(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】無電解金めっき用組成物
(51)【国際特許分類】
C23C 18/16 20060101AFI20240321BHJP
C23C 18/42 20060101ALI20240321BHJP
H01L 21/288 20060101ALI20240321BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20240321BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20240321BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C23C18/16 B
C23C18/42
H01L21/288 E
H01L21/88 M
H01L21/90 P
(21)【出願番号】P 2020038971
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼久 智明
(72)【発明者】
【氏名】森田 智之
(72)【発明者】
【氏名】清水 寿和
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-246223(JP,A)
【文献】特表2001-515143(JP,A)
【文献】特開2010-047790(JP,A)
【文献】国際公開第2011/109878(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0098863(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0264331(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00 - 20/08
H01L 21/28 - 21/90
29/40 - 29/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金イオン源、フッ素化合物およびアセトニトリルを含む、シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物。
【請求項2】
フッ素化合物が、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸、およびテトラフルオロホウ酸からなる群から選択される1以上のフッ素化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フッ素化合物が、ヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
シリコン半導体が、シリコン、シリコン酸化物、および/または炭化シリコンである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
pHが7以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物をシリコン半導体の表面に適用する工程を含む、金を析出させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
金は、高い導電性、化学的安定性、延性を有する物質として、プリント基板、ワイヤボンディング材料、装飾品等の多様な用途に使用されている。かかる用途には金めっき方法が通常使用されている。
金めっき方法としては、電解金めっき方法および無電解金めっき方法が知られている。無電解金めっき方法としては、自己触媒型無電解金めっき方法、下地触媒金めっき方法、および置換金めっき方法等が知られている。特に、置換金めっき方法は、被めっき面の下地金属と金イオンおよび/または金イオン錯体との電気的な置換反応により金析出を行う金めっき方法である。
【0003】
近年、置換金めっき方法によってシリコンの表面を無電解金めっきする方法が報告されている(特許文献1)。かかる方法には、金イオン源およびフッ化水素酸を含む金めっき用組成物が使用されている。フッ化水素酸が、シリコンの表面の酸化膜を溶解し、シリコンと金との置換反応により、シリコンがイオン化して金が析出することにより、シリコンの表面に金めっきが形成される。また、シリコンではなく炭化シリコンの表面を無電解金めっきする方法も報告されている(特許文献2)。
上記金めっき用組成物は、太陽電池用多結晶シリコン基板および種々の複合材料の製造方法においても使用されている(特許文献3~7)。他方、代替的に、金イオン源およびアルカリ金属の水酸化物を含む金めっき用組成物が使用されることもある(特許文献8、9)。
【0004】
さらに、近年、置換金めっき方法で形成された金めっきを、シリコンのエッチングに応用する方法も報告されている(特許文献10)。具体的には、シリコンの表面に金を析出させることにより、該金析出物が触媒作用を示し、該金析出物下のシリコンを垂直にエッチングすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5945429号公報
【文献】特許第6603491号公報
【文献】特許第4049329号公報
【文献】特許第5261475号公報
【文献】特許第5281847号公報
【文献】特許第5306670号公報
【文献】特許第5663625号公報
【文献】特許第6553596号公報
【文献】特許第6573603号公報
【文献】特許第6121959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることが可能である、シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シリコン半導体の表面を無電解金めっきする過程で、金イオン源およびフッ化水素酸を含む金めっき用組成物を使用した場合に、シリコン半導体の表面の酸化膜が極めて速く溶解し、これに伴って金の析出も極めて速く進行するため、シリコン半導体の表面で金が過剰に析出し、金めっきの構造制御に困難が伴う現象を確認した。そして、かかる構造制御を容易にすべく鋭意研究を進めたところ、上記金めっき用組成物にアセトニトリルを加えるか、または、フッ化水素酸の代わりにヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸を加えることによって、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]金イオン源、フッ素化合物およびアセトニトリルを含む、シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物。
[2]フッ素化合物が、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸、およびテトラフルオロホウ酸からなる群から選択される1以上のフッ素化合物である、[1]に記載の組成物。
[3]金イオン源およびヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸を含む、シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物。
[4]アセトニトリルをさらに含む、[3]に記載の組成物。
[5]シリコン半導体が、シリコン、シリコン酸化物、および/または炭化シリコンである、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]pHが7以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の組成物をシリコン半導体の表面に適用する工程を含む、金を析出させる方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物等により、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることが可能である。これにより、シリコン半導体の表面での金めっきの構造制御を容易にすることができ、所望の析出物の物性等を得ることができる。また、シリコン半導体の表面に適量の金を析出させることができるため、金消費量を抑制でき経済的である。そして、シリコン半導体の表面で金めっきを正確かつ緻密に形成させることにより、背景技術において述べたエッチングへの応用もまた容易にすることができる。さらに、背景技術において述べたアルカリ金属の水酸化物を含む金めっき用組成物を用いる必要がないため、アルカリ金属の残留による半導体特性への悪影響を回避することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、パターンを形成させたシリコン半導体の表面に金を析出させる工程を示す。
図1Aはシリコン半導体の断面図を、
図1Bは水平なシリコン半導体を上から見た平面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0012】
[シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物(1)]
本発明の一側面は、金イオン源、フッ素化合物およびアセトニトリルを含む、シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物(以下、「本発明の組成物(1)」と記す場合がある)に関する。
本発明の組成物(1)は、パターンが形成されたシリコン半導体の表面に適用することもできる。本発明者らは、シリコン半導体の表面を無電解金めっきする過程で、フッ化水素酸を含む金めっき用組成物を使用した場合に、シリコン半導体の表面で金が過剰に析出し、パターンの外に金が析出してしまう現象(以下、「パターン外析出」と記す場合がある)を確認した(
図1)。本発明の組成物(1)を用いて、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることにより、パターン外析出を抑制することができる。
【0013】
本発明において、「金イオン源」は、具体的には、塩化金酸塩等の水溶性金塩を用いることができる。安全性および廃液処理の問題の観点からシアンを含まない金イオン源を用いることが好ましい。金イオン源は、析出物の物性等、特に析出性および経済性の観点から、0.5~25mMの濃度であることが好ましく、1~10mMの濃度であることが特に好ましく、1.5~5mMの濃度であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明において、「フッ素化合物」は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸、およびテトラフルオロホウ酸からなる群から選択される1以上のフッ素化合物である。フッ素化合物は、シリコン半導体の表面の酸化膜が溶解する速度を減少させ、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させる観点から、ヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸であることが好ましい。フッ素化合物は、析出物の物性等、特に反応性および制御性の観点から、0.1~2.7Mの濃度であることが好ましく、0.5~2.0Mの濃度であることが特に好ましく、0.7~1.2Mの濃度であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明において、「アセトニトリル」は、金析出速度の抑制および経済性の観点から、0.02~2Mの濃度であることが好ましく、0.2~1.5Mの濃度であることが特に好ましく、0.5~1Mの濃度であることがさらに好ましい。
本発明において、「シリコン半導体」は、シロキサン結合を有する無機ケイ素化合物および/または炭素-ケイ素結合を有する有機ケイ素化合物を含む半導体を指す。シリコン半導体は、析出物の物性等の観点から、シリコン、シリコン酸化物、および/または炭化シリコンであることが好ましい。
【0016】
本発明において、「無電解金めっき」は、例えば、自己触媒型無電解金めっき方法、下地触媒金めっき方法、および置換金めっき方法による金めっきを指す。自己触媒型電解金めっき方法は、金を触媒とする還元剤により金析出を行う方法である。下地触媒金めっきは、下地金属を触媒として還元剤により金析出を行う方法である。置換金めっきは、被めっき面の下地金属と金イオンおよび/または金イオン錯体との電気的な置換反応により金析出を行う方法である。これらのめっき方法は2種以上を組み合わせて用いることができる。無電解金めっきは、析出物の物性等の観点から、置換金めっき方法であることが好ましい。
【0017】
本発明において、「パターン」は、マスクが存在する部分およびマスクが存在しない部分を有する微細な構造を指す。マスクとマスクとの間の間隙の幅は、析出物の物性等の観点から、0.5~20μmであることが好ましく、1~10μmであることが特に好ましい。例えば、パターンはレジストパターンである。
本発明において、「マスク」は、金めっき処理に対する保護膜を指す。マスクが存在する場所においては、金めっき処理が進行せず、マスク下のシリコン半導体の表面は金めっき処理の前後で変化しない。マスクを構成する成分は、金めっき処理時の処理薬品に応じて選択されるものであればよく、特に限定されない。例えば、マスクはレジストである。
本発明の組成物(1)は、該組成物の安定性と析出速度等の観点から、pHが7以下であることが好ましく、4以下であることが特に好ましく、3未満であることがさらに好ましい。
【0018】
[シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物(2)]
本発明の別の側面は、金イオン源およびヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸を含む、シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物(以下、「本発明の組成物(2)」と記す場合がある)に関する。本発明の組成物(2)は、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させる観点から、アセトニトリルをさらに含むことが好ましい。
本発明の組成物(2)は、パターンが形成されたシリコン半導体の表面に適用することもできる。本発明の組成物(2)を用いて、シリコン半導体の表面の酸化膜が溶解する速度を減少させ、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることにより、パターン外析出を抑制することができる。
【0019】
本発明において、「金イオン源」は、具体的には、塩化金酸塩等の水溶性金塩を用いることができる。安全性および廃液処理の問題の観点からシアンを含まない金イオン源を用いることが好ましい。金イオン源は、析出物の物性等、特に析出性および経済性の観点から、0.5~25mMの濃度であることが好ましく、1~10mMの濃度であることが特に好ましく、1.5~5mMの濃度であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明において、「ヘキサフルオロケイ酸」および/または「テトラフルオロホウ酸」は、シリコン半導体の表面の酸化膜が溶解する速度を減少させ、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させる観点から、0.1~2.7Mの濃度であることが好ましく、0.5~2.0Mの濃度であることが特に好ましく、0.7~1.2Mの濃度であることがさらに好ましい。
本発明において、「シリコン半導体」は、シロキサン結合を有する無機ケイ素化合物および/または炭素-ケイ素結合を有する有機ケイ素化合物を含む半導体を指す。シリコン半導体は、析出物の物性等の観点から、シリコン、シリコン酸化物、および/または炭化シリコンであることが好ましい。
【0021】
本発明において、「無電解金めっき」は、例えば、自己触媒型無電解金めっき方法、下地触媒金めっき方法、および置換金めっき方法による金めっきを指す。自己触媒型電解金めっき方法は、金を触媒とする還元剤により金析出を行う方法である。下地触媒金めっきは、下地金属を触媒として還元剤により金析出を行う方法である。置換金めっきは、被めっき面の下地金属と金イオンおよび/または金イオン錯体との電気的な置換反応により金析出を行う方法である。これらのめっき方法は2種以上を組み合わせて用いることができる。無電解金めっきは、析出物の物性等の観点から、置換金めっき方法であることが好ましい。
本発明において、「アセトニトリル」は、金析出速度の抑制および経済性の観点から、0.02~2Mの濃度であることが好ましく、0.2~1.5Mの濃度であることが特に好ましく、0.5~1Mの濃度であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明において、「パターン」は、マスクが存在する部分およびマスクが存在しない部分を有する微細な構造を指す。マスクとマスクとの間の間隙の幅は、析出物の物性等の観点から、0.5~20μmであることが好ましく、1~10μmであることが特に好ましい。例えば、パターンはレジストパターンである。
本発明において、「マスク」は、金めっき処理に対する保護膜を指す。マスクが存在する場所においては、金めっき処理が進行せず、マスク下のシリコン半導体の表面は金めっき処理の前後で変化しない。マスクを構成する成分は、金めっき処理時の処理薬品に応じて選択されるものであればよく、特に限定されない。例えば、マスクはレジストである。
本発明の組成物(2)は、該組成物の安定性と析出速度等の観点から、pHが7以下であることが好ましく、4以下であることが特に好ましく、3未満であることがさらに好ましい。
【0023】
[シリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物(3)]
本発明の別の側面は、金イオン源およびフッ素化合物を含む、パターンが形成されたシリコン半導体の表面を無電解金めっきするための組成物(以下、「本発明の組成物(3)」と記す場合がある)に関する。フッ素化合物は、シリコン半導体の表面の酸化膜が溶解する速度を減少させ、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させる観点から、ヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸であることが好ましい。本発明の組成物(3)は、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させる観点から、アセトニトリルをさらに含むことが好ましい。
【0024】
本発明において、「金イオン源」は、具体的には、塩化金酸塩等の水溶性金塩を用いることができる。安全性および廃液処理の問題の観点からシアンを含まない金イオン源を用いることが好ましい。金イオン源は、析出物の物性等、特に析出性および経済性の観点から、0.5~25mMの濃度であることが好ましく、1~10mMの濃度であることが特に好ましく、1.5~5mMの濃度であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明において、「フッ素化合物」は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸、およびテトラフルオロホウ酸からなる群から選択される1以上のフッ素化合物である。フッ素化合物は、シリコン半導体の表面の酸化膜が溶解する速度を減少させ、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させる観点から、ヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸であることが好ましい。フッ素化合物は、析出物の物性等、特に反応性および制御性の観点から、0.1~2.7Mの濃度であることが好ましく、0.5~2.0Mの濃度であることが特に好ましく、0.7~1.2Mの濃度であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明において、「パターン」は、マスクが存在する部分およびマスクが存在しない部分を有する微細な構造を指す。マスクとマスクとの間の間隙の幅は、析出物の物性等の観点から、0.5~20μmであることが好ましく、1~10μmであることが特に好ましい。例えば、パターンはレジストパターンである。
本発明において、「マスク」は、金めっき処理に対する保護膜を指す。マスクが存在する場所においては、金めっき処理が進行せず、マスク下のシリコン半導体の表面は金めっき処理の前後で変化しない。マスクを構成する成分は、金めっき処理時の処理薬品に応じて選択されるものであればよく、特に限定されない。例えば、マスクはレジストである。
【0027】
本発明において、「シリコン半導体」は、シロキサン結合を有する無機ケイ素化合物および/または炭素-ケイ素結合を有する有機ケイ素化合物を含む半導体を指す。シリコン半導体は、析出物の物性等の観点から、シリコン、シリコン酸化物、および/または炭化シリコンであることが好ましい。
本発明において、「無電解金めっき」は、例えば、自己触媒型無電解金めっき方法、下地触媒金めっき方法、および置換金めっき方法による金めっきを指す。自己触媒型電解金めっき方法は、金を触媒とする還元剤により金析出を行う方法である。下地触媒金めっきは、下地金属を触媒として還元剤により金析出を行う方法である。置換金めっきは、被めっき面の下地金属と金イオンおよび/または金イオン錯体との電気的な置換反応により金析出を行う方法である。これらのめっき方法は2種以上を組み合わせて用いることができる。無電解金めっきは、析出物の物性等の観点から、置換金めっき方法であることが好ましい。
【0028】
本発明において、「アセトニトリル」は、金析出速度の抑制および経済性の観点から、0.02~2Mの濃度であることが好ましく、0.2~1.5Mの濃度であることが特に好ましく、0.5~1Mの濃度であることがさらに好ましい。
本発明の組成物(3)は、該組成物の安定性と析出速度等の観点から、pHが7以下であることが好ましく、4以下であることが特に好ましく、3未満であることがさらに好ましい。
【0029】
[金を析出させる方法]
本発明の別の側面は、本発明の組成物(1)~(3)のいずれかをシリコン半導体の表面に適用する工程を含む、金を析出させる方法(以下、「本発明の方法」と記す場合がある)に関する。
前記工程における本発明の組成物(1)~(3)のいずれかの使用温度は、析出速度の観点から、10~50℃が好ましく、15~30℃がより好ましい。
前記工程における本発明の組成物(1)~(3)のいずれかの使用量は、シリコン半導体の表面に適用するのに充分な量であればよく、特に限定されない。例えば、該使用量は、シリコン半導体の表面を浸漬するのに充分な量である。
前記工程は、静置条件下で行ってもよく、または、撹拌条件下で行ってもよい。撹拌条件は、特に限定されないが、析出速度の観点から、50~1500rpmが好ましく、100~1000rpmがより好ましい。
前記工程の時間は、特に限定されないが、析出速度の観点から、15秒~10分間が好ましく、30秒~5分間がより好ましい。
【実施例】
【0030】
例1 シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させる効果
パターンが形成されていないシリコン基板(n-Si (100) Low <0.02Ωcm、株式会社ニラコ)を0.5cm×1cmの大きさにカットした。実施例1(テトラクロロ金(III)酸3mM、フッ化水素酸1M、アセトニトリル1M、pH2~3)、実施例2(テトラクロロ金(III)酸3mM、ヘキサフルオロケイ酸1M、pH<1)、実施例3(テトラクロロ金(III)酸3mM、ヘキサフルオロケイ酸1M、アセトニトリル1M、pH<1)、および比較例(テトラクロロ金(III)酸3mM、フッ化水素酸1M、pH2~3)の各組成物(0.1L)に室温(25℃)でシリコン基板を静置条件下1分間浸漬し、金を析出させた。その後、シリコン基板を10秒間リンス(純水によるオーバーフロー)し窒素ブローで乾燥させた。蛍光X線膜厚計(FT9500X、日立ハイテクサイエンス)でシリコン基板上に析出した金の蛍光X線強度を測定することにより(測定時間:30秒、励起電圧:45kV、管電流:1000μA、測定元素:金、分析線:Lα、ROI(蛍光X線強度を求めるエネルギー範囲):9.52~9.89keV)、シリコン基板上に析出した金の量を評価した。
【0031】
その結果、比較例の蛍光X線強度の値(246cps)に対して、実施例1~3の蛍光X線強度の値(232、222、227cps)は低いことが確認された。以上の結果を表1にまとめる。なお、蛍光X線強度の値は5回測定の平均値である。
【表1】
【0032】
よって、フッ化水素酸を含む金めっき用組成物にアセトニトリルを加えることによって、シリコン基板上で金が析出する速度を減少させることがわかった。また、フッ素化合物としてフッ化水素酸ではなくヘキサフルオロケイ酸を用いることによっても、シリコンシリコン基板上で金が析出する速度を減少させることがわかった。さらに、ヘキサフルオロケイ酸およびアセトニトリルを組み合せて用いることによっても、シリコン基板上で金が析出する速度を減少させることがわかった。
なお、実施例1および3の各組成物において、上記の検討とは別に、アセトニトリルをその他の有機溶剤(極性溶媒:イソプロパノール、ジエチレングリコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン、水、N-メチル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド)と置き換えた検討も行ったが、いずれの有機溶剤についても金めっき用組成物の安定性を低下させるため実用的ではなかった。また、無極性溶媒は水への溶解度が低く、金めっき用組成物と混ざり合わないため実用的ではなかった。
上記結果から、アセトニトリルおよび/またはフッ素化合物としてヘキサフルオロケイ酸を用いることによって、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることにより、シリコン半導体の表面での金めっきの構造制御を容易にすることができると考えられる。
【0033】
例2 アセトニトリルによるパターン外析出の抑制効果
L/S=1μm/1μmのレジストパターン(OFPR-800LB、膜厚約1.8μm、東京応化工業株式会社)が形成されたシリコン基板(n-Si (100) Low <0.02Ωcm、株式会社ニラコ)を0.5cm×1cmの大きさにカットした。実施例4(テトラクロロ金(III)酸3mM、フッ化水素酸1M、アセトニトリル1M、pH2~3)、実施例5(テトラクロロ金(III)酸3mM、ヘキサフルオロケイ酸1M、アセトニトリル1M、pH<1)、および比較例(テトラクロロ金(III)酸3mM、フッ化水素酸1M、pH2~3)の各組成物(0.1L)に室温(25℃)で撹拌(100rpm)しながらシリコン基板を2分間浸漬し、金を析出させた。その後、シリコン基板を10秒間リンス(純水によるオーバーフロー)し窒素ブローで乾燥させた。電界放出形走査電子顕微鏡(Regulus8230、日立ハイテクノロジーズ)でシリコン基板の表面を観察し、パターン外析出の有無を確認した。
【0034】
その結果、パターン外析出は比較例では多量に確認されたが、実施例4では少量のみ確認され、実施例5では極少量のみ確認された。また、実施例4および5および比較例のいずれについても、シリコン基板上に金を多量に析出させ、金の析出が阻害されないことが確認された。以上の結果を表2にまとめる。
【表2】
【0035】
よって、フッ化水素酸を含む金めっき用組成物にアセトニトリルを加えることによって、パターン外析出を抑制できることがわかった。また、該組成物においてフッ素化合物としてフッ化水素酸ではなくヘキサフルオロケイ酸を用いることによって、さらにパターン外析出を抑制できることもわかった。
なお、上記の検討とは別に、アセトニトリルをその他の有機溶剤(極性溶媒:イソプロパノール、ジエチレングリコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン、水、N-メチル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド)と置き換えた検討も行ったが、いずれの有機溶剤についても金めっき用組成物の安定性を低下させるため実用的ではなかった。また、無極性溶媒は水への溶解度が低く、金めっき用組成物と混ざり合わないため実用的ではなかった。
上記結果から、アセトニトリルを用いることによって、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることにより、シリコン半導体の表面での金めっきの構造制御を容易にすることができると考えられる。
【0036】
例3 ヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸によるパターン外析出の抑制効果
L/S=1μm/1μmのレジストパターン(OFPR-800LB、膜厚約1.8μm、東京応化工業株式会社)が形成されたシリコン基板(n-Si (100) Low <0.02Ωcm、株式会社ニラコ)を0.5cm×1cmの大きさにカットした。実施例6(テトラクロロ金(III)酸3mM、ヘキサフルオロケイ酸1M、pH<1)、実施例7(テトラクロロ金(III)酸3mM、テトラフルオロホウ酸1M、pH<1)、実施例8(テトラクロロ金(III)酸3mM、ヘキサフルオロケイ酸1M、テトラフルオロホウ酸1M、pH<1)、および比較例(テトラクロロ金(III)酸3mM、フッ化水素酸1M、pH2~3)の各組成物(0.1L)に室温(25℃)で撹拌(100rpm)しながらシリコン基板を2分間浸漬し、金を析出させた。その後、シリコン基板を10秒間リンス(純水によるオーバーフロー)し窒素ブローで乾燥させた。電界放出形走査電子顕微鏡(Regulus8230、日立ハイテクノロジーズ)でシリコン基板の表面を観察し、パターン外析出の有無を確認した。
【0037】
その結果、パターン外析出は比較例では多量に確認されたが、実施例6では少量のみ確認され、実施例7では確認されず、実施例8では少量のみ確認された。また、実施例6および7および比較例のいずれについても、シリコン基板上に金を多量に析出させ、金の析出が阻害されないことが確認されたが、実施例7についてはシリコン基板上に析出した金は少量であった。以上の結果を表3にまとめる。
【表3】
【0038】
よって、フッ素化合物としてフッ化水素酸ではなくヘキサフルオロケイ酸またはテトラフルオロホウ酸を用いることによって、金めっき用組成物によるパターン外析出を抑制できることがわかった。また、フッ素化合物としてフッ化水素酸ではなくヘキサフルオロケイ酸およびテトラフルオロホウ酸の組み合わせを用いることによって、金めっき用組成物によるパターン外析出を抑制できることもわかった。
上記結果から、フッ素化合物としてヘキサフルオロケイ酸および/またはテトラフルオロホウ酸を用いることによって、シリコン半導体の表面の酸化膜が溶解する速度を減少させ、シリコン半導体の表面で金が析出する速度を減少させることにより、シリコン半導体の表面での金めっきの構造制御を容易にすることができると考えられる。
【0039】
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組み合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組み合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。