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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】カバーおよびアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/42 20060101AFI20240321BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240321BHJP
   C08J 9/228 20060101ALI20240321BHJP
   G01S 7/03 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
H01Q1/42
B32B5/18
C08J9/228
G01S7/03 246
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020030573
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021136540
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】葛西 辰昌
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-198203(JP,A)
【文献】特開2000-049518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/42
B32B 5/18
C08J 9/228
G01S 7/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波数帯の電波を用いて通信する電子機器で使用される樹脂製のカバーであって、
前記電子機器から一部が露出する表層と、
前記表層より密度が小さい発泡体を含み、
前記電子機器の内部に前記表層と接して配置される補助層とを備え、
前記電波の空気中の波長λ、前記表層の厚さd、前記表層の複素屈折率の大きさをNおよび1以上の整数kを用いて、以下の式(A)で示される値ABSの最小が0.73以下である、カバー。
【数1】
【請求項2】
前記補助層は、前記発泡体で構成される裏層および中間層を含み、
前記中間層は、前記表層と前記裏層との間に配置され、
前記中間層の平均密度は、前記表層の密度より小さく、かつ、前記裏層の密度より大きい、請求項1に記載のカバー。
【請求項3】
高周波数帯の電波を用いて通信する電子機器で使用される樹脂製のカバーであって、
前記電子機器から一部が露出する表層と、
前記表層より密度が小さい発泡体を含み、
前記電子機器の内部に前記表層と接して配置される補助層とを備え、
前記補助層は、前記発泡体で構成される裏層および中間層を含み、
前記中間層は、前記表層と前記裏層との間に配置され、
前記中間層の平均密度は、前記表層の密度より小さく、かつ、前記裏層の密度より大きい、カバー。
【請求項4】
前記電波の空気中の波長λ、前記表層の厚さd、前記表層の複素屈折率の大きさをNおよび1以上の整数kを用いて、以下の式(A)で示される値ABSの最小が0.73以下である、請求項3に記載のカバー。
【数2】
【請求項5】
前記表層の密度は、0.90g/cm以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載のカバー。
【請求項6】
切断した断面における前記発泡体の最大気泡径は、1500μm以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のカバー。
【請求項7】
前記中間層の密度は、前記表層の側から前記裏層の側に向かって、段階的に小さくなる、請求項2または3に記載のカバー。
【請求項8】
前記中間層の密度は、前記表層の側から前記裏層の側に向かって、漸近的に小さくなる、請求項2または3に記載のカバー。
【請求項9】
前記裏層は、荷重たわみ温度が100℃以上である、請求項2、3、7、8のいずれか一項に記載のカバー。
【請求項10】
前記樹脂は、UL94規格V-0を満たす、請求項1から9のいずれか一項に記載のカバー。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のカバーを備える、アンテナ装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カバーおよびアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波数帯の電波を利用した通信技術の開発が盛んに行われている。例えば携帯電話、自動運転および気象レーダー等の分野において、高周波数帯の電波利用が拡大しており、例えば1から100GHz帯の電波の利用が検討されている。
【0003】
例えば、携帯電話の基地局装置は高周波数帯の電波を用いる。特許文献1は、基地局装置を囲むように設けられ、外観を形成するレドームを示す。レドームは外部環境から内部の機器を保護するカバーとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-508939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電波は周波数が高くなるほど減衰しやすいことが知られている。そのため、1から100GHz帯の電波を利用する電子機器において、電波の透過率の大きいカバーを用いることが重要である。特許文献1のような平板状のカバーでは、表面および裏面において電波が反射する。このため、カバーの厚みが変動すると電波の透過率が変化するため、製造安定性が悪い。また、カバーが特定の厚さの場合に、表面および裏面の反射波が干渉して反射が大きくなることがあり、電波の透過率が小さくなり得る。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表皮厚み変動による電波透過率の変化を抑制することが可能なカバーおよびアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係るカバーは、
高周波数帯の電波を用いて通信する電子機器で使用される樹脂製のカバーであって、
前記電子機器から一部が露出する表層と、
前記表層より密度が小さい発泡体を含み、前記電子機器の内部に前記表層と接して配置される補助層と、を備える。
【0008】
本開示の一実施形態に係るアンテナ装置は、上記のカバーを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、表皮厚み変動による電波透過率の変化を抑制することが可能なカバーおよびアンテナ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係るカバーの構成例を示す図である。
図2図2は、一実施形態に係るカバーを備えるアンテナ装置を例示する図である。
図3図3は、一実施形態に係るカバーにおける反射波について説明する図である。
図4図4は、中間層の構成例を示す図である。
図5図5は、中間層の別の構成例を示す図である。
図6図6は、複数のカバーの電波の透過率を比較した図である。
図7図7は、発泡体を厚さ方向に切断したときの断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した画像(倍率:400倍)である。
図8図8は、従来例のカバーにおける反射波について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(カバーの構成)
図1は、本開示の一実施形態に係るカバー1の構成例を示す図である。カバー1は、高周波数帯の電波を用いて通信する電子機器10で使用される。カバー1は樹脂製である。高周波数帯は、例えば1から100GHzの周波数帯域であるが、これに限定されない。別の例として、高周波数帯は、300MHz以上としてよい。また、別の例として、高周波数帯は、6GHz以上としてよい。
【0012】
カバー1は、電子機器10が内部に備えるアンテナ6での送受信が可能なように、電子機器10の外部との間で電波を透過させる。例えば、電子機器10の外部からの電波Rのうち、一部の電波Rがカバー1で反射するが、電波Rはカバー1を透過してアンテナ6で受信される。また、カバー1は、電子機器10が内部に備えるアンテナ6等の機器を、外部環境から保護する。
【0013】
カバー1は、表層2と、補助層3と、を備える。補助層3は、裏層4と、中間層5と、を備えてよい。カバー1の構成は、この例に限定されない。別の例として、補助層3は裏層4だけを備えてよい。
【0014】
ここで、図1のとおり、表層2の表面21の少なくとも一部がyz平面と平行であるように直交座標が設定される。x軸方向は、表面21と垂直な方向である。また、x軸方向は、表層2、中間層5および裏層4の厚さ方向、および、これらの積層方向に対応する。例えば表層2の厚さdは、x軸方向の長さである。
【0015】
表層2は、電子機器10から一部が露出するように設けられる。例えば、表層2は、表面21が電子機器10から露出し、その他の部分が電子機器10の内部にあってよい。また、裏面22は、表層2における表面21と反対の面である。表層2は、裏面22において、補助層3と接する。表層2は、密度が0.9g/cm以上の樹脂で構成されてよい。また、表層2には適宜塗装等の表面処理が行われていても良い。
【0016】
補助層3は、表層2より密度が小さい発泡体を含み、電子機器10の内部に表層2と接して配置される。補助層3が含む発泡体の最大気泡径は、電波の散乱を抑制できる観点から、一例として1500μm以下であってよい。本実施形態において、補助層3は、発泡体で構成される裏層4および中間層5を含む。図1のとおり、中間層5は、表層2と裏層4との間に配置される。中間層5の平均密度は、表層2の密度より小さく、かつ、裏層4の密度より大きい。カバー1は、表層2から裏層4に向かうにつれて、密度が小さくなる。また、中間層5の厚さは、一例として0.1mm以上かつ50mm以下であってよい。発泡体についての詳細説明は後述する。また、表層2と補助層3の積層方法は特に限定されないが、発泡体の片面を加熱し表面を溶融させて表層と補助層を作製(積層)する方法、ならびに、密度の違う発泡体、表皮を、非常に薄い厚み(例えば、表層中の電波の波長λに対して、その5分の1以下等)の粘着剤、接着剤等による貼合により積層する方法、等がある。尚、粘着剤や接着剤等を用いた貼合による積層の場合には、電波透過率への影響を小さくするために粘着剤、接着剤層の厚みが十分小さいことが好ましい。
【0017】
(電子機器)
図2は、カバー1を備える電子機器10の一例であるアンテナ装置を例示する図である。アンテナ装置は、例えば携帯電話の基地局装置である。図2に示すように、アンテナ装置は1つの基地局ユニットで構成されてよい。また、アンテナ装置は複数の基地局ユニットで構成されてよい。基地局ユニットは、アンテナ6を少なくとも一つ以上内部に有する。基地局ユニットは、アンテナ6を含む内部の機器を風雨等から保護し、高周波数帯の電波を用いて通信可能にするために、カバー1を使用する。基地局ユニットは、例えば筐体の一部にカバー1を有し、表層2を外部に露出する。ここで、アンテナ装置は、携帯電話の基地局装置に限定されず、電波を使用して通信する機能を有するものであればよく、例えば気象レーダー装置、衛星放送設備、人工衛星、レーダー、音声通信設備、携帯電話、無線LAN等の他の装置であってよい。ここで、電波を使用して通信する機能は、電波を送信する機能、受信する機能、または送受信する機能である。また、電子機器10は、アンテナ装置に限定されず、例えば車間距離計測または自動運転のための車載装置または携帯端末等の他の装置であってよい。
【0018】
ここで、高周波数帯の電波を用いて通信する電子機器10で使用される場合に、カバー1の一部は電子機器10の内部に設けられる。電子機器10の内部は、例えば機器の放熱等によって高温となり得る。信頼性向上の観点から、カバー1は高い耐熱性を有することが好ましい。例えば、電子機器10の内部で機器の近くに配置され得る裏層4は、荷重たわみ温度が100℃以上であることが好ましい。また、カバー1を構成する樹脂は、UL94規格V-0を満たすことが好ましい。
【0019】
(反射波の干渉)
ここで、図8は、従来例であるカバー101における反射波について説明する図である。従来例のカバー101は、本実施形態における補助層3を備えない。つまり、カバー101は、板状の樹脂である表層2だけを備える。図8の例において、カバー101は、アンテナ6を内部に備える電子機器110の筐体に用いられ、表層2の厚さdが(2k-1)×λ/4を満たす。ここで、「k」は1以上の整数である。「λ」は電子機器110が通信する電波の表層2における波長であって、λ/Nで求められる。「λ」は電波の空気中の波長である。また、「N」は表層2の複素屈折率の大きさである。カバー101は空気中に配置されており、空気との屈折率の差によって、表面21および裏面22において、電波の反射が生じる。
【0020】
図8に示すように、電子機器110の外部からの電波の入射波Aは、表層2の表面21で固定端反射する。反射波Aは、入射波Aの伝搬の向きであるx軸正方向の反対、つまりx軸負方向に伝搬する。また、電子機器110の外部からの電波の入射波Bは、表層2の裏面22で自由端反射する。反射波Bは、入射波Bの伝搬の向きであるx軸正方向の反対、つまりx軸負方向に伝搬する。表層2の厚さdが(2k-1)×λ/4を満たす場合に、反射波Aの位相と、反射波Bの位相とが揃って強め合う。以下において、表層2の厚さdが(2k-1)×λ/4を満たすことを、強め合い条件が満たされるという。強め合い条件が満たされる場合に反射波が大きくなる。そのため、電子機器110の外部からの電波のうち、カバー101を通過して、アンテナ6に届く電波が小さくなる。つまり、強め合い条件が満たされる場合に、電波の透過率が小さくなる。ここで、強め合い条件がちょうど満たされる場合を透過率減少のピークとして、強め合い条件が満たされる厚さdの近傍においても透過率が小さくなる。ここで、電波の透過率は、電波がカバー1またはカバー101を通過した直後の電波強度をT1、電波がカバー1またはカバー101に入射する直前の電波強度をT2として、T1/T2で示される。
【0021】
上記の透過率減少のピークはλ/2ごとに生じる。例えば、電子機器110が100GHzの電波の利用する場合にλ/2は約1.5mmとなる。強め合い条件が満たされないように、約1.5mmごとの特定の値を避けて表層2の厚さdを定めることは、設計上の大きな制約となり得る。また、強め合い条件を回避して設計した場合でも、例えば熱膨張、外力による変形または経年変化等によって、表層2の厚さdが強め合い条件を満たすおそれがある。そのため、厚み変動が発生した場合の電波の透過率変動を抑制することが可能な構成が求められていた。
【0022】
図3は、本実施形態に係るカバー1における反射波について説明する図である。従来例と同じく、カバー1の表層2の厚さdが(2k-1)×λ/4を満たす。また、従来例と同じく、電子機器110の外部からの電波の入射波Aは、表層2の表面21で固定端反射し、反射波Aが生じる。また、電子機器110の外部からの電波の入射波Bは、表層2の裏面22で自由端反射し、反射波Bが生じる。ここで、本実施形態に係るカバー1は、表層2の裏面22が発泡体を含む補助層3と接している。表層2と補助層3とはともに樹脂で構成されており、表層2と補助層3との屈折率の差は、表層2と空気の屈折率の差より小さい。屈折率の差が小さいほど反射率が小さくなるため、裏面22における反射波Bは、従来例の場合に比べて抑えられる。したがって、本実施形態に係るカバー1は、強め合い条件が満たされる場合でも、従来例より電波の透過率を大きくすることができる。
【0023】
ここで、電波が中間層5と裏層4との界面で反射しても、中間層5と裏層4とはともに樹脂で構成されており、中間層5と裏層4との屈折率の差は小さい。そのため、中間層5と裏層4との界面における反射は、反射波の強め合いに影響しないと考えられる。また、上記のとおり、裏層4は、表層2より密度が小さい発泡体で構成される。裏層4の誘電率が表層2の誘電率よりも小さいので、裏層4の屈折率は、表層2の屈折率よりも小さい。よって、裏層4と空気との界面の反射率は、表層2と空気との界面の反射率よりも小さい。さらに、電波がカバー1を伝搬する際に、誘電損失により電波が減衰する。本明細書中で記載する誘電率とは、比誘電率の事を指す。
【0024】
ここで、中間層5は一様に同じ密度であってよいが、電波の透過率をさらに大きくするために、密度勾配を有することが好ましい。図4に示すように、中間層5は、密度が異なる複数の層5a、5b、5c、5dを含んでよい。そして、中間層5の密度は、表層2の側から裏層4の側に向かって、段階的に小さくなってよい。つまり、層5aの密度、層5bの密度、層5cの密度および層5dの密度が、この順に、段階的に小さくなってよい。ここで、中間層5が含む複数の層の数は4つに限定されない。中間層5が含む複数の層の数は、1つ、2つ、3つ、または5つ以上であり得る。ここで、隣接する層の間の屈折率の差を小さくするために、中間層5が含む複数の層の数は多い方が好ましい。また、図5に示すように、中間層5の密度は、表層2の側から裏層4の側に向かって、漸近的に小さくなることが、さらに好ましい。表層2から裏層4まで、密度がなだらかに変化することで、カバー1の内部において電波の反射が生じることを抑制可能である。
【0025】
図6は、構成が異なる複数のカバーの電波の透過率を比較した図である。横軸は、表層2の厚さdを示す。縦軸は、電波の透過率を示す。実線で示される特性曲線TRは、ある高周波数の電波を用いた場合における、従来例のカバー101の、厚さdと電波の透過率との関係を示す。ある高周波数は例えば79GHzである。また、破線または鎖線で示される特性曲線TR、TRおよびTRは、同じ高周波数の電波を用いた場合における、本実施形態に係るカバー1の、厚さdと電波の透過率との関係を示す。特性曲線TRは、補助層3として裏層4だけを備える構成の場合を示す。また、特性曲線TRは、中間層5の厚さが0.5mmで、総厚みが10mmの構成の場合を示す。また、特性曲線TRは、中間層5の厚さが2mmで、総厚みが10mmの構成の場合を示す。
【0026】
図6の例において、表層のみの場合には表層中の光の波長λを用いて、表層の厚みがλ/8からλ×3/4の間での厚み変動により透過率の極大値と極小値の差が16%程度である。一方で、表層と裏層(発泡体)を積層した場合には表層厚みが同じ厚みの変動範囲内で透過率変動(極大値と極小値の差)を14%に抑制することが出来る。表層と裏層(発泡体)の間に補助層がある場合にはその効果は更に顕著となる。すなわち、表層厚みが当該範囲内で変動したとしても、得られるカバーの電波透過率変動が小さくなるため、製造安定性を向上することが可能である。また、表層2の厚さdが例えばdおよびdの場合に、強め合い条件が満たされる。強め合い条件はλ/2ごとに満たされる。例えば、dとdとの差はλ/2である。特性曲線TRのように、従来例のカバー101の電波の透過率は、強め合い条件がちょうど満たされる場合を減少のピークとして、強め合い条件が満たされる厚さdの近傍においても小さくなる。
【0027】
特性曲線TRのように、本実施形態に係るカバー1は、上記の構成によって、強め合い条件がちょうど満たされる場合でも、電波の透過率が小さくならない。そのため、表層2の厚さdが、強め合い条件が満たされる値およびその近傍の値をとる場合に、カバー1における電波の透過率は、カバー101に比べて、大きく改善される。電波の透過率が大きく改善される厚さdの範囲については後述する。
【0028】
このように、本実施形態に係るカバー1は、表皮厚み変動による電波透過率の変化を抑制することが可能である。そのため、カバー1は、強め合い条件を回避して設計する必要がなく、高周波数帯の電波を用いて通信する電子機器10で使用される場合であっても自由な設計が可能である。また、発泡体である補助層3を備えることによって、カバー1は重量をあまり増加させずに、x軸方向の長さ、すなわち厚さを増すことができる。よって、カバー1は強度が高まり、変形しにくい。
【0029】
本実施形態に係わるカバー1について、通信に用いられる電波の空気中の波長λ、表層2の厚さd、表層2の複素屈折率の大きさをNおよび1以上の整数kを用いて、以下の式(A)で示される値ABSが求められる。値ABSは、本実施形態に係わるカバー1の表層2の厚さdが、離散的に存在する強め合い条件が満たす値から、どの程度離れているかを示す。離散的に存在する強め合い条件が満たす値は、例えば図6のdおよびdである。「値ABSの最小」は、整数kの値が異なる複数の値ABSのうちで最小となるものを指す。ABSが0の場合は、もっとも強め合いの影響が大きくなる表層dの厚みとなり、ABSが1の場合には、もっとも強め合いの影響が小さくなる表層dの厚みとなる。ここで、ABSの値としては、0.73以下で小さければ小さいほど透過率を向上させる効果が大きくなるが、0.68以下であることが好ましく、0.63以下であることが更に好ましい。
【数1】
【0030】
(発泡体)
以下、発泡体の具体的な構成が説明される。補助層3に含まれる発泡体は、基材樹脂として熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含む。発泡体は、このような基材樹脂を含み、任意選択的に難燃剤等の添加剤を更に含む樹脂組成物を発泡させたものとしてよい。また、発泡体としては、例えば、押出発泡体、射出発泡体、ビーズ発泡体、延伸発泡体および溶剤抽出発泡体等が挙げられる。これらは、それぞれ、後述する押出発泡法、射出発泡法、ビーズ発泡法、延伸発泡法、溶剤抽出発泡法により製造された発泡体を指す。ここで、ビーズ発泡体は、発泡粒子からなる発泡体である。
【0031】
基材樹脂の含有量は、樹脂組成物を100質量%として、好適には20質量%以上であり、より好適には40質量%以上であり、更に好適には60質量%以上であり、特に好適には70質量%以上であり、また、好適には100%以下であり、より好適には95%以下である。誘電率や誘電正接を下げるために、基材樹脂が、極性が低い樹脂から成ることが好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられ、耐熱性、経済性、発泡性の観点からは、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましい。特に、本開示の発泡体に好適な基材樹脂としては、極性が小さい樹脂および密度が小さい樹脂が好ましく、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてよい。
【0033】
ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂は、下記一般式(1)で表される重合体であってよい。ここで、式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、またはハロゲンと一般式(1)中のベンゼン環との間に少なくとも2個の炭素原子を有するハロアルキル基若しくはハロアルコキシ基で第3α-炭素原子を含まないもの、を示す。また、式(1)中、nは、重合度を表す整数である。
【化1】
【0034】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジブチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジラウリル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジフェニル-1,4-ジフェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジメトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メトキシ-6-エトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-ステアリルオキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジベンジル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-クロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジブロモ-1,4-フェニレン)エーテル等が挙げられるが、これに限定されるものではない。この中でも特に、RおよびRが炭素数1~4のアルキル基であり、RおよびRが水素若しくは炭素数1~4のアルキル基のものが好ましい。これらは一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、基材樹脂100質量%に対して、20~80質量%であることが好ましく、より好ましくは30~70質量%であり、更に好ましくは35~60質量%である。PPE系樹脂の含有量が20質量%以上の場合、優れた耐熱性および難燃性を得やすくなるとともに、誘電率(εr)および誘電正接(tanδ)を低減しやすい。また、PPE系樹脂の含有量が80質量%以下の場合、優れた加工性を得やすくなる。
【0036】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、20,000~60,000であることが好ましい。ここで、重量平均分子量(Mw)は、樹脂についてゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行い、クロマトグラムのピークの分子量を、市販の標準ポリスチレンについての測定から求めた検量線(標準ポリスチレンのピーク分子量を使用して作成)を使用して求めた重量平均分子量をいう。
【0037】
ポリスチレン系樹脂とは、スチレンおよびスチレン誘導体のホモポリマー、スチレンおよびスチレン誘導体を主成分(ポリスチレン系樹脂中に50質量%以上含まれる成分)とする共重合体をいう。スチレン誘導体としては、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジフェニルエチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
【0038】
ホモポリマーのポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン、ポリクロロスチレン等が挙げられる。共重合体のポリスチレン系樹脂としては、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-マレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、スチレン-N-アルキルマレイミド共重合体、スチレン-N-アルキル置換フェニルマレイミド共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メチルアクリレート共重合体、スチレン-メチルメタクリレート共重合体、スチレン-n-アルキルアクリレート共重合体、スチレン-n-アルキルメタクリレート共重合体、エチルビニルベンゼン-ジビニルベンゼン共重合体等の二元共重合体;ABS、ブタジエン-アクリロニトリル-α-メチルベンゼン共重合体等の三元共重合体;スチレングラフトポリエチレン、スチレングラフトエチレン-酢酸ビニル共重合体、(スチレン-アクリル酸)グラフトポリエチレン、スチレングラフトポリアミド等のグラフト共重合体;等が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、プロピレン-エチレン共重合体等の樹脂が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのポリエチレン系樹脂は架橋剤等により適宜架橋構造を有していても良い。
【0040】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアミド共重合体、これらの混合物が挙げられる。ポリアミド系樹脂には、アミノカルボン酸の自己縮合、ラクタムの開環重合、ジアミンとジカルボン酸との重縮合により得られる重合体を含んでよい。ポリアミドとしては、ジアミンとジカルボン酸との重縮合により得られる、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン1212等、ラクタムの開環重合により得られるナイロン6、ナイロン12等が挙げられる。ポリアミド共重合体としては、例えば、ナイロン6/66、ナイロン66/6、ナイロン66/610、ナイロン66/612、ナイロン66/6T(Tは、テレフタル酸成分を表す)、ナイロン66/6I(Iは、イソフタル酸成分を表す)、ナイロン6T/6I等が挙げられる。これらの混合物としては、例えば、ナイロン66とナイロン6との混合物、ナイロン66とナイロン612との混合物、ナイロン66とナイロン610との混合物、ナイロン66とナイロン6Iとの混合物、ナイロン66とナイロン6Tとの混合物等が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本実施形態において、PPE系樹脂以外の上記熱可塑性樹脂の含有量は、発泡体の加工性の観点から、基材樹脂100質量%に対して、10~100質量%であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%である。
【0042】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂等が挙げられ、中でもフェノール樹脂、メラミン樹脂が好ましい。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、無機充填剤、滴下防止剤、紫外線吸収剤、光吸収剤、可塑剤、離型剤、染顔料、ゴム成分、上記基材樹脂以外の樹脂等が挙げられ、本開示の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0044】
添加剤の含有量としては、基材樹脂を100質量部として、好適には0~40質量部であり、より好適には5~30質量部である。
【0045】
ここで、難燃剤としては、特に限定されないが、有機系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられる。有機系難燃剤としては、臭素化合物に代表されるハロゲン系化合物、リン系化合物およびシリコーン系化合物に代表される非ハロゲン系化合物等が挙げられる。無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムに代表される金属水酸化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンに代表されるアンチモン系化合物等が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記難燃剤の中でも、環境性の観点から、有機系難燃剤の非ハロゲン系難燃剤が好ましく、リン系の難燃剤、シリコーン系の難燃剤がより好ましい。
【0047】
リン系の難燃剤には、リンまたはリン化合物を含むものを用いることができる。リンとしては赤リンが挙げられる。また、リン化合物として、リン酸エステル、リン原子と窒素原子の結合を主鎖に有するホスファゼン化合物等が挙げられる。リン酸エステルとしては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート等が挙げられ、また、これらを各種の置換基で変性したタイプのリン酸エステル化合物、各種の縮合タイプのリン酸エステル化合物も挙げられる。この中でも、耐熱性、難燃性、発泡性の観点から、トリフェニルホスフェートおよび縮合タイプのリン酸エステル化合物が好ましい。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、シリコーン系難燃剤としては、(モノまたはポリ)オルガノシロキサンが挙げられる。(モノまたはポリ)オルガノシロキサンとしては、例えば、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン等のモノオルガノシロキサン;これらを重合して得られるポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン;これらの共重合体等のオルガノポリシロキサン等が挙げられる。オルガノポリシロキサンの場合、主鎖および分岐した側鎖の結合基は、水素、アルキル基、フェニル基であり、好ましくはフェニル基、メチル基、エチル基、プロピル基であるが、これに限定されない。末端結合基は、水酸基、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基であってよい。シリコーン類の形状にも特に制限はなく、オイル状、ガム状、ワニス状、粉体状、ペレット状などの任意のものが利用可能である。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
難燃剤の含有量としては、添加剤の含有量の範囲内としてよいところ、基材樹脂を100質量部として、好適には0~30質量部であり、より好適には5~25質量部である。添加する難燃剤が多いほど発泡体の難燃性が向上する効果が得られやすいが、一般に難燃剤を添加すると誘電率および誘電正接を増加させる傾向がある。
【0050】
また、ゴム成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらは、ポリスチレン系樹脂からなる連続相中に粒子状に分散しているものが好ましい。これらゴム成分を添加する方法として、ゴム成分そのものが加えられてもよく、スチレン系エラストマーおよびスチレン-ブタジエン共重合体等の樹脂がゴム成分供給源として用いられてもよい。ゴム成分を添加する場合、ゴム成分の含有量は、添加剤の含有量の範囲内としてよいところ、基材樹脂を100質量部として、0.3~15質量部が好ましく、0.5~8質量部がより好ましく、1~5質量部が更に好ましい。0.3質量部以上であると、樹脂の柔軟性、伸びに優れ、発泡時に発泡セル膜が破膜しにくく、成形加工性および機械強度に優れる発泡体が得られやすい。
【0051】
(発泡体の最大気泡径)
図7は、発泡体の一例を厚さ方向に切断したときの断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した画像である。図7において、気泡は発泡体の全体に存在する。例えば、気泡12は、その輪郭線の一部が発泡体の表面を示す線11と一致しており、発泡体の表面近くに存在する。また、気泡13は、発泡体の表面から離れて、発泡体の内部に存在する。
【0052】
ここで、気泡径の測定は、発泡体を厚さ方向に切断した断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したときに、気泡の輪郭線上の2点を結ぶ線分の長さのうち、最も長い線分をその気泡の径として測定する。発泡体中の気泡の「最大気泡径」とは、発泡体を切断した断面をSEM等を用いて観察し、気泡12のような気泡の輪郭線の一部が発泡体の表面を示す面と接している気泡と、気泡13のような発泡体の表面から離れて内部に存在する気泡とを、それぞれ最低でも15点以上を測定し、全ての測定値うちで最も大きい値とする。具体的な測定例は実施例に記載した内容を参考にすることが出来る。
【0053】
ここで、電波の波長に対して最大気泡径が小さいほど電波の散乱が起きにくくなる。上記観点より、例えば1から100GHz帯の電波を用いる場合に、発泡体は、発泡体中の気泡の最大気泡径が1500μm以下であることが好ましい。発泡体は、最大気泡径が1300μm以下であることがより好ましい。発泡体は、最大気泡径が1000μm以下であることがさらに好ましい。
【0054】
発泡体の最大気泡径を上記範囲に制御する方法としては、例えば、ビーズ発泡体の場合、基材樹脂へのガスの含浸圧の開放完了から加温(発泡)開始までの時間を短縮することが挙げられる。これにより発泡する際の加温開始時における発泡粒子中のガスの含浸ムラを低減し、発泡体の気泡径を均一にすると共に、気泡径の増大を防ぐことが出来る。また、一般に、発泡体の最大気泡径を低減する方法としては、例えば、発泡工程における基材樹脂中の発泡剤の濃度を大きくすること、基材樹脂中に発泡時の気泡発生の核剤となる添加剤を添加すること、発泡剤が気体の場合には含浸工程において基材樹脂に含浸させる気体の圧力を高めたり温度を下げたりすること、発泡工程における発泡温度を調整すること、基材樹脂の表面張力を調整すること、および、基材樹脂のガラス転移温度を調整すること等が挙げられる。
【0055】
(発泡体の荷重たわみ温度)
本実施形態の発泡体は、ISO75-1、75-2に準拠して測定される荷重たわみ温度(HDT)が60℃以上であることが好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が更に好ましい。発泡体の荷重たわみ温度は、製造時に発泡倍率の大小により変化させることができる。発泡体の荷重たわみ温度が60℃以上であると、耐熱性および構造安定性に優れたカバーを得ることができる。また、荷重たわみ温度は樹脂の種類によっても変化する。このため、荷重たわみ温度が高くなりやすい樹脂(一般にガラス転移温度が高い樹脂)を選定することにより発泡体の荷重たわみ温度を向上させることができる。また、荷重たわみ温度が高くなりやすい樹脂を発泡体の基材樹脂として使用した場合、成形時の加熱条件および前述のガス含浸条件等にも依存するが、一般に気泡径が小さくなりやすい傾向がある。ここで、荷重たわみ温度は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0056】
(発泡体の難燃性)
本実施形態の発泡体は、UL94規格でV-2以上の難燃性を備えることが好ましく、V-1以上の難燃性を備えることがより好ましく、V-0の難燃性を備えることが更に好ましい。難燃性は、製造時に樹脂の種類および樹脂とともに用いる難燃性の種類および含有量により変化させることができる。発泡体が高い難燃性を備えることによって、仮に電装機器において短絡(ショート)および爆発等により燃焼が生じたとしても、燃焼の広がりを抑制することができる。ここで、UL94規格による難燃性は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0057】
(発泡体の炭化水素ガス含有量)
本実施形態の発泡体は、発泡体中に含まれる炭化水素ガスの含有量が1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。炭化水素ガスの含有量が1質量%以下であると、難燃性が維持しやすくなると共に、発泡体成形後の膨張(後ぶくれ)を抑制することができるため、発泡体の寸法安定性の向上、気泡の均一性の向上、最大気泡径の低減が可能である。ここで、炭化水素ガス含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0058】
(発泡体の製造方法)
本実施形態の発泡体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、押出発泡法、射出発泡法、ビーズ発泡法(型内発泡法)、延伸発泡法、溶剤抽出発泡法等が挙げられる。押出発泡法は、押出機を用いて溶融状態の樹脂に有機または無機発泡剤を圧入し、押出機出口で圧力を開放することによって、一定の断面形状を有する、板状、シート状、または柱状の発泡体を得る方法である。射出発泡法は、発泡性を備える樹脂を射出成形し、金型内にて発泡させることによって、空孔を有する発泡体を得る方法である。ビーズ発泡法または型内発泡法は、発泡粒子を型内に充填し、水蒸気等で加熱して発泡粒子を膨張させると同時に発泡粒子同士を熱融着させることによって、発泡体を得る方法である。延伸発泡法は、予めフィラーなどの添加剤を樹脂中に混錬させておき、樹脂を延伸させることでマイクロボイドを発生させて発泡体を作る方法である。溶剤抽出発泡法は、樹脂中に所定の溶剤に溶解する添加剤を添加しておき、成形品を所定の溶剤に浸して添加剤を抽出させて発泡体を作る方法である。
【0059】
押出発泡の場合、得られる発泡体は板状、シート状等となり、これを加工するには所望の形状に切断する抜き工程、切り取ったパーツを貼り合わせる熱貼り工程等が必要になる。一方、ビーズ発泡法の場合、所望の形状の型を作成し、そこに発泡粒子を充填させて成形するため、発泡体は複雑な形状に成形され得る。射出発泡法の場合でも、発泡体を複雑な形状に成形することは可能であるが、ビーズ発泡の場合には、発泡体の発泡倍率を高めやすく、断熱性に加えて柔軟性を発現しやすい。
【0060】
発泡剤としては、特には限定されず、一般的に用いられているガスを使用することができる。その例として、空気、炭酸ガス、窒素ガス、酸素ガス、アンモニアガス、水素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の無機ガス;トリクロロフルオロメタン(R11)、ジクロロジフルオロメタン(R12)、クロロジフルオロメタン(R22)、テトラクロロジフルオロエタン(R112)ジクロロフルオロエタン(R141b)クロロジフルオロエタン(R142b)、ジフルオロエタン(R152a)、HFC-245fa、HFC-236ea、HFC-245ca、HFC-225ca等のフルオロカーボン;プロパン、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタン等の飽和炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルn-プロピルケトン、メチルn-ブチルケトン、メチルi-ブチルケトン、メチルn-アミルケトン、メチルn-ヘキシルケトン、エチルn-プロピルケトン、エチルn-ブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステル等のカルボン酸エステル類;塩化メチル、塩化エチル等の塩素化炭化水素類;等が挙げられる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
難燃性の観点から、発泡剤は可燃性および支燃性がないかまたは少ないことが好ましく、ガスの安全性の観点から、無機ガスがより好ましい。また、無機ガスは炭化水素等の有機ガスに比べて樹脂に溶けにくく、発泡工程または成形工程の後に樹脂からガスが抜けやすいので、成形後の発泡体の経時での寸法安定性がより優れる利点もある。更に、無機ガスを用いた場合、残存ガスによる樹脂の可塑化が起こりにくい。そのため、熟成等の工程を経ずに、より早い段階から優れた耐熱性を発現しやすいメリットがある。無機ガスの中でも、樹脂への溶解性、取り扱いの容易さの観点から、炭酸ガスが好ましい。また、炭化水素系の有機ガスは一般に可燃性が高く、発泡体中に残存した場合に難燃性が悪化する傾向にある。
【0062】
ビーズ発泡法に用いる発泡粒子は、基材樹脂に発泡剤を含有(含浸)させて、発泡を生じさせることにより得ることができる。具体的には、基材樹脂(ペレット状、ビーズ状等)を耐圧容器に収容し、容器内の気体を乾燥空気で置換した後、発泡剤(ガス)を圧入して基材樹脂に発泡剤(ガス)を含浸させた後、圧力を開放して圧力容器から発泡炉に基材樹脂ペレットを移送し、基材樹脂ペレットを発泡炉内で攪拌羽を回転させながら加圧水蒸気により加温して発泡させることにより、発泡粒子を製造する方法が挙げられる。基材樹脂に対して発泡剤(ガス)を含浸させる際の条件は、特には限定されることなく、発泡剤(ガス)の基材樹脂への含浸をより効率的に進める観点から、例えば、含浸圧が0.3~30MPa、含浸温度が-20~100℃、および、含浸時間が10分~96時間であることが好ましい。また、発泡炉内の加圧水蒸気の最大蒸気圧は、所望の倍率を得やすく外観を良化する観点から、30~700kPa・Gであることが好ましい。上記発泡粒子の製造方法において、耐圧容器内の放圧(含浸圧の開放)を完了してから発泡炉内で加圧水蒸気により加温を開始するまでの時間は、600秒未満であることが好ましく、300秒以内であることがより好ましく、120秒以内であることが更に好ましく、60秒以内であることが特に好ましい。当該時間が上記範囲内であると、基材樹脂に含浸させたガスが不均一に拡散することを抑制することができるため、気泡径を均一にすると共に、気泡径の増大を防ぐことができる。
【0063】
発泡粒子を用いて発泡体を成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、発泡粒子を成形用金型のキャビティ内に充填し、加熱することによって膨張を生じさせると同時に発泡粒子同士を熱融着させた後、冷却により生成物を固化し、成形する方法が挙げられる。発泡粒子の充填方法は、特には限定されず、公知の方法を用いることができる。発泡粒子を成形用金型のキャビティ内に充填する前に、発泡粒子に対してガスによる加圧処理を行うことが好ましい。発泡粒子の気泡に一定のガス圧力を付与することで、得られる発泡体を構成する発泡粒子同士を強固に融着させ、成形体の剛性および外観を改善することが出来る。加圧処理に用いるガスとしては、特には限定されないが、取り扱い容易性および経済性の観点から、空気および無機ガスが好ましい。加圧処理の方法としては、特には限定されないが、発泡粒子を加圧容器内に充填後、加圧ガスを導入し、最大圧力0.1~20MPaまで10分~96時間かけて昇圧することにより、該加圧容器内にガスを供給する手法等が挙げられる。発泡粒子を成形する際の加熱方法は、水蒸気等の熱媒体を用いた加熱、IRヒーター等のヒーターによる加熱、マイクロ波を用いた加熱等が挙げられる。熱媒体を用いた加熱を行う際は、汎用の熱媒体としてよく、樹脂を効率的に加熱する観点から、水蒸気であることが好ましい。
【0064】
本実施形態において発泡体を目的の形状に加工する方法としては、特には限定されないが、発泡粒子または溶融樹脂を金型に充填し成形する方法、鋸刃および型ぬき刃等の刃物により切断する方、ミルにより切削する方法、複数の発泡体を熱および接着剤により接着させる方法等が挙げられる。
【0065】
本実施形態の発泡体は、単独で使用してもよいし、未発泡樹脂等と組み合わせて使用してもよい。その際、各々成形加工した物が接着されてもよいし、一体成形されてもよい。
【0066】
本実施形態の発泡体の形状、大きさ、厚さ等は、特に限定されず、カバー1の形状、大きさ、厚さ等に応じて適宜定められてよい。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本開示を更に詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
(1)発泡体の最大気泡径
実施例および比較例にて得られた発泡体を厚さ方向に切断し、その断面を、キーエンス社製3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE-9800を用いて倍率30~400倍の範囲で観察し、発泡体の最大気泡径が求められた。尚、断面測定時の倍率は、後述する気泡径を速成する際の測定対象となる気泡が1画面に少なくとも5個以上含まれるように設定した。ここで、気泡径を測定する際には、断面画像から鮮明に全体を観察可能な気泡のみを測定対象とし、気泡の輪郭線上の2点を結ぶ線分の長さのうち、最も長い線分をその気泡の径として測定した。また、発泡体の表面と接している気泡を30点以上、発泡体の表面から厚み方向に20~80%の範囲に含まれる気泡を30点以上測定し、そのすべての測定値から最大の値となったものを最大気泡径とした。
【0069】
(2)ABS
実施例および比較例のカバー1について、通信に用いられる電波の空気中の波長λ、表層2の厚さd、表層2の複素屈折率の大きさをNおよび1以上の整数kを用いて、以下の式(A)で示される値ABSが求められる。値ABSは、実施例および比較例のカバー1表層2の厚さdが、離散的に存在する強め合い条件が満たす値から、どの程度離れているかを示す。離散的に存在する強め合い条件が満たす値は、例えば図6のdおよびdである。「値ABSの最小」は、整数kの値が異なる複数の値ABSのうちで最小となるものを指す。ABSが0の場合は、もっとも強め合いの影響が大きくなる表層dの厚みとなり、ABSが1の場合には、もっとも強め合いの影響が小さくなる表層dの厚みとなる。
【数2】
【0070】
(3)発泡体の密度
後述の実施例および比較例で得られた発泡体より、30mm角、10mm厚さを目安にサンプルを切り出し、当該サンプルの質量W[g]を測定し、サンプル体積V[cm]を質量で除して密度が算出された。ここで、上記切り出しが難しい場合には各実施例および各比較例と同じ材料を準備してサンプル質量を測定し、水没法により体積を測定し、それぞれの値を使用して密度を算出してもよい。また、補助層、裏層、中間層等の厚み方向の密度分布を測定する方法は特に限定されないが、例えば、各層を層方向に切り出し、重量測定、および水没法による体積測定を行い、密度を計算することが出来る。
【0071】
(4)発泡体の荷重たわみ温度(HDT)
後述の実施例および比較例で得られた発泡体の荷重たわみ温度は、ISO75-1、75-2に準拠して、以下に記載のとおり測定した。
まず、後述の実施例および比較例で得られた発泡体から、長さ80mm×幅13mm×厚み10mmのサンプルを切り出した。得られたサンプルを株式会社東洋精機製作所製のHDT試験装置マシンテスト(型式3M-2)に支点間距離が64mmとなるようにセットした。セットしたサンプルの中央部分に対して、押し込み治具をセットし、0.45MPaの力を加えた状態でオイルバス中に浸漬させた。その後、温度を120℃/時間の速度で上昇させながら、曲げ閾値0.34mmとなるまで押し込み治具が移動した時点でのサンプル温度を荷重たわみ温度(℃)とした。
【0072】
(5)発泡体の難燃性
後述の実施例および比較例で得られた発泡体について、米国UL規格のUL-94垂直法(20mm垂直燃焼試験)に準拠した試験を行い、難燃性の評価を行った。
以下に測定方法の詳細を示す。
発泡体から切り出した、長さ125mm、幅13mm、厚さ5mmの試験片を5本用いた。試験片をクランプに垂直に取付け、20mm炎による10秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動によりV-0、V-1、V-2の判定を行った。
V-0:1回目、2回目ともに有炎燃焼持続時間は10秒以内、更に2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼時間の合計が30秒以内、更に5本の試験片の有炎燃焼時間の合計が50秒以内、固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない、燃焼落下物による綿着火なし。
V-1:1回目、2回目ともに有炎燃焼持続時間は30秒以内、更に2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼時間の合計が60秒以内、更に5本の試験片の有炎燃焼時間の合計が250秒以内、固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない、燃焼落下物による綿着火なし。
V-2:1回目、2回目ともに有炎燃焼持続時間は30秒以内、更に2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼時間の合計が60秒以内、更に5本の試験片の有炎燃焼時間の合計が250秒以内、固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない、燃焼落下物による綿着火有り。
なお、上記V-0、V-1、V-2のいずれにも該当しないものは不適合(×)とした。
【0073】
(6)表皮・発泡体の誘電率εrおよび誘電正接tanδ
実施例および比較例に記載の方法を参考にして、表層と同じ材料の450mm×450mm×3mmの樹脂板、裏層と同じ材料の450mm×450mm×10mm厚みの発泡体を準備した。
続いて、KEYCOM社製周波数変化法誘電率・誘電正接測定装置DPS10-02の誘電体レンズ付き透過減衰測定治具に前記サンプルをセットし、室温(温度26℃、湿度60%)の条件において、透過減衰量と位相変化量を測定した。得られた結果とサンプルの厚みをもとに、透過減衰量と位相変化量の計算値と実測値とのフィッティングを実施し、最も良くフィッティングされたときの誘電率、誘電正接を求めて、誘電率、誘電正接の測定値とした。尚、誘電率および誘電正接は、容量法(平行電極法)、空洞共振器法、スプリットポスト誘電体共振器法、フリースペース法等によっても測定できる。また、未発泡の樹脂材料と、ある倍率の発泡体の誘電特性が分かれば、Wagnerの理論等によって任意の倍率の発泡体の誘電特性を予測して、その値を適用することもできる。ここで、複素誘電率Erは、以下の式で示される。
Er=εr+εr”、tanδ=εr”/ εr
Er:複素誘電率
εr:誘電率(複素誘電率の実数部)
εr”:複素誘電率の虚数部
【0074】
(7)複素屈折率
後述の実施例および比較例の表層2の複素屈折率は、前記方法に準じて測定した誘電率、誘電正接を用いて、以下の通り算出できる。
=Er
N:複素屈折率、Er:複素誘電率
【0075】
(8)電波透過率の計算
実施例および比較例に記載の電波透過率の計算は、予め実測値と計算値が概ね一致することを確認した上で、前記方法にて算出または測定した各層の誘電率、各層の誘電正接、各層の複素屈折率、各層の構成、各層の厚み、および電波周波数を用いて、特性マリックス法により実施した。
【0076】
(9)表層2の厚み変動により発生する電波透過率変動量の計算
後述の実施例および比較例において、表層2の厚み変動により発生する電波透過率変動量の計算は以下の通り実施した。まず、前述の干渉の影響を鑑みて、表層2の厚み変動範囲は、λ/8からλ×3/4の厚みの範囲とした。ここで、表層中における電波の波長をλとした。次に、前述の方法で確認した誘電率、誘電正接を用い、実施例および比較例に記載の構成(総厚み、中間層の厚みを一定とする)で表層の厚みが変動した場合の電波透過率を計算した。得られた結果から、前記範囲内で表層の厚みを変更した場合の、透過率極大値と、透過率極小値との差を表層2の厚み変動により発生する電波透過率変動量とした。
【0077】
(実施例1)
補助層用の発泡体の作製:
ポリスチレン系樹脂(PS)としてGP685(PSジャパン株式会社製)を60質量%と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としてS201A(旭化成株式会社製)を40質量%とを、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。次に、特開平4-372630号公報の実施例1に記載の方法に準じ、基材樹脂ペレットを耐圧容器に収容し、容器内の気体を乾燥空気で置換した後、発泡剤として二酸化炭素(気体)を注入し、圧力3.0MPa、温度10℃の条件下で3時間かけて基材樹脂ペレットに対して二酸化炭素を含浸させた後、圧力容器から取り出してすぐに基材樹脂ペレットを移送し、基材樹脂ペレットを発泡炉内で攪拌羽を77rpmにて回転させながら最大330kPa・Gの加圧水蒸気により発泡し、発泡粒子を得た。このとき、含浸を終えて放圧を完了した時点から加圧蒸気の導入開始までの時間は10秒であった。また、発泡粒子の炭化水素ガスの含有量を発泡直後にガスクロマトグラフィーにより測定したが、検出限界(0.01質量%)以下であった。
【0078】
その後、この発泡粒子を容器内に入れ、加圧空気を導入(0.4MPaまで4時間かけて昇圧し、その後0.4MPaで16時間保持)することで、加圧処理を施した。これを、水蒸気孔を有する型内成形金型内に充填し、水蒸気で加熱して発泡粒子を相互に膨張・融着させた後、冷却し、成形金型より取り出して、発泡粒子からなる補助層用の発泡体を得た。
【0079】
表層用の樹脂板の作製:
ポリスチレン系樹脂(PS)としてGP685(PSジャパン株式会社製)を60質量%と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としてS201A(旭化成株式会社製)を40質量%とを、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。得られた基材樹脂ペレットを型枠内に敷き詰め、270℃の温度で熱プレス法により厚み0.5mmの表層用の樹脂板を作製した。
【0080】
表層と補助層の積層体の作製:
熱プレス機において、下面の温度を270℃、上面の温度を30℃に設定し、下面の上に前記表層用の樹脂板を配置し、周りにSU304製の枠を設置する事でプレス時に樹脂板が押し広げられ、厚みが変動しないようにした。続いて、表層用の樹脂板の上に、補助層用の発泡体を配置し、熱プレス機の上面と下面の距離が樹脂板と発泡体の厚みの合計値よりも2mmだけ小さくなるまでプレスし、その状態で1分間保持することで表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0081】
(実施例2)
表層と補助層の積層体の作製工程において、熱プレス時の保持時間を3分間へ変更した事以外は、実施例1と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0082】
(実施例3)
表層と補助層の積層体の作製工程において、プレス機の上面と下面の距離を樹脂板と発泡体の厚みの合計値よりも5mmだけ小さくなるまでプレスした事以外は、実施例1と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0083】
(実施例4)
表層用の樹脂板の厚みを1mmに変更した以外は、実施例1と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0084】
(実施例5)
表層用の樹脂板の厚みを1mmに変更した以外は、実施例2と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0085】
(実施例6)
表層用の樹脂板の厚みを2mmに変更した以外は、実施例1と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0086】
(実施例7)
表層用の樹脂板の厚みを2mmに変更した以外は、実施例2と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0087】
(実施例8)
表層用の樹脂板の厚みを2mmに変更した以外は、実施例3と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0088】
(実施例9)
実施例6を参考に、表層用の樹脂板、補助層として発泡倍率10.0cm/gの発泡体を作製し、表層、補助層を接着剤を用いて貼合して積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0089】
(実施例10~14)
実施例1~実施例9と同様の方法にて、表層と補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0090】
(実施例15)
補助層用の発泡体の作製:
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としてS201A(旭化成株式会社製)を60質量%と、非ハロゲン系難燃剤としてビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)(BBP)を15質量%と、ゴム濃度が6質量%の耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)を10質量%と、汎用ポリスチレン樹脂(PS)としてGP685(PSジャパン(株)製)を15質量%とを加え、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。
【0091】
特開平4-372630号公報の実施例1に記載の方法に準じ、基材樹脂ペレットを耐圧容器に収容し、容器内の気体を乾燥空気で置換した後、発泡剤として二酸化炭素(気体)を注入し、圧力3.0MPa、温度10℃の条件下で3時間かけて基材樹脂ペレットに対して二酸化炭素を含浸させた後、圧力容器から取り出してすぐに基材樹脂ペレットを移送し、基材樹脂ペレットを発泡炉内で攪拌羽を77rpmにて回転させながら最大330kPa・Gの加圧水蒸気により発泡し、発泡粒子を得た。このとき、含浸を終えて放圧を完了した時点から加圧蒸気の導入開始までの時間は10秒であった。また、発泡粒子の炭化水素ガスの含有量を発泡直後にガスクロマトグラフィーにより測定したが、検出限界(0.01質量%)以下であった。
【0092】
その後、この発泡粒子を容器内に入れ、加圧空気を導入(0.4MPaまで4時間かけて昇圧し、その後0.4MPaで16時間保持)することで、加圧処理を施した。これを、水蒸気孔を有する型内成形金型内に充填し、水蒸気で加熱して発泡粒子を相互に膨張・融着させた後、冷却し、成形金型より取り出して、発泡粒子からなる補助層用の発泡体を得た。
【0093】
表層用の樹脂板の作製:
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としてS201A(旭化成株式会社製)を60質量%と、非ハロゲン系難燃剤としてビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)(BBP)を15質量%と、ゴム濃度が6質量%の耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)を10質量%と、汎用ポリスチレン樹脂(PS)としてGP685(PSジャパン(株)製)を15質量%とを加え、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。得られた基材樹脂ペレットを型枠内に敷き詰め、270℃の温度で熱プレス法により厚み3mmの表層用の樹脂板を作製した。
【0094】
表層と補助層の積層体の作製:
熱プレス機において、下面の温度を250℃、上面の温度を30℃に設定し、下面の上に前記表層用の樹脂板を配置し、周りにSU304製の枠を設置する事でプレス時に樹脂板が押し広げられ、厚みが変動しないようにした。続いて、表層用の樹脂板の上に、補助層用の発泡体を配置し、熱プレス機の上面と下面の距離が樹脂板と発泡体の厚みの合計値よりも2mmだけ小さくなるまでプレスし、その状態で3分間保持することで表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0095】
(実施例16)
表層用の樹脂板の厚みを2mmに変更した以外は、実施例15と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0096】
(実施例17)
表層用の樹脂板の厚みを0.5mmに変更した事、表層と補助層の積層体の作製工程において、熱プレス時の保持時間を3分間から1分間へ変更した事以外は、実施例15と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0097】
(実施例18)
表層用の樹脂板の厚みを0.5mmに変更した事以外は、実施例15と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0098】
(実施例19)
表層用の樹脂板の厚みを0.5mmに変更した事、表層と補助層の積層体の作製工程において、プレス機の上面と下面の距離を樹脂板と発泡体の厚みの合計値よりも5mmだけ小さくなるまでプレスした事以外は、実施例15と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0099】
(実施例20)
表層用の樹脂板の厚みを1.0mmに変更した事以外は、実施例15と同様の方法にて表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0100】
(実施例21)
実施例16と同様の方法にて、表層と補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0101】
(実施例22)
実施例16を参考に、表層用の樹脂板を準備し、更に発泡粒子を作製する際の加圧水蒸気圧を変化させることで、中間層として発泡倍率3.0cm/gの発泡体、裏層として発泡倍率10.0cm/gの発泡体を作製し、表層、中間層、裏層を接着剤を用いて貼合して積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0102】
(実施例23)
補助層用の発泡体の作製:
ポリスチレン系樹脂(PS)であるGP685(PSジャパン株式会社製)100質量%を、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。次に、特開平4-372630号公報の実施例1に記載の方法に準じ、基材樹脂ペレットを耐圧容器に収容し、容器内の気体を乾燥空気で置換した後、発泡剤として二酸化炭素(気体)を注入し、圧力3.0MPa、温度10℃の条件下で3時間かけて基材樹脂ペレットに対して二酸化炭素を含浸させた後、圧力容器から取り出してすぐに基材樹脂ペレットを移送し、基材樹脂ペレットを発泡炉内で攪拌羽を77rpmにて回転させながら最大70kPa・Gの加圧水蒸気により発泡し、発泡粒子を得た。このとき、含浸を終えて放圧を完了した時点から加圧蒸気の導入開始までの時間は10秒であった。また、発泡粒子の炭化水素ガスの含有量を発泡直後にガスクロマトグラフィーにより測定したが、検出限界(0.01質量%)以下であった。
【0103】
その後、この発泡粒子を容器内に入れ、加圧空気を導入(0.4MPaまで4時間かけて昇圧し、その後0.4MPaで16時間保持)することで、加圧処理を施した。これを、水蒸気孔を有する型内成形金型内に充填し、水蒸気で加熱して発泡粒子を相互に膨張・融着させた後、冷却し、成形金型より取り出して、発泡粒子からなる補助層用の発泡体を得た。
【0104】
表層用の樹脂板の作製:
ポリスチレン系樹脂(PS)であるGP685(PSジャパン株式会社製)100質量%を、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。得られた基材樹脂ペレットを型枠内に敷き詰め、200℃の温度で熱プレス法により厚み1.0mmの表層用の樹脂板を作製した。
【0105】
表層と補助層の積層体の作製:
熱プレス機において、下面の温度を150℃、上面の温度を30℃に設定し、下面の上に前記表層用の樹脂板を配置し、周りにSU304製の枠を設置する事でプレス時に樹脂板が押し広げられ、厚みが変動しないようにした。続いて、表層用の樹脂板の上に、補助層用の発泡体を配置し、熱プレス機の上面と下面の距離が樹脂板と発泡体の厚みの合計値よりも2mmだけ小さくなるまでプレスし、その状態で3分間保持することで表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0106】
(実施例24)
補助層用の発泡体の作製:
特開平4-372630号公報の実施例に記載の方法と同様の方法にて発泡粒子(3次発泡粒子)を得た。得られた発泡粒子(3次発泡粒子)の炭化水素ガスの含有量を発泡直後に測定したが、検出限界(0.01質量%)以下であった。
【0107】
その後、この発泡粒子を容器内に入れ、加圧空気を導入(0.4MPaまで4時間かけて昇圧し、その後0.4MPaで16時間保持)することで、加圧処理を施した。これを、水蒸気孔を有する型内成形金型内に充填し、水蒸気で加熱して発泡粒子を相互に膨張・融着させた後、冷却し、成形金型より取り出して、発泡粒子からなる補助層用の発泡体を得た。
【0108】
表層用の樹脂板の作製:
低密度ポリエチレン(PE)(密度922kg/m、MI=7.0g/10分)100質量%を、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。得られた基材樹脂ペレットを型枠内に敷き詰め、200℃の温度で熱プレス法により厚み1.0mmの表層用の樹脂板を作製した。
【0109】
表層と補助層の積層体の作製:
熱プレス機において、下面の温度を150℃、上面の温度を30℃に設定し、下面の上に前記表層用の樹脂板を配置し、周りにSU304製の枠を設置する事でプレス時に樹脂板が押し広げられ、厚みが変動しないようにした。続いて、表層用の樹脂板の上に、補助層用の発泡体を配置し、熱プレス機の上面と下面の距離が樹脂板と発泡体の厚みの合計値よりも2mmだけ小さくなるまでプレスし、その状態で3分間保持することで表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0110】
(実施例25)
補助層用の発泡体の作製:
特開2006-077218号公報を参考に、以下の手順で発泡体を作製した。
【0111】
まず、150mmのバレル内径を有するスクリュー型押出機の供給領域に、900kg/時間の速度で、低密度ポリエチレン(PE)(密度922kg/m、MI=7.0g/10分)を、この樹脂100質量部に対し気泡核形成剤として1.2質量部のタルク粉末(粒径8.0μm)と0.8質量部のガス透過調整剤(ステアリン酸モノグリセリド)とともに供給した。押出機のバレル温度を190~210℃に調整し、押出機の先端に取り付けた発泡剤注入口からn-ブタン100質量%からなる発泡剤をこの樹脂100質量部に対し3質量部を圧入し、当該溶融樹脂組成物と混合して発泡性溶融混合物とした。
【0112】
この発泡性溶融混合物を押出機の出口に取り付けた冷却装置で108℃まで冷却した後、約4.0mmの平均厚みと約226mm幅の開口部形状を有するオリフィスプレートより、常温、大気圧下の雰囲気中に連続的に押し出して発泡させ、樹脂発泡体の引き取り速度を調整しながら成形して、厚み52mm、幅560mm、長さ1000mm、密度100kg/mの板状発泡体を得た。この樹脂発泡体中に含まれる炭化水素ガスの含有量は、2.4質量%であった。40℃環境下で3か月保管し、炭化水素ガスの含有量が検出下限以下(0.01質量%)となったことを確認した。得られた発泡体を補助層用の発泡体とした。
【0113】
表層用の樹脂板の作製:
低密度ポリエチレン(PE)(密度922kg/m、MI=7.0g/10分)100質量%を、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。得られた基材樹脂ペレットを型枠内に敷き詰め、200℃の温度で熱プレス法により厚み1.0mmの表層用の樹脂板を作製した。
【0114】
表層と補助層の積層体の作製:
熱プレス機において、下面の温度を150℃、上面の温度を30℃に設定し、下面の上に前記表層用の樹脂板を配置し、周りにSU304製の枠を設置する事でプレス時に樹脂板が押し広げられ、厚みが変動しないようにした。続いて、表層用の樹脂板の上に、補助層用の発泡体を配置し、熱プレス機の上面と下面の距離が樹脂板と発泡体の厚みの合計値よりも2mmだけ小さくなるまでプレスし、その状態で3分間保持することで表層、中間層、補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0115】
(実施例26)
実施例11と同様の方法にて、表層と補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表1に示す。
【0116】
(比較例1~15)
実施例1~26を参考に、表層用の樹脂板のみを作製した。得られた表層用の樹脂板を評価した結果を表2に示す。
【0117】
(参考例1)
基材樹脂ペレットから発泡粒子を製造する際に、含浸圧の開放を完了した時点から加温(加圧蒸気の導入)開始までの時間を600秒へ変更したこと以外は、実施例21と同様の方法にて、表層と補助層の積層体を得た。得られた積層体を評価した結果を表2に示す。
【0118】
実施例および比較例の構成は、表1および表2のとおりである。これらの実施例および比較例に対して上記の評価が実行された。表1、表2に示すように、表層と補助層が存在することによって、表層の厚み変動により発生する電波透過率の変動量が低減できることが分かった。また、表1の増加量に示すように、ほとんどの実施例も表皮材のみの場合に比べて増加量の向上がみられた。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
上記の検討によると、表層と裏層を積層することにより、表層の厚みが変動することによって起きる透過率変動が抑制できるため、生産の安定性が向上する。また、上記の式(A)で示される値ABSの最小が0.73以下である場合に、電波の透過率が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本開示によれば、高周波数帯の電波を用いて通信する電子機器10で使用され、表皮厚み変動による電波透過率の変化を抑制することが可能なカバー1を提供することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 カバー
2 表層
3 補助層
4 裏層
5 中間層
6 アンテナ
10 電子機器
21 表面
22 裏面
101 カバー
110 電子機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8