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特許7457630コンクリート構造物の補強工法及び補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補強工法及び補強構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240321BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20240321BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E21D11/00 Z
E04G23/02 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020179548
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070468
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594162722
【氏名又は名称】西技工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 博嗣
(72)【発明者】
【氏名】山田 智規
(72)【発明者】
【氏名】長崎 道明
(72)【発明者】
【氏名】辻 総一朗
(72)【発明者】
【氏名】加納 拓磨
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-032532(JP,A)
【文献】特開平09-059937(JP,A)
【文献】特開2003-071377(JP,A)
【文献】特開2002-038655(JP,A)
【文献】特開2018-159204(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0141844(US,A1)
【文献】特開2000-179517(JP,A)
【文献】実開平06-076503(JP,U)
【文献】特開2002-181017(JP,A)
【文献】特開2000-336845(JP,A)
【文献】国際公開第2010/136990(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E21D 11/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のコンクリート面に、複数のアンカー孔を穿設する、穿孔工程と、
前記コンクリート面上に、複数の繊維製帯体を格子状に組んでなる格子材を展設し、前記複数のアンカー孔に打ち込んだ複数のアンカー材で、前記格子材を前記コンクリート面に固定する、格子材固定工程と、
前記コンクリート面上にセメント系増厚材を塗設して、前記格子材及び前記アンカー材を前記セメント系増厚材内に一体に埋設した、所定の設計厚みの補強層を形成する、補強層形成工程と、を備え、
前記アンカー材が、前記コンクリート面上に突起するレベル部を有し、
前記補強層形成工程において、前記コンクリート面上に突起した複数の前記レベル部の頭部を定規材に用いて、前記補強層の厚みを管理し、
前記アンカー材が、先端にスリットを有する拡張スリーブと、前記拡張スリーブの後端に付設した支圧プレートであって前記拡張スリーブの管内と連通する中央孔を有する支圧プレートと、前記支圧プレートの中央孔を通過して前記拡張スリーブ内に挿入した芯棒であって後端に拡大部を有する芯棒と、前記芯棒に環設したスペーサスリーブであって前記支圧プレートと前記芯棒の拡大部の間に介在するスペーサスリーブと、を備える拡張アンカーであって、
前記スペーサスリーブによって前記レベル部の高さを規定したことを特徴とする、
補強工法。
【請求項2】
前記補強層が、前記格子材を埋設した基層と、前記基層の表面を被覆する、被覆薄層からなり、前記補強層形成工程が、前記コンクリート面上に前記セメント系増厚材を塗設し、前記コンクリート面上に突起した複数の前記レベル部の頭部を定規材に用いて、均等厚さの前記基層を形成する、基層形成工程と、前記基層の表面に前記セメント系増厚材を塗設して、前記レベル部の頭部を埋設した前記被覆薄層を形成する、被覆薄層形成工程と、からなることを特徴とする、請求項1に記載の補強工法。
【請求項3】
前記芯棒の拡大部が、略球状又は略半球状であることを特徴とする、請求項に記載の補強工法。
【請求項4】
コンクリート構造物のコンクリート面上に展設した格子材であって、複数の繊維製帯体を格子状に組んでなる、格子材と、
前記格子材を前記コンクリート面に押し付けて固定した、複数のアンカー材と、
前記コンクリート面を被覆した補強層であって、内部に前記格子材及び前記アンカー材を埋め込んだセメント系増厚材からなる、補強層と、を備え、
前記アンカー材が、頭部に前記コンクリート面上に突起したレベル部を有し、
前記アンカー材が、先端にスリットを有する拡張スリーブと、前記拡張スリーブの後端に付設した支圧プレートであって前記拡張スリーブの管内と連通する中央孔を有する支圧プレートと、前記支圧プレートの中央孔を通過して前記拡張スリーブ内に挿入した芯棒であって後端に拡大部を有する芯棒と、前記芯棒に環設したスペーサスリーブであって前記支圧プレートと前記芯棒の拡大部の間に介在するスペーサスリーブと、を備える拡張アンカーであって、
前記スペーサスリーブによって前記レベル部の高さを規定したことを特徴とする、
補強構造。
【請求項5】
前記補強層が、前記コンクリート面から前記レベル部の頭部までの厚さの基層と、前記基層の表面及び前記レベル部の頭部を被覆した被覆薄層からなることを特徴とする、請求項に記載の補強構造。
【請求項6】
前記芯棒の拡大部が、略球状又は略半球状であることを特徴とする、請求項に記載の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物の補強工法及び補強構造に関し、特に作業員の熟練を要さず覆工厚さを均一かつ平滑に仕上げ可能であり、施工効率と施工精度の高い、コンクリート構造物の補強工法及びこれを用いてなる補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インフラの老朽化や耐震基準の高度化に伴い、トンネルや高架橋等の既設のコンクリート構造物を補強する各種の技術が開発されている。
特許文献1には、積層した補強繊維を固化樹脂で固めてなる格子材を、コンクリート面上に展張して固定し、モルタル系の増厚材を吹き付けることで、格子材をコンクリート面に一体に埋め込んで補強する、コンクリート構造物の補強工法が開示されている。
【0003】
これらの補強工法では、施工品質を確保するため、増厚材による覆工厚さを厳密に管理する必要がある。このため、例えば以下の手順で覆工厚さの検査を行っている。
(1)モルタル吹付け前に、所定の覆工厚さと同じ厚みのスペーサ(スポンジ)を両面テープ等でコンクリート面に接着する。(2)モルタルを吹き付けながらモルタルの表面をコテで整形する。(3)モルタルの硬化後にスペーサを取り外す。(4)スペーサ跡の検査孔にノギスを差し入れて覆工厚さを検測する。(5)検査孔をモルタルで埋め戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-71377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術には、以下の欠点がある。
<1>モルタルを所定の覆工厚さに均一に仕上げる作業は施工難度が高く、作業員の熟練度に応じて施工精度にムラが生じる。
<2>所定面積ごとに覆工厚さの検査が必要であり、ノギスによる検測や検査孔の埋め戻し等に多大な手間と時間を要する。
<3>スペーサの設置点数が少ないため、厚みを均一に仕上げにくく、施工精度にムラが生じる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決可能な、コンクリート構造物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコンクリート構造物の補強工法は、コンクリート面に、複数のアンカー孔を穿設する、穿孔工程と、コンクリート面上に、複数の繊維製帯体を格子状に組んでなる格子材を展設し、複数のアンカー孔に打ち込んだ複数のアンカー材で、格子材をコンクリート面に固定する、格子材固定工程と、コンクリート面上にセメント系増厚材を塗設して、格子材及びアンカー材をセメント系増厚材内に一体に埋設した、所定の設計厚みの補強層を形成する、補強層形成工程と、を備え、アンカー材が、コンクリート面上に突起するレベル部を有し、補強層形成工程において、コンクリート面上に突起した複数のレベル部の頭部を定規材に用いて、補強層の厚みを管理することを特徴とする。
【0008】
本発明のコンクリート構造物の補強工法は、補強層が、格子材を埋設した基層と、基層の表面を被覆する、被覆薄層からなり、補強層形成工程が、コンクリート面上にセメント系増厚材を塗設し、コンクリート面上に突起した複数のレベル部の頭部を定規材に用いて、均等厚さの基層を形成する、基層形成工程と、基層の表面にセメント系増厚材を塗設して、レベル部の頭部を埋設した被覆薄層を形成する、被覆薄層形成工程と、からなってもよい。
【0009】
本発明のコンクリート構造物の補強工法は、アンカー材が、先端にスリットを有する拡張スリーブと、拡張スリーブの後端に付設した支圧プレートであって拡張スリーブの管内と連通する中央孔を有する支圧プレートと、支圧プレートの中央孔を通過して拡張スリーブ内に挿入した芯棒であって後端に拡大部を有する芯棒と、芯棒に環設したスペーサスリーブであって支圧プレートと芯棒の拡大部の間に介在するスペーサスリーブと、を備える拡張アンカーであって、スペーサスリーブによって芯棒の突起高さを規定してもよい。
【0010】
本発明のコンクリート構造物の補強工法は、芯棒の拡大部が、略球状又は略半球状であってもよい。
【0011】
本発明のコンクリート構造物の補強構造は、コンクリート構造物のコンクリート面上に展設した格子材であって、複数の繊維製帯体を格子状に組んでなる、格子材と、格子材をコンクリート面に押し付けて固定した、複数のアンカー材と、コンクリート面を被覆した補強層であって、内部に格子材及びアンカー材を埋め込んだセメント系増厚材からなる、補強層と、を備え、アンカー材が、頭部にコンクリート面上に突起したレベル部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のコンクリート構造物の補強構造は、補強層が、コンクリート面からレベル部の頭部までの厚さの基層と、基層の表面及びレベル部の頭部を被覆した被覆薄層からなってもよい。
【0013】
本発明のコンクリート構造物の補強構造は、アンカー材が、先端にスリットを有する拡張スリーブと、拡張スリーブの後端に付設した支圧プレートであって拡張スリーブの管内と連通する中央孔を有する支圧プレートと、支圧プレートの中央孔を通過して拡張スリーブ内に挿入した芯棒であって後端に拡大部を有する芯棒と、芯棒に環設したスペーサスリーブであって支圧プレートと芯棒の拡大部の間に介在するスペーサスリーブと、を備える拡張アンカーであって、スペーサスリーブによって芯棒の突起高さを規定してもよい。
【0014】
本発明のコンクリート構造物の補強構造は、芯棒の拡大部が、略球状又は略半球状であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリート構造物の補強工法及び補強構造は、上述した構成により以下の効果のうち少なくとも1つを有する。
<1>アンカー材の頭部を定規材に兼用し、定規材を基準に覆工厚さを二段階管理することによって、覆工厚さが比較的厚めであっても、均一の厚みに仕上げることができる。
<2>施工が容易であるため、作業員の熟練度に関わらず高い施工精度を確保することができる。
<3>アンカー材の頭部が埋設されることによって、所定の覆工厚さを確保していることが確認できるため、手間と時間のかかる厚み検査が必要ない。このため、施工効率が非常に高い。
<4>アンカー材は所定の間隔で設置されるため、コンクリート面上に定規材が高密度かつ一定間隔で配置されることにより、施工精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るコンクリート構造物の補強工法の説明図。
図2】本発明に係るコンクリート構造物の補強構造の説明図。
図3】格子材の説明図。
図4】アンカー材の説明図。
図5】補強構造の覆工厚さ管理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明のコンクリート構造物の補強工法及び補強構造について詳細に説明する。なお、補強構造については補強方法の説明の中であわせて記述する。
また、本明細書等において、アンカー材及びアンカー材を構成する各部材の「頭部」「後端」とは図3における上方の端部を、「先端」とは図3における下方の端部をそれぞれ意味する。
【実施例1】
【0018】
[補強工法]
<1>全体の構成(図1)。
本発明のコンクリート構造物の補強工法は、既設のコンクリート構造物Aのコンクリート面A1上に、格子材10を展設し、これを補強層30で被覆して、補強構造1を構築する工法である。
補強工法は、穿孔工程S1と、格子材固定工程S2と、補強層形成工程S3と、を少なくとも備える。また、本例では、補強層形成工程S3が、基層形成工程S31と、被覆薄層形成工程S32と、を含む。
本例では、コンクリート構造物Aとしてトンネルを採用し、トンネルの覆工面を補強する例について説明する。ただし補強の対象はトンネルの覆工面に限らず、橋梁の底面、橋脚の側面等であってもよい。
【0019】
<2>補強構造(図2)。
本発明の補強構造1は、少なくとも、格子材10と、格子材10をコンクリート面A1に固定するアンカー材20と、格子材10とアンカー材20をコンクリート面A1上に埋設する補強層30と、を備える。補強層30は、基層31と、被覆薄層32と、を含む。
また、本例では格子材10をアンカー材20で直接固定せず、格子材10とアンカー材20の間に座金40を介在させる。
【0020】
<2.1>格子材(図3)。
格子材10は、コンクリート面A1上に展張してコンクリート構造物Aを補強するための部材である。
格子材10は、並列配置した複数の帯体11を格子状に交差させ、全体に固化樹脂12を含浸させてなる。
帯体11は、複数層に束ねた連続繊維からなる補強体である。
本例では帯体11の素材として炭素繊維を採用する。ただし帯体11の素材は、炭素繊維に限らず、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、PBO繊維等であってもよい。
帯体11は各交点において交差積層(クロスラミネート)する。
固化樹脂12は、帯体11同士を固めて一体化させるマトリックス樹脂である。
本例では固化樹脂12として、ビニルエステル樹脂を採用する。ただしこれに限らず、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のその他の熱硬化性樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂であってもよい。
【0021】
<2.2>アンカー材(図4)。
アンカー材20は、格子材10をコンクリート面A1に固定する機能と、後述する基層形成工程S31における定規材の機能を併有する部材である。
アンカー材20は、頭部に、コンクリート面A1上に突起するレベル部20aを備える点に特徴を有する。
本例ではアンカー材20として、先端にスリット21aを有する拡張スリーブ21と、拡張スリーブ21の後端に付設した支圧プレート22と、支圧プレート22の中央孔を通過して拡張スリーブ21内に挿入した芯棒23と、芯棒23に環設したスペーサスリーブ24と、を備える、芯棒打込み式の拡張アンカーを採用する。
拡張スリーブ21は、外周の先端側に、アンカー孔の内壁に食い込む複数の係止溝21bを有する。また、拡張スリーブ21の管内は先端に向かって徐々に縮径し、最先端では内径が芯棒23の外径より小さくなる。
支圧プレート22は、拡張スリーブ21の管内と連通する中央孔を有する。
芯棒23は、先端が杭状に尖り、後端(頭部)に略半球状又は略球状の拡大部23aを備える。
なお、アンカー材20の上記の構造は一例にすぎず、例えば他の構造の拡張アンカー、拡底アンカー、接着系アンカー等を採用してもよい。要はコンクリート面A1上に格子材10を固定可能な後施工アンカーであって、頭部にレベル部20aを備えていればよい。
【0022】
<2.2.1>レベル部及びスペーサスリーブ。
レベル部20aは、アンカー材20をアンカー孔内に固定した状態における、支圧プレート22の下面から、芯棒23の頭部(拡大部23aの頭部)までの部位である。
レベル部20aは、後述する補強層形成工程S3において、ポリマーセメントモルタルを塗設する際の定規材として用いることができる。
スペーサスリーブ24は、レベル部20aの高さを規定する部材である。
スペーサスリーブ24は、芯棒23の後端部に外挿され、支圧プレート22と芯棒23の拡大部23aの間に介在する。
スペーサスリーブ24の内径は、拡大部23aの最大径より小さい。これにより、スペーサスリーブ24が芯棒23の後端からの抜け出すことを防止する。
【0023】
<2.3>補強層。
補強層30は、格子材10とアンカー材20をコンクリート面A1上に埋設する層である。
本例では、補強層30は、コンクリート面A1を被覆する基層31と、基層31上を被覆する被覆薄層32と、からなる。ただし、後述するように基層31と被覆薄層32とは補強層30の厚み管理上の区分にすぎず、両者は同一の素材からなる。
補強層30は、コンクリート面A1上に塗設したセメント系増厚材を硬化させて形成する。
本例ではセメント系増厚材として、塩害、中性化等に優れるポリマーセメントモルタルを採用する。ただしこれに限らず、他の公知のセメント系増厚材を採用してもよい。
補強層30は、コンクリート面A1とセメント系増厚材の間にプライマーを下塗して形成してもよい。
【0024】
<3>穿孔工程。
高圧洗浄機等によって、コンクリート面A1上の油脂、汚れ、脆弱層などの除去を行う。
続いてハンマードリル等を用いて、コンクリート面A1の、アンカー材20の固定位置に対応する位置に、拡張スリーブ21の長さに対応する深さのアンカー孔を穿設する。
【0025】
<4>格子材固定工程。
コンクリート面A1上に格子材10を広げ、格子材10をコンクリート面A1に接面させる。
続いて、格子材10の表面を座金40で抑え、座金40の中央孔内にアンカー材20を挿通して、アンカー材20の先端をアンカー孔に差し入れる。
この際、アンカー材20は、芯棒23の拡大部23aがスペーサスリーブ24から離れており、拡張スリーブ21の先端は閉じた状態である(図4(a))。
芯棒23頭部の拡大部23aをハンマーで打撃する。これによって、芯棒23の先端が、拡張スリーブ21の管内を先端方向に押し込まれ、拡張スリーブ21の先端を両側に押し開く(図4(b))。
拡張スリーブ21の先端が開くことで、拡張スリーブ21の係止溝21bがアンカー孔の内壁に食い込み、アンカー材20がコンクリート構造物Aに堅固に固定される。
この際、拡大部23aの下部がスペーサスリーブ24の後端に当接し、芯棒23の先端方向へのそれ以上の移動を規制することで、レベル部20aの高さが所定の高さに規定される。
【0026】
<5>補強層形成工程。
コンクリート面A1上にポリマーセメントモルタルを塗設して補強層30を形成する。
本例では、補強層形成工程S3が、格子材10とアンカー材20を埋設した基層31を構成する基層形成工程S31と、基層31の表面を被覆する被覆薄層形成工程S32と、の組合せからなる点に特徴を有する。
ここで、基層形成工程S31と被覆薄層形成工程S32は、補強層30の厚み管理上の概念であって、必ずしも別個の工程として施工するものではない。
すなわち、実際の施工においては、一工程として補強層形成工程S3を行い、補強層形成工程S3中、アンカー材20のレベル部20aを定規材に用いて基層31を塗設する作業が基層形成工程S31に相当し、アンカー材20ごと基層31を被覆する被覆薄層32を塗設する作業が被覆薄層形成工程S32に相当する。
【0027】
<5.1>基層形成工程。
コンクリート面A1上に固定した格子材10上から、ポリマーセメントモルタルを吹き付けて、基層31を塗設する。
詳細には、まずローラやスプレーガンを用いて、コンクリート面A1及び格子材10の表面にプライマーを塗る。
続いて吹き付けガン等を用いて、プライマー層上にポリマーセメントモルタルを吹き付ける。
ポリマーセメントモルタルがある程度の厚みになったら、ポリマーセメントモルタルの表面をコテ等で均し、均一な厚みの基層31を形成する。この際、コンクリート面A1上に突起した複数のレベル部20aの頭部を定規材に用いることで、基層31の厚みを均一にすることができる。
【0028】
<5.2>被覆薄層形成工程。
基層31の表面には、定規材として用いたアンカー材20の拡大部23aの頂点が露出する。
そこで、コテ等を用いて基層31の表面にポリマーセメントモルタルを薄塗りして、被覆薄層32を形成する。
これによって、アンカー材20が補強層30内に完全に埋設される。
なお、本例では芯棒23の拡大部23aを、角部を有さない略球状としているため、補強層30内部において角部への応力集中が起きず、完成後の補強層30の表面にクラックなどの施工不良が生じにくい。
従来技術では、覆工厚が比較的厚い場合、覆工厚さを均一にしつつ、表面を平滑に仕上げるのは非常に難しかった。
これに対し、本発明の補強工法は、基層形成工程S31でレベル部20aを定規材にして覆工厚の大部分を形成し、被覆薄層形成工程S32で残りの薄層を仕上げることにより、補強層30が比較的厚めの場合であっても、覆工厚さを均一かつ平滑に仕上げることができる。
なお、補強層形成工程S3では、補強層30の厚みを、基層形成工程S31と被覆薄層形成工程S32の二段階で管理せず、アンカー材20のレベル部20aを定規材に用いて、一度にアンカー材20の拡大部23aを埋設して補強層30を形成してもよい。
【0029】
<5.3>覆工厚さの管理(図5)。
本発明のコンクリート構造物の補強工法は、スペーサスリーブ24の高さを任意に設定することで、補強層30の覆工厚さを管理することができる。
すなわち、スペーサスリーブ24の高さによって、レベル部20aの高さを規定し、レベル部20aを基準に基層31の厚みを管理する。
ここで、レベル部20aの高さ=基層31の厚さではない。すなわち、支圧プレート22とコンクリート面A1の間には、座金40及び格子材10が介在する。よって、レベル部20aの高さは、基層31の厚さからこれらの部材の厚みを除いた高さとして設定する。
例えば補強層30の覆工厚さが12mmの場合、被覆薄層32の厚さを1mmとすると、基層31の厚さが11mmとなり、レベル部20aの高さは、基層31の厚さ11mmから格子材10と座金40の厚みを除いた高さとなる。
また、スペーサスリーブ24の高さは、レベル部20aの高さから、拡大部23aの突出高さと、支圧プレート22の厚みを除いた高さとなる。
以上の設計から逆算して、スペーサスリーブ24の高さを設定することで、レベル部20aの高さを規定し、更には補強層30の覆工厚さを管理することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 補強構造
10 格子材
11 帯体
12 固化樹脂
20 アンカー材
20a レベル部
21 拡張スリーブ
21a スリット
21b 係止溝
22 支圧プレート
23 芯棒
23a 拡大部
24 スペーサスリーブ
30 補強層
31 基層
32 被覆薄層
40 座金
A コンクリート構造物
A1 コンクリート面
S1 穿孔工程
S2 格子材固定工程
S3 補強層形成工程
S31 基層形成工程
S32 被覆薄層形成工程
図1
図2
図3
図4
図5