(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20240321BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240321BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
H02G3/04 081
H01B7/00 301
H01B7/18 W
(21)【出願番号】P 2020119211
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】志茂 茜
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-160512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
H01B 7/00
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の周囲を被覆で覆った電線と、前記電線の周囲をその長手方向に沿って保護する保護管と、を備えたワイヤーハーネスであって、
前記保護管は、断面視した場合においてその内側に周方向に離間して設けられると共に、前記保護管の長手方向に沿って連続して設けられる複数の突出部を有し、
前記複数の突出部は、全てが前記電線に接触
し、
前記電線は、長手方向に沿って連続する複数の凹溝を有し、
前記複数の突出部は、前記電線の前記複数の凹溝に嵌まり込む
ことを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記複数の突出部は、断面視した場合にそれぞれの先端がR形状となっている
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記保護管は、その外側において長手方向に沿って延びる凹部を有している
ことを特徴とする請求項1
又は請求項2のいずれかに記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記複数の突出部は、前記保護管の長手方向に沿って螺旋状に設けられている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線を筒状のワイヤーハーネス用外装材で覆うと共に、外装材の内周面に、周方向に連続する環状の突条部を軸線方向に間隔をあけて設け、突条部を電線に接触させたワイヤーハーネスが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のワイヤーハーネスは、突条部が軸線方向に間隔をあけて設けられていることから、突条部の存在しない間隔部分において放熱性の低下を招いてしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、放熱性の向上を図ることが可能なワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るワイヤーハーネスは、導体の周囲を被覆で覆った電線と、前記電線の周囲をその長手方向に沿って保護する保護管と、を備えたワイヤーハーネスであって、前記保護管は、断面視した場合においてその内側に周方向に離間して設けられると共に、前記保護管の長手方向に沿って連続して設けられる複数の突出部を有し、前記複数の突出部は、全てが前記電線に接触し、前記電線は、長手方向に沿って連続する複数の凹溝を有し、前記複数の突出部は、前記電線の前記複数の凹溝に嵌まり込む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放熱性の向上を図ることが可能なワイヤーハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るワイヤーハーネスの一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係るワイヤーハーネスの電線重量と複数の突出部との相関を示すグラフであり、(a)は接触率と電線重量との相関を示し、(b)は接触率と電線軽量化効果との相関を示している。
【
図3】第2実施形態に係るワイヤーハーネスを示す断面図である。
【
図4】第3実施形態に係るワイヤーハーネスを示す断面図である。
【
図5】第4実施形態に係るワイヤーハーネスを示す断面図である。
【
図6】
図5に示したワイヤーハーネスの長手方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るワイヤーハーネスの一例を示す断面図である。
図1に示すように、ワイヤーハーネス1は、電線10と、保護管20とを備えて構成されている。
【0011】
電線10は、導体11と、導体11の周囲を覆う被覆12とを備えている。導体11は、軟銅線、錫メッキ軟銅線、及び銀メッキ軟銅線等の導電性金属からなる素線11aが複数本撚られて構成されている。被覆12は、複数本の素線11aの周囲を覆う絶縁体であって、例えばPE(Polyethylene)、PP(Polypropylene)、又は発泡させたPE及びPP等が用いられている。
【0012】
保護管20は、電線10の周囲をその長手方向に沿って保護するものであり、例えば樹脂製のコルゲートチューブや、金属製のパイプ等によって構成されている。保護管20を構成する樹脂及び金属は伝熱性が比較的高いものが用いられ、例えば保護管20が金属パイプによって形成される場合には銅材が用いられる。
【0013】
ここで、
図1に示すように、保護管20は断面視した場合においてその内側に複数の突出部21を有している。複数の突出部21は周方向に離間して設けられており、本実施形態においては45°間隔で離間して8つ設けられている。また、複数の突出部21は、保護管20の長手方向に沿って連続して設けられている。さらに、複数の突出部21は、断面視した場合に、その先端が内側に凸となるR形状となっている。
【0014】
なお、本実施形態においては、複数の突出部21が保護管20の内側において長手方向に沿って直線状に設けられることを想定しているが、特に、これに限らず、保護管20の内側において長手方向に沿って螺旋状に設けられていてもよい。
【0015】
さらに、本実施形態に係るワイヤーハーネス1において、複数の突出部21は全てが電線10に接触している。具体的に複数の突出部21は先端側が電線10の被覆12に食い込むように接触しており、接触面積が確保されている。
【0016】
このようなワイヤーハーネス1においては、例えば導体11の周囲に被覆12が押出成形されて電線10が製造される。また、押出機による押出によって複数の突出部21を有する保護管20についても製造される。その後、保護管20内に電線10が挿入されることで、ワイヤーハーネス1が製造される。
【0017】
次に、本実施形態に係るワイヤーハーネス1の作用を説明する。本実施形態に係るワイヤーハーネス1において電線10が通電される。これにより、導体11が発熱する。発生した熱は被覆12から複数の突出部21を介して保護管20に至る。そして、保護管20より放熱等される。なお、電線10と保護管20との間には一部空気層が介在しているが、被覆12や複数の突出部21の方が空気層よりも熱伝導率が高いため、被覆12や複数の突出部21を介した放熱が促進される。
【0018】
図2は、本実施形態に係るワイヤーハーネス1の電線重量と複数の突出部21との相関を示すグラフであり、(a)は接触率と電線重量との相関を示し、(b)は接触率と電線軽量化効果との相関を示している。
【0019】
まず、
図2(a)に示すように、電線10と複数の突出部21との接触率が0%である場合、例えば電線重量が563gとする。ここで、電線10と複数の突出部21との接触率を50%とすると放熱性が高まるため、導体11の保護のために被覆12を厚くする必要がなくなり被覆12を薄くすることができる。よって、電線重量は例えば499gとなる。また、電線10と複数の突出部21との接触率を100%とすると、より放熱性が高まることから被覆12を薄くすることができ、電線重量は例えば434gとなる。
【0020】
よって、
図2(b)に示すように、接触率を50%とすることで10%以上(約11.4%)の電線重量を軽量化することができる。さらに、接触率を100%とすることで約33%の電線重量を軽量化することができる。本実施形態に係るワイヤーハーネス1は例えば接触率は50%以上を目標とし、10%以上の軽量化が図られたワイヤーハーネス1とされている。
【0021】
このようにして、本実施形態に係るワイヤーハーネス1によれば、保護管20は内側に周方向に離間して設けられると共に保護管20の長手方向に沿って連続して設けられる複数の突出部21を有し、複数の突出部21は、全てが電線10に接触している。このように、複数の突出部21は環状ではなく、保護管20の長手方向に沿って長尺に設けられることとなり、そのような複数の突出部21の全てが電線10に接触しているため、電線10の長手方向に沿って連続的に放熱が可能となり、放熱性の向上を図ることができる。
【0022】
なお、環状の突出部を長手方向に間隔を空けて有する場合には、保護管20内に電線10を挿入する際に、例えば1つ目の環状の突出部を通過させた後に、2つ目の環状の突出部で電線10の先端が引っ掛かってしまう可能性があるが、複数の突出部21が長手方向に沿って連続して設けられていることから、このような引っ掛かりが生じることなく挿入性の向上を図ることができる。
【0023】
また、複数の突出部21は断面視した場合にそれぞれの先端がR形状となっているため、突出部21がR形状でなく角部がある場合のように角部が電線10の被覆12に食い込むことに起因する引っ掛かりの作用を発生させてしまうことがない。よって、保護管20内に電線10を挿入する際の挿入性を向上させることができる。
【0024】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係るワイヤーハーネスは第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0025】
図3は、第2実施形態に係るワイヤーハーネスを示す断面図である。
図3に示すように、第2実施形態に係るワイヤーハーネス2は、電線10の導体11が単線によって構成されている。
【0026】
さらに、第2実施形態に係るワイヤーハーネス2は、電線10が長手方向に延びる凹溝12aを複数(例えば90°間隔で4つ)有している。また、保護管20の複数(例えば凹溝12aと同数の4つ)の突出部21は複数の凹溝12aに嵌まり込む。特に、複数の突出部21は角部を有した凸部となっており、凹溝12aについても角部を有した凹部となっており、両者は同形状となっている。これにより、第2実施形態では複数の突出部21と複数の凹溝12aとが面接触して接触面積が増大することとなり放熱性を高めることができる。
【0027】
このようなワイヤーハーネス2においては、例えば導体11の周囲に複数の凹溝12aを有した被覆12が押出成形されて電線10が製造される。また、押出機による押出によって角部がある複数の突出部21を有する保護管20についても製造される。その後、保護管20の複数の突出部21と複数の凹溝12aとを合致させて保護管20内に電線10が挿入されることで、ワイヤーハーネス2が製造される。
【0028】
このようにして、第2実施形態に係るワイヤーハーネス2によれば、第1実施形態と同様に、放熱性の向上を図ることができ、保護管20内に電線10を挿入する際の挿入性を向上させることができる。
【0029】
さらに、第2実施形態によれば、複数の突出部21が複数の凹溝12aに嵌まり込むことにより、両者の接触面積を増大させて放熱性を高めることができる。
【0030】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係るワイヤーハーネスは第2実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第2実施形態との相違点を説明する。
【0031】
図4は、第3実施形態に係るワイヤーハーネスを示す断面図である。
図4に示すように、第3実施形態に係るワイヤーハーネス3において保護管20は、その外側において長手方向に沿って延びる凹部22を複数(例えば4つ)有している。この複数の凹部22により、作業者の手等の滑りが抑制され、保護管20内に電線10を挿入する場合の作業性の向上を図るようにしている。
【0032】
ここで、複数の凹部22は、複数の突出部21の裏側となる位置に形成されている。これにより、複数の凹部22の形成位置において保護管20の肉厚が極端に薄くなることを防止している。
【0033】
このようなワイヤーハーネス3においては、第2実施形態と同様に、例えば導体11の周囲に複数の凹溝12aを有した被覆12が押出成形されて電線10が製造される。また、押出機による押出によって角部がある複数の突出部21を有すると共に複数の突出部21の裏側となる位置に複数の凹部22が形成された保護管20についても製造される。その後、保護管20の複数の突出部21と複数の凹溝12aとを合致させて保護管20内に電線10が挿入されることで、ワイヤーハーネス3が製造される。
【0034】
このようにして、第3実施形態に係るワイヤーハーネス3によれば、第2実施形態と同様に、放熱性の向上を図ることができ、保護管20内に電線10を挿入する際の挿入性を向上させることができる。また、両者の接触面積を増大させて放熱性を高めることができる。
【0035】
さらに、第3実施形態によれば、保護管20はその外側において長手方向に沿って延びる複数の凹部22を有しているため、作業者は当該凹部22にて保護管20を保持し易くなり、電線挿入等の作業性の向上を図ることができる。
【0036】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態に係るワイヤーハーネスは第1実施形態のものと同様であるが、一部構成が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0037】
図5は、第4実施形態に係るワイヤーハーネスを示す断面図である。
図5に示すように、第4実施形態に係るワイヤーハーネス4において保護管20は、複数(例えば4つ)の突出部21として筆状部23を備えている。筆状部23は、樹脂製等からなる多数の毛状の部材である。
【0038】
筆状部23は、電線10の外径と、保護管20の内径との差分よりも、その長さが長くされている。すなわち、筆状部23は、同心円状に配置される電線10と保護管20との隙間Gよりも長くされている。
【0039】
図6は、
図5に示したワイヤーハーネス4の長手方向断面図である。
図6に示すように、第4実施形態に係るワイヤーハーネス4は、保護管20内に電線10が挿入される際に、電線10が隙間Gよりも長い筆状部23を押し退けながら挿入されることとなる。これにより、筆状部23は、電線10に接触することとなる。このとき、
図6に示すように筆状部23は、電線10の挿入時に押し退けられて撓んでいることから弾性力を発揮して電線10を保護管20の中心に位置させるように作用することとなる。
【0040】
このようなワイヤーハーネス4においては、例えば導体11の周囲に被覆12が押出成形されて電線10が製造される。また、押出機による押出によって複数の突出部21を有しない保護管20についても製造され、これとは別に製造された筆状部23が保護管20内に取り付けれる。なお、保護管20は、筆状部23の取付が容易となるように、例えば半筒状に押出成形され、筆状部23が取り付けられた後に2つの半筒部分が組み合わされて筒状とされてもよい。また、保護管20が半筒状に押出成形される場合には、2つの半筒部分によって電線10を挟み込むようにしてワイヤーハーネス4を形成してもよい。
【0041】
このようにして、第4実施形態に係るワイヤーハーネス4によれば、第1実施形態と同様に、放熱性の向上を図ることができ、保護管20内に電線10を挿入する際の挿入性を向上させることができる。
【0042】
さらに、第4実施形態によれば、複数の突出部21として多数の毛状の筆状部23を備えるため、弾性力を発揮して電線10を保護管20の中心に位置させることができ、放熱性に偏りが生じる事態を抑制することができる。
【0043】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能であれば実施形態同士の技術を組み合わせてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み立てもよい。
【0044】
例えば、電線10の導体11は第1実施形態において複数本の素線11aから構成されているが、特にこれに限らず、単線から構成されていてもよい。また、第2~第4実施形態において導体11は単線から構成されているが、特にこれに限らず、複数本の素線11aから構成されていてもよい。
【0045】
また、上記実施形態において保護管20は長手方向に連続してスリットが設けられていてもよいし、ヒンジ部を介して開閉する構成であってもよい。加えて、保護管20内の電線10は1本に限らず、複数本であってもよい。
【0046】
加えて、上記実施形態では複数の突出部21が周方向に同一の間隔を有して配置されているが、同一間隔に限らず、異なる間隔を有して配置されていてもよい。このため、例えば保護管20の内側の一側のみに複数の突出部21を有し、他側においては保護管20の内周面と電線10とが直接接触するような構成であってもよい。
【0047】
さらに、第2及び第3実施形態において複数の突出部21は複数の凹溝12aと同形状となっているが、これに限らず、接触面積の増大効果があれば異なる形状であってもよい。例えば複数の突出部21の先端が尖った形状となっており、複数の凹溝12aに嵌り込みつつも、尖った部分が被覆12に食い込んで更なる接触面積の増大効果をもたらすようにしてもよい。また、例えば複数の突出部21の先端がR形状となって凹溝12a内の被覆12に対して食い込むように作用してもよい。さらには、一部隙間を有していてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1~4 :ワイヤーハーネス
10 :電線
11 :導体
12 :被覆
12a :複数の凹溝
20 :保護管
21 :複数の突出部
22 :複数の凹部