(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】保護膜形成フィルム、保護膜形成用複合シートおよび装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240321BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240321BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240321BHJP
C09J 7/10 20180101ALI20240321BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240321BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240321BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240321BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240321BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20240321BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240321BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240321BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L23/30 D
C09J7/10
C09J7/38
C09J201/00
C09J11/04
B32B7/022
B32B27/16
B32B27/20 Z
B23K26/00 B
(21)【出願番号】P 2020016594
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野島 一馬
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188201(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/082966(WO,A1)
【文献】特開2000-252176(JP,A)
【文献】特開平08-181267(JP,A)
【文献】特開2011-134942(JP,A)
【文献】特開平04-206855(JP,A)
【文献】特開2015-181170(JP,A)
【文献】特開2019-096913(JP,A)
【文献】国際公開第2018/154635(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230682(WO,A1)
【文献】特開2018-88529(JP,A)
【文献】特開平11-260675(JP,A)
【文献】特開2003-115424(JP,A)
【文献】特開2016-139642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 23/29
C09J 7/10
C09J 7/38
C09J 201/00
C09J 11/04
B32B 7/022
B32B 27/16
B32B 27/20
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護膜を形成するための保護膜形成フィルムであって、
260℃で5分加熱後の前記保護膜の表面粗さRa1が200nm以下であ
り、
前記保護膜における水の接触角が107°以下である保護膜形成フィルム。
【請求項2】
保護膜を形成するための保護膜形成フィルムであって、
260℃で5分加熱後の前記保護膜の表面粗さRa1が200nm以下であり、
前記保護膜形成フィルムが樹脂組成物から構成され、
前記保護膜形成フィルムがワーク裏面に貼付された後、前記保護膜形成フィルムまたは前記保護膜形成フィルムが保護膜化されて形成される保護膜に、マーキング部分の高さが0μmよりも高いレーザーマーキングが行われて使用される保護膜形成フィルム。
【請求項3】
260℃で5分加熱する前の前記保護膜の表面粗さRa0が35nm以上である請求項1または2に記載の保護膜形成フィルム。
【請求項4】
前記保護膜が、熱硬化物またはエネルギー線硬化物である請求項1から3のいずれかに記載の保護膜形成フィルム。
【請求項5】
前記保護膜が充填材を含む請求項1から4のいずれかに記載の保護膜形成フィルム。
【請求項6】
前記充填材が、平均粒径の異なる2種類以上の充填材からなる請求項5に記載の保護膜形成フィルム。
【請求項7】
支持シートに積層された、請求項1から6のいずれかに記載の保護膜形成フィルムを備える保護膜形成用複合シート。
【請求項8】
請求項1
、および、請求項2を引用しない請求項3から6のいずれかに記載の保護膜形成フィルム、または、
請求項2を引用しない請求項7に記載の保護膜形成用複合シートが備える保護膜形成フィルムを、ワーク裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムを保護膜化する工程と、
裏面に保護膜または保護膜形成フィルムを有する前記ワークを個片化して、複数の保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を得る工程と、
前記保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を基板上に配置する工程と、
基板上に配置された前記保護膜付きワークの加工物と、前記基板とを加熱する工程と、
を有する装置の製造方法。
【請求項9】
保護膜を形成するための保護膜形成フィルム、または、
支持シートと保護膜形成フィルムとが積層された保護膜形成用複合シートが備える保護膜形成フィルムを、ワーク裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムを保護膜化する工程と、
前記保護膜または前記保護膜形成フィルムに、マーキング部分の高さが0μmよりも高いレーザーマーキングを行う工程と、
裏面に保護膜または保護膜形成フィルムを有する前記ワークを個片化して、複数の保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を得る工程と、
前記保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を基板上に配置する工程と、
基板上に配置された前記保護膜付きワークの加工物と、前記基板とを加熱する工程と、を有
し、
前記保護膜形成フィルムは、260℃で5分加熱後の前記保護膜の表面粗さRa1が200nm以下であり、
前記保護膜形成フィルムが樹脂組成物から構成される、装置の製造方法。
【請求項10】
基板上に配置された前記保護膜付きワークの加工物と、前記基板とを加熱する工程の後に、保護膜付きワークの加工物の、曝露されている保護膜を封止部材で覆う工程を有する請求項8または9に記載の装置の製造方法。
【請求項11】
前記ワークがウエハであり、前記ワークの加工物がチップである請求項8から10のいずれかに記載の装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜形成フィルム、保護膜形成用複合シートおよび装置の製造方法に関する。特に、ウエハ等のワークまたはチップ等のワークの加工物を保護するために好適に使用される保護膜形成フィルムおよび当該保護膜形成フィルムを備える保護膜形成用複合シート、並びに、当該保護膜形成フィルムを用いる装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フリップチップボンディングと呼ばれる実装法により半導体装置を製造することが行われている。この実装法では、バンプ等の電極が形成された回路面を有する半導体チップを実装する際に、半導体チップの回路面側をチップ搭載部に反転(フェイスダウン)させて接合している。したがって、回路が形成されていない半導体チップの裏面側が露出する構造となる。
【0003】
このため、半導体チップの裏面側には、半導体チップを搬送時等の衝撃から保護するために、有機材料からなる硬質の保護膜が形成されることが多い。特許文献1は、保護膜にレーザーマーキングを行い、レーザーマーキング後のマーキング部とマーキング部以外とのコントラストが20%以上であることを開示している。
【0004】
ところで、半導体パッケージの小型化、高密度実装の観点から、回路、電極等が形成されたウエハレベルチップサイズパッケージ(WLCSP)用のウエハを個片化して、チップとしてWLCSPが製造される。このチップでは、電極等が形成されていない面に、チップと同形状の保護膜が形成されている。
【0005】
また、近年、機能の異なる複数のチップを1つのパッケージ内に配置するシステムインパッケージ(SiP)を利用することにより、半導体パッケージの小型化と高機能化との両立が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
システムインパッケージに、保護膜が形成されたチップ(たとえば、保護膜付きWLCSP)が搭載される場合、保護膜付きチップは、外部に曝露されている保護膜を封止樹脂で覆うように封止処理される。
【0008】
このような保護膜付きチップ(たとえば、保護膜付きWLCSP)が封止されたシステムインパッケージでは、信頼性試験において、封止樹脂と保護膜とが剥離して接着性が低下するという問題が生じた。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、保護膜が形成されたチップ等のワークの加工物がさらに樹脂により封止された場合であっても、封止樹脂と保護膜との接着信頼性を向上できる保護膜形成フィルムおよび保護膜形成用複合シート、並びに、当該保護膜形成用複合シートを用いて装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様は、以下の通りである。
[1]保護膜を形成するための保護膜形成フィルムであって、
260℃で5分加熱後の保護膜の表面粗さRa1が200nm以下である保護膜形成フィルムである。
【0011】
[2]保護膜における水の接触角が107°以下である[1]に記載の保護膜形成フィルムである。
【0012】
[3]260℃で5分加熱する前の保護膜の表面粗さRa0が35nm以上である[1]または[2]に記載の保護膜形成フィルムである。
【0013】
[4]保護膜が、熱硬化物またはエネルギー線硬化物である[1]から[3]のいずれかに記載の保護膜形成フィルムである。
【0014】
[5]保護膜が充填材を含む[1]から[4]のいずれかに記載の保護膜形成フィルムである。
【0015】
[6]充填材が、平均粒径の異なる2種類以上の充填材からなる[5]に記載の保護膜形成フィルムである。
【0016】
[7]支持シートに積層された、[1]から[6]のいずれかに記載の保護膜形成フィルムを備える保護膜形成用複合シートである。
【0017】
[8][1]から[6]のいずれかに記載の保護膜形成フィルム、または、[7]に記載の保護膜形成用複合シートが備える保護膜形成フィルムを、ワーク裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムを保護膜化する工程と、
裏面に保護膜または保護膜形成フィルムを有するワークを個片化して、複数の保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を得る工程と、
保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を基板上に配置する工程と、
基板上に配置された保護膜付きワークの加工物と、基板とを加熱する工程と、を有する装置の製造方法である。
【0018】
[9][1]から[6]のいずれかに記載の保護膜形成フィルム、または、[7]に記載の保護膜形成用複合シートが備える保護膜形成フィルムを、ワーク裏面に貼付する工程と、
貼付された保護膜形成フィルムを保護膜化する工程と、
保護膜または保護膜形成フィルムに、印字箇所の高さが0μmより大きいレーザーマーキングを行う工程と、
裏面に保護膜または保護膜形成フィルムを有するワークを個片化して、複数の保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を得る工程と、
保護膜または保護膜形成フィルム付きワークの加工物を基板上に配置する工程と、
基板上に配置された保護膜付きワークの加工物と、基板とを加熱する工程と、を有する装置の製造方法である。
【0019】
[10][8]または[9]に記載の基板上に配置された保護膜付きワークの加工物と基板とを加熱する工程の後に、保護膜付きワークの加工物の、曝露されている保護膜を封止樹脂で覆う封止処理工程を有する装置の製造方法である。
【0020】
[11]ワークがウエハであり、ワークの加工物がチップである[8]から[10]のいずれかに記載の装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、保護膜が形成されたチップ等のワークの加工物がさらに樹脂により封止された場合であっても、封止樹脂と保護膜との接着信頼性を向上できる保護膜形成フィルムおよび保護膜形成用複合シート、並びに、当該保護膜形成用複合シートを用いて装置を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る保護膜形成フィルムを保護膜化して得られる保護膜を有するチップの一例の断面模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る保護膜形成用複合シートの一例の断面模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る保護膜形成用複合シートの他の例の断面模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る保護膜形成用複合シートをウエハに貼付する工程を説明するための断面模式図である。
【
図5】
図5は、保護膜が形成されたウエハを個片化する工程を説明するための断面模式図である。
【
図6】
図6は、保護膜が形成されたチップをピックアップする工程を説明するための断面模式図である。
【
図7】
図7は、保護膜が形成されたチップを基板上に配置する工程を説明するための断面模式図である。
【
図8】
図8は、保護膜が形成されたチップと、他のチップとが配置された基板を示す断面模式図である。
【
図9】
図9は、基板に実装された保護膜が形成されたチップを封止樹脂により封止処理して得られるシステムインパッケージを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
【0024】
本明細書において、例えば「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0025】
支持シートとは、保護膜形成フィルムを支持するシートである。支持シートには、基材と粘着剤層とを含む積層体としての粘着シートと、基材単体と、が含まれる。本実施形態では、保護膜形成フィルムおよび保護膜との密着性の制御のし易さの観点、および、後述する保護膜の表面粗さRa1にも寄与するRa0の制御のし易さの観点から、支持シートとして粘着シートが好ましい。
【0026】
粘着シートは、基材および粘着剤層以外の他の構成層を含むことを妨げない。たとえば、基材と粘着剤層との間に中間層を備える構成であっても良く、粘着剤層側の基材表面には、基材表面と粘着剤層界面、または基材表面と中間層界面での密着性向上や低分子量成分の移行防止等を目的としプライマー層が形成されていてもよく、粘着剤層の表面には、使用時まで粘着剤層を保護するための剥離フィルムが積層されていてもよい。また、基材は単層であってもよく、緩衝層などの機能層を備えた多層であってもよい。
【0027】
ウエハ等のワークの「表面」とは回路、電極等が形成された面を指し、「裏面」は回路等が形成されていない面を指す。
【0028】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
【0029】
(1.保護膜形成フィルム)
本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、ワークに貼付され、保護膜化することにより、ワークまたはワークの加工物を保護するための保護膜を形成する。
【0030】
「保護膜化する」とは、保護膜形成フィルムを、ワークまたはワークの加工物を保護するのに十分な特性を有する状態にすることである。具体的には、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが硬化性である場合には、「保護膜化する」とは、未硬化の保護膜形成フィルムを硬化物にすることをいう。換言すれば、保護膜化された保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムの硬化物であり、保護膜形成フィルムとは異なる。
【0031】
硬化性保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせた後、保護膜形成フィルムを硬化させることにより、保護膜をワークに強固に接着でき、耐久性を有する保護膜を形成できる。
【0032】
一方、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが硬化性成分を含有せず非硬化の状態で使用される場合には、本実施形態に係る保護膜形成フィルムがワークに貼付された時点で、当該保護膜形成フィルムは保護膜化される。換言すれば、保護膜化された保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムと同じである。
【0033】
高い保護性能が求められない場合には、保護膜形成フィルムを硬化させる必要がないので、保護膜形成フィルムの使用が容易である。
【0034】
本実施形態では、保護膜形成フィルムは、硬化性であることが好ましい。したがって、保護膜は硬化物であることが好ましい。硬化物としては、たとえば、熱硬化物、エネルギー線硬化物が例示される。本実施形態では、保護膜は熱硬化物であることがより好ましい。
【0035】
また、保護膜形成フィルムは、常温(23℃)で粘着性を有するか、加熱により粘着性を発揮することが好ましい。これにより、保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせるときに両者を貼合できる。したがって、保護膜形成フィルムを硬化させる前に位置決めを確実に行うことができる。
【0036】
ワークは、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが貼付されて加工される板状体である。ワークとしては、たとえば、ウエハ、パネルが挙げられる。具体的には、半導体ウエハ、半導体パネルが挙げられる。ワークの加工物としては、たとえば、ウエハを個片化して得られるチップが挙げられる。具体的には、半導体ウエハを個片化して得られる半導体チップが例示される。この場合、保護膜は、ウエハの裏面側に形成される。
【0037】
保護膜形成フィルムは1層(単層)から構成されていてもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。保護膜形成フィルムが複数層を有する場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層を構成する層の組み合わせは特に制限されない。
【0038】
本実施形態では、保護膜形成フィルムは1層(単層)であることが好ましい。保護膜形成フィルムが複数層から構成されると、温度変化が発生する工程(リフロー処理時や装置の使用時)で、層間の熱伸縮性の違いから層間剥離や、表面粗さRa1の変化にも繋がる膜変形が発生するリスクがあるが、1層であるとそのリスクを低減できる。
【0039】
保護膜形成フィルムの厚みは、特に制限されないが、好ましくは、5μm以上100μm以下、7μm以上50μm以下、9μm以上30μm以下、11μm以上30μm以下、13μm以上25μm以下、14μm以上24μm以下である。
【0040】
厚みを上記の範囲内とすることにより、保護膜中の材料の厚み方向の動きが制限され、意図した保護膜の表面粗さRa0およびRa1が得られやすく、さらに、封止処理を行う際に、封止樹脂の流動の圧力による保護膜付きチップのズレ等の悪影響が生じにくい。
【0041】
なお、保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルム全体の厚みを意味する。たとえば、複数層から構成される保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルムを構成するすべての層の合計の厚みを意味する。
【0042】
以下では、ワークの加工物としてのチップに形成される保護膜を説明する。具体的には、
図1に示す保護膜付きチップ10を用いて、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが保護膜化されて形成される保護膜を説明する。
【0043】
図1に示すように、保護膜付きチップ10は、チップ6aの裏面側(
図1では上方側)に保護膜1aが形成され、チップ6aの表面側(
図1では下方側)に凸状電極6bが形成されている。
【0044】
チップ6aの表面側には回路が形成されており、凸状電極6bは回路と電気的に接続するように形成されている。後述するが、保護膜付きチップ10は、凸状電極6bが形成されている面がチップ搭載用基板と対向するように配置される。その後、所定の加熱処理(リフロー処理)により、凸状電極6bを介して、当該基板と電気的および機械的に接合され実装される。凸状電極6bとしては、バンプ、ピラー電極等が例示される。
【0045】
(1.1 保護膜の表面粗さ)
本実施形態では、
図1に示す保護膜1aを260℃で5分加熱した後において、保護膜1aの表面Sの表面粗さが200nm以下である。この表面粗さは、算術平均粗さRaとして表される。本実施形態では、260℃で5分加熱後の保護膜1aの表面Sの表面粗さをRa1とする。すなわち、Ra1は200nm以下である。
【0046】
260℃で5分加熱する処理は、保護膜付きチップ10をチップ搭載用基板に実装する際に行われる加熱処理を想定している。このような加熱処理を行った後、保護膜付きチップ10を樹脂により封止処理することがある。このような封止処理は、たとえば、複数のチップが1つのパッケージに封止されるシステムインパッケージ(SiP)を製造する際に行われる。
【0047】
260℃で5分加熱後の保護膜1aの表面Sの表面粗さRa1が200nm以下であることにより、保護膜と、保護膜付きチップ10を封止するための封止樹脂と、の接着信頼性が向上する。
【0048】
接着信頼性が向上する理由は明確ではないが、たとえば、以下のように推測される。260℃で5分加熱という処理は、保護膜に含まれる成分同士の相性に影響を与え、保護膜に含まれる成分の流動性にも影響を与えると考えられる。したがって、260℃で5分加熱後の保護膜の表面粗さは、加熱前に比べて変化することがある。表面粗さRa1が上記の範囲よりも大きい場合、保護膜の表面が平滑ではないので、封止樹脂が保護膜の凹凸に十分に入り込めず、封止樹脂に保護膜が十分に埋め込まれない。その結果、保護膜と封止樹脂との界面に空隙が生じる。この空隙には、空気または水分が存在している。空隙が存在する状態でパッケージを加熱すると、空気または水蒸気の膨張に起因して、空隙を起点とする保護膜と封止樹脂との剥離が生じる。したがって、保護膜と封止樹脂との接着信頼性が低下する傾向にある。
【0049】
また、表面粗さRa1が200nm以下であることにより、以下のような効果が得られることが期待される。
【0050】
WLCSP等では、パッケージの下面にバンプ等の凸状電極が配置されており、実装時に基板と接続される。したがって、保護膜側から光学系を用いた検査を行っても、基板との接続不良(未接続、ショート等)を検出することは困難である。また、透過X線装置を用いた検査では、ショート不良は検出できるものの、未接続不良は検出できない。
【0051】
そこで、両方の接続不良を検出するために、たとえば、X線を用いた3次元検査法であるラミノグラフィ法、トモシンセシス法が用いられる。このようなX線を用いた検査方法では、X線が入射される保護膜の表面粗さが小さい方が精度よく接続不良を検出することができる。したがって、接続不良検査の観点からも、表面粗さRa1が200nm以下であることが好ましい。
【0052】
表面粗さRa1は、好ましくは、150nm以下、125nm以下、100nm以下、80nm以下、60nm以下である。
【0053】
一方、表面粗さRa1は、好ましくは35nm以上、40nm以上、45nm以上である。Ra1の下限値を上記の値とすることにより、保護膜の表面が適度に荒れるため、封止樹脂の投錨効果が得られ、良好な接着信頼性が得られやすい。
【0054】
また、本実施形態では、260℃で5分加熱する前の保護膜1aの表面Sの表面粗さが35nm以上であることが好ましい。この表面粗さは、算術平均粗さRaとして表される。本実施形態では、260℃で5分加熱する前の保護膜1aの表面Sの表面粗さをRa0とする。すなわち、Ra0は35nm以上であることが好ましい。
【0055】
Ra0はリフロー処理前の保護膜の表面粗さを想定している。保護膜付きチップ10は、チップ搭載用基板上の所定の端子部上に配置されてからリフロー処理される。保護膜付きチップ10をチップ搭載用基板上に配置する方法としては、たとえば、吸着コレットを用いて、トレイ、テープ等に収納されている保護膜付きチップ10を吸着し、チップ搭載用基板上の所定の位置で保護膜付きチップ10を脱離する方法が例示される。この方法では、保護膜の表面Sが吸着コレットに吸着および脱離される。このとき、保護膜の表面Sがある程度粗い方が吸着コレットから保護膜がスムーズに脱離され、位置ズレ等が生じにくい。したがって、Ra0が上記の範囲である場合に、保護膜付きチップ10がチップ搭載用基板上に確実に配置され、実装不良が低減する。
【0056】
表面粗さRa0は35nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、45nm以上がさらに好ましい。
【0057】
(1.2 水の接触角)
本実施形態では、260℃で5分加熱後の保護膜1aの表面Sにおける水の接触角が107°以下であることが好ましい。すなわち、260℃で5分加熱後の保護膜1aの表面Sの濡れ性は比較的高い方が好ましい。表面Sにおける水の接触角が107°以下であることにより、保護膜と封止樹脂との接着信頼性が向上する傾向にある。
【0058】
水の接触角は105°以下がより好ましく、102°以下がさらに好ましく、100°以下が特に好ましい。
【0059】
なお、水の接触角は、表面粗さRa1でも変化するし、その他の表面の状態(極性等)によっても変化する。
【0060】
(1.3 保護膜形成用組成物)
保護膜が上記の物性を有していれば、保護膜形成フィルムの組成は特に限定されない。本実施形態では、保護膜形成フィルムを構成する組成物(保護膜形成用組成物)は、少なくとも、重合体成分(A)と硬化性成分(B)と充填材(E)とを含有する樹脂組成物であることが好ましい。重合体成分は、重合性化合物が重合反応して形成されたとみなせる成分である。また、硬化性成分は、硬化(重合)反応し得る成分である。なお、本発明において重合反応には、重縮合反応も含まれる。
【0061】
また、重合体成分に含まれる成分は、硬化性成分にも該当する場合がある。本実施形態では、保護膜形成用組成物が、このような重合体成分及び硬化性成分の両方に該当する成分を含有する場合、保護膜形成用組成物は、重合体成分及び硬化性成分を両方含有するとみなす。
【0062】
(1.3.1 重合体成分)
重合体成分(A)は、保護膜形成フィルムに、フィルム形成性(造膜性)を持たせつつ、適度なタックを与え、ワークへの保護膜形成フィルムの均一な貼り付けを確実にする。重合体成分の重量平均分子量は、通常は5万~200万、好ましくは10万~150万、特に好ましくは20万~100万の範囲にある。重量平均分子量が低過ぎると、260℃加熱時に、保護膜表面が荒れる方向に作用する保護膜中の材料の挙動を抑制することができない。一方、重量平均分子量が高過ぎると他の成分との相溶性が悪くなり、結果として均一なフィルム形成が妨げられる。このような重合体成分としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が用いられ、特にアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0063】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0064】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0065】
本実施形態では、メタクリル酸グリシジル等を用いてアクリル樹脂にグリシジル基を導入することが好ましい。グリシジル基を導入したアクリル樹脂と、後述する熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂との相溶性が向上し、保護膜形成フィルムの硬化後のガラス転移温度(Tg)が高くなり、耐熱性が向上する。また、本実施形態では、ワークへの密着性や粘着物性をコントロールするために、アクリル酸ヒドロキシエチル等を用いてアクリル樹脂に水酸基を導入することが好ましい。
【0066】
アクリル樹脂のガラス転移温度は好ましくは、-70℃~40℃、-40℃~36℃、-30℃~32℃、-20℃~28℃、-10℃~24℃、1℃~20℃である。アクリル樹脂のガラス転移温度の下限値を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルムおよび保護膜の加熱時の流動性を抑制されるので、保護膜の表面粗さを制御しやすい。
【0067】
アクリル樹脂がm種(mは2以上の整数である。)の構成単位を有している場合、当該アクリル樹脂のガラス転移温度は以下のようにして算出することができる。すなわち、アクリル樹脂中の構成単位を誘導するm種のモノマーに対して、それぞれ1からmまでのいずれかの重複しない番号を順次割り当てて、「モノマーm」と名付けた場合、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下に示すFoxの式を用いて算出できる。
【数1】
(式中、Tgはアクリル樹脂のガラス転移温度であり;mは2以上の整数であり;Tgkはモノマーmのホモポリマーのガラス転移温度であり;Wkはアクリル樹脂における、モノマーmから誘導された構成単位mの質量分率であり、ただし、Wkは下記式を満たす。)
【数2】
(式中、m及びWkは、前記と同じである。)
【0068】
Tgkとしては、高分子データ・ハンドブック、粘着ハンドブック又はPolymer Handbook等に記載されている値を使用できる。例えば、メチルアクリレートのホモポリマーのTgkは10℃、n-ブチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-54℃、メチルメタクリレートのホモポリマーのTgkは105℃、2-ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-15℃、グリシジルメタクリレートのホモポリマーのTgkは41℃、2-エチルヘキシルアクリレートのTgkは-70℃である。
【0069】
保護膜形成用組成物の総重量を100質量部とした時の重合体成分の含有量は、好ましくは、5~80質量部、6~50質量部、7~40質量部、8~35質量部、9~30質量部、10~25質量部である。重合体成分の含有量の上限値を上記の値とすることにより、保護膜形成用組成物の中で260℃加熱時に比較的流動性の高い成分が少なくなるので、260℃加熱時に表面が荒れる方向に作用する保護膜中の材料の挙動を抑制することができる。
【0070】
(1.3.2 熱硬化性成分)
硬化性成分(B)は、保護膜形成フィルムを硬化させて、硬質の保護膜を形成する。硬化性成分としては、熱硬化性成分、エネルギー線硬化性成分、またはこれらの混合物を用いることができる。エネルギー線の照射によって硬化させる場合、本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、後述する充填材を含有するため光線透過率が低下する。そのため、例えば保護膜形成フィルムの厚さが厚くなった場合、エネルギー線硬化が不十分になりやすい。
【0071】
一方、熱硬化性の保護膜形成フィルムは、その厚さが厚くなっても、加熱によって十分に硬化するため、保護性能が高い保護膜を形成でき、260℃加熱時に表面が荒れる方向に作用する保護膜中の材料の挙動を抑制することができる。また、加熱オーブン等の通常の加熱手段を用いることによって、多数の保護膜形成フィルムを一括して加熱し、熱硬化させることができる。
【0072】
したがって、本実施形態では、硬化性成分は熱硬化性であることが望ましい。すなわち、本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、熱硬化性であることが好ましい。
【0073】
保護膜形成フィルムが熱硬化性であるか否かは以下のようにして判断することができる。まず、常温(23℃)の保護膜形成フィルムを、常温を超える温度になるまで加熱し、次いで常温になるまで冷却することにより、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムとする。次に、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの硬さと、加熱前の保護膜形成フィルムの硬さと、を同じ温度で比較したとき、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの方が硬い場合には、この保護膜形成フィルムは、熱硬化性であると判断する。
【0074】
熱硬化性成分としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0075】
熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂は、加熱を受けると三次元網状化し、強固な被膜を形成する性質を有する。このようなエポキシ樹脂としては、公知の種々のエポキシ樹脂が用いられる。本実施形態では、エポキシ樹脂の分子量(式量)は、好ましくは、300以上50000未満、300以上10000未満、300以上5000未満、300以上3000未満である。また、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、50~5000g/eqであることが好ましく、100~2000g/eqであることがより好ましく、150~1000g/eqであることがさらに好ましい。
【0076】
このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレート等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等のように、分子内の炭素-炭素二重結合を例えば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。その他、ビフェニル骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、ナフタレン骨格等を有するエポキシ樹脂を用いることもできる。
【0077】
これらの中でも、ビスフェノール系グリシジル型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。これらエポキシ樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
硬化性成分(B)として、熱硬化性成分を用いる場合には、助剤として、硬化剤(C)を併用することが好ましい。エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤が好ましい。「熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤」とは、常温(23℃)ではエポキシ樹脂と反応しづらく、ある温度以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の活性化方法には、加熱による化学反応で活性種(アニオン、カチオン)を生成する方法;常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法;モレキュラーシーブ封入タイプの硬化剤で高温で溶出して硬化反応を開始する方法;マイクロカプセルによる方法等が存在する。
【0079】
例示した方法のうち、常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法が好ましい。
【0080】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、各種オニウム塩や、二塩基酸ジヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、アミンアダクト硬化剤、イミダゾール化合物等の高融点活性水素化合物等を挙げることができる。これら熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本実施形態では、ジシアンジアミドが特に好ましい。
【0081】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、フェノール樹脂も好ましい。フェノール樹脂としては、アルキルフェノール、多価フェノール、ナフトール等のフェノール類とアルデヒド類との縮合物等が特に制限されることなく用いられる。具体的には、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、あるいはこれらの変性物等が用いられる。
【0082】
これらのフェノール樹脂に含まれるフェノール性水酸基は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と加熱により容易に付加反応して、耐衝撃性の高い硬化物を形成することができる。
【0083】
硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、1.0~25質量部、1.5~20質量部、2.0~18質量部、2.5~16質量部、3.0~14質量部、3.5~12質量部である。硬化剤(C)の含有量の下限値を上記の値とすることにより、保護膜の網状構造が密になるので、260℃加熱時に表面が荒れる方向に作用する保護膜中の材料の挙動を抑制することができる。
【0084】
硬化剤(C)として、ジシアンジアミドを用いる場合には、硬化促進剤(D)をさらに併用することが好ましい。硬化促進剤としては、たとえば、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類(1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されたイミダゾール)が好ましい。これらの中でも、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが特に好ましい。
【0085】
硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは、0.01~30質量部、0.1~25質量部、1.0~20質量部、1.5~18質量部、2.0~16質量部、2.5~14質量部、3.0~12質量部である。硬化促進剤(D)の含有量の下限値を上記の値とすることにより、保護膜の網状構造が密になるので、260℃加熱時に表面が荒れる方向に作用する保護膜中の材料の挙動を抑制することができる。
【0086】
保護膜形成用組成物の総重量を100質量部とした時の熱硬化性成分および硬化剤の合計含有量は、好ましくは、5~80質量部、6~50質量部、7~40質量部、8~35質量部、9~30質量部、10~25質量部である。このような割合で熱硬化性成分と硬化剤とを配合すると、硬化前には適度なタックを示し、貼付作業を安定して行うことができる。また、熱硬化性成分および硬化剤の合計含有量の下限値を上記の値とすることにより、硬化後には、被膜強度に優れた保護膜が得られるので、260℃加熱時に表面が荒れる方向に作用する保護膜中の材料の挙動を抑制することができる。
【0087】
(1.3.3 エネルギー線硬化性成分)
硬化性成分がエネルギー線硬化性成分である場合、エネルギー線硬化性成分は、未硬化であることが好ましく、粘着性を有することが好ましく、未硬化かつ粘着性を有することがより好ましい。
【0088】
エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線の照射によって硬化する成分であり、保護膜形成フィルムに造膜性や、可撓性等を付与するための成分でもある。
【0089】
エネルギー線硬化性成分としては、たとえば、エネルギー線硬化性基を有する化合物が好ましい。このような化合物としては、公知のものが挙げられる。
【0090】
(1.3.4 充填材)
保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、保護膜形成フィルムを保護膜化して得られた保護膜は、熱膨張係数の調整が容易となり、この熱膨張係数をワークまたは封止樹脂の熱膨張係数に近づけることで、保護膜形成フィルムを用いて得られたパッケージの接着信頼性がより向上する。また、保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、硬質な保護膜が得られ、さらに保護膜の吸湿率を低減でき、パッケージの接着信頼性がさらに向上する。
【0091】
充填材(E)は、有機充填材及び無機充填材のいずれでもよいが、260℃といった高温での形状安定性の観点から無機充填材であることが好ましい。
【0092】
好ましい無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、ベンガラ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等の粉末;これら無機充填材を球形化したビーズ;これら無機充填材の表面改質品;これら無機充填材の単結晶繊維;ガラス繊維等が挙げられる。これらの中でも、シリカおよび表面改質されたシリカが好ましい。表面改質されたシリカは、カップリング剤により表面改質されていることが好ましく、シランカップリング剤により表面改質されていることがより好ましい。
【0093】
無機充填材の平均粒径は、0.06~10μmであることが好ましく、0.1~10μmであることがより好ましく、0.3~9μmであることがさらに好ましい。
【0094】
無機充填材の平均粒径の下限値を上記の値とすることにより、保護膜形成用組成物の取り扱い性が良好になる。そのため、保護膜形成用組成物および保護膜形成フィルムの品質が安定しやすく、また、260℃加熱前の表面粗さRa0を大きくしやすい。また、無機充填材の平均粒径の上限値を上記の値とすることにより、260℃加熱後の表面粗さRa1を小さくしやすい。
【0095】
なお、本明細書において「平均粒径」とは、特に断りのない限り、レーザー回折散乱法によって求められた粒度分布曲線における、積算値50%での粒子径(D50)の値を意味する。
【0096】
保護膜形成用組成物の総重量を100質量部とした時の無機充填材の含有量は、好ましくは、15~80質量部、30~76質量部、40~72質量部、45~68質量部、50~66質量部である。
【0097】
無機充填材の含有量の下限値を上記の値とすることにより、意図した保護膜の表面粗さRa0を得られやすい、また、保護膜形成用組成物中に260℃加熱時に粒子自体の形状が変化しづらい成分が多く含まれるので、260℃加熱時に表面が荒れる方向に作用する保護膜中の材料の挙動を抑制することができる。また、無機充填材の含有量の上限値を上記の値とすることにより、意図した保護膜の表面粗さRa0を得られやすく、結果的にRa1の制御にも繋がる。
【0098】
また、保護膜形成フィルムは、2種類以上の充填材を含むことが好ましい。すなわち、充填材(E)は、2種類以上の充填材であることが好ましい。「2種類以上の充填材を含む」とは、材質の異なる充填材を2種類以上含んでいてもよいし、平均粒径の異なる充填材を2種類以上含んでいてもよい。
【0099】
本実施形態では、平均粒径の異なる充填材を2種類以上含むことが好ましい。平均粒径の異なる充填材が保護膜形成フィルムに含まれることにより、平均粒径の大きな充填材の隙間に、平均粒径の小さい充填材が配置されやすくなる。その結果、上記の効果が得られつつ、260℃で5分加熱後の保護膜の表面粗さRaを上記の範囲内とすることが容易となる。また、260℃で5分加熱後の保護膜における水の接触角を上記の範囲内とすることが容易となる。
【0100】
平均粒径の異なる充填材を2種類以上含む場合、平均粒径が最も大きい充填材の平均粒径は、平均粒径が最も小さい充填材の平均粒径の1.5から100倍であることが好ましく、2~20倍であることがより好ましく、3~18倍であることがさらに好ましい。
【0101】
なお、保護膜または保護膜形成フィルムが平均粒径の異なる充填材を2種類以上含んでいるか否かは、保護膜または保護膜形成フィルムの断面を観察することによっても確認することができる
【0102】
(1.3.5 カップリング剤)
保護膜形成フィルムは、カップリング剤(F)を含有することが好ましい。カップリング剤を含有することにより、保護膜形成フィルムの硬化後において、保護膜の耐熱性を損なわずに、保護膜とワークとの接着性・密着性を向上させることができるとともに、耐水性(耐湿熱性)を向上させることができる。カップリング剤としては、その汎用性とコストメリットの観点に加えて、水の接触角を上記の範囲にする観点からもシランカップリング剤が好ましい。
【0103】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0104】
(1.3.6 着色剤)
保護膜形成フィルムは、着色剤(G)を含有することが好ましい。これにより、チップ等のワークの加工物の裏面が隠蔽されるため、電子機器内で発生する種々の電磁波を遮断し、チップ等のワークの加工物の誤作動を低減できる。
【0105】
着色剤(G)としては、例えば、無機系顔料、有機系顔料、有機系染料など公知のものを使用できる。本実施形態では、無機系顔料が好ましい。
【0106】
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、ITO(インジウムスズオキサイド)系色素、ATO(アンチモンスズオキサイド)系色素等が挙げられる。これらの中でも、特にカーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックによれば、広い波長範囲の電磁波を遮断できる。
【0107】
保護膜形成フィルム中における着色剤(特にカーボンブラック)の配合量は、保護膜形成フィルムの厚さによっても異なるが、例えば保護膜形成フィルムの厚さが20μmの場合は、保護膜形成フィルムの全質量に対し、好ましくは0.05~10質量%、0.1~7質量%、0.5~4質量%である。
【0108】
着色剤(特にカーボンブラック)の平均粒径は、1~500nmであることが好ましく、特に3~100nmであることが好ましく、さらには5~50nmであることが好ましい。着色剤の平均粒径が上記の範囲内にあると、光線透過率を所望の範囲に制御し易い。
【0109】
(1.3.7 その他の添加剤)
保護膜形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、その他の添加剤として、たとえば、光重合開始剤、架橋剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、ゲッタリング剤、粘着付与剤等を含有していてもよい。
【0110】
(2.保護膜形成用シート)
保護膜形成フィルムは、使用前には、その片面または両面が剥離フィルムで保護された、保護膜形成用シートの形態で、巻収、保管されていてもよい。剥離フィルムは、保護膜形成フィルムの使用時に剥離される。
【0111】
剥離フィルムの構成は任意であり、フィルム自体が保護膜形成フィルムに対し剥離性を有するプラスチックフィルム、およびプラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離フィルムの厚さについては特に制限はないが、通常20~250μm程度である。
【0112】
保護膜形成フィルムの両面に剥離フィルムを有する場合は、一方の剥離フィルムの剥離力を大きくして重剥離型剥離フィルムとし、他方の剥離フィルムの剥離力を小さくして軽剥離型剥離フィルムとすることが好ましい。
【0113】
(3.保護膜形成用複合シート)
図2は本実施形態に係る保護膜形成用複合シートの一例の断面模式図である。
図2に示すように、本実施形態に係る保護膜形成用複合シート3は、基材41の一方の面に粘着剤層42が積層されてなる粘着シート4と、粘着シート4の粘着剤層42側に積層された保護膜形成フィルム1と、保護膜形成フィルム1における粘着シート4とは反対側の周縁部に積層された治具用粘着剤層5とを備えて構成される。なお、治具用粘着剤層5は、保護膜形成用複合シート3をリングフレーム等の治具に接着するための層である。
【0114】
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート3は、ワークを加工するときに、当該ワークに貼付されて当該ワークを保持するとともに、保護膜形成フィルム1を保護膜化して、当該ワークまたは当該ワークの加工物に保護膜を形成する。この保護膜は、非硬化の保護膜形成フィルム1であってもよいが、好ましくは硬化した保護膜形成フィルム1から構成される。
【0115】
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート3は、ワークとしてのウエハのダイシング加工時にウエハを保持するとともに、ダイシングによって得られる加工物としてのチップに保護膜を形成するために用いられるが、これに限定されるものではない。
【0116】
(3.1 粘着シート)
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート3の粘着シート4は、基材41と、基材41の一方の面に積層された粘着剤層42とを備えて構成される。したがって、上述したように、粘着シートは、保護膜形成フィルムを支持する支持シートである。
【0117】
(3.1.1.基材)
粘着シート4の基材41は、ワークの加工、例えばウエハのダイシングおよびエキスパンディングに適するものであれば、その構成材料は特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルム(以下「樹脂フィルム」という。)から構成される。
【0118】
樹脂フィルムの具体例として、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。またこれらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。上記の基材41はこれらの1種からなるフィルムでもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。
【0119】
上記の中でも、環境安全性、コスト等の観点から、ポリオレフィン系フィルムが好ましく、その中でも耐熱性に優れるポリプロピレンフィルムが好ましい。ポリプロピレンフィルムであれば、粘着シート4のエキスパンド適性やチップ等のワークの加工物のピックアップ適性を損なうことなく、基材41に耐熱性を付与できる。基材41がかかる耐熱性を有することにより、保護膜形成用複合シート3をワークに貼付した状態で保護膜形成フィルム1を熱硬化させた場合にも、粘着シート4の弛みの発生を抑制できる。さらに、粘着剤層を介してではあるものの保護膜の表面粗さRa0を制御し易く、結果的にRa1の制御にも繋がる。
【0120】
上記の樹脂フィルムは、その表面に積層される粘着剤層42との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。
【0121】
基材41は、上記樹脂フィルム中に、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0122】
基材41の厚さは、保護膜形成用複合シート3が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。好ましくは20~450μm、より好ましくは25~400μm、特に好ましくは50~350μmの範囲である。
【0123】
(3.1.2.粘着剤層)
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート3の粘着シート4が備える粘着剤層42は、非エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよいし、エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。非エネルギー線硬化性粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用できる。これらの中でも、保護膜形成フィルム1との密着性が高く、ダイシング工程等にてワークまたはワークの加工物の脱落を効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。また、Ra0が制御し易く、また、保護膜付きのワークの加工物のピックアップ適性を制御しやすい観点からも、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0124】
一方、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線照射により粘着力が低下するため、ワークまたはワークの加工物と粘着シート4とを分離させたいときに、エネルギー線照射することにより、容易に分離させることができる。
【0125】
粘着剤層42を構成するエネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、エネルギー線硬化性を有しないポリマーとエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。
【0126】
エネルギー線硬化性を有するポリマーとしては、たとえば、エネルギー線硬化性基が導入された(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体等が例示される。エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが例示される。また、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有する成分以外に、光重合開始剤、架橋剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0127】
粘着剤層42の厚さは、保護膜形成用複合シート3が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。具体的には、粘着剤層の厚みは、好ましくは、1~50μm、2~30μm、2~20μm、3~10μm、3~8μmである。
【0128】
粘着剤層の厚みの上限値を上記の値とすることにより、粘着剤層と接している保護膜形成フィルムの動きを制限できるので、意図した保護膜の表面粗さRa0を得られやすく、結果的にRa1の制御にも繋がる。
【0129】
治具用粘着剤層5を構成する粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用できる。これらの中でも、リングフレーム等の治具との密着性が高く、ダイシング工程等にてリングフレーム等から保護膜形成用複合シート3が剥がれることを効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。なお、治具用粘着剤層5の厚さ方向の途中には、芯材としての基材が介在していてもよい。
【0130】
治具用粘着剤層5の厚さは、リングフレーム等の治具に対する接着性の観点から、5~200μmであることが好ましく、特に10~100μmであることが好ましい。
【0131】
(4.保護膜形成フィルムの製造方法)
保護膜形成フィルムの製造方法は特に限定はされない。当該フィルムは、上述した保護膜形成用組成物、または、当該保護膜形成用組成物を溶媒により希釈して得られる組成物(塗布剤)を用いて製造される。塗布剤は、保護膜形成用組成物を構成する成分を公知の方法により混合して調製される。塗布剤を調製する際は、撹拌後の塗布剤を目開き160μm以下のメッシュを通過させて濾過することが好ましい。これにより、フィラー、硬化剤、樹脂等の各々の凝集体を除去し、結果的に保護膜のRa0、Ra1を制御し易くなる。
【0132】
得られる塗布剤を、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機を用いて、剥離フィルムの剥離面に塗布して乾燥させて、第1の剥離フィルム上に保護膜形成フィルムを形成する。次に、保護膜形成フィルムの露出面に第2の剥離フィルムの剥離面を貼り合わせ、2枚の剥離フィルムに保護膜形成フィルム1が挟持された保護膜形成用シートを得る。
【0133】
第2の剥離フィルムを貼り付ける際は、常温(23℃)よりも高い温度に加熱しながら行うことが好ましい。保護膜化前ではあるが、第1の剥離フィルムに接する保護膜形成フィルムの表面および表面に近い内部、第2の剥離フィルムに接する保護膜形成フィルムの表面および表面に近い内部において、フィラーの整列状態を制御でき、Ra0とRa1の制御も可能となる。
【0134】
(5.保護膜形成用複合シートの製造方法)
保護膜形成用複合シート3の製造方法は特に制限されない。たとえば、保護膜形成フィルム1を含む第1の積層体と、支持シートとしての粘着シート4を含む第2の積層体とを別々に作製した後、第1の積層体および第2の積層体を使用して、保護膜形成フィルム1と粘着シート4とを積層することにより製造できる。
【0135】
第1の積層体は、上記の保護膜形成用シートと同じ方法により製造できる。すなわち、第1の剥離フィルムの剥離面に保護膜形成フィルムを形成し、保護膜形成フィルムの露出面に第2の剥離フィルムの剥離面を貼り合わせる。
【0136】
第1の積層体においては、所望によりハーフカットを施し、保護膜形成フィルム1および第2の剥離フィルムを所望の形状、例えば円形等にしてもよい。この場合、ハーフカットにより生じた保護膜形成フィルム1および第2の剥離フィルムの余分な部分は、適宜除去すればよい。
【0137】
一方、第2の積層体を製造するには、まず、粘着剤層42を構成する粘着剤組成物、または、当該粘着剤組成物を溶媒で希釈した組成物(塗布剤)を調製する。続いて、第3の剥離フィルムの剥離面に、塗布剤を塗布し乾燥させ第3の剥離フィルム上に粘着剤層42を形成する。その後、粘着剤層42の露出面に基材41を貼り合わせ、基材41および粘着剤層42からなる粘着シート4と、第3の剥離フィルムとからなる積層体(第2の積層体)を得る。
【0138】
ここで、粘着剤層42がエネルギー線硬化性粘着剤からなる場合には、この段階で粘着剤層42に対してエネルギー線を照射して、粘着剤層42を硬化させてもよいし、保護膜形成フィルム1と積層した後に粘着剤層42を硬化させてもよい。また、保護膜形成フィルム1と積層した後に粘着剤層42を硬化させる場合、ダイシング工程前に粘着剤層42を硬化させてもよいし、ダイシング工程後に粘着剤層42を硬化させてもよい。
【0139】
エネルギー線としては、通常、紫外線、電子線等が用いられる。エネルギー線の照射量は、エネルギー線の種類によって異なるが、例えば紫外線の場合には、光量で50~1000mJ/cm2が好ましく、特に100~500mJ/cm2が好ましい。また、電子線の場合には、10~1000krad程度が好ましい。
【0140】
以上のようにして第1の積層体および第2の積層体が得られたら、第1の積層体における第2の剥離フィルムを剥離するとともに、第2の積層体における第3の剥離フィルムを剥離し、第1の積層体にて露出した保護膜形成フィルム1と、第2の積層体にて露出した粘着シート4の粘着剤層42とを貼り合わせる。粘着シート4は、所望によりカットし、所望の形状、例えば保護膜形成フィルム1よりも大きい径を有する円形等にしてもよい。この場合、カットにより生じた粘着シート4の余分な部分は、適宜除去すればよい。また、保護膜形成フィルムと粘着剤層42とが同じ径を有する円形等にしてもよい。
【0141】
このようにして、基材41の上に粘着剤層42が積層されてなる粘着シート4と、粘着シート4の粘着剤層42側に積層された保護膜形成フィルム1と、保護膜形成フィルム1における粘着シート4とは反対側に積層された第1の剥離フィルムとからなる保護膜形成用複合シート3が得られる。必要に応じて、第1の剥離フィルムを剥離した後、露出した保護膜形成フィルム1または粘着剤層42の周縁部に、治具用粘着剤層5を形成する。
【0142】
(6.装置の製造方法)
本実施形態に係る保護膜形成フィルムを用いた装置の製造方法の一例として、保護膜形成フィルムが貼付されたウエハを加工して得られる保護膜付きチップが基板上に配置されたパッケージを製造する方法について説明する。
【0143】
本実施形態に係る装置の製造方法は、少なくとも以下の工程1から工程5を有する。
工程1:保護膜形成用複合シートが備える保護膜形成フィルムを、ウエハ裏面に貼付する工程と、
工程2:貼付された保護膜形成フィルムを保護膜化する工程
工程3:裏面に保護膜または保護膜形成フィルムを有するウエハを個片化して、複数の保護膜または保護膜形成フィルム付きチップを得る工程
工程4:保護膜または保護膜形成フィルム付きチップを基板上に配置する工程
工程5:基板上に配置された保護膜付きチップと、基板とを加熱する工程
【0144】
なお、上記からも明らかなように、工程2は、工程3および4の前に行ってもよいし、工程3の後であって、工程4の前に行ってもよいし、工程3および4の後に行ってもよい。
【0145】
また、本実施形態では、上記の装置の製造方法は、工程5の後に、保護膜付きチップの曝露されている保護膜を封止部材で覆う処理を行う工程(工程6)を有していることが好ましい。工程6を行うことにより、封止された装置として、保護膜付きチップを含む複数のチップが封止されたパッケージを得ることができる。
【0146】
上記の工程1から工程6を有する装置の製造方法を
図4から
図9を用いて説明する。
【0147】
図4に示すように、保護膜形成用複合シート3の保護膜形成フィルム1をウエハ6に貼付する(工程1)。この際、保護膜形成フィルム1の外周部をリングフレーム7により固定してもよい。本実施形態では、
図4に示すように、保護膜形成フィルム1の外周部に治具用粘着剤層5を設けているので、治具用粘着剤層5をリングフレーム7に貼付する。ウエハ6は、保護膜形成フィルム1における粘着剤層42との貼付面とは反対の面に貼付される。保護膜形成フィルム1をウエハ6に貼付するにあたり、所望により保護膜形成フィルム1を加熱して、粘着性を発揮させてもよい。
【0148】
その後、貼付された保護膜形成フィルム1を保護膜化して保護膜を形成し(工程2)、保護膜付きウエハ6を得る。保護膜形成フィルム1が熱硬化性の場合には、保護膜形成フィルム1を所定温度で適切な時間加熱すればよい。また、保護膜形成フィルム1がエネルギー線硬化性である場合には、粘着シート4側からエネルギー線を入射すればよい。
【0149】
なお、保護膜形成フィルム1の硬化は、ダイシング工程後に行ってもよく、粘着シートから保護膜形成フィルム付のチップをピックアップし、その後に保護膜形成フィルムを硬化してもよい。
【0150】
次いで、公知の方法により保護膜付きウエハ6をダイシングし、
図5に示すように、保護膜1aを有するチップ(保護膜付きチップ10)を得る(工程3)。その後、
図6に示すように、必要に応じて粘着シート4を平面方向にエキスパンドし、粘着シート4から保護膜付きチップ10を吸着コレットCによりピックアップする。
【0151】
ピックアップされた保護膜付きチップ10は次工程に搬送してもよいし、トレイ、テープ等に一時的に収納保管して、所定の期間後に次工程に搬送してもよい。
【0152】
次工程に搬送された保護膜付きチップ10は、
図7に示すように、吸着コレットCにより基板50まで搬送され、基板上の端子部において、吸着コレットCから脱離されて、バンプ等の接続電極とパッド等の端子部とが接続可能な位置に配置される(工程4)。このとき、保護膜の表面粗さが小さすぎる場合、吸着コレットからの脱離に不具合が生じて、加熱処理後に接続不良を招く場合がある。したがって、上述したように、加熱処理前における保護膜の表面粗さRa0は35nm以上であることが好ましい。また、
図8に示すように、本実施形態では、保護膜付きチップ10とは異なる他のチップ11も基板50上に実装される。したがって、この基板上に複数のチップが実装される。
【0153】
基板上の所定の位置に配置された保護膜付きチップは、加熱処理(リフロー処理)される(工程5)。リフロー処理条件は、たとえば、最高加熱温度が180~350℃、リフロー時間が2~10分であることが好ましい。
【0154】
リフロー処理では、保護膜付きチップ10の凸状電極6bが溶融し、基板上の端子部と電気的および機械的に接合され、保護膜付きチップ10が基板に実装される。続いて、本実施形態では、基板に実装された複数のチップを封止部材によって覆うことにより、保護膜付きチップ10が封止される(工程6)。複数のチップの間にも封止部材が充填されている。
【0155】
封止部材30を用いて複数のチップを封止する方法は、特に限定されない。リフロー処理後の複数のチップを金型内に載置し、金型内に流動性を有する封止樹脂材料を注入し、封止樹脂材料を加熱硬化させて封止樹脂層を形成する方法を採用してもよい。また、シート状の封止樹脂を複数のチップを覆うように載置し、封止樹脂を加熱硬化させて、封止樹脂層を形成する方法を採用してもよい。封止部材の材質としては、例えば、エポキシ樹脂などが挙げられる。なお、封止樹脂は加熱等により硬化するので、本明細書における「封止樹脂」には、硬化前に保護膜と接触している封止樹脂と、硬化後に保護膜と接触している封止樹脂との両方を含む。
【0156】
このような封止処理を経て、保護膜付きチップ10が封止部材30(封止樹脂)で覆われたシステムインパッケージ100が得られる(
図9)。このとき、260℃で5分加熱後の保護膜の表面粗さRa1が上述した範囲内であるため、リフロー処理後であっても、保護膜の表面粗さは小さく、保護膜と封止樹脂との界面の接着信頼性は良好である。したがって、信頼性の高いシステムインパッケージを得ることができる。
【0157】
本実施形態に係る保護膜形成フィルムを用いた装置の製造方法の他の例として、チップに形成される保護膜または保護膜形成フィルムにマーキングを行って得られる保護膜付きチップが基板上に配置された装置を製造する方法について説明する。
【0158】
当該装置の製造方法は、上述した装置の製造方法と同様に、少なくとも工程1から工程5を有し、さらに、保護膜または保護膜形成フィルムに、マーキング部分の高さが0μmよりも高いレーザーマーキングを行う工程(工程7)を有する。
【0159】
工程7は、工程2の後であって、工程5の前に行う。本実施形態では、工程7は、工程3および工程4の前に行うことが好ましい。
【0160】
レーザーマーキングを行うことによって、レーザーマーキングがなされた後から基板に配置されるまでの間、保護膜形成フィルム付きチップ、または保護膜付きチップの識別が可能になる。
【0161】
レーザーマーキングは、保護膜形成フィルムまたは保護膜の表面をレーザー照射で削り取ることによりマーキングを行ってもよいが、本実施形態では、マーキング部分(レーザー照射部分)の高さが0μmより高くなるマーキングを行うことが好ましい。すなわち、マーキングをしていない部分に比べ、マーキング部分が凸状になっていることが好ましい。凸状のマーキングは、マーキング部分の保護膜形成フィルムまたは保護膜がレーザー照射に伴い体積が増加することにより形成される。
【0162】
マーキング部分の高さは、好ましくは0.001μm以上、0.005μm以上、0.010μm以上、0.020μm以上、0.030μm以上である。マーキング部分の高さが0μmより大きいことによって、0μmと比較すると印字の視認性が優れる。
【0163】
当該装置の製造方法は、上述した装置の製造方法と同様に、工程5の後に、保護膜付きチップの曝露されている保護膜を封止部材で覆う処理を行う工程(工程6)を有していることが好ましい。工程6を行うことにより、保護膜付きチップを含む複数のチップが封止されたパッケージを得ることができる。
【0164】
なお、レーザー照射によりマーキング部分が凹状になっている場合(マーキング部分が削り取られている場合)には、凸状になっている場合に比べてマーキングが鮮明になり易く、リフロー後にも鮮明さを維持しやすい。しかしながら、マーキング部分が凹状である保護膜付きチップに封止処理を行うと、凹状部分が空隙になりやすく、その結果、封止樹脂と保護膜との接着信頼性が低下する。そのため、マーキング部分の高さが0μmより大きいことによって接着信頼性を向上させることができる。
【0165】
当該装置の製造方法も、
図4から
図9を用いて説明でき、その説明は上述した装置の製造方法についての説明と同様である。レーザーマーキングを行う工程では、公知のレーザーマーキング装置を用いてマーキングを行えばよい。
【0166】
(7.変形例)
図3は本発明の他の実施形態に係る保護膜形成用複合シートの断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係る保護膜形成用複合シート3Aは、基材41の一方の面に粘着剤層42が積層されてなる粘着シート4と、粘着シート4の粘着剤層42側に積層された保護膜形成フィルム1とを備えて構成される。実施形態における保護膜形成フィルム1は、平面視にてワークとほぼ同じか、ワークよりも少し大きく形成されており、かつ粘着シート4よりも小さく形成されている。保護膜形成フィルム1が積層されていない部分の粘着剤層42は、リングフレーム等の治具に貼付することが可能となっている。
【0167】
なお、保護膜形成用複合シート3Aの粘着シート4の粘着剤層42の周縁部には、前述した保護膜形成用複合シート3の治具用粘着剤層5と同様の治具用粘着剤層が別途設けられていてもよい。
【0168】
また、保護膜形成用複合シート3,3Aの保護膜形成フィルム1側の面には、使用時まで保護膜形成フィルムを保護するため、剥離フィルムが積層されてもよい。
【0169】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0170】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0171】
(実験1)
(保護膜形成用シートの作製)
次の各成分を表1に示す配合比(固形分換算)で混合し、固形分濃度が50質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して、塗布剤を調製した。塗布剤を調製する際は、塗布剤を撹拌した後、目開き75μmのポリエステルメッシュを通過させて濾過して完成させた。
(A)重合体成分
(A-1)n-ブチルアクリレート55質量部、メチルアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート20質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート15質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:50万、ガラス転移温度:-28℃)
(A-2)n-ブチルアクリレート3質量部、メチルアクリレート88質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート9質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:50万、ガラス転移温度:5℃)
(A-3)n-ブチルアクリレート3質量部、メチルアクリレート75質量部、グリシジルメタクリレート7質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート15質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:40万、ガラス転移温度:5℃)
(B)硬化性成分(熱硬化性成分)
(B-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER828、エポキシ当量184~194g/eq)
(B-2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER1055、エポキシ当量800~900g/eq)
(B-3)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製、エピクロンHP-7200HH、エポキシ当量255~260g/eq)
(B-4)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN-104、エポキシ当量220g/eq)
(B-5)柔軟性骨格が導入されたエポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製、EXA4850-150、分子量900、エポキシ当量450g/eq)
(C)硬化剤:ジシアンジアミド(三菱化学社製、DICY7)
(D)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、キュアゾール2PHZ)
(E)充填材
(E-1)エポキシ基修飾球状シリカフィラー(アドマテックス社製、SC2050MA、平均粒径0.5μm)
(E-2)シリカフィラー(トクヤマ社製、UF310、平均粒径3μm)
(E-3)不定形シリカフィラー(龍森社製、SV-10、平均粒径8μm)
(F)シランカップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシメチルシラン(信越化学工業社製、KBM403、メトキシ当量12.7mmol/g、分子量236.3)
(G)着色剤:カーボンブラック(三菱化学社製、MA600、平均粒径20nm)
【0172】
【0173】
調製した塗布剤を、第1の剥離フィルム(リンテック社製:SP-PET501031 厚み:50μm)に塗工し、100℃で2分乾燥して厚みが20μmの保護膜形成フィルムを形成した。続いて、第2の剥離フィルム(リンテック社製:SP-PET381031 厚み:38μm)を、保護膜形成フィルム上に貼り付けて、保護膜形成フィルムの両面に剥離フィルムが形成された保護膜形成用シートを得た。貼り付け条件は、温度が60℃、圧力が0.6MPa、速度が1m/分であった。
【0174】
(粘着シートの作製)
次の各成分を下記に示す配合比(固形分換算)で混合し、固形分濃度が25質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して、粘着剤層用塗布剤を調製した。
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)70質量部、メチルメタクリレート(MMA)20質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)10質量部を共重合してなるアクリル系重合体100質量部と、3官能キシリレンジイソシアネート系架橋剤(三井武田ケミカル社製、タケネートD110N)40質量部と、を含む塗布剤。
【0175】
調製した塗布剤を、第3の剥離フィルム(リンテック社製:SP-PET381031 厚み:38μm)に塗工し、100℃で2分乾燥して厚みが5μmの粘着剤層を形成した。続いて、厚みが80μmのポリプロピレンフィルム(グンゼ社製、片面がツヤ面/逆面がマット面)のツヤ面を粘着剤層上に貼り付けて、粘着シートを得た。
【0176】
(保護膜形成用複合シートの作製)
上記で得られた保護膜形成用シートと、粘着シートと、剥離フィルム上に保護膜形成フィルムの外周部に対応する形状に形成された治具用粘着剤層と、を用いて、粘着シート上に保護膜形成フィルムが形成され、保護膜形成フィルムの外周部に治具用粘着剤層が形成された、実施例1から7および比較例1の保護膜形成用複合シートを得た。
【0177】
得られた保護膜形成用複合シートを用いて、下記の測定および評価を行った。
【0178】
まず、実施例1から7および比較例1の保護膜形成用複合シートから第1の剥離フィルムを剥がし、テープマウンター(リンテック社製「Adwill RAD2500」)を用いて、#2000研削仕上げシリコンミラーウエハ(150mm径、厚さ75μm)の研削面に実施例1から7および比較例1の保護膜形成用複合シートの保護膜形成フィルムを貼り付けて、
図4に示す構成を得た。
【0179】
保護膜形成フィルムが貼付されたシリコンミラーウエハを大気雰囲気下のオーブン内で130℃、2時間加熱し、保護膜形成フィルムを保護膜化して、保護膜付きウエハを作製した。
【0180】
(保護膜の表面粗さ)
保護膜付きウエハから粘着シートを剥離して、保護膜の表面の算術平均粗さRa0(μm)を、ミツトヨ社製SV-3000を使用して測定した。測定条件は、JIS B0601:2013に従い、カットオフ値λc=0.8mm、評価長さln=10mmとした。結果を表2に示す。
【0181】
続いて、保護膜付きウエハから粘着シートを剥離して、オーブンに投入し、260℃、5分加熱した後、オーブンから取り出し徐冷した。常温(23℃)まで徐冷した後、保護膜の表面の算術平均粗さRa1(μm)を、ミツトヨ社製SV-3000を使用して測定した。測定条件は、JIS B0601:2013に従い、カットオフ値λc=0.8mm、評価長さln=10mmとした。結果を表2に示す。
【0182】
(保護膜表面における水の接触角)
保護膜付きウエハから粘着シートを剥離して、オーブンに投入し、260℃、5分加熱した後、オーブンから取り出し徐冷した。常温(23℃)まで徐冷した後、保護膜の表面を測定対象面として、23℃、相対湿度50%の環境下で、自動接触角計(KRUSS社製「DSA100」)を用いて、2μlの水滴により求めた接触角を水の接触角として測定した。水の接触角の測定結果を表2に示す。
【0183】
(半導体パッケージの接着信頼性の評価)
保護膜付きウエハにおいて、保護膜が形成されている研削面とは反対側の面にダイシングダイボンディングシートを、フィルム状接着剤を介して貼付し、ウエハダイシング用リングフレームに固定した。フィルム状接着剤としては、保護膜を使用しないパッケージの構成(すなわち「基板/フィルム状接着剤/シリコンチップ/封止樹脂」の構成)を用いて接着信頼性試験を行った時に基板とシリコンチップ間が剥がれない程度の十分な接着信頼性を有するフィルム状接着剤を使用した。
【0184】
次に、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD651」)を用いて、ダイシングダイボンディングシートおよび保護膜付きシリコンウエハを8mm×8mmのサイズにダイシングして、保護膜付き半導体チップを得た。
【0185】
次いで、ラバー製吸着コレットを用いて、保護膜付き半導体チップを、ダイシングダイボンディングシートのフィルム状接着剤と共に基材からピックアップした。基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製「CCL-HL830」)の銅箔(厚さ18μm)に回路パターンが形成され、この回路パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製「PSR-4000 AUS303」)が積層された基板(ちの技研社製「LN001E-001 PCB(Au)AUS303」)を準備した。この基板上に、ダイボンド装置(キヤノンマシナリー(株)製BESTEM-D02)により、上記の保護膜付き半導体チップを、フィルム状接着剤を介して120℃、2.45N(250gf)、0.5秒間の条件で圧着した。圧着後、基板と保護膜付き半導体チップとの積層物に対して、最高加熱温度260℃、加熱時間5分の条件でIRリフローを行った。
【0186】
次いで、これら各積層物を、封止樹脂(京セラケミカル社製「KE-G1250」)を用いて、封止厚が400μmとなるように封止し、175℃で5時間加熱することで封止樹脂を硬化させた。次いで、この封止された積層物をダイシングテープ(リンテック社製「Adwill D-510T」)に貼付し、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD651」)を用いて、15mm×15mmのサイズにダイシングして、接着信頼性評価用の、保護膜付き半導体チップが樹脂封止された半導体パッケージを得た。
【0187】
次いで、得られた半導体パッケージを、85℃、相対湿度60%の条件下で168時間放置することで吸湿させた後、最高加熱温度260℃、加熱時間5分の条件でIRリフローを行った。そして、このIRリフローを行った半導体パッケージについて、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック社製「Hye-Focus」)を用いて、パッケージクラックの発生の有無を観察した。
【0188】
このような評価を、各実施例及び比較例ごとに10個の半導体パッケージで行い、10個のうち、パッケージクラックが生じた個数を確認することにより、接着信頼性を評価し、下記表2中における「接着信頼性試験」の欄に示した。なお、表2中において、例えば、「0/10」との記載は、10個の半導体パッケージについて評価を行い、10個のうち0個でパッケージクラックの発生が観察されたこと、すなわち、パッケージクラックの発生が観察された半導体パッケージはなかったことを意味する。クラックが発生した個数が5個以上である試料を不良(F)と判定し、2から4個である試料を可(B)と判定し、0または1個である試料を良(A)と判定した。
【0189】
【0190】
表2より、260℃で5分加熱後の保護膜の表面粗さRa1が上述した範囲内である場合には、パッケージの接着信頼性が良好であることが確認できた。また、Ra1が同程度の試料(実施例1および7)であっても、水の接触角が低い試料(実施例1)の方が僅かながら接着信頼性が優れていることが確認できた。
【0191】
また、表2より、平均粒径の異なる2種類の充填材(フィラー)を用いることで、加熱前後のRaの変化[nm]を小さく抑制できる傾向があった。それにより、260℃で5分加熱後の保護膜の表面粗さRa1が上述した範囲内になり易い傾向があることが確認できた。
【0192】
なお、保護膜付き半導体チップを基板上に配置する工程における、ラバー吸着コレットからの脱離は、全ての実施例および比較例の保護膜でスムーズに可能であった。これは、Ra0が上述した範囲内であったことが寄与していると推察される。
【0193】
(実験2)
実施例5の保護膜形成用複合シートを用いて、保護膜にレーザーマーキングを行った以外は、実験1と同様にして、保護膜付き半導体チップが樹脂封止された半導体パッケージを作製し、実験1と同様の接着信頼性評価を行った。
【0194】
(レーザーマーキング)
保護膜形成フィルムを保護膜化した後、保護膜形成用複合シート付きウエハの粘着シート側から保護膜に向かって、レーザーマーキング装置(EOテクニクス製CSM300M)により、レーザーを照射することで、保護膜の表面にレーザーマーキングを行った。照射条件は、レーザー波長:532nm、Draw speed:20mm/s、Power:0.11Wおよび0.14Wであった。また、1チップあたり、「888」を3行(合計9文字)マーキングし、1文字のサイズは、縦0.5mm×横0.4mmとした。
【0195】
続いて、レーザーマーキング後の保護膜付きウエハから粘着シートを剥離し、レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK-9700)を用いて、以下に示す手順により「8」の文字の中心部の高さを測定した。測定は、260℃加熱前の保護膜付きウエハに対して行った。
【0196】
まず、印字していない箇所/印字箇所/印字していない箇所にまたがるように、保護膜表面上の測定位置(直線状)を指定した。次に、両サイドの印字していない箇所の測定距離10μmの高さ平均をそれぞれ測定し、両サイドを足して2で割り、「印字していない箇所の平均高さ[μm]」とした。次に、印字箇所中央の測定距離10μmの高さ平均を測定し、「印字箇所の平均高さ[μm]」とした。得られた値から、下の式で印字箇所の高さを算出した。
印字箇所の高さ[μm]=(印字箇所の平均高さ)―(印字していない箇所の平均高さ)
【0197】
上記の測定を、9文字中の四隅の4文字に対して行い、4文字の高さ平均値を、最終的な印字箇所の高さとした。
【0198】
測定後の保護膜付きウエハを、実験1と同様にして、260℃、5分加熱し、ダイシングして、保護膜付き半導体チップを得た。得られた保護膜付き半導体チップを用いて、実験1と同様にして、保護膜付き半導体チップが樹脂封止された半導体パッケージを得た。得られた半導体パッケージに対して、実験1と同様にして、接着信頼性評価を行った。
【0199】
レーザーマーキングにおいて、Powerが0.11Wである場合、印字箇所の高さ0.019μmで印字視認可能であり、接着信頼性試験では「0/10」の結果が得られた(A判定)。
【0200】
レーザーマーキングにおいて、Power:0.14Wである場合、印字箇所の高さ0.038μmで印字視認可能であり、接着信頼性試験では「0/10」の結果が得られた(A判定)。
【0201】
レーザーマーキングを行っても、マーキング部分の高さが0μmより大きいため、視認可能であり、且つ接着信頼性に悪影響を及ぼさなかったと推察された。
【0202】
なお、レーザーマーキング後の保護膜付きウエハに対して260℃加熱を行うと、目視確認にて印字は加熱前に比べて不鮮明になる傾向はあったが、封止処理を行う場合には、マーキング部分は封止樹脂で覆われるため、大きな問題とはならない。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明に係る保護膜形成フィルムおよび保護膜形成用複合シートは、保護膜付きチップが封止処理されたパッケージを製造するのに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0204】
10…保護膜付きチップ
1…保護膜形成フィルム
1a…保護膜
6a…チップ
6b…凸状電極
3,3A…保護膜形成用複合シート
1…保護膜形成フィルム
4…粘着シート
41…基材
42…粘着剤層
5…治具用粘着剤層
6…ウエハ
7…リングフレーム
50…基板
100…システムインパッケージ