(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】既設トンネルの排水機能付き補強構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20240321BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20240321BHJP
E21D 11/38 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
E21D11/10 C
E21D11/00 Z
E21D11/38 Z
(21)【出願番号】P 2021046671
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-06-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・土木施工 第61巻第7号・通巻763号 (令和2年6月22日 株式会社オフィス・スペース発行) ・令和2年度土木学会全国大会第75回年次学術講演会[講演概要集]DVD-ROM版(令和2年8月1日 公益社団法人土木学会発行)
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 昌克
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝也
(72)【発明者】
【氏名】森 淳
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-092029(JP,A)
【文献】特開平10-025997(JP,A)
【文献】特開2002-235498(JP,A)
【文献】特開2002-047900(JP,A)
【文献】特開平09-256800(JP,A)
【文献】特開平08-296399(JP,A)
【文献】特開2003-138895(JP,A)
【文献】特開2020-159181(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0095066(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
E21D 11/00
E21D 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメントによりトンネル覆工体が形成された既設トンネルにおいて、前記トンネル覆工体の内面に補強用の覆工体を形成する際に設けられて、前記セグメントの前後間の接合部からの滲出水を排出可能とする既設トンネルの排水機能付き補強構造であって、
トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて取り付けられ、内側にパネル取付け面部を備えると共に外側に固定面部を備える複数の支保体と、前後に隣接する一対の前記支保体の前記パネル取付け面部に跨るようにして、前記支保体に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数のパネル部材と、該パネル部材と前記トンネル覆工体との間の空間に充填されて、前記支保体と前記パネル部材と前記トンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料とを含んで構成され、
前記支保体は、前記固定面部が、前記トンネル覆工体を構成する前記セグメントの前後間の接合部を覆うように配置されると共に、前記固定面部と前記トンネル覆工体との間に離間部を保持した状態で、前記トンネル覆工体の内周面に沿って固定されており、
前記離間部において周方向に延設する前記接合部を挟んだ両側に、一対の線状遮水部材が、前記固定面部及び前記トンネル覆工体の双方に密着させた状態で、前記支保体の上端部から下端部に至るまで周方向に連続して取り付けられており、
取り付けられた一対の前記線状遮水部材の間の部分を排水路として、滲出水を下方に導水できるようになっていると共に、前記排水路の下端部が前記既設トンネルの内部空間と連通していて、導水された滲出水を排出できるようになっている既設トンネルの排水機能付き補強構造。
【請求項2】
前記トンネル覆工体の内側面に、台座プレート部材が、前記トンネル覆工体の内側面との間に隙間を保持した状態で取り付けられており、該台座プレート部材に前記固定面部が固定されることで、前記支保体が、前記固定面部と前記トンネル覆工体との間に離間部を保持した状態で、前記トンネル覆工体の内周面に沿って固定されている請求項1記載の既設トンネルの排水機能付き補強構造。
【請求項3】
前記線状遮水部材が、遮水パッカーからなる請求項1又は2記載の既設トンネルの排水機能付き補強構造。
【請求項4】
前記線状遮水部材の前記排水路とは反対側の側面部に沿って、止水用接着剤が塗着されている請求項1~3のいずれか1項記載の既設トンネルの排水機能付き補強構造。
【請求項5】
前記支保体が、I形鋼又はH形鋼からなり、内側フランジが前記パネル取付け面部となっており、外側フランジが前記固定面部となっている請求項1~4のいずれか1項記載の既設トンネルの排水機能付き補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設トンネルの排水機能付き補強構造に関し、特にセグメントによりトンネル覆工体が形成された既設トンネルにおいて、セグメントの前後間の接合部からの滲出水を排出可能とする既設トンネルの排水機能付き補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既設のトンネルが老朽化すると、トンネルの内壁面を覆うセグメントやコンクリート等によるトンネル覆工体に、例えば周囲の地盤の圧密沈下や、海に近い地域では塩害等の影響によって、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じる場合がある。
【0003】
このような既設のトンネルの覆工体に、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じた場合の補修方法として、損傷個所が生じたトンネルの覆工体の内面に、支保工材(支保材)やコンクリート(硬化性材料)等を用いて、新たに補強用の覆工体を形成することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、老朽化した既設のトンネルが、例えばシールド工法によって、複数のセグメントをトンネルの周方向及び前後方向(軸方向)に組み付けることで、トンネルの内面を覆うトンネル覆工体を形成するものである場合、特にセグメントの前後間の接合部から、滲出水が滲出することが考えられることから、このような滲出水を、トンネル覆工体の内面に形成された補強用の覆工体から、スムーズに排出できるようにする技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、セグメントによるトンネル覆工体の内面に形成された補強用の覆工体から、特にセグメントの前後間の接合部を介して滲出する滲出水を、簡易な構成によってスムーズに排出させることのできる既設トンネルの排水機能付き補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セグメントによりトンネル覆工体が形成された既設トンネルにおいて、前記トンネル覆工体の内面に補強用の覆工体を形成する際に設けられて、前記セグメントの前後間の接合部からの滲出水を排出可能とする既設トンネルの排水機能付き補強構造であって、トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて取り付けられ、内側にパネル取付け面部を備えると共に外側に固定面部を備える複数の支保体と、前後に隣接する一対の前記支保体の前記パネル取付け面部に跨るようにして、前記支保体に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数のパネル部材と、該パネル部材と前記トンネル覆工体との間の空間に充填されて、前記支保体と前記パネル部材と前記トンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料とを含んで構成され、前記支保体は、前記固定面部が、前記トンネル覆工体を構成する前記セグメントの前後間の接合部を覆うように配置されると共に、前記固定面部と前記トンネル覆工体との間に離間部を保持した状態で、前記トンネル覆工体の内周面に沿って固定されており、前記離間部において周方向に延設する前記接合部を挟んだ両側に、一対の線状遮水部材が、前記固定面部及び前記トンネル覆工体の双方に密着させた状態で、前記支保体の上端部から下端部に至るまで周方向に連続して取り付けられており、取り付けられた一対の前記線状遮水部材の間の部分を排水路として、滲出水を下方に導水できるようになっていると共に、前記排水路の下端部が前記既設トンネルの内部空間と連通していて、導水された滲出水を排出できるようになっている既設トンネルの排水機能付き補強構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0008】
そして、本発明の既設トンネルの排水機能付き補強構造は、前記トンネル覆工体の内側面に、台座プレート部材が、前記トンネル覆工体の内側面との間に隙間を保持した状態で取り付けられており、該台座プレート部材に前記固定面部が固定されることで、前記支保体が、前記固定面部と前記トンネル覆工体との間に離間部を保持した状態で、前記トンネル覆工体の内周面に沿って固定されていることが好ましい。
【0009】
また、本発明の既設トンネルの排水機能付き補強構造は、前記線状遮水部材が、遮水パッカーからなっていることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の既設トンネルの排水機能付き補強構造は、前記線状遮水部材の前記排水路とは反対側の側面部に沿って、止水用接着剤が塗着されていることが好ましい。
【0011】
さらにまた、本発明の既設トンネルの排水機能付き補強構造は、前記支保体が、I形鋼又はH形鋼からなり、内側フランジが前記パネル取付け面部となっており、外側フランジが前記固定面部となっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の既設トンネルの排水機能付き補強構造によれば、セグメントによるトンネル覆工体の内面に形成された補強用の覆工体から、特にセグメントの前後間の接合部を介して滲出する滲出水を、簡易な構成によってスムーズに排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの排水機能付き補強構造によって補強される既設のトンネル覆工体を例示する、シールドトンネルの略示横断面図である。
【
図3】(a)はパネル部材を取り付ける前の状態の
図2のB部拡大図、(b)は(a)のC-Cに沿った断面図、(c)は(a)を左側から見た正面図である。
【
図4】挟み込みプレート片を説明する、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【
図5】複数の支保ピースを連結して形成される支保体の略示側面図である。
【
図6】支保体のパネル取付け面に固着されたナット部材を説明する、(a)は支保体の断面図、(b)は支保体の部分内面図である。
【
図7】(a)はパネル部材の正面図、(b)は背面図、(c)は(b)のD-Dに沿った断面図、(d)は(c)のE部拡大図である。
【
図8】複数のパネル部材を既設のトンネル覆工体の内周面に沿って周方向に連設して取り付けた状態を説明する、パネル部材の展開配置図である。
【
図9】一対の支保体のパネル取付け面に跨るようにして、複数のパネル部材を取り付ける状況を説明する、(a)は部分略示内面図、(b)は(a)のF-Fに沿った略示縦断面図、(c)は(a)のG-Gに沿った部分略示横断面図である。
【
図10】本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの排水機能付き補強構造を説明する、
図2のH-Hに沿った、押付け固定部材が取り付けられると共に硬化性材料が充填されて固化した状態の部分縦断面図である。
【
図11】本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの排水機能付き補強構造の要部を説明する部分縦断面図及びI部拡大図である。
【
図12】他の実施形態に係る既設トンネルの排水機能付き補強構造の要部を説明する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの排水機能付き補強構造10は、
図1に示すように、既設トンネル50として、例えば円形状の断面形状を備えるシールドトンネルの内壁面51を覆う、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによるトンネル覆工体55を、硬化性材料14(
図10参照)として、好ましくは無収縮モルタル等のセメント系の硬化性材料を用いて、効率良く補強して行くための構造として採用されたものである。すなわち、本実施形態では、シールドトンネル50は、例えば地下鉄用の鉄道トンネルとして供用されており、供用の開始から相当の期間が経過していることで、老朽化によって、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じていることから、本実施形態の既設トンネルの排水機能付き補強構造10を採用することで、損傷個所が生じたトンネル覆工体55を、補強用の覆工体58(
図10参照)によって補強するようになっている。また、本実施形態の既設トンネルの排水機能付き補強構造10は、セグメント59によるトンネル覆工体55の内面に形成された補強用の覆工体58から、特にセグメント59の前後間の接合部60(
図10参照)を介して滲出する滲出水を、簡易な構成によってスムーズに排出きるようにする機能を備えている。
【0015】
そして、本実施形態の既設トンネルの排水機能付き補強構造10は、セグメント59によりトンネル覆工体55が形成された既設トンネルとして、例えば円形の断面形状を備える鉄道トンネルを構成するシールドトンネル50において、トンネル覆工体55の内面に補強用の覆工体58を形成する際に設けられて、特にセグメント59の前後間の接合部60からの滲出水を排出可能とする排水機能付きの補強構造であって、トンネルの延長方向X(
図10参照)に所定の間隔をおいて取り付けられ、内側にパネル取付け面部11aを備えると共に外側に固定面部11bを備える複数の支保体11と、前後に隣接する一対の支保体11のパネル取付け面部11aに跨るようにして(
図9(a)~(c)参照)、支保体11に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数のパネル部材13と、これらのパネル部材13とトンネル覆工体55との間の空間56(
図2参照)に充填されて、支保体11とパネル部材13とトンネル覆工体55とを一体化させる硬化性材料14(
図10参照)とを含んで構成されている。
図10及び
図11に示すように、支保体11は、固定面部11bが、トンネル覆工体55を構成するセグメント59の前後間の接合部60を覆うように配置されると共に、固定面部11bとトンネル覆工体55との間に離間部61(
図2、
図3(a)参照)を保持した状態で、トンネル覆工体55の内周面に沿って固定されている。離間部61において周方向に延設するセグメント59の前後間の接合部60を挟んだ両側に、一対の線状遮水部材62が、固定面部11b及びトンネル覆工体55の双方に密着させた状態で(
図11参照)、支保体11の上端部から下端部に至るまで周方向に連続して取り付けられている(
図1,
図2参照)。取り付けられた一対の線状遮水部材62の間の部分を排水路63として、滲出水を下方に導水できるようになっていると共に、排水路63の下端部がシールドトンネル50の内部空間と連通していて、導水された滲出水を排出できるようになっている。
【0016】
また、本実施形態では、
図3(a)~(c)に示すように、支保体11は、I形鋼又はH形鋼からなり、内側フランジがパネル取付け面部11aとなっており、外側フランジが固定面部11bとなっている。
【0017】
さらに、本実施形態では、
図2及び
図3(a)、(b)に示すように、トンネル覆工体55の内側に、台座プレート部材12が、トンネル覆工体55の内面との間に隙間を保持した状態で取り付けられており、この台座プレート部材12に固定面部11bが固定されることで、支保体11が、固定面部11bとトンネル覆工体55との間に離間部61を保持した状態で、トンネル覆工体55の内周面に沿って固定されている。
【0018】
本実施形態では、シールドトンネル50の内壁面51(
図1,
図2参照)を覆うトンネル覆工体55は、セグメント59として、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによる覆工体となっており、シールドトンネル50が例えば円形状の断面形状の内壁面51を有していることで、少なくとも上部が湾曲する断面形状となった内周面を備えている。セグメント59によるトンネル覆工体55の内面における、コンクリートの露出した部分に、所定の深さでアンカー孔を削孔し、削孔したアンカー孔に好ましくはアンカーボルトの基部を埋設固定することによって、台座プレート部材12の面板部12dを所定の高さ位置に支持固定するための雄ネジボルト部材12a(
図3(a)、(b)参照)を、これらのアンカーボルトの突出部分によって、所定の位置に精度良く容易に取り付けることができるようになっている。
【0019】
また、本実施形態では、支保体11は、好ましくは亜鉛メッキされたI形鋼又はH形鋼(本実施形態では、H150×75のI形鋼)からなり、内側フランジによってパネル取付け面11aが形成されている。例えばI形鋼による支保体11は、
図5にも示すように、好ましくは予め工場等において、底部のインバートコンクリート部57(
図1参照)よりも上方の、トンネル50の側壁部から上部に至るまでの既設のトンネル覆工体55の内周面に沿った形状を、適宜分割した形状に加工された、複数の支保ピース11’として現場に搬入される。支保体11は、ボルト部材等を用いた公知の方法により、端面同士を互いに連結することで一体化される複数の支保ピース11’によって形成されて、トンネル50の側壁部から上部に至るまでの内壁面51に沿って、周方向に延設させて容易に設置することができる。例えばI形鋼による支保体11は、トンネル50の延長方向Xに例えば900mm程度の所定の中心間ピッチで、複数体設置される。
【0020】
さらに、本実施形態では、支保体11のパネル取付け面11aとなる内側フランジの内側面には、周方向に好ましくは後述するパネル部材13の連設方向Y(
図9(a)参照)の幅と同様の間隔をおいて、
図5及び
図6(a)、(b)に示すように、後述する押付け固定部材20を支保体11に締着させるためのナット部材21が、好ましくは横幅方向の中央部分に溶接等によって固着されている。
【0021】
そして、本実施形態では、I形鋼による支保体11は、既設のトンネル覆工体55の内面において、好ましくはトンネルの延長方向Xおよび周方向に所定の間隔をおいて配置・固定された、面板部12dを有する複数の台座プレート部材12(
図3(a)~(c)参照)を介することによって、トンネル50の延長方向Xに所定の間隔をおいて、周方向に延設して精度良く安定した状態で取り付けられることになる。
【0022】
台座プレート部材12を構成する面板部12dは、好ましくは亜鉛メッキされた9mm程度の厚さの鋼製プレートからなり、例えば一辺が250~280mm程度の大きさの、矩形又は正方形の平面形状を備えるように形成されている。面板部12dには、上述のアンカーボルトの突出部分による雄ネジボルト部材12aの位置に対応させて、4箇所の角部分の内側に、外側締着孔12cが4箇所に配置されて各々開口形成されている。4箇所の外側締着孔12cの内側には、例えば縦60mm程度、横105mm程度の大きさの仮想の矩形の角部に配置されて、内側締着孔12eが4箇所に配置されて各々開口形成されている。
【0023】
開口形成された4箇所の外側締着孔12cに、上述のアンカーボルトによる雄ネジボルト部材12aを挿通し、各々の雄ネジボルト部材12aに螺着した一対のナット部材12bにより当該面板部12dを挟み込んだ状態で、これらのナット部材12bを外側締着孔12cの周囲に締着することによって、台座プレート部材12を構成する面板部12dを、既設のトンネル覆工体55の内面からの高さを適宜調整可能にすると共に、傾きを適宜調整可能にした状態で、既設のトンネル覆工体55から離間させた所定の位置に、精度良く固定することが可能になる。なお、面板部12dが固定される所定の位置は、雄ネジボルト部材12aが埋設される位置よりも優先されることから、雄ネジボルト部材12aが所定の位置からずれて固定されている場合には、設置現場において、外側締着孔12cを広げたり開け直したりすることによって、位置のずれた雄ネジボルト部材12aの雄ネジ部分を挿通させて、面板部12dが所定の位置に精度良く取り付けられるようにすることができる。
【0024】
また、各々の面板部12dに開口形成された4箇所の内側締着孔12eには、面板部12dと、上述の挟み込みプレート片15の挟み込み本体部15aとの間に、支保体11の固定面部11bとなる外側フランジを挟み込んだ状態で、合致した当該内側締着孔12e及び挟み込みプレート片15の締着孔15b(
図4(a)、(b)参照)に挿通されるボルトナット部材16が、締着されるようになっている。これによって、台座プレート部材12の面板部12dにおける、支保体11の固定面部11bが接する位置を調整した状態で、支保体11を、既設のトンネル覆工体55の内面形状に沿って容易に固定して、予め所定の位置に精度良く取り付けられた台座プレート部材12に、安定して支持させることができるようになっている。
【0025】
本実施形態では、既設のトンネル覆工体55の内周面に沿って支保体11を設置する作業に先立って、トンネルの延長方向Xおよび周方向に所定の間隔をおいて所定の位置に予め精度良く配置・固定された、上述の面板部12dを有する台座プレート部材12を利用することによって、好ましくは短時間での作業を繰り返しながら、好ましくはI形鋼やH形鋼からなる支保体11を、既設のトンネル覆工体55の内面に沿って、周方向に精度良くスムーズに取り付けることが可能になる。また、これらの台座プレート部材12を利用することによって、
図3(a)、(b)に示すように、支保体11を、隣接するセグメント59の前後間の接合部60を覆うように固定面部11bを配置すると共に、固定面部11bとトンネル覆工体55との間に離間部61を保持させた状態で、トンネル覆工体55の内周面に沿って、スムーズに固定することが可能になる。
【0026】
そして、本実施形態では、上述のようにして、隣接するセグメント59の前後間の接合部60を覆うように配置されると共に、トンネル覆工体55との間に離間部61を保持した状態で周方向に延設して固定された、支保体11の固定面部11bと、トンネル覆工体55の内面との間の当該離間部61には、
図10及び
図11にも示すように、一対の線状遮水部材62が、固定面部11b及びトンネル覆工体55の双方に密着させた状態で、支保体11の上端部から下端部に至るまで周方向に連続して(
図1、
図2参照)、接合部60を挟んだ両側に取り付けられるようになっている。これによって取り付けられた一対の線状遮水部材62の間の部分を、排水路63として機能させることができるようになっている。
【0027】
また、本実施形態では、好ましくは取り付けられた各々の線状遮水部材62における、排水路63とは反対側の側面部に沿って、止水用接着剤64が塗着されている。
【0028】
ここで、本実施形態では、線状遮水部材62として、軽量で、遮水性、耐薬品性、可とう性等に優れた遮水材料が好適に用いられる。その具体例としては、建設工事用のバックアップ材(バッカー材)として市販されている、ゴム製や表面をコーティングした発泡ポリエチレン製のものを好ましく用いることができる。好ましくは線状遮水部材62は、例えば支保体11の固定面部11bとトンネル覆工体55の内面との間の離間部61の間隔幅よりも、大きな厚さを有する矩形の断面形状を備えるものを、好ましくは圧縮させた状態で離間部61に押し込むことによって、固定面部11b及びトンネル覆工体55の双方に密着させた状態で、接合部60を挟んだ両側に、支保体11の上端部から下端部に至るまで周方向に連続させて、容易に取り付けることができる。また、好ましくは線状遮水部材62は、支保体11を固定する台座プレート部材12の部分においても、弾性変形させつつ台座プレート部材12の面板部12dと既設のトンネル覆工体55の内面との間の離間した間隔部分をくぐらせることによって、接合部60を挟んだ両側に、周方向に連続させて容易に取り付けるこことが可能になる。
【0029】
また、本実施形態では、各々の線状遮水部材62の側面部に沿って塗着される止水用接着剤64として、エポキシ樹脂製のものを好ましく用いることができる。各々の線状遮水部材62の排水路63とは反対側の側面部に沿って、止水用接着剤64が塗着されていることにより、線状遮水部材62による遮水性を向上させて、よりスムーズに、形成された排水路63を介して滲出水を下方に導水することが可能になる。
【0030】
さらに、本実施形態では、取り付けられた一対の線状遮水部材62の間の部分に形成された排水路63には、好ましくは当該排水路63の下端部に連通させて接続配管(図示せず)を取り付けることができるので、例えば連通した接続配管を、シールドトンネル50の内部に形成したインバートコンクリート部57の両側の排水溝57a(
図1参照)まで延設させることで、導水された滲出水を、シールドトンネル50の内部空間に容易に排出することが可能になる。
【0031】
本実施形態では、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aに、跨るようにして取り付けられる複数のパネル部材13は、各々、
図7(a)~(d)に示すように、例えば20mm程度の厚さを有する、好ましくは繊維補強コンクリート製のパネル部材となっている。パネル部材13は、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aに跨る大きさとして、支保体11のトンネル50の延長方向Xの中心間ピッチよりも若干小さい、870mm程度の延長方向Xの横幅を備えると共に、470mm程度の、周方向である連設方向Yの縦幅を備える、矩形状の平面形状を有している。
【0032】
また、パネル部材13は、既設のトンネル覆工体55の内周面と対向して配置される背面側が、凹凸面13aとなっており、この凹凸面13aは、例えば均等に分散して配置された多数の陥没穴13bによって形成されている。本実施形態では、陥没穴13bは、六角形や円形の陥没穴となっている。パネル部材13の背面側が凹凸面13aとなっていることにより、後に注入充填される無収縮モルタル14との付着面積を広くして、パネル部材13の背面に無収縮モルタル14をより強固に付着させることが可能になる。また、凹凸面13aが均等に分散して配置された多数の六角形や円形の陥没穴13bによって形成されていることにより、鋭角部をなくすことで、陥没穴13b内での無収縮モルタル14の未充填箇所が生じないようにして、無収縮モルタル14をパネル部材13の背面により強固に一体化させることが可能になる。
【0033】
さらに、本実施形態では、好ましくは既設のトンネル覆工体55の内周面と対向して配置される背面側には、アンカー筋13e(
図9(b)、
図10参照)を取り付けるための、ナット部材13cが埋設固定されている。ナット部材13cは、M10程度の大きさの、フランジ付きナットとなっている。ナット部材13cは、フランジ部を繊維補強コンクリート中に埋設すると共に、雌ネジ孔を背面側に開口させて状態で、分散配置されて4箇所に固定されている。各々のナット部材13cには、L字状に折れ曲がった形状の例えばD10程度の太さのアンカー筋13eを、パネル部材13と、既設のトンネル覆工体55の内周面との間の空間56に突出させて、着脱可能に取り付けることができる。
【0034】
複数のパネル部材13は、例えば後述する押付け固定部材20を用いて、支保体11に支持させて、
図1及び
図8に示すように、トンネル50のインバートコンクリート部57よりも上方の側壁部から上部に至るまでのトンネル50の内周面に沿って、周方向に連設して配置されることになる。連設して配置される複数のパネル部材13の中央部のパネルである、トンネル50の天端部に配置されるパネル部材13’には、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタルを空間56に供給して充填するための、φ60程度の大きさのモルタル供給孔13dが開口形成されている。モルタル供給孔13dは、例えばソケット部材を用いて、開閉可能に閉塞しておくことができる。
【0035】
本実施形態では、パネル部材13は、好ましくは繊維補強コンクリートを用いて、平坦な矩形状の平面形状を備えるように形成されている。パネル部材13は、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った、湾曲形状を備えるように形成することもできる。パネル部材13を、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った湾曲形状を備えるように形成することにより、地山側からの外力に対して、より強固なアーチアクション効果を発揮させることが可能になる。
【0036】
そして、本実施形態の既設トンネルの補強構造10では、
図9(a)~(c)に示すように、トンネル50の延長方向Xに所定の中心間ピッチで、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51に沿って複数設置されたI形鋼による支保体11の、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aに跨るようにして、上述のパネル部材13を、複数、周方向に連設して取り付けると共に、
図10に示すように、取り付けられたパネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間56に、硬化性材料として、好ましくは無収縮モルタル14を充填して硬化させることにより、補強用の覆工体58を形成する。
【0037】
本実施形態では、パネル部材13は、
図9(a)~(c)に示すように、当該パネル部材13を支保体11のパネル取付け面11aに押付けた状態で固定するための、押付け固定部材20を用いて、周方向に連設して支保体11に支持させた状態で各々取り付けられる。押付け固定部材20は、例えば1辺が60mm程度の大きさの矩形断面を有する角パイプからなり、各隣接する一対の支保体11のパネル取付け面11aの外側辺部の間の間隔よりも僅か長い、1100mm程度の長さを備えている。押付け固定部材20は、周方向に連設して配置された各々のパネル部材13における、連設方向Yの縦幅の中央部分において、トンネルの延長方向Xに延設させると共に、隣接する一対の支保体11の各々と垂直に交差させるようにして取り付けられる。
【0038】
押付け固定部材20は、支保体11のパネル取付け面11aに固着されたナット部材21に螺着される、例えばリブ座金や締着ナットを備える固定ボルト部材22を当該ナット部材21に締め着けることにより、リブ座金との間に挟み込むようにして両側の端部を支保体11に締着することで、連設するパネル部材13を、支保体11に押付けた状態で各々強固に固定しておくことができる。本実施形態では、隣接する一対の支保体11に跨るようにして設置される、周方向に連設する各々の段のパネル部材13について、トンネルの延長方向Xに隣接する各一対のパネル部材13を各々押え付ける押付け固定部材20を、パネル部材13の縦幅方向の中央部分において上下にずらして配置することにより、これらの隣接するパネル部材13の中央部に配置される支保体11に、これらの隣接するパネル部材13を各々押え付ける一対の押付け固定部材20の端部を、一本の固定ボルト部材22によって、リブ座金を介して同時に締着できるようになっている。これらの押付け固定部材20、ナット部材21、固定ボルト部材22によってパネル部材13を支保することができるので、1日の作業終了後に、これらの部材の内側にパネル部材13を取付けるための部材が存在しなくなって、例えば車両限界を侵すことになるのを、確実に回避することが可能になる。
【0039】
押付け固定部材20及び固定ボルト部材22を用いて、支保体11のパネル取付け面11aにパネル部材13を、複数、周方向に連設して取り付けることによって、各隣接する一対の支保体11により挟まれる部分には、取り付けられたパネル部材13と、既存のトンネル覆工体55の内周面との間に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル14が充填される空間56が形成される。パネル部材13の背面側に、アンカー筋13eを取り付けておくことで、これらのアンカー筋13eを硬化性材料14が充填される空間56に突出させておくことができる。アンカー筋13eによって、パネル部材13と、空間56に充填される無収縮モルタル14との一体性を高めることができる。パネル部材13と無収縮モルタル14との一体性を効果的に高める観点、及び上下のパネル部材13、13間で干渉しないようする観点から、L字状に折れ曲がった形状のアンカー筋13eは、折れ曲がり方向が、トンネルの延長方向Xに沿うように配置することが好ましい(
図9(b)参照)。
【0040】
また、硬化性材料14が充填される空間56には、好ましくはパネル部材13を支保体11のパネル取付け面11aに取り付けるのに先立って、内部に鉄筋(図示せず)を配設しておくこともできる。硬化性材料14が充填される空間56の内部に鉄筋が配設されていることにより、形成される補強用の覆工体58の強度を効果的に高めることができる。
【0041】
さらに、本実施形態では、
図1に示すように、湾曲断面形状部分を有する既存のトンネル覆工体55の下部から硬化性材料14が充填される空間56に突出して、硬化性材料14に埋設される下部アンカー部材19が取り付けられていることが好ましい。下部アンカー部材19は、例えばD19程度の太さの鉄筋棒からなり、硬化性材料14とトンネル覆工体55との界面のせん断耐力向上と両者の付着力向上による一体化を目的として、アンカー筋13eと同様に、L字状に折れ曲がった形状を備えている。下部アンカー部材19は、上記にように、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメント又は合成セグメントによる既設のトンネル覆工体55のコンクリート部分に基部を埋設して固定された、アンカーボルトによるものとなっており、好ましくは折れ曲がり方向をトンネル50の周方向に沿わせた状態で、両側の側壁部の各々3箇所に固定される。既存のトンネル覆工体55の下部から硬化性材料14が充填される空間56に突出して、下部アンカー部材19が設けられていることにより、補強用の覆工体58の自重を含めた大きな荷重が作用する、補強用の覆工体58の下部と既存のトンネル覆工体55との界面を、効果的に補強し、且つ両者の連成構造を形成して強固な覆工体とすることが可能になる。
【0042】
本実施形態の既設トンネルの補強構造10によれば、上述のようにして形成された、各隣接する一対の支保体11によって挟まれる部分における、周方向に連設して配置されたパネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の、1又は2以上の各空間56に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル14を各々充填することにより、湾曲断面形状部分を有する既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58を形成することができる。
【0043】
すなわち、周方向に連設して配置された複数のパネル部材13のうちの、トンネル50の上部の天端部に配置されるパネル部材13’には、硬化性材料14を空間56に供給するためのモルタル供給孔13dが形成されているので(
図1参照)、例えばこれらのモルタル供給孔13dにモルタルの供給配管(図示せず)を接続して、無収縮モルタル14を供給することにより、パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間56に、無収縮モルタル14を各々充填することができる。充填した無収縮モルタル14が硬化してパネル部材13と一体化した時点で、パネル部材13を支保体11に締着固定していた、固定ボルト部材22や押付け固定部材20を取り外すことにより、支保体11、複数のパネル部材13、及び硬化した無収縮モルタル14が一体となった、既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58が容易に形成されることになる。
【0044】
そして、上述の構成を備える本実施形態の既設トンネルの排水機能付き補強構造10によれば、セグメント59によるトンネル覆工体55の内面に形成された補強用の覆工体58から、特にセグメント59の前後間の接合部60を介して滲出する滲出水を、簡易な構成によってスムーズに排出させることが可能になる。
【0045】
すなわち、本実施形態によれば、離間部61において周方向に延設するセグメント59の前後間の接合部60を挟んだ両側に、一対の線状遮水部材62が、支保体11の固定面部11b及びトンネル覆工体55の双方に密着させた状態で、支保体11の上端部から下端部に至るまで周方向に連続して取り付けられており、取り付けられた一対の線状遮水部材62の間の部分を排水路63として、滲出水を下方に導水できるようになっていると共に、排水路63の下端部がシールドトンネル50の内部空間と連通していて、導水された滲出水を排出できるようになっているので、このような簡易な構成によって、特にセグメント59の前後間の接合部60を介して滲出する滲出水を、補強用の覆工体58からスムーズに排出させることが可能になる。
【0046】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、支保体の固定面部とトンネル覆工体との間に離間部を保持した状態で支保体を固定するための台座プレート部材を、トンネル覆工体の内側面に取り付けておく必要は必ずしも無く、例えば
図11に示すように、支保体11’がH形鋼である場合には、セグメント59による
トンネル覆工体55の内面から突出させて埋設したアンカーボルト65に螺着した一対のナット部材66の間に、固定面部11b’を挟み込むだけの、より簡易な方法によって、固定面部11b’とトンネル覆工体55との間に離間部61を保持した状態で、支保体11’を固定するようにすることもできる。
【0047】
また、トンネル覆工体が補強される既設トンネルは、シールドトンネル以外の、山岳トンネルや、その他の種々のトンネルであっても良い。補強されるトンネル覆工体は、少なくとも上部が湾曲する断面形状となった内周面を備えている必要は必ずしも無く、例えばセグメントをトンネルの軸方向に連設させて組立ててゆくものであれば、矩形状の断面形状を備えるトンネル覆工体であっても良い。支保体は、I形鋼やH形鋼である必要は必ずしも無く、内側にパネル取付け面を設けることが可能な、溝形鋼や山形鋼等のその他の種々の鋼製部材であっても良い。パネル部材は、繊維補強コンクリート製の部材である必要は必ずしも無く、合成樹脂製や鋼製、鋳鉄製等のその他の材料からなるものであっても良い。パネル部材とトンネルの内壁面との間の空間に充填される硬化性材料は、無収縮モルタルの他、通常のモルタル、コンクリート、セメントミルク等のセメント系硬化材料やセメント系以外の硬化性材料であっても良い。
【符号の説明】
【0048】
10 排水機能付き補強構造
11 支保体(I形鋼)
11’ 支保ピース
11a パネル取付け面(内側フランジ)
11b 固定面部(外側フランジ)
12 台座プレート部材
12d 面板部
13 パネル部材
14 無収縮モルタル(硬化性材料)
15 挟み込みプレート片
50 シールドトンネル(既存トンネル)
51 内壁面
55 トンネル覆工体
56 空間
57 インバートコンクリート部
58 補強用の覆工体
59 セグメント
60 接合部
61 離間部
62 線状遮水部材(パツカー材)
63 排水路
64 止水用接着剤
X トンネルの延長方向
Y パネル部材の連設方向