(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/04 20060101AFI20240321BHJP
C23C 18/20 20060101ALI20240321BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
B32B15/04 A
C23C18/20 Z
H05K3/18 A
H05K3/18 B
(21)【出願番号】P 2020504925
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006895
(87)【国際公開番号】W WO2019171990
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018043346
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田井 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀一
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-116745(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065628(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/051061(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/148666(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0106370(US,A1)
【文献】特表2012-527364(JP,A)
【文献】国際公開第2010/026853(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/123161(WO,A1)
【文献】特開2006-124685(JP,A)
【文献】特開2002-064252(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119908(WO,A1)
【文献】特開2007-194603(JP,A)
【文献】特開2000-289167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C23C 18/00 - 18/08
H05K 3/10 - 3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材の両面の少なくとも一方の面に前記基材と直接接触するように形成された接着層と、
該接着層の前記基材と反対側の面上に形成されためっき層と、
を含む積層体であって、
前記基材が、20ppm/K以下の線熱膨張係数を有し、
前記基材が、300℃以上のガラス転移温度を有し、
前記基材における樹脂が、熱硬化性ポリイミド樹脂であり、
前記接着層が、貴金属を含有するめっき触媒と、シランカップリング剤
(但し、水溶性アミノシランカップリング剤を除く)とを含み、
前記接着層が、前記基材の両面の一方の面に前記基材と直接接触するように形成された第1の接着層と、前記基材の両面の他方の面に前記基材と直接接触するように形成された第2の接着層とを有し、
前記めっき層が、前記第1の接着層の基材と反対側の面上に形成された第1のめっき層と、前記第2の接着層の基材と反対側の面上に形成された第2のめっき層とを有し、
前記接着層が、バインダーを含有し、
前記接着層が、P=O基含有重合性化合物を含まず、
前記バインダーが、熱硬化性ポリイミド樹脂であ
り、
前記シランカップリング剤が、エポキシ基を含有するシランカップリング剤である、
積層体。
【請求項2】
前記接着層が、前記シランカップリング剤を含むシランカップリング層と、前記めっき触媒を含有する触媒層とを有し、前記基材から前記めっき層に向かって、この順序で積層されている請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記接着層の積層方向の厚さが、0.001~2μmである請求項1又は2記載の積層体。
【請求項4】
前記基材の前記両面の少なくとも一方の面の平均粗さRaが、0.15μm以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材の前記両面の各平均粗さRaが0.15μm以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
温度85℃、湿度85%の恒温恒湿器に240時間投入した後の引き剥がし強度が、180度方向剥離で3N/cm以上である請求項1~
5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
基材の少なくとも一方の面上に、シランカップリング剤
(但し、水溶性アミノシランカップリング剤を除く)と、貴金属を含有するめっき触媒原料とを塗布し、乾燥することにより、接着層を形成する接着層形成工程と、
前記接着層の前記基材と反対側の面上にめっき処理を行うことにより、めっき層を形成するめっき層形成工程とを含み、
前記基材が、20ppm/K以下の線熱膨張係数を有し、
前記基材が、300℃以上のガラス転移温度を有し、
前記基材における樹脂が、熱硬化性ポリイミド樹脂であり、
前記接着層が、前記基材の両面の一方の面に前記基材と直接接触するように形成された第1の接着層と、前記基材の両面の他方の面に前記基材と直接接触するように形成された第2の接着層とを有し、
前記めっき層が、前記第1の接着層の基材と反対側の面上に形成された第1のめっき層と、前記第2の接着層の基材と反対側の面上に形成された第2のめっき層とを有し、
前記接着層が、バインダーを含有し、
前記接着層が、P=O基含有重合性化合物を含まず、
前記バインダーが、熱硬化性ポリイミド樹脂であ
り、
前記シランカップリング剤が、エポキシ基を含有するシランカップリング剤である、
積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC」ともいう。)等に使用される金属積層板として、絶縁性を有するポリイミドフィルムの表面にプラズマ処理及びシランカップリング処理を行い、この処理面に貴金属化合物を含む触媒を介して、めっき処理を行うことにより、めっき層が形成されたフレキシブル配線板用積層板が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の積層体は、ポリイミドフィルムの表裏に熱可塑性ポリイミド層を有する構造である。この文献に記載された方法では、熱可塑ポリイミド層の表面にプラズマ処理を行い、表面粗さを50~200nmに調整する。その後、プラズマ処理を施した熱可塑ポリイミド層の表面をシランカップリング処理し、シランカップリング処理した処理面に貴金属化合物を含む触媒を付着させて積層体前駆体を得る。これにより、貴金属触媒を補足するシランカップリング剤を介して、熱可塑ポリイミド層と貴金属触媒とを密着できる。その後、得られた積層体前駆体に無電解めっき処理及び電気めっき処理を施すことによりフレキシブルプリント配線板用積層体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の積層体に対し、半田耐熱性及び耐湿熱性を一層向上させることが求められている。
【0006】
そこで、本発明は、従来の積層体と比べて半田耐熱性及び耐湿熱性を向上可能な積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材と、基材の両面の少なくとも一方の面に基材と直接接触するように形成された接着層と、接着層の基材と反対側の面上に形成されためっき層とを含む積層体において、接着層が、貴金属を含有するめっき触媒と、シランカップリング剤とを含む構成とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)
基材と、該基材の両面の少なくとも一方の面に前記基材と直接接触するように形成された接着層と、該接着層の前記基材と反対側の面上に形成されためっき層と、を含む積層体であって、
前記接着層が、貴金属を含有するめっき触媒と、シランカップリング剤とを含む積層体。
(2)
前記接着層が、前記シランカップリング剤を含むシランカップリング層と、前記めっき触媒を含有する触媒層とを有し、前記基材から前記めっき層に向かって、この順序で積層されている(1)の積層体。
(3)
前記接着層の積層方向の厚さが、0.001~2μmである(1)又は(2)の積層体。
(4)
前記基材が、20ppm/K以下の線熱膨張係数を有する、(1)~(3)のいずれかの積層体。
(5)
前記基材が、300℃以上のガラス転移温度を有する、(1)~(4)のいずれかの積層体。
(6)
前記基材における樹脂が、熱硬化性ポリイミド樹脂である、(1)~(5)のいずれかの積層体。
(7)
前記シランカップリング剤が、アミノ基を含有するシランカップリング剤又はエポキシ基を含有するシランカップリング剤である、(1)~(6)のいずれかの積層体。
(8)
前記基材における樹脂が、熱硬化性ポリイミド樹脂であり、
前記シランカップリング剤が、アミノ基を含有するシランカップリング剤又はエポキシ基を含有するシランカップリング剤である、(1)~(7)のいずれかの積層体。
(9)
前記シランカップリング剤が、エポキシ基を含有するシランカップリング剤である、(8)の積層体。
(10)
前記基材の前記両面の少なくとも一方の面の平均粗さRaが、0.15μm以下である、(1)~(9)のいずれかの積層体。
(11)
前記基材の前記両面の各平均粗さRaが、0.15μm以下である、(1)~(9)のいずれかの積層体。
(12)
前記接着層が、バインダーを含有する、(1)~(11)のいずれかの積層体。
(13)
前記バインダーが、熱硬化性ポリイミド樹脂である、(12)の積層体。
(14)
温度85℃、湿度85%の恒温恒湿器に240時間投入した後の引き剥がし強度が、180度方向剥離で3N/cm以上である(1)~(13)のいずれかの積層体。
(15)
前記接着層が、前記基材の両面の一方の面に前記基材と直接接触するように形成された第1の接着層と、前記基材の両面の他方の面に前記基材と直接接触するように形成された第2の接着層とを有し、
前記めっき層が、前記第1の接着層の基材と反対側の面上に形成された第1のめっき層と、前記第2の接着層の基材と反対側の面上に形成された第2のめっき層とを有する、(1)~(14)のいずれかの積層体。
(16)
基材の少なくとも一方の面上に、シランカップリング剤と、貴金属を含有するめっき触媒原料とを塗布し、乾燥することにより、接着層を形成する接着層形成工程と、
前記接着層の前記基材と反対側の面上にめっき処理を行うことにより、めっき層を形成するめっき層形成工程とを含む、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半田耐熱性及び耐湿熱性を向上可能な積層体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に記載する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[積層体]
本実施形態の積層体は、基材と、基材の両面の少なくとも一方の面に基材と直接接触するように形成された接着層と、接着層の基材と反対側の面上に形成されためっき層とを含む。接着層は、貴金属を含有するめっき触媒と、シランカップリング剤とを含む。本実施形態の積層体は、上記の構成を備えることにより、半田耐熱性及び耐湿熱性を向上できる。また、本実施形態の積層体は、上記の構成を備えることにより、例えば、常温での引き剥がし強度に優れ、湿熱処理後においても、引き剥がし強度の低下を抑えることができる傾向にある。
【0012】
(基材)
基材における樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱硬化性ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、及びフッ素系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、樹脂は、機械的特性、熱的特性及び加熱時の寸法安定性に一層優れる観点から、熱硬化性ポリイミド樹脂であることが好ましい。また、高周波信号を伝送するフレキシブルプリント配線板においては、誘電特性の観点から、樹脂としては、液晶ポリマー、又はフッ素系樹脂であることが好ましい。なお、液晶ポリマー、及びフッ素系樹脂は吸水率が低いため、耐湿熱特性、高湿下での寸法安定性、及び吸湿処理後の引き剥がし強さも良好となる傾向にある。
【0013】
熱硬化性ポリイミド樹脂としては、特に限定されないが、例えば、酸二無水物とジアミンを共重合することによって得られる縮合型ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びマレイミド樹脂が挙げられる。
【0014】
酸二無水物及びジアミンとしては、脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物のいずれも用いることができるが、耐熱性の観点からは、酸二無水物としては芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、ジアミンとしては芳香族ジアミンが好ましい。
【0015】
酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及びビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)が挙げられる。これらの酸二無水物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、耐熱性及び寸法安定性の観点から、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸二無水物が好ましい。
【0016】
ジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3‘-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)]プロパンが挙げられる。これらのジアミンは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、耐熱性及び寸法安定性の観点から、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、1,5-ジアミノナフタレン、及び1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンを含有することが好ましい。
【0017】
基材は、本発明の効果を阻害しない範囲において、樹脂以外の成分を含有してもよい。
【0018】
基材は、樹脂フィルムであることが好ましく、樹脂フィルムにおける樹脂が熱硬化性ポリイミド樹脂である熱硬化性ポリイミド樹脂フィルムであることがより好ましい。熱硬化性ポリイミド樹脂フィルムは、公知の方法により調製した調製品を用いてもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、東レ・デュポン株式会社製品の「カプトンENシリーズ」、「カプトンHシリーズ」、「カプトンVシリーズ」、カネカ株式会社製品の「アピカルHPシリーズ」、「アピカルNPIシリーズ」、及び宇部興産株式会社製品の「ユーピレックスS」が挙げられる。
【0019】
基材の積層方向の厚さは、搬送性、絶縁性、及び耐熱性等の観点から、5~500μmであることが好ましい。同様の観点から、基材の積層方向の厚さは、10~300μmであることがより好ましく、20~100μmであることが更に好ましい。
【0020】
基材は、20ppm/K以下(例えば、3~20ppm/K)の線熱膨張係数を有することが好ましい。基材が特定値以下の線熱膨張係数を有することにより、寸法安定性、引き剥がし強度及び耐熱性を一層向上できる傾向にある。同様の観点から、熱膨張性係数は、17ppm/K以下であることがより好ましく、10ppm/K以下であることが更に好ましい。線熱膨張係数は、例えば、TMA(熱機械分析装置)を用いて、昇温速度10℃/分の昇温速度で、100~150℃の範囲に得られる測定値により求められる。
【0021】
基材は、300℃以上(例えば、300~400℃)のガラス転移温度を有することが好ましい。基材が特定値以上のガラス転移温度を有することにより、積層体は、引き剥がし強度、及び耐熱性を一層向上できる傾向にある。同様の観点から、ガラス転移温度は、320℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることが更に好ましい。ガラス転移温度は、例えば、動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求められる。
【0022】
基材の両面の少なくとも一方の面の平均粗さRa(特に基材の両面の各平均粗さRa)は、0.15μm以下(例えば、0.02~0.15μm)であることが好ましい。基材の両面の少なくとも一方の面の平均粗さRaが0.15μm以下である、即ち、基材の表面が平滑であることにより、接着層、及びめっき層を基材全体にムラなくに設けることができる。その結果、積層体は、基材と接着層の間、或いは接着層とめっき層の間に空隙を有さない或いは空隙の少ない構成となる。また、この様な積層体は、空隙を有さない或いは空隙が少ないことで、加熱工程や高温高湿下においても、空隙に起因する接続不良が発生せず、耐湿熱特性、及び耐熱性が一層向上する。更に基材、接着層、及びめっき層が隙間なく接着するため、各層同士が接触する面積が十分に確保され、引き剥がし強度、耐湿熱性及び耐熱性を一層向上できる傾向にある。同様の観点から、平均粗さRaは、0.10μm以下であることがより好ましく、0.07μm以下であることが更に好ましい。平均粗さRaは、JIS B0601-1976に準拠して、基材の表面の十点の平均粗さを測定することにより求められる。
【0023】
(接着層)
接着層は、シランカップリング剤と、貴金属を含有するめっき触媒とを含む。
【0024】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、アミノ基を含有するシランカップリング剤(以下、「アミノ系シランカップリング剤」ともいう。)、エポキシ基を含有するシランカップリング剤(以下、「エポキシ系シランカップリング剤」ともいう。)、及びメルカプト基を含有するシランカップリング剤(例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン及び11-メルカプトウンデシルトリメトキシシラン)、ウレイド基を含有するウレイド系シランカップリング剤(例えば、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン)、ビニル基を含有するビニル系シランカップリング剤(例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルメチルジエトキシシラン)、スチリル基を含有するスチリル系シランカップリング剤(例えば、p-スチリルトリメトキシシラン);(メタ)アクリロイル基を含有する(メタ)アクリレート系シランカップリング剤(例えば、3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン及び3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン)、イソシアネート基を含有するイソシアネート系シランカップリング剤(例えば、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン)、スルフィド基を含有するスルフィド系シランカップリング剤(例えば、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド及びビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、及びトリアジンシランが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でもシランカップリング剤は、引き剥がし強度、耐湿熱性及び耐熱性を一層向上できる観点から、アミノ系シランカップリング剤又はエポキシ系シランカップリング剤であることが好ましく、エポキシ系シランカップリング剤であることがより好ましい。特にシランカップリング剤は、引き剥がし強度、耐湿熱性及び耐熱性を一層向上できる観点から、基材における樹脂が、熱硬化性ポリイミド樹脂であり、シランカップリング剤が、アミノ系シランカップリング剤又はエポキシ系シランカップリング剤であることが好ましく、基材における樹脂が、熱硬化性ポリイミド樹脂であり、シランカップリング剤が、エポキシ系シランカップリング剤であることがより好ましい。
【0025】
アミノ系シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシメチルシランが挙げられる。アミノ系シランカップリング剤は、市販品を用いてもよく、市販品としては、信越化学工業株式会社製品の「KBM-903」、「KBE-903」、「KBM-573」、「KBM-602」、「KBM-603」、及び「KBM-6803」が挙げられる。
【0026】
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。エポキシ系シランカップリング剤は、市販品としては、信越化学工業株式会社製品の「X-12-1231」、「KBM-403」、「KBM-303」、「KBM-402」、「KBE-403」、「KBE-402」、及び「KBM-4803」が挙げられる。
【0027】
シランカップリング剤の接着層全体に対する含有量は、例えば、0.01~10質量%であり、好ましくは0.05~2質量%であり、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0028】
めっき触媒は、貴金属を含有する。めっき触媒としては、めっき処理(例えば、無電解めっき処理)に通常用いられる触媒であればよい。貴金属としては、例えば、パラジウム、白金、ニッケル、銀、金及びこれらの合金が挙げられる。これらの貴金属は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、貴金属は、金属単体の安定性、めっき触媒としての反応性、回路形成後の触媒除去性、耐マイグレーション性の観点から、パラジウムであることが好ましい。
【0029】
めっき触媒は、接着層の表面にめっき層を均一に析出させる観点から、貴金属が溶媒中にコロイド状、又は均一に分散していることが望ましい。溶媒としては特に限定されず、貴金属の粒子を分散させるために通常用いられるものが挙げられる。例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ヘキサン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。また、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて更に分散剤を添加することができる。分散剤としては特に限定されず、貴金属の粒子を分散させるために通常用いられるものが挙げられる。分散剤としては、例えば、酸基を有するアルキロールアンモニウム塩、不飽和酸性ポリカルボン酸ポリエステル、ポリシロキサン、及びこれらを混合したものが挙げられる。
【0030】
貴金属の粒子の平均粒径(D50)は、例えば、2~40nm程度であってもよい。平均粒径は、体積基準の平均粒径であり、例えば、動的光散乱法(DLS)による粒子径分布測定装置により元得られる。なお、D50とは、体積累積50%の位置を意味する。
【0031】
接着層全体に対するめっき触媒の含有量は、例えば、1~99質量%であり、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは20~60質量%である。
【0032】
接着層は、貴金属の分散性に影響を与えない範囲で、更にバインダーを含有することができる。接着層がバインダーを含有することにより、積層体は、耐熱性を一層向上でき、また、接着層を介して、基材とめっき層との密着性が一層向上し、その結果、引き剥がし強度を一層向上できる傾向にある。
【0033】
バインダーとしては、特に限定されず、熱的特性、及び機械的特性を向上させるために通常用いられるバインダーが挙げられる。これらの中でも、バインダーは、基材における樹脂が、熱硬化性ポリイミド樹脂である場合に、基材とめっき層との密着性が一層向上する観点から、熱硬化性ポリイミド樹脂であることが好ましい。熱硬化性ポリイミド樹脂としては、例えば、基材における樹脂の項において例示した熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性ポリイミド樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0034】
バインダーの接着層全体に対する含有量は、例えば、1~99質量%であり、好ましくは20~90質量%であり、より好ましくは40~80質量%である。
【0035】
接着層は、単層構造を有してもよく、多層構造を有してもよい。接着層が、多層構造を有する場合、多層構造としては、例えば、シランカップリング剤を含むシランカップリング層と、めっき触媒を含有する触媒層とを有する多層構造が挙げられる。接着層が、上記多層構造を有する場合、例えば、シランカップリング層及び触媒層は、基材からめっき層に向かって、この順序で積層されている。多層構造は、シランカップリング層と、触媒層とから構成されていてもよく、本発明の効果を阻害しない範囲において、シランカップリング層と、触媒層と、シランカップリング層及び触媒層以外の1種以上の他の層とから構成されていてもよい。接着層は、引き剥がし強度、耐湿熱性及び耐熱性を一層向上させる観点から、シランカップリング層と、触媒層とを有し、基材からめっき層に向かって、この順序で積層されていることが好ましい。シランカップリング層、及び触媒層は、基材表面の凹凸に良好に追従し、基材全体にムラなく設けることができる。これにより、基材とシランカップリング層、及びシランカップリング層と触媒層は良好に接着する。特にシランカップリング層は、シランカップリング剤の官能基により基材表面と強固な化学結合を形成する。更に水素結合により触媒と強固な結合を形成することができる。加えて、シランカップリング層、及び触媒層は、基材の凹凸に良好に追従するため、各層が隙間なく接着し、その結果、各層の間の空隙の発生を防ぐことができる。これにより積層体は、加熱工程及び高温高湿環境下においても、空隙に起因する接合不良を生じず、耐湿熱性と耐湿熱特性が一層向上する傾向にある。シランカップリング層に含まれるシランカップリング剤としては特に限定されず、例えば接着層で使用するシランカップリング剤を用いることができる。
触媒層に含まれるめっき触媒としては特に限定されず、例えば、接着層で使用するめっき触媒を用いることができる。
【0036】
接着層の積層方向の厚さは、0.001~2μmであることが好ましい。厚さが0.001μm以上であると、積層体は、耐湿熱性が一層向上する傾向にあり、厚さが2μm以下であると、積層体は、基材の機械的特性、熱的特性及び電気的特性を一層維持できる傾向にある。同様の観点から、接着層の積層方向の厚さは、0.01~1μmであることがより好ましく、0.02~0.5μmであることが更に好ましく、0.03~0.1μmであることが特に好ましい。
【0037】
(めっき層)
めっき層としては、例えば、金属めっき処理により形成された金属めっき層が挙げられ、金属めっき層としては、銅めっき層、金めっき層、錫めっき層、ニッケルめっき層、銀めっき層、パラジウムめっき層、ハンダめっき層及び鉛フリーハンダめっき層が挙げられる。これらの中でもめっき層は、通常、銅めっき層であることが多い。
【0038】
めっき層の積層方向の厚さは、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、0.1~35μmであることが好ましく、0.2~20μmであることがより好ましく、0.3~18μmであることが更に好ましい。
【0039】
本実施形態の積層体は、基材の片面側に接着層及びめっき層がこの順序で積層された形態を有してもよく、基材の両面側に接着層及びめっき層がこの順序で積層された形態を有してもよい。本実施形態の積層体は、接着層が、基材の両面の一方の面に基材と直接接触するように形成された第1の接着層と、基材の両面の他方の面に基材と直接接触するように形成された第2の接着層とを有し、めっき層が、第1の接着層の基材と反対側の面上に形成された第1のめっき層と、第2の接着層の基材と反対側の面上に形成された第2のめっき層とを有することが好ましい。第1の接着層及び第2の接着層は、同一であっても異なっていてもよく、第1のめっき層及び第2のめっき層は、同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
(特性)
本実施形態の積層体は、耐湿熱性に優れ、温度85℃、湿度85%の恒温恒湿器に240時間投入した後の引き剥がし強度は、例えば、180度方向剥離で3N/cm以上(例えば、3~5N/cm)であり、3.1N/cm以上であることが好ましく、3.3N/cm以上であることがより好ましい。
【0041】
(用途)
本実施形態の積層体は、フレキシブルプリント配線板用材料として好適に用いられる。フレキシブルプリント配線板は、例えば、ICチップ実装用の所謂チップオンフレキシブルプリント配線板として好適に用いられる。
【0042】
[積層体の製造方法]
本実施形態の積層体の製造方法は、基材の少なくとも一方の面に、基材と直接接触するようにシランカップリング剤と、貴金属を含有するめっき触媒原料とを塗布し、乾燥することにより、接着層を形成する接着層形成工程と、接着層の基材と反対側の面上にめっき処理を行うことにより、めっき層を形成するめっき層形成工程とを含有する。本実施形態の製造方法は、上記の構成を備えることにより、得られる積層体の半田耐熱性及び耐湿熱性を向上できる。また、本実施形態の製造方法は、上記の構成を備えることにより、例えば、得られる積層体の引き剥がし強度に優れる傾向にある。
【0043】
(接着層形成工程)
接着層形成工程は、基材の少なくとも一方の面上に、シランカップリング剤と、貴金属を含有するめっき触媒原料とを塗布し、乾燥することにより、接着層を形成する工程である。
【0044】
基材としては、特に限定されず、例えば、積層体の項における基材として例示したものが挙げられる。
【0045】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、積層体の項におけるシランカップリング剤として例示したものが挙げられる。接着層形成工程では、例えば、シランカップリング剤は、有機溶媒に溶解又は分散させた形態で用いられる。有機溶媒としては、シランカップリング剤を溶解又は分散可能な溶媒であれば特に限定されず、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、ブロパノール、ブタノール、ペンタノール、グリセンリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパン)、エーテル類(例えば、ブチルエチルエーテル等のアルキルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、及びエチレングリコールモノフェニルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類)、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロペンタノン)、エステル類(例えば、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、及びメチルエーテルアセテート)、アミド類(例えば、N,N-ジメチルホルムアルデヒド)、アミン類(例えば、モノエタノールアミン及びジエタノールアミン)、芳香族炭化水素類(例えば、トルエン及びキシレン)、含硫黄化合物(例えば、ジメチルスルホキシド)、及び含窒素複素環化合物(例えば、2-ピロリドン)が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。有機溶媒中のシランカップリング剤の濃度は、特に限定されず、例えば、0.1~10質量%程度であってもよい。
【0046】
めっき触媒原料は、貴金属を含有する。貴金属としては、特に限定されず、例えば、パラジウム、銀、金、白金、ニッケル及びこれらの合金が挙げられる。これらの貴金属は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0047】
めっき触媒原料は、貴金属を直接添加してもよく、貴金属化合物と、貴金属化合物を還元させて、貴金属を得るための還元剤を添加し、めっき触媒原料の中で、還元反応により貴金属を析出させても良い。貴金属化合物としては、特に限定されず、例えば、パラジウム化合物(例えば、塩化パラジウム、フッ化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酸化パラジウム、及び硫化パラジウム)、銀化合物(例えば、硝酸銀、フッ化銀、酸化銀、及び酢酸銀)、金化合物(例えば、シアン化金、三塩化金、三臭化金、塩化金カリウム、シアン化金カリウム、塩化金ナトリウム、及びシアン化金ナトリウム)、白金化合物(例えば、塩化白金、及び硫酸白金)、及びニッケル化合物(例えば、塩化ニッケル、及び硫酸ニッケル)が挙げられる。これらの貴金属化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。還元剤としては、特に限定されず、例えば、水素化ホウ素金属塩(例えば、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化ホウ素カリウム)、水素化アルミニウム塩(例えば、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、及び水素化アルミニウムカルシウム)、ヒドラジン化合物、カルボン酸類(例えば、クエン酸、没食子酸、ぎ酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、アスコルビン酸及びこれらの塩)、第1級又は第2級アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びポリオール)、第3級アミン類(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン[TMEDA]、及びエチレンジアミン四酢酸[EDTA])、ヒドロキシルアミン、ケトン類(例えば、アセトン、及びメチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル)、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒド)、エステル類(例えば、ぎ酸メチル、酢酸メチル、及び酢酸エチル)、及びホスフィン類(例えば、トリ-n-プロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリエトキシホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン[DPPE]、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン[DPPP]、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン[DPPF]、及び2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル[BINAP])が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
還元剤の使用量は、特に限定されず、例えば、貴金属化合物100質量部に対し、10~1000質量部程度であってもよい。
【0049】
めっき触媒原料は、バインダーを更に含有してもよい。バインダーとしては、積層体の項で例示した担体が挙げられる。
【0050】
接着層形成工程において、シランカップリング剤とめっき触媒原料とを混合した混合原料を、基材の少なくとも一方の面上に塗布し、乾燥することにより接着層を形成してもよい。また、接着層形成工程において、シランカップリング剤を、基材の少なくとも一方の面上に塗布し、乾燥することにより、シランカップリング層を形成し、めっき触媒原料を、シランカップリング層の表面上に塗布し、乾燥することにより、触媒層を形成してもよい。この場合、接着層は、シランカップリング層と触媒層から構成される。
【0051】
接着層形成工程において、シランカップリング剤及びめっき触媒原料をそれぞれ塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、ロールコート方式、キスロールコート方式、グラビアコート方式、リバースコート方式、ロールブラッシュ方式、スプレーコート方式、ディップロールコート方式、バーコート方式、ナイフコート方式、エアーナイフコート方式、カーテンコート方式、リップコート方式、及びダイコーター方式が挙げられる。
【0052】
接着層形成工程において、乾燥条件としては特に限定されない。乾燥温度としては、例えば、60~240℃程度であってもよく、乾燥時間としては、例えば、5~30分程度であってもよい。乾燥温度は、段階的に変化させてもよく、一定に維持してもよい。
【0053】
(めっき層形成工程)
めっき層形成工程は、接着層の基材と反対側の面上にめっき処理を行うことにより、めっき層を形成する工程である。めっき処理としては、無電解めっき処理、電気めっき処理及びこれらを組み合わせた処理が挙げられる。これらのめっき処理の中でも無電解めっき処理を用いると、パターン形成方法の一つであるセミアディティブ法への適用が可能であり、両面狭ピッチ化に対応できることから好ましい。
【0054】
無電解めっき処理及び電気めっき処理の各処理条件としては、特に限定されず、公知の処理条件が用いられる。より詳細には、例えば、実施例に記載の処理条件を用いることができる。
【0055】
なお、本明細書中の各物性は、特に明記しない限り、以下の実施例に記載された方法に準じて測定することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
基材として、38μmの厚さを有する熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(東レ・デュポン株式会社製品の「カプトン150EN-C、線熱膨張係数13ppm、ガラス転移温度320℃、Ra0.03μm」)の片面に、エポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製品の「KBM-403」)の2質量%メタノール溶液を、バーコーターを用いて塗布した。その後、60~120℃、5分程度の条件にて塗布物を乾燥することにより、20nmの厚さを有するシランカップリング層を形成した(シランカップリング層形成工程)。次に、シランカップリング層の表面に、0.25質量%の金属触媒濃度を有する触媒層形成材料(IOX製品の「ML-300」)をバーコーターを用いて塗布した。その後、120℃、10分程度の条件にて乾燥し、更に240℃、15分程度の条件にて乾燥することにより、50nmの厚さを有する触媒層を形成することにより積層体前駆体を形成した(触媒層形成工程)。次に、積層体前駆体を、奥野製薬工業株式会社製品のOPCカッパーHFS(初期Cu濃度2.5g/l、浴容積500ml、40℃、40分)に1分程度浸漬し、触媒層の表面に、0.3μmの厚さを有する銅めっき層を形成した(化学めっき工程)。更に、電解めっき処理により銅めっき層の厚さを0.3μmから12μmとした(電解めっき工程)。これにより、積層体を得た。
【0058】
[実施例2]
シランカップリング層形成工程において、エポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製品の「KBM-403」)の2質量%メタノール溶液に代えて、エポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製品の「KBM-4803」)の2質量%メタノール溶液を塗布した以外は実施例1と同様にして積層体を得た。なお、積層体の各層の厚さは実施例1の積層体の各層の厚さと同一である。
【0059】
[実施例3]
シランカップリング層形成工程において、エポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製品の「KBM-403」)の2質量%メタノール溶液に代えて、アミン系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製品の「KBM-903」)の2質量%メタノール溶液を塗布した以外は実施例1と同様にして積層体を得た。なお、積層体の各層の厚さは実施例1の積層体の各層の厚さと同一である。
【0060】
[比較例1]
シランカップリング層形成工程を行わず、触媒層形成工程において、基材の片面に、触媒槽形成材料を塗布した以外は実施例1と同様にして積層体を得た。なお、積層体の各層(基材及び銅めっき層)の厚さは実施例1の積層体の各層の厚さと同一である。
【0061】
[比較例2]
シランカップリング層形成工程において、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(東レ・デュポン株式会社製品の「カプトン150EN-C」)に代えて、熱硬化性ポリイミド層と、熱硬化性ポリイミド層の両面に配置された熱可塑性ポリイミド層とからなり、25μmの厚さを有するポリイミド樹脂フィルム(カネカ株式会社製品の「ピクシオFRS-142#SW」)を用いた以外は比較例1と同様にして積層体を得た。なお、銅めっき層の厚さは比較例1の積層体の各層の厚さと同一である。
【0062】
各実施例及び比較例の積層体の各物性を測定した。測定結果を表1に示す。なお、各物性の測定方法は、以下の方法により行った。
【0063】
各評価方法及び測定方法は以下のとおりである。
【0064】
[引き剥がし強度]
引き剥がし強度の測定は、JIS C6471に準拠して行った。より詳細には、各積層体の銅めっき層表面に3mm幅のエッチングレジストをパターニングした後に、エッチングにより残余の銅めっき層を除去することによりサンプルを得た。得られたサンプルを両面テープで補強板に固定し、銅めっき層を補強板から180°方向に引き剥がし強度測定を行うことにより引き剥がし強度を測定した。引き剥がし速度は、50mm/分とした。表中の評価基準は以下の通りある。
(評価基準)
◎:引き剥がし強度が5N以上であった。
○:引き剥がし強度が3N以上5N未満であった。
×:引き剥がし強度が3N未満であった。
【0065】
[湿熱処理後の引き剥がし強度]
各積層体の銅めっき層表面に3mm幅にエッチングレジストをパターニングした後、エッチングにより残余の銅めっき層を除去することによりサンプルを得た。温度85℃湿度85%に調整した恒温恒湿器で240時間処理を行った。恒温恒湿器から取り出したサンプルを両面テープで補強板に固定し、銅めっき層を補強板から180°方向に引き剥がし、引き剥がし強度を測定した。
【0066】
[半田耐熱試験]
各積層体を30mm×30mmに切り出した。各積層体の銅めっき層側を半田浴槽側とし、60秒フロート処理を行った。処理後の外観を目視にて確認し、収縮、膨れ、及び剥がれの有無を確認した。240~340℃まで10℃毎に試験を行い、収縮、膨れ、及び剥がれの有無が無い最大温度を求めた。なお、表1中、240℃で収縮、膨れ、及び剥がれのいずれかが発生した場合、「240℃未満」と記載し、340℃で収縮、膨れ、及び剥がれがいずれも見られない場合、「340℃<」と記載している。
【0067】
[化学めっき後外観]
各実施例及び比較例について化学めっき工程後の外観を目視にて観察し、収縮、膨れ、及び剥がれの有無を確認した。表1中、収縮、膨れ、及び剥がれのいずれも見られない場合、「○」と記載し、収縮、膨れ、及び剥がれのいずれかが見られた場合、「×」と記載している。
【0068】
【0069】
表1に示すとおり、実施例1~3の積層体は、比較例1及び2の積層体と比較して、半田耐熱性及び耐湿熱性に優れていることが分かる。
【0070】
本出願は、2018年3月9日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2018-043346)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の積層体は、フレキシブルプリント配線板に用いられる材料としての産業上利用可能性を有する。