(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】ムーブメント及びこのムーブメントを備えた時計
(51)【国際特許分類】
G04B 27/04 20060101AFI20240321BHJP
G04B 3/04 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
G04B27/04 A
G04B3/04 Z
(21)【出願番号】P 2020172066
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019203027
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイン 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】金澤 誠人
(72)【発明者】
【氏名】廣田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】干川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】関根 彬允
(72)【発明者】
【氏名】山崎 晴子
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-33333(JP,Y1)
【文献】特開2006-201168(JP,A)
【文献】実開昭56-3478(JP,U)
【文献】実開昭58-110872(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
G04G 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計の機能を構成する第1の機構及び第2の機構と、前記第1の機構と前記第2の機構に連結するツヅミ車と、前記ツヅミ車に挿通される巻真と、を備え、
前記ツヅミ車は、前記巻真からの回転力を前記第1の機構に伝達する第1歯車と、前記巻真からの回転力を前記第2の機構に伝達する第2歯車と、を有し、前記巻真の回転方向に応じて、前記巻真からの回転力の伝達先を、前記第1の機構及び前記第2の機構の一方から他方へ切り替
え、
外部の磁場に応じて回転する磁気回転体と、
前記磁気回転体の回転方向に応じて、前記第1の機構及び前記第2の機構のうち少なくとも一方に連結した状態と連結しない状態とを切り替える切替機構と、を有するムーブメント。
【請求項2】
前記ツヅミ車は、前記第1歯車と前記第2歯車との間にラチェット部品を有し、前記第2歯車と前記ラチェット部品とは、前記巻真の一方向の回転力を前記第1の機構又は前記第2の機構に伝達するラチェット構造を有する請求項1に記載のムーブメント。
【請求項3】
前記ツヅミ車は、前記第1歯車とラチェット構造を構成する第1のラチェット部品と、前記第2歯車とラチェット構造を構成する第2のラチェット部品とを有する請求項1に記載のムーブメント。
【請求項4】
前記ツヅミ車は、前記ラチェット部品を前記第1歯車及び前記第2歯車の少なくとも一方に対して付勢するためのばね部品を有する請求
項2に記載のムーブメント。
【請求項5】
前記ツヅミ車は、前
記第1のラチェット部品を前記第1歯
車に、前記第2のラチェット部品を前記第2歯
車に、それぞれ付勢するためのばね部品を有する請求
項3に記載のムーブメント。
【請求項6】
前記第1の機構は、動力ぜんまいを巻上げる巻上機構であり、
前記第2の機構は、表示する時刻を修正する時刻調整機構である請求項1から請求
項5のうちいずれか一つに記載のムーブメント。
【請求項7】
前記切替機構は、前記磁気回転体の回転方向のうち一方の回転方向のときは、前記第1の機構に連結した状態で、かつ前記第2の機構に連結しない状態に切り替え、前記磁気回転体の回転方向のうち他方の回転方向のときは、前記第2の機構に連結した状態で、かつ前記第1の機構に連結しない状態に切り替える、請求
項1から6のうちいずれか1項に記載のムーブメント。
【請求項8】
前記切替機構は、前記磁気回転体の回転方向のうち一方の回転方向のときは、前記第1の機構及び前記第2の機構に連結した状態に切り替え、前記磁気回転体の回転方向のうち他方の回転方向のときは、前記第1の機構及び前記第2の機構のいずれにも連結しない状態に切り替える、請求
項1から6のうちいずれか1項に記載のムーブメント。
【請求項9】
請求項1から請求項8のうちいずれか一つに記載のムーブメントを備えた時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの機構、例えば、動力ぜんまいの巻上げ機構と時刻を修正する機構とを含む時計に関する。
【背景技術】
【0002】
動力ぜんまいを巻上げる機構及び時刻を修正する機構を含む時計は、すでに知られている。また、時計には、通常運針モードと、時刻合わせや日付合わせ等を行う修正モードと、を切り換える切替機構が搭載されている。
【0003】
切替機構は、軸周りに回転可能とされるとともに、引き出し操作や押し込み操作に伴って軸方向に移動可能とされた巻真と、巻真が挿通される係合孔を有するツヅミ車と、巻真の移動に伴って作動し、ツヅミ車を小鉄車等に噛合させるおしどり及びかんぬきと、を備えている。
【0004】
一例として、特許文献1には、巻真が軸方向の3つの位置に移動可能であり、かつ後歯と前歯とを備えたツヅミ車を持つ時計が知られている(例えば、特許文献1参照)。この時計は、軸方向の第1の位置において、巻真は、ツヅミ車の後歯の傾斜によって巻上げ機構と連結し、動力ぜんまいの巻上を可能としている。
【0005】
また、軸方向の第2の位置において、巻真は、ツヅミ車の後歯によって日付及び曜日の修正機構と連結し、日付及び曜日の修正を可能としている。また、軸方向の第3の位置において、巻真は、ツヅミ車の前歯によって時刻を修正する機構と連結し、時刻の修正を可能としている。また、巻真を各位置に動かし、各機構との連結状態を切り替えることによって、独立した各機構を任意に作動させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、先行技術文献に記載された時計は、各機構を作動させるために、巻真を軸方向に動かす必要があり、簡便な操作で各機構を作動させることが困難であった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、少なくとも2つの機構を含み、各機構を作動させるために巻真を軸方向に移動させるといった煩雑な切替操作を必要としないムーブメント及びこのムーブメントを備えた時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るムーブメントは、第1の機構及び第2の機構と、第1の機構と第2の機構に連結するツヅミ車と、ツヅミ車に挿通される巻真と、を備え、ツヅミ車は、巻真からの回転力を第1の機構に伝達する第1歯車と、巻真からの回転力を第2の機構に伝達する第2歯車と、を有し、巻真の回転方向に応じて、巻真からの回転力の伝達先を、第1の機構及び第2の機構の一方から他方へ切り替える。
【0010】
本発明に係るムーブメントは、ツヅミ車が、第1歯車と第2歯車との間にラチェット部品を有し、第2歯車とラチェット部品とは、巻真の一方向の回転力を第1の機構又は第2の機構に伝達するラチェット構造とすることが好ましい。
【0011】
本発明に係るムーブメントは、ツヅミ車が、第1歯車とラチェット構造を構成する第1のラチェット部品と、第2歯車とラチェット構造を構成する第2のラチェット部品とを有することが好ましい。
【0012】
本発明に係るムーブメントは、ラチェット部品を第1歯車又は第2歯車の少なくとも一方に対して付勢するためのばね部品を有することが好ましい。
【0013】
本発明に係るムーブメントは、第1の機構が、動力ぜんまいを巻上げる巻上機構であり、第2の機構が、時刻を修正する時刻調整機構であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る時計は、本発明に係るムーブメントを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るムーブメント及び時計によれば、少なくとも2つの機構を含み、各機構を作動させるために巻真を軸方向に移動させるといった煩雑な切替操作を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態における時計の外観を示す平面図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるムーブメントを示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるムーブメントを示す平面図である。
【
図4】本発明の実施形態におけるツヅミ車を示す分解斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態におけるツヅミ車の変形例を示す分解斜視図である。
【
図6】
図1~5に示した実施形態の時計のムーブメントに、磁気回転体、減速車、切替機構としてのワンウェイクラッチ及びリバーサを付加した変形例1の時計を示すブロック図である。
【
図9】磁気回転体の別例(その1)を示す平面図である。
【
図10】磁気回転体の別例(その2)を示す平面図である。
【
図11】磁気回転体を回転させる外部磁場を発生する一例の磁気発生装置を示す平面図である。
【
図12】
図6に示した変形例1の別例である変形例2の時計を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るムーブメント及びこのムーブメントを備えた本発明に係る時計の各実施形態について図面を用いて説明する。
【0018】
[実施例]
図1は、本発明の一実施形態であるムーブメント1を備えた、本発明の一実施形態である時計100の外観を示す平面図である。
図1に示すように本実施形態の時計100は、ケース91の内部に、第1の機構及び第2の機構や輪列などをはじめとしたムーブメント1、文字板92、及び時針93、分針94、秒針95等の指針を備えている。
【0019】
図2は、本発明のムーブメント1を示す平面図である。本発明のムーブメント1は、
図2に示すように、時計の機能を構成する第1の機構及び第2の機構と、第1の機構と第2の機構に連結するツヅミ車5と、ツヅミ車に挿通される巻真2と、を備えている。
【0020】
ツヅミ車5は、巻真2からの回転力を第1の機構に伝達する第1歯車6と、巻真2からの回転力を第2の機構に伝達する第2歯車7と、を有し、巻真2の回転方向に応じて、巻真2からの回転力の伝達先を、第1の機構及び第2の機構の一方から他方へ切り替えることができるように構成されている。
【0021】
本実施形態では、第1の機構は、動力ぜんまいを巻上げるための巻上機構とし、第2の機構は、時計の時刻を調整する時刻調整機構として説明する。第1の機構及び第2の機構はこれに限定されるわけではなく、上記以外にもカレンダー表示の日付や曜日を調整する機構とすることもできる。
【0022】
ツヅミ車5は、第1の機構に動力を伝達するための丸穴車3と連結する第1歯車6と、第2の機構に動力伝達するための小鉄車4と連結する第2歯車7とを有し、第1歯車6と第2歯車7との間には、ラチェット部品8を備えている。
【0023】
ラチェット部品8と第2歯車7とは、動作方向を一方向に制限するラチェット機構で噛み合う構造となっており、一方の回転動作のときはラチェット部品8と第2歯車7とは、動力が伝達可能な噛み合いとなり、もう一方の回転動作のときは、ラチェット部品8と第2歯車7とはスリップし、動力が伝達されない臼型ラチェット構造となっている。
【0024】
図4は、ツヅミ車5の詳細な構造を示している。第1歯車6は、円柱状軸部63及び角柱状軸部62を有しており、歯車部分61と円柱状軸部63及び角柱状軸部62とを貫通し、巻真2を挿通する角孔が設けられ、巻真2に対し回転しないように固定される。
【0025】
ラチェット部品8は、第1歯車6が有する角柱状軸部62を挿通する角孔を有し、第1歯車6及び巻真2に対して回転しないように固定され、第1歯車6の角柱状軸部62上をスライドすることができる。第2歯車7は、第1歯車6の円柱状軸部63を挿通する円孔を有し、巻真2に対し回転しないように固定される第1歯車と同軸で自由に回転することができる。
【0026】
ラチェット部品8と第2歯車7は対応する引っかかり部81,71を有し、ラチェット部品8が第2歯車に対して付勢された状態で、当該引っかかり部81,71によって一方向の回転についてのみ第2歯車7を回転させることができる。
【0027】
ばね部材9は、一端が地板(図示せず)上に固定された梁構造を有し、反対の一端がラチェット部品8のばね掛かり部82に圧力をかけ、ラチェット部品8を第2歯車7に対して付勢する。巻真2がラチェット部品8の引っかかり部81と第2歯車7の引っかかり部71とが係合しない方向に回転したときに、ラチェット部品8が受ける反力によってばね部材9がたわみ、指針をほぼ回転させず、正常な時刻表示に影響を及ぼさない程度の力で、ラチェット部品8と第2歯車7の間が空転できるよう十分弱い力で付勢する。
【0028】
第1の機構の一例である巻上機構は、多くの機械式時計に備わっており、ぜんまいを内包する香箱の軸真と係合する角穴車10と、巻真2の回転力をツヅミ車5を介して受ける丸穴車3と、ぜんまいを巻
上げる方向の丸穴車3の回転力のみを角穴車10に伝達する巻き伝え車11を有している。巻き伝え車11はクラッチ機構として機能し、丸穴車3の一方向の回転力のみを角穴車10に伝達するため、丸穴車3の回転方向によって地板上を移動する。
【0029】
第2の機構の一例である時刻調整機構は、多くの機械式時計に備わっており、小鉄車4と日の裏車、筒かなを有している。巻真2を回転させることで生じる回転力がツヅミ車5の第2歯車7から小鉄車4に伝達され、さらに小鉄車4から輪列を介して時針93、分針94などの指針を回転させて時刻を修正する。
【0030】
巻真2を反時計回りに回転させた場合のムーブメント1の動作について、
図2を用いて説明する。
【0031】
巻真2が反時計回りに回転するとツヅミ車5の第1歯車6を介して丸穴車3が反時計回りに回転し、巻き伝え車11は、丸穴車3の回転により時計回りに回転するとともに角穴車10との連結が解除される位置に移動し、香箱内の動力ぜんまいは巻上げられないが、ツヅミ車5の第1歯車6と回転連動するラチェット部品8の引っかかり部81が第2歯車の引っかかり部71と係合し、巻真2の回転力が第2歯車7に伝達される。第2歯車7が回転することによって小鉄車4が時計回りに回転し、輪列を介して指針を回転させることができ、巻真2の回転量に応じて時刻を進める方向の時刻修正が可能となる。
【0032】
巻真2を時計回りに回転させた場合のムーブメント1の動作について
図3を用いて説明する。巻真2が時計回りに回転するとツヅミ車5の第1歯車6を介して丸穴車3が時計周りに回転し、巻き伝え車11は、丸穴車3の回転により反時計回りに回転するとともに角穴車10と連結する位置に移動し、香箱内の動力ぜんまいが巻上げられるが、ツヅミ車5の第1歯車6と回転連動するラチェット部品8の引っかかり部81が第2歯車7の引っかかり部71と係合しない方向へ回転することで空転し、巻真2の回転力が第2歯車7に伝わらず、第2歯車7によって小鉄車4が回転しないため、巻真2の回転量に応じて時刻修正は行われない。
【0033】
上記構成とすることにより、巻真2からの回転力の伝達先を、巻真2の回転方向に応じて、第1の機構及び第2の機構の一方から他方へ切り替えることができ、各機構を作動させるために巻真を軸方向に移動させるといった煩雑な切替操作を必要としないムーブメント1を得ることができる。
【0034】
また、本実施形態の時計100は、上述したムーブメント1を備えているため、巻真2からの回転力の伝達先を、巻真2の回転方向に応じて、第1の機構及び第2の機構の一方から他方へ切り替えることができ、各機構を作動させるために巻真を軸方向に移動させるといった煩雑な切替操作を必要としない。
【0035】
[変形例]
本発明の変形例について
図5を用いて説明する。上述した実施形態では、ラチェット部品8及び第2歯車7がラチェット機構を構成しているツヅミ車5の構造を説明したが、変形例では、第1歯車65及び第2歯車75それぞれとラチェット機構を構成するラチェット部品86,87を有するツヅミ車51の構造について説明する。
【0036】
図5は、本発明の変形例におけるツヅミ車51を示す分解斜視図である。
図5に示すように、変形例のツヅミ車51は、第1歯車65と第2歯車75とを有し、第1歯車65とラチェット構造を構成する第1のラチェット部品86と、第2歯車75とラチェット構造を構成する第2のラチェット部品87とを有することを特徴としている。
【0037】
図5に示すように、ツヅミ車51を構成する第1歯車65及び第2歯車75は、巻真2を挿通するための丸孔を有し、第1のラチェット部品86及び第2のラチェット部品87は、巻真2を挿通するための角孔を有している。さらに第1のラチェット部品86と第2のラチェット部品87との間にばね部品90が配置され、第1のラチェット部品86を第1歯車65に対して付勢するとともに、第2のラチェット部品87を第2歯車75に対して付勢する構造となっている。
【0038】
第1歯車65及び第2歯車75は、巻真2を挿通する丸孔を有し、巻真に対し回転自在となっており、第1のラチェット部品86及び第2のラチェット部品87は、巻真2を挿通する角孔を有し、巻真2に回転しないように固定される構造となっている。
【0039】
ツヅミ車51に挿通する巻真2は、少なくとも一部に第1のラチェット部品86及び第2のラチェット部品87と回転しないように固定するための角柱部(図示せず)を有しており、第1歯車65及び第2歯車75は、巻真2に対して回転自在であり、第1のラチェット部品86及び第2のラチェット部品87は、巻真2に対して回転しないように固定される。
【0040】
第1のラチェット部品86及び第2のラチェット部品87は、ばね部品90によってそれぞれ第1歯車65又は第2歯車75に付勢されることによってラチェット機構として機能する。
【0041】
巻真2からの回転力を第1のラチェット部品86から第1歯車65に伝達できる回転方向と、巻真2からの回転力を第2のラチェット部品87から第2歯車75に伝達できる回転方向とは、逆の方向に構成されており、巻真2を一方に回転させたときに第1歯車65又は第2歯車75の一方のみが回転する構造となっている。
【0042】
変形例のツヅミ車51を用いてムーブメント1を構成し、第1歯車を第1の機構(巻上機構)と連結し、第2歯車75を第2の機構(時刻調整機構)と連結した場合についての動作を説明する。
【0043】
巻真2を時計回りに回転させると第1のラチェット部品86及び第2のラチェット部品87は時計回りに回転し、第1歯車65を介して丸穴車3を時計回りに回転させる。丸穴車3は、巻真2の巻上げ方向の回転力のみを角穴車10に伝達し、香箱内の動力ぜんまいが巻上げられる。
【0044】
このとき、第2のラチェット部品87の引っかかり部と第2歯車75の引っかかり部とが係合しない方向へ回転してスリップし、巻真2の回転力が第2歯車75に伝わらず、第2歯車75によって小鉄車4が回転しないため、巻真2の回転量に応じて時刻修正は行われない。
【0045】
変形例のツヅミ車51を用いてムーブメント1を構成した場合、丸穴車3と巻真2の間に第1歯車65及び第1のラチェット部品86によってラチェット機構が構成されているため、上述した実施例のように丸穴車3と角穴車10の間に巻き伝え車11(クラッチ機構)を設ける必要が無くなる。
【0046】
巻真2を反時計回りに回転させると第1のラチェット部品86及び第2のラチェット部品87は反時計回りに回転し、第2のラチェット部品87の引っかかり部が第2歯車の引っかかり部と係合し、巻真2の回転力が第2歯車75に伝達される。第2歯車75が回転することによって小鉄車4が時計回りに回転し、輪列を介して指針を回転させることができ、巻真2の回転量に応じて時刻を進める方向の時刻修正が可能となる。
【0047】
このとき、第1のラチェット部品86の引っかかり部と第1歯車65の引っかかり部とが係合しない方向へ回転してスリップし、巻真2の回転力が第1歯車65に伝わらず、第1歯車65によって丸穴車3が回転しないため、巻真2の回転量に応じて香箱内の動力ぜんまいは巻上げられない。
【0048】
上記構成とすることにより、巻真2からの回転力の伝達先を、巻真2の回転方向に応じて、第1の機構及び第2の機構の一方から他方へ切り替えることができ、各機構を作動させるために巻真を軸方向に移動させるといった煩雑な切替操作を必要としないムーブメント1を得ることができる。
【0049】
また、本実施形態の時計100は、上述したムーブメント1を備えているため、巻真2からの回転力の伝達先を、巻真2の回転方向に応じて、第1の機構及び第2の機構の一方から他方へ切り替えることができ、各機構を作動させるために巻真を軸方向に移動させるといった煩雑な切替操作を必要としない。
【0050】
当然ながら、本発明は、図示した例に制限されることは無く、たとえば実施例でラチェット機構について臼型ラチェット機構を例示したが、ラチェット機構は2方向の回転運動のうち1方向の回転運動のみを伝達するものであれば他の形態、たとえばローラークラッチ構造であっても良い。
【0051】
また、時計が有する2以上の機構は、実施例に示したとおり巻上げ機構と時刻調整機構である必要は無く、例えばクオーツ時計に備えられるゴルフのスコア表示機構等であってもよい。
【0052】
[変形例1]
図6は、
図1~5に示した実施形態の時計100のムーブメント1に、磁気回転体210、減速車220、切替機構としてのワンウェイクラッチ230及びリバーサ240を付加した変形例1の時計200を示すブロック図、
図7は磁気回転体210を備えた時計200の模式図、
図8は磁気回転体210の一例を示す平面図、
図9,10は磁気回転体210の別例を示す平面図である。
【0053】
磁気回転体210は、例えば、
図7に示すように時計200の内部に設けられている。時計200は、磁気回転体210及び切替機構をさらに備えている以外は、時計100と同じ構成である。
【0054】
磁気回転体210は、例えば
図8に示すように、軸211と、基板212と、永久磁石213,214とを備えている。磁気回転体210は、外部の磁場により、軸211を中心として回転する。永久磁石213はN極、永久磁石214はS極が、基板212の表面上に配置されたものである。
【0055】
永久磁石213と永久磁石214とは、軸211を中心とする周方向に沿って交互、軸211回りの等角度間隔で並ぶように配置されている。永久磁石213と永久磁石214とは、2個ずつでなくてもよく、1個ずつであってもよいし、3個以上ずつであってもよい。
【0056】
基板212は、軸211を中心とする円板状に形成されているが、
図9に示すように、両端に永久磁石213,214が配置されたバー状の基板215であってもよいし、
図10に示すように、バー状の基板215に、軸211を中心とする円環状の基板216を付加した基板217であってもよい。
【0057】
図11は磁気回転体210を回転させる外部磁場を発生する一例の磁気発生装置400を示す平面図である。外部の磁場を発生させる装置としては、例えば、
図11に示す磁気発生装置400を適用することができる。
【0058】
磁気発生装置400は、基板402に配置された6個の電磁石403,404と、これらの電磁石403,404を駆動する電気回路401とを備えている。
【0059】
電磁石403と電磁石404とは、例えば、巻き線の巻き付け方向が互いに反対向きであり、電気回路401の駆動によって互いに反対の磁極となるように形成されている。そして、電磁石403と電磁石404とは、円周上に沿って等角度間隔で交互に並ぶように配置されている。電磁石403と電磁石404とは、
図11に示した3個ずつでなくてもよく、1個ずつや2個ずつ、又は4個以上ずつであってもよい。
【0060】
磁気発生装置400は、電気回路401の駆動により、各電磁石403,404が磁化されることにより磁場を発生させる。そして、電気回路401が、各電磁石403,404を磁化させて形成する磁極を順次反転させることで磁場が変化させる。
【0061】
そして、磁気発生装置400に磁気回転体210を対向するように時計200を配置した状態で、磁気発生装置400により磁場を変化させることで、時計200の磁気回転体210を軸211回りに回転させることができる。なお、電気回路401の制御により、磁気回転体210を回転させる方向を任意に変化させることができる。
【0062】
時計200の磁気回転体210は、
図6に示すように、減速車220及びリバーサ240を介して、時針93や分針94等の指針に連結されているとともに、減速車220及びワンウェイクラッチ230を介して、ゼンマイを巻上げる機構(角穴車10及び香箱車)に連結されている。
【0063】
ワンウェイクラッチ230は、ラチェット機構と同様に、磁気回転体210の回転方向が特定の一方向のときには、磁気回転体210の回転にしたがって回転する減速車220の回転を角穴車10に伝達して、ゼンマイを巻上げる。
【0064】
一方、ワンウェイクラッチ230は、磁気回転体210の回転方向が特定の一方向でないとき(特定の一方向とは反対方向の回転のとき)は、磁気回転体210の回転にしたがって回転する減速車220の回転を角穴車10に伝達しないため、ゼンマイを巻上げない。
【0065】
リバーサ240は、
図6の吹き出しに記載したように、駆動車241と被駆動車242と移動車243とを有している。駆動車241は、減速車220に連結されていて、磁気回転体210の回転に連動した減速車220の回転方向及び角速度に応じた回転方向及び角速度で回転する。
【0066】
被駆動車242は、時針93及び分針94と連動する日の裏車に連結されていて、被駆動車242の回転は、日の裏車を回転させる。移動車243は、駆動車241に常時噛み合うとともに、駆動車241の回転により、駆動車241の周方向に沿って移動(公転)できるように支持されている。
【0067】
具体的には、駆動車241が反時計回りに回転すると(
図6の吹き出しにおける右側に示した輪列の図)、駆動車241に噛み合っている移動車243は、駆動車241の歯に噛み合ったまま駆動車241の周方向を反時計回りに移動する。そして、移動した移動車243が被駆動車242の噛み合うと、移動車243の駆動車241回りの移動は停止し、その後は、駆動車241の反時計回りの回転により移動車243は時計回りに回転(自転)する。
【0068】
移動車243の時計回りの回転は、移動車243と噛み合った被駆動車242を反時計回りに回転させる。被駆動車242の回転は日の裏車を回転させて指針を一定方向(時計回り方向)に回転させることにより、指針の位置合わせを行う。
【0069】
一方、駆動車241が時計回りに回転すると(
図6の吹き出しにおける左側に示した輪列の図)、駆動車241に噛み合っている移動車243は、駆動車241の歯に噛み合ったまま駆動車241の周方向を時計回りに移動する。そして、移動した移動車243が被駆動車242から離れる。これにより、駆動車241の回転は、被駆動車242には伝達されず、指針の位置合わせは行われない。
【0070】
ここで、時計200を、磁気回転体210の特定の一方向への回転(例えば、時計回りの回転)を、ワンウェイクラッチ230を介してゼンマイを巻上げる動作に対応付け、磁気回転体210の特定の一方向とは反対の方向への回転(例えば、反時計回りの回転)を、リバーサ240を介して指針を回転させる動作に対応付けた構成とすることができる。
【0071】
つまり、切替機構であるワンウェイクラッチ230は、磁気回転体210の回転方向のうち一方の回転方向のときは、巻上機構(ゼンマイの巻上げ動作を行う機構)に連結した状態で、かつ時刻調整機構(時刻合わせ動作を行う機構)に連結しない状態に切り替え、磁気回転体210の回転方向のうち他方の回転方向のときは、時刻調整機構に連結した状態で、かつ巻上機構に連結しない状態に切り替える。
【0072】
このように変形例1の時計200によれば、りゅうず(巻真2)による操作の切り替えに加えて、磁気発生装置400によって磁気回転体210を回転させる方向を切り替えることによっても、ゼンマイの巻上げる巻上機構と、指針の位置を合わせて、表示する時刻を修正する時刻合わせ動作を行う時刻調整機構とを、選択的に切り替えることができる。
【0073】
なお、変形例1の時計200において、磁気回転体210の特定の一方向への回転(例えば、時計回りの回転)を、ワンウェイクラッチ230を介してゼンマイを巻上げる動作に対応付けるとともに、磁気回転体210の特定の一方向への回転(例えば、時計回りの回転)を、リバーサ240を介して指針を回転させる(時刻合わせ)動作に対応付けた構成とすることもできる。
【0074】
この場合、磁気回転体210の特定の一方向とは反対の方向への回転(例えば、反時計回りの回転)では、ワンウェイクラッチ230を介したゼンマイの巻上げ動作も、リバーサ240を介した時刻合わせ動作も行わない構成とする。
【0075】
このように構成された変形例1の時計200は、磁気回転体210を特定の一方向に回転させることで、ゼンマイの巻上げ動作と時刻合わせ動作とを同時に並行して行うことができる。
【0076】
つまり、ワンウェイクラッチ230及びリバーサ240は、磁気回転体210の回転方向のうち一方の回転方向のときは、巻上機構及び時刻調整機構に連結した状態に切り替え、磁気回転体210の回転方向のうち他方の回転方向のときは、巻上機構及び時刻調整機構のいずれにも連結しない状態に切り替える構成としている。
【0077】
このような構成であっても、りゅうず(巻真2)に対する操作(回転方向の切り替え)によって、ゼンマイの巻上げ動作と時刻合わせ動作とを切り替えることができる。
【0078】
なお、変形例1の時計200において、りゅうず(巻真2)、ツヅミ車5、かんぬき、おしどり及び小鉄車といった従来のゼンマイ巻上げ及び時刻合わせの機構を無くして、磁気回転体210、減速車220、切替機構としてのワンウェイクラッチ230及びリバーサ240によって、ゼンマイの巻上げ及び時刻合わせを行う構成としてもよい。
【0079】
このような構成の時計200は、時計200の外部に設置された磁気発生装置400によって、時計200の内部に設けられた磁気回転体210と、機械的な連結を行うことなく、操作を行うことができる。したがって、、時計200の内部と外部とを機械的に繋ぐ巻真2を備えないため、時計200のケースに、巻真2を通すための貫通穴を形成する必要がなく、時計200の防水性、気密性を高めることができる。
【0080】
[変形例2]
図12は、
図6に示した変形例1の別例である変形例2の時計300を示すブロック図である。
【0081】
図示の時計300は、変形例1の時計200における磁気回転体210に代えて磁気回転体310を適用し、減速車220に代えてに減速車320を適用し、磁気回転体310と減速車320との間に、一番伝え車331を設けた構成である。図示の時計300において、変換レバー332及びリバーサ340は切替機構の一例である。
【0082】
ここで、磁気回転体310は磁気回転体210と同じ構成である。一番伝え車331は、磁気回転体310に連結されて、磁気回転体310の回転により回転し、時計300に設けられた変換レバー332を駆動するとともに、減速車320に回転を伝達する。
【0083】
変換レバー332は、一番伝え車331の回転方向がどちら回りであっても、角穴車10に連結された二番伝え車333を一定の方向に回転させるように、一番伝え車331の回転を二番伝え車に伝達する。
【0084】
つまり、変換レバー332は、変形例1におけるワンウェイクラッチ230と同様に、一番伝え車331の回転方向が、時計回りであっても、反時計回りであっても、二番伝え車333を常に一定の方向(例えば、時計回り方向)にのみ回転させるように、一番伝え車331の回転を二番伝え車333に伝達する機能を発揮する。
【0085】
減速車320は、変形例1における減速車220と基本的に同じであるが、ゼンマイ(香箱車)を巻上げる角穴車10の側には連結されず、リバーサ240と同じ機能の発揮するリバーサ340側にのみ連結されている。
【0086】
ここで、時計300を、磁気回転体310の特定の一方向への回転(例えば、時計回りの回転)を、変換レバー332を介してゼンマイを巻上げる動作に対応付け、磁気回転体310の特定の一方向とは反対の方向への回転(例えば、反時計回りの回転)を、リバーサ340を介して指針を回転させる動作に対応付けた構成とすることができる。
【0087】
つまり、切替機構である変換レバー332は、磁気回転体310の回転方向のうち一方の回転方向のときは、巻上機構に連結した状態に切り替え、磁気回転体310の回転方向のうち他方の回転方向のときは、切替機構であるリバーサ340は、時刻調整機構に連結した状態に切り替える。
【0088】
このように変形例2の時計300によれば、りゅうず(巻真2)による操作の切り替えに加えて、磁気発生装置400によって磁気回転体310を回転させる方向を切り替えることによっても、ゼンマイの巻上げ動作と、指針の位置合わせ動作(時刻合わせ動作)とを、選択的に切り替えることができる。
【0089】
なお、変形例2の時計300において、磁気回転体310の特定の一方向への回転(例えば、時計回りの回転)を、変換レバー332を介してゼンマイを巻上げる動作に対応付けるとともに、磁気回転体310の特定の一方向への回転(例えば、時計回りの回転)を、リバーサ340を介して指針を回転させる(時刻合わせ)動作に対応付けた構成とすることもできる。
【0090】
この場合、磁気回転体310の特定の一方向とは反対の方向への回転(例えば、反時計回りの回転)では、変換レバー332を介したゼンマイの巻上げ動作も、リバーサ340を介した時刻合わせ動作も行わない構成とする。
【0091】
このように構成された変形例2の時計300は、磁気回転体310を特定の一方向に回転させることで、ゼンマイの巻上げ動作と時刻合わせ動作とを同時に並行して行うことができる。
【0092】
つまり、切替機構である変換レバー332とリバーサ340は、磁気回転体310の回転方向のうち一方の回転方向のときは、巻上機構及び時刻調整機構に連結した状態に切り替え、磁気回転体310の回転方向のうち他方の回転方向のときは、巻上機構及び時刻調整機構のいずれにも連結しない状態に切り替える構成としている。
【0093】
このような構成であっても、りゅうず(巻真2)に対する操作(回転方向の切り替え)によって、ゼンマイの巻上げ動作と時刻合わせ動作とを切り替えることができる。
【0094】
なお、変形例2の時計300においても、りゅうず(巻真2)、ツヅミ車5、かんぬき、おしどり及び小鉄車といった従来のゼンマイ巻上げ及び時刻合わせの機構を無くして、磁気回転体310、減速車320、切替機構としての変換レバー332及びリバーサ340によって、ゼンマイの巻上げ及び時刻合わせを行う構成としてもよい。
【0095】
このような構成の時計200は、時計300の外部に設置された磁気発生装置400によって、時計300の内部に設けられた磁気回転体310と、機械的な連結を行うことなく、操作を行うことができる。したがって、時計300の内部と外部とを機械的に繋ぐ巻真2を備えないため、時計300のケースに、巻真2を通すための貫通穴を形成する必要がなく、時計300の防水性、気密性を高めることができる。
【符号の説明】
【0096】
1 ムーブメント
2 巻真
3 丸穴車
4 小鉄車
5 ツヅミ車
6 第1歯車
7 第2歯車
8 ラチェット部品
86 第1のラチェット部品
87 第2のラチェット部品
91 ばね部品
10 角穴車
11 巻き伝え車
91 ケース
92 文字板
93 時針
94 分針
95 秒針
100 時計