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特許7457639変形計測方法、変形計測装置、合成度計測方法、及び合成度計測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】変形計測方法、変形計測装置、合成度計測方法、及び合成度計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020212293
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098725
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-114176(JP,A)
【文献】特開2003-315215(JP,A)
【文献】特開2005-257570(JP,A)
【文献】特開2005-308535(JP,A)
【文献】特開2007-303976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板の変形状態を計測する変形計測方法であって、
前記鋼矢板の2箇所の測定箇所のそれぞれに前記鋼矢板の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが前記鋼矢板に設置された状態で、
2本の前記光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の前記測定箇所の長手方向ひずみの分布と、前記測定箇所同士の位置関係と、に基づいて、前記鋼矢板の変形状態を取得する変形状態取得工程を備え
前記測定箇所のうちの1箇所は前記鋼矢板のフランジに設定され、前記測定箇所のうちの他の1箇所は前記鋼矢板のウエブに設定されている、変形計測方法。
【請求項2】
2本の平行に延在する前記光ファイバセンサを有する所定のセンサ部材が前記鋼矢板の表面に取り付けられることで、前記光ファイバセンサが前記鋼矢板に設置された状態とされている、請求項1に記載の変形計測方法。
【請求項3】
鋼矢板の変形状態を計測する変形計測装置であって、
前記鋼矢板の2箇所の測定箇所のそれぞれに前記鋼矢板の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが前記鋼矢板に設置された状態で、
2本の前記光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の前記測定箇所の長手方向ひずみの分布と、前記測定箇所同士の位置関係と、に基づいて、前記鋼矢板の変形状態を取得する変形状態演算部を備え、
前記測定箇所のうちの1箇所は前記鋼矢板のフランジに設定され、前記測定箇所のうちの他の1箇所は前記鋼矢板のウエブに設定されている、変形計測装置。
【請求項4】
互いの長手方向を略平行にして接合部で接合された第1部材及び第2部材を有する合成部材における前記第1部材と前記第2部材との合成度合いを計測する合成度計測方法であって、
前記第1部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに前記第1部材の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが前記第1部材に設置され、前記第2部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに前記第2部材の長手方向に延在するように他の2本の光ファイバセンサが前記第2部材に設置された状態で、
前記第1部材の2本の前記光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の前記測定箇所の長手方向ひずみの分布と、前記第2部材の2本の前記光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の前記測定箇所の長手方向ひずみの分布と、前記第1部材の2箇所の前記測定箇所、前記第2部材の2箇所の前記測定箇所、及び前記接合部の位置関係と、に基づいて、前記第1部材と前記第2部材との合成度合いを取得する合成度取得工程を備える、合成度計測方法。
【請求項5】
互いの長手方向を略平行にして接合部で接合された第1部材及び第2部材を有する合成部材における前記第1部材と前記第2部材との合成度合いを計測する合成度計測装置であって、
前記第1部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに前記第1部材の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが前記第1部材に設置され、前記第2部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに前記第2部材の長手方向に延在するように他の2本の光ファイバセンサが前記第2部材に設置された状態で、
前記第1部材の2本の前記光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の前記測定箇所の長手方向ひずみの分布と、前記第2部材の2本の前記光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の前記測定箇所の長手方向ひずみの分布と、前記第1部材の2箇所の前記測定箇所、前記第2部材の2箇所の前記測定箇所、及び前記接合部の位置関係と、に基づいて、前記第1部材と前記第2部材との合成度合いを取得する合成度演算部を備える、合成度計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形計測方法、変形計測装置、合成度計測方法、及び合成度計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外力によって構造物の部材にどのような変形が生じるかを把握することは、設計の合理化や部材の耐久性の推定など色々な面で重要である。部材の変形を計測するための従来の方法の例として、例えば下記特許文献1には、山留壁の土圧による変形を計測する方法が開示されている。この方法では、山留壁に予めガイドパイプが溶接され、傾斜計を有する測定ユニットが複数連結されてガイドパイプに挿入され、ガイドパイプに沿った各位置の山留壁の傾斜が各測定ユニットによって計測される。また他の手法としては、部材の表面に多数のひずみゲージを設置するといった手法も考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平01-102812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の計測において、部材の変形状態をより詳細に把握するためには、細かいピッチで部材の測定点を設定し測定値を収集する必要がある。しかしながら、上記の計測方法でこれを実現しようとすれば、多数の測定ユニットやひずみゲージを使用する必要があり、限界がある。この問題に鑑み、本発明は、細かいピッチで部材を測定可能な変形計測方法及び変形計測装置、並びに合成度計測方法及び合成度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の変形計測方法は、対象部材の変形状態を計測する変形計測方法であって、対象部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに対象部材の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが対象部材に設置された状態で、2本の光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の測定箇所の長手方向ひずみの分布と、測定箇所同士の位置関係と、に基づいて、対象部材の変形状態を取得する変形状態取得工程を備える。
【0006】
本発明の変形計測方法では、2本の平行に延在する光ファイバセンサを有する所定のセンサ部材が対象部材の表面に取り付けられることで、光ファイバセンサが対象部材に設置された状態とされていることとしてもよい。
【0007】
本発明の変形計測装置は、対象部材の変形状態を計測する変形計測装置であって、対象部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに対象部材の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが対象部材に設置された状態で、2本の光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の測定箇所の長手方向ひずみの分布と、測定箇所同士の位置関係と、に基づいて、対象部材の変形状態を取得する変形状態演算部を備える。
【0008】
本発明の合成度計測方法は、互いの長手方向を略平行にして接合部で接合された第1部材及び第2部材を有する合成部材における第1部材と第2部材との合成度合いを計測する合成度計測方法であって、第1部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに第1部材の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが第1部材に設置され、第2部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに第2部材の長手方向に延在するように他の2本の光ファイバセンサが第2部材に設置された状態で、第1部材の2本の光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の測定箇所の長手方向ひずみの分布と、第2部材の2本の光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の測定箇所の長手方向ひずみの分布と、第1部材の2箇所の測定箇所、第2部材の2箇所の測定箇所、及び接合部の位置関係と、に基づいて、第1部材と第2部材との合成度合いを取得する合成度取得工程を備える。
【0009】
本発明の合成度計測装置は、互いの長手方向を略平行にして接合部で接合された第1部材及び第2部材を有する合成部材における第1部材と第2部材との合成度合いを計測する合成度計測装置であって、第1部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに第1部材の長手方向に延在するように2本の光ファイバセンサが第1部材に設置され、第2部材の2箇所の測定箇所のそれぞれに第2部材の長手方向に延在するように他の2本の光ファイバセンサが第2部材に設置された状態で、第1部材の2本の光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の測定箇所の長手方向ひずみの分布と、第2部材の2本の光ファイバセンサの各々で計測された2箇所の測定箇所の長手方向ひずみの分布と、第1部材の2箇所の測定箇所、第2部材の2箇所の測定箇所、及び接合部の位置関係と、に基づいて、第1部材と第2部材との合成度合いを取得する合成度演算部を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細かいピッチで部材を測定可能な変形計測方法及び変形計測装置、並びに合成度計測方法及び合成度計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は変形計測方法の対象部材を示す断面図であり、(b)はその側面図である。
図2】変形計測装置を示すブロック図である。
図3】(a)は対象部材の微小断層の断面図であり、(b)はそのひずみ線図である。
図4】(a)は複数の鋼矢板で構成される山留壁を示す水平断面図であり、(b)はその1つの鋼矢板を拡大して示す図である。
図5】(a)は鋼矢板表面における光ファイバセンサの取付構造を示す断面図であり、(b)はハット型の鋼矢板で構成される山留壁を示す水平断面図である。
図6】(a)~(g)は、本発明者らによる試験結果を示す図である。
図7】山留壁の1つの鋼矢板を示す水平断面図である。
図8】変形計測方法の対象部材である山留壁を示す水平断面図である。
図9】(a)は合成度計測方法の計測対象である山留壁を示す水平断面図であり、(b)はそのひずみ線図である。
図10】山留壁の鋼矢板同士の継手効率とひずみ線図との相関関係を示す図である。
図11】(a)は合成度計測方法の計測対象である合成部材を示す断面図であり、(b),(c)はそのひずみ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の各実施形態について詳細に説明する。各実施形態において、同一又は同等の構成要素には図面に同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0013】
〔第1実施形態〕
図1(a)は、本実施形態の変形計測方法及び変形計測装置の計測対象である対象部材1を示す断面図であり、図1(b)は、その対象部材1の側面図である。図1に示されるように、対象部材1は矩形断面をなす長尺部材である。以下では、対象部材1の長手方向をZ方向とし、対象部材1の断面の矩形の一方の辺の延在方向をX方向、他方の辺の延在方向をY方向とする。図中に二点鎖線で示されるように、対象部材1には、外力によりYZ平面内での曲げ変形が生じるものとする。上記の曲げ変形の中立面Hが図中に一点鎖線で示される。本実施形態の計測方法では、この曲げ変形の変形状態を把握すべく、対象部材1のY方向変位(図中にδで示す)のZ方向における分布が取得される。
【0014】
本実施形態の変形計測方法では、まず、対象部材1の中立面Hとは異なる位置に2箇所の測定箇所P1,P2が設定される。そして、測定箇所P1,P2にそれぞれ光ファイバセンサ3,5が設置される。測定箇所P1,P2はZ方向に一次元的に延在しており、光ファイバセンサ3,5は対象部材1のZ方向の全長に亘って延在している。測定箇所P1,P2は、中立面Hに直行する方向(Y方向)に互いに位置をずらして設定されればよい。すなわち、測定箇所P1,P2は、互いにY座標が異なる位置に設定されればよい。この場合、図1の例のように測定箇所P1と測定箇所P2とが中立面Hを挟んで反対側に位置してもよいが、中立面Hから見て同じ側に位置してもよい。測定箇所P1と測定箇所P2との間のY方向の距離Lが大きいほど変形計測の感度や精度が高くなるので、距離Lが大きくなるように測定箇所P1,P2を設定することが好ましい。
【0015】
測定箇所P1,P2は、対象部材1の表面上に設定されてもよく対象部材1の内部に設定されてもよい。すなわち、光ファイバセンサ3,5は、対象部材1の表面に固定されてもよく対象部材1内に埋込まれてもよい。図1の例では、光ファイバセンサ3が対象部材1の表面に固定され、光ファイバセンサ5が対象部材1内に埋込まれる。光ファイバセンサ3,5は、それぞれ測定箇所P1,P2のZ方向の伸縮に追従して伸縮し対象部材1と一体として挙動するように固定される。
【0016】
図2に模式的に示されるように、変形計測装置11は、対象部材1に設置される上述の2本の光ファイバセンサ3,5と、計測器7と、分析装置9と、表示装置10と、を備えている。変形計測装置11では、光ファイバセンサ3,5の端部に計測器7が接続され、更にこの計測器7に分析装置9が接続される。計測器7は、光ファイバセンサ3,5にパルス光を入射するとともに、当該光ファイバセンサ3,5の長手方向の各位置から戻ってくる各種散乱光を受光し、受光した散乱光の強度や波長等に関する情報を分析装置9に送信する。上記の散乱光としては、レイリー散乱光、ブリルアン散乱光等がある。計測器7の例として、例えばレイリー散乱光を利用するOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)やブリルアン散乱光を利用するBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)等を用いることができる。
【0017】
分析装置9は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory、及びRAM(Random Access Memory)等を含んで構成されたコンピュータである。CPUは、ROMに格納された制御プログラムに基づいて、分析装置9を制御する。RAMは、CPUがROMに格納された制御プログラムを実行する際のワークメモリとして機能する。分析装置9では、上記の散乱光の強度や波長が、光ファイバセンサ3,5に加わったひずみに依存するとの原理に基づき、光ファイバセンサ3,5の長手方向の各位置における散乱光の強度や波長が分析される。
【0018】
この分析により、分析装置9では、光ファイバセンサ3,5の各Z座標の位置における長手方向ひずみ(Z方向に伸縮するひずみ)が、例えば数cmのピッチで取得され、その結果、光ファイバセンサ3,5に生じている長手方向ひずみの分布が得られる。以下では、対象部材1、測定箇所P1,P2、及び光ファイバセンサ3,5に関する長手方向ひずみ(長手方向に伸縮するひずみ)を単に「Zひずみ」と呼び、このZひずみのZ方向における分布を単に「Zひずみ分布」と呼ぶ。
【0019】
光ファイバセンサ3のZひずみ分布は対象部材1の測定箇所P1のZひずみ分布を表し、光ファイバセンサ5のZひずみ分布は対象部材1の測定箇所P2のZひずみ分布を表す。すなわち、分析装置9では、対象部材1の測定箇所P1,P2それぞれのZひずみ分布が取得される。そして、分析装置9(変形状態演算部)では、測定箇所P1,P2の各Zひずみ分布と、測定箇所P1,P2同士の間のY方向の距離(Y座標の差)と、に基づく所定の演算が実行され、対象部材1のYZ平面内での曲げ変形の変形状態が取得される(変形状態取得工程)。ここで取得される変形状態とは、前述のとおり、対象部材1のY方向変位δ(図1参照)のZ方向における分布である。分析装置9による演算結果は、表示装置10によって表示される。表示装置10は、例えば、ディスプレイ画面表示によって演算結果をユーザに提示するディスプレイモニタである。変形計測装置11は、例えば、対象部材1の変形後の形状を表示装置10に視覚的に画面表示してもよい。
【0020】
上記のように対象部材1のY方向変位δのZ方向における分布が導出可能である原理は次の通りである。ここでは、対象部材1が曲げ変形するときに当該対象部材1の各断面は平面を保持しているものと仮定する。まず、対象部材1について図1及び図3(a)に示されるような任意の微小断層31を考えると、当該微小断層31内の各部位には対象部材1の曲げ変形に起因してZひずみが生じる。前述のように対象部材1の各断面が平面を保持するとの仮定によれば、このZひずみの大きさは微小断層31内でY座標に対して線形性をもつ。また、測定箇所P1,P2のそれぞれのZひずみ分布が測定により得られているので、微小断層31中の測定箇所P1及びP2の2点のZひずみQ1及びQ2が既知である。更に、当該2点間のY方向の距離Lも既知であるので、図3(b)に示されるように、微小断層31内のY方向におけるひずみ線図Wが判明する。なお、上記の距離Lは、例えば分析装置9に予め入力され記憶されている。
【0021】
そして、図3(b)に示されるように、上記のひずみ線図Wの傾きとして表されるφが、変形した微小断層31の曲率に相当する。上記のように得られた曲率φを適切な境界条件を定めて2階積分することで、対象部材1のY方向変位δ(図1(b)参照)のZ方向における分布を取得することができる。なお、分析装置9による演算は、上記のような原理に基づくものであればよく、実際の演算の手順が上記のとおりである必要はない。
【0022】
上述のように、分析装置9は、測定箇所P1,P2の各Zひずみ分布と、測定箇所P1,P2同士の間のY方向の距離(Y座標の差)と、に基づいて、対象部材1のY方向変位δのZ方向における分布を算出する。すなわち、変形計測装置11により、対象部材1のYZ平面内での曲げ変形の変形状態を計測することができる。
【0023】
また、対象部材1の軸力(Z方向の引張/圧縮)に起因する微小断層31のZひずみ成分は、当該微小断層31のY方向両端のZひずみ(図3(b)のひずみ線図におけるひずみQa及びひずみQb)の平均値として表される。従って、分析装置9の演算により、変形計測装置11は、対象部材1の軸力に起因する変形状態を更に取得することもできる。
【0024】
以上説明した変形計測装置11及び変形計測方法によれば、光ファイバセンサ3,5及びOTDR又はBOTDRを用いることで、測定箇所P1,P2の各Zひずみ分布を細かいピッチ(例えば数cmピッチ)で取得することができる。従って、このZひずみ分布に基づいて対象部材1の変形状態も細かいピッチで取得することができる。その結果、対象部材1の細かい点までより正確に変形状態を知ることができ、ひいては、対象部材1の合理的な設計が可能になる。また、光ファイバセンサ3,5とOTDR又はBOTDRとを用いることで、対象部材1の変形状態をリアルタイムで取得することもできる。
【0025】
更には、変形計測装置11及び変形計測方法では、光ファイバセンサ3,5を採用することにより、多数のひずみセンサを配列して対象部材1に取り付けたり、ひずみセンサをZ方向に順次移動させるためのガイドパイプを予め対象部材1に取り付けたりする手法に比較して、比較的簡易に計測が可能である。特に、対象部材1の表面に多数のひずみゲージを貼り付ける手法に比較すれば、リード線の数が減少し、水分等に対する耐久性も向上する。
【0026】
〔第2実施形態〕
本実施形態では、図4に示されるU型の鋼矢板51を上記の対象部材1に適用する。鋼矢板51は、山留壁50の一部を構成すべく地盤Gに設置されたものである。図4(a)は山留壁50の一部を示す水平断面図である。複数の鋼矢板51が継手部53を介して水平方向に連結されて山留壁50が形成されている。図に示されるように、鉛直方向をZ方向、山留壁50に直交する方向をY方向、山留壁50が水平に延在する方向をX方向とする。山留壁50には、主に、地盤G側から掘削領域F側に向けてY方向の土圧が作用する。また、山留壁50に切梁やグラウンドアンカー(図示せず)等が使用される場合には、これらによる反力がY方向に作用する。従って、山留壁50にはYZ平面内における曲げ変形が生じる。なお、山留壁50及び鋼矢板51は、各断面が平面を保持したまま曲げ変形する部材であるとみなしてよい。
【0027】
この山留壁50においては、隣接する鋼矢板51同士は、継手部53において互いにフック状の継手を係合させているが、互いに溶接等で接合されているものではない。従って、各鋼矢板51は、互いに独立して曲げ変形するものとみなしてよい。本実施形態の変形計測装置11及び変形計測方法は、独立して曲げ変形するものとみなされる1つの鋼矢板51の変形状態を計測する。図4(b)に示されるように、鋼矢板51の曲げ変形の中立面Hは、当該鋼矢板51を横切ってXZ平面と略平行に存在する。
【0028】
計測対象である鋼矢板51において、測定箇所P1は鋼矢板51のフランジ部51kの継手部53の近傍に設定され、測定箇所P2は鋼矢板51のウエブ部51jの中央に設定される。測定箇所P1,P2は、中立面Hを挟んで互いに反対側に位置している。変形計測装置11の光ファイバセンサ3,5は、それぞれ、測定箇所P1,P2において地盤G側の面にZ方向に延在するように取り付けられ、鋼矢板51の全長に亘って延在している。変形計測装置11は、上記のように設置された光ファイバセンサ3,5の各Zひずみ分布を、鋼矢板51の測定箇所P1,P2の各Zひずみ分布として取得する。
【0029】
そして変形計測装置11の分析装置9は、所定の演算により、測定箇所P1,P2の各Zひずみ分布と、測定箇所P1,P2同士の間のY方向の距離と、に基づいて、鋼矢板51のY方向変位のZ方向における分布を当該鋼矢板51の変形状態として取得する。なお、このような鋼矢板51の変形状態の演算は、前述した第1実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0030】
光ファイバセンサ3,5は、光ファイバ素線と当該光ファイバ素線を覆う樹脂等の被覆と、で主に構成される。光ファイバセンサ3,5は、鋼矢板51が地盤G内に打設される前に、当該鋼矢板51の表面に取り付けられる。光ファイバセンサ3,5は、一例として次のような態様で鋼矢板51の表面に取り付けられる。
【0031】
例えば、図5(a)に示されるように、鋼矢板51のウエブ部51jの表面に光ファイバセンサ5を仮止した状態から、当該光ファイバセンサを上から覆うように鋼矢板51のほぼ全長に亘って樹脂系の接着剤が塗布される。この接着剤が硬化することにより、光ファイバセンサ5を埋込む樹脂層55が形成される。光ファイバセンサ5は樹脂層55と一緒に鋼矢板51と一体化する。更に樹脂層55を上から覆うように保護用クロス56(例えばガラスクロス)が設置される。そして、保護用クロス56に含浸させるように樹脂系の接着剤が塗り込まれ、当該接着剤が硬化することで樹脂層57が形成される。これにより、保護用クロス56と樹脂層55,57とからなり光ファイバセンサ5を覆うセンサ保護層58が形成される。センサ保護層58の存在により、鋼矢板51の打設時の機械的な力で光ファイバセンサ5が破損したり鋼矢板51から脱落したりする可能性が低減される。なお、もう一方の光ファイバセンサ3についても、上記と同様の取り付け構造で鋼矢板51に取り付けられる。上述のような取付け構造によれば、鋼矢板51の表面から比較的小さい突出量で光ファイバセンサ3,5を取り付けることができる。
【0032】
上述のように鋼矢板51,61の地盤G側の面に光ファイバセンサ3,5がされると、掘削領域Fの掘削作業の際に光ファイバセンサ3,5が損傷し難いので好ましい。また、光ファイバセンサ3,5は鋼矢板51,61の掘削領域F側の面に設置されてもよいし、地盤G側と掘削領域F側との両面にそれぞれ設置されてもよい。
【0033】
なお、図5(b)に示されるように、山留壁50を構成する鋼矢板がハット型の鋼矢板61であってもよい。この場合は例えば、鋼矢板61の中央のウエブ部61jに測定箇所P1が設定され、当該測定箇所P1の地盤G側の面に光ファイバセンサ3が設置される。また、鋼矢板61の継手部63の直近の位置に測定箇所P2が設定され、当該測定箇所P2の地盤G側の面に光ファイバセンサ5が設置される。
【0034】
以上のような変形計測装置11及び変形計測方法によれば、第1実施形態と同様に、光ファイバセンサ3,5及びOTDR又はBOTDRを用いることにより、測定箇所P1,P2の各Zひずみ分布を細かいピッチ(例えば数cmピッチ)で取得することができる。従って、このZひずみ分布に基づいて鋼矢板51の変形状態も細かいピッチで取得することができ、その結果、対象部材1の細かい点までより正確に変形状態を知ることができる。
【0035】
特に、山留壁50の鋼矢板51を測定対象とする場合において、地盤Gには複雑な土層構成や複雑な地下水位状況等があり得るので、鋼矢板51には複雑な土圧が作用し得る。更に、山留壁50を支持する切梁やグラウンドアンカーが存在する場合にはこれらに起因する複雑な反力も鋼矢板51に作用する。従って、鋼矢板51に生じる曲げモーメントや変形は複雑になる傾向があり、長手方向(Z方向)において数か所の極値が生じる場合がある。このような極値を正確に把握するためには、鋼矢板51の変形状態を細かいピッチで取得する必要があるので、鋼矢板51の変形計測には特に、上述したような変形計測装置11及び変形計測方法が好適に適用される。そして、上記のような極値を含めて鋼矢板51の変形状態が正確に把握されることで、鋼矢板51及び山留壁50の合理的な設計が可能になる。また、掘削領域Fの掘削途中段階で鋼矢板51の変形状態を計測し、これに基づいて土圧を推定することで、工事完了までの鋼矢板51及び山留壁50の挙動を予測する、という運用も可能である。
【0036】
図6は、本発明者らによる試験結果を示すグラフである。この試験では、図6(a)に示されるように、鋼矢板51が地下3000mmの深さまで地表から打設され、掘削領域Fが地表から1750mmの深さまで掘削されてなる山留壁50が構築された。この山留壁50に対して、高さ方向(Z方向)に等間隔に配列して複数のひずみゲージを取り付け、各箇所のZひずみを計測した。この計測を2つの鋼矢板51について行い、図6(b)~(g)に示す計測結果を得た。図6(b),(c),(d)は、計測された各箇所のZひずみを示す折れ線グラフ81,82を示す。また、図6(e),(f),(g)は、計測された各箇所のZひずみに基づいて算出された、各箇所のY方向変位を示す折れ線グラフ83,84を示す。折れ線グラフ81,83は1つ目の鋼矢板51の計測結果であり、折れ線グラフ82,84は2つ目の鋼矢板51の計測結果である。図6(b)及び(e)はひずみゲージの取付け箇所を5点とし、図6(c)及び(f)は8点、図6(d)及び(g)は15点としたものである。
【0037】
更に別途、本実施形態の変形計測装置11及び変形計測方法により、上記2つの鋼矢板51について、ZひずみのZ方向における分布91,92と、Y方向変位のZ方向における分布93,94と、を取得し、その結果を各図6(b)~(g)に重ねて表示した。本実施形態の変形計測装置11及び変形計測方法によれば、グラフ91~94に示されるように、グラフ81~84よりも更に細かいピッチでデータが得られている。
【0038】
図6(b)~(g)のグラフ81~グラフ84から判るように、ひずみゲージの取付け箇所を5点、8点、15点と増やすほど、鋼矢板51の変形状態をより細かいピッチでより詳細に知ることができる。しかしながら、例えば図6(d)のグラフ81を見ると、Zひずみの極値が-2000mmの近傍に存在すると予想されるものの、明確とは言えない。これに対してグラフ91によれば、この極値の位置が明確に判明する。以上のように、本実施形態の変形計測装置11及び変形計測方法によれば、従来のひずみゲージを用いた方法に比較して、鋼矢板51の変形状態における極値が正確に把握されることが確認された。
【0039】
〔第3実施形態〕
本実施形態における変形計測装置11及び変形計測方法は、第2実施形態と比較して、鋼矢板51に対する光ファイバセンサ3,5の設置形態が異なっている。その他の点については第2実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0040】
図7に示されるように、本実施形態では、センサ部材21が鋼矢板51の表面に取り付けられることで、鋼矢板51に光ファイバセンサ3,5が設置される。2本の光ファイバセンサ3,5はY方向に並んでいる。センサ部材21はZ方向に延在する長尺の部材であり、センサ部材本体23と、当該センサ部材本体23内に平行に埋込まれた2本の光ファイバセンサ3,5と、を有する。センサ部材本体23及び2本の光ファイバセンサ3,5は、一体として曲げ挙動する。センサ部材本体23は、例えば、金属製でもよく樹脂製でもよい。センサ部材本体23の材料が、鋼矢板51と同じ材料であってもよい。センサ部材21は、例えば、鋼矢板51のウエブ部51jの中央において地盤G側の面に溶接等によって固定されており、鋼矢板51の全長に亘って延在している。
【0041】
光ファイバセンサ3,5は、センサ部材本体23を介して、鋼矢板51と一体となって曲げ挙動するように、センサ部材21が鋼矢板51に固定される。そして、鋼矢板51とセンサ部材21とが一体として曲げ変形するときには、鋼矢板51の断面とセンサ部材21の断面とを合わせた断面全体が平面を保持するものとみなしてよい。センサ部材21は、鋼矢板51の打設前に取り付けられる。このような形態で鋼矢板51に光ファイバセンサ3,5が設置された場合にも、第2実施形態と同様にして鋼矢板51の変形状態を計測することができる。
【0042】
〔第4実施形態〕
本実施形態において、図8に示される山留壁50では、隣接する鋼矢板51同士が、継手部53において互いにフック状の継手を係合させるとともに溶接等で接合されている。山留壁50は複数の鋼矢板51からなる完全合成の合成部材として挙動する。すなわち、地盤Gからの土圧等が作用すれば山留壁50は一体として曲げ挙動する。
【0043】
この場合、2つの測定箇所P1,P2を次のように設定することで、山留壁50全体としての変形状態を計測することができる。山留壁50を構成する1つの鋼矢板51のウエブ部51jに測定箇所P1が設定され、当該測定箇所P1の地盤G側の面に光ファイバセンサ3が設置される。また、上記の鋼矢板51に隣接する鋼矢板51のウエブ部51jに測定箇所P2が設定され、当該測定箇所P2の地盤G側の面に光ファイバセンサ5が設置される。このようにして、変形計測装置11では、山留壁50のY方向変位のZ方向における分布が当該山留壁50の変形状態として取得される。
【0044】
なお、山留壁50がハット型の鋼矢板61で構成される場合には、図5(b)に示される形態により、継手部63が溶接されているか否かに関わらず、当該山留壁50全体としてのY方向変位のZ方向における分布が当該山留壁50の変形状態として取得される。
【0045】
〔第5実施形態〕
前述のように山留壁50(図8)の鋼矢板51同士が継手部53で溶接等されたとしても、継手部53が完全に接合されているか否かが未知である場合がある。すなわち、複数の鋼矢板51からなる合成部材における、鋼矢板51同士の継手効率(合成度合い)が未知である場合がある。この場合に、変形計測装置11を用いて継手効率を計測する方法について、以下説明する。
【0046】
この計測方法では、図9(a)に示されるように、山留壁50を構成する1つの鋼矢板51A(第1部材)と、当該鋼矢板51Aに隣接する鋼矢板51B(第2部材)と、の継手効率(合成度合い)が計測される。継手部53は、鋼矢板51A,51Bからなる合成部材のY方向中央に位置している。まず、鋼矢板51Aにおいては、継手部53近傍に測定箇所P1Aが設定され、ウエブ部51jの中央に測定箇所P2Aが設定される。鋼矢板51Bにおいても同様に、継手部53近傍に測定箇所P1Bが設定され、ウエブ部51jの中央に測定箇所P2Bが設定される。そして、各測定箇所P1A,P2A,P1B,P2Bの地盤G側の面に、それぞれ光ファイバセンサ3A,5A,3B,5Bが設置される。山留壁50に所定の土圧等が作用しているときに、この4本の光ファイバセンサ3A,5A,3B,5Bから得られる散乱光に基づいて、変形計測装置11は、各測定箇所P1A,P2A,P1B,P2BのZひずみ分布を取得することができる。
【0047】
そして、変形計測装置11は、各測定箇所P1A,P2A,P1B,P2BのZひずみ分布と、測定箇所P1A,P2A,P1B,P2B及び継手部53の5点のY方向の位置関係(例えば、上記5点の各Y座標)と、に基づいて継手効率を導出する。このように継手効率が導出可能である原理は次の通りである。変形計測装置11においては、測定箇所P1A,P2AのZひずみQ1A及びQ2Aが既知であり、測定箇所P1A,P2A及び継手部53の位置関係が既知であるので、第1実施形態で説明したとおり、例えば図9(b)に示されるように、鋼矢板51Aに関して任意の微小断層のY方向におけるひずみ線図WAが判明する。同様にして、鋼矢板51Bに関して任意の微小断層31のY方向におけるひずみ線図WBも判明する。よって、図9(b)に示されるように、鋼矢板51A,51Bで構成される合成部材のY方向幅全体のひずみ線図WA,WBが判明する。なお、測定箇所P1A,P2A,P1B,P2B及び継手部53の位置関係は、例えば分析装置9に予め入力され記憶されている。
【0048】
ここで、鋼矢板51Aと鋼矢板51Bとが継手部53において完全に接合されている(継手効率=1である)と仮定すれば、鋼矢板51Aと鋼矢板51Bとが一体として曲げ挙動するので、ひずみ線図WA,WBは、図10における「継手効率=1」で示されるような態様を示す。この場合、継手部53の位置でZひずみ=0となる。これに対し、鋼矢板51Aと鋼矢板51Bとが継手部53において完全に分離している(継手効率=0である)と仮定すれば、鋼矢板51Aと鋼矢板51Bとが別々に独立して曲げ挙動するので、ひずみ線図WA,WBは、図10における「継手効率=0」で示されるような態様を示す。この場合、鋼矢板51Aの,51Bともに継手部53にはZひずみが生じる。
【0049】
そして、0<継手効率<1の範囲では、ひずみ線図WA,WBは「継手効率=1」の態様と「継手効率=0」の態様との中間的な態様を示し、継手効率に応じて態様が変動していく。具体的には、継手効率が0から1に近づくに従って、ひずみ線図WA,WBの両方において継手部53に生じる引張ひずみ又は圧縮ひずみが小さくなっていく。また、例えば、継手効率が0から1に近づくに従って、鋼矢板51Aのウエブ部51jのひずみに対する鋼矢板51A(ひずみ線図WA)の継手部53のひずみの比が小さくなり、鋼矢板51Bのウエブ部51jのひずみに対する鋼矢板51B(ひずみ線図WB)の継手部53のひずみの比が小さくなる、といった関係にある。
【0050】
このように、ひずみ線図WA,WBの態様と継手効率との間には相関関係があるので、変形計測装置11の分析装置9(合成度演算部)においては、光ファイバセンサ3A,5A,3B,5Bから得られたひずみ線図WA,WBを事前に準備された相関関係に照らして、任意の微小断層における継手効率を取得することができる(合成度取得工程)。なおこの場合、変形計測装置11の分析装置9による演算は、上記のような原理に基づくものであればよく、実際の演算の手順が上記のとおりである必要はない。
【0051】
以上のように、鋼矢板51A(第1部材)に設置された2本の光ファイバセンサ3A,5Aと、鋼矢板51B(第2部材)に設置された2本の光ファイバセンサ3B,5Bと、を備える変形計測装置11は、山留壁50における鋼矢板51Aと鋼矢板51Bとの継手効率(合成度合い)のZ方向における分布を計測する合成度計測装置として使用することができる。
【0052】
〔第6実施形態〕
前述のように合成度計測装置として使用される変形計測装置11は、山留壁50には限定されず図11に示されるような合成桁71における部材間の合成度合いを計測することにも適用することができる。図11は合成桁71の断面図であり、合成桁71は図10の紙面に直交する方向(Z方向)に延在している。図11に示されるように、合成桁71は、H鋼からなる複数の鋼桁75と、鋼桁75のフランジ上面にずれ止めを施して接合部77で接合された鉄筋コンクリート製の床版73と、を備えている。床版73の上面には下向きの荷重(Y方向の荷重)が作用し、この荷重に起因して合成桁71がYZ平面内で曲げ変形する。このような合成桁71において、接合部77の上記ずれ止めが完全に機能しているか否かが未知であり、すなわち、鋼桁75と床版73との合成度合いが未知であるものとする。なお、「合成度合い」は0~1の値で表され、合成度合い=1(完全合成)の状態では鋼桁75と床版73とが一体の梁として曲げ挙動し、合成度合い=0(非合成)の状態では、鋼桁75と床版73とが別々に独立して曲げ挙動する。
【0053】
本実施形態の合成度計測方法では、図11に示されるように、床版73の内部の下面近傍に測定箇所P1Aが設定され当該測定箇所P1Aに光ファイバセンサ3Aが埋込まれる。同様に、床版73の内部の上面近傍に測定箇所P2Aが設定され当該測定箇所P2Aに光ファイバセンサ5Aが埋込まれる。また、鋼桁75のウエブ上部に測定箇所P1Bが設定され、ウエブ下部に測定箇所P2Bが設定される。そして、測定箇所P1Bにおけるウエブ側面に光ファイバセンサ3Bが取り付けられ、測定箇所P2Bにおけるウエブ側面に光ファイバセンサ5Bが取り付けられる。
【0054】
合成桁71に適切な荷重が付与されているときに、上記の4本の光ファイバセンサ3A,5A,3B,5Bから得られる散乱光に基づいて、変形計測装置11は、各測定箇所P1A,P2A,P1B,P2BのZひずみ分布を取得することができる。そして、第5実施形態と同様に、変形計測装置11では、測定箇所P1A,P2A,P1B,P2BのZひずみ分布と、測定箇所P1A,P2A,P1B,P2B及び接合部77の5点のY方向の位置関係と、に基づいて、図11(b),(c)に例示されるように、床版73の微小断層のY方向におけるひずみ線図WAと、鋼桁75の微小断層のY方向におけるひずみ線図WBと、が判明する。例えば、図11(b)は、合成度合い=1(完全合成)の場合のひずみ線図WA,WBを示し、図11(c)は、0<合成度合い<1の場合のひずみ線図WA,WBの一例を示している。
【0055】
そして、第5実施形態と同様に、ひずみ線図WA,WBの態様と、鋼桁75と床版73との合成度合いと、の間には相関関係がある。従って、変形計測装置11においては、第5実施形態と同様にして、光ファイバセンサ3A,5A,3B,5Bから得られたひずみ線図WA,WBを事前に準備された相関関係に照らして、上記微小断層の合成度合いを取得することができ、ひいては、合成度合いのZ方向における分布を取得することができる。
【0056】
なお、床版73の内部に埋込まれる光ファイバセンサ3A,5Aは、床版73内部の鉄筋に固定されることが好ましい。床版73においては、上面又は下面から床版73の厚み方向にひび割れが生じることがある。仮に、光ファイバセンサ3A,5Aが単に床版73のコンクリート部分に埋込まれているだけの場合を考えると、上記のようなひび割れが光ファイバセンサ3A,5Aの位置に到達している場合に、測定箇所P1A,P2Aの引張ひずみが光ファイバセンサ3A,5Aの引張ひずみとして正しく伝達されない場合がある。これに対して、光ファイバセンサ3A,5Aが鉄筋に固定されていれば、上記のようなひび割れの存在に関わらず、測定箇所P1A,P2Aの引張ひずみ(すなわち、鉄筋の引張ひずみ)は、光ファイバセンサ3A,5Aの引張ひずみとして正しく伝達される。従って、床版73のひび割れが存在していても、合成度合いを正確に計測することができる。
【0057】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0058】
第1~第4実施形態では、対象部材(対象部材1、鋼矢板51,61、山留壁50)の変形状態として、当該対象部材のY方向変位のZ方向における分布が計測されているが、計測可能な対象部材の変形状態はこれには限定されない。すなわち、本発明の変形計測装置11及び変形計測方法では、対象部材に作用する曲げモーメント(YZ平面内での曲げモーメント)のZ方向における分布、対象部材の傾斜(YZ平面内での傾斜)のZ方向における分布、対象部材の所定の表面に生じる歪み(又は応力)のZ方向における分布、などが対象部材の変形状態として計測されてもよい。
【0059】
また、本発明の変形計測装置11及び変形計測方法は、山留壁50や鋼矢板51に限られず、各断面が平面を保持して曲げ変形するとみなされるような、種々の長尺の部材に適用することができる。例えば、本発明の変形計測装置11及び変形計測方法は、SMWの芯材、鉄筋コンクリート部材、プレストレストコンクリート部材、等の変形計測にも適用することができる。また、対象部材が鉄筋コンクリート製である場合には、対象部材の内部に埋込まれる光ファイバセンサ3A,5Aは、鉄筋に固定されることが好ましい。前述したとおり、光ファイバセンサ3A,5Aが鉄筋に固定されることにより、対象部材のコンクリート部にひび割れが生じている場合にも、合成度合いを正確に計測することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…対象部材、3,5,3A,5A,3B,5B…光ファイバセンサ、11…変形計測装置、9…分析装置(変形状態演算部、合成度演算部)、21…センサ部材、51A…鋼矢板(第1部材)、51B…鋼矢板(第2部材)、53…継手部(接合部)、77…接合部、P1,P2,P1A,P2A,P1B,P2B…測定箇所。
図1
図2
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図11