(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】摺接部材、導電性高硬度保護被膜及び摺接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240321BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240321BHJP
【FI】
C23C14/06 F
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2020201042
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228604
【氏名又は名称】日本コーティングセンター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 修二
(72)【発明者】
【氏名】立石 圭司
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/138967(WO,A1)
【文献】特開2019-116677(JP,A)
【文献】特開2010-287268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的、又は、電気的及び機械的に他の部材に接する端子部を基材として、該基材の表面に、表面抵抗値が1×10
3Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上
であり、金属がドープされていない炭素系被膜からなる導電性高硬度保護被膜を備え、
前記炭素系被膜は、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む炭素被膜内に導電性炭素微粒子が分散されており、前記炭素系被膜の表面を観察したときに導電性炭素微粒子を面積比で1%以上80%以下含むことを特徴とする、端子部を備える摺接部材。
【請求項2】
前記炭素系被膜の摩擦係数が0.5以下である請求項1に記載の摺接部材。
【請求項3】
前記炭素系被膜の膜厚が20nm以上10μm以下である請求項1又は2に記載の摺接部材。
【請求項4】
電気的、又は、電気的及び機械的に他の部材に接する端子の表面に設けられ、その表面抵抗値が1×10
3Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上
であり、金属がドープされていない炭素系被膜からなり、
前記炭素系被膜は、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む炭素被膜内に導電性炭素微粒子が分散されており、前記炭素系被膜の表面を観察したときに導電性炭素微粒子を面積比で1%以上80%以下含むことを特徴とする導電性高硬度保護被膜。
【請求項5】
アーク放電によりカーボンプラズマを発生させる際に、電磁場の偏向作用によって炭素イオンと炭素微粒子の比率を制することで、電気的、又は、電気的及び機械的に他の部材に接する端子部を基材として、該基材の表面に導電性炭素微粒子が分散した炭素被膜を成膜して、該基材の表面に表面抵抗値が1×10
3Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上の炭素系被膜であって、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む炭素被膜内に導電性炭素微粒子が分散されており、前記炭素系被膜の表面を観察したときに導電性炭素微粒子を面積比で1%以上80%以下含む炭素系被膜から成る導電性高硬度保護被膜を設けることを特徴とする摺接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、半導体、電子部品、これらを用いて構成された各種電子機器及び機械部品等への電気的導通が可能な摺接部材、導電性高硬度保護被膜及び摺接部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程は「前工程」と称されるウェーハ処理工程と、「後工程」と称される組立工程とを有する。前工程は、ウェーハ表面に多数の半導体チップを製造するまでの工程をいい、後工程では、ウェーハから半導体チップを切り出し、最終製品としての半導体集積回路(LSI、VLSI、ULSI等)実装(パッケージ)部品を得る工程をいう。前工程ではプローブピンと称される探針を用いたウェーハ検査が行われ、欠陥を有する半導体チップが後工程に送られることのないように排除される。また、後工程においてもプローブピンを用いた実装部品検査(「パッケージ検査」等とも称される。)が行われ、製品出荷前に不良品が排除される。
【0003】
例えば、ウェーハ検査では、検査対象に応じたプローブカードが用いられる。プローブカードにはプローブピンが取り付けられている。半導体チップにプローブピンをバネ圧により押し当てることで、プローブピンと半導体チップの電子端子材とが接触され、導通テスト、或いは動作テスト等の電気特性試験が行われる。実装部品検査においても、半導体パッケージにおいて所定の電気特性試験が行われる。このような電気特性試験により良品・不良品の判定が行われ、不良品が排除される。
【0004】
このような半導体集積回路は1つのライン又は工場で1日に数百~数千個、或いは数万個生産されている。上記電気特性試験は基本的には全数検査であるため、生産個数に応じてプローブピンが電子端子材に押し当てられる。そのため、プローブピンの端子材との接触部位には耐摩耗性が要求される。
【0005】
また、通常、電子端子材の表面には酸化膜が形成されている。一方、プローブピンの先端の接点部は検査対象に応じた所定の形状を有する。そして、検査時にプローブピンが押し当てられると、電子端子材の表面の酸化膜が破られてその内側のフレッシュな電子端子材とプローブピンとが接触する。これにより検査対象の電気特性が正確に評価される。しかしながら、電子端子材としてハンダのような軟らかい材料が用いられていると、プローブピンの先端にこれらの軟らかい材料が付着することがある。以後、この現象を「転写」と称する。転写が生じると、プローブピンの接点部分のシャープさが損なわれ、次の検査対象の電子端子材の表面の酸化膜を破ることが困難になる。
【0006】
このような問題を防ぐため、上記電気特性試験を行う作業者は定期的に金属ブラシ等でプローブピンの接点部分を磨くといったメンテナンス作業を行っている。しかしながらこのメンテナンス作業を行うには、検査装置を一旦停止する必要がある。一方、このメンテナンス作業を行わないと、電子端子材に対して規定以上のコンタクト圧でプローブピンが押し当てられて、検査対象の半導体チップ、或いは半導体パッケージを破損したり、あるいは正確な計測ができず、良品を不良品と判定するなど、判定ミスが生じる場合がある。その結果、歩留まりが悪化し、生産性が著しく低下するおそれがある。
【0007】
上記転写が生じる原因として、接点部分の摩耗が挙げられる。摩耗に伴い、接点部分の表面粗さが増加すると、ハンダのような軟らかい電子端子材は容易に接点部分に付着する。また、プローブピンの接点部分には、導電性向上のため、金、金合金、ロジウムといった貴金属がメッキされている。ハンダは錫と鉛を主成分とする合金であるが、貴金属との化学結合が強く、接点部分に付着しやすい。
【0008】
そこで、プローブピンに対して貴金属メッキを行う際には、例えばグラファイト微粒子やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子等の樹脂粒子をハンダ等と化学結合を生じにくい粒子を共析させることで、転写を生じにくくすることが行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、これらの方法を採用した場合、プローブピンの接触抵抗が高くなるといった課題がある。一般に、樹脂粒子は耐熱性が低い場合が多い。例えば、バーンイン試験では150℃等の高温下で行われる。そのため、耐熱性の低い樹脂粒子を含む場合、バーンイン試験の際に使用するプローブピンに対して使用することができない。また、特許文献2に開示されるようなPTFE粒子は柔らかいため、これらの方法では耐摩耗性を十分に改善することができない。
【0009】
一方、転写性、耐摩耗性を改善するには、例えば、プローブピンの表面にグラファイトやダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon:DLC)などの炭素系材料による薄膜を設ける方法が考えられる。グラファイトやダイヤモンドライクカーボン等炭素材料は、ハンダとの化学反応性が低いので転写が起きにくい。特にDLCは高硬度であり、摩擦係数も低いため、摺接部の保護被膜としてよく使用されている。しかしながら、DLCは高抵抗であるためプローブピンの保護被膜としては不適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4044926号
【文献】特許第3551411号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、耐摩耗性を向上させつつ、接点部材に用いた場合は転写を抑制し、高温環境下でも使用可能な摺接部材、このような摺接部材に設けられる導電性高硬度保護被膜及びこれらの摺接部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本件発明に係る摺接部材は、端子部を備え、電気的、又は、電気的及び機械的に他の部材に接する端子部を基材として、該基材の表面に、表面抵抗値が1×103Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上であり、金属がドープされていない炭素系被膜からなる導電性高硬度保護被膜を備え、前記炭素系被膜は、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む炭素被膜内に導電性炭素微粒子が分散されており、前記炭素系被膜の表面を観察したときに導電性炭素微粒子を面積比で1%以上80%以下含むことを特徴とする。
【0015】
本件発明に係る摺接部材において、前記炭素系被膜の摩擦係数が0.5以下であることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る摺接部材において、前記炭素系被膜の膜厚が20nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0018】
上記目的を達成するために、本件発明に係る導電性高硬度保護膜は、電気的及び/又は機械的に他の部材に接する接点部材の表面に設けられ、その表面抵抗値が1×103Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上であり、金属がドープされていない炭素系被膜からなり、前記炭素系被膜は、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む炭素被膜内に導電性炭素微粒子が分散されており、前記炭素系被膜の表面を観察したときに導電性炭素微粒子を面積比で1%以上80%以下含むことを特徴とする。
【0019】
上記目的を達成するために、本件発明に係る摺接部材の製造方法は、アーク放電によりカーボンプラズマを発生させる際に、電磁場の偏向作用によって炭素イオンと炭素微粒子の比率を制することで、電気的、又は、電気的及び機械的に他の部材に接する端子部を基材として、該基材の表面に導電性炭素微粒子が分散した炭素被膜を成膜して、該基材の表面に表面抵抗値が1×103Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上の炭素系被膜であって、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含む炭素被膜内に導電性微粒子が分散されており、前記炭素系被膜の表面を観察したときに導電性微粒子を面積比で1%以上80%以下含む炭素系皮膜から成る導電性高硬度保護被膜を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本件発明によれば、耐摩耗性を向上させつつ、接点部材に用いた場合は転写を抑制し、高温環境下でも使用可能な摺接部材、このような摺接部材に設けられる導電性高硬度保護被膜及びこれらの摺接部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)基材の表面に設けられた導電性高硬度被膜の断面を模式的に表した図である。
【
図2】基材の表面に金属中間層30を設けた際の、金属中間層30の表面を示すSEM写真(撮影倍率500倍)である。
【
図3】(a)実施例1の導電性高硬度被膜の表面を示すSEM写真(撮影倍率2,000倍)、(b)実施例2の導電性高硬度被膜の表面を示すSEM写真(撮影倍率2,000倍)、(c)実施例3の導電性高硬度被膜の表面を示すSEM写真(撮影倍率2,000倍)である。
【
図4】比較例1の導電性高硬度被膜の表面を示すSEM写真(撮影倍率300倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る摺接部材、導電性高硬度保護被膜及びその製造方法を説明する。
【0023】
1.摺接部材
本件発明に係る摺接部材は、他の部材に当接し、他の部材と接したときに他の部材と摺り合わされる蓋然性を有する部材をいう。当該摺接部材は他の部材と導通性を要求される部材であってもよいし、導通性を要求されない部材であってもよい。例えば、次に説明する接点部材のように他の部材との導通を要する部材であってもよいし、電気ドリル等に取り付けられる各種ドリル、エンドミル、フライスカッター等のフライス盤(ミリング・マシン)で使用される各種切削工具、或いは、金型、ウエハカセット等の他の部材と直接接触等される部材であって、導通性を要求されない部材であってもよい。また他の部材と当接し、他の部材に対して相対的に移動しながら摺り合わされる摺動部材であってもよい。但し、本件発明に係る導電性高硬度保護被膜は表面抵抗が小さいため、摺接部材は絶縁性が要求される部材ではないことが好ましい。本件発明に係る摺接部材は、本件発明に係る導電性高硬度保護被膜を有することで、当該導電性高硬度保護被膜がないものと比較すると耐摩耗性が向上する一方、低い抵抗値を維持することができる。そのため、電気的及び/又は機械的に他の部材に接する端子部を有する接点部材に適用すれば、接点部材と他の部材との導通性を良好に維持した状態で、他の部材との機械的接触に伴う摩耗等を抑制することができる。接点部材としては、例えば、半導体製造工程において行われるウェーハ検査、パッケージ検査等の際に検査対象物の電極等に接触して用いられるプローブピンが挙げられる。以下、接点部材を例に挙げて、本件発明に係る摺接部材及び接点部材について説明するが、本件発明に係る摺接部材はプローブピン等の接点部材の他、メカニカルリレーの端子、モータの回転子等の他の部材と電気的及び機械的に接する端子部等を有する各種端子部材の他、上述の各種工具等に適用することができる。
【0024】
接点部材の構成を
図1に模式的に示す。
図1に示す例では、接点部材100は、基材10の表面に導電性高硬度保護被膜20を備え、基材10と導電性高硬度保護被膜20との間には金属中間層30が設けられている。この金属中間層30は本件発明において任意の層構成である。また、
図1に示す例では、導電性高硬度保護被膜20は、母層となる炭素被膜21内に導電性炭素微粒子22を含む。また、金属中間層30において析出した金属微粒子31は導電性高硬度保護被膜20との界面に存在する。以下、基材10、導電性高硬度保護被膜20、金属中間層30の順に説明する。
【0025】
(1)基材10
接点部材100の基材10として、例えば、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム等の各種金属又は、銅合金、鉄合金、ニッケル合金、アルミニウム合金等の各種合金製とすることができる。但し、接点部材100に要求される電気的及び機械的特性を満足することのできる材料からなれば、基材10の材料は特に限定されるものではない。また、基材10の形状についても特に限定されるものではない。例えば、当該接点部材100がプローブピンであれば、プローブピンの端子部に要求される形状等を満たしていればよく、当該接点部材100の用途に応じた任意の形状とすることができる。なお、摺接部材に関して他の部材との導電性が求められない場合、摺接部材の基材10としては、上記各種金属又はその合金の他、超硬合金製基材、セラミック製基材、樹脂製基材等としてもよい。
【0026】
(2)導電性高硬度保護被膜20
次に、導電性高硬度保護被膜20について説明する。導電性高硬度保護被膜20は、接点部材100(基材10)の端子部(接点部分)等の表面であって、他の部材と直接接触される部位に設けられていればよい。当該導電性高硬度保護被膜20が他の部材と直接接触される部位に設けられていれば、本件発明による効果を享受することができる。但し、当該導電性高硬度保護被膜20は、そのような部位に限らず、端子部全体に設けられていてもよいし、接点部材100の表面全体に設けられていてもよい。当該導電性高硬度保護被膜20を設けることにより、例えば、検査対象物の電極部分等にハンダ等の柔らかい金属材料が用いられていても、炭素とハンダとは化学的に結合しにくく、耐摩耗性を向上することができるため、端子部に対するこれらの転写を防ぐことができ、メンテナンス頻度を低減することができる。また、表面抵抗値が低いため、良好な導通性を維持することができる。
【0027】
当該導電性高硬度保護被膜20は表面抵抗値が1×103Ωより小さく、好ましくは1×102Ω以下、より好ましくは1×10Ω以下であり、且つ、表面硬度が10GPa以上の炭素系被膜からなる。ここで、炭素系材料として、グラファイトやダイヤモンドライクカーボン(DLC)が知られている。グラファイトは導電性があるため、グラファイトからなる薄膜を他の部材と直接接触される部位に設けた場合、接触部位の抵抗の上昇を防ぐことができる。しかしながら、グラファイトは軟らかい材料であるため、表面硬度は10GPaより低く、接点部位の耐摩耗性の改善効果は僅かしか得られない。一方、DLCの表面硬度は10GPa以上あり、接触部位の耐摩耗性の改善効果は高い。しかしながら、DLCの表面抵抗値は1×103Ω以上であり、接触部位の抵抗が上昇する。そのため、DLCは接点部材の保護被膜としては不適である。本発明者等の鋭意研究の末、例えば、後述する方法により、表面抵抗値が1×103Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上の炭素系被膜が得られることを見出し、当該炭素系被膜を導電性高硬度保護被膜20として基材10の表面に設けることで、耐摩耗性を向上させつつ、転写を抑制し、高温環境下でも使用可能な接点部材(及び摺接部材)を提供可能であることを見出した。以下、導電性高硬度保護被膜20の好ましい態様について説明する。
【0028】
導電性高硬度保護被膜20は、例えば、
図1に示すように、母層となる炭素被膜21内に導電性炭素微粒子22等の導電性微粒子を分散させた炭素系被膜とすることが好ましい。このような炭素系被膜とすることで、表面抵抗値を1×10
3Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上とすることができ、接点部材の保護被膜に好適な電気特性と、機械特性とを実現することができる。
【0029】
炭素被膜21は、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含むことが好ましい。例えば、sp2構造の炭素とsp3構造の炭素とを含むsp2構造を有する炭素含有量が比較的多いアモルファス炭素被膜、或いは、sp3構造の炭素含有量が比較的多いテトラヘドラル(tetrahedral)炭素被膜などの、いわゆるDLCであることが好ましく、特にテトラヘドラル炭素被膜であることが好ましい。また、当該炭素被膜は水素を含んでいてもよいし、水素を含まなくてもよい。sp3構造の炭素含有割合を「sp2/(sp3+sp3)×100、但し、sp2及びsp3をX線光電子分光法(XPS法)により当該炭素被膜21の元素分析を行ったときのsp2構造の炭素原子数及びsp3構造の炭素原子数とする」と表したとき、sp3構造の炭素含有量が20%以上90%以下であれば、表面抵抗値を1×103Ω以上1×1012Ω以下とすることができ、10Gpa以上の表面硬度を得ることができる。
【0030】
また、炭素被膜21は、添加元素として、H、N、F、Al、Si、Cr、Ag、Ti、Cu、Ni、W、Ta、Mo、Zr、B、Fe、Pt、P、S、I、Mg、Zn及びGeからなる群から選択される一以上の元素を含んでもよい。これらの元素は、真空蒸着法によりDLC膜を成膜する際に、DLC膜内に含有させることができる。
【0031】
導電性微粒子として、例えば、グラファイト(黒鉛)等の導電性炭素微粒子22を挙げることができる。グラファイトは導電性が高い。そのため、炭素被膜21内に所定の量の導電性炭素微粒子22を分散させることで、表面抵抗値が1×103Ωより小さい導電性高硬度保護被膜20を得ることができる。また、導電性微粒子として、導電性炭素微粒子22の他、後述するように基材10上に金属中間層30を介して導電性高硬度保護被膜20を設けたときに、金属中間層30を成膜する際に生じる金属微粒子31を挙げることができる。また、本発明に係る導電性高硬度保護被膜20では、導電性高硬度保護被膜20の表面観察したとき、導電性炭素微粒子22等の導電性微粒子が表面から観察し得る。このとき、導電性微粒子の大きさは、導電性高硬度保護被膜20の表面観察したときにその投影面積(以下、「微粒子断面積」と称する)が0.01μm2から1mm2であることが好ましい。このような大きさの導電性微粒子を炭素被膜21内に均一に分散させることが所望の電気特性を得る上で好ましい。
【0032】
また、当該導電性高硬度保護被膜20における導電性微粒子の含有割合は、当該導電性高硬度保護被膜20を走査型電子顕微鏡により表面観察をしたときに、面積比で1%以上80%以下であることが好ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製 JSM-6510A、2次電子像)により撮影倍率2,000倍で当該導電性高硬度保護被膜20の表面を撮影したSEM写真をWinROOF画像処理ソフト(三谷商事株式会社製WinROOF2018 Standard版)を使って微粒子解析を行い、観察領域における当該導電性高硬度保護被膜の表面積に対して、表面に観察された導電性微粒子の占める面積(但し、水平面における導電性微粒子の断面積に相当する面積の和(すなわち、当該粒子の投影面積の和))の割合((導電性炭素微粒子面積/当該導電性高硬度保護被膜面積)×100)を求めた値を当該導電性高硬度保護被膜20内における導電性微粒子の含有割合とすることができる。
【0033】
炭素被膜21内における導電性炭素微粒子22の含有量が増加すると、当該導電性高硬度保護被膜20の表面抵抗値は低下する。炭素被膜21の表面抵抗値は1×103Ω以上1×1012Ω以下であるため、導電性炭素微粒子22等の導電性微粒子の含有量が少なくなりすぎると、当該導電性高硬度保護被膜20の表面抵抗値を1×103Ωより小さくすることが困難になる。一方、導電性炭素微粒子22の硬度は低い。そのため、炭素被膜21内における導電性炭素微粒子22の含有量が多くなりすぎると、当該導電性高硬度保護被膜20の表面硬度が10GPa未満になり、接点部材の耐摩耗性を向上する効果を得ることが困難になる。当該観点から、導電性高硬度保護被膜20内における導電性微粒子の含有割合は、上述のとおり面積比で1%以上80%以下であることが好ましく、3%以上70%以下であることがより好ましく、5%以上60%以下であることがさらに好ましい。なお、導電性高硬度保護被膜20内における導電性微粒子の含有割合が面積比で1%以上80%以下であるとき、表面硬度は10GPa以上であり、例えば、当該含有割合が13%のときの表面硬度は50GPa以上を達成している。導電性高硬度保護被膜20の表面硬度が10GPa以上あれば、接点部材の耐摩耗性を向上する上で十分であるが、例えば、切削工具等の上記摺接部材として用いるときも、表面硬度が10GPa以上あれば耐摩耗性を改善する効果が得られ、例えば、50GPa以上であれば耐摩耗性を改善するための十分な効果が得られる。
【0034】
また、当該導電性高硬度保護被膜20の膜厚は、20nm以上10μm以下であることが好ましい。膜厚が小さすぎると、導電性炭素微粒子22を炭素被膜21に所望の量を含有させることが困難になる。すなわち、導電性炭素微粒子22の含有量を上記面積比において1%以上にすることが困難な場合がある。これと同時に当該導電性高硬度保護被膜20の表面抵抗値が高くなり、1×103Ωより小さくすることが困難になる。一方、膜厚が厚すぎると、当該導電性高硬度保護被膜20の生産性が悪くなる。これらの観点から、当該導電性高硬度保護被膜20の膜厚は50nm以上5μm以下であることがより好ましく、100nm以上2μm以下であることがさらに好ましい。
【0035】
また、当該導電性高硬度保護被膜の摩擦係数は、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。上記のように、導電性炭素微粒子22としてグラファイトを炭素被膜21内に分散させた場合、グラファイトの摩擦係数は低いため、摩擦係数が0.4より大きくなる蓋然性は低い。
【0036】
また、当該導電性高硬度保護被膜20の表面粗さ(Ra)/膜厚比が2倍以下であることが好ましい。炭素被膜21内に導電性炭素微粒子22を分散させた構成とする場合、当該導電性高硬度保護被膜20の成膜中に導電性炭素微粒子22が炭素被膜21の表面から突出し、表面粗さが荒くなる場合がある。表面粗さ(Ra)/膜厚比が2倍を超えると、当該接点部材100の接点部分を他の部材に電気的及び機械的に接触させた際に、上記転写が生じやすくなる場合があるため好ましくない。なお、導電性炭素微粒子22はグラファイト等の柔らかい粒子からなる。そのため、成膜後に当該導電性高硬度保護被膜20の表面を研磨することにより、表面粗さを上記範囲内にすることは容易である。
【0037】
(3)金属中間層30
金属中間層30は、基材10と導電性高硬度保護被膜20との双方に対して化学的密着性が良好な金属又は金属化合物からなる層であり、必要に応じて設けることができる。基材10と、導電性高硬度保護被膜20との双方に対して化学的密着性が良好な金属として、例えば、Fe、Cr、Ti等を挙げることができる。これらの金属及び/又はこれらとN、O、C等の金属化合物からなる層を金属中間層30として、基材10と導電性高硬度保護被膜20との間に設けることで、基材10としての上記列挙した各材料と、導電性高硬度保護被膜20の構成材料である炭素とを良好に密着することが可能になる。但し、基材10と導電性高硬度保護被膜20との密着性が良好である場合、金属中間層30を設けずに、基材10の表面に直接導電性高硬度保護被膜20を設けることができる。
【0038】
金属中間層30は、例えば、後述するように真空蒸着法により基材10の表面に成膜することができる。真空蒸着法により金属中間層を形成する間に、金属イオン以外に金属微粒子31が発生し、金属中間層30の成膜表面に金属微粒子31が付着する。金属微粒子31は導電性を有するため、基材10の表面に金属中間層30を介して導電性高硬度保護被膜20を設けた場合、
図1に示すように炭素被膜21内に金属微粒子31の一部が取り込まれるため、炭素被膜21内の導電性炭素微粒子22と、金属微粒子31との相互接触によって導電性高硬度保護被膜20の表面抵抗値が低下し、導電性がより向上する。
【0039】
2.摺接部材及び接点部材の製造方法
次に、本発明に係る摺接部材及び接点部材100の製造方法について説明する。ここでも、摺接部材として、
図1に模式的に示す接点部材100を例に挙げて説明する。接点部材100は、アーク放電によりカーボンプラズマを発生させる際に、電磁場による偏向によって炭素イオンと炭素微粒子の比率を制することで、基材10の表面に導電性炭素微粒子22が分散した炭素被膜21を成膜して、基材の表面に表面抵抗値が1×10
3Ωより小さく且つ、表面硬度が10GPa以上の炭素系被膜から成る導電性高硬度保護被膜20を設けることを特徴とする。ここで、基材10の表面に上記金属中間層30を成膜した後に、導電性高硬度保護被膜20を成膜してもよい。
【0040】
(1)導電性高硬度保護被膜20の成膜方法
導電性高硬度保護被膜20は、真空蒸着法により基材10の表面に成膜することができる。真空蒸着法として、例えば、カソードアーク法、スパッタ法、電子ビーム法等を採用することができる。特に、本件発明に係る導電性高硬度保護被膜20を成膜する際には、カソードアーク法を採用することが好ましい。例えば、真空中で炭素電極をカソード電極とし、アーク放電を起こさせることにより、カーボンプラズマを発生させて炭素イオン及び炭素微粒子を発生させつつ、基材10側に放射することで、炭素イオンを基材10上に堆積させつつ、炭素微粒子も基材10側に付着させることができる。当該方法により、基材10上には導電性炭素微粒子22を含む炭素被膜21を成膜することができる。
【0041】
上記カソードアーク法では、一般に、低電圧下で高電流を流すことでアーク放電を発生させる。上記のように炭素電極をカソード電極とすれば、アーク放電に伴い炭素電極から炭素イオンを放出させることができる。また、アーク放電に伴う発熱により炭素電極から炭素微粒子も放出される。例えば、DLC膜についてもカソードアーク法により成膜される。DLC膜に炭素微粒子が混入すると、炭素微粒子はグラファイトであり、軟らかい材料であるため、DLC膜の硬度が低下することが考えられる。そのため、DLC膜を成膜する際には、フィルタリングという手法により、炭素微粒子が基材10側に飛来しないようにしている。炭素イオンは電荷を有する一方、炭素微粒子は電荷を有さない。そのため、電場及び磁場のバランス及び強度等を調整することにより炭素イオンの飛来経路を曲げること等ができるが、炭素微粒子は基材10に向かって直進する。そこで、チャンバー内に炭素電極と基材10との間に遮蔽物を設置し、電場及び磁場のバランス及び強度等を調整することにより、炭素微粒子は遮蔽物により基材10に到達することを防ぐと共に、炭素イオンについては遮蔽物を回り込んで基材10に到達するように飛来させることが行われている。このようにフィルタリングを行いつつ成膜されたDLC膜は高抵抗であるため、接点部材100等の電気的導通が要求される部材の接点部位の耐摩耗性等を向上するための保護被膜として用いることはできない。
【0042】
しかしながら、本件発明者等は鋭意研究の末、フィルタリングの手法を応用し、電場及び磁場のバランス及び強度或いは成膜時間等の成膜条件を調整することで、基材10側に飛来する炭素イオンの量と炭素微粒子の量の比率を制御し、当該導電性炭素微粒子22を上述のように当該導電性高硬度保護被膜20を表面観察したときに面積比で1%以上80%以下含むように成膜することで、上記範囲内の表面抵抗値及び表面硬度を有し、接点部材100の接点部位に好適な導電性高硬度保護被膜20が得られることを見出した。また、その際に遮蔽物をカソード電極と基材10の成膜面との間に配置する方法の他、カソード電極の電極面と基材10の成膜面とが成す角度を調整することで、遮蔽物をこれらの間に配置せずとも炭素微粒子はカソード電極の電極面から略垂直に飛来させる一方、炭素イオンの飛来経路を曲げることで炭素イオンと炭素微粒子の量の比率を制御可能であることも見出した。いずれの場合もアーク放電時の電磁場条件を制御し、炭素イオンの飛来方向を偏向させればよい。すなわち、電磁場による偏向作用により炭素イオンの飛来方向を曲げればよい。また、アーク放電時の電磁場条件を制御することで、炭素電極から放出される導電性炭素微粒子22のサイズ分布等を適宜調整することができる。このように成膜した導電性高硬度保護被膜20内には導電性炭素微粒子22が炭素被膜21内に一様に分散させることができる。また、このように成膜した導電性高硬度保護被膜20では、上述のとおり炭素被膜21の表面から導電性炭素微粒子22が突出する場合があるが、成膜後に表面を研磨することにより容易に表面粗さ(Ra)/膜厚比が2倍以下にすることができる。
【0043】
(2)金属中間層30の成膜方法
基材10と導電性高硬度保護被膜20との金属中間層30を介在させる場合、金属中間層30は導電性高硬度保護被膜20と同様にカソードアーク法、スパッタ法、電子ビーム法等の真空蒸着法により成膜することが好ましい。これらの方法により基材10上にまず金属中間層30を成膜することで、続けて同じ真空蒸着装置を用いて、金属中間層30の表面に導電性高硬度保護被膜20を上述のようにして成膜することができる。
【0044】
金属中間層30は上記各種金属又は金属化合物から形成される層である。例えば、金属中間層30として金属化合物膜を成膜するとき、例えば、窒化チタン、窒化クロム等の金属窒化物膜を成膜する際にはチャンバー内に反応ガスとして窒素を導入する等、成膜する金属化合物の種類に応じて適宜適切な反応ガスを導入すればよい。
【0045】
金属中間層30を成膜するとき、導電性高硬度保護被膜20を成膜するときと同様に、成膜時に金属微粒子31が層内に混入する場合がある。この金属微粒子31は導電性高硬度保護被膜20内に侵入し、或いは、導電性高硬度保護被膜20内に侵入した金属微粒子31が導電性高硬度保護被膜20の表面に露出する場合がある。このような金属微粒子31は上述のとおり導電性炭素微粒子22との相互接触により当該導電性高硬度保護被膜20の導電性向上に寄与する。従って、金属中間層30を介して基材10上に導電性高硬度保護被膜20を設けたときに、金属微粒子31が表面に観察される場合、上述のように、導電性高硬度保護被膜20の表面に観察される導電性微粒子として、上記導電性炭素微粒子22に加えて金属微粒子31の面積も考慮するものとする。なお、
図2に、基材10の表面に金属中間層30を設けたときの金属中間層30の表面を写したSEM写真を示す。但し、
図2に示すSEM写真は導電性高硬度保護被膜20を設ける前の状態を示し、白点又は丸く、或いは楕円状等に看取される部分が金属微粒子31である。
【0046】
金属中間層30の膜厚は、導電性高硬度保護被膜20と基材10の密着力を上げるため、あるいは導電性高硬度保護被膜20の内部応力を緩和するため、5nm~10μmであることが好ましく、50nm~7μmであることがより好ましく、100nm~5μmであることがさらに好ましい。
【0047】
以上の方法により、本件発明に係る導電性高硬度保護被膜20を基材10上に、任意の層である金属中間層30を介して設けることができ、本件発明に係る摺接部材及び接点部材100を製造することができる。次に、実施例及び比較例を挙げて本件発明に係る摺接部材、接点部材100及び導電性高硬度保護被膜20についてより具体的に説明する。
【実施例】
【0048】
タングステンカーバイト(WC)製基材(20mm×20mm×0.7mm)上に導電性炭素微粒子22の含有割合の異なる3種類の炭素系被膜を成膜した。具体的な手順は次のとおりである。まず、WC製基材をアセトンとエタノールを用いてそれぞれ5分間超音波洗浄を行い、表面の脱脂及び洗浄を行った。このWC製基材を昭和真空社製の真空蒸着装置チャンバー内の所定の位置にセットした。また、カソード電極として炭素電極を用い、アノード電極にはモリブデン電極を用いた。そして、チャンバー内の所定の位置に遮蔽物をセットし、ターボモレキュラー真空ポンプでチャンバー内が4×10-4paに到達するまで真空引きした。次いで、アルゴンガスをチャンバー内に60sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)導入し、直流電圧500Vを印加し20分間アルゴンボンバードを行い、基材の表面をドライ洗浄した。その後、炭素陰極上に140Aの電流を付加してアーク放電を連続稼働し炭素イオン及び炭素微粒子を陽極側へ放射し、WC製基材上に膜厚が約600nmの炭素系被膜を成膜した。
【0049】
その際、WC基板上のバイアス電圧、炭素イオン、炭素微粒子飛来空間中の磁力、偏向率を変化させることにより、チャンバー内の電場及び磁場のバランス及び強度を調整すること等により炭素被膜21内の導電性炭素微粒子22の含有割合を後掲する表2に示すように面積比で1%、13%、80%になるようにフィルタリング率をそれぞれ99%、87%、20%になるようにして、それぞれ実施例1、実施例2、実施例3の炭素系被膜とした。より具体的には、本実施例では、上記蒸着装置を一部改造し、カソード電極の電極面と基材10の成膜面とが成す角度を調整可能となるようにした。そして、偏向率をカソード電極の電極面と基材10の成膜面とが成す角度とした。そして、表1に示すように、偏向率(°)と共に基板10に印加されるバイアス電圧(V)及び磁場(T)を調整して、フィルタリング率を上述のようにした。但し、このフィルタリング条件は、装置の構成やチャンバーの大きさ等によって異なる。また、チャンバー内の電場及び磁場等を調整する他、これらに加えて成膜時間を適宜調整してもよい。また、比較例については、偏向率が0°になるようにして、カソード電極の電極面と基板10の成膜面との間に遮蔽物を配置してもよい。
【0050】
炭素電極上のアーク放電中にH、N、F、Al、Si、Cr、Ag、Ti、Cu、Ni、W、Ta、Mo、Zr、B、Fe、Pt、P、S、I、Mg、Zn及びGeからなる群から選択されるいずれか一の元素をガス、或いは金属の場合はスパッタを同時に放電させて、実施例1と同じ条件で高硬度炭素被膜中に添加した。その結果膜厚600nmでほぼ同じフィルタリング率が得られた。
【比較例】
【0051】
導電性高硬度保護被膜20内の導電性炭素微粒子22の含有割合を面積比で0.5%になるようにフィルタリング率を99.5%とした点を除いて実施例と同様にして比較例の炭素系被膜を成膜した。
【0052】
[評価]
表2に各実施例で成膜した本件発明に係る導電性高硬度保護被膜20及び比較例で成膜した炭素系被膜における導電性炭素微粒子22の含有割合、表面抵抗値及び表面硬度を示す。なお、表面抵抗値は2端子法のデジタルマルチメータ(三和電気計器株式会社製Digital Multimeter SANWA PC20)で測定した。また、表面硬度は、膜厚が薄いためナノインデンター(株式会社エリオニクス製ENT-2100)を用い、押し込み荷重5mNで10回測定し、得られた値の平均を膜の硬度とした。また、
図3(a)~(c)に実施例1~実施例3の導電性高硬度保護被膜20の表面のSEM写真(撮影倍率2,000倍)を示す。また、
図4に比較例の炭素系被膜の表面のSEM写真(撮影倍率300倍)を示す。
図3(a)~(c)から、導電性炭素微粒子22の含有割合が高くなるにつれて、表面に表れる導電性炭素微粒子22の数も増加することが観察される。なお、各写真において白点又は丸く、或いは楕円状等に看取される部分が導電性炭素微粒子22である。また、表1から導電性炭素微粒子22の含有割合が増加すると表面硬度は低下する傾向がみられるが、導電性炭素微粒子22の含有割合が面積比で80%のときも10Gpaの表面硬度を有し、耐摩耗性向上のための十分な硬度が得られることが確認された。また、表2から導電性炭素微粒子22を面積比で1%含む実施例1は抵抗値が1×10
3Ωとなり、実施例2及び実施例3から導電性炭素微粒子22を面積比で13%以上含む場合抵抗値が0Ωとなり、導電性の高い炭素系被膜を得ることができることが確認された。
【0053】
以上より、表2に示すように実施例1~実施例3の炭素系被膜の抵抗値は1×103Ωより小さく、10GPa以上の表面硬度を有することから、接点部材100において、他の部材と電気的及び機械的に接する部位に当該炭素系被膜を保護被膜として設けても、他の部材との導通を確保しつつ、耐摩耗性を向上することができる。よって、本件発明に係る導電性高硬度保護被膜を接点部材に用いた場合は転写を抑制することができる。また、導電性炭素微粒子22を含む炭素系被膜により転写を抑制しているため、PTFE粒子等の樹脂を用いる方法とは異なり高温環境下でも使用可能な接点部材及び摺接部材を提供することができる。
【0054】
【0055】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、耐摩耗性を向上させつつ、接点部材に用いた場合は転写を抑制し、高温環境下でも使用可能な摺接部材、このような摺接部材に設けられる導電性高硬度保護被膜、或いは接点部材、及びこれらの摺接部材の製造方法を提供することができる。これらの部材は、各種摺動部、或いは接点部に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
10 基材
20 導電性高硬度保護被膜
21 炭素被膜
22 導電性炭素微粒子
30 金属中間層
31 金属微粒子
100 接点部材