好ましくは0.5モル以上であり、また、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、更に好ましくは10モル以下である。
【0049】
上記重合反応は、必要に応じてラジカル重合開始剤を使用し、溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。溶液重合は、回分式でも連続式でも又はそれらの組み合わせでも行うことができ、その際に使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物等が挙げられる。中でも、水溶液重合法によって重合することが好適である。
【0050】
上記水溶液重合を行う場合は、ラジカル重合開始剤として、水溶性の重合開始剤、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2′-アゾビス-2-メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2′-アゾビス-2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2-カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物等の水溶性アゾ系開始剤等が使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L-アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)等の促進剤を併用することもできる。中でも、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素とL-アスコルビン酸(塩)等の促進剤との組み合わせが好ましい。これらのラジカル重合開始剤や促進剤はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、低級アルコール、芳香族若しくは脂肪族炭化水素、エステル化合物又はケトン化合物を溶媒とする溶液重合を行う場合、又は、塊状重合を行う場合には、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシド等のパーオキシド;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等がラジカル重合開始剤として用いられる。この際アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。更に、水-低級アルコール混合溶媒を用いる場合には、上記の種々のラジカル重合開始剤又はラジカル重合開始剤と促進剤の組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。
【0051】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体成分の総量100モルに対し、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.01モル以上、更に好ましくは0.1モル以上、特に好ましくは0.2モル以上であり、また、好ましくは20モル以下、更により好ましくは10モル以下、特に好ましくは5モル以下、最も好ましくは3モル以下である。
【0052】
上記重合反応において、重合温度等の重合条件としては、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、重合温度としては、0℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは50℃以上である。また、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0053】
各単量体成分の反応容器への投入方法は特に限定されず、全量を反応容器に初期に一括投入する方法;全量を反応容器に分割又は連続投入する方法;一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割又は連続投入する方法等が挙げられる。また、反応途中で各モノマーの反応容器への投入速度を連続的又は段階的に変えて、各単量体の単位時間あたりの投入重量比を連続的又は段階的に変化させることにより、モノマー比が異なる2種以上の共重合体を重合反応中に同時に合成するようにしてもよい。なお、ラジカル重合開始剤は反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
上記のようにして得られた各重合体は、そのままでも分散剤として用いることができるが、必要に応じて、更にアルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンが好適である。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。
【0054】
<化合物(β)>
本発明のプレキャスト用セメント混和剤組成物に含まれる化合物(β)は、水酸基、並びに、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、亜リン酸基及びこれらの塩の基からなる群より選択される2以上の官能基を有し、分子量が1000以下である。
上記酸基の塩としては、不飽和カルボン酸系単量体(A1)に述べた塩が挙げられる。
上記アミノ基の塩としては、塩酸、酢酸等の酸による中和物;塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキルによるアンモニウム塩基;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ-n-プロピル等のアルキル硫酸等の一般的なアルキル化剤によるアンモニウム塩基等が挙げられる。
【0055】
上記化合物(β)としては、上記官能基を2以上有するものであればよいが、2以上の水酸基を有する化合物、水酸基とカルボキシル基又はその塩の基とを有する化合物、水酸基とアミノ基とを有する化合物、2以上のカルボキシル基又はその塩の基を有する化合物、2以上のアミノ基又はその塩の基を有する化合物、2以上のスルホン酸基又はその塩の基を有する化合物、水酸基とスルホン酸基又はその塩の基とを有する化合物、2以上のリン酸基又はその塩の基を有する化合物等が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
下記にこれらの化合物の具体例を示すが、化合物(β)は、上記2以上の官能基を有し、分子量が1000以下である限り、2以上の化合物のカテゴリーに該当してもよく、例えば、2以上の水酸基を有する化合物にも、水酸基とカルボキシル基又はその塩の基とを有する化合物にも該当する化合物であってもよい。
【0056】
上記2以上の水酸基を有する化合物としては、糖類、糖類以外のポリオール、オキソカーボン酸等が挙げられる。
上記糖類としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース;アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース;マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース等の2糖類等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。中でもグルコース、スクロース、トレハロース、キシロース、ソルボース等が好ましい。
【0057】
上記糖類以外のポリオールとしては、グリセリン、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ボレミトール、イソマルト等の炭素数3~12の糖アルコール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ジグリセリン等の糖アルコール以外の炭素数3~12の3価以上の脂肪族アルコール;エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、テトラデカンジオール、ネオペンチルグリコール及び2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール等の炭素数2~12の2価の脂肪族アルコール;カテコール、レゾルシノール等の炭素数6~12の芳香族多価アルコール;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラヒドロキシジn-プロピルエーテル等の(ポリ)エーテルポリオール;モノアセチン等の3価以上のポリオールのエステル化物等が挙げられる。
【0058】
上記オキソカーボン酸としてはデルタ酸(三角酸)、スクアリン酸(四角酸)、クロコン酸(五角酸)、ロジゾン酸(六角酸)、ヘプタゴン酸(七角酸)等が挙げられる。
【0059】
上記水酸基とカルボキシル基又はその塩の基とを有する化合物としては、上記単糖類を酸化して得られる誘導体(単糖類の酸化物)、該酸化物以外のオキシカルボン酸及びこれらの塩が挙げられる。
上記単糖類の酸化物としては、アルドン酸、アルダル酸、ウロン酸等が挙げられる。中でもアルドン酸が好ましい。
【0060】
上記アルドン酸は、アルドースのアルデヒド官能基を酸化してカルボン酸官能基を形成することによって得られる糖酸であり、具体的には、グリセリン酸、キシロン酸、グルコン酸、アスコルビン酸等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。中でもグルコン酸が好ましい。
【0061】
上記アルダル酸は、アルドースの両末端が酸化された糖酸であり、具体的には、酒石酸、メソガラクタル酸、D-グルカル酸等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。中でも酒石酸が好ましい。
【0062】
上記ウロン酸は、アルドース又はケトースの末端ヒドロキシル基が酸化された糖酸であり、具体的には、グルクロン酸、ガラクツロン酸、イズロン酸等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
【0063】
上記単糖類の酸化物以外のオキシカルボン酸としては、炭素数2~18の脂肪族オキシカルボン酸、炭素数6~12の芳香族オキシカルボン酸が挙げられる。
上記炭素数2~18の脂肪族オキシカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、グルコへプトン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、ヒドロキシドコサン酸、ヒドロキシテトラドコサン酸、ヒドロキシヘキサドコサン酸、ヒドロキシオクタドコサン酸や乳酸、タルトロン酸、ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、酒石酸等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。脂肪族オキシカルボン酸の炭素数としては3~6であることが好ましい。脂肪族オキシカルボン酸として好ましくはリンゴ酸、クエン酸、グルコへプトン酸等である。
【0064】
上記炭素数6~12の芳香族オキシカルボン酸としては特に限定されないが、例えば、モノヒドロキシ安息香酸誘導体としてサリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ジヒドロキシ安息香酸誘導体としてピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、トリヒドロキシ安息香酸誘導体として、没食子酸、フェニル酢酸誘導体として、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、ケイヒ酸やヒドロケイヒ酸誘導体として、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
【0065】
上記水酸基とアミノ基とを有する化合物としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等の炭素数2~12のアルカノールアミン;N-ジメチルジエタノールアミン等の炭素数2~12のアルキルアルカノールアミン等が挙げられる。
【0066】
上記2以上のカルボキシル基又はその塩の基を有する化合物としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ノセバシン酸等の炭素数2~6の脂肪族ジカルボン酸及びこれらの塩;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の炭素数6~12の芳香族ジカルボン酸及びこれらの塩;ギ酸、酢酸等の炭素数1~6のモノカルボン酸の2価の塩等が挙げられる。
【0067】
上記2以上のアミノ基又はその塩の基を有する化合物としては、例えば、グアニジン等の炭素数1~12のグアニジン基を少なくとも1つ有する化合物;尿素等のカルバミド基を少なくとも1つ有する化合物、エチレンジアミン等の炭素数1~12の(ポリ)アルキレンポリアミン等;及びこれらの塩が挙げられる。
【0068】
上記2以上のスルホン酸基又はその塩の基を有する化合物としては、例えば、エタンジスルホン酸等の炭素数1~12のアルカンジスルホン酸及びこれらの塩等が挙げられる。
上記水酸基とスルホン酸基又はその塩の基とを有する化合物としては、例えば、ヒドロキシメタンスルホン酸等の炭素数1~12のヒドロキシアルカンスルホン酸及びこれらの塩等が挙げられる。
【0069】
上記2以上のリン酸基又はその塩の基を有する化合物としては、例えば、トリメタリン酸、トリポリリン酸、ピロリン酸等のポリリン酸及びこれらの塩等が挙げられる。
【0070】
上記官能基としては水酸基、カルボキシル基及び/又はその塩の基が好ましい。
すなわち、上記化合物(β)としては、少なくとも1つの水酸基を有するもの、少なくとも1つのカルボキシル基又はその塩の基を有するものが好ましい。
【0071】
上記化合物(β)として好ましくは2以上の水酸基を有する化合物であり、水酸基とカルボキシル基又はその塩の基とを有する化合物である。より好ましくは糖類、単糖類の酸化物及びその塩、該誘導体以外のオキシカルボン酸及びその塩であり、更に好ましくは糖類、アルドン酸、アルダル酸及びこれらの塩であり、特に好ましくは、グルコース、トレハロース、スクロース、グルコン酸(塩)、酒石酸(塩)である。
【0072】
上記化合物(β)の分子量は1000以下であり、好ましくは50~500であり、更に好ましくは100~400である。
【0073】
本発明のプレキャスト用セメント混和剤組成物は、プレキャスト用のセメント混和剤として、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができる。また、超高強度コンクリートにも用いることができる。上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含む通常用いられるものが好適である。また、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカヒューム、石灰石等の微粉体を添加したものであってもよい。
なお、超高強度コンクリートとは、セメント組成物の分野で一般的にそのように称されているもの、すなわち従来のコンクリートに比べて水セメント比を小さくしてもその硬化物が従来と同等又はより高い強度となるようなコンクリートを意味し、例えば、水セメント比が25質量%以下、更に20質量%以下、特に18質量%以下、特に14質量%以下、特に12質量%程度であっても通常の使用に支障をきたすことのない作業性を有するコンクリートとなり、その硬化物が60N/mm以上、更に80N/mm以上、より更に100N/mm以上、特に120N/mm以上、特に160N/mm以上、特に200N/mm以上の圧縮強度を示すことになるものである。
【0074】
本発明のプレキャスト用セメント混和剤組成物における共重合体(α)、化合物(β)の総含有量は、特に制限されないが、セメント添加中の固形分(すなわち不揮発分)100質量%中、2質量%以上50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは3質量%以上40質量%以下、更に好ましくは4質量%以上35質量%以下、特に好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
なお、本明細書中、「セメント混和剤」とは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物へ添加される混和剤のことをいい、上記共重合体のみからなる剤であってもよいし、また、上記共重合体(α)、化合物(β)だけでなく、必要に応じて更に他の成分や添加剤等を含む剤であってもよい。
【0075】
上記プレキャスト用セメント混和剤組成物はまた、通常使用される他のセメント分散剤や減水剤を更に含有していてもよく、複数の併用も可能である。他のセメント分散剤(減水剤)としては特に限定されないが、例えば以下のものが好適である。
【0076】
リグニンスルホン酸塩;ポリオール誘導体;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物;ポリスチレンスルホン酸塩;特開平1-113419号公報に記載の如くアミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等のアミノスルホン酸系;特開平7-267705号公報に記載の如く(a)成分として、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系化合物と(メタ)アクリル酸系化合物との共重合体及び/又はその塩と、(b)成分として、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル系化合物と無水マレイン酸との共重合体及び/若しくはその加水分解物、並びに/又は、その塩と、(c)成分として、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル系化合物と、ポリアルキレングリコール系化合物のマレイン酸エステルとの共重合体及び/又はその塩とを含むセメント分散剤;特許第2508113号明細書に記載の如くA成分として、(メタ)アクリル酸のポリアルキレングリコールエステルと(メタ)アクリル酸(塩)との共重合体、B成分として、特定のポリエチレングリコールポリプロピレングリコール系化合物、C成分として、特定の界面活性剤からなるコンクリート混和剤;特開昭62-216950号公報に記載の如く(メタ)アクリル酸のポリエチレン(プロピレン)グリコールエステル若しくはポリエチレン(プロピレン)グリコールモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)からなる共重合体。
【0077】
特開平1-226757号公報に記載の如く(メタ)アクリル酸のポリエチレン(プロピレン)グリコールエステル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、及び、(メタ)アクリル酸(塩)からなる共重合体;特公平5-36377号公報に記載の如く(メタ)アクリル酸のポリエチレン(プロピレン)グリコールエステル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)若しくはp-(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸(塩)、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)からなる共重合体;特開平4-149056号公報に記載の如くポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルとマレイン酸(塩)との共重合体;特開平5-170501号公報に記載の如く(メタ)アクリル酸のポリエチレングリコールエステル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、(メタ)アクリル酸(塩)、アルカンジオールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及び、分子中にアミド基を有するα,β-不飽和単量体からなる共重合体;特開平6-191918号公報に記載の如くポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸(塩)、並びに、(メタ)アリルスルホン酸(塩)若しくはp-(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸(塩)からなる共重合体;特開平5-43288号公報に記載の如くアルコキシポリアルキレングリコールモノアリルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、若しくは、その加水分解物、又は、その塩;特公昭58-38380号公報に記載の如くポリエチレングリコールモノアリルエーテル、マレイン酸、及び、これらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体、若しくは、その塩、又は、そのエステル。
【0078】
特公昭59-18338号公報に記載の如くポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び、これらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体;特開昭62-119147号公報に記載の如くスルホン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル及び必要によりこれと共重合可能な単量体からなる共重合体、又は、その塩;特開平6-271347号公報に記載の如くアルコキシポリアルキレングリコールモノアリルエーテルと無水マレイン酸との共重合体と、末端にアルケニル基を有するポリオキシアルキレン誘導体とのエステル化反応物;特開平6-298555号公報に記載の如くアルコキシポリアルキレングリコールモノアリルエーテルと無水マレイン酸との共重合体と、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン誘導体とのエステル化反応物;特開昭62-68806号公報に記載の如く3-メチル-3ブテン-1-オール等の特定の不飽和アルコールにエチレンオキシド等を付加したアルケニルエーテル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、及び、これらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体、又は、その塩等のポリカルボン酸(塩)。これらセメント分散剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
また、本発明のプレキャスト用セメント混和剤組成物において、必要に応じて、他の添加剤等を含んでいてもよい。他の添加剤等としては、水溶性高分子物質、高分子エマルション、遅延剤、早強剤・促進剤、消泡剤、AE剤、その他界面活性剤、防水剤、防錆剤、膨張材、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石膏等を挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0080】
上記セメント分散剤を併用する場合には、使用するセメント分散剤の種類、配合及び試験条件等の違いにより一義的に決められないが、上記他の添加剤等と上記セメント分散剤との配合質量の割合は、5~95:95~5であることが好ましい。より好ましくは、10~90:90~10である。
【0081】
上記プレキャスト用セメント混和剤組成物は、各種水硬性材料、すなわちセメントや石膏等のセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と上記セメント混和剤組成物とを含有し、更に必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を含む水硬性組成物の具体例としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。これらの水硬性組成物の中でも、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も好ましく、上記プレキャスト用セメント混和剤組成物と、セメントとを含むプレキャスト用セメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0082】
<プレキャスト用セメント組成物>
本発明のプレキャスト用セメント組成物において、セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形);各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント);白色ポルトランドセメント;アルミナセメント;超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント);グラウト用セメント;油井セメント;低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント);超高強度セメント;セメント系固化材;エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等の他、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したもの等が挙げられる。本発明のプレキャスト用セメント組成物に含まれるセメントは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0083】
上記プレキャスト用セメント組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比は特に限定されず、例えば、単位水量100~185kg/m、使用セメント量250~800kg/m、水/セメント比(重量比)=0.12~0.74であることが好ましい。より好ましくは、単位水量120~175kg/m、使用セメント量270~800kg/m、水/セメント比(重量比)=0.15~0.65である。このように本発明のプレキャスト用セメント組成物は、貧配合~富配合まで幅広く使用可能であり、単位セメント量の多い高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。また、本発明のプレキャスト用セメント組成物は、比較的高減水率の領域、すなわち、水/セメント比(重量比)=0.15~0.5(好ましくは0.15~0.4)といった水/セメント比の低い領域においても、良好に使用することができる。
【0084】
上記プレキャスト用セメント組成物において、本発明のセメント混和剤組成物の配合割合としては、例えば、上記共重合体(α)、化合物(β)の合計量が、固形分換算で、セメント質量の全量100質量%に対して、0.0005~10質量%となるように設定することが好ましい。0.0005質量%未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に10質量%を超えると、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.001~5質量%であり、更に好ましくは0.005~1質量%である。なお、本明細書中、固形分含量は、以下のようにして測定することができる。
また、上記プレキャスト用セメント組成物において、化合物(β)の量は、固形分換算で、セメント質量の全量100質量%に対して、0.0005~1質量%となるように設定することが好ましい。これにより、早期強度発現性をより高めることができる。より好ましくは0.001~0.5質量%であり、更に好ましくは0.005~0.1質量%である。
なお、本明細書中、固形分含量は、以下のようにして測定することができる。
<固形分測定方法>
1.アルミ皿を精秤する。
2.1で精秤したアルミ皿に固形分測定物を精秤する。
3.窒素雰囲気下130℃に調温した乾燥機に2で精秤した固形分測定物を1時間入れる。
4.1時間後、乾燥機から取り出し、室温のデシケーター内で15分間放冷する。
5.15分後、デシケーターから取り出し、アルミ皿+測定物を精秤する。
6.5で得られた質量から1で得られたアルミ皿の質量を差し引き、2で得られた固形分測定物の質量で除することで固形分を測定する。
【0085】
本発明のプレキャスト用セメント混和剤組成物を使用することにより、得られるセメント組成物は早期強度発現性に優れることから、プレキャストセメント(プレキャストコンクリート)に有効に適用できる。
本発明はまた、上記プレキャスト用セメント混和剤組成物とセメントとを混合する工程と、混合工程で得られた組成物を15~90℃で硬化する工程とを含むセメント硬化物の製造方法でもある。硬化温度として好ましくは40~85℃であり、より好ましくは50~85℃であり、更に好ましくは55~85℃であり、特に好ましくは60~80℃である。
【0086】
上記製造方法は、上記硬化工程を湿度40~100%の条件で行うことが好ましい。より好ましくは湿度50~100%であり、更に好ましくは湿度60~100%である。
【0087】
上記硬化工程は、1段階で行っても、2段階以上で行ってもよいが、2段階で行うことが好ましい。温度15~50℃、湿度40~60%の条件下で1段目、温度60~90℃、湿度60~100%の条件下で2段目を行うことが好ましい。
【0088】
上記製造方法は、上記混合工程で得られた組成物を型枠に流し込む工程を含むことが好ましく、型枠に流し込む工程後に上記硬化工程を行うことが好ましい。
【0089】
上記製造方法は、上記硬化工程を蒸気養生して行うことが好ましい。
【0090】
上記製造方法は、上記硬化工程を1~10時間行うことが好ましい。より好ましくは1.5~8時間であり、更に好ましくは2~6時間である。
【0091】
本発明は更に、上記プレキャスト用セメント混和剤組成物とセメントとを含む組成物を40~90℃で硬化するセメントの硬化方法でもある。好ましい硬化温度は、上記セメント硬化物の製造方法と同様である。
【実施例
【0092】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0093】
<製造例1>減水剤(ポリカルボン酸共重合体α)の製造
温度計、攪拌機、滴下ロート、環流冷却器を備えたガラス製反応容器にイオン交換水72.26部、3-メチル-3-ブテン-1-オールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール127.74部を仕込み、65℃に昇温した後、そこへ過酸化水素30%水溶液0.71部を添加し、アクリル酸40%水溶液46.58部を3時間、3-メルカプトプロピオン酸0.67部を3時間、L-アスコルビン酸2.1%水溶液12.97部を3.5時間かけて滴下した。その後60分引き続いて65℃に温度を維持して重合反応を完結させ、温度を50℃以下に降温し水酸化ナトリウム12.2%水溶液76.07部でpH4からpH7になるように中和し、重量平均分子量29,000の重合体水溶液からなる本発明のポリカルボン酸共重合体を得た。尚、重合時に使用する原料の全量に対する全単量体の使用量は、56.2重量%であった。
【0094】
<モルタル試験>
モルタル試料の調製:
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±15%の環境下で行った。モルタル配合は、C/S/W=535/1350/214(g)とした。
ただし、
C:セメント(普通ポルトランドセメント、太平洋セメント社製)
S:細骨材(セメント強さ試験用標準砂、セメント協会製)
W:試料と消泡剤のイオン交換水溶液
とし、Wについては下記実施例、比較例で得られた水硬性材料用添加剤及び消泡剤を含み、イオン交換水中充分に均一溶解させた。
モルタルミキサー(ホバート社製ミキサー、型番:N-50)を用い、混練容器へS及びWを投入し、1速で40秒間混練した。さらに1速で混練しながら、Cを20秒かけて投入した。混練を始めてから60秒後に2速に変更し、さらに30秒間混練した。その後ミキサーを停止し、30秒間モルタルの掻き落としを行しい、60秒間静置した。その後、さらに2速で60秒間混練を行い、モルタルを調製した。なお、空気量は消泡剤であるオキシアルキレン系消泡剤を添加して3.0%未満となるように調整した。
【0095】
<圧縮強度の測定>
混練後、圧縮強度試験用試料を作成し、以下の条件にて、蒸気養生後の圧縮強度を測定した。
供試体作成:50mm×100mm
供試体養生:温度20℃、湿度50%、恒温恒湿空気養生を2時間行った後、恒温恒湿オーブンを用いて温度60℃、湿度98%下でさらに2時間養生を行った。
供試体研磨:供試体面研磨(供試体研磨仕上げ機使用)
圧縮強度測定:自動圧縮強度測定器(前川製作所)
【0096】
〔実施例1〕
化合物(β)としてグルコン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(1)を調製した。
【0097】
〔実施例2〕
化合物(β)としてグルコン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(2)を調製した。
【0098】
〔実施例3〕
化合物(β)としてスクロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(3)を調製した。
【0099】
〔実施例4〕
化合物(β)として尿素(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(4)を調製した。
【0100】
〔実施例5〕
化合物(β)としてグルコン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(5)を調製した。
【0101】
〔実施例6〕
化合物(β)としてグルコン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(6)を調製した。
【0102】
〔実施例7〕
化合物(β)としてグルコース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(7)を調製した。
【0103】
〔実施例8〕
化合物(β)としてグルコへプトン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(8)を調製した。
【0104】
〔実施例9〕
化合物(β)としてフルクトース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(9)を調製した。
【0105】
〔実施例10〕
化合物(β)としてL-酒石酸(扶桑化学工業社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(10)を調製した。
【0106】
〔実施例11〕
化合物(β)としてトレハロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(11)を調製した。
【0107】
〔比較例1〕
化合物(β)を用いず、重合体(α)のみ添加しセメント用混和剤(12)を調製した。
【0108】
〔比較例2〕
化合物(β)としてグルコン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(13)を調製した。
【0109】
〔比較例3〕
化合物(β)としてスクロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(14)を調製した。
【0110】
〔比較例4〕
化合物(β)としてヘキサメタリン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、表1の条件で配合して、セメント用混和剤(15)を調製した。
【0111】
実施例1~11及び比較例1~4で得られたセメント用混和剤を用いて上述の方法により圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
強度比は添加剤無添加時の強度である比較例1との比で表した。
【0112】
【表1】