(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置および三次元積層造形方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20240321BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20240321BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240321BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240321BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
B33Y30/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2020153814
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔦川 生璃
(72)【発明者】
【氏名】北村 真一
(72)【発明者】
【氏名】津田 貴
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-136520(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163402(WO,A1)
【文献】特開2002-299215(JP,A)
【文献】特開昭64-041154(JP,A)
【文献】特開昭49-048710(JP,A)
【文献】特開平02-022811(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00ー 8/00
B22F 10/00ー12/90
B33Y 10/00
B29C 64/00ー64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末が敷き詰められる造形プレートと、
開口部およびマスク部を少なくとも有し、前記造形プレート上に敷き詰められる金属粉末を前記開口部によって露出させるとともに、前記開口部よりも外側に位置する金属粉末を前記マスク部によって遮蔽するマスクカバーと、
前記造形プレート上に敷き詰められる金属粉末に前記マスクカバーの前記開口部を通して電子ビームを照射するビーム照射装置と、
前記ビーム照射装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記造形プレート上に敷き詰められた金属粉末を仮焼結する場合に、前記マスクカバーの前記開口部よりも広範囲に電子ビームを走査するように、前記ビーム照射装置を制御する
三次元積層造形装置。
【請求項2】
前記マスクカバーは、前記開口部の縁から前記造形プレートと反対側に起立する壁部を有する
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記壁部は、前記ビーム照射装置の中心軸側に傾いて配置されている
請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記マスク部の下面と平行な仮想平面と前記壁部とのなす角度をθ1とし、前記金属粉末を仮焼結する際の前記電子ビームの最大の偏向角度をθ2とした場合に、θ1>θ2を満たす
請求項3に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
造形プレート上に敷き詰められた金属粉末を、開口部を有するマスクカバーで覆うとともに、前記開口部を通して前記金属粉末に電子ビームを照射することにより、前記金属粉末を仮焼結させる第1工程と、
前記第1工程によって仮焼結させた前記金属粉末を電子ビームの照射によって溶融および凝固させる第2工程と、
を含み、
前記第1工程では、前記マスクカバーの前記開口部よりも広範囲に電子ビームを走査する
三次元積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置および三次元積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、造形プレート上に敷き詰められた金属粉末(パウダーベッド)に電子ビームを照射して金属粉末を溶融および凝固させるとともに、凝固させた層を造形プレートの移動により順に積み上げて三次元の造形物を形成する三次元積層造形装置が知られている。この種の三次元積層造形装置では、電子ビームの照射によって個々の粉末粒子が帯電し、粉末同士がクーロン斥力によって煙状に飛散する現象が発生することがある。こうした現象はスモークと呼ばれ、スモークが発生すると造形作業を続けることが難しくなる。このため、三次元積層造形装置では、金属粉末を溶融および凝固によって本焼結させる前に、予備加熱によって金属粉末を仮焼結させ、これによってスモークの発生を抑制している。なお、金属粉末を本焼結させる工程は、造形プレート上に敷き詰められた金属粉末を電子ビームの照射によって選択的に溶融および凝固させることから、選択的溶融工程とも呼ばれる。
【0003】
特許文献1には、造形プレート上に敷き詰められた金属粉末を、開口部を有するマスクカバーによって覆い、マスクカバーの開口部を通して金属粉末に電子ビームを照射することにより、金属粉末を仮焼結させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1に記載された技術に新たな課題が存在することを見出した。以下、詳しく説明する。
三次元積層造形装置においては、造形物を形作る各層の金属粉末に対して、予備加熱による仮焼結と、溶融および凝固による本焼結とを行なう。その場合、積層初期の段階では、造形プレート上の層の厚みが薄いため、予備加熱によって造形プレートが高温に加熱される。また、造形プレートの熱が金属粉末に伝えられることで、造形プレートの周囲に存在する金属粉末も仮焼結される。したがって、特許文献1に記載されているように、マスクカバー(チャージシールド)に電子ビームが当たらないよう上記開口部を通して電子ビームを金属粉末に照射しても、積層初期の段階では、マスクカバーの開口部に露出する金属粉末のすべてを仮焼結することができる。
【0006】
しかし、積層が進んで造形プレートの位置が下がり、造形プレート上の層の厚みが厚くなると、上述した積層初期に比べて予備加熱時の造形プレートの温度が低くなる。このため、造形プレートから周囲の金属粉末に伝えられる熱が弱くなる。したがって、マスクカバーに電子ビームが当たらないよう上記開口部を通して電子ビームを金属粉末に照射すると、実際に電子ビームが照射される領域か、それよりも僅かに外側の領域までしか金属粉末が仮焼結されなくなる。その結果、マスクカバーの開口部の内側に、仮焼結されない金属粉末、すなわち未焼結の金属粉末が残り、その後の選択的溶融工程では、未焼結の金属粉末が存在する領域が起点となってスモークが発生するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、スモークの発生を効果的に抑制することができる三次元積層造形装置および三次元積層造形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る三次元積層造形装置は、金属粉末が敷き詰められる造形プレートと、開口部およびマスク部を少なくとも有し、造形プレート上に敷き詰められる金属粉末を開口部によって露出させるとともに、開口部よりも外側に位置する金属粉末をマスク部によって遮蔽するマスクカバーと、造形プレート上に敷き詰められる金属粉末にマスクカバーの開口部を通して電子ビームを照射するビーム照射装置と、ビーム照射装置を制御する制御部と、を備える。制御部は、造形プレート上に敷き詰められた金属粉末を仮焼結する場合に、マスクカバーの開口部よりも広範囲に電子ビームを走査するように、ビーム照射装置を制御する。
【0009】
本発明に係る三次元積層造形方法は、造形プレート上に敷き詰められた金属粉末を、開口部を有するマスクカバーで覆うとともに、開口部を通して金属粉末に電子ビームを照射することにより、金属粉末を仮焼結させる第1工程と、第1工程によって仮焼結させた金属粉末を電子ビームの照射によって溶融および凝固させる第2工程と、を含む。第1工程では、マスクカバーの開口部よりも広範囲に電子ビームを走査する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スモークの発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の動作手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の第1実施形態と比較される比較形態を説明する図である。
【
図4】マスクカバーの開口部よりも広範囲に電子ビームを走査している状態を示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るマスクカバーを備える三次元積層造形装置の要部構成を示す概略側面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るマスクカバーの構成を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係るマスクカバーを備える三次元積層造形装置の要部構成を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。以降の説明では、三次元積層造形装置の各部の形状や位置関係などを明確にするために、
図1の左右方向をX方向、
図1の奥行き方向をY方向、
図1の上下方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は水平方向に平行な方向であり、Z方向は鉛直方向に平行な方向である。
【0014】
図1に示すように、三次元積層造形装置10は、真空チャンバー12と、ビーム照射装置14と、粉末供給装置16と、造形テーブル18と、造形ボックス20と、回収ボックス21と、造形プレート22と、インナーベース24と、プレート移動装置26と、輻射シールドカバー28と、マスクカバー30と、を備えている。
【0015】
真空チャンバー12は、図示しない真空ポンプによってチャンバー内の空気を排気することにより、真空状態を作り出すためのチャンバーである。
【0016】
ビーム照射装置14は、造形面32aに向かって電子ビーム15を照射する装置である。造形面32aは、造形プレート22上に敷き詰められる金属粉末32の上面に相当する。ビーム照射装置14は、図示はしないが、電子ビームの発生源となる電子銃と、電子銃が発生した電子ビームを制御する光学系とを備える。光学系は、集束レンズ、対物レンズ、偏向レンズなどを備える。集束レンズは、電子銃が発生する電子ビーム15を集束させるレンズである。対物レンズは、集束レンズで集束させた電子ビーム15を造形面32aの近傍に合焦させるためのレンズである。偏向レンズは、電子ビーム15を造形面32a上で走査させるために電子ビーム15を偏向するレンズである。ビーム照射装置14は制御部17によって制御される。制御部17が制御するパラメータには、偏向レンズによる電子ビーム15の偏向角度が含まれる。
【0017】
粉末供給装置16は、造形物38の原材料となる金属粉末32を造形テーブル18上に供給する装置である。粉末供給装置16は、ホッパー16aと、粉末投下器16bと、アーム16cとを有している。ホッパー16aは、金属粉末を貯蔵するための容器である。粉末投下器16bは、ホッパー16aに貯蔵されている金属粉末を造形テーブル18上に投下する機器である。粉末投下器16bは、予め決められた量の粉末を造形テーブル18の端に投下する。アーム16cは、Y方向に長い長尺状の部材である。アーム16cは、粉末投下器16bによって投下された金属粉末を造形テーブル18上に敷き詰める。アーム16cは、造形テーブル18の全面に金属粉末を均一に敷き詰めるために、X方向に移動可能に設けられている。
【0018】
造形テーブル18は、真空チャンバー12の内部に水平に配置されている。造形テーブル18は、粉末供給装置16よりも下方に配置されている。造形テーブル18の中央部は開口している。造形テーブル18の開口形状は、平面視円形または平面視角形(たとえば、平面視四角形)である。
【0019】
造形ボックス20は、造形用の空間を形成するボックスである。造形ボックス20の上端部は、造形テーブル18の開口縁に接続されている。造形ボックス20の下端部は、真空チャンバー12の底壁に接続されている。
【0020】
回収ボックス21は、粉末供給装置16によって造形テーブル18上に供給された金属粉末32のうち、必要以上に供給された金属粉末32を回収するボックスである。回収ボックス21は、X方向の一方と他方に1個ずつ設けられている。
【0021】
造形プレート22は、金属粉末32を用いて造形物38を形成するためのプレートである。造形物38は、造形プレート22上に積層して成形される。造形プレート22は、造形テーブル18の開口形状に合わせて平面視円形または平面視角形に形成される。造形プレート22は、電気的に浮いた状態とならないよう、アース線34によってインナーベース24に接続(接地)されている。インナーベース24は、GND(グランド)電位に保持されている。造形プレート22およびインナーベース24の上には金属粉末32が敷き詰められる。
【0022】
インナーベース24は、造形プレート22と共に上下方向(Z方向)に移動可能に設けられている。インナーベース24は、造形プレート22よりも大きな外形寸法を有する。インナーベース24は、造形ボックス20の内側面に沿って上下方向に摺動する。インナーベース24の外周部にはシール部材36が取り付けられている。シール部材36は、インナーベース24の外周部と造形ボックス20の内側面との間で、摺動性および密閉性を保持する部材である。シール部材36は、耐熱性および弾力性を有する材料によって構成される。
【0023】
プレート移動装置26は、造形プレート22およびインナーベース24を上下方向に移動させる装置である。プレート移動装置26は、シャフト26aと、駆動機構部26bとを備えている。シャフト26aは、インナーベース24の下面に接続されている。駆動機構部26bは、図示しないモータと動力伝達機構とを備え、モータを駆動源として動力伝達機構を駆動することにより、造形プレート22およびインナーベース24をシャフト26aと一体に上下方向に移動させる。動力伝達機構は、たとえば、ラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構などによって構成される。
【0024】
輻射シールドカバー28は、Z方向において、造形プレート22とビーム照射装置14との間に配置されている。輻射シールドカバー28は、ステンレス鋼などの金属によって構成される。本明細書で記載する金属には合金が含まれる。輻射シールドカバー28は、ビーム照射装置14によって金属粉末32に電子ビーム15を照射した際に発生する輻射熱をシールドする。ここで、金属粉末32に電子ビーム15を照射すると金属粉末32が溶融するが、このとき造形面32aから放射される熱、すなわち輻射熱が真空チャンバー12内に広く拡散すると熱効率が悪くなる。これに対し、造形プレート22の上方に輻射シールドカバー28を配置した場合は、造形面32aから放射される熱が輻射シールドカバー28によってシールドされるとともに、シールドされた熱が輻射シールドカバー28により反射されて造形プレート22側に戻される。このため、電子ビーム15の照射によって発生する熱を効率良く利用することができる。
【0025】
また、輻射シールドカバー28は、金属粉末32に電子ビーム15を照射した際に発生する蒸発物質が真空チャンバー12の内壁に付着(蒸着)することを抑制する機能を果たす。金属粉末32に電子ビーム15を照射すると、溶融した金属の一部が霧状の蒸発物質となって造形面32aから立ち昇る。輻射シールドカバー28は、この蒸発物質が真空チャンバー12内に拡散しないよう、造形面32aの上方空間を覆うように配置されている。
【0026】
マスクカバー30は、開口部30aおよびマスク部30bを有する。マスクカバー30は、造形物38を形成するにあたって、金属粉末32の上面、すなわち造形面32aに被せて配置される。その際、開口部30aは、造形プレート22上に敷き詰められる金属粉末32を露出させ、マスク部30bは、開口部30aよりも外側に位置する金属粉末32を遮蔽する。開口部30aの形状は、造形プレート22の形状にあわせて設定される。たとえば、造形プレート22が平面視円形であれば、これにあわせて開口部30aの平面視形状は円形に設定され、造形プレート22が平面視角形であれば、これにあわせて開口部30aの平面視形状は角形に設定される。
【0027】
マスクカバー30は、輻射シールドカバー28の下方に配置されている。マスクカバー30の開口部30aおよびマスク部30bは、Z方向において、造形プレート22と輻射シールドカバー28との間に配置されている。マスクカバー30には囲い部30cが形成されている。囲い部30cは、開口部30aの上方空間を囲うように配置される。囲い部30cの一部(上部)は、Z方向において輻射シールドカバー28とオーバーラップしている。囲い部30cは、造形面32aから発生する輻射熱をシールドする機能と、造形面32aから発生する蒸発物質の拡散を抑制する機能とを果たす。つまり、囲い部30cは、輻射シールドカバー28と同様の機能を果たす。
【0028】
マスクカバー30は、造形物38の原料として使用する金属粉末32よりも融点が高い金属で構成される。また、マスクカバー30は、金属粉末32との反応性が低い材料によって構成される。マスクカバー30の構成材料としては、たとえばチタンを挙げることができる。また、マスクカバー30は、使用する金属粉末32と同じ材質の金属によって構成してもよい。マスクカバー30は、電気的にGNDに接地されている。また、マスクカバー30は、図示しないカバー移動装置によって上下方向に移動可能に支持されている。カバー移動装置は、粉末供給装置16のアーム16cをX方向に移動させて金属粉末32を造形テーブル18上に敷き詰める場合に、アーム16cとマスクカバー30との接触を避けるために、マスクカバー30を上方に移動させる。
【0029】
続いて、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置10の動作手順について説明する。
まず、造形を開始する前の状態では、造形プレート22の上面を除いて、造形プレート22の三方が金属粉末32によって覆われた状態になる。また、造形プレート22の上面は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面とほぼ同じ高さに配置される。一方、マスクカバー30は、造形プレート22の上面まで降ろされる。この場合、造形プレート22の周囲に存在する金属粉末32はマスクカバー30のマスク部30bによって覆われた状態になる。また、マスク部30bは、金属粉末32に接触した状態になる。以上述べた状態のもとで造形が開始される。
以下に、造形を開始してから終了するまでの三次元積層造形装置10の動作手順について、
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
まず、造形プレート22を加熱する(ステップS1)。
ステップS1において、ビーム照射装置14は、制御部17の制御下で動作することにより、マスクカバー30の開口部30aを通して造形プレート22に電子ビーム15を照射する。このとき、制御部17は、ビーム照射装置14が備える対物レンズ等によって電子ビーム15をデフォーカスさせる。このデフォーカスは、電子ビーム15の合焦位置が造形プレート22の上面よりも下方にずれた状態、すなわちアンダーフォーカスの状態とする。また、制御部17は、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するように、ビーム照射装置14を制御する。これにより、造形プレート22は、電子ビーム15の照射によって加熱される。また、造形プレート22は、金属粉末32が仮焼結する程度の温度に加熱される。造形プレート22を所定の温度に加熱したら、ビーム照射装置14は、電子ビーム15の照射を停止する。なお、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するとは、電子ビーム15の走査範囲(走査領域)のなかに開口部30aが収まるように、開口部30aの開口面積よりも広い面積で電子ビーム15を走査することを意味する。
【0031】
次に、造形プレート22を所定量だけ下降させる(ステップS2)。
ステップS2において、プレート移動装置26は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面よりも造形プレート22の上面が僅かに下がった状態となるように、インナーベース24を所定量だけ下降させる。このとき、造形プレート22は、インナーベース24と共に所定量だけ下降する。ここで記載する所定量(以下、「ΔZ」とも記す)は、造形物38を積層によって造形するときの一層分の厚さに相当する。
【0032】
次に、マスクカバー30を上昇させる(ステップS3)。
ステップS3において、カバー移動装置(図示せず)は、次のステップS4でアーム16cがマスクカバー30に接触しないよう、アーム16cよりも高い位置までマスクカバー30を上昇させる。
【0033】
次に、造形プレート22上に金属粉末32を敷き詰める(ステップS4)。
ステップS4において、粉末供給装置16は、ホッパー16aから粉末投下器16bに供給された金属粉末32を、粉末投下器16bによって造形テーブル18上に投下した後、アーム16cをX方向の一端側から他端側へと移動させることにより、インナーベース24上に金属粉末32を敷き詰める。このとき、金属粉末32は、ΔZ相当の厚さで造形テーブル18の上に敷き詰められる。また、余分な金属粉末32は、回収ボックス21に回収される。
【0034】
次に、マスクカバー30を下降させる(ステップS5)。
ステップS5において、カバー移動装置(図示せず)は、マスクカバー30を造形プレート22の上面まで降ろす。これにより、造形プレート22上に敷き詰められた金属粉末32は、マスクカバー30の開口部30aを通して外部に露出した状態となる。また、造形プレート22の周囲に存在する金属粉末32は、マスクカバー30のマスク部30bによって覆われた状態になる。
【0035】
次に、金属粉末32を仮焼結させる(ステップS6)。
ステップS6において、ビーム照射装置14は、制御部17の制御下で動作することにより、マスクカバー30の開口部30aを通して造形プレート22上の金属粉末32に電子ビーム15を照射する。このとき、制御部17は、ビーム照射装置14が備える対物レンズ等によって電子ビーム15をデフォーカスさせる。このデフォーカスは、電子ビーム15の合焦位置が金属粉末32の上面(造形面32a)よりも下方にずれた状態、すなわちアンダーフォーカスの状態とする。また、制御部17は、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するように、ビーム照射装置14を制御する。これにより、開口部30aに露出している金属粉末32はもちろん、開口部30aよりも外側に位置する金属粉末32(マスク部30bで遮蔽された金属粉末32)も仮焼結される。
【0036】
このように、造形プレート22上に敷き詰められた金属粉末32を、開口部30aを有するマスクカバー30で覆うとともに、開口部30aを通して金属粉末32に電子ビーム15を照射することにより、金属粉末32を仮焼結させる工程は、第1工程に相当する。そして、この第1工程においては、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査することにより、少なくとも開口部30aに露出している金属粉末32のすべてを仮焼結させることができる。
【0037】
次に、金属粉末32を溶融および凝固させる(ステップS7)。
ステップS7においては、上述のように仮焼結させた金属粉末32を電子ビーム15の照射によって溶融および凝固させることにより、仮焼結体としての金属粉末32を本焼結させる。この工程は第2工程に相当する。第2工程において、ビーム照射装置14は、目的とする造形物の三次元CAD(Computer-Aided Design)データを一定の厚みにスライスした二次元データに基づいて電子ビームを走査することにより、造形プレート22上の金属粉末32を選択的に溶融する。電子ビームの照射によって溶融した金属粉末32は、電子ビームが通過した後に凝固する。これにより、第1層目の造形が完了する。なお、第2工程は、造形プレート22上に敷き詰められた金属粉末32を電子ビーム15の走査によって選択的に溶融および凝固させることから、選択的溶融工程に相当する。
【0038】
次に、金属粉末32を敷き詰めるための準備として、造形面32aを加熱する(ステップS8)。
ステップS8において、ビーム照射装置14は、制御部17の制御下で動作することにより、マスクカバー30の開口部30aを通して造形面32aに電子ビーム15を照射する。このとき、制御部17は、ビーム照射装置14が備える対物レンズ等によって電子ビーム15をデフォーカスさせる。このデフォーカスは、電子ビーム15の合焦位置が造形面32aよりも下方にずれた状態、すなわちアンダーフォーカスの状態とする。また、制御部17は、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するように、ビーム照射装置14を制御する。これにより、開口部30aに露出している造形面32aの全域に電子ビーム15が照射される。また、造形面32aは、金属粉末32が仮焼結する程度の温度に加熱される。造形面32aを所定の温度に加熱したら、ビーム照射装置14は、電子ビーム15の照射を停止する。
【0039】
次に、造形プレート22を所定量(ΔZ)だけ下降させる(ステップS9)。
ステップS9において、プレート移動装置26は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面よりも造形面32aが僅かに下がった状態となるように、インナーベース24をΔZだけ下降させる。
【0040】
次に、マスクカバー30を上昇させる(ステップS10)。
ステップS10において、カバー移動装置(図示せず)は、次のステップS11でアーム16cがマスクカバー30に接触しないよう、アーム16cよりも高い位置までマスクカバー30を上昇させる。
【0041】
次に、造形プレート22上に金属粉末32を敷き詰める(ステップS11)。
ステップS11において、粉末供給装置16は、上記ステップS4と同様に動作する。
【0042】
次に、マスクカバー30を下降させる(ステップS12)。
ステップS12において、カバー移動装置(図示せず)は、上記ステップS5と同様に動作する。
【0043】
次に、金属粉末32を仮焼結させる(ステップS13)。この工程は第1工程に相当する。
ステップS13において、ビーム照射装置14は、上記ステップS6と同様に動作する。
【0044】
次に、金属粉末32を溶融および凝固させる(ステップS14)。この工程は第2工程に相当する。
ステップS14において、ビーム照射装置14は、上記ステップS7と同様に動作する。これにより、第2層目の造形が完了する。
【0045】
以降は、ステップS15において造形物38の造形が完了するまで、上記ステップS8~S14の工程を繰り返す。造形物38の造形は、造形物38の造形に必要な層の数だけ金属粉末32の溶融および凝固が行なわれた段階で完了となる。これにより、目的とする造形物38が得られる。
【0046】
ここで、本発明の第1実施形態と比較される比較形態について、
図3を用いて説明する。
なお、
図3において、E1は、未焼結の金属粉末32が存在する未焼結領域を示し、E2は、仮焼結された金属粉末32が存在する仮焼結領域を示している。この点は他の図でも同様である。
【0047】
図3に示す比較形態においては、造形プレート22上に敷き詰められた金属粉末32を仮焼結させる場合に、マスクカバー30に電子ビーム15が当たらないように、マスクカバー30の開口部30aよりも狭い範囲で電子ビーム15を走査している。このように電子ビーム15を走査すると、積層初期の段階では造形プレート22の周囲に存在する金属粉末32が仮焼結されるが、積層が進んで造形プレート22上の層の厚みが厚くなると、実際に電子ビーム15が照射される領域くらいまでしか金属粉末32が仮焼結されなくなる。その結果、マスクカバー30の開口部30aの内側に未焼結の金属粉末32が残り、その後の選択的溶融工程において、開口部30aの内側に存在する未焼結の金属粉末32が起点となってスモークが発生するおそれがある。
【0048】
これに対し、本発明の第1実施形態においては、造形プレート22上に敷き詰められた金属粉末32を仮焼結させる場合に、
図4に示すように、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査する。このため、開口部30aの内側に未焼結の金属粉末32が残らない。したがって、その後の選択的溶融工程において、スモークの発生を効果的に抑制することができる。
【0049】
なお、上記第1実施形態においては、造形プレート22を加熱するステップS1において、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するとしたが、本発明はこれに限らず、マスクカバー30の開口部30aよりも狭い範囲に電子ビーム15を走査してもよい。換言すると、ステップS1において、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するか、あるいはマスクカバー30の開口部30aよりも狭い範囲に電子ビーム15を走査かは、開口部30aの開口寸法と造形プレート22の外形寸法との大小関係等を考慮して適宜決定すればよい。
【0050】
また、上記第1実施形態においては、金属粉末32を仮焼結させるステップS6において、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するとしたが、本発明はこれに限らず、マスクカバー30の開口部30aよりも狭い範囲に電子ビーム15を走査してもよい。その理由は次のとおりである。ステップS6は、造形プレート22上の層の厚みが薄い積層初期に該当する。このため、高温に加熱された造形プレート22の熱が金属粉末32に伝えられることで、造形プレート22の周囲に存在する金属粉末32が仮焼結される。よって、ステップS6においてマスクカバー30の開口部30aよりも狭い範囲に電子ビーム15を走査しても、マスクカバー30の開口部30aに露出する金属粉末32のすべてを仮焼結させることができる。よって、ステップS6においては、マスクカバー30の開口部30aよりも狭い範囲に電子ビーム15を走査してもよい。
【0051】
上記と同様の理由により、金属粉末32を仮焼結させるステップS13においても、積層初期の期間内はマスクカバー30の開口部30aよりも狭い範囲に電子ビーム15を走査し、積層初期の期間が過ぎてからマスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するよう、制御部17がビーム照射装置14を制御してもよい。その場合、積層初期の期間は、マスクカバー30の開口部30aに露出する金属粉末32のすべてを造形プレート22から伝わる熱によって仮焼結させることができる期間とすればよい。
【0052】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置は、上記第1実施形態に係る三次元積層造形装置と比較して、マスクカバーの構成が異なる。以下、第2実施形態に係る三次元積層造形装置が備えるマスクカバーの構成について説明する。
【0053】
図5は、本発明の第2実施形態に係るマスクカバーを備える三次元積層造形装置の要部構成を示す概略側面図であり、
図6は、本発明の第2実施形態に係るマスクカバーの構成を示す斜視図である。
図5および
図6に示すように、マスクカバー30-2は、上述した開口部30a、マスク部30bおよび囲い部30cに加えて、壁部30dを備えている。壁部30dは、開口部30aの縁から造形プレート22と反対側、すなわち上側に起立している。本実施形態においては、壁部30dが垂直に起立している。壁部30dは、開口部30aの全周を囲むように形成されている。このため、開口部30aの平面視形状が円形であれば、壁部30dの平面視形状も円形に形成され、開口部30aの平面視形状が角形であれば、壁部30dの平面視形状も角形に形成される。
図6においては、開口部30aおよび壁部30dの平面視形状が円形で、囲い部30cの平面視形状が四角形の場合を示している。また、
図6において、マスク部30bと囲い部30cはネジ止め、溶接等によって固定され、マスク部30bと壁部30dもネジ止め、溶接等によって固定されている。なお、マスク部30b、囲い部30cおよび壁部30dのうち、マスク部30bと囲い部30c、または、マスク部30bと壁部30dは、それぞれ一体構造になっていてもよいし、マスク部30b、囲い部30cおよび壁部30dの全部が一体構造になっていてもよい。
【0054】
上記構成からなるマスクカバー30-2を備える三次元積層造形装置においては、上記第1実施形態と同様に電子ビーム15を開口部30aよりも広範囲に走査することにより、その走査位置が開口部30aを過ぎたところで電子ビーム15が壁部30dに照射される。その際、制御部17は、電子ビーム15の照射位置が壁部30dの上端を乗り越えないように、ビーム照射装置14を制御する。
【0055】
上述のように電子ビーム15が壁部30dに照射されると、電子ビーム15の照射位置が上側にずれる。このため、前述したアンダーフォーカスによるデフォーカス量が増大し、その分だけ電子ビーム15の照射位置におけるビームスポット径が大きくなる。したがって、電子ビーム15の照射位置が壁部30dの上端に近づくほど電流密度が低下する。その結果、電子ビーム15の照射によるマスクカバー30-2の熱変形を抑制することができる。また、仮に小規模なスモークが発生して粉末粒子が飛散した場合に、飛散した粉末粒子がマスク部30bの上に乗らないよう、壁部30dを障壁として機能させることができる。また、飛散した粉末粒子が万が一、壁部30dを乗り越えてマスク部30bの上に乗った場合でも、その粉末粒子への電子ビーム15の直接照射は壁部30dによって遮られる。このため、マスク部30bの上に乗った粉末粒子の仮焼結を防止することができる。ちなみに、マスク部30bの上に乗った粉末粒子が仮焼結すると、この仮焼結体とマスク部30bとの熱膨張差によってマスク部30bの縁が波打つように歪むおそれがあるが、上述のように壁部30dを設けた構成を採用すれば、そのような不具合の発生を避けることができる。
【0056】
なお、上記第2実施形態において、マスクカバー30は、囲い部30cおよび壁部30dの両方を備えた構成となっているが、マスクカバー30に壁部30dを設けた場合は、この壁部30dが囲い部30cと同様の機能を果たすため、囲い部30cを設けなくてもよい。
【0057】
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。本発明の第3実施形態に係る三次元積層造形装置は、上記第2実施形態に係る三次元積層造形装置と比較して、マスクカバーにおける壁部の角度が異なる。
【0058】
図7は、本発明の第3実施形態に係るマスクカバー備える三次元積層造形装置の要部構成を示す概略側面図である。
図7に示すように、マスクカバー30-3は、開口部30a、マスク部30b、囲い部30cおよび壁部30dを備える点は上記第2実施形態と同様である。ただし、上記第2実施形態においては、壁部30dが垂直に起立して形成されているのに対し、第3実施形態においては、壁部30dがビーム照射装置14の中心軸40側に傾いて配置されている。具体的には、壁部30dの上端が下端よりもビーム照射装置14の中心軸40の近くに配置されるよう、壁部30dが内側に傾いて配置されている。ビーム照射装置14の中心軸40は、ビーム照射装置14を構成する電子銃および光学系の中心軸(光軸)を意味する。
【0059】
ここで、マスク部30bの下面と平行な仮想平面42と壁部30dとのなす角度をθ1とすると、壁部30dは、角度θ1が鋭角となるように内側に傾いている。また、金属粉末32を仮焼結する際の電子ビーム15の最大の偏向角度をθ2とすると、角度θ1と角度θ2とは、θ1>θ2の関係を満たしている。電子ビーム15の偏向角度は、鉛直軸に直交する仮想平面44と電子ビーム15の中心軸とのなす角度で規定され、電子ビーム15の中心軸が鉛直軸と平行であるときに最小(ゼロ)となる。
【0060】
上記構成からなるマスクカバー30-3を備える三次元積層造形装置においては、上記第2実施形態と同様の効果に加えて、次のような効果が得られる。
本発明の第3実施形態に係るマスクカバー30-3は、上述したように壁部30dが内側に傾いている。このため、ビーム照射装置14から造形プレート22に向けて電子ビーム15を照射した際に造形面32aから発生する輻射熱を、壁部30dの傾きを利用して造形面32a側に戻すことができる。これにより、造形面32aの保温性を高めて熱効率を向上させることができる。また、上述した角度θ1と角度θ2の大小関係がθ1>θ2になっているため、開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を走査するときに、この電子ビーム15がマスク部30bに照射されないよう、電子ビーム15を壁部30dによって遮ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件、あるいは、その構成要件の組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【符号の説明】
【0062】
10…三次元積層造形装置
14…ビーム照射装置
15…電子ビーム
17…制御部
22…造形プレート
30、30-2、30-3…マスクカバー
30a…開口部
30b…マスク部
30d…壁部
32…金属粉末
42…仮想平面