IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-NMR用角度調整装置 図1
  • 特許-NMR用角度調整装置 図2
  • 特許-NMR用角度調整装置 図3
  • 特許-NMR用角度調整装置 図4
  • 特許-NMR用角度調整装置 図5
  • 特許-NMR用角度調整装置 図6
  • 特許-NMR用角度調整装置 図7
  • 特許-NMR用角度調整装置 図8
  • 特許-NMR用角度調整装置 図9
  • 特許-NMR用角度調整装置 図10
  • 特許-NMR用角度調整装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】NMR用角度調整装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
G01N24/00 510A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021184360
(22)【出願日】2021-11-11
(65)【公開番号】P2023071520
(43)【公開日】2023-05-23
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由宇生
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-092424(JP,A)
【文献】特開2014-198061(JP,A)
【文献】特開2005-069802(JP,A)
【文献】特開2009-236512(JP,A)
【文献】特開2001-006302(JP,A)
【文献】実開昭54-012304(JP,U)
【文献】特開2006-149488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-G01N 24/14
G01R 33/00-G01R 33/64
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMRプローブ装置内において試料管の角度を直動によって変える直動体と、
駆動装置によって回転させられる回転体の回転運動を前記直動体の直動に変換する変換機構と、
前記直動体と前記回転体とが係合する箇所に前記直動体を前記回転体に向かう一方向に押圧する力を与える第1弾性体と、
を含むことを特徴とするNMR用角度調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載のNMR用角度調整装置において、
前記一方向は、前記試料管を垂直状態から傾斜状態へ傾けるために前記直動体を直動させる方向とは逆の方向である、
ことを特徴とするNMR用角度調整装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のNMR用角度調整装置において、
ガイドによって支えられて前記直動体を支持しつつ前記直動体と共に直動する支持部材を更に含む、
ことを特徴とするNMR用角度調整装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のNMR用角度調整装置において、
前記駆動装置と前記回転体とに接続され、前記駆動装置によって回転させられて回転を前記回転体に伝えるシャフトと、
前記シャフトと前記回転体とを係合する係合部材と、
前記係合部材において前記シャフトを前記係合部材に押圧する第2弾性体と、
を更に含む、
ことを特徴とするNMR用角度調整装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のNMR用角度調整装置において、
前記変換機構と前記駆動装置は、NMR測定用の磁場を形成する装置の外側に設置される、
ことを特徴とするNMR用角度調整装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のNMR用角度調整装置において、
前記駆動装置による前記回転体の回転運動を制御することで前記試料管の角度を制御する制御装置を更に含み、
前記制御装置は、前記試料管を垂直状態から傾斜状態へ回転させるために前記直動体を直動させる第1制御の精度を、前記試料管を傾斜状態から垂直状態へ回転させるために前記直動体を直動させる第2制御の精度よりも高くして前記試料管の角度を制御することで、前記試料管の角度を設定角度に調整する、
ことを特徴とするNMR用角度調整装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のNMR用角度調整装置において、
前記駆動装置による前記回転体の回転運動を制御することで前記試料管の角度を制御する制御装置と、
標準試料が収容された試料管の角度を前記駆動装置による前記回転体の回転運動によって設定角度に調整したときの前記駆動装置の制御値を記憶する記憶装置と、
を更に含み、
前記制御装置は、前記記憶装置に記憶されている前記制御値に従って前記駆動装置による前記回転体の回転運動を制御することで、測定対象の試料が収容された試料管の角度を前記設定角度に調整する、
ことを特徴とするNMR用角度調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR)測定に用いられるNMRプローブ装置内に設置される試料管の角度を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置は、スピン磁気モーメントを有する原子核に静磁場を印加し、そのスピン磁気モーメントにラーモアの歳差運動を発生させて、そこに歳差運動と同じ周波数を有する高周波を照射して共鳴させることで、そのスピン磁気モーメントを有する原子核の信号を検出する装置である。
【0003】
固体試料に対するNMR測定においては、通常、MAS(Magic Angle Spinning)法が採用される。MAS法においては、固体試料が収容された試料管を、静磁場方向に対してマジック角(概ね54.7°)をもって傾けつつ高速で回転させ、その状態においてNMR信号を検出する。
【0004】
MAS法を実施するためのNMRプローブ装置は、超伝導磁石に代表される磁場発生装置の細長い穴状の測定空間に挿入されることで、NMR測定に供される。MASプローブ装置では、固体試料が収容された試料管は、試料管支持装置において磁場に対してマジック角に傾いた状態で配置される。
【0005】
試料管及び検出コイル等がMASモジュールに収容され、そのMASモジュールの角度が角度調整機構によってマジック角に調整される。従来の角度調整機構は、ネジと繋ぎ手とを含み、ネジの回転をMASモジュールの傾斜に変換する機構である。作業者がネジを回転させることでMASモジュールを傾斜させ、MASモジュールの角度をマジック角に調整する。
【0006】
特許文献1には、測定対象の未知試料とマジック角を調整するための標準試料とを収容する試料管が記載されている。当該試料管内の空間は仕切り壁によって仕切られており、未知試料と標準試料はそれぞれ別々の空間内に収容される。
【0007】
特許文献2には、NMRパルスの印加によるサンプル由来の信号をサンプルの傾斜角度とともに記憶し、その記憶されたデータから、信号が最大となる傾斜角度を抽出する装置が記載されている。
【0008】
特許文献3には、弾性体によってギアを別のギアに押し当てる構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5117903号公報
【文献】特開2009-92424号公報
【文献】特開2001-6302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の角度調整機構は手動で操作されるため、NMRプローブ装置内において試料管の角度を精密に調整することが困難であった。
【0011】
本発明の目的は、NMRプローブ装置内において試料管の角度を精密に調整することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様は、NMRプローブ装置内において試料管の角度を直動によって変える直動体と、駆動装置によって回転させられる回転体の回転運動を前記直動体の直動に変換する変換機構と、前記直動体と前記回転体とが係合する箇所に前記直動体を前記回転体に向かう一方向に押圧する力を与える第1弾性体と、を含むことを特徴とするNMR用角度調整装置である。
【0013】
上記の構成によれば、回転体と直動体とが係合する箇所において直動体を回転体に向かう一方向に押圧する力が与えられるため、回転体と直動体との間の機械的なズレ(つまりバックラッシュ)を抑制することができる。それ故、回転体の回転運動によって直動体の直動を高精度に制御して、試料管の角度を高精度に調整することができる。
【0014】
前記一方向は、前記試料管を垂直状態から傾斜状態へ傾けるために前記直動体を直動させる方向とは逆の方向であってもよい。例えば、第1弾性体としてバネが用いられる。試料管を垂直状態から傾斜状態へ傾けるために直動体を直動させたときに、当該バネが縮む位置に当該バネが配置される。これにより、当該バネが縮むことで当該バネの弾性力が増し、直動体をより強い力で押圧することができる。その結果、バックラッシュをより抑制することができる。
【0015】
NMR用角度調整装置は、ガイドによって支えられて前記直動体を支持しつつ前記直動体と共に直動する支持部材を更に含んでもよい。
【0016】
NMR用角度調整装置は、前記駆動装置と前記回転体とに接続され、前記駆動装置によって回転させられて回転を前記回転体に伝えるシャフトと、前記シャフトと前記回転体とを係合する係合部材と、前記係合部材において前記シャフトを前記係合部材に押圧する第2弾性体と、を更に含んでもよい。
【0017】
前記変換機構と前記駆動装置は、NMR測定用の磁場を形成する装置の外側に設置されてもよい。
【0018】
NMR用角度調整装置は、前記駆動装置による前記回転体の回転運動を制御することで前記試料管の角度を制御する制御装置を更に含み、前記制御装置は、前記試料管を垂直状態から傾斜状態へ回転させるために前記直動体を直動させる第1制御の精度を、前記試料管を傾斜状態から垂直状態へ回転させるために前記直動体を直動させる第2制御の精度よりも高くして前記試料管の角度を制御することで、前記試料管の角度を設定角度に調整してもよい。
【0019】
NMR用角度調整装置は、前記駆動装置による前記回転体の回転運動を制御することで前記試料管の角度を制御する制御装置と、標準試料が収容された試料管の角度を前記駆動装置による前記回転体の回転運動によって設定角度に調整したときの前記駆動装置の制御値を記憶する記憶装置と、を更に含み、前記制御装置は、前記記憶装置に記憶されている前記制御値に従って前記駆動装置による前記回転体の回転運動を制御することで、測定対象の試料が収容された試料管の角度を前記設定角度に調整してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、NMRプローブ装置内において試料管の角度を精密に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係るNMR装置を示す図である。
図2】実施形態に係るNMR用角度調整装置を示す図である。
図3】MASモジュールを示す図である。
図4】変換機構とその周囲の構成とを示す斜視図である。
図5】変換機構とその周囲の構成とを示す断面図である。
図6】支持部材と回転体とを示す断面図である。
図7】支持部材と回転体とを示す断面図である。
図8】係合部材を示す斜視図である。
図9】シャフトの先端を示す斜視図である。
図10】変換機構とその周囲の構成とを示す断面図である。
図11】MASモジュールの回転を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、実施形態に係るNMR装置の一例が示されている。NMR装置10は、試料中の観測核により生じたNMR信号を測定する装置である。
【0023】
静磁場発生装置12は静磁場を発生させる装置であり、その中央部には、垂直方向に延びる空洞部としてのボア14が形成されている。NMRプローブ装置16は、それ全体として垂直方向に延びる円筒形状を有し、静磁場発生装置12のボア14内に挿入される。NMRプローブ装置16は、MAS法を実施するための装置である。NMRプローブ装置16内にはMASモジュール18が設置されている。MASモジュール18内には、試料管と、送信用及び受信用のコイルと、が収容される。試料管は、例えば円柱状の形状を有し、固体試料を収容する。MASモジュール18は、静磁場に対してマジック角を持って傾斜する。これにより、MASモジュール18内に収容された試料管は、静磁場に対してマジック角を持って傾斜する。試料管は、そのマジック角を持って傾斜した回転軸上で、その周囲を精密な気体軸受によって支持され、測定中は高速で回転させられる。
【0024】
図1から図3には、NMR用角度調整装置の構成の概略が示されている。図2は、NMR用角度調整装置を示す図である。図2においては、シャフト20の一部が省略されている。図3は、MASモジュール18を示す図である。NMR用角度調整装置は、MASモジュール18の角度、つまり試料管の角度を調整する装置である。
【0025】
NMR用角度調整装置は、シャフト20と、支持部材22と、回転体24と、変換機構26と、シャフト28と、モーター30とを含む。モーター30は、駆動装置の一例である。
【0026】
シャフト20は柱状の部材であり、支持部材22によって支持され、支持部材22と共に下方Z1又は上方Z2に直線運動する。シャフト20と支持部材22は、直動体の一例である。
【0027】
回転体24は円柱状の部材である。後述するように、回転体24の表面にはネジ溝が形成されている。
【0028】
図2に示すように、MASモジュール18は、回転軸32によって回転可能に支持されている。シャフト20の一端20aは、MASモジュール18の端部又はその付近に接触しており、シャフト20と支持部材22が直動することで、MASモジュール18が回転させられ、これによって、MASモジュール18の傾きが変えられる。
【0029】
シャフト20と支持部材22がNMR装置10の下方Z1に直動することで、シャフト20が接触しているMASモジュール18の端部又はその付近がNMR装置10の下方Z1に移動し、これによって、MASモジュール18が垂直状態から傾斜状態へ回転させられる。垂直状態から傾斜状態への回転方向は、回転方向R1として図2及び図3に示されている。図2には、傾斜状態にあるMASモジュール18が示されている。MASモジュール18の角度がマジック角に調整されて測定が行われる。
【0030】
シャフト20と支持部材22がNMR装置10の上方Z2に直動することで、シャフト20は、シャフト20が接触しているMASモジュール18の端部又はその付近をNMR装置10の下方Z1から上方Z2に押し上げ、これによって、MASモジュール18が傾斜状態から垂直状態へ回転させられる。傾斜状態から垂直状態への回転方向は、回転方向R2として図2及び図3に示されている。図3には、垂直状態にあるMASモジュール18が示されている。試料を交換するときに、MASモジュール18が垂直状態に回転させられる。ボア14の上部に形成された孔を介して、垂直状態のMASモジュール18内に設置された試料管が、ボア14の上部に形成された孔から静磁場発生装置12の外部に取り出される。また、試料管が、ボア14の上部に形成された孔を介してボア14内に導入されてMASモジュール18内に設置される。
【0031】
変換機構26は、モーター30によって回転させられる回転体24の回転運動をシャフト20と支持部材22の直動に変換する。回転体24の回転運動は、送りネジの原理によってシャフト20と支持部材22の直動に変換される。支持部材22と回転体24の構成については後で詳しく説明する。
【0032】
シャフト28は、モーター30と回転体24とを接続する柱状の部材である。シャフト28の一端はモーター30に接続されており、シャフト28の他端は回転体24に接続されている。モーター30によってシャフト28が回転させられ、これによって回転体24が回転させられる。回転体24の回転運動によってシャフト20と支持部材22が下方Z1又は上方Z2に直動する。
【0033】
モーター30の回転方向、つまり、シャフト28を介してモーター30に接続されている回転体24の回転方向に応じて、シャフト20と支持部材22が下方Z1又は上方Z2に直動する。
【0034】
モーター30として、例えばステッピングモーター又は超音波モーターが用いられる。もちろん、これら以外のモーターが用いられてもよい。
【0035】
図1に示すように、シャフト20は、NMRプローブ装置16内に設置される。支持部材22、回転体24、変換機構26、シャフト28及びモーター30は、静磁場発生装置12の外側に設置される。
【0036】
モーター30として磁力を用いるモーターが用いられる場合、モーター30が静磁場発生装置12内に設置されると、静磁場発生装置12による磁力の影響を受けてしまう。モーター30を静磁場発生装置12の外側に設置することで、モーター30は、静磁場発生装置12による磁力の影響が弱い箇所で動作することができる。
【0037】
また、超音波モーターのように磁力に影響されないモーター30が用いられる場合、モーター30が静磁場発生装置12内に設置されると、ノイズ源になり得る。モーター30を静磁場発生装置12の外側に設置することで、モーター30がノイズ源となることを防止することができる。
【0038】
また、支持部材22、回転体24、変換機構26、シャフト28及びモーター30を、静磁場発生装置12の外側に設置することで、これらを設置するためのスペースをNMRプローブ装置16内に確保する必要がない。
【0039】
また、図1に示すように、NMR装置10は、制御装置34と記憶装置36とを含む。
【0040】
制御装置34は、モーター30の動作を制御することで、モーター30によって回転させられる回転体24の回転運動を制御する。回転体24の回転運動が制御されることで、シャフト20と支持部材22の直動が制御され、その結果、MASモジュール18の角度、つまり試料管の角度が調整される。制御装置34は、例えばコンピューターである。
【0041】
制御装置34の機能は、一例としてハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが、制御装置34のメモリに記憶されているプログラムを読み出して実行することで、制御装置34の機能が実現される。プログラムは、CD又はDVD等の記録媒体を経由して、又は、ネットワーク等の通信経路を経由して、メモリに記憶される。制御装置34の各部の機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、FPGA(Field Programmable Gate Array)や、その他のプログラマブル論理デバイス等によって実現されてもよいし、電子回路等のハードウェアによって実現されてもよい。
【0042】
記憶装置36は、データを記憶する記憶領域を構成する装置であり、例えば、メモリ(例えば、RAM、DRAM、ROM)、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ(SSD)又は光ディスク等である。記憶装置36は、モーター30の制御値を記憶する。制御値は、例えばモーター30のエンコーダの値である。
【0043】
以下、図4から図7を参照して、NMR用角度調整装置について詳しく説明する。図4は、変換機構26とその周囲の構成とを示す斜視図である。図5は、変換機構26とその周囲の構成とを示す断面図である。図6及び図7は、支持部材22と回転体24とを示す断面図であり、図5中の符号Aが指し示す箇所の拡大図である。
【0044】
図4及び図5に示すように、支持部材22には、シャフト20が延びる方向に沿って支持部材22を貫通する孔22a,22bが形成されている。シャフト20は、孔22aに挿入され、支持部材22によって支持されている。
【0045】
回転体24は、支持部材22に形成されている孔22bに挿入されている。図6及び図7に示すように、孔22bの内面(つまり孔22bによって形成される通路の表面)にネジ溝22cが形成されており、回転体24の表面にネジ溝24aが形成されている。回転体24が孔22bに挿入されると、孔22bの内面のネジ溝22cと回転体24の表面のネジ溝24aとが噛み合う。これによって、直動体の一部を構成する支持部材22と回転体24とが係合する。なお、図6及び図7に示されているネジ溝22c,24aの形状及びピッチは、支持部材22と回転体24の動作を説明するために、便宜上、模式的に示されているに過ぎず、実際の形状及びピッチは、図示されている形状及びピッチに限定されるものではない。
【0046】
回転体24の回転運動は、送りネジの原理によってシャフト20と支持部材22の直動に変換される。つまり、回転体24が回転することで、ネジ溝22c,24aによって回転体24と噛み合っている支持部材22が下方Z1又は上方Z2に直動する。支持部材22によって支持されているシャフト20も、支持部材22の直動に伴って下方Z1又は上方Z2に直動する。
【0047】
なお、図5に示すように、回転体24は、変換機構26において、軸受38a,38bによって回転可能に支持されている。
【0048】
変換機構26には、バネ40が設置されている。バネ40は、第1弾性体の一例であり、直動体の一部を構成する支持部材22と回転体24とが係合する箇所に支持部材22を回転体24に向かう一方向に押圧する力を与える。以下、バネ40について詳しく説明する。
【0049】
バネ40は、円柱状の回転体24が延びる方向(つまり上下方向)に沿って設置されている。図4及び図5に示すように、バネ40の一端は、変換機構26において下方側に配置された壁26aに接触している。
【0050】
図5から図7に示すように、支持部材22にはバネ受部22dが形成されている。バネ受部22dは、バネ40を間にして壁26aに対向する位置に形成されている。バネ40の他端はバネ受部22dに接触している。
【0051】
バネ40は、回転体24が延びる方向に沿って、壁26aとバネ受部22dとに挟まれて設置されている。これにより、バネ40は、支持部材22を上方Z2に押圧する力を支持部材22に与える。より詳しく説明すると、図6及び図7に示すように、支持部材22と回転体24とが係合する箇所に、バネ40によって、支持部材22を上方Z2に押圧する力が与えられる。その結果、支持部材22のネジ溝22cの上方側の側面が、回転体24のネジ溝24aの下方側の側面に接触する。なお、上方Z2が、一方向の一例である。
【0052】
図6には、バネ40の弾性力が支持部材22に作用する前の状態が示されている。図7には、バネ40の弾性力が作用した支持部材22に作用した状態が示されている。バネ40の弾性力が支持部材22に作用する前においては、支持部材22のネジ溝22cと回転体24のネジ溝24aとの間に隙間(つまりバックラッシュ)が生じる。一方、バネ40の弾性力が支持部材22に作用した状態においては、支持部材22が上方Z2に押圧されるため、支持部材22のネジ溝22cと回転体24のネジ溝24aとの間に隙間(つまりバックラッシュ)が生じない、又は、その隙間が減少する。このように、バネ40によって支持部材22を上方Z2に押圧することで、ネジ溝22cとネジ溝24aとの間におけるバックラッシュの発生を抑制することができる。これにより、変換機構26において回転体24の回転を直動体(つまりシャフト20と支持部材22)の直動に変換したときの誤差を抑制することができるので、MASモジュール18の角度を高精度に制御することができる。
【0053】
上方Z2つまり一方向は、MASモジュール18つまり試料管を垂直状態から傾斜状態へ傾けるために直動体(つまりシャフト20と支持部材22)を直動させる方向(下方Z1)とは逆の方向である。つまり、一方向は、MASモジュール18を傾斜状態から垂直状態へ回転させるために直動体を直動させる方向である。
【0054】
また、図4及び図5に示すように、支持部材42が設けられている。支持部材42は、直動体(つまりシャフト20と支持部材22)を支持しつつ直動体と共に直動する部材である。支持部材22の端部であって、孔22bを間にして孔22aとは反対側の端部が、支持部材42に固定されている。支持部材42は、柱状の部材であり、支持部材42を間にして支持部材22の反対側に設置されたガイド44によって支えられている。支持部材42は、ガイド44のスライド面44aに接触してガイド44に支持された状態で、下方Z1又は上方Z2に直動する。シャフト20は支持部材22によって支持されているが、シャフト20は片持ちの状態で支持部材22によって支持されている。支持部材42によって、直動体を構成する支持部材22を支持することで、安定してシャフト20を直させることができる。
【0055】
また、係合部材46が設けられている。以下、図5図8及び図9を参照して、係合部材46及びその周囲の構成について説明する。図8は、係合部材46を示す斜視図である。図9は、シャフト28の端部を示す斜視図である。
【0056】
係合部材46は、回転体24の下方側の端部に固定され、回転体24とシャフト28とを係合する部材である。シャフト28の先端28aは多角形の形状を有する。図9に示す例では、シャフト28の先端は六角形の形状を有する。係合部材46には孔46aが形成されている。孔46aは、シャフト28の先端28aに対応する形状を有する。図8に示す例では、孔46aは六角形の形状を有する。シャフト28の先端28aが係合部材46の孔46aに挿入され、これによって、係合部材46を介して回転体24とシャフト28とが接続される。モーター30による回転は、シャフト28と係合部材46とを介して回転体24に伝えられ、回転体24が回転させられる。
【0057】
係合部材46の孔46a内には、バネ48が設置されている。バネ48は、第2弾性体の一例であり、シャフト28の先端28aを係合部材46(より具体的には係合部材46の孔46aの側面)に押圧する部材である。具体的には、バネ48は、孔46a内に挿入された先端28aを、多角形の孔46aの一面に押し付けて接触させる。これにより、先端28aが孔46aの一面に接触している部分では、隙間(つまりバックラッシュ)がなくなる。その結果、シャフト28が回転するときに機械的なズレの発生を抑制することができる。
【0058】
以下、図2図3図5及び図10を参照して、MASモジュール18の角度を調整するときのNMR用角度調整装置の動作について説明する。図10は、変換機構26とその周囲の構成とを示す断面図である。
【0059】
モーター30の動作によって回転体24が回転させられ、変換機構26によって、その回転が支持部材22に伝えられて、支持部材22とシャフト20が、下方Z1又は上方Z2へ直動する。
【0060】
図5には、シャフト20と支持部材22が上方Z2へ移動した状態が示されている。この場合、図3に示すように、シャフト20が、シャフト20が接触しているMASモジュール18の端部又はその付近を上方Z2に押し上げる。これにより、MASモジュール18が傾斜状態から垂直状態へ回転させられる。支持部材22が上方Z2へ移動した状態では、バネ40は伸びた状態となる。
【0061】
図10には、シャフト20と支持部材22が下方Z1へ移動した状態が示されている。この場合、図2に示すように、MASモジュール18が垂直状態から傾斜状態へ回転させられる。支持部材22が下方Z1へ移動した状態では、バネ40は縮んだ状態となる。
【0062】
支持部材22が下方Z1へ移動した状態では、支持部材22が上方Z2へ移動した状態と比べて、バネ40はより縮むため、バネ40がバネ受部22dを押圧する力はより強くなる。つまり、MASモジュール18を垂直状態から傾斜状態へ回転させる動作においては、バネ40がバネ受部22dを押圧する力がより強くなる。これにより、支持部材22のネジ溝22cの上方側の側面が、回転体24のネジ溝24aの下方側の側面を押圧する力がより強くなるため(図7参照)、バックラッシュの発生をより抑制することができる。その結果、MASモジュール18を垂直状態から傾斜状態へ回転させるために直動体(つまりシャフト20と支持部材22)を直動させるときの動作の精度は、MASモジュール18を傾斜状態から垂直状態へ回転させるために直動体を直動させるときの動作の精度よりも高くなる。つまり、バックラッシュの発生をより抑制し、MASモジュール18の角度をより高精度に調整することができる。
【0063】
制御装置34は、MASモジュール18を垂直状態から傾斜状態へ回転させるために直動体を直動させる第1制御と、MASモジュール18を傾斜状態から垂直状態へ回転させるために直動体を直動させる第2制御とで、その制御の精度を変えて、MASモジュール18の角度を設定角度(例えばマジック角)に調整してもよい。具体的には、制御装置34は、第1制御の精度を第2制御の精度よりも高くしてMASモジュール18の角度をマジック角に調整する。以下、図11を参照して、第1制御と第2制御とについて説明する。図11は、MASモジュール18の回転を示す図である。
【0064】
例えば、制御装置34は、第1制御では第2制御と比べて、モーター30の回転を遅くすることで、MASモジュール18の回転速度を遅くしてもよいし、モーター30の回転を細かくすることで、MASモジュール18の回転を細かくしてもよい。つまり、制御装置34は、MASモジュール18を垂直状態から傾斜状態へ回転させるときには(つまりMASモジュール18を回転方向R1へ回転させるときには)、MASモジュール18を傾斜状態から垂直状態へ回転させるときと比べて(つまりMASモジュール18を回転方向R2へ回転させるときと比べて)、MASモジュール18の回転速度を遅くしたり、MASモジュール18の回転を細かくしたりする。
【0065】
図11中の符号50はマジック角を指し示している。例えば、標準試料が収容されたMASモジュール18がNMRプローブ装置16に収容され、MASモジュール18の回転中、標準試料のNMR信号が検出される。制御装置34は、回転方向R1へMASモジュール18を垂直状態から傾斜状態へ回転させ(第1制御)、MASモジュール18の角度がマジック角を超えると(例えばNMR信号のピークが検出されると)、回転方向R2へMASモジュール18を回転させ(第2制御)、MASモジュール18の角度がマジック角を超えると(例えばNMR信号のピークが検出されると)、回転方向R1へMASモジュール18を回転させる(第1制御)。制御装置34は、この動作を繰り返すことで、MASモジュール18の角度をマジック角に調整する。例えば、制御装置34は、MASモジュール18の角度の振れ幅は徐々に小さくしてMASモジュール18の角度をマジック角に調整する。
【0066】
図11に示すように、制御装置34は、第1制御と第2制御とで、MASモジュール18の角度の振れ幅を異ならせてもよい。例えば、制御装置34は、第1制御では第2制御と比べて、MASモジュール18の角度の振れ幅を小さくする。MASモジュール18を回転方向R1へ回転させる場合、バネ40が縮んでバックラッシュをより抑制できる。そのため、MASモジュール18を回転方向R1へ回転させるときに、MASモジュール18を回転方向R2へ回転させるときと比べて、角度の振れ幅を精度良く小さくしてMASモジュール18を回転させることができる。
【0067】
例えば、MASモジュール18の角度をマジック角に調整する場合、標準試料が用いられる。標準試料を収容したMASモジュール18の角度がマジック角に調整され、その調整時におけるモーター30の制御値(例えばエンコーダの値)が、記憶装置36に記憶される。その制御値はマジック角に対応する値である。試料が標準試料から測定対象の試料に交換され、制御装置34は、記憶装置36に記憶されている制御値に従ってモーター30を動作させて回転体24の回転運動を制御することで、MASモジュール18の角度をマジック角に調整する。以下、この作業について詳しく説明する。
【0068】
まず、標準試料を収容した試料管がMASモジュール18内に収容される。制御装置34は、モーター30を動作させることで、上述した第1制御と第2制御とを繰り返してMASモジュール18を回転方向R1又は回転方向R2に回転させる。例えば、図11に示されている制御が行われる。この回転の最中に標準試料のNMR信号が検出される。NMR信号のピークが検出されたときのMASモジュール18の角度が、マジック角として検出される。その検出は、制御装置34によって自動的に行われてもよいし、作業者によって手動で行われてもよい。その角度が検出されたときのモーター30の制御値(例えばエンコーダの値)が、マジック角に対応する制御値として記憶装置36に記憶される。
【0069】
次に、MASモジュール18が垂直状態に回転させられ、MASモジュール18に収容されている試料が、標準試料から測定対象の試料に交換される。測定対象の試料が収容された試料管がMASモジュール18内に収容される。制御装置34は、記憶装置36に記憶されている制御値に従ってモーター30を動作させることで、MASモジュール18の角度を、当該制御値に対応する角度に調整する。これにより、測定対象の試料が収容されたMASモジュール18の角度がマジック角に調整される。
【0070】
実施形態に係るNMR用角度調整装置によれば、バネ40によって支持部材22を一方向に押圧することでバックラッシュを抑制することができ、その結果、MASモジュール18の角度を高精度に調整することができる。例えば、MASモジュール18を垂直状態から傾斜状態へ回転させるために直動体を直動させる下方Z1とは逆の方向である上方Z2へ支持部材22を押圧することで、直動体が下方Z1へ直動するにつれてバネ40の弾性力が強くなるので、バックラッシュをより抑制して、MASモジュール18の角度をより高精度に調整することができる。
【0071】
また、バネ48によってシャフト28を係合部材46へ押圧することで、シャフト28と係合部材46との間におけるバックラッシュが抑制されるので、回転体24の回転を高精度に制御することができる。
【0072】
例えば、モーター30として、1/1000回転の精度で回転を制御することができるステッピングモーターが用いられ、支持部材22のネジ溝22cと回転体24のネジ溝24aのピッチが0.5である場合、MASモジュール18の最小の回転角度として0.002度を達成することができた。このように、作業者が手動でMASモジュール18の角度を調整する場合と比べて、高い精度でMASモジュール18の角度を調整することができる。
【符号の説明】
【0073】
10 NMR装置、12 静磁場発生装置、16 NMRプローブ装置、18 MASモジュール、20,28 シャフト、22,42 支持部材、24 回転体、26 変換機構、30 モーター、34 制御装置、36 記憶装置、40,48 バネ、44 ガイド、46 係合部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11