(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】木造建物の床組構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/40 20060101AFI20240321BHJP
E04B 5/12 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
E04B5/40 E
E04B5/12
(21)【出願番号】P 2020052508
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019066051
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】牧内 敏輝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 忠義
(72)【発明者】
【氏名】石丸 亮
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155312(JP,A)
【文献】実開平07-021837(JP,U)
【文献】特開2000-291143(JP,A)
【文献】特開2005-207217(JP,A)
【文献】特開2016-169565(JP,A)
【文献】特開平02-176044(JP,A)
【文献】実開昭59-084126(JP,U)
【文献】特許第7288787(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/02,5/12,5/40
E04B 1/38 - 1/61
E04B 1/10
E04B 1/62 - 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山部と谷部とが傾斜部を介して交互に連なり略台形の波形断面に屈曲形成されたデッキプレートを、受け部材を介して木製横架材に支持させてなる木造建物の床組構造であって、
前記受け部材は、前記木製横架材の上面に載る上フランジ部と、同側面に沿って垂下するウエブ部と、前記デッキプレートの端部の谷部を支持する下フランジ部とで断面略Z字状に形成され、前記木製横架材の軸方向に間隔をあけて複数設けら
れていること、
前記複数の受け部材の下フランジ部の上面に、前記木製横架材の軸方向に延びる長尺なベース部材が設けられ、前記ベース部材の上面に前記デッキプレートの端部の谷部が支持されることを特徴とする、木造建物の床組構造。
【請求項2】
山部と谷部とが傾斜部を介して交互に連なり略台形の波形断面に屈曲形成されたデッキプレートを、受け部材を介して木製横架材に支持させてなる木造建物の床組構造であって、
前記受け部材は、前記木製横架材の上面に載る上フランジ部と、同側面に沿って垂下するウエブ部と、前記デッキプレートの端部の谷部を支持する下フランジ部とで断面略Z字状に形成され、前記木製横架材の軸方向に間隔をあけて複数設けられ前記デッキプレートを支持するこ
と、
前記受け部材の上フランジ部は、前記木製横架材の短手方向に若干長く形成され、そのウエブ部と前記木製横架材との間に、面材を挟んだ状態で当該上フランジ部が木製横架材の上面に載ることを特徴とする、木造建物の床組構造。
【請求項3】
前記木製横架材は、その上面に前記受け部材の上フランジ部を位置決めするための切欠き凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1
又は2に記載した木造建物の床組構造。
【請求項4】
前記木製横架材は、その側面に前記受け部材のウエブ部を位置決めするための切欠き凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1
~3のいずれか1項に記載した木造建物の床組構造。
【請求項5】
前記複数の受け部材の下フランジ部の上面に、前記木製横架材の軸方向に延びる長尺なベース部材が設けられ、前記ベース部材の上面に前記デッキプレートの端部の谷部が支持されることを特徴とする、請求項
2に記載した木造建物の床組構造。
【請求項6】
前記デッキプレートの上面にコンクリートが打設されて前記木製横架材と一体化されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載した木造建物の床組構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木造軸組構法(在来工法)により構築される木造建物の床組構造(床構造)の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設業界においては建設現場の職人不足が懸念され、構法(工法)の省力化、部材(製品)の軽量化が求められている。
例えば、木造軸組構法によって構築される木造建物では、経済的かつ合理的に構造物の強度・剛性を向上させることができ、取扱性にも優れたデッキプレートが注目され、近年、床構造の面内にデッキプレートを配設して床構造の面内剛性を効率的に向上させ得る床構造が開発されている(例えば、特許文献1の段落[0057]以降、及び
図12等を参照)。
【0003】
前記特許文献1には、例えば
図12に示したように、金属板(デッキプレート)5をアングル11を介して木梁25に支持させてなる構成で実施され、前記アングル11を木梁25の側面に取り付けて金属板5を梁下へ落とし込ませて接合することで、定尺の金属板5を使用でき、切欠き加工の手間を省略することを可能とした床構造が開示されている。
【0004】
前記金属板5を梁下へ落とし込ませて接合する技術は、木造建物の技術分野ではないものの、特許文献2にも開示されている。この特許文献2には、波形床材(デッキプレート)1をZ型断面形状をした受材3を介して鋼製床梁2に支持させてなる床下地の取付構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-155312号公報
【文献】実開平6-35435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に係る床構造は、以下の問題があった。
<1>金属板5を支持するアングル材11が、金属板5の幅寸法にあわせた長尺物となっているため、重量が大きく、運搬、施工作業時に重機が必要となり、現場敷地や周辺道路の制約を受け、施工条件が限られてしまう問題があった。
<2>アングル材11を、木梁25の側面に直接ボルト留め又はネジ留めして取り付けるため、大きな荷重を受けた場合、木梁25にボルトやネジがめり込み、十分な強度が得られない可能性があった。施工時においても、アングル材11は木梁25の側面に不安定な状態で押さえつけながらボルトやネジで固定するため、アングル11を水平に保つことが困難なために施工精度が安定しないという問題もあった。また、足場がわるい高所作業ではアングル11が落下する危険性も懸念される。
【0007】
前記特許文献2に係る床下地の取付構造は、木梁25ではなく鋼製床梁2で実施すること、および前記アングル材11に相当する受材3がZ型断面形状をなし、その上フランジ部を鋼製床梁2の上面に安定した状態で掛け留める構造であるため、前記特許文献1の上記問題<2>は生じない。
しかし、前記受材3は、前記アングル材11と同様に波形床材1の幅寸法にあわせた長尺物となっているため、前記特許文献1の上記問題<1>と同様の問題があることに加え、前記受材3の上フランジ部が鋼製床梁2の上面の全長にわたって延びる構造を呈するので、前記上フランジ部が、壁材を打ち付けるための間柱や主柱に干渉する問題があった。また、鋼製床梁2の上面に前記上フランジ部の板厚分の段差が生じるため、床の仕上げ材や壁材の納まりがわるく施工性に劣るという問題もあった。
【0008】
本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とすると
ころは、デッキプレートを受け部材を介して木製横架材に支持させるにあたり、前記受け部材の構成に工夫を施すことにより、前記<1>、<2>の問題を解消し、施工性、経済性、および取扱性に優れた木造建物の床組構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る木造建物の床組構造は、山部と谷部とが傾斜部を介して交互に連なり略台形の波形断面に屈曲形成されたデッキプレートを、受け部材を介して木製横架材に支持させてなる木造建物の床組構造であって、
前記受け部材は、前記木製横架材の上面に載る上フランジ部と、同側面に沿って垂下するウエブ部と、前記デッキプレートの端部の谷部を支持する下フランジ部とで断面略Z字状に形成され、前記木製横架材の軸方向に間隔をあけて複数設けられていること、
前記複数の受け部材の下フランジ部の上面に、前記木製横架材の軸方向に延びる長尺なベース部材が設けられ、前記ベース部材の上面に前記デッキプレートの端部の谷部が支持されることを特徴とする。
請求項2に記載した発明に係る木造建物の床組構造は、山部と谷部とが傾斜部を介して交互に連なり略台形の波形断面に屈曲形成されたデッキプレートを、受け部材を介して木製横架材に支持させてなる木造建物の床組構造であって、
前記受け部材は、前記木製横架材の上面に載る上フランジ部と、同側面に沿って垂下するウエブ部と、前記デッキプレートの端部の谷部を支持する下フランジ部とで断面略Z字状に形成され、前記木製横架材の軸方向に間隔をあけて複数設けられ前記デッキプレートを支持すること、
前記受け部材の上フランジ部は、前記木製横架材の短手方向に若干長く形成され、そのウエブ部と前記木製横架材との間に、面材を挟んだ状態で当該上フランジ部が木製横架材の上面に載ることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した木造建物の床組構造において、前記木製横架材は、その上面に前記受け部材の上フランジ部を位置決めするための切欠き凹部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載した発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載した木造建物の床組構造において、前記木製横架材は、その側面に前記受け部材のウエブ部を位置決めするための切欠き凹部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載した発明は、請求項2に記載した木造建物の床組構造において、前記複数の受け部材の下フランジ部の上面に、前記木製横架材の軸方向に延びる長尺なベース部材が設けられ、前記ベース部材の上面に前記デッキプレートの端部の谷部が支持されることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載した発明は、請求項1~5のいずれか1項に記載した木造建物の床組構造において、前記デッキプレートの上面にコンクリートが打設されて前記木製横架材と一体化されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る木造建物の床組構造によれば、以下の効果を奏する。
第1~第6発明に係る木造建物の床組構造は、コンパクトな受け部材を複数点在させてデッキプレートを支持する構造なので、木製横架材の上面等に設置する柱や間柱を避けた配置に設けることができる等、柔軟な構造設計を実現できる。また、上記特許文献1に係るアングル材11と比し、取扱性に優れ、運搬や施工時に作業員一人での作業が可能となる。さらに、重機を必要としないので、敷地や周辺道路の制約を受けないあらゆる立地での施工が可能となる。
第1~第6発明に係る木造建物の床組構造は、受け部材(の上フランジ)を木製横架材の上面に掛け留める手法で取り付けるので、上記特許文献1に係るアングル11と比し、受け部材の落下を極力防止できる。また、荷重を、横方向から挿入したビス等の点ではなく、鉛直方向からの面での伝達が可能となるので高い接合強度を発揮することができる。さらに、受け部材を木製横架材の上面に掛け留めるだけで自動的に位置決めできるので、デッキプレート設置時等の高さ調整が不要であり、側面に取り付けるよりも施工精度が安定する。
第1~第6発明に係る木造建物の床組構造は、強度・剛性が高いデッキプレートを用いることにより、従来の小梁や根太、合板等で形成する床組と比して十分な剛性を保有するため、構造設計に応じて乾式(デッキプレート単体)、湿式(コンクリート打設)を使い分けることができる。
特に、第3発明に係る木造建物の床組構造は、前記木製横架材の上面に切欠き凹部を形成して実施すると、前記木製横架材に受け部材を取り付けても不陸を起こすことがなく、その後に取り付ける床材や壁材の良好な納まりを実現できる。また、前記受け部材の取り付け部位の作業上の目印になる他、取り付けた後は受け部材のずり動きを確実に防止できるので施工性がよい。
特に、第4発明に係る木造建物の床組構造は、前記木製横架材の側面に切欠き凹部を形成して実施すると、木製横架材とデッキプレートと隙間(受け部材の板厚分)が埋まり(詰めることができ)、コンクリート打設時のコンクリートの漏れや、上階からの音漏れを防ぐことができる。
特に、第1発明に係る木造建物の床組構造は、実施例2のように、長尺物のベース部材を前記下フランジ部と前記デッキプレートとの間に介在されているので、前記デッキプレートを前記受け部材の取り付け位置にかかわらず設置でき、柔軟な構造設計が可能となる。
特に第2発明に係る木造建物の床組構造は、受け部材の上フランジ部が木製横架材の短手方向に若干長く形成されているので、受け部材のウエブ部と木製横架材に隙間が形成され、耐火設計では木製横架材の両側面と下面を耐火材で保護できる。また、床組と木製横架材の接触面が減ることで、隣接する部屋への床上衝撃音の伝達を低減し、さらに吸音板の挿入や界壁を梁上面まで伸ばすことで、より遮音性が向上する。この時、挿入した面材が隙間を埋めるため、コンクリート打設時に漏れが防止される利点もある。
また、前記ベース部材により、前記デッキプレートや打設コンクリートに対する支持耐力を高めることができる。さらに、コンクリートを打設する場合は、コンクリート漏れを未然に防止することができる。
まとめると、本発明に係る木造建物の床組構造は、施工性、経済性、および取扱性に優れた木造建物の床組構造を実現することができる。
[図面の簡単な説明]
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明(実施例1)に係る木造建物の床組構造の実施例を示した斜視図である。
【
図3】本発明に係る木造建物の床組構造の施工段階を示した説明図である。
【
図4】本発明に係る木造建物の床組構造の要部を抽出して示した斜視図である。
【
図5】
図1に示した木造建物の床組構造にコンクリートを打設した状態を示した説明図である。
【
図7】本発明に係る木造建物の床組構造の異なる実施例を示した断面図である。
【
図8】本発明(実施例2)に係る木造建物の床組構造の実施例を示した斜視図である。
【
図10】本発明に係る木造建物の床組構造の施工段階を示した説明図である。
【
図11】本発明に係る木造建物の床組構造の要部を抽出して示した斜視図である。
【
図12】
図8に示した木造建物の床組構造にコンクリートを打設した状態を示した説明図である。
【
図14】本発明に係る木造建物の床組構造の異なる実施例を示した断面図である。
【
図15】本発明(実施例3)に係る木造建物の床組構造の実施例を示した断面図である。
【
図16】本発明に係る木造建物の床組構造の異なる実施例を示した断面図である。
【
図17】本発明に係る木造建物の床組構造の異なる実施例を示した断面図である。
【
図18】本発明に係る木造建物の床組構造の異なる実施例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る木造建物の床組構造の実施例を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明における「実施例1~実施例3」のうち、本発明の本来の実施例は「実施例2、実施例3」であり、実施例1は本発明に関連する参考例であるが、以下では便宜的に全てを実施例と称して説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明に係る木造建物の床組構造は、
図1、
図2に示したように、山部21と谷部22とが傾斜部23を介して交互に連なり略台形の波形断面に屈曲形成されたデッキプレート2を、受け部材1を介して木製横架材3に支持させてなる木造建物の床組構造であり、前記受け部材1は、前記木製横架材3の上面に載る上フランジ部11と、同側面に沿って垂下するウエブ部12と、前記デッキプレート2の端部の谷部22を支持する下フランジ部13とで断面略Z字状に形成され、前記木製横架材3の軸方向に間隔をあけて複数設けられ前記デッキプレート2を支持する構造である。
【0019】
前記木製横架材3は、木造軸組構法に用いる木製横架材3であり、大梁、小梁、又は胴差し等を指す。本実施例は木製大梁3とされ、断面サイズは一例として縦寸360mm程度、横寸120mm程度の構造用集成材で実施されている。勿論、前記木製横架材3の断面サイズはこれに限定されない。
また、本実施例に係る前記木製横架材3は、
図2に示したように、その上面と側面に、前記受け部材1の上フランジ部11とウエブ部12を位置決めするための切欠き凹部3a、3bを連続させた断面略逆L字状の切欠き凹部が形成されている。
前記切欠き凹部3a、3bの形状は、平板状に形成された上フランジ部11、ウエブ部12と同等寸法に切り欠いて形成されている。言い換えると、上フランジ部11、ウエブ部12を受け入れた状態で木製横架材3の外周面と面一となるように形成されている。
【0020】
前記デッキプレート2は、山部21と谷部22とが傾斜部23を介して交互に連なり略台形の波形断面をなす鋼板で形成され、さらに谷部22に鍵溝を、傾斜部23に段部を備えた合成スラブ用デッキプレート2と称されるデッキプレートが採用されている。
このデッキプレート2の寸法は、一例として、幅が600mm程度(2山タイプ)、高さ(山高)が50mm程度、山部と谷部のトップ(平面部)の幅寸が115~125mm程度、板厚が1.0~1.6mm程度、全長(スパン長)が1.8~3.6m程度である。
図1は、幅方向に2体のデッキプレート2を連結した状態を示している。
【0021】
なお、前記デッキプレート2の形態(形状、寸法)は勿論この限りではなく、設置面積、支持梁の設置間隔、構造上必要な強度等の構造設計に応じて適宜設計変更される。
例えば、幅が300mm程度の1山タイプの幅調整用のデッキプレート2を併用することは適宜行われるところである。その他、コンクリートを打設しない(乾式の)場合は前記鍵溝や段部がないタイプの通常のデッキプレートを採用することもできる。
ちなみに前記デッキプレート2は、その端部の谷部22における前記受け部材1の下フランジ13との接合部位に貫通孔22a(
図2参照)が穿設されている。
【0022】
前記受け部材1は、金属製(鋼製)であり、前記上フランジ部11、前記ウエブ部12、及び前記下フランジ部13とで断面略Z字状に形成されている。
前記上フランジ部11は、前記木製横架材3へ取り付けるために用いるビス6、ボルト、ドリフトピン等の固定具6を挿通させるための貫通孔11aが形成されている。図示例に係る貫通孔11aは、バランスよく6個穿設されているが構造設計に応じて適宜設計変更可能である。また、前記ビス6は、一例として、上フランジ部11と木製横架材3を固定しているが、例えば、ウエブ部12に貫通孔を形成して固定するなど、受け部材1と木製横架材3がずれないように固定されていればよく、固定具はビス6に限らないし、また固定位置に関わらず、どのように固定されてもよい。
前記下フランジ部13は、前記デッキプレート2へ取り付けるために用いるボルト7等の固定具7を挿通させるための貫通孔13aが形成されている(
図3参照)。図示例に係る貫通孔13aは、バランスよく左右に2個穿設されているが構造設計に応じて適宜設計変更可能である。もっとも、前記下フランジ部13と前記デッキプレート2とを溶接手段で一体化させる場合は前記貫通孔13aは不要である。
前記受け部材1の寸法は、一例として、断面方向にみて(
図2参照)、上フランジ部11の幅寸が57mm程度、ウエブ部12の高さ寸法(全高)が127mm程度、下フランジ部13の幅寸が64mm程度、板厚が6mm程度で、奥行き寸法(横幅)B(
図4参照)が110mm程度で実施されている。
【0023】
なお、前記受け部材1の形態(形状、寸法)は勿論この限りではなく、前記デッキプレート2、木製横架材3の形態等を勘案した構造設計に応じて適宜設計変更される。
例えば、床板を前記木製横架材3の上面に設置する構造設計とした場合、
図7に示したように、前記ウエブ部12の高さ寸法を短くした受け部材1を用いてデッキプレート2の上面レベルを前記木製横架材3の上面レベルと略同一とし、その上に床部材(床板等)9を設置可能な構造とすることは適宜行われるところである。
その他、前記受け部材1は、2本のアングル材を組み合わせて(例えば、背面同士を溶接接合して)断面略Z字状に形成したものでも同様に実施できる。
【0024】
次に、上記構成の木製横架材3、デッキプレート2、及び受け部材1からなる木造建物の床組構造を実現するための手法(作業手順)について説明する。なお、以下に説明する手法はあくまでも一例に過ぎないことを念のため特記しておく。
先ず準備段階として、前記木製横架材(木製大梁)3を木造軸組構法により、対向する平行な配置に例えば3m程度の間隔をあけて2本架設する(
図5を援用して参照)。この段階で、対向する木製横架材3、3に形成した切欠き凹部3a、3b同士は、相対峙する配置に位置決めされる。
次に、
図3に示したように、複数(図示例では4つ)の受け部材1をそれぞれ、その上フランジ部11を前記木製横架材3の上面(の切欠き凹部3a)に載置すると共に、ウエブ部12を前記木製横架材3の側面(の切欠き凹部3b)に当接させ、もって前記受け部材1を前記木製横架材3に位置決めする。しかる後、前記上フランジ部11の前記貫通孔11aにビス6を通して前記受け部材1を前記木製横架材3に定着させる。
対向する平行な配置に設けた一方の木製横架材3にも同様に受け部材1の取り付け作業を繰り返し行い、前記受け部材1、1同士を相対峙させる(
図5を援用して参照)。
【0025】
次に、前記デッキプレート2を所定の高さ吊り上げ、前記受け部材1、1の間に落とし込みつつ位置決めして架設する作業を行う。
具体的には、前記木製横架材3で囲われた面内に隙間なく前記デッキプレート2を敷設するべく、前記デッキプレート2の長手方向の両端部の谷部22を前記受け部材1の対応する下フランジ部13の上面に載置し、前記谷部22の前記貫通孔22aと下フランジ部13の前記貫通孔13aとの芯を一致させ、ボルト7を通してナット8で締結する作業を受け部材1の数に応じて繰り返し行い、もって、デッキプレート2を、受け部材1を介して木製横架材3に支持させてなる床組構造を実現する。
しかる後、構造設計に応じて、
図5、
図6に示したように、前記床組構造の木製横架材3、3間(梁間)に架設したデッキプレート(合成スラブ用デッキプレート)2を型枠としてコンクリート5を打設し、コンクリート5硬化後はデッキプレート2がコンクリート5と一体となって作用荷重を負担する床スラブ構造として実施してもよいし、図示は省略するが、木製横架材3の上面とデッキプレート2の山部21の上面との差分の高さを有する床仕上げ材(フローリング、畳、タイル等)を敷設した床スラブ構造として実施してもよい。
【0026】
上記構成の木造建物の床組構造によれば、以下の効果を奏する。
(1)1個あたりの全高が127mm程度、横幅Bが110mm程度のコンパクトな受け部材1を複数点在させてデッキプレート2を支持する構造なので、木製横架材3の上面等に設置する柱や間柱を避けた配置に設けることができる等、柔軟な構造設計を実現できる。また、上記特許文献1に係るアングル材11と比し、取扱性に優れ、運搬や施工時に作業員一人での作業が可能となる。さらに、重機を必要としないので、敷地や周辺道路の制約を受けないあらゆる立地での施工が可能となる。
(2)受け部材1(の上フランジ11)を木製横架材3の上面に掛け留める手法で取り付けるので、上記特許文献1に係るアングル11と比し、受け部材1の落下を極力防止できる。また、荷重を、横方向から挿入したビス等の点ではなく、鉛直方向からの面での伝達が可能となるので高い接合強度を発揮することができる。さらに、受け部材1を木製横架材3の上面に掛け留めるだけで自動的に位置決めできるので、デッキプレート2設置時等の高さ調整が不要であり、側面に取り付けるよりも施工精度が安定する。
(3)強度・剛性が高いデッキプレート2を用いることにより、従来の小梁や根太、合板等で形成する床組と比して十分な剛性を保有するため、構造設計に応じて乾式(デッキプレート2単体)、湿式(コンクリート5打設)を使い分けることができる。
(4)本実施例では、前記木製横架材3の上面に切欠き凹部3aを形成して実施しているので、前記木製横架材3に受け部材1を取り付けても不陸を起こすことがなく、その後に取り付ける床材や壁材の良好な納まりを実現できる。また、前記受け部材1の取り付け部位の作業上の目印になる他、取り付けた後は受け部材1のずり動きを確実に防止できるので施工性がよい。
(5)本実施例では、前記木製横架材3の側面に切欠き凹部3bを形成して実施しているので、木製横架材3とデッキプレート2と隙間(受け部材3の板厚分)が埋まり(詰めることができ)、コンクリート打設時のコンクリートの漏れや、上階からの音漏れを防ぐことができる。
【実施例2】
【0027】
図8、
図9は、実施例2に係る木造建物の床組構造を示している。
この実施例2に係る木造建物の床組構造は、上記実施例1と比し、前記デッキプレート2と前記受け部材1の下フランジ部13との間にベース部材4を介在させている点が相違する。その他の構成は上記実施例1と同様なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0028】
前記ベース部材4は、前記木製横架材3の軸方向に延びる細長い長尺物であり、本実施例では一例として、板厚が6mm程度、幅が50mm程度で、軸方向長さは使用するデッキプレート2の幅寸(面内の幅寸)と同等寸法で実施されている。
【0029】
前記ベース部材4は、
図10に示したように、前記木製横架材3に取り付けた複数(図示例では4つ)の受け部材1の下フランジ13の上面に載置する。本実施例に係るベース部材4は予め、前記下フランジ13の前記貫通孔13aと芯が一致する位置に貫通孔4aが穿設されており(
図6参照)、前記貫通孔13a、4a同士の位置(芯)合わせを行った後、さらに前記デッキプレート2を吊り支持した状態で、その端部の谷部22の貫通孔22aの位置(芯)合わせを行う。かくして芯が一致した前記貫通孔13a、4a、22aにボルト7を通しナット8を締結することにより、前記下フランジ部13(受け部材1)、ベース部材4、及び谷部22(デッキプレート2)の3部材を一体化させる(
図11参照)。
なお、前記ベース部材4と前記デッキプレート2とを溶接手段で一体化させる場合は前記貫通孔4aは不要である。
前記受け部材1を前記木製横架材3に取り付ける手法、前記デッキプレート2を前記下フランジ部13へ位置決めする手法は、前記段落[0024]、[0025]を参照されたい。
【0030】
しかる後、構造設計に応じて、
図12、
図13に示したように、前記床組構造の木製横架材3、3間(梁間)に架設したデッキプレート(合成スラブ用デッキプレート)2を型枠としてコンクリート5を打設し、コンクリート5硬化後はデッキプレート2がコンクリート5と一体となって作用荷重を負担する床スラブ構造として実施してもよいし、図示は省略するが、木製横架材3の上面とデッキプレート2の山部21の上面との差分の高さを有する床仕上げ材(フローリング、畳、タイル等)を敷設した床スラブ構造として実施してもよい。また、
図13に示すように、コンクリート5を打設する場合は、デッキプレート2の端部と木製横架材3との間を養生したり、受け部材1の下フランジ部13とベース部材4を隙間なく配置して固定すれば、よりコンクリート5の漏れを防止することができ、望ましい。
その他、
図14に示したように、前記ウエブ部12の高さ寸法を短くした受け部材1を用いてデッキプレート2の上面レベルを前記木製横架材3の上面レベルと略同一とし、その上に床部材(床板等)9を設置可能な構造で実施してもよい。
【0031】
この実施例2に係る木造建物の床組構造は、上記実施例1と同様に、前記受け部材1、前記デッキプレート2、及び木製横架材3からなる構造に変わりはない。よって、前記段落[0026]の(1)~(5)に記載した上記実施例1と同様の作用効果を奏する。
加えて、実施例2に係る木造建物の床組構造は、長尺物のベース部材4を、前記下フランジ部13と前記デッキプレート2との間に介在させるので、下記する効果を奏する。
(6)前記デッキプレート2を、前記受け部材1の取り付け位置にかかわらず設置できるので、柔軟な構造設計が可能となる。
(7)前記デッキプレート2や打設コンクリート5に対する支持耐力を高めることができる。また、コンクリート5を打設する場合は、コンクリート漏れを未然に防止することができる。
【実施例3】
【0032】
図15~
図18は、実施例3に係る木造建物の床組構造を示している。
この実施例3に係る木造建物の床組構造は、上記実施例1、2と比し、受け部材1のウエブ部12と前記木製横架材3との間に面材10を介在させた構成で実施している点が相違する。その他の構成は上記実施例1、2と同様なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
具体的に、前記受け部材1の上フランジ部11は、前記木製横架材3の短手方向に若干長く形成され、そのウエブ部12と前記木製横架材3(の側面)との間に、面材10を挟んだ状態で当該上フランジ部11が木製横架材3の上面に載る構成で実施されている。
ちなみに、
図15は、実施例1に係る
図6の構成に前記面材10を介在させた場合の実施例であり、
図16は、同
図7の構成に前記面材10を介在させた場合の実施例であり、
図17は、上記実施例2に係る
図13の構成に前記面材10を介在させた場合の実施例であり、
図18は、同
図14の構成に前記面材10を介在させた場合の実施例である。もっとも、実施例1、2では前記木製横架材3の側面に切欠き凹部3bを形成しているが、実施例3では前記面材10の納まりを考慮し、前記切欠き凹部3bを形成していない(例えば、
図6と
図15とを対比して参照)。
【0033】
前記面材10は、耐火や吸音目的のために介在させるものであり、本実施例では、2枚で実施しているが構造設計に応じて適宜増減可能である。図示例のように、前記面材10を挟んだ状態で前記受け部材1の上フランジ部11が木製横架材3の上面に載せられて、耐火設計では木製横架材3の側面と下面を耐火材の面材10で保護することができる。また、床組と木製横架材3の接触面が減ることで、隣接する部屋への床上衝撃音の伝達を低減することができる。さらに吸音板の面材10の挿入や界壁を梁上面まで伸ばすことで遮音性を一層向上させることができる。
なお、前記上フランジ部11の貫通孔11aを前記木製横架材3の短手方向(
図15~
図18の横方向)に長いルーズ孔に形成することにより(図示略)、面材10を介在させない場合でも実施可能とするような工夫は適宜行われるところである。
【0034】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために申し添える。
【符号の説明】
【0035】
1 受け部材
11 上フランジ部
11a 貫通孔
12 ウエブ部
13 下フランジ部
13a 貫通孔
2 デッキプレート(合成スラブ用デッキプレート)
21 山部
22 谷部
22a 貫通孔
23 傾斜部
3 木製横架材(木製大梁)
3a 切欠き凹部
3b 切欠き凹部
4 ベース部材
4a 貫通孔
5 コンクリート
6 固定具(ビス)
7 固定具(ボルト)
8 ナット
9 床部材
10 面材
B 受け部材の横幅