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特許7457493送電装置、受電装置、それらの制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】送電装置、受電装置、それらの制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/60 20160101AFI20240321BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20240321BHJP
【FI】
H02J50/60
H02J50/80
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019223005
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021093829
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】七野 隆広
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531538(JP,A)
【文献】特表2017-511109(JP,A)
【文献】特表2015-536633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/296590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受電装置に無線電力を送電する送電装置であって、
送電電力と受電電力に基づいて前記送電の電力損失を取得する取得手段と、
前記受電装置との間で設定された送電電力に基づいて、異物の有無を判定するための第一の閾値を設定する第一の設定手段と、
前記第一の閾値より大きい第二の閾値と、前記第一の閾値より小さい第三の閾値とを設定する第二の設定手段であって、前記受電装置との間で設定された送電電力が第一の電力より大きい第二の電力の場合、前記送電電力が第一の電力の場合の前記第二の閾値と前記第三の閾値の差よりも、前記第二の閾値と前記第三の閾値の差が大きくなるように前記第二の閾値と前記第三の閾値とを設定する第二の設定手段と、
前記電力損失が前記第二の閾値より大きい場合は異物が存在する、前記電力損失が前記第三の閾値より小さい場合は異物が存在しない、前記電力損失が前記第二の閾値と前記第三の閾値の間の場合は異物が存在する可能性がある、と判定する判定手段と、を備えることを特徴とする送電装置。
【請求項2】
前記第一の設定手段は、前記設定された送電電力が前記第一の電力より大きい前記第二の電力の場合、前記送電電力が第一の電力の場合の第一の閾値より大きい値を前記第一の閾値として設定することを特徴とする請求項1に記載の送電装置。
【請求項3】
前記第二の閾値と前記第一の閾値の差と、前記第三の閾値と前記第一の閾値の差は同じ値であることを特徴とする請求項1または2に記載の送電装置。
【請求項4】
異物が存在する可能性があるという判定結果を受け付ける能力が前記受電装置にあるか否かを確認する確認手段をさらに備え、
前記判定手段は、前記受電装置が前記能力を有していることを確認できない場合には、前記第一の閾値により異物の有無を判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項5】
前記送電電力は前記受電装置が負荷に出力すると予測される最大電力(Maximum Power)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項6】
前記送電電力は前記受電装置が必ず受電できる電力(Guaranteed Power)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項7】
前記送電電力は、前記受電装置が受電した現在の電力(Received Power)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項8】
前記受電装置が受電した電力に基づくデータを前記受電装置から受信したときの応答として、前記判定手段の結果を前記受電装置に通知する通知手段をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の送電装置。
【請求項9】
前記通知手段は、異物が存在しないと判定された場合にACKパケットを、異物が存在すると判定された場合にNAKパケットを、異物が存在する可能性があると判定された場合にACKパケットおよびNAKパケットとは別のパケットを、前記受電装置に通知することを特徴とする請求項8に記載の送電装置。
【請求項10】
前記通知手段は、異物が存在する可能性があると判定され場合に、異物が存在する可能性があることを示すAttentionパケットを送信することを特徴とする請求項9に記載の送電装置。
【請求項11】
送電装置から無線電力を受電する受電装置であって、
前記送電装置から、異物が存在する、異物が存在しない、異物が存在する可能性がある、の少なくとも3つの判定結果のうちの一つを示す通知を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された判定結果が、異物が存在することを示す場合は前記送電装置に送電の停止を要求し、異物が存在しないことを示す場合は前記送電装置からの受電を継続し、異物が存在する可能性があることを示す場合は前記送電装置による送電を制限するように制御する制御手段と、を備えることを特徴とする受電装置。
【請求項12】
前記送電装置から受電した電力を示す情報を前記送電装置に送信する送信手段をさらに備え、
前記受信手段は、前記情報の送信に対する応答として前記判定結果を示す通知を受信することを特徴とする請求項11に記載の受電装置。
【請求項13】
前記応答がNAKの場合は異物が存在することを示し、前記応答がACKの場合は異物が存在しないことを示し、前記応答がNAKでもACKでもない場合は異物が存在する可能性があることを示すことを特徴とする請求項12に記載の受電装置。
【請求項14】
異物が存在する可能性があることを示す前記応答は、異物が存在する可能性があることを示すAttentionパケットであることを特徴とする請求項13に記載の受電装置。
【請求項15】
受電装置に無線電力を送電する送電装置の制御方法であって、
送電電力と受電電力に基づいて前記送電の電力損失を取得する取得工程と、
前記受電装置との間で設定された送電の電力に基づいて、異物の有無を判定するための第一の閾値を設定する第一の設定工程と、
前記第一の閾値より大きい第二の閾値と、前記第一の閾値より小さい第三の閾値とを設定する第二の設定工程であって、前記受電装置との間で設定された送電の電力が第一の電力より大きい第二の電力の場合、前記送電電力が第一の電力の場合の前記第二の閾値と前記第三の閾値の差よりも、前記第二の閾値と前記第三の閾値の差が大きくなるように前記第二の閾値と前記第三の閾値とを設定する第二の設定工程と、
前記電力損失が前記第二の閾値より大きい場合は異物が存在する、前記電力損失が前記第三の閾値より小さい場合は異物が存在しない、前記電力損失が前記第二の閾値と前記第三の閾値の間の場合は異物が存在する可能性がある、と判定する判定工程と、を備えることを特徴とする送電装置の制御方法。
【請求項16】
送電装置から無線電力を受電する受電装置の制御方法であって、
前記送電装置から、異物が存在する、異物が存在しない、異物が存在する可能性がある、の少なくとも3つの判定結果のうちの一つを示す通知を受信する受信工程と、
前記受信工程により受信された判定結果が、異物が存在することを示す場合は前記送電装置に送電の停止を要求し、異物が存在しないことを示す場合は前記送電装置からの受電を継続し、異物が存在する可能性があることを示す場合は前記送電装置による送電を制限するように制御する制御工程と、を備えることを特徴とする受電装置の制御方法。
【請求項17】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載された送電装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項18】
請求項11乃至14のいずれか1項に記載された受電装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送を行う送電装置、受電装置、それらの制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線充電規格の標準化団体Wireless Power Consortium(WPC)が策定する規格(WPC規格)に準拠した送電装置および受電装置が実用化されている。特許文献1には、送電装置における異物検出方法として、送電電力と受電電力の差分(電力損失)が閾値を超えた場合に、送電装置の送電可能範囲に異物が存在すると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-070074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電力損失に基づく異物検出には、異物の誤検出というリスクがある。誤検出とは異物が存在しないにも関わらす異物が存在すると判定したり、異物が存在するにも関わらず異物が存在しないと判定したりすることである。しかしながら、このような異物の誤検出というリスクを回避または低減する方法については提案されていない。
【0005】
本発明は、送電可能範囲における異物の検出における誤検出の発生を低減するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による送電装置は、以下の構成を備える。すなわち、
受電装置に無線電力を送電する送電装置であって、
送電電力と受電電力に基づいて前記送電の電力損失を取得する取得手段と、
前記受電装置との間で設定された送電電力に基づいて、異物の有無を判定するための第一の閾値を設定する第一の設定手段と、
前記第一の閾値より大きい第二の閾値と、前記第一の閾値より小さい第三の閾値とを設定する第二の設定手段であって、前記受電装置との間で設定された送電電力が第一の電力より大きい第二の電力の場合、前記送電電力が第一の電力の場合の前記第二の閾値と前記第三の閾値の差よりも、前記第二の閾値と前記第三の閾値の差が大きくなるように前記第二の閾値と前記第三の閾値とを設定する第二の設定手段と、
前記電力損失が前記第二の閾値より大きい場合は異物が存在する、前記電力損失が前記第三の閾値より小さい場合は異物が存在しない、前記電力損失が前記第二の閾値と前記第三の閾値の間の場合は異物が存在する可能性がある、と判定する判定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、送電可能範囲における異物の検出における誤検出の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】送電装置の構成例を示す図。
図2】(a)は電力損失に基づく異物検出の概念図、(b)は最大電力量と深く手の大きさの関係を示す図。
図3】送電装置および受電装置のシーケンス図。
図4】送電装置が設定する閾値に関する概念図。
図5】送電装置の動作を説明するフローチャート。
図6】受電装置の動作を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
(送電装置および受電装置の構成の説明)
図1を用いて送電装置および受電装置の構成について説明する。図1は、実施形態による送電装置100および受電装置120の構成例を示すブロック図である。送電装置100は、受電装置120に無線電力を送電する。送電部102は電源部101によって供給される直流電圧および直流電流を、交流電圧および交流電流に変換して送電コイル103に出力する。送電部102はスイッチング回路で構成される。通信部104は、送電部102が出力する直流電圧および直流電流にデータを重畳させ、受電装置120との間でデータ通信を行う。制御部105は、1つ以上のプロセッサを有し、メモリ部107に格納されたプログラムを実行することにより送電装置100の全体を制御する。判定部106は異物検出に関連する各種の判定を行う。なお、判定部106は、制御部105が所定のプログラムを実行することにより実現されてよいし、専用のハードウェアにより実現されてもよい。送電装置100は、カメラ、スマートフォン、タブレットPC、ラップトップ、自動車、ロボット、医療機器、プリンターもしくはそれらに内蔵されている構成であってもよい。
【0011】
受電装置120は、送電装置100から無線電力を受電する。受電装置120において、電圧制御部122は、受電コイル123により受電された交流電圧および交流電流を直流電圧および直流電流に変換して充電回路121、通信部124、制御部125などに給電する。充電回路121は、バッテリ126を充電する。通信部124は、受電コイル123から入力された電磁波を復調して送電装置100から送信された情報を取得し、その電磁波を負荷変調することによって情報を電磁波に重畳することで、送電装置100とデータ通信を行う。制御部125は、1つ以上のプロセッサを有し、メモリ部127に格納されたプログラムを実行することにより受電装置120の全体を制御する。なお、制御部125が実行する処理の一部、あるいはすべてが専用のハードウェアにより実現されてもよい。
【0012】
送電装置100と受電装置120は、これらの送受電制御のための通信を、WPC規格に基づいて無線電力伝送と同じアンテナ(コイル)を用いて送電電力に信号を重畳する通信により行う。また、送電装置100と受電装置120は、無線電力伝送と異なるアンテナ(コイル)を用いて、送受電制御のための通信を行ってもよい。無線電力伝送と異なるアンテナ(コイル)を用いる通信の一例としては、Bluetooth(登録商標) Low Energy規格に準拠する通信方式が挙げられる。また、無線電力伝送と異なるアンテナ(コイル)を用いる通信の他の例として、IEEE802.11規格シリーズの無線LAN(例えばWi-Fi(登録商標))、ZigBee(登録商標)が挙げられる。さらには、無線電力伝送と異なるアンテナ(コイル)を用いる通信は、NFC(Near Field Communication)、RFID(Radio Frequency Identifier)等の他の通信方式によって行われてもよい。無線電力伝送と異なるアンテナ(コイル)を用いる通信は、無線電力伝送で用いられる周波数とは異なる周波数により行われるようにしてもよい。
【0013】
(電力損失に基づく異物検出の説明)
電力損失に基づく異物検出方法について図2(a)を用いて説明する。図2(a)の横軸は送電装置100の送電電力、縦軸は受電装置120の受電電力である。
【0014】
送電装置100は、受電装置120が受電した電力を負荷(充電回路121とバッテリ126など)に供給しない時の受電電力値Pr1(Light Loadという)を受電装置120から受信する。そして送電装置100はその時の送電電力値Pt1を記憶する(点200)。また、送電装置100は、受電装置120が受電した電力を負荷に供給した時の受電電力値Pr2(Connected Loadという)の値を受電装置120から受信する。そして送電装置100はその時の送電電力値Pt2を記憶する(点201)。
【0015】
送電装置100は点200と点201を直線補間し直線202を作成する。直線202は送電装置100と受電装置120の周辺に異物が存在しない状態における送電電力と受電電力の関係を示している。送電装置100は、送電電力値と直線202から異物がない状態における受電装置120の受電電力を予想することができる。
【0016】
送電装置100による異物検出の一例として、異物がない状態における受電電力の予測値に基づいて異物検出を行う方法がある。具体的には、送電電力値がPt3の場合は、送電電力値がPt3を示す直線202上の点203を求め、異物が存在しない状態では受電電力値はPr3であると予測することができる。ここで、送電装置100が受電装置120から受電電力値Pr3'という値を受信したとする。送電装置100は、異物が存在しない状態における受電電力値Pr3から実際に受電装置120から受電した受電電力値Pr3'を引いた値Pr3-Pr3'(これを電力損失という)を算出する。この電力損失は、異物で消費されたパワーであると推定される。従って、算出された電力損失があらかじめ決められた閾値を超え場合に、異物が存在すると判断することができる。
【0017】
また、送電装置100による異物検出の別の例として、異物がない状態における送電電力の予測値に基づいて異物検出を行う方法がある。具体的には、送電装置100が受電装置120から受電電力値Pr3'という値を受信した場合、直線202上の点204から、異物が存在しない状態では送電電力値はPt3'であると予測することができる。ここで、送電装置100の実際の送電電力がPt3であった場合は、送電装置100は実際の送電電力値Pt3から異物が存在しない状態における送電電力値Pt3'を引いた値Pt3-Pt3'(電力損失)を算出する。上述したように、この電力損失は異物で消費されたパワーであると推定される。従って、算出された電力損失があらかじめ決められた閾値を超え場合に、異物が存在すると判断することができる。以上が電力損失に基づく異物検出の説明である。
【0018】
(誤検出の説明)
つづいて、図4(b)を用いて誤検出について説明する。図4(b)の縦軸は、上述した電力損失に基づく異物検出方法において、異物があるかどうかを判断するための電力損失の大きさを示しており、単位はミリワット(mW)である。WPC規格では、受電装置120が負荷(例えばバッテリ126)に出力すると予測される最大電力(Maximum Power)に基づいて閾値(第一の閾値)を規定している。例えば最大電力が0Wから5Wであれば、異物が存在するか否かを判断するための閾値は350mW(直線406)である。すなわち、電力損失が350mW未満(直線406より下)であれば送電装置100は異物が存在しないと判断し、電力損失が350mW以上(直線406より上)であれば送電装置100は異物が存在すると判断する。また、最大電力が5Wから10Wの場合、異物が存在するか否かを判断するための閾値は500mW(図示しない)、10Wから15Wの場合、異物が存在するか否かを判断するための閾値は750mW(直線401)である。
【0019】
図4(b)中の矢印410、矢印411は電力損失の不確かさの幅である。不確かさとは、送電装置100および受電装置120それぞれが送電電力および受電電力を算出するための電圧および電流の検出誤差、電圧および電流に重畳されるノイズに起因する電力損失など、検出値に含まれる誤差である。矢印410、矢印411は、送電装置100が行う送電電力の計測誤差および受電装置120が行う受電電力の電圧および電流の検出誤差、電圧および電流に重畳されるノイズまたは検出タイミングによって、電力損失の算出結果がばらつく範囲示す。なお、このばらつきは、送電装置100の計測誤差と受電装置120の検出誤差の和になる。
【0020】
まず、最大電力が0W~5Wの場合について検討する。不確かさがない実際の電力損失が閾値上(直線406)であり実際に異物が存在する場合、電力損失の不確かさ(矢印410)は、実際の電力損失を示す直線406を中点として第一の閾値(直線406)の上下に現れる。不確かさ(矢印410)の下限は第一の閾値(直線406)より小さい。よって実際には異物が存在するにも関わらず、電力損失として第一の閾値(直線406)より小さい値を検出することで異物が存在しないと判定される誤検出のリスクがある。逆に不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値(直線406)より少し下であり実際には異物が存在しない場合、不確かさ(矢印410)の上限が第一の閾値(直線406)より大きい。よって実際には異物が存在しないにも関わらず、電力損失として第一の閾値(直線406)より大きいと検出され、異物が存在すると判定される誤検出のリスクがある。
【0021】
以上のような誤検出のリスクを回避するために、異物が存在するという判定(第一の判定)、異物が存在しないという判定(第二の判定)に加えて、異物が存在する可能性があるという判定(第三の判定)を行うことが考えられる。具体的には電力損失が、第一の閾値(直線406)から電力Δc(矢印408の長さ)だけ大きい第二の閾値(直線405)および第一の閾値(直線406)から電力Δd(矢印409の長さ)だけ小さい第三の閾値(直線407)を規定する。そして、電力損失が第三の閾値より大きく第二の閾値より小さい場合(直線405と直線407の間)は、送電装置100は異物が存在する可能性があると判断する。また、電力損失が第二の閾値より大きい場合(直線405より大きい)は、送電装置100は異物が存在すると判断し、第三の閾値より小さい場合(直線407より小さい場合)は、送電装置100は異物が存在しないと判断する。ここで、ΔcおよびΔdの大きさを不確かさの幅(矢印410の長さ)の半分かそれ以上に設定し、ΔcとΔdの大きさは同じとする。
【0022】
不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値(直線406)と第二の閾値(直線405)の間であった場合について説明する。実際の電力損失が第一の閾値(直線406)より上なので、実際には異物が存在する。この例では、実際の電力損失が第一の閾値(直線406)と第二の閾値(直線405)の間であり、ΔcとΔdの大きさを不確かさ(矢印410)の半分かそれ以上としている。従って、不確かさ(矢印410)の下限は第三の閾値(直線407)より必ず大きく、第一の閾値(直線406)より必ず小さい。このように不確かさの下限が第三の閾値より小さくなることがないので、送電装置100は実際には異物が存在するのに異物が存在しないという誤検出をすることが回避される。ここで、不確かさ(矢印410)の上限は第二の閾値(直線405)より大きくなることがある。この場合、不確かさにより送電装置100は異物が存在すると判断することになるが、これは正しい検出結果であるため、問題にならない。
【0023】
一方、不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値(406)から第三の閾値(直線407)の間であった場合について説明する。実際の電力損失が第一の閾値(直線406)より下なので、実際には異物は存在しない。この例ででは、実際の電力損失は第一の閾値(406)と第三の閾値(直線407)の間であり、ΔdとΔcの大きさを不確かさ(矢印410)の半分かそれ以上としている。従って、不確かさ(矢印410)の上限は第二の閾値(直線405)より必ず小さく、第一の閾値より必ず大きい。このように、不確かさの上限が第二の閾値より大きくなることがないので、送電装置100は、実際には異物が存在しないのに異物が存在するという誤検出をすることが回避される。ここで、不確かさ(矢印410)の下限は第三の閾値(直線405)より小さくなることがある。この場合、不確かさにより送電装置100は異物が存在しないと判断することになるが、これは正しい検出結果であるため、問題にならない。
【0024】
(第三の判定を規定した場合の課題)
次に、「異物が存在する可能性がある」という第三の判定を規定した場合の課題について説明する。前述したように、WPC規格では受電装置の最大電力に基づいて、第一の閾値の大きさを設定している。ここで、受電装置120の最大電力が0~5Wの場合と、受電装置120の最大電力が10W~15Wの場合とで、第二の閾値と第一の閾値の差(Δc)および第三の閾値と第一の閾値の差(Δd)が同じになるように設定したとする。例えば、図4(b)に示されるように、第一の閾値(直線401)から電力Δc(矢印403)だけ大きい第二の閾値(直線400)および第一の閾値(直線401)から電力Δd(矢印404)だけ小さい第三の閾値(直線402)を規定した場合を検討する。
【0025】
受電装置120の最大電力が大きいほど、送電装置100の送電電力および受電装置120の受電電力を算出するための電圧および電流の検出誤差や、電圧および電流に重畳されるノイズは大きくなる。受電装置120の最大電力が10W~15Wの場合の不確かさを矢印411に示す。矢印411の大きさは、上記理由により矢印410よりも大きくなっている。不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値上(直線401)であり実際に異物が存在する場合、電力損失の不確かさ(矢印411)は、実際の電力損失を示す直線401を中点として第一の閾値(直線401)の上下に現れる。矢印411の大きさは矢印410より大きいため、不確かさ(矢印411)の下限は第三の閾値(直線402)より小さくなることがあり、上限は第二の閾値(直線400)より大きくなることがある。
【0026】
不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値(直線401)と第二の閾値(直線400)の間であった場合について説明する。実際の電力損失は第一の閾値(直線401)より上なので、実際に異物が存在する。この例では、実際の電力損失は第一の閾値(401)と第二の閾値(直線400)の間であり、ΔcとΔdの大きさは不確かさ(矢印411)の半分以下である。従って、図4(b)に図示するように、不確かさ(矢印411)の下限が第三の閾値(直線402)より小さくなることがある。これは、送電装置100が、実際には異物が存在するにもかかわらず異物が存在しないと判定する可能性があることを意味しており、誤検出が発生する可能性がある。
【0027】
次に、不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値(直線401)と第三の閾値(直線402)の間であった場合について説明する。実際の電力損失が第一の閾値(直線401)より下なので、実際には異物は存在しない。この例では、実際の電力損失は第一の閾値(401)と第三の閾値(直線402)の間であり、ΔdとΔcの大きさは不確かさ(矢印411)の半分以下である。従って、図4(b)に図示するように、不確かさ(矢印411)の上限が第二の閾値(直線400)より大きくなることがある。これは、送電装置100が、実際には異物が存在しないのに異物が存在すると判定する可能性があることを意味しており、誤検出が発生する可能性がある。
【0028】
(上記課題を解決するための構成)
上記課題を解決するための構成について、図4(a)に基づいて説明する。本実施形態の送電装置100は、第二の閾値および第三の閾値を受電装置120の最大電力に基づいて設定する。具体的には、受電装置120の最大電力が10W~15Wの場合は、第一の閾値(直線401)から電力Δa(矢印403)だけ大きい第二の閾値(直線400)を規定する。ここで、Δaの大きさは、Δcより大きく、かつ不確かさ(矢印411)の半分の大きさと同等以上に設定される。
【0029】
ここで、不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値(直線401)と第二の閾値(直線400)の間であった場合について説明する。この場合、実際の電力損失は第一の閾値(直線401)より上なので、実際に異物が存在している。この例では、実際の電力損失は第一の閾値(直線401)と第二の閾値(直線400)の間であり、Δbの大きさは不確かさ(矢印411)の半分以上である。従って、図4(a)に図示するように、不確かさ(矢印411)の下限が第三の閾値(直線402)より小さくなることはない。これは、送電装置100が、実際には異物が存在するのに異物が存在しないと判定してしまう可能性がないことを意味しており、誤検出を防止することができる。
【0030】
同様に、不確かさがない実際の電力損失が第一の閾値(直線401)と第三の閾値(直線402)の間である場合について考える。実際の電力損失が第一の閾値(直線401)より下なので、実際には異物は存在していない。Δaの大きさは不確かさ(矢印411)の半分以上なので、図4(a)に図示するように、不確かさ(矢印411)の上限が第二の閾値(直線400)より大きくなることはない。これは、送電装置100が、実際には異物が存在しないのに異物が存在すると判定してしまう可能性がないことを意味しており、誤検出を防止することができる。
【0031】
以上のように本実施形態の送電装置100は、送電電力と受電装置120から通知される受電電力から導かれる電力損失に基づく異物検出機能において、異物があるか否かを判断するための第一の閾値を設定する。そして、送電装置100は、第一の閾値より電力損失が大きい第二の閾値と、第一の閾値より電力損失が小さい第三の閾値を設定する。送電装置100は、電力損失が第二の閾値より大きいときは異物が存在るという第一の判定を、電力損失が第三の閾値より小さいときは異物が存在しないという第二の判定を行う。さらに、送電装置100は、電力損失が第二の閾値と第三の閾値の間の時は異物が存在する可能性がある、という第三の判定を行う。ここで、第二の閾値と第三の閾値は、受電装置120の最大電力(またはGP)の大きさに基づいて設定される。より具体的には、最大電力が大きい場合は、最大電力が小さい場合と比較して、第二の閾値と第一の閾値の間および第三の閾値と第二の閾値の間が大きくなるように設定される。また、最大電力が小さい場合は、最大電力が大きい場合と比較して、第二の閾値と第一の閾値の間および第三の閾値と第二の閾値の間が小さくなるように設定される。これらの構成により、送電装置100は異物の誤検出を低減または防止することができる。
【0032】
(シーケンスの説明)
図3に送電装置100および受電装置120の動作例を示すシーケンス図である。また、図5は送電装置100の動作例を示すフローチャートであり、図6は受電装置120の動作例を示すフローチャートである。以下、図3図5図6を参照して、本実施形態による送電装置100および受電装置120の動作を説明する。
【0033】
送電装置100の制御部105は、受電装置を検出したか否かを判断する(S501)。受電装置が検出されると(S501でYES)、処理はS502に進む。本実施形態では、Digigal Pingを用いた受電装置の検出が行われる。受電装置120の制御部125は、送電装置100のDigital Pinに対して応答を行うと、処理をS602に進める。
【0034】
以上の処理を図3によりより具体的に説明する。送電装置100は、起動すると、送電コイル103を介してAnalog Pingを間欠的に送電する(300)。Analog Pingとは送電コイル103の近傍に存在する物体を検出するための微小な電力の信号である。送電装置100がAnalog Pingを送電しているとき、送電装置100はSelectionフェーズという状態にある。
【0035】
送電装置100は、Analog Pingを送電した時の送電コイル103の電圧値または電流値または共振周波数の変動を検出する。送電装置100は、検出した変動がある閾値を超える場合に送電コイル103の周辺に物体が存在すると判断し、Q値測定を実施する(321)。Q値測定とは、送電コイル103のQ値を測定することを示す。測定したQ値は後述するQ値に基づく異物検出で使用される。Q値測定を行ったのち、送電装置100はPingフェーズに遷移する。
【0036】
Pingフェーズでは、送電装置100はAnalog Pingより大きいDigital Pingを送電する(301)。Digital Pingの大きさは、少なくとも送電コイル103の近傍に存在する受電装置120の制御部125が起動するのに十分な電力である。受電装置120の制御部125は受電コイル123を介して受電した電力により起動すると、受電電圧の大きさを示すSignal Strengthを送電装置100へ通知する(302)。この通知の後、受電装置120は、Identification & Configuration(以下、I&Cフェーズという)へ遷移する。送電装置100はSignal Strengthを受信すると、I&Cフェーズに遷移する。
【0037】
I&Cフェーズにおいて、受電装置120は自身の能力を送電装置100に通知する(S602)。このとき、本実施形態の受電装置120は、「異物が存在する可能性がある」という状態を理解できることを通知する。送電装置100は、この通知により受電装置120の能力を取得する(S502)。
【0038】
上記の処理(S502、S602)について、図3(303~305)により具体的に説明する。受電装置120は自身の製造者を示す製造者コードやデバイス識別情報を含むID Packet(303)および自身が準拠している規格バージョン等を含むConfiguration Packet(304)を送電装置100へ送信する。Configuration Packetには受電装置の最大電力が格納されている。また、Configuration Packetには、前述した「異物が存在する可能性がある」という送電装置100の判定を理解できるかどうかを示す情報であるFOPが格納される。FOPは、「Foreign Object existence Possibility bit」である。FOPが「1」であれば「異物が存在する可能性がある」という判定を理解できることを示し、そうでなければ(「0」であれば)理解できないことを示す。
【0039】
送電装置100は受電装置120が送信したConfiguration Packetを受信する。受電装置120が対応する規格バージョンが(例えば)v1.2.2以上のバージョンであれば、送電装置100は、Configuration Packetに含まれる情報を許諾したことを示すACKを受電装置120へ送信する(305)。そして、送電装置100は、Negotiationフェーズに遷移する。同様に受電装置120はACKを受信する(305)と、Negotiationフェーズに遷移する。
【0040】
Negotiationフェーズにおいて、送電装置100と受電装置120は、受電装置120が必ず受電できる電力の大きさを示すGuaranteed Power(以下、GPという)、受電装置120の最大電力(Maximum power)に関する交渉を行う。そして、送電装置100と受電装置120との間で、GPと最大電力が決定される(S503、S603)。この処理について、図3(306~311)により具体的に説明する。
【0041】
受電装置120は、GPおよび最大電力を要求するためのSpecific Request(以下SRQ)パケットを送電装置100に送信する。例えば、GPを要求する値が格納されたSRQパケット(SRQ(GP)パケット)、および/または、最大電力を要求する値が格納されたSRQパケット(るSRQ(Maximum power))パケットが送電装置100へ送信される(306)。
【0042】
送電装置100は、SRQ(GP)パケットおよびSRQ(Maximum power)パケットに含まれる要求を許諾もしくは拒否する。送電装置100は、これらの要求を許諾する場合、その旨のACKパケットを受電装置120へ送信する(307)。GPおよび最大電力が決定すると、送電装置100は受電装置120へ送電する電力に関する取り決めを記述したPower Transfer Contractを記憶する。
【0043】
受電装置120は、ACKパケット(307)を受信すると、Q値に基づく異物検出機能に関連する情報を送電装置100へ送信する。具体的には、受電装置120がWPC規格で定められた送電装置100上に載置された場合の、送電装置100の送電コイル103のQ値を、FOD(Foreign Object Detection) Status Packet(以下FODという)に格納して送電装置100へ送信する(308)。
【0044】
送電装置100は、FODパケットを受信すると、Q値測定321で測定したQ値と、FODパケットに含まれるQ_reportに基づいて送電電力が影響する範囲に異物が存在するかどうかを判定する。ここでは、送電装置100は異物が存在しないと判断したことを示すACKを受電装置に送信したとする(309)。このACKを受信すると、受電装置120はSRQの内、Negotiationフェーズを終了することを示すEnd Negotiationパケット(SRQ(EN))を送電装置100へ送信する(310)。送電装置100はSRQ(EN)に対してACKを受電装置120へ送信し(311)、Negotiationフェーズを終了する。
【0045】
送電装置100の制御部105は受電装置120から受信したConfiguration Packetに格納されているFOPビットを確認する(S504)。すなわち、制御部105は、異物が存在する可能性があるという判定結果を受け付ける能力が受電装置120にあるか否かを確認する。FOPビットが「1」であれば(S504でYES)、受電装置に当該能力があると確認され、制御部105は、図4(a)で上述したように、第一の閾値、第二の閾値および第三の閾値を判定部106に設定する(S505)。すなわち、制御部105は、受電装置120との間で設定された送電の電力(例えば最大電力)に基づいて、異物の有無を判定するための第一の閾値を判定部106に設定する。そして、制御部105は、第一の閾値より大きい第二の閾値と、第一の閾値より小さい第三の閾値を判定部106に設定する。ここで、設定された電力が大きいほど、第一の閾値の値は大きくなる。また、設定された電力が大きいほど、第二の閾値と第三の閾値の差(不確定の大きさ)は大きくなる。例えば、受電装置との間で設定された送電電力が第一の電力より大きい第二の電力の場合、送電電力が第一の電力の場合の第二の閾値と第三の閾値の差よりも、第二の閾値と第三の閾値の差が大きくなるように設定される。この第二の閾値と第三の閾値の差は、設定された送電電力に従い、線形で変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。第二の閾値と第三の閾値により、電力損失に基づく異物検出において、「異物が存在する可能性がある」という判定が可能になる。
【0046】
他方、FOPビットが「0」であれば(S504でNO)、第二の閾値および第三の閾値を設定せず、第一の閾値のみを設定する(S506)。これにより、「異物が存在する可能性がある」という判定結果を受け付ける能力を受電装置120が有していることを確認できない場合、「異物が存在する可能性がある」という判定は行われない。ここではFOPビットが「1」であり、送電装置100は第二の閾値および第三の閾値を設定したとする(322)。
【0047】
なお、上述のように、第一の閾値は、S503で決定された最大電力に基づいて設定され、第二、第三の閾値は、最大電力に応じて決定される不確定の大きさに従って設定される。図2(b)に示されるように、不確定の大きさは最大電力に比例して大きくなる。送電装置100は、図2(b)のテーブルをメモリ部107に保持しており、制御部105は、S503で決定された最大電力と図2(b)のテーブルから得られる不確定の大きさに従って第二の閾値と第三の閾値を設定する。その後、送電装置100は送電を開始し(S507)、受電装置は受電を開始する(S604)。
【0048】
送電装置100および受電装置120は電力損失に基づく異物検出機能に関連するCalibrationの処理を実行する。Calibrationにおいて、受電装置120の制御部125は、無負荷時の受電電力と、負荷へ給電するための調整を行った後の受電電力を送電装置100に通知する(S605)。送電装置100の制御部105は、送電電力と受電電力の関係(図2(a)で説明した直線202)を決定する(S508)。以下、図3(312~316)により具体的な手順について説明する。
【0049】
受電装置120は電圧制御部122の出力を負荷(充電回路121とバッテリ126など)に供給しない状態(mode1)における受電電力をReceived Power Pacet (mode1)(以下、RPP(1))として、送電装置100へ送信する(312)。この時の受電電力値をPr1とする。送電装置100はRPP(1)を受信したときの送電装置100内部の送電電力を測定する。この時の送電電力をPt1とする。送電装置100は受電装置120へACKを送信した後(313)、送電装置100のメモリ部107に送電電力がPt1であり、受電電力がPr1である点200を記憶する。
【0050】
ACKを受信すると、受電装置120は電圧制御部122の出力を負荷(充電回路121とバッテリ126など)に供給する。ここで、受電装置120は負荷に電力を供給するために送電装置100へ送電電力の増加を要求するControl Error Pacektを送信する(314)。本実施形態では、Control Error Packetが送電電力の増加を示す場合はCE(+)、送電電力の維持を示す場合はCE(0)、送電電力の低下を示す場合はCE(-)と表現する。
【0051】
受電装置120は、負荷へ電力を供給するためにCE(+)を送電装置100へ送信した後、受電電力を送電装置100へ送信する(315)。具体的には、受電装置120は、電圧制御部122の出力を負荷(充電回路121とバッテリ126など)に供給した状態であり、かつCalibration処理中であることを示すmode2における受電電力を、Received Power Pacet (mode2)(以下、RPP(2))として、送電装置100へ送信する。この時の受電電力値をPr2とする。
【0052】
送電装置100はRPP(2)を受信したときの送電装置100内部の送電電力を測定する。この時の送電電力をPt2とする。送電装置100は受電装置120へACKを送信した後(316)、送電装置100内部のメモリ部107に送電電力がPt2であり、受電電力がPr2である点201を記憶する。そして、送電装置100は、点200と点201を結ぶ線(直線202)を算出する。受電装置120は、RPP(2)に対してACKを受信すると(316)、Calibration処理を終了する。
【0053】
Calibration処理を終了すると、受電装置120の制御部125は負荷に応じた電力調整を行うとともに、受電電力を送電装置100に通知する(S606)。送電装置100の制御部105は、受電装置120から受信した受電電力値Pを用いて電力損失Lを計算する(S509)。
【0054】
図3により具体的に説明する。Calibrationが終了した後、受電装置120は、負荷の消費電力の変動に応じて電力を調整するパケットであるCEPを定期的に送信する(317)。また、受電装置120は、定期的にRPPを送電装置100へ送信する(318)。ここで送信されるRRPは、受電装置120は電圧制御部122の出力を負荷(充電回路121とバッテリ126など)に供給している状態であり、かつCalibration処理中でないことを示すmode0における受電電力値Pを示すRPP(0)である。
【0055】
次に、送電装置100の判定部106は、RPP(0)で受信した受電電力値Pを用いて、図2(a)および図4(a)で説明した方法に基づいて電力損失Lに基づく異物検出を行う。FOPビットが1の場合とそうでない場合とで処理が分かれる。FOPビットが1の場合(S510でYES)は、第二、第三の閾値が設定されており、制御部105は受電電力値Pと第二、第三の閾値との比較により異物の検出結果を受電装置120に通知する(S511)。
【0056】
例えば、電力損失Lが第二の閾値と第三の閾値の間(直線400と直線402の間、または直線405と直線407の間)であったとする(第二の閾値>L≧第三の閾値)。この場合、判定部106は、「異物が存在する可能性がある」と判定し、このことを示すパケットを受電装置120に送信する(319)。Attentionパケットを用いて、「異物が存在する可能性がある」ことを示すことがあげられる。本実施形態では、当該パケットをAttention(Foreign Object existence Possibility)パケット(ATN(FOP))と定義する。なお、電力損失Lが第二の閾値以上であれば(L≧第二の閾値)、判定部106は「異物が存在する」と判定し、送電装置100は「異物が存在する」と判定したことを示すNAKパケットを受電装置120に送信する。また、電力損失が第三の閾値より小さければ(L<第三の閾値)、判定部106は「異物が存在しない」と判定し、受電装置120に対して、「異物が存在しない」と判定したことを示すACKパケットを送信する。
【0057】
なお、「異物が存在する可能性がある」という判定結果を受け付ける能力を受電装置120が有していることを確認できない場合には、第二の閾値、第三の閾値を用いた異物検出の判定を行わない。すなわち、S502で取得されたFOPビットが1でない場合(S510でNO)、送電装置100の判定部106は、第一の閾値と電力損失Lとを比較して異物の検出を行う(S512)。判定部106は、電力損失Lが第一の閾値以上であれば「異物が存在する」と判定し、NAKパケットを受電装置120に通知する。他方、電力損失Lが第一の閾値未満であれば「異物が存在しない」と判定し、ACKパケットを受電装置120に通知する。
【0058】
受電装置120は、受電電力値Pの通知に対する応答がACK、NAK、ATN(FOP)のいずれであるかに応じて処理を分岐する(S607)。ATN(FOP)パケットを受電すると、受電装置120は、受電電力を制限する(S608、323)。受電電力の制限を行う方法としては、例えば、
・受電装置120が送電装置100に対して送電停止を要求するEnd Power Transfer パケットを送信する、
・送電装置100とGuaranteed Powerを低減させるための交渉を行う、または、
・単に受電電力を低減させる、などがあげられる。受電装置120は、ATN(FOP)パケットではなくACKパケットを受信した場合は、充電が完了するまで受電を継続し(S609でNO)、後続するRPP(0)パケットまたはCEP(0)パケットを送信する。また、受電装置120は、NAKパケットを受信した場合、または、充電が完了した場合(S609でYES)、送電装置100に送電の停止を要求するEnd Power Transferパケットを送信する(S610)。
【0059】
以上のように、送電装置100は異物が存在する可能性があることを示すパケットを受電装置120に送信するようにしたので、受電装置120は受電電力を制限し送電電力によって異物が発熱するリスクなどを回避することができる。
【0060】
以上説明したように、上記実施形態によれば、電力損失に基づく異物検出方法において、異物が存在しないにも関わらす異物が存在すると判定したり、異物が存在するにも関わらず異物が存在しないと判定したりする誤検出を解決することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、図4(a)における不確かさΔa(矢印403)=Δb(矢印404)、Δc(矢印408)=Δd(矢印409)としたが、Δa≠Δb、Δc≠Δdとしてもよい。例えば、Δa(矢印403)、Δc(矢印408)をそれぞれΔb(矢印404)、Δd(矢印409)より大きくすると、異物が存在すると判定した場合に送電を制限(停止または送電電力を低減)する送電装置においてさらなる効果がある。例えば、送電装置100および受電装置120が高い耐熱性をもつ場合に、異物が存在すると判定する電力損失の閾値である第二の閾値(直線400、直線405)を大きくすることができる。この場合、送電電力により異物が発熱したとしても、耐熱性が低い場合と比較して、より大きな電力の送受電を許容することができるという効果がある。
【0062】
また、逆にΔa(矢印403)、Δc(矢印408)をそれぞれΔb(矢印404)、Δd(矢印409)より小さくすれば、異物が存在すると判定した場合に送電を制限(停止または送電電力を低減)する送電装置においてさらなる効果がある。例えば、送電装置100または受電装置120が異物の発熱にセンシティブ場合に、異物が存在すると判定する電力損失の閾値である第二の閾値(直線400、直線405)を小さくすることができる。結果、送電電力により異物が発熱した時に、耐熱性が大きい場合と比較して、より小さい発熱で送受電を停止することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、第二の閾値および第三の閾値の両方を設定するとして説明したが、第二の閾値または第三の閾値のいずれかが設定されるようにしてもよい。また、上記実施形態では、受電装置120の最大電力(Maximum Power)に基づいて、第二の閾値と第一の閾値の間の大きさおよび第三の閾値と第二の閾値の間の大きさであるマージンを決定するようにしたがこれに限られるものではない。例えば、Guaranteed Powerの大きさに基づいてマージンが設定されるようにしてもよく、上記実施形態と同様の効果がある。
【0064】
また、上記マージンは、受電装置120が逐次送電するRPP(0)に格納されている受電電力に基づいて設定されてもよい。Maximum PowerおよびGuranteed Powerは受電装置120がバッテリ126に充電している間は固定であるが、Received Power Packet(mode0)に格納されている受電電力は都度変化する。送電装置100がReceived Power Packet(mode0)に格納されている現在の受電電力に基づいて上記第一~第三の閾値の設定を行うことで、時々の送受電電力に合わせて第二の閾値および第三の閾値を柔軟に設定することができるという効果がある。
【0065】
また、送電装置および受電装置が準拠する無線電力伝送方式は、WPC規格で規定された方式に限られず、他の電磁誘導方式、磁界共鳴方式、電界共鳴方式、マイクロ波方式、レーザー等を利用した方式であってもよい。
【0066】
なお、上述した送電装置100、受電装置の処理は、コンピュータがプログラムを実行することで実現され得るが、それらの処理の少なくとも一部がハードウェアにより実現されてもよい。ハードウェアにより実現する場合、例えば、所定のコンパイラを用いることで、各ステップを実現するためのプログラムからFPGA上に自動的に専用回路を生成すればよい。FPGAとは、Field Programmable Gate Arrayの略である。また、FPGAと同様にしてGate Array回路を形成し、ハードウェアとして実現するようにしてもよい。
【0067】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0068】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0069】
100:送電装置、101:電源部、102:送電部、103:送電コイル、104,124:通信部、105,125:制御部、106:判定部、107,127:メモリ部、120:受電装置、121:充電回路、122:電圧制御部、123:受電コイル、126:バッテリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6