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特許7457509リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/44 20210101AFI20240321BHJP
   D04H 1/4334 20120101ALI20240321BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20240321BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240321BHJP
【FI】
H01M50/44
D04H1/4334
H01M50/423
H01M50/489
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020008927
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021118055
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520028531
【氏名又は名称】デュポン セイフティー アンド コンストラクション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】西森 雄平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 学
(72)【発明者】
【氏名】市村 拓己
(72)【発明者】
【氏名】和田 典弘
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-292289(JP,A)
【文献】国際公開第2001/093350(WO,A1)
【文献】特開2002-266281(JP,A)
【文献】特開2005-268401(JP,A)
【文献】特開2012-222266(JP,A)
【文献】特開2012-221768(JP,A)
【文献】特開2016-129094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/44
D04H 1/4334
H01M 50/423
H01M 50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に介在し、電解液を保持するためのパラアラミド繊維を含む電気化学素子用セパレータであって、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90質量%以上であり、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20~30%であり、かつ、繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70~80%であることを特徴とする、電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
厚さが10~30μmである、請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
空隙率が50~80%である、請求項1又は2に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項4】
最大孔径が0.15~0.40μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項5】
平均繊維長が0.7~1.0mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電気化学素子用セパレータを含む電気化学素子。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池である、請求項6に記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用セパレータ及び該セパレータを用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子、特にリチウムイオン二次電池は、近年、電気自動車やハイブリッド自動車の電源として使用されており、CO2削減などの環境規制の高まりから今後も市場拡大は続くと予想されている。こういった車載用途に用いられるリチウムイオン二次電池には、従来の小型リチウムイオン二次電池より、急速充放電、高容量化、長寿命化に加え、過酷な状況においても破裂や発火しないような高い安全性が求められる。
リチウムイオン二次電池を含む電気化学素子において、セパレータの主な役割は、一対の電極の隔離と電解液の保持である。一対の電極を隔離するために、セパレータは低抵抗でありながらも、高い遮蔽性を有することが求められる。また、電解液の保持のために、セパレータは電解液との高い親和性が求められている。電解液との親和性が低い場合、電池の生産性が低下するだけでなく、電解液量を十分に保持することが困難であるため、電池の寿命が短くなってしまう。さらに、近年の高容量化の要求に応えるために、セパレータにはさらなる薄型化が求められている。
セパレータの低抵抗化はリチウムイオン二次電池の急速充放電や長寿命化へつながる。充電もしくは放電が行われる際、抵抗が大きいと、抵抗による損失が増大する。また、この損失により熱が発生し、発生した熱は電池寿命が短くなる要因となる。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池用セパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレンからなるポリオレフィン微多孔膜が使用されてきた。最近では電池の急速充放電に対応するため、叩解された溶剤紡糸再生セルロースで構成された不織布セパレータも使用されている。電池の急速充放電には、電極材料や電解液等の各種部材の改良が活発に行われており、セパレータにも更なる低抵抗化が求められている。
リチウムイオン二次電池は、安全対策の一つとして、ポリオレフィン微多孔膜のシャットダウン機能と呼ばれる機能で安全性を確保してきた。シャットダウン機能とは、電池が何らかの異常によって発熱した場合、セパレータの空隙が溶け塞がることで、抵抗が上昇し電池反応を停止させる機能のことである。しかし、過充電時や外部短絡時などあまりにも急激な発熱が起きた場合は、セパレータ全体が溶融し、極間にセパレータが存在しなくなるため、内部短絡し熱暴走を引き起こす可能性があった。これはメルトダウンと呼ばれる現象である。
車載用途に用いられる電池は容量が大きいため、メルトダウンが起こると、電池が破裂や発火し、人命に関わる恐れがある。そのため、最近では、急激な発熱が起きた場合においても一対の電極を確実に隔離できる高耐熱性のセパレータが求められている。
【0004】
以上述べたように、リチウムイオン二次電池用セパレータとして、厚さが薄く、低抵抗でありながらも、遮蔽性が高く、また、電池の急激な発熱においても熱暴走に至らない耐熱性セパレータが求められている。
これまで、リチウムイオン二次電池用セパレータとしては、以下に示すようなセパレータが提案されている。
【0005】
特許文献1において、ポリオレフィン微多孔膜が提案されている。しかし、ポリオレフィン系樹脂がセルロースやアラミドなどと比べ耐熱性が低いため、過充電時や外部短絡時など急激な発熱が起きた場合はメルトダウンを引き起こす可能性があった。
そのため、特許文献2において、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、無機粒子を含む多孔層を備えたセパレータが提案されている。しかし、特許文献1、2共に、ポリオレフィン微多孔膜は不織布からなるセパレータと比較して、電解液との親和性が低く、且つ空隙が少ないことから十分に電解液を保持せず、電池のサイクル特性が悪化してしまうという問題があった。
【0006】
特許文献3において、セパレータの抵抗を低減するため、溶剤紡糸再生セルロース繊維を用いて、叩解後の繊維の平均繊維径と、セパレータの曲路率とを制御することで、緻密性と抵抗、および電解液の濡れ性に優れた電気化学素子用セパレータが提案されている。溶剤紡糸再生セルロース繊維は、叩解処理を施すことによって、繊維径が1μm未満の微細なフィブリルが得られる。繊維径が細くなると、イオンの伝導経路が短くなることで、抵抗が下がる。しかし、さらなるセパレータの低抵抗化のために、溶剤紡糸再生セルロース繊維の幹部分の繊維径を細くしようとすると、繊維長が短くなりやすい。そのため、長繊維同士の絡みが少なくなり、強度の弱いセパレータとなってしまう場合があった。
また、セルロースは融点が無く、ポリオレフィン樹脂より耐熱性が高い材料であるが、260℃を超えると分解し始めるため、更なる耐熱性のある低抵抗なセパレータが求められている。
【0007】
特許文献4において、耐熱性に優れたセパレータとして、メタアラミドのフィブリッドと耐熱性短繊維を含有したセパレータが提案されている。フィブリッドとは、ポリマー溶液を高速で攪拌しつつ、沈殿剤中で凝固沈殿させることによって得られる合成パルプ状粒子である。フィブリッドは微細なパルプ状であるため、フィブリッドの含有によりセパレータの遮蔽性を向上させることができる。しかし、フィブリッドは相互に密着し孔を塞ぐため、イオン伝導経路が減少し、抵抗が悪化する。そのため、低抵抗と遮蔽性を両立できないという問題があった。
【0008】
特許文献5において、アラミドの極細繊維径で構成された不織布が提案されている。極細繊維径のアラミド繊維を紡糸し、そのウェブに延伸処理を行うことにより、強度が高いアラミド繊維不織布を得ることができる。しかし、セパレータの低抵抗化のために、繊維径を0.5μmより細く紡糸しようとすると、単繊維強度が弱くなることから、延伸処理をしても強度の向上効果が低く、強度の弱いセパレータとなってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-53245号公報
【文献】特開2011-168048号公報
【文献】国際公開第2017/57335号
【文献】特開平07-37571号公報
【文献】特開2013-139652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまでアラミド繊維から構成されるセパレータは、繊維径及び微細繊維の割合を制御するのではなく、アラミドフィブリッドやバインダー繊維などを加え、電池の製造時に破断しない程度の強度を持たせていた。しかし、フィブリッドやバインダー繊維は相互に密着し孔を塞ぐため、イオン伝導経路が減少し、抵抗が悪化していた。
また、従来のセルロース繊維から構成されるセパレータは、近年要求される遮蔽性、抵抗、強度を全て満足することが困難であった。溶剤紡糸再生セルロース繊維では、繊維径を細くしてさらなる低抵抗化を求めた場合、短繊維化も同時に起こることによって繊維同士の絡みが少なくなり、セパレータの強度が低下する。
パラアラミド繊維は剛直且つ高強度であるため、セルロース繊維と比較して叩解しても短繊維化・細繊維化が進みにくい。このため、これまでは、アラミドフィブリッドのようにパルプ状に微細化する手法が検討されてきた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、上記の課題を解決するセパレータを提供することを目的としたものである。すなわち、本発明のセパレータは、低抵抗でありながらも、強度と遮蔽性に優れ、また、電池の急激な発熱においても熱暴走に至らない耐熱性リチウムイオン二次電池用セパレータを提供することを目的としたものである。また、このセパレータを用いることによって、リチウムイオン二次電池の急速充放電、高容量化、長寿命化、破裂や発火しない安全性を可能とすることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、剛直且つ高強度であるパラアラミド繊維を叩解することで、繊維形状を維持しつつ短繊維化・細繊維化させることで、セパレータの遮蔽性を向上させ、抵抗を低減できることを見出した。
上述した課題を解決し、上述した目的を達成する一手段として、本発明は、以下の構成を備える。
即ち、本発明は、一対の電極間に介在し、電解液を保持するためのパラアラミド繊維を含む電気化学素子用セパレータであって、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90質量%以上であり、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20~30%であり、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70~80%であることを特徴とする。
そして例えば、前記セパレータの厚さは10~30μmであることが好ましく、空隙率は50~80%であることが好ましく、最大孔径は0.15~0.40μmであることが好ましく、平均繊維長は0.7~1.0mmであることが好ましい。
また、本発明は、上記の電気化学素子用セパレータを用いた電気化学素子であることを特徴とする。本発明の電気化学素子としては、リチウムイオン二次電池が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パラアラミド繊維を用いて、繊維径及び微細繊維の割合を制御することで、低抵抗でありながらも、強度と遮蔽性に優れ、また、電池の急激な発熱においても熱暴走に至らない耐熱性リチウムイオン二次電池用セパレータを提供することができる。また、該セパレータを用いることによって、急速充放電、高容量化、長寿命化、破裂や発火しない安全性を有することが可能なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る一発明の実施の形態例について詳細に説明する。
本発明のセパレータはパラアラミド繊維を含む。本発明のセパレータは、パラアラミド繊維以外に、メタアラミド繊維やフッ素系繊維などの他の合成繊維や、セルロース繊維などの天然繊維を含んでもよいが、パラアラミド繊維の割合が高いことが好ましく、例えば80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、さらには100質量%がパラアラミド繊維で構成されることが好ましい。本発明のセパレータは、発明としてのパラアラミド繊維の性質に影響する量で他の繊維を含まないという意味において、好ましくは実質的にパラアラミド繊維からなり、さらに好ましくは、本発明のセパレータはパラアラミド繊維からなる。
パラアラミド繊維はメタアラミド繊維と比べ、剛直且つ直線性の高い分子骨格を有し、高強度・高弾性など優れた繊維特性を有している。また、アラミド繊維は、他の合成繊維と比較して非常に耐熱性の高い繊維であり、アラミド繊維を用いると、セパレータの耐熱性を向上させることができる。さらに、リチウムイオン二次電池の電解液に用いられるカーボネート系溶媒に対する親和性は非常に高い。
【0015】
セルロースは融点が無く、ポリオレフィン樹脂より耐熱性が高い材料であるが、260℃を超えると分解し始めるため、高温での安定性を考えると、耐熱性が不足する可能性があった。その点、パラアラミドは融点が無く、分解温度も500℃を越えるため、セルロースと比較しても高耐熱性であり好ましい。
上記したセルロース繊維の理由と同様に、耐熱性の観点から、他の天然繊維、あるいはアラミド繊維以外の合成繊維との比較においてもパラアラミド繊維が好ましい。その他にアラミド繊維と同等の耐熱性を有する繊維として、フッ素系の繊維が挙げられるが、電解液との馴染みやすさを考慮すると、セパレータを構成する繊維としてはパラアラミド繊維がより適している。
【0016】
本発明のセパレータは、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90質量%以上、好ましくは94質量%以上、より好ましくは96質量%以上、特に好ましくは97質量%以上である。繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量を上記の値にすることにより、低抵抗と遮蔽性を両立できる。繊維径が0.50μmを超過する繊維の割合が増加した場合、繊維が太い箇所ではイオン伝導経路が長くなり、抵抗が悪くなるため、電池の抵抗が悪化する。また、現実的に繊維径0.03μm未満に、繊維を細くすることはできない。
【0017】
従来から、繊維径の測定方法として、電子顕微鏡観察で行う方法が知られている。しかし、この方法では、例えばセルロースナノファイバーなどの微細な繊維の繊維径を測定する場合、高倍率で観察する必要がある。高倍率で観察する場合、観察視野が狭いため、セパレータ全体の情報を得るためには数多くの測定が必要である。また、測定値は測定者及び測定毎で異なる可能性があり、繰り返し精度が高い測定方法とは言えない。繊維幅(繊維径)の測定が可能な繊維長測定機も市販されているが、CCDカメラ等を用いて光学的に計測する装置であるため、電子顕微鏡と比べると分解能が低く、1μm未満といった微細な繊維の径を測定するのには適さない。
そこで本発明における繊維径は、高い精度で測定するためには遠心沈降法による手法を用いて測定することが好ましい。遠心沈降法は、球状物質の粒度分布を測定する際に用いられる方法であり、JISZ8823-2〔液相遠心沈降法による粒子径分布の測定方法-第2部:光透過式遠心沈降法〕に規定される方法である。この方法を用いることで、1μm以下の非常に細い繊維径を測定できる。
また、繊維径0.03~0.50μmの割合は、測定されたデータから、0.03~0.50μmの範囲に含まれる繊維の重量加重含有量の合計値を、測定した全ての範囲に含まれる重量加重含有量の合計値で除算して求めることができる。
【0018】
本発明のセパレータは、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20~30%、好ましくは24~30%、より好ましくは26~30%、特に好ましくは28~30%であり、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70~80%、好ましくは70~76%、より好ましくは70~74%、特に好ましくは70~72%である。上記のような範囲とすることにより、セパレータの強度を低下させることなく、遮蔽性を向上させることができる。
繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20%を下回り、且つ繊維長0.20~5.00mmの繊維本数の割合が80%を上回ると、短繊維より長繊維が多く含まれることにより、セパレータの遮蔽性が低くなり、電池のショートが起こるおそれがある。繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が30%を上回り、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70%を下回ると、短繊維が増加することで、長繊維同士の絡みが少なくなるため、セパレータの強度が低下し、電池の製造工程においてセパレータの破断による捲回不良が発生するおそれがある。また、繊維長5.00mm以上の繊維を含有していると、地合の均質性が損なわれ、局所的に絡み合いの少ない箇所があることから、セパレータの強度が弱くなり易い。そのため、電池の製造工程において、セパレータの破断による捲回不良が発生するおそれがある。
【0019】
本実施の形態例の長さ加重の繊維長分布における0.05mm以上、5.0mm未満の繊維本数の割合は、JISP8226-2「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法-第2部:非偏光法」(ISO16065-2)に準拠した測定機であるKajaani FiberLab(メッツォ オートメーション社製)にて測定することが可能であり、長さ加重によって計算した繊維長の繊維本数を、測定した全ての繊維本数で除して、百分率をもって繊維本数の割合とされる。
【0020】
本発明のセパレータの繊維径、繊維長に適したパラアラミド繊維は特に限定されず、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレン-ジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)などのパラアラミド又はそれに一定量(例えば、10重量%未満)のジアミンや二酸クロリドを共重合させたものなどが使用できるが、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを主成分とし、ポリビニルピロリドンを加えて紡糸したパラアラミド繊維が好ましい。前記パラアラミド繊維を叩解することで、本発明に適したセパレータを得ることができる。繊維をパルプにすることを叩解(Refining)といい、叩解機をリファイナー(Refiner)という。一般に、叩解の目的は、繊維の膨潤、繊維の切断、繊維のフィブリル化の3点にある。繊維の切断を主とする叩解を遊離叩解、繊維のフィブリル化を主とする叩解を粘状叩解という。叩解法のいずれを採用するかによって、選ぶリファイナーの形式、刃形状、運転条件などが異なる。例えば、叩解には、シングルディスクリファイナーやダブルディスクリファイナー、PFIミル等の従来用いられている設備を特に限定なく使用できる。例えば、PFIミルを用いる場合、純水を加え試料濃度5%とした前記パラアラミド繊維をJISP8221-2「パルプ-こう解方法-第2部:PFIミル法」(ISO5264-2)に準拠した叩解機である標準型PFIミル(熊谷理機工業株式会社製)にて、ロールとハウジングの間隙0.1mmで叩解し湿式抄紙することで、本発明に適したセパレータを得ることができる。なお、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量を90質量%以上、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合を20~30%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70~80%とできれば、叩解設備、及び叩解条件には特に限定はない。なお、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量を90質量%以上、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合を20~30%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70~80%とできれば、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを主成分とし、ポリビニルピロリドンを加えて紡糸したパラアラミド繊維に限定する必要はない。
【0021】
本実施の形態例のセパレータの厚さは、5~35μmが好ましく、より好ましくは7~30μmであり、特に好ましくは10~20μmである。厚さが5μmを下回ると、セパレータの強度が弱く、電池の製造工程においてセパレータの破断による捲回不良が発生するおそれがあるうえに、セパレータの遮蔽性が低くなり、電池のショートが起こるおそれがある。また、厚さが35μmを超過すると、電池の極間距離が長くなることから、電池の内部抵抗が悪化する。また、セパレータが厚いため、電池の小型化や高容量化が困難となる。
【0022】
セパレータの空隙率は45~85%が好ましく、より好ましくは50~80%であり、特に好ましくは60~75%である。空隙率45%未満では、イオン伝導経路や電解液の保持量の減少により、電池の抵抗や寿命特性が悪化してしまう。空隙率85%を超過する場合は、セパレータの遮蔽性が低下するため、電池のショート不良が発生するおそれがある。
【0023】
本実施の形態例のセパレータの坪量は、4~24g/m2が好ましく、より好ましくは4~16g/m2であり、特に好ましくは4~10g/m2である。坪量が4g/m2未満になると、単位体積当りの繊維量が少なくなるため、セパレータの強度が弱く、電池の製造工程においてセパレータの破断による捲回不良が発生するおそれがある。坪量が24g/m2以上になると、単位体積当りの繊維量が多くなるため、電池の内部抵抗が悪化する。
【0024】
セパレータの最大孔径は0.10~0.45μmが好ましく、より好ましくは0.15~0.40μmであり、特に好ましくは0.30~0.40μmである。最大孔径が0.10μm未満では、セパレータ中の孔径が小さくなり、イオン伝導がしにくくなるため、電池の抵抗が悪化してしまう。最大孔径が0.45μmを超過する場合はショート不良が起こりやすくなる。
【0025】
セパレータを構成しているパラアラミド繊維の長さ加重平均繊維長は、セパレータの強度を考慮して、0.6~1.2mmになることが好ましく、より好ましくは0.7~1.0mmであり、特に好ましくは0.7~0.9mmである。ここで、長さ加重平均繊維長は、JISP8226-2「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法-第2部:非偏光法」(ISO16065-2)に準拠し、0.2mm未満の長さの繊維を含まない値とする。
平均繊維長が0.6mmより短い場合は、繊維長が短くなることで湿紙強度が弱くなり、セパレータの抄紙工程において、セパレータを製造できない可能性がある。また、製造できたとしても、強度が弱く、電池の製造工程でセパレータが破断するおそれがある。また、平均繊維長が1.2mmより長い場合は、地合の均質性が損なわれ、局所的に絡み合いの少ない箇所があることから、セパレータの強度が弱くなり易い。そのため、電池の製造工程において、セパレータの破断による捲回不良が発生するおそれがある。
【0026】
セパレータは、スパンレース製法、エアスルー製法、抄紙法などの任意の方法により湿式不織布とすることができるが、例えば、抄紙法によりシート形成した湿式不織布とすることが好ましい。抄紙法によりシート形成する場合、長網抄紙、短網抄紙、円網抄紙、及びそれらの組み合わせなどを、特に限定なく採用できる。長網抄紙、もしくは短網抄紙された層は、非常に細く短い繊維を捕捉しやすいため、好ましい。また、シート形成後に、カレンダー処理によって厚さ、空隙率を調整してもよい。
なお、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量を90質量%以上、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合を20~30%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合を70~80%のセパレータとできれば、シートの成形手段に特に限定はなく、抄紙法に限定されるものではない。
【0027】
以上の構成を採用することにより、本実施の形態例は、低抵抗でありながらも、強度と遮蔽性に優れ、また、電池の急激な発熱においても熱暴走に至らない耐熱性リチウムイオン二次電池用セパレータを提供できる。また、該セパレータを用いることによって、急速充放電、高容量化、長寿命化、破裂や発火しない安全性を有することが可能なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0028】
本発明の電気化学素子用セパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、セパレータ部分に有機電解液を含浸保持させ、両極間を該セパレータで隔離することによって構成することができる。正極材として、一般的には、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、及びそれらを組み合わせたものをバインダーにより集電体である金属箔表面に塗布結着させた電極が使用される。負極材として、一般的には黒鉛やグラファイトをバインダーにより集電体である金属箔表面に塗布結着させた電極が使用される。有機電解液として、一般的には、プロピレンカーボネートやエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の有機溶媒に、リチウムイオンと、テトラフルオロボレートやヘキサフルオロホスファート、トリフルオロメタンスルホン酸等のアニオン種の塩を溶解したものがある。しかし、両極材や電解液は、以上の例及びその組み合わせに限定されるものではなく、通常使用されるものであれば、いずれでも良い。
【実施例
【0029】
本実施の形態の電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」とも呼ぶ)の特性の具体的な測定は、以下の条件及び方法で行った。
[厚さ]
「JIS C 2300-2『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器及び測定方法 a外側マイクロメータを用いる場合」のマイクロメータを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法でセパレータの厚さを測定した。
[密度]
「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 7.0 A密度」のB法に規定された方法で、絶乾状態のセパレータの密度を測定した。
[空隙率]
空隙率は、セパレータの密度と、セパレータを構成する材料の比重との割合から、下記式1により算出した。
式1:空隙率 = (1 - (D1/D2)) × 100
ここで、D1はセパレータの密度、D2はセパレータを構成する材料の比重である。
[繊維径]
繊維径及び繊維径の割合は、JISZ8823-2〔液相遠心沈降法による粒子径分布の測定方法-第2部:光透過式遠心沈降法〕に準拠した測定機である粒子径分布測定装置(日本ルフト株式会社製CPS Disc Centrifuge)を用いて測定した。
【0030】
[繊維長]
平均繊維長及び繊維長の割合は、JISP8226-2「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法-第2部:非偏光法」(ISO16065-2)に準拠した測定機であるKajaani FiberLab(メッツォ オートメーション社製)を用いて測定した、長さ加重平均繊維長である。なお、JIS-P8226-2に準拠し、0.2mm未満の長さの繊維は平均繊維長の算出に含めない。
[最大孔径]
空孔径は、「ASTM F316-03,JIS K3832『精密ろ過膜エレメント及びモジュールのバブルポイント試験方法』3.(1)フィルタディスクバブルポイント試験装置」に準拠した装置(本実施の形態例では、キャピラリーフローメーターCFP-1200-AEXL-ESA(Porous Materials,Inc社製)を用いた)にて測定した最大孔径である。試験液としてGALWICK(Porous Materials,Inc社製)を用いた。
【0031】
[リチウムイオン二次電池の作製]
正極材として、市販のリチウムイオン二次電池用のコバルト酸リチウム電極を、負極材として市販のリチウムイオン二次電池用のグラファイト電極を用いた。この電極一対を、セパレータを介在させて捲回してリチウムイオン二次電池素子とし、有底円筒状のアルミ製ケースに収納し、プロピレンカーボネート溶媒に電解質としてトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを1mol/L溶解した電解液を注入し、プレス機で封止して、定格電圧4.2V、放電容量500mAhのリチウムイオン二次電池を作製した。
【0032】
[リチウムイオン二次電池作製時の作業性]
リチウムイオン二次電池を作製する際に、同一作製条件下でセパレータの破断発生回数を計測し、作製した電池数で除して、百分率をもって捲回不良率とした。
【0033】
[リチウムイオン二次電池の評価方法]
[抵抗]
内部抵抗は、「JIS C 8715-1 『産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム-第一部:性能要求事項』」に規定された、「6.5.2交流内部抵抗」に従い測定した。
【0034】
[ショート不良率]
電池のショート不良率は、定格電圧まで充電電圧が上がらなかった場合をショート不良とみなし、これらのショート不良となった電池数を、作製した電池数で除して、百分率をもってショート不良率とした。
【0035】
[過充電不良率]
過充電不良率を、セパレータの遮蔽性の指標とした。本試験は、通常のショート不良試験では差が現れないようなセパレータの遮蔽性の違いを数値化するためにおこなったものである。
具体的には、作製したリチウムイオン二次電池を60℃にて1.0Cレートで、3時間、5.0Vまで定電流充電した際に、定格電圧まで充電電圧が上がらなかった場合を不良とみなし、これらの不良となったリチウムイオン二次電池の個数を、試験したリチウムイオン二次電池数で除して、百分率をもって過充電不良率とした。
【0036】
[耐熱性]
満充電の電池を5個、恒温槽中に置き、30分で230℃に到達するように一定速度で昇温し、230℃で1時間保持した。その際、発火、発煙に至った電池の個数を計測した。発火・発煙に至った電池数が1個以上の場合は×、0個の場合は○とした。
【0037】
以上に説明した本発明に係る一発明の実施の形態例のセパレータに係る具体的な実施例を説明する。
本実施例のセパレータは、パラアラミド繊維を使用して、長網抄紙機あるいは短網抄紙機により抄紙法にて不織布を得た。即ち、湿式不織布でセパレータを構成した。
【0038】
〔実施例1〕
パラアラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド;1.7dtex)を叩解後、長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90.2質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が24.5%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が75.5%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ25μm、密度0.43g/cm3、坪量10.8g/m2、空隙率70%、最大孔径0.36μm、平均繊維長0.95mmであった。
【0039】
〔実施例2〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙した後、カレンダー加工することで、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90.3質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20.1%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が79.9%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ30μm、密度0.72g/cm3、坪量21.6g/m2、空隙率50%、最大孔径0.15μm、平均繊維長1.00mmであった。
【0040】
〔実施例3〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が97.4質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が29.5%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70.5%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ17μm、密度0.29g/cm3、坪量4.9g/m2、空隙率80%、最大孔径0.37μm、平均繊維長0.70mmであった。
【0041】
〔実施例4〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙した後、カレンダー加工することで、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90.2質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20.3%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が79.7%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ32μm、密度0.75g/cm3、坪量24.0g/m2、空隙率48%、最大孔径0.13μm、平均繊維長1.10mmであった。
【0042】
〔実施例5〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が97.5質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が29.2%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70.8%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ17μm、密度0.25g/cm3、坪量4.2g/m2、空隙率83%、最大孔径0.42μm、平均繊維長0.70mmであった。
【0043】
〔実施例6〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が97.6質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が29.6%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70.4%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ8μm、密度0.50g/cm3、坪量4.0g/m2、空隙率65%、最大孔径0.32μm、平均繊維長0.68mmであった。
【0044】
〔実施例7〕
叩解したパラアラミド繊維を短網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が97.5質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が29.5%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が70.5%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ10μm、密度0.40g/cm3、坪量4.0g/m2、空隙率72%、最大孔径0.38μm、平均繊維長0.70mmであった。
【0045】
〔比較例1〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が85.2質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20.3%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が79.7%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ25μm、密度0.43g/cm3、坪量10.8g/m2、空隙率70%、最大孔径0.45μm、平均繊維長0.98mmであった。
【0046】
〔比較例2〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙した後、カレンダー加工することで、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90.1質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が17.9%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が82.1%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ30μm、密度0.72g/cm3、坪量21.6g/m2、空隙率50%、最大孔径0.17μm、平均繊維長1.00mmであった。
【0047】
〔比較例3〕
叩解したパラアラミド繊維を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が98.7質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が32.7%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が67.3%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ17μm、密度0.29g/cm3、坪量4.9g/m2、空隙率80%、最大孔径0.40μm、平均繊維長0.70mmであった。
【0048】
〔比較例4〕
叩解したパラアラミド繊維70質量%と叩解した溶剤紡糸再生セルロース繊維であるリヨセル繊維30質量%を混合した原料を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が74.1質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20.4%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が79.6%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ25μm、密度0.43g/cm3、坪量10.8g/m2、空隙率70%、最大孔径0.45μm、平均繊維長0.90mmであった。
【0049】
〔比較例5〕
叩解したパラアラミド繊維70質量%と繊維径3μmのPET繊維30質量%を混合した原料を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量63.4質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が14.5%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が85.5%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ25μm、密度0.43g/cm3、坪量10.8g/m2、空隙率70%、最大孔径0.52μm、平均繊維長0.95mmであった。
【0050】
〔比較例6〕
叩解したメタアラミド繊維を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が0質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が0%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が100%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ50μm、密度0.35g/cm3、坪量17.5g/m2、空隙率76%、最大孔径3.40μm、平均繊維長1.20mmであった。
【0051】
[従来例1]
ポリエチレン製微多孔膜をセパレータとした。このセパレータは厚さ20μm、密度0.57g/cm3、坪量11.4g/m2の空隙率は40%、最大孔径は0.05μmであった。
【0052】
[従来例2]
ポリプロピレン製微多孔膜をセパレータとした。このセパレータは厚さ25μm、密度0.50g/cm3、坪量12.5g/m2の空隙率は45%、最大孔径は0.06μmであった。
【0053】
[従来例3]
叩解した溶剤紡糸再生セルロース繊維を長網抄紙し、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が37.5質量%、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が5.2%、且つ繊維長0.20mm以上、5.00mm未満の繊維本数の割合が94.8%のセパレータを得た。このセパレータは厚さ20μm、密度0.45g/cm3、坪量9.0g/m2、空隙率70%、最大孔径0.90μm、平均繊維長0.78mmであった。
【0054】
[従来例4]
メタアラミド繊維70質量%とメタアラミドフィブリッド30質量%を混合した原料を長網抄紙し、セパレータを得た。このセパレータは厚さ40μm、密度0.40g/cm3、坪量16.0g/m2、空隙率72%、最大孔径2.00μmであった。
【0055】
以上記載の実施例1乃至実施例7、比較例1乃至比較例6、従来例1乃至従来例4の各例のセパレータの構成、諸物性、リチウムイオン二次電池作製時の作業性、リチウムイオン電池の評価結果を以下の表に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1のセパレータは厚さ25μm、密度0.43g/cm3である。このセパレータを用いて製作したリチウムイオン二次電池は性能を満足していることがわかる。一方、比較例1のセパレータも同じく厚さ25μm、密度0.43g/cm3である。比較例1のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池では、実施例1のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、内部抵抗が68mΩと高くなっている。これは繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が85.2質量%と実施例1より少ないことから、太い繊維の含有量が多い。繊維の太い箇所ではイオン伝導経路が長くなり、抵抗が悪くなるため、電池の内部抵抗が悪化したと考えられる。
以上、実施例1と比較例1から、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が90質量%以上の範囲にあることが好ましいとわかる。
【0058】
実施例2のセパレータは厚さ30μm、密度0.72g/cm3である。このセパレータを用いて製作したリチウムイオン二次電池は性能を満足していることが分かる。一方、比較例2のセパレータも同じく厚さ30μm、密度0.72g/cm3である。比較例2のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池では、実施例2のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、ショート不良が0.3%、過充電不良が1.7%発生している。これは繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が17.9%と実施例2より少ないことから、短繊維より長繊維が多く含まれることにより、セパレータの遮蔽性が低くなり、ショート不良や過充電不良が発生したと考えられる。
【0059】
実施例3のセパレータは厚さ17μm、密度0.29g/cm3である。このセパレータを用いて製作したリチウムイオン二次電池は性能を満足していることが分かる。一方、比較例3のセパレータも同じく厚さ17μm、密度0.29g/cm3である。比較例3のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池では、実施例3のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、捲回不良が5.9%発生している。これは繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が32.7%と実施例3より多いことから、短繊維が増加することで、長繊維同士の絡みが少なくなるため、セパレータの強度が低下し、電池の製造工程においてセパレータの破断による捲回不良が発生したと考えられる。
以上、実施例2および比較例2、実施例3および比較例3から、繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が20~30%、且つ繊維長0.20~5.00mmの繊維本数の割合が70~80%の範囲にあることが好ましいとわかる。
【0060】
実施例4のセパレータは、厚さ32μm、密度0.75g/cm3である。このセパレータを用いて製作したリチウムイオン二次電池は性能を満足していることがわかる。また、実施例4と実施例2では、実施例2を用いたリチウムイオン二次電池のほうが、内部抵抗が低減している。これは、実施例2は、実施例4よりも厚さが薄く、空隙率が高く、最大孔径が大きいことから、イオン伝導がしやすくなったためと考えられる。また、実施例4と実施例2では、実施例2のセパレータの方が、捲回不良率が低減している。これは、実施例2は、実施例4よりも平均繊維長が短いことから、地合の均質性が良くなり、局所的な繊維の絡みの少ない部分が少なくなったためと考えられる。
【0061】
実施例5のセパレータは、厚さ17μm、密度0.25g/cm3である。このセパレータを用いて製作したリチウムイオン二次電池は、性能を満足していることがわかる。また、実施例5と実施例3では、実施例3のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池はショート不良、過充電不良が発生していない。これは、実施例3では、実施例5よりも空隙率が低く、最大孔径が小さいことから、セパレータの遮蔽性が向上したためと考えられる。
【0062】
実施例6、実施例7のセパレータは、厚さ8μmと10μm、密度0.50g/cm3と0.40g/cm3である。このセパレータを用いて製作したリチウムイオン二次電池は、性能を満足していることがわかる。また、実施例6と実施例7では、実施例7のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、ショート不良、過充電不良が発生していない。これは、実施例7では、実施例6よりも厚さが厚いことから、セパレータの遮蔽性が向上したためと考えられる。また、実施例6と実施例7では、実施例7のセパレータは捲回不良が発生していない。これは、実施例7は、実施例6よりも平均繊維長が長く、長繊維が増加することで、長繊維同士の絡みが多くなり、セパレータの強度が向上したためと考えられる。
【0063】
比較例4のセパレータは、実施例1と同じく厚さ25μm、密度0.43g/cm3、坪量10.8g/m2である。比較例4のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池では、実施例1のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、内部抵抗が63mΩと高くなっている。これは、叩解した溶剤紡糸再生セルロース繊維の幹部分の太い繊維が含有しているためと考えられる。繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量は74.1質量%と低くなっている。繊維の太い箇所ではイオン伝導経路が長くなり、抵抗が悪くなったため、電池の内部抵抗が悪化したと考えられる。
【0064】
比較例5のセパレータは、実施例1と同じく厚さ25μm、密度0.43g/cm3、坪量10.8g/m2である。比較例5のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池では、実施例1のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、内部抵抗が72mΩと高くなっている。これは、繊維径3μmのPET繊維が含有しているためと考えられる。繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量は83.7質量%と低くなっている。繊維の太い箇所ではイオン伝導経路が長くなり、抵抗が悪くなったため、電池の内部抵抗が悪化したと考えられる。
【0065】
比較例6のセパレータは繊維長0.05mm以上、0.20mm未満の繊維本数の割合が0%で微細化しなかった。これはメタアラミド繊維のためと推測している。パラ系はベンゼン環が直線上に並んだ結晶性のよい分子構造であるのに対し、メタ系は分子鎖が折れ曲がった構造をしているため、微細化しなかったと考えられる。そのため、比較例6のセパレータは強度が低く、捲回不良が多発したため、電池試験を行わなかった。
【0066】
従来例1のセパレータはポリエチレン製微多孔膜、従来例2のセパレータはポリプロピレン製微多孔膜で空隙が少ない。そのため、従来例1、2のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、各実施例のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、電池の内部抵抗が悪化した。また、従来例1のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、耐熱性試験で全ての電池で発火・発煙が生じた。耐熱性試験は、ポリエチレンの融点以上の過酷な条件であったために、セパレータ全体が溶融し、極間にセパレータが存在しなくなるため、内部短絡し、発火・発煙したと考えられる。また、従来例2のセパレータを用いたリチウムイオン電池も耐熱性試験で全ての電池で発火・発煙が生じた。ポリエチレンより耐熱性に優れるポリプロピレンであったが、融点以上の過酷な条件であったために、従来例1と同様に内部短絡し、発火・発煙したと考えられる。
【0067】
従来例3のセパレータは、叩解した溶剤紡糸再生セルロース繊維から構成されている。しかし、繊維径0.03~0.50μmの繊維の含有量が各実施例と比べ、37.5質量%と少なく、太い繊維が散在していることがわかる。そのため、従来例3のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、各実施例のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、電池の内部抵抗が悪化した。また、耐熱性試験は問題なかったが、試験終了後、電池を分解すると、セパレータの変色が見られた。そのため、長期安定性が懸念される。
【0068】
従来例4のセパレータは、アラミドフィブリッドを配合することで、遮蔽性が高くなっている。しかし、フィブリッドは相互に密着し、孔を塞ぐため、イオン伝導経路が減少する。そのため、従来例4のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、各実施例のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べ、電池の内部抵抗が大幅に悪化した。
【0069】
以上説明した通り、本実施の形態例によれば、パラアラミド繊維を用いて、繊維径及び微細繊維の割合を制御することで、低抵抗でありながらも、強度と遮蔽性に優れ、また、電池の急激な発熱においても熱暴走に至らない耐熱性リチウムイオン二次電池用セパレータを提供できる。また、このセパレータを用いることで、リチウムイオン二次電池の急速充放電、高容量化、長寿命化、破裂や発火しない安全性を達成することができる。