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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】2ストロークエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 19/12 20060101AFI20240321BHJP
   F02B 25/16 20060101ALI20240321BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
F02B19/12 F
F02B19/12 B
F02B25/16 B
F02B25/16 N
F02P13/00 301A
F02P13/00 301B
F02P13/00 301J
F02P13/00 302A
F02P13/00 302B
F02P13/00 302D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020147057
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041700
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 正司
(72)【発明者】
【氏名】衞藤 邦淑
(72)【発明者】
【氏名】山口 史郎
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 拓男
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-148710(JP,A)
【文献】特開昭49-132403(JP,A)
【文献】特開昭49-78003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/00
F02B 25/00
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火装置と、
ピストンによって画成される燃焼室と、
該燃焼室に開口され、ピストンによって開閉される掃気ポートと、
該掃気ポートを通じて前記燃焼室とクランク室とを連通する掃気通路とを有し、
掃気行程において、前記クランク室で予圧縮された吸気が前記掃気ポートを通じて前記燃焼室に供給されて前記燃焼室内に掃気ガス流が生成され、該掃気ガス流によって前記燃焼室内の既燃ガスを排気ポートに押し出すことにより排気する2ストロークエンジンにおいて、
前記点火装置の先端部を閉じ込める隔壁と、
該隔壁によって形成され、前記燃焼室から独立し且つ前記点火装置の先端部を包囲する着火促進室と、
該隔壁に設けられ、各々が前記燃焼室に開口する第1開口と前記着火促進室に開口する第2開口とを備えて、前記燃焼室と前記着火促進室とを連通させる複数の連通孔とを有し、
前記複数の連通孔のうち少なくとも一つの連通孔が、燃焼行程で前記燃焼室から火炎を噴出する際に、火炎が掃気ガス流に乗る方向に開口されていることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項2】
前記複数の連通孔のうち少なくとも一つの連通孔が、掃気行程で前記燃焼室に形成される掃気ガス流を受け入れる方向に開口されている、請求項1に記載の2ストロークエンジン。
【請求項3】
前記掃気ガス流が、前記排気ポートから離れる方向且つ上方に向けた流れである、請求項1又は2に記載の2ストロークエンジン。
【請求項4】
前記着火促進室が、前記掃気ガス流の流速が相対的に速い及び/又は流量が相対的に多い箇所に配置されている、請求項1~のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項5】
前記掃気ポートが、主掃気ポートと、該主掃気ポートに隣接し且つ前記排気ポートから離れる側に位置する第2掃気ポートとを含む、請求項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項6】
前記掃気ポートが、前記排気ポートとは反対側に位置し、前記掃気ガス流を上方に差し向けるブースターポートを更に有する、請求項1~のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項7】
前記着火促進室が、前記燃焼室の中心に配置されている、請求項1~のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項8】
前記複数の連通孔の数が少なくとも2つである、請求項1~のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項9】
前記複数の連通孔のうち、少なくとも一つの連通孔が前記点火装置の先端部の局所的なホットスポットに指向されている、請求項2~のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項10】
前記複数の連通孔の各々の軸線が一点で交差し、該複数の連通孔から噴出する火炎が燃焼室に向けて末広がりに拡散する、請求項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項11】
前記エンジンのシリンダと一体成形された有底筒形状のキャップ部を有し、
該キャップ部の閉塞端部で前記隔壁が構成され、
前記キャップ部の筒部に前記点火装置が螺着される、請求項1~10のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項12】
前記エンジンのシリンダとは別部材の有底筒形状のキャップ部材を有し、
該キャップ部材の閉塞端部で前記隔壁が構成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【請求項13】
前記キャップ部材が前記点火装置の一部を構成している、請求項12に記載の2ストロークエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2ストロークエンジンに関し、より詳しくはクランク室で吸気を予圧縮し、この予圧縮した吸気を掃気通路を通じて燃焼室に供給するクランク室圧縮方式のエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
2ストロークエンジンは小型且つ軽量であるため作業機、例えば刈払機、チェーンソーなどの手持ち作業機の動力源として普及している。現在最も普及している2ストロークエンジンはクランク室圧縮方式のエンジンである。すなわち、クランク室圧縮方式のエンジンは、クランク室で混合気を予圧縮し、掃気行程において、予圧縮した混合気を掃気通路を通じて燃焼室に供給して燃焼室の掃気が行われる。このように、2ストロークエンジンは、混合気を使って掃気を行うため、掃気行程において混合気が排気される、いわゆる「吹き抜け」の問題を含んでいる。この「吹き抜け」問題を改善するため、掃気行程において、混合気を燃焼室に供給する前に、燃料を含まないフレッシュ空気又はリーン混合気を含む先導空気を燃焼室に供給して、既燃ガスと混合気との間に空気層を形成する層状掃気式エンジンが開発され(特許文献1)、そして層状掃気式エンジンは既に実用化されて作業機に数多く搭載されている。
【0003】
2ストロークエンジンは、燃焼室に既燃ガスが残留するという問題を有している。この残留する既燃ガスの量はサイクル毎に一定ではない。このことに起因して、2ストロークエンジンは、既燃ガスの量が多いサイクルでは混合気の着火性が悪化するという根本的な問題を含んでいる。この問題に由来する典型例が低負荷運転時の不整燃焼である。不整燃焼が発生すると、排気ガス中の未燃成分の濃度が増加するためエミッション問題を引き起こす。
【0004】
4ストロークエンジンに限らず、2ストロークエンジンにおいても電子制御の開発、特に空燃比を最適化する技術開発が行われている。
【0005】
特許文献2は、空燃比が相対的にリーンな混合気であっても着火の確実性を担保できる2ストロークエンジンを提案している。この2ストロークエンジンは、シリンダヘッドに形成された副室を備えている。気化器は相対的にリーンな混合気を生成する主通路と、リッチな混合気を生成する第2通路を有している。気化器内の主通路で生成された相対的にリーンな混合気は、吸気として、主混合気供給通路を通じてクランク室に供給され、クランク室で予圧縮される。すなわち、クランク室で予圧縮された混合気は副室には供給されない。その代わりに、気化器内の第2通路で生成されたリッチな混合気が追加の混合気供給通路を通じて副室に供給される。副室と燃焼室とはトーチノズルで連通されている。副室には点火プラグが装着されている。副室内のリッチな混合気は、点火プラグの点火によって着火して副室内で燃焼し、そして、火炎がトーチノズルを通じて燃焼室に噴出される。
【0006】
特許文献3は、具体的には水冷式2気筒の2ストロークディーゼルエンジンを開示している。この2ストロークエンジンはディーゼルエンジンであることから点火プラグは備えていない。特許文献3のエンジンは、シリンダヘッドに形成された扁平な円筒形状の副室を備え、副室には燃料噴射ノズルから燃料が供給される。
【0007】
特許文献3のディーゼルエンジンにおいて、吸気として、空気がクランク室に供給される。この空気はクランク室で予圧縮され、予圧縮された空気が掃気通路を通じて燃焼室に供給される。副室と燃焼室とは連通孔を通じて連通している。燃焼室の空気は連通孔を通じて副室に導入され、副室内にスワールが形成される。
【0008】
具体的に説明すると、連通孔は、燃焼室に開口する第1開口と、副室に開口する第2開口とを有する通路で構成され、そして連通孔は円筒形状の副室の側壁面に沿った方向に指向されている。すなわち、連通孔は、第1、第2の開口が互いにオフセットした斜めに延びる通路形状を有し、この連通孔によって、円筒状の副室の平面視円形の側壁に沿った気流つまりスワールが生成される。副室内において、燃料噴射ノズルから吐出された燃料がスワールによって混合され、そしてピストン上昇に伴う副室内の上昇した圧縮熱によって混合気が着火して燃焼し、燃焼ガスが連通孔を通じて副室から燃焼室に吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】US2011/0079206A1
【文献】JP特開S49(1974)―78003号公報
【文献】JP特開2000-248941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
クランク室圧縮方式の2ストロークエンジンにおいて、今現在に至るまで、副室を備えたエンジンは実用化されていない。
【0011】
本発明は、各サイクルでの着火の不確実性を防止できる2ストロークエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の技術的課題は、本発明にあっては、
点火装置と、
ピストンによって画成される燃焼室と、
該燃焼室に開口され、ピストンによって開閉される掃気ポートと、
該掃気ポートを通じて前記燃焼室とクランク室とを連通する掃気通路とを有し、
掃気行程において、前記クランク室で予圧縮された吸気が前記掃気ポートを通じて前記燃焼室に供給されて前記燃焼室内に掃気ガス流が生成され、該掃気ガス流によって前記燃焼室内の既燃ガスを排気ポートに押し出すことにより排気する2ストロークエンジンにおいて、
前記点火装置の先端部を閉じ込める隔壁と、
該隔壁によって形成され、前記燃焼室から独立し且つ前記点火装置の先端部を包囲する着火促進室と、
該隔壁に設けられ、各々が前記燃焼室に開口する第1開口と前記着火促進室に開口する第2開口とを備えて、前記燃焼室と前記着火促進室とを連通させる複数の連通孔とを有し、
前記複数の連通孔のうち少なくとも一つの連通孔が、燃焼行程で前記燃焼室から火炎を噴出する際に、火炎が掃気ガス流に乗る方向に開口されていることを特徴とする2ストロークエンジンを提供することによって達成される。
【0013】
本発明の作用効果および他の目的は、以下の本発明の実施例及び変形例を含む詳細な説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従うクランク室圧縮方式のエンジンの全体構成の一例を説明するための図であり、通常掃気方式のエンジンを示す。
図2】本発明に従うクランク室圧縮方式のエンジンの全体構成の一例を説明するための図であり、層状掃気方式のエンジンを示す。
図3】実施例の一例の2ストロークエンジンの全体構成を説明するための図である。
図4図3に図示のエンジンの上端部の断面図である。
図5図3に図示のエンジンの燃焼室を頂面の概略説明図である。
図6】本発明に含まれる着火促進室を形成するキャップ要素として、キャップ部をシリンダと一体成形した変形例を説明するための図である。
図7】本発明に含まれる着火促進室を形成するキャップ要素の閉塞端部で構成される隔壁の配置に関する変形例を示し、隔壁は燃焼室の頂面と面一に配置されている。
図8】本発明に含まれる着火促進室を形成するキャップ要素の閉塞端部で構成される隔壁の配置に関する他の変形例を示し、隔壁は燃焼室の頂面の凹所に配置されている。
図9】本発明に含まれる着火促進室を形成するキャップ要素の閉塞端部で構成される隔壁の複数の連通孔の通路形状に関する変形例を示し、複数の連通孔は互いに平行に延びている。
図10図9に図示の連通孔が指向されるスパークプラグのガスポケットを説明するための図である。
図11】キャップ要素の閉塞端部で構成される隔壁の肉厚及び連通孔の通路形状の変形例を示し、隔壁の肉厚が筒部に比べて厚く且つ複数の連通孔の軸線がスパークプラグの中心電極で交差する交差角度が45°である。
図12】キャップ要素の閉塞端部で構成される隔壁の肉厚及び連通孔の通路形状の変形例を示し、隔壁の肉厚が筒部に比べて厚く且つ複数の連通孔の軸線がスパークプラグの中心電極で交差する交差角度が120°である。
図13】連通孔の通路形状の変形例を示し、複数の連通孔の軸線が閉塞端部の内面で交差している。
図14】キャップ要素の閉塞端部の外形形状の変形例を示し、閉塞端部の外形形状が角張った円筒形状である。
図15】キャップ要素の閉塞端部の外形形状の他の変形例を示し、閉塞端部の外形形状が円形ドーム形状である。
図16】着火促進室の配置位置に関する変形例に関するエンジン上部の断面図であり、着火促進室が燃焼室の中心に位置している。
図17図16に関連した図であり、燃焼室の頂面の概略説明図である。
図18】着火促進室の配置位置に関する他の変形例の図であり、吸気ポートと排気ポートと燃焼室の中心を通る第1中心線を挟む左右の一側にオフセットして着火促進室が位置している。
図19図18に図示の着火促進室の配置位置に関し、着火促進室を第1中心線を挟む左右の他側にオフセットさせても良いことを説明するための図である。
図20】燃焼室の頂面に関する変形例であるエンジン上部の断面図であり、燃焼室の頂面において、排気ポート側に位置する部分が燃焼室に向けて凸形状を有している。
図21】複数の連通孔がスワールを生成する通路形状である変形例を説明するための図であり、燃焼室の頂面の概略説明図である。
図22】複数の連通孔の着火促進室側の第2開口が面取りされている変形例を説明するための図であり、燃焼室の頂面の概略説明図である。
図23】連通孔の数が5つである変形例を説明するための図であり、燃焼室の頂面の概略説明図である。
図24図23と同様に連通孔の数が5つであり、5つの連通孔の配置位置に関する変形例を説明するための図である。
図25図24に関連して、5つの連通孔の配置位置に関する他の変形例を説明するための図である。
図26】本発明のエンジンは、左右に位置する掃気ポートの形状及びその指向方向が左右非対称であってもよいことを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0015】
以下に、添付の図面に基づいて本発明を説明する。図1図2は、本発明に従うクランク室圧縮方式の典型的な2ストロークエンジンの一例の概略構成図である。このエンジンは、作業機、典型的には手持ち作業機の動力源として用いられる。手持ち作業機を具体的に例示すれば、チェーンソー、刈払機、トリマー、ブロワーなどを挙げることができる。
【0016】
図1図2において、参照符号2は空冷単気筒の2ストロークエンジンを示す。2ストロークエンジン2はピストン4によって画成される燃焼室6を有し、燃焼室6には掃気ポート8が開口している。掃気ポート8は掃気通路10を通じてクランク室12に連通している。掃気ポート8はピストン4によって開閉される。図中、参照符号“O(c)”はクランクシャフト(図示せず)の中心軸線を示す。
【0017】
図中、参照符号14はエアクリーナを示す。エアクリーナ14で浄化された空気は気化器16に供給される。気化器16内の通路16aにはスロットルバルブ18が配設され、スロットルバルブ18によってエンジン出力が制御される。スロットルバルブ18としてバタフライバルブが図示されているが、バタフライバルブに代えてロータリバルブであってもよい。気化器16には、燃料源20の燃料が吐出部22を通じて気化器内通路16aに供給され、これにより気化器内通路16aで混合気が生成される。変形例として、燃料吐出部22に代えて燃料噴射ノズルであってもよい。また、エンジン2に対する燃料供給に関し、混合気供給通路32に燃料噴射ノズルを設けて混合気供給通路32に直接的に燃料を供給してもよいし、吸気通路である混合気供給通路32を混合気が通過しないようにして、クランク室12に燃料噴射ノズルを設けてクランク室12に直接的に燃料を供給してもよい。掃気通路10に燃料噴射ノズルを設けて掃気通路10に直接的に燃料を供給してもよい。燃焼室6に燃料噴射ノズルを設けて燃焼室6に直接的に燃料を供給するようにしてもよく、この場合に、燃料ノズルを掃気ポート8に向けて燃料を噴射させて、混合気が、後に説明する掃気流Sfに乗るようにしてもよい。
【0018】
図中、参照符号24は排気マフラーを示す。排気マフラー24は排気ポート28に通じており、排気ポート28はピストン4によって開閉される。
【0019】
図1図2において、参照符号30は点火装置を示す。図示の点火装置30は中心電極と、これに対向した接地電極とを含む周知のスパークプラグである。スパークプラグには点火タイミング毎に高電圧が供給され、これによりスパークプラグが電気的に火花を発生することにより混合気を着火させる。スパークプラグは点火装置30の一例であり、本発明はこれに限定されない。点火装置30は、例えばJP特開2009-224345号公報に開示のプラズマジェット点火プラグであってもよい。
【0020】
一般論として、2ストロークエンジンは、既知のように、ピストン4の下死点付近で排気行程と掃気行程が行われ、ピストン4の上昇に伴い、圧縮行程に移行する。その後、ピストン4の上死点付近で燃焼行程が行われた後に、膨張行程が行われる。このように、2ストロークエンジンはピストン4の動きと各行程とが明確に区分されてはいない。一方、4ストロークエンジンは、圧縮行程、燃焼行程、排気行程、吸気行程がピストンの上昇、下降の各動作によって明確に区分される。なお、2ストロークエンジンの圧縮比は、一般的に、4ストロークエンジンよりも低い。
【0021】
図1は、通常掃気方式のエンジン2を示す。通常掃気方式のエンジン2は、吸気としてクランク室12に混合気が供給され、そして、クランク室12で予圧縮した混合気である吸気が掃気通路10、掃気ポート8を通じて燃焼室6に供給される。この場合に、吸気として、燃料が混合される前の空気が掃気通路10、掃気ポート8、または燃焼室6に供給されることも考えられる。図2は、いわゆる層状掃気方式のエンジン2を示している。図1に図示の通常掃気方式のエンジン2と、図2に図示の層状掃気方式のエンジン2とを識別するために、通常掃気方式のエンジン2(図1)には参照符号(n)を付記し、層状掃気式のエンジン2(図2)には、参照符号(s)を付記してある。この2種類の2ストロークエンジンを総称するときには参照符号2を使用する。
【0022】
図1を参照して、通常掃気方式のエンジン2(n)に組み込まれる気化器16は、生成した混合気が混合気供給通路32を通じてクランク室12に供給される。他方、図2の層状掃気式のエンジン2(s)に組み込まれる気化器16は、2つの通路16a、16bを有し、第1の気化器内通路16aで混合気が生成され、この混合気は混合気供給通路32を通じてクランク室12に供給される。第2の気化器内通路16bは空気が通過し、この空気は先導空気通路34を通じて掃気通路10の上端部に供給される。
【0023】
図1図2を参照して、エンジン2は、点火装置30の先端部30aを閉じ込める隔壁40を有している。隔壁40は、燃焼室6から独立した着火促進室42を形成し、着火促進室42は、点火装置30の先端部30aを包囲する内部空間42aを有している。この内部空間42aは、限定的な極力小さな容積を備えているのが好ましい。具体的には、点火装置30の先端部30aと干渉しない範囲で先端部30aに接近した位置に隔壁40を配置するのがよい。
【0024】
隔壁40には、少なくとも2つの連通孔44が形成されている。各連通孔44は着火促進室42と燃焼室6とに開口し、各連通孔44によって着火促進室42と燃焼室6とが連通されている。
【0025】
掃気ポート8の数は任意である。図1には一つの掃気ポート8が図示され、図2には2つの掃気ポート8(1)、8(2)が図示されている。図2に図示の第1の掃気ポート8(1)は主掃気ポートを示す。主掃気ポート8(1)に隣接する第2の掃気ポート8(2)は排気ポート28から離れる側に位置している。主掃気ポート8(1)、第2掃気ポート8(2)を総称して掃気ポート8と呼ぶと、図1図2を参照して、掃気ポート8は、排気ポート28から離れる方向且つ上方に指向されている。このことから掃気ポート8から掃気ガスが吐出されると、矢印で示す掃気ガス流Sfが燃焼室6に生成される。この掃気ガス流Sfは、一般的に排気ポート28から離れる方向且つ上方に向かい、そして、燃焼室6の上部で流れ方向を変えて、排気ポート28に向けて下降するように、掃気ポート8の指向方向及び燃焼室6の形状が設計される。
【0026】
一般的に、エンジン2は起動時では冷えているが、始動し始めるとエンジン2自体が徐々に暖まる。2ストロークエンジンは、その構成から掃気行程においても未燃ガスが燃焼室6内に残留するため、エンジン2が4ストロークエンジンよりも暖まりやすい傾向にある。このため、混合気を含む掃気ガスは、掃気通路10内を通ることで暖められる。また、混合気を含む掃気ガスが掃気ポート8から燃焼室6へと吐出されることで、燃焼室6を通過する過程でも、混合気を含む掃気ガス流Sfが暖められることになる。これにより、混合気を含む掃気ガスが掃気通路10を通過する場合は、掃気通路10内で混合気を暖めることができ、さらに混合気を含む掃気ガスが燃焼室6を通過する場合は、燃焼室6内でも混合気を暖めることができる。
【0027】
なお、燃焼室6に燃料噴射ノズルを設けて燃焼室6に直接的に燃料を供給する場合は、クランク室に吸気として空気が供給され、そしてクランク室で予圧縮された空気が掃気通路10を通じて燃焼室6に吐出されるが、この掃気通路10を通る空気は暖められた状態にあり、したがって、この暖められた空気を含む掃気ガスが掃気ポート8から燃焼室6へ吐出される。この掃気ポート8から吐出された空気流つまり掃気ガス流Sfに向けて、燃焼室6に設けた燃料噴射ノズルで燃焼を噴射すると、混合気を含む掃気ガス流Sfが燃焼室6内で暖められる。換言すれば、副室に燃料噴射ノズルで燃料を供給する場合に比べて、燃焼室に燃料を供給する方が混合気を暖める効果は大きい。
【0028】
着火促進室42は、好ましくは、掃気ガス流Sfの流速が相対的に速い箇所及び/又は掃気ガスの流量が相対的に多い箇所に配置される。また、着火促進室42を形成する隔壁40の複数の連通孔44のうち、掃気ガス流Sfの上流側に位置する連通孔44(u)は、好ましくは、掃気ガス流Sfを受け入れる方向に指向されている。これにより、掃気行程ないし圧縮行程において、燃焼室6内の掃気ガス流Sfに乗って混合気が着火促進室42に流入し易くなる。
【0029】
4ストロークエンジンは、上述したように、圧縮行程、燃焼行程、排気行程、吸気行程がピストンの上下動との関連で明確に区分される。一般論として、点火装置は点火を伴う燃焼行程で加熱状態となるが、4ストロークエンジンにあっては、点火装置の先端部及び局所的なホットスポットの熱が吸気行程で燃焼室に拡散される。
【0030】
本発明に従うエンジンは2ストロークエンジンである。実施例の一例として2ストロークエンジン2は、上述したように、ピストン4の下死点付近で行われる掃気行程の後に、これに続く圧縮行程が行われる。掃気行程と圧縮行程は連続的であることから、2ストロークエンジン2においては、点火装置30の先端部30aの熱が保持される環境にある。本発明によれば、点火装置30の先端部30aを隔壁40によって閉じ込めるため、点火装置30の先端部30aの熱を閉じ込めて、点火装置30の先端部30aの熱で着火促進室42内の掃気ガスに含まれる混合気を加熱することができる。
【0031】
一般的に、点火装置30による点火は次のメカニズムによって発生する。点火装置30を放電させると、中心電極102と接地電極104との間に存在する混合気にエネルギーが与えられる。このエネルギーによって、混合気中の燃料成分が温度上昇し、化学反応を開始して着火する。このため、隔壁40によって閉じ込めた点火装置30の先端部30aの熱を利用して混合気を加熱することで、着火に至る温度上昇を助長することができる。その結果、各サイクルでの着火の確実性を高めることができる。なお、上述したように、掃気通路10を通過する前に燃料を供給して、掃気行程より早い段階で混合気を形成させることで、掃気通路10と燃焼室6において、より混合気の温度を上昇させることが可能である。
【0032】
着火促進室42で混合気が着火すると、着火促進室42の容積が上述したように限定的であることから、連通孔44を通じて火炎が直ちに燃焼室6に噴出する。隔壁40には複数の連通孔44が形成されているため、この複数の連通孔44から複数の方向に噴出する火炎によって燃焼室6内の火炎の伝播速度を速めることができる。圧縮行程、これに続く燃焼行程においても、掃気ガス流Sfの流れは持続しているため、火炎は掃気ガス流Sfに乗ってさらに火炎伝播速度を速めることができる。
【0033】
燃焼行程において、火炎の伝播速度を速めることはノッキング発生を低下させる効果があり、また、2ストロークエンジンはサイクルが短いために従来であれば完全燃焼できずにいた未燃ガスを燃焼させることができるため、燃焼を安定化させる効果がある。これにより、エンジンの出力を高めつつエミッション特性を改善することができる。
【0034】
<実施例>
以下、本発明の好ましい実施例の一例及び変形例を説明するが、これら実施例及び変形例に含まれる要素において、上述した要素と同じ要素には同じ参照符号を使って説明する。図3ないし図5は、実施例の2ストロークエンジン100を示す。図3は全体概要を説明するための図である。図4は、エンジン本体の上端部の断面図である。図5は、燃焼室を下方から見た燃焼室の頂面の概略説明図である。
【0035】
図3図4を参照して、実施例の2ストロークエンジン100において、点火装置30としてスパークプラグ30(s)が採用されている。図4において、スパークプラグ30(s)はその先端部30aに、周知のように、中心電極102と、中心電極102の前方に隣接して位置する接地電極104とを有し、中心電極102と接地電極104との間にギャップが形成されている。
【0036】
図3において、参照符号110は吸気ポートを示す。吸気ポート110はピストン4によって開閉される。変形例として、吸気ポート110をリードバルブによって開閉させてもよい。吸気ポート110は、平面視したときに、断面円形の燃焼室6を挟んで排気ポート28と直径方向に対向して配置されている。
【0037】
図5を参照して、吸気ポート110は、平面視したときに、燃焼室6の中心O(f)を通る第1中心線CL(1)上において、排気ポート28と対向して配置されている。エンジン100は、第1中心線CL(1)を挟んで、その両側に主掃気ポート8(1)と第2掃気ポート8(2)とを有している。主掃気ポート8(1)及び第2掃気ポート8(2)から吐出される掃気ガス、つまりクランク室12で予圧縮された混合気は、前述したように排気ポート28とは反対側つまり吸気ポート110側且つ上方に向けて流れる掃気ガス流Sfを生成する。
【0038】
上述した掃気ポート8に関し、実施例の2ストロークエンジン100は、任意であるが、第3の掃気ポート8(3)を含んでいてもよい(図5)。第3の掃気ポート8(3)は排気ポート28とは反対側の第1中心線CL(1)上に配置され、そして、上方に指向される。この種の掃気ポート8(3)は周知であり、「ブースターポート」と呼ばれている。
【0039】
図5において、参照符号CL(2)は上記第1中心線CL(1)と直交する第2中心線を示す。第2中心線CL(2)は燃焼室6の中心O(f)を通る。燃焼室6の頂面6aは第1、第2の中心線CL(1)、CL(2)で4つの頂面領域Ar(1)~Ar(4)に区分けすることができる。第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)は吸気ポート110側に位置している。第3、第4の頂面領域Ar(3)、Ar(4)は排気ポート28側に位置している。
【0040】
図5を参照して、前述した隔壁40は、燃焼室6の中心O(f)から吸気ポート110側にオフセットした位置に配置されている。より詳しくは、隔壁40は、第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)の境界に配置されている。図4から最も良く分かるように、隔壁40は、燃焼室6を形成するシリンダ112とは別部材のキャップ部材114で構成されている。
【0041】
キャップ部材114は、樹脂または金属で作られる。好ましくは、耐熱性樹脂または耐熱性金属で作られるとよい。キャップ部材114は有底筒体の形状を有し、筒部114(t)の外周面に第1のネジ部114(1)が形成され、内周面に第2のネジ部114(2)が形成されている。
【0042】
キャップ部材114は第1ネジ部114(1)を使ってシリンダ112に螺着され、また、キャップ部材114には、第2ネジ部114(2)を使ってスパークプラグ30(s)が螺着される。変形例として、キャップ部材114は、第1ネジ部114(1)を有していなくてもよく、シリンダ112にキャップ部材114を嵌め込み、圧入もしくは、シリンダ112とキャップ部材114との間の隙間に接着剤を入れて固着してもよい。また、ボルトを用いてシリンダ112とキャップ部材114とを固定してもよい。この他にも、シリンダ112を金型成型するときに、キャップ部材114をインサート成形してもよい。上記は例であって、キャップ部材114をシリンダ112に固定する方法は特に問わない。
【0043】
ピストン4の頂面4aは平らである。ピストン4によって形成される燃焼室6には、キャップ部材114の閉塞端部114aが突出した状態で配置され、この閉塞端部114aは実質的に上述した隔壁40を構成している。閉塞端部114aのスパークプラグ30(s)側の内面114(in)は山形の凹面に形作られている。内面114(in)を凹形状にすることで、スパークプラグ30(s)の接地電極104との干渉を回避しつつ閉塞端部114aをスパークプラグ30(s)の先端部に接近した位置に位置決めすることで、着火促進室42の容積を可能な限り小さくすることができる。
【0044】
キャップ部材114の閉塞端部114aは、上述したように、隔壁40を構成して着火促進室42を形成する。図5を参照して、閉塞端部114aには、閉塞端部114aの中心周りに4つの連通孔44が形成されている。第1連通孔44(u)は、第1中心線CL(1)上であって且つ吸気ポート110側、つまり掃気ガス流Sfが合流して束になって集まる箇所つまり掃気ガス流Sfの上流側に配置されている。第2連通孔44(d)は、第1中心線CL(1)上であって且つ排気ポート28側、つまり掃気ガス流Sfの下流側に配置されている。第3、第4連通孔44(3)、44(4)は、第2中心線CL(2)と平行且つ閉塞端部114aの中心を通る線上において、閉塞端部114aの中心を挟んで互いに対向する位置に配置されている。
【0045】
上記の4つの連通孔44は、図4を参照して、スパークプラグ30(s)の中心電極102、つまり局所的なホットスポットに向けて傾斜した通路形状を有している。各連通孔44は、燃焼室6側の第1開口44aと、着火促進室42側の第2開口44bを備えた真っ直ぐに且つ傾斜して伸びる通路形状を有している。
【0046】
燃焼室6に突出して位置する閉塞端部114aは、シリンダ112の中に奥まって位置している場合に比べて、掃気ガス流Sfを直接的に受ける。燃焼室6に突出する閉塞端部114aに形成された第1連通孔44(u)の第1開口44aは、図5から分かるように、掃気ガス流Sfを受け入れるように指向されている。
【0047】
上記の構成を有しているため、燃焼室6に開口する第1連通孔44(u)は、掃気ガス流Sfを受け入れて着火促進室42の内部のガス交換を促進することができる。特に、第2連通孔44(d)が第1連通孔44(u)と対となって、第1中心線CL(1)上の排気ポート28側つまり掃気ガス流Sfの下流側に位置しているため、掃気ガス流Sfが合流して束になって集まる箇所に位置する第1連通孔44(u)から入った掃気ガスによって、着火促進室42の中に残留するガスを下流側の第2連通孔44(d)を通じて燃焼室6に容易に押し出すことができる。
【0048】
着火促進室42に受け入れられた掃気ガス流Sfに含まれる混合気は、スパークプラグ30(s)の先端部30aの熱によって加熱される。これにより混合気を加熱することで、燃料成分が着火に至る温度上昇を助長でき、混合気の着火性を高めることができる。
【0049】
スパークプラグ30(s)の点火によって着火すると、着火促進室42の容積が小さいことから火炎が4つの連通孔44を通じて燃焼室6に噴出する。この4つの連通孔44は、着火促進室42から末広がりに延びる傾斜した通路形状を有していることから、燃焼室6の上部において四方に拡散した状態で連通孔44から火炎が噴出される。その結果、燃焼行程において燃焼室6内の火炎の伝播速度を速めることができる。また、連通孔44の通路形状は、燃焼室6に近づくほど直径が大きくなる末広がりの形状であってもよい。
【0050】
掃気ガス流Sfは圧縮行程、これに続く燃焼行程でも維持される。このことから掃気ガス流Sfの下流側に位置する第2連通孔44(d)から噴出する火炎を掃気ガス流Sfに乗せることで火炎の伝播速度を増速させる。その結果、第2連通孔44(d)から噴出する火炎によって燃焼室6内の火炎の伝播速度を増速させることができる。また、第3、第4連通孔44(3)、44(4)から噴出する火炎は、掃気ガス流Sfの流れに沿わない方向に噴出される。このため、シリンダ内の掃気ガス流Sfと、火炎の勢いにより、シリンダ内の流動がさらに乱れ、燃焼をより活性化することができる。
【0051】
図4から良く分かるように、燃焼室6の頂面6aは円錐状の形状を有している。そして、スパークプラグ30(s)を含むキャップ部材114は、燃焼室6の中心O(f)からオフセットした位置に配置され、排気ポート28から離れる側にオフセットされている。図5を参照して、発明者らが検証した結果、左右の主掃気ポート8(1)の排気ポート28側の接線で区分される吸気ポート110側の頂面領域Ar(5)に連通孔44を配置することで、着火促進室42内を速やかにガス交換できることが確認できた。また、掃気ガス流Sfは、吸気ポート110側の第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)において、その燃焼室頂面6aに強く当たることが確認できた。更に、上述した配置は着火促進室42の良好なガス交換だけでなく、燃焼行程における燃焼室6内の火炎の伝播速度を速める効果を確認できた。この効果は、圧縮行程、これに続く燃焼行程でも依然として存在する掃気ガス流Sfの流れに乗せて、火炎を4つの連通孔44を通じて燃焼室6に噴出させることができるためである。そして、連通孔44から噴出される火炎によって、掃気ガス流Sfの速度を増速させることができると共に燃焼室6内の火炎伝播速度を増速させることができる。このことから、特に頂面領域Ar(5)に全ての領域が含まれる第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)に着火促進室42を配置するのが好ましい。この第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)には燃焼室6の中心O(f)が含まれる。このことから燃焼室6の中心O(f)に着火促進室42を配置してもよい。
【0052】
上記実施例に含まれる主要な要素の変形例を図6以降の図面に基づいて説明する。以下の説明において、上記実施例に含まれる要素と同じ要素には同じ参照符号を付して説明する。
【0053】
上記の実施例では、シリンダ112とは別部材のキャップ部材114によって着火促進室42が形成されている(図4)。図6は、キャップ部材114をシリンダ112と一体成形した変形例を説明するための図である。図6において、シリンダ112は、有底筒状のキャップ部200を有し、筒部200(t)の内周面には第2ネジ部114(2)が形成されている。第2ネジ部114(2)に点火装置30を螺着させることにより、前述した着火促進室42が形成される。キャップ部200の閉塞端部200aは上述した隔壁40を実質的に構成し、この閉塞端部200aは燃焼室6に向けて突出して位置している。この変形例から分かるように、本発明に含まれる着火促進室42を構成する隔壁40は、シリンダ112とは別体のキャップ部材114で構成してもよいし、シリンダ112と一体成形したキャップ部200で構成してもよい。キャップ部200とキャップ部材114は、着火促進室42を構成する要素である点で実質的に同じ機能を有していることから、キャップ部200とキャップ部材114とを総称するときには「キャップ要素」と呼ぶ。
【0054】
スパークプラグ30(s)は後付けでキャップ部材114に装着してもよい。変形例として、スパークプラグ30(s)をシリンダ112に組み付ける前に、スパークプラグ30(s)にキャップ部材114を組み付けて、キャップ部材114をスパークプラグ30(s)の一部を構成する部材とした後に、キャップ部材114を含むスパークプラグ30(s)をシリンダ112に組み付けるようにしてもよい。
【0055】
図7図8は、キャップ部材114を例示して、キャップ部材114の閉塞端部114aで構成される上記の隔壁40の配置に関する変形例を示す。図7を参照して、キャップ部材114の閉塞端部114aは燃焼室6の頂面6aと面一であってもよい。すなわち、着火促進室42を構成する隔壁40は、燃焼室6の頂面6aと面一に配置してもよい。
【0056】
図8を参照して、キャップ部材114の閉塞端部114aは燃焼室6の頂面6aから奥まって位置していてもよい。すなわち、着火促進室42を構成する隔壁40は、燃焼室6の頂面6aの凹所に配置してもよい。
【0057】
図7図8を参照して、シリンダ112とは別部材のキャップ部材114を例に閉塞端部114aの配置に関する変形例を説明したが、キャップ部材114の代わりに、シリンダ112と一体成形したキャップ部200であってもよい。
【0058】
上記の実施例では、4つの連通孔44がスパークプラグ30(s)の中心電極102から放射状に延びる傾斜した軸線上に形成されている(図4)。図9は、複数の連通孔44が互いに平行である変形例を説明するための図である。キャップ部材114の閉塞端部114aに形成された複数の連通孔44は、その軸線が互いに平行である。図10は、現在普及しているスパークプラグ30(s)を示す。図10の参照符号30(th)は、スパークプラグ30(s)のネジ部を示し、このネジ部30(th)を使ってスパークプラグ30(s)がエンジンに組み付けられる。スパークプラグ30(s)は中心電極102の周囲にリング状の凹所106を有し、この凹所106は「ガスポケット」と呼ばれている。ガスポケット106には高温のガスが保持され、局所的なホットスポットを形成する。図9を参照して説明した複数の互いに平行に延びる連通孔44は、その軸線がガスポケット106に向けて延びる配置にするのが好ましい。これにより、着火促進室42に導入される掃気ガスを局所的なホットスポットであるガスポケット106に差し向けることができる。
【0059】
図9は、また、閉塞端部114aの内面114(in)を平らな面で構成してもよいことを例示している。図9は、例示的にキャップ部材114を図示したものであり、シリンダ112と一体成形したキャップ部200であってもよい。
【0060】
上記の実施例に含まれるキャップ部材114及び図6を参照して説明したキャップ部200は、筒部114(t)、200(t)と閉塞端部114a、200aが同じ肉厚を有している。図11図12は、シリンダ112と一体成形のキャップ部200を例示的に描いてあるが、別体のキャップ部材114を含むキャップ要素は筒部114(t)、200(t)に比べて閉塞端部114a、200aの肉厚が相対的に厚くてもよいことを示している。閉塞端部114a、200aを肉厚に形成することで、当該部分の蓄熱性を高めることができる。
【0061】
また、複数の連通孔44は典型的には局所的なホットスポットを形成するスパークプラグ30(s)の中心電極102に向けられているが、図11に図示の変形例では、各連通孔44の軸線が交わる交差角度θ1が90°であり、図12に図示の変形例では、交差角度θ2が120°である。図9を参照して先に説明した変形例では、交差角度はゼロ度である。このように交差角度θの具体的な数値は設計事項であり、本発明を適用したエンジンのスペックに対応して最適な値を設定すればよい。
【0062】
上記の実施例では、複数の連通孔44の軸線がスパークプラグ30(s)の中心電極102で交差している(図4)。図13に図示の変形例では、複数の連通孔44の軸線が閉塞端部200aの内面200(in)で交差している。つまり、別体のキャップ部材114を含むキャップ要素に配置された複数の連通孔44の軸線は、着火促進室42内で交差させてもよいし、閉塞端部114a、200aの内面114(in)、200(in)で交差させてもよい。また、複数の連通孔44の軸線の交差角度αは任意であり、交差角度αは本発明を適用したエンジンのスペックに対応して最適な値を設定すればよい。
【0063】
キャップ部材114、キャップ部200の閉塞端部114a、200aつまり有底筒状のキャップ要素の閉塞端部の外形形状に関し、実施例や上記の変形例では、閉塞端部114a、200aは円筒の外周端部を湾曲させた形状を有している(図4図6など)。図14は、シリンダ112と一体成形のキャップ部200の変形例を図示しているが、キャップ部200の閉塞端部200aは、角張った円筒形状を有していてもよい。このことは、シリンダ112とは別体のキャップ部材114でも同じである。図15は、キャップ部材114、キャップ部200の閉塞端部114a、200aの形状に関する他の変形例を示す。図15に図示のように、キャップ部200の閉塞端部200aは円形ドーム形状であってもよい。このことは、シリンダ112とは別体のキャップ部材114でも同じである。
【0064】
図5を参照して前述したように、着火促進室42の配置位置に関し、頂面領域Ar(5)、好ましくは燃焼室6の中心O(f)を含む第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)に着火促進室42を配置するのがよい。図16に図示の変形例では、着火促進室42が燃焼室6の中心O(f)に配置されている。図17は、図16に図示の燃焼室6の内部から燃焼室6の頂面6aを見た図である。図17から分かるように、着火促進室42が燃焼室6の中心O(f)に位置し、そして、4つの連通孔44は、燃焼室6の中心O(f)を挟んで第1、第2の中心線CL(1)、CL(2)上に各々配置されている。図16に図示の変形例では、シリンダ112とは別体のキャップ部材114で着火促進室42が形成されているが、シリンダ112と一体成形のキャップ部200で着火促進室42を形成してもよい。また、図16は、ピストン4の頂面4aに関する変形例を表している。実施例では、ピストン4の頂面4aは平らな面で構成されているが(図4)、図16に図示のピストン4の頂面4aは、上方に向けて凸の球面形状を有する。
【0065】
着火促進室42の配置位置に関し、図18図19に示すように、主掃気ポート8(1)の排気ポート28側の接線で囲まれ且つ排気ポート28とは反対側の第5頂面領域Ar(5)において、第1中心線CL(1)からオフセットした位置に着火促進室42を設けてもよい。図18は、第1中心線CL(1)から一方側にオフセットし且つ第2中心線CL(2)上に着火促進室42を配置した変形例を示す。図19は、第1中心線CL(1)から他方側にオフセットし且つ第2中心線CL(2)上に着火促進室42を配置した変形例を示す。
【0066】
図20は、燃焼室6の頂面6aに関する変形例を示す図である。前述した実施例では、燃焼室6の頂面6aは円錐状の形状を有し、第2の中心線CL(2)を挟んで、第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)と、第3、第4の頂面領域Ar(3)、Ar(4)とは対称である(図4)。図20に図示のように、燃焼室6の頂面6aは、第1、第2の頂面領域Ar(1)、Ar(2)と、第3、第4の頂面領域Ar(3)、Ar(4)とが非対称であり、排気ポート28側に位置する第3、第4の頂面領域Ar(3)、Ar(4)は凸部300によって燃焼室6に向けて凸の形状を有している。
【0067】
図21ないし図26は、複数の連通孔44の通路形状に関する変形例を示す。前述した実施例は4つの連通孔44を含み、4つの連通孔44の軸線はスパークプラグ30(s)の中心電極102で交差している(図4図5)。図21は、例示的に4つの連通孔44が着火促進室42の内部にスワールを生成する通路形状を有している。スワールの方向は右方向でも左方向でもよい。このスワールを生成する連通孔44によって、着火促進室42にスワールを発生させることができ、また連通孔44を通じて噴出する火炎によって燃焼行程の燃焼室6にスワールを発生させることができる。これにより、燃焼室6の全域に亘って火炎の伝播を均一化することができる。
【0068】
図22は、各連通孔44の着火促進室42側の第2開口44bに面取り46を施しても良いことを説明するための図である。連通孔44の着火促進室42側の第2開口44bに面取り46を施さない場合、第2開口44bのエッジ部分が過熱され、その箇所で異常燃焼が生じることがある。しかし、連通孔44の第2開口44bに面取り46を施すことで、過熱部位がなくなるため、異常燃焼を回避することができる。また、連通孔44の第2開口44bに面取り46を施すことで、燃焼室6から着火促進室42への流路抵抗が少なくなり、混合気を含む掃気ガス流Sfを着火促進室42へと流入し易くすることができる。さらに、燃焼行程で、連通孔44を通じて着火促進室42から燃焼室6に噴出する火炎の噴流を、より強くすることができる。図22は、各連通孔44の着火促進室42側の第2開口44bに面取り46を施すことで、燃焼室6側の第1開口44aと開口径を異なるようにしたが、各連通孔44における燃焼室6側の第1開口44aと着火促進室42側の第2開口44bのそれぞれの開口径を任意に変更させてもよい。換言すれば、各連通孔44の開口は、同一形状及び/または同一径でなくてもよく、各連通孔44の開口形状及び開口径は、適用したエンジンのスペックに対応して最適な形状及び径を設定すればよい。
【0069】
図23ないし図25は、複数の連通孔44の数は任意であり、その配置も、本発明を適用したエンジンのスペックに基づいて任意であることを説明するための図である。図23ないし図25に図示の変形例では、連通孔44が5つであるが例示に過ぎず、連通孔44の数は設計事項である。また、図23ないし図25に図示の変形例では、着火促進室42はキャップ部材114で形成されているが、シリンダ112と一体成形したキャップ部200で形成してもよい。
【0070】
図23において、5つの連通孔44は、一つがキャップ部材114の閉塞端部114aの中心に配置され、その周りに4つの連通孔44が等間隔に配置されている。図示の例では、掃気ガス流Sf(図2)が合流して束になって集まる箇所に配置された連通孔44(u)を有している。なお、図23に図示の5つの連通孔44は、各連通孔44の軸線がスパークプラグ30(s)の中心電極102で交差する通路形状を有している。
【0071】
図24に図示の5つの連通孔44は、キャップ部材114の閉塞端部114aの中心の周りに5つの連通孔44が等間隔に配置されている。そして、一つの連通孔44(u)が掃気ガス流Sf(図2)が合流して束になって集まる箇所に配置されている。
【0072】
図25に図示の5つの連通孔44は、キャップ部材114の閉塞端部114aの中心の周りに5つの連通孔44が等間隔に配置されている点で図24に図示の変形例と同じであるが、一つの連通孔44(d)が掃気ガス流Sf(図2)の下流側に配置されている。また、他の4つの連通孔44はそれぞれ二対の掃気ポート8へと指向しており、掃気ガス流Sfを受け入れるように配置されている。
【0073】
図24図25に図示の5つの連通孔44は、図示していないが、複数の連通孔44の夫々の連通孔44の開口径を異ならせることで、スワールを生成する通路形態を構成してもよい。この場合、各連通孔44の軸線がスパークプラグ30(s)の中心電極102で交差する通路形状でもよい。スワールを生成する連通孔44によって、着火促進室42にスワールを発生させることができ、また連通孔44を通じて噴出する火炎によって燃焼行程の燃焼室6にスワールを発生させることができる。これにより、燃焼室6の全域に亘って火炎の伝播を均一化することができる。
【0074】
前述した実施例では、第1中心線CL(1)を挟んで左右の側に位置する掃気ポート8が左右対称の形状を有している。図26を参照すると直ぐに理解できるように、掃気ポート8の通路形状及びその指向方向が左右非対称であってもよい。この左右非対称の掃気ポートに適合させるように連通孔44の配置及び通路形状が最適化される。
【0075】
以上、本発明の実施例及びこれに含まれる要素の様々な変形例を説明したが、これらは任意に組み合わせが可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0076】
2 本発明に従う2ストロークエンジン
2(n) 図1の通常掃気方式のエンジン本体
2(s) 図2の層状掃気方式のエンジン本体
4 ピストン
6 燃焼室
8 掃気ポート
8(1) 主掃気ポート
8(2) 第2掃気ポート
8(3) ブースターポート
Sf 掃気ガス流
10 掃気通路
12 クランク室
28 排気ポート
30 点火装置
30a 点火装置の先端部
30(s) スパークプラグ
40 着火促進室を形成する隔壁
42 着火促進室
44 隔壁の連通孔
100 実施例の2ストロークエンジン
102 プラグの中心電極(局所的なホットスポットを形成する)
106 ガスポケット(局所的なホットスポットを形成する)
110 吸気ポート
112 シリンダ
114 キャップ部材
114(t) キャップ部材の筒部
114(1) 第1ネジ部(キャップ部材をシリンダに装着)
114(2) 第2ネジ部(スパークプラグが装着される)
114a キャップ部材の閉塞端部(隔壁を構成する)
200 シリンダと一体成形されるキャップ部
200(t) キャップ部の筒部
200a キャップ部の閉塞端部(隔壁を構成する)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26