(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】超音波プローブ
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20240321BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R17/00 330J
(21)【出願番号】P 2020085104
(22)【出願日】2020-05-14
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 航
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 徹
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-131895(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038632(WO,A1)
【文献】米国特許第8519600(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動素子が配置された振動層と、
前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、
前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、を備え、
前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大き
く、
複数の前記放熱部材は、
前記中央領域の中央から外側に向かうにつれて、配置間隔が広くなることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
複数の振動素子が配置された振動層と、
前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、
前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、を備え、
前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大きく、
複数の前記放熱部材は、
前記中央領域の外側から中央に向かうにつれて、配置方向の幅が大きくなることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項3】
複数の振動素子が配置された振動層と、
前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、
前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、を備え、
前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大きく、
前記複数の放熱部材を形成する材料の熱伝導率は、
前記中央領域の外側から中央に向かうにつれて大きくなることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項4】
請求項1
から請求項
3のいずれか1項に記載の超音波プローブにおいて、
各前記振動素子は長軸方向に延びており、前記長軸方向に交わる短軸方向に並べて配置され、
前記放熱部材は前記長軸方向に延びており、隣接する2つの前記振動素子の隙間から前記バッキング層に至る切削溝の間の位置に配置されていることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項5】
請求項1
から請求項
3のいずれか1項に記載の超音波プローブにおいて、
前記振動層と前記バッキング層との間に設けられた配線層を備え、
各前記振動素子は長軸方向に延びており、前記長軸方向に交わる短軸方向に並べて配置され、
前記放熱部材は前記短軸方向に延びており、前記配線層は熱伝導構造を有していることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項6】
請求項
5に記載の超音波プローブにおいて、
前記熱伝導構造は、
各前記振動素子と前記放熱部材との間に設けられたサーマルビアを備えることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項7】
請求項
6に記載の超音波プローブにおいて、
前記サーマルビアは、
隣接する2つの前記振動素子の隙間から前記配線層に至る切削溝の間の位置に設けられていることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項8】
複数の振動素子が配置された振動層と、
前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、
前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、
前記振動層と前記バッキング層との間に設けられた配線層と、を備え、
前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大きく、
各前記振動素子は長軸方向に延びており、前記長軸方向に交わる短軸方向に並べて配置され、
前記放熱部材は前記短軸方向に延びており、前記配線層は熱伝導構造を有しており、
前記熱伝導構造は、
各前記振動素子と前記放熱部材との間に設けられたサーマルビアを備え、
前記サーマルビアは、
隣接する2つの前記振動素子の隙間から前記配線層に至る切削溝の間の位置に設けられていることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項9】
請求項
8に記載の超音波プローブにおいて、
複数の前記放熱部材は、
前記中央領域の中央から外側に向かうにつれて、配置間隔が広くなることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項10】
請求項
8に記載の超音波プローブにおいて、
複数の前記放熱部材は、
前記中央領域の外側から中央に向かうにつれて、配置方向の幅が大きくなることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項11】
請求項
8に記載の超音波プローブにおいて、
前記複数の放熱部材を形成する材料の熱伝導率は、
前記中央領域の外側から中央に向かうにつれて大きくなることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項12】
請求項5から請求項11のいずれか1項に記載の超音波プローブにおいて、
隣接する2つの前記振動素子の隙間から前記配線層に至る切削溝を有することを特徴とする超音波プローブ。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の超音波プローブにおいて、
前記中央領域は、
前記断面の両端に位置せずに前記断面の重心を含み、前記断面の面積の半分以下の面積を占める領域であることを特徴とする超音波プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブに関し、特に、振動素子が発する熱を逃がす構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置が広く用いられている。超音波診断装置は、超音波を被検体に送信し、被検体内で反射した超音波を受信し、受信した超音波に基づいて被検体内の組織を示す画像データを生成する。超音波診断装置は、与えられた電気信号に応じた超音波を送信し、受信した超音波に応じた電気信号を出力する超音波プローブを備える。一般に、超音波プローブには複数の振動素子が配列されている。各振動素子に与える電気信号の遅延時間を調整することで超音波ビームが形成され、超音波ビームの電気的な走査が行われる。また、各振動素子から出力された電気信号は整相加算され、超音波ビームの方向から到来した超音波に基づく受信信号が生成される。
【0003】
超音波プローブが超音波を送信する際には振動素子に熱が発生する。そのため、特許文献2に示されているように、振動素子の温度が上昇し過ぎないように送信出力が制限されることがあり、超音波プローブの性能が十分に発揮されないことがある。そこで、超音波プローブには、特許文献1および2に示されているように、振動素子で発生した熱を超音波プローブから逃がす構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-103078号公報
【文献】特開2013-115537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、超音波プローブでは、被検体に接触する面の中心付近から内部にかけての中央部で発生する熱が、中央部よりも外側の領域に比べて大きい。そのため、従来の超音波プローブでは、中央部での放熱が十分でないことがあった。
【0006】
本発明の目的は、複数の振動素子を備える超音波プローブの放熱を十分に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の振動素子が配置された振動層と、前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、を備え、前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大きく、複数の前記放熱部材は、前記中央領域の中央から外側に向かうにつれて、配置間隔が広くなることを特徴とする。また、本発明は、複数の振動素子が配置された振動層と、前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、を備え、前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大きく、複数の前記放熱部材は、前記中央領域の外側から中央に向かうにつれて、配置方向の幅が大きくなることを特徴とする。また、本発明は、複数の振動素子が配置された振動層と、前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、を備え、前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大きく、前記複数の放熱部材を形成する材料の熱伝導率は、前記中央領域の外側から中央に向かうにつれて大きくなることを特徴とする。また、本発明は、複数の振動素子が配置された振動層と、前記振動層の後方に設けられたバッキング層と、前記バッキング層に設けられ、前記バッキング層内で線状に延伸する複数の放熱部材であって、延伸方向を揃えて配置された複数の放熱部材と、前記振動層と前記バッキング層との間に設けられた配線層と、を備え、前記バッキング層の中央領域であって、前記放熱部材の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域における前記放熱部材の面積占有率が、前記中央領域の外側に比べて大きく、各前記振動素子は長軸方向に延びており、前記長軸方向に交わる短軸方向に並べて配置され、前記放熱部材は前記短軸方向に延びており、前記配線層は熱伝導構造を有しており、前記熱伝導構造は、各前記振動素子と前記放熱部材との間に設けられたサーマルビアを備え、前記サーマルビアは、隣接する2つの前記振動素子の隙間から前記配線層に至る切削溝の間の位置に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の振動素子を備える超音波プローブの放熱が十分に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】超音波プローブの短軸方向断面を模式的に示す図である。
【
図3】超音波プローブの長軸方向断面を模式的に示す図である。
【
図5】超音波プローブの長軸方向断面を模式的に示す図である。
【
図6】超音波プローブの短軸方向断面を模式的に示す図である。
【
図7】第2実施形態に係る超音波プローブの第1の変形例を示す図である。
【
図8】第2実施形態に係る超音波プローブの第2の変形例を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る超音波プローブの第3の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
各図を参照して本発明の実施形態が説明される。複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号を付してその説明が省略される。本願明細書における「前」の用語は、超音波プローブから被検体側を見た方向を示し、「後」の用語は、被検体から超音波プローブ側を見た方向を示す。また、本願明細書における「右」および「左」の用語は、図面における右および左を示す。方向を示すこれらの用語は説明の便宜上のものであり、超音波プローブを用いる際の姿勢を限定するものではない。各図では前方向がz軸正方向とされ、z軸に垂直なxy平面が定義されている。
【0011】
図1には、本発明の第1実施形態に係る超音波プローブの斜視図が模式的に示されている。超音波プローブは、保護層10、振動層12、配線層20、バッキング層22および放熱層28を備えている。保護層10、振動層12、配線層20、バッキング層22および放熱層28は、この順序で前後方向に積み重なっている。
図1に示されている各層の厚みの比率は、説明を容易にするために変更されており、実際の厚みの比率とは異なる。その他の図面に示されている各層の厚みの比率についても同様である。保護層10は、振動層12の前方を覆い振動層12を機械的に保護する。保護層10は、その前面が被検体に接触し、振動層12から発せられた超音波を被検体に伝搬させ、被検体で反射した超音波を振動層12に伝搬させる。
【0012】
保護層10の前面は二次元曲面である。すなわち、保護層10の前面は、短軸方向(x軸方向)に垂直な断面である長軸方向断面(yz平面に平行な平面)で上に凸の曲線を描き、長軸方向(y軸方向)に垂直な断面である短軸方向断面(zx平面に平行な平面)で直線を描く。保護層10は、シリコーンゴム等で形成されてよい。なお、長軸方向は、後述する振動素子の長手方向として定義され、短軸方向は、長軸方向および前後方向に垂直な方向として定義される。
【0013】
振動層12は、後述するように、複数の振動素子を備えている。配線層20は、絶縁材料で形成された層状部材と、その層状部材に配置された電気配線用の導線から構成されている。配線層20は、FPC(Flexible Printed Circuits)であってよい。配線層20は、振動層12に形成された複数の振動素子のそれぞれを、超音波診断装置が備える送受信回路に接続する。振動層12における各振動素子は、配線層20から供給された電気信号によって超音波を発生し、受信された超音波に基づいて配線層20に電気信号を出力する。
【0014】
バッキング層22は、振動層12から後方に放射された超音波を減衰させる。放熱層28は、超音波プローブで発生した熱を後方に逃がす。放熱層28は、アルミニウム、銅等を含む金属材料で構成されてよい。
【0015】
図2には、超音波プローブの短軸方向断面が模式的に示されている。
図3には、
図2のAA線において超音波プローブを切断した場合における長軸方向断面が示されている。振動層12は、音響整合層14、振動素子層16およびハードバッキング層18を備えている。音響整合層14、振動素子層16およびハードバッキング層18は、この順序で前後方向に積み重なっている。振動層12は、長軸方向断面に平行な複数の切削溝30によって分割されており、複数の切削溝30によって分割された部分のそれぞれが振動素子32を構成している。
【0016】
切削溝30は、振動層12の前面から後面に至り、さらには後方の配線層20およびバッキング層22に及んでいる。各振動素子32は、長軸方向に延伸する四角柱形状を有している。
図2に示されている例では、各振動素子32の前後方向の長さは、短軸方向の長さよりも長く、各振動素子32は板状に形成されている。
図2に示される例では、8個の切削溝30が短軸方向に等間隔で形成され、9個の振動素子32が形成されている。
図2には、9個の振動素子32を含む超音波プローブが模式的に示されているが、振動層12は、100個以上300個以下の振動素子32を有してもよい。
【0017】
振動素子層16は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PMN-PT等の圧電材料によって形成されてよい。各振動素子32において、音響整合層14は、振動素子層16から保護層10を介して被検体に伝送される超音波の伝送効率を音響インピーダンスに対する整合作用によって高める。また、各振動素子32において、音響整合層14は、被検体で反射し保護層10を介して振動素子層16に伝送される超音波の伝送効率を音響インピーダンスに対する整合作用によって高める。
【0018】
ハードバッキング層18は、振動素子層16から後方に放射された超音波を反射させる。ハードバッキング層18は、タングステンカーバイド等を含む金属材料で形成されてよい。
【0019】
バッキング層22では、バッキング材料24に複数の放熱部材26が設けられている。バッキング材料24は、樹脂に粉末状の減衰フィラーを混合したものであってよい。減衰フィラーには、例えば、金属、セラミックス等が用いられてよい。
【0020】
放熱部材26は、長軸方向に延伸する四角柱形状を有している。
図2に示されている例では、各放熱部材26の前後方向の長さは、短軸方向の長さよりも長く、各放熱部材26は板状に形成されている。各放熱部材26は、隣接する振動素子32の間の切削溝30の間の位置に設けられている。
図2には、模式的に3つの放熱部材26が設けられた例が示されている。放熱部材26は、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等、十分な剛性および熱伝導性のあるセラミックス材料によって形成されてよい。
【0021】
図4には、バッキング層22の製造工程が示されている。
図4の上側に示されているように、四角柱状のバッキング材料24の間に放熱部材26が挟まれる。バッキング材料24と放熱部材26は交互に配置され接合される。これによって、
図4の下側に示されているように、バッキング材料24と放熱部材26が一体化される。
【0022】
振動層12およびバッキング層22は、次のような工程で製造されてよい。すなわち、音響整合層14、振動素子層16、ハードバッキング層18、配線層20およびバッキング層22が積み重ねられた後、音響整合層14の前面から後方に向けてバッキング層22に至る複数の切削溝30が形成される。
【0023】
このように、本実施形態に係る超音波プローブは、複数の振動素子32が配置された振動層12と、配線層20を介して振動層12の後方に設けられたバッキング層22と、バッキング層22に設けられた複数の放熱部材26とを備えている。複数の放熱部材26は、バッキング層22内で線状に延伸し、延伸方向を揃えて配置されている。バッキング層22の中央領域(放熱部材26の延伸方向に対して交わる断面内の中央領域)における放熱部材26の面積占有率は、中央領域の外側における放熱部材26の面積占有率よりも大きい。
【0024】
ここで、中央領域は、短軸方向断面の両端に位置せずに短軸方向断面の重心を含み、短軸方向断面の面積の半分以下の面積を占める領域である。短軸方向断面の両端における、中央領域でない領域のそれぞれの面積は、例えば、短軸方向断面の面積の8分の1以上とされる。すなわち、本実施形態に係る超音波プローブでは、短軸方向断面の中央領域を断面として長軸方向に延びる三次元中央領域における放熱部材26の体積占有率が、三次元中央領域の外側における放熱部材26の体積占有率よりも大きい。
【0025】
図2に示されている例において、中央領域は、短軸方向断面の中央において短軸方向断面の3分の1以下を占有する領域である。すなわち、中央領域は、短軸方向断面の図の左側の縦辺から3分の1だけ右側で前後方向に延びる左側境界線と、短軸方向断面の図の右側の縦辺から3分の1だけ左側で前後方向に延びる右側境界線との間に挟まれた領域である。中央領域の重心は、短軸方向断面の重心と一致している。中央領域の外側の領域に放熱部材は設けられていない。放熱部材26は、配線層20を介して振動素子32に熱的に接触している。振動素子32が発した熱は、その振動素子32の後方にある放熱部材26によって放熱層28に伝えられる。
【0026】
本発明の実施形態に係る超音波プローブでは、短軸方向断面の中央領域における放熱部材26の面積占有率が、中央領域の外側における放熱部材26の面積占有率よりも大きい。これによって、保護層10の前面の中心付近から内部にかけての中央部での放熱効果が高まる。超音波プローブは中央部での温度上昇量が大きい。そのため、本実施形態によれば、超音波プローブ全体での温度上昇量が抑制される。さらに、バッキング層22に含まれる放熱部材26の体積が削減され、バッキング層22で超音波を減衰させる効果が高まる。
【0027】
また、本実施形態に係る超音波プローブでは、隣接する振動素子32の間の切削溝30の間の位置に放熱部材26が設けられている。これによって、音響整合層14、振動素子層16、ハードバッキング層18、配線層20およびバッキング層22が積み重ねられた後に切削溝30が形成される場合において、切削溝30を形成するための工具が放熱部材26に接触することがなく、工具の寿命短縮が防止される。
【0028】
本発明の第2実施形態に係る超音波プローブが説明される。
図5には、第2実施形態に係る超音波プローブの長軸方向断面が模式的に示されている。
図6には、
図5のBB線において超音波プローブを切断した場合における短軸方向断面が示されている。第2実施形態に係る超音波プローブは、バッキング層22に設けられた放熱部材26が短軸方向に延伸している点が、第1実施形態に係る超音波プローブと異なっている。また、第2実施形態に係る超音波プローブの配線層20の厚みは、第1実施形態に係る超音波プローブの配線層20の厚みよりも厚い。
【0029】
図6に示されているように、振動層12は、長軸方向断面に平行な切削溝30によって分割されており、複数の切削溝30によって分割された部分のそれぞれが振動素子32を構成している。
【0030】
切削溝30は、振動層12の前面から後面に至り、さらには後方の配線層20に及んでいる。
図6に示される例では、8個の切削溝30が長軸方向に等間隔で形成され、9個の振動素子32が形成されている。
図6には、9個の振動素子32を含む超音波プローブが示されているが、振動層12は、100個以上300個以下の振動素子32を有してもよい。
【0031】
配線層20には、振動素子32と放熱層28との間に熱伝導構造としてサーマルビア34が設けられている。サーマルビア34は、複数の振動素子32のそれぞれに対して設けられており、複数のサーマルビア34が、1つの放熱部材26の延伸方向に沿って配置されている。サーマルビア34は、前後方向を軸方向とした柱形状に形成されおり、配線層20を形成する層状部材を貫通している。サーマルビア34の柱形状は、円柱形状であってもよいし、角柱形状であってもよい。サーマルビア34は、前端部および後端部で径(太さ)が大きくなっている。サーマルビア34は、隣接する切削溝30の間の位置に配置されている。
【0032】
本実施形態に係る超音波プローブでは、バッキング層22の長軸方向断面の中央領域における放熱部材26の面積占有率が、中央領域の外側における放熱部材26の面積占有率よりも大きい。中央領域は、長軸方向断面の両端に位置せずに長軸方向断面の重心を含み、長軸方向断面の面積の半分以下の面積を占める領域である。長軸方向断面の両端における、中央領域でない領域のそれぞれの面積は、例えば、長軸方向断面の面積の8分の1以上とされる。すなわち、本実施形態に係る超音波プローブでは、長軸方向断面の中央領域を断面として短軸方向に延びる三次元中央領域における放熱部材26の体積占有率が、三次元中央領域の外側における放熱部材26の体積占有率よりも大きい。
【0033】
図5に示されている例において、中央領域は、長軸方向断面の中央において長軸方向断面の3分の1を占有する領域である。すなわち、中央領域は、長軸方向断面の図の左側の縦辺から3分の1だけ右側で前後方向に延びる左側境界線と、長軸方向断面の図の右側の縦辺から3分の1だけ左側で前後方向に延びる右側境界線との間に挟まれた領域である。中央領域の外側の領域には放熱部材は設けられていない。中央領域の重心は、長軸方向断面の重心と一致している。放熱部材26は、配線層20に設けられたサーマルビア34を介して振動素子32に熱的に接触している。振動素子32が発した熱は、その振動素子32の後方にあるサーマルビア34および放熱部材26によって放熱層28に伝えられる。
【0034】
本発明の実施形態に係る超音波プローブでは、長軸方向断面の中央領域における放熱部材26の面積占有率が、中央領域の外側における放熱部材26の面積占有率よりも大きい。これによって、保護層10の前面の中心付近から内部にかけての中央部での放熱効果が高まる。超音波プローブは中央部での温度上昇量が大きい。そのため、本実施形態によれば、超音波プローブ全体での温度上昇量が抑制される。さらに、バッキング層22に含まれる放熱部材26の体積が削減され、バッキング層22で超音波を減衰させる効果が高まる。
【0035】
また、本実施形態に係る超音波プローブでは、切削溝30が、振動層12の前面から後面に至り、後方の配線層20に及んでいるものの、放熱部材26にまでは至っていない。そして、サーマルビア34は、隣接する振動素子32の間の切削溝30の間の位置に設けられている。これによって、音響整合層14、振動素子層16、ハードバッキング層18、配線層20およびバッキング層22が積み重ねられた後に切削溝30が形成される場合において、切削溝30を形成するための工具が放熱部材26に接触することがなく、工具の寿命短縮が防止される。さらに、サーマルビア34は、前後方向を軸方向とした柱形状に形成されており、前端部および後端部において直径が大きくなっている。これによって、サーマルビア34は、配線層20において前後にズレ難くなる。
【0036】
図7には、第2実施形態に係る超音波プローブの第1の変形例が示されている。この変形例に係る超音波プローブでは、バッキング層22の長軸方向断面において、放熱部材の配置間隔が、中心から外側に向かうにつれて大きくされている。例えば、第1の放熱部材、第2の放熱部材および第3の放熱部材が、長軸方向断面の中央から外側に向かう方向に、この順序で配置されている場合に、第1の放熱部材と第2の放熱部材との間の距離よりも、第2の放熱部材と第3の放熱部材との間の距離が大きくされる。隣接する2つの放熱部材の間の距離は、2つの放熱部材の間に形成される隙間の幅として定義されてよい。また、一方の放熱部材の前後方向の中心線と、他方の放熱部材の前後方向の中心線との間の距離として定義されてもよい。
【0037】
図7に示されている例では、中央領域の中心に放熱部材260が配置されている。右方向に向かって放熱部材26R1および26R2がこの順序で配置されている。そして、左方向に向かって放熱部材26L1および26L2がこの順序で配置されている。放熱部材260と放熱部材26R1との間の距離P1よりも、放熱部材26R1と放熱部材26R2との間の距離P2の方が大きい。そして、放熱部材260と放熱部材26L1との間の距離Q1よりも、放熱部材26L1と放熱部材26L2との間の距離Q2の方が大きい。
【0038】
このような構成によれば、バッキング層22の長軸方向断面の中央領域における放熱部材26の面積占有率は、中央領域の外側における放熱部材26の面積占有率よりも大きくなる。これによって、保護層10の前面の中心付近から内部にかけての中央部での放熱効果が高まる。超音波プローブは中央部での温度上昇量が大きい。そのため、本実施形態によれば、超音波プローブ全体での温度上昇量が抑制される。さらに、放熱部材26の体積が削減され、バッキング層22で超音波を減衰させる効果が高まる。
【0039】
放熱部材の配置間隔が、中心から外側に向かうにつれて大きいという構造の規則性は、第1実施形態に係る超音波プローブに当てはめられてもよい。この場合、バッキング層22の短軸方向断面において、放熱部材の配置間隔が、中心から外側に向かうにつれて大きくされる。
【0040】
図8には、第2実施形態に係る超音波プローブの第2の変形例が示されている。この変形例に係る超音波プローブでは、バッキング層22の長軸方向断面において、放熱部材の幅(長軸方向の長さ)が、中心から外側に向かうにつれて小さくされている。例えば、第1の放熱部材、第2の放熱部材および第3の放熱部材が、長軸方向断面の中央から外側に向かう方向に、この順序で配置されている場合に、第1の放熱部材の幅は、第2の放熱部材の幅よりも大きくされる。そして、第2の放熱部材の幅は、第3の放熱部材の幅よりも大きくされる。
【0041】
図8に示されている例では、中央領域の中心に放熱部材260が配置されている。右方向に向かって放熱部材26R1および26R2がこの順序で配置されている。そして、左方向に向かって放熱部材26L1および26L2がこの順序で配置されている。放熱部材26R2の幅W2は、放熱部材26R1の幅W1よりも小さく、放熱部材26R1の幅W1は、放熱部材260の幅W0よりも小さい。そして、放熱部材L2の幅D2は、放熱部材26L1の幅D1よりも小さく、放熱部材26L1の幅D1は、放熱部材260の幅W0よりも小さい。
【0042】
放熱部材の幅が、中心から外側に向かうにつれて小さいという構造の規則性は、第1実施形態に係る超音波プローブに当てはめられてもよい。この場合、バッキング層22の短軸方向断面において、放熱部材の幅が、中心から外側に向かうにつれて小さくされる。
【0043】
なお、中央領域における放熱部材の面積密度が、中央領域の外側より大きいという条件の下、放熱部材の配置間隔、放熱部材の幅、放熱部材の数等は、任意に定められてよい。
【0044】
図9には、第2実施形態に係る超音波プローブの第3の変形例が示されている。この変形例に係る超音波プローブでは、バッキング層22の長軸方向断面において、放熱部材の熱伝導率が、外側から中心に向かうにつれて大きくされている。例えば、第1の放熱部材、第2の放熱部材および第3の放熱部材が、長軸方向断面の中央から外側に向かう方向に、この順序で配置されている場合に、第1の放熱部材の熱伝導率が、第2の放熱部材の熱伝導率よりも大きくされる。そして、第2の放熱部材の熱伝導率が、第3の放熱部材の熱伝導率よりも大きくされる。熱伝導率は、材料に固有の値であり、熱の伝わり易さを示す。
【0045】
図9に示されている例では、中央領域の中心に放熱部材260が配置されている。右方向に向かって放熱部材26R1および26R2がこの順序で配置されている。そして、左方向に向かって放熱部材26L1および26L2がこの順序で配置されている。放熱部材26R1の熱伝導率は、放熱部材26R2の熱伝導率よりも大きく、放熱部材260の熱伝導率は、放熱部材26R1の熱伝導率よりも大きい。そして、放熱部材26L1の熱伝導率は、放熱部材26L2の熱伝導率よりも大きく、放熱部材260の熱伝導率は、放熱部材26L1の熱伝導率よりも大きい。
【0046】
放熱部材260は、例えば、窒化アルミニウムで形成される。放熱部材26R1および26L1は、例えば、窒化ケイ素で形成される。放熱部材26R2および26L2は、例えば、酸化アルミニウムで形成される。窒化ケイ素は、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が大きく、窒化アルミニウムは、窒化ケイ素よりも熱伝導率が大きい。
【0047】
放熱部材の熱伝導率が、外側から中心に向かうにつれて大きいという構造の規則性は、第1実施形態に係る超音波プローブに当てはめられてもよい。この場合、バッキング層22の短軸方向断面において、放熱部材の熱伝導率が、外側から中心に向かうにつれて大きくされる。
【符号の説明】
【0048】
10 保護層、12 振動層、14 音響整合層、16 振動素子層、18 ハードバッキング層、20 配線層、22 バッキング層、24 バッキング材料、26,260,26R1,26R2,26L1,26L2 放熱部材、28 放熱層、30 切削溝、32 振動素子、34 サーマルビア。