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特許7457567電気化学式センサの製造方法、及び電気化学式センサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】電気化学式センサの製造方法、及び電気化学式センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20240321BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
G01N27/327 353Z
G01N27/416 338
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020081128
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175948
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-02-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義治
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-232102(JP,A)
【文献】特開2015-114153(JP,A)
【文献】特開2003-014684(JP,A)
【文献】特表2006-512585(JP,A)
【文献】特開2014-215150(JP,A)
【文献】特開2009-019935(JP,A)
【文献】特開昭60-231302(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0137437(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327,27/416,
G01N 33/483,
C12Q 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板上に、多孔質の導電性材料からなる電極を形成する電極形成工程と、
前記電極上の被膜領域を溶液状の非導電性を有するレジストにより被膜し、前記多孔質の連通孔に前記レジストを浸透させることで前記電極の抵抗値を調整するレジスト形成工程と、を含み、
前記被膜領域の異なる複数のレジスト印刷パターンが用意されており、
前記レジスト形成工程において、前記複数のレジスト印刷パターンの中から選択された一つのレジスト印刷パターンに対応する前記被膜領域をレジストにより被膜する、
電気化学式センサの製造方法。
【請求項2】
前記レジスト形成工程において前記レジストにより被膜される前記電極上の領域たる前記被膜領域を決定する工程をさらに含む
請求項1に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項3】
前記電極上を前記レジストで被膜するか否かを調整可能な調整領域が設定されており、
前記被膜領域の形成において前記レジストで被膜される前記調整領域の範囲が前記複数のレジスト印刷パターン間で異なっている、
請求項1に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項4】
前記電極は、測定部と前記測定部に接続されたリード部とを備え、前記被膜領域は前記リード部上に規定される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項5】
前記電極の抵抗値に対応する指標情報に基づいて決定された前記被膜領域を、前記レジスト形成工程において前記レジストにより被膜する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項6】
前記電極の抵抗値の目標値となる目標抵抗値と、前記目標抵抗値とするための被膜領域である標準被膜領域が予め設定されており、
前記指標情報は、前記目標抵抗値に対する前記電極の抵抗値の高低を示す情報であって、前記目標抵抗値より前記電極の抵抗値が高い場合、前記被膜領域を前記標準被膜領域よ
り小さくし、前記目標抵抗値に対して前記電極の抵抗値が低い場合、前記被膜領域を前記標準被膜領域より大きくする、請求項5に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項7】
前記指標情報は、前記電極と同一の材料及び同一の製造条件によって形成され、所定パターンの被膜領域が前記レジストにより被膜されたテスト用センサの電極の抵抗値の実測値に対応する情報である、
請求項5または6に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項8】
前記電極の抵抗値の目標値となる目標抵抗値が予め設定されており、
前記テスト用センサの電極の抵抗値の実測値と、前記目標抵抗値との差分に基づいて決定された前記被膜領域を、前記レジスト形成工程において前記レジストにより被膜する、請求項7に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項9】
前記テスト用センサの電極の抵抗値の実測値は、前記所定パターンの被膜領域を含む規定区間の抵抗値である、
請求項7または8に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項10】
前記多孔質の導電性材料は、カーボンである
請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項11】
前記レジストは、アクリル樹脂を含む
請求項1から10のいずれか一項に記載の電気化学式センサの製造方法。
【請求項12】
前記電極に、液状の試料に溶解する試薬を設けない
請求項1から11のいずれか一項に記載の電気化学式センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学式センサの製造方法、及び電気化学式センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘマトクリット電極とグルコース電極とを有し、ヘマトクリット電極を用いたインピーダンス法により検出されたヘマトクリット値を用いて、グルコース電極を用いて検出したグルコースの値を補正するための分析用具がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、検体測定時に、電極と同じ材料を用いて形成された抵抗値把持部の抵抗値を測定し、その抵抗値に基づいて測定値を補正する分析装置がある(例えば、特許文献2)。また、導電線上に抵抗体を変更可能に設置できるバイオセンサがある(例えば、特許文献3)。また、製造時に、フラッシュランプを用いて卑金属電極を加熱し、成形によるひずみを除去することによって抵抗値を下げる技術がある(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-232102公報
【文献】特開2014-114153公報
【文献】特許第4623870号公報
【文献】特開2014-222209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の分析用具を用いた、インピーダンス法を用いたヘマトクリット測定は、ヘマトクリット電極そのものの抵抗値の変動の影響によって、測定結果の正確性を欠く場合があった。すなわち、測定項目の測定に試薬を用いない場合の測定は、試薬を用いる場合の測定よりも測定感度が低下し、電極そのものの抵抗値の変動の影響を大きく受ける。そのため、抵抗値の目標として想定した目標抵抗値から実際に形成された電極の抵抗値との差分が小さかったとしても、正確な測定結果(ヘマトクリット値)からずれが生じてしまう。特許文献1に記載のように電極がスクリーン印刷によって形成されるカーボン電極である場合、カーボン電極の抵抗値は、印刷条件、乾燥条件、原材料ロットの変動によって変動するため、目標抵抗値からの差分が生じやすい。従来、抵抗値の変動を調整するために、印刷の厚みの増減、或いは乾燥温度の増減などが行われる。
【0006】
ところが、印刷条件や乾燥条件を変更すると、分析用具の形状にばらつきが生じやすくなり、性能や品質に影響が生じる虞があった。例えば、印刷面積の変更や印刷量の変更などの印刷条件を変更すると、電極面積を一定にすることが困難になったり、電極表面の粗さが変動しやすくなったりする。このような変動によって、ヘマトクリット電極以外の試薬が分注されるグルコース電極において、反応試薬の分注面積が変動し、測定性能に影響が及ぶ虞があった。また、乾燥条件の変更、例えば、乾燥温度の変更によって電極を支持する絶縁性基板の変形が生じる虞があった。
【0007】
印刷条件又は乾燥条件の変更によって抵抗値を調整する代わりに、特許文献2に記載の技術を適用し、抵抗値を演算補正することが考えられる。しかし、別に抵抗値把持部を準備するだけではなく、測定時に抵抗値把持部の抵抗値を測定する手段が必要であるため、製造コストが高くなると共に、測定時間も余分に必要になる。また、特許文献3に記載の技術に関しては、センサの製造コストが高く、且つ操作性が非常に悪いため、その適用を
考えることができない。さらに、特許文献4に記載の技術では、卑金属電極自体の抵抗値は考慮されないため、電極の抵抗値の変動に伴う問題に対応できない。
【0008】
本発明は、電極を形成する導電性材料の抵抗値に変動があったとしても、形成される電極の抵抗値の変動を抑えることのできる電気化学式センサの製造方法、及び電気化学式センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施例の一つは、多孔質の導電性材料からなる電極を形成する電極形成工程と、電極上の被膜領域を溶液状の非導電性(絶縁性)を有するレジストにより被膜し、多孔質の連通孔にレジストを浸透させることで電極の抵抗値を調整するレジスト形成工程と、を含む電気化学式センサの製造方法である。
【0010】
また、本発明の実施例の一つは、電気化学式センサの製造方法によって製造される電気化学式センサである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極を形成する導電性材料の抵抗値に変動があったとしても、形成される電気化学式センサの電極の抵抗値を調整することができるため、測定項目を正確に測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A及び1Bは、実施形態に係る製造方法によって製造されるバイオセンサの一例を説明する図である。
図2図2は測定装置の一例である血糖値計の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、測定装置の動作例を示すフローチャートである。
図4図4は、電極パターン及びレジストを印刷した絶縁性基板シートの一例を示す。
図5図5A及び5Bは、絶縁性基板シートに印刷された第1の印刷パターン及び第2の印刷パターンの夫々を示す。
図6図6A及び6Bは、2つのパターンにおける、ヘマトクリット電極の測定部の位置とリード部の位置との間の抵抗値の測定結果を示すグラフ及び表である。
図7図7は、電気化学式センサの製造方法を示すフローチャートである。
図8図8A、8B及び8Cは、ヘマトクリット値の真値と抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る電気化学式センサの製造方法は、以下を含む。
(1)絶縁性基板上に、多孔質の導電性材料を用いて電極を形成する電極形成工程。
(2)電極上の被膜領域を溶液状の非導電性のレジストにより被膜し、多孔質の連通孔にレジストを浸透させることで電極の抵抗値を調整するレジスト形成工程。
【0014】
上記工程は、本願発明者の以下の知見により導出されたものである。絶縁性基板上に、多孔質の導電性材料からなる電極は、長さがL[m]で、断面積S[m]の導体と考えることができる。この導体の抵抗値Rは、以下の式により表される。
R=ρL/S
ここに、ρは導体の抵抗率[Ω・m]である。
【0015】
電極の長さL及び断面積Sは、多孔質の導電性材料(例えばカーボンインク)のスクリーン印刷によって一定の値となる。このため、電極の抵抗値Rは、多孔質の導電性材料の
抵抗率ρに依存する。よって、抵抗率ρを一定にすれば、電極の抵抗値Rが一定となるため、電極を用いて測定する測定項目を安定的に測定可能となる。
【0016】
抵抗率ρを変動させて電極の抵抗値を調整する(または制御する、所定の範囲に収める、一定にする)ための方法が、電極上を被膜する被膜領域の変更である。原理的には、以下の方法を用いる。電極の材料であるカーボンのような導電性材料は多孔質であり、導電性材料上に溶液状の非導電性材料のレジストによって被膜(レジスト印刷)を行うと、導電性材料の多孔質の連通孔の中にレジストが入り込む。その結果、電極中のレジストを含んだ部分は非導電性材料で構成されるため、電極の抵抗率が導電性材料の抵抗率より高くなる。この原理を利用し、電極上のレジスト印刷面積の変更によって、電極の抵抗率を変動させ、結果的に電極の抵抗値を調整することができる。なお、レジストを導電性材料の連通孔に入り込ませるために、製造時には導電性材料が固まりきるよりも前にレジスト印刷することが好ましい。
【0017】
電気化学式センサの製造方法では、指標情報に基づいて被膜領域を決定することが好ましい。指標情報は、電極の抵抗値を直接に示す情報であっても、間接的に示す情報であってもよい。抵抗値を直接に示す情報は、例えば、製造しようとする電気化学式センサと異なる電気化学式センサの電極の抵抗値(実測値)である。異なる電気化学式センサは、実製品の電気化学式センサ(実センサ)でも、テスト用に製造された電気化学式センサ(テスト用センサ)であってもよい。すなわち、実センサの電極の抵抗値を測定してもよく、テスト用センサが具備するテスト用電極の抵抗値(実測値)を測定してもよい。テスト用電極は、電気化学式センサと同一の材料及び同一の製造条件を用いて形成され、所定パターンの被覆領域が前記レジストにより被膜された電極である。同一の材料とは、材料が同じだけではなく、同じ製造過程で同時に製造された材料を指し、同一の製造条件とは同一の製造設備、略同一の温度、湿度等の外部環境で製造されることを指し、好ましくは、同一の製造設備で、1時間以内のように測定日時に差がない条件である。
【0018】
抵抗値を間接的に示す情報は、例えば、実際の電気化学式センサの定期的な測定とともに記録され得る情報であり、例えば、抵抗値の測定時における外部環境を示す情報を含む。外部環境を示す情報は、例えば、季節、湿度、気温、風量、気圧などである。また、抵抗値を間接的に示す情報は、電気化学式センサの製造設備(レジスト被膜装置や乾燥装置など)の品質、すなわち製造設備の使用時間、損耗又は劣化の程度を示す情報、電極の多孔質の連通孔の密度や数などを含み得る。また、抵抗値を間接的に示す情報は、前記電極と同一の材料及び同一の製造条件によって形成された電気化学式センサの数量を示す情報などを含み得る。これらの情報は、経験的に抵抗値を推定する情報として利用できる。指標情報をなす情報項目の数は一つでも複数でもよい。抵抗値を間接的に示す情報を用いる場合、複数の情報項目を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0019】
電気化学式センサの製造方法は、レジスト形成工程においてレジストにより被膜される電極上の領域たる被膜領域を決定する工程をさらに含んでもよい。レジスト形成工程では、決定された被膜領域がレジストにより被膜される。電気化学式センサの製造方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、被膜領域の異なる複数のレジスト印刷パターンが用意されており、レジスト形成工程において、複数のレジスト印刷パターンの中から選択された一つのレジスト印刷パターンに対応する被膜領域をレジストにより被膜する。
【0020】
電気化学式センサの製造方法は、以下の構成を採用するのが好ましい。すなわち、電極上に複数の調整領域が設定されており、複数の調整領域の中から被膜領域が選択され、複数のレジスト印刷パターン間において、調整領域の数が異なる。
【0021】
電気化学式センサの製造方法は、以下の構成を採用するのが好ましい。すなわち、被膜
領域の面積と電極の抵抗値とは、被膜領域の面積が大きくなる程、電極の抵抗値が増加する関係を有し、被膜領域の面積が異なる複数のレジスト印刷パターンの中から、調整によって電極の抵抗値を増加又は減少させる量に応じたレジスト印刷パターンを、被膜領域決定工程において選択する。
【0022】
また、電気化学式センサの製造方法は、以下の構成を採用するのが好ましい。すなわち、電極は、測定部と測定部と接続されたリード部とを備え、被膜領域はリード部上に規定される。
【0023】
また、電気化学式センサの製造方法は、以下の構成を採用するのが好ましい。すなわち、レジスト形成工程において、電極の抵抗値に対応する指標情報に基づいて、被膜領域をレジストにより被膜する。
【0024】
また、電気化学式センサの製造方法は、以下の構成を採用するのが好ましい。すなわち、電極の抵抗値の目標値となる目標抵抗値と、電極の抵抗値を目標抵抗値とするための被膜領域である標準被膜領域が予め決定されている目標抵抗値が設定されており、指標情報は、目標抵抗値に対する電極の抵抗値の高低を示す情報であって、目標抵抗値より電極の抵抗値が高い場合、被膜領域を標準被膜領域より小さくし、目標抵抗値より電極の抵抗値が低い場合、被膜領域を標準被膜領域より大きくする。
【0025】
また、電気化学式センサの製造方法は、以下の構成を採用するのが好ましい。被膜領域決定工程において、テスト用センサの電極の抵抗値の実測値と、標準被膜領域が予め設定されている目標抵抗値との差分に基づき、被膜領域を決定する。テスト用センサの電極の抵抗値は、例えば、所定パターンの被膜領域を含む規定区間の抵抗値である。
【0026】
多孔質の導電性材料は、例えば、カーボンであるが、カーボン以外でもよい。レジストは、非導電性であり、例えばアクリルモノマー(アクリル樹脂)である、アクリルモノマーは、UV硬化型レジストインクに用いるアクリル樹脂材料であり、「非導電性材料」の一例である。
【0027】
また、電気化学式センサの製造方法は、液状の試料に溶解する試薬を電極に設けない(試薬を電極に設ける工程を含まない)構成を採用することができる。但し、電極には試薬が設けられていてもよい。試薬の有無は、例えば、電極を用いた測定項目に依存する。試薬を用いない測定項目は、例えばヘマトクリット値であるが、ヘマトクリット値以外であってもよい。
【0028】
<実施形態>
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成に限定されない。以下の説明では、検体の分析用具の一例である電気化学式センサ及びその製造方法について説明する。検体(「試料」ともいう)は、生体試料、生体試料以外の疑似検体(コントロール液等)を含む。試料は液体の試料を含む。生体試料は、例えば、血液、間質液、尿などである。また、試料中の測定対象成分(測定項目)は、生体内で生成される物質であっても、摂取によって生体内に取り込まれる物質であってもよい。
【0029】
測定対象成分は、グルコース(血糖)、ラクテート(乳酸)、コレステロール、ヘマトクリットなどを含む。さらに、測定対象成分は、アルコール、ザルコシン、フルクトシルアミン、ピルビン酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、アスコルビン酸を含み得る。
【0030】
測定対象成分の種類によっては、検知層を設ける場合がある。検知層は測定対象成分と
反応する成分を含む。測定対象成分と反応する成分は、例えば、酵素や酸化還元物質を含む。酵素は、試料の種類や測定対象成分に依存するが、例えばグルコースオキシダーゼ(GOD)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)などを含む。但し、酵素はこれらに限定されない。酵素以外の測定対象成分と反応する成分、例えば酸化還元物質は、例えば金属錯体等である。
【0031】
〔電気化学式センサの構成〕
本実施形態では、電気化学式センサの一例として、試料としての血液または間質液中の測定対象成分としてヘマトクリット値及びグルコース値を測定可能なバイオセンサを例示する。図1A及び1Bは、実施形態に係る製造方法によって製造される電気化学式センサの一例を説明する図である。電気化学式センサ10は、図1に示すように、帯状の絶縁性基板1と、絶縁性基板1の上に形成された、試料のヘマトクリット測定用の電極であるヘマトクリット電極4と、試料中のグルコース測定用の電極であるグルコース電極5とを含む。
【0032】
絶縁性基板1の材料は、例えば合成樹脂(プラスチック)を含む。プラスチックは、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ガラスエポキシのような各種の樹脂を適用できる。基板1の材料に合成樹脂以外の絶縁性材料を適用してもよい。合成樹脂以外の絶縁性材料は、例えば、紙、ガラス、セラミック、生分解性材料などを含む。
【0033】
ヘマトクリット電極4は、電極4A及び電極4Bからなる電極対である。電極4Aは、測定部4a1と測定部4a1に接続されたリード部4a2とを含む。測定部4a1は、絶縁性基板1の一端部に配置され、絶縁性基板1の短手方向(Y方向)に延びている。リード部4a2は、絶縁性基板1の一端部から他端部に亘って、絶縁性基板1の長手方向(X方向)に延びており、測定部4a1と接続された一端と、絶縁性基板1の他端部に配置された他端とを有する。電極4Bは、測定部4b1と測定部4b1に接続されたリード部4b2とを含む。測定部4b1は、測定部4a1の近傍に配置され、絶縁性基板1の短手方向に延びている。リード部4b2は、絶縁性基板1の一端部から他端部に亘って絶縁性基板1の長手方向に延びており、測定部4b1と接続された一端と、絶縁性基板1の他端部に配置された他端とを有する。測定部4a1及び4b1のそれぞれは「測定部」の一例である。
【0034】
グルコース電極5は、電極5A及び電極5Bからなる一対の電極対である。電極5Aは、グルコース測定部5a1及びリード部5a2を含む。グルコース測定部5a1は絶縁性基板1の一端部に配置され、絶縁性基板1の短手方向(Y方向)に延びている。リード部5a2は、絶縁性基板1の一端部から他端部に亘って絶縁性基板1の長手方向(X方向)に延び、グルコース測定部5a1と接続された一端と、絶縁性基板1の他端部に配置された他端とを有する。電極5Bは、グルコース測定部5b1及びリード部5b2を含む。グルコース測定部5b1はグルコース測定部5a1の近傍に配置されている。リード部5b2は、絶縁性基板1の一端部から他端部に亘って絶縁性基板1の長手方向(X方向)に延び、グルコース測定部5b1と接続された一端と、絶縁性基板1の他端部に配置された他端とを有する。
【0035】
ヘマトクリット電極4及びグルコース電極5の夫々は、カーボン製の電極(カーボン電極)であり、カーボンインクをスクリーン印刷によって絶縁性基板1上に印刷することによって形成される。カーボンは多孔質の導電性材料の一例である。但し、多孔質の導電性材料はカーボン以外であってもよい。つまり、導電性材料の表面に多数の多孔質の連通孔
が形成されており、この連通孔の中に後述のレジストが浸透するようなものであり、電流を流して電極を形成可能な材料であればどのような導電性材料であってもよい。また、ヘマトクリット電極4のみが多孔質の導電性材料であってもよい。
【0036】
ヘマトクリット電極4及びグルコース電極5が印刷された絶縁性基板1には、スクリーン印刷レジスト(単にレジストという)2が、レジストインクの印刷又は塗布によって形成される。レジストインクは、非導電性材料であり、乾燥等によって電極上に固定できるようなものであればどのような材料であってもよく、非導電性材料の溶剤が好ましく、樹脂がさらに好ましい。本実施形態では、一例として、UV硬化型レジストインクが用いられている。
【0037】
レジスト2は、電極の抵抗値を調整するために、ヘマトクリット電極4上の被膜領域を被膜するように形成されている。本発明においてレジストによる被膜とは、電極の表面に形成されている多孔質の連通孔に、溶液状のレジストを浸透するように被膜することを指す。図1に示す例では、レジスト2は、絶縁性基板1の一端部から中間部に亘って矩形状に設けられる。但し、絶縁性基板1の一端部に矩形の切り欠き部2aが形成される。切り欠き部2aにおいて、絶縁性基板1の測定部4a1、測定部4b1、グルコース測定部5a1及びグルコース測定部5b1の夫々の中央部が露出する。切り欠き部2aは、カバー3の取り付けによって、流入口7aを有する、試料の流路7となる。
【0038】
流路7において露出した測定部4a1及び4b1の一方は、ヘマトクリット電極4の作用極として使用され、他方はヘマトクリット電極4の対極として使用される。本実施形態では、測定部4b1が作用極として使用され、測定部4a1が対極として使用されるが、後述する測定装置と、リード部4a2およびリード部4b2との電気的な接続方法によって決定される。また、流路7において露出したグルコース測定部5a1及び5b1の一方は、グルコース電極5の作用極として使用され、他方はグルコース電極5の対極として使用される。本実施形態では、グルコース測定部5a1が作用極として使用され、グルコース測定部5b1が対極として使用されるが、後述する測定装置と、リード部5a2およびリード部5b2との電気的な接続方法によって決定される。
【0039】
また、本実施形態のヘマトクリット電極4の測定部4a1及び4b1には試薬を含め、何も設けられていない。ただし、試料中の測定対象成分以外の成分と反応し、ヘマトクリット値のような測定対象成分の測定に影響を与えない試薬や膜であれば設けられていてもよい。これに対し、グルコース電極5には試料中の測定対象成分と反応する試薬が設けられる。具体的には、グルコース測定部5a1の上には、試薬を含む検知層6が形成される。検知層6は、例えば、酵素、バインダ、メディエータを含んだ試薬液を調製し、電極パターンの所定位置(本実施形態ではグルコース測定部5a1上)に試薬液を滴下又は塗布し、乾燥により試薬液を固化させて形成される。酵素は、本実施形態では、GOD又はGDHであるが、酵素の種類は測定対象や成分に依存する。なお、検知層6は、メディエータを含まない場合もある。
【0040】
また、レジスト2は、絶縁性基板1の他端部には設けられておらず、リード部4a2、リード部4b2、リード部5b1及びリード部5b2の夫々の他端が露出する。露出したリード部4a2、リード部4b2、リード部5b1及びリード部5b2の夫々は、測定装置20が備えるコネクタ26と電気的に接続されるパッド(端子)として使用される。
【0041】
レジスト2は、ヘマトクリット電極4上の被膜領域を被膜するように設けられる。図1A及びBに示す例では、レジスト2は、被膜領域の被膜によって、ヘマトクリット電極4のリード部4a2及びリード部4b2の夫々の一端と他端との間にあるリード部の中間部の一部がレジスト2によって被膜されずに露出する非印刷領域(露出領域)8が形成され
るように印刷される。図1Bに示す例では、矩形の3つの非印刷領域8a、8b及び8cがリード部4b1の中間部に形成され、矩形の3つの非印刷領域8d、8e及び8fがリード部4b2の中間部に形成されている。
【0042】
図1Bに示す例では、非印刷領域8a及び8d、8b及び8e、8c及び8fの夫々は対(ペア)をなし、同じ面積を有しているが、これらのペア間で面積は相互に異なっていてもよい。本実施形態では、非印刷領域8a~8fは同じ面積を有する。1つのリード部に対する非印刷領域8の数は、3以外の、1、2、又は4以上の適宜の数であってもよい。また、非印刷領域8の形状は、矩形以外の三角形、多角形、円形、楕円形及びこれらの形状の組み合わせでもよい。また、非印刷領域8の縁部の全てがリード部上にあることは要求されず、縁部の一部が絶縁性基板1上に及んでいてもよい。
【0043】
被膜領域のパターンは、中間部に非印刷領域を形成するパターンだけでなく、基板1の他端部においてリード部の他端が露出する部分が広くなる(換言すれば、基板1の長手方向におけるレジストの長さが短くなる)パターンであってもよい。また、被膜領域のパターンは、非印刷領域が電極4A及び4Bのいずれか一方のみに形成されるパターンを含んでもよい。すなわち、電極上を被膜する被膜領域の面積を調整できる方法であれば、どのような方法も採用し得る。
【0044】
絶縁性基板1上のレジスト2が印刷される矩形領域の上面には、矩形領域と同様の大きさを有する矩形のカバー3が置かれ、レジスト2の上面とカバー3の下面とが接着される。カバー3の材料には、絶縁性基板1と同じ材料を適用することができる。カバー3の接着には、両面テープや接着剤等が用いられる。
【0045】
流路7の上面は、カバー3により被覆され、流路7は、流入口7aと、カバー3に形成された空気孔3aとで外部と連通した管状の空間となる(キャピラリと呼ばれる)。流路7内に露出するカバー3の下面には、親水性の材料の塗布等によって、親水面となっている。
【0046】
本電気化学式センサを使用する場合には、流入口7aに試料(血液等)を接触させる(点着ともいう)と、毛管現象によって、試料が流路7内に引き込まれることになる。グルコース電極5(グルコース測定部5a1及び5b1)は、流入口7aから見てヘマトクリット電極4(測定部4a1及び4b1)より奥側に配置されており、試料により溶解した試薬がヘマトクリット電極4と接触し難くして、試薬による影響が生じないように構成されている。
【0047】
なお、図1に示す例では、ヘマトクリット測定用の電極対(電極4A及び4B)と、グルコース測定用の電極対(グルコース測定部5A及び5B)、すなわち4つの電極が設けられている例を示したが、3以下の電極を用いて、ヘマトクリット値及びグルコース値を測定する場合もある。また、グルコース電極は、作用極、対極及び参照極を有する3電極構成となっていてもよい。
【0048】
〔測定装置の構成例〕
図2は、測定装置の一例である血糖値計30の構成例を示すブロック図である。血糖値計30は、第1測定部31a、第2測定部31b、制御部33、記録部34及び出力部35を備える。第1測定部31aは、試料(血液)に接触可能なグルコース電極12に対して入力された第1信号に対する第1電気的応答を測定する回路である。第2測定部31bは、試料に接触可能なヘマトクリット電極4に対して入力された第2信号に対する電気的応答を測定する回路である。ここで、第2信号は、第1のレベルから第2のレベルへ値が変化し、その後一定の時間、前記第2のレベルを保つ波形を含むものとなる。第2測定部
31bは、この第2信号に対する第2電気的応答を、第2信号の前記変化に対する応答信号のピーク値として測定する回路である。制御部33は、第1電気的応答から得られる血液中のグルコース濃度を示す値を、第2測定部31bが測定した応答信号のピーク値に基づいて補正する。補正されたグルコース濃度を示す値は、例えば、記録部34に記録され、出力部35によって、表示画面に表示される。
【0049】
制御部33は、測定装置のコンピュータが備えるプロセッサが、所定のプログラムを実行することによって実現することができる。例えば、血糖値計30には、マイクロコントローラを組み込むことができる。
【0050】
第1測定部31aは、制御部33からの指示に基づき、検知層6の試薬と反応した状態の血液が接触した一対のグルコース電極5に、第1信号として例えばDC信号を印加し、その応答信号を第1電気的応答として測定する。制御部33は、応答信号値に基づいてグルコース濃度を示す値を決定することができる。
【0051】
第2測定部31bは、制御部33からの指示に基づき、試薬と反応していない状態の血液が接触したヘマトクリット電極4に、第2信号として、例えば、矩形又は台形の波形を有するパルス信号を印加する。第2測定部31bは、第2信号における信号レベルの変化、例えば、パルスの立ち上がりに対する応答信号のピーク値を測定する。このように、入力信号におけるレベルの変化に対する応答信号のピーク値を測定することで、制御部33において、ピーク値を用いてヘマトクリット値を決定することができる。すなわち、入力信号の急峻な変化によって得られるピーク電流を測定することで、ヘマトクリット値を算出することができる。さらに、制御部33は、ヘマトクリット値を用いて、第1信号の第1応答信号値から得られるグルコース濃度を示す値を補正することができる。
【0052】
図3は、血糖値計30の動作例を示すフローチャートである。図3に示す例では、試料(血液)が電気化学式センサ10の電極対へ接触させると測定が開始される(S1)。例えば、電気化学式センサ10が血糖値計30に挿入され、電気化学式センサ10に試料である血液が点着され、流路7に血液が導入されたことが検出されると、制御部33は、測定を開始する。
【0053】
制御部33は、第1信号を試料に印加する(S2)。例えば、制御部33は、第1測定部31aへ指示を出し、DC信号を第1信号として、一対のグルコース電極5へ印加させる。一対のグルコース電極5には検知層6が設けられており、血液は試薬と反応した状態で一対のグルコース電極5に接する。
【0054】
第1測定部31aは、第1信号に対する試料の第1電気的応答を測定する(S3)。例えば、第1測定部31aは、DC信号に対する応答電流を測定し、A/D変換して制御部33へ送信することができる。
【0055】
制御部33は、第1信号に対する試料の第1電気的応答を取得すると、第2信号の入力を行う(S4)。例えば、制御部33は、第2測定部31bへ指示を出し、第2信号であるパルス信号を一対のヘマトクリット電極4に印加させる。ヘマトクリット電極4には、血液が試薬と反応していない状態で接する。制御部33は、例えば、パルス信号の立ち上がり時間、周期、大きさ、印加する時間の長さ等を、第2測定部31bに対して指示することができる。
【0056】
第2測定部31bは、第2信号に対する血液の第2電気的応答を測定する(S5)。例えば、第2測定部31bは、第2信号のパルスの立ち上がりに対する応答信号のピーク値を測定する。第2測定部31bは、応答信号のピーク値をA/D変換して制御部33へ送
信してもよいし、応答信号を所定の周期(例えば、0.1μ秒)で検出した値をA/D変換して制御部33へ送信してもよい。
【0057】
制御部33は、S3で取得した第1電気的応答を用いて、血液に含まれる補正対象成分の値(グルコース値)を算出するとともに、S5で取得した第2電気的応答を用いて、血液に含まれる測定対象成分の量を示す値(ヘマトクリット値)を算出する。これにより、S3で第1電気的応答から得られる血液中のグルコース値を、S5で得られる応答信号のピーク値に基づいてヘマトクリット補正したグルコース値が得られる(S6)。
【0058】
例えば、S6において、制御部33は、S5で取得した応答信号のピーク値を用いて血液中のヘマトクリットの量を示す値を決定することができる。例えば、ヘマトクリット値は、予め記録された計算式にピーク値を代入する演算によって得ることができる。あるいは、制御部33は、応答信号のピーク値と、ヘマトクリット値とを対応付けて記録したテーブルを参照することにより、ヘマトクリット値を決定することができる。制御部33は、決定したヘマトクリット値を用いて、第1電気的応答から得られるグルコースの値を補正することができる。なお、ピーク値からヘマトクリット値に換算せず、ピーク値(応答電流値又は応答電圧値) を、そのままグルコース値の補正に用いてもよい。
【0059】
S6で補正されたグルコース値は、記録部34に記録され、出力部35により表示画面へ表示される(S7)。出力部35は、有線又は無線ネットワークを介して他の装置へ値を送信することもできる。なお、本実施形態に示す電気化学式センサに対し、特開2014-232102公報に開示された測定装置及び測定方法と同様の構成を有する測定装置及び測定方法を適用することができる。
【0060】
[検証実験]
本願の発明者は、以下のような検証実験を行い、電極上をレジストにより被覆する面積によって電極の抵抗値を制御可能であることを確認した。また、後述する第2の印刷パターンにおけるヘマトクリット電極4上を被膜する被膜領域を「標準被膜領域」に設定し、標準被膜領域をレジストで被膜した場合のヘマトクリット電極4の抵抗値を、目標抵抗値と比較することで、抵抗値の制御のための被膜領域を決定することができることが分かった。目標抵抗値は、製造対象の電気化学式センサ10のヘマトクリット電極4の目標とする抵抗値である。
【0061】
図4は、検証実験に用いた、電極パターン及びレジスト印刷パターンを印刷し、その上に両面テープを介してカバー3を設けた複数(500個)の電気化学式センサが形成された絶縁性基板シートの一例を示し、図5A及び5Bは、図4に示した絶縁性基板シートに印刷された複数の電気化学式センサにおける第1の印刷パターン及び第2の印刷パターンの夫々を示す。なお、カバー3は図示を省略した。図5A及び5Bに示す電気化学式センサの構成は、レジスト2による被膜領域が異なる点を除き、図1に示した電気化学式センサ10と同じである。
【0062】
図4に示すように、1枚の絶縁性基板シート上に、10行(A~J)×50列(1~50)で、短冊状の電気化学式センサ10の電極パターン及びレジスト印刷パターン(ストリップ)が印刷される。但し、図4では、簡略化のため、列の数は、50より少ない数を図示している。行数及び列数は一例であって、これらは適宜変更可能である。
【0063】
行A~Jの10行のうちの奇数行(A、C、E、G及びI行)には、第1の印刷パターンによって電極及びレジストが印刷され、偶数行(B、D、F、H及びJ行)には、第2の印刷パターンによって電極及びレジストが印刷されている。1枚の絶縁性基板シートを裁断することによって、250個の第1の印刷パターンの電気化学式センサと、250個
の第2の印刷パターンの電気化学式センサの合計500個の電気化学式センサの個片が得られる。
【0064】
図5Bに示す第2の印刷パターン(第2のレジスト印刷パターンに対応)では、ヘマトクリット電極4(電極4A及び4B)及びグルコース電極5(電極5A及び5B)が印刷されるともに、レジストを印刷する矩形領域のほぼ全面(但し、切り欠き部2aを除く)にレジストが印刷される。第2の印刷パターンにおけるヘマトクリット電極4の被膜領域が標準被膜領域に設定される。
【0065】
これに対し、図5Aに示す第1の印刷パターン(第1のレジスト印刷パターンに対応)では、電極の印刷パターンは第2の印刷パターンと同じである。しかし、第2の印刷パターンでレジスト2が印刷される矩形領域の中間部に、ヘマトクリット電極4のリード部4b1及び4b2(図1参照)に対するレジスト面積の調整領域50が形成されている。この調整領域50にはレジストが印刷されていない。
【0066】
この結果、第1の印刷パターンにおけるレジストは、切り欠き部2aを有するレジスト2Aと、矩形のレジスト2Bとからなる。このように、第2の印刷パターンでは、調整領域50の全面がレジストインクで被覆され、調整領域50中のリード部4a2及び4b2(破線で示す)上はレジスト2が印刷される被膜領域となっている。これに対し、第1の印刷パターンでは、調整領域50中のリード部4a2及び4b2(図1参照)上は、レジストの非印刷領域(露出領域)となっている。このように、調整領域50は、電極上にレジストを被膜するか否かを調整できる領域である。
【0067】
検証実験においては夫々250個の電気化学式センサのうち、A~J行の、1列目、20列目、40列目の電気化学式センサを用いた。1列目は絶縁性基板シートの端に形成された電気化学式センサであるのに対し、20列目および40列目は絶縁性基板シートの中央部に形成された電気化学式センサであるため、1列目のほうが20列目および40列目と比較し、乾燥しやすいという特性がある。また、検証実験においては、カバー3の接着に用いる両面テープの厚みがある厚み(厚み1とする)である場合と、面テープの厚みが厚み1と異なる厚み(厚み2とする)である場合の2つのパターンにおける、電気化学式センサを用いた。
【0068】
図6A及び6Bは、当該検証実験に用いた両面テープの厚みを変更した2つのパターンにおける、電気化学式センサそれぞれのヘマトクリット電極4の測定部4a1の位置P1とリード部4a2の位置P2との間の抵抗値の測定結果を示すグラフ及び表である。図6Aは厚み1の電気化学式センサ、図6Bは厚みが2の電気化学式センサの結果である。図6A及び6Bに示す表中のA~Jは、図4に示した絶縁性基板シートのA~J行を示し、“列1”、“列20”、及び“列40”の夫々は、A~J行の、1列目、20列目、40列目を示す。例えば、“C”と“列20”が交わる値は、C列の20列目に形成された電気化学式センサの抵抗値の測定結果ということである。なお、抵抗値の測定箇所は、レジスト2が印刷される領域を間にはさみ、当該被膜領域(調整領域50)を含む規定区間であれば、P1やP2の位置に限定されず、測定部4a1および他端リード部4a2の任意の位置であってもよい。また、ヘマトクリット電極4の測定部4a1ではなく、ヘマトクリット電極4の測定部4b1の、位置P1に相当する位置と、リード部4b2の、位置P2に相当する位置との間の抵抗値であってもよい。
【0069】
図6A及び6Bに示す測定結果より、両者において大きな差異はないため、両面テープの厚みは、電極の抵抗値に影響を及ぼさないことが分かる。
【0070】
第1の印刷パターンにおける、電極4Aの測定部4a1の位置P1とリード部4a2の
位置P2との間の抵抗値は、第2の印刷パターンにおける、電極4Aの測定部4a1の位置P1とリード部4a2の位置P2との間の抵抗値よりも小さくなる。これは、以下の理由による。
【0071】
ヘマトクリット電極4をなす電極4A及び4Bの夫々は、長さがL[m]で、断面積S[
]の導体と考えることができる。この導体の抵抗値Rは、式“R=ρL/S”により
表され、ρは導体の抵抗率[Ω・m]である。
【0072】
電極4A及び4Bの夫々の長さL及び断面積Sは、カーボンインクのスクリーン印刷によって一定の値となる。このため、電極4A及び4Bの夫々の抵抗値Rは、カーボンインクの導電率ρに依存する。よって、導電率ρを一定にすれば、電極4A及び4Bの夫々の抵抗値Rが一定となる。このため、ヘマトクリットの真値と同等の換算値に対応する第2電気的応答を測定するための構成要素である電極自体の抵抗値が、電気化学式センサによらず一定となる。従って、個体差なく、同じヘマトクリット電極の電極自体の抵抗値を備えた電気化学式センサを提供できる。従って、正確なヘマトクリット値を安定的に測定可能となる。
【0073】
このため、電極4Aのリード部4a2及び電極4Bのリード部4b2に対するレジストの印刷面積を調整することで電極自体の抵抗値を調整した。電極4A及び4Bの材料であるカーボンは導電性材料であると共に、多孔質を有する物質である。一方、レジストインクは、非導電性材料であるUV照射によって硬化するアクリル樹脂材料である。カーボンで形成された電極上にレジストを印刷すると、レジスト中のアクリル樹脂材料は、カーボン電極表面の多孔質の連通孔に入り込み、そのまま乾燥されて固体化する。アクリル樹脂材料は非導電性であるため抵抗値が高く、カーボン電極の連通孔においては、アクリル樹脂材料によって電子移動を阻害する作用が発生する。このような作用によって、レジストの印刷された領域の電極の抵抗値は、レジスト印刷されていない電極の抵抗値より高くなる。つまり、式R=ρL/Sにおいて、導体の抵抗率であるρが高くなるため、電極の抵抗値であるRも高くなるのである。なお、使用する非導電性材料によって、固有の抵抗率(電気の通しにくさ、または非電導性の強さともいえる)は異なる。このため、使用する非導電性材料の種類によって、レジスト印刷した場合の導体の抵抗率であるρの変化量、つまり、ρの高さへの影響は異なる。
【0074】
よって、リード部4a2及び4b2上に印刷されるレジスト(被膜領域)の面積が大きい程、抵抗率ρは上昇する(すなわち、被膜領域の面積と電極の抵抗値とは、被膜領域の面積が大きくなる程、前記電極の抵抗値が増加する関係を有する)。従って、第1の印刷パターンにおける電極4A及び4Bの夫々の抵抗値は、第2の印刷パターンにおける電極4A及び4Bの夫々の抵抗値よりも小さくなる。これを利用して、リード部4a2及び4b2の中間部に対する、レジスト2の非印刷領域の面積を変更又は調整することで、電極4A及び4Bの抵抗値を調整することが可能となることを見出した。このような原理であれば、電極の材料がカーボンで、アクリル樹脂材料を含んだレジストではなくてもよいことは言うまでもなく、電極は多孔質の導電材料であり、レジストは非導電性材料であれば、同じような原理を利用することができる。
【0075】
図6Aに示す、第1の印刷パターン(調整領域50に対するレジスト印刷面積0%)の電極に係る15個のデータ(奇数行A、C、E、G、及びI行における電極4Aの抵抗値)の平均は1925[Ω]であった。一方、第2の印刷パターン(調整領域50に対するレジスト印刷面積100%)の電極に係る15個のデータ(偶数行B、D、F、H、及びJ行における電極4Aの抵抗値)の平均は2091[Ω]であり、両者の差分は166[Ω]であった。
【0076】
図6Bに示す、第1の印刷パターン(調整領域50に対するレジスト印刷面積0%)に係る15個のデータ(奇数行A、C、E、G、及びI行における電極4Aの抵抗値)の平均は1888Ωであった。一方、第2の印刷パターン(調整領域50に対するレジスト印刷面積100%)の電極に係る15個のデータ(偶数行B、D、F、H、及びJ行における電極4Aの抵抗値)の平均は2041Ωであり、両者の差分は153Ωであった。従って、第1の印刷パターンと第2の印刷パターンとの間には、約150Ωの抵抗値の差がある。この150Ωが電極4A上のレジストの印刷面積(被膜領域のサイズ)によって調整できる幅である。
【0077】
具体的には、第2の印刷パターンに従ってレジストを印刷した場合のテスト用センサにおける電極4Aの抵抗値からX[Ω]だけ抵抗値を低くしたい場合には、調整領域50におけるリード部4a2及び4b2上のレジストの印刷面積(被膜領域の面積)の割合を、「X/150の割合」に設定すればよい。
【0078】
例えば、図6Aの結果において、目標抵抗値が2000Ωであった場合、第2の印刷パターン(調整領域50に対するレジスト印刷面積100%)の場合の平均値である2091Ωから約90Ω減らせばよい。このため、調整領域50におけるリード部4a2及び4b2の45%を被膜領域とする。
【0079】
このように、調整領域50におけるリード部4a2及び4b2上のレジストの面積割合(被膜領域の面積割合)は、“減らしたい抵抗値/(第2の印刷パターン(調整領域50のレジスト印刷面積100%)における電極の抵抗値-第1の印刷パターン(調整領域50のレジスト印刷面積0%)における電極の抵抗値)”の計算式で求められる。
【0080】
なお、電極の抵抗値は、レジストの印刷面積、すなわち被膜領域のサイズの減少に対して1次関数的に減少する。また、“第1のパターンにおける電極の抵抗値-第2のパターンにおける電極の抵抗値”の値は、ロット、つまり、導電性材料自体の性質によって異なる。
【0081】
図6A及び図6Bの結果から、絶縁性基板シート上の電気化学式センサの作成箇所によって抵抗値のばらつきはあるが、第2の印刷パターンにおける抵抗値より第1の印刷パターンの抵抗値が小さくなることが分かる。すなわち、電極上を被膜するレジストの面積の調整で、電極の抵抗値を制御することができる。
【0082】
なお、上述したように、抵抗値の増減量に応じて、調整領域50におけるリード部4a2及び4b2上のレジスト面積割合(%)、すなわち被膜領域を求め、その割合に応じた面積でレジストを印刷してもよい。実際の製造では、上述した“抵抗値の差分の絶対値”から抵抗値をそれぞれ25%、50%、及び75%減らすことのできるレジスト印刷パターンを用意し、いずれかを選択する。この例は、抵抗値を3段階(0%の場合を入れると4段階)で減らす場合を示すが、抵抗値を減らす段階の数は適宜設定可能である。すなわち、所定の抵抗値単位や、所定の印刷面積単位でレジスト印刷パターンを用意することができる。
【0083】
上述した検証実験では、レジストの印刷パターンとして、第1の印刷パターン(調整領域50に対する印刷面積0%)と、第2の印刷パターン(調整領域50に対する印刷面積100%:全面レジスト印刷)とを用意した。但し、第2の印刷パターンについての抵抗値の測定により、抵抗値の最大値を測定できるため、最大値から所定割合だけ抵抗値を減らすレジスト面積及びそのレジスト印刷パターンを割り出すことができる。すなわち、第1の印刷パターンは必ずしも必要ではない。検証実験からは、電気化学式センサの製造において、被膜領域の異なる複数のレジスト印刷パターンを用意し、複数のレジスト印刷パ
ターンの中からレジストを被膜するレジスト印刷パターンを選択することによって被膜領域を決定する構成を採用し得ることが分かる。
【0084】
実際の製造では、上述した面積割合を求めるのではなく、例えば、印刷面積を第2の印刷パターンにおける印刷割合を100%として、25%、50%、75%の夫々とした場合等の、複数の印刷面積の割合に応じた複数のレジスト印刷パターンを用意し、第2のレジスト印刷パターンにおける抵抗値に基づいて、増減させる抵抗値に応じた、複数のレジスト印刷パターン(被膜領域の印刷パターン)のいずれかを決定する。
【0085】
[電気化学式センサの製造方法の一実施例]
実施形態に係る電気化学式センサ10は、以下のようにして作製する。図7は、電気化学式センサの製造方法を示すフローチャートである。
【0086】
(工程1:図7のステップS001)
刷版及びカーボンインクの少なくとも一方を新しくした新規ロットに係る電気化学式センサの製造に当たり、テスト用センサを用いた抵抗値の測定を行う。つまり抵抗値の実測値を測定する。テスト用センサは、第2のレジスト印刷パターン(図5B)によってレジストが印刷されたテスト用の電気化学式センサ(テスト用センサ)であり、電気化学式センサ10の材料及び製造条件と同じ材料及び製造条件に従って製造される。そのテスト用センサが備えるヘマトクリット電極4(電極4A及び4Bの一方)をテスト用電極として、その抵抗値を測定する。抵抗値は、例えば、検証実験で用いた場合と同じように、図5Bに示すヘマトクリット電極4の測定部4a1の位置P1と他端リード部4a2の位置P2との間の抵抗値であればよい。なお、第2のレジスト印刷パターン(印刷割合100%)のテスト用センサだけでなく、第1のレジスト印刷パターン(印刷割合0%)のテスト用センサや、第2のレジスト印刷パターンのレジスト面積割合から所定割合減らしたテスト用センサをさらに用いてもよい。
【0087】
このように、工程1では、テスト用センサのヘマトクリット電極4の電極4A(電極4Bでもよい)の抵抗値の実測値を求め、電気化学式センサ10の実製品の製造に用いるレジスト印刷パターンを決定する。但し、工程1は必須の構成ではなく、他の指標情報を用いてレジスト印刷パターンを決定してもよい。
【0088】
(工程2:図7のステップS002)
測定した抵抗値に基づいて、実製品の電気化学式センサ10のヘマトクリット電極4の抵抗値を目標抵抗値とする(目標抵抗値に近づける)ために、実製品の電気化学式センサ10の製造に適用するレジスト印刷パターン(被膜領域)を決定する。被膜領域の選択においては、複数の調整領域50の中から電極上へレジストを被膜する被膜領域を選択する。具体的には、レジストを被膜視、被膜領域とする調整領域の数が異なる。例えば、以下の表1に示すようなテーブルを使用する。表1における「抵抗値」は、第2のレジスト印刷パターンに従ってレジストが印刷されたテスト用電極の抵抗値を示す。
【0089】
【表1】
【0090】
例えば、抵抗値が目標抵抗値から-50Ω~+30Ωの範囲にある場合には、第2のレジスト印刷パターン、すなわち、リード部4a2及び4b2の中間部(調整領域50)に、非印刷領域が設けられないレジスト印刷パターン(被膜領域)を決定する。
【0091】
また、抵抗値が目標抵抗値よりも30~90Ω高い場合には、レジスト印刷の結果として図1Bに示した調整領域50に対応する非印刷領域8a~8fのうちの二つ、例えば非印刷領域8a及び8dが形成されるレジスト印刷パターン(被膜領域)を決定する。但し、非印刷領域の組み合わせは、リード部4a2及び4b2から二つ選ばれる限り、非印刷領域8a及び8dの組み合わせ以外であってもよい。なお、電極4A及び4Bは、第2応答の測定において、試料(液体)を介して一つの閉回路を形成するため、非印刷領域は、電極4A及び4Bの一方のみに設けられてもよい。
【0092】
また、抵抗値が目標値より90~150Ω高い場合には、レジスト印刷の結果として、図1Bに示した非印刷領域8a~8fのうちの四つ、例えば、非印刷領域8a、8b、8d、及び8eが形成されるレジスト印刷パターン(被膜領域)を決定する。但し、非印刷領域の組み合わせは、リード部4a2及び4b2から四つ選ばれる限り、非印刷領域8a、8b、8d及び8eの組み合わせ以外であってもよい。
【0093】
また、抵抗値が目標値より150~200Ω高い場合には、レジスト印刷の結果として、図1Bに示した非印刷領域8a~8fの全てが形成されるレジスト印刷パターン(被膜領域)を決定する。また、抵抗値が目標値より200Ω以上高い場合、又は目標値より5
0Ω以下である場合には、カーボンインクを作り直す。被膜領域を規定するレジスト印刷パターンは、適宜設定可能である。工程2は、レジスト形成工程一例であるが、被膜領域を決定する工程であり、テスト用電極の抵抗値は「指標情報」の一例である。
【0094】
なお、表1に示した数値や分け方は本一実施例の場合にのみ適用されるものであり、数値および分け方は適宜設定できる。また、レジスト面積割合をパターン化するのではなく、テスト用電極の抵抗値に応じて線形に、または段階的に面積を設定することもできる。
【0095】
被膜領域を規定するレジスト印刷パターンを決定すると、以下のような、実製品の電気化学式センサ10を製造する。
【0096】
(工程3:図7のステップS003)
絶縁性基板シート上に、カーボンインクを用いたスクリーン印刷により、複数のヘマトクリット電極4及びグルコース電極5の電極パターンを印刷する。工程3は、電極形成工程の一例である。
【0097】
(工程4:図7のステップS004)
グルコース電極5に試薬を滴下又は塗布し、乾燥により固化させることによって、検知層6を形成する。
【0098】
(工程5:図7のステップS005)
絶縁性基板シート上の各電極パターンの上に、工程2によって選択したレジスト印刷パターンを用いて、レジストインクを印刷する。工程5において、ヘマトクリット電極4上の被膜領域がレジストで被膜される。工程5は、レジスト形成工程の一例である。
【0099】
(工程6:図7のステップS006)
カバー3を載せて両面テープで接着する。
【0100】
(工程7:図7のステップS007)
絶縁性基板シートを裁断して、電気化学式センサ10の個片を得る。
【0101】
[目標抵抗値からの変動した場合の影響に関する検証]
上記した工程2において言及した目標抵抗値から抵抗値が変動した場合の測定値への影響を検証した。図8A、8B及び8Cは、ヘマトクリット電極4の抵抗値を変更した電気化学式センサを用いて、ヘマトクリット電極4を用いて所定のヘマトクリット値にした検体(試料)を測定した場合におけるヘマトクリット値の換算値(実測値)とヘマトクリット値の真値との関係を示すグラフである。図8A、8B及び8Cにおける破線の直線は、補助線であり、ヘマトクリット値の真値(実際の値)を示し、プロット点は、第2電気的応答の値から求めたヘマトクリット値の換算値(実測値)を示す。
【0102】
図8A、8B及び8Cに示すグラフは、次の方法によって作成されたものである。
(1)予め、目標抵抗値(本検証では2500Ω)であった場合に、電極上を流れる電流値(第2応答値)をヘマトクリット値に適切に換算する換算テーブル又は検量線を作成する。
(2)ヘマトクリット電極の抵抗値が夫々2000Ω、2500Ω、3000Ωである電気化学式センサを作成する。
(3)ヘマトクリット電極に、ヘマトクリット真値が20%、30%、42%、55%、70%の夫々である検体(試料)を各電気化学式センサに導入する。
(4)ヘマトクリット電極に電圧を印加し、電極上を流れる電流値(第2応答値)を測定する。
(5)換算テーブル又は検量線を用いて、測定した電流値をヘマトクリット値に換算したヘマトクリット値の換算値を求める。
【0103】
図8Aに示すように、ヘマトクリット電極4の抵抗値が2000Ωの場合には、ヘマトクリット値の換算値は、真値(実際のヘマトクリット値)よりも低くなっている。図8Bに示すように、ヘマトクリット電極4の抵抗値が目標抵抗値である2500Ωの場合では、ヘマトクリットの換算値が真値の直線上にある。このため、ヘマトクリットの換算値の直線性が保たれている。図8Cに示すように、ヘマトクリット電極4の抵抗値が3000Ωの場合では、ヘマトクリットの換算値は真値より高くなる。これは以下の原理に基づく。まず、検体中に電流を流す場合、血球であるヘマトクリットが多いほど(ヘマトクリット値が高いほど)、抵抗値が高くなるため、電流が流れにくくなる。そのため、ヘマトクリット値が高い検体ほど、ヘマトクリット電極を用いて測定した場合の測定値は低くなる。一方、電極の抵抗値が低いほど、電極には電流が流れやすくなり、測定される電流値が目標値の抵抗値の場合よりも高くなる。従って、電極の抵抗値の変動によって、ヘマトクリット値の値が真値からずれ、抵抗値が低い場合には、ヘマトクリット換算値は低くなり、逆に抵抗値が高い場合には、ヘマトクリット換算値は高くなる。このため、本検証の場合、図8A、8B及び8Cに示す結果となる。図8A、8B及び8Cに示す例のとおり、換算テーブル又は検量線は目標抵抗値を2500Ωとした場合に最適であることがわかる。そして、工程2では、抵抗値が目標抵抗値2500Ωに近づくように、レジスト印刷パターン(リード部4a2及び4b2上の被膜領域のサイズ)が決定される。
【0104】
つまり、換算テーブル又は検量線は、ヘマトクリット電極4の抵抗値が目標抵抗値である場合に、測定した電流値を適切にヘマトクリット値に換算できるように準備されているので、ヘマトクリット電極4の抵抗値が当該目標抵抗値となるように電気化学式センサを製造することが重要となる。
【0105】
以上説明した実施形態に係る電気化学式センサ10の製造方法では、電極形成工程において、絶縁性基板1上に、多孔質の導電性材料からなる電極として、カーボン製のヘマトクリット電極4を形成する。また、レジスト形成工程の中の被膜領域を決定する工程において、非導電性材料のレジスト2によりヘマトクリット電極4上を被膜する被膜領域を決定する。そして、レジスト形成工程において、決定した被膜領域を溶液状のレジスト2により被膜し、多孔質の連通孔にレジストを浸透させることで電極の抵抗値を調整する。これによって、カーボン電極であるヘマトクリット電極4の形状、性状を変化させることなく、その抵抗値を変化させることができ、正確なヘマトクリット値を測定することが可能となる。よって、グルコース電極5を用いて測定され、ヘマトクリット値で補正されるグルコース値も正確な値にすることができる。
【0106】
また、実施形態に係る製造方法では、被膜領域の異なる複数のレジスト印刷パターン(第1及び第2の印刷パターン)が用意されており、レジスト形成工程の中の被膜領域を決定する工程において、複数のレジスト印刷パターンの中からヘマトクリット電極4を被膜するレジスト印刷パターンを選択することによって、被膜領域が決定される。複数のレジスト印刷パターンの用意によって、被膜領域の決定が簡易になる。
【0107】
また、実施形態に係る製造方法では、被膜領域は少なくとも一つの調整領域(複数の非印刷領域8)を有しており、複数のレジスト印刷パターン間において、非印刷領域8の数が異なっている。また、実施形態に係る製造方法では、被膜領域の面積とヘマトクリット電極4の抵抗値とは、被膜領域の面積が大きくなる程、電極の抵抗値が増加する関係を有している。このため、被膜領域の面積が異なる複数のレジスト印刷パターンの中から、調整によってヘマトクリット電極4の抵抗値を増加させる量に応じたレジスト印刷パターンを、レジスト形成工程の中の被膜領域を決定する工程において選択する。このように、抵
抗値の調整量に応じた数の非印刷領域8を有するレジスト印刷パターンの選択が行われることで、抵抗値の調整が可能となる。
【0108】
実施形態の製造方法において、電極4B(4A)は、測定部4b1(4a1)と、測定部4b1(4a1)に接続されたリード部4b2(4a2)とを備え、被膜領域はリード部4b2(4a2)上に規定される。リード部4b2(4a2)の面積の増減は、測定部4b1(4a1)の面積の増減に比べて、電気化学式センサ10を用いた測定の結果に対する影響が少ないからである。
【0109】
実施形態の製造方法では、レジスト形成工程の中の被膜領域を決定する工程において、電極の抵抗値に対応する指標情報に基づいて、被膜領域が決定されている。具体的には、第2のレジスト印刷パターンにおけるヘマトクリット電極4を被膜する被膜領域(図5B)が、標準被膜領域に設定されている。ヘマトクリット電極4には、ヘマトクリットの測定を考慮して設定された、抵抗値の目標値である目標抵抗値が設定されている。被膜領域の決定に用いられる指標情報は、目標抵抗値に対するヘマトクリット電極4の抵抗値の高低を示す情報である。目標抵抗値よりヘマトクリット電極4の抵抗値が高い場合には、被膜領域を標準被膜領域より小さくする。目標抵抗値よりヘマトクリット電極4の抵抗値が低い場合には、被膜領域を標準被膜領域より大きくする。これによって、容易に抵抗値を調整できる。
【0110】
<変形例>
以上説明した実施形態では、電極対の一例として、ヘマトクリット値を測定するヘマトクリット電極について説明した。ヘマトクリット値は、測定項目の例示であり、電極対はヘマトクリット以外を測定するために使用されてもよい。また、ヘマトクリット電極には試薬を用いないが、実施形態で説明した電気化学式センサの製造方法は、電極の抵抗値を調整するために有用であり、試薬を用いる電極、例えばグルコース電極にも適用可能である。また、以上に説明した実施形態では一対の電極について説明したが、二対の電極のそれぞれにレジストによる被覆を行い、電極の抵抗値を調整してもよい。
【0111】
以上の実施形態で説明した構成は、発明の目的を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0112】
1・・・絶縁性基板
2・・・レジスト
2a・・・切り欠き部
3・・・カバー
4・・・ヘマトクリット電極
4A、4B・・・電極
4a1、4b1・・・測定部
4b1,4b2・・・リード部
8・・・非印刷領域(露出領域)
10・・・電気化学式センサ
50・・・調整領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8