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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021150414
(22)【出願日】2021-09-15
(62)【分割の表示】P 2020068731の分割
【原出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021185442
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019117714
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮野 皓貴
(72)【発明者】
【氏名】小泉 僚
(72)【発明者】
【氏名】茂泉 純
(72)【発明者】
【氏名】三上 晃司
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-232213(JP,A)
【文献】特表2015-510694(JP,A)
【文献】特開2005-051147(JP,A)
【文献】特開2011-109088(JP,A)
【文献】特開2003-234276(JP,A)
【文献】特開2005-311020(JP,A)
【文献】特開平10-199782(JP,A)
【文献】特表2017-538156(JP,A)
【文献】特開2006-073584(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0049202(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置であって、
前記投影光学系の温度分布を制御する第1温度制御部と第2温度制御部とを含む温度調整部を備え、
前記露光動作が実施される第1期間において、前記露光動作が実施されることによる前記投影光学系の収差の変化が低減されるように前記第1温度制御部と前記第2温度制御部の少なくとも一方が動作し、
前記第1期間に続く、前記露光動作が実施されない第2期間において、前記露光動作が実施されないことによる前記収差の変化が低減されるように前記第1温度制御部と前記第2温度制御部の少なくとも一方が動作し、
前記温度調整部は、前記収差としてゼルニケ多項式におけるNθ成分(Nは自然数)の少なくとも1つを低減する
ことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記第1期間において、前記温度調整部は、前記第1期間の開始時からの経過時間に応じた指令値に従って光学素子の温度分布を制御し、
前記第2期間において、前記温度調整部は、前記第2期間の開始時からの経過時間に応じた指令値に従って光学素子の温度分布を制御する、
ことを特徴とする請求項に記載の露光装置。
【請求項3】
前記温度調整部は、前記温度調整部によって温度分布が制御される光学素子の有効径の外側に配置されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記温度調整部は、前記収差として非点収差を低減する、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記第1期間は、1枚の基板に対する最初の前記露光動作の開始から前記1枚の基板に対する最後の前記露光動作の終了までの期間である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記第2期間は、前記1枚の基板に対する前記最後の前記露光動作の終了時に開始する期間である、
ことを特徴とする請求項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記第1期間は、第1ロットにおける1枚目の基板に対する最初の露光動作の開始から、前記第1ロットの最後の基板に対する最後の露光動作の終了までの期間である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記第2期間は、前記第1ロットの最後の基板に対する最後の露光動作の終了から、前記第1ロットに続く第2ロットにおける1枚目の基板に対する最初の露光動作の開始までの期間である、
ことを特徴とする請求項に記載の露光装置。
【請求項9】
前記第1期間は、基板における1つのショット領域に対する露光動作の開始から前記1つのショット領域に対する前記露光動作の終了までの期間である、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記第2期間は、前記基板における前記1つのショット領域に対する前記露光動作の終了から、前記1つのショット領域に続くショット領域に対する露光動作の開始までの期間である、
ことを特徴とする請求項に記載の露光装置。
【請求項11】
前記第1温度制御部と前記第2温度制御部とは、互いに異なる位置に配置されている、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項12】
前記第1期間において、前記第1温度制御部は、前記収差の変化が低減されるように熱を発生し、
前記第2期間において、前記第2温度制御部は、前記収差の変化が低減されるように熱を発生する、
ことを特徴とする請求項11に記載の露光装置。
【請求項13】
前記第1期間において、前記収差の変化が低減されるように前記第1温度制御部および前記第2温度制御部が動作し、
前記第2期間において、前記収差の変化が低減されるように前記第1温度制御部および前記第2温度制御部が動作する、
ことを特徴とする請求項11に記載の露光装置。
【請求項14】
前記第1期間および前記第2期間において、所定範囲内での前記収差の変化を許容しつつ、前記収差が前記所定範囲から外れないように、前記第1温度制御部および前記第2温度制御部が動作する、
ことを特徴とする請求項13に記載の露光装置。
【請求項15】
投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光方法であって、
前記露光動作が実施される第1期間において、前記露光動作が実施されることによる前記投影光学系の収差の変化が低減されるように、温度調整部に含まれる第1温度制御部と第2温度制御部の少なくとも一方が動作することによって前記投影光学系の温度分布を制御する第1工程と、
前記第1期間に続く、前記露光動作が実施されない第2期間において、前記露光動作が実施されないことによる前記収差の変化が低減されるように、前記第1温度制御部と前記第2温度制御部の少なくとも一方が動作することによって前記投影光学系の温度分布を制御する第2工程と、
を含み、
前記第1工程および第2工程では、前記温度調整部が、前記収差としてゼルニケ多項式におけるNθ成分(Nは自然数)の少なくとも1つを低減するように動作する
ことを特徴とする露光方法。
【請求項16】
投影光学系を介して基板を露光する露光工程と、
前記露光工程で露光された前記基板を現像する現像工程と、
前記現像工程で現像された前記基板を処理する処理工程と、を含み、
前記露光工程は、
露光動作が実施される第1期間において、前記露光動作が実施されることによる前記投影光学系の収差の変化が低減されるように、温度調整部に含まれる第1温度制御部と第2温度制御部の少なくとも一方が動作することによって前記投影光学系の温度分布を制御する第1工程と、
前記第1期間に続く、前記露光動作が実施されない第2期間において、前記露光動作が実施されないことによる前記収差の変化が低減されるように、前記第1温度制御部と前記第2温度制御部の少なくとも一方が動作することによって前記投影光学系の温度分布を制御する第2工程と、
を含み、
前記第1工程および第2工程では、前記温度調整部が、前記収差としてゼルニケ多項式におけるNθ成分(Nは自然数)の少なくとも1つを低減するように動作し
前記処理工程で処理された前記基板から物品を得ることを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の物品の製造において、原版(レチクル又はマスク)を照明光学系で照明し、投影光学系を介して原版のパターンを基板に投影し基板を露光する露光装置が使用される。投影光学系の結像特性は、露光光の照射によって変動するため、露光装置では、光学素子の姿勢および位置の制御によって結像特性が補正されうる。光学素子の姿勢および位置の制御によって補正が可能な収差成分は限られており、非点収差などの非回転対象な結像特性は補正することができない。特許文献1には、投影光学系の瞳面近傍に配置される光学部材の温度を調整する調整機構によって該光学部材の温度分布を変更し、該投影光学系の光学特性を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5266641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、露光動作が実施される期間中に調整機構によって投影光学系の結像特性を調整することが記載されているに過ぎず、露光動作が実施されない期間中に調整機構によって結像特性の調整を行うことは記載されていない。露光動作が実施されない期間において調整機構による調整を停止すると、露光動作を再開した際に大きな補正残差が発生する可能性がある。これは、露光動作の終了後の結像特性の時間的な変化と調整機構による調整の終了後の結像特性の時間的な変化とが異なるためである。
【0005】
本発明は、上記の課題認識を契機としてなされたものであり、露光動作を停止した後に露光動作を再開した場合にも投影光学系の収差を高い精度で補正するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの側面は、投影光学系を介して基板を露光する露光動作を行う露光装置に係り、前記露光装置は、前記投影光学系の温度分布を制御する第1温度制御部と第2温度制御部とを含む温度調整部を備え、前記露光動作が実施される第1期間において、前記露光動作が実施されることによる前記投影光学系の収差の変化が低減されるように前記第1温度制御部と前記第2温度制御部の少なくとも一方が動作し、前記第1期間に続く、前記露光動作が実施されない第2期間において、前記露光動作が実施されないことによる前記収差の変化が低減されるように前記第1温度制御部と前記第2温度制御部の少なくとも一方が動作し、前記温度調整部は、前記収差としてゼルニケ多項式におけるNθ成分(Nは自然数)の少なくとも1つを低減する
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、露光動作を停止した後に露光動作を再開した場合にも投影光学系の収差を高い精度で補正するために有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の露光装置の構成を模式的に示す図。
図2】第1実施形態の露光装置における光学素子および温度調整部の構成例を示す図。
図3】温度調整部によって加熱されたレンズの温度分布を例示する図。
図4】走査露光装置の投影光学系のレンズを通過する光束の分布を例示する図。
図5】非点収差の変化の時間的特性を例示する図。
図6】第1実施形態の露光装置における投影光学系の収差の補正を例示する図。
図7】第1実施形態の露光装置における投影光学系の収差の補正の一例を示す図。
図8】第2実施形態の露光装置における投影光学系の収差の補正を例示する図。
図9】第3実施形態の露光装置における投影光学系の収差の補正を例示する図。
図10】第3実施形態の露光装置における非点収差以外の収差成分を例示する図。
図11】第4実施形態における加熱素子の構成および配置を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
図1には、第1実施形態の露光装置EXPの構成が模式的に示されている。露光装置EXPは、概略的には、投影光学系107を介して基板110を露光する露光動作を行う。明細書および図面では、図1に示されるように、基板110が配置される面と平行な面をXY平面とするXYZ座標系において方向を示す。露光装置EXPは、光源102、照明光学系104、投影光学系107および制御部100を備えている。露光動作において、照明光学系104は、光源102からの光(露光光)で原版106を照明し、投影光学系107によって原版106のパターンを基板110に投影し、これにより基板110を露光する。露光装置EXPは、原版106および基板110を静止させた状態で基板110を露光する露光装置として構成されてもよいし、原版106および基板110を走査しながら基板110を露光する露光装置として構成されてもよい。一般的に、基板110は、複数のショット領域を有し、各ショット領域に対して露光動作がなされうる。
【0011】
光源102は、例えば、エキシマレーザーを含みうるが、他の発光デバイスを含んでもよい。該エキシマレーザーは、例えば、波長が248nmまたは193nmの波長の光を発生しうるが、他の波長の光を発生してもよい。投影光学系107は、光学素子109と、光学素子109の温度分布を制御する温度調整部108とを含みうる。温度調整部108は、光学素子109に熱エネルギーを与えることによって光学素子109の屈折率分布および/または面形状を変化させ、これにより投影光学系107の光学特性の変化を低減させうる。温度調整部108が光学素子109に与える熱エネルギーは、正および負のエネルギーを含みうる。光学素子109に対して正のエネルギーを与えることは、光学素子109を加熱することを意味し、光学素子109に対して負のエネルギーを与えることは、光学素子109を冷却することを意味する。
【0012】
温度調整部108は、光学素子109と密着するように配置されてもよく、この場合、温度調整部108と光学素子109との間の熱エネルギーの伝達が効率的である。あるいは、温度調整部108は、光学素子109に対して離間して配置されてもよく、当該構成は、温度調整部108によって光学素子109に機械的な力が加えられない点や、温度調整部108によって光学素子109に傷等の損傷が与えられない点で有利である。
【0013】
温度調整部108は、温度調整部108が基板110に対する光の照射を妨げないように、光学素子109の有効径(光路)の外側に配置されることが好ましい。例えば、温度調整部108は、光学素子109としてのレンズのコバ部、該レンズの表面または裏面に配置されうる。あるいは、温度調整部108は、投影光学系107の光学性能に影響を与えない範囲で、有効径の内側に配置されてもよい。このような配置の例としては、例えば、細い電熱線を有効径内に配置する例や、高い光透過率を有する伝熱素子を有効径内に配置する例を挙げることができる。
【0014】
光学素子109の外周側に温度調整部108を配置する場合、光学素子109は、投影光学系107の瞳面またはその近傍に配置されることが好ましいが、温度調整部108は、投影光学系107の瞳面から離隔した配置されてもよい。温度調整部108は、投影光学系107の光学素子109の温度分布を制御する第1温度制御部と、投影光学系107の光学素子109の温度分布を制御する第2温度制御部とを含む複数の温度制御部を含みうる。第1温度制御部は、露光動作が実施される第1期間において、露光動作が実施されることによる投影光学系107の光学特性の変化が低減されるように動作しうる。第2温度制御部は、第1期間に続く、露光動作が実施されない第2期間において、露光動作が実施されないことによる投影光学系107の光学特性変化が低減されるように動作しうる。あるいは、露光動作が実施される第1期間において、露光動作が実施されることによる投影光学系107の光学特性の変化が低減されるように第1温度制御部と第2温度制御部との少なくとも一方が動作しうる。また、第1期間に続く、露光動作が実施されない第2期間において、露光動作が実施されないことによる投影光学系107の光学特性変化が低減されるように第1温度制御部と第2温度制御部との少なくとも一方が動作しうる。複数の温度制御部(第1温度制御部、第2温度制御部)は、光学素子109に与える熱エネルギーの量および継続時間が個別に制御され、これにより光学素子109の温度分布を制御しうる。複数の温度制御部(第1温度制御部、第2温度制御部)は、制御部100によって制御されうる。第1温度制御部によって温度分布が制御される光学素子109と第2温度制御部によって温度分布が制御される光学素子109とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。
【0015】
温度調整部108は、露光動作を実施している期間および露光動作を実施していない期間において、時々刻々と変化する投影光学系107の光学特性に同期させて光学素子109に与える熱エネルギーを変化させうる。ここで、温度調整部108の制御のために必要な情報は、投影光学系107の像面(基板110が配置される面)におい投影光学系107の光学特性を測定し、その結果に基づいて生成されうる。あるいは、温度調整部108の制御のために必要な情報は、測定等を通じて予め決定されてもよい。温度調整部108が光学素子109に与える熱エネルギーの制御は、例えば、温度調整部108が電熱線を含む場合、電熱線に印加する電流値の制御によって実現されてうる。あるいは、温度調整部108が光学素子109に与える熱エネルギーの制御は、例えば、光学素子109と温度調整部108との物理的な距離または熱的な距離の制御によって実現されてもよい。
【0016】
制御部100は、光源102、照明光学系104、投影光学系107および温度調整部108を制御しうる。より具体的には、制御部100は、露光動作を制御する他、第1期間および第2期間において温度調整部108を制御するように構成されうる。制御部100は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。
【0017】
図2には、第1実施形態の露光装置EXPにおける光学素子109および温度調整部108の構成例が示されている。光学素子109は、レンズ201を含みうる。温度調整部108は、加熱素子204a、204bで構成される第1温度制御部204と、加熱素子203a、203bで構成される第2温度制御部203と含みうる。加熱素子204a、204b、203a、203bは、それぞれレンズ201の円周の1/4の円弧に相当する円弧形状を有しうる。加熱素子204a、204b、203a、203bは、例えば、電熱線を含むフレキシブルケーブルで構成され、該電熱線に電流が印加されることによって熱を発生し、レンズ201に温度分布を形成しうる。
【0018】
加熱素子204a、204b、203a、203bは、例えば、レンズ201の平面部に対して10~100μm離隔して配置されうる。加熱素子204a、204b、203a、203bが発生する熱は、加熱素子204a、204b、203a、203bとレンズ201との間の媒体205を経由してレンズ201に伝達されうる。媒体205は、例えば、空気または窒素等の気体でありうる。加熱素子204a、204b、203a、203bは、レンズ201と媒体205を介して直接に対面する必要ない。加熱素子204a、204b、203a、203bは、例えば、高い熱伝導性を有する金属で電熱線を挟んだ構造を有してもよい。
【0019】
図2(b)の例では、加熱素子204a、204b、203a、203bがレンズ201の平面部の上(照明光学系104の側)に配置されている。しかしながら、加熱素子204a、204b、203a、203bは、レンズ201の下(基板110の側)またはレンズ201のコバ部に配置されてもよい。レンズ201は、加熱素子204a、204b、203a、203bによって加熱される被加熱面206を有しうる。被加熱面206は、平面であってもよいし、曲面であってもよい。被加熱面206は、例えば、粗面化された面(すりガラス状の面)でありうる。
【0020】
図3(a)には、第2温度制御部204によって加熱されたレンズ201の温度分布が例示されている。このとき、基板110の表面において、非点収差が正の方向に発生する。図3(b)には、第1温度制御部203によって加熱されたレンズ201の温度分布が例示されている。図3(b)の温度分布は、図3(a)の温度分布に対して逆位相の温度分布である。図3(b)の温度分布により、基板110の表面において、非点収差が負の方向に発生する。このように、第1温度制御部204および第2温度制御部203によるレンズ201の加熱によって、正および負の非点収差を発生させることができる。このような構成は、ペルチェ素子のような素子を使用して加熱と冷却との組み合わせによって正および負の非点収差を発生する構成と比べると、温度調整部108の構成を単純化することができる点で有利である。
【0021】
ここで、X方向に長いスリット状の光束(露光光)に対して原版106および基板110を走査する走査露光装置に露光装置EXPを適用した場合、露光動作時に投影光学系107を通過する光束の強度分布は、図4の斜線部401に示されるようなりうる。この場合、光束を吸収することによって生じるレンズ201(光学素子109)の温度分布は、X方向とY方向とで異なり、これが投影光学系107の大きな非点収差を発生させる原因となりうる。そこで、この非点収差が低減されるように、第1温度制御部204によってレンズ201に温度分布が与えられうる。第1温度制御部204が発生させる投影光学系107の非点収差とレンズ201が光束を吸収することによって発生する投影光学系107の非点収差とは、符号が逆である。したがって、レンズ201が光束を吸収することによって発生する投影光学系107の非点収差は、第1温度制御部204が発生させる投影光学系107の非点収差によって低減されうる。なお、以下では、特に言及しない限り、「非点収差」は投影光学系107の非点収差を意味するものとする。
【0022】
第1温度制御部204によって発生させる非点収差の変化(時間的な変化特性)が、レンズ201が光束を吸収することによって発生する非点収差の変化(時間的な変化特性)と異なる場合がある。この場合、第1温度制御部204の電熱線に供給する電流を制御することによって第1温度制御部204による非点収差の変化を制御し、レンズ201が光束を吸収することによって発生する非点収差をより高い精度で相殺することができる。
【0023】
図5には、非点収差の変化の時間的特性が例示されている。図5において、「露光時」は、露光動作を含む第1期間を示し、「非露光時」は、第1期間に続く期間であり、かつ露光動作が実施されない期間である第2期間を示す。第1の例において、第1期間は、1枚の基板に対する最初の露光動作の開始から該1枚の基板に対する最後の露光動作の終了までの期間でありうる。第2期間は、1枚の基板に対する最後の露光動作の終了時に開始する期間でありうる。第2期間は、例えば、1枚の基板に対する最後の露光動作の終了から次の基板に対する最初の露光動作の開始までの期間である。ここで、該次の基板は、該1枚の基板と同一ロットにおける基板である場合もあるし、次のロットの最初の基板である場合もある。最後に実施された露光動作の後、予め定められた時間が経過した後は、第2期間を終了させ、温度調整部108の動作を停止させることができる。第1の例は、ある基板の1つのショット領域と該基板の次のショット領域との間における収差の変化を無視可能な場合に適している。第2の例において、第1期間は、基板の各ショット領域に対して露光動作が実行される期間であり、第2期間は、ある基板の1つのショット領域に対する露光動作の終了から該基板の次のショット領域に対する露光動作の開始までの期間を含みうる。第2の例は、ある基板の1つのショット領域と該基板の次のショット領域との間における収差の変化を考慮すべき場合に適している。第3の例示において、第1期間は、第1ロットにおける1枚目の基板に対する最初の露光動作の開始から、該第1ロットの最後の基板に対する最後の露光動作の終了までの期間でありうる。第2期間は、第1ロットの最後の基板に対する最後の露光動作の終了から、該第1ロットに続く第2ロットにおける1枚目の基板に対する最初の露光動作の開始までの期間でありうる。第1の例、第2の例および第3の例は、露光動作を大雑把に捉えるかどうかの違いを有するが、両者は、共通の思想として理解されうる。
【0024】
図5において、曲線501aは、第1期間において、レンズ201が光束を吸収することによって発生する非点収差の変化を例示している。第1温度制御部204によるレンズ201の加熱によって、曲線501aの符号を逆にした曲線で変化する非点収差を発生することが、レンズ201が光束を吸収することによって発生する非点収差を低減あるいは相殺する方法として理想的である。しかし、第1温度制御部204によってレンズ201を一定温度で加熱し続けた場合、それによって発生する非点収差は、曲線502aとして例示されるように、曲線501aよりも遅い時定数で変化することが多い。そのため、曲線501aで示される非点収差を完全に補正(相殺)することはできず、曲線503aで示されるような補正残差が生じうる。
【0025】
同様の現象は、第2期間にも発生しうる。第2期間は露光動作が実施されないので、光束がレンズ201を通過しない。したがって、第2期間では、光束の吸収によるレンズ201の温度変化は起こらないが、レンズ201からの放熱によってレンズ201が変形し、これによって非点収差が時間的に変化する。曲線501bは、光束の吸収によって発生した熱がレンズ201から放出(放熱)されることによって発生する非点収差の変化を例示している。曲線501aにおける時定数と曲線501bにおける時定数とは同様でありうる。
【0026】
第1期間から第2期間に移行すると同時に第1温度制御部204によるレンズ201の加熱を停止すると、第1期間において第1温度制御部204によってレンズ201に与えられた熱が第2期間においてレンズ201から放出(放熱)される。それに伴って非点収差が曲線502bのように変化しうる。曲線501bと曲線502bとの間には、曲線501aと曲線502aとの間に存在するような時間的な変化特性の差が存在する。したがって、第2期間においても、曲線503bで示されるような補正残差が生じうる。
【0027】
曲線501a、501b、502a、502bは、一般的には、式1に示されるような1次遅れ系、または、式2で示されるような2次遅れ系で表現されうる。ただし、これらの曲線は、他のモデルにしたがって表現されてもよい。
【0028】
【数1】
・・・式1
【0029】
ここで、φ(t)は、時刻tにおける発生収差量、Aは、時刻tから与えらえる加熱量に関する量、Gは、発生収差量に関する係数、Kは、発生収差量の時定数に関する係数である。
【0030】
【数2】
・・・式2
【0031】
ここで、φ(t)は、時刻tにおける発生収差量、τ1、τ2は、2次遅れを表現する時定数に関する係数、Aは、時刻tから与えらえる加熱量に関する量、Gは、発生収差量に関する係数、Kは、発生収差量の時定数に関する係数である。
【0032】
このような時間的な変化特性の違いによる補正残差を低減するために、第1温度制御部204および第2温度制御部203がレンズ201に与える熱エネルギーが制御部100によって制御されうる。この方法について図6を参照しながら説明する。この方法では、第1温度制御部204、第2温度制御部203がレンズ201に与える熱エネルギーは、それぞれ第1期間、第2期間の開始時からの経過時間に応じた指令値に従って制御されうる。図6(a)には、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに印加される電流601、および、第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流602が例示されている。制御部100は、第1期間の開始時からの経過時間に応じた指令値として電流601に相当する指令値を第1温度制御部204に供給するように構成されうる。また、制御部100は、第2期間の開始時からの経過時間に応じた指令値として電流602に相当する指令値を第2温度制御部203に供給するように構成されうる。図6(b)には、光束の吸収によって発生する非点収差603の変化が例示されている。また、図6(b)には、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bおよび第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流による加熱によって発生する非点収差604の変化が例示されている。また、図6(c)には、補正残差605の変化が例示されている。
【0033】
この例では、第1期間では、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに電流が印加され、第2温度制御部203の加熱素子203a、203bには電流が印加されない。一方、第2期間では、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bには電流が印加されず、第2温度制御部203の加熱素子203a、203bには電流が印加される。一例において、露光動作が実施される第1期間では、制御部100は、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに印加される電流を第1期間の開始時からの経過時間に応じて所定値から徐々に減少させうる。これによって、光束の吸収によって発生する非点収差603の変化に対して、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに印加される電流による加熱によって発生する非点収差604の変化を追従させることができる。
【0034】
一例において、露光動作が実施されない第2時間では、制御部100は、第1温度制御部204による加熱を停止し、第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流を第2期間の開始時からの経過時間に応じて所定値から徐々に減少させうる。これによって、光束の吸収によって発生している非点収差603の変化に対して、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに印加される電流による加熱によって発生する非点収差604の変化を追従させることができる。結果として、露光動作が実施される第1期間においても、露光動作が実施されない第2期間においても、レンズ201の温度分布によって発生する非点収差を基板の露光に問題がないレベルにまで低減することができる。
【0035】
ここで、一般的には、第1温度制御部203および第2温度制御部204を用いてレンズ201の温度分布を均一にする必要はない。これは、補正対象は、レンズ201の非点収差ではなく、投影光学系107の非点収差(投影光学系107を構成する全ての光学素子が光束を吸収することによって生じる投影光学系107の総合的な収差)であるからである。したがって、投影光学系107の総合的な非点収差が補正ない低減されるように、第1温度制御部204および第2温度制御部203によってレンズ201に必要な温度分布を発生させればよい。
【0036】
第1温度制御部204(204a、204b)に印加される電流601および第2温度制御部203(203a、203b)に印加される電流602のプロファイル(時間的な変化)は、該電流値と非点収差の実測値との関係を取得する試験に基づいて決定されうる。あるいは、電流601および電流602のプロファイルは、加熱されているレンズ201の温度分布に基づいて決定されてもよい。あるいは、電流601および電流602のプロファイルは、予め取得したパラメータに基づいてなされてもよい。
【0037】
予めパラメータを取得する方法としては、例えば、投影光学系107を組み立てた後に、温度制御部204、203でレンズ201を加熱しているときの投影光学系107の収差の時間的変化を実測し、その結果に基づいてパラメータを決定する方法がある。この方法によれば、レンズ201の周辺の光学素子および投影光学系107の鏡筒への熱伝達や熱輻射によって生じる収差変化も含めてパラメータを決定することができるので、電流のプロファイルをより高い精度で決定することができる。よって、この方法は、第1温度制御部204および第2温度制御部203によって温度分布が制御されるレンズ201を単体で測定してパラメータを決定する方法よりも優れている。更に、投影光学系107を露光装置EXPに組み込んだ後に投影光学系107の収差を測定してパラメータを決定してもよいし、既に決定されたパラメータを更新してもよい。
【0038】
電流値の決定と印加を行うタイミングは、一定の時間間隔であってもよいし、一定でない時間間隔であってもよい。時間間隔は、例えば0.1~10秒であることが望ましく、1~5秒であることが更に望ましい。また、ロットの先頭などで、予め電流値のプロファイルを決定し、それに従ってロットの処理中における電流値を制御してもよい。温度調整部108によるレンズ201の温度分布の制御によって非点収差以外の収差成分が新たに生じることがある。この場合、新たに生じた収差成分を、投影光学系107を構成する光学素子のシフトおよび/またはチルトなどの駆動や、光源102が発生する光の波長の変更などによって低減することができる。
【0039】
以下、図7および図8を参照しながら第2実施形態を説明する。第2実施形態として言及しない事項は、第1実施形態に従いうる。図7は、第2実施形態に対する比較対象として示された図である。図7(a)には、第1実施形態に従って第1期間に第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに印加される電流値701と、第2期間に第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流値702とが例示されている。図7(b)には、光束の吸収によって発生する非点収差703の変化が例示されている。また、図7(b)には、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bおよび第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流値701、702による加熱によって発生する非点収差704の変化が例示されている。また、図7(b)には、補正残差705の変化が例示されている。なお、非点収差704は、電流値701、702による加熱によって発生する実際の非点収差に-1を乗じたものであるが、これは見やすさを考慮したものに過ぎない。図7(b)に例示されるように、かなり大きな補正残差705が存在する。補正残差705の大きさは、光束の吸収によって生じる非点収差(曲線501)と第1温度制御部204によって発生させる非点収差(曲線502)のモデル(例えば、1次遅れ系または2次遅れ系)との差異、該モデルの時定数の大きさ等に依存しうる。特に非点収差(曲線502)の2次遅れの傾向が強いと、補正残差705が発生しやすい。これは、例えば、レンズ201の形状や、第1温度制御部204および第2温度制御部203の配置に依存しうる。
【0040】
第2実施形態では、第1期間において、投影光学系107の光学特性の変化が低減されるように第1温度制御部204および第2温度制御部203が動作しうる。また、第2実施形態では、第2期間においても、投影光学系107の光学特性の変化が低減されるように第1温度制御部204および第2温度制御部203が動作しうる。図8には、第2実施形態における第1温度制御部204および第2温度制御部203の動作が例示されている。図8(a)には、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに印加される電流801、および、第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流に-1を乗じた電流802が例示されている。なお、電流802は、第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流に-1を乗じたものであるが、これは見やすさを考慮したものに過ぎない。図8(b)には、光束の吸収によって発生する非点収差803の変化が例示されている。また、図8(b)には、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bおよび第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流による加熱によって発生する非点収差に-1を乗じた非点収差804の変化が例示されている。また、図8(b)には、補正残差805の変化が例示されている。第1期間および第2期間の双方において第1温度制御部204および第2温度制御部203を動作させることによって非点収差が高い精度で低減されることが分かる。
【0041】
以下、図9および図10を参照しながら第3実施形態を説明する。第3実施形態として言及しない事項は、第1、第2実施形態に従いうる。第2実施形態では、第1および第2期間を含む期間内のほぼ全体において第1温度制御部204および第2温度制御部203の少なくとも一方が動作し、レンズ201が加熱されうる。レンズ201の加熱によって、非点収差以外の複数の収差成分が発生しうる。これらの複数の収差成分のうち高次の収差成分は、その発生を予測することができても、補正することは困難である。特に、非点収差のように第1温度制御部204、第2温度制御部203がそれぞれ発生可能な収差が異符号である収差成分とは異なり、第1温度制御部204、第2温度制御部203がそれぞれ発生可能な収差が同符号である収差成分を低減することは難しい。そのため、上記のような複数の収差成分は、レンズ201を加熱する限りは発生するし、それを補正することは難しい。
【0042】
そこで、第3実施形態では、制御部100は、第1期間および第2期間において、所定範囲内での収差(非点収差)該収差の変化を許容しつつ、該収差が該所定値を超えないように、第1温度制御部204および第2温度制御部203を動作させる。これにより、レンズ201の加熱による補正が困難な収差の発生が抑えられる。
【0043】
図9には、第3実施形態における第1温度制御部204および第2温度制御部203の動作が例示されている。図9(a)には、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bに印加される電流901、および、第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流902が例示されている。図9(b)には、光束の吸収によって発生する非点収差903の変化が例示されている。また、図9(b)には、第1温度制御部204の加熱素子204a、204bおよび第2温度制御部203の加熱素子203a、203bに印加される電流による加熱によって発生する非点収差に-1を乗じた非点収差904の変化が例示されている。また、図9(c)には、補正残差905の変化が例示されている。第3実施形態では、制御部100は、補正残差905が所定範囲907から外れないように、上限906aおよび下限906bで定められる範囲を超える場合に温度調整部108を動作させる。これにより、非点収差を所定範囲907に収めながら、レンズ201の加熱による他の収差成分の発生を抑えることができる。
【0044】
ここで、レンズ201の加熱によって発生する非点収差以外の収差成分で、かつ補正が困難なものの一つとして、ゼルニケ多項式のZ17項の収差を挙げることができる。図10には、第2実施形態においてレンズ201の加熱によって発生するZ17項1001と、第3実施形態においてレンズ201の加熱によって発生するZ17項の発生量1002とが例示されている。第3実施形態では、レンズ201の加熱によって発生するZ17項の発生量が第2実施形態の1/3に低減されている。このように、第3実施形態では、所定範囲内の非点収差の補正残差を許容することで、温度調整部108によるレンズ201の加熱を減らし、結果として、補正が困難な収差成分の発生を抑止することができる。なお、この手法は、非点収差の補正精度と、非点収差以外の収差成分の発生のトレードオフを決める手法である。したがって、非点収差を許容する所定範囲は、補正精度が像性能に与える影響と、非点収差以外の収差成分が像性能に与える影響とのバランスを考慮して決定されうる。また、第3実施形態では、補正が困難な収差成分としてZ17項を挙げたが、これに限らず、例えばZ16項などの高次の0θ成分を考慮してもよいし、補正が容易な低次の0θ成分などを考慮してもよい。
【0045】
第1乃至第3実施形態では、温度調整部108は、レンズ201の円周の4分の1の長さに相当する加熱素子によって構成され、正負の非点収差が発生される。しかし、これは一例にすぎず、補正をすべき収差成分に応じて、加熱素子の形状および個数が選択されうる。図11には、レンズの円周の8分の1の長さを有する8個の加熱素子1101~1108で温度調整部108が構成される例が示されている。第1温度制御部を加熱素子1102、1104、1106、1108で構成し、第2温度制御部を加熱素子1101、1103、1105、1107で構成することができる。これによって、4θの収差成分と正と負の方向に発生させることができるため、第1乃至第3実施形態の手法で、4θの収差成分を補正することができる。更に、円周方向の6分の1の長さの6個の加熱素子を配置して3θの収差成分を同様の手法で補正することや、円周方向の10分の1の長さの10個の加熱素子を配置して5θの収差成分を補正することができる。つまり、補正すべき収差成分に応じて、加熱素子の個数および配置を選択することができる。これにより、例えば、ゼルニケ多項式におけるNθ成分(Nは自然数)の少なくとも1つを低減することができる。
【0046】
次に、上記の第1乃至第4実施形態に代表される露光装置を利用して物品(半導体IC素子、液晶表示素子、MEMS等)を製造する物品製造方法を説明する。物品製造方法は、上記のような露光装置によって基板を露光する露光工程と、該露光工程で露光された基板を現像する現像工程と、該現像工程で現像された基板を処理する処理工程とを含み、該処理工程で処理された基板から物品を得ることができる。該処理工程は、例えば、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等が含まれうる。物品製造方法によれば、従来よりも高品位の物品を製造することができる。
【0047】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0048】
EXP:露光装置、108:温度調整部、109:光学素子、201:レンズ、204:第1温度制御部、203:第2温度制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11