(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】FCRN抗体の組成物およびその使用の方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240321BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240321BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240321BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240321BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240321BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240321BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/12
A61P37/06
A61K9/08
C07K16/28 ZNA
(21)【出願番号】P 2021526403
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 US2019042597
(87)【国際公開番号】W WO2020023310
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-10
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508134441
【氏名又は名称】モメンタ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】521027803
【氏名又は名称】チャン,ジョンリ
(73)【特許権者】
【識別番号】521028051
【氏名又は名称】セント.ルイス,グレゴリー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジョンリ
(72)【発明者】
【氏名】セント.ルイス,グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ,エバ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ナリンダー
(72)【発明者】
【氏名】パティル,シッデシュ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6853178(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/023136(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0016334(US,A1)
【文献】特開2015-163618(JP,A)
【文献】特表2017-516848(JP,A)
【文献】国際公開第2009/124294(WO,A2)
【文献】WANG W. et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences,2007年,Vol96 No.1,pp.1-26
【文献】WARNE N. W.,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2011年,78,pp.208-212
【文献】SHARMA V. K. et al.,CHAPTER 30 The Formulation and Delivery of Monoclonal Antibodies,Therapeutic Monoclonal Antibodies: From Bench to Clinic,2009年,PART VIII THERAPEUTIC ANTIBODIES,pp.675-709
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/08
A61K 47/02
A61K 47/26
A61K 47/12
A61P 37/06
A61K 39/395
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患、あるいは、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害の治療用の薬学的組成物であって、
前記組成物が、pH6.5で緩衝された
、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖、およ
び配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む10または30mg/mlの抗体、20~30mMリン酸ナトリウム、20~30mM塩化ナトリウム、80~100mg/mlトレハロース、および0.10~0.005% w/vポリソルベート80を含む、
前記薬学的組成物。
【請求項2】
25mMリン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
25mM塩化ナトリウムを含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
90~91mg/mlトレハロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
90.5mg/mlトレハロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
0.01% w/vポリソルベート80を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg/mlトレハロース、および0.01%ポリソルベート80を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
いかなる追加の賦形剤も含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
自己免疫疾患、あるいは、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害の治療用の薬学的組成物であって、
前記組成物が、pH6.5で緩衝された
、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖、およ
び配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む10または30mg/mlの抗体、20~30mMコハク酸ナトリウム、20~30mM塩化ナトリウム、89~92mg/mlトレハロース、および0.1~0.005% w/vポリソルベート80を含む、
前記薬学的組成物。
【請求項10】
25mMコハク酸ナトリウムを含む、請求項
9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
25mM塩化ナトリウムを含む、請求項
9に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
90~91mg/mlトレハロースを含む、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
90.5mg/mlトレハロースを含む、請求項
9に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
0.01% w/vポリソルベート80を含む、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
25mMコハク酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg/mlトレハロース、および0.01%ポリソルベート80を含む、請求項
9に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
いかなる追加の賦形剤も含まない、請求項
9~
15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
ポリソルベート80以外のいかなるポリソルベートも含まない、請求項1~16のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
ポリソルベート以外のいかなるポリマーも含まない、請求項1~
17のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
ポリソルベート80以外のいかなるポリマーも含まない、請求項1~
18のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景技術]
数多くの自己免疫および同種免疫疾患は、病原性抗体によって媒介される。病原性抗体の安定性、活性、およびトランスポートは、IgG結合性および血清アルブミン結合性細胞内小胞輸送タンパク質として機能するI型膜貫通タンパク質であるFc受容体(FcRn)に依存する。例えば、多くの胎児および新生児免疫疾患は、妊娠した対象、とりわけ免疫学的疾患を有する妊娠した対象から胎児への、胎盤におけるヒト新生児Fc受容体(FcRn)を介した母体抗体の移行により生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本開示は、抗FcRn抗体を含む組成物(M281組成物)、および自己免疫疾患の治療においてそのような組成物を使用する方法に関する。
【0003】
pH6.5で緩衝された、最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖、および最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む10または30mg/mlの抗体、20~30mMリン酸ナトリウム、20~30mM塩化ナトリウム、80~100(例えば、90~91)mg/mlトレハロース、および0.1~0.005% w/vポリソルベート80を含む薬学的組成物が本明細書において記載される。
【0004】
様々な場合において、組成物は、25mMリン酸ナトリウムを含み;25mM塩化ナトリウムを含み;90~91mg/mlトレハロースを含み;90.5mg/mlトレハロースを含み;0.01% w/vポリソルベート80を含み;25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg/mlトレハロース、および0.01%ポリソルベート80を含み;組成物は、いかなる追加の賦形剤も含まず;組成物は、ポリソルベート80以外のいかなるポリソルベートも含まず;組成物は、ポリソルベート以外のいかなるポリマーも含まず;組成物は、ポリソルベート80以外のいかなるポリマーも含まず;抗体は、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有し;抗体は、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有し;抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0005】
pH6.5で緩衝された、最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号24のアミノ酸配列を含む重鎖、および最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む10または30mg/mlの抗体、20~30mMコハク酸ナトリウム、20~30mM塩化ナトリウム、89~92mg/mlトレハロース、および0.02~0.005% w/vポリソルベート80を含む薬学的組成物も記載される。
【0006】
様々な場合において、組成物は、25mMコハク酸ナトリウムを含み;25mM塩化ナトリウムを含み;90~91mg/mlトレハロースを含み;90.5mg/mlトレハロースを含み;0.01% w/vポリソルベート80を含み;25mMコハク酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg/mlトレハロース、および0.01%ポリソルベート80を含み;組成物は、いかなる追加の賦形剤も含まず;抗体は、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有し;抗体は、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖を有し;抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する。
【0007】
別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。本発明における使用のための方法および材料が本明細書において記載され、当技術分野において公知の他の適切な方法および材料も使用され得る。材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定的であることを意図されるわけではない。本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース登録、および他の参考文献は、参照によりそれらの全体として組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が制御するであろう。
【0008】
本発明の他の特色および利点は、以下の詳細な説明および図から、ならびに特許請求の範囲から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】表1における製剤に関する、DSCによって測定される温度遷移についてのデータを示したグラフである。
【
図2】表1における製剤に関する、加速条件での、SECによって測定されるサイズ純度についてのデータを示したグラフである。
【
図3】表1における製剤に関する、加速条件での、cIEFによって測定される電荷不均一性についてのデータを示したグラフである。
【
図4】表1における製剤に関する、加速条件での、CE-SDS Caliper(非還元)によって測定される純度についてのデータを示したグラフである。
【
図5】表1における製剤に関する、加速条件での、CE-SDS Caliper(還元)によって測定される純度についてのデータを示したグラフである。
【
図6】表2における製剤に関する、加速条件での、SECによって測定されるサイズ純度についてのデータを示したグラフである。
【
図7】表2における製剤に関する、加速条件での、cIEFによって測定される電荷不均一性についてのデータを示したグラフである。
【
図8】表2における製剤に関する、動的光散乱(DLS)によって測定されるサイズ分布についてのデータを示したグラフである。
【
図9】表2における製剤に関する、加速条件での、CE-SDS Caliper(非還元)によって測定される純度についてのデータを示したグラフである。
【
図10】表2における製剤に関する、加速条件での、CE-SDS Caliper(還元)によって測定される純度についてのデータを示したグラフである。
【
図11】表2における製剤に関する、様々なバッファーpHに対してDSCによって測定される温度遷移についてのデータを示したグラフである。より高いTm開始ほど、特定のpHにおいてタンパク質のより良好な熱安定性を示す。pHスクリーニング調査において、3つの遷移、Tm1、Tm2、およびTm3が同定された。
【
図12】温度ストレス下での、cIEFによる抗体メイン種レベル%の比較を示したグラフである。2~8℃の長期保管条件での抗体安定性結果が実線として、および25℃/60%RHの加速保管条件が点線として示されている。ロットDに関する30mg/mLの抗体が赤で示されている。ロットEに関する10mg/mLの抗体が黒で示され、ロットFに関して紫で示され、およびロットBに関して青で示されている。注記:緑の仕様線は、2~8℃でのリアルタイム条件のみに適用される。
【
図13】温度ストレス下での、SEC-HPLCによる抗体メイン種レベル%の比較を示したグラフである。2~8℃の長期保管条件での抗体安定性結果が実線として、および25℃/60%RHの加速保管条件が点線として示されている。ロットDに関する30mg/mLの抗体が赤で示されている。ロットEに関する10mg/mLの抗体が黒で示され、ロットFに関して紫で示され、およびロットBに関して青で示されている。緑の仕様線は、2~8℃でのリアルタイム条件のみに適用される。
【
図14A-14B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したGMPロットBのタンパク質濃度についてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、30mg/mLの12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCの濃度(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。USL:上側仕様限界;LSL:下側仕様限界。
【
図15A-15B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBのpH(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCのpH(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。USL:上側仕様限界;LSL:下側仕様限界。
【
図16A-16B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBのサイズ純度についてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCのSECによるサイズ純度(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。LSL:下側仕様限界。
【
図17A-17B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBの還元CE-SDSによる純度についてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCの還元CE-SDSによるHC+LC純度(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。LSL:下側仕様限界。
【
図18A-18B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBの非還元CE-SDSによるサイズ純度についてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCの非還元CE-SDSによるサイズ純度(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。LSL:下側仕様限界。
【
図19A-19B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBの非還元CE-SDSによるピークAレベルについてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCの非還元CE-SDSによるピークAレベル(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。USL:上側仕様限界。
【
図20A-20B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBのcIEFからのメインピークについてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCのcIEFからのメインピーク(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。LSL:下側仕様限界。
【
図21A-21B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBのcIEFからの酸性ピークについてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCのcIEFからの酸性ピーク(C)、ならびにDPロットDについての回帰調査プロット(D)を示したグラフである。USL:上側仕様限界。
【
図22A-22B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの30カ月を通したDP開発ロットE、24カ月を通したロットF、24カ月を通したGMPロットA、18カ月を通したロットBのcIEFからの塩基性ピークについてのデータ(A)、ならびにすべての10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCのcIEFからの塩基性ピーク(C)、ならびに回帰調査プロット(D)を示したグラフである。USL:上側仕様限界。
【
図23A-23B】安定性調査における長期保管条件2~8℃での、10mg/mLの24カ月を通したDP GMPロットA、18カ月を通したロットBの効力についてのデータ(A)、ならびに両方の10mg/mL DPロットについての回帰調査プロット(B);安定性調査における長期保管条件2~8℃での、12カ月を通した開発DPロットDおよび3カ月を通したGMPロットCの効力(C)、ならびに回帰調査プロット(D)を示したグラフである。USL:上側仕様限界;LSL:下側仕様限界。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本開示は、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)に対する抗体を含む組成物を特色とする。これらの組成物は、例えば、対象における自己抗体のクリアランスを促進するのに、対象における抗原提示を抑制するのに、免疫応答を遮断する、例えば対象における免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を遮断するのに、または対象における免疫学的疾患(例えば、自己免疫疾患)を治療するのに有用である。
【0011】
初期調査の後、選択製剤を、種々の濃度の塩化ナトリウム、トレハロース、および界面活性剤ポリソルベート(PS)80、緩衝剤を用いて調製し、種々のpH(pH5~8)で緩衝した。ゆえに、組成物は、イオン性オスモライト安定剤(塩化ナトリウム)および非イオン性オスモライト安定剤(トレハロース)の両方を含む。前述の製剤の安定性を、外観、pH、タンパク質濃度、サイズ純度、電荷分布、および熱安定性によって経時的に査定した。これらの安定性パラメーターを、pH、UV-Vis、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、CE-SDS、および示差走査熱量測定を含めた分析技法によって測定した。
【0012】
2つの製剤が、前述の測定基準にわたって査定される増強した安定性を呈し、安定性は経時的に継続した:(1)pH6.5で緩衝された、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg ml-1トレハロース、0.01%ポリソルベート(PS)80、および10または30mg ml-1の抗体(配列番号2の配列を含む重鎖および配列番号1を含む軽鎖を有する);ならびに(2)pH6.6で緩衝された、25mMコハク酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg ml-1トレハロース、0.01%ポリソルベート(PS)80、および10または30mg ml-1の抗体(配列番号2の配列を含む重鎖および配列番号1を含む軽鎖を有する)。前述の2つの製剤の安定性を、選択した機械的、熱的、および化学的ストレスの存在下でさらに検査した。両製剤とも、複数の前述の測定基準にわたって経時的に査定される安定性の有意な悪化を呈しなかった。顕著には、安定性は、製剤(1)pH6.5で緩衝された、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg ml-1トレハロース、0.01%ポリソルベート(PS)80、および10または30mg ml-1の抗体に関して30カ月を上回る期間維持された。種々の量のポリソルベート80とともに、pH6.5で緩衝された、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg ml-1トレハロース、および抗体(配列番号2の配列を含む重鎖および配列番号1を含む軽鎖を有する)という製剤も検査した。
【0013】
抗FcRn抗体
本明細書において記載されるように製剤化され得る抗体には、配列番号1の軽鎖配列および配列番号2の重鎖配列を有する抗体(M281とも称される;この抗体を含有する組成物は、M281組成物と称されることもある)が含まれる。この抗体のバリアントも、本明細書において記載されるように製剤化され得る。そのようなバリアントには、1~5個の単一アミノ酸置換または欠失を有する(および好ましくは、配列番号3~5のCDR配列を含む)配列番号1のバリアントの軽鎖配列、および1~5個の単一アミノ酸置換または欠失を有する(および好ましくは、配列番号6~8のCDR配列を含む)配列番号2のバリアントの重鎖配列を有する抗体が含まれる。配列番号1のバリアントおよび配列番号2のバリアントから構成される抗体は、好ましくは、CDR配列:TGTGSDVGSYNLVS(軽鎖CDR1;配列番号3);GDSERPS(軽鎖CDR2;配列番号4);SSYAGSGIYV(軽鎖CDR3;配列番号5);TYAMG(重鎖CDR1;配列番号6);SIGASGSQTRYADS(重鎖CDR2;配列番号7);およびLAIGDSY(重鎖CDR3;配列番号8)を保持する。
【0014】
一部の場合には、軽鎖は、
【0015】
【化1】
と少なくとも90%、95%、または98%の同一性を有する配列を有する。
【0016】
一部の場合には、重鎖は、
【0017】
【化2】
と少なくとも90%、95%、または98%の同一性を有する配列を有する。
【0018】
ベクター、宿主細胞、および抗体産生
抗FcRn抗体は、宿主細胞から産生され得る。宿主細胞とは、本明細書において記載されるポリペプチドおよび構築物をそれらの対応する核酸から発現させるために必要とされる必須の細胞構成要素、例えば細胞小器官を含むビヒクルを指す。核酸は、当技術分野において公知の従来技法(例えば、形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、感染等)によって宿主細胞に導入され得る核酸ベクターに含まれ得る。核酸ベクターの選定は、一部には、使用される対象となる宿主細胞に依存する。一般的に、好ましい宿主細胞は、原核生物(例えば、細菌)または真核生物(例えば、哺乳類)起源のものである。
【0019】
核酸ベクター構築および宿主細胞
抗FcRn抗体のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、当技術分野において公知の多様な方法によって調製され得る。これらの方法には、オリゴヌクレオチド媒介性(または部位指向性)変異導入およびPCR変異導入が含まれるが、それらに限定されるわけではない。抗FcRn抗体をコードする核酸分子は、標準的技法、例えば遺伝子合成を使用して獲得され得る。あるいは、野生型抗FcRn抗体をコードする核酸分子は、当技術分野における標準的技法、例えばQuikChange(商標)変異導入を使用して、特異的アミノ酸置換を含有するように変異し得る。核酸分子は、ヌクレオチド合成機またはPCR技法を使用して合成され得る。
【0020】
抗FcRn抗体をコードする核酸配列を、原核または真核宿主細胞において核酸分子を複製し得および発現させ得るベクターに挿入し得る。多くのベクターが当技術分野において入手可能であり、使用され得る。各ベクターは、特定の宿主細胞との適合性のために調整され得および最適化され得る様々な構成要素を含有し得る。例えば、ベクター構成要素には、複製の起点、選択マーカー遺伝子、プロモーター、リボソーム結合部位、シグナル配列、関心対象のタンパク質をコードする核酸配列、および転写終結配列が含まれ得るが、それらに限定されるわけではない。
【0021】
哺乳類細胞が宿主細胞として使用され得る。哺乳類細胞タイプの例には、ヒト胎児腎臓(HEK)(例えば、HEK293、HEK293F)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLa、COS、PC3、Vero、MC3T3、NS0、Sp2/0、VERY、BHK、MDCK、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT20、T47D、NS0(いかなる免疫グロブリン鎖も内因的に産生しないマウス骨髄腫細胞株)、CRL7O3O、およびHsS78Bst細胞が含まれるが、それらに限定されるわけではない。他では、大腸菌(E. coli)細胞が宿主細胞として使用され得る。大腸菌(E. coli)系統の例には、大腸菌(E. coli)294(ATCC(登録商標)31,446)、大腸菌(E. coli)λ1776(ATCC(登録商標)31,537、大腸菌(E. coli)BL21(DE3)(ATCC(登録商標)BAA-1025)、および大腸菌(E. coli)RV308(ATCC(登録商標)31,608)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。種々の宿主細胞は、翻訳後プロセシングおよびタンパク質産物の修飾のための特徴的でかつ特異的なメカニズムを有する。適当な細胞株または宿主システムを選定して、発現する抗FcRn抗体の正しい修飾およびプロセシングを確実にし得る。上記の発現ベクターを、当技術分野における従来技法、例えば形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、および直接マイクロインジェクションを使用して、適当な宿主細胞に導入し得る。ベクターが、タンパク質産生のための宿主細胞に導入され次第、プロモーターを誘導する、形質転換体を選択する、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために、必要に応じて改変された従来の栄養培地中で宿主細胞を培養する。治療用タンパク質の発現のための方法は、当技術分野において公知であり、例えばPaulina Balbas, Argelia Lorence (eds.) Recombinant Gene Expression: Reviews and Protocols (Methods in Molecular Biology), Humana Press; 2nd ed. 2004 (July 20, 2004)およびVladimir Voynov and Justin A. Caravella (eds.) Therapeutic Proteins: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) Humana Press; 2nd ed. 2012 (June 28, 2012)を参照されたい。
【0022】
タンパク質の産生、回収、および精製
抗FcRn抗体を産生するために使用される宿主細胞を、当技術分野において公知でかつ選択された宿主細胞の培養に適した培地中で成長させ得る。哺乳類宿主細胞のための適切な培地の例には、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Expi293(商標)発現培地、ウシ胎仔血清(FBS)を補給されたDMEM、およびRPMI-1640が含まれる。細菌宿主細胞のための適切な培地の例には、選択剤、例えばアンピシリン等の必要な補給剤を加えたルリアブロス(LB)が含まれる。宿主細胞を、約20℃~約39℃、例えば25℃~約37℃、好ましくは37℃等の適切な温度、および5~10%(好ましくは8%)等のCO2レベルで培養する。培地のpHは、主に宿主生物に応じて、一般的に約6.8~7.4、例えば7.0である。発現ベクターにおいて誘導性プロモーターが使用される場合、タンパク質発現は、プロモーターの活性化に適した条件下で誘導される。
【0023】
タンパク質回収は、一般的に浸透圧ショック、超音波処理、または溶解等の手段によって、宿主細胞を破壊するステップを典型的に伴う。細胞が破壊され次第、細胞残屑は、遠心分離または濾過によって除去され得る。タンパク質はさらに精製され得る。抗FcRn抗体は、タンパク質精製についての当技術分野において公知の任意の方法によって、例えばプロテインA親和性、他のクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、およびサイズ排除カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差溶解度によって、またはタンパク質の精製のための他の任意の標準的技法によって精製され得る。(Process Scale Purification of Antibodies, Uwe Gottschalk (ed.) John Wiley & Sons, Inc., 2009を参照されたい。)一部の場合には、抗FcRn抗体は、精製を容易にするペプチド等のマーカー配列にコンジュゲートされ得る。マーカーアミノ酸配列の例は6-ヒスチジンペプチド(Hisタグ)であり、それはマイクロモル親和性でニッケル官能化アガロース親和性カラムに結合する。精製に有用な他のペプチドタグには、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応するヘマグルチニン「HA」タグが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0024】
治療の方法および適応症
本明細書において記載される抗FcRn抗体を含有する薬学的組成物によるヒトFcRnの遮断は、IgG自己抗体によって推進される疾患において治療上有益であり得る。全体的なIgG異化、および複数の種の自己抗体、小型循環代謝産物、またはリポタンパク質の除去を誘導するFcRn遮断の能力は、自己抗体により推進される自己免疫疾患病理を有する患者まで、自己抗体除去ストラテジーの実用性および利用可能性を拡大する方法を与える。いかなる理論によっても拘束されることなく、抗FcRn抗体の作用の支配的メカニズムは、循環における病原性自己抗体の異化を増加させ、ならびに影響を受けた組織における自己抗体および免疫複合体蓄積を減少させることであり得る。
【0025】
薬学的組成物は、対象における病原性抗体、例えばIgGおよびIgG自己抗体の異化およびクリアランスを促進するのに、免疫応答を低下させる、例えば対象における免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を遮断するのに、および対象における免疫学的病状または疾患を治療するのに有用である。特に、薬学的組成物は、急性または慢性免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を低下させるまたは治療するのに有用である。急性免疫応答は、尋常性天疱瘡、ループス腎炎、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、抗体媒介性拒絶反応、劇症型抗リン脂質抗体症候群、免疫複合体媒介性血管炎、糸球体炎、チャネロパチー、視神経脊髄炎、自己免疫性難聴、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、免疫性好中球減少症、拡張型心筋症、および血清病からなる群より選択される医学的病状によって活性化され得る。慢性免疫応答は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、全身性ループス、急性治療に適応される障害の慢性形態、反応性関節障害、原発性胆汁性肝硬変、潰瘍性結腸炎、および抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎からなる群より選択される医学的病状によって活性化され得る。
【0026】
一部の場合には、薬学的組成物は、自己免疫疾患によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。自己免疫疾患は、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、アジソン病、溶血性貧血、自己免疫性肝炎、肝炎、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、限局性強皮症(CREST症候群)、寒冷凝集素症、クローン病、皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症、線維筋炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能低下症、炎症性腸疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、特発性肺線維症、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性関節炎、扁平苔癬、ループス、メニエール病、混合性結合組織疾患、多発性硬化症、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性結腸炎、ブドウ膜炎、白斑、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、重症筋無力症、視神経脊髄炎、またはウェゲナー肉芽腫症からなる群より選択され得る。
【0027】
一部の場合には、薬学的組成物は、胎児における貧血の危険性を減少させるまたは貧血を発症する危険性を減少させるのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物は、IUT(子宮内輸血)の必要性を減少させるまたは取り除くのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物および方法は、出生前PP+IVIg、出生後輸血、IVIg、および/または光線療法の必要性を減少させるまたは取り除くのに有用である。
【0028】
一部の場合には、薬学的組成物は、胎児または新生児における免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物および方法は、妊娠した母親における自己免疫疾患によって活性化された、胎児または新生児における免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。
【0029】
特に、薬学的組成物は、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、尋常性天疱瘡/水疱性類天疱瘡、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、重症筋無力症、または視神経脊髄炎によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物は、胎児または新生児における免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物および方法は、妊娠した母親における全身性エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、尋常性天疱瘡/水疱性類天疱瘡、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、重症筋無力症、または視神経脊髄炎によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。
【0030】
薬学的組成物は、ヒトFcRnに結合する単離された抗体を妊娠した対象に投与することによる、妊娠した対象の胎盤を越えた病原性抗体トランスポート(例えば、病原性母体IgG抗体トランスポート)を減少させる、妊娠した対象における病原性抗体異化を増加させる、および胎児または新生児におけるウイルス性疾患の抗体媒介性増強を治療する方法において有用である。本明細書において記載される薬学的組成物によるFcRn阻害から恩恵を受け得る疾患および障害には、妊娠した対象から胎児および/または新生児への胎盤を越えた母体病原性抗体(例えば、母体病原性IgG抗体)の移行によって引き起こされる、胎児および/または新生児における疾患および障害が含まれる。
【0031】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を用いた治療から恩恵を受け得る疾患および障害は、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害である。胎児および新生児同種免疫障害は、妊娠した対象における病原性抗体によって引き起こされる、胎児および/または新生児における障害である。妊娠した対象における病原性抗体は、胎児の抗原(例えば、胎児が胎児の父親から受け継いだ抗原)を攻撃し得、胎児または新生児に胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害を持たせる。
【0032】
治療され得る胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害の例には、胎児および新生児同種免疫性血小板減少症(FNAIT)、胎児および生まれたばかりの子どもの溶血性疾患(HDFN)、同種免疫性汎血小板減少症、先天性心ブロック、胎児関節拘縮、新生児重症筋無力症、新生児自己免疫性溶血性貧血、新生児抗リン脂質症候群、新生児多発性筋炎、皮膚筋炎、新生児ループス、新生児強皮症、ベーチェット病、新生児グレーブス病、新生児川崎病、新生児自己免疫性甲状腺疾患、および新生児I型糖尿病が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0033】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を用いた治療から恩恵を受け得る疾患および障害は、抗体が宿主細胞へのウイルス侵入を促し、細胞における感染力の増加または増強、例えばウイルス性疾患の抗体媒介性増強につながる、ウイルス性疾患である。一部の場合には、抗体は、ウイルス表面タンパク質に結合し得、抗体/ウイルス複合体は、抗体と受容体との間の相互作用を介して細胞表面のFcRnに結合し得る。その後、抗体/ウイルス複合体は、細胞に内在化され得る。例えば、ウイルスは、母体IgG抗体と複合体を形成することにより、胎児の細胞および/または組織に侵入し得る。母体IgG抗体は、ウイルス表面タンパク質に結合し得、IgG/ウイルス複合体は、胎盤の栄養膜合胞体層においてFcRnに結合し得、次いでそれは複合体を胎児に移行させる。
【0034】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を使用して、ウイルス性疾患の抗体媒介性増強を治療し得る。一部の場合には、病原性抗体(例えば、病原性IgG抗体)によって増強されるウイルス性疾患には、アルファウイルス感染、フラビウイルス感染、ジカウイルス感染、チクングニアウイルス感染、ロスリバーウイルス感染、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス感染、中東呼吸器症候群、鳥インフルエンザ感染、インフルエンザウイルス感染、ヒト呼吸器合胞体ウイルス感染、エボラウイルス感染、黄熱病ウイルス感染、デングウイルス感染、ヒト免疫不全ウイルス感染、呼吸器合胞体ウイルス感染、ハンタウイルス感染、ゲタウイルス感染、シンドビスウイルス感染、ブニヤムウェラウイルス感染、西ナイルウイルス感染、日本脳炎ウイルスB感染、ウサギ痘ウイルス感染、乳酸デヒドロゲナーゼ上昇ウイルス感染、レオウイルス感染、狂犬病ウイルス感染、口蹄疫ウイルス感染、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス感染、サル出血熱ウイルス感染、ウマ伝染性貧血ウイルス感染、ヤギ関節炎ウイルス感染、アフリカ豚熱ウイルス感染、レンチウイルス感染、BKパポーバウイルス感染、マレーバレー脳炎ウイルス感染、エンテロウイルス感染、サイトメガロウイルス感染、ニューモウイルス感染、モルビリウイルス感染、および麻疹ウイルス感染によって引き起こされるウイルス性疾患が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0035】
抗FcRn抗体によるヒトFcRnの遮断は、病原性抗体(例えば、病原性IgG抗体)によって推進される疾患において治療上有益であり得る。全体的な病原性抗体異化、および血清アルブミンをかき乱すことのない複数の種の病原性抗体、小型循環代謝産物、またはリポタンパク質の除去を誘導するFcRn遮断の能力は、病原性抗体により推進される自己免疫疾患病理を有する患者まで、病原性抗体除去ストラテジーの実用性および利用可能性を拡大する方法を与える。理論によって拘束されないものの、抗FcRn抗体の作用の支配的メカニズムは、循環における病原性抗体の異化を増加させ、および影響を受けた組織における病原性抗体および免疫複合体蓄積を減少させることであり得る。
【0036】
本明細書において記載される薬学的組成物は、妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を有するまたは有する危険性がある妊娠した対象に投与され得る。一部の場合には、妊娠した対象は、妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を過去に有していた可能性がある。一部の場合には、妊娠した対象は、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害を有する以前の胎児または新生児を有していた病歴を有する。一部の場合には、免疫疾患と関連した病原性抗体が、妊娠した対象から獲得された生物学的サンプル(例えば、血液または尿サンプル)において検出された場合、本明細書において記載される抗FcRn抗体は、妊娠した対象に投与され得る。一部の場合には、妊娠した対象の生物学的サンプルにおいて検出された病原性抗体は、妊娠した対象内の胎児由来の抗原(例えば、胎児が胎児の父親から受け継いだ抗原)に結合することが既知である。
【0037】
一部の場合には、薬学的組成物は、妊娠する計画を立てている、妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を有するもしくは有する危険性がある、および/または妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を過去に有していた対象に投与され得る。一部の場合には、対象は、妊娠する計画を立てており、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害を有する以前の胎児または新生児を有していた病歴を有する。一部の場合には、本明細書において記載される抗FcRn抗体は、妊娠する計画を立てている、および生物学的サンプルが、免疫疾患と関連した病原性抗体を含有する対象に投与され得る。
【0038】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を対象(例えば、妊娠した対象)に投与して、対象における急性または慢性免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を低下させ得るまたは治療し得る。急性免疫応答は、医学的病状(例えば、尋常性天疱瘡、ループス腎炎、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、抗体媒介性拒絶反応、劇症型抗リン脂質抗体症候群、免疫複合体媒介性血管炎、糸球体炎、チャネロパチー、視神経脊髄炎、自己免疫性難聴、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、免疫性好中球減少症、拡張型心筋症、血清病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、全身性ループス、反応性関節障害、原発性胆汁性肝硬変、潰瘍性結腸炎、または抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎)によって活性化され得る。
【0039】
一部の場合には、本明細書において記載される製剤を対象(例えば、妊娠した対象)に投与して、自己免疫疾患によって活性化された免疫応答を低下させ得るまたは治療し得る。自己免疫疾患は、例えば円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、アジソン病、溶血性貧血、温式自己免疫性溶血性貧血(wAIHA)、抗因子抗体、ヘパリン起因性血小板減少症(HICT)、感作移植、自己免疫性肝炎、肝炎、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、限局性強皮症(CREST症候群)、寒冷凝集素症、クローン病、皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症、線維筋炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能低下症、炎症性腸疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、特発性肺線維症、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性関節炎、扁平苔癬、ループス、メニエール病、混合性結合組織疾患、多発性硬化症、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性結腸炎、ブドウ膜炎、白斑、またはウェゲナー肉芽腫症であり得る。
【実施例】
【0040】
以下の材料および方法を、本明細書において示される実施例において使用した。
【0041】
材料
商業的供給業者から購入した材料には、リン酸二水素ナトリウム一水和物(J.T.Baker)、無水リン酸水素二ナトリウム(J.T.Baker)、コハク酸(TGI)、コハク酸ナトリウム(Macron)、塩化ナトリウム(J.T.Baker)、クエン酸一水和物(AppliChem)、塩酸(J.T.Baker)、水酸化ナトリウム(Macron)、高純度(低内毒素)α-α-トレハロース脱水物(Pfanstiehl)、超精製ポリソルベート80-LQ(MH)(Croda)が含まれた。
【0042】
本明細書において使用される抗体(配列番号2の重鎖および配列番号1の軽鎖を含む)は、IgG1 G1m17アロタイプ重鎖、末端Lys(K446:EU番号付け)を欠く十分なラムダ軽鎖として、およびAsn297でのグリコシル化を無効にするAsn297Ala(EU番号付け)変異を有してフォーマットされている。
【0043】
外観分析
透明度、色、および目に見える粒子を含めた、すべてのサンプルの外観を、ライトボックス(Tianda Tianfa、YB-2型)を使用して白黒背景に対して調べた。
【0044】
pHの測定
Inlab(登録商標)Micro電極を有するpHメーター(Mettler Toledo、Seven Multi S40型)を使用して、サンプルpHを測定した。使用ごとの前に、市販の較正溶液を用いてpHメーターを較正した。
【0045】
タンパク質濃度の測定
NanoDrop2000分光光度計(Thermo Scientific)を使用したUV280nm読み取りにより、タンパク質濃度を判定した。すべての調査において使用された消散係数は1.447AU ml mg-1 cm-1であった。
【0046】
オスモル濃度測定のための方法
サンプルの希釈なしで、浸透圧計(Advanced Instruments、Advanced Multi-Sample Osmometer;型番2020)を使用してオスモル濃度を測定した。検査の前および後に、臨床的に制御された290mOsm/kgの参照溶液を用いて、浸透圧計の検査精度を確認した。
【0047】
示差走査熱量測定
温度の関数としてサンプルおよび参照の温度を増加させるために要される熱の量の差を検出することによって、キャピラリーセル示差走査熱量測定(DSC)を利用してタンパク質の熱安定性を測定した。具体的には、DECは、溶液中のタンパク質の相対的安定性の指標である温度遷移中点(Tm)を測定する。簡潔には、市販の参照バッファーを用いて、サンプルを約1mg ml-1に希釈した。400μlの参照バッファーのアリコートを96ウェルプレートの各奇数ウェルに添加し、一方で400μlの各サンプルのアリコートを対応する偶数ウェルに添加した。走査温度は、時間あたり200℃の走査速度を有して10℃~100℃に及ぶ。MicroCal VP-Capillary DSC自動データ分析ソフトウェア2.0を使用して、データ分析を実施した。
【0048】
サイズ排除クロマトグラフィー
TSKGel G3000SWXLサイズ排除クロマトグラフィーカラム(300×7.8mm、5μM)を有するAgilent 1260 Infinityシステムを25℃で使用して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実施した。SEC分析の前にサンプルを移動相で10mg ml-1に希釈し、100μgのタンパク質を含有するサンプルを注入した。イソクラティック勾配を1ml 分-1の流速で20分間適用した。移動相は、pH7.0±0.2の、50mMリン酸ナトリウムバッファー、300mM NaClからなった。280nmに設定された検出波長を有するUV検出器によってデータを収集し、Waters Empowerソフトウェアを使用してデータを分析した。
【0049】
キャピラリー等電点電気泳動
FCでコートされたcIEFカートリッジを有するProtein Simple iCE3装置を使用して、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)を実施して、pH勾配の電荷差に基づいてタンパク質を分離した。モノクローナル抗体(mAb)サンプルに関しては、20μgの各サンプルを、等電点(pI)マーカー7.55/9.46、セルバライト6~9、セルバライト9~11、メチルセルロース溶液を含む100μLのマスターミックスと混合した。混合した後、サンプルを、1500Vで1分間および3000Vで8分間電気泳動した。検出波長を280nmに設定し、電荷バリアント分布を種々のpI域において評価した。
【0050】
キャピラリー電気泳動
フォトダイオードアレイ検出器を備えたBeckman Coulter PA800 EnhancedまたはPA800 Plus機器を使用して、キャピラリー電気泳動(CE-SDS Caliper)を実施して、ふるいポリマーを通したサイズに基づいて、ドデシル硫酸でコートされたタンパク質を分離した。還元条件で測定されるCE-SDS Caliperに関しては、サンプルを希釈溶液(PB-CA)によって4mg ml-1に希釈し、次いで75μl SDSサンプルバッファーおよび5μl 2-メルカプトエタノールの存在下で70℃で10分間加熱した。非還元条件で測定されるCE-SDS Caliperに関しては、サンプルを希釈溶液(PB-CA)によって4mg ml-1に希釈し、次いで75μl SDSサンプルバッファーおよび5μl 100mM NEMの存在下で70℃で10分間加熱した。還元または非還元条件のいずれかで調製されたサンプルを、20秒間の-5kVを使用して逆極性を有する陰極に注入し、その後に-15kVでの分離が続き、検出波長を220nmに設定した。
【0051】
動的光散乱(DLS)
DLSは、光が所定の温度で溶液によって散乱する程度を測定する技法である。散乱の程度は、溶液中の粒子のサイズ(六乗数まで)および濃度(線形)に比例する。この技法を使用して、光散乱に対する粒子サイズの重大な影響に起因したサブミクロン粒子をモニターする。最も低いpH(5.0)および最も高いpH(8.0)は、サイズ分布の増加を示した。他のすべてのpHは、明らかな差を示さなかった。
【0052】
[実施例1]
抗体を含む液体製剤の安定性に影響を与える、製剤構成要素のバッファー種、pH、および賦形剤をどのように選択するかを判定するための液体製剤開発調査
種々の濃度のリン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、NaCl、トレハロース、およびPS-80とともに、30mg/mlで存在する本明細書における抗体(配列番号2の重鎖および配列番号1の軽鎖を含む)の選択製剤を調製し、製剤特性、例えば外観、pH、タンパク質濃度、オスモル濃度、熱安定性、サイズ純度、電荷不均一性を経時的に測定し、比較した。
【0053】
表1に詳述される選択製剤を調製した。
【0054】
【0055】
製剤を、外観、pH、タンパク質濃度、オスモル濃度、熱安定性、サイズ純度、および電荷不均一性に基づいて経時的にモニターした。検査したすべての製剤は、調査の継続期間の間、pH、タンパク質濃度、またはオスモル濃度の有意な変化を呈しなかった。対照的に、製剤の部分集合は、外観、熱安定性、サイズ純度、および電荷不均一性による差を呈した。具体的には、トレハロースを有しないすべての製剤が、加速条件(50℃)での14日後に、不透明性がほとんどない高度に分散したシステムに見られる外観である乳白光を示した。他のすべての製剤は、2~8℃での4週間後および加速条件(50℃)での14日後に、無色、透明、かつ目に見える粒子がないままであった。これらの結果は、トレハロース構成要素が、M281を含む液体製剤に安定性を付与することを示している。種々の製剤の熱安定性を、示差走査熱量測定によって判定した(
図1)。結果は、より低い塩化ナトリウム濃度を含有するまたはトレハロースを含有する製剤に、安定性の増加が付与されることを示している。種々の製剤のサイズ純度を、サイズ排除クロマトグラフィーによって判定した(
図2)。結果は、pH6.5で低い塩化ナトリウム濃度およびトレハロースを含有する製剤が、最も高いサイズ純度安定性を経時的に呈することを示している。種々の製剤の電荷不均一性を、加速条件(50℃)でのキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)によって判定した(
図3)。種々の安定剤、例えば塩化ナトリウム、トレハロース、PS80の濃度を変えることは、経時的な製剤の電荷不均一性に有意に影響を及ぼさなかった。対照的に、製剤のpHは有意な影響を有し、具体的には、pH6.5の製剤は、pH7またはpH7.5の製剤と比較して、1および2週間後に電荷不均一性のより良好な維持を呈した。種々の製剤の純度を、非還元加速条件(
図4)でおよび還元加速条件(50℃)(
図5)でCE-SDS Caliperによって測定した。結果は、トレハロースを含有しかつpH7またはpH7.5と比較してpH6.5で緩衝された製剤に、経時的な安定性の増加が付与されることを示している。
【0056】
全体として、トレハロースを有する製剤は、トレハロースを有しないものよりも安定であった。25mM NaClを有する製剤は、150mM NaClを含有するものよりも安定であった。結論として、この製剤スクリーニングの結果は、検査した製剤の中で、25mM NaClおよび90.5mg/mLトレハロースを有する製剤が最も高い安定性を呈し、安定性は1および2週間にわたって十分に維持されることを示した。
【0057】
製剤pHが製剤安定性にどのように影響を及ぼすかを判定するために、25mMクエン酸および二塩基性リン酸バッファー中の抗体(10mg/ml)の選択製剤を種々のpHで調製し、製剤特性(例えば、外観、pH、タンパク質濃度、オスモル濃度、熱安定性、サイズ純度、および電荷不均一性等)を測定し、比較した。表2に詳述される選択製剤を調製した。
【0058】
【0059】
製剤を、外観、pH、タンパク質濃度、オスモル濃度、熱安定性、サイズ純度、および電荷不均一性に基づいて経時的にモニターした。すべての製剤は、調査の継続期間の間、外観、pH、タンパク質濃度、またはオスモル濃度の有意な変化を呈しなかった。対照的に、製剤の部分集合は、サイズ純度、電荷不均一性、および熱安定性による差を呈した。種々の製剤のサイズ純度を、サイズ排除クロマトグラフィーによって判定した(
図6)。pH5、pH7、pH7.5、およびpH8の製剤は、pH6または6.5の製剤と比較して、標的サイズの分子(メインまたは標的ピークと称される)の量の減少を呈した。これらの結果は、pH6および6.5の製剤がより高いサイズ純度を呈することを示している。種々の製剤の電荷不均一性を、加速条件(50℃)でのキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)によって判定した(
図7)。pH5.5、6.0、および6.5の製剤は、検査したより高いpHで緩衝された製剤と比較して、電荷不均一性のより良好な維持を呈した。種々の製剤のサイズ分布を、動的光散乱によって判定した(
図8)。pH5.5~7.5の製剤は、サイズ分布の有意な変化を示さなかった。対照的に、pH5およびpH8の製剤はサイズ分布の変化を示し、pH5または8の製剤が安定ではなく、経時的に分解産物を形成し得ることを示した。種々の製剤の純度を、非還元加速条件(50℃)(
図9)でおよび還元加速条件(50℃)(
図10)でCE-SDS Caliperによって測定した。結果は、pH5、5.5、6、または6.5で緩衝された製剤に安定性の増加が付与され、この安定性は、還元(β-メルカプトエタノールの存在下)または非還元(N-エチルマレイミドの存在下)加速条件の存在下で保たれることを示している。種々の製剤の熱安定性を、示差走査熱量測定によって判定した(
図11)。pH5.5、pH6、およびpH6.5で緩衝された製剤は、pH7、pH7.5、またはpH8で緩衝されたものと比較して、より高い熱安定性を呈した。製剤22が、最も高いTm開始およびTm1値を有したことを考慮すると、pH6.5で緩衝された製剤に最も高い熱安定性が付与された。
【0060】
結論として、この液体製剤開発調査の結果は、25mM NaClおよび90.5mg/mLトレハロースを用いて調製されかつpH6.5で緩衝された抗体の液体製剤に製剤安定性が付与されたことを示している。
【0061】
[実施例2]
機械的、化学的、および熱的ストレスに曝露された場合の選択製剤の安定性を判定するための安定性分析調査
ストレスの存在下での選択製剤の安定性を調べおよび比較するために、選択製剤を調製し、機械的撹拌、可視光、UV光、高温、複数回の凍結融解、および酸化剤を含めた種々のストレスに曝露した。
【0062】
結果
表3に詳述される選択製剤を調製した。
【0063】
【0064】
撹拌ストレス
製剤を、25℃で5または10日間、250rpmにおける機械的撹拌に曝露した。製剤は、外観、タンパク質濃度、pI、サイズ純度、または電荷純度の有意な変化を呈しなかった。顕著には、製剤は、互いにおよび経時的に比較して、同程度の割合の、cIEFアッセイにおけるメインピーク、酸性ピーク、および塩基性ピーク、非還元および還元Caliperアッセイによって測定されるサイズ純度、ならびにDLSアッセイの平均粒子サイズおよびPdIを呈した(表4)。SECアッセイにおいて、撹拌は、凝集体の総含有量および増加した含有量に対して、メインピークパーセンテージのわずかな減退につながった。
【0065】
【0066】
熱ストレス
製剤を、40℃で5または10日間、熱ストレスに曝露した。製剤は、外観、タンパク質濃度、pI、SECもしくはDLSによって査定されるサイズ純度、または電荷純度の有意な変化を呈しなかった(表5)。製剤は、cIEFアッセイのメインピークの減退、および酸性特異的ピークのパーセンテージの増加を呈したが、検査したすべての製剤(表3)は、同程度の大きさの変化を呈した。
【0067】
【0068】
可視光ストレス
製剤を、25℃で5または10日間、5000ルクスの可視光ストレスに曝露した。製剤は、有意に異なる外観、タンパク質濃度、pH、pI、非還元Caliper純度、DLSアッセイによる平均粒子サイズまたはPdIを呈しなかった(表6)。SEC、cIEF、および還元Caliperによるタンパク質純度のわずかな減少が観察された。
【0069】
【0070】
UV光ストレス
製剤を、25℃で10時間、200w/m2のUV光ストレスに曝露した。製剤は、有意に異なる外観、タンパク質濃度、pH、pI、非還元Caliper純度、およびDLSアッセイによる平均粒子サイズまたはPdIを呈しなかった(表7)。SEC、cIEF、および還元Caliperによるタンパク質純度の減少が観察された。
【0071】
【0072】
酸化ストレス
製剤を、2~8℃で6時間、1%H2O2への曝露を用いた酸化ストレスに曝露した。製剤は、有意に異なる外観、タンパク質濃度、pH、pI、SEC純度、還元および非還元Caliper純度、またはDLSアッセイによる平均粒子サイズおよびPdIを呈しなかった(表8)。cIEFに関して、わずかな減少が観察された。
【0073】
【0074】
凍結融解ストレス
製剤を、-80℃から室温(RT)への凍結融解に最高で10サイクル曝露した。製剤は、有意に異なる外観、タンパク質濃度、SEC純度、pI、cIEFアッセイのメインピーク、酸性ピーク、および塩基性ピークの割合、非還元および還元Caliperアッセイの純度、またはDLSアッセイの平均粒子サイズおよびPdIを呈しなかった(表9)。
【0075】
【0076】
【0077】
検査した選択製剤は、機械的、熱的、および化学的ストレスに曝露された場合に安定性を維持した。リン酸ナトリウムまたはコハク酸ナトリウムで緩衝された製剤は、検査したすべてのストレス条件において同程度の安定性を呈し、どちらかの緩衝システムが適当であろう。
【0078】
[実施例3]
pH6.5で緩衝された、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、8.7%トレハロース、0.01%PS80を含有する製剤が、10mg/mlおよび30mg/mlのM281注入液にとって適切な安定性を提供するかどうかを判定する
pH6.5で緩衝された、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、8.7%トレハロース、0.01% w/v PS80を含有する製剤が、10mg/mLおよび30mg/mLの両方のM281注入液にとって適切な安定性を提供するかどうかを判定するために、製剤の特性を、熱およびせん断ストレスへの曝露後に分析アッセイによって査定した。
【0079】
pH6.5で緩衝された、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、8.7%トレハロース、0.01% w/v PS80、および10mg/mlまたは30mg/mlのいずれかのM281を含有する製剤を調製した。様々な分析アッセイを使用して、これらの調査の一部として産物品質を査定した。評価した特質のうち、cIEFによって測定される電荷バリアント、およびSECによって測定される凝集レベルにおいて、調査の過程にわたる最も実質的な変化が観察された。それゆえ、cIEFおよびSECを、安定性指標アッセイとして選択した。10mg/mL(ロットE、ロットF、およびロットB)および30mg/mL(ロットD)の薬物産物に関する、cIEFによる電荷バリアント(
図12)およびSECによる可溶性凝集体(
図13)を、長期のおよび加速した安定性調査において比較した。10mg/mLおよび30mg/mLでのcIEFおよびSECによるM281薬物産物に関するメイン種分解の速度は、長期保管条件(2~8℃)および加速保管条件(25℃)の両方で同等である。
【0080】
撹拌、酸化、熱、およびせん断ストレス等の強制的な分解調査からのデータが、表10~表13に示されている。データは、cIEFおよびSECアッセイによって測定されるように、10mg/mLおよび30mg/mLの両方の製剤で同程度の分解を示す。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
強制的分解から観察された分解速度の結果および生み出された安定性データ(
図14~23)は、pH6.5で緩衝された、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、8.7%トレハロース、0.01%ポリソルベート80、および10または30mg/mlの抗体のいずれかを含有する製剤に関して、同程度の分解速度を示している。データは、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、8.7% w/vトレハロース、0.01% w/vポリソルベート80、pH6.5の製剤が、10mg/mLおよび30mg/mLの両方において、それぞれ最高で30カ月および18カ月の安定性を提供することを示している。
【0086】
静止したおよび撹拌したサンプルの両方における目に見えない粒子に対するより高いレベルのポリソルベート80の影響を、pH6.5で緩衝された、抗体、25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、8.7%トレハロース、0.01%PS80、および10または30mg/mlの抗体のいずれかを含有する製剤において調べた。製剤サンプルにおける目に見えない粒子を、FlowCAM粒子イメージングシステムを使用してそれらのサイズおよび形態について分析した。簡潔には、製剤のアリコートを75トールで30分間脱気し、500μLの各サンプルを分析器に注入した。流体中の粒子のリアルタイム画像を、それらがフローセルを通過するときに取り込んだ。サンプル中の全粒子を数えた粒子総数が収集され、表14に提示されている。非タンパク性の反復するおよび円形の粒子(例えば、考え得る気泡)に起因した寄与を除外するために、生データへのデジタルフィルターの適用により、製剤に関する差し引かれた粒子数が生み出され、表15に提示されている。この分析において、5μm未満である粒子は、粒子イメージング分析における正確なフィルタリングまたは差し引きには小さすぎると思われる。
【0087】
【0088】
【表15】
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載の発明を列挙する。
[発明1]
pH6.5で緩衝された、最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖、および最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む10または30mg/mlの抗体、20~30mMリン酸ナトリウム、20~30mM塩化ナトリウム、80~100mg/mlトレハロース、および0.10~0.005% w/vポリソルベート80を含む、薬学的組成物。
[発明2]
25mMリン酸ナトリウムを含む、発明1に記載の薬学的組成物。
[発明3]
25mM塩化ナトリウムを含む、発明1に記載の薬学的組成物。
[発明4]
90~91mg/mlトレハロースを含む、発明1~3のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明5]
90.5mg/mlトレハロースを含む、発明1~3のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明6]
0.01% w/vポリソルベート80を含む、発明1~3のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明7]
25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg/mlトレハロース、および0.01%ポリソルベート80を含む、発明1に記載の薬学的組成物。
[発明8]
いかなる追加の賦形剤も含まない、発明1~7のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明9]
前記抗体は、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、発明1~8のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明10]
前記抗体は、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、発明1~9のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明11]
前記抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、発明1~10のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明12]
pH6.5で緩衝された、最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖、および最高5個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む10または30mg/mlの抗体、20~30mMコハク酸ナトリウム、20~30mM塩化ナトリウム、89~92mg/mlトレハロース、および0.1~0.005% w/vポリソルベート80を含む、薬学的組成物。
[発明13]
25mMコハク酸ナトリウムを含む、発明12に記載の薬学的組成物。
[発明14]
25mM塩化ナトリウムを含む、発明12に記載の薬学的組成物。
[発明15]
90~91mg/mlトレハロースを含む、発明12~14のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明16]
90.5mg/mlトレハロースを含む、発明12に記載の薬学的組成物。
[発明17]
0.01% w/vポリソルベート80を含む、発明12~14のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明18]
25mMコハク酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、90.5mg/mlトレハロース、および0.01%ポリソルベート80を含む、発明12に記載の薬学的組成物。
[発明19]
いかなる追加の賦形剤も含まない、発明12~18のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明20]
前記抗体は、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸挿入、置換、または欠失を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、発明12に記載の薬学的組成物。
[発明21]
前記抗体は、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、最高2個までの単一アミノ酸置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、発明12に記載の薬学的組成物。
[発明22]
前記抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖を含み、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、発明12に記載の薬学的組成物。
[発明23]
前記抗体は、配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖を含み、配列番号1のアミノ酸配列からなる軽鎖を有する、発明1~22のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明24]
ポリソルベート80以外のいかなるポリソルベートも含まない、発明1~23のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明25]
ポリソルベート以外のいかなるポリマーも含まない、発明1~24のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
[発明26]
ポリソルベート80以外のいかなるポリマーも含まない、発明1~25のいずれか一つに記載の薬学的組成物。
【配列表】