(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】デッキプレート
(51)【国際特許分類】
E04B 5/40 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
E04B5/40 G
(21)【出願番号】P 2020054829
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】関 勝輝
(72)【発明者】
【氏名】島田 稜子
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-016537(JP,U)
【文献】特開平09-125581(JP,A)
【文献】特開昭48-002928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の面部とリブとが幅方向において交互に連続して形成されたデッキプレートであって、
前記面部は、平坦部と、該平坦部の一面側から長手方向に沿って突出して形成される突条部と、前記平坦部の一面側から幅方向に沿って突出して形成され、前記
突条部の延設方向と略直交の方向に形成されている複数の膨出部とを有し、
前記膨出部は、前記突条部が突出する方向とは反対側の前記平坦部の面から突出していることを特徴とするデッキプレート。
【請求項2】
前記膨出部は、前記長手方向において間隔をあけて複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載のデッキプレート。
【請求項3】
前記膨出部は、前記突条部の突出高さと略同等の突出高さを有していることを特徴とする請求項1または2に記載のデッキプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造床等に用いるデッキプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の床や天井等を構成するコンクリート製スラブを施工する建設現場において、コンクリート構造部の型枠としてフラット型のデッキプレートが使用されている。デッキプレートは、梁間に架け渡されるように設置されており、デッキプレートの両端部が梁の上面に固定されている。このようなデッキプレートの構造としては、例えば、一方向に配列される複数のリブ間に平板状のスラブ支持部が設けられ、このスラブ支持部には曲げ剛性を高めるために突条の台形リブが長手方向に沿って複数形成された構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
またこのようなデッキプレートにおいては、重量を大幅に増加させることなく断面性能を向上させるために平板状の部分に突条部が設けられた形状のものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように補剛リブともみなせる突条部が設けられることによりデッキプレートの長手方向に対する断面性能は向上するが、デッキプレートの幅方向においては平板状の部分の撓みが生じてしまうという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、デッキプレートの長手方向に対する断面性能を向上させながら、幅方向における撓みを抑制することができるデッキプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る態様は、平板状の面部とリブとが幅方向において交互に連続して形成されたデッキプレートであって、前記面部は、平坦部と、該平坦部の一面側から長手方向に沿って突出して形成される突条部と、前記平坦部の一面側から幅方向に沿って突出して形成される複数の膨出部とを有する。
【0008】
また、前記膨出部は、前記長手方向において間隔をあけて複数形成されていることが好ましい。
【0009】
また、前記膨出部は、前記突条部の延設方向と略垂直の方向に延設されていることが好ましい。
【0010】
また、前記膨出部は、前記突条部が突出する方向とは反対側の前記平坦部の面から突出していることが好ましい。
【0011】
また、前記膨出部は、前記突条部の突出高さと略同等の突出高さを有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る態様によれば、デッキプレートの長手方向に対する断面性能を向上させながら、幅方向における撓みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係るデッキプレートの構成を表す斜視図である。
【
図2】(a)
図1に示したデッキプレートに他のデッキプレートを載置させる状態を表す断面図であり、(b)従来のデッキプレートに他のデッキプレートを載置させる状態を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施の形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の形態をとり得る。
【0015】
<デッキプレートの構成>
図1及び
図2を用いて、本実施の形態に係るデッキプレートの構成について説明する。デッキプレート1は、建築構造物の床構造物(または天井構造物)を構築する際に打設されるコンクリートの型枠として使用される。デッキプレート1は、例えば、複数の梁間に掛け渡されるように設置される。
【0016】
デッキプレート1は、亜鉛メッキ等のメッキ処理が施された薄板状の鋼板や、表面処理を施していない黒かわ材等で形成されている。デッキプレート1は、例えば、平板状の鋼板をロール成形機によってロール成形することにより製造される。デッキプレート1は、ロール成形機によって複数の箇所で曲げ加工が施される。ここで、デッキプレート1の板厚は、0.5~2.3mmであることが好ましい。本実施の形態では、デッキプレート1の板厚を0.8mmとしている。
図1及び
図2に示すように、デッキプレート1は、リブ10と、面部20と、エンドクローズ部30とを有する。
【0017】
(リブ)
リブ10は、鋼板が曲げ加工されることによって形成されており、面部20の一方の面側(下方)に突出するように形成されている。
図2に示すように、リブ10は、鋼板の一方の面側(下方)に折り曲げられた湾曲部11と、湾曲部11に連続し、面方向が面部20に直交する方向に延在する直線部12と、直線部12に連続し、複数回にわたって湾曲されて折り返された折返部13と、折返部13に連続し、面方向が直線部12に沿うように延在する直線部14と、直線部14に連続し、面部20に向かって折り曲げられた湾曲部15とを有している。
湾曲部11と湾曲部15は、その曲げ半径Rが6mm程度となるように形成されている。このような構成とすることにより、ロール成形による曲げ加工が比較的容易で、湾曲部11,15との間に形成される窪みが必要以上に大きくなることによってコンクリートの無駄が発生することを防止することができる。
直線部12と直線部14は、互いの面同士が当接するように形成され、例えばカシメ加工等によって連結されている効果が向上している。これによって、直線部12と直線部14とが離れ難いようになっている。
折返部13は、断面視略三角形状に形成されており、直線部12と直線部14とが当接するよう、始点と終点が隣接するように折り返されている。
【0018】
上記一端側のリブ10において、湾曲部11と湾曲部15は、その曲げ半径Rが6mm程度となるように形成されている。これは、ロール成形による曲げ加工が比較的容易で、湾曲部11,15との間に形成される窪みが必要以上に大きくなることによってコンクリートの無駄が発生することを防止するためである。
直線部12と直線部14は、互いの面同士が当接するように形成され、カシメ加工等によって連結されている。これによって、直線部12と直線部14とが離れないようになっている。
折返部13は、断面視略三角形状に形成されており、直線部12と直線部14とが当接するよう、始点と終点が隣接するように折り返されている。
【0019】
(面部)
面部20は、デッキプレート1において、主に、リブ10が形成されていない部分であり、打設されるコンクリートの荷重を受ける部分である。面部20は、リブ10を介して、デッキプレート1の幅方向W(以下、単に「幅方向W」という)において複数配置されている。すなわち、リブ10と面部20はデッキプレート1の幅方向Wにおいて交互に形成されている。各面部20は、略矩形状に形成され、同一平面上に配置されている。
【0020】
また、面部20は、デッキプレート1の長手方向L(以下、単に「長手方向L」という)に沿って複数形成される突条部21を有している。突条部21は、鋼板が曲げ加工されることによって形成されている。突条部21は、面部20において、リブ10が形成される側(下方)に向けて突出するように形成されている。突条部21はリブ10が形成される側と反対側(上方)に向けて突出されても良い。
図2に示すように、これにより、面部20は、突条部21と、平坦部22とが交互に形成されることにより構成されている。
突条部21は、複数のリブ10間に位置する面部20において3つ形成されている。突条部21が形成される数は1つの面部に対して3つに限られない。
【0021】
また、面部20は、平坦部22上に幅方向Wに沿って複数形成される膨出部23を有している。
図1に示すように膨出部23は、長手方向Lにおいて間隔をあけて形成されている。また膨出部23は、幅方向において長手方向Lに沿って形成される突条部21によって分断されている。本実施の形態におけるデッキプレート1においては、膨出部23が形成された後に突条部21が形成されるように加工されている。このため、突条部21が形成される際に膨出部23の一部が押しつぶされ、膨出部23が幅方向において分断されている。しかし、このような構成に限定されず、突条部21の領域に膨出部23が形成されている構成にも適用される。
【0022】
膨出部23は、突条部21の延在方向(長手方向L)と略垂直の方向(幅方向W)に沿って形成されている。このように、突条部21と略直交するように形成されることによりデッキプレートの幅方向Wに対する断面性能を向上させることができる。
また膨出部23は、平坦部22の一方の面側(上方)すなわち突条部21の突出側(下方)と反対側に向けて突出するように形成されている。膨出部23がない構成の場合、下方に突出する突条部21が形成されることによりデッキプレートの中立軸位置がリブ10側に寄ってしまうが、このように膨出部23が突条部21の突出側と反対側に向けて突出することにより中立軸位置のバランスが良好なデッキプレートを実現することができる。膨出部23は突条部21の突出側(下方)に向けて突出されてもよい。
また膨出部23は、突条部21の突出高さと略同等の突出高さを有している。後述するように、デッキプレート1の端部に他のデッキプレート100が載置される際に、他のデッキプレート100の突条部121がデッキプレート1の面部20(平坦部22)上に当接すると他のデッキプレート100の先端側においてデッキプレート1上に載置されない浮き上がりが生じてしまう。膨出部23が突条部21の突出高さと略同等の突出高さを有することにより、デッキプレート100の先端側が膨出部23に当接するので上記のような浮き上がりを抑制することができる。膨出部23の高さは、突条部21の突出高さより高くても低くてもよい。
【0023】
(エンドクローズ部)
図1に示すように、エンドクローズ部30は、デッキプレート1の長手方向Lにおける両端部に形成されている。エンドクローズ部30は、リブ10の両端部がデッキプレート1の面に対して直角に潰されることによって形成されている。これにより、リブ10は、両端部のエンドクローズ部30が押し潰された断面に形成されており、エンドクローズ部30に挟まれた他の部分は断面視略三角形状に形成されている。このような構成により、リブ10の両端部は、平坦状に形成されているので、梁のフランジ部上面に載置可能となる。エンドクローズ部30は、リブ10の延在方向に沿った長さが梁のフランジ部上面に載置される長さよりも長くなるように形成されている。
【0024】
図2を用いて、本実施の形態に係るデッキプレートの施工例について説明する。以下では、デッキプレート1の端部に他のデッキプレート100を載置する施工例について説明する。
図2に示すように、他のデッキプレート100は、複数のリブ110間に設けられる面部120のうち幅方向Wにおける一端側の面部120において下方に向けて突条部121が形成されるとともに、面部120の端部(突条部21よりも端縁側)において平坦状の載置部122に形成されている。なおデッキプレート1の膨出部23の突出高さは他のデッキプレート100の突条部121の突出高さと略同等に設定されている。
【0025】
図2(a)に示すように、デッキプレート1の一端側に位置する面部20の上方に他のデッキプレート100の一端側の面部120が配置され、他のデッキプレート100の突条部121がデッキプレート1の面部20と当接する。このとき、他のデッキプレート100の先端側に位置する載置部122がデッキプレート1の膨出部23と当接する。このようにデッキプレート1の膨出部23の突出高さが他のデッキプレート100の突条部121の突出高さと略同等に設定されているので、デッキプレート1と他のデッキプレート100の端部同士が略平行に保たれた状態で、他のデッキプレート100の突条部121がデッキプレート1の面部20と当接するとともに、他のデッキプレート100の載置部122がデッキプレート1の膨出部23と当接する。
【0026】
一方、
図2(b)に示すように、膨出部が形成されていないデッキプレート1Aに他のデッキプレート100を載置させる場合には、デッキプレート1Aの一端側に位置する面部20A(複数のリブ10A間に設けられる面部20Aのうち幅方向Wにおける一端側の面部20A)の上方に他のデッキプレート100の一端側の面部120が配置され、他のデッキプレート100の突条部121がデッキプレート1の面部20Aと当接する。このとき、他のデッキプレート100の先端側に位置する載置部122がデッキプレート1Aの面部20Aと当接せずに浮き上がった状態となる。
【0027】
このように、膨出部が形成されていないデッキプレート1Aに他のデッキプレート100を載置させる場合には、他のデッキプレート100の先端側の載置部に浮き上がりが発生しデッキプレート同士が安定的に接合されない状況を避けるためには、他のデッキプレート100の突条部121がデッキプレート1Aに掛からないように、他のデッキプレート100の載置部122の平板部だけを載置させる必要があり、デッキプレート幅方向の納まり範囲に制約が生じてしまう。一方、デッキプレート1が膨出部23を有することにより、他のデッキプレート100の突条部121がデッキプレート1の面部20に当接するとともに他のデッキプレート100の載置部122がデッキプレート1の膨出部23に当接した状態で、他のデッキプレート100の端部がデッキプレート1上に載置される。これによりデッキプレート同士の接合部において上記のような浮き上がりが発生しないので、安定的な接合状態が得られ、膨出部23がない構成と比較してデッキプレート幅方向の納まり範囲に制約がなくなる。
【0028】
なお本実施の形態では、デッキプレート1の膨出部23の突出高さが他のデッキプレート100の突条部121の突出高さと略同等に設定されている構成を例示したが本発明はこれに限られるものではない。膨出部23の高さが突条部121の突出高さよりも低く設定されているなど、膨出部23の突出高さが突条部121の突出高さと異なる構成にも適用することができる。
【0029】
<デッキプレートの断面性能の評価>
以下、本実施の形態に係るデッキプレートの断面性能の評価について説明する。以下では、膨出部を有するデッキプレートの断面性能と、膨出部を有しないデッキプレートの断面性能とを比較した評価例について説明する。
【0030】
まず膨出部を有するデッキプレートの構成について説明する。デッキプレートには、厚みが0.8mmのデッキプレートに高さが1mm、全長150mm(幅方向Wにおける長さ)、奥行きが15mm(長手方向Lにおける長さ)を有する膨出部が形成されている。なお、膨出部は突条部により一部が分断されているが、ここでいう全長は1つの面部における膨出部が分断されていないと仮定した場合の両端間の長さに相当する。また上記膨出部は、長手方向Lにおいて50mmの間隔(ピッチ)をあけて形成されている。
一方、比較対象となるデッキプレートは、上記デッキプレートと同寸法であるが膨出部を有しない構成である。
【0031】
上記構成からなるデッキプレートについて、断面性能として、断面係数、断面二次モーメント及び等分布荷重載荷後変位について評価を行った。評価は、汎用の構造解析ソフトウェア(midas)を用い、デッキプレートが等分布荷重を受けた際の平板部(面部)の撓みを解析することにより行った。なお付与される等分布荷重は、スラブ厚150mm程度の荷重(5000N/m2)とした。上記評価の結果を表1に示す。
【0032】
【0033】
表1に示すように、膨出部のないデッキプレートにおける撓み(リブ頂点と平板中央との変位差)は、膨出部を有するデッキプレートにおける撓み(リブ頂点と平板中央との変位差)よりも約1.8倍大きくなるという結果が得られた。このように膨出部を有するデッキプレートを適用することにより、デッキプレートの幅方向Wにおける撓みが大幅に抑制されるという結果が得られた。
【0034】
上記実施の形態に係るデッキプレートによれば、平板状の面部とリブとが幅方向において交互に連続して形成された構成において、面部は、平坦部と、該平坦部の一面側から長手方向に沿って突出して形成される突条部と、平坦部の一面側から幅方向に沿って突出して形成される複数の膨出部とを有している。このような構成を有することにより、突条部の形成によりデッキプレートの長手方向に対する断面性能を向上させながら、膨出部の形成により幅方向における撓みを抑制することができる。
【0035】
本発明は、上記実施の形態に係る構成に限定されるものではない。上記実施の形態において説明した膨出部の構成は例示であり、膨出部の形状や、配置、寸法等はデッキプレートの大きさ等によって適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…デッキプレート、10…リブ、20…面部、21…突条部、22…平坦部、23…膨出部