(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 3/04 20060101AFI20240321BHJP
A47C 4/04 20060101ALI20240321BHJP
A47C 5/10 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A47C3/04
A47C4/04 B
A47C5/10 K
(21)【出願番号】P 2020039722
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】管 智士
(72)【発明者】
【氏名】中村 保弘
【審査官】永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開実用新案第20-2020-0002605(KR,U)
【文献】特開2011-136101(JP,A)
【文献】特開2017-079879(JP,A)
【文献】特開2019-063227(JP,A)
【文献】特開2016-059819(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第2969101(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 3/04
A47C 4/04
A47C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前脚杆を有する前脚部と、
左右一対の後脚杆を有する後脚部と、
前記前脚部又は前記後脚部に直接的又は間接的に支持される背もたれと、
前記前脚部及び前記後脚部に直接的又は間接的に支持され、側面視で左右長手の姿勢となる展開状態と上下長手の姿勢となる折り畳み状態とを切り替えられるように回動可能に構成される座部と、
を備え、
左右一対の前記前脚杆の左右間隔と左右一対の前記後脚の左右間隔とを異ならせることにより、複数の椅子が前後方向にネスティング可能になっている構成であって、
前記前脚部と前記後脚部とのうち少なくとも一方が、側面視で、上端部と下端部とを結ぶ基準直線に対して椅子の前後方向内側に向かって突出又は膨出するように曲がっていると共に、前記展開状態の前記座部の下方で前記基準直線から離れた第1部分において左右一対の脚同士が左右長手の連結部材によって連結されている、
椅子。
【請求項2】
前記前脚部及び前記後脚部と前記座部とは、前記前脚部及び前記後脚部を側面視で夾角が小さくなるように相対回動させると前記座部が前記折り畳み状態に移行するように構成されており、前記折り畳み状態において、前記前脚部の下端と前記後脚部の下端との間に、椅子の自立を許容する間隔が空いており、
更に、前記前脚部の下端と前記後脚部の下端とのうち少なくとも一方にキャスタを設けている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記前脚部と後脚部とのうち少なくとも一方の脚部は、側面視で略く字形又は略V字形に屈曲若しくは略C字形に湾曲しており、前記折り畳み状態において、前記前脚部と前記後脚部とは、前記第1部分のうち前記基準直線から最も遠い頂点部よりも上の部位では互いに近接し、前記頂点部よりも下方の部位では下に向けて前後間隔が広がっている、
請求項2に記載した椅子。
【請求項4】
前記前脚部及び前記後脚部のうち一方の脚部は前記連結部材を有して側面視略く字形又は略V形に曲がるか略C字形に湾曲しており、他方の脚部は側面視で上端から下端にかけて略直線状に延びており、
前記座部は、前記他方の脚部に対しては回動自在に連結され、前記一方の脚部に対しては、前記頂点部よりも上の部位に対して上下スライド自在に連結されている、
請求項3に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数脚を前後にネスティングできる(嵌め合わせできる)椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば会議場用の椅子のように、不使用時に倉庫や部屋の隅に片づけておく必要がある椅子において、できるだけ狭いスペースに収納できるようにする手段が講じられている。この手段は、椅子を折り畳み式に構成することと、重ね合わせできる構成にすることとに大別され、後者には、前後に重ね合わせできるネスティングタイプがある。
【0003】
ネスティングできる椅子では、必要条件として、前後の脚部の左右幅を異ならせており、一般には、間隔を詰めるために座部を跳ね上げ式に構成していることが多いが、座部が固定式である場合もある。
【0004】
そして、前後の脚部の形態について見ると、前脚部と後脚部とがXリンク状に連結されていると共に、前脚部は側面視で前向きに膨れたく字形を成して、後脚部は側面視で後ろ向きに膨れたく字形を成しているもの(特許文献1)、前脚部と後脚部とが基本的には逆V形の形態を成しつつ、前脚部は側面視で前向きに膨れたく字形を成して、後脚部は側面視で後ろ向きに膨れたく字形を成しているもの(特許文献2)、前脚部と後脚部とが基本的には逆V形の形態を成しつつ、前脚部は側面視で前向きに膨れるように湾曲し、後脚部は側面視で後ろ向きに膨れたく字形を成しているもの(特許文献3)など、様々である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-210153号公報
【文献】特開2005-218535号公報
【文献】特開2010-115331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2,3のように前後に分かれた脚部がおおよそ逆V型の姿勢を成していると、特許文献1のように前脚部と後脚部とがXリンク状に連結されている態様に比べて構造は簡易で、デザイン的にもスッキリしている利点がある。しかし、特許文献2,3では、脚部が椅子の前後方向外側に向けて膨れているため、椅子の前又は後ろを人が歩いたときに、鞄等の持ち物が脚部に当たりやすいという問題がある。
【0007】
また、前脚部及び後脚部はそれぞれ左右の脚杆で構成されており、左右の前脚杆又は後脚杆が補強等のために左右長手のステーで連結されているが、ネスティング状態で後ろの椅子のステーが前の椅子の脚部等に当たることによってネスティング状態で椅子の前後間隔が規制されてしまい、前後の椅子の間隔を十分に詰めることができずに格納スペースに無駄が発生してしまう問題が生じるおそれもある。
【0008】
他方、特許文献1の椅子は折り畳み式でありながらネスティングできるため、格納スペースを有効利用しつつ椅子を安定的に格納できる利点があるが、背もたれと座部とが互いに重なり合うように連結されているため、背もたれの形態や位置について設計の自由性が低下する問題や、前後の脚部を互いにクロスする状態まで折り畳んで自立させているため、折り畳み・展開の作業が面倒であるという問題が懸念される。
【0009】
本願発明は、このような現状を背景に成されたものであり、ネスティングできる椅子に関し、改良されて形態で提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明では、
「左右一対の前脚杆を有する前脚部と、
左右一対の後脚杆を有する後脚部と、
前記前脚部又は前記後脚部に直接的又は間接的に支持される背もたれと、
前記前脚部及び前記後脚部に直接的又は間接的に支持され、側面視で左右長手の姿勢となる展開状態と上下長手の姿勢となる折り畳み状態とを切り替えられるように回動可能に構成される座部と、
を備え、
左右一対の前記前脚杆の左右間隔と左右一対の前記後脚の左右間隔とを異ならせることにより、複数の椅子が前後方向にネスティング可能になっている構成であって、
前記前脚部と前記後脚部とのうち少なくとも一方が、側面視で、上端部と下端部とを結ぶ基準直線に対して椅子の前後方向内側に向かって突出又は膨出するように曲がっていると共に、前記展開状態の前記座部の下方で前記基準直線から離れた第1部分において左右一対の脚同士が左右長手の連結部材によって連結されている」
という構成になっている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の好適な展開例であり、
「前記前脚部及び前記後脚部と座部とは、前記前脚部及び前記後脚部を側面視で夾角が小さくなるように相対回動させると前記座部が前記折り畳み状態に移行するように構成されており、前記折り畳み状態において、前記前脚部の下端と前記後脚部の下端との間に、椅子の自立を許容する間隔が空いており、
更に、前記前脚部の下端と前記後脚部の下端とのうち少なくとも一方にキャスタを設けている」
という構成になっている。
【0012】
請求項3の発明は請求項2の展開例であり、
「前記前脚部と後脚部とのうち少なくとも一方の脚部は、側面視で略く字形又は略V字形に屈曲した形態若しくは略C字形に湾曲した形態を成しており、前記折り畳み状態において、前記前脚部と前記後脚部とは、前記第1部分のうち前記基準直線から最も遠い頂点部よりも上の部位では互いに近接し、前記頂点部よりも下方の部位では下に向けて前後間隔が広がっている」
という構成になっている。
【0013】
請求項4の発明は請求項3を展開したもので、
「前記前脚部及び前記後脚部のうち一方の脚部は前記連結部材を有して側面視略く字形又は略V形に曲がるか略C字形に湾曲しており、他方の脚部は側面視で上端から下端にかけて略直線状に延びており、
前記座部は、前記他方の脚部に対しては回動自在に連結され、前記一方の脚部に対しては、前記頂点部よりも上の部位に対して上下スライド自在に連結されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、前脚杆又は後脚杆を側面視で椅子の内側に曲がった形状に形成して、第1部分に連結部材を設けているため、人が椅子の前又は後ろを通るに際して鞄などの持ち物が当たりにくくなる。
【0015】
また、脚杆を曲げると使用状態での荷重によって捩れやすくなるが、左右の脚杆が連結部材で連結されているため、脚部全体として高い剛性を確保できる。そして、ネスティング状態において、前後に隣り合った一方の椅子の連結部材が他方の椅子の脚部や座部等に当たってそれら前後椅子の間隔が規制されることがあるが、本願発明では、連結部材は脚杆の上端と型とを結ぶ基準直線よりも前後方向内側に入り込んでいるため、前後椅子の間隔をできるだけ詰めることができて格納スペースの有効利用に貢献できる。
【0016】
請求項2のように椅子を折り畳み式に構成すると、自立性を保持しつつ前後幅が小さくなるようにコンパクト化できるため、格納スペースの縮小に大きく貢献できる。また、キャスタを備えていることから、椅子は床上を押し引きして移動できるため、椅子の移動も容易になる。人が腰掛けて使用するにおいて、前後位置の調節も容易である。
【0017】
また、椅子は、前脚部と後脚部とは夾角が小さくなるように閉じ回動させることによって折り畳まれるため、キャスタを床に当てた状態を保持しつつ、例えば背もたれに手を掛けて持ち上げると、キャスタが抵抗無く床上を転動することにより、キャスタを床面に当てた状態で折り畳むことが可能になる。従って、折り畳み作業を軽い力で簡単に行うことが可能になる。
【0018】
請求項2のように椅子を折り畳み式に構成した場合において、請求項3の構成を採用すると、椅子をできるだけ偏平状に折り畳みつつ、自立性を保持してネスティングできる。従って、折り畳み状態での椅子の移動の容易性等の利点を損なうことなく、格納スペースを更に低減できる。
【0019】
請求項4の構成では、前脚部又は後脚部のうち一方を曲げるだけの簡単な構造で自立姿勢に折り畳みできるため、椅子の移動の容易性等の利点を損なうことなく格納スペースを有効利用することを、コストを抑制して実現できる。また、座部は、曲がっている脚部に上下スライド自在に連結されているので、前後脚部の閉じ回動に連動して座部を折り畳むことを、部材点数をできるだけ抑制して実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】(A)は側面図、(B)は要部の縦断側面図、(C)は(B)のC-C視断面図である。
【
図5】折り畳んでネスティングしている状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、この方向は、椅子に普通に腰掛けた人の向きを基準にしている。正面視は着座した人と対向した方向である。
【0022】
(1).第1実施形態(
図1~5)
まず、
図1~5に示す第1実施形態を説明する。本実施形態(及び他の実施形態)の椅子は、会議室や講堂などで使用することが多いタイプであり、
図1に示すように、座部1と背もたれ2及びこれらを支持する前脚部3及び後脚部4を備えている。前脚部3及び後脚部4の上端は、座部1よりも上に位置している。
【0023】
図1に示すように、座部1は、上下に開口した平面視略四角形の枠体5にメッシュ材を張った構造になっている。なお、座部1は、樹脂製や木製、或いは金属板製の座部板(インナー板)にクッション材を張った構造など、様々な態様を採用できる。クッション材を備えずに、座部板を露出させたタイプも採用できる。
【0024】
背もたれ2は合成樹脂を使用した成型品であり、左右の前向き部2aを備えて平面視コ字形の形態を成している。なお、背もたれ2は木製でもよい。また、前面にクッション材を張った構造も採用できる。
【0025】
前脚部3は左右の前脚杆7を備えて、後脚部4は左右の後脚杆8を備えており、下端にはそれぞれキャスタ9,10を取り付けている。これら脚杆7,8は、平断面視で前後に長い小判形のアルミ管又はスチール管のような金属管が使用されているが、丸パイプやオーバル管、中実の棒材、アルミダイキャスト品なども使用できる。また、前脚部3と後脚部4とで材質や断面形状を異ならせることも可能である。
【0026】
図3(A)に明示するように、前脚杆7は直線状の形態で側面視において後傾姿勢になっており、その中途高さ部位に、座部1の前寄り部位が左右長手の1本の支軸11によって連結されている。従って、座部1は、支軸11を中心にして(支点にして)回動させることができる。支軸11は鋼管のような円形の金属管から成っている(丸棒でもよい。)。支軸11を前脚杆7に回転不能に固定してもよいし、支軸11を座部1の枠体5に溶接後脚部4で固定して、その両端部を、前脚杆7に固定された軸受けピンに嵌め込むことも可能である。また、左右の前脚杆7を左右長手のフロントステー(補強ステー)で連結してもよい。
【0027】
図1や
図3(A)のとおり、後脚部4を構成する後脚杆8は、基本的には、上端よりも後端が後ろに位置した前傾姿勢になっており、座部1よりも少し低い位置に頂点部12が位置するように、側面視でく字形に曲がっている。すなわち、後脚杆8は、その上端と下端とを結ぶ基準直線Oに対して前向きに突出した(或いは膨れた)状態で鈍角に曲がっており、頂点部12を挟んだ上部8aと下部8bとは直線状の形態を成している。
【0028】
なお、後脚杆8は、全体を前向きに膨れた弓形に湾曲させてもよいし、下部8bだけを湾曲させてもよい。いずれの実施形態でも、後脚体8の略全体が基準直線Oの手前に膨れ出ているため、略全体が請求項に記載した第1部分になっている。
【0029】
後脚杆8のうち頂点部12よりも上に位置した上部8aの内側板に、請求項に記載したガイド手段の一例として上下長手のガイド長穴13を形成しており、このガイド長穴13に、座部1の外側面にブラケット板14を介して横向き突設したスライドピン15が、スライド自在に嵌め込まれている。
図3(C)に示すように、長穴13には、スライドピン15のスライドを静粛かつスムースに行わせるため、樹脂製のエッジ材16を装着している。
【0030】
また、
図3(A)(B)のとおり、ブラケット板14は座部1の下方にはみ出しており、スライドピン15は、座部1の下面よりも少し下方に配置されている。すなわち、スライドピン15は、座部1の下面から下方にオフセットされている。
【0031】
左右の後脚杆8は、概ね頂点部12の箇所において左右長手の連結部材17で連結されている。連結部材17は丸パイプのような金属管からなっており、後脚杆8に溶接等で固定されている。後脚部4の剛性向上の点から、連結部材17は、後脚杆8の頂点部12かその近傍に配置するのが好ましい。
【0032】
ガイド手段としては、コ字形やC字形等のガイドレール使用し、これを後脚杆8の内側面にビス止め等で固定する一方、座部2の側面に、ガイドレールにスライド自在に嵌まるピン又はコロを突設するといったことも可能である。
【0033】
左右の後脚杆8の上端には前向き部18を設けており、前向き部18と前脚杆7の上端部とが、左右長手の枢支ピン19によって相対回動可能に連結されている。従って、前後の脚部3,4は基本的には逆V形の形態に連結されており、枢支ピン19を支点にして相対回動することによって夾角が変化する。すなわち、前後の脚部3,4は、枢支ピン19を支点にして折り畳まれたり展開したりする。
【0034】
前脚杆7の上端にはブラケット板20が溶接によって固定されており、後脚杆8の前向き部18とブラケット板20とが枢支ピン19で連結されている。後脚杆8の前向き部18はブラケット板20の内側に位置している。
【0035】
また、
図2に明示するように、後脚部4の左右外幅L1よりも前脚部3の左右内幅L2を大きくしている。換言すると、後脚部4は前脚部3の左右内側に位置しており、これにより、前後に配置した椅子をネスティングすることが可能になっている。
図2に示すように、前キャスタ9は前脚杆7の左右両側に一対ずつ配置されているが、後キャスタ10は後脚杆8の内側に位置している。
【0036】
図示は省略しているが、背もたれ2における前向き部2aの前端には、前脚杆7に上から嵌入するボス体を設けており、前脚杆7とボス体とはビスによって固定されている。なお、実施形態では背もたれ2の前向き部2aを手前に向けて大きく延ばしているが、前脚杆7の上端に後ろに向き折り曲げ部を形成して、後ろに向き折り曲げ部の後端に背もたれ2を取り付けることも可能である。
【0037】
(2).まとめ
本実施形態では、前脚部3は後脚部4とは互いに逆向きに傾斜して基本的に逆V形の姿勢を成しているため、全体としてスッキリしたデザインになっている。また、後脚部4は側面視で前向きに膨れるように曲がっているため、椅子の後ろを通る人が提げている鞄などが後脚部4に当たることを防止又は抑制できる。
【0038】
また、ネスティング時には、後ろの椅子の連結部材17が前の椅子の座部1に後ろから当たることで前後椅子のネスティング間隔が規定されるが、後脚杆8をく字形に曲げて頂点部12かその近傍に連結部材17を設けると、基準直線O上に連結部材17がある場合に比べて、連結部材17は前に寄るため、前後椅子のネスティング間隔を狭めることができる。
【0039】
そして、
図4に矢印23で示すように、背もたれ2を手で掴んで椅子を上に持ち上げると、前脚部3と後脚部4とが互いに接近するように回動し(夾角を狭めるように回動し)、これに連動して、ガイド長穴13のガイド作用により、座部1はその前端が下降し後端が上昇するように回動する。
【0040】
そして、
図5に示すように、連結部材17又は後脚杆8が座部1の後面に当たることによって各部材の回動が停止して、折り畳み状態になる。この状態では、側面視で座部1は前脚杆7に重なった状態になっているが、後脚杆4は、上端の前向き部18が前脚杆7に連結されていることにより、前脚部3及び座部1と前後に重なった姿勢になる。更に、スライドピン15は座部1の下方にはみ出ているため、折り畳まれた状態で、座部1と後脚杆8とが前後に重なった状態に移行できる。
【0041】
そして、前脚部3と後脚部4とは逆V形に連結されているため、背もたれ2を手で掴んで椅子を持ち上げると、
図4に示すように、前キャスタ9と後キャスタ10とを設置させた状態を維持しつつ、前後脚部3,4の閉じ回動させることができる。
【0042】
すなわち、前キャスタ9は殆ど動かずに後キャスタ10が床上を転動する状態と、後キャスタ10は殆ど動かずに前キャスタ9が床上を転動する状態と、前後のキャスタ9,10が床上を転動して互いに接近する状態とが有り得るが、いずれにしても、前後のキャスタ9、10を接地させた状態で折り畳むことができる。従って、折り畳み作業を軽い力でかつ簡単に行える。
【0043】
本実施形態では、背もたれ2は前脚部3の上端に設けているため、折り畳んだ状態で背もたれ2と座部1とが重なることはない。従って、
図5のとおり、多数の椅子を、前の椅子の座部1に後ろの椅子の連結部材17が重なる状態に、間隔を詰めた状態でネスティングできる。従って、スペースを有効利用できる。
【0044】
実施形態の椅子はキャスタ9,10を備えているため、折り畳んだ椅子は、背もたれ2に手を掛けて押したり引いたりして移動させることができる。従って、特許文献1のように持ち上げて移動させるものに比べて、移動の作業の負担を軽減できる。ネスティングされた多数の椅子を纏めて押し移動させることも可能である。
【0045】
また、後キャスタ10は後脚杆8の内側のみに配置しているため、前脚部3の左右内幅L2を小さくできる利点がある。なお、前キャスタ9を前脚杆8の外側のみに配置すると、前脚部3の左右内幅L2を更に小さくできて好適である。
【0046】
本実施形態では、
図4に矢印24で示すように、座部1の後端を手で掴んで持ち上げることによっても椅子を折り畳むことができる。この場合は、座部1が強制的に回動させられるため、持ち上げるだけの操作で折り畳むことを確実化できる。本実施形態のように後脚杆8にガイド長穴13を形成すると、背もたれ2を持ち上げるにしても座部1を持ち上げるにしても、座部1の回動割合と前後脚部3,4の閉じ割合とはあまり違わないため、折り畳み途中で抵抗が増大するようなことはなくて、折り畳み作業を違和感無くスムースに行える。
【0047】
折り畳んだ状態から展開するに当たっては、座部1を後ろ下方に押し倒してもよいし、背もたれ2の後端を下向きに押して、前後脚部3,4を広げ回動させてもよい。背もたれ2を手先で掴んで、後キャスタ10を接地させつつ前キャスタ9は少し浮かした状態で背もたれ2を下向きに押すと、後脚部4に対して前傾荷重が掛かるため、簡単に開き回動させることができる。
【0048】
折り畳まれた状態で後脚杆8の上部8aは後傾しているため、前後脚部3,4を広がり回動させるためには、後脚杆8の上部8aを前傾姿勢に移行させなければならない。従って、後脚部4が折り畳み状態を保持する役割を果たしている。
【0049】
さて、椅子の重心は前後キャスタ9,10の間のエリアの上に位置しているため椅子が自立するが、重心の下向き荷重は、前後キャスタ9,10を離反させる水平分力を有している。この場合、重心が前に寄るほど、後キャスタ10に対する後ろ向きの水平分力は大きくなって開脚部しやすくなるが、本実施形態では背もたれ2が後ろに大きく張り出しているため、重心をできるだけ後ろに寄せて、後キャスタ10に対する後ろ向きの水平分力を低減できる。これにより、折り畳み状態の保持機能を向上できる。
【0050】
折り畳み状態を保持する弾性的なロック手段を設けることは可能である。例えば、折り畳んだ状態で重なり合う部材にマグネットを配置して、磁力によって折り畳み状態を保持しつつ、ある程度の力を掛けると展開できる構成を実現できる。重なり合う部材のうち少なくとも一方が鋼板のような磁性体の場合は、マグネットは他方の部材のみに設けたらよい。
【0051】
ボールをばねで押したボールキャッチや、板ばね製又は樹脂製の係止爪を使用し、ボールや係止爪のようなキャッチ部材を相手部材の係合部に弾性に抗して係合させることも可能である。
【0052】
(3).他の実施形態
次に、
図6以下に示す他の実施形態を説明する。各実施形態において第1実施形態と同じ部分は同じ符号を使用して、説明は省略している。
【0053】
図6に示す第6実施形態では、第1実施形態とは異なって、前脚杆7にガイド長穴13を形成して座部1にスラドピン15を設けている。座部1は、左右の後脚杆8に対して、上向きに突出したブラケット30を介して左右の支軸11によって連結されている。この実施形態では、座部1は、前端が上になるように跳ね上げ回動される。
【0054】
図7に示す第3実施形態では、第1実施形態とは異なって、前脚部3を側面視く字形に屈曲させており、かつ、前脚杆7の上部7aにガイド長穴15を形成し、座部1の後脚杆はブラケット30を介して後脚杆8に支軸11で連結している。この実施形態では、折り畳みに際しては、座部1を前端に手を掛けて、座部を上向きに跳ね上げ回動させるのが好ましい。
【0055】
本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、前脚杆と後脚杆との両方をく字形に曲げることも可能である。ネスティングの許容条件としては、前脚部の左右外幅を後脚部の左右内幅より小さくすることも可能である。また、本願発明は、折り畳み式でないネスティングタイプの椅子としても具体化できる。この場合、座部は跳ね上げ式であってもよいし、固定式であってもよい。
【0056】
例えば第1実施形態のような外観で折り畳み式でない場合、ネスティングできるようにするには、例えば座部1を跳ね上げ式に構成することになり、この場合は、後ろの椅子の連結部材17が前の椅子の座部1に後ろから当たることで前後椅子のネスティング間隔が規定されるが、後脚杆8をく字形に曲げて頂点部12かその近傍に連結部材17を設けると、基準直線O上に連結部材17がある場合に比べて、連結部材17は前に寄るため、前後椅子のネスティング間隔を狭めることができる。従って、本願発明は折り畳み式でない椅子でも価値がある。
【0057】
連結部材17は、板材や型鋼で形成されていてもよい。また、頂点部から上又は下に外れた部位に設けることも可能である。更に、左右の脚杆を上下複数本の連結部材で連結することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明は椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 座部
2 背もたれ
3 前脚部
4 後脚部
7 前脚杆
8 後脚杆
8a 後脚杆の上部
8b 後脚杆の下部
9 前キャスタ
10 後キャスタ
12 曲がりの頂点部
13 ガイド手段の一例としてのガイド長穴
15 スライドピン
17 連結部材
O 基準直線