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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】軟骨再生促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20240321BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20240321BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240321BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240321BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240321BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K31/352
A61P19/00
A61P43/00 105
A23L33/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021537688
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2020028306
(87)【国際公開番号】W WO2021024801
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019143144
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大塚 祐多
(72)【発明者】
【氏名】船木 亜由太
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-508371(JP,A)
【文献】特表2016-520603(JP,A)
【文献】特表2016-539090(JP,A)
【文献】特開2004-002284(JP,A)
【文献】Drug Dev Res.,2019年,80(3), 360-367
【文献】Mol. Nutr. Food Res.,2018年,62, e1800202
【文献】J Cell Mol Med.,2019年,23(6), 4395-4407
【文献】Journal of Inflammation (Web),2018年,15 : 14
【文献】BMC Complementary and Alternative Medicine,2017年,17:242
【文献】J Cell Biochem.,2019年,120(9) :14628-14635.,https://doi.org/10.1002/jcb.28724,First published: 22 April 2019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/353
A61K 31/352
A61P 19/00
A61P 43/00
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タキシフォリン、イソラムネチン及びエリオジクチオールからなる群より選択される1種以上を有効成分として含む軟骨再生促進用組成物
【請求項2】
間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化を促進する請求項1に記載の軟骨再生促進用組成物。
【請求項3】
タキシフォリン、イソラムネチン及びエリオジクチオールからなる群より選択される1種以上を投与する、軟骨再生促進方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項4】
軟骨再生を促進するための、タキシフォリン、イソラムネチン及びエリオジクチオールからなる群より選択される1種以上の使用(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項5】
タキシフォリン、イソラムネチン及びエリオジクチオールからなる群より選択される1種以上を有効成分として含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化促進用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨再生促進用組成物に関する。また、本発明は、軟骨再生促進方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
軟骨は、軟骨細胞とそれを取り囲む基質からなる結合組織であり、ヒト等の動物において、関節、骨格等を形成している。関節軟骨は、関節の骨の表面を薄く覆い、関節の動きを滑らかにする役割を担っており、加齢等によって軟骨が減少すると関節機能が損なわれてしまう。
【0003】
軟骨の保護作用を有する組成物として、特許文献1には、グルコサミンと、植物素材、アミノ酸、ポリフェノール、ビタミン・ミネラル類等からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分とを有効成分として含有する組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-14164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の組成物は、関節軟骨細胞の破壊を抑制することにより軟骨を保護するものである。しかしながら、加齢等により一旦軟骨細胞が破壊されてしまうと、軟骨細胞の破壊を抑制することでは、減少した軟骨を再生させることはできない。特許文献1では、軟骨の再生促進に有効な物質は検討されていない。
【0006】
本発明は、軟骨再生を促進する軟骨再生促進用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、軟骨再生促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するフラボノイドが軟骨細胞への分化を促進する作用を有し、軟骨再生促進に有用であることを見出した。軟骨細胞への分化を促進することができる技術は、特に、軟骨が破壊され、減少してしまったあとでも軟骨を再生できる有用な技術である。間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化を促進することで、軟骨を増殖させて軟骨を再生することができる。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の軟骨再生促進用組成物、軟骨再生促進方法などに関する。
〔1〕下記一般式(1)で示されるフラボノイドを有効成分として含む軟骨再生促進用組成物。
【0009】
【化1】
【0010】
(上記式中、R、R2、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は水酸基を表す。Rは、水酸基又は炭素数1~2のアルコキシ基を表す。R及びRは、一方が水素原子を表し、他方が水酸基又は炭素数1~2のアルコキシ基を表す。破線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。)
〔2〕軟骨細胞への分化を促進する上記〔1〕に記載の軟骨再生促進用組成物。
〔3〕R及びRは、水素原子を表す上記〔1〕又は〔2〕に記載の軟骨再生促進用組成物。
〔4〕R2及びRは、水酸基を表す上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の軟骨再生促進用組成物。
〔5〕一般式(1)で示されるフラボノイドが、下記一般式(2)で示されるフラボノイドである上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の軟骨再生促進用組成物。
【0011】
【化2】
【0012】
(上記式中、R5aは、水素原子又は水酸基を表す。R6aは、水酸基又はメトキシ基を表す。R7a及びR8aは、一方が水素原子を表し、他方が水酸基又はメトキシ基を表す。破線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。)
〔6〕一般式(1)で示されるフラボノイドが、ケルセチン、ヘスペレチン、タキシフォリン、イソラムネチン、エリオジクチオール、ルテオリン及びモリンからなる群より選択される1種以上である上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の軟骨再生促進用組成物。
〔7〕上記一般式(1)で示されるフラボノイドを投与する、軟骨再生促進方法。
〔8〕軟骨再生を促進するための、上記一般式(1)で示されるフラボノイドの使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軟骨の再生を促進する軟骨再生促進用組成物が提供される。また、本発明によれば、軟骨再生促進方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の軟骨再生促進用組成物は、下記一般式(1)で示されるフラボノイドを有効成分として含む。本発明において、軟骨は、好ましくは関節軟骨である。
【0015】
【化3】
【0016】
(上記式中、R、R2、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は水酸基を表す。Rは、水酸基又は炭素数1~2のアルコキシ基を表す。R及びRは、一方が水素原子を表し、他方が水酸基又は炭素数1~2のアルコキシ基を表す。破線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。)
一般式(1)で示されるフラボノイドは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。本明細書中、一般式(1)で示されるフラボノイドを単にフラボノイドともいう。
【0017】
一般式(1)において、R及びRは、好ましくは水素原子である。R2及びRは、好ましくは水酸基である。Rは、好ましくは水素原子又は水酸基である。
一般式(1)において、炭素数1~2のアルコキシ基は、メトキシ基又はエトキシ基であり、好ましくはメトキシ基である。
は、好ましくは水酸基又はメトキシ基である。Rが、水素原子を表す場合、Rは、水酸基又は炭素数1~2のアルコキシ基を表す。Rが、水素原子を表す場合、Rは、水酸基又は炭素数1~2のアルコキシ基を表す。Rは、好ましくは水素原子、水酸基又はメトキシ基である。Rは、好ましくは水素原子又は水酸基である。
【0018】
一般式(1)で示されるフラボノイドとして、下記一般式(2)で示されるフラボノイドが好ましい。一般式(2)で示されるフラボノイドは、一般式(1)において、R及びRが水素原子、R2及びRが水酸基、Rが、水酸基又はメトキシ基であり、R及びRが、一方が水素原子を表し、他方が水酸基又はメトキシ基を表す化合物である。下記一般式(2)で示されるフラボノイドを使用すると、優れた軟骨再生促進効果を得ることができる。
【0019】
【化4】
【0020】
(上記式中、R5aは、水素原子又は水酸基を表す。R6aは、水酸基又はメトキシ基を表す。R7a及びR8aは、一方が水素原子を表し、他方が水酸基又はメトキシ基を表す。破線は、結合が形成されていてもよく、形成されていなくてもよいことを表す。)
一般式(2)において、R7aが水素原子を表す場合、R8aは水酸基又はメトキシ基を表す。R8aが水素原子を表す場合、R7aは水酸基又はメトキシ基を表す。一態様において、R7aが水素原子、水酸基又はメトキシ基であり、R8aが水素原子又は水酸基であることが好ましい。
【0021】
一般式(1)で示されるフラボノイドとして、ヘスペレチン、ケルセチン、タキシフォリン、イソラムネチン、エリオジクチオール、ルテオリン、モリンが好ましい。これらのフラボノイドは、軟骨再生促進効果が高い。これらのフラボノイドは、一般式(2)で示されるフラボノイドである。本発明の軟骨再生促進用組成物は、これらのフラボノイドの1種又は2種以上を有効成分として含むことが好ましい。一般式(1)で示されるフラボノイドとして、ヘスペレチン、ケルセチン、タキシフォリン、イソラムネチン、エリオジクチオール、モリンがより好ましい。
【0022】
一般式(1)で示されるフラボノイドの由来は特に限定されない。一般式(1)で示されるフラボノイドは植物に含まれるため、植物から抽出して調製することができる。フラボノイドは、化学合成品を使用することもできる。本発明においては、本発明の効果を奏することになる限り、一般式(1)で示されるフラボノイドを含む植物の抽出物等の植物由来原料等を組成物に含有させてもよい。
【0023】
一般式(1)で示されるフラボノイドは、天然物や飲食品に含まれ、食経験がある化合物である。このため安全性の観点から、上記フラボノイドは、例えば毎日摂取することにも問題が少ないと考えられる。本発明によれば、安全性が高い物質を有効成分として含む軟骨再生促進用組成物を提供することができる。
【0024】
後記の実施例に示すように、一般式(1)で示されるフラボノイドの存在下で滑膜細胞を培養すると、形成される軟骨ペレットの重量が増加した。実施例で使用した滑膜細胞には間葉系幹細胞が含まれており、該間葉系幹細胞が軟骨細胞に分化して軟骨ペレットが形成される。上記の軟骨ペレット重量の増加は、間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化が促進されたことを意味する。従って、一般式(1)で示されるフラボノイドは、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化を促進する。例えば、滑膜や関節軟骨表層に存在する間葉系幹細胞は、軟骨細胞に分化しやすいといわれている。一般式(1)で示されるフラボノイドは、例えば、滑膜由来間葉系細胞又は関節軟骨表層に存在する間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化を促進するために有用である。
軟骨細胞への分化を促進することにより、軟骨の再生を促進することができる。従って一般式(1)で示されるフラボノイドは軟骨再生促進のために有用である。本発明の軟骨再生促進用組成物は、軟骨細胞への分化を促進して軟骨再生を促進するために使用され得る。軟骨の再生を促進することにより、軟骨を増加させることが可能となる。このため軟骨再生を促進することは、例えば、軟骨の減少予防において有用である。また、軟骨再生を促進することにより、減少した軟骨を修復することができる。本発明の軟骨再生促進用組成物は、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化促進用組成物として使用することもできる。
【0025】
本発明の軟骨再生促進用組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
本発明の軟骨再生促進用組成物は、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の形態とすることができる。本発明の軟骨再生促進用組成物は、それ自体が軟骨再生促進のための飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等であってもよく、これらに配合して使用される素材又は製剤等であってもよい。
本発明の軟骨再生促進用組成物は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、又は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。一態様において、本発明の軟骨再生促進用組成物は、軟骨再生促進剤ということもできる。
本発明の軟骨再生促進用組成物は、経口用組成物、非経口用組成物のいずれであってもよいが、好ましくは経口用組成物である。経口用組成物としては、飲食品、経口用の医薬品、医薬部外品、飼料が挙げられ、好ましくは飲食品又は経口用医薬品であり、より好ましくは飲食品である。
【0026】
本発明の軟骨再生促進用組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記フラボノイドに加えて、任意の添加剤、任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び成分は、組成物の形態等に応じて選択することができ、一般的に飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に使用可能なものが使用できる。軟骨再生促進用組成物を、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等とする場合、その製造方法は特に限定されず、一般的な方法により製造することができる。
【0027】
例えば本発明の軟骨再生促進用組成物を飲食品とする場合、上記フラボノイドに、飲食品に使用可能な成分(例えば、食品素材、必要に応じて使用される食品添加物等)を配合して、種々の飲食品とすることができる。飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用飲食品等が挙げられる。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品等は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、シロップ剤、液剤、流動食等の各種製剤形態とすることができる。
【0028】
本発明の軟骨再生促進用組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、例えば、上記フラボノイドに、薬理学的に許容される担体、必要に応じて添加される添加剤等を配合して、各種剤形の医薬品又は医薬部外品とすることができる。そのような担体、添加剤等は、医薬品又は医薬部外品に使用可能な、薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられる。医薬品又は医薬部外品の投与(摂取)形態としては、経口又は非経口(経皮、経粘膜、経腸、注射等)投与の形態が挙げられる。本発明の軟骨再生促進用組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、経口用医薬品又は医薬部外品とすることが好ましい。経口投与のための剤形としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与のための剤形として、注射剤、点滴剤、貼付剤等が挙げられる。医薬品は、非ヒト動物用医薬であってもよい。
【0029】
本発明の軟骨再生促進用組成物を飼料とする場合には、上記フラボノイドを飼料に配合すればよい。飼料には飼料添加剤も含まれる。飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料;ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;犬、猫、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。
【0030】
本発明の軟骨再生促進用組成物に含まれる一般式(1)で示されるフラボノイドの含有量は特に限定されず、その形態等に応じて設定することができる。
本発明の軟骨再生促進用組成物中の一般式(1)で示されるフラボノイドの含有量は、例えば、該組成物中に0.0001重量%以上が好ましく、0.001重量%以上がより好ましく、また、90重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。一態様において、一般式(1)で示されるフラボノイドの含有量は、軟骨再生促進用組成物中に0.0001~90重量%が好ましく、0.001~50重量%がより好ましい。上記含有量は、上記フラボノイドを2種以上含有する場合は、これらの合計含有量である。
【0031】
本発明の軟骨再生促進用組成物の投与経路は特に限定されず、その形態に応じた適当な方法で摂取又は投与することができる。一態様において、軟骨再生促進用組成物は、経口で摂取(経口投与)されることが好ましい。本発明の軟骨再生促進用組成物の投与量(摂取量ということもできる)は特に限定されず、軟骨細胞への分化を促進する効果、軟骨再生促進効果が得られるような量であればよく、投与形態、投与方法等に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
一態様において、軟骨再生促進用組成物をヒト(成人)に摂取させる又は投与する場合、一般式(1)で示されるフラボノイドの投与量は、1日当たり体重60kgで、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、また、好ましくは8000mg以下、より好ましくは4000mg以下である。一態様において、フラボノイドの投与量は、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgで、好ましくは0.1~8000mg、より好ましくは1~4000mgである。上記量を、1日1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)に分けて、摂取させる又は投与することが好ましい。一態様においては、上記量のフラボノイドを、ヒトに経口で摂取させる又は投与することが好ましい。本発明の一態様において、軟骨再生促進用組成物は、ヒトに、体重60kgあたり、1日あたり上記量のフラボノイドを摂取させる又は投与するために使用することができる。上記投与量は、フラボノイドを2種以上使用する場合は、これらの合計量である。
【0033】
本発明の軟骨再生促進用組成物は、継続して摂取又は投与されるものであることが好ましい。上記フラボノイドは、継続的に摂取又は投与されることによって、より高い軟骨再生促進効果が得られることが期待される。
【0034】
本発明の軟骨再生促進用組成物は、軟骨再生促進により予防又は改善が期待できる症状又は疾患の予防又は改善に有用である。このような症状又は疾患として、軟骨の減少が原因で発症する症状又は疾患が挙げられ、例えば、軟骨の欠損、軟骨損傷、変形性関節症(変形性膝関節症等)等が挙げられる。
本明細書で症状又は疾患の予防は、症状若しくは疾患の発症を防止すること、症状若しくは疾患の発症を遅延させること、症状若しくは疾患の発症率を低下させること、症状若しくは疾患の発症のリスクを軽減することなどを包含する。症状又は疾患の改善は、対象を症状若しくは疾患から回復させること、症状若しくは疾患を緩和すること、症状の悪化若しくは疾患の進行を遅延させること若しくは防止することなどを包含する。
【0035】
本発明の軟骨再生促進用組成物を摂取させる又は投与する対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されない。好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
一態様において、投与対象として、軟骨再生促進を必要とする又は希望する対象が挙げられる。本発明の軟骨再生促進用組成物は、例えば、軟骨再生促進により予防又は改善が期待できる症状又は疾患の予防等を目的として、健常者に対して使用することもできる。
【0036】
本発明の軟骨再生促進用組成物には、軟骨再生促進により発揮される機能の表示が付されていてもよい。本発明の軟骨再生促進用組成物には、例えば、「軟骨量の維持」、「軟骨摩耗の抑制」及び「軟骨変性の抑制」などの1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。
本発明の一実施態様において、本発明の軟骨再生促進用組成物は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために用いる旨の表示であってもよい。
【0037】
一態様において、本発明の軟骨再生促進用組成物は、軟骨細胞の培養用試薬等として使用することができる。本発明の軟骨再生促進用組成物は、培養軟骨用再生促進用組成物であってよい。一般式(1)で示されるフラボノイドを含む培地中で間葉系幹細胞を培養すると、該細胞の軟骨細胞への分化を促進することができる。軟骨再生促進用組成物を軟骨細胞の培養に使用する場合、その使用量は、培地中の一般式(1)で示されるフラボノイドの含有量が、好ましくは0.1~100μM、より好ましくは1~50μMとなる量使用することが好ましい。
【0038】
本発明は、以下の方法及び使用も包含する。
上記一般式(1)で示されるフラボノイドを投与する、軟骨再生促進方法。
軟骨再生を促進するための、一般式(1)で示されるフラボノイドの使用。
上記方法及び使用は、治療的な方法又は使用であってもよく、非治療的な方法又は使用であってもよい。一般式(1)で示されるフラボノイドを対象に投与する(摂取させる)と、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化を促進することができ、軟骨再生を促進することができる。軟骨再生促進は、例えば、上記の軟骨の欠損、軟骨損傷、変形性関節症(変形性膝関節症等)等の症状又は疾患の予防又は改善に有用である。
【0039】
上記の方法及び使用において、フラボノイド及びその好ましい態様は、上述した本発明の軟骨再生促進用組成物と同じである。一般式(1)で示されるフラボノイド1種を使用してもよく、2種以上を使用してもよい。上記方法及び使用においては、1日に1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)、一般式(1)で示されるフラボノイドを対象に投与する(摂取させる)ことが好ましい。上記の使用は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物、より好ましくはヒトにおける使用である。
【0040】
上記方法及び使用においては、軟骨再生促進作用が得られる量(有効量ということもできる)の一般式(1)で示されるフラボノイドを使用すればよい。フラボノイドの好ましい投与量や投与対象等は上述した本発明の軟骨再生促進用組成物と同じである。一般式(1)で示されるフラボノイドは、そのまま投与してもよく、これを含む組成物として投与してもよい。例えば、上述した本発明の軟骨再生促進用組成物を使用してもよい。一態様において、フラボノイドは、経口投与(摂取)されることが好ましい。
【0041】
上記一般式(1)で示されるフラボノイドは、軟骨再生促進のために使用される飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の製造のために使用することができる。一態様において、本発明は、軟骨再生促進用組成物を製造するための、一般式(1)で示されるフラボノイドの使用も包含する。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
<実施例1>
購入したヒト滑膜細胞(東洋紡(株)製、HFLS(Normal):凍結細胞(adult)、Code No.CA40805a)を150mmの培養ディッシュ(Corning社製)に50cells/cmの低密度で播種し14日間培養した。
上記のヒト滑膜細胞の培養は、以下の培地で行った。
α-MEM(ナカライテスク(株)製)
10% fetal bovine serum(Sigma-Aldrich社製)
Antibiotic-Antimycotic Mixed Stock Solution(ナカライテスク(株)製)
【0044】
増殖させたヒト滑膜細胞をAccutase(フナコシ(株)製)で剥離し、20×10cellsの細胞を含む培地をポリプロピレン製の15mLチューブに入れ1,000×rpmで5分間遠心した。回収したヒト滑膜細胞を表1に示す被験化合物を含む培地にて3週間培養し、形成した軟骨ペレットの重量を測定した(各N=3)。2日又は3日に1度、被験化合物を含む培地の交換を行った。また被験化合物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)(ナカライテスク(株)製、最終濃度0.1%)により最終濃度が50μMになるように培地に溶解させた。被験化合物には、タキシフォリン(Sigma-Aldrich社製)又はヘスペレチン(フナコシ(株)製)を使用した。
【0045】
上記の軟骨ペレットの培養には、以下の培地を用いた。コントロールは、被験化合物を含まないDMSOを以下の培地に添加して培養した(DMSOは最終濃度0.1%)。
(培地組成)
DMEM high-glucose(Thermo Fisher Scientific社製)
50μg/mL L-Ascorbic acid 2-phosphate sesquimagnesium salt hydrate(Sigma-Aldrich社製)
40μg/mL L-Proline(Sigma-Aldrich社製)
100μg/mL Sodium pyruvate(Sigma-Aldrich社製)
50mg/mL ITS+Premix(Corning社製)
10ng/mL transforming growth factor β3(Sigma-Aldrich社製)
100nM dexamethasone(Sigma-Aldrich社製)
50ng/mL 骨形成タンパク質2(BMP-2)(Sigma-Aldrich社製)
【0046】
評価結果を表1に示す。表1中、ペレット重量(g)は、軟骨ペレットの重量(N=3の平均)であり、SEは、ペレット重量の標準誤差である。被験化合物を添加した場合の軟骨ペレット重量に関して、コントロールの軟骨ペレットの重量を100%とした相対値を、増加率(%)として表1に示した。軟骨ペレット重量から求めた増加率(%)について、コントロールに対する有意差を、Student’s t-test検定を用いて検定し、5%以下を有意とした。有意差検定の結果を表1に示す。タキシフォリン及びヘスペレチンにより、コントロールと比較して軟骨ペレット重量の有意な増加が確認された。
【0047】
【表1】
【0048】
<実施例2>
ケルセチン(ナカライテスク(株)社製)、イソラムネチン(フナコシ(株)製)又はエリオジクチオール(フナコシ(株)製)を被験化合物に使用し、培地中の被験化合物の最終濃度を5μMとした以外は、実施例1と同じ方法で試験を行った。軟骨ペレットの重量(g)(ペレット重量(N=3の平均))、ペレット重量の標準誤差(SE)を表2に示す。コントロールの軟骨ペレットの重量を100%とした、被験化合物を添加した場合の軟骨ペレットの重量の相対値を、増加率(%)として表2に示す。有意差検定は実施例1と同じ方法で行い、5%以下を有意とした。
【0049】
【表2】
【0050】
ケルセチン、イソラムネチン、エリオジクチオールで130%以上の軟骨ペレット重量の増加が確認された。ケルセチン、イソラムネチン及びエリオジクチオールでは、コントロールと比較して軟骨ペレット重量の有意な増加が確認された。
【0051】
<実施例3>
ルテオリン(フナコシ(株)製)又はモリン(ナカライテスク(株)製)を被験化合物に使用し、培地中の被験化合物の最終濃度を5μMとした以外は、実施例1と同じ方法で試験を行った。軟骨ペレットの重量(g)(ペレット重量(N=3の平均))、ペレット重量の標準誤差(SE)を表3に示す。コントロールの軟骨ペレットの重量を100%とした、被験化合物を添加した場合の軟骨ペレットの重量の相対値を、増加率(%)として表3に示す。有意差検定は実施例1と同じ方法で行い、5%以下を有意とし、10%以下を有意傾向とした。モリンにより、コントロールと比較して軟骨ペレット重量の有意な増加が確認された。ルテオリンについても、コントロールと比較して軟骨ペレット重量の増加が確認された。
【0052】
【表3】
【0053】
滑膜細胞には間葉系幹細胞が含まれており、該間葉系幹細胞が軟骨細胞に分化する。実施例1~3において被験化合物の添加によりコントロールと比較して軟骨ペレット重量が増加したことは、被験化合物が間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化を促進したことを意味する。
【0054】
<比較例1>
表4に示す化合物を被験化合物に使用し、N=1で試験を行った以外は、実施例1と同じ方法で試験を行った。コントロールの軟骨ペレットの重量を100%とした、被験化合物を添加した場合の軟骨ペレットの重量の相対値を、増加率(%)として表4に示す。No.1~15の化合物は、培地中の最終濃度を5μM、No.16~21の化合物は、培地中の最終濃度を50μMとした。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例1~3で使用した被験化合物は、上記一般式(1)で示されるフラボノイドであり、比較例1で使用した化合物は、一般式(1)とは異なる構造のポリフェノールである。実施例1~3で使用した被験化合物は、比較例1の化合物より間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化を促進する作用が強かった。上記より、一般式(1)で示されるフラボノイドは、優れた軟骨細胞への分化促進作用を有することが示された。