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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】振動特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240321BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240321BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
G01M17/02
G01H17/00 D
B60C19/00 H
B60C19/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020134095
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030245
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尚史
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038159(JP,A)
【文献】特開2019-015574(JP,A)
【文献】特開2004-340688(JP,A)
【文献】特開2014-238320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0126696(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
G01H 1/00 - 17/00
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが装着された車両を、突起を有する路面上で走行させる走行工程と、
振動を測定するセンサで、前記走行工程における車両の振動を測定する測定工程と、
前記測定工程で得られた前記振動の波形に基づき、前記振動の特性を評価する評価工程とを有する振動特性評価方法において、
前記評価工程では、周波数の異なる複数の振動モードの波形の足し合わせとして表現される関数により前記波形のカーブフィットを行うことを特徴とする、振動特性評価方法。
【請求項2】
前記評価工程において、前記波形の最初の4つ目までのピーク及び最初の4つ目までのボトムの大小関係に基づき、前記波形における前記カーブフィットの始点を設定する、請求項1に記載の振動特性評価方法。
【請求項3】
車両における懸架ばねよりタイヤに近い場所に前記センサを設け、
前記の複数の振動モードとして、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振及び懸架ばね前後共振を使用する、請求項1又は2に記載の振動特性評価方法。
【請求項4】
車両の車内に前記センサを設け、
前記の複数の振動モードとして、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振、懸架ばね前後共振及びボディ前後共振を使用する、請求項1又は2に記載の振動特性評価方法。
【請求項5】
車両における懸架ばねよりタイヤに近い場所に前記センサを設け、
前記の複数の振動モードとして、タイヤ径方向上下共振及び懸架ばね上下共振を使用する、請求項1又は2に記載の振動特性評価方法。
【請求項6】
車両の車内に前記センサを設け、
前記の複数の振動モードとして、タイヤ径方向上下共振、懸架ばね上下共振及びボディ上下共振を使用する、請求項1又は2に記載の振動特性評価方法。
【請求項7】
前記評価工程において、前記の複数の振動モードの周波数の初期値が設定されて前記カーブフィットが行われ、
前記初期値として、前記測定工程での測定データを周波数分析して得られた波形のピークの周波数が設定される、請求項1~6のいずれか1項に記載の振動特性評価方法。
【請求項8】
前記評価工程において、前記の複数の振動モードの周波数の初期値が設定されて前記カーブフィットが行われ、
タイヤ前後ねじり共振の周波数が評価対象のタイヤと異なりかつ30Hzより大きい試験タイヤを準備する準備工程と、
前記試験タイヤが装着された車両を、突起を有する路面上で走行させ、前記センサで振動を測定する試験工程と、
前記試験工程で測定された前記試験タイヤの振動のデータを周波数分析し、10~30Hzにあるピークの周波数を懸架ばね前後共振の周波数として特定する周波数特定工程と、
前記測定工程で測定された評価対象のタイヤの振動のデータを周波数分析して得られたピークの周波数のうち、前記周波数特定工程において特定した懸架ばね前後共振の周波数と同じか一番近い周波数を、前記評価工程のカーブフィットにおいて使用する懸架ばね前後共振の周波数の初期値とする当てはめ工程とを有する、
請求項3又は4に記載の振動特性評価方法。
【請求項9】
前記周波数特定工程において、前記試験タイヤの振動のデータの周波数分析結果の10~30Hzに懸架ばね前後共振と特定されるピークがないとき、5Hz~タイヤ前後ねじり共振の周波数の範囲まで探索範囲を広げてピークを探索し、その結果発見されたピークの周波数を、前記評価工程のカーブフィットにおいて使用する懸架ばね前後共振の周波数の初期値とする、請求項8に記載の振動特性評価方法。
【請求項10】
前記評価工程において、前記の複数の振動モードの周波数の初期値が設定されて前記カーブフィットが行われ、
2種類の試験タイヤを準備する準備工程と、
前記試験タイヤが装着された車両を、突起を有する路面上で走行させ、前記センサで振動を測定する試験を、2種類の前記試験タイヤについて行う試験工程と、
前記試験工程で測定された2種類の前記試験タイヤの振動のデータをそれぞれ周波数分析し、10~30Hzの範囲内かつ2種類の前記試験タイヤで周波数が変化しないピークの周波数を懸架ばね前後共振の周波数として特定する周波数特定工程と、
前記測定工程で測定された評価対象のタイヤの振動のデータを周波数分析して得られたピークの周波数のうち、前記周波数特定工程において特定した懸架ばね前後共振の周波数と同じか一番近い周波数を、前記評価工程のカーブフィットにおいて使用する懸架ばね前後共振の周波数の初期値とする当てはめ工程とを有する、
請求項3又は4に記載の振動特性評価方法。
【請求項11】
前記周波数特定工程において、前記試験タイヤの振動のデータの周波数分析結果の10~30Hzに懸架ばね前後共振と特定されるピークがないとき、5~50Hzの範囲まで探索範囲を広げてピークを探索し、その結果発見されたピークで、2種類の前記試験タイヤで周波数が変化しないピークの周波数を、前記評価工程のカーブフィットにおいて使用する懸架ばね前後共振の周波数の初期値とする、請求項10に記載の振動特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動特性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、タイヤを車両に装着し、その車両を路面上で走行させる工程と、タイヤが路面上の突起を乗り越えることで生じた振動(加速度)を測定する工程と、測定された振動の減衰特性に基づいてタイヤの乗り心地性能を評価する工程と、を含むタイヤの振動特性の評価方法が知られている。
この方法において測定される振動の時系列変化は、複数のピークを有する。特許文献1では、それら複数のピークを指数関数で近似し、振動の減衰率を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-15574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の方法で測定される振動は、タイヤのねじり共振、タイヤ径方向共振、懸架ばねの共振等の様々なモードの振動や、外乱等が合成されて出来たものである。しかし、振動特性の評価では、各振動モードの振動特性を評価することや、各振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することが、要求されている。しかし、上記の方法は、そのような要求に応えるものではなかった。
【0005】
そこで本発明は、各振動モードの振動特性を評価することができ、また、各振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の振動特性評価方法は、タイヤが装着された車両を、突起を有する路面上で走行させる走行工程と、振動を測定するセンサで、前記走行工程における車両の振動を測定する測定工程と、前記測定工程で得られた前記振動の波形に基づき、前記振動の特性を評価する評価工程とを有する振動特性評価方法において、前記評価工程では、周波数の異なる複数の振動モードの波形の足し合わせとして表現される関数により前記波形のカーブフィットを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記の方法によれば、各振動モードの振動特性を評価することができ、また、各振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1のフローチャート。
図2】実施形態1の走行工程を説明する図。
図3】実施形態1のデータ処理装置を示す図。
図4】実施形態1の測定データに基づく振動の波形を示す図。
図5図4のデータを周波数分析して得られた波形を示す図。
図6】実施形態2の測定データに基づく振動の波形を示す図。
図7図6のデータを周波数分析して得られた波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0010】
1.実施形態1
図1に示すように、実施形態1は、走行工程S1と、測定工程S2と、評価工程S3とを含んでいる。走行工程S1は、タイヤが装着された車両を、突起を有する路面上で走行させる工程である。測定工程S2は、振動を測定するセンサで、走行工程S1における車両の振動を測定する工程である。なお、図1では走行工程S1の次に測定工程S2を記載してあるが、実際には走行工程S1の開始から間もなく測定工程S2が開始され、それ以降、走行工程S1と測定工程S2とが並行して行われる。評価工程S3は、測定工程S2で得られた振動の波形に基づき、振動特性を評価する工程である。
【0011】
まずは、実施形態1の方法を実施するための装置等について説明する。
【0012】
図2に示すように、走行工程S1で使用される路面10には、上へ向かって突出した突起11が設けられている。路面10のうち突起11以外の部分は、突起のない平面からなる。突起11の、車両12の進行方向(図2の矢印の方向)かつ上下方向に広がる面での断面形状は、図2のような台形の他、半円形や長方形等でも良い。
【0013】
突起11の高さは、例えば5mm以上20mm以下である。また、突起11の、車両12の進行方向への長さは、例えば10mm以上30mm以下である。また、突起11の、車両12の進行方向に直交する方向(つまり車両12に装着されたタイヤ13の幅方向)への長さは、例えば、車両12の左右両方のタイヤ13が同時に乗り越えられる長さである。なお、図2では、突起11を誇張して大きく描いてある。
【0014】
走行工程S1では、車両12が走行し、車両12に装着されたタイヤ13がこのような突起11を乗り越えることになる。突起11を乗り越えることがタイヤ13に対する加振入力となる。
【0015】
この加振入力により始まるタイヤ13の振動が、測定工程S2において測定される。タイヤ13の振動を測定するためのセンサ14は車両12に設けられている。実施形態1において、センサ14は加速度計で、加速度の時系列変化を測定できる。また、センサ14は、少なくとも、車両12の前後方向(すなわち進行方向及びその反対方向)及び上下方向への加速度を測定できる。ただし、センサ14が後述するようにホイールの内側の場所に設けられる場合は、センサ14として6分力計のような力を測定するセンサが使用されても良い。
【0016】
実施形態1では、このセンサ14が、車両12の前輪側及び後輪側のそれぞれにおける、懸架ばね(サスペンションを構成しているばね)よりタイヤ13に近い場所に設けられている。懸架ばねよりタイヤ13に近い場所において測定される振動の主なモードは、タイヤの前後のねじり共振、タイヤ径方向共振及び懸架ばねの共振である。従って、この場所に設けられたセンサ14で振動を測定することにより、これらの振動モードの影響による振動特性を評価することができる。なお、車両12の前輪及び後輪には同じタイヤ13が装着されている。
【0017】
懸架ばねよりタイヤ13に近い場所としては、ハブナックルから、サスペンションの懸架ばねより下側の部分にかけての場所や、ホイールの内側の場所等が挙げられる。本実施形態では、センサ14がハブナックルに設けられているものとする。
【0018】
評価工程S3では、センサ14により測定されたデータを、データ処理装置20が処理する。データ処理装置20は、コンピュータであり、演算部21、信号処理部22、記憶部23、入出力部24を有している。演算部21は振動に関する演算を実行する。ここで、振動に関する演算とは、後述する周波数分析やカーブフィット等のことである。信号処理部22は、センサ14による測定データを取得し、時系列の振動の波形を作成する。記憶部23は、演算部21による演算に使用されるコンピュータプログラムを記憶している。
【0019】
入出力部24は、データ処理装置20と外部機器とを接続している。外部機器として、表示装置26及び入力装置25が接続されている。信号処理部22は、入出力部24を介して、入力装置25からセンサ14による測定データを取得する。また、演算部21は、入出力部24を介して、表示装置26に演算結果を表示する。
【0020】
次に、実施形態1の方法の詳細について説明する。
【0021】
まず、走行工程S1では、上記のようにセンサ14が設けられた車両12が、路面10を走行する。車両12の走行速度は、例えば時速30~50kmである。そして、タイヤ13が突起11を乗り越えると、タイヤ13に対し加振入力され、タイヤ13及び車両12が振動する。タイヤ13及び車両12の振動は、時間の経過と共に減衰していく。
【0022】
このとき生じる振動モードには、タイヤの回転方向へのねじれの共振、タイヤ径方向共振、懸架ばねの共振及び車両のボディ(以下「ボディ」)の共振が含まれる。
【0023】
タイヤ径方向共振、懸架ばねの共振及びボディの共振は、少なくとも前後方向及び上下方向への振動として現れる。タイヤ径方向共振の前後方向への振動として現れるモードを「タイヤ径方向前後共振」とし、上下方向への振動として現れるモードを「タイヤ径方向上下共振」とする。また、懸架ばねの共振の前後方向への振動として現れるモードを「懸架ばね前後共振」とし、上下方向への振動として現れるモードを「懸架ばね上下共振」とする。また、ボディの共振の前後方向への振動として現れるモードを「ボディ前後共振」とし、上下方向への振動として現れるモードを「ボディ上下共振」とする。また、タイヤの回転方向へのねじれにより、前後方向への振動として現れるモードを、「タイヤ前後ねじり共振」と言うこととする。
【0024】
各振動モードの周波数は、タイヤ前後ねじり共振が16~48Hz、タイヤ径方向前後共振及びタイヤ径方向上下共振が60~160Hz、懸架ばね前後共振及び懸架ばね上下共振が10~30Hz、ボディ前後共振及びボディ上下共振が1~5Hzである。
【0025】
実施形態1では、車両12における懸架ばねよりタイヤ13に近い場所にセンサ14が設けられているので、センサ14で測定される振動には、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振、タイヤ径方向上下共振、懸架ばね前後共振及び懸架ばね上下共振の各モードが含まれる。
【0026】
車両12の前輪のタイヤ13が突起11を乗り越えた後、後輪のタイヤ13が突起11を乗り越えるので、前輪のタイヤ13に対する加振入力から少し時間を空けて後輪のタイヤ13に対する加振入力がある。
【0027】
この走行工程S1と並行して測定工程S2が行われる。測定工程S2ではセンサ14が振動を測定する。センサ14が測定するのは、正確には、前後方向への加速度と、上下方向への加速度の、それぞれの時系列データである。測定は、前輪のタイヤ13が突起11を乗り越える前に開始され、後輪のタイヤ13が突起11を乗り越えてから十分に時間が経過して振動が十分に減衰したときに終了する。
【0028】
測定工程S2の後に評価工程S3が行われる。評価工程S3では、まず、センサ14による測定データに基づき、データ処理装置20が時系列の振動の波形を作成する。具体的には、前輪側及び後輪側での前後方向の振動の波形と、前輪側及び後輪側での上下方向の振動の波形とが作成される。参考のため、前輪側の前後方向の振動の波形を図4に示す。
【0029】
図4からわかるように、波形には、加速度の極大値の部分であるピークと、加速度の極小値の部分であるボトムとが現れる。なお、ピーク及びボトムは、それぞれ、加速度の絶対値が所定値以上のものを指すものとする。例えば、タイヤ13が突起11を乗り越える前の小さな波形における極小値や極大値の部分は、絶対値が小さいので、ピークやボトムに含まれないものとする。タイヤ13が突起11を乗り越えた後の波形においても、極小値や極大値の絶対値が、タイヤ13が突起11を乗り越える前の小さな波形における極小値や極大値の絶対値以下のものについては、ピークやボトムに含まれないものとする。
【0030】
次に、データ処理装置20は、図4のような振動の波形を描く各データの周波数分析を行う。周波数分析により、前輪側及び後輪側のそれぞれについての、前後方向の振動の周波数とレベルの関係を示す波形が得られる。また、周波数分析により、前輪側及び後輪側のそれぞれについての、上下方向の振動の周波数とレベルの関係を示す波形が得られる。参考のため、前輪側の前後方向の振動の周波数分析結果、つまり図4の波形のデータの周波数分析結果を、図5に示す。
【0031】
上記の通り、各振動モードの周波数は、懸架ばねの共振が10~30Hz、タイヤ前後ねじり共振が16~48Hz、タイヤ径方向共振が60~160Hzであることがわかっている。そのことと周波数分析結果とから、走行工程S1において生じたタイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振、懸架ばね前後共振、タイヤ径方向上下共振及び懸架ばね上下共振の周波数が特定される。
【0032】
例えば、図5に示す前後方向の振動の周波数分析結果から、10~30Hzの範囲では21Hzに、16~48Hzの範囲では41Hzに、60~160Hzの範囲では87Hzに、それぞれピークが存在すると言える(これら3つのピークを図5に矢印で示す)。このことから、実施形態1において、懸架ばね前後共振の周波数が21Hz、タイヤ前後ねじり共振の周波数が41Hz、タイヤ径方向前後共振の周波数が87Hzであると特定される。これと同様にして、実施形態1におけるタイヤ径方向上下共振及び懸架ばね上下共振の周波数も特定される。つまり、周波数分析結果の波形のピークが、ある振動モードの周波数範囲として予めわかっている周波数範囲内にあるとき、そのピークの周波数がその振動モードの周波数として特定される。
【0033】
このような周波数の特定は、データ処理装置20が自動で行っても良いし、フーリエ変換を実行できる各種アプリケーションで行っても良い。また、各振動モードの周波数の特定は前輪側と後輪側の両方について行われる。以上のように特定された周波数は、後述するカーブフィットにおける周波数の初期値として使用される。このようにして周波数分析結果の波形のピークから各振動モードの周波数を特定する工程を、周波数初期値特定工程と言うこととする。
【0034】
次に、データ処理装置20の作成した時系列の振動の波形から、後述するカーブフィットの始点、すなわちカーブフィットに使用される一番早い時刻が特定される。
【0035】
ここで、タイヤ13が突起11を乗り越えている最中は振動の減衰が始まっておらず、振動の波形におけるエンベロープ部分(タイヤ13が突起11を乗り越えている最中の部分)ではピークやボトムにおける加速度の大きさの時系列変化が不規則である。そのため、カーブフィットに使用されるデータからは、エンベロープ部分のデータを除外する必要がある。そのために、カーブフィットに使用される一番早い時刻のデータ、すなわちカーブフィットの始点のデータを特定する必要がある。
【0036】
エンベロープ部分は、振動の波形の最初の4つのピーク及び最初の4つのボトムの並ぶ範囲内であることがわかっている(ただし、センサ14の位置等によっては、それらの4つのピーク及び4つのボトムの一部が、ピークやボトムとして認識できないほど絶対値が小さくなる場合がある)。そこで、カーブフィットの始点のデータは、波形の最初の4つ目までのピーク及び最初の4つ目までのボトムの大小関係に基づき、例えば次の方法で特定される。
【0037】
第一に、時刻が早い方から2番目のピークよりも後(時刻が遅い時間帯)に、波形の中で最も値の小さいボトムが現れる場合、その最も値の小さいボトムの頂点がカーブフィットの始点となる。
【0038】
第二に、時刻が早い方から1番目のピークと2番目のピークとの間に明確なボトムがなく、時刻が早い方から1番目のボトムが波形の中で最も値の小さいボトムである場合、その最も値の小さいボトムの頂点がカーブフィットの始点となる。
【0039】
第三に、時刻が早い方から3番目のピークの値が、時刻が早い方から4番目のピークの値より小さい場合、3番目のピークと4番目のピークの間のボトムの頂点が、カーブフィットの始点となる。
【0040】
ちなみに、図4の波形は、上記の第一の場合や第三の場合に該当する。そのため、図4に矢印で示すボトムが、カーブフィットの始点となる。
【0041】
また、前後方向の振動の波形から特定されたカーブフィットの始点を、上下方向の振動の波形に対するカーブフィットの始点として使用しても良い。また、上下方向の振動の波形から特定されたカーブフィットの始点を、前後方向の振動の波形に対するカーブフィットの始点として使用しても良い。
【0042】
また、必要な場合は、カーブフィットの終点、すなわちカーブフィットに使用される一番遅い時刻が、適宜設定される。
【0043】
以上のようにしてカーブフィットの始点が特定されると、データ処理装置20は、その始点以降のデータに対しカーブフィットを行う。カーブフィットには、複数の振動モードの波形の足し合わせとして表現される次の関数が用いられる。
【0044】
【数1】
【0045】
ここで、iは自由度の数(カーブフィットに使用される振動モードの数)で、実施形態1における前後方向の振動の波形のカーブフィットにおいては、i=3である。そして、n=1がタイヤ前後ねじり共振、n=2がタイヤ径方向前後共振、n=3が懸架ばね前後共振を意味する。
【0046】
また、数1において、Yは加速度、tは時刻、Aは振幅、τは減衰係数、fは周波数、Pは位相、Dは加速度0からのオフセット量である。
【0047】
数1の関数を用いたカーブフィットにあたり、事前に、A、τ、P、f及びDについて、それぞれ初期値と許容範囲が設定される。
【0048】
数1の関数で前後方向の振動の波形のカーブフィットを行う際に、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたタイヤ前後ねじり共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたタイヤ径方向前後共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定された懸架ばね前後共振の周波数が使用される。
【0049】
また、上下方向の振動の波形のカーブフィットにおいても、数1の関数が用いられる。ただし、実施形態1における上下方向の振動の波形のカーブフィットにおいては、i=2である。n=1がタイヤ径方向上下共振、n=2が懸架ばね上下共振を意味する。
【0050】
数1の関数で上下方向の振動の波形のカーブフィットを行う際に、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたタイヤ径方向上下共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定された懸架ばね上下共振の周波数が使用される。
【0051】
数1の関数を用いた前後方向及び上下方向の振動の波形のそれぞれのカーブフィットでは、最小二乗法等の近似手法が適宜用いられ、波形にフィットするようにA、τ、P、f及びDが計算される。図4に、カーブフィットの結果から算出した減衰特性を破線で示す。A、τ、P、f及びDは、初期値から出発して、上記の許容範囲内の値に収束する。
【0052】
こうして求まったA、τ、P、f、D又はこれらの数値が組み込まれた数1の関数が、振動特性を評価する指標となる。例えば、減衰係数τの値から、各振動モードの減衰のしやすさがわかる。また、振幅Aの値から、前後方向や上下方向への振動への、各振動モードの影響の大きさがわかる。また、数1の関数により、各振動モードが合成された全体としての振動特性も評価することができる。
【0053】
評価工程S3の最後に、カーブフィットの結果等が表示装置26に表示される。
【0054】
以上のように、実施形態1では、測定工程S2で得られた振動の波形に対しカーブフィットを行い、その結果から振動特性を評価するにあたり、周波数の異なる複数の振動モードの波形の足し合わせとして表現される関数によりカーブフィットを行う。それにより、各振動モードの振動特性を評価することができ、また、各振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することができる。
【0055】
具体的には、実施形態1では、センサ14が懸架ばねよりタイヤ13に近い場所に設けられているため、測定工程S2では、タイヤの前後のねじり共振、タイヤ径方向共振及び懸架ばね共振の各モードの影響を受けた振動がセンサ14で測定される。
【0056】
そして、評価工程S3における、前後方向の振動の波形に対するカーブフィットでは、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振及び懸架ばね前後共振の3つの振動モードを使用した数1の関数によりカーブフィットが行われる。そのため、カーブフィットの結果に基づき、前後方向の振動における上記3つの振動モードの振動特性をそれぞれ評価することができ、また、前後方向の振動において支配的な上記3つの振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することができる。
【0057】
また、評価工程S3における、上下方向の振動の波形に対するカーブフィットでは、タイヤ径方向上下共振及び懸架ばね上下共振の2つの振動モードを使用した数1の関数によりカーブフィットが行われる。そのため、カーブフィットの結果に基づき、上下方向の振動における上記2つの振動モードの振動特性をそれぞれ評価することができ、また、上下方向の振動において支配的な上記2つの振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することができる。
【0058】
また、振動の波形の最初の4つ目までのピーク及び最初の4つ目までのボトムの大小関係に基づき、波形におけるカーブフィットの始点を設定するので、エンベロープ部分が除外された波形に対してカーブフィットすることになる。その結果、振動特性を精度良く評価することができる。
【0059】
以上の実施形態に対し様々な変更を行うことができる。ここでは変更例について説明する。
【0060】
<変更例1>
走行工程S1で車両12が走行する路面として、多数の凹凸が連続して形成された不整路面部と、凹凸のない平面部とからなり、不整路面部が平面部よりも車両12の進行方向手前側に設けられた路面が採用可能である。始めに車両12が不整路面部を走行することによりタイヤ13が振動するが、その後車両12が平面部に入ると凹凸からの入力がなくなるのでタイヤ13の振動が減衰していく。そのときの減衰をセンサ14で測定することにより、上記と同様に振動特性を評価することができる。
【0061】
<変更例2>
懸架ばね前後共振の周波数(10~30Hz)とタイヤ前後ねじり共振の周波数(16~48Hz)は、16~30Hzの範囲で重なっている。そのため、センサ14による測定データを周波数分析しても、16~30Hzの範囲に2つのピークが現れると、それぞれのピークが懸架ばね前後共振とタイヤ前後ねじり共振のいずれのピークなのか、特定できない。そのような場合は、次の方法により、懸架ばね前後共振の周波数とタイヤ前後ねじり共振の周波数を特定する。
【0062】
この方法は、準備工程と、試験工程と、周波数特定工程と、当てはめ工程とを有している。
【0063】
まず、準備工程では、上記実施形態の方法での評価対象のタイヤ13とは異なるタイヤ(以下「試験タイヤ」とする)が準備される。試験タイヤは、タイヤ前後ねじり共振の周波数が評価対象のタイヤ13と異なりかつ30Hzより大きい。ここで、後述する周波数分析を行ったときに懸架ばね前後共振とタイヤ前後ねじり共振の周波数が分離されやすいように、試験タイヤのタイヤ前後ねじり共振の周波数が30Hzより大きく、かつ、30Hzとの差の絶対値が大きいことが好ましい。
【0064】
次の試験工程では、試験タイヤが装着された車両12を、突起11を有する路面10上で走行させ、試験タイヤが突起11を乗り越す前後の振動をセンサ14で測定する。この試験工程で使用される車両12、突起11、路面10及びセンサ14は、上記実施形態で使用されるものと同じである。
【0065】
次の周波数特定工程では、試験工程で測定された試験タイヤの振動のデータの周波数分析が行われる。そして、10~30Hzの範囲に現れるピークの周波数が懸架ばね前後共振の周波数として特定される。
【0066】
次の当てはめ工程では、上記実施形態の評価工程S3での周波数分析結果として得られた複数のピークの周波数のうち、本変更例の周波数特定工程において特定した懸架ばね前後共振と同じ周波数(同じ周波数のピークがない場合は、本変更例の周波数特定工程において特定した懸架ばね前後共振に一番近い周波数)を、上記実施形態の評価工程S3において使用する懸架ばね前後共振の周波数とする。ここで、車両12が同じであれば、装着されるタイヤが異なっても、懸架ばね前後共振の周波数は同じである。そして、上記実施形態の走行工程S1とこの変更例の試験工程で、同じ車両12が使用される。そのため、周波数特定工程において特定された懸架ばね前後共振の周波数を、上記実施形態の評価工程S3において使用する懸架ばね前後共振の周波数とすることができるのである。
【0067】
以上の方法により、周波数分析結果の16~30Hzの範囲に2つのピークが現れても、懸架ばね前後共振とタイヤ前後ねじり共振のピーク及び周波数を特定することができる。
【0068】
この変更例の方法は、図5のように16~30Hzの範囲に明確なピークがないときにも、懸架ばね前後共振の周波数とタイヤ前後ねじり共振の周波数の特定のために使用することができる。
【0069】
このように懸架ばね前後共振の周波数とタイヤ前後ねじり共振の周波数を特定することで、カーブフィット後、各振動モードごとの振動特性を確認できる。
【0070】
なお、車両によっては、10~30Hzの範囲外に懸架ばね前後共振のピークが存在することも考えられる。そこで、試験タイヤの振動のデータの周波数分析結果の10~30Hzに懸架ばね前後共振と特定されるピークがないとき、5Hz~タイヤ前後ねじり共振の周波数(試験タイヤのタイヤ前後ねじり共振の周波数は、試験タイヤを準備した時点で既に判明している)の範囲まで探索範囲を広げてピークを探索する。ここで、探索範囲を10~30Hzから5Hz~タイヤ前後ねじり共振の周波数まで一気に拡大しても良いし、徐々に拡大していっても良い。そして、拡大された周波数領域でピークが発見された場合、そのピークの周波数を評価工程において使用する懸架ばね前後共振の周波数とする。
【0071】
<変更例3>
センサ14による測定データを周波数分析して、16~30Hzの範囲に2つのピークが現れる場合は、変更例2の他に次の方法によっても、懸架ばね前後共振の周波数とタイヤ前後ねじり共振の周波数を特定することができる。
【0072】
この方法も、準備工程と、試験工程と、周波数特定工程と、当てはめ工程とを有している。
【0073】
まず、準備工程では、2種類の試験タイヤが準備される。2種類の試験タイヤは振動特性が異なり、少なくともタイヤ前後ねじり共振の周波数が異なる。
【0074】
次の試験工程では、試験タイヤが装着された車両12を、突起11を有する路面10上で走行させ、試験タイヤが突起11を乗り越す前後の振動をセンサ14で測定する。この測定は、2種類の試験タイヤそれぞれについて行われる。この試験工程で使用される車両12、突起11、路面10及びセンサ14は、上記実施形態で使用されるものと同じである。
【0075】
次の周波数特定工程では、試験工程で測定された試験タイヤの振動のデータの周波数分析が行われる。ここで、変更例2において説明したように、車両12が同じであれば、装着される試験タイヤが異なっても、懸架ばね前後共振の周波数は同じである。そこで、周波数分析結果において、10~30Hzの範囲内かつ2種類の試験タイヤで周波数が変化しないピークの周波数が、懸架ばね前後共振の周波数として特定することができる。
【0076】
次の当てはめ工程では、上記実施形態の測定工程S2で測定されたタイヤ13の振動データを周波数分析して得られたピークの周波数のうち、周波数特定工程において特定した懸架ばね前後共振と同じか一番近い周波数を、評価工程S2において使用する懸架ばね前後共振の周波数とする。
【0077】
以上の方法により、周波数分析結果の16~30Hzの範囲に2つのピークが現れても、懸架ばね前後共振とタイヤ前後ねじり共振のピーク及び周波数を特定することができる。
【0078】
この変更例の方法は、図5のように16~30Hzの範囲に明確なピークがないときにも、懸架ばね前後共振の周波数とタイヤ前後ねじり共振の周波数の特定のために使用することができる。
【0079】
このように懸架ばね前後共振の周波数とタイヤ前後ねじり共振の周波数を特定することで、カーブフィット後、各振動モードごとの振動特性を確認できる。
【0080】
なお、車両によっては、10~30Hzの範囲外に懸架ばね前後共振のピークが存在することも考えられる。そこで、試験タイヤの振動のデータの周波数分析結果の10~30Hzに懸架ばね前後共振と特定されるピークがないとき、5~50Hzの範囲まで探索範囲を広げてピークを探索する。ここで、探索範囲を10~30Hzから5~50Hzまで一気に拡大しても良いし、徐々に拡大していっても良い。そして、拡大された周波数領域でピークが発見された場合、その発見されたピークで、かつ、2種類の試験タイヤで周波数が変化しないピークの周波数を、評価工程において使用する懸架ばね前後共振の周波数とする。
【0081】
<変更例4>
タイヤ前後ねじり共振の周波数と、懸架ばね前後共振の周波数とを分離して特定できない場合は、それら2つの周波数が同一であるものとする。その場合、数1においてi=2とし、n=1がタイヤ径方向前後共振を意味し、n=2がタイヤ前後ねじり共振かつ懸架ばね前後共振を意味するものとする。この変更例の方法は、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振及び懸架ばね前後共振の周波数を使用する方法の1つと言える。
【0082】
<変更例5>
周波数初期値特定工程において特定した周波数の初期値を、カーブフィットの際に初期値のまま固定して(つまり数1における固定値として)使用しても良い。その場合、A、τ、P及びDをカーブフィットにより求めることになる。
【0083】
<変更例6>
カーブフィットには、数1のcosをsinに変更した関数、すなわち次の数2の関数を使用することもできる。
【0084】
【数2】
【0085】
なお、数1と数2では、Pがπ/2ずれることとなる。
【0086】
2.実施形態2
以下では、実施形態1と異なる点を中心に説明する。
【0087】
実施形態2においてセンサ14は加速度計である。実施形態2では、このセンサ14が車両12の車内に設けられている。センサ14が設けられる具体的場所としては、車内のフロア(床)、運転手又は同乗者の座るシート(より具体的には、背面部、座面部又はヘッドレスト)、シートを保持するシートレール、ステアリング等が挙げられる。センサ14は、これらの場所のいずれか1つ又は2つ以上に設けられる。
【0088】
センサ14がこのような場所に設けられることにより、実施形態1で測定された振動モードだけでなく、車両のボディの振動モードも測定可能となる。従って、実施形態2において測定される振動には、前後方向への振動として現れる振動モードとして、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振、懸架ばね前後共振及びボディ前後共振が含まれる。また、上下方向への振動として現れる振動モードとして、タイヤ径方向上下共振、懸架ばね上下共振及びボディ上下共振が含まれる。
【0089】
次に、実施形態2の方法の詳細について説明する。
【0090】
まず、実施形態1のときと同様にして、走行工程S1及び測定工程S2が行われる。このときセンサ14で測定される振動には、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振、タイヤ径方向上下共振、懸架ばね前後共振、懸架ばね上下共振、ボディ前後共振及びボディ上下共振の各振動モードが含まれる。
【0091】
次の評価工程S3では、データ処理装置20が、前後方向の振動の波形と、上下方向の振動の波形とを作成する。参考のため、車両12のフロアで測定した上下方向の振動の波形を図6に示す。図6の0.1~0.2秒付近に現れている波形は、前輪のタイヤ13が突起11を乗り越えたときの波形である。なお、図6の0.5秒付近のタイミングで後輪のタイヤ13が突起11を乗り越えたが、その測定のときには上下方向へ大きな波形が現れなかった。
【0092】
次に、データ処理装置20は、図6のような振動の波形を描く各データの周波数分析を行う。参考のため、前輪のタイヤ13が突起11を乗り越えたときのフロアでの上下方向の振動の周波数分析結果、つまり図6の波形の0.1~0.2秒付近を含む時間帯のデータの周波数分析結果を、図7に示す。
【0093】
実施形態1で説明した通り、各振動モードの周波数は、ボディの共振が1~5Hz、懸架ばねの共振が10~30Hz、タイヤ前後ねじり共振が16~48Hz、タイヤ径方向共振が60~160Hzである。そのことと周波数分析結果とから、走行工程S1において生じたタイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振、懸架ばね前後共振、ボディ前後共振、タイヤ径方向上下共振、懸架ばね上下共振及びボディ上下共振の周波数が特定される。
【0094】
その特定方法は実施形態1と同じで、周波数分析結果の波形のピークが、ある振動モードの周波数範囲として予めわかっている周波数範囲内にあるとき、そのピークの周波数がその振動モードの周波数として特定される。例えば、図7に示す上下方向の振動の周波数分析結果から、1~5Hzの範囲では3Hz、10~30Hzの範囲では17Hz、60~160Hzの範囲では86Hzに、それぞれピークが存在すると言える(これら3つのピークを図7に矢印で示す)。このことから、実施形態2において、ボディ上下共振の周波数が3Hz、懸架ばね上下共振の周波数が17Hz、タイヤ径方向上下共振の周波数が86Hzであると特定される。実施形態1のときと同じく、この工程を周波数初期値特定工程と言うこととする。
【0095】
次に、実施形態1と同じ方法で、データ処理装置20が作成した時系列の振動の波形から、カーブフィットの始点が特定される。また、必要であれば、カーブフィットの終点も適宜特定される。
【0096】
そして、カーブフィットの始点が特定されると、データ処理装置20は、その始点以降のデータに対し数1の関数を用いてカーブフィットを行う。
【0097】
実施形態2における前後方向の振動の波形のカーブフィットにおいては、i=4である。n=1がタイヤ前後ねじり共振、n=2がタイヤ径方向前後共振、n=3が懸架ばね前後共振、n=4がボディ前後共振を意味する。
【0098】
数1の関数で前後方向の振動の波形のカーブフィットを行う際に、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたタイヤ前後ねじり共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたタイヤ径方向前後共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定された懸架ばね前後共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたボディ前後共振の周波数が使用される。
【0099】
また、上下方向の振動の波形についても、前後方向と同様にして、数1の関数を用いたカーブフィットが行われる。ただし、実施形態2における上下方向の振動の波形のカーブフィットにおいては、i=3である。n=1がタイヤ径方向上下共振、n=2が懸架ばね上下共振、n=3がボディ上下共振を意味する。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたタイヤ径方向上下共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定された懸架ばね上下共振の周波数が使用される。また、fの初期値として、周波数初期値特定工程で特定されたボディ上下共振の周波数が使用される。
【0100】
カーブフィットでは、最小二乗法等の近似手法が適宜用いられ、波形にフィットするようにA、τ、P、f及びDが計算される。A、τ、P、f及びDは、初期値から出発して、許容範囲内の値に収まる。求まったA、τ、P、f、D又はこれらの数値が組み込まれた数1の関数が、振動特性を評価する指標となる。
【0101】
評価工程S3の最後に、カーブフィットの結果等が表示装置26に表示される。
【0102】
以上のように、実施形態2では、センサ14が車両12の車内に設けられているため、測定工程S2では、タイヤの前後のねじり共振、タイヤ径方向共振、懸架ばねの共振の他、ボディの共振の影響も受けた振動がセンサ14で測定される。
【0103】
そして、評価工程S3における、前後方向の振動の波形に対するカーブフィットでは、タイヤ前後ねじり共振、タイヤ径方向前後共振、懸架ばね前後共振及びボディ前後共振の4つの振動モードを使用した数1の関数によりカーブフィットが行われる。そのため、カーブフィットの結果に基づき、前後方向の振動における上記4つの振動モードについてそれぞれ評価することができ、また、前後方向の振動において支配的な上記4つの振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することができる。
【0104】
また、評価工程S3における、上下方向の振動の波形に対するカーブフィットでは、タイヤ径方向上下共振、懸架ばね上下共振及びボディ上下共振の3つの振動モードを使用した数1の関数によりカーブフィットが行われる。そのため、カーブフィットの結果に基づき、上下方向の振動における上記3つの振動モードについてそれぞれ評価することができ、また、上下方向の振動において支配的な上記3つの振動モードが合成された全体としての振動特性を精度良く評価することができる。
【0105】
なお、実施形態1の変更例は、実施形態2にも適用可能である。
【0106】
また、実施形態1のように懸架ばねよりタイヤ13に近い場所にセンサ14を設けるとともに、実施形態2のように車内にもセンサ14を設け、懸架ばねよりタイヤ13に近い場所のセンサ14の振動の波形から特定されたカーブフィットの始点を、車内のセンサ14の振動の波形に対するカーブフィットの始点として使用しても良い。車内のセンサ14よりもタイヤ13に近いセンサ14で測定したデータに基づく方が、タイヤ13が突起11を乗り越えている最中か乗り越えた後かの判断をしやすいので、この方法により車内のセンサ14の振動の波形に対するカーブフィットの始点を適切に特定できる。
【符号の説明】
【0107】
10…路面、11…突起、12…車両、13…タイヤ、14…センサ、20…データ処理装置、21…演算部、22…信号処理部、23…記憶部、24…入出力部、25…入力装置、26…表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7