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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び診断支援方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020087150
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021180730
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西浦 朋史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 みか
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-146433(JP,A)
【文献】特開2008-073305(JP,A)
【文献】特開2015-154918(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024453(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0057769(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0060606(KR,A)
【文献】特開2004-135868(JP,A)
【文献】特開2015-061592(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/159762(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受波により得られたフレームデータ列に基づいて病変部候補を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて前記フレームデータ列から生成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する通知部であって、前記病変部候補が病変部である可能性の大きさに応じて前記マークの表示態様を変更する通知部と、
を含み、
前記通知部は、
前記フレームデータ列に基づいて前記病変部候補が病変部である可能性の大きさを示す信頼度を演算する演算部と、
前記信頼度に応じて前記マークの表示態様を変更する制御部と、
を含み、
前記演算部は、
前記フレームデータ列に基づいて、時間的なデータ変化量を示す第1評価値を演算し、
前記フレームデータ列に基づいて、前記病変部候補又はそれを含む局所領域の輝度情報の評価値として第2評価値を演算し、
前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて前記信頼度を演算する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記通知部は、前記検出部での前記病変部候補の検出とは別に前記信頼度を演算する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項記載の超音波診断装置において、
前記制御部は、前記信頼度が低い場合には、前記信頼度が高い場合に比べて、前記マークが目立たないように前記表示態様を変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項記載の超音波診断装置において、
前記制御部は、
前記信頼度が第1範囲内にある場合に前記マークを非表示とし、
前記信頼度が前記第1範囲よりも高い第2範囲内にある場合に前記信頼度に応じて前記マークの表示態様を変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項記載の超音波診断装置において、
前記演算部は、
前記フレームデータ列におけるフレームデータ間ごとに前記第1評価値を演算し、
前記フレームデータ列におけるフレームデータごとに前記第2評価値を演算する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記表示態様の変化には、色相の変化、輝度の変化、透明度の変化、線幅の変化、及び、線種の変化の内の少なくとも1つが含まれる
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項記載の超音波診断装置において、
前記通知部は、プローブ走査試行過程で取得される事前フレームデータ列に基づいて前記信頼度を演算する条件を設定する条件設定部を含む、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
超音波の送受波により得られたフレームデータ列に基づいて病変部候補を検出する工程と、
前記フレームデータ列から生成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する場合に、前記病変部候補が病変部である可能性の大きさに応じて前記マークの表示態様を変更する工程と、
を含み、
前記フレームデータ列に基づいて、時間的なデータ変化量を示す第1評価値が演算され、
前記フレームデータ列に基づいて、前記病変部候補又はそれを含む局所領域の輝度情報の評価値として第2評価値が演算され、
前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記病変部候補が病変部である可能性の大きさを示す信頼度が演算され、
前記信頼度に応じて前記マークの表示態様が変更される、
ことを特徴とする診断支援方法。
【請求項9】
情報処理装置において実行されるプログラムであって、
超音波の送受波により得られたフレームデータ列に基づいて病変部候補を検出する機能と、
前記フレームデータ列から生成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する場合に、前記病変部候補が病変部である可能性の大きさに応じて前記マークの表示態様を変更する機能と、
を含み、
前記マークの表示態様を変更する機能により、
前記フレームデータ列に基づいて、時間的なデータ変化量を示す第1評価値が演算され、
前記フレームデータ列に基づいて、前記病変部候補又はそれを含む局所領域の輝度情報の評価値として第2評価値が演算され、
前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記病変部候補が病変部である可能性の大きさを示す信頼度が演算され、
前記信頼度に応じて前記マークの表示態様が変更される、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は超音波診断装置及び診断支援方法に関し、特に、検査者に対して病変部候補を通知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波検査においては、被検者の表面に当接されたプローブが被検者の表面に沿って走査される。その走査の過程において、表示器に表示されるリアルタイム断層画像が観察され、その観察を通じて病変部の有無が判断される。病変部が見つかった場合、病変部が詳しく検査される。
【0003】
に変化する断層画像上において、一時的に現れる病変部を視覚的に特定することは容易ではない。病変部の特定を支援する技術として、CADe(Computer Aided Detection)がある。その技術は、例えば、断層画像に含まれる病変部候補を検出し、検出された病変部候補を検査者に通知するものである。例えば、断層画像上に病変部候補を囲むマークが表示される。CADeは、CAD(Computer Aided Diagnosis)と共に利用され又はCADに含まれるものである。病変部候補として、アーチファクトに起因する低輝度部分が検出されてしまうこともある。
【0004】
特許文献1には、CAD機能を備えた超音波診断装置が開示されている。特許文献1には、病変部候補を通知するマークの表示態様を変更することについては記載されていない。特許文献2には、CAD機能を備えた超音波診断装置において、病変部候補を通知するマークの表示態様を変更することが記載されている。しかし、その技術は、検査者ごとに病変部候補を見逃す傾向が異なることを前提とし、検査者ごとに病変部候補の見逃しを防止することをその目的とするものである。すなわち、その技術は、病変部候補が病変部である可能性の大小とは無関係である。
【0005】
なお、本願明細書において、病変部は、疾患の可能性がある部位又は精査しておく必要性のある部位を意味する。病変部候補は、検査者による病変部の特定及び診断を支援するためにCADeにより検出された部位を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-97902号公報
【文献】特開2012-143369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
病変部候補を検出する機能を備えた超音波診断装置又は情報処理装置において、検出された病変部候補が病変部である可能性(以下、場合により、病変部可能性という。)の大きさは区々である。病変部可能性が高いこともあれば低いこともある。病変部可能性が高い場合にのみ病変部候補を通知するマークを表示すると、病変部を見逃してしまうおそれが生じる。一方、病変部可能性が低いにもかかわらず、病変部可能性が高い場合と同様の表示態様でマークを表示すると、場合によっては、マークが目障りとなってしまう。特に、プローブ走査過程における病変部候補の間欠的な誤検出によりマークが断続的に繰り返し表示されると、それは検査者にとって大きな目障りとなる。
【0008】
本開示の目的は、病変部候補の見逃しを低減し且つ病変部候補を通知するマークが目障りとなることを低減することにある。あるいは、本開示の目的は、病変部候補を通知するマークの表示態様を病変部可能性の大きさに相応しいものにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波診断装置は、超音波の送受波により得られたフレームデータ列に基づいて病変部候補を検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて前記フレームデータ列から生成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する通知部であって、前記病変部候補が病変部である可能性の大きさに応じて前記マークの表示態様を変更する通知部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本開示に係る診断支援方法は、超音波の送受波により得られたフレームデータ列に基づいて病変部候補を検出する工程と、前記フレームデータ列から生成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する場合に、前記病変部候補が病変部である可能性の大きさに応じて前記マークの表示態様を変更する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、病変部候補の見逃しを低減し且つ病変部候補を通知するマークが目障りとなることを低減できる。あるいは、本開示によれば、病変部候補を通知するマークの表示態様を病変部可能性の大きさに相応しいものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図2】病変部候補を通知するマークの生成を示す図である。
図3】通知部の動作例を示すフローチャートである。
図4】信頼度の演算例を示す図である。
図5】動き量を示す図である。
図6】重なり率の計算方法を示す図である。
図7】鮮明度の計算方法を示す図である。
図8】鮮明度の他の計算方法を示す図である。
図9】表示態様の選択を説明するための図である。
図10】信頼度に応じた表示態様の変更を説明するための図である。
図11】閾値計算方法を説明するためのフローチャートである。
図12】動き量と信頼度の関係を示す図である。
図13】動き量と信頼度の他の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、検出部、及び、通知部を有する。検出部は、超音波の送受波により得られたフレームデータ列に基づいて病変部候補を検出する。通知部は、検出部の検出結果に基づいてフレームデータ列から生成された超音波画像上に病変部候補を通知するマークを表示する。その際、通知部は、病変部候補が病変部である可能性の大きさに応じてマークの表示態様を変更する。
【0015】
上記構成によれば、マークの表示態様が病変部可能性の大きさに応じて変更されるので、マークの表示形態として不変の表示形態を採用した場合に生じる問題を解消又は軽減できる。上記構成によれば、例えば、病変部可能性が低い場合(換言すれば、誤検出の可能性が高い場合)にはマークを目立たなくすることができるので、マークが目障りとなることを防止又は軽減できる。一方、病変部可能性が高い場合(換言すれば、誤検出の可能性が低い場合)にはマークを目立たせることができるので、病変部候補を見逃してしまうことを防止又は軽減できる。見方を変えると、上記構成は、マークの表示態様を通じて病変部可能性の大小を検査者に通知するものである。実施形態において、表示態様の変化の概念には、色相の変化、輝度の変化、透明度の変化、線幅の変化、及び、線種の変化の内の少なくとも1つが含まれる。表示態様を段階的に変更してもよいし、表示態様を連続的に変更してもよい。
【0016】
実施形態において、通知部は、演算部、及び、制御部を有する。演算部は、フレームデータ列に基づいて病変部候補が病変部である可能性の大きさを示す信頼度を演算する。制御部は、信頼度に応じてマークの表示態様を変更する。誤検出の可能性の大小に従って信頼度が演算されてもよい。誤検出の可能性を評価する際には、超音波検査特有の事象又は超音波画像特有の事象が考慮されてもよい。
【0017】
実施形態において、制御部は、信頼度が低い場合には、信頼度が高い場合に比べて、マークが目立たないように表示態様を変更する。実施形態において、制御部は、信頼度が第1範囲内にある場合にマークを非表示とする。制御部は、信頼度が第1範囲よりも高い第2範囲内にある場合に信頼度に応じてマークの表示態様を変更する。誤検出の可能性が高い場合にマークを非表示とすれば、マークが目障りとなる可能性を低減できる。マークを非表示とする場合において、病変部候補の検出の事実を別途、通知してもよい。
【0018】
実施形態において、演算部は、フレームデータ列におけるフレームデータ間ごとに変化量を示す第1評価値を演算する。また、演算部は、フレームデータ列におけるフレームデータごとに病変部候補又はそれを含む局所領域の輝度情報に基づいて第2評価値を演算する。更に、演算部は、第1評価値及び第2評価値に基づいて信頼度を演算する。この構成によれば、時間的な評価値及び空間的な評価値を総合的に考慮して信頼度を演算できる。
【0019】
実施形態において、通知部は、プローブ走査試行過程で取得される事前フレームデータ列に基づいて信頼度を演算する条件を設定する条件設定部を含む。検査者によってプローブ走査の態様(例えば走査速度)は異なる。上記構成は、検査者の好みや癖に応じて信頼度を演算する条件を切り替えるものである。これによれば、マーク表示処理をカスタマイズすることが可能となる。
【0020】
実施形態に係る診断支援方法は、検出工程及び通知工程を有する。検出工程では、超音波の送受波により得られたフレームデータ列に基づいて病変部候補が検出される。通知工程では、フレームデータ列から生成された超音波画像上に病変部候補を通知するマークが表示される。その際に、病変部候補が病変部である可能性の大きさに応じてマークの表示態様が変更される。
【0021】
上記診断支援方法は、ハードウエアの機能により又はソフトウエアの機能により実現される。後者の場合、上記診断支援方法を実行するプログラムが、ネットワークを介して、又は、非一時的な記憶デバイス(例えば可搬型記憶媒体)を介して、情報処理装置へインストールされる。情報処理装置の概念には、超音波診断装置、医療システム、コンピュータ等が含まれる。上記プログラムは、情報処理装置が備えるプロセッサにより実行される。そのプロセッサの概念には、CPU等の各種の情報処理デバイスが含まれる。
【0022】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成がブロック図として示されている。超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、生体(被検者)に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて、超音波画像を形成する医療用の装置である。超音波診断対象となる臓器は、実施形態において、例えば、乳房である。
【0023】
集団健診においては、短時間にしかも見落としなく病変部を特定する必要がある。実施形態に係る超音波診断装置は、検査者による病変部の特定を支援するために、超音波画像に含まれる病変部候補(例えば腫瘤である可能性が認められる低輝度部分)を自動的に検出するCADe機能を備えている。これについては後に詳述する。
【0024】
プローブ10は、超音波を送受波する手段として機能するものである。具体的には、プローブ10は、可搬型送受波器であり、それはユーザーである検査者(医師、検査技師等)によって保持及び操作される。乳房の超音波診断に際しては、プローブ10の送受波面(具体的には音響レンズ表面)が被検者の胸部表面に当接される。リアルタイムで表示される断層画像を観察しながら、胸部表面に沿ってプローブ10がマニュアルで走査される。
【0025】
プローブ10は、図示された構成例において、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを備えている。振動素子アレイによって超音波ビーム(送信ビーム及び受信ビーム)12が形成され、超音波ビーム12の電子的な走査により走査面14が形成される。走査面14は観察面であり、すなわち二次元データ取込領域である。超音波ビーム12の電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式等が知られている。超音波ビーム12のコンベックス走査が行われてもよい。プローブ10内に2D振動素子アレイを設け、超音波ビームの二次元走査により、生体内からボリュームデータが取得されてもよい。
【0026】
プローブ10の位置情報を求める測位システムを設けてもよい。測位システムは、例えば、磁気センサ及び磁場発生器により構成される。プローブ(正確にはプローブヘッド)に磁気センサが装着される。磁気センサによって磁場発生器により生成された磁場が検出される。これにより、磁気センサの三次元座標情報を得られる。その三次元座標情報に基づいてプローブ10の位置及び姿勢が特定される。測位システムから出力された情報に基づいてプローブ10の運動情報を求め、その運動情報を後述するマーク表示制御で利用してもよい。
【0027】
送信回路22は送信ビームフォーマーとして機能する。具体的には、送信時において、送信回路22は、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイに到達すると、複数の振動素子から複数の受信信号が並列的に出力される。受信回路24は受信ビームフォーマーとして機能し、複数の受信信号の整相加算(遅延加算ともいう。)により、ビームデータを生成する。
【0028】
1回の電子走査当たり、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータが生成され、それらが走査面14に対応する受信フレームデータを構成する。個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。受信回路24の後段にはビームデータ処理部が設けられているが、その図示が省略されている。
【0029】
画像形成部26は、受信フレームデータに基づいて断層画像(Bモード断層画像)を生成する電子回路である。それはDSC(Digital Scan Converter)を有している。DSCは、座標変換機能、画素補間機能、フレームレート変換機能等を有している。より詳しくは、画像形成部26により、受信フレームデータ列に基づいて表示フレームデータ列が生成される。表示フレームデータ列を構成する各表示フレームデータは、断層画像データである。複数の断層画像データによりリアルタイム動画像が構成される。断層画像以外の超音波画像が生成されてもよい。例えば、カラーフローマッピング画像が形成されてもよいし、組織を立体的に表現した三次元画像が形成されてもよい。図示の構成例では、表示フレームデータ列は、表示処理部32、画像解析部28及び通知部30に送られている。
【0030】
画像解析部28は、CADe機能を発揮するモジュールである。画像解析部28は、フレームデータごとに、つまり断層画像ごとに、病変部候補を検出する処理を実行する。具体的には、断層画像に対する、二値化処理、エッジ検出等により、低輝度の閉領域として病変部候補が検出される。病変部候補が検出された場合、画像解析部28から病変部候補情報が出力される。病変部候補情報には、病変部候補の位置情報、及び、病変部候補のサイズ情報が含まれる。
【0031】
病変部候補の位置情報は、例えば、病変部候補それ自体の中心点の座標を示す情報であり、あるいは、病変部候補に接しつつそれを囲む図形の中心点の座標を示す情報である。中心点は代表点である。中心点として、図形の幾何学的な中心点や図形の重心点を採用し得る。病変部候補のサイズ情報は、例えば、病変部候補それ自体のサイズを示す情報であり、あるいは、病変部候補に接しつつそれを囲む図形のサイズを示す情報である。例えば、図形の中心点の座標と図形の左上隅点の座標から、病変部候補のサイズが特定されてもよい。中心点の座標が特定されている前提の下、左上隅点の座標を病変部候補のサイズ情報とみなしてもよい。病変部候補のサイズ情報として、病変部候補の面積が求められてもよい。複数の病変部候補が並列的に検出されてもよい。
【0032】
通知部30は、病変部候補を通知するマークを超音波画像上に重畳表示するモジュールである。通知部30は、図示の構成例において、条件設定部72、信頼度演算部74、及び、表示制御部76を有している。
【0033】
条件設定部72は、後述する準備工程(試行的走査の過程)で得られた事前フレームデータ列に基づいて、信頼度を演算する条件を設定するものである。これにより検査者に応じて信頼度を演算でき、すなわち、通知条件をカスタマイズできる。信頼度演算部74は、準備工程後の検査工程において、フレームデータ列に基づいてフレームデータごとに信頼度を演算する。実施形態においては、病変部候補が検出されたフレームデータごとに信頼度が演算される。信頼度は、病変部候補が病変部である可能性(病変部可能性)の大きさを示す数値である。それは、換言すれば、病変部候補が誤検出に起因する可能性の大きさを示すものである。
【0034】
表示制御部76は、信頼度に基づいてマークの表示態様を変更する。具体的には、表示制御部76は、信頼度が低い場合にマークの表示態様を控えめなものにし、つまり、マークが目立たないようにする。一方、表示制御部76は、信頼度が高い場合にマークの表示態様を識別性又は顕現性の高いものにし、つまり、マークが目立つようにする。
【0035】
表示態様の変更について幾つかの具体例をあげておく。信頼度が低い場合に寒色系の色でマークを表示し、信頼度が高い場合に暖色系の色でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に低輝度でマークを表示し、信頼度が高い場合に高輝度でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に高い透明度でマークを表示し、信頼度が高い場合に低い透明度でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に細い線幅でマークを表示し、信頼度が高い場合に太い線幅でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に破線でマークを表示し、信頼度が高い場合に実線でマークを表示してもよい。マーク自体の種類を切り替えてもよい。例えば、4つの角を示す4つの表示要素の表示と矩形の図形の表示とを切り替えてもよい。幾つかの手法を同時に適用してもよい。
【0036】
病変部候補の検出が不安定である場合(換言すれば、誤検出の可能性が高い場合)、マークが間欠的に繰り返し表示され、それが大きな目障りとなる。それを抑制するために、現フレームを含むm(mは2以上の整数であり、例えば3)個のフレームにわたって病変部が連続的に検出された場合に限り、マークを表示することが考えられる。しかし、その場合には、マーク表示における応答性が低下してしまい、検査者に違和感又は不安感を生じさせる。実施形態においては、上記連続検出条件を採用せず、病変部候補が検出されたフレームについては、マークをリアルタイムで表示するようにしている。但し、信頼度に応じてマークの表示態様を変更するようにしている。これにより、良好な応答性と目障り防止とを両立させることが可能となる。もっとも、マーク表示態様の変更については、具体的な状況に応じて、適宜定め得る。
【0037】
画像形成部26、画像解析部28及び通知部30は、それぞれ、プロセッサにより構成され得る。単一のプロセッサが、画像形成部26、画像解析部28及び通知部30として機能してもよい。後述するCPUが、画像形成部26、画像解析部28及び通知部30として機能してもよい。
【0038】
表示処理部32は、グラフィック画像生成機能、カラー演算機能、画像合成機能等を有する。表示処理部32には、画像形成部26、画像解析部28及び通知部30の出力が与えられている。病変部候補を囲むマークは、グラフィック画像を構成する1つの要素である。実施形態においては、通知部30がマークを生成しているが、主制御部38、表示処理部32、等がマークを生成するようにしてもよい。
【0039】
表示器36は、LCD、有機EL表示デバイス等によって構成される。表示器36には、動画像としての断層画像がリアルタイムで表示され、また、グラフィック画像の一部としてマークが表示される。表示処理部32は、例えば、プロセッサにより構成される。
【0040】
主制御部38は、図1に示された各構成要素の動作を制御するものである。主制御部38は、実施形態において、プログラムを実行するCPUによって構成される。主制御部38には、操作パネル40が接続されている。操作パネル40は入力デバイスであり、それは、複数のスイッチ、複数のボタン、トラックボール、キーボード等を有する。
【0041】
実施形態においては、表示フレームデータ列が画像解析部28及び通知部30に与えられているが、受信フレームデータ列が画像解析部28及び通知部30に与えられてもよい(符号42を参照)。その場合、画像形成部26とは別に、画像形成を簡易且つ迅速に実行する他の画像形成部が設けられる。
【0042】
図2には、マーク表示処理が示されている。断層画像44には病変部候補46が含まれる。断層画像44の二値化47により二値化画像が生成される。二値化画像に対するエッジ検出又は領域検出により、二値化された病変部候補46Aが抽出される。例えば、病変部候補46Aにおける水平方向の両端座標、及び、病変部候補46Aにおける垂直方向の両端座標により、病変部候補46Aに外接する矩形52が定義される。実際には、矩形52の中心点48の座標及び矩形の左上隅点50の座標が特定される。この矩形は、局所領域としての検出領域として働く。不定形の病変部候補46Aに代えて、検出領域が演算対象となる。
【0043】
矩形52の外側に、水平方向及び垂直方向に一定のマージン56,58をおいた図形として、矩形54が定義される。その矩形54が断層画像上にマーク64として表示される。マーク64は、病変部候補46及びその周囲を囲む図形である。図示の例では、マーク64は、破線で構成されている。4つの隅部分のみを表す4つの要素からなるマークが表示されてもよい。円形や楕円のマークが表示されてもよい。
【0044】
実施形態においては、フレームデータ単位で病変部候補46の検出が実行される。病変部候補46が検出された場合に、それを含むフレームデータに対応する断層画像44上にマーク64が表示される。マーク64の表示により、検査者に対して病変部候補46の存在を知覚させることが可能となり、病変部候補46の見落としを防止できる。もっとも、例えば、病変部可能性が低い場合に、マーク64が目立って表示されると、検査者にとってマーク64が大きな目障りとなる。そのような場合に、マーク64の表示態様を変更して(例えば輝度を落として)、マーク64があまり目立たないようにしている。
【0045】
図3には、通知部の動作例が示されている。準備過程S20の実施後に、検査過程S22が実施される。準備過程20では、S10において、通知条件が設定される。S10はカスタマイズ工程に相当する。通知条件には、変更タイプ、信頼度演算条件、等が含まれる。信頼度演算条件には、信頼度を演算する際に必要となるパラメータセット又はパラメータが含まれる。パラメータセットの例として、後述する重みセットがあげられる。パラメータの例として、後述する閾値があげられる。
【0046】
S10では、例えば、最初に、検査者に対してプローブの試行的走査を促すメッセージが表示される。その後、検査者においてプローブの試行的走査が実施される。その過程で取得されるフレームデータ列(事前フレームデータ列)に基づいて必要な測定及び演算が実施され、その結果から、パラメータセット又はパラメータが決定される。試行的走査の期間は任意に定め得る。実際の超音波検査過程における最初の一部期間を準備過程S20と定めてもよい。その場合には上記メッセージの表示を行わなくてよい。
【0047】
上記の試行的走査により、検査者の好みや癖が反映された通知条件を定め得る。S10において、表示態様を変更するタイプが検査者により選択されてもよい。信頼度と強調度の関係を示すパラメータ(例えば傾き)が検査者により選択されてもよい。
【0048】
検査過程S22では、S12において、フレームデータごとに、病変部候補の有無が判断される。病変部候補が検出されなかった場合、S18が実行される。病変部候補が検出された場合、S14において、現フレームデータ又はそれを含む現フレームデータセットに基づいて、信頼度が演算される。その内容については後述する。信頼度は、検出された病変部候補が真の病変部である可能性の大きさを示すものであり、換言すれば、誤検出の可能性の大きさを示すものである。
【0049】
S16では、病変部候補を囲むマークが表示され、これにより病変部候補の存在(特に、その位置及びそのサイズ)が検査者に通知される。その際、信頼度に基づく表示態様で、そのマークが表示される。信頼度が低ければ、あまり目立たない表示態様でマークが表示され、信頼度が高ければ、目立つ表示態様でマークが表示される。例えば、信頼度が閾値以上である場合には通常の表示態様でマークが表示され、信頼度が閾値未満である場合には通常の表示態様よりも目立たない表示態様でマークが表示されてもよい。
【0050】
S18では、本処理を継続させる否かが判断される。S12~S18は、フレームデータ単位で実行される。
【0051】
図4には、信頼度の演算例が示されている。例えば、フレーム間情報80及びフレーム内情報82に基づいて信頼度92が演算される。フレーム間情報80としては、フレームデータ間での全体的な動き量84、フレームデータ間での検出領域重なり率86、等があげられる。フレーム内情報82として、検出領域鮮明度88があげられる。それらの情報については後に詳述する。更に、連続検出数89が考慮されてもよい。すなわち、同じ病変部候補が連続して検出された回数(フレーム数)が考慮されてもよい。それはフレーム間情報80の一種とも言い得る。上記であげた個々の情報はそれぞれ評価値である。
【0052】
複数の評価値に基づいて信頼度92を演算する場合、複数の評価値に対して複数の重みw1~w4が乗算される。その上で、複数の乗算結果を加算することにより、信頼度92が演算される。複数の重みw1~w4により重みセットが構成される。重みセットは、例えば、上記の試行的走査の過程でカスタマイズされる(符号90を参照)。
【0053】
例えば、図5において符号98で示されているように、隣接する2つのフレームデータ94,96間での全体的な動き量として、公知のオプティカルフローが演算されてもよい。その演算方法として、Lucas-Kanade法があげられる。フレームデータ96は、現フレームデータであり、フレームデータ94は1つ前のフレームデータである。隣接するフレームデータの間で輝度差、相関値等が演算されてもよい。
【0054】
また、図6に示されているように、隣接する2つのフレームデータに含まれる2つの検出領域102,104間で、検出領域重なり率が演算されてもよい。符号100は病変部候補を示しており、符号106は2つの検出領域102,104の重なり部分を示している。例えば、計算式108に従って、重なり率として、Jaccard係数が演算されてもよい。計算式108の分子は、2つの検出領域102,104間の重なり部分106の面積であり、計算式108の分母は、2つの検出領域102,104を合体させた領域の面積である。
【0055】
計算式108に代えて計算式110を採用してもよい。その場合、重なり率として、Dice係数が演算される。計算式110の分子は、重なり部分106の面積の2倍であり、計算式の分母は、2つの検出領域102,104を合体させた領域の面積である。2つの検出領域の重なり部分に代えて、2つの病変部候補の重なり部分が評価されてもよい。但し、実施形態によれば、評価値の演算を簡易化できる。
【0056】
図7に示されるように、検出領域の鮮明度として、エッジ強度116が演算されてもよい。その場合、フレーム112における検出領域114内の輝度情報からエッジ強度116が計算され得る。エッジ強度116の計算に際して、Prewittフィルタ等を利用してもよい。
【0057】
通常、超音波画像においては、深くなるに従って鮮明度が低下する。よって、鮮明度の演算に当たって、検出領域114の深さd1を考慮してもよい。深さd1は例えば検出領域114の中心点の深さである。近距離に存在する病変部候補の検出が連続する場合に評価値又は信頼度を高めるようにしてもよい。
【0058】
また、図8に示されるように、検出領域の鮮明度の評価に際してシャドーが考慮されてもよい。フレーム118において、電子走査方向の全範囲124の内で、一部の範囲126にシャドー120が生じている。例えば、プローブ送受波面と生体表面との間の密着度が部分的に低下することに起因してシャドー120が生じる。プローブ送受波面が乳頭に当たる場合にも同様の現象が生じる。シャドー120は暗い部分つまり低輝度部分であり、それに起因して病変部候補の誤検出が生じ易くなる。
【0059】
そこで、シャドー120が生じている範囲126を特定し、その範囲126内に検出領域122の全部又は一部が属する場合に、鮮明度つまり評価値を小さくしてもよい。その場合に、検出領域128内において範囲126に属する割合が考慮されてもよい。例えば、一定割合以上属している場合に、評価値又は信頼度を下げてもよい。例えば、断層画像を深さ方向に積算して一次元の積算プロファイルを生成し、そこにおける谷部分を特定することにより、シャドー120の範囲126を特定し得る。送受波面と生体表面との間の圧力に応じて評価値又は信頼度を変更することも考えられる。
【0060】
図9には、変更タイプの選択が示されている。例えば、マーク表示態様の変更の具体例として、例えば、色相変更130、輝度変更132、透明度変更134、線幅変更136、線種変更138、があげられる。例えば、検査者により、いずれの変更タイプを用いるのかが事前に選択される(符号142及び符号140を参照)。その上で、信頼度に応じて、選択された表示態様変更が実施される。
【0061】
図10には、信頼度と強調度の関係が示されている。強調度は、マークを目立たせる度合いに相当する。例えば、関数144に従って、信頼度の大きさに従って強調度が連続的に変更されてもよい。例えば、範囲Bにおいて、通常の強調度(100%)が設定され、範囲Aにおいて、低強調度(例えば50%)が設定されてもよい。範囲Aにおいて、マークを非表示とし、範囲Bにおいて、関数145に従って、信頼度の大きさに応じて強調度を変更してもよい。その場合、範囲Aと範囲Bとを仕切る閾値c1が試行的走査の過程において決定されてもよい。
【0062】
図11図13に基づいて、具体例を説明する。この具体例は、フレームデータ間でのフレーム全体にわたる動き量に基づいて信頼度を演算するものである。信頼度を演算するための関数を規定する閾値thの決定方法が図11に示されている。閾値thにより定義される関数の例が図12及び図13に示されている。
【0063】
図11に示す処理は、上記の試行的走査の過程において実行される。フレームデータごとにS30以降の各工程が実行される。S30では、現フレームデータの処理に際し、フレーム数が1つインクリメントされる。S32では、現フレームデータについて、1つ前のフレームデータとの対比から、動き量が演算される。S34では動き量が積算される。S36では試行的走査の終了が判定される。その終了が判定されるまで、S30~S34が繰り返し実行される。S38では、積算値(総動き量)を(フレーム数-1)で割り、その除算結果に係数αを乗算することにより、閾値thが演算される。係数αが検査者において事前に指定されてもよいし、試行的走査の結果から自動的に設定されてもよい。
【0064】
図12において、横軸は、検査過程で取得される現フレームデータについて演算される動き量を示している。縦軸は信頼度を示している。例えば、試行的走査の過程において、積算値が小さい場合、つまりプローブ運動量が小さい場合、閾値th1が設定され、関数146が定義される。一方、試行的走査の過程において、積算値が大きい場合、つまりプローブ運動量が大きい場合、閾値th2が設定され、関数148が定義される。各閾値th1,th2は関数146,148の傾きを定めるものである。プローブの運動量が大きい場合には緩やかな傾きが設定される。
【0065】
図13に示されるように、信頼度1及び信頼度0を二段階で定める関数150,152が閾値th1,th2により定義されてもよい。信頼度0が決定される場合においても、病変部候補の検出は行われているため、それが尊重され、あまり目立たない表示態様でマークが表示される。
【0066】
以上説明した具体例は例示であり、信頼度に応じて表示態様を変更する方法として、各種の方法を採用し得る。フレームデータ列から得られる複数の評価値に基づいて信頼度を演算すれば、検査者のニーズに適合したマーク表示制御を実現できる。通知部の機能が情報処理装置において実現されてもよい。その場合には、超音波診断装置から情報処理装置へフレームデータ列が転送される。
【符号の説明】
【0067】
10 プローブ、26 画像形成部、28 画像解析部、30 通知部、32 表示処理部、72 条件設定部、74 信頼度演算部、76 表示制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13