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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】救命救急のための血管内灌流増加
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/139 20210101AFI20240321BHJP
   A61M 60/295 20210101ALI20240321BHJP
   A61M 60/497 20210101ALI20240321BHJP
   A61M 60/523 20210101ALI20240321BHJP
   A61M 60/531 20210101ALI20240321BHJP
   A61M 60/843 20210101ALI20240321BHJP
   A61M 60/13 20210101ALI20240321BHJP
【FI】
A61M60/139
A61M60/295
A61M60/497
A61M60/523
A61M60/531
A61M60/843
A61M60/13
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021128750
(22)【出願日】2021-08-05
(62)【分割の表示】P 2019558989の分割
【原出願日】2018-01-11
(65)【公開番号】P2021176596
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-09-03
(31)【優先権主張番号】62/445,551
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(73)【特許権者】
【識別番号】519253225
【氏名又は名称】ガバメント オブ ザ ユナイテッド ステイツ アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー オブ ジ エア フォース
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン マイケル オースティン
(72)【発明者】
【氏名】ネフ ルーカス ポール
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ ティモシー
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-237529(JP,A)
【文献】特表2010-538797(JP,A)
【文献】特開2011-055942(JP,A)
【文献】国際公開第2016/126369(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/145163(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/100393(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/181167(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0208291(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/139
A61M 60/295
A61M 60/497
A61M 60/523
A61M 60/531
A61M 60/843
A61M 60/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管内に配置されるように構成されている拡張式血流調節装置と、該血管内の血流を示す生理学的情報を測定するように構成されている、1つまたは複数のセンサとを含む、カテーテル;
該拡張式血流調節装置にガスまたは流体を注入するかまたは該拡張式血流調節装置からガスまたは流体を除去することで、該拡張式血流調節装置の体積を調節するように構成された第1のポンプ;
該患者に静注薬を送達するように構成されている第2のポンプ;ならびに
1つのプロセッシング装置であって、
該生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、かつ、
該生理学的情報の測定値が該目標生理学的範囲外にあると決定したことに応答して、(i)該第1のポンプを制御することによって該拡張式血流調節装置の体積と(ii)該第2のポンプを介して該患者に送達される該静注薬の量とを自動的に調整するように構成されている、
1つのプロセッシング装置、または
複数のプロセッシング装置であって、共同して
該生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、かつ、
該生理学的情報の測定値が該目標生理学的範囲外にあると決定したことに応答して、(i)該第1のポンプを制御することによって該拡張式血流調節装置の体積と(ii)該第2のポンプを介して該患者に送達される該静注薬の量とを自動的に調整するように構成されている、
数のプロセッシング装置
を含む、自動血管内灌流増加システム。
【請求項2】
前記拡張式血流調節装置が、前記カテーテルの先端に位置付けられ、かつ、前記1つまたは複数のセンサが、該拡張式血流調節装置より先端側に位置付けられた第1のセンサと、該拡張式血流調節装置より基端側に位置付けられた第2のセンサとを含む、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
血流を示す前記生理学的情報が、心拍数、呼吸数、前記拡張式血流調節装置より基端側の血流量、該拡張式血流調節装置より先端側の血流量、該拡張式血流調節装置より基端側の血圧、該拡張式血流調節装置より先端側の血圧、血液温度、該拡張式血流調節装置内の圧力、患者の心拍出量、頸動脈血流量、肺動脈圧、末梢血管抵抗、および頭蓋内圧のうちの1つまたは複数である、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記生理学的情報が、前記拡張式血流調節装置より基端側の血圧、および該拡張式血流調節装置より先端側の血圧のうちの1つまたは複数である、請求項3記載のシステム。
【請求項5】
前記1つまたは複数のセンサが、固体圧力センサである、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記静注薬が、血管作動薬である、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記静注薬が、昇圧薬である、請求項6記載のシステム。
【請求項8】
前記1つまたは複数のプロセッシング装置が、前記第2のポンプを介して前記患者に送達される前記静注薬の量の変化を計算するようにさらに構成されている、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記1つまたは複数のプロセッシング装置が、無線接続を通じて前記第1のポンプおよび/または前記第2のポンプに通信可能に接続されている、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記システムが、前記カテーテルに連結されたカテーテル制御装置であって、前記1つまたは複数のプロセッシング装置の第1のプロセッシング装置を含むカテーテル制御装置をさらに含む、請求項1記載のシステム。
【請求項11】
前記システムが、前記1つまたは複数のセンサおよび前記カテーテル制御装置に作動的に接続された外部装置であって、前記生理学的情報の測定値が前記目標生理学的範囲外にあるか否かを示す情報を該カテーテル制御装置に伝達するように構成されている前記1つまたは複数のプロセッシング装置の第2のプロセッシング装置を含む、外部装置をさらに含む、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
前記外部装置が、WiFi、Bluetooth、Wixelベース通信、セルラー通信、および有線接続のうちの少なくとも1つによって前記情報を前記カテーテル制御装置に伝達する、請求項11記載のシステム。
【請求項13】
前記拡張式血流調節装置がバルーンを含む、請求項10記載のシステム。
【請求項14】
前記第1のポンプおよび前記第2のポンプのうちの1つまたは複数がシリンジポンプを含む、請求項13記載のシステム。
【請求項15】
前記拡張式血流調節装置がバルーンを含む、請求項1記載のシステム。
【請求項16】
前記バルーンが、前記バルーンの体積を増加させるために流体を受け入れるように構成されており、前記第1のポンプが、該流体を送達するように構成されているシリンジポンプを含む、請求項15記載のシステム。
【請求項17】
前記バルーンが、前記流体が前記血管内へと拡散することを防止するように、かつ、経時的な形態変化を経ることなく拡張および収縮するように構成されている、請求項16記載のシステム。
【請求項18】
前記血管が前記患者の大動脈である、請求項1記載のシステム。
【請求項19】
前記血管が前記患者の遠位動脈である、請求項1記載のシステム。
【請求項20】
前記第2のポンプが、前記患者に静注輸液および/または血液製剤を送達するように構成されている、請求項1記載のシステム。
【請求項21】
前記1つのプロセッシング装置が、前記生理学的情報の測定値と前記目標生理学的範囲との前記比較に基づいて、前記第2のポンプを介して前記患者に送達される静注輸液および/または血液製剤の量を調整するようにさらに構成されている、または前記複数のプロセッシング装置が、共同して前記生理学的情報の測定値と前記目標生理学的範囲との前記比較に基づいて、前記第2のポンプを介して前記患者に送達される静注輸液および/または血液製剤の量を調整するようにさらに構成されている、請求項20記載のシステム。
【請求項22】
前記第1のポンプが、前記拡張式血流調節装置に連結されたシリンジポンプを含み、前記1つまたは複数のプロセッシング装置が、該シリンジポンプに対して該拡張式血流調節装置の体積の調整を自動的に指示することによって、該拡張式血流調節装置の該体積を自動的に調整するように構成されている、請求項1記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権益に関する記載
本発明は、米国国立心臓肺臓血液研究所から授与された契約番号K12HL108964に基づく政府支援により行われたものである。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は2017年1月12日出願の米国仮出願第62/445,551号の優先権の恩典を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
使用分野
本開示は全体として、大動脈内に配置される血管内大動脈血流調節装置に関する。より具体的には、本発明は、救命救急のための血管内灌流増加用のシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
内科患者および外科患者の両方での圧倒的多数の症例において、ショックの合併症による死亡は高い確率で存在し続けている。多くの場合、ショック状態を治療するために使用される既存のシステム、薬物、および手順は、重要臓器への十分な酸素送達を維持できないことにより、最終的に患者の死亡をもたらす。この酸素送達は、臓器への十分な血液灌流に基づく。心臓および肺の血圧が十分でないことで血行動態の崩壊が生じ、これにより残りの臓器への灌流が減少し、最終的に死亡することが、よく認識されている。
【0005】
ショック患者の恒常性を回復させることは困難であり、労力を要する。重症初期発作後の患者の生理状態が動的であることから、医療の専門知識ならびに提供される治療に対する継続的な評価および修正の両方が要求される。しかし、現代医療のすべての改良および革新に関して、救命救急医療における現在の「最先端」は、相当に的外れな「万人向けの」蘇生・救命救急戦略にとどまっている。神経原性ショック、出血性ショック、循環血液量減少性、または敗血症性ショックのいずれであっても、ショックに罹患した患者の蘇生は、救命救急の最初の数時間に特有の課題である。あらゆる低血圧エピソードが患者にとって有害でありうる。高齢患者および脳外傷に罹患した患者において特に低血圧エピソードが生じやすい。
【0006】
ショックを治療するための現在の実務は病因に基づいて行われるが、ほぼすべての治療アルゴリズムは、静注(IV)輸液または血液製剤を含み、必要であれば、血管収縮および血圧上昇を引き起こすように血管系に作用する血管作動薬のタイトレーションを含む。例えば、出血性ショックの主眼は、失われた血液とほぼ同じ量および組成の血液製剤を積極的に輸注することである。また、敗血症および虚血再灌流障害においては、病的基礎生理状態とは無関係に、大量のIV晶質液ボーラスにより蘇生法が開始される。しかし、これらの場合および多くの他の救命救急シナリオにおいては、輸液および昇圧剤の用量は概算値であり、エンドポイントは相当に主観的である。したがって、現代のショック蘇生法は、依然として個々の患者の生理学的要求に正確に合ったものではない。結局、この正確性の欠如は、治療有効性をリアルタイムで(例えば、秒単位および分単位で)効率的に解析することができないこと、ならびに重篤患者の生理状態に応じて速やかな調整を行うことができないことにより生じる。
【0007】
例えば、ショックの治療の微妙な差異は病因に依存するが、すべての治療様式は同様の欠点を抱えている。第一に、血圧を改善するための治療の早期に大量のIV輸液がしばしば必要になる。時々、多すぎる量の輸液を心血管系に与えることにより、肺水腫、ARDS、または心不全が生じることがある。したがって、治療の早期にしばしば必要ではあるが、患者が利尿作用に耐えることができるかぎり早期に、この過剰の輸液を除去するための代わりの方法がしばしば必要になる。
【0008】
現行の治療法による第2の合併症は、高用量の昇圧薬の二次的な結果である。昇圧剤は血管に直接作用することで血管緊張を増加させ、全身血圧を改善する。より良い治療ソリューションが存在しなければ、重要臓器への灌流を改善するために、これらの薬物が必要になる場合がある。しかし、この全身血圧上昇は、微小血管レベルでの灌流不良という潜在的な代償を伴う。残念ながら、これらの薬物に対する応答性が臓器および組織床の間で異なることから、予期せぬ局所血流の変化が生じうるし、これにより最終的に逆効果または有害効果が生じうる。高用量のこれらの薬物によって、遠位四肢などの特定の組織が永久損傷を被ることがあり、これにより四肢大切断が潜在的に必要になる。頭蓋内圧の上昇を伴う脳外傷に罹患した患者に関して、動物およびヒトにおける試験は、高用量の昇圧剤が脳の損傷区域への灌流をしばしば改善可能であるが、多くの場合その代償として、脳の他の領域が顕著な血管収縮を示すことで虚血性神経細胞障害が生じることを示した。
【0009】
最後に、ショックを治療するための現行の治療法は、機能するまでに時間を要する。これらの従来の治療法は、血圧をタイムリーに最適化することがしばしば不可能であり、多くの場合、所期の目標全体を達成することができない。例えば、現代の蘇生法は、治療介入から、該治療介入の生理学的効果(例えば、血圧、尿量、酸素飽和度の上昇)が認識されるまでの間の潜在期間に限定される。IV輸液のボーラスは、数分間から1時間までの任意の期間にわたって注入される必要があり、昇圧薬は、調製するために、投与するために、およびベッドサイドで医療従事者が検出できるほど大きい効果を達成するために10分~15分を要する場合が多く、後続の数時間にわたる用量のタイトレーションがしばしば必要になる。機能するときであっても、いくつかの形態のショックは単一の薬物には応答せず、血圧を最適化するには複数の昇圧剤が必要になる。結果として、心血管恒常性を回復しかつ生理学的目標(例えば、目標の血圧または終末器官灌流マーカー)を達成しようとして貴重な時間が失われ、これにより許容限界の超過および不可逆的な組織損傷が生じる。
【0010】
さらに、血液製剤、輸液、および複数の血管作動剤による最大限の治療介入にもかかわらず、多くの場合、蘇生法のこれらの最終目標は達成すらされない。この本質的な停滞は、相当に粗雑なバイタルサインのモニタリング法および測定法が過去150年にわたってほとんど変化しなかったことでいっそう酷くなっている。したがって、従来の蘇生法およびモニタリング戦略は、日常的に目標血行動態をタイムリーに達成することができないというだけでなく、多くの場合、治療全体を正確に特徴づけてそれが十分か否かを評価することができない。短期間の虚血であっても臓器の機能不全および生存率の低下を生じさせて罹患率および死亡率を上昇させることがあることから、血流および血圧をよりタイムリーかつ確実に最適化するための改良された戦略が求められている。
血管の病態および損傷を治療するための血管内戦略に関する、過去25年にわたる著しい進歩は、冠動脈灌流、肺灌流、および脳灌流を大動脈レベルで直接最適化することによる重症ショックでの蘇生法に対する完全に異なるアプローチを促進する手段および技術の独自のセットを実現した。ショック患者の大動脈内に戦略的に配置されて遠位側の血流を妨げるように設計された血管内カテーテルを使用することによって、バルーンの遠位側の血流を最小化することでバルーンより上流の近位側血圧を上昇させることができる。例えば、蘇生的大動脈内バルーン遮断(REBOA)は臨終期の外傷患者において使用される治療法である。REBOAは、制御不能な胴体出血の状況で外傷医療提供者によってますます使用されている後負荷増大の極端な形である。救急科開胸術を行って大動脈をクロスクランプすることで遠位側大動脈の血流を最小化するよりもむしろ、バルーンカテーテルを大動脈内で損傷レベルを超えて完全に膨張させることで血流を停止させる。バルーンカテーテルで近位側大動脈を完全に遮断することで、REBOAは循環血が胴体上部へと分布するのを直ちに遮断し、これにより近位側臓器灌流を改善し、下流方向の出血を停止させる。しかし、REBOAによる血行動態増加は、著しい欠点、すなわち、遮断点の遠位側のすべての組織の虚血を示す。この欠点に対抗するために、少ない遠位側血流量をなお可能にしながら重要臓器(心臓、肺、脳)への灌流を支援する方法として、部分REBOA(P-REBOA)と呼ばれる大動脈の動的な部分遮断が提案された。しかし、現在、P-REBOAの臨床的有用性は、遮断度の制御が不正確であることから限定されている。
【0011】
別の種類の遮断装置は、心原性ショック患者に使用される大動脈内バルーンポンプである。大動脈内バルーンポンプは、大動脈内で遠位方向に拍動血流を作り出すことで冠循環を最大化する。脳卒中の間に大動脈を部分的に遮断して脳の領域への灌流を改善するための「neuro-flo」と呼ばれる別の装置が短期間試行された。しかし、「neuro-flo」は自動化機能を欠いており、患者の生理状態に応じて遮断量を動的に変化させる能力を欠いている。
【0012】
現在選ばれている血管内コンプライアントバルーン構造には、遠位側大動脈血流を慎重に調節する上で技術的な課題がある。コンプライアントバルーン構造に代わるものとして、固定直径ノンコンプライアントバルーンカテーテル設計(例えばイリノイ州ノースシカゴのAbbott Laboratories Corp.によるARMADA(登録商標))が存在する。しかし、これらのカテーテルは、通常は血管狭窄(例えばアテローム性動脈硬化症)における血管拡張(血管形成)向けであり、そのために承認されている。さらに、固定直径ノンコンプライアントバルーンカテーテルは、各患者の大動脈を適切に遮断するように適切にサイズ決定されていなければならない。したがって、ノンコンプライアントバルーンは血圧急上昇による形状変化を受けにくいが、狭い範囲外で直径を変化させることができないため、完全遮断および部分遮断の両方を支援する適応性のある装置として役立つその能力が阻害される。したがって、ノンコンプライアントバルーンカテーテルの直径が相対的に固定されていることから、通常の大動脈直径の範囲でのその実臨床適用可能性が限定される。
【0013】
外傷状況下で遠位側の出血を停止させるための大動脈の完全遮断または部分遮断用に作り出された現行のバルーン技術は、完全遮断から無遮断までの全範囲にわたって一貫したタイトレーションされた血流を実現することができない。PryTime MedicalのER-REBOAカテーテルは、外傷後の出血を減少させるように意図されたコンプライアントバルーンカテーテルである。ER-REBOAカテーテルおよび他の製造者の同様のコンプライアントバルーンが使用するバルーンカテーテルは、様々な遮断度で形状が変化することで、バルーンカテーテル体積の小さな変化による大動脈血流の予測不能な変化を生じさせる。
【0014】
他の努力は、大動脈遮断を実現する代替法候補の開発に向けられた。例えば、2004年6月1日に発行されたBarbutらの米国特許第6,743,196号(特許文献1)には、大動脈遮断を支援する複数のアプローチが記載されている。Barbutらに記載されている各アプローチは、遠位側に装着された狭窄機構を有するカテーテルを含む。各狭窄機構は、挿入が容易になるように収縮した後、挿入されると拡張して血流を遮断する。Barbutらには、それぞれ先端側の開放基部および基端側の頂部を有する外側円錐シェルおよび内側円錐シェルを含む狭窄機構が記載されている。外側シェルは、拡張を促進するように予め成形されたリングをさらに含む。両シェルはポートまたは開口部を含む。各シェルのポートが連通するように内側円錐シェルを回転させることによって、機構を通じた血流が制御される。
【0015】
最近になって、2011年4月19日に発行されたVanCampらの米国特許第7,927,346号(特許文献2)に、脳虚血に罹患した患者の脳に血流を向けるために一時的な部分大動脈遮断を実行する装置が記載されている。VanCampらの発明の主目的は、適切な配置を確実にするためにX線透視を必要としない血流調節装置の提供である。VanCampの装置は、血流を遮断するためにフレームの第1の部分に装着された平面膜を有する拡張式フレームを含む。VanCampらによる開示の一態様では、膜は、平面膜の中心に固定サイズの開口部を含むことで、開口部を通じて何らかの血流を流動させる。これとは別に、VanCampでは、膜それ自体が、何らかの血流を可能にするように血流に対していくらか透過性でありうることも開示されている。しかし、VanCampは使用中に血流の可変制御を行うことができない。
【0016】
さらに、2016年9月22日に公開されたFranklinらのPCT特許出願公開番号WO/2016149653A2(特許文献3)では、遮断カテーテルシステム、ならびに血管遮断手順の前、間、および/または後に虚血を軽減するための血管プレコンディショニングが記載されている。
【0017】
生理学的混乱が認識されると、血管作動薬および静注輸液を含む薬物が生理状態を改善するのに時間を要する。例えば、血管作動薬は、血管収縮を生じさせるために、血管系全体を循環し、細胞内機構を通じて作用しなければならない。使用される薬物および基礎生理状態によっては、これらの変化が生じるのに数秒、数分、さらには数時間を要することがある。ショック状態が重症である場合、この時間は有害でありうる。これらの請求の範囲に記載の血管内装置の使用は、不適切な生理状態が同定されると直ちに生理状態を改善する。血管内灌流増加装置の自動化によってこれを動的に行うことができ、秒単位の時間枠で該装置を継続的に変化させることによって該装置に対して近位側の生理状態を継続的に安定化することができる。
【0018】
既存の装置および提案された装置に関する上記の問題および限界に照らせば、医師がショックに対処しかつ大動脈の血流を慎重に調節して近位側の血圧を上昇させることを可能にする、実行可能な解決策に対する緊急かつ満たされていない要求が存在する。多量の血圧薬およびIV輸液を使用することなく有効な血圧および血流をショック状態の心臓、肺、および脳に速やかに送達する能力は、数え切れない命を救うであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許第6,743,196号
【文献】米国特許第7,927,346号
【文献】PCT特許出願公開番号WO/2016149653A2
【発明の概要】
【0020】
概要
本開示は、自動血管内灌流増加システムを提供することで、既に記載されたシステムの欠点を克服する。最近のトランスレーショナル実験は、自動化機能を組み込んで部分大動脈遮断を正確に制御することで、血圧の動的変化に応答して遠位側大動脈血流を細かくタイトレーションすることができることを示した。当初は進行中の出血性ショックの状況に適用されたが、部分大動脈遮断の程度を少なくすることで、IV輸液および薬物にはできないやり方で大動脈後負荷の即時の動的な変化によりあらゆる種類のショックにおいて心機能を最適化することができると仮定された。
【0021】
救命救急のための血管内灌流増加(EPACC)は、多くの形態のショックにおいて、ショックの現行の治療法の上記すべての限界に直接対処する。自動装置を使用して血管内の大動脈バルーンカテーテルを慎重に制御することで、EPACCは、カテーテルバルーンの遠位側の継続的な灌流を可能にしながら、バルーン上方の血管床に対する少量の血圧支援を実現する。EPACCのコンセプトは、REBOAなどの技術とは対照的に、大動脈を部分的にしか遮断せずに機能する。REBOAは、大動脈を完全に遮断することで、遠位組織の進行性虚血障害を代償として近位側の灌流を最大化する。対照的に、EPACCは大動脈を部分的にしか遮断せず、これにより近位側の血圧が生理学的にいっそう上昇する。大動脈内に異なるレベルでバルーンを配置することで、開業医は、どの遠位毛細血管床において血流を減少させるかを選択することができる。下行胸部大動脈にEPACCを配置することで、腸間膜、腎臓、肝臓、および四肢への血流の減少が緩やかになる。対照的に、大動脈分岐部に配置すれば、骨盤および四肢への血流のみが潜在的に減少する。大動脈血流が生理学的に必要な量をしばしば超えることから、大動脈血流制限が最小限~中程度であることにより、虚血は最小限にとどまる。近位側の血圧上昇と遠位側の虚血との間のこのトレードオフは、ショックの程度および患者の基礎生理状態に応じて異なる。
【0022】
EPACCの使用は、広範なショック状態を治療できるほど広範でありうる。当初、EPACCは、外傷後ショック、具体的には、REBOAおよび大動脈クロスクランプ手順後に一般的な虚血再灌流障害を治療するように設計された。しかし、EPACCは、十分な血液製剤が利用可能でない場合に出血性ショックを治療するために、または治療に必要なIV輸液および昇圧剤の量を減少させて敗血症性ショックを治療するためにも同様に実行可能である。どのような生理学的測定値に対しても動的に応答するようにEPACCを自動化することができるため、EPACCは、脳外傷に罹患した患者において脳灌流を最大化するために実行可能な技術となる。
【0023】
本システムは、基端部、および患者の大動脈内に配置可能な先端部を有する、カテーテルを含みうる。本システムは、大動脈内に配置されるための、カテーテルの先端部に設置されている拡張式大動脈血流調節装置をさらに含みうる。拡張式大動脈血流調節装置は、拡張して大動脈の血流を制限しかつ収縮しうる。例えば、拡張式大動脈血流調節装置は、膨張して拡張することで大動脈の血流を部分的に遮断することができるバルーンでありうる。別の態様では、拡張式大動脈血流調節装置は、膨張して大動脈の血流を遮断することができるバルーンと、該バルーンを取り囲む1つまたは複数のワイヤとを含みうる。したがって、1つまたは複数のワイヤは、締め付けられることでバルーンを陥凹させて該バルーンの周りの血流を可能にすることができる。別の態様では、拡張式大動脈血流調節装置は、カテーテルの中心軸から半径方向に拡張または収縮可能なワイヤ骨格と、薄膜を含み、該ワイヤ骨格の一部分を取り囲む、血流調節セイルとを含みうる。別の態様では、拡張式大動脈血流調節装置は、1つまたは複数の窓部を有するノンコンプライアントバルーンと、該ノンコンプライアントバルーン内に封入されたコンプライアントバルーンとを含みうる。
【0024】
一態様では、本システムは、大動脈内に配置されるための、カテーテルの先端部にて拡張式大動脈血流調節装置より基端側に設置されている第2の拡張式大動脈血流調節装置をさらに含みうる。第2の拡張式大動脈血流調節装置は、カテーテル制御装置に連結可能であり、大動脈の血流を部分的に遮断するために拡張することができ、かつ収縮することができる。拡張式大動脈血流調節装置および第2の拡張式大動脈血流調節装置は、拡張式大動脈血流調節装置が大動脈の一区域に配置されかつ第2の拡張式大動脈血流調節装置が大動脈の異なる区域に配置されるように間隔をおいて配置されうる。
【0025】
本システムは、カテーテルの基端部に連結されたカテーテル制御装置をさらに含みうる。カテーテル制御装置は、拡張式大動脈血流調節装置を大動脈内で拡張および収縮させることができる。拡張式大動脈血流調節装置が、膨張して拡張することで大動脈の血流を部分的に遮断することができるバルーン(例えば、バルーンカテーテル)である場合、カテーテル制御装置は、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するために該バルーンを膨張または縮小させることができるシリンジポンプを含みうる。拡張式大動脈血流調節装置が、バルーンを取り囲む1つまたは複数のワイヤを有するバルーン、例えばワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルである場合、カテーテル制御装置は、該バルーンを膨張または縮小させることができるシリンジポンプと、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するために該バルーンを取り囲む該1つまたは複数のワイヤを締め付けるかまたは緩めるように該1つまたは複数のワイヤを短くまたは長くすることができるステッパモータまたは電動式アームとを含みうる。拡張式大動脈血流調節装置が、血流調節セイルを有するワイヤ骨格、例えば大動脈内セイルカテーテルである場合、カテーテル制御装置は、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するために該血流調節セイルを半径方向に拡張または収縮させるように該ワイヤ骨格を短くまたは長くすることができるステッパモータまたは電動式アームを含みうる。拡張式大動脈血流調節装置が、ノンコンプライアントバルーンに封入されたコンプライアントバルーンである場合、カテーテル制御装置は、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するために、該ノンコンプライアントバルーンの1つまたは複数の窓部を通じて該コンプライアントバルーンが押し出されるように該コンプライアントバルーンを膨張または縮小させることができる、シリンジポンプでありうる。
【0026】
本システムは、大動脈の血流を示す生理学的情報を測定するための1つまたは複数のセンサをさらに含みうる。例えば、1つまたは複数のセンサのうち1つは、カテーテル上で拡張式大動脈血流調節装置より先端側に設置可能であり、該拡張式大動脈血流調節装置より先端側の大動脈の血圧を示す生理学的情報を測定することができ、かつ/あるいは、1つまたは複数のセンサのうち1つは、カテーテル上で拡張式大動脈血流調節装置より基端側に設置可能であり、該拡張式大動脈血流調節装置より基端側の大動脈の血圧を示す生理学的情報を測定することができる。1つまたは複数のセンサは、心拍数、呼吸数、拡張式大動脈血流調節装置より基端側または先端側の大動脈血流量、血液温度、該拡張式大動脈血流調節装置内の圧力、患者の心拍出量、頸動脈血流量、肺動脈圧、末梢血管抵抗、または頭蓋内圧のうちの少なくとも1つを含む、大動脈の血流を示す生理学的情報を測定することができる。さらに、1つまたは複数のセンサは、患者の体液の乳酸レベル、コルチゾールレベル、活性酸素種レベル、またはpHのうちの少なくとも1つを測定することによって、大動脈の血流を示す生理学的情報を測定することができる。2つの拡張式大動脈血流調節装置が利用される態様では、1つまたは複数のセンサのうちの少なくとも1つは拡張式大動脈血流調節装置より先端側に、該拡張式大動脈血流調節装置と第2の拡張式大動脈血流調節装置との間に、または該第2の拡張式大動脈血流調節装置より基端側に位置づけられうる。
【0027】
本システムは、命令を記憶している非一時的コンピュータ可読媒体であって、該命令が、該1つまたは複数のセンサに接続されたプロセッサにより実行されると、該プロセッサが該生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、その結果、該生理学的情報の測定値が該目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するために該カテーテル制御装置が該拡張式大動脈血流調節装置の拡張および収縮を自動的に調整する、非一時的コンピュータ可読媒体をさらに含みうる。
【0028】
一態様では、本システムは、1つまたは複数のセンサおよびカテーテル制御装置に作動的に接続された外部中央処理装置をさらに含みうる。外部中央処理装置は、プロセッサを含むことができ、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にあるか否かを示す情報をカテーテル制御装置に伝達することができる。例えば、外部中央処理装置はWiFi、Bluetooth、Wixelベース通信、またはセルラー通信のうちの少なくとも1つを通じて情報をカテーテル制御装置に伝達することができる。
【0029】
一態様では、本システムは、患者に静注薬を送達するための自動ポンプをさらに含んでもよく、前記命令が、1つまたは複数のセンサに接続されたプロセッサにより実行されると、該プロセッサが生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、その結果、該比較に基づいて患者の生理状態を調節するために該自動ポンプが該患者に静注薬を送達する。
【0030】
一態様では、本システムは、患者に静注輸液および血液製剤を送達するための自動ポンプをさらに含んでもよく、前記命令が、1つまたは複数のセンサに接続されたプロセッサにより実行されると、該プロセッサが生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、その結果、該比較に基づいて患者の生理状態を調節するために該自動ポンプが該患者に静注輸液および血液製剤を送達する。
【0031】
本開示のさらに別の局面によれば、血管内灌流増加のために大動脈血流調節の程度を自動で動的に調節するための方法が提供される。本方法は、拡張式大動脈血流調節装置を有するカテーテルの先端部を患者の大動脈内に導入する段階;大動脈の血流を部分的に遮断するために該拡張式大動脈血流調節装置を拡張させる段階;大動脈の血流を示す生理学的情報を1つまたは複数のセンサによって測定する段階;該生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較する段階;ならびに該生理学的情報の測定値が該目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するために該拡張式大動脈血流調節装置の拡張および収縮を調整する段階を含みうる。
【0032】
一態様では、カテーテルは、患者の大動脈または遠位動脈内に配置されるための、カテーテルの先端部にて拡張式大動脈血流調節装置より基端側に設置されている第2の拡張式大動脈血流調節装置をさらに含む。第2の拡張式大動脈血流調節装置は拡張して血流を部分的に遮断することができ、拡張式大動脈血流調節装置は大動脈の一区域に配置されうるし、一方、第2の拡張式大動脈血流調節装置は大動脈の異なる区域または大動脈のより遠位側の血管に配置されうる。したがって、本方法は、血流を遮断するために第2の拡張式大動脈血流調節装置を拡張させる段階、および、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に血流量を調整するために該第2の拡張式大動脈血流調節装置を拡張および収縮させる段階をさらに含みうる。
[本発明1001]
基端部と、患者の大動脈内に配置されるように構成されている先端部とを有する、カテーテル;
該大動脈内に配置されるための、該カテーテルの該先端部に設置されている拡張式大動脈血流調節装置であって、大動脈の血流を制限するために拡張するようにおよび収縮するように構成されている、拡張式大動脈血流調節装置;
該カテーテルの該基端部に連結されており、かつ該拡張式大動脈血流調節装置を大動脈内で拡張および収縮させるように構成されている、カテーテル制御装置;
大動脈の血流を示す生理学的情報を測定するように構成されている、1つまたは複数のセンサ;ならびに
命令を記憶している非一時的コンピュータ可読媒体であって、該命令が、該1つまたは複数のセンサに接続されたプロセッサにより実行されると、該プロセッサが該生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、その結果、該生理学的情報の測定値が該目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するために該カテーテル制御装置が該拡張式大動脈血流調節装置の拡張および収縮を自動的に調整する、非一時的コンピュータ可読媒体
を含む、自動血管内灌流増加システム。
[本発明1002]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、前記大動脈の血流を制限するために拡張するように膨張するように構成されているバルーンを含み、前記カテーテル制御装置が、前記生理学的情報の測定値が前記目標生理学的範囲外にある場合に該大動脈の血流量を調整するために該バルーンを膨張または縮小させるように構成されているシリンジポンプを含む、本発明1001のシステム。
[本発明1003]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、
前記大動脈の血流を遮断するために膨張するように構成されているバルーン;および
該バルーンを取り囲むように構成されている1つまたは複数のワイヤであって、該バルーンの周りの血流を可能にするために該バルーンを陥凹させるように締め付けられるようにさらに構成されている、1つまたは複数のワイヤ
を含み、
前記カテーテル制御装置が、該バルーンを膨張または縮小させるように構成されているシリンジポンプを含み、
該カテーテル制御装置が、前記生理学的情報の測定値が前記目標生理学的範囲外にある場合に該大動脈の血流量を調整するために、該バルーンを取り囲む該1つまたは複数のワイヤを締め付けるかまたは緩めるように該1つまたは複数のワイヤを短くまたは長くするようにさらに構成されている、
本発明1001のシステム。
[本発明1004]
前記カテーテル制御装置が、前記カテーテル上の固定点に対して前記1つまたは複数のワイヤを短くまたは長くするように構成されているステッパモータまたは電動式アームのうちの少なくとも1つによって、該1つまたは複数のワイヤを短くまたは長くする、本発明1003のシステム。
[本発明1005]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、
前記カテーテルの中心軸から半径方向に拡張または収縮するように構成されているワイヤ骨格;および
薄膜を含む大動脈血流調節セイルであって、該ワイヤ骨格の一部分を取り囲むように構成されている、大動脈血流調節セイル
を含み、
前記カテーテル制御装置が、前記生理学的情報の測定値が前記目標生理学的範囲外にある場合に前記大動脈の血流量を調整するために、該大動脈血流調節セイルを半径方向に拡張または収縮させるように該ワイヤ骨格を短くまたは長くするように構成されている、
本発明1001のシステム。
[本発明1006]
前記カテーテル制御装置が、前記カテーテル上の固定点に対して前記ワイヤ骨格を短くまたは長くするように構成されているステッパモータまたは電動式アームのうちの少なくとも1つによって該ワイヤ骨格を短くまたは長くする、本発明1005のシステム。
[本発明1007]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、
1つまたは複数の窓部を有するノンコンプライアントバルーン;および
該ノンコンプライアントバルーン内に封入されるように構成されているコンプライアントバルーン
を含み、
前記カテーテル制御装置が、前記生理学的情報の測定値が前記目標生理学的範囲外にある場合に前記大動脈の血流量を調整するために、該ノンコンプライアントバルーンの該1つまたは複数の窓部を通じて該コンプライアントバルーンが押し出されるように該コンプライアントバルーンを膨張または縮小させるように構成されている、シリンジポンプを含む、
本発明1001のシステム。
[本発明1008]
前記1つまたは複数のセンサのうち1つが、前記カテーテル上で前記拡張式大動脈血流調節装置より先端側に設置されており、かつ該拡張式大動脈血流調節装置より先端側の大動脈の血圧を示す生理学的情報を測定するように構成されている、本発明1001のシステム。
[本発明1009]
前記1つまたは複数のセンサのうち1つが、前記カテーテル上で前記拡張式大動脈血流調節装置より基端側に設置されており、かつ該拡張式大動脈血流調節装置より基端側の大動脈の血圧を示す生理学的情報を測定するように構成されている、本発明1001のシステム。
[本発明1010]
前記1つまたは複数のセンサが、心拍数、呼吸数、前記拡張式大動脈血流調節装置より基端側または先端側の大動脈血流量、血液温度、該拡張式大動脈血流調節装置内の圧力、前記患者の心拍出量、頸動脈血流量、肺動脈圧、末梢血管抵抗、または頭蓋内圧のうちの少なくとも1つを含む、前記大動脈の血流を示す生理学的情報を測定するように構成されている、本発明1001のシステム。
[本発明1011]
前記1つまたは複数のセンサが、前記患者の体液の乳酸レベル、コルチゾールレベル、活性酸素種レベル、またはpHのうちの少なくとも1つを測定することによって前記大動脈の血流を示す生理学的情報を測定するように構成されている、本発明1001のシステム。
[本発明1012]
前記システムが、前記大動脈内に配置されるための、前記カテーテルの先端部にて前記拡張式大動脈血流調節装置より基端側に設置されている第2の拡張式大動脈血流調節装置をさらに含み、該第2の拡張式大動脈血流調節装置が、前記カテーテル制御装置に連結されており、かつ該大動脈の血流を制限するために拡張するようにおよび収縮するように構成されており、
該拡張式大動脈血流調節装置および該第2の拡張式大動脈血流調節装置が、該拡張式大動脈血流調節装置が該大動脈の一区域に配置されかつ該第2の拡張式大動脈血流調節装置が該大動脈の異なる区域に配置されるように間隔をおいて配置されるように構成されている、
本発明1001のシステム。
[本発明1013]
前記1つまたは複数のセンサのうちの少なくとも1つが、前記拡張式大動脈血流調節装置より先端側に、該拡張式大動脈血流調節装置と前記第2の拡張式大動脈血流調節装置との間に、または該第2の拡張式大動脈血流調節装置より基端側に位置づけられる、本発明1012のシステム。
[本発明1014]
前記システムが、前記1つまたは複数のセンサおよび前記カテーテル制御装置に作動的に接続された外部中央処理装置をさらに含み、該外部中央処理装置が、前記プロセッサを含み、かつ前記生理学的情報の測定値が前記目標生理学的範囲外にあるか否かを示す情報を該カテーテル制御装置に伝達するように構成されている、本発明1001のシステム。
[本発明1015]
前記外部中央処理装置が、WiFi、Bluetooth、Wixelベース通信、またはセルラー通信のうちの少なくとも1つによって前記情報を前記カテーテル制御装置に伝達する、本発明1014のシステム。
[本発明1016]
前記システムが、前記患者に静注薬を送達するように構成されている自動ポンプをさらに含み、前記命令が、前記1つまたは複数のセンサに接続された前記プロセッサにより実行されると、該プロセッサが前記生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、その結果、該比較に基づいて患者の生理状態を調節するために該自動ポンプが該患者に静注薬を送達する、本発明1001のシステム。
[本発明1017]
前記システムが、前記患者に静注輸液および血液製剤を送達するように構成されている自動ポンプをさらに含み、前記命令が、前記1つまたは複数のセンサに接続された前記プロセッサにより実行されると、該プロセッサが前記生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、その結果、該比較に基づいて患者の生理状態を調節するために該自動ポンプが該患者に静注輸液または血液製剤を送達する、本発明1001のシステム。
[本発明1018]
以下の段階を含む、血管内灌流増加のために大動脈血流調節の程度を自動で動的に調節するための方法:
拡張式大動脈血流調節装置を含むカテーテルの先端部を患者の大動脈内に導入する段階;
該大動脈の血流を制限するために該拡張式大動脈血流調節装置を拡張させる段階;
該大動脈の血流を示す生理学的情報を1つまたは複数のセンサによって測定する段階;
該生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較する段階;ならびに
該生理学的情報の測定値が該目標生理学的範囲外にある場合に該大動脈の血流量を調整するために該拡張式大動脈血流調節装置の拡張および収縮を調整する段階。
[本発明1019]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、前記大動脈の血流を制限するために拡張するように膨張するように構成されているバルーンを含み、該拡張式大動脈血流調節装置を拡張または収縮させる段階が、シリンジポンプによって該バルーンを膨張または縮小させることを含む、本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、
前記大動脈の血流を遮断するために膨張するように構成されているバルーン;および
該バルーンを取り囲むように構成されている1つまたは複数のワイヤであって、該バルーンの周りの血流を可能にするために該バルーンを陥凹させるように締め付けられるようにさらに構成されている、1つまたは複数のワイヤ
を含み、
該大動脈の血流を遮断するために該拡張式大動脈血流調節装置を拡張させる段階が、シリンジポンプによって該バルーンを膨張させることを含み、
該拡張式大動脈血流調節装置を拡張または収縮させる段階が、該バルーンを取り囲む該1つまたは複数のワイヤを締め付けるかまたは緩めるように該1つまたは複数のワイヤを短くまたは長くすることを含む、
本発明1018の方法。
[本発明1021]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、
前記カテーテルの中心軸から半径方向に拡張するように構成されているワイヤ骨格;および
薄膜を含む大動脈血流調節セイルであって、該ワイヤ骨格の一部分を取り囲むように構成されている、大動脈血流調節セイル
を含み、
該拡張式大動脈血流調節装置を拡張または収縮させる段階が、該大動脈血流調節セイルを半径方向に拡張または収縮させるように該ワイヤ骨格を短くまたは長くすることを含む、
本発明1018の方法。
[本発明1022]
前記拡張式大動脈血流調節装置が、
1つまたは複数の窓部を有するノンコンプライアントバルーン;および
該ノンコンプライアントバルーン内に封入されるように構成されているコンプライアントバルーン
を含み、
第1の拡張式大動脈血流調節装置を拡張または収縮させる段階が、シリンジポンプによって該ノンコンプライアントバルーンの該1つまたは複数の窓部を通じて該コンプライアントバルーンが押し出されるように該コンプライアントバルーンを膨張または縮小させることを含む、
本発明1018の方法。
[本発明1023]
前記大動脈の血流を示す生理学的情報を1つまたは複数のセンサによって測定する段階が、心拍数、呼吸数、前記拡張式大動脈血流調節装置より基端側または先端側の大動脈血流量、血液温度、該拡張式大動脈血流調節装置内の圧力、患者の心拍出量、頸動脈血流量、肺動脈圧、末梢血管抵抗、または頭蓋内圧のうちの少なくとも1つを測定することを含む、本発明1018の方法。
[本発明1024]
前記カテーテルが、患者の大動脈内または遠位動脈内に配置されるための、該カテーテルの先端部にて前記拡張式大動脈血流調節装置より基端側に設置されている第2の拡張式大動脈血流調節装置をさらに含み、該第2の拡張式大動脈血流調節装置が、該大動脈または遠位動脈の血流を部分的に遮断するために拡張するように構成されており、該拡張式大動脈血流調節装置が、該大動脈の一区域に配置されるように構成されており、かつ該第2の拡張式大動脈血流調節装置が、該大動脈の異なる区域または遠位動脈に配置されるように構成されており、前記方法が、
血流を遮断するために該第2の拡張式大動脈血流調節装置を拡張させる段階;ならびに
前記生理学的情報の測定値が前記目標生理学的範囲外にある場合に血流量を調整するために該第2の拡張式大動脈血流調節装置を拡張および収縮させる段階
をさらに含む、本発明1018の方法。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本開示の原理に従って構成されている例示的な自動血管内灌流増加システムを示す。
図2A図2Aは、本開示の原理に従って構成されているバルーンカテーテルを示す。
図2B図2Bは、患者の大動脈内に連続して配置された図2Aのバルーンカテーテルを示す。
図3図3Aは、2つのワイヤを有するワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルを示す。図3Bは、ワイヤが締め付けられることでバルーンを陥凹させる、図3Aのワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルを示す。
図4A図4Aは、3つのワイヤを有するワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルを示す。
図4B図4Bは、ワイヤが締め付けられることでバルーンを陥凹させる、図4Aのワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルを示す。
図4C図4Cは、患者の大動脈内に連続して配置された図4Bのワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルを示す。
図5A図5Aは、本開示の原理に従って構成されている大動脈内セイルカテーテルを示す。
図5B図5Bは、患者の大動脈内に連続して配置された図5Aの大動脈内セイルカテーテルを示す。
図6】本開示の原理に従って構成されているケージ型バルーンカテーテルを示す。
図7】本開示の原理に従って構成されている例示的なカテーテル制御装置の模式図である。
図8】本開示の原理に従って構成されている例示的な外部中央処理装置の模式図である。
図9】本開示の原理に従って血管内灌流増加のために大動脈血流調節の程度を自動で動的に調節するための例示的な方法を示す流れ図である。
図10】EPACCを標準的救命救急(Standard Critical Care)と比較する試験を示す流れ図である。
図11】EPACCを標準的救命救急と比較する試験から導き出される血行動態データを示すチャートを示す。
図12】EPACCを標準的救命救急と比較する試験から導き出される関心対象の主要評価項目を示すチャートを示す。
図13】EPACCを標準的救命救急と比較する試験から導き出される関心対象の副次評価項目を示すチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
救命救急のための血管内灌流増加(EPACC)は、重篤患者の血圧を機械的および薬理学的に上昇させる新規治療プラットフォームである。EPACCは、一連の血管内装置と、該装置用の制御装置と、患者の生理状態に応じてEPACC装置をリアルタイムに変化させることができる複合アルゴリズムとを含むシステムによって達成される。どのような生理学的測定値に対しても動的に応答するようにEPACCを自動化することができるため、EPACCは、複数のショック状態において灌流を最大化するために実行可能な技術となる。しかし、本開示の原理によれば、EPACCは、十分な血液製剤が利用可能でない場合に出血性ショックを治療するために、または治療に必要なIV輸液および昇圧剤の量を減少させて敗血症性ショックを治療するために、または脳外傷もしくは脳内出血の状況で神経原性ショックを治療するためにも同様に実行可能である。
【0035】
図1を参照して、本開示の原理に従って構成されている例示的な自動血管内灌流増加システムを説明する。図1では、自動血管内灌流増加システム100の構成要素は相対的にも絶対的にも原寸通りには図示されていない。システム100は、カテーテル制御装置700および外部処理装置800(任意)に接続されたカテーテル102を含む。カテーテル102は、先端部103および基端部105を含み、患者Pの大動脈A内に配置されるようにサイズ決定および成形されている。カテーテル102は、当技術分野において周知のどのカテーテルであってもよく、カテーテル102が大腿動脈または橈骨動脈を通じて患者に挿入可能でありかつ患者の血管系を通って大動脈内へと延伸可能であるほど十分な長さを有する。また、カテーテル102は、先端部103に設置されている拡張式血流調節装置104およびセンサ106を含みうる。
【0036】
現行の大動脈内カテーテルとは異なり、カテーテル102はEPACCに使用されるように設計されうる。例えば、カテーテル102の拡張式血流調節装置104は、経時的な形態変化を経ることなく拡張および収縮する、例えば膨張および縮小するように設計されうる。
【0037】
拡張式血流調節装置104は、ショック患者の大動脈内に戦略的に配置可能であり、拡張式血流調節装置104の遠位側の血流を阻害することで拡張式血流調節装置104の近位側の血圧を上昇させることができるように、患者の大動脈の血流を調節するように設計されている。拡張式血流調節装置104は、カテーテル102の先端部103に連続して設置されている2つの拡張式血流調節装置を含みうる。したがって、拡張式血流調節装置は、1つの拡張式血流調節装置が大動脈の特定の区域に配置されかつ第2の拡張式血流調節装置が大動脈の異なる特定の区域に配置されるように間隔をおいて配置されうる。例えば、1つの拡張式血流調節装置は大動脈の区域1に配置可能であり、一方、第2の拡張式血流調節装置は大動脈の区域3に配置可能である。したがって、大動脈内に異なるレベルで拡張式血流調節装置を配置することで、開業医は、どの遠位毛細血管床において血流を減少させるかを選択することができる。例えば、拡張式血流調節装置を大動脈の区域1に配置し、拡張させることで、患者の腸間膜、腎臓、肝臓、および四肢への血流の減少が緩やかになる。対照的に、拡張式血流調節装置を配置し、拡張させることで、患者の骨盤および四肢への血流が潜在的に減少する。拡張式血流調節装置104は、以下でさらに詳細に説明する様々なバルーンおよび/または代替的な装置設計を含みうる。
【0038】
拡張式血流調節装置104が大動脈の血流を部分的にしか制限しないことから、下流の臓器および組織床への血流を同時に最適化しながら近位側血圧を生理学的にいっそう上昇させることができる。大動脈血流がショック患者の大多数の症例において生理学的に必要な量を全体として超えることから、遮断が最小限~中程度であることにより、虚血は最小限にとどまる。近位側血圧上昇と遠位側虚血との間のこのトレードオフは、ショックの程度および患者の基礎生理状態に応じて異なる。
【0039】
センサ106は、患者の基礎生理状態を判定するために、大動脈の血流を示す生理学的情報を測定することができる。例えば、センサ106は、心拍数、呼吸数、2つの拡張式血流調節装置より基端側または先端側またはそれらの間の血圧、2つの拡張式血流調節装置より基端側または先端側またはそれらの間の大動脈血流量、血液温度、拡張式血流調節装置内の圧力、患者の心拍出量、頸動脈血流量、肺動脈圧、末梢血管抵抗、あるいは頭蓋内圧を含むがそれらに限定されない生理学的パラメータを測定することができる。センサ106は1つまたは複数のセンサを含みうる。例えば、図1に示すように、センサ106は、3つのセンサを含み、カテーテル102に沿って拡張式血流調節装置より先端側に、拡張式血流調節装置と第2の拡張式血流調節装置との間に、および/または第2の拡張式血流調節装置より基端側に位置づけられうる。
【0040】
センサ106は、生理学的情報の測定値を示すデータをアナログ機構またはデジタル機構を通じて記録することができる。次に、以下でさらに詳細に説明するように、このデータを使用して、血圧の自動上昇によって重要臓器灌流を最大化するために大動脈血流の多少の制限が必要である否かを判定することができる。
【0041】
また、患者の生理状態を、患者の血液、血清、尿、または唾液中の化合物のリアルタイムかつ断続的な測定値、例えば乳酸レベル、コルチゾールレベル、活性酸素種レベル、体液のpH、および他の一般的に使用される患者生理状態マーカーによってモニタリングすることができる。
【0042】
カテーテル制御装置700は、カテーテル102の基端部105に連結されうる。カテーテル制御装置700は、生理学的情報の測定値を示すデータをセンサ106から受け取り、生理学的情報の測定値が所定の目標生理学的範囲内にあるか否かを判定することができる。また、以下でさらに詳細に説明するように、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に大動脈の血流量を調整するためにカテーテル制御装置700が拡張式血流調節装置104の拡張および収縮を自動的に調整するように、カテーテル制御装置700は拡張式血流調節装置104に接続されうる。
【0043】
一態様では、システム100は外部中央処理装置800を含む。外部中央処理装置800は、以下でさらに詳細に説明するように、外部中央処理装置800が、生理学的情報の測定値を示すデータをセンサ106から受け取り、生理学的情報の測定値が所定の目標生理学的範囲内にあるか否かを判定し、患者の生理状態を目標生理学的範囲内にするための拡張式血流調節装置104のサイズの変化量を計算し、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にあるか否かを示す情報を中央処理装置800に伝達することができるように、センサ106およびカテーテル制御装置700に作動的に接続されていてもよい。したがって、カテーテル制御装置700は、外部中央処理装置800から受け取った情報に基づいて拡張式血流調節装置104の拡張および収縮を自動的に調整することで大動脈の血流量を調整する。
【0044】
図2Aを参照して、本開示の原理に従って構成されているバルーンカテーテルを説明する。図2Aに示すように、図1の拡張式血流調節装置104はバルーンカテーテル200を含みうる。バルーンカテーテル200は、カテーテル102の先端部に位置づけられたバルーン204を含む。バルーン204は、慎重にタイトレーションされたバルーン体積に膨張することで大動脈の血流を調節するように設計されている。例えば、バルーン204が慎重にタイトレーションされたバルーン体積を維持することができるように、カテーテル102の管腔を通じて出口202を介してバルーン204に非圧縮性流体を導入することができる。バルーン204は、膨張用流体が膜を横切って患者の血管系内へと拡散することを防止するのに好適な膜で作製されうる。また、膜は、経時的な形態変化を経ることなく膨張および縮小するように設計されうる。
【0045】
図2Bに示すように、バルーンカテーテル200は、追加のバルーンカテーテル210と連続して患者の大動脈A内に配置されうる。バルーンカテーテル210はバルーンカテーテル200と同様に構成されうる。バルーンカテーテル200およびバルーンカテーテル210は、各バルーンカテーテルがそれ自体に割り当てられた慎重にタイトレーションされたバルーン体積を維持するように個々に膨張および縮小しうる。バルーンカテーテル200およびバルーンカテーテル210は、バルーンカテーテル200が例えば大動脈の区域1内に配置されかつバルーンカテーテル210が例えば大動脈の区域3内に配置されるように、カテーテル102の先端部に沿って間隔をおいて配置されうる。これにより、区域1内のバルーンカテーテル200の上方および区域2内のバルーンカテーテル210の上方で同時に血圧を調節することが可能になる。したがって、カテーテル102は、規定の期間にわたって重要度の低い臓器および四肢への局所的低灌流を可能にしながら重要臓器への灌流を選択的に正常化することができる。図2Bに示すように、センサ106は、大動脈の全3つの区域内での圧力モニタリングを可能にするようにバルーンカテーテル200の上方ならびにバルーンカテーテル210の上方および下方に位置づけられた3つのモニタ、例えば固体圧力センサまたは圧力モニタリングポートを含みうる。当業者が理解するように、単一のバルーンカテーテルまたは2つを超えるバルーンカテーテルをEPACC用に大動脈内に配置することができる。
【0046】
ここで図3Aおよび図3Bを参照して、例示的なワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルを説明する。3Aおよび3Bに示すように、図1の拡張式血流調節装置104はワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300を含みうる。ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300は、カテーテル102の先端部に位置づけられたバルーン304と、バルーン304の外側を取り囲む2つのワイヤ306とを含む。図3Aに示すように、バルーン304は膨張して大動脈を完全に遮断するように設計されている。例えば、バルーン304が膨張したバルーン体積を維持することができるように、カテーテル102の管腔を通じて出口302を介してバルーン304に非圧縮性流体を導入することができる。バルーン304は、膨張用流体が膜を横切って患者の血管系内へと拡散することを防止するのに好適な膜で作製されうる。また、膜は、経時的な形態変化を経ることなく膨張および縮小するように設計されうる。
【0047】
ワイヤ306は、カテーテル102に沿ったバルーン304の先端側の点に固定され、バルーン304の長軸方向にバルーン304をトラバースし、かつカテーテル102の管腔を通じてバルーン304の基端側の固定点まで延伸することができる。したがって、カテーテル102は、ワイヤ306を受け入れるための、およびバルーン304を上記のように膨張させるための、別々の管腔を含みうる。ワイヤ306は、バルーン304が完全に膨張するときにワイヤ306が大動脈壁に接触するようにバルーン304を取り囲みうる。図3Bに示すように、ワイヤ306はバルーン304を陥凹させるように速やかに締め付けられて大動脈壁とバルーン304の外面との間に間隙を作り出すことができ、ワイヤ306の張力およびバルーン304の変形度が大動脈内のバルーンを通過する血流の量に対応する。バルーン304の変形度はワイヤ306のサイズに応じて異なることもあり、例えば、ワイヤが大きいほど陥凹が大きくなる。
【0048】
ここで図4Aおよび図4Bを参照して、別の例示的なワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルを説明する。図4Aおよび図4Bに示すように、図1の拡張式血流調節装置104はワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400を含みうる。ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400は、図3Aおよび図3Bのワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300と同様に構成されている。例えば、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400は、カテーテル102の先端部に位置づけられたバルーン404を含むものであり、カテーテル102の出口402を通じた非圧縮性流体によって膨張することで大動脈を完全に遮断することができる。しかし、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400は、バルーン404の外側を取り囲む3つのワイヤ406を含む。図4Bに示すように、ワイヤ406はバルーン404を陥凹させるように速やかに締め付けられて大動脈壁とバルーン404の外面との間に間隙を作り出すことができ、ワイヤ406の張力およびバルーン404の変形度が大動脈内のバルーンを通過する血流の量に対応する。当業者が理解するように、単一のワイヤまたは3つを超えるワイヤをワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルにおいて使用することができる。さらに、ワイヤがバルーンを陥凹させることでワイヤによるバルーンの陥凹の程度に基づいて血流がバルーンを通過するのを可能にするように、ワイヤはバルーンの長軸方向以外でバルーンを取り囲むことができる。
【0049】
図4Cに示すように、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400は、追加のワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル410と連続して患者の大動脈A内に配置されうる。ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル410は、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400と同様に構成されうる。各ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルがそれ自体に慎重に割り当てられた陥凹度を維持するように、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400およびワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル410のワイヤを個々に締め付ける、および緩めることができる。ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400およびワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル410は、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400が例えば大動脈の区域1内に配置されかつワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル410が例えば大動脈の区域3内に配置されるように、カテーテル102の先端部に沿って間隔をおいて配置されうる。これにより、区域1内のワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400の上方および区域2内のワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル410の上方で同時に血圧を調節することが可能になる。したがって、カテーテル102は、規定の期間にわたって重要度の低い臓器および四肢への局所的低灌流を可能にしながら重要臓器への灌流を選択的に正常化することができる。図4Cに示すように、センサ106は、大動脈の全3つの区域内での圧力モニタリングを可能にするようにワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル400の上方ならびにワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル410の上方および下方に位置づけられた3つのモニタ、例えば固体圧力センサまたは圧力モニタリングポートを含みうる。当業者が理解するように、単一のワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルまたは2つを超えるワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルをEPACC用に大動脈内に配置することができる。
【0050】
ここで図5Aを参照して、本開示の原理に従って構成されている大動脈内セイルカテーテルを説明する。図5Aに示すように、図1の拡張式血流調節装置104は大動脈内セイルカテーテル500を含みうる。大動脈内セイルカテーテル500は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる2016年7月21日公開のWilliamsらの米国特許出願公開第2016/0206798号に開示されているように構成されうる。例えば、大動脈内セイルカテーテル500は、カテーテル102の先端部に位置づけられたワイヤ骨格502および薄膜504を含み、膜504はワイヤ骨格502の一部分を取り囲む。ワイヤ骨格502は複数のワイヤを含み、該ワイヤはカテーテル102に沿って膜504の先端側の点に固定され、かつカテーテル102の管腔を通じて膜504の基端側の固定点まで延伸することができる。ワイヤ骨格502のワイヤの、膜502に取り囲まれた部分は、大動脈内セイルカテーテル500の長軸方向から半径方向に拡張しうる。ワイヤ骨格502のワイヤは、ワイヤが拡張位置において外周方向に等間隔で間隔をおいて配置されるように、半径方向に拡張しうる。したがって、ワイヤ骨格502が半径方向に拡張すると、膜504は、ワイヤ骨格502の張力および膜504の拡張度が大動脈内で大動脈内セイルを通過する血流の量に対応するように、拡張して大動脈内にセイルを作り出す。
【0051】
図5Bに示すように、大動脈内セイルカテーテル500は、追加の大動脈内セイルカテーテル510と連続して患者の大動脈A内に配置されうる。大動脈内セイルカテーテル510は大動脈内セイルカテーテル500と同様に構成されうる。各大動脈内セイルカテーテルがそれ自体に慎重に割り当てられた大動脈遮断度を維持するように、大動脈内セイルカテーテル500および大動脈内セイルカテーテル510のワイヤ骨格を個々に締め付ける、および緩めることができる。大動脈内セイルカテーテル500および大動脈内セイルカテーテル510は、大動脈内セイルカテーテル500が例えば大動脈の区域1内に配置されかつ大動脈内セイルカテーテル510が例えば大動脈の区域3内に配置されるように、カテーテル102の先端部に沿って間隔をおいて配置されうる。これにより、区域1内の大動脈内セイルカテーテル500の上方および区域2内の大動脈内セイルカテーテル510の上方で同時に血圧を調節することが可能になる。したがって、カテーテル102は、規定の期間にわたって重要度の低い臓器および四肢への局所的低灌流を可能にしながら重要臓器への灌流を選択的に正常化することができる。図5Bに示すように、センサ106は、大動脈の全3つの区域内での圧力モニタリングを可能にするように大動脈内セイルカテーテル500の上方ならびに大動脈内セイルカテーテル510の上方および下方に位置づけられた3つのモニタ、例えば固体圧力センサまたは圧力モニタリングポートを含みうる。当業者が理解するように、単一の大動脈内セイルカテーテルまたは2つを超える大動脈内セイルカテーテルをEPACC用に大動脈内に配置することができる。
【0052】
ここで図6を参照して、本開示の原理に従って構成されているケージ型バルーンカテーテルを説明する。図6に示すように、図1の拡張式血流調節装置104はケージ型バルーンカテーテル600を含みうる。ケージ型バルーンカテーテル600は、カテーテル102の先端部に位置づけられたノンコンプライアント外側バルーン602と、ノンコンプライアント外側バルーン602に封入されたコンプライアント内側バルーン606とを含む。ノンコンプライアント外側バルーン602は、コンプライアント内側バルーン606が膨張する際にコンプライアント内側バルーン606をそこから突出させるようにサイズ決定された1つまたは複数の窓部604を含む。窓部の数は、ノンコンプライアント外側バルーン602からのコンプライアント内側バルーン606の突出数と一致する。窓部604の形状は、部分膨張中のコンプライアント内側バルーン606の形状を制御する。コンプライアントバルーン606は、慎重にタイトレーションされたバルーン体積に膨張することで大動脈の血流を調節するように設計されている。完全膨張時にコンプライアント内側バルーン606は大動脈を完全に遮断することができる。例えば、コンプライアント内側バルーン606が慎重にタイトレーションされたバルーン体積を維持することができるように、カテーテル102の管腔を通じてコンプライアント内側バルーン606に非圧縮性流体を導入することができる。コンプライアント内側バルーン606は、膨張用流体が膜を横切って患者の血管系内へと拡散するのを防止するのに好適な膜で作製されうる。また、膜は、経時的な形態変化を経ることなく膨張および縮小するように設計されうる。上記のように、ケージ型バルーンカテーテル600は、追加のケージ型バルーンカテーテルと連続して患者の大動脈A内に配置されうる。各ケージ型バルーンカテーテルのコンプライアント内側バルーンは、各ケージ型バルーンカテーテルがそれ自体に慎重に割り当てられた慎重にタイトレーションされたバルーン体積を維持するように個々に膨張および縮小しうる。また、ケージ型バルーンカテーテルは、ケージ型バルーンカテーテルが大動脈の異なるレベル内に配置されるように、カテーテル102の先端部に沿って間隔をおいて配置されうる。当業者が理解するように、上記の拡張式血流調節装置の態様を連続させた任意の組み合わせを使用することができる。
【0053】
図7を参照して、本開示の原理に従って構成されている例示的なカテーテル制御装置を説明する。図7に示すように、カテーテル制御装置700は、メモリ704および通信回路706を有するプロセッサ702と、駆動機構708とを含む。図7では、プロセッサ702の構成要素は相対的にも絶対的にも原寸通り図示されていない。プロセッサ702はセンサ106および駆動機構708に作動的に接続されていてもよく、駆動機構708は拡張式血流調節装置104に作動的に接続されていてもよい。
【0054】
プロセッサ702は、生理学的情報の測定値を示すデータをセンサ106から通信回路706を通じて受け取ることができる。非一時的コンピュータ可読媒体であるメモリ704は、大動脈の血流に関連する目標生理学的パラメータおよび対応する範囲と、プロセッサ702により実行されると、生理学的情報の測定値と目標生理学的範囲との比較により生理学的情報の測定値が所定の目標生理学的範囲内にあるか否かをプロセッサ702に判定させる、命令とを記憶することができる。したがって、プロセッサ702は、患者の現在の生理状態測定値に基づいて、患者の生理状態を目標生理学的範囲内にするために必要な拡張式血流調節装置104による遮断量の適切な変化を計算することができる。
【0055】
プロセッサ702は、バルーンベースのカテーテル(例えば、バルーンカテーテル200、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300、400、またはケージ型バルーンカテーテル600)を使用する場合、適切なバルーン膨張、バルーン縮小の各局面、および生理学的変化に対する応答量を制御するための、あるいは、ワイヤベースのカテーテル(例えば、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300、400、または大動脈内セイルカテーテル500)を使用する場合、ワイヤベースのカテーテルの配置、撤去、および変化量を制御するための、一連のサブアルゴリズムを含む。これらの個々のアルゴリズムは、血管の物理的測定値を同定するための初期較正、完全遮断の判定、カテーテルの動作範囲(例えば、患者の生理状態の変化により生じる遮断の範囲)の同定、セットポイントの最適化、カテーテルベースの生理学的支援の休止、およびバルーン体積の調整も計算することができる。
【0056】
バルーンカテーテル200では、カテーテルの最初の挿入時またはEPACCの開始時に、バルーン較正手順が行われる。また、EPACCにより誘導されない血行動態の大きな変化が検出されるときは常に較正手順が実行される。バルーン較正手順が開始されると、カテーテル制御装置700の駆動機構708は、ガスまたは流体(例えば、二酸化炭素、生理食塩水、または造影剤と生理食塩水との混合物)の小さいアリコートをバルーンに繰り返し導入する。連続ボーラスの間、変化が観察されるまで(これはバルーン204の動作範囲の低セットポイントを示す)、近位側の生理状態をモニタリングすることができる。遠位側の血圧波形が消失するまで、または近位側の生理学的変化がもはや観察されなくなるまで(これはバルーンカテーテル200の動作範囲上限を示す)、バルーン204は膨張し続ける。あるいは、大動脈血流の停止を測定することで上限を示すこともできる。動作範囲の中間点を、低セットポイントからのバルーン体積の増加間隔として設定することができ、EPACC中に必要であれば速やかに動作範囲に戻るための基準とすることができる。
【0057】
ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300、400でも同様の較正手順に従うことができる。近位側の生理状態をモニタリングしながらワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルのバルーンを繰り返し膨張させることで、初期低および高バルーンセットポイントを決定する。完全遮断後または最大膨張達成時に直ちにワイヤを作動させて、血流がバルーンを通過するのを可能にする。ワイヤ作動中に近位側および遠位側の生理状態をモニタリングすることができ、それによって、生理状態の変化がもはや観察されなくなるときのワイヤ作動の程度が確認される。このセットポイントは低いワイヤ作動範囲を示し、ワイヤ作動無しは高いワイヤ作動範囲を示している。
【0058】
大動脈内セイルカテーテル500では、低セットポイントおよび高セットポイント(例えば、近位側の生理状態が変化し始めるポイントおよびさらなる変化が観察されないポイント)が近位側の生理学的変化のみに基づいて示されることを除いて、較正手順はバルーンカテーテルでの手順と同様である。
【0059】
バルーンの較正が行われて初期バルーン体積セットポイントが同定された後、プロセッサ702は、駆動機構708を通じてカテーテル制御装置700に拡張式血流調節装置104の形状およびサイズを調整させることで、患者の生理状態に応じて近位側血圧を上昇させる。上記のように、プロセッサ702は、センサ106から受け取った生理学的情報の測定値を、メモリ704に記憶されている目標生理学的範囲と比較することで、生理学的情報の測定値が所定の目標生理学的範囲内にあるか否かを判定する。例えば、近位側血圧が生理学的マーカーとして設定される場合、近位側血圧が目標血圧範囲未満に低下しているとプロセッサ702が判定すると、カテーテル制御装置700は、駆動機構708を通じて拡張式血流調節装置104を拡張させる(例えば、バルーンを膨張させる、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル設計においてワイヤの張力を減少させる、または大動脈セイル設計においてワイヤ骨格を拡張させる)。同様に、近位側血圧が目標血圧範囲を超えているとプロセッサ702が判定すると、カテーテル制御装置700は、駆動機構708を通じて拡張式血流調節装置104を収縮させる(例えば、バルーンを縮小させる、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル設計においてワイヤの張力を増加させう、または大動脈セイル設計においてワイヤ骨格を収縮させる)。範囲外の血圧変化に応答して生じるバルーンの体積またはワイヤの張力の変化量は、現在の血圧測定値が目標血圧からどれだけ離れているかに応じて異なる。したがって、血圧がごく最小限だけ目標範囲外である場合、拡張式血流調節装置104のサイズをわずかに変化させる。対照的に、血圧が著しく目標範囲外である場合、拡張式血流調節装置104のサイズをより大きく変化させる。EPACCを行うために使用可能な例示的アルゴリズムには以下が含まれる:
uLBolus = (P0-PS)2 * V
式中、P0は現在の血圧であり、PSはセットポイント血圧であり、Vは以下に記載の定数である。当業者は、代わりのアルゴリズムを使用して現在の生理状態および目標生理状態に基づいてバルーン体積を調整することができることを理解するであろう。
【0060】
バルーン調整アルゴリズム、ワイヤ調整アルゴリズム、またはセイル調整アルゴリズムによって、生理学的情報の測定値と目標生理学的パラメータとの間の差に応じた拡張式血流調節装置104のサイズの変化の大きさを、定数Vにより動的に制御することができる。Vは、最初はデフォルト値に設定されうるが、初期目標セットポイントを超えて生じる生理学的変化の大きさに応じて動的に変化しうる。例えば、血圧が生理学的マーカーとして設定され、センサ106により記録された初期血圧がセットポイント血圧未満であったが、駆動機構708による拡張式血流調節装置104の拡張量の変化後にセンサ106により記録された結果的な血圧がセットポイント血圧を超える場合、目標セットポイントのオーバーシュートを補正するためにVが修正されるであろう。血圧測定値が目標血圧の範囲内であると判定され、結果として拡張式血流調節装置104の拡張量が低セットポイント未満に低下する場合、拡張式血流調節装置104は停止してそのベースラインゼロセットポイントに戻る。これは、バルーンを縮小させること、バルーンをさらに陥凹させること、または大動脈内セイルを撤去することによって行われうる。
【0061】
上記のように、プロセッサ702は、本開示の原理に従って、駆動機構708を通じて拡張式血流調節装置104を自動で拡張および収縮させることができる。例えば、拡張式血流調節装置104がバルーンカテーテル200またはケージ型バルーンカテーテル600である場合、駆動機構708は、カテーテル102と流体連通する出口を通じて流体をバルーンに注入するかまたはバルーンから除去することでバルーンを膨張または縮小させるように設計されたシリンジポンプであってもよい。シリンジポンプは、患者の生理状態に応じて自動化機能によってバルーン体積のわずかなタイトレーションされた変化を生じさせることができる。
【0062】
上記のように、バルーンカテーテルは大動脈内に連続して配置されてもよく、各バルーンカテーテルがそれ自体に割り当てられた慎重にタイトレーションされたバルーン体積を維持するように個々に膨張および縮小しうる。したがって、駆動機構708のシリンジポンプは、カテーテル102を通じて延伸する複数の管腔を通じてバルーンに作動的に接続されていてもよい。例えば、1つの管腔によって、シリンジポンプは大動脈の区域1に配置されたバルーンに流体を注入するかまたはそこから流体を除去することができ、一方、別の管腔によって、シリンジポンプは大動脈の区域3に配置されたバルーンに流体を注入するかまたはそこから流体を除去することができる。したがって、大動脈の異なるレベルにおいて血圧を調節することができる。
【0063】
拡張式血流調節装置104がワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300、400を含む場合、駆動機構708は、上記のようにカテーテル102の管腔と流体連通した出口を通じてバルーンに流体を挿入するかまたはバルーンから流体を除去することでバルーンを膨張または縮小させるように設計されたシリンジポンプと、バルーンを覆うワイヤをバルーンに対して締め付けるかまたは緩めるようにワイヤを操作するように設計された制御アームとを含むことができ、これにより、患者の生理状態に応じた自動化機能によるバルーンの陥凹の慎重なタイトレーションされた変化が可能になる。例えば、駆動機構708の制御アームは、カテーテル102の基端部の固定点に対してワイヤを短くまたは長くすることができるステッパモータ、またはカテーテル102の基端部の固定点に対してワイヤを締め付けるかまたは緩めることでワイヤの張力を変化させることができる電動式アームを含みうる。当業者は、バルーンを覆うワイヤの長さを変化させるための代わりの方法を使用することができることを認識するであろう。
【0064】
上記のように、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルは、大動脈内に連続して配置されてもよく、各バルーンカテーテルがそれ自体に割り当てられた慎重にタイトレーションされた陥凹度を維持するように個々に陥凹しうる。したがって、駆動機構708のシリンジポンプは、カテーテル102を通じて延伸する複数の管腔を通じてバルーンに作動的に接続されていてもよい。例えば、1つの管腔によって、シリンジポンプは大動脈の区域1に配置されたバルーンに流体を注入するかまたはそこから流体を除去することができ、一方、別の管腔によって、シリンジポンプは大動脈の区域3に配置されたバルーンに流体を注入するかまたはそこから流体を除去することができる。同様に、駆動機構708の制御アームは、カテーテル102を通じて延伸する複数の管腔を通じて各ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルのワイヤに作動的に接続されていてもよく、したがって、1つの管腔によって、制御アームは大動脈の区域1に配置されたワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルのワイヤを締め付けるかまたは緩めることができ、一方、別の管腔によって、制御アームは大動脈の区域3に配置されたワイヤ・オーバー・バルーンカテーテルのワイヤを締め付けるかまたは緩めることができる。したがって、大動脈の異なるレベルにおいて血圧を調節することができる。
【0065】
拡張式血流調節装置104が大動脈内セイルカテーテル500を含む場合、駆動機構708は、患者の生理状態に応じて自動化機能によりワイヤ骨格502を操作するように設計された制御アームを含みうる。上記のように、駆動機構708の制御アームは、カテーテル102の基端部の固定点に対してワイヤ骨格502のワイヤを短くまたは長くすることができるステッパモータ、またはカテーテル102の基端部の固定点に対してワイヤ骨格502のワイヤを締め付けるかまたは緩めることでワイヤの張力を変化させることができる電動式アームを含みうる。
【0066】
上記のように、大動脈内セイルカテーテルは、大動脈内に連続して配置されてもよく、各大動脈内セイルカテーテルがそれ自体に慎重に割り当てられた拡張度を維持するように個々に拡張しうる。したがって、駆動機構708の制御アームは、カテーテル102を通じて延伸する複数の管腔を通じて各大動脈内セイルカテーテルのワイヤ骨格に作動的に接続されていてもよい。例えば、1つの管腔によって、制御アームは大動脈の区域1に配置された大動脈内セイルカテーテルのワイヤ骨格を締め付けるかまたは緩めることができ、一方、別の管腔によって、制御アームは大動脈の区域3に配置された大動脈内セイルカテーテルのワイヤ骨格を締め付けるかまたは緩めることができる。したがって、大動脈の異なるレベルにおいて血圧を調節することができる。上記のように、当業者が理解するように、上記の拡張式血流調節装置の態様を連続させた任意の組み合わせを使用することができる。したがって、駆動機構708は、個々の拡張式血流調節装置の独自の拡張および制御を実現するシリンジポンプおよび制御アームの任意の組み合わせを含みうる。
【0067】
カテーテル制御装置700の駆動機構708によるバルーン体積またはワイヤ張力の各変化後に、プロセッサ702は、得られた生理学的変化のモニタリングを所定期間待った後、バルーン体積またはワイヤ張力をさらに調整することができる。
【0068】
一態様では、駆動機構708は、例えば自動化機能が利用不可能または実行不可能である際に、バルーンを手動で膨張させるまたはワイヤを手動で締め付けることができる。例えば、手動駆動機構は、シリンジの通常動作を使用して流体を注入可能であるが、シリンジのプランジャ上およびバレル内のスレッドが作動するとスクリューの作動によって流体を注入または除去することも可能な、シリンジポンプを含みうる。通常のシリンジプランジングにより注入するが、スクリュー作動のみにより流体を除去することで、バルーンを速やかに膨張させるが、プランジャ上のスレッドのピッチに基づいて流体の慎重にタイトレーションされた除去を行うことが可能になる。
【0069】
一態様では、プロセッサ702は、患者がいつ静注輸液をさらに必要とするかをセンサ106を通じて同定し、外部ポンプと通信し、患者にIV輸液を与えるように外部ポンプに命令することができる。別の態様では、プロセッサ702は、昇圧薬をいつ増加または減少させることが必要かをセンサ106を通じて同定し、外部ポンプと通信し、患者に投与される昇圧剤の量を調整するように外部ポンプに命令することができる。
【0070】
図8を参照して、本開示の原理に従って構成されている例示的な外部中央処理装置を説明する。図8に示すように、外部中央処理装置800は、メモリ804および通信回路806を有するプロセッサ802を含む。図8では、プロセッサ802の構成要素は相対的にも絶対的にも原寸通りには図示されていない。プロセッサ802は、図7のカテーテル制御装置700のプロセッサ702と同様に構成されうる。したがって、プロセッサ802は、センサ106に作動的に接続され、生理学的情報の測定値を示すデータをセンサ106から受け取り、生理学的情報の測定値をメモリ804に記憶された目標生理学的範囲と比較することができる。システム100が外部中央処理装置800を含む場合、外部中央処理装置800のプロセッサ802は、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲内にあるか否かを判定し、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に患者の生理状態を目標生理学的範囲内にするために必要な拡張式血流調節装置104による遮断量の適切な変化を示す情報を計算し、この情報を通信回路806を通じてカテーテル制御装置700に伝達する。例えば、外部中央処理装置800の通信回路806は、WiFi、Bluetooth、Wixelベース通信、もしくはセルラー通信、または有線接続のうちの少なくとも1つを通じてカテーテル制御装置700の通信回路706に情報を伝達することができる。
【0071】
一態様では、システム100は静注薬ポンプ1000を含みうる。静注薬ポンプ1000は、末梢IVまたは中心IVを通じて患者に血管作動薬を送達することができる。外部中央処理装置800のプロセッサ802は、生理学的情報の測定値が、様々な生理学的パラメータ(例えば、血圧、心拍数、血流量測定値を含む組織灌流指数)に関連する目標生理学的範囲内にあるか否かを判定し、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に患者の生理状態を目標生理学的範囲内にするために必要な血管作動薬の量の適切な変化を示す情報を計算し、通信回路806を通じて(例えば、WiFi、Bluetooth、Wixelベース通信、もしくはセルラー通信、または有線接続のうちの少なくとも1つを通じて)静注薬ポンプ1000に情報を伝達することができる。静注薬ポンプ1000は、外部中央処理装置800から受け取った情報に基づいて患者に血管作動薬を送達することで、患者の生理状態(例えば、心拍数、全身血圧もしくは身体の個々の領域内の血圧、大動脈の血流量、またはそれらから導き出される数学的関係を含む他のマーカー)を調節する(例えば、上昇または低下させる)ことができる。一態様では、静注薬ポンプ1000は、静注薬ポンプ1000が、生理学的情報の測定値を示すデータをセンサ106から直接受け取り、生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、該比較に基づいて患者に血管作動薬を送達するように、センサ106に作動的に接続された、それ自体のプロセッサを含みうる。
【0072】
一態様では、システム100は静注輸液ポンプ1100を含みうる。静注輸液ポンプ1100は、末梢IVまたは中心IVを通じて患者に輸液および/または血液製剤を送達することができる。外部中央処理装置800のプロセッサ802は、生理学的情報の測定値が、様々な生理学的パラメータ(例えば、血圧、心拍数、血流量測定値を含む組織灌流指数)に関連する目標生理学的範囲内にあるか否かを判定し、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲外にある場合に患者の生理状態を目標生理学的範囲内にするために必要な血管作動薬の量の適切な変化を示す情報を計算し、通信回路806を通じて(例えば、WiFi、Bluetooth、Wixelベース通信、もしくはセルラー通信、または有線接続のうちの少なくとも1つを通じて)静注輸液ポンプ1100に情報を伝達することができる。静注輸液ポンプ1100は、外部中央処理装置800から受け取った情報に基づいて患者に輸液および/または血液製剤を送達することで、患者の生理状態(例えば、心拍数、全身血圧もしくは身体の個々の領域内の血圧、大動脈の血流量、またはそれらから導き出される数学的関係を含む他のマーカー)を調節する(例えば、上昇または低下させる)ことができる。一態様では、静注輸液ポンプ1100は、静注輸液ポンプ1100が、生理学的情報の測定値を示すデータをセンサ106から直接受け取り、生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較し、該比較に基づいて患者に輸液および/または血液製剤を送達するように、センサ106に作動的に接続された、それ自体のプロセッサを含みうる。
【0073】
図9を参照して、本開示の原理に従って血管内灌流増加のために大動脈血流調節の程度を自動で動的に調節するための例示的な方法を説明する。方法900を使用することで、例えば敗血症または外傷によるショックの患者に対してEPACCを行うことができる。段階902において、カテーテル102の先端部103が大腿動脈または橈骨動脈を通じて患者に導入され、これにより、先端部103に設置されている拡張式血流調節装置104が大動脈内に配置される。先に記載のように、拡張式血流調節装置104は、バルーンカテーテル200、ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300、400、大動脈内セイルカテーテル500、またはケージ型バルーンカテーテル600を含みうる。一態様では、カテーテル102は、1つの拡張式血流調節装置が大動脈の一区域(例えば、区域1)内に配置されかつ別の拡張式血流調節装置が大動脈の異なる区域(例えば、区域3)内に配置されるように、複数の拡張式血流調節装置を含みうる。
【0074】
段階904において、拡張式大動脈血流調節装置104が拡張し、それによって大動脈の血流を調節することができる。例えば、カテーテル制御装置700の駆動機構708によって、バルーンカテーテル200のバルーン204は、大動脈の血流を調節するように膨張することができ; ワイヤ・オーバー・バルーンカテーテル300、400のバルーン304、404は、大動脈を完全に遮断するように膨張することができ、その直後にワイヤ306、406を締め付けることによりバルーン304、404は、大動脈を部分的にのみ遮断するように陥凹することができ; ワイヤ骨格502は、薄膜504が部分的にのみ大動脈を遮断するように拡張することができ; かつ/または、コンプライアント内側バルーン606は、ノンコンプライアント外側バルーン602の窓部604から突出するように膨張することで大動脈を部分的にのみ遮断することができる。
【0075】
段階906において、センサ106は大動脈の血流を示す生理学的情報を測定することができる。例えば、上記のように、センサ106は、血圧、心拍数、中心静脈圧、末梢血管抵抗、呼吸数、肺動脈圧、および頭蓋内圧を示す情報を測定することができる。センサ106は、患者の生理状態を効果的にモニタリングするために利用される、各拡張式血流調節装置より基端側および/または先端側に位置づけられた1つまたは複数のセンサを含みうる。
【0076】
カテーテル制御装置700のプロセッサ702、または外部中央処理装置800を利用する場合のプロセッサ802は、段階908において生理学的情報の測定値を目標生理学的範囲と比較することができ、段階910において、生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲内にあるか否かを判定することができる。段階910において生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲内にあると判定される場合、方法300は、拡張式血流調節装置104の現在の拡張状態を維持し、段階906に戻って患者の生理学的状態の測定を続けることができる。段階910において生理学的情報の測定値が目標生理学的範囲の外にある(例えば、目標生理学的範囲を超えるかまたはそれに満たない)と判定される場合、カテーテル制御装置700は、患者の生理状態を目標生理学的範囲内にするために必要な拡張式血流調節装置104の拡張の変化量を決定することができ、段階912において、駆動機構708が拡張式血流調節装置の拡張または収縮を調整する(例えば、バルーンを膨張もしくは縮小させるかまたはワイヤを締め付けるかもしくは緩めるように促す)ことで、大動脈の血流量を調整することができる。外部中央処理装置800を利用する場合、プロセッサ802は、段階910において決定された、患者の生理状態を目標生理学的範囲内にするために必要な拡張式血流調節装置104の拡張の変化量を示す情報を、通信回路806および706を通じてカテーテル制御装置700に伝達した後、段階912に進む。
【実施例
【0077】
EPACCを標準的救命救急と比較する試験
EPACCを標準的救命救急(STD)と比較する試験がTravis空軍基地David Grant Medical CenterのThe Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認された。試験の流れの概要を図10に示す。例えば、最初に体重60~95kgの健康な成体の去勢雄および非妊娠雌ヨークシャー交雑種ブタ(イノシシ)を最低10日間順化させた後、実験を行った。脾摘出を行った後、全血液量の25%を制御下で30分かけて出血させることで、出血性ショック虚血再灌流障害を作り出した。これに続く低血圧を45分間の下行胸部大動脈遮断により処置することで、近位側の血行動態を改善し、遠位側の身体虚血を誘導した。45分間の遮断期の後、すべての動物を自身の流血で蘇生させ、続いて2つの救命救急群であるSTDまたはEPACCのうちの1つにランダム化した。STDは、以下でさらに詳細に説明する所定の救命救急アルゴリズムに基づいて晶質輸液を送達し、昇圧剤のタイトレーションを行う、自動救命救急プラットフォームによって行った。EPACCにランダム化された動物において下行胸部大動脈の自動部分大動脈遮断を行うことで血圧を目標範囲(近位側の平均動脈圧60~70mmHg)内に維持し、ベースライン大動脈血流量(BAF)の80%(重量ベースの推定値)を最小大動脈血流閾値とした。当業者が理解するように、他の最小大動脈血流閾値を使用してもよい。例えば、患者が例えば高心拍出量状態(低血圧だが非常に高い心拍出量)である場合、BAFの60%などの低い閾値または120%などの高い閾値である。漸進的バルーン膨張により血流がこの閾値に到達すると、さらなるバルーン支援は行わなかった。このシナリオにおいて血圧を目標範囲まで上昇させるために、STD群と同じ静注輸液および昇圧剤の自動投与アルゴリズムを適用した。6時間の合計試験期間後、動物を屠殺し、臓器の組織学的解析による剖検に供した。
【0078】
具体的には、動物を12時間絶食させた後、実験を行った。予め動物にチレタミン/ゾラゼパム(TELAZOL、アイオワ州フォートドッジ、Fort Dodge Animal Health)6.6mg/kgを筋肉内投薬した。イソフルラン導入および気管内挿管の後、100%酸素中2%イソフルランで全身麻酔を維持した。実験開始時の輸液最適化を確実にするために、すべての動物は1リットルボーラスのPlasma-Lyte(イリノイ州ディアフィールド、Baxter)を受け取った。全身麻酔の血管拡張効果を相殺するために、ノルエピネフリンの静注輸液(0.01mg/kg/分)を静脈アクセスにより開始し、実験前にタイトレーションすることで目標平均動脈圧65~75mmHgを達成した。動物を機械的に人工呼吸させることで終末呼気CO2を40±5mmHgに維持した。最初の外科的準備中に、腹部を閉鎖するまでPlasma-Lyte維持IV輸液を速度10mL/kg/時で投与した。腹部閉鎖後、残りの試験中に維持輸液を5mL/kg/時で続けた。静脈内ヘパリンを投与して活性凝固時間(ACT)100秒を達成した。アンダーボディウォーマーを使用して深部体温を35~37℃に維持し、深部体温が35℃未満に低下した場合はホットエアボディウォーマーを設置した。
【0079】
大きな開腹および膀胱瘻管の配置の後、脾摘出術を行うことで自己血輸血による血行動態変動を最小化した。左横隔膜を分割し、左下肺間膜を切開することで、腹腔上腹部大動脈を露出させた。大動脈を外周方向に長さ5~10cm切開し、2つの隣接する肋間動脈を結紮した。血管周囲血流プローブ(ニューヨーク州イサカ、Transonic)を2つの結紮肋間動脈の近くに配置した。さらなる血流プローブを右頸動脈および左腎動脈上に配置した。右腎生検の後、腹部をケーブルタイで閉鎖した。外科的静脈切開の後、7 Fr動脈シース(ノースカロライナ州モリスビル、Teleflex)を右総大腿動脈に配置し、12 F動脈シース(ノースカロライナ州モリスビル、Teleflex)を左総大腿動脈に配置した。輸血輸液および蘇生輸液のために二重管腔10 Fr静脈蘇生ライン(インディアナ州ブルーミントン、Cook Medical)を左大腿静脈に配置した。両側外頸静脈を外科的に露出させ、7 Fr三重管腔カテーテル(インディアナ州ブルーミントン、Cook Medical)および7 Fr動脈シース(ノースカロライナ州モリスビル、Teleflex)をカニューレ挿入することで、維持輸液および血管作動薬の投与を可能にした。外科的露出の後、近位側血圧測定のために9 Fr動脈シース(ノースカロライナ州モリスビル、Teleflex)を左腋窩動脈に配置した。右上腕動脈を露出させ、7 Frシース(ノースカロライナ州モリスビル、Teleflex)をカニューレ挿入することで初期流血を促進した。CODA-LPカテーテル(インディアナ州ブルーミントン、Cook Medical)を左大腿12 Fr動脈シースを通じて導入し、大動脈血流プローブのすぐ遠位に位置づけた。
【0080】
近位側および遠位側の血圧、大動脈血流量、腎血流量、頸動脈血流量、心拍数、中心静脈圧、ならびに深部体温の生理学的測定値をBiopac MP150(カリフォルニア州ゴレタ、Biopac Corporation)マルチチャネルデータ取得システムによってリアルタイムで収集した。実験開始時に安楽死の前に全血球数および基礎代謝パネルを収集した。動脈血液ガス、尿、および血清を実験全体を通じて定期的に収集し、尿および血清を後の解析用に-80℃で凍結させた。安楽死の後、剖検を行ったところ、肉眼解剖学的異常が認められた。心臓、肺、脳、腎臓、大動脈、小腸および大腸、ならびに遠位筋肉組織を試料採取し、処置群に対して盲検化された獣医による病理学的および組織学的解析のために固定した。組織学的スコアは、0(エビデンスなし)、1(最小)、2(軽症)、3(中等症)、および4(重症)と規定された。
【0081】
自動治療プラットフォームは、無線通信可能な4つの装置から構成された。中央処理装置(CPU)内のマイクロプロセッサがBioPacデータ取得システムから生理学的データを受け取り、CPUが所定のアルゴリズムに基づいて3つの周辺装置に命令を無線伝達した。血管内カテーテルを制御する自動シリンジポンプ、ノルエピネフリンの投与をタイトレーションするシリンジポンプ、およびIV晶質液ボーラスを与える蠕動ポンプ。
【0082】
血液蘇生法の後、動物を実験のEPACCアームまたはSTDアームにランダム化した。以下に概要を示すように、EPACC群の動物は、カスタム閉ループ適応フィードバックアルゴリズムを実行することで大動脈の区域I内のCODA LPのバルーン体積を制御する無線自動シリンジポンプを使用する自動血管内支援を受けた。

pMAP<60mmHg かつ CVP<7mmHg かつ 大動脈血流量>標準値の80%(重量ベース)である場合 → バルーン支援を増加
pMAP<60mmHg かつ CVP<7mmHg かつ 大動脈血流量<標準値の80%(重量ベース)である場合 → バルーン支援を減少
pMAP<60mmHg かつ CVP<7mmHg かつ 大動脈血流量<標準値の80%(重量ベース)である場合 → 輸液ボーラス、およびNEを0.02mcg/kg/分増加
pMAP<60mmHg かつ CVP 7~9mmHg かつ 大動脈血流量<標準値の80%(重量ベース)である場合 → 輸液ボーラス、およびNEを0.01mcg/kg/分増加
pMAP<60mmHg かつ CVP>9mmHg かつ 大動脈血流量<標準値の80%(重量ベース)である場合 → NEを0.01mcg/kg/分増加
pMAP<60mmHg かつ CVP>9mmHg かつ 大動脈血流量<標準値の80%(重量ベース) かつ NE = 0.2mcg/kg/分である場合 → 輸液ボーラス
pMAP 60~70mmHgである場合は何もしない
pMAP>70mmHgである場合 → NEを0.01mcg/kg/分減少
【0083】
例えば、平均近位動脈(pMAP)血圧が60mmHg未満になり、かつ大動脈血流量がBAFの80%を超えた場合、部分的なバルーン膨張によって血管内支援を与えることができた。大動脈血流量がBAFの80%未満に低下した場合、大動脈血流量が目標閾値に戻るまでバルーンの体積を減少させることで大動脈遮断の程度を減少させた。上記のように、患者の状態に応じて、BAFのより高いまたはより低い最小大動脈血流閾値を使用することができる。持続的な低血圧が生じた場合、CODA LPバルーンの近位側の継続的CVPおよび平均動脈圧読取値に基づいて、標準的救命救急アルゴリズムを通じて晶質液ボーラスおよびノルエピネフリンを与えることができた。
【0084】
以下に概要を示すように、本試験のSTDアームの動物に標準的プロトコルに基づいて晶質液ボーラスを投与し、昇圧剤のタイトレーションを行った。

pMAP<60mmHg かつ CVP<7mmHgである場合 → 輸液ボーラス、およびNEを0.02mcg/kg/分増加
pMAP<60mmHg かつ CVP 7=9mmHgである場合 → 輸液ボーラス、およびNEを0.01mcg/kg/分増加
pMAP<60mmHg かつ CVP>9mmHgである場合 → NEを0.01mcg/kg/分増加
pMAP<60mmHg かつ CVP>9mmHg かつ NE = 0.2mcg/kg/分である場合 → 輸液ボーラス
pMAP 60~70mmHgである場合は何もしない
pMAP>70mmHgである場合 → NEを0.01mcg/kg/分減少
【0085】
事前に、救命救急期についての目標MAP範囲を60~70mmHgと定めた。70mmHgを超える血圧を有する動物については、バルーン支援を休止する前に、昇圧薬初期用量に到達するまで昇圧薬を優先的に休止した。昇圧薬がベースライン量に到達したら、血流が完全に回復するまでバルーン支援を休止した。
【0086】
データ解析をSTATAバージョン14.0(テキサス州ブライアン、Stata Corporation)によって行った。連続変数を、正規分布している場合は平均値および平均値の標準誤差として示し、正規分布していない場合は中央値および四分位範囲として示す。T検定を使用して正規分布連続データを比較し、Wilcoxson順位和検定を正規分布していないデータに使用した。二分変数およびカテゴリー変数をカイ二乗検定により解析し、パーセントとして示した。統計的有意性をp<0.05に設定した。
【0087】
以下の表1に示すように、STD群とEPACC群との間でベースライン特性または初期実験パラメータの有意差は存在しなかった。
【0088】
(表1)ベースライン特性
出血期の後、両群の動物は同様の血圧低下を示した。
【0089】
以下の表2に示すように、大動脈遮断中は、最大近位MAPまたは平均近位MAPの有意差は存在しなかった(pMAP:平均近位動脈圧;dMAP;平均遠位動脈圧)。
【0090】
(表2)処置群間の血行動態
【0091】
図11および図12に示すように、救命救急期に、EPACC群の動物はより高い平均MAP(EPACC 65mmHg、95CI 64~66; STD 60mmHg、95CI 57~63; p<0.01)、より低い遠位MAP(EPACC 42mmHg、95CI 38~46; STD 55mmHg、95CI 51~59; p<0.01)、およびより低い大動脈血流量(EPACC 35ml/kg/分、95CI 32~38; STD 51ml/kg/分、95CI 41~46; p=0.01)を示した。図11に示すように、EPACC動物は、救命救急中、STD動物と比べて長い期間にわたって目標近位MAP内にとどまった(EPACC 95.3%、95CI 93.2~97.4; STD 51.0%、95CI 29.5~72.6; p<0.01)。
【0092】
図12を参照すると、また以下の表3に示すように、バルーン膨張の直後は最大乳酸値に有意差は存在しなかった(STD 9.6mg/dL、95CI 8.5~10.7; EPACC 9.8mg/dL、95CI 9.1~10.6; p=0.87)。
【0093】
(表3)群間の治療介入および実験値
【0094】
図13に示すように、試験の救命救急期に、EPACC動物は、STD群に比べて必要とする静注用晶質液が少なく(EPACC 21ml/kg mg/dL、95CI 0~42; STD 96ml/kg、95CI 76~117; p<0.01)、必要とするノルエピネフリンの用量が少なく(EPACC 5mcg/kg/分、95CI 0~16; STD 51mcg/kg/分、95CI 37~64; p<0.01)、EPACC群は試験の救命救急期での低血糖エピソードの発生率が低かった(EPACC 動物6匹中1匹、16.7%; STD 動物6匹中4匹、66.7%、p=0.08)。
【0095】
図13に示すように、試験の終わりまで、最終乳酸値または最終P:F比の差は存在しなかったが、EPACC群の動物は、より高いクレアチニン値を示した(EPACC 2.3mg/dL、95CI 2.1~2.5; STD 1.7mg/dl、95CI 1.4~2.0; p<0.01)。さらに、群間で尿N-Gal対血清N-Galの比の差は存在しなかった(EPACC 76.0%、95CI 0~185.1; STD 53.7%、95CI 0~132)。組織学的解析において腎臓内の浮腫はEPACC群の動物の方が多かった(EPACC 2、IQR 2~2; STD 0.5 IQR 0~2、p=0.02)が、直接可視化において細胞損傷量の差は存在しなかった(EPACC 2、IQR 0~3; STD 0、IQR 0~2、p=0.16)。小腸、大腸、または脊髄の組織学的解析において差は存在しなかった。
【0096】
本試験の目的は、血管拡張性ショックモデルにおける自動血管内大動脈バルーンカテーテルを使用する近位側血圧の部分的上昇が、遠位側の虚血性代謝産物を除去しかつ遠位側の血管床を灌流するために十分な血流を維持しながら心臓、肺、および脳への血行動態を改善することにより蘇生補助手段として役立ちうるか否かを判定することであった。このアプローチの実行可能性を、近位側血圧および大動脈血流に応じてバルーンの体積を正確に制御する自動シリンジポンプを使用して実証した。血管内支援に関して積極的な閾値を使用することで、全体的な虚血負荷を増加させることなく輸液および昇圧剤の必要量の改善が示された。EPACCは、血圧目標ならびに輸液および昇圧剤の蘇生必要量が同様であるにもかかわらず、バルーンの近位側の平均血圧と、所定の目標血圧範囲の持続時間との両方を改善した。EPACCによって血清クレアチニンが増加したが、組織学的解析における腎損傷の程度の差は存在しなかった。
【0097】
虚血再灌流障害による血管拡張性ショックは、大動脈の完全遮断を必要とする手技の後には一般的である。敗血症性ショック状態と同様に、患者は、初期の治療介入に応答しないことが多く、心臓および脳への灌流を最適化するために多量の晶質輸液および高用量の昇圧薬を必要とすることがある。多くの場合、これらの治療介入は、それ自体が有害であり、過度の血管収縮による肺水腫、心不全、脳浮腫、ならびに遠位臓器および四肢の虚血を引き起こすことがある。大部分の極端な症例においては、患者の心血管系は、どの治療介入にも応答しないことがある。この難治性状態は、持続性低血圧、電解質代謝異常および糖代謝異常、多臓器虚血、ならびに死亡を引き起こす。ショックを治療するために使用される蘇生アルゴリズムおよび薬物に関する臨床的コンセンサスは絶えず洗練されているが、難治性状態に関する革新は最近提案されていない。これらのシナリオにおいて、EPACCは実行可能な補助手段となりうる。血管内技術および血管内器具は、装置の小型化および機能性の向上に向けて着実に進歩することで、過去20年にわたって大きく向上した。例えば、現在、出血性外傷患者の出血を止めるために小さな7 Frカテーテルが日常的に使用されており、有望な結果が得られている。これらの小型カテーテルの開発は、標準的救命救急蘇生の補助手段としての血管内技術に道を開いた。
【0098】
血管拡張性ハイパーダイナミックショックモデルを使用することで、大動脈の部分遮断が、標準的救命救急と同様の量で虚血性代謝産物を除去するために十分なレベルの遠位側灌流を維持しながら近位側血圧を上昇させかつ蘇生必要量を減少させることが実証された。心臓ショックおよび神経原性ショックを例外として、大部分の種類のショックは、最小限の血管内血流量回復後であってもハイパーダイナミック心拍出状態を示す。この心拍出量の増加は、拡張期低血圧を特徴とする拡張期充満期間の冠動脈低灌流によって弱められることがある。したがって、過剰な心拍出は、遠位組織を灌流しかつ虚血を最小化するために不十分であるというだけでなく、冠動脈灌流不全の状況で心仕事量も増加させる。この悪循環は心血管虚脱を引き起こすことがある。
【0099】
ショック状態の現行の治療補助手段は、全身血行動態に対処することしかできず、したがって、心臓への灌流を最適化する前に大量の晶質液および高用量の昇圧剤が必要になることがある。EPACCは、標準的救命救急を増強するための新規治療介入を提示する。EPACCにより遠位大動脈血流は弱められるが、動物は大きな乳酸負荷をSTD群と同様になお除去することができた。この結果は、遠位組織床への重量ベースの標準値を超えた過剰な大動脈血流が虚血性副産物のクリアランスを必ずしも促進しないことを示唆している。このことは、この新規治療法の潜在的安全性を理解する際に決定的な知見であり、すなわち、EPACCによって大動脈血流を減弱させて損傷前の正常レベルに戻すことで損傷組織のさらなる虚血が生じることはない。本質的に、虚血に応答した充血性大動脈血流状態は、必ずしも有益であるわけではなく、実際には損傷に対する病的応答となりうる。逆に、これは、ハイパーダイナミック心臓状態においてEPACCによって大動脈血流をより生理学的な範囲まで減弱させることが、さらなる遠位虚血負荷を負うことなく全体的心仕事量を減少させるという点で有益でありうることを示唆している。
【0100】
EPACCは、大動脈血流の減弱以外に、部分遮断レベルよりも低い平均動脈圧を本質的に生じさせる。本試験において、EPACC動物は、従来の救命救急に比べて有意に低いバルーンの近位側の血圧を一貫して示した。この知見は、EPACCによって維持された遠位側の血圧が虚血性代謝産物を除去するために十分であったこと、および、ショックにおける65mmHg超という伝統的な拡張期目標血圧が、ソースコントロールが達成された後に十分な組織灌流を維持するために必要ではない可能性があることを示唆している。
【0101】
重症血管拡張性ショックの状況では、十分な血圧を維持することは、個々の患者に対して最大限の資源および努力を傾注するにもかかわらず、しばしば困難である。本発明者らは、目標血圧が同様であっても、EPACCがSTDに比べて救命救急期全体を通じて平均動脈圧を改善することができたことを実証した。これらの知見は、EPACCで認められた2つの別々の現象の結果でありうる。第1に、EPACCは、血圧変動に応答して秒単位でバルーン体積をほぼ即時的に調整することが可能である。送達されて効果を示すために時間を要する静注用晶質液または静注用昇圧薬の投与とは異なり、血圧の機械的上昇は即時的である。したがって、EPACC治療介入のより高い正確性とその迅速な効果との組み合わせにより、血行動態の一貫性を作り出す数多くの微細な調整が行われる。おそらくこれが、目標血圧範囲内にある時間の割合(%)がEPACCにおいてより高くなることの理由である。EPACC群内で血行動態が改善されたことの第2のありうる理由は、大動脈根近傍の後負荷の増加が、昇圧剤による細動脈血管収縮の増加なしに達成されることにより生じる、冠動脈灌流に対する好ましい効果である。したがって、EPACCは、冠動脈灌流を最適化することにより、IV輸液および昇圧剤の重要な補助手段となりうる。
【0102】
EPACCは、ショック全般に適用可能であることに加えて、遠位虚血性代謝産物の洗い流しを制御することで大動脈遮断後の虚血再灌流障害(IRI)の蘇生における明確な役割も示しうる。IRIを伴う多発外傷被害者は相当に特殊な患者であるが、外傷に対するREBOAの開始は重度遠位虚血によるIRIの発生を増加させる。これらの虚血性組織は、心抑制を結果的に伴う再灌流中に、炎症性サイトカインを示すが、高カリウム血症も生じさせうる。本試験における両群の動物は重度IRIを示したが、EPACCは、より少ない大動脈血流量により証明されるように、救命救急期の大部分において遠位血流を制御した。ベースライン大動脈血流量へのこの漸進的な回帰は、虚血性代謝産物の洗い流しを遅らせた可能性があり、損傷組織の再灌流の直接的結果として生じる継続的な損傷を最小化する役割を果たした可能性がある。先行研究は、虚血および再灌流中の組織床の損傷が、初期虚血の結果であるだけでなく、虚血組織と酸素含有血液の再導入との反応の結果でもあることを示している。この組織への酸素の再導入によって、活性酸素種の急速な発生、当初の虚血中に既に損傷したミトコンドリアのMPT孔の開口、細胞内へのカルシウム流入、血管拡張の増加を伴う典型的な内皮機能障害、および、より大きな炎症応答の発生が生じる。現時点では、遠位組織への酸素含有血液の再導入を遅くすることが有益なのか否か、または再導入をいつどのようにして行うべきかのニュアンスは依然として不明である。にもかかわらず、本試験は、EPACCが遠位再灌流を厳密に制御する機能を有することを実証している。最終的に、この制御された血流の再導入は、後続の再灌流障害を最小化することに役立ちうる。
【0103】
重篤患者の蘇生は、医療施設には相当な負担であり、物理的資源および注意能力を消耗する。この負担は、瞬間的に相当なものであるというだけでなく、しばしば長期間持続する。資源が限定的な環境では、利用可能な資源が1人の重篤患者に圧倒的に使用されることで、複数の臨床患者に対する高品質な治療が妨げられることがある。したがって、これらの乏しい資源の利用を最小化する戦略は、より多くの患者に対するより高品質の治療を本質的に可能にするであろう。EPACCは救命救急環境におけるこれらの主要な問題のうちいくつかに対処する。第1に、EPACCは、大量の晶質液投与に対する依存、および血管作動剤の長期輸液の必要性に制限を加えることができる。これは、大量の晶質液または昇圧薬を維持する能力が実行不可能である、資源に乏しいシナリオでの治療において特に重要である。第2に、EPACCは、自動化機能の使用を通じて、医療提供者の継続的関与に依存することなく血行動態を維持し、重症患者を治療するために求められる注意の必要性を効果的に軽減することができる。これにより、持続的で高レベルの治療を複数の患者に対して同時に行う機会が得られる。最後に、この技術は、大規模な資源を必要とせずに患者の治療移行または輸送を可能にする。これは、田舎の医療施設または過酷な軍事環境からの長期の救命救急輸送のシナリオにも当てはまる。
【0104】
重篤患者の治療においてはプロトコル化アルゴリズムを通じて大きな改善がなされたが、ヒューマンエラーおよびシステム上の制約により、十分な蘇生がなお失敗する。例えば、大量の輸液ボーラスに耐容性を示さない患者は心不全または肺水腫にかかりやすく、一方、心血管機能を最適化するために十分な血管内血流量を与えることができないことも同じく有害である。
【0105】
救命救急用のEPACCの開発は、軍医および開業医に関して存在しうる長期の現地治療シナリオにおいて物質必要量を最小化する必要性が高まっていることにより推進されており、したがって、何らかの遠位虚血の進行を潜在的に招きながら物質的利点を最大化しようとして積極的な量の機械的血圧上昇が選択された。自然な大動脈血流量が標準値の80%(重量ベース)未満になるまで輸液投与を開始しないというこの戦略は、輸液および昇圧剤の必要量を劇的に減少させたが、クレアチニンの増加も伴った。このクレアチニンの増加は、群間の組織状態の変化、または直接腎損傷のマーカーである尿:血清n-gal濃度の差と関連していなかった。クレアチンの増加は、腎血流の予測される減少および後続の濾過の減少に続きうる。また、尿:血清n-gal比の小さく有意ではない増加は、試験期間が短いことからまだ明らかではないか、または試験において動物数が少ないことから有意ではない、腎損傷の初期エビデンスでありうる。将来の長期生存試験、ならびに、それを超えると輸液および昇圧剤の投与が復活する最適最小大動脈血流閾値を確立するための用量反応曲線は、EPACCの潜在力および安全性を完全に理解するために必要である。
【0106】
本試験にはいくつかの限界がある。第1に、これは総実験時間がわずか6時間の限定的な生存試験であった。外傷および治療介入による多くの生理学的結果はしばしば遅延する。おそらく、生理状態または組織状態に関する群間の決定的な差は、より長期間の試験によって明らかになるであろう。第2の限界は、本試験において単一「用量」のEPACCしか試験しなかったということである。任意の治療介入と同様に、EPACCを、静注輸液または昇圧剤の添加前に与えられるバルーン支援の量に関して調整することができる。本試験では、重量調整ベースライン大動脈血流量の80%の「用量」を選択した。しかし、上記のように、特定の患者の状態に応じて、他の最小大動脈血流閾値を使用することができる。最後に、本試験では1つのショック状態しか試験しなかった。虚血再灌流によるショック状態は、他の病因のショックと異なることがありうる。したがって、敗血症性ショックなどの他の種類のショックに対する血管内支援の潜在的有用性を完全に理解するには、さらなる試験が必要である。これらの限界にもかかわらず、本稿は、虚血再灌流障害によるショックの患者について物質必要量を最小化するために血管内支援を包含する完全自動化救命救急プラットフォームに関する最初の記載である。さらに、本稿は、難治性ショック患者に対する新規治療アプローチとなりうるものであり、従来の治療に関連する罹患および死亡を最小化するために生理学的混乱の程度を減少させるという点で有利でありうる。
【0107】
したがって、単独の自動化救命救急プラットフォームにEPACCを付加することで、平均近位MAPと目標血圧の持続時間との両方が増加する一方で、蘇生に関する物質必要量が有意に減少した。EPACCは試験の終わりまでに血清クレアチニン濃度を上昇させたが、群間で腎損傷または組織状態のマーカーに差は存在しなかった。
【0108】
本開示の様々な例示的態様を上記で説明したが、当業者には、本開示を逸脱することなく本開示に様々な変更および修正を加えることができることは明らかであろう。添付の特許請求の範囲は、本開示の真の範囲内にあるすべての変更および修正を包含するように意図されている。
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