(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】電磁波吸収フィルム、電磁波吸収シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240321BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240321BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2021503480
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004578
(87)【国際公開番号】W WO2020179349
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2019037839
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019094552
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】松下 大雅
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0111365(US,A1)
【文献】特開2009-170887(JP,A)
【文献】特開2005-317945(JP,A)
【文献】米国特許第05214432(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0240159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状である基材と、前記基材上に形成された第1の電磁波吸収パターンと、前記基材上に形成された第2の電磁波吸収パターンと、前記基材上に形成された第3の電磁波吸収パターンとを有し、
前記第1の電磁波吸収パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の第1の単位が配列された第1の配列を複数有し、
前記第2の電磁波吸収パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の第2の単位が配列された第2の配列を複数有し、
前記第3の電磁波吸収パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の第3の単位が配列された第3の配列を複数有し、
前記第1の配列と前記第2の配列と前記第3の配列とが互いに隣り合うように前記基材上に配置され、
前記第1の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が20~110GHzの範囲で極大値を示す周波数が、A[GHz]であり、
前記第2の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数が、下式(1)を満たすB[GHz]であり、
前記第3の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数が、下式(2)を満たすC[GHz]である、電磁波吸収フィルム。
1.037×A≦B≦1.30×A ・・・式(1)
0.60×A≦C≦0.963×A ・・・式(2)
【請求項2】
前記Aが50~110[GHz]である、請求項1に記載の電磁波吸収フィルム。
【請求項3】
前記Aが60~100[GHz]である、請求項1に記載の電磁波吸収フィルム。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の電磁波吸収フィルムと、
前記電磁波吸収フィルムの一方の表面に設けられているスペーサーフィルムと、
を有する、電磁波吸収シート。
【請求項5】
前記スペーサーフィルムが、発泡シートである、請求項
4に記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
前記スペーサーフィルムの表面に設けられている反射フィルムをさらに有する、請求項
4又は
5に記載の電磁波吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収フィルム、電磁波吸収シートに関する。
本願は、2019年3月1日に日本に出願された特願2019-037839号、及び、2019年5月20日に日本に出願された特願2019-094552号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
所定の周波数の電磁波を選択的に吸収する電磁波吸収フィルムが知られている(例えば、特許文献1等)。特許文献1には第1の周波数選択遮蔽層と第2の周波数選択遮蔽層とを備える電磁波吸収体が記載されている。特許文献1に記載の電磁波吸収体においては、第1及び第2の周波数選択遮蔽層に形成されたFSS(Frequency Selective Surface)素子の細線パターンによって、各層が所定の周波数の電磁波を吸収し、全体として2つの異なる周波数の電磁波を選択的に遮蔽する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の電磁波吸収体にあっては、電磁波吸収体の周囲環境に配置される部材の誘電率、周囲環境の温度の影響を受けやすいという問題がある。例えば、周囲環境に配置される部材の誘電率の影響により、波長短縮現象が起き、電磁波吸収体の吸収周波数が変化してしまう場合がある。
特許文献1に記載の電磁波吸収体は、第1及び第2の周波数選択遮蔽層の各層のそれぞれによって所定の周波数の電磁波を選択的に吸収する。そのため、吸収対象となる電磁波の周波数が周囲環境の部材の影響を受けて、所定の周波数から変化すると、特許文献1に記載の電磁波吸収体は、設計時に吸収対象として予定していた周波数の電磁波を充分に吸収できないおそれがある。
【0005】
本発明の一態様は、周囲環境の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の態様を有する。
[1] 平板状である基材と、前記基材上に形成された第1の電磁波吸収パターンと、前記基材上に形成された第2の電磁波吸収パターンと、前記基材上に形成された第3の電磁波吸収パターンとを有し、
前記第1の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が20~110GHzの範囲で極大値を示す周波数が、A[GHz]であり、
前記第2の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数が、下式(1)を満たすB[GHz]であり、
前記第3の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数が、下式(2)を満たすC[GHz]である、電磁波吸収フィルム。
1.037×A≦B≦1.30×A ・・・式(1)
0.60×A≦C≦0.963×A ・・・式(2)
[2] 前記Aが50~110[GHz]である、[1]の電磁波吸収フィルム。
[3] 前記Aが60~100[GHz]である、[1]の電磁波吸収フィルム。
[4] 前記第1の電磁波吸収パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の第1の単位が配列された第1の配列を複数有し、前記第2の電磁波吸収パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の第2の単位が配列された第2の配列を複数有し、前記第3の電磁波吸収パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の第3の単位が配列された第3の配列を複数有し、前記第1の配列と前記第2の配列と前記第3の配列とが互いに隣り合うように前記基材上に配置されている、[1]~[3]のいずれかの電磁波吸収フィルム。
[5] [1]~[4]のいずれかの電磁波吸収フィルムと、前記電磁波吸収フィルムの一方の表面に設けられているスペーサーフィルムと、を有する、電磁波吸収シート。
[6] 前記スペーサーフィルムが、発泡シートである、[5]の電磁波吸収シート。
[7] 前記スペーサーフィルムの表面に設けられている反射フィルムをさらに有する、[5]又は[6]の電磁波吸収シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、周囲環境の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の電磁波吸収フィルムの一例を示す上面図である。
【
図2】
図1の電磁波吸収フィルムが有する第1の電磁波吸収パターンを示す上面図である。
【
図3】
図2の第1の電磁波吸収パターンを構成する第1の単位を示す上面図である。
【
図4】
図1の電磁波吸収フィルムが有する第2の電磁波吸収パターンを示す上面図である。
【
図5】
図4の第2の電磁波吸収パターンを構成する第2の単位を示す上面図である。
【
図6】
図1の電磁波吸収フィルムが有する第3の電磁波吸収パターンを示す上面図である。
【
図7】
図6の第3の電磁波吸収パターンを構成する第3の単位を示す上面図である。
【
図8】
図1の電磁波吸収フィルムのVIII-VIII断面図である。
【
図9】本発明の電磁波吸収シートの一例を示す断面図である。
【
図10】実施例1の電磁波吸収フィルムの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図11】実施例2の電磁波吸収フィルムの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図12】実施例3の電磁波吸収フィルムの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図13】実施例4の電磁波吸収シートの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図14】実施例5の電磁波吸収シートの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図15】比較例1の電磁波吸収フィルムの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図16】比較例2の電磁波吸収シートの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図17】比較例3の電磁波吸収フィルムの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【
図18】比較例4の電磁波吸収フィルムの電磁波の測定結果から推測される吸収スペクトルの予測図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「電磁波吸収パターン」とは、幾何学的な図形である単位の集合体であり、ある周波数の電磁波を選択的に吸収する物体を意味する。「電磁波吸収パターン」はいわゆるアンテナと同様の機能を有するともいえる。
本明細書において「ミリ波領域の電磁波」とは、波長が1~15[mm]の電磁波を意味する。「ミリ波領域の電磁波」とは、周波数が20~300[GHz]である電磁波ともいえる。
本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
<電磁波吸収フィルム>
以下、本発明を適用した一実施形態例について説明する。以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じ値であるとは限らない。
【0011】
図1は、本発明の電磁波吸収フィルムの一例を示す上面図である。
図1に示すように、電磁波吸収フィルム10は、平板状である基材20と、基材20上に形成された第1の電磁波吸収パターン1と、基材20上に形成された第2の電磁波吸収パターン2と、基材20上に形成された第3の電磁波吸収パターン3とを有する。第1の電磁波吸収パターン1、第2の電磁波吸収パターン2及び第3の電磁波吸収パターン3は、基材20の表面に形成されている。
【0012】
(第1の電磁波吸収パターン)
図2は、第1の電磁波吸収パターン1を示す上面図である。
図2に示すように第1の電磁波吸収パターン1は、複数の第1の単位u1で構成されている。第1の単位u1のそれぞれは、幾何学的な図形である。すなわち、第1の電磁波吸収パターン1は、幾何学的な図形である第1の単位u1の集合体であるともいえる。
第1の単位u1は、それぞれが一つのアンテナとして機能する。第1の電磁波吸収パターン1は、例えば、FSS素子の細線パターンでもよい。
【0013】
第1の電磁波吸収パターン1においては、複数の第1の単位u1が
図2中の両矢印Pで示す方向に沿って配列された第1の配列R1が複数形成されている。第1の電磁波吸収パターン1は複数の第1の配列R1を有するともいえる。第1の電磁波吸収パターン1は、複数の第1の配列R1を両矢印Pで示す方向に沿って、所定の間隔で基材20上に形成することで構成できる。
複数の第1の配列R1同士の間隔は特に制限されない。第1の配列R1同士の間隔は、規則的でも不規則的でもよい。
【0014】
図3は、第1の単位u1を示す上面図である。
図3は第1の電磁波吸収パターン1を構成する第1の単位u1を示す上面図である。
図3に示すように、第1の単位u1の形状は上下左右対称の十字状である。具体的に第1の単位u1は、1つの十字部分S1と、4つの端部T1とを有する。十字部分S1は、
図3中のx軸方向に平行な直線部分とy軸方向に平行な直線部分とで構成される。x軸方向に平行な直線部分の両端とy軸方向に平行な直線部分の両端のそれぞれに、各直線部分と直交するように直線状の各端部T1が接している。
【0015】
第1の単位u1のx軸方向の長さL1、4つの端部T1のそれぞれのx軸方向の長さW1をそれぞれ調整することで、一つのアンテナとして機能する第1の単位u1による電磁波の吸収特性を調節できる。y軸方向も同様にして、電磁波の吸収特性を調節できる。
【0016】
ただし、第1の単位の形状は十字状に限定されない。第1の単位の形状は、第1の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が、A[GHz]となる態様であれば、特に限定されない。例えば、第1の単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。
【0017】
電磁波吸収フィルム10においては、複数の第1の単位u1の形状は互いに同一である。ただし、複数の第1の単位u1の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。本発明の他の例においては、複数の第1の単位の形状は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0018】
第1の電磁波吸収パターン1は、周波数がA[GHz]である電磁波を選択的に吸収する。周波数の値A[GHz]は、第1の電磁波吸収パターン1によって吸収される電磁波の吸収量が20~110GHzの範囲で極大値を示すときの周波数の値である。
第1の電磁波吸収パターン1によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値A[GHz]は、例えば、下記の方法X、方法Yによって特定できる。
【0019】
方法X:周波数を20~110[GHz]の範囲内で変化させながら電磁波を後述の標準フィルムに照射し、標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とする。
方法Y:基材と前記基材上に形成された複数の電磁波吸収パターンを有する電磁波吸収フィルムから、単一の電磁波吸収パターンのみが残るように、基材から電磁波吸収パターンを除去する。次いで、単一の電磁波吸収パターンのみを有するフィルムに、周波数を20~110[GHz]の範囲内で変化させながら電磁波を照射し、当該フィルムの電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とする。
【0020】
標準フィルムは、平板状である標準基材と標準基材に形成された標準パターンとを有する。
標準基材の詳細は、基材20と同内容とすることができる。そのため、標準基材の詳細は、後述の基材20の説明において詳細に説明する。
【0021】
標準パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の標準単位のみからなる。標準フィルムにおいては、形状が同一である1種類の図形のみからなる標準パターンが標準基材に形成されているともいえる。標準パターンは通常のFSS素子の細線パターンによって形成できる。通常、標準パターンは、第1の電磁波吸収パターン1と同一の電磁波吸収パターンである。
標準パターンにおいては、複数の標準単位の形状は、互いに同一の図形であれば特に限定されない。標準単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、十字状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。通常、標準単位の形状は第1の単位u1と同一である。
【0022】
標準フィルムにおいて複数の標準単位は、図形の端部同士の間隔が1[mm]となるように標準基材上に配置されている。例えば、標準単位の図形が十字形状である場合、十字の交差部分が図形の中心であり、図形の端部は十字を構成する2つの直線部分の方向のそれぞれに沿って中心から最も距離が離れている部分である。
【0023】
標準パターンを構成する標準単位の材質は、20~110[GHz]の範囲内で変化させながら電磁波を標準フィルムに照射したときに、標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量が最大値をとり得る態様であれば、特に限定されない。
標準単位の材質の詳細は、第1の単位と同内容とすることができる。
【0024】
標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量は、下式(3)で算出できる。
吸収量=入力信号-反射特性(S11)-透過特性(S21) ・・・式(3)
入力信号は、標準フィルムに電磁波を照射した際の照射源における電磁波の強度の指標である。
反射特性(S11)は、照射源から標準フィルムに電磁波を照射した際に標準フィルムによって反射される電磁波の強度の指標である。反射特性(S11)は、例えば、ベクトルネットワークアナライザを用いてフリースペース法によって測定できる。
透過特性(S21)は、照射源から標準フィルムに電磁波を照射した際に標準フィルムを透過する電磁波の強度の指標である。透過特性(S21)は、例えば、ベクトルネットワークアナライザを用いてフリースペース法によって測定できる。
【0025】
周波数A[GHz]は例えば、下記の方法で特定できる。
まず、周波数を20~110[GHz]の範囲内で変化させながら電磁波を標準フィルムに照射し、標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量を上式(3)で算出する。
次いで、横軸に変化させた周波数をプロットし、縦軸に上式(3)で算出される吸収量をプロットした吸収スペクトル図を作成する。通常、この吸収スペクトル図において、吸収量が最大値となる周波数の値が横軸に1つ存在する。そのためプロット図には、電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。このように、電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とすることができる。
【0026】
方法Xにおいて、あらかじめ周波数Aの数値を予測できる場合には、標準フィルムに照射する電磁波の周波数を、20~110[GHz]よりも狭い範囲内で変化させてもよい。例えば、標準フィルムに照射する電磁波の周波数を、50~110[GHz]の範囲内で変化させてもよい。
【0027】
第1の電磁波吸収パターン1は、上述の方法Xによって特定される周波数がA[GHz]である電磁波を吸収する。
本発明の電磁波吸収フィルムにおいては、周波数の値Aは、50~110[GHz]が好ましく、60~100[GHz]がより好ましく、65~95[GHz]がさらに好ましく、70~90[GHz]が特に好ましい。周波数の値Aが前記数値範囲内であると、電磁吸収フィルムがミリ波領域の電磁波を吸収でき、自動車用部品、道路周辺部材、建築外壁関連材、窓、通信機器、電波望遠鏡等に適用しやすくなる。
【0028】
方法Yにおいては、方法Xと同様に、フィルムの電磁波の吸収量を測定できる。すなわち、周波数を20~110[GHz]の範囲内で変化させながら電磁波をフィルムに照射し、フィルムによって吸収される電磁波の吸収量を上式(3)で算出する。
次いで、横軸に周波数をプロットし、縦軸に上式(3)で算出される吸収量をプロットした吸収スペクトル図を作成する。通常、この吸収スペクトル図において、吸収量が最大値となる周波数の値が横軸に1つ存在する。そのためプロット図には、電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。このように、電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とすることができる。
【0029】
第1の単位u1の材質は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。
第1の単位の材質としては、例えば、金属の細線、導電性薄膜、導電性ペーストの定着物が挙げられる。
金属の材質としては、銅、アルミニウム、タングステン、鉄、モリブデン、ニッケル、チタン、銀、金又はこれらの金属を2種以上含む合金(例えば、ステンレス鋼、炭素鋼等の鋼鉄、真鍮、りん青銅、ジルコニウム銅合金、ベリリウム銅、鉄ニッケル、ニクロム、ニッケルチタン、カンタル、ハステロイ、レニウムタングステン等)が挙げられる。
導電性薄膜の材質としては、金属粒子、カーボンナノ粒子、カーボンファイバー等が挙げられる。
【0030】
第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。
例えば、第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。ただし、周囲環境の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムを設計しやすくなり、吸収される電磁波の周波数帯の精度が製造時に向上することから、第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、互いに同一であることが好ましい。
【0031】
(第2の電磁波吸収パターン)
図4は、第2の電磁波吸収パターン2を示す上面図である。
図4に示すように、第2の電磁波吸収パターン2は、複数の第2の単位u2で構成される。第2の単位u2のそれぞれは、幾何学的な図形である。すなわち、第2の電磁波吸収パターン2は、幾何学的な図形である第2の単位u2の集合体であるともいえる。
第2の単位u2は、それぞれが一つのアンテナとして機能する。第2の電磁波吸収パターン2は、例えば、FSS素子の細線パターンでもよい。
【0032】
第2の電磁波吸収パターン2においては、複数の第2の単位u2が
図4中の両矢印Pで示す方向に沿って配列された第2の配列R2が形成されている。第2の電磁波吸収パターン2は複数の第2の配列R2を有するともいえる。第2の電磁波吸収パターン2は、第2の配列R2を両矢印Pで示す方向に沿って、所定の間隔で基材20上に形成することで構成できる。
複数の第2の配列R2同士の間隔は特に制限されない。第2の配列R2同士の間隔は、規則的でも不規則的でもよい。
【0033】
図5は、第2の単位u2を示す上面図である。
図5に示すように、第2の単位u2の形状は上下左右対称の十字状である。具体的に第2の単位u2は、1つの十字部分S2と、4つの端部T2とを有する。十字部分S2は、
図5中のx軸方向に平行な直線部分とy軸方向に平行な直線部分とで構成される。x軸方向に平行な直線部分の両端とy軸方向に平行な直線部分の両端のそれぞれに、各直線部分と直交するように直線状の各端部T2が接している。
【0034】
電磁波吸収フィルム10においては、第2の単位u2のx軸方向の長さL2は、第1の単位u1のx軸方向の長さL1より短い。加えて、4つの端部T2のそれぞれのx軸方向又はy軸方向の長さW2は、第1の単位u1の4つの端部T1のそれぞれの長さW1より短い。
第2の単位u2のx軸方向の長さL2、4つの端部T2のそれぞれのx軸方向の長さW2をそれぞれ調整することで、一つのアンテナとして機能する第2の単位u2による電磁波の吸収特性を調節できる。y軸方向も同様にして、電磁波の吸収特性を調節できる。
【0035】
電磁波吸収フィルム10においては、複数の第2の単位u2の形状は互いに同一である。ただし、複数の第2の単位u2の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。本発明の他の例においては、複数の第2の単位の形状は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0036】
第2の電磁波吸収パターン2は、周波数が下式(1)を満たすB[GHz]である電磁波を選択的に吸収する。周波数の値B[GHz]は、第2の電磁波吸収パターン2によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示すときの周波数の値である。周波数の値B[GHz]は、下式(1)を満たす。
1.037×A≦B≦1.30×A ・・・式(1)
【0037】
式(1)に示すように、第2の電磁波吸収パターン2は、周波数が1.037×A~1.30×A[GHz]である電磁波を吸収する。第2の電磁波吸収パターン2は、周波数が1.17×A~1.30×A[GHz]である電磁波を吸収することが好ましい。
第2の電磁波吸収パターン2が1.037×A[GHz]以上の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より高周波数の周波数帯で第2の電磁波吸収パターン2による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン1による電磁波の吸収量のピークとが充分に重なりあう。その結果、第1の電磁波吸収パターン1を単独で有するフィルムと比較して、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯がA[GHz]より高周波数側の周波数帯に拡張される。
第2の電磁波吸収パターン2が1.30×A[GHz]以下の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より高周波数の周波数帯で第2の電磁波吸収パターン2による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン1による電磁波の吸収量のピークとの周波数の差が少なくなる。その結果、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。
以上より、第2の電磁波吸収パターン2は周波数が1.037×A~1.30×A[GHz]である電磁波を吸収するため、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が高周波数側の周波数帯に拡張される。
【0038】
ただし、第2の単位の形状は十字状に限定されない。第2の単位の形状は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。例えば、第2の単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。
【0039】
第2の電磁波吸収パターン2を構成する第2の単位の材質は、B[GHz]の電磁波を吸収できる態様であれば、特に限定されず、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。
第2の単位の材質としては、第1の単位u1の材質について説明した内容と同内容である。
【0040】
第2の単位u2である図形の端部同士の間隔は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。
例えば、第2の単位u2である図形の端部同士の間隔は、全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。ただし、周囲環境の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムを設計しやすくなり、吸収される電磁波の周波数帯の精度が製造時に向上することから、第2の単位u2である図形の端部同士の間隔は、互いに同一であることが好ましい。
【0041】
(第3の電磁波吸収パターン)
図6は、第3の電磁波吸収パターン3を示す上面図である。
図6に示すように第3の電磁波吸収パターン3は、複数の第3の単位u3で構成される。第3の単位u3のそれぞれは、幾何学的な図形である。すなわち、第3の電磁波吸収パターン3は、幾何学的な図形である第3の単位u3の集合体であるともいえる。
第3の単位u3は、それぞれが一つのアンテナとして機能する。第3の電磁波吸収パターン3は、例えば、FSS素子の細線パターンでもよい。
【0042】
第3の電磁波吸収パターン3においては、複数の第3の単位u3が
図6中の両矢印Pで示す方向に沿って配列された第3の配列R3が形成されている。第3の電磁波吸収パターン3は複数の第3の配列R3を有するともいえる。第3の電磁波吸収パターン3は、第3の配列R3を両矢印Pで示す方向に沿って、所定の間隔で基材20上に形成することで構成できる。
複数の第3の配列R3同士の間隔は特に制限されない。第3の配列R3同士の間隔は、規則的でも不規則的でもよい。
【0043】
図7は、第3の単位u3を示す上面図である。
図7に示すように、第3の単位u3の形状は上下左右対称の十字状である。具体的に第3の単位u3は、1つの十字部分S3と、4つの端部T3とを有する。十字部分S3は、
図7中のx軸方向に平行な直線部分とy軸方向に平行な直線部分とで構成される。x軸方向に平行な直線部分の両端とy軸方向に平行な直線部分の両端のそれぞれに、各直線部分と直交するように直線状の各端部T3が接している。
【0044】
電磁波吸収フィルム10においては、第3の単位u3のx軸方向の長さL3は、第1の単位u1のx軸方向の長さL1より長い。加えて、4つの端部T3のそれぞれのx軸方向又はy軸方向の長さW3は、第1の単位u1の4つの端部T1のそれぞれの長さW1より長い。
第3の単位u3のx軸方向の長さL3、4つの端部T3のそれぞれのx軸方向の長さW3をそれぞれ調整することで、一つのアンテナとして機能する第3の単位u3による電磁波の吸収特性を調節できる。y軸方向も同様にして、電磁波の吸収特性を調節できる。
【0045】
電磁波吸収フィルム10においては、複数の第3の単位u3の形状は互いに同一である。ただし、複数の第3の単位u3の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。本発明の他の例においては、複数の第3の単位の形状は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0046】
第3の電磁波吸収パターン3は、周波数が下式(2)を満たすC[GHz]である電磁波を選択的に吸収する。周波数の値C[GHz]は、第3の電磁波吸収パターン3によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示すときの周波数の値である。周波数の値C[GHz]は、下式(2)を満たす。
0.60×A≦C≦0.963×A ・・・式(2)
【0047】
式(2)に示すように、第3の電磁波吸収パターン3は、周波数が0.60×A~0.963×A[GHz]である電磁波を吸収する。第3の電磁波吸収パターン3は、周波数が0.60×A~0.83×A[GHz]である電磁波を吸収することが好ましい。
第3の電磁波吸収パターン3が0.60×A[GHz]以上の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より低周波数の周波数帯で第3の電磁波吸収パターン3による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン1による電磁波の吸収量のピークとの周波数の差が少なくなる。その結果、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。
第3の電磁波吸収パターン3が0.963×A[GHz]以下の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より低周波数の周波数帯で第3の電磁波吸収パターン3による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン1による電磁波の吸収量のピークとが充分に重なりあう。その結果、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯が第1の電磁波吸収パターン1を単独で有するフィルムと比較して、A[GHz]より低周波数側の周波数帯に拡張される。
以上より、第3の電磁波吸収パターン3は周波数が0.60×A~0.963×A[GHz]である電磁波を吸収するため、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が低周波数側の周波数帯に拡張される。
【0048】
ただし、第3の単位u3の形状は十字状に限定されない。第3の単位u3の形状は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。例えば、第3の単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。
【0049】
第3の電磁波吸収パターン3を構成する第3の単位u3の材質は、C[GHz]の電磁波を吸収できる態様であれば、特に限定されず、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。
第3の単位u3の材質としては、第1の単位u1の材質について説明した内容と同内容である。
【0050】
第3の単位u3である図形の端部同士の間隔は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されない。
例えば、第3の単位u3である図形の端部同士の間隔は、全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。ただし、周囲環境の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムを設計しやすくなり、吸収される電磁波の周波数帯の精度が製造時に向上することから、第3の単位u3である図形の端部同士の間隔は、互いに同一であることが好ましい。
【0051】
図1に示す電磁波吸収フィルム10においては、第1の配列R1と第2の配列R2と第3の配列R3とが互いに隣り合うように両矢印Pで示す方向に沿って配列されている。このように、第1の配列R1と第2の配列R2と第3の配列R3とが互いに隣り合うように基材20に配置されているため、第1の電磁波吸収パターン1が選択的に吸収する電磁波のピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準として、第2の電磁波吸収パターンが選択的に吸収する電磁波の周波数帯と、第3の電磁波吸収パターンが選択的に吸収する電磁波の周波数帯の両方が重なりあう。その結果、電磁波吸収フィルム10全体で吸収される電磁波の吸収域が、ピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準として、高周波数側と低周波数側との両方に拡張されやすくなる。
【0052】
図1にそれぞれ示す、第1の単位u1と第2の単位u2との間隔d1、第2の単位u2と第3の単位u3との間隔d2、第3の単位u3と第1の単位u1との間隔d3は、互いに同一でもよく、異なってもよい。
間隔d1は、例えば、0.2~4[mm]でもよく、0.3~2[mm]でもよく、0.5~1[mm]でもよい。
間隔d2は、例えば、0.2~4[mm]でもよく、0.3~2[mm]でもよく、0.5~1[mm]でもよい。
間隔d3は、例えば、0.2~4[mm]でもよく、0.3~2[mm]でもよく、0.5~1[mm]でもよい。
間隔d1、間隔d2、間隔d3がそれぞれ前記数値範囲内であると、電磁波吸収フィルム10全体で吸収される電磁波の吸収域が、ピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準としてさらに拡張されやすくなる。
【0053】
電磁波吸収フィルム10においては、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は互いに同一である。ただし、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。すなわち、本発明の他の例においては、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0054】
電磁波吸収フィルム10は、複数の第2の電磁波吸収パターンを有してもよい。例えば、電磁波吸収フィルム10は、第2の電磁波吸収パターン2に加えて、下記の電磁波吸収パターン2a、電磁波吸収パターン2bをさらに有してもよい。
・電磁波吸収パターン2a:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下式(4)を満たすD[GHz]である電磁波吸収パターン。
・電磁波吸収パターン2b:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下式(5)を満たすE[GHz]である電磁波吸収パターン。
1.037×A≦D<1.09×A ・・・式(4)
1.09×A≦E<1.17×A ・・・式(5)
式(4)、式(5)中、Aは上述の方法X又は方法Yで特定される周波数[GHz]である。
【0055】
電磁波吸収フィルム10が、第2の電磁波吸収パターン2に加えて、電磁波吸収パターン2aと電磁波吸収パターン2bとをさらに有する場合、第2の電磁波吸収パターン2によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値は、1.17×A~1.30×A[GHz]が好ましい。この場合、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯の高周波数側への拡張効果がさらに顕著であり、本発明の効果がさらに顕著に得られる。
【0056】
電磁波吸収フィルム10は、複数の第3の電磁波吸収パターンを有してもよい。例えば、電磁波吸収フィルム10は、第3の電磁波吸収パターン3に加えて、下記の電磁波吸収パターン3aと電磁波吸収パターン3bとをさらに有してもよい。
・電磁波吸収パターン3a:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下式(6)を満たすF[GHz]である電磁波吸収パターン。
・電磁波吸収パターン3b:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下式(7)を満たすG[GHz]である電磁波吸収パターン。
0.91×A<F≦0.963×A ・・・式(6)
0.83×A<G≦0.91×A ・・・式(7)
式(6)、式(7)中、Aは上述の方法X又は方法Yで特定される周波数[GHz]である。
【0057】
電磁波吸収フィルム10が、第3の電磁波吸収パターン3に加えて、電磁波吸収パターン3a、電磁波吸収パターン3bをさらに有する場合、第3の電磁波吸収パターン3によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値は、0.60×A~0.83×A[GHz]が好ましい。この場合、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯の低周波数側への拡張効果がさらに顕著であり、本発明の効果がさらに顕著に得られる。
【0058】
図8は、
図1の電磁波吸収フィルム10のVIII-VIII断面図である。
基材20は、互いに対向する2つの面20a,20bを有する。そして、基材20の一方の面20aに、第1の電磁波吸収パターン1、第2の電磁波吸収パターン2、第3の電磁波吸収パターン3が形成されている。
図8に示すように、基材20の一方の面20aに、複数の第1の単位u1、複数の第2の単位u2、複数の第3の単位u3がそれぞれ設けられている。
【0059】
基材20は、平板状であり、かつ、一方の面20aに第1の電磁波吸収パターン1、第2の電磁波吸収パターン2及び第3の電磁波吸収パターン3を形成できる形態であれば、特に限定されない。基材20は単層構造でも多層構造でもよい。
【0060】
基材20の厚さKは、例えば、5~500[μm]でもよく、15~200[μm]でもよく、25~100[μm]でもよい。
第1の電磁波吸収パターン1の厚さH1、第2の電磁波吸収パターン2の厚さH2、第3の電磁波吸収パターン3の厚さH3は特に限定されない。厚さH1、厚さH2、厚さH3は所望する特性に応じて任意に変更可能である。また、厚さH1、厚さH2、厚さH3は互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
厚さH1、厚さH2、厚さH3は、例えば、1~100[μm]でもよく、5~50[μm]でもよく、10~30[μm]でもよい。厚さH1、厚さH2、厚さH3のそれぞれが厚いほど、電磁波吸収性がよくなる一方、製造コストが高くなる。この点を考慮して、厚さH1、厚さH2、厚さH3のそれぞれを設定してもよい。
【0061】
基材20の材料は、電磁波吸収フィルムの用途に応じて適宜選択できる。例えば、電磁波吸収フィルムの透明性の具備を目的として、基材20を透明な材料で構成してもよい。他にも、電磁波吸収フィルムの曲面に対する追従性の具備を目的として、基材20を柔軟性のある材料で構成してもよい。電磁波吸収フィルムの透明性、三次元成形性の向上を目的として、基材20の表面を平滑にしてもよい。
【0062】
例えば、基材20は樹脂で構成できる。樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。ただし、電磁波吸収フィルム10の三次元成形性を考慮する場合、基材20は熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0063】
熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂組成物、ウレタン反応により硬化する樹脂組成物、ラジカル重合反応により硬化する樹脂組成物を用いることができる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
エポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂と硬化剤とを含む組成物である。エポキシ樹脂の具体例としては、多官能系エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
硬化剤の具体例としては、アミン化合物、フェノール系硬化剤等が挙げられる。
ウレタン反応により硬化する樹脂組成物としては、例えば、(メタ)アクリルポリオールとポリイソシアネート化合物とを含む樹脂組成物が挙げられる。
【0064】
ラジカル重合反応により硬化する樹脂組成物としては、例えば、側鎖にラジカル重合性基を有する(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂としては、反応性基を有するビニル単量体の重合体と、ビニル単量体由来の反応性基と反応し得る基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する単量体とを反応させて得られる樹脂;エポキシ樹脂の末端に(メタ)アクリル酸等を反応させた(メタ)アクリル基を有するエポキシアクリレートが挙げられる。
反応性基を有するビニル単量体の具体例としては、例えば、ヒドロキシ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体が挙げられる。
ビニル単量体由来の反応性基と反応し得る基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、イソシアナート基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
不飽和ポリエステルとしては、不飽和基を有するカルボン酸(フマル酸等)をジオールと縮合した不飽和ポリエステルが挙げられる。
基材20は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意成分を含んでもよい。任意成分の例としては、例えば、無機充填材、着色剤、硬化剤、老化防止剤、光安定剤、難燃剤、導電剤、帯電防止剤、可塑剤等が挙げられる。
【0065】
無機充填材としては、金属粒子、金属酸化物粒子、金属水酸化物粒子、金属窒化物系粒子等が挙げられる。より具体的には、銀粒子、銅粒子、アルミニウム粒子、ニッケル粒子、酸化亜鉛粒子、酸化アルミニウム粒子、窒化アルミニウム粒子、酸化ケイ素粒子、酸化マグネシウム粒子、窒化アルミニウム粒子、チタン粒子、窒化ホウ素粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子、グラファイト粒子、カーボンナノチューブ粒子、金属ケイ素粒子、カーボンファイバー粒子、フラーレン粒子、ガラス粒子等が挙げられる。
着色剤の具体例としては、無機顔料、有機顔料、染料等が挙げられる。
これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
電磁波吸収フィルム10の電磁波の吸収性能のさらなる改良を考慮して、基材20の厚さ、誘電率、電気伝導率、透磁率は適宜設定可能である。
吸収対象となる電磁波の電気的特性を考慮する場合、基材20は高誘電率の層であってもよい。基材20が高誘電率の層であると、電磁波吸収フィルム10の厚さを相対的に薄くできる。
【0067】
電磁波吸収フィルム10を種々の物品の表面に適用することを目的として、基材20の一方の面20bを接着性としてもよい。基材20の一方の面20bを接着性とする場合には、面20bを覆う剥離フィルムを設けてもよい。剥離フィルムは電磁波吸収フィルム10の使用時には除去される。剥離フィルムが接着面を覆うことで、流通時の取扱性がよくなる。
例えば、基材20の一方の面20bが接着剤を含む接着層である多層構造を採用することで、基材20の一方の面20bを接着性とすることができる。
【0068】
接着剤としては、熱により接着するヒートシールタイプの接着剤;湿潤させて貼付性を発現させる接着剤;圧力により接着する感圧性接着剤(粘着剤)等が挙げられる。これらの中でも、簡便さの観点から、粘着剤(感圧性接着剤)が好ましい。
粘着剤の具体例としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤及びゴム系粘着剤からなる群から選ばれる少なくともいずれかが好ましく、アクリル系粘着剤がより好ましい。
【0069】
アクリル系粘着剤としては、例えば、下記のアクリル系重合体が挙げられる。
・直鎖のアルキル基又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系重合体(1)(すなわち、少なくともアルキル(メタ)アクリレートを単量体として重合することで得られる重合体)。
・環状構造を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系重合体(2)(すなわち、環状構造を有する(メタ)アクリレートを少なくとも重合することで得られる重合体)。
アクリル系重合体は単独重合体でも共重合体でもよい。アクリル系重合体が共重合体である場合、共重合の形態は特に限定されない。アクリル系共重合体は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもグラフト共重合体でもよい。
【0070】
アクリル系粘着剤としては、下記のアクリル系共重合体(Q)が好ましい。
・アクリル系共重合体(Q):炭素数1~20の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(以下、「単量体成分(q1’)」と記載する。)に由来する構成単位(q1)と官能基含有モノマー(以下、「単量体成分(q2’)」と記載する。)に由来する構成単位(q2)とを含む共重合体。
アクリル系共重合体(Q)は、構成単位(q1)及び構成単位(q2)以外のその他の構成単位(q3)をさらに含んでもよい。構成単位(q3)は、単量体成分(q1’)及び単量体成分(q2’)以外の他の単量体成分(q3’)に由来する構成単位である。
【0071】
単量体成分(q1’)が有する鎖状アルキル基の炭素数としては、粘着特性の向上の観点から、1~12が好ましく、4~8がより好ましく、4~6がさらに好ましい。単量体成分(q1’)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、ブチル(メタ)アクリレート及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0072】
単量体成分(q2’)としては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ケト基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーが好ましい。
ヒドロキシ基含有モノマーの具体例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
カルボキシ基含有モノマーの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、(メタ)アクリル酸が好ましい。
エポキシ基含有モノマーの具体例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノ基含有モノマーの具体例としては、例えばジアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
シアノ基含有モノマーの具体例としては、例えばアクリロニトリル等が挙げられる。
これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0073】
単量体成分(q3’)としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン等の環状構造を有する(メタ)アクリレート;酢酸ビニル;スチレン等が挙げられる。
これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0074】
構成単位(q1)の含有量は、アクリル系共重合体(Q)の全構成単位100質量%に対して、50~99.5質量%が好ましく、55質量%~99質量%がより好ましく、60~97質量%がさらに好ましく、65~95質量%が特に好ましい。
構成単位(q2)の含有量は、アクリル系共重合体(Q)の全構成単位100質量%に対して、0.1~50質量%が好ましく、0.5~40質量%がより好ましく、1.0~30質量%がさらに好ましく、1.5~20質量%が特に好ましい。
構成単位(q3)の含有量は、アクリル系共重合体(Q)の全構成単位100質量%に対して、0~40質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましく、0~25質量%がさらに好ましく、0~20質量%が特に好ましい。
【0075】
アクリル系共重合体は架橋剤により架橋されていてもよい。架橋剤としては、例えば、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。アクリル系共重合体を架橋する場合には、単量体成分(q2’)に由来する官能基を、架橋剤と反応する架橋点として利用できる。
【0076】
耐衝撃性の向上等を目的として、接着層は紫外線、可視エネルギー線、赤外線、電子線等のエネルギー線で硬化する材質で構成してもよい。この場合、接着層はエネルギー線硬化性の成分を含む。
エネルギー線硬化性の成分としては、例えばエネルギー線が紫外線である場合には、一分子中に紫外線重合性の官能基を2つ以上有する化合物等が挙げられる。一分子中に紫外線重合性の官能基を2つ以上有する化合物の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ変性(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0077】
接着層がエネルギー線硬化性である場合、光重合開始剤の併用が好ましい。光重合開始剤により、硬化速度が高くなる。
光重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサントン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、2-クロロアンスラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-ベンゾチアゾール-N,N-ジエチルジチオカルバメート、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-プロペニル)フェニル]プロパノン}等が挙げられる。
【0078】
電磁波吸収フィルム10は、例えば、下記の方法によって製造できる。
まず、基材20を準備する。次いで、基材20の一方の面20aに第1の電磁波吸収パターン1、第2の電磁波吸収パターン2及び第3の電磁波吸収パターン3を形成する。
ここで、第1の電磁波吸収パターン1を形成する際には、第1の電磁波吸収パターン1によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がA[GHz]となるように形成する。
第2の電磁波吸収パターン2を形成する際には、第2の電磁波吸収パターン2によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がB[GHz]となるように形成する。
第3の電磁波吸収パターン3を形成する際には、第3の電磁波吸収パターン3によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がC[GHz]となるように形成する。
第1の電磁波吸収パターン1、第2の電磁波吸収パターン2及び第3の電磁波吸収パターン3を形成する順序は特に限定されない。第1の電磁波吸収パターン1、第2の電磁波吸収パターン2及び第3の電磁波吸収パターン3は、同一の工程内で形成してもよく、それぞれ別々の工程で形成してもよい。
【0079】
各電磁波吸収パターンの形成方法は、所定の周波数を形成できる態様であれば特に限定されない。各電磁波吸収パターンの形成方法の例としては、例えば、下記の方法がある。
・導電性ペーストを用いて基材20の一方の面20aに各電磁波吸収パターンを印刷する印刷方法。
・基材20の一方の面20aに各電磁波吸収パターンを現像する現像方法。
・スパッタ法、真空蒸着又は金属箔の積層によって基材20の一方の面20aに金属薄膜を設け、フォトリソグラフィによって金属薄膜のパターンを基材20の一方の面20aに形成する方法。
・金属ワイヤーを基材20の一方の面20aに配置する方法。
【0080】
印刷方法では、基材20の一方の面20aに各電磁波吸収パターンを印刷して図形である各単位u1,u2,u3を形成する。印刷方法は特に限定されない。例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット方式等の方法が挙げられる。
印刷に使用する導電性ペーストとしては、例えば、金属粒子、カーボンナノ粒子及びカーボンファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種以上とバインダー樹脂成分とを含むペースト状の組成物が挙げられる。金属粒子としては、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属の粒子が挙げられる。バインダー樹脂成分としては、例えば、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。ただし、金属粒子及びバインダー樹脂成分はこれらの例示に限定されない。
導電性ペーストは、さらにカーボンブラック等の黒色顔料を含んでもよい。導電性ペーストが黒色顔料をさらに含むと、印刷された電磁波吸収パターンを構成する金属粉末の金属光沢を抑え、外光の反射を抑制できる。
【0081】
現像方法では、基材20の一方の面20aに電磁波吸収パターンを現像して図形である各単位u1,u2,u3を形成する。
現像方法としては、露光マスクに覆われず、露光された部分に現像物が発現するネガ型の現像方法と露光マスクに覆われ、未露光の部分には現像物が発現するポジ型の現像方法がある。すなわち、ネガ型の現像方法では、露光マスクと反対の形に現像物として各単位u1,u2,u3が形成される。一方、ポジ型の現像方法では、露光マスクと同じ形に現像物として各単位u1,u2,u3が形成される。現像物に用いる金属としては通常、銀が使用される。
【0082】
フォトリソグラフィによる電磁波吸収パターンの形成方法の一例としては、例えば、下記の方法がある。
まず、基材20の表面にレジストを塗布し、熱処理した後、レジストから溶媒を除去する。次に、レジストに所望のパターンを露光し、レジストパターンを現像してレジストパターンからなる層を形成する。次に、基材とレジストパターンからなる層の上に、全面にわたって蒸着膜を形成し、レジスト剥離剤を用いてレジストパターンからなる層とその上に乗っている蒸着膜とを同時に除去する。これにより、基材の表面に電磁波吸収パターンを形成できる。
その他の一例として、基材20上に金属薄膜を設け、金属薄膜の表面の一部にレジストを塗布し、熱処理する。次に、エッチング処理によりレジストが塗布されていない部分の金属薄膜を除去する。その後、必要に応じレジストを除去し、電磁波吸収パターンを形成する。各電磁波吸収パターンを構成する各単位u1,u2,u3の表面には、図示略の金属メッキ層をさらに設けてもよい。
【0083】
金属ワイヤーを構成する金属の具体例としては、各単位u1,u2,u3の材質として上述した金属と同様の金属が挙げられる。加えて、金属ワイヤーは錫、亜鉛、銀、ニッケル、クロム、ニッケルクロム合金、はんだ等でめっきされてもよく、炭素材料、ポリマー等により表面が被覆されていてもよい。金属ワイヤーの表面を被覆する炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンファイバー等の非晶質炭素;グラファイト;フラーレン;グラフェン;カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0084】
(作用効果)
以上説明したように、本発明の電磁波吸収フィルムにあっては、吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がA[GHz]である第1の電磁波吸収パターンと、吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がB[GHz]である第2の電磁波吸収パターンと、吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がC[GHz]である第3の電磁波吸収パターンとを有する。そして、第1の電磁波吸収パターン、第2の電磁波吸収パターン及び第3の電磁波吸収パターンが同一の平板状の基材に形成されている。
そのため、各電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波が互いに充分に重なり合い、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯が広くなる。その結果、電磁波吸収フィルムの吸収特性が周囲環境の部材の影響を受けて、所定の周波数から変化し得る場合であっても、変化後の周波数が電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な周波数帯の範囲内におさまる確率が従来と比較して飛躍的に高くなる。
このように、本発明の電磁波吸収フィルムは周囲環境に配置されている部材、周囲環境の温度等の周囲環境の影響を受けにくく、設計時に吸収対象として予定していた周波数の電磁波を充分に吸収できる。
【0085】
<電磁波吸収シート>
以下、本発明の電磁波吸収シートについて説明する。
図9は、本発明の電磁波吸収シートの一例を示す断面図である。
図9に示すように、電磁波吸収シート50は、本発明の電磁波吸収フィルム10とスペーサーフィルム30と反射フィルム40とを有する。
【0086】
(スペーサーフィルム)
スペーサーフィルム30は、電磁波吸収フィルム10が有する基材20の一方の面20bに設けられている。
スペーサーフィルム30は2つの面30a,30bを有する。スペーサーフィルム30の一方の面30aは、基材20の一方の面20bと接している。スペーサーフィルム30の一方の面30bには、反射フィルム40が設けられている。
スペーサーフィルム30は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0087】
スペーサーフィルム30の材料は、電磁波吸収フィルムの用途に応じて適宜選択できる。例えば、電磁波吸収フィルムの透明性の具備を目的として、スペーサーフィルム30を透明な材料で構成してもよい。他にも、電磁波吸収フィルムの曲面に対する追従性の具備を目的として、スペーサーフィルム30を柔軟性のある材料で構成してもよい。
柔軟性のある材料としては、プラスチックフィルム、ゴム、紙、布、不織布、発泡シート、ゴムシート等が挙げられる。これらの中でも、電磁波吸収シート50の曲面に対する追従性の点から、発泡シートが好ましい。
プラスチックフィルムを構成する樹脂の具体例としては、例えば、上述の基材20について説明した熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。
発泡シートとしては、例えば、前記プラスチックフィルムを構成する樹脂を発泡させ、シート状に形成した発泡シートを用いることができる。発泡シートの具体例としては、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリウレタンフォーム等が挙げられる。
【0088】
スペーサーフィルム30による波長短縮効果を考慮する場合、スペーサーフィルム30の厚さは、吸収対象となる電磁波の波長及びスペーサーフィルム30の比誘電率に合わせて適宜変更される。
スペーサーフィルム30による波長短縮効果を考慮する場合、スペーサーフィルム30のz軸方向の厚みは、下式(8)を満たすことが好ましい。
(スペーサーフィルム30のz軸方向の厚み)=(λ)×(1/4)/(ε)1/2 ・・・式(8)
式(8)中、λは飛来する電磁波の波長であり、εはスペーサーフィルム30の比誘電率である。
【0089】
スペーサーフィルム30のz軸方向の厚みと波長λとの関係が式(8)を満たす場合、電磁波吸収シート50はいわゆるλ/4構造となる。これにより、電磁波吸収シート50による電磁波の吸収量の極大値がさらに高くなる。
スペーサーフィルム30の厚さは、吸収対象となる電磁波の波長λに応じて適宜設定できる。スペーサーフィルム30の厚さは、例えば、25~5000[μm]でもよく、50~4500[μm]でもよく、100~4000[μm]でもよい。
スペーサーフィルム30は高誘電率の材質で構成してもよい。スペーサーフィルム30が高誘電率の層であると、スペーサーフィルム30の厚さを相対的に薄くできる。
スペーサーフィルム30の誘電率を考慮する場合、スペーサーフィルム30はチタン酸バリウム、酸化チタン、チタン酸ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0090】
スペーサーフィルム30は、プラスチックフィルム、発泡シート、ゴムシートからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましく、これらの中でも発泡シートを含むことがより好ましい。スペーサーフィルム30は、プラスチックフィルム、発泡シート、ゴムシートからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であると、電磁波吸収シート50の曲面に対する追従性が向上する。
スペーサーフィルム30は、単一のシートからなる単層構造でも、複数のシートの積層物である多層構造でもよい。スペーサーフィルム30を構成するシートの材質及び構造は、電磁波吸収シートの用途に応じて適宜選択できる。
【0091】
スペーサーフィルム30の2つの面30a、30bは、接着性であることが好ましい。これにより、2つの面30a、30bのそれぞれに、電磁波吸収フィルム10及び反射フィルム40を貼り合わせることができる。例えば、2つの面30a、30bが接着剤を含む接着層である多層構造を採用することで、2つの面30a、30bを接着性とすることができる。
接着層の詳細及び好ましい態様については、基材20における接着層について説明した内容と同内容とすることができる。
【0092】
(反射フィルム)
反射フィルム40はスペーサーフィルム30の一方の面30bに設けられている。
反射フィルム40は2つの面40a,40bを有する。反射フィルム40の一方の面40aは、反射フィルム40の一方の面40bと接している。
反射フィルム40は、電磁波吸収フィルム10の表面に飛来し、電磁波吸収フィルム10を透過した電磁波を反射できる形態であれば、特に限定されない。電磁波吸収シート50に飛来する電磁波のうち、一部は電磁波吸収フィルム10で反射されるか、電磁波吸収フィルム10に吸収される。一方で、電磁波吸収フィルム10で反射も吸収もされなかった電磁波は、電磁波吸収フィルム10を透過する。電磁波吸収フィルム10を透過した電磁波は、反射フィルム40で電磁波吸収フィルム10に向けて反射される。
例えば、2つの面40a,40bの面方向において反射フィルム40が導電性を具備する形態であれば、電磁波吸収フィルム10を透過した電磁波を反射できる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムに銅箔等の金属箔を貼り合わせたものを反射フィルム40として使用してもよい。金属箔の代わりに、ITO等の当面導電膜、金属ワイヤー等で形成されたメッシュシートを使用してもよい。
【0093】
反射フィルム40の反射特性を考慮して反射フィルム40の一方の面40bの表面に金属ワイヤー、導電性糸、金属ワイヤー及び導電性糸を含む撚糸、導電性薄膜を設けてもよい。導電性薄膜は、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット方式等の印刷方法;スパッタ法又は真空蒸着;フォトリソグラフィによって面40bに設けることができる。
【0094】
スペーサーフィルム30を金属等の導電性を具備する物体に貼り付ける場合には、金属等の導電性を具備する物体が反射フィルム40の役割を果たすため、反射フィルム40は省略できる。
【0095】
以上説明した本発明の電磁波吸収シート50にあっては、本発明の電磁波吸収フィルム10を有するため、周囲環境に配置されている部材、周囲環境の温度等の周囲環境の影響を受けにくく、周波数が変化した後の電磁波でも充分に吸収できる。
加えて、電磁波吸収シート50はスペーサーフィルム30と反射フィルム40とをさらに有するため、電磁波吸収フィルム10の表面に飛来し、電磁波吸収フィルム10透過した電磁波を反射フィルム40で効果的に反射できる。その後、反射フィルム40で反射した電磁波が、電磁波吸収フィルム10で再度、吸収又は反射されるため、電磁波吸収シート50全体で電磁波の吸収量が高くなる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0097】
<測定方法>
(吸収率のピーク値)
作製した電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シートについて、フリースペース型Sパラメータ法によってベクトルネットワークアナライザ(キーサイト社製「N5290A」)を用いて、電磁波の反射特性(S11)及び透過特性(S21)を測定した。次に、下式(9)により吸収率を算出し、吸収率の波形から極大値を示す周波数の値を求め、吸収率のピーク値とした。本実施例及び比較例においては、50~110[GHz]の帯域で反射特性(S11)及び透過特性(S21)を測定した。
吸収率[%]=100-反射率(S11)-透過率(S21) ・・・式(9)
【0098】
(吸収量のピーク幅)
作製した電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シートについて、フリースペース型Sパラメータ法によってベクトルネットワークアナライザ(キーサイト社製「N5290A」)を用いて、50~110GHzの帯域で電磁波の反射特性(S11)及び透過特性(S21)を測定し、式(9)により吸収率を算出した。次に、横軸に周波数をプロットし、縦軸に算出した吸収率をプロットした吸収スペクトル図を作成した。
この吸収スペクトル図において、吸収率が最大値となるピークの半値幅を吸収量のピーク幅とした。すなわち、当該ピークにおいて、ピークの縦軸方向の高さが最大値の50%となるときの、ピークの横軸方向の幅(半値幅)を、吸収量のピーク幅とした。
【0099】
<実施例1>
ポリエチレンテレフタレートを含み、厚みが50[μm]であるPETフィルム上に、第1の電磁波吸収パターン、第2の電磁波吸収パターン及び第3の電磁波吸収パターンを形成し、
図1に示すような実施例1の電磁波吸収フィルムを作製した。
図1に示す各パターンの間隔d1,d2,d3は,すべて1[mm]とした。
第1の電磁波吸収パターン、第2の電磁波吸収パターン及び第3の電磁波吸収パターンの形状は、
図3,5,7にそれぞれ示す十字状とした。第1の電磁波吸収パターン、第2の電磁波吸収パターン及び第3の電磁波吸収パターンの厚みは、いずれも18[μm]とした。また、第1の電磁波吸収パターン、第2の電磁波吸収パターン及び第3の電磁波吸収パターンの材質として、いずれも銅を使用した。
【0100】
ここで、表1に示すように
図3に示すL1は1.3[mm]とし、
図5に示すL2は1.2[mm]とし、
図7に示すL3は1.4[mm]とした。この場合、表2に示すように、第1の単位u1で構成される第1の電磁波吸収パターンは、周波数Aが79[GHz]である電磁波を吸収する。すなわち、第1の電磁波吸収パターンによる電磁波の吸収量のピークは、79[GHz]の周波数帯に位置する。
また、第2の単位u2で構成される第2の電磁波吸収パターンは、周波数Bが86[GHz]である電磁波を吸収する。すなわち、第2の電磁波吸収パターンによる電磁波の吸収量のピークは、86[GHz]の周波数帯に位置する。
そして、第3の単位u3で構成される第3の電磁波吸収パターンは、周波数Cが76[GHz]である電磁波を吸収する。すなわち、第3の電磁波吸収パターンによる電磁波の吸収量のピークは、76[GHz]の周波数帯に位置する。
実施例1では、以上の3種類の電磁波吸収パターンが基材に形成された電磁波吸収フィルムを作製した。
なお、各電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数は、上述の方法Xによって測定した。
【0101】
<実施例2>
L2、L3の長さを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電磁波吸収フィルムを作製した。
この場合、各電磁波吸収パターンが選択的に吸収する電磁波の周波数A、B、Cは、表2に示す通りとなる。
実施例2では、表2に示す周波数A、B、Cの3種類の電磁波を選択的に吸収する各電磁波吸収パターンが基材に形成された電磁波吸収フィルムを作製した。
【0102】
<実施例3>
第1の電磁波吸収パターン、第2の電磁波吸収パターン及び第3の電磁波吸収パターンに加えて、下記の電磁波吸収パターン2a、電磁波吸収パターン2b、電磁波吸収パターン3a、電磁波吸収パターン3bをPETフィルム上に形成し、さらにL2、L3の長さを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして実施例3の電磁波吸収フィルムを作製した。
・電磁波吸収パターン2a:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が、下式(4)を満たすD[GHz]である電磁波吸収パターン。
・電磁波吸収パターン2b:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が、下式(5)を満たすE[GHz]である電磁波吸収パターン。
・電磁波吸収パターン3a:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が、下式(6)を満たすF[GHz]である電磁波吸収パターン。
・電磁波吸収パターン3b:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が、下式(7)を満たすG[GHz]である電磁波吸収パターン。
1.037×A≦D<1.09×A ・・・式(4)
1.09×A≦E<1.17×A ・・・式(5)
0.91×A<F≦0.963×A ・・・式(6)
0.83×A<G≦0.91×A ・・・式(7)
【0103】
ここで、電磁波吸収パターン2aは、第2の単位u2aで構成した。同様に、電磁波吸収パターン2b、電磁波吸収パターン3a、電磁波吸収パターン3bのそれぞれは、第2の単位u2b、第3の単位u3a、第3の単位u3bでそれぞれ構成した。
第2の単位u2a、第2の単位u2b、第3の単位u3a、第3の単位u3bの形状はいずれも、第1の単位u1と同様の十字状とした。
第2の単位u2aのx軸方向の長さL4、第2の単位u2bのx軸方向の長さL5、第3の単位u3aのx軸方向の長さL6、第3の単位u3bのx軸方向の長さL7のそれぞれは、表1に示す値とした。そして、各電磁波吸収パターンの間隔はすべて1[mm]とした。
この場合、各電磁波吸収パターンが選択的に吸収する電磁波の周波数は、表2に示す通りとなる。このように、実施例3では、表2に示す7種類の周波数を選択的に吸収する電磁波吸収パターンが基材に形成された電磁波吸収フィルムを作製した。
【0104】
<実施例4>
実施例2で作製した電磁波吸収フィルムの裏面に、厚みが2.2[mm]であるアクリル板をスペーサーフィルムとして設けた。さらに、アクリルフィルムの表面に厚みが18[μm]である銅箔を設け、スペーサーフィルムと反射フィルムとを有する電磁波吸収シートを作製した。ここで、実施例4の電磁波吸収シートはいわゆるλ/4構造を有するように作製した。
【0105】
<実施例5>
実施例2で作製した電磁波吸収フィルムの裏面に、厚みが0.71[mm]であるポリエチレンフォームを心材とする両面テープ(リンテック社製「タックライナー TL-54-06」)の4枚を貼り合わせて、厚みが2.84[mm]である多層構造のスペーサーフィルムを設けた。さらに、アクリルフィルムの表面に厚みが18[μm]である銅箔を設け、スペーサーフィルムと反射フィルムとを有する電磁波吸収シートを作製した。ここで、実施例5の電磁波吸収シートはいわゆるλ/4構造を有するように作製した。
【0106】
<比較例1>
第1の電磁波吸収パターンを構成する第1の単位u1のみを1[mm]間隔でPETフィルムに設けた以外は、実施例1と同様にして比較例1の電磁波吸収フィルムを作製した。
【0107】
<比較例2>
比較例1で作製した電磁波吸収フィルムの裏面に、厚みが2.2[mm]であるアクリルフィルムをスペーサーフィルムとして設けた。さらに、アクリルフィルムの表面に厚みが18[μm]である銅箔を設け、スペーサーフィルムと反射フィルムとを有する電磁波吸収シートを作製した。ここで、比較例2の電磁波吸収シートはいわゆるλ/4構造を有するように作製した。
【0108】
<比較例3、比較例4>
L2、L3の長さを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3、比較例4の電磁波吸収フィルムを作製した。
この場合、各電磁波吸収パターンが選択的に吸収する電磁波の周波数は、表2に示す通りとなる。
比較例3、比較例4では、表2に示す3種類の周波数を選択的に吸収する電磁波吸収パターンが基材に形成された電磁波吸収フィルムを作製した。
【0109】
【0110】
【0111】
表2に示す各周波数に基づいて、各例における各電磁波吸収パターンの吸収量が極大値を示す周波数をA[GHz]で除し、Aを用いた数式によって表記した。結果を表3に示す。
【0112】
【0113】
各例で作製した電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シートについて、上述の測定方法にしたがって、電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シートの全体の吸収率の極大値を示す「吸収量のピークの周波数」、極大値における「吸収率のピーク値」、「吸収量のピーク幅」をそれぞれ測定した。結果を表4に示す。
【0114】
【0115】
実施例1~5では、第1の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の極大値を示す周波数A[GHz]に対して、第2の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の極大値を示す周波数B[GHz]、第3の電磁波吸収パターンによって吸収される電磁波の極大値を示す周波数C[GHz]が本発明で規定する範囲内である。この場合、表4に示すように、電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シート全体で吸収される電磁波の吸収率が極大値となるときの、吸収量のピーク幅は、いずれも比較例1~3より高い値であった。この結果から、電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シート全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークの幅が、低周波数側及び高周波数側の両方の周波数帯に拡張されたことを確認した。
【0116】
表2、3に示すように実施例3の電磁波吸収フィルムにおいては、7種類の周波数を選択的に吸収する電磁波吸収パターンが基材に形成されている。表4に結果を示すように実施例3では、実施例1、2と比較して吸収量のピーク幅の値が大きく、電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シート全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークの幅の拡張効果が顕著であった。
実施例4、5の電磁波吸収シートは、実施例2の電磁波吸収フィルムとスペーサーフィルムと反射フィルムとを有する。この場合、表4に示すように、実施例2と比較して電磁波の吸収率のピーク値が飛躍的に高くなった。
【0117】
表4に示すように、比較1、2では実施例1~5と比較して吸収量のピーク幅が小さく、吸収ピークの幅の拡張が確認できなかった。比較例1、2の電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シートは、周囲環境に配置される部材の影響を受けやすく、周波数が変化した後の電磁波の吸収が不充分であると考えられる。
比較例3では、B[GHz]が本発明で規定する範囲の下限値未満であり、C[GHz]が本発明で規定する範囲の上限値超である。この場合、第1の電磁波吸収パターンのピークと第2の電磁波吸収パターンのピークの距離、第1の電磁波吸収パターンのピークと第3の電磁波吸収パターンのピークの距離がいずれも小さく、ピーク幅の拡張が確認できなかった。
比較例4では、B[GHz]が本発明で規定する範囲の上限値超であり、C[GHz]が本発明で規定する範囲の下限値未満である。この場合、第1の電磁波吸収パターンのピークと第2の電磁波吸収パターンのピークの距離、第1の電磁波吸収パターンのピークと第3の電磁波吸収パターンのピークの距離がいずれも大きく、単一のピークが形成されなかった。
【0118】
図10~14は、本実施例の測定結果から推測される電磁波の吸収スペクトルの予測図である。
図10~14に示すように実施例1~5では、電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シート全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成されると考えられる。
図15~18は、各比較例の測定結果から予想される電磁波の吸収スペクトルの予測図である。
図15~17に示すように比較例1~3では、形成される単一ピークの幅が狭く、ピークの幅の拡張が認められないと考えられる。
図18に示すように、比較例4では、単一のピークが形成されないと考えられる。
【0119】
以上の実施例の結果から、電磁波吸収フィルム又は電磁波吸収シートで吸収可能な電磁波の周波数帯が広くなることを確認した。本発明によれば、周囲環境に配置されている部材の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムを提供できると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の電磁波吸収フィルム、電磁波吸収シートは、自動車用部品、道路周辺部材、建築外壁関連材、窓、通信機器、電波望遠鏡等に用いることができる。
【符号の説明】
【0121】
1 第1の電磁波吸収パターン
2 第2の電磁波吸収パターン
3 第3の電磁波吸収パターン
10 電磁波吸収フィルム
20 基材
30 スペーサーフィルム
40 反射フィルム
50 電磁波吸収シート